説明

X線装置およびラジオグラフィX線撮影システム

【課題】高い放射強度および可能な限り大きな照射範囲を有する可能な限り準単色のX線を発生させる。
【解決手段】検査対象に照射するための準単色X線を発生するために、多色X線5を放射するための点状のX線源2と、多色X線5を回折させるための回折装置とが設けられ、回折装置が、結晶材料からなり平らな表面12を備えたスーパーミラー1を有し、そのスーパーミラー1において結晶材料が結晶格子の格子面間隔の少なくとも1つの連続的な変化を有し、X線源2および回折装置は、多色X線5の一部からスーパーミラー1でのブラッグ反射によって準単色X線が発生されるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、準単色X線を発生するためのX線装置ならびに医用ラジオグラフィX線撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線に基づく医用画像化用のX線システムは、従来技術によれば次の構成を有する。X線装置内の点状のX線源(電子ビームによって陽極に生ぜしめられる制動放射)が多色X線を放出する。この多色X線は、コリメータによって、特に制限された扇形に形成される。X線が、部分的に透視すべき検査対象を透過した後に、この検査対象が、空間分解能を有する画像受信器により撮影される。このようなX線システムを使用する際の主な効率損失は、存在する多色制動スペクトルによって生じる。各課題に対して、即ち、規定された背景および与えられたジオメトリの範囲内で特定の検査対象を画像化することに対して、患者線量とコントラストとノイズとの間の最適な妥協の結果としての最高の効率を有する量子エネルギーが存在することが知られている。従って、多色スペクトルがその都度の課題に対して余計な又は邪魔なスペクトル成分を含んでいることは避けがたい。最適な量子エネルギーに近いエネルギーは同様に非常に高い効率を有するので、良好な画質という課題を達成するためには、例えば約15keVの範囲に限定された少し広くばらついた量子エネルギー(準単色)を使用することで足りる。それに比べて、完全な単色X線はほんの僅かしか効率を高めない。
【0003】
理想的なX線システムにとって、同調可能な準単色の高性能のX線装置が前提である。しかし、多色スペクトルから準単色X線ビームを作り出すことは厄介である。かかるX線を近似的に得る普通の方法は、公知のX線源により発生された多色X線を、結晶でのブラッグ反射(図2参照)を介して回折させることである。もちろん、このような方法は、常に、スペクトル方向においても空間方向においても非常に大きな放射強度損失を含む。この理由から、従来技術に基づくこの種のX線装置は、とりわけ大きくて厚い組織層を透視する場合に使用できないか、又はいわゆるスキャン撮影しか実施できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、高い放射強度と可能な限り大きな照射範囲とを有する可能な限り準単色X線を発生させることを保証するX線装置および医用ラジオグラフィX線撮影システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
X線装置に関する課題は、本発明によれば、検査対象に照射するための準単色X線を発生するためのX線装置であって、
多色X線を放射するための点状のX線源と、多色X線を回折させるための回折装置とを備え、
回折装置が、結晶材料からなり平らな表面を備えたスーパーミラーを有し、そのスーパーミラーにおいて結晶材料が結晶格子の格子面間隔の少なくとも1つの連続的な変化を有し、
X線源および回折装置は、多色X線の一部からスーパーミラーでのブラッグ反射によって準単色X線が発生されるように配置されていることによって解決される(請求項1)。
X線装置に関する本発明の実施態様は次の通りでる。
・結晶材料が、表面に沿った少なくとも1つの方向に格子面間隔の連続的な変化を有する(請求項2)。
・結晶材料が、表面に対して垂直方向に格子面間隔の連続的な変化を有する(請求項3)。
・多色X線の他の部分が、透過および/または吸収される(請求項4)。
・準単色X線が、最小で40keVと最大で90keVとの間の量子エネルギーを有する(請求項5)。
・表面に沿った結晶格子の格子面間隔の変化、特に連続的な変化は、スーパーミラーがそれの表面上に格子面間隔の直線状の互いに平行な等位線を有するように形成されている(請求項6)。
・表面に沿った結晶格子の格子面間隔の変化、特に連続的な変化は、スーパーミラーがそれの表面上に格子面間隔の円弧状の等位線を有するように形成されている(請求項7)。
・スーパーミラーは、X線源に対して、等位線がスーパーミラーへのX線の中心ビームの投影に対して垂直であるように配置されている(請求項8)。
・スーパーミラーは、それの表面に対して垂直方向に位置調整可能であるように配置されている(請求項9)。
・スーパーミラーが、ニッケルと炭素との材料組合せ、又はモリブデンとケイ素との材料組合せ、又はタングステンとケイ素との材料組合せから形成されている(請求項10)。
・スーパーミラーの格子結晶が、最小で0.02nmと最大で0.25nmとの間の格子面間隔を有する(請求項11)。
・スーパーミラーの裏面が高吸収材料、特に鉛でコーティングされているか又は覆われている(請求項12)。
医用ラジオグラフィX線撮影装置に関する課題は、本発明によれば、医用ラジオグラフィX線撮影装置が、本発明による準単色X線を発生するためのX線装置とX線検出器とを有することによって解決される(請求項13)。
【0006】
本発明によるX線装置により、多色X線は、結晶格子の格子面間隔の特に連続的な変化(grading;グレーディング)を有するスーパーミラーでのブラッグ条件下の反射による回折によって、準単色X線に変換される。特にこの場合に、結晶材料は、表面に対して直角方向の格子面間隔の変化を有する。このいわゆる「局所的な」変化によってブラッグピークが幅を広げられて準単色X線が発生される。そのようにして発生された準単色X線の場合、放射強度は、公知のフィルタによって準単色に変換されるX線の場合よりも明らかに高い。この場合に、準単色X線とは、約15keVまでのエネルギー帯であると理解される。本発明のX線装置によってX線画像化時に患者線量当たりの成果つまり画質が明白に高められ、例えばラジオグラフィにおいては約3倍高められる。本発明によるX線装置によって比較的ごく僅かしかX線強度が失われないので、(非常に幅の狭いX線ビームが検査対象の上を移動させられるスキャン画像化と対比して)全体像のX線画像化を良好な画質で行なうことができる。更に量子エネルギーの必要に応じた可制御性が患者厚への露出パラメータの有利な適合化(「自動露出調整」)を可能にする。全体として、本発明によって、診断所見が簡単且つ確実になるようにX線画像化時の画質が高められるか、又は代わりに画質が同じままであるならば患者線量を低減することができる。表面に対して垂直方向の格子面間隔の変化は、例えば平均値を中心とするガウス分布を有するので、15keVまでのエネルギー帯を発生させることができる。しかし、変化の直線状又は他の連続的な分布を用いることもできる。結晶材料は例えば人工的に生成された結晶からなるとよい。
【0007】
本発明の実施態様によれば、結晶材料が表面に沿った少なくとも1つの方向に格子面間隔の連続的な変化を有することによって、特に一定のエネルギー選択を生じることができる。
【0008】
本発明の他の実施態様によれば、多色X線の反射された部分が、最小で40keVおよび最大で90keVを持つ量子エネルギー、特に50〜70keVを持つ量子エネルギーを有する。この範囲は、特にラジオグラフィでの、つまり身体部分および器官の個別撮影の際のX線画像化に好適である。この範囲から選択されたエネルギー帯は、例えば15keVまでの幅に広がっており、従って、例えば50keVから65keVまでの範囲に及んでいる。
【0009】
本発明の他の実施態様によれば、表面に沿った結晶格子の格子面間隔の変化、特に連続的な変化は、スーパーミラーがそれの表面上に格子面間隔の(共通な中心を持つ)円弧状の等位線を有するように形成されている。このように形成されたスーパーミラーは、適切な位置決めでエネルギー帯の格別に一様な反射を可能にし、それにより準単色X線の発生を可能にする。このようなスーパーミラーの表面は例えば矩形状に形成されるとよく、等位線はスーパーミラーの長手方向に対して垂直に延びているとよい。
【0010】
製造が特別に簡単でありながら準単色X線の発生に有効に適用可能であるスーパーミラーを製造するために有利には、表面に沿った結晶格子の格子面間隔の特に連続的な変化は、スーパーミラーがそれの表面上に格子面間隔の直線状の互いに平行な等位線を有するように形成されている。このようなスーパーミラーの表面は同様に例えば矩形状に形成されているとよく、等位線はスーパーミラーの長手方向に対して垂直に延びるとよい。
【0011】
本発明の他の実施態様によれば、スーパーミラーはX線源に対して、等位線が、スーパーミラーへのX線の中心ビームの投影に対して垂直であるように配置されている。これは、1次元に変化する格子面間隔を有するスーパーミラーの場合にも2次元に変化する格子面間隔を有するスーパーミラーの場合にも有利である。X線源をこのように位置決めするとX線の格別に効果的な反射が保証されるので、高い強度の準単色X線を発生させることができる。スーパーミラーが上述のように矩形状であり、且つ等位線が長手方向に対して垂直である場合には、X線の中心ビームの投影が長手方向に対して平行であると有利である。
【0012】
本発明の他の実施態様によれば、スーパーミラーは、それの表面に対して垂直方向に位置調整可能であるように配置されている。このようにして同一のスーパーミラーにより異なるエネルギー帯が選択されて反射される。それゆえ、X線画像化の際に種々の応用が可能である。
【0013】
有利には、スーパーミラーが、ニッケルと炭素との材料組合せ、又はモリブデンとケイ素との材料組合せ、又はタングステンとケイ素との材料組合せから形成されている。
【0014】
本発明の他の実施態様によれば、格子結晶が最小で0.02nmおよび最大で0.25nmである格子面間隔を有する。このようにして、必要に応じて、40keVと90keVとの間の量子エネルギーつまりエネルギー帯が反射される。
【0015】
多色X線の他の部分、従ってブラッグ反射により反射されない部分は、透過させられるか又は吸収されると好ましい。X線がX線装置の外部に存在する機器又は人に危害を加えるのを防止するために、スーパーミラー裏面が高吸収材料、特に鉛でコーティングされているか又は覆われている。このようにして、反射されないX線の全てが吸収される。鉛の代わりに、例えばタングステン又はモリブデンが使用されてもよい。
【0016】
更に、本発明は、準単色X線を発生するためのX線装置とX線検出器とを備えた医用ラジオグラフィX線撮影装置を含む。
【0017】
本発明において、「連続的な変化」とは、数学的な連続性基準を満たし、且つ跳躍を持たない変化関数であると理解される。それゆえ、この変化は、例えば直線状又は指数関数状であるとよい。
【0018】
以下において、図面に概略的に示された実施例に基づいて、本発明ならびに従属請求項による他の有利な実施態様を更に詳細に説明する。それによって本発明がこれらの実施例に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1はフィルタ有りおよびフィルタ無しの公知のX線源の量子エネルギーの特性図である。
【図2】図2は従来技術による格子でのブラッグ条件下のX線の反射の説明図である。
【図3】図3は格子面間隔の2次元変化を有するスーパーミラーに入射するX線の斜視図である。
【図4】図4は格子面間隔の2次元変化を有するスーパーミラーの断面図である。
【図5】図5は本発明による医用X線撮影システムの概略図である。
【図6】図6は格子面間隔の2次元変化を有するスーパーミラーの説明図である。
【図7】図7は格子面間隔の1次元変化を有するスーパーミラーの説明図である。
【図8】図8は表面に対して垂直方向の2つの位置で入射するX線を有するスーパーミラーの表面の側面図である。
【図9】図9は本発明によるX線装置に対比した公知のX線源の量子エネルギーの特性図である。
【図10】図10はスーパーミラーの第1の模範的装置の説明図である。
【図11】図11はスーパーミラーの第2の模範的装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は従来技術に基づく従来の多色X線源のX線制動スペクトルを示し、実線はフィルタリングされていないX線スペクトルを示し、破線および一点鎖線は銅フィルタによりフィルタリングされたX線スペクトルを示している。全てのX線スペクトルは、X線源の約100kVのほぼ同じ管電圧により発生されている。一点鎖線のX線スペクトルは破線の曲線よりも強いフィルタリングにより発生された。フィルタの使用によりX線スペクトルの低エネルギー部分が除去される。もちろん強度も激しく低減される。従って準単色X線を発生させた際に、ほぼ15keV以下のエネルギー帯に制限された量子エネルギーを有するX線が極めて僅かしか残らないので、全体像の撮影時には非常に薄い検査対象についてしか画像化が可能でない。X線スペクトルの最高エネルギーは管電圧によって決定される。
【0021】
図2にX線のいわゆるブラッグ反射が示されている。結晶材料の原子6が、一般に規則正しい固定の格子面間隔dを有する格子面7内に配置されている。入射角θにて入射するX線5は、X線5の波長λがちょうど次の条件、即ち、
nλ=2dsinθ
を満たす場合に反射される。ただし、nは任意の整数である。その他の波長は全て透過又は吸収される。
【0022】
本発明は、平らな表面を有する反射体により多色X線から準単色X線を発生させるためにブラッグ反射を利用する。この反射体は、表面に対して垂直方向の(「局所的な」)結晶格子の格子面間隔の連続的な変化と、これと同時に表面に沿った結晶格子の格子面間隔の連続的な変化とを有する。この反射体は、いわゆる多層スーパーミラー(multilayered supermirror)と呼ばれることもある。その表面に対して垂直方向の格子面間隔dの連続的な変化(grading;グレーディング)によって、ブッラグ反射により、唯一の波長のみならず、それぞれのX線ビームが入射するそれぞれの格子面間隔に応じた全範囲、即ちエネルギー帯も反射される。その表面に沿った変化によって、X線源が点状であり且つスーパーミラーの表面が平らである場合、X線の入射角が表面に沿って変化する際に、一定の反射エネルギー帯が保証されている。その表面に対して垂直方向の格子面間隔の変化は、例えば、X線の15keVまでのエネルギー帯が反射されるように形成されている。その変化は、例えば平均値を中心にガウス状に分布させられているとよく、その平均値は、例えば50keV又は70keVの反射エネルギーに相当する。(表面に対して垂直方向の)「局所的な」変化は、従来技術から、例えば望遠鏡の構成において公知である。
【0023】
図3に示されているように、表面に対して垂直方向の変化(図示されていない)のほかに、格子面間隔はスーパーミラー1の表面12に沿って変化する。スーパーミラー1の表面12が、例えば縦方向および横方向を有する矩形状に形成されている。その場合に、表面に沿った格子面間隔の変化は、円弧状の等位線15、つまり等しい格子面間隔を有する線が表面12の上に存在するように、連続的に形成されている。等位線15は、1つの代替案に従って、例えばスーパーミラー表面の平面内にある共通の中心を有する円周の一部として形成されていてもよい。この中心は、例えば縦方向(長手方向)においてスーパーミラーの第1の端部に又はその外側に置かれるとよい。この場合に、X線装置のX線源は、スーパーミラーの上方の1つの平面内における次のような位置、即ち、スーパーミラー表面の平面上への垂直な投影がちょうど前記円周の中心をさすような位置にあると好ましい。しかし、この幾何学的な配置構成に対して相違していてもよい。
【0024】
X線源2から放射されたX線によって形成されたX線ファンはスーパーミラー1上に入射面13を有する。入射面13の、X線源の近くにある第1の端部では、X線源から遠くにある第2の端部とは異なる格子面間隔、特にその第2の端部におけるよりも小さい格子面間隔が形成されている。特に、格子面間隔は入射面の第1の端部から第2の端部まで入射面に沿って連続的に大きくなるように変化する。表面に対して垂直方向の格子面間隔の図示されていない変化は準単色エネルギー帯を発生し、つまりブラッグピークの幅を広げる(図9参照)。これに対して、表面に沿った変化は常に同一のエネルギー帯が維持されたままであるようにする。図6には、スーパーミラー1の表面が平面図で示されており、連続的な変化の方向14は、スーパーミラー1の平面上へのX線源2の投影によって形成された中心16(図3参照)から出発して半径方向に延びている。
【0025】
図4には、図3のスーパーミラー1の第1の端部から第2の端部までの長手方向(図3では破線で示されている)の断面が示されている。更に、異なるX線が表面12上の異なる点に、それゆえに異なる格子面間隔で入射することが示されている。反射されたX線5.1は、表面12でのX線源2の鏡像によって生じる仮想のX線源8からX線が出発しているかのように進行する。X線源2と表面12の平面との間には、高さ間隔Hおよび長さ間隔Lが存在する。表面に対して垂直方向に存在する格子面間隔の変化はまたしても図示されていない。
【0026】
図7には本発明の他の構成が示されている。スーパーミラー1の製造を簡単にするために、表面に沿った格子面間隔の連続的な変化は、X線源の近くにある第1の端部からX線源の遠くにある第2の端部への方向14に向かって、等位線15がこの場合には直線状に且つ平行に形成されているように、形成されている。
【0027】
図9には、本発明による二重変化によりX線装置のX線スペクトルがどのよう見えるかが実線曲線にて示されている。これに対比させて、銅フィルタによりフィルタリングされた従来のX線源のX線スペクトルが破線で示されている。本発明によるX線装置により発生されるX線スペクトルは準単色であり、例えば10〜15keVの限定された量子エネルギー帯にわたって僅かの強度損失を有する明確な最大値を示す。その他のエネルギーは殆ど強度を持っていない。このような準単色X線スペクトルにより、1つのX線発射(1回限りの露出)による全領域のX線撮影を良好な目標どおりの画質で行なうことができる。
【0028】
図5には模範的にラジオグラフィX線撮影システム10が示されている。このラジオグラフィX線撮影システムは、多色X線源2とスーパーミラー1とを備えた本発明によるX線装置を有する。反射されたX線5.1が検査対象11を透過し、引続いてX線検出器3に入射する。X線装置は固定して又は移動可能に設置することができる。X線装置は、例えばX線検出器と一緒に保持装置、例えばCアームに配置されるとよい。例えば移動式のX線検出器を備えた他の装置も同様に可能である。
【0029】
X線画像の撮影中に多色X線源2とスーパーミラーとの間の配置は動かされない。しかし、2つの撮影の間では、十分に位置調整を行うことができる。本発明の実施態様によれば、スーパーミラーは結晶表面に対して垂直方向に移動可能であるように配置されている。この種の位置調整は選択された準単色エネルギー帯の変化を生じるので、この種の位置調整可能なX線装置により、スーパーミラーの交換なしにも、その都度異なるエネルギー帯を選択することができる。図8には、このような位置調整9と、入射するX線5の位置およびそれにともなう入射面の位置に対するその位置調整の影響とが示されている。この入射面の移動によってX線がその都度移動前とは異なった格子面間隔上に入射する。それによって移動前とは異なったエネルギー帯も反射される。例えばモータにより位置調整が自動制御できるように、位置調整装置が設けられているとよい。
【0030】
スーパーミラーは、例えばニッケルと炭素との材料組合せ、又はモリブデンとケイ素との材料組合せ、又はタングステンとケイ素との材料組合せから作ることができる。これらの材料は、簡単に、可変の格子面間隔で被着することができ、例えば堆積又は被膜することができる。この種の可変の格子面間隔を作成するために、例えば人工の結晶構造が作成される。この種の層を作るための例が、「1999年にコロラド州デンバー市で発行された刊行物Proceedings of SPIEの第3773巻の第107頁以降に掲載されたA.Ivan他著の論文“Design and optimization of multilayer coatings for hard x-ray mirrors”(ハードX線ミラーのための多層コーティングの設計および最適化)」から知られている。
【0031】
結晶格子の格子面間隔の形成は、最小で0.02nmから最大で0.25nmまでの間に形成するのが格別に有利である。なぜならば、このようにして40keVと90keVとの間の量子エネルギーを反射させることができるからである。
【0032】
スーパーミラーの裏面は例えば鉛でコーティングされるか又は覆われるとよい。このようにして、反射されないX線は吸収され、スーパーミラーの裏面で更に広がってそこで機器又は人に被害をもたすことはない。
【0033】
本発明の他の実施態様に従って、(約50keV〜100keVの標準的な管電圧に比べて)高い、100keVを超える例えば125keV〜150keVの管電圧(「高電圧管」)によって、特定エネルギーの量子数を増加させるとよい。なぜならば、X線装置の効率が改善されるからである。ただし、この増加の欠点は、ブラッグ式の周期性によって高次の量子も(2倍,3倍・・・のエネルギー、例えば50keVの場合に100keVおよび150keVも)反射されることにある。
【0034】
模範的なX線装置では、スーパーミラーが、30cmの長さと10cmの幅を有し、且つ0.05nmから0.22mmの間の格子面間隔を有する。X線の開度が両方向にそれぞれ7°であり、スーパーミラーの表面からのX線源の高さ間隔HがH=12mmであり、長さ間隔LがL=0であれば、入射面は図10に示されているように構成され、高さ間隔HがH=16.9mmであれば、入射面は図11に示されているように構成される。
【0035】
本発明によるX線装置により、性能、即ち使用される患者線量(患者当たりのX線線量)当たりの画質が明白に高められ、ラジオグラフィにおいては3倍まで高められる。本発明によって、X線強度は殆ど失われない。なおも十分に強度を維持するために、従来技術による装置の場合のようにスキャン方法によるX線撮影を行なうことが必ずしも必要ではない。更に、エネルギーの可制御性が、患者厚への露出パラメータの今日では通常の適合化(「自動露出調整」)を可能にする。
【0036】
本発明は次のように短く要約される。多色X線を放射するための点状のX線源と、結晶材料からなり平らな表面を備えたスーパーミラーを有し多色X線を回折させるための回折装置とを備え、検査対象に照射するための準単色X線を発生するためのX線装置が、高い放射強度を有する準単色X線のために設けられ、スーパーミラーにおいては結晶材料が結晶格子の格子面間隔の少なくとも1つの特に連続的な変化を有し、X線源および回折装置は、多色X線からスーパーミラーでの部分的反射によって準単色X線が発生されるように配置されている。表面に沿った少なくとも1つの方向における格子面間隔の連続的な変化も、表面に対して垂直な方向における格子面間隔の変化も用いられると好ましい。
【符号の説明】
【0037】
1 スーパーミラー
2 多色X線源
3 X線検出器
4 X線装置
5 X線
5.1 X線
6 原子
7 格子面
8 仮想X線源
9 位置調整
10 ラジオグラフィX線撮影装置
11 検査対象
12 表面
13 入射面
14 方向
15 等位線
16 中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象に照射するための準単色X線を発生するためのX線装置(4)であって、
多色X線(5)を放射するための点状のX線源(2)と、多色X線(5)を回折させるための回折装置とを備え、
回折装置が、結晶材料からなり平らな表面(12)を備えたスーパーミラー(1)を有し、そのスーパーミラー(1)において結晶材料が結晶格子の格子面間隔(d)の少なくとも1つの連続的な変化を有し、
X線源(2)および回折装置は、多色X線(5)の一部からスーパーミラー(1)でのブラッグ反射によって準単色X線(5.1)が発生されるように配置されている、X線装置。
【請求項2】
結晶材料が、表面(12)に沿った少なくとも1つの方向に格子面間隔(d)の連続的な変化を有する請求項1記載のX線装置。
【請求項3】
結晶材料が、表面(12)に対して垂直方向に格子面間隔(d)の連続的な変化を有する請求項1又は2記載のX線装置。
【請求項4】
多色X線(5)の他の部分が、透過または吸収される請求項1から3のいずれか1項に記載のX線装置。
【請求項5】
準単色X線(5.1)が、40keVと90keVとの間の量子エネルギーを有する請求項1から4のいずれか1項に記載のX線装置。
【請求項6】
表面に沿った結晶格子の格子面間隔(d)の連続的な変化は、スーパーミラー(1)がそれの表面(12)上に格子面間隔(d)の直線状の互いに平行な等位線(15)を有するように形成されている請求項2記載のX線装置。
【請求項7】
表面に沿った結晶格子の格子面間隔(d)の連続的な変化は、スーパーミラー(1)がそれの表面(12)上に格子面間隔(d)の円弧状の等位線(15)を有するように形成されている請求項2記載のX線装置。
【請求項8】
スーパーミラー(1)は、X線源(2)に対して、等位線(15)がスーパーミラー(1)へのX線の中心ビームの投影に対して垂直であるように配置されている請求項6又は7記載のX線装置。
【請求項9】
スーパーミラー(1)は、それの表面(12)に対して垂直方向に位置調整可能であるように配置されている請求項1から8のいずれか1項に記載のX線装置。
【請求項10】
スーパーミラー(1)が、ニッケルと炭素との材料組合せ、又はモリブデンとケイ素との材料組合せ、又はタングステンとケイ素との材料組合せから形成されている請求項1から9のいずれか1項に記載のX線装置。
【請求項11】
スーパーミラー(1)の格子結晶が、0.02nmと0.25nmとの間の格子面間隔(d)を有する請求項1から10のいずれか1項に記載のX線装置。
【請求項12】
スーパーミラー(1)の裏面が高吸収材料でコーティングされているか又は覆われている請求項1から11のいずれか1項に記載のX線装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の準単色X線(5.1)を発生するためのX線装置(4)とX線検出器(3)とを有する医用ラジオグラフィX線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−255174(P2011−255174A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119336(P2011−119336)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】