説明

X線コンピュータ断層撮影装置及び放射線検出器

【課題】積分モードによるX線フォトンの高計数能を保持しつつ、フォトンカウンティングモードを実現する。
【解決手段】 X線管14は、X線を発生する。放射線検出器16は、X線管14から発生され被検体を透過したX線を繰り返し検出し、繰り返し検出されたX線のエネルギーに応じた電気信号を繰り返し生成する。支持機構12は、X線管14と放射線検出器16とを回転軸回りに回転可能に支持する。積分型DAS26aは、電気信号を積分型モードで収集する。フォトンカウント型DAS26bは、電気信号をフォトンカウント型モードで収集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線コンピュータ断層撮影装置及び放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
X線コンピュータ断層撮影装置は、被検体に向けてX線をX線管で曝射し、被検体を透過あるいは被検体で散乱したX線を放射線検出器で検出する。そしてX線コンピュータ断層撮影装置は、放射線検出器からの電気信号をデータ収集システム(DAS)で収集し、収集された電気信号に基づいて被検体の透視画像や断層画像、3次元画像のデータを生成する。一般的なX線コンピュータ断層撮影装置のDASとしては、積分モードが知られている。
【0003】
積分モードにおいてDASは、放射線検出器からの電気信号を所定時間積分し、積分信号を出力する。積分モードでは、入射X線の全エネルギー、すなわち低エネルギーから高エネルギーまでのX線の全てのエネルギーが積分される。このため、相対的に低エネルギーのX線の情報が埋もれてしまう。このような積分信号を用いて再構成した画像は、X線の線質の硬化(いわゆる、ビームハードニング現象)に起因するアーチファクトを含んだり、軟部組織のコントラスト分解能が低下したりして、画質が劣化してしまう。
【0004】
近年、X線コンピュータ断層撮影装置の新しいアプリケーションを求め、フォトンカウンティングモードで動作するフォトンカウント型CTの研究開発が盛んである。フォトンカウンティングモードにおいてDASは、放射線検出器がX線を検出することで生成された電気信号をカウント(計数)し、このカウント値をX線のフォトン数として間接的に検出する。フォトンカウンティングモードは、上記の積分モードに係る低エネルギー情報の埋もれを解消する。しかし、フォトンカウンティングモードは、フォトンの計数能力を示す最大計数率が積分値モードに比して低い。このようなフォトンの計数率の観点からいって、フォトンカウンティングモードをX線コンピュータ断層撮影装置へ応用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−23965号公報
【特許文献2】特開2006−101926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
目的は、積分モードによるX線フォトンの高計数能を保持しつつ、フォトンカウンティングモードを実現するX線コンピュータ断層撮影装置及び放射線検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、X線を発生するX線管と、前記X線管から発生され被検体を透過したX線を繰り返し検出し、前記繰り返し検出されたX線のエネルギーに応じた電気信号を繰り返し生成する検出器と、前記X線管と前記検出器とを回転軸回りに回転可能に支持する支持機構と、前記電気信号を積分型モードで収集する第1収集部と、前記電気信号をフォトンカウント型モードで収集する第2収集部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示す図。
【図2】図1の放射線検出器の構造を示す図。
【図3】図1の放射線検出器とデータ収集部との詳細構造を示す図。
【図4】図1の放射線検出器の検出素子の一形態を示す図。
【図5】図1のデータ収集部によるデータ収集処理において利用されるエネルギー領域と閾値とを示す図。
【図6】図1のデータ収集部によるデータ収集処理のタイミングチャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わるX線コンピュータ断層撮影装置及び放射線検出器を説明する。
【0010】
なお、X線コンピュータ断層撮影装置には、X線管と放射線検出器とが1体となって被検体の周囲を回転するROTATE/ROTATEタイプや、リング状に多数の検出素子が配列され、X線管のみが被検体の周囲を回転するSTATIONARY/ROTATEタイプ等様々なタイプがあるが、いずれのタイプでも本実施形態は適用可能である。ここでは、ROTATE/ROTATEタイプとして説明する。
【0011】
また、X線コンピュータ断層撮影装置における画像再構成法には、フルスキャン法とハーフスキャン法とがある。フルスキャン法では、1スライスのCT画像のデータを再構成するために、被検体の周囲1周、すなわち約2π分の投影データが必要である。また、ハーフスキャン法では、1スライスの画像データを再構成するために、π+α[rad](α:ファン角)分の投影データが必要である。本実施形態は、フルスキャン法とハーフスキャン法とのいずれの方法も適用可能である。しかし、以下、説明を具体的に行なうため本実施形態は、フルスキャン法を採用するとする。
【0012】
図1は、本実施形態に係わるX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示す図である。図1に示すように、X線コンピュータ断層撮影装置は、ガントリ10を搭載している。ガントリ10は、円環又は円板状の回転フレーム12を回転軸RA周りに回転可能に支持する。回転フレーム12は、撮影領域FOV内の天板に載置された被検体を挟んで対向するようにX線管14と放射線検出器16とを有する。回転フレーム12は、回転駆動部18からの駆動信号の供給を受けて、所定の回転速度でX線管14と放射線検出器16とを回転させる。
【0013】
X線管14は、高電圧発生部20からスリップリング22を経由して高電圧の印加及びフィラメント電流の供給を受けてX線を発生する。X線管14は、回転フレーム12により回転させながらX線を発生する。
【0014】
放射線検出器16は、2次元状に配列された複数の検出素子を有する。各検出素子は、入射されたX線を繰り返し検出し、検出されたX線のエネルギーに応じた電荷量を有する電流信号(電気信号)を発生する。放射線検出器16には、データ収集部26(以下、DAS(Data Acquisition System)と呼ぶことにする)が接続されている。
【0015】
図2は、放射線検出器16の構造の一例を示す図である。図2に示すように、放射線検出器16は、列方向とチャンネル方向との両方向に関して稠密に配列される複数の検出素子50を有する。なお列方向は回転軸RA方向に一致し、チャンネル方向は回転軸RA回りの円周方向に一致している。各検出素子50は、遮光性を有する部材(セパレータ)により光学的に分断されている。1つの検出素子50又は複数個の検出素子50の集合は、電流信号の読み出しチャンネルを構成する。なお図2には、一例として4列×8チャンネルの放射線検出器16が図示されているが本実施形態はこれに限定されない。より多列、より多チャンネルの放射線検出器16であってもよい。
【0016】
検出素子50は、シンチレータ52と2つの受光素子54,56とを有する。シンチレータ52は、例えば、NaI(ヨウ化ナトリウム)やBGO(ビスマス酸ジャーマネイト)等を材料として形成される。シンチレータ52の片面は、X線の入射面として機能し、入射面の反対側の面(以下、接合面と呼ぶことにする)には、2つの受光素子54,56が設けられる。
【0017】
本実施形態に係る受光素子54,56としては、例えば、フォトダイオードや光電子増倍管が適用可能である。以下の説明を具体的に行うため、受光素子は、フォトダイオードであるとする。シンチレータ52の接合面は第1区画と第2区画とに区分されている。第1区画は、第2区画に比して大きな面積を有している。第1区画には、第1のフォトダイオード54が接合され、第2区画には、第2のフォトダイオード56が接合される。第1のフォトダイオード54は、第2のフォトダイオード56に比して、シンチレータ54との接合面が大きい。以下、第1のフォトダイオードを大フォトダイオード54、第2のフォトダイオードを小フォトダイオード56と呼ぶことにする。
【0018】
各フォトダイオード54,56とシンチレータ52とは、例えば、グリース等により接着される。なお、図2においては、シンチレータ52の接合面の1隅に小フォトダイオード56が接着され、残りの部分に大フォトダイオード54が接着されている。しかしながら大フォトダイオード54と小フォトダイオード56との位置関係はこれに限定されなく、大フォトダイオード54と小フォトダイオード56とはシンチレータ52の接合面のどこに接合されていてもよい。例えば、シンチレータ52の接合面の中央付近に小フォトダイオード56が接着され、残りの部分に大フォトダイオード54が接着されるとしてもよい。
【0019】
シンチレータ52は、入射面から入射されたX線フォトンのエネルギーを吸収し、蛍光(シンチレーション)を発生する。発生される蛍光は、由来するX線フォトンのエネルギーに応じたエネルギーを有する。各蛍光は、シンチレータ52内を伝播し、大フォトダイオード54や小フォトダイオード56に次々に到達する。各フォトダイオード54,56は、到達した蛍光のエネルギーに応じた電荷量を有する電流信号を発生する。なお発生される電流信号は、電荷パルスである。
【0020】
このように放射線検出器16は、入射X線を電荷パルスに変換することで、X線をフォトンとして検出することができる。大フォトダイオード54により発生された電荷パルスは後述する積分型DAS26aにより読み出され、小フォトダイオード26bにより発生された電荷パルスは後述するフォトンカウント型DAS26bにより読み出される。
【0021】
DAS26は、本実施形態において特有の構造を有する。DAS26は、チャンネルごとに2系統のDAS、すなわち積分型DAS26aとフォトンカウント型DAS26bとを備える。
【0022】
積分型DAS26aは、スキャン制御部42による制御のもと、チャンネル毎に検出素子50から電荷パルスを読み出し、読み出された電荷パルスを積分(加算)する。以下、積分された電荷パルスを積分信号と呼ぶことにする。所定時間は、例えば、1ビューに想到する時間に応じて設定される。このようにして積分型DAS26aは、ビュー毎且つチャンネル毎に積分信号を生成し、生成された積分信号をデジタルデータに変換する。デジタル化された積分信号は、生データと呼ばれている。非接触型データ伝送部28は、積分型DAS26aからの生データを、光ファイバケーブル(図示せず)等を介して記憶部30に供給する。
【0023】
一方、フォトンカウント型DAS26bは、スキャン制御部42による制御のもと、チャンネル毎に検出素子50から電荷パルスを読み出す。そしてフォトンカウント型DAS26bは、読み出された電荷パルスに基づいて、シンチレータ52に吸収されたX線のフォトンが属するエネルギー領域を、X線のエネルギースペクトル上の複数のエネルギー領域(ウィンドウ)の中から特定することによって、複数のエネルギー領域のそれぞれについてX線のフォトン数を計数(カウント)する。エネルギー領域ごとのフォトン数は、チャンネル毎にビュー単位で集計される。以下、各ビューについて集計されたエネルギー領域毎のフォトン数をカウント値と呼ぶことにする。非接触型データ伝送部28は、フォトンカウント型DAS26bからのカウント値のデータを、光ファイバケーブル(図示せず)等を介して記憶部30に供給する。なお複数のエネルギー領域は、予め設定されている。
【0024】
記憶部30は、積分型DAS26aから供給された生データをチャンネル番号とビュー番号とに関連付けて記憶する。また、記憶部30は、フォトンカウント型DAS26bから供給されたカウント値のデータをビュー番号、エネルギー領域を示すコード、及びチャンネル番号に関連付けて記憶する。
【0025】
前処理部32は、生データに対数変換、感度補正等の前処理をし、画像再構成処理の直前段階にある投影データを発生する。発生された投影データは、チャンネル番号とビュー番号とに関連付けて記憶部30に記憶される。
【0026】
投影データ補正部34は、前処理部32からの投影データをカウント値に応じて補正する。より詳細には、投影データ補正部34は、ユーザ指定のエネルギー領域に関する投影データを強調するために、全てのエネルギー領域のカウント値の合計とユーザ指定のエネルギー領域に関するカウント値との比を投影データに乗じる。以下、投影データ補正部34により補正された投影データを補正投影データと呼ぶことにする。
【0027】
再構成処理部36は、補正投影データに基づいて被検体に関するCT画像のデータを再構成する。以下、補正投影データに基づくCT画像を補正CT画像と呼ぶことにする。また、再構成処理部36は、前処理部32からの投影データに基づいて被検体に関するオリジナルのCT画像のデータを再構成してもよい。CT画像は、X線吸収係数の分布を表す形態画像である。また、再構成処理部36は、カウント値のデータに基づいて被検体に関するフォトンカウント画像のデータを再構成してもよい。フォトンカウント画像は、形態画像と機能画像との両方を兼ねる。
【0028】
表示部38は、補正CT画像やオリジナルのCT画像、フォトンカウント画像を表示デバイスに表示する。また、表示部38は、オリジナルのCT画像にフォトンカウント画像を重ねても良い。表示デバイスとしては、CRTディスプレイや、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等の表示デバイスが適宜利用可能である。
【0029】
入力部40は、操作者から入力デバイスを介して入力された各種指令や情報入力を受け付ける。具体的には、入力部40は、強調したいエネルギー領域や、エネルギー領域を分割するための閾値等を入力する。入力デバイスとしては、キーボード、マウス、各種ボタン、タッチキーパネル等が適宜利用可能である。
【0030】
スキャン制御部42は、X線コンピュータ断層撮影装置の中枢として機能する。スキャン制御部42は、入力部40により入力されたスキャン条件に従って各部を制御し、被検体をCTスキャンする。この際、スキャン制御部42は、DAS26を制御することにより、積分モードとフォトンカウンティングモードとの両方を同時に実現するハイブリッドなデータ収集処理を行なう。
【0031】
次に、スキャン制御部42の制御のもとに行なわれるデータ収集処理と投影データ補正処理とについて詳細に説明する。
【0032】
(データ収集処理)
図3は、データ収集処理を実現するための放射線検出器16とDAS26との詳細構造を示す図である。なお図3には、説明の簡単のため1チャンネル分の構造のみを示している。また、放射線検出器16としては、4列×1チャンネル分のフォトダイオードの集合であるフォトダイオードアレイ58のみを示している。フォトダイオードアレイ58は、4つの大フォトダイオード54と4つの小フォトダイオード56とから構成される。
【0033】
図3に示すように、各大フォトダイオード54には電荷パルスの読み出しライン60が設けられている。各大フォトダイオード54に設けられた読み出しライン60は1つのラインに集約され、積分型DAS26aに接続される。同様に、各小フォトダイオード56にも電荷パルスの読み出しライン62が設けられている。各小フォトダイオード56に設けられた読み出しライン62は、1つのラインに集約されフォトンカウント型DAS26bに接続される。このように各検出素子には、1素子につき電荷パルスの読み出しラインが2つ設けられている。
【0034】
よく知られているように、シンチレータ52内で発生される蛍光の数が多くなると、フォトダイオード54、56から供給される電荷パルス同士がオーバラップする(パイルアップする)。上述のように、積分型DAS26aは、電荷パルスを積分するので、電荷パルスのオーバラップは、積分値の精度に影響しない。換言すれば、積分型DAS26aは、X線フォトンの高計数能を有しているといえる。従って、積分型DAS26aに供給される電荷パルスの数は多ければ多いほどよい。一方、フォトンカウント型DAS26bは、電荷パルスをX線フォトンとみなしてカウントするので、電荷パルスのオーバラップがX線フォトンの計数能に大きく影響する。換言すれば、フォトンカウント型DAS26bは低計数能を有しているといえる。従って、フォトンカウント型DAS26bに供給される電荷パルスの数は、電荷パルスのオーバラップが発生しない程度に少なくてよい。
【0035】
このような積分型DAS26aとフォトンカウント型DAS26bとの計数能の違いがあるので、大フォトダイオード54の面積は小フォトダイオード56の面積よりも大きく設計される。具体的には、大フォトダイオード54と小フォトダイオード56との面積比は、例えば、数千〜数百万:1のオーダである。
【0036】
図4に示すように、パイルアップの防止のため、小フォトダイオード56とシンチレータ52との間に、シンチレータ52から小フォトダイオード56への蛍光を減衰するための蛍光減衰部材59が配置されてもよい。蛍光減衰部材59は、蛍光を完全に遮光することなく、蛍光のエネルギーを減衰可能な物質であればいかなる物質でもよい。例えば、蛍光減衰部材59としては、アルミが用いられる。
【0037】
再び図3に戻り、積分型DAS26aとフォトンカウント型DAS26bとについて説明する。
【0038】
積分型DAS26aは、通常のX線コンピュータ断層撮影装置に搭載されているDASと同様の構造を有する。すなわち積分型DAS26aは、例えば、抵抗R、コンデンサC1、及びアンプ72からなる積分器74とADC(Analog-to-Digital Converter)76とを有する。積分器74は、1ビューの間に4つの大フォトダイオード54から読み出された電荷パルスを積分して積分信号を生成する。そして積分器74は、生成された積分信号をADC76に供給する。ADC76は、供給された積分信号をAD変換して生データ(デジタルの積分信号)を生成する。すなわち、生データは、積分値のデータある。このようにチャンネル毎の積分型DAS26aは、ビュー毎に生データを生成する。生成された生データは、非接触型データ伝送部28に供給される。
【0039】
フォトンカウント型DAS26bは、例えば、コンデンサC2、アンプ78、複数のコンパレータ80、複数の比較用基準電圧源82、及びカウンタ84を備える。コンデンサC2は、4つのフォトダイオード62から逐次読み出された電荷パルスを平滑化する平滑コンデンサである。平滑化された電荷パルスは、アンプ78に供給される。アンプ78は、平滑コンデンサC2からの電荷パルスを所定の利得で増幅する。増幅された電荷パルスは、第1コンパレータ80a、第2コンパレータ80b、及び第3コンパレータ80cにそれぞれ供給される。コンパレータ80(及び比較用基準電圧源82)の数は、エネルギー領域を分割する閾値の数に応じて設けられる。図4には、一例として3つのコンパレータ80を示している。この場合、エネルギー領域は4つであり、閾値の数は3つである。これら3つのコンパレータ80と比較用基準電圧源82とにより、X線フォトンが4つのエネルギー領域にエネルギー弁別される。
【0040】
図5は、X線の標準的なエネルギースペクトルと3つの閾値TH1、TH2、TH3との関係を示す図である。なお図5の縦軸はフォトン数に、横軸はフォトンエネルギー[keV]に規定される。図5に示すように、エネルギー弁別のため、3つの閾値TH1、TH2、TH3により4つのエネルギー領域R1、R2、R3、R4が設定されている。第1の閾値TH1は、散乱X線や回路ノイズを検出させないための誤検出防止用の閾値として設定される。第1の閾値TH1は、X線フォトンを検出不能の第1のエネルギー領域(ノイズエネルギー領域)R1と低めのエネルギー領域R2とを弁別可能な値に設定される。第2の閾値TH2は、低めのエネルギー領域R2と中程度のエネルギー領域R3とを弁別可能な値に設定される。第3の閾値TH3は、中程度のエネルギー領域R2とそれ以上の高めのエネルギー領域R4とを弁別可能な値に設定される。これら閾値THの値は、例えば、経験的に見出される。入射X線フォトンは、第1のエネルギー領域R1、第2のエネルギー領域R2、第3のエネルギーR3、及び第4のエネルギー領域R4のいずれかに弁別されることになる。これら閾値TH1,TH2,TH3の値は、入力部40を介して予め設定されている。
【0041】
第1コンパレータ80aには、第1比較用基準電圧源82aが接続されている。第1比較用基準電圧源82aは、第1の閾値TH1に応じた電圧値を有する第1の基準電圧を発生し、第1コンパレータ80aに供給する。第1の基準電圧の電圧値は、予め設定されているものとする。第1コンパレータ80aは、アンプ78からの電荷パルスの電圧値と第1の比較用基準電圧源からの基準電圧との大小関係を比較する。なお電荷パルスは、入射X線フォトンのエネルギーに応じた電圧値を有する。電荷パルスの電圧値が第1の基準電圧よりも大きい場合、第1コンパレータ80aは、所定の電圧値を有するパルス(以下、カウントパルスと呼ぶことにする)を発生し、カウンタ84に供給する。一方、電荷パルスの電圧値が第1の基準電圧より小さい場合、第1コンパレータ80aは、カウントパルスを発生しない。
【0042】
第2コンパレータ80b、第2比較用基準電源82b、第3コンパレータ80c、及び第3比較用基準電源82cの動作も同様であるので説明は省略する。但し、第2比較用基準電源82bは、第2の基準電圧を発生し、第3の比較用基準電源82cは、第3の基準電圧を発生する。なお、第2の基準電圧は第2の閾値に応じて、第3の基準電圧は第3の閾値に応じて決定される。
【0043】
図6は、コンパレータ80の動作のタイミングチャートである。図6の(a)に示すように、アンプ78から電圧値VCを有する電荷パルスが各コンパレータ80に供給されたとする。なお、電荷パルスのパルス幅は、検出素子の性能に依存する。標準的なパルス幅は、0.1〜5.0μsecである。第1比較用基準電圧源82aは、第1の閾値TH1を電圧に換算した第1の基準電圧TH1´を出力し、第2比較用基準電圧源82bは、第2の閾値TH2を電圧に換算した第2の基準電圧TH2´を出力し、第3比較用基準電圧源82cは、第3の閾値TH3を電圧に換算した第3の基準電圧TH3´を出力する。
【0044】
電圧値VCは第1の基準電圧TH1´と第2の基準電圧TH2´との両方よりも大きいので、図5(b)に示すように、第1コンパレータ80aと第2のコンパレータ80bとは、カウントパルスを出力し、カウンタ84に供給する。電荷パルスの電圧値VCは、第3の基準電圧TH3´よりも小さいので、第3コンパレータ80cは、カウントパルスを出力しない。
【0045】
カウンタ84は、第1コンパレータ80a、第2コンパレータ80b、及び第3コンパレータ80cからのカウントパルスに基づいて、計測中のX線フォトンがどのエネルギー領域に属しているのかを特定する。
【0046】
すなわちアンプ78からの電荷パルスの電圧値が第1の基準電圧TH1´以下であれば、カウンタ84は、この電荷パルスに対応するX線フォトンは第1のエネルギー領域R1に属すると特定する。同様に、電荷パルスの電圧値が第1の基準電圧TH1´と第2の基準電圧TH2´との間にあれば、この電荷パルスに対応するX線フォトンは第2のエネルギー領域R2に属すると特定し、電荷パルスの電圧値が第2の基準電圧TH2´と第3の基準電圧TH3´との間にあれば、この電荷パルスに対応するX線フォトンは第3のエネルギー領域R3に属すると特定し、電荷パルスの電圧値が第3の基準電圧TH3´以上であれば、この電荷パルスに対応するX線フォトンは第4のエネルギー領域R3に属すると特定する。
【0047】
より詳細には、カウンタ84は、カウントパルスを供給したコンパレータのうち最も大きい閾値に関するコンパレータを判別する。最も大きい閾値に関するコンパレータを判別することで、カウンタ84は、計測中のX線フォトンが第1〜第4のエネルギー領域のうちのどのエネルギー領域に属しているのかを特定できる。例えば、第1コンパレータ80aからのみカウントパルスが供給された場合、計測中のX線フォトンは、第2エネルギー領域に属するとみなされる。この場合、カウンタ84は、第2エネルギー領域のフォトン数をカウントアップする。第1コンパレータ80aと第2コンパレータ80bとからカウントパルスが供給された場合、計測中のX線フォトンは、第3エネルギー領域に属するとみなされる。この場合、カウンタ84は、第3エネルギー領域のフォトン数をカウントアップする。第1コンパレータ80a、第2コンパレータ80b、及び第3コンパレータ80cからカウントパルスが供給された場合、計測中のX線フォトンは、第4エネルギー領域に属するとみなされる。この場合、カウンタ84は、第4エネルギー領域のフォトン数をカウントアップする。また、どのコンパレータ80からもカウントパルスが供給されなかった場合、計測中のX線フォトンは、第1エネルギー領域に属するとみなされる。この場合、カウンタ84は、第1エネルギー領域のフォトン数をカウントアップする。
【0048】
このようにしてカウンタ84は、1ビューの間エネルギー領域ごとにフォトン数をカウントし、各エネルギー領域についてカウント値を得る。各エネルギー領域のカウント値のデータは、非接触型データ伝送部28に供給される。
【0049】
(投影データ補正処理)
次に、投影データ補正部34による投影データの補正処理について説明する。なお、以下の説明において、上述の第2、第3、及び第4のエネルギー領域をまとめて非ノイズエネルギー領域、第1のエネルギー領域をノイズエネルギー領域と呼ぶことにする。すなわち、エネルギー領域は非ノイズエネルギー領域とノイズエネルギー領域とに区分され、閾値は上述の第1の閾値のみであるとする。
【0050】
ノイズエネルギー領域に属するX線フォトンに由来する投影データは、CT画像におけるノイズの原因となる。従って、ノイズエネルギー領域に関する投影データを全投影データから除去することによって、CT画像上のノイズを低減することができる。このため、非ノイズエネルギー領域が、予め又はユーザにより入力部40を介して、強調したいエネルギー領域に設定されているものとする。
【0051】
補正処理においてまず投影データ補正部34は、同一のビュー番号且つチャンネル番号に関する投影データと全エネルギー領域のカウント値のデータとを記憶部30から読み出す。そして投影データ補正部34は、全エネルギー領域のカウント値の合計値と非ノイズエネルギー領域のカウント値との比を算出する。例えば、非ノイズエネルギー領域のカウント値とノイズエネルギー領域のカウント値との比が99:1であるとすると、合計値と非ノイズエネルギー領域のカウント値との比は、100:99となる。比を算出すると投影データ補正部34は、算出された比を、読み出された同一のビュー番号且つチャンネル番号の投影データに乗じることにより投影データを補正する。上述の例の場合、投影データに99/100が乗じられる。このようにして投影データ補正部34は、2π分の全てのビュー、且つ全てのチャンネルの投影データに合計値と非ノイズエネルギー領域のカウント値との比を乗じて、補正投影データを生成する。補正投影データは、ビュー番号とチャンネル番号とに関連付けられて記憶部30に記憶される。なお、非ノイズエネルギー領域のカウント値とノイズエネルギー領域のカウント値との比は、チャンネルによっても異なるし、同じチャンネルであってもビューによって異なることを明言しておく。
【0052】
投影データの補正処理が行なわれると再構成処理部36により画像再構成処理が行なわれる。画像再構成処理において再構成処理部36は、ビュー番号をもとに、2π分の補正投影データを記憶部30から読み出す。2π分の補正投影データは、ノイズエネルギー領域の投影データが抑制されることにより、非ノイズエネルギー領域の投影データが強調されている。このような2π分の補正投影データに対して、例えばフェルドカンプ再構成等の一般的な画像再構成処理を施すことにより、補正CT画像のデータを発生する。補正CT画像は、ノイズが低減されており、従って画質が向上している。
【0053】
なお投影データ補正部34の動作は、上述のようにエネルギー領域が3つ以上に分割されている場合にも適用可能である。この場合、補正処理により高エネルギー領域の投影データを強調することにより、画像上におけるビームハードニングアーチファクトを低減することができる。また、補正処理により低エネルギー領域(ノイズエネルギー領域よりも高く、高エネルギー領域よりも低い)を強調することにより、CT画像上における軟部組織のコントラストが改善される。このように、強調したいエネルギー領域を用途に応じて適切に設定することにより、CT画像の画質を向上させることもできる。
【0054】
なお再構成処理部36は、カウント値のデータに基づいて被検体に関するフォトンカウント画像のデータを再構成することができる。利用されるカウント値のデータは、例えば、全てのエネルギー領域に関するカウント値のデータであっても、単一のエネルギー領域に関するカウント値のデータであってもよい。複数のエネルギー領域に関するカウント値のデータに基づくフォトンカウント画像は、再構成断面上でのX線フォトンのエネルギー分布を示す。フォトンカウント画像により、再構成断面上の物質の材質(原子番号)識別が可能となる。表示部38は、物質に応じて色分けをしてフォトンカウント画像を表示することができる。また、表示部38は、補正CT画像やオリジナルのCT画像にフォトンカウント画像を重ねて表示しても良い。このようにフォトンカウント画像を単体で表示させたり、補正CT画像やオリジナルのCT画像に重ねて表示したりすることで、臨床的価値のある新たな画像表示方法を提供することができる。
【0055】
上記構成により本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、1つの検出素子50につき2つのフォトダイオード、すなわち大フォトダイオード54と小フォトダイオード56とを有している。大フォトダイオード54により発生される電荷パルスは、一般的なX線コンピュータ断層撮影装置と同様に積分型DAS26aに供給され積分信号に変換される。積分信号は、大フォトダイオード54で発生された電荷パルスの積分であるので、高計数能でカウントされた全エネルギー領域にわたるX線フォトンの合計値であるともいえる。小フォトダイオード56により発生される電荷パルスは、フォトンカウント型DAS26bに供給され、エネルギー領域ごとのカウント値に変換される。そして投影データ補正部34は、フォトンカウント型DAS26bにより収集された合計値とカウント値との比を投影データに割当てることによって、あたかも積分型DAS26aにより高計数能で収集された投影データをエネルギー弁別したように補正することができる。
【0056】
かくして本実施形態によれば、積分モードによるX線フォトンの高計数能を保持しつつ、フォトンカウンティングモードを実現するX線撮像装置と放射線検出器とを提供することが可能となる。
【0057】
(変形例1)
積分型DASのための放射線検出器とフォトンカウント型DASのための放射線検出器との両方を搭載するSPECT/CT装置等のモダリティ装置が知られている。SPECTにおいて放射線検出器は、本実施形態の放射線検出器16がX線を検出するのと同様に、被検体内の放射性同位元素から放出されたガンマ線を検出し、検出されたガンマ線のエネルギーに応じた電気信号を発生している。なおガンマ線やX線は、放射線に分類されている。本実施形態に係る放射線検出器16は、積分型DASのための検出器とフォトンカウント型DASのための検出器との両方を兼ねることができる。従って本実施形態に係る放射線検出器16は、SPECT/CT装置の放射線検出器を1台にすることができる。換言すれば、SPECT/CT装置のCTスキャナの放射線検出器は、SPECTスキャナの放射線検出器を兼ねることができる。
【0058】
(変形例2)
同一スライスにおいて管電圧やX線フィルタを変更することによりエネルギー弁別してスキャンし、収集された投影データから電子密度マップや実効原子番号マップを発生するデュアルエネルギースキャン(dual energy scanning)が知られている。本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、放射線検出器16やフォトンカウント型DAS26b等を搭載することにより、管電圧やX線フィルタを変更することなくエネルギー弁別することができる。従って本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、放射線検出器16やフォトンカウント型DAS26b等によりエネルギー弁別をすることによりディアルエネルギースキャンを行うことができる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
10…ガントリ、12…回転フレーム、14…X線管、16…放射線検出器、18…回転駆動部、20…高電圧発生部、22…スリップリング、26…データ収集部(DAS)、26a…積分型DAS、26b…フォトンカウント型DAS、28…非接触型データ伝送部、30…記憶部、32…前処理部、34…投影データ補正部、36…再構成処理部、38…表示部、40…入力部、42…スキャン制御部、50…検出素子、52…シンチレータ、54…大フォトダイオード、56…小フォトダイオード、58…フォトダイオードアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を発生するX線管と、
前記X線管から発生され被検体を透過したX線を繰り返し検出し、前記繰り返し検出されたX線のエネルギーに応じた電気信号を繰り返し生成する検出器と、
前記X線管と前記検出器とを回転軸回りに回転可能に支持する支持機構と、
前記電気信号を積分型モードで収集する第1収集部と、
前記電気信号をフォトンカウント型モードで収集する第2収集部と、
を具備するX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項2】
前記検出器は、
前X線管からのX線のエネルギーを吸収し、前記吸収されたX線のエネルギーに応じた蛍光を発生するシンチレータと、
前記シンチレータの一面のうちの第1区画に設けられ、前記発生された蛍光に応じた前記電気信号を生成し、前記電気信号を前記第1収集部に供給する第1受光素子と、
前記一面のうちの前記第1区画以外の第2区画に設けられ、前記発生された蛍光に応じた前記電気信号を生成し、前記電気信号を前記第2収集部に供給する第2受光素子と、を備える、
請求項1記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項3】
前記第1区画は、前記第2区画に比して大きな面積を有する、請求項2記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項4】
前記シンチレータと前記第2の受光素子との間には、前記蛍光を減衰させるための部材が配置される、請求項2記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項5】
前記第1収集部は、前記電気信号の積分信号を生成し、
前記第2収集部は、前記電気信号に基づいて前記繰り返し検出されたX線のフォトンが属するエネルギー領域を予め設定された複数のエネルギー領域の中から繰り返し特定し、前記複数のエネルギー領域の各々についてフォトン数を計数する、
請求項1記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項6】
前記計数されたフォトン数に応じて前記積分信号を補正する補正部と、
前記補正された積分信号に基づいて前記被検体に関する画像を再構成する再構成部と、
を具備する請求項5記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記複数のエネルギー領域について計数された全フォトン数と前記複数のエネルギー領域のうちの特定のエネルギー領域について計数されたフォトン数との比を前記積分信号に乗じる、請求項6記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項8】
前記再構成された画像を表示する表示部をさらに備える請求項6記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項9】
前記積分信号に基づいて前記被検体に関する第1画像を再構成する第1再構成部と、
前記複数のエネルギー領域のフォトン数に基づいて前記被検体に関する第2画像を再構成する第2再構成部と、
を具備する請求項6記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項10】
前記検出器は、前記被検体内の放射性同元素からのガンマ線を検出するガンマ線検出器を兼ねる、請求項1記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項11】
入射放射線のエネルギーに応じた蛍光を発生するシンチレータと、
前記シンチレータの一面のうちの第1区画に設けられ、前記発生された蛍光に応じた第1電気信号を生成する第1受光素子と、
前記一面のうちの前記第1区画以外の第2区画に設けられ、前記発生された蛍光に応じた第2電気信号を生成する第2受光素子と、
を具備する放射線検出器。
【請求項12】
前記第1電気信号は、積分型のデータ収集システムに利用され、
前記第2電気信号は、フォトンカウント型のデータ収集システムに利用される、
請求項11記載の放射線検出器。
【請求項13】
前記第1区画は、前記第2区画に比して大きな面積を有する、請求項10又は11記載の放射線検出器。
【請求項14】
前記シンチレータと前記第2受光素子との間には、前記蛍光を減衰させるための部材が配置される、請求項11から13の何れか一項記載の放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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