説明

X線画像システム

【課題】アスベストの視認性が高いX線画像を得る。
【解決手段】X線画像システム100は、径s(μm)が0.05≦s≦10のアスベストを撮影対象とする際に、撮影装置10において、焦点径D(μm)が1≦D≦30のX線管と画像検出器とを用いて10≦M≦40の拡大率Mの拡大撮影を行い、前記画像検出器により検出されたX線量に応じて生成単位PでX線画像のデジタルデータを生成する。画像処理装置20では、前記生成されたX線画像にントラスト調整処理に係るパラメータG値を20以上とする階調変換処理及び/又は500/(10M+B)以上の周波数帯域を強調する周波数強調処理を施す。フィルム出力装置30又は表示装置50では、その処理画像の出力を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体にX線を照射してX線画像を撮影し、当該X線画像に画像処理を施して出力するX線画像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体に入り込んだアスベストが塵肺や中皮腫等の重篤な疾病を誘起するとして問題となっている。このため、患者の胸部X線画像を撮影し、このX線画像から人体内のアスベストの有無を検出するための検査が行われている。アスベストの検出により、迅速な処置(治療、予防措置)につなげ、発症を抑制することが期待される。
【0003】
しかし、胸部や手足等を撮影する一般的な医療用X線画像システムでは、アスベストのような直径約10μm以下の微細な構造物を可視画像化することは困難である。仮に、可視画像化ができたとしても視認性が低く、医師が観察(判別)できないことが多い。これは、X線画像システムで使用される画像検出器の空間解像度よりも撮影対象の構造物のサイズが小さいためである。
【0004】
上記アスベストのような微小な対象物を精細に観察可能なX線画像を得るためには、拡大撮影が有効である。拡大撮影は、X線管の焦点径、X線管から被写体までの距離、被写体から画像検出器までの距離を所定の関係とすることにより、実際の被写体のサイズよりも拡大されたX線画像が得る撮影方法である。
【0005】
拡大撮影においてより視認性を向上させるためには、拡大撮影時の拡大率を上げる、或いはX線管の焦点径を大きくし、照射するX線量を増加させることが考えられる。従来においても、小動物を撮影対象とするため、拡大率10倍の拡大撮影を行い、得られたX線画像を25μmの読取サンプリングピッチで読み取ってデジタル画像データを得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、被写体から画像検出器までの距離を0.3m以上として拡大率を上げる方法も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−268450号公報
【特許文献2】特表平11−502620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、拡大撮影では拡大率及び/又は焦点径を増大させると、それに伴ってエッジ部分の鮮鋭性が低下するボケと呼ばれる現象が生じてしまう。従って、上記のように視認性向上を狙っての単純な拡大率増加はボケを生じさせ、かえって視認性の低下を招くこととなる。また、X線管の焦点径が大きければ単位時間あたりのX線照射量が増加するため、X線画像の濃度特性を改善させることができるが、焦点径の拡大もボケの発生につながるため、拡大率と同様に単純な拡大化は好ましくない。
【0008】
本発明の課題は、アスベストの視認性が高いX線画像を得ることができるX線画像システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、
X線管と当該X線管から照射されたX線を検出する画像検出器とを用いて拡大率M(ただし、前記X線管の焦点から前記被写体までの距離R1、前記X線管の焦点から前記画像検出器までの距離をR3としたとき、拡大率M=R3/R1とする。)の拡大撮影を行う撮影手段と、前記画像検出器により検出されたX線量に応じて生成単位PでX線画像のデジタルデータを生成する画像生成手段と、前記生成されたX線画像に階調変換処理を施す階調変換処理手段とを備えたX線画像システムにおいて、
前記撮影手段により径s(μm)が0.05≦s≦10のアスベストを撮影する際に、前記X線管の焦点径D(μm)を1≦D≦30、前記拡大率Mを10≦M≦40とし、
前記階調変換処理に係るコントラストのパラメータG値を20以上とすることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
X線管と当該X線管から照射されたX線を検出する画像検出器とを用いて拡大率M(ただし、前記X線管の焦点から前記被写体までの距離R1、前記X線管の焦点から前記画像検出器までの距離をR3としたとき、拡大率M=R3/R1とする。)の拡大撮影を行う撮影手段と、前記画像検出器により検出されたX線量に応じて生成単位PでX線画像のデジタルデータを生成する画像生成手段と、前記生成されたX線画像に階調変換処理を施す階調変換処理手段とを備えたX線画像システムにおいて、
前記撮影手段により径s(μm)が0.05≦s≦10のアスベストを撮影する際に、前記X線管の焦点径D(μm)を1≦D≦30、前記拡大率Mを10≦M≦40とし、
前記画像生成手段における生成単位PをP≦s×Mとし、
前記階調変換処理に係るコントラストのパラメータG値を20以上とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のX線画像システムにおいて、
前記画像生成手段における生成単位Pを2P≦s×Mとすることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載のX線画像システムにおいて、
前記階調変換処理が施された処理画像に、500/(10M+B)以上の周波数帯域(lp/mm)を強調する周波数強調処理を施す周波数強調処理手段を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載のX線画像システムにおいて、
前記X線管の焦点から前記画像検出器までの距離R3(m)を、3≦R3≦5とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、径が0.05〜10(μm)と非常に微小なアスベストの検出に対応したコントラストの拡大画像を提供することができる。アスベストは非常に微小であり、通常の撮影方法ではアスベストを視認可能に画像化するのは困難である。また、アスベストは人体の肺の肺胞部分に存在して疾病を引き起こすが、胸部を撮影したX線画像においてこのような肺胞とアスベストとのコントラスト(濃度差)は、肺野部分と骨等の他の領域のコントラストから見て小さいものとなる。従って、通常の人体(肺野)構造物の観察用にスクリーン/フィルム方式で培われた階調特性(コントラスト)を踏襲した入力信号−出力階調の信号変換処理(G値処理)では、小焦点のX線管球を用い拡大撮影(位相コントラスト撮影)を行ったとしてもエッジ強調効果により視認性は向上するものの大幅な向上は期待できない。そのため、デジタル処理における階調変換特性設定の自由度に鑑み、通常の人体構造物ではなく、体内に吸飲されたアスベスト部分に着目し、当該アスベスト部分の視認性が大幅に向上するようなG値処理を行うことで、アスベストと周辺部(肺野部)とのコントラストを引き上げ、視認性を大幅に向上させることが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、径が0.05〜10(μm)と非常に微小なアスベストの検出に対応したコントラストの拡大画像を提供することができる。アスベストは非常に微小であり、通常の撮影方法ではアスベストを視認可能に画像化するのは困難である。また、アスベストは人体の肺の肺胞部分に存在して疾病を引き起こすが、胸部を撮影したX線画像においてこのような肺胞とアスベストとのコントラスト(濃度差)は、肺野部分と骨等の他の領域のコントラストから見て小さいものとなる。従って、通常の人体(肺野)構造物の観察用にスクリーン/フィルム方式で培われた階調特性(コントラスト)を踏襲した入力信号−出力階調の信号変換処理(G値処理)では、小焦点のX線管球を用い拡大撮影(位相コントラスト撮影)を行ったとしてもエッジ強調効果により視認性は向上するものの大幅な向上は期待できない。そのため、デジタル処理における階調変換特性設定の自由度に鑑み、通常の人体構造物ではなく、体内に吸飲されたアスベスト部分に着目し、当該アスベスト部分の視認性が大幅に向上するようなG値処理を行うことで、アスベストと周辺部(肺野部)とのコントラストを引き上げ、視認性を大幅に向上させることが可能となる。また、画像生成時の生成単位PをP≦s×Mとすることにより、アスベストの径内で信号化を図ることができ、アスベストの信号の検出性を向上させることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、アスベストの径内で少なくとも1回信号化を行うこととなり、アスベストの信号の検出性をより向上させることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、拡大画像に対してアスベストの視認に必要な空間周波数に対して強調処理を行うことができ、拡大画像におけるアスベストの鮮鋭性を高めて視認性をより向上させることができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、限られた撮影環境の中であっても、拡大率が10〜40と比較的大きい拡大率に調整することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
人体の構造物は、主にC、H、O、Ca等の元素から構成されている一方、アスベストは主にSi、O、Fe、Mg等の元素から構成されている。各構成元素とそのX線吸収率の関係は下記表1のようになる。
【表1】

【0020】
アスベストは、口から吸入され肺胞中に存在することが多い。肺胞構成元素は主にC、H、O、N等であり、アスベストの主成分であるSiとのX線吸収率を比較すると、その差は10倍以上である。そのため、同一X線量が人体に照射された場合には画像検出器に到達するX線量の差も大きく、そのX線画像上におけるコントラスト(濃度差)も大きくなる。
【0021】
また、人体の骨部はX線吸収率の大きいCaの含有率が多いため、人体を透過しづらく、画像検出器に到達するX線量が減少する。アスベストの構成元素Siと比較すると、SiのX線吸収率はCaの1/3であり、アスベストと肺胞のコントラストは、骨と肺胞のコントラストより小さいことが分かる。
【0022】
従来から胸部を撮影したX線画像では、X線吸収率差が大きい骨部と肺胞部、肺血管部とを同時に読影しやすい濃度とするように、X線画像上の階調特性を調整している。しかし、このように調整された階調特性の下では、アスベストと肺胞のような比較的到達X線量の差が小さい画像部分において充分なコントラストが得られず、アスベストと肺胞の境界部分が判別できなくなってしまう。
【0023】
よって、本発明では、微小なアスベストを視認可能なX線画像を得るため、拡大撮影を行って撮影時に用いるX線管の焦点径、拡大率を制御するとともに、拡大撮影により得られたデジタルX線画像にアスベストの検出に応じたデジタル処理ならではの画像処理である階調変換処理及び/又は周波数強調処理を施すことにより、アスベストの視認性が高いX線画像を生成する。
以下、本発明を適用した一実施形態について説明する。
【0024】
図1に、本実施形態におけるX線画像システム100を示す。
X線画像システム100は、図1に示すように、撮影装置10、画像処理装置20、フィルム出力装置30、画像DB40aを有する画像サーバ40、表示装置50を備えて構成されている。各装置10〜50はネットワークNを介して相互に通信可能に接続されている。ネットワークNは、DICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine)規格が適用されたLAN(Local Area Network)である。
【0025】
X線画像システム100では、撮影装置10において被写体にX線を照射することによりX線画像を撮影し、当該X線画像のデジタルデータを生成すると、当該X線画像に対する各種画像処理を画像処理装置20により施す。画像処理装置20から出力された処理画像は画像サーバ40に保存され、フィルム出力装置30に出力されたり、或いは表示装置50からの要求に応じて表示装置50に出力される。
【0026】
以下、各構成装置について詳細に説明する。
撮影装置10は、図2に示すように、X線管2、画像生成装置3を備えて構成されており、X線管2から被写体Wに向けて照射したX線を画像生成装置3内の画像検出器31で検出し、そのX線量に応じたX線画像のデジタルデータを生成するものである。撮影時には、被写体WとX線管2、被写体Wと画像検出器31間の距離R1、R2を調整することにより拡大率Mの拡大撮影を行う。
【0027】
X線管2は、焦点径D(μm)のX線を発生させて被写体Wに向けて照射するものである。X線管2では、この焦点径Dが大きくなるほど一定時間内に照射されるX線量が大きくなる。
【0028】
画像生成装置3は、画像検出器31を含む撮影部32、撮影制御を行うための本体部33等を備えて構成されている。
撮影部32は、画像検出器31を内蔵し、撮影部位に合わせてその高さ位置を調整可能に構成されている。
【0029】
画像検出器31は照射されるX線を検出するものである。画像検出器31としては、X線エネルギーを吸収、蓄積可能な揮尽性蛍光体プレートやFPD(Flat Panel Detector)等を適用することができる。揮尽性蛍光体プレートを適用する場合、当該揮尽性蛍光体プレートにレーザ光等の励起光を照射し、蛍光体プレートから出射される輝尽光を画像信号に光電変換する読取部が撮影部32内に設けられる。読取部により生成された画像信号(アナログ信号)は本体部33に出力される。
【0030】
なお、画像検出器31として、蛍光体プレートが筐体に収容されたカセッテが用いられた場合には、カセッテ専用の読取装置にを用いて画像信号の読取処理、デジタル化が行われることとなる。
【0031】
一方、FPDは入射したX線量に応じて電気信号を生成する変換素子がマトリクス状に配設されたものであり、FPD内で直接電気信号(アナログ)を生成する点で上記蛍光体プレートと異なる。FPDを適用した場合、FPD内で生成された電気信号がサンプリングによりデジタル信号に変換され、本体部33に出力される。
【0032】
本体部33はX線管2と接続されており、X線管2及び撮影部32の撮影動作の制御操作を行うための操作部や、画像信号をデジタルデータに変換する等の各種信号処理、データ処理を行う処理部、画像生成装置3の各部を集中制御する制御部、他の外部装置と通信を行う通信部等を備えている。
【0033】
本体部33では、操作部を介してX線管2における管電圧、管電流等のX線の照射条件や照射タイミング等を指示操作することが可能であり、制御部ではこの指示操作に応じてX線管2、撮影部32等の各部の動作を集中制御する。
【0034】
次に、撮影装置10における拡大撮影について説明する。
図3は、拡大撮影の概略を説明する図である。
図3に示すように、通常の撮影方法の場合、被写体と接する位置(図3の密着撮影位置)に画像検出器31が配置され、X線管2から照射されたX線を受けるように構成されている。この場合、そのX線画像はライフサイズ(被写体Wと同一サイズであることをいう)とほぼ等サイズとなる。
【0035】
これに対し、拡大撮影は、被写体Wと画像検出器31間に距離を設けて画像検出器31を配置するものであり、X線管2からコーンビーム状に照射されたX線により、ライフサイズに対して拡大されたX線画像(以下、拡大画像という)が得られることとなる。
【0036】
ここで、拡大画像のライフサイズに対する拡大率Mは、X線管2の焦点aから被写体Wまでの距離をR1、被写体Wから画像検出器31までの距離をR2、X線管2の焦点aから画像検出器31までの距離をR3(R3=R1+R2)とすると、下記式(1)により求めることができる。
M=R3/R1・・・(1)
【0037】
拡大画像では、図4に示すように、被写体Wの辺縁を通過することにより屈折したX線が被写体Wを介さずに通過したX線と画像検出器31上で重なり合い、重なった部分のX線強度が強くなる。一方で、屈折したX線の分だけ、被写体Wの辺縁内側の部分においてX線強度が弱くなる現象が生じる。そのため、被写体Wの辺縁を境にしてX線強度差が広がるエッジ強調作用(エッジ効果ともいう)が働き、辺縁部分が鮮鋭に描写された視認性の高いX線画像を得ることができる。
【0038】
X線源が点線源(つまり、焦点aが点)であるとみなした場合、辺縁部分におけるX線強度は図5の実線で示すようなものとなる。図5に示すEは、エッジ強調の半値幅を示し、下記式(2)により求めることができる。半値幅Eはエッジの山−谷間の距離を示す。
【数1】

【0039】
しかし、医療現場や非破壊検査施設では、クーリッジX線管(熱電子X線管ともいう)が広く使用されており、このクーリッジX線管では、図6に示すように焦点径Dが有る程度大きくなるため、理想的な点線源とみなすことができない。この場合、図6に示すように、エッジ強調の半値幅Eが広がり、かつ強度が低下することとなるため、幾何学的不鋭が生じることとなる。この幾何学的不鋭をボケという。
【0040】
ボケが生じた場合の辺縁部分におけるX線強度は、図5の点線で示すようなものとなる。ボケが生じた際のエッジ強調の半値幅は、幾何学的不鋭のため理想的な点線源を想定した場合のエッジ強調幅Eより広がることとなる。このボケが生じた場合のエッジ強調の半値幅をEBとすると、EBは下記式(3)から求めることができる。
【数2】

式中、δ及びrの定義は、式2と同じである。
また、EBはボケが無い場合のエッジ強調半値幅Eにボケの大きさを示すBを加え、EB=E+Bで示される。
【0041】
ここで、アスベストのような、径が10μm以下という微小な対象物の視認性を向上させるためには、拡大率Mを大きくすることが必要である。拡大率Mを大きくするためには、式1より距離R2を大きくすればよいが、距離R2の増加はボケの半値幅EBの増大を招くこととなる。ここで、アスベストの径をs(μm)とすると、径sとはアスベストが略球形や略立方体等の異形体ではない場合はその外接円の直径を、糸状の細長いもの等、異形体である場合には異形体の延展方向(細長い方向)と直交方向の断面の直径を意味するものとする。
【0042】
なお、拡大率Mを調整する場合、距離R1を固定し、距離R2を増減することにより拡大率Mを可変することができるが、距離R1の設定が余りにも大きいと実際の撮影において不適切な距離設定となる場合がある。例えば拡大率M=20(倍)のとき、距離R1=1(m)とすると距離R2は19(m)に設定しなければならないが、通常の撮影室ではこのような設定は現実的ではない。
【0043】
これに対し、距離R1の設定を小さくすると、照射野が小さくなり、被写体Wの一部しか撮影できないこととなってしまう。一般的には、被写体WとX線管2の間には余分な被爆を防ぐための照射野絞りや筐体を設置していることが多いため、距離R1を小さくするには限界がある。
【0044】
よって、撮影室内等、距離R3の設定に制限がある場合には、距離R3を固定し、その固定した距離R3の中で距離R1、R2の比率を変えることが好ましい。例えば、R3=3.5(m)に決定した場合、この距離R3に対し、R1=0.7(m)、R2=2.8(m)とする。一般的な撮影室の広さを考慮すると、距離Rを3≦R3≦5の範囲とし、この範囲内で拡大率Mと拡大画像の視認性との関係を見ながら、経験的、実験的に最適な距離R3、R1、R2を決定すればよい。
【0045】
また、式3からも分かるように、ボケBの程度は焦点径Dに依るところが大きい。0.05≦s≦10の微小なアスベストを拡大画像上で観察する場合には、焦点径Dを大きくすればX線の照射量が増えて拡大画像の視認性が向上するが、その分ボケの程度も大きくなり、結果として最終的な観察画像はエッジ強調効果の減少した、場合によってはエッジ強調効果の無い画像となってしまう。
【0046】
よって、0.05≦s≦10(μm)の微小なアスベストを撮影対象とする際、X線管2の焦点径Dを1≦D≦30と小さくしてなるべく点源に近いものとし、拡大率Mを10≦M≦40と比較的大きく設定して微小なアスベストの画像部分の拡大を図ることが好ましい。この範囲内で実際に適用する焦点径D、拡大率M、拡大率Mに応じた距離R1、R2、R3を決定する際には、ボケBの程度、すなわちボケBにより影響を受けるアスベスト辺縁の視認性劣化の度合いの他、エッジ強調効果の減弱の度合い、生成されたX線画像に対して後に施される画像処理(階調変換処理、周波数強調処理)による視認性の向上度合いを勘案して適宜決定すればよい。
【0047】
次に、撮影装置10における画像生成について説明する。
拡大撮影が行われると、画像検出器31により検出された拡大画像の読み取りが行われ、本体部33(画像検出器31としてFPDを適用した場合にはFPD)では拡大画像のアナログ画像信号がサンプリング(読み取り)によりデジタル画像信号に変換されて画像データが生成される。
このとき、拡大画像データの生成単位である読取画素サイズP(μm)は、P≦s×Mを満たすことが好ましい。この条件下では、拡大画像においてアスベストの画像領域内(面積s×M)で少なくとも1ピクセル(画素)分の読取データ(デジタル信号値)がアスベストに対応する信号値レベルになる可能性が増え、微小なアスベストの信号を検出することが可能となる。
【0048】
さらに好ましくは、2P≦s×Mを満たす読取画素サイズPで読み取る。すなわち、拡大画像のアスベストの画像領域内(面積s×M)において少なくとも2画素分の読取が行われることなる。上記P≦s×Mの条件の場合には読み取り時の結像位相によっては1つのアスベスト画像領域の信号が、複数のピクセルにわたって検出され、アスベスト領域の信号強度が損なわれる場合も考えられる。しかし、2P≦s×Mとした場合、読み取り時の結像位相によらずアスベストの径内で少なくとも1ピクセル(画素)分の読取データがアスベストに対応する信号値レベルになるため、常に明確な信号強度でアスベスト領域の信号を検出する場合には、2P≦s×Mを満たすことが好ましい。
【0049】
以上のような拡大撮影により、本体部33において拡大画像のデジタルデータが生成されると、本体部33から画像処理装置20にその拡大画像データが出力される。
【0050】
次に、画像処理装置20について説明する。
画像処理装置20は、撮影装置10から入力された拡大画像データを用いて各種画像処理を施すものであり、図7に示すように、制御部21、操作部22、表示部23、通信部24、記憶部25、画像メモリ26、画像処理部27を備えて構成されている。
【0051】
制御部21は、記憶部25に記憶されている制御プログラムに従って、各種演算を行う或いは各部22〜26の動作を集中制御する。
【0052】
操作部22は、マウスやキーボード等を備え、これらが操作されるとその操作に応じた操作信号を生成して制御部21に出力する。
【0053】
表示部23は、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示ディスプレイを備え、制御部21の制御に従って各種操作画面や拡大画像、処理画像等を表示する。
【0054】
通信部24は、通信用のインターフェイスを備え、ネットワークN上の各装置と通信を行う。例えば、撮影装置10から拡大画像のデータを受信したり、画像処理部27により生成された処理画像のデータを画像サーバ40に送信する。
【0055】
記憶部25は、各種制御プログラムや画像処理部26における画像処理プログラム、プログラムの実行に必要なパラメータ、データ等を記憶している。
【0056】
画像メモリ26は、画像処理対象の拡大画像、画像処理後の処理画像のデータを一時的に記憶するためのメモリである。
【0057】
画像処理部27は、図8に示すように、拡大画像に対し、階調変換処理、周波数強調処理等の各種画像処理を施して、その処理画像を生成する。
以下、図8を参照して各画像処理の内容とその流れを説明する。
【0058】
〈照射野認識処理〉
画像処理部27は、階調変換処理、周波数強調処理等の前提として、まず入力された拡大画像において照射野認識処理を実行する。照射野とは被写体を介してX線が到達した領域をいい、照射野認識処理ではこの照射野領域と照射野外領域(照射野を除く他の領域)との判別が行われる。これは、偏った信号値(デジタル信号値)の照射野外領域の画像も含めて階調変換処理等を行うと適切な処理がなされないためである。
【0059】
照射野認識の手法は何れのものを採用してもよい。例えば特開平5−7579号に開示のように、拡大画像を複数の小領域に分割し、この分割領域毎に分散値を求め、求めた分散値に基づいて照射野領域のエッジを検出して照射野領域を判別することとしてもよい。通常、照射野外領域では略一様の到達X線量となるため、その小領域の分散値は小さくなる。一方、照射野領域のエッジを含む小領域では到達X線量が大きい部分(照射野外領域)と被写体によって到達X線量がいくらか低減された部分(照射野領域)とが混在することから、分散値は大きくなる。よって、分散値が一定値以上大きい小領域にエッジが含まれるとしてこのような小領域に囲まれる領域を照射野領域と判別する。
【0060】
〈関心領域の設定〉
照射野領域が判別されると、この照射野領域から関心領域(以下、ROI:Region Of Interestという)を設定する。このとき、ROIの設定とともに、基準信号値の設定が行われる。以下、アスベストが存在する肺野部をROIとして設定する例を説明する。
【0061】
まず、拡大画像データの水平方向及び垂直方向を順次走査してそれぞれの方向における信号値のプロファイルを作成する。肺野部は気管や胸椎等の周辺器官に比べて高い値を示すので、プロファイルにおいてその変曲点を検出し、この変曲点の位置により肺野部の領域を特定する。なお、パターンマッチングにより肺野部を検出してもよく、その手法は何れを適用してもよい。
【0062】
そして、特定された肺野部の領域のヒストグラムを作成し、このヒストグラムにおいて最大値側、最小値側から所定の割合のところの値をそれぞれ最大基準値H、最小基準値Lとして決定する。この最大基準値H、最小基準値Lは、生成直後の拡大画像の信号値範囲を出力画像における信号値範囲(最大値SH、最小値SL)に変換する際の基準値として用いられるものである。
【0063】
〈階調変換処理〉
以上のようにして前処理が終了すると、階調変換処理が行われる。
階調変換処理は、画像出力時の濃度、コントラストを調整するための処理である。医師がX線画像の読影により人体構造の疾病(例えば胸部における肺癌)の有無を診断する場合、X線画像上における構造物の濃度やコントラスト(階調性)に基づき、疾病の有無が判断される。よって、読影に適した濃度、コントラストに調整することにより、医師の疾病の検出作業を支援することができる。
【0064】
階調変換処理は、(1)正規化処理、(2)基本LUT(ルックアップテーブル)を用いての変換処理の2段階で行い、最終的に所望の信号値範囲、階調特性となるように階調変換を行うものである。
【0065】
従来、撮影にはスクリーン/フィルム方式が採用されていた背景から、揮尽性蛍光体プレートやFPD等の画像検出器31を用いたデジタル処理方式が採用された現在でも、医師の読影能(診断性能)を維持するため、スクリーン/フィルム方式で培われた階調特性(コントラスト)を目標として入力信号(読取信号)の変換処理が行われている。
【0066】
スクリーン/フィルム方式で得られる階調特性は、図9に示すようにS字状の曲線となる。階調変換処理では、この階調特性を示すLUTを基本LUTとして準備しておき、正規化処理により対象画像について個々の信号調整を行った後、この基本LUTを用いて信号値の変換を行う。
【0067】
図10に、画像検出器31(蛍光体プレートの場合)により検出されるX線量とそのX線量に応じて最終的に出力されるX線画像の信号値との関係を示す。
図10の座標系において、第1象限は読取特性を示しており、画像検出器31への到達X線量と、読取信号値(アナログ信号値)との関係を示している。また、第2象限は正規化特性を示しており、その読取信号値と、正規化処理が施された後の正規化信号値(デジタル信号値)の関係を示している。第3象限は階調変換特性を示すものであり、正規化信号値と、基本LUTにより変換された出力濃度値(デジタル濃度信号値)との関係を示している。なお、ここでは出力濃度値を0〜4095の12ビット分解能としている。
【0068】
第2象限において、正規化特性を示す直線はその傾きを変化させることにより出力値の範囲(SH−SL間の大きさ)を調整することができるとともに画像全体のコントラストを変化させることができる。この傾きをG値とする。また、階調変換特性を示す直線の切片を変化させることにより、出力値の範囲全体の高低(SH−SLの移動)を調整し、これにより画像全体の濃度を変化させることができる。この切片をS値とする。
【0069】
例えば、図10に示す直線h2と直線h3で正規化を行った場合を比較すると、直線h2は直線h3よりG値及びS値が大きいため、直線h3により正規化を行った場合に比べてSH−SL間が小さくなるとともにその位置が低信号値側にずれる。
【0070】
すなわち、階調変換特性を示す直線の傾きG値、切片S値を階調変換パラメータとしてこれを制御することにより、出力画像の濃度範囲、コントラストを調整することができる。
【0071】
G値は、図9に示すスクリーン/フィルム方式における階調特性曲線の傾きを求める下記式(4)により決定される。
G=(D2−D1)/(logE2−logE1)・・・(4)
ここで、
D1=0.25+Fog、D2=2.0+Fog、Fog=0.2であり、
E1、E2はそれぞれD2、D1に対応する入射X線量である。
胸部や乳房等の人体各部位を観察対象とする場合、G値は一般に、2.5〜5.0程度のものが用いられることが多い。
【0072】
また、S値は下記式(5)により求められる。
S=QR×P1/P2・・・(5)
ここで、
QRは量子化領域値であり、
P1は信号値1535(QR=200、出力濃度1.2)となる到達X線量、P2は階調変換後の画像で出力濃度1.2となった画素の実際の到達X線量である。
P1の値は、撮影前の量子化領域QR値の設定で一意に決まるものである。
【0073】
求めたG値、S値により定まる直線から対象画像の信号変換を行うことにより対象画像の正規化を行う。そして、この正規化画像に基本LUTを用いて階調変換を行い、所望の階調特性の処理画像を得る。
すなわち、G値、S値を用いて正規化を行うことにより同一のLUTを用いてもX線量のばらつき及び出力手段における出力特性に応じた階調変換を行うことができるものである。
【0074】
以上が通常時の階調変換処理の内容であるが、本実施形態では、出力画像におけるアスベスト−肺胞間のコントラスト差に注目し、アスベストの視認性を向上させるため、アスベスト−肺胞間のコントラスト差が大きくなるよう、上記の式(4)によらずG値を引き上げることが必要である。
【0075】
図10中、符号hで示すのはアスベストが存在する肺野部についてのX線量のヒストグラムである。アスベスト部分の信号値は、肺野部の中でも低信号値側に偏っており、その信号幅は狭い。よって、出力可能な濃度範囲(コントラスト)をヒストグラム全体の信号幅に割り付けるのではなく、当該狭い領域に割り付けて、G値を20以上とし、アスベスト画像のコントラストを向上させることが好ましい。
【0076】
〈周波数強調処理〉
階調変換が終了すると、その処理画像に対し、周波数強調処理が施される。
周波数強調処理の手法としては、非鮮鋭マスク処理を行う手法や、多重解像度分解を行う手法等があるが、ここでは、特開平9−44645号公報等に記載されている多重解像度分解を行う手法を例に説明する。
多重解像度分解を行う手法では、処理対象画像を複数の周波数帯域の信号に分解し、この分解された信号のうち、所望とする周波数帯域の信号を強調する。
【0077】
まず、処理対象画像から1画素おきにサンプリングし、そのサンプリングした画素間に信号値「0」の画素を補間する。すなわち、サンプリング画像においてマトリクス状に並ぶ各画素の一列おき及び一行おきに「0」の画素が挿入されることとなる。
【0078】
次いで、この補間された補間画像に対してローパスフィルタによるフィルタ処理を施して、低解像度画像gを得る。この低解像度画像g1は元の処理対象画像と比較して空間周波数が半分より低い低周波数帯域が抽出されたものとなっている。これは、サンプリングにより画像の大きさを1/4とし、画素値「0」の画素を補間したことにより、空間周波数が半分より高い周波数帯域の画像が失われたためである。
【0079】
次いで、処理対象画像から低解像度画像gを減算し、高解像度画像jを得る。この高解像度画像jは空間周波数が半分より高い高周波数帯域の画像が抽出されたものであり、原画像のナイキスト周波数Nのうち、N/2〜Nの周波数帯域を示す画像である。
【0080】
次に、低解像度画像gに対し、上記のローパスフィルタによるフィルタ処理、補間処理を施して低解像度画像gを得、低解像度画像gから低解像度画像gを減算して高解像度画像jを得る。この高解像度画像jは原画像のナイキスト周波数Nのうち、N/4〜N/2の周波数帯域のみの画像である。
【0081】
このようにフィルタ処理、補間処理を繰り返すことにより、低解像度画像gkから、N/2k+1〜N/2の周波数帯域を示す高解像度画像j(k=1、2、・・・)を得ることができる。
【0082】
そして、所望の周波数帯域の高解像度画像jが得られると、強調すべき周波数帯域の高解像度画像jに強調係数を乗じる。次いで、多重解像度分解された画像を復元するため、この強調係数が乗じられた高解像度画像を含む各画像jの逆変換を行う。
【0083】
まず、低解像度画像gに対して各画素間の補間処理を施し、低解像度画像gの4倍の大きさの逆変換画像ggを生成する。次に、この逆変換画像ggと高解像度画像jとを加算し、加算画像gjk−1を得る。この加算画像gjk−1に対し、補間処理により逆変換画像ggk−2を生成し、これに高解像度画像jk−1を加算して加算画像gjk−2を得る。
【0084】
このような処理を繰り返し、最高解像度を有する高解像度画像jとの加算により得られた加算画像jkを周波数強調処理による処理画像として出力する。
【0085】
ここで、ある幅A(μm)以下の構造物の視認に必要な空間周波数F(lp/mm)は、F≧500/Aでなければならない。拡大撮影では、画像検出器31上の被写体幅Aは、被写体サイズrに拡大率Mを乗算してボケ幅Bを加えたA=r×M+Bとなる。径が0.05≦s≦10のアスベストはその最大サイズが10(μm)であることから、A=10M+Bで表されるので、アスベストの視認に必要な空間周波数Fは、F=500/(10M+B)である。
従って、出力画像におけるアスベストの視認性を高めるため、上記周波数強調を行う際には空間周波数F=500/(10M+B)以上の高解像度画像jについて強調処理を行う。
【0086】
以上のようにして、得られた処理画像は画像処理装置20から画像サーバ40に送信され、画像サーバ40において画像DB40aに保存される。画像DB40aに保存された処理画像は、表示装置50からの要求に応じて表示装置50に出力される場合と、フィルム出力装置30に出力される場合がある。
【実施例】
【0087】
X線画像システムにおいて下記の実験条件により拡大撮影を行い、得られた拡大画像をフィルムに出力した出力画像について視覚評価を行った。
〈実験条件〉
被写体は、直径5(μm)のガラスウールを厚さ5cmのアクリル板に貼り付け、これを胸部中のアスベストの模擬ファントムとして使用した。
X線管球は、コニカミノルタ社で試作したものを用い、焦点径D=10(μm)のものを使用した。撮影装置についても同社製の試作器を用いた。
また、画像検出器は同社製の蛍光体プレートであるレジウスプレートRP−5PM及びレジウスカセッテRC−110Mを用いた。
上記画像検出器により検出された拡大画像の読取は、コニカミノルタ社製Regius model 190により読み取った。この読取装置は、読取画素サイズを43.75又は87.5(μm)に切り替えることが可能である。
フィルム出力装置は、同社製のDRYPRO model 793を用いて、書込画素サイズ25(μm)でフィルムに出力した。このとき、出力対象画像の各画素と出力画像の各画素を1:1に対応させて補間処理を行わずに出力した。
【0088】
〈撮影条件〉
撮影時のX線管の管電圧は65(kVp)、80(kVp)であり、管電流は1(mA)である。
また、X線管の焦点から画像検出器までの距離R3は、R3=R1+R2=3.5(m)で固定し、距離R1、R2をそれぞれ2≧R1≧0.07、3.43≧R2≧1.5の範囲で可変して拡大率Mが1≦M≦50となる範囲で撮影を行った。
このときの撮影条件とその条件によって生じたボケBの測定結果を下記表2に示す。各撮影条件を識別するため、撮影条件No.を付与している。これら各撮影条件は、拡大による視認性向上の度合い、ボケ増大によるアスベスト辺縁の視認性劣化の度合い、エッジ強調効果の度合いが異ならせるものとなっている。
【表2】

【0089】
〈画像処理条件〉
撮影により得られた拡大画像に対し、階調変換処理、周波数強調処理を施した処理画像と、未処理のままの拡大画像とを作成し、これらを上記フィルム出力装置により出力した。処理を施したものについては、階調変換処理ではG値を、周波数強調処理では強調する周波数帯域をそれぞれ変化させている。
【0090】
〈評価基準〉
フィルム上に出力形成された拡大画像の評価基準は以下の通りである。
◎:繊維一本のそれぞれを鮮明に認識することが可能。
○:繊維数本のまとまりを認識することが可能。
△:繊維の塊があることが分かる。
×:繊維が視認できない。
なお、上記評価において、繊維を認識できる本数は比較例と変わりないが、繊維の見え方がより鮮明である場合には「+」の符号を付している。
上記の評価基準に従って、7人の画像評価者がフィルム上の画像を観察し、被写体となったガラスウール繊維の画像について評価を行った。
【0091】
〈実施例1〜7の評価結果〉
上記No.1〜9の撮影条件で撮影を行い、読取画素サイズ43.75(μm)で生成された拡大画像に対して階調変換処理のみを施した場合(実施例1〜3)、周波数強調処理のみを施した場合(実施例4〜7)の画像評価結果を下記表3に示す。実施例1〜3はそれぞれ10、20、50のG値で階調変換処理を施したものであり、実施例4〜7はそれぞれ0.1以上、1以上、1.28以上、2以上の周波数帯域に強調処理を施したものである。これに対し、比較例として4.89のG値で階調変換処理のみを施した画像を用意した。
【表3】

【0092】
表3に示す評価結果から、比較例1及び実施例1〜7に共通してP≦5Mを満たし、かつ拡大率Mが10≦M≦40を満たす条件4〜8のとき、被写体の繊維を視認できる良好な結果となっている。また、比較例1と実施例1〜3を比較すると、G値を20以上とすることにより繊維を細かく識別することができるまで視認性が向上していることが分かる。これは、G値を調整してコントラストを大きくしたことによるものと考えられる。
【0093】
比較例1と実施例4、5では、画像の評価に違いが見られないが、500/(10M+B)以上の周波数帯域に対して強調処理を行った実施例6、7では、特に条件5〜7のときに最良の結果が得られており、鮮明に繊維を確認できる画質となっている。
【0094】
また、最も良い評価がなされている実施例2、3と実施例6、7とを比較すると、G値を制御してコントラストを調整した画像の方が全体的に良い評価が得られることが分かる。
【0095】
〈実施例8〜12〉
上記No.1〜9の撮影条件で撮影を行い、読取画素サイズ87.5(μm)で生成された拡大画像に対して階調変換処理のみを施した場合(実施例8、9)、周波数強調処理のみを施した場合(実施例10〜12)の画像評価結果を下記表4に示す。実施例8、9はそれぞれ10、20のG値で階調変換処理を施したものであり、実施例10〜12はそれぞれ0.1以上、1.28以上、2以上の周波数帯域に強調処理を施したものである。これに対し、比較例として4.89のG値で階調変換処理のみを施した画像を用意した。
【表4】

【0096】
表4に示す評価結果から、比較例2及び実施例8〜12に共通して2×P≦5Mを満たし、かつ拡大率Mが10≦M≦40を満たす条件6〜8のとき、被写体の繊維を視認できる良好な結果となっている。
また、比較例2と実施例8、9とを比較すると、G値20以上の階調変換処理を行った実施例9の方が良好な結果となっている。また、500/(10M+B)以上の周波数帯域に対して強調処理を行った実施例11、12では、比較例2と比較するとおおむねの評価は変わらないが、繊維の束が識別可能な程度に鮮明となっていることが分かる。
【0097】
〈実施例13〜18〉
上記No.1〜9の撮影条件で撮影を行い、読取画素サイズ43.75(μm)で生成された拡大画像に対して階調変換処理及び周波数強調処理を組み合わせて施した場合(実施例13〜18)の画像評価結果を下記表5に示す。実施例13〜15はG値10で、実施例16〜18はG値20で階調変換処理を施したものであり、それぞれ強調する周波数帯域を0.1以上、1.28以上、2以上と可変させたものである。これに対し、比較例として4.89のG値で階調変換処理のみを施した画像を用意した。
【表5】

【0098】
表5に示す評価結果から、比較例3及び実施例13〜18に共通してP≦5Mを満たし、かつ拡大率Mが10≦M≦40を満たす条件4〜8のとき、被写体の繊維を視認できる良好な結果となっていることが分かる。また、比較例3と実施例13〜15との比較から、G値10以上とすることにより拡大率がやや小さい場合や逆に拡大率が大きくボケの割合も大きくなる場合であっても繊維を視認しやすい画質となることが分かる。階調変換処理に加え、500/(10M+B)以上の周波数帯域に対して強調処理を行った実施例14、15では、繊維の構造物が鮮明な画質が得られている。
【0099】
実施例16〜18では、G値20としてコントラストを大きくすることにより、一本の繊維を識別可能な画質が得られることが分かる。また、実施例14,15と同様に、500/(10M+B)以上の周波数帯域に対して強調処理を行った実施例17、18では鮮鋭性も向上している。
【0100】
〈実施例19〜24〉
上記No.1〜9の撮影条件で撮影を行い、読取画素サイズ87.5(μm)で生成された拡大画像に対して階調変換処理及び周波数強調処理を組み合わせて施した場合(実施例19〜24)の画像評価結果を下記表6に示す。実施例19〜21はG値10で、実施例22〜24はG値20で階調変換処理を施したものであり、それぞれ強調する周波数帯域を0.1以上、1.28以上、2以上と可変させたものである。これに対し、比較例として4.89のG値で階調変換処理のみを施した画像を用意した。
【表6】

【0101】
表6に示す評価結果から、比較例4及び実施例19〜24に共通して2×P≦5Mを満たし、かつ拡大率Mが10≦M≦40を満たす条件6〜8のとき、被写体の繊維を視認できる良好な結果となっている。
また、比較例4と実施例19では評価に違いが見られないが、実施例20、21から、階調変換処理に加え、500/(10M+B)以上の周波数帯域に対して周波数強調処理を行うことにより、繊維の構造物が鮮明な画質が得られることが分かる。
【0102】
G値20で階調変換処理を行った実施例22〜24では、G値10の実施例19〜21より良い評価が得られている。コントラストを大きくすることにより、繊維の視認性が向上したものと考えられる。これにさらに500/(10M+B)以上の周波数帯域に対して強調処理を行うことにより、鮮鋭性が高まることが実施例23、24から確認できる。
【0103】
なお、被写体のガラスウール繊維の直径を0.05〜10(μm)まで一定値毎に段階的に変化させて同様の実験を行った場合も上記表3〜6に示した評価と同様の結果が得られた。
また、上記評価では焦点径D=30(μm)の場合の実験のみ示しているが、X線源は点線源に近いほどボケBが小さくなるので、焦点径Dは限りなく小さいものが良い。
【0104】
以上のように、本実施形態によれば、X線管の焦点径Dを1≦D≦30とし、拡大率Mを10≦M≦40とする拡大撮影を行い、得られた拡大画像についてG値20以上とする階調変換処理及び/又は500/(10M+B)以上の周波数帯域に対して周波数強調処理を施すことにより、0.05≦s≦10と非常に微小なアスベストを視認可能な高画質の拡大画像を得ることができる。
【0105】
さらに、拡大画像データの生成単位Pを、P≦s×Mを満たすように選択することにより、アスベスト部分の信号の検出性を向上させることができ、出力画像におけるアスベストの視認性が向上する。また、2P≦s×Mとすることによりアスベスト部分の信号検出精度を向上させることができ、より視認性の高い出力画像を得ることが可能となる。
【0106】
また、撮影室内の広さを考慮して、X線管の焦点から画像検出器までの距離R3を、3≦R3≦5の範囲内で固定し、その固定された距離R3の中で距離R1,R2を可変して拡大率Mを調整している、よって、限られた室内の中で拡大率Mを10≦M≦40と比較的大きい拡大率Mに調整することが可能となる。
【0107】
なお、本件のような信号処理を行った場合、肺野等の人体構造物は一様に黒くつぶれ(最高濃度Dmaxに該当する)、骨部は白くつぶれる(Dminiに想到する)ため、アスベストが吸飲されていた場合、黒くつぶれた背景部に所定濃度のアスベスト部が散在するパターンとなる。これは、乳房画像において、背景となる高濃度の乳房部に数100μm前後の微小石灰化クラスタが存在するケースに類似するパターンとなる。乳房画像では、特開平10−91758号公報等に記載されているように、このようなパターンについて濃度勾配を算出し、その算出結果から微小石灰化クラスタ部分を自動検出することが行われている。このような手法をアスベストの場合にも適用することは可能であり、アスベスト部分を異常陰影として自動検出することができる。
【0108】
また、G値20以上で処理した処理画像により読影を行った後、アスベストが吸飲されていたと診断された場合、再度元の読取信号を用いてスクリーン/フィルム方式で培われたG値で階調変換処理(式(4)によりG値を算出する通常の階調変換処理)を行い、画像出力することで、アスベストに起因する疾病の進行状況を確認でき、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本実施形態におけるX線画像システムの構成を示す図である。
【図2】図1の撮影装置を示す図である。
【図3】拡大撮影について説明する図である。
【図4】拡大撮影によるエッジ効果について説明する図である。
【図5】エッジ効果におけるエッジ強度とボケの関係を示す図である。
【図6】拡大撮影においてボケが生じる場合について説明する図である。
【図7】図1の画像処理装置の内部構成を示す図である。
【図8】画像処理装置における画像処理の流れを説明する図である。
【図9】目標とする階調変換特性を示す図である。
【図10】階調変換処理時の信号値の変換の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0110】
100 X線画像システム
10 撮影装置
20 画像処理装置
30 フィルム出力装置
40 画像サーバ
50 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管と当該X線管から照射されたX線を検出する画像検出器とを用いて拡大率M(ただし、前記X線管の焦点から前記被写体までの距離R1、前記X線管の焦点から前記画像検出器までの距離をR3としたとき、拡大率M=R3/R1とする。)の拡大撮影を行う撮影手段と、前記画像検出器により検出されたX線量に応じて生成単位PでX線画像のデジタルデータを生成する画像生成手段と、前記生成されたX線画像に階調変換処理を施す階調変換処理手段とを備えたX線画像システムにおいて、
前記撮影手段により径s(μm)が0.05≦s≦10のアスベストを撮影する際に、前記X線管の焦点径D(μm)を1≦D≦30、前記拡大率Mを10≦M≦40とし、
前記階調変換処理に係るコントラストのパラメータG値を20以上とすることを特徴とするX線画像システム。
【請求項2】
X線管と当該X線管から照射されたX線を検出する画像検出器とを用いて拡大率M(ただし、前記X線管の焦点から前記被写体までの距離R1、前記X線管の焦点から前記画像検出器までの距離をR3としたとき、拡大率M=R3/R1とする。)の拡大撮影を行う撮影手段と、前記画像検出器により検出されたX線量に応じて生成単位PでX線画像のデジタルデータを生成する画像生成手段と、前記生成されたX線画像に階調変換処理を施す階調変換処理手段とを備えたX線画像システムにおいて、
前記撮影手段により径s(μm)が0.05≦s≦10のアスベストを撮影する際に、前記X線管の焦点径D(μm)を1≦D≦30、前記拡大率Mを10≦M≦40とし、
前記画像生成手段における生成単位PをP≦s×Mとし、
前記階調変換処理に係るコントラストのパラメータG値を20以上とすることを特徴とするX線画像システム。
【請求項3】
前記画像生成手段における生成単位Pを2P≦s×Mとすることを特徴とする請求項2に記載のX線画像システム。
【請求項4】
前記階調変換処理が施された処理画像に、500/(10M+B)以上の周波数帯域(lp/mm)を強調する周波数強調処理を施す周波数強調処理手段を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のX線画像システム。
【請求項5】
前記X線管の焦点から前記画像検出器までの距離R3(m)を、3≦R3≦5とすることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のX線画像システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−143847(P2007−143847A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342160(P2005−342160)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】