説明

X線管

X線管は、ハウジング10内の、陰極12の形態の電子源及び陽極14を備える。陽極14は薄膜陽極であるため、陽極14と相互作用してX線を生成しない電子のほとんどは、陽極14を直接通過する。X線は、陽極14の真後ろにある第1窓16又は陽極の一方の側にある第2窓18を通して収集されることができる。減速電極20は、陽極4の後ろに位置し、陽極14に対しては負であり、且つ、陰極12に対してはわずかに正である電位に保持される。この減速電極20は、電子が減速電極と相互作用する時に電子が比較的低いエネルギーにあるように、陽極14を通過する電子を減速させる電界を生成する。これにより、管に対する熱負荷が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線管に関し、特に、管ハウジング内で生成される熱量の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電子放出器と、電子放出器に対して正電位(たとえば、100kV)に保持される金属陽極とを備えるX線管を設けることが知られている。放出器からの電子は、電界の影響下で陽極の方に加速される。陽極に達すると、電子は、陽極に対してその運動エネルギーの一部又は全てを失い、このエネルギーの99%以上が熱として放出される。この熱を除去するために、陽極の細心の設計が必要とされる。
【0003】
低い初期エネルギーで陽極から後方散乱する電子は、その運動エネルギーがゼロに低下するまで、電子源の方に電位線を戻って行く。電子は、その後、陽極の方に戻るよう加速され、その運動エネルギーが、さらなる熱(すなわち、X線)の生成を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より高いエネルギーの陽極から散乱する電子は、陽極で終わる電位線を脱出し、管ハウジングの方へ進み始める可能性がある。ほとんどのX線管では、電子は、高い運動エネルギーを持って、ハウジングに達する可能性があり、結果として生じるハウジングの局所加熱によって、管の故障の可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、電子源を設けるように構成される陰極と、陰極に対して正電位に保持される陽極であって、陰極からの電子を、陽極に衝当するように加速し、それによって、X線を生成するように構成される陽極と、減速電極であって、陽極に対して負電位に保持され、それによって、陽極と減速電極の間に電界を生成し、電界は、陽極から散乱した電子を減速させ、それによって、電子が管内で生成し得る熱量を減少させることができる減速電極とを備えるX線管を提供する。
【0006】
好ましくは、減速電極は、陰極に対して正電位に保持される。
【0007】
好ましくは、減速電極は、減速電極によって収集される電子が、減速電極から伝導することができるように電気回路の一部を形成し、それによって、減速電極の電位をほぼ一定に維持する。
【0008】
X線管は、陽極及び陰極を閉囲するハウジングを含んでもよく、ハウジングの少なくとも一部は、減速電極を形成してもよい。代替的に、減速電極は、陽極とハウジングの間に位置し、それによって、電子がハウジングに達する前に電子を減速させてもよい。
【0009】
陽極は、好ましくは、陽極より小さい原子番号の裏材層上に支持される。好ましくは、陽極は、約5ミクロン以下の厚みを有する。
【0010】
本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照すると、X線管は、陰極12の形態の電子源及び薄膜陽極14を閉囲するハウジング10を備える。陽極は、小さい原子番号の材料、この場合、ボロンの裏材14b上に支持された、大きな原子番号のターゲット材料、この場合、タングステンの薄膜14aを備える。熱伝導性が高く電子と相互作用する確率が低いため、ボロンが適しており、両方とも、陽極14における熱の蓄積を減少するのに役立つ。タングステンの薄膜14aは0.1〜5ミクロンの厚みを有してもよく、裏材14bは10〜200ミクロンの厚みを有する。陰極12と陽極14は、陰極12を陽極14に対して一定の負電位、この場合、−100kVに維持する電気回路15内に接続される。これは、陽極を一定の正電位に、且つ陰極を一定の負電位か接地電位のいずれかに保持することによって達成される。ハウジング10は、陽極に対して陰極とは反対側に、ハウジングを貫通する第1窓16、及び、陽極14と陰極12の間の一方の側に第2窓18を有する。ハウジング10内には、陽極14と第1窓16の間、すなわち、陽極14に対して陰極12とは反対側に、減速電極20も位置する。減速電極は、薄膜陽極14及び第1窓16にほぼ平行に延びる、100〜500ミクロンの厚みを有するステンレス鋼箔のシートの形態である。モリブデンシートも使用される可能性がある。減速電極20もまた、電気回路内に接続され、陰極12に対して正であるが、陽極14よりずっと小さい一定電位(この場合、陰極に対して10kVである)に保持される。
【0012】
使用時、陰極12で生成された電子11は、陰極12と陽極14の間の電界によって陽極14の方へ電子ビーム13として加速される。一部の電子11は、光電効果によって陽極14と相互作用して、X線15が生成され、X線は、入射電子ビーム13と平行な方向において第1窓16を通して、又は、入射電子ビーム13の方向にほぼ垂直な方向において第2窓18を通して収集される可能性がある。X線は、実際には、陽極からほぼ全方向に放出されるため、窓16、18から離れた全てのエリアにおいて、ハウジング10によって遮蔽される必要がある。
【0013】
電子は、エネルギーが大きくなればなるほど、光電効果によって陽極14と相互作用する可能性が高くなる。その結果、任意の電子と陽極14の最初の相互作用は、蛍光光子を生じる可能性が最も高い相互作用である。ターゲットで散乱する電子は、制動放射X線光子を生成する可能性があるが、その光子は、通常、(特に、タングステン等の大きな原子番号のターゲットからの)蛍光光子よりエネルギーが小さいであろう。したがって、ほとんどのイメージング用途については、光電相互作用から生じるX線が好ましい。
【0014】
モンテカルロの考察を利用して、実質的に全ての蛍光光子が、ターゲット14での最初の電子相互作用から生じることを示すことが可能である。最初の相互作用が蛍光光子をもたらさない場合、その後の任意の相互作用が蛍光光子をもたらすことになる可能性は非常に小さい。タングステン等の大きな原子番号の材料では、最初の電子相互作用は、通常、陽極表面の非常に近くで、たとえば、表面の1ミクロン以内で起こる。したがって、蛍光放射と制動放射の比を最大にするために薄いターゲット14を使用することが有利である。さらに、そのような薄いターゲット14において消費される熱は低い。
【0015】
薄いターゲット14内で相互作用しない電子は通常、電子源12からターゲット14に入る時にビーム13で描いていたのと同じ直線軌道を進み続けることになる。陽極14を通過する電子は、陽極14と減速電極20の間の電位によって生じる、陽極14の背後の領域の電界強度によって抑制されるため、減速するであろう。電子が、減速電極20において相互作用する時、電子は、低い運動エネルギーを有し、その結果、ほんのわずかの熱エネルギーが電極に堆積する。付加的な電極が電子源12に対して10kVの電位にあるが、陽極14が電子源12に対して100kVにあるこの実施形態では、X線管における総熱電力消費は、従来の厚みのターゲットX線源の電力消費の約10%になるであろう。
【0016】
窓16を通過するX線はまた、減速電極20を通過しなければならない。この場合、減速電極20は、陽極14で生成されるX線をできる限り少なく遮蔽することを確実にすることが重要である。図1aを参照すると、減速電極20のX線減衰係数μは、全体的にX線エネルギーが増加するに伴い減少するが、急激な不連続部を有し、X線減衰係数μは、減少し続ける前に急激に増加する。これによって、不連続部よりわずかに小さいエネルギーにおいて最小減衰の領域が生じる。図1bを参照すると、陽極で生成されるX線のエネルギーは、放射の制動放射成分により、エネルギーが増加するに伴って着実に減少するが、蛍光X線の生成に対応するピークエネルギーで急激なピークを有する。減速電極20を通過する蛍光X線の比率を最大にするために、減速電極における最小減衰のエネルギーは、ピークX線エネルギーに対応するように選択される。たとえば、Kα1=59.3keV及びKα2=57.98keVのエネルギーで蛍光X線を生成するタングステンターゲットを用いる場合、59.7keV及び61.1keVで吸収エッジを有し、したがって、59.3keVのエネルギーでX線に対してほぼ透明であり、57.98keVのエネルギーでX線に対して透明の程度が小さいレニウム減速電極を使用することができる。
【0017】
図2を参照すると、本発明の第2の実施形態では、陰極112及び陽極114は、電子ビーム113が、所定の視射角で陽極114と相互作用するように構成される。このタイプの構成では、陽極114に堆積するエネルギーは、従来の反射型陽極X線管に比べてかなり減る。モンテカルロモデリングを使用すると、この幾何形状の使用によって、X線出力がほとんど影響を受けないことを示すことができる。しかしながら、前方向に陽極114を脱出する電子の数は大きい。したがって、管ハウジング110内に堆積した熱エネルギーが許容レベルまで減少するよう前方向に向いた散乱電子を減速するために、減速電極120が設けられる。この配置構成のX線は、第1窓116であって、X線が、窓116に達するために減速電極120を通過しなければならないように減速電極120の背後にある、第1窓116、又は、ハウジング110の陽極114に面する側の第2窓118を通して収集されることができる。第1の実施形態と同様に、ハウジング110は、窓116、118を通る以外の方向に放出されるX線を遮蔽する。
【0018】
図3を参照すると、本発明の第3の実施形態では、電子源212からの電子ビーム213は、通常の反射陽極214を照射するのに使用される。ここで、陽極214及び電子源212は、減速電極220によって閉囲される。この実施形態では、減速電極220は、金属箔で構成されるが、導電性メッシュも同様に使用される可能性がある。減速電極220は、陽極214に対しては負電位に保持されるが、電子源212に対しては正電位に保持される。やはり、陽極214からの高エネルギー散乱電子は、陽極214と減速電極220の間の電界において減速されることになり、したがって、X線管の総熱負荷が減少する。
【0019】
減速電極220の電位を設定するために、減速電極220は、管内で、全ての要素から電気絶縁され、その後、抵抗器Rによって陽極214の電位+HVに接続される。電子が減速電極220に達すると、電流Iが、陽極電源に戻るように抵抗器Rを通って流れ、電極の電位は、陽極に対して負に減少することになる。この状況で、減速電極の電位は、管の動作特性によって影響を受け、或る程度、自己調整することになる。こうした手法は、図1及び図2に示す減速電極についても使用される可能性がある。
【0020】
図4を参照すると、本発明の第4の実施形態では、X線管の全体の容器310は、容器を導電性材料で作り、X線管容器310の電位を電子源312に対してわずかに正に固定することによって、減速電極320として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態によるX線管の図である。
【図1a】図1の管の減速電極の減衰特性を示すグラフである。
【図1b】図1の管の陽極によって生成されるX線のエネルギーを示すグラフである。
【図2】本発明の第2の実施形態によるX線管の図である。
【図3】本発明の第3の実施形態によるX線管の図である。
【図4】本発明の第4の実施形態によるX線管の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源を設けるように構成される陰極と、該陰極に対して正電位に保持される陽極と、減速電極とを備えた透過型ターゲットX線管であって、前記陽極には陰極からの電子が衝当して加速しそれによってX線が生成され、前記陽極は薄膜であり、前記減速電極は前記陽極に対して負電位に保持され、それによって、前記陽極と該減速電極の間に電界が生成され、該電界は、前記陽極を通過した電子を減速させ、それによって、前記電子が管内で生成し得る熱量を減少させ、前記減速電極は前記陽極に対して前記陰極とは反対側に位置する透過型ターゲットX線管。
【請求項2】
前記減速電極は前記陰極に対して正電位に保持される請求項1に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項3】
前記減速電極は導電性材料にて形成されている請求項1又は2に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項4】
前記減速電極は、該減速電極によって収集される電子が、前記減速電極から伝導することができるように電気回路の一部を形成し、それによって、前記減速電極の電位をほぼ一定に維持する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項5】
前記減速電極は、抵抗器を介して前記陽極に電気接続され、前記抵抗器を通って流れる電流が、前記陽極に対する前記減速電極の電位を決定する、請求項4に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項6】
前記陽極及び前記陰極を閉囲するハウジングが設けられ、該ハウジングの少なくとも一部が前記減速電極を形成する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項7】
ハウジングをさらに備え、前記減速電極は、前記陽極と該ハウジングの間に位置し、それによって、電子が前記ハウジングに達する前に該電子を減速させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項8】
前記陽極は、該陽極より小さい原子番号の裏材層上に支持される、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項9】
前記陽極は、約5ミクロン以下の厚みを有する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項10】
X線が放出されるべき窓が画成され、前記減速電極は前記陽極と前記窓の間に延び、前記窓を通過したX線が前記減速電極を通過する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項11】
前記陽極は、ピークエネルギーを含むエネルギー範囲を有するX線を生成するように構成され、前記減速電極は、X線エネルギーによって変わり、且つ最小減衰エネルギーの周りに最小値を有するX線減衰を有し、前記減速電極材料は、前記最小減衰エネルギーが前記ピークエネルギーと一致するように選択される、請求項10に記載の透過型ターゲットX線管。
【請求項12】
実質的に添付図面の図1、図1a及び図1b、図2、図3又は図4に示される構成に関する透過型ターゲットX線管。

【図1】
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【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−524891(P2006−524891A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506164(P2006−506164)
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001731
【国際公開番号】WO2004/097886
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(505396110)シーエックスアール リミテッド (16)