説明

X線検査装置

【課題】 被検者に負担をかけることなく、被検者の腕部を上方に移動させてX線照射野から退避させることが可能なX線撮影装置を提供する。
【解決手段】 腕移動機構20は、被検者の腕部をテーブルの表面から上方に離隔する方向に移動させるためのものであり、テーブル上の被検者の腕部を支持する腕支持部21と、テーブルに対して固定された軸26を中心に揺動可能なアーム部材24と、アーム部材24の先端に軸25を介して揺動可能に連結され、腕支持部21に形成された案内溝22に沿って移動可能なスライド部23と、アーム部材24に付設された従動プーリ27とベルト28および駆動プーリ29を介して連結され、アーム部材24を揺動駆動するモータ30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検者を仰臥位で載置するテーブルと、X線管とX線検出器とを支持するC型アームとを備え、X線撮影やX線透視を実行するX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなX線検査装置において、例えば、胸腹部の血管を対象としてテーブル上の被検者の側面から撮影や透視を行った場合には、X線管からX線検出器に至るX線の軸線上に被検者の胸腹部のみならず腕部も存在することになる。このような場合には、X線照射野に胸腹部と腕部が入ることから、撮影領域でのX線吸収が増大することになり、診断や治療に必要な情報を得るためには、X線の出力を増大する必要が生じる。このため、被検者の被曝量が増大するという問題が生ずる。また、腕部の像が副胸部の像に重なることから、その画像を利用しての診断や治療に支障を来すという問題もある。
【0003】
一方、被検者の腕部から血管内にワイヤーやカテーテルを挿入するときに、その挿入を容易とするため、被検者の腕部を所定の位置に固定するための腕置き台も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−20666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載の腕置き台は、被検者の腕を水平に安定して固定するためのものに過ぎず、腕部をX線照射野から退避させることはできない。このため、例えば、上下移動可能な握りハンドル等を配設し、被検者がこのハンドルを握ることにより、被検者の腕部を頭上にあげておくという構成を採用することも考えられるが、長時間このような姿勢をとることは、被検者の負担が大きいという問題がある。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、被検者に負担をかけることなく、被検者の腕部を上方に移動させてX線照射野から退避させることが可能なX線検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、被検者を仰臥位で載置するテーブルと、X線管と、前記X線管から照射され前記被検者を通過したX線を検出するX線検出器と、前記X線管と前記X線検出器とを互いに対向する状態で支持する略C字状のC型アームと、前記アームを、前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と直交する軸を中心に旋回させる旋回部と、前記テーブル上の被検者の腕部を支持する腕支持部と、当該腕支持部を上方に移動させる移動部とを有する腕移動機構とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記腕移動機構は、前記テーブルに対して固定された軸を中心に揺動可能なアーム部材と、前記アーム部材の先端に連結され、腕支持部に沿って移動可能なスライド部と前記アーム部材を揺動させるためのモータとを備える。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度を認識する角度認識部と、前記角度認識部により認識した前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度が一定角度以下となったときに、前記腕移動機構による腕の移動動作を実行させる制御部とを備えている。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度を認識する角度認識部と、前記角度認識部により認識した前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度に基づいて、被検者の腕部が被検者における撮影部位と重ならない角度位置まで、前記腕移動機構により腕支持部を移動させる制御部とを備えている。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記腕移動機構用の操作スイッチと、前記操作スイッチが操作されたことを検出して、前記腕移動機構による腕の移動動作を実行させる制御部とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、腕支持部をテーブルの表面から上方に移動させる移動部の作用により、被検者に負担をかけることなく、被検者の腕部を上方に移動させて、撮影領域と重なる位置から退避させることが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、アーム部材の先端に連結され腕支持部に沿って移動可能なスライド部の作用により、腕支持部により腕を支持したままの状態で腕支持部を上昇させることが可能となる。このため、腕支持部と被検者の腕部との摺動を防止することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、X線管からX線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度が一定角度以下となったときに、腕移動機構による腕支持部の移動動作を実行させることから、X線照射野に被検者の撮影領域と腕部との両方が同時に入る可能性があるときに、被検者の腕部を上方に移動させて撮影領域と重なる位置から退避させることが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、角度認識部により認識したX線管からX線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度に基づいて、被検者の腕部が被検者における撮影部位と重ならない角度位置まで腕支持部を移動させることから、被検者の撮影領域と腕部とが重なって撮影されることを確実に防止することが可能となる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、操作スイッチが操作されたことを検出して腕移動機構による腕の移動動作を実行させることから、オペレータの判断により、腕支持部を上昇させて被検者の腕部を上方に移動させることにより、撮影領域と重なる位置から退避させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明に係るX線検査装置の斜視図である。
【図2】腕移動機構20の概要図である。
【図3】腕移動機構20により被検者100の腕部101を移動させる状態を示す説明図である。
【図4】この発明に係るX線検査装置の主要な電気的構成を示すブロック図である。
【図5】X線検査装置によるX線撮影動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係るX線検査装置の斜視図である。
【0019】
このX線検査装置は、被検者100を仰臥位で載置するテーブル11と、X線管12と、このX線管12から照射され被検者100を通過したX線を検出するフラットパネルディテクタやイメージインテンシファイア(I.I.)等のX線検出器13と、X線管12とX線検出器13とを互いに対向する状態で支持する略C字状のC型アーム14と、このC型アーム14をスライド可能に支持する支持部15と、この支持部15を介してC型アーム14を旋回させる旋回部16と、この旋回部16を床面に対して起立状態で支持するための立設部17と、この発明の特徴部分である腕移動機構20とを備える。
【0020】
C型アーム14の側壁には円弧状の案内部が形成されており、支持部15は、この案内部と係合することにより、C型アーム14をスライド可能に支持している。そして、C型アーム14は、X線管12とX線検出器13とを、X線管12からX線検出器13に至るX線の軸線が、C型アーム14を形成する円弧の直径と一致する状態で支持している。また、旋回部16は、支持部15をC型アーム14等とともに、X線管12からX線検出器13に至るX線の軸線と直交する軸を中心に旋回させる。
【0021】
図2は、腕移動機構20の概要図である。
【0022】
この腕移動機構20は、被検者100の腕部101をテーブル11の表面から上方に離隔する方向に移動させるためのものであり、テーブル11上の被検者100の腕部101を支持する腕支持部21と、テーブル11に対して固定された軸26を中心に揺動可能なアーム部材24と、アーム部材24の先端に軸25を介して揺動可能に連結され、腕支持部21に形成された案内溝22に沿って移動可能なスライド部23と、アーム部材24に付設された従動プーリ27とベルト28および駆動プーリ29を介して連結され、アーム部材24を揺動駆動するモータ30とを備える。
【0023】
図3は、腕移動機構20により被検者100の腕部101を移動させる状態を示す説明図である。
【0024】
この腕移動機構20により被検者100の腕部101をテーブル11の表面から上方に離隔する方向に移動させる場合には、最初に、図3(a)に示すように、アーム部材24を略水平方向に配置することにより、腕支持部21を下降位置に配置する。そして、この状態において、被検者100を仰臥位でテーブル11上に乗せ、被検者100の腕部101を腕支持部21上に載置する。この状態でモータ30の駆動によりアーム部材24を揺動させる。これにより、図3(b)に示すように、スライド部23が腕支持部21に形成された案内溝22(図2参照)に沿って移動し、アーム部材24の揺動動作およびスライド部23の移動動作に伴って、腕支持部21が被検者100の腕部101を支持したままの状態で、上方に傾斜しながら移動する。
【0025】
図4は、この発明に係るX線検査装置の主要な電気的構成を示すブロック図である。
【0026】
このX線検査装置は、装置全体を制御する制御部40を備える。この制御部40は、上述したX線管12、X線検出器13およびモータ30と接続されている。また、この制御部40は、支持部15によるC型アーム14のスライドを制御するスライド駆動部41、旋回部16によるC型アーム14の旋回を制御する旋回駆動部42、および、スライド駆動部41および旋回駆動部42からの信号に基づいて、X線管12からX線検出器13に至るX線の軸線と水平方向との交差角度を認識する角度認識部43とも接続されている。さらに、この制御部40は、オペレータが操作する腕移動機構用の操作スイッチ19とも接続されている。
【0027】
図5は、上述したX線検査装置によるX線撮影動作を示す説明図である。なお、この実施形態においては、被検者100の胸腹部を撮影する場合を示している。
【0028】
上述したX線検査装置において、X線管12からX線検出器13に至るX線の軸線と水平方向との交差角度が大きな場合には、図5(a)に示すように、X線照射野中に被検者100の胸腹部のみを配置することができる。しかしながら、X線管12からX線検出器13に至るX線の軸線と水平方向との交差角度が小さくなった場合には、図5(b)において仮想線で示すように、X線照射野中に被検者100の胸腹部のみならず腕部も配置されることになる。
【0029】
このような場合には、X線照射野に被検者100の胸腹部と腕部が入ることから、撮影領域でのX線吸収が増大することになり、診断や治療に必要な情報を得るためには、X線の出力を増大させる必要が生じる。このため、被検者100の被曝量が増大するという問題が生ずる。また、腕部101の像が副胸部の像に重なることから、その画像を利用しての診断や治療に支障を来すという問題もある。このため、このX線検査装置においては、腕移動機構20の作用により、被検者100の腕部101をテーブル11の表面から上方に離隔する方向に移動させる構成を採用している。
【0030】
すなわち、第1実施形態においては、角度認識部43が認識したX線管12からX線検出器13に至るX線の軸線と水平方向との交差角度が一定以下になったときに、制御部40が、腕移動機構20のモータ30に対して駆動信号を送信する。これにより、腕移動機構20は腕支持部21を上昇させ、図5(b)において実線で示すように、被検者100の腕部101がX線照射野において被検者100の胸腹部と重ならないような、予め設定された所定の位置まで、腕部101をテーブル11の表面から上方に離隔する方向に移動させる。これにより、上述した問題の発生を未然に防止することが可能となる。
【0031】
また、第2実施形態においては、角度認識部43が認識したX線管12からX線検出器13に至るX線の軸線と水平方向との交差角度に基づいて、制御部40が、腕移動機構20のモータ30に対して駆動信号を送信する。これにより、腕移動機構20は腕支持部21を上昇させ、図5(b)において実線で示すように、被検者100の腕部101が被検者100における撮影部位である胸腹部と重ならない角度位置まで、前記交差角度に基づいて腕部101をテーブル11の表面から上方に離隔する方向に移動させる。これにより、上述した問題の発生を未然に防止することが可能となる。
【0032】
さらに、第3実施形態においては、オペレータが腕移動機構用の操作スイッチ19を操作したときに、制御部40が操作スイッチ19が操作されたことを検出して、腕移動機構20のモータ30に対して駆動信号を送信する。これにより、腕移動機構20は腕支持部21を上昇させ、図5(b)において実線で示すように、被検者100の腕部101がX線照射野において被検者100の胸腹部と重ならないような、予め設定された所定の位置まで、腕部101をテーブル11の表面から上方に離隔する方向に移動させる。これにより、上述した問題の発生を未然に防止することが可能となる。
【0033】
以上のように、この発明の第1、第2、第3実施形態に係るX線検査装置によれば、被検者100の腕部101を支持した腕支持部21をテーブル11の表面から上方に離隔する方向に移動させることにより、被検者100に負担をかけることなく、被検者100の腕部101を上方に移動させて、撮影領域と重なる位置から退避させることが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
11 テーブル
12 X線管
13 X線検出部
14 C型アーム
15 支持部
16 旋回部
17 立設部
19 操作スイッチ
20 腕移動機構
21 腕支持部
22 案内溝
23 スライド部
24 アーム部材
25 軸
26 軸
27 従動プーリ
28 ベルト
29 駆動プーリ
30 モータ
40 制御部
41 スライド駆動部
42 旋回駆動部
43 角度認識部
100 被検者
101 腕部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者を仰臥位で載置するテーブルと、
X線管と、
前記X線管から照射され前記被検者を通過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線管と前記X線検出器とを互いに対向する状態で支持する略C字状のC型アームと、
前記アームを、前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と直交する軸を中心に旋回させる旋回部と、
前記テーブル上の被検者の腕部を支持する腕支持部と、当該腕支持部を上方に移動させる移動部とを有する腕移動機構と、
を備えたことを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線検査装置において、
前記腕移動機構は、
前記テーブルに対して固定された軸を中心に揺動可能なアーム部材と、
前記アーム部材の先端に連結され、腕支持部に沿って移動可能なスライド部と、
前記アーム部材を揺動させるためのモータと、
を備えるX線検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のX線検査装置において、
前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度を認識する角度認識部と、
前記角度認識部により認識した前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度が一定角度以下となったときに、前記腕移動機構による腕の移動動作を実行させる制御部と、
を備えたX線検査装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のX線検査装置において、
前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度を認識する角度認識部と、
前記角度認識部により認識した前記X線管から前記X線検出器に至るX線の軸線と水平方向との交差角度に基づいて、被検者の腕部が被検者における撮影部位と重ならない角度位置まで、前記腕移動機構により腕支持部を移動させる制御部と、
を備えたX線検査装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のX線検査装置において、
前記腕移動機構用の操作スイッチと、
前記操作スイッチが操作されたことを検出して、前記腕移動機構による腕の移動動作を実行させる制御部と、
を備えたX線検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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