説明

X線分光装置

【課題】 ワーク領域が小さくかつ波長走査範囲の広い高分解能X線分光装置を提供すること。
【解決手段】 試料上のほぼ点とみなせる微小領域から放出されるX線をマルチキャピラリX線レンズで平行化し、互いに平行に配置した第1及び第2平板分光結晶51,52で分光及び反射させることにより、出射X線55が常に入射X線54に平行になるようにする。これにより、X線検出器56は入射・出射X線54,55に垂直な方向に直線的に移動するだけでよいようになる。第1及び第2平板分光結晶51,52は、平行四辺形リンクAEFDを用いることにより、常に上記関係を維持して分光のための回転・移動を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析装置や電子線プローブ微小分析装置(EPMA)、走査電子顕微鏡(SEM)等に用いられるX線分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これらの分析装置等は、試料上の微小領域を分析するため、微小領域から放出されたX線を分光し、その強度を検出するX線分光装置を備えている。このようなX線分光装置において、エネルギー分解能を重視する場合、従来は図1に示すように湾曲結晶X線分光器11と半導体検出器12が用いられてきた。
【0003】
また、最近、図2に示すような、マルチキャピラリの集光、平行化機能を利用した、マルチキャピラリ21と平板分光結晶22を組み合わせたX線分光器も提案された(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004-294168号公報([0021],図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に示す方法及び図2に示す方法のいずれにおいても、検出器12、23を固定したアームは、分光結晶11、22の回転軸と同軸でその2倍の角度を回転させる必要がある。従って、広い範囲で波長走査を行うと、検出器固定アームの回転範囲が広がり、2次元的に広いワーク領域を必要とする。しかし、EPMAやSEMの内部空間は元々大きくない上、X線分光器以外にも様々なオプション部品を取り付ける必要があるため、空間的・場所的制約が大きい。そのため、上記方法ではX線の分光範囲に制限を受けたり、高分解能の分光器を使用できない等の難点があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、EPMAやSEM等での使用に適した、ワーク領域が小さくかつ波長走査範囲の広い高分解能X線分光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために成された本発明に係るX線分光装置は、
試料上のほぼ点とみなせる微小領域から放出されるX線を波長分散するX線分光装置であって、
試料に向いた入射端面側で点焦点を有し、出射端面側で略平行光を出射するマルチキャピラリX線レンズと、
マルチキャピラリX線レンズの出射X線光路上に配置された第1平板分光結晶と、
第1平板分光結晶と同一の格子定数を持ち、第1平板分光結晶により反射されたX線の光路上に、第1平板分光結晶に平行となるように配置された第2平板分光結晶と、
X線照射面を中心に第1平板分光結晶を回転させるとともに、第1平板分光結晶に対する平行関係を保ちつつ第2平板分光結晶を移動させる駆動機構と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のX線分光装置では2枚の同一の格子定数を持つ平板分光結晶が常に平行の関係を保ちながら回転するため、マルチキャピラリX線レンズから平行に出射したX線(入射X線)は、両平板分光結晶により反射され、分光された後、その分光波長にかかわらず常に入射X線と平行に出射し、平板分光結晶の回転に応じてその高さ方向(入射・出射X線に垂直な方向)の位置が変わるのみとなる。従って、分光結晶を回転させても、X線検出器は出射X線(入射X線)の方向に垂直に、直線的に移動するだけでよく、従来のように分光結晶の2倍の角度で回転させる必要はない。これにより、本発明に係るX線分光装置は狭いワーク領域においても動作が可能となり、EPMAやSEM等の装置において、装置本体の寸法や他のオプション部品との競合の関係から空間的に余裕の少ない場合でも容易に取り付けることが可能となる。すなわち、本発明のX線分光装置は、コンパクトで高性能な装置での使用に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のX線分光装置の第1の実施例として、第1平板分光結晶と第2平板分光結晶が互いに平行な状態で固定されている構成例を説明する。この例では、図3に示すように、第1平板分光結晶31と第2平板分光結晶32が互いに平行な状態で固定されており、それらの全体が、第1平板分光結晶31の表面のほぼ中央の線33を中心に回転可能となっている。なお、回転中心線33は両平板分光結晶31、32の面に垂直な線に垂直(紙面に垂直)である。また、マルチキャピラリX線レンズを出射した平行X線34がほぼその回転中心線33上に入射するように、マルチキャピラリX線レンズ(図示せず)及びこれら第1,第2平板分光結晶31,32の位置関係を設定しておく。
【0009】
このような構成とすることにより、図3(a)、(b)に示すように、両平板分光結晶31,32が全体として回転しても、平板分光結晶31,32により分光された主X線35は、分光波長にかかわらず常に入射X線34に平行に第2平板分光結晶32を出射する。従って、X線検出器36は入射X線34に垂直な方向に直線的に移動するだけで、常に出射X線35を検出することができる。
【0010】
この実施例では、図3に示すように、入射側の第1平板分光結晶31は短くてもよいが、出射側の第2平板分光結晶32は、第1平板分光結晶31が大きく回転してもそれにより反射されたX線を常に受光することができるように、長くしておくことが望ましい。
【0011】
また、この実施例のように2つの平板分光結晶が常に固定されている構成の場合、これらには、1つの大きな分光結晶のブロックから切り出した、いわゆるチャンネルカット二結晶(図4)を用いてもよい。
【0012】
本発明のX線分光装置の第2の実施例として、第1平板分光結晶と第2平板分光結晶が平行四辺形リンクにより連結され、互いに平行な状態を維持しながら相互に移動可能となっている構成例を説明する。この例では、図5(a)、(b)に示すように、マルチキャピラリX線レンズから出射されるX線54(入射X線)の光路を一辺とするひし形ABCDを形成し、第1平板分光結晶51を、その表面の中心が頂点Aと一致するように、そして表面が対角線ACと平行となるように配置する。第2平板分光結晶52は、その表面の中心が頂点Bと一致するように、そして表面が第1平板分光結晶51の表面と平行になるように配置する。この状態で第1平板分光結晶51と第2平板分光結晶52を平行四辺形リンクAEFDで連結する。AE(=DF)の長さは任意である。第1平板分光結晶51はA点を中心に回転可能とする。
【0013】
このような構成とすることにより、図5(a)、(b)に示すように、第1平板分光結晶51が回転し、第2平板分光結晶52が平行四辺形リンクAEFDに従って移動しても、平板分光結晶51,52により分光された主X線55は、分光波長にかかわらず常に入射X線54に平行に第2平板分光結晶52を出射する。従って、X線検出器56は入射X線54に垂直な方向に直線的に移動するだけで、常に出射X線55を検出することができる。
【0014】
本発明のX線分光装置の第3の実施例として、メカトロニクスにより第1及び第2平板分光結晶を駆動する構成例を説明する。この例では図6に示すように、第1平板分光結晶61にそれを回転させるための第1駆動部61aを、第2平板分光結晶62にそれを回転及び移動させるための第2駆動部62aを、それぞれ設け、X線検出器66を移動させるための第3駆動部66aと合わせて制御部67により制御する。制御部67は、第1及び第2平板分光結晶61,62が互いに平行な関係を保ちつつ、第1平板分光結晶61により反射・分光されたX線が第2平板分光結晶62で反射・分光されるように第2平板分光結晶62を回転及び移動させる。これにより、上記各実施例と同様、X線検出器66は図6において上下方向に直線移動するだけで常に分光されたX線を検出することができる。
【0015】
この実施例の構成では、第2平板分光結晶62をより高い自由度で回転及び移動させることができるため、X線検出器66の位置を固定し、第2平板分光結晶62で反射されたX線が常にX線検出器66に入射するように第2平板分光結晶62を移動させることも可能となる。
【0016】
なお、上記いずれの構成においても、図6に示すように、X線検出器66の直前にソーラースリット68を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の、湾曲型分光結晶を使用したX線分光装置の概略構成図。
【図2】従来の、マルチキャピラリと平板分光結晶を使用したX線分光装置の概略構成図。
【図3】本発明の第1実施例である、2結晶固定型X線分光装置の概略構成図。
【図4】第1実施例の分光装置で用いることのできるチャンネルカット二結晶の平面図(a)及び側面図(b)。
【図5】本発明の第2実施例である、平行四辺形リンク型X線分光装置の概略構成図。
【図6】本発明の第3実施例である、メカトロニクス型X線分光装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0018】
31、51、61…第1平板分光結晶
32、52、62…第2平板分光結晶
33、53…第1平板分光結晶の回転中心線
34、54…入射X線
35、55…出射X線
36、56、66…X線検出器
61a…第1平板分光結晶回転用第1駆動部
62a…第2平板分光結晶回転・移動用第2駆動部
66a…X線検出器移動用第3駆動部
67…制御部
68…ソーラースリット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上のほぼ点とみなせる微小領域から放出されるX線を波長分散するX線分光装置であって、
試料に向いた入射端面側で点焦点を有し、出射端面側で略平行光を出射するマルチキャピラリX線レンズと、
マルチキャピラリX線レンズの出射X線光路上に配置された第1平板分光結晶と、
第1平板分光結晶と同一の格子定数を持ち、第1平板分光結晶により反射されたX線の光路上に、第1平板分光結晶に平行となるように配置された第2平板分光結晶と、
X線照射面を中心に第1平板分光結晶を回転させるとともに、第1平板分光結晶に対する平行関係を保ちつつ第2平板分光結晶を移動させる駆動機構と、
を備えることを特徴とするX線分光装置。
【請求項2】
前記駆動機構において、第1平板分光結晶と第2平板分光結晶が互いに平行な状態で固定されていることを特徴とする請求項1に記載のX線分光装置。
【請求項3】
第2平板分光結晶が第1平板分光結晶よりも長く形成されていることを特徴とする請求項2に記載のX線分光装置。
【請求項4】
前記駆動機構において、第1平板分光結晶と第2平板分光結晶が平行四辺形リンクにより連結されていることを特徴とする請求項1に記載のX線分光装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate