説明

X線診断装置およびX線診断用プログラム

【課題】サブトラクション処理して抽出された部分と、背景内の高コントラスト物と、背景内の低コントラスト物とを同時に観察することが可能なX線診断装置およびX線診断用プログラムを提供する。
【解決手段】サブトラクション画像作成部35は、X線検出器7の出力に基づいて取得したマスク画像と、X線検出器7の出力に基づいて取得したライブ画像とからサブトラクション処理してサブトラクション画像を作成する。このサブトラクション処理と並列に、ダイナミックレンジ圧縮画像作成部37は、マスク画像またはライブ画像のいずれか一方の画像を用いて、その画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行ってダイナミックレンジ圧縮画像を作成する。そして、合成画像作成部43は、サブトラクション画像とダイナミックレンジ圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルサブトラクション処理して抽出された部分の画像とその抽出された部分以外の情報である背景の画像とを重ねて表示させるX線診断装置およびX線診断用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のX線診断装置において、造影剤が注入された血管を鮮明に見るための撮影方法としてデジタルサブトラクション処理(DSA:digital subtraction angiography)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。DSA撮影では、造影剤が注入されていない画像であるマスク画像と、造影剤が注入された画像であるライブ画像と、を画像処理にて減算し、造影剤が注入された血管のみを抽出した画像であるDSA画像を作成することで、血管を容易に視認することができる。このとき、臓器や骨など血管以外の情報(以下、「背景」と略す)は、画像処理の減算により消されて見ることができない。
【0003】
しかしながら、診断においては、血管と背景の位置関係が重要となるときがある。ライブ画像には血管と背景の情報が両方存在して観察することができるが、一般的に背景に比べ血管のコントラストが低いことが多く、血管と背景とを同時に適正なコントラストで見ることは困難である。従来は、図6に示すように、まず、ライブ画像とマスク画像とでDSAを行い、DSA画像を作成する。このDSA画像に対してコントラスト調整を行い、血管のコントラストを強(高)めて、血管を強調させる。そして、DSA処理して抽出された血管の画像と、背景としてのマスク画像とを重ねて表示させている。この手法により、血管と背景を同時に容易に観察できる。
【0004】
なお、特許文献2には、コントラスト調整について開示されている。それによると、コントラスト調整は、診断したい部位と、その周囲の部位との明暗差を明確にする方向で行われる。コントラスト調整は、画像を表示する際の濃度値の幅を任意に設定するためのウィンドウ・ウィドゥス(ウィンドウ幅:WW)と、ウィンドウ・ウィドゥスの中心値を設定するためのウィンドウ・レベル(WL)と、の2つのパラメータを調整して行われる。
【0005】
また、引用文献3には、ダイナミックレンジ圧縮処理を画像に施す技術について開示されている。それによると、例えば、画像を多重解像度空間に変換することにより得られる複数の周波数帯域の画像のうち、最も低い周波数帯域の最低周波数帯域画像に対して、所定の処理を施す。そして、この処理が施された最低周波数帯域画像と他の周波数帯域の画像を逆多重化解像度変換することにより、画像の領域に応じたダイナミックレンジ圧縮処理が施された処理済画像を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−50379号公報
【特許文献2】特開平8−96125号公報
【特許文献3】特開平9−44656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、DSAして抽出された血管の画像と背景としてのマスク画像とを重ねて表示させることにより、血管と背景を同時に観察できる。しかしながら、背景内にある高コントラスト物(肺や横隔膜など)と、低コントラスト物(デバイス(カテーテル、ガイドワイヤ、バルーンまたはステント等)、腫瘍または骨の輪郭など)を同時に観察することは困難である。なお、高コントラスト物とは、他と比べて画素値の差が大きい部分を示す。例えば、肺はX線を透過しやすいので他の部分と比べて明るく、画素値の差が大きい。一方、低コントラスト物とは、他と比べて画素値の差が小さい部分を示す。
【0008】
すなわち、実際の使用では、血管と、同時に観察したい背景の注目する領域を選択し、その注目する領域に合わせてコントラスト調整を行い、DSAして抽出された血管の画像と背景としてマスク画像とを重ね合わせた合成画像を作成する必要があった。例えば、図7に従来の合成画像の一例を示す。この図7では、高コントラスト物の中で、比較的明るめの領域(中央右部)に合わせてコントラスト調整を行っている。そのため、暗い領域(中央上部)での血管走行の観察が困難である。すなわち、明るい領域に合わせると暗い領域が暗くなり過ぎて観察しにくくなり、暗い領域に合わせると明るい領域が明るくなり過ぎて観察しにくくなる。また、画像全体に合わせると、淡い灰色の領域が薄くなり観察しにくくなる。したがって、背景情報で注目していない領域については、その注目していない領域そのものや、そこを走行する血管の観察が困難になる。すなわち、従来は、血管と高コントラスト物、または血管と低コントラスト物のみと得られる画像情報が限定されている。そのため、操作者は、明るい領域と暗い領域と淡い灰色の領域とをそれぞれ観察しようとすると、それぞれの領域に合わせてコントラスト調整して、例えば画像を複数回印刷している。
【0009】
また、マスク画像およびライブ画像の一方または両方にダイナミックレンジ圧縮処理を行うと、偽像が発生する。また、それらを用いてDSA画像を作成すると、さらに偽像が発生するという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、サブトラクション処理して抽出された部分と、背景内の高コントラスト物と、背景内の低コントラスト物とを同時に観察することが可能なX線診断装置およびX線診断用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。すなわち、本発明に係るX線診断装置は、被検体にX線を照射するX線照射部と、被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器の出力に基づいて取得したマスク画像と前記X線検出器の出力に基づいて取得したライブ画像とをサブトラクション処理してサブトラクション画像を作成するサブトラクション画像作成部と、前記サブトラクション処理と並列に行われ、前記マスク画像または前記ライブ画像のいずれか一方の画像を用いて、その画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行ってダイナミックレンジ圧縮画像を作成するダイナミックレンジ圧縮画像作成部と、前記サブトラクション画像と前記ダイナミックレンジ圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する合成画像作成部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係るX線診断装置によれば、サブトラクション画像作成部は、X線検出器の出力に基づいて取得したマスク画像と、X線検出器の出力に基づいて取得したライブ画像とからサブトラクション処理してサブトラクション画像を作成する。このサブトラクション処理と並列に、ダイナミックレンジ圧縮画像作成部は、マスク画像またはライブ画像のいずれか一方の画像を用いて、その画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行ってダイナミックレンジ圧縮画像を作成する。そして、合成画像作成部は、サブトラクション画像とダイナミックレンジ圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する。
【0013】
ダイナミックレンジ圧縮画像作成部は、サブトラクション画像と重ねて合成される背景としてのマスク画像またはライブ画像のいずれか一方を用いて、その画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行っている。低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行うと、小さな領域(デバイス、腫瘍または骨の輪郭など)のコントラストをそのままの状態にして、大きな領域(肺や横隔膜など)のコントラストを小さくすることができる。これにより、全体的にコントラストを小さくすることができる。そのため、合成画像を作成した際に、サブトラクション処理して抽出された部分の画像と、背景内の低コントラスト物と、背景内の高コントラスト物とを同時に観察できるようになる。また、サブトラクション処理と並列にダイナミックレンジ圧縮処理を行っている。ダイナミックレンジ圧縮は、サブトラクション処理と別に行われるので、ダイナミックレンジ圧縮処理で生じる偽像は大きな問題とならなく、この偽像を考慮せずにサブトラクション処理して合成画像を作成することができる。
【0014】
すなわち、サブトラクション処理して抽出された部分と、背景内の高コントラスト物と、背景内の低コントラスト物とを同時に観察することができ、従来よりも得られる情報量の多い合成画像を取得することができる。
【0015】
また、本発明に係るX線診断装置の一例は、前記マスク画像は、造影剤が注入されていない画像であり、前記ライブ画像は、造影剤が注入された画像であることである。これにより、サブトラクション画像作成部は、造影剤が注入されていないマスク画像と、造影剤が注入されたライブ画像とから、例えば血管のような、造影剤が注入された部分を抽出した画像を取得することができる。
【0016】
また、本発明に係るX線診断装置は、前記サブトラクション画像のサブトラクション処理して抽出された部分を強調させる第1コントラスト調整部を備えていることが好ましい。これにより、サブトラクション画像とダイナミックレンジ圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する際に、抽出された部分が強調されたサブトラクション画像を与えることができる。
【0017】
また、本発明に係るX線診断装置は、作成された前記ダイナミックレンジ圧縮画像のコントラストを調整する第2コントラスト調整部を備えていることが好ましい。これにより、背景として用いられるダイナミックレンジ圧縮画像のコントラストが調整され、サブトラクション処理して抽出された部分と区別されて、合成画像を作成することができる。
【0018】
また、本発明に係るX線診断用プログラムは、被検体を透過したX線を検出するX線検出器の出力に基づいて取得したマスク画像と前記X線検出器の出力に基づいて取得したライブ画像とをサブトラクション処理してサブトラクション画像を作成する工程と、前記サブトラクション処理と並列に行われ、前記マスク画像または前記ライブ画像のいずれか一方の画像を用いて、その画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行ってダイナミックレンジ圧縮画像を作成する工程と、前記サブトラクション画像と前記ダイナミックレンジ圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する工程と、を備え、これらの工程をコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【0019】
本発明に係るX線診断用プログラムによれば、サブトラクション画像と重ねて合成される背景としてのマスク画像またはライブ画像のいずれか一方を用いて、その画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行っている。低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行うと、小さな領域(デバイス、腫瘍または骨の輪郭など)のコントラストをそのままの状態にして、大きな領域(肺や横隔膜など)のコントラストを小さくすることができる。これにより、全体的にコントラストを小さくすることができる。そのため、合成画像を作成した際に、サブトラクション処理して抽出された部分の画像と、背景内の低コントラスト物と、背景内の高コントラスト物とを同時に観察できるようになる。また、サブトラクション処理と並列にダイナミックレンジ圧縮を行っている。すなわち、ダイナミックレンジ圧縮処理は、サブトラクション処理と別に行われるので、ダイナミックレンジ圧縮処理で生じる偽像が大きな問題とはならなく、この偽像を考慮せずに合成画像を作成することができる。
【0020】
すなわち、サブトラクション処理して抽出された部分と、背景内の高コントラスト物と、背景内の低コントラスト物とを同時に観察することができ、従来よりも得られる情報量の多い合成画像を取得することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るX線診断装置およびX線診断用プログラムによれば、サブトラクション画像と重ねて合成される背景としてのマスク画像またはライブ画像のいずれか一方を用いて、その画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行っている。低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行うと、小さな領域(デバイス、腫瘍または骨の輪郭など)のコントラストをそのままの状態にして、大きな領域(肺や横隔膜など)のコントラストを小さくすることができる。これにより、全体的にコントラストを小さくすることができる。そのため、合成画像を作成した際に、サブトラクション処理して抽出された部分の画像と、背景内の低コントラスト物と、背景内の高コントラスト物とを同時に観察できるようになる。また、サブトラクション処理と並列にダイナミックレンジ圧縮処理を行っている。すなわち、ダイナミックレンジ圧縮は、サブトラクション処理と別に行われるので、ダイナミックレンジ圧縮処理で生じる偽像が大きな問題とはならなく、この偽像を考慮せずに合成画像を作成することができる。
【0022】
すなわち、サブトラクション処理して抽出された部分と、背景内の高コントラスト物と、背景内の低コントラスト物とを同時に観察することができ、従来よりも得られる情報量の多い合成画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例に係るX線診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】(a)は、ダイナミックレンジ圧縮前の1次元の画像の一例を示す図であり、(b)は、(a)の画像の低周波数成分の一例を示す図であり、(c)は、(a)の画像の高周波数成分の一例を示す図であり、(d)は、ダイナミックレンジ圧縮後の画像を示す図である。
【図3】コントラスト調整の説明に供する図である。
【図4】実施例に係るX線診断装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】実施例に係るX線診断装置で作成された合成画像の一例を示す写真である。
【図6】従来の血管とその背景とを重ねて表示させる手法の説明に供する図である。
【図7】従来のX線診断装置で作成された合成画像の一例を示す写真である。
【実施例】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。図1は、実施例に係るX線診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【0025】
図1を参照する。X線診断装置1は、被検体Mを載置する天板3と、被検体MにX線を照射するX線管5と、被検体Mを挟んでX線管5と対向して配置され、被検体Mを透過したX線を検出するX線検出器7とを備えている。なお、X線管5は本発明におけるX線照射部に相当する。
【0026】
X線管5は、X線管制御部9によりX線照射に必要な制御が実行される。X線管制御部9は、X線管5の管電圧や管電流を発生させる高電圧発生部11を有している。X線管制御部9は、後述する入力部25で設定された管電圧や管電流や照射時間等のX線条件に応じてX線管5からX線を照射させている。
【0027】
天板3の隣接する位置には、インジェクタ13が配設されている。このインジェクタ13にはカテーテル15が接続されており、カテーテル15を介して被検体Mに造影剤が注入される。その注入は、例えば後述する主制御部21から信号が付与されることによって開始され、同様に主制御部21から付与される信号によって停止される。
【0028】
X線検出器7は、X線管5から照射されたX線を検出し、X線強度分布に応じた信号であるX線検出信号を出力する。X線検出器7は、フラットパネル型X線検出器(FPD)やイメージインテンシファイア等で構成される。
【0029】
X線検出器7の後段には、A/D変換器17と画像処理部19とが設けられている。A/D変換器17は、X線検出器7から出力されたアナログのX線検出信号をデジタル信号に変換する。画像処理部19は、X線検出器7から出力されたデジタルのX線検出信号に基づく画像に対して種々の処理を行う。また、X線診断装置1は、この装置1の各構成を統括的に制御する主制御部21と、画像処理部19で処理された画像を出力する出力部23と、操作者が入力設定や各種操作を行う入力部25と、処理された画像を記憶する記憶部27とを備えている。
【0030】
主制御部21は、中央演算処理装置(CPU)などで構成され、各種プログラムを実行するようになっている。また、主制御部21は、例えば、被検体Mが載置された天板3、X線管5またはX線検出器7を所定の位置に移動させる制御を行う。出力部23は、モニタ等の表示部や画像を印刷するプリンタなどで構成される。入力部25は、キーボードやマウス等で構成される。記憶部27は、ROM(Read-only Memory)、RAM(Random-Access Memory)またはハードディスク等の記憶媒体で構成される。
【0031】
画像処理部19は、マスク画像作成部29、マスク画像記憶部31、ライブ画像記憶部33、サブトラクション画像作成部35、ダイナミックレンジ圧縮画像作成部(以下、「DR圧縮画像作成部」と略す)37、第1コントラスト調整部39、第2コントラスト調整部41および合成画像作成部43を備えている。
【0032】
マスク画像作成部29は、インジェクタ13が停止した状態で、X線検出器7の出力に基づいて取得された複数枚の画像から、造影剤が注入されていないマスク画像を作成する。マスク画像の作成は、例えば、所定のタイミングで連続して取得された複数枚の画像を平均化する処理を行うことで作成される。作成されたマスク画像は、マスク画像記憶部31に記憶(収集)される。
【0033】
ライブ画像記憶部33は、インジェクタ13からカテーテル15を介して被検体に造影剤が注入されている状態で、X線検出器7の出力に基づいて取得された、造影剤が注入された画像を記憶する。画像は、1枚(フレーム)だけに限らず、予め設定された所定のタイミングで連続して取得した複数枚の画像がライブ画像記憶部33に収集される。
【0034】
サブトラクション作成部35は、X線検出器7の出力に基づいて取得したマスク画像と、X線検出器7の出力に基づいて取得したライブ画像とをサブトラクション処理してサブトラクション画像を作成する。すなわち、サブトラクション画像作成部35には、マスク画像記憶部31に記憶されたマスク画像、およびライブ画像記憶部33に記憶されたライブ画像をそれぞれ読み出されて与えられる。なお、ライブ画像は1枚ずつ読み出される。このマスク画像とライブ画像は、被検体Mの同一の位置で撮影されたものであり、サブトラクション処理部35は、マスク画像と、このマスク画像と対応する被検体Mの同一の位置で撮影されたライブ画像でサブトラクション処理(DSA処理)を行い、サブトラクション画像を作成する。
【0035】
DR圧縮画像作成部37は、サブトラクション処理と並列に行われ、マスク画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮(以下適宜、「DR圧縮」と略す)を行ってダイナミックレンジ圧縮画像(以下適宜、「DR圧縮画像」と略す)を作成する。DR圧縮画像作成部37には、マスク画像記憶部31に記憶されたマスク画像が読み出されて与えられる。DR圧縮は、マスク画像に含まれる予め設定された所定の低周波数成分に対して行われる。
【0036】
図2(a)〜(d)を参照する。図2(a)は、ダイナミックレンジ圧縮前の1次元の画像の一例を示す図であり、図2(b)は、図2(a)の画像の低周波数成分の一例を示す図である。図2(c)は、図2(a)の画像の高周波数成分の一例を示す図であり、図2(d)は、DR圧縮後の画像を示す図である。なお、図2(a)〜(d)の縦方向は、各画素の画素(濃度)値を示す。
【0037】
DR圧縮画像作成部37は、マスク画像、すなわち図2(a)の画像にDR圧縮を行い、図2(b)の符号pに示す線のように、符号rの線を基準に低周波数成分のみを縦方向に圧縮する。圧縮された低周波数成分を、図2(c)に示す高周波数成分と合成し、図2(d)のような、全体としてコントラストが狭くなったDR圧縮画像を得る。DR圧縮画像作成部37は、例えば、マスク画像をフーリエ変換して低周波数成分をフィルタ(例えばローパスフィルタLPF)により抽出し、DR圧縮を行って、圧縮されたマスク画像の低周波数成分と高周波成分を合成したものを逆フーリエ変換することでDR圧縮画像を作成する。なお、DR圧縮はその他公知の方法を使用してもよい。
【0038】
マスク画像に含まれる低周波数成分にDR圧縮を行うと、低周波数成分、すなわち、比較的に大きい領域(肺や横隔膜など)のダイナミックレンジが圧縮されてコントラストが小さくなる。低周波数成分にDR圧縮を行うことにより、全体的にコントラストを小さくすることができる。また、高周波数成分は比較的に小さな領域(デバイス、腫瘍または骨の輪郭など比較的細かな構造を示す部分)である。低周波数成分だけにDR圧縮が行われるので、高周波数成分のコントラストは保たれた状態である。すなわち、比較的に小さな領域の高周波数成分のコントラストをそのままの状態にして、低周波数成分のコントラストを小さくすることができる。それにより、背景として用いられるマスク画像の高コントラスト物および低コントラスト物を同時に表示させることができる。
【0039】
図1に戻る。第1コントラスト調整部39は、サブトラクション画像のサブトラクション処理して抽出された血管部分を強調させる。すなわち、第1コントラスト調整部39は、作成されたサブトラクション画像のコントラストを調整して、抽出した血管部分を強調させる。また、第2コントラスト調整部41は、作成されたDR圧縮画像のコントラストを調整する。コントラスト調整は、上述のようにウィンドウ処理が行われる。ウィンドウ処理を図3に示す。ウィンドウ処理は、画像を構成する画素の各画素(濃度)値をしきい値以上または以下の画素値を持つ画素を取り出し、ヒストグラムを作成する。そのヒストグラム内で、ウィンドウ幅(WW)と、その中心値であるウィンドウ・レベル(WL)を調整する。
【0040】
合成画像作成部43は、サブトラクション画像とDR圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する。合成画像作成部43は、サブトラクション画像のサブトラクション処理して抽出された血管と、マスク画像のDR圧縮画像を背景として重ね合わせる。血管とその背景を同一の画像に有する合成画像が作成される。
【0041】
次に、図4を参照して、X線診断装置の動作についてフローチャートに沿って説明する。
【0042】
X線管制御部9で設定された管電圧や管電流や照射時間等のX線条件に応じてX線管5からX線を照射させる。X線管5から照射されたX線は、被検体Mを透過してX線検出器7に入射する。X線検出器7は、X線強度分布に応じたX線検出信号を出力する。
【0043】
〔ステップS01〕マスク画像の作成
マスク画像作成部29は、インジェクタ13が停止した状態で、例えば、所定のタイミングで連続して、X線検出器7の出力に基づいて取得された複数枚の画像を平均化する処理を行うことでマスク画像を作成する。作成されたマスク画像は、マスク画像記憶部31に記憶される。
【0044】
〔ステップS02〕造影剤の注入
操作者が設定したタイミングで、主制御部21から信号が付与されることにより、インジェクタ13からカテーテル15を介して被検体Mの血管に造影剤が注入される。
【0045】
〔ステップS03〕ライブ画像の収集
造影剤が注入されている状態で、X線検出器7の出力に基づいて取得された画像をライブ画像記憶部33に記憶する。なお、予め設定された所定のタイミングで連続して取得した画像をライブ画像記憶部33に記憶するようにしてもよい。
【0046】
〔ステップS04〕サブトラクション処理
サブトラクション作成部35は、造影剤が注入されていないマスク画像と、造影剤が注入されたライブ画像とをサブトラクション処理してサブトラクション画像を作成する。この処理により、造影剤が注入された血管のみが抽出された画像が取得される。
【0047】
〔ステップS05〕コントラスト調整
第1コントラスト調整部39は、サブトラクション画像のサブトラクション処理して抽出された血管を強調させるように、サブトラクション画像のコントラスト調整する。コントラスト調整は、図3に示すように、ウィンドウ幅とウィンドウ・レベルを変更することにより行われる。これにより、サブトラクション画像とDR圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する際に、抽出された血管部分が強調されたサブトラクション画像を与えることができる。
【0048】
〔ステップS14〕ダイナミックレンジ圧縮処理
DR圧縮画像作成部37は、ステップS04のサブトラクション処理と並列に、マスク画像に含まれる低周波数成分にDR圧縮を行ってDR圧縮画像を作成する(図2(a),図2(d))。DR圧縮は、マスク画像に含まれる予め設定された所定の低周波数成分に対して行われる。DR圧縮は、時間的にサブトラクション処理の前でも後でも同時でもよい。
【0049】
〔ステップS15〕コントラスト調整
第2コントラスト調整部41は、作成されたDR圧縮画像のコントラストを調整する。コントラスト調整は、図3に示すように、ウィンドウ幅とウィンドウ・レベルを変更することにより行われる。これにより、背景として用いられるDR圧縮画像のコントラストが調整され、サブトラクション処理して抽出された血管部分と区別されたDR圧縮画像を与えることができる。
【0050】
〔ステップS06〕合成処理
合成画像作成部43は、サブトラクション画像とDR圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する。これにより、サブトラクション画像のサブトラクション処理した抽出された血管部分と、血管部分の背景としてのDR圧縮画像(DR圧縮処理されたマスク画像)とを同時に観察できる合成画像(図5)が取得される。図5は、従来の図7に比べ、ハレーションが無く、背景内の高コントラスト物が容易に観察でき、背景内の低コントラスト物(例えば骨のエッジやステント(図5の中央:符号S)の観察も容易である。また、血管部分も同時に観察できる。なお、図5および図7の符号Tは、肺や横隔膜を示す。
【0051】
〔ステップS07〕出力・保存
取得された合成画像は、出力部23において、モニタに表示されたり、プリンタで印刷されたりして出力される。また、合成画像は、記憶部27に記憶される。
【0052】
本発明に係るX線診断装置1によれば、サブトラクション画像作成部35は、X線検出器7の出力に基づいて取得した造影剤が注入されていないマスク画像と、X線検出器7の出力に基づいて取得した造影剤が注入されたライブ画像とからサブトラクション処理してサブトラクション画像を作成する。このサブトラクション処理と並列に行われ、DR圧縮画像作成部37は、マスク画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにDR圧縮を行ってDR圧縮画像を作成する。そして、合成画像作成部43は、サブトラクション画像とDR圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する。
【0053】
DR圧縮画像作成部37は、サブトラクション画像と重ねて合成される背景として用いられるマスク画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにDR圧縮を行っている。低周波数成分だけにDR圧縮を行うと、小さな領域(デバイス、腫瘍または骨の輪郭など)のコントラストをそのままの状態にして、大きな領域(肺や横隔膜など)のコントラストを小さくすることができる。これにより、全体的にコントラストを小さくすることができる。そのため、合成画像を作成した際に、サブトラクション処理して抽出された部分の画像と、背景内の低コントラスト物と、背景内の高コントラスト物とを同時に観察できるようになる。また、サブトラクション処理と並列にDR圧縮処理を行っている。すなわち、DR圧縮は、サブトラクション処理と別に行われるので、DR圧縮で生じる偽像は大きな問題とならなく、この偽像を考慮せずにサブトラクション処理して合成画像を作成することができる。
【0054】
ここで、簡単に偽像について説明する。DR圧縮処理を行うと偽像が発生する。すなわち、DR圧縮を行うと、図2(d)の符号nで示す破線のように、圧縮後の画像にノイズが発生する。マスク画像およびライブ画像の一方または両方にDR圧縮処理を行い、それらを用いてサブトラクション画像を作成すると、さらに偽像が発生する。そのため、通常は、DR圧縮がされた画像を用いて、サブトラクション処理を実施しない。しかしながら、本実施例では、背景として合成するマスク画像のみにDR圧縮処理を行っている。そのため、マスク画像には偽像が発生するが、大きな問題となる偽像とはならない。
【0055】
すなわち、X線診断装置1によれば、サブトラクション処理して抽出された部分と、背景内の高コントラスト物と、背景内の低コントラスト物とを同時に観察することができ、従来よりも得られる情報量の多い合成画像を取得することができる。
【0056】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0057】
(1)上述した実施例において、画像処理部19は、プログラムを実行させるためのCPU等で構成される制御部と、プログラム等を記憶するROMやRAM等の記憶媒体で構成される記憶部とを備えてもよい。各ステップS01〜S07,S14,S15の動作のプログラムを記憶部に記憶させて、制御部で実行する。そして、入力部25で必要な操作が入力され、作成された合成画像を出力部23で出力する。なお、その記憶部には、マスク画像記憶部31やライブ画像記憶部33を含めてもよいし、それぞれ別に構成してもよい。
【0058】
(2)上述した実施例において、画像処理部19に限定されず、各ステップS01〜S07,S14,S15の動作を、その動作のプログラムを記憶部27に記憶し、主制御部21で実行するようにしてもよい。そして、入力部25で必要な操作が入力され、作成された合成画像を出力部23で出力するようにしてもよい。また、その動作のプログラムは、LAN等のネットワークシステムでX線診断装置1と接続されたパソコン上でも実行できるようにしてもよい。
【0059】
(3)上述した実施例では、背景としてマスク画像を用いていたが、ライブ画像であってもよい。すなわち、図1において、ライブ画像記憶部33からライブ画像が読み出されてDR圧縮画像作成部37に与えられる。そして、合成画像作成部43は、サブトラクション処理して抽出された血管部分と、その背景としてのDR圧縮されたライブ画像とを重ねて合成して合成画像を作成する。
【0060】
(4)上述した実施例では、第2コントラスト調整部41を設けていたが、作成されたDR圧縮画像にコントラスト調整が特に必要ない場合は、その構成を設けなくてもよい。
【0061】
(5)上述した実施例では、まず、造影剤が注入されていないマスク画像と、造影剤が注入されたライブ画像とをサブトラクション処理する。そして、抽出された血管部分を含むサブトラクション画像と、その背景としてDR圧縮されたマスク画像とを重ねて合成画像を取得している。しかしながら、合成画像を作成するためのサブトラクション画像は、造影剤の有無に限定されない。例えば、被検体Mの同一位置を撮影したX線画像であって、ある時間に撮影したX線画像と、この画像と異なる時間に撮影したX線画像とをサブトラクション処理した画像であってもよい。この場合、マスク画像は、ある時間に撮影したX線画像とし、ライブ画像は、マスク画像と異なる時間に撮影したX線画像とする。
【符号の説明】
【0062】
1 … X線診断装置
5 … X線管
7 … X線検出器
19 … 画像処理部
21 … 主制御部
29 … マスク画像作成部
31 … マスク画像記憶部
33 … ライブ画像記憶部
35 … サブトラクション画像作成部
37 … ダイナミックレンジ圧縮画像作成部
39 … 第1コントラスト調整部
41 … 第2コントラスト調整部
43 … 合成画像作成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にX線を照射するX線照射部と、
被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器の出力に基づいて取得したマスク画像と前記X線検出器の出力に基づいて取得したライブ画像とをサブトラクション処理してサブトラクション画像を作成するサブトラクション画像作成部と、
前記サブトラクション処理と並列に行われ、前記マスク画像または前記ライブ画像のいずれか一方の画像を用いて、その画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行ってダイナミックレンジ圧縮画像を作成するダイナミックレンジ圧縮画像作成部と、
前記サブトラクション画像と前記ダイナミックレンジ圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する合成画像作成部と、
を備えていることを特徴とするX線診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線診断装置において、
前記マスク画像は、造影剤が注入されていない画像であり、前記ライブ画像は、造影剤が注入された画像であることを特徴とするX線診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のX線診断装置において、
前記サブトラクション画像のサブトラクション処理して抽出された部分を強調させる第1コントラスト調整部を備えていることを特徴とするX線診断装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のX線診断装置において、
作成された前記ダイナミックレンジ圧縮画像のコントラストを調整する第2コントラスト調整部を備えていることを特徴とするX線診断装置。
【請求項5】
被検体を透過したX線を検出するX線検出器の出力に基づいて取得したマスク画像と前記X線検出器の出力に基づいて取得したライブ画像とをサブトラクション処理してサブトラクション画像を作成する工程と、
前記サブトラクション処理と並列に行われ、前記マスク画像または前記ライブ画像のいずれか一方の画像を用いて、その画像に含まれる低周波数成分と高周波数成分の内、低周波数成分だけにダイナミックレンジ圧縮を行ってダイナミックレンジ圧縮画像を作成する工程と、
前記サブトラクション画像と前記ダイナミックレンジ圧縮画像とを重ねて合成画像を作成する工程と、を備え、
これらの工程をコンピュータに実行させることを特徴とするX線診断用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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