説明

X線高電圧装置

【課題】
管電圧の立ち上がりが高速で、管電圧リップルを小さくすることができ、かつ小型、軽量化が可能なコッククロフト・ウォルトン回路を用いたインバータ式X線高電圧装置を提供する。
【解決手段】
直流電源1と、インバータ回路2と、高電圧変圧器3と、全波2倍型コッククロフト・ウォルトン回路4とを備えたでインバータ式X線高電圧装置において、前記コッククロフト・ウォルトン回路4の第1の平滑コンデンサ412と第2の平滑コンデンサ422の静電容量を第1の電圧維持コンデンサ411a、411b及び第2の電圧維持コンデンサ421a、421bの静電容量よりも大きくする。特に、前記第2の電圧維持コンデンサ411a、411bの静電容量を前記第1の平滑コンデンサ412及び第2の平滑コンデンサ422の静電容量の1/5にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ式X線高電圧装置に係り、特に負荷であるX線を発生するX線管の陽極と陰極間に印加する直流の高電圧(以下、管電圧と記す)のリップルを小さくし、かつ小型・軽量化に好適なインバータ式X線高電圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮影装置(透視も含む)やX線CT装置等のX線を用いた画像診断装置においては、被検体の診断部位に照射するためのX線を発生させるX線発生装置が必要である。このX線発生装置は、X線を発生するX線管と、このX線管の陽極と陰極間に管電圧を印加する高電圧発生装置、該管電圧の大きさ及び印加時間並びに前記X線管の陽極と陰極間に流れる電流(以下、管電流と記す)を制御するためのX線制御装置を備えたX線高電圧装置とで構成される。
【0003】
前記X線高電圧装置は、管電圧の立ち上がりが高速で、該立ち上がり後の管電圧リップルが小さく、かつ高速、高精度の管電圧及び管電流制御機能を有すると共に、装置が小型・軽量であることが望まれる。これらを満たす装置としてインバータ式X線高電圧装置が前記X線を用いた画像診断装置のあらゆる分野で活用されている。
【0004】
このインバータ式X線高電圧装置を用いたX線発生装置のX線管には、主にX線管のハウジングを接地する中性点接地型のものが用いられていたが、X線管の大容量化と高負荷率化のニーズに伴い、X線管の陽極を接地する陽極接地型のX線管も用いられるようになってきた。
【0005】
特に、X線CT装置においては、近年、“短時間で広い範囲のスキャンが可能”、“体軸方向に連続したデータが得られ、これによって三次元画像の生成が可能”、さらに、“X線検出器を多列化して一度に多くの断層画像の撮像が可能”等の特徴を有するマルチスライス機能を備えたヘリカルスキャンやスパイラルスキャンと呼ばれるら旋CTが主流となっている。
このら旋CTは、スキャナ回転部にX線発生装置とX線検出器を搭載し、前記スキャナ回転部を連続回転させると同時に、被検体を載置したテーブルを前記被検体の体軸方向に連続移動させて、前記X線発生装置とX線検出器とを前記被検体に対し相対的にら旋運動をさせるものである。
【0006】
このようなマルチスライス撮影機能を備えたら旋CTは、スキャナ回転部に搭載したX線管から連続して長時間X線を曝射しなければならないので、X線管の負荷が増大するために大容量化に有利な陽極接地型X線管が用いらている。最近では被検体の心臓を撮影するために、さらなるスキャンの高速化が必須となっており、前記スキャナ回転部に搭載する搭載物は、一層の小型・軽量化が求められる。
【0007】
このような状況において、前記インバータ式X線高電圧装置の高電圧発生装置の小型・軽量化を図るために、多倍の昇圧が可能なコッククロフト・ウォルトン回路を用いたX線高電圧装置が特許文献1に開示されている。
【0008】
【特許文献1】国際公開番号WO2004/103033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1のインバータ式X線高電圧装置の高電圧発生装置は、直流電圧をインバータ回路で高い周波数の交流電圧に変換した電圧を昇圧する高電圧変圧器と、この高電圧変圧器の出力電圧をさらに昇圧する2段の全波多倍昇圧回路を用いたコッククロフト・ウォルトン回路で構成され、該コッククロフト・ウォルトン回路を用いることによって高電圧変圧器は小型化され、全体として小型・軽量のインバータ式X線高電圧装置を構成できる。
【0010】
前記2段の全波多倍昇圧回路は、前記インバータ回路の動作周波数の周期よりも長い期間、前記高電圧変圧器の出力電圧のピーク値を維持して倍電圧に昇圧するための電圧維持コンデンサと、この電圧維持コンデンサに維持された電圧を入力して直流電圧に変換する直列接続された2つのダイオードフルブリッジ回路と、この2つのダイオードフルブリッジ回路の出力電圧を平滑する平滑コンンサとから成り、該平滑コンデンサは前記2つのダイオードフルブリッジ回路に対応して直列接続された2組のコンデンサを備え、前記陽極接地型X線管の陽極と陰極間には前記平滑コンンサが接続される。
【0011】
このような構成のX線高電圧装置において、撮影画像を高画質なものにするために、前記X線管の陽極と陰極間に印加される管電圧のリップルは数%以下にする必要がある。
前記2段の全波多倍昇圧回路の平滑コンデンサの静電容量は、前記要求される管電圧のリップルの値によって決まり、このリップルの大きさは、インバータ式X線高電圧装置の負荷であるX線管の陽極と陰極間の抵抗値が最小となるX線条件で決まる。
このX線条件は、管電圧が最小で管電流が最大となる撮影条件で、X線CT装置の場合は、例えば管電圧が80kV、管電流が800mAで、X線管の陽極と陰極間の等価負荷抵抗は100kΩとなる。
【0012】
ここで、前記インバータ回路の動作周波数を40kHz、負荷としてのX線管の陽極と陰極間の等価負荷抵抗を100kΩ、該等価負荷抵抗と並列に接続される前記平滑コンデンサの静電容量を10nF(平滑コンデンサは、2つのダイオードフルブリッジ回路に対応して直列接続された2組のコンデンサから成り、これらの平滑コンデンサの静電容量はそれぞれ20nFである)とすると、該平滑コンデンサの充放電の時定数は1ms(=100kΩ×10nF)となる。そして、前記コッククロフト・ウォルトン回路の出力電圧が前記等価負荷抵抗で放電されるものと単純化して考えた場合、コッククロフト・ウォルトン回路の動作周波数の1周期である25μsで放電する電圧のリップル、すなわち管電圧リップルは2.4%(=1-exp(-25μs/1ms)となる。
【0013】
一方、前記平滑コンデンサの耐電圧は、前記コッククロフト・ウォルトン回路による倍電圧数で決まり、例えば陽極接地型の場合には、前記倍電圧数で最大定格管電圧を除算した電圧になる。
すなわち、前記特許文献1に開示されている2倍に昇圧する2段の全波多倍昇圧回路の場合は、最大定格管電圧150kVに対して前記直列に接続された2組の平滑コンデンサの両端には、それぞれ75kVの電圧が印加されることになる。
【0014】
このように、定格電圧が75kVで20nFのコンデンサとなると非常に大型となり、この仕様のコンデンサを特許文献1のようにコッククロフト・ウォルトン回路の電圧維持コンデンサを含めた全てのコンデンサに用いると、前記高電圧発生装置は大型になり、さらなる小型・軽量化は困難である。
【0015】
また、コッククロフト・ウォルトン回路の倍電圧数を増やすことによって前記電圧維持コンデンサ及び平滑コンデンサの耐電圧を低くすることができて小型なものになるが、管電圧の応答性能が低下するので、小型化のためにむやみに倍電圧数を増やすことはできない。
【0016】
本発明の目的は、管電圧の立ち上がりが高速で、管電圧リップルを小さくすることができ、かつ小型・軽量化が可能なコッククロフト・ウォルトン回路を用いたインバータ式X線高電圧装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的は、以下の手段によって達成される。すなわち、直流電源と、この直流電源の出力電圧を所定の周波数の交流電圧に変換する直流/交流変換手段と、この直流/交流変換手段で変換された交流電圧を昇圧する高電圧変圧器と、この高電圧変圧器の出力電圧をさらに昇圧して直流電圧に変換するコッククロフト・フォルトン回路とを備えたインバータ式X線高電圧装置において、前記直流/交流変換手段の動作周期の少なくとも半周期間に、前記高電圧交換器の出力電圧のピーク値を維持する電圧維持コンデンサの静電容量よりも、前記コッククロフト・ウォルトン回路の出力電圧を平滑する平滑コンデンサの静電容量を大きくする。
【0018】
特に、前記コッククロフト・ウォルトン回路における電圧維持コンデンサのうちの前記高電圧変圧器の出力巻線に接続される電圧維持コンデンサを除く他の電圧維持コンデンサの静電容量を前記平滑コンデンサの静電容量の1/5以下とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、要求される管電圧リップルを満足し、かつコッククロフト・ウォルトン回路の電圧維持コンデンサと平滑コンデンサをそれぞれの目的に対応して適切な定格電圧、静電容量としたので、小型・軽量であるインバータ式X線高電圧装置を提供することができる。
この小型・軽量化されたインバータ式X線高電圧装置をX線CT装置のスキャナに搭載することにより、さらなるスキャンの高速化に寄与するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面に従って本発明のインバータ式X線高電圧装置の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
なお、本発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符合を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
《第1の実施形態》
図1は、本発明の第1の実施形態によるインバータ式X線高電圧装置の回路構成図である。このインバータ式X線高電圧装置は、直流電源1と、この直流電源1の電圧を所定の周波数の交流電圧に変換するインバータ回路(直流/交流変換手段)2と、このインバータ回路2の交流電圧を昇圧する高電圧変圧器3と、この高電圧変圧器3の電圧をさらに2倍の電圧に昇圧して直流電圧に変換する2段の全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路4とで構成され、この2段の全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路4の出力電圧を陽極接地型X線管5の陽極5aと陰極5b間に印加してX線を発生させる。このうち前記高電圧変圧器3と前記2段の全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路4とによって高電圧発生装置6が構成される。
【0022】
このように構成されたインバータ式X線高電圧装置は、前記陽極接地型X線管5の管電圧を検出して設定した管電圧になるように制御する管電圧フィードバック制御手段と前記陽極接地型X線管5の管電流を検出して設定した管電流になるように制御する管電流フィードバック制御手段とを備えて前記管電圧及び管電流が設定値になるように制御するのが一般的であるが、これらの制御手段は本発明の目的を達成するための構成要件とは直接関係がないでので、図1では省略されている。
【0023】
前記直流電源1は、図示省略の商用電源電圧を直流電圧に変換して出力する回路形態、あるいはバッテリィによる直流電源等、どのような形態でも良い。なお、前記商用電源電圧を直流電圧に変換する回路形態も、前記商用電源電圧を全波整流回路で全波整流する形態、あるいは前記全波整流して得られた直流電圧をチョッパ回路で調整する形態や前記全波整流回路に電圧可変機能を備えた形態等、その変換形態に限定するものではない。
【0024】
前記インバータ回路2は、直流電源1から出力された直流電圧を受電して高周波の交流電圧に変換し出力する。また前記インバータ回路2は、高電圧発生装置6からX線管に印加される管電圧が目標値となるように図示省略のインバータ制御回路により制御される。
また、前記高電圧変圧器3は、インバータ回路2から出力された交流電圧を昇圧するもので、その一次巻線がインバータ回路2の出力側に、二次巻線が2段の全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路4の入力側に接続されている。
【0025】
前記2段の全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路4は、特許文献1(国際公開番号WO2004/103033号公報)に開示されている図1と同じ回路構成であって、コンデンサとダイオードを用いて前記高電圧変圧器3の出力電圧を2倍の直流高電圧に変換する。その構成は、コンデンサ411a、411b、412とダイオード413a、413b、414a、414bとから成る第1の全波整流昇圧回路4aと、コンデンサ421a、421b、422とダイオード423a、423b、424a、424bとから成る第2の全波整流昇圧回路4bとから成り、前記第1の全波整流昇圧回路4aの負の直流出力端子と前記第2の全波整流昇圧回路4bの正の直流出力端子とを接続して構成される。
【0026】
このように構成された前記第1の全波整流昇圧回路4aは、前記インバータ回路2の動作周波数によって決まる周期よりも長い期間だけ前記高電圧変圧器3の出力電圧のピーク値をコンデンサ411a、411bからなる第1の電圧維持手段で維持し、この維持した電圧をダイオード413a、413b、414a、414bからなる第1の全波整流回路で全波整流し、この全波整流された直流電圧を前記コンデンサ412からなる第1の平滑手段で平滑する。同様に、前記第2の全波整流昇圧回路4bは、前記インバータ回路2の動作周波数によって決まる周期よりも長い期間だけ前記高電圧変圧器3の出力電圧のピーク値をコンデンサ421a、421bからなる第2の電圧維持手段で維持し、この維持した電圧をダイオード423a、423b、424a、424bからなる第2の全波整流回路で全波整流し、この全波整流された直流電圧を前記コンデンサ422からなる第2の平滑手段で平滑する。
【0027】
そして、前記第1の平滑手段で平滑した直流電圧と前記第2の平滑手段で平滑した直流電圧とが加算され、この加算された電圧が管電圧として前記陽極接地型X線管5の陽極5aと陰極5b間に印加される。
すなわち、管電圧は前記高電圧変圧器3の出力電圧のピーク値の2倍の電圧に昇圧された電圧となる。
【0028】
このように、高電圧変圧器3と2段の全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路4とにより高電圧発生装置6は構成される。この高電圧発生装置6でインバータ回路2で変換された高い周波数の交流電圧を昇圧して定格管電圧150kVが得られる。
【0029】
上記のように構成されたインバータ式X線高電圧装置において、前記高電圧変圧器3の出力電圧のピーク値が前記インバータ回路2の動作周波数の半周期毎に前記第1、第2の平滑手段である平滑コンデンサ412、422に充電されるので、管電圧リップルの値は該平滑コンデンサ412、422の静電容量によって決まる。したがって、前記電圧維持手段としてのコンデンサ(以下、電圧維持コンデンサという)411a、411b、421a、421bは、前記インバータ回路2の動作周波数によって決まる周期よりも長い期間だけ前記高電圧変圧器3の出力電圧のピーク値を維持すれば良いので、前記電圧維持コンデンサ411a、411b、421a、421bの静電容量を、従来のように前記管電圧リップルを目標値以下にするための平滑コンデンサ412、422の静電容量と同じ値にする必要はない。
【0030】
そこで、管電圧リップルを目標の1.5%以下とするための電圧維持コンデンサ411a、411b、421a、421bと平滑コンデンサ412、422の適切な静電容量及び耐電圧を求めるためにシミュレーションを行った。
シミュレーションに使用したソフトウエアは、電気回路、電子回路のシミュレータであり、回路のアナログ動作を再現するSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)と呼ばれるソフトウエアである。
【0031】
シミュレーションは図1に示す回路について行い、該回路の要素はフルブリッジのインバータ回路2(40kHz、 直流電源1の電圧700V)、高電圧変圧器3、陽極接地型X線管5、及びダイオード413a、413b、414a、414bによる第1の全波整流回路とダイオード423a、423b、424a、424bによる第2の全波整流回路、電圧維持コンデンサ411a、411b、421a、421b、平滑コンデンサ412、422で、陽極接地型X線管5の負荷抵抗値は、X線CT装置の最小負荷抵抗となる撮影条件80kV、800mAにおける100kΩである。
【0032】
このような回路要素及び条件を基にしてシミュレーションを行った結果、管電圧リップルを1.5%以下にするためには、陽極接地型X線管5に並列に接続される2段の全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路の出力側の平滑コンデンサ412、422の静電容量をそれぞれ10nF以上にする必要があることを見出した。
すなわち、平滑コンデンサ412と422は直列に接続されるので、最大定格管電圧値を150kVとした場合、前記平滑コンデンサ412と422はそれぞれ定格電圧75kV以上、静電容量10nF以上となる。
【0033】
この仕様の平滑コンデンサ412と422は、例えば、それぞれ定格電圧40kV、10nFのコンデンサを2直列、2並列として構成することで実現でき、この仕様のコンデンサを従来のように電圧維持コンデンサ411a、411b、421a、421bにも用いた場合には、2段の全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路4が非常に大型となものとなる。
【0034】
そこで、平滑コンデンサ412、422の静電容量を1として、第1の電圧維持コンデンサ411a、411b、第2の電圧維持コンデンサ421a、421b、及び平滑コンデンサ412、422を正規化した場合の前記第1、第2の電圧維持コンデンサ、平滑コンデンサと管電圧リップルとの関係をシミュレーションで求めた結果を図2〜図5に示す。
【0035】
図2は、第1の電圧維持コンデンサ411a、411bと管電圧リップルの関係である。第1の電圧維持コンデンサ411a、411bは、その静電容量を小さくする程、管電圧リップルも小さくなる。しかし、第1の電圧維持コンデンサ411a、411bの正規化値が0.4以下では、前記インバータ回路2の動作周波数によって決まる周期よりも長い期間だけ前記高電圧変圧器3の出力電圧のピーク値を維持できくなる。すなわち、倍電圧に昇圧する役割を果たすことができなくなるので、第1の電圧維持コンデンサ411a、411bの正規化値は0.5以上が望ましく、該電圧維持コンデンサ411a、411bの静電容量の正規化値は0.5が適切な値である。
【0036】
図3は、第2の電圧維持コンデンサ421a、421bと管電圧リップルの関係である。第2の電圧維持コンデンサ421a、421bは、その静電容量が大きい程、管電圧リップルは小さくなり、倍電圧に昇圧することも可能であるが、小型化の点では好ましくない。この場合、図3では省略したが正規化値が0.1以上であれば、倍電圧化は可能であることから、小型化の点から第2の電圧維持コンデンサ421a、421bの正規化値は余裕を見て0.2が望ましく、該電圧維持コンデンサ421a、421bの静電容量の正規化値は0.2が適切な値である。
【0037】
図4は、第1の電圧維持コンデンサの静電容量の正規化値を0.5、第2の電圧維持コンデンサの静電容量の正規化値を0.2とした場合における平滑コンデンサ412、422の静電容量と管電圧リップルの関係である。
管電圧リップルを目標の1.5%以下とするための平滑コンデンサ412、422の正規化値は1.0以上となるので、小型化を考慮して該平滑コンデンサ412、422の静電容量の正規化値は1.0が適切な値である。
【0038】
なお、前記第1の電圧維持コンデンサと第2の電圧維持コンデンサは、前記インバータ回路2の動作周波数によって決まる動作周期よりも長い期間だけ前記高電圧変圧器3の出力電圧のピーク値を維持するために、該インバータ回路2の動作周期の半周期毎に充放電を繰り返す。
このため、コンデンサのリップル電圧をできるたけ小さくして許容損失の小さいコンデンサを使用できるようにすることが求められる。
【0039】
図5は、前記第1及び第2の電圧維持コンデンサの静電容量と該コンデンサのリップル電圧の関係を求めたものである。
このシミュレーション結果から、第1の電圧維持コンデンサのリップル電圧は該コンデンサの静電容量の正規化値が0.5以上、第2の電圧維持コンデンサのリップル電圧は該コンデンサの静電容量の正規化値が0.2以上からはあまり変化せず、リップル電圧の点からも前記静電容量の値は適切であることが分る。
【0040】
以上のシミュレーション結果から以下のことが分った。
(1)X線管5の陽極と陰極間と並列に接続されるコッククロフト・ウォルトン回路の出力側の平滑コンデンサ412及び422の充放電電流、すなわち管電圧リップルは、撮影条件である管電圧、管電流によって決まり、他の第1及び第2の電圧維持コンデンサ411a、411b 、421a、421bの影響は受けない。
【0041】
(2)第2の電圧維持コンデンサ421aと421bの静電容量を前記平滑コンデンサの静電容量の1/5にしても十分に倍電圧昇圧機能を発揮することができる。
【0042】
(3)第1の電圧維持コンデンサ411aと411bについては、平滑コンデンサ412、422と第2の電圧維持コンデンサ421a、421bの1/2の電圧しか印加されないので、前記第1の電圧維持コンデンサ411aと411bの定格電圧は、前記平滑コンデンサ412、422及び第2の電圧維持コンデンサ421a、421bの定格電圧の1/2で良い。
【0043】
(4)平滑コンデンサ412と422については、管電圧リップルを小さくするために比較的大きな静電容量が必要であるために、コンデンサを並列接続して必要な静電容量を確保することになる。他方、コンデンサの並列接続数が多くなると1個当りの充放電電流の分担が小さくなり、比較的損失が大きい大容量のコンデンサを用いることができる。
【0044】
(5)また、第2の電圧維持コンデンサ421aと421bについては、静電容量が小さくて済むためにコンデンサを並列に接続する必要はない。このため、充放電電流の分担が大きくなるが、大きな静電容量にする必要がないので、低損失のフィルムを使った小型のコンデンサを使用することが可能となる。
【0045】
(6)さらに、第1の電圧維持コンデンサ411aと411bについては、定格電圧を他のコンデンサ412、422、421a、421bの定格電圧80kVの1/2である40kVにすることが可能である。
【0046】
以上のシミュレーション結果をまとめると、コッククロフト・ウォルトン回路の倍電圧用電圧維持コンデンサと管電圧を平滑する平滑コンデンサの定格電圧と静電容量を従来のように同一にするのではなく、それぞれ適切な値のものを使用することにより、高電圧装置のさらなる小型化が可能であるといえる。
具体的には、平滑コンデンサ412及び422が定格電圧V、静電容量Cであるのに対して、第1の電圧維持コンデンサ411a、411bは定格電圧V/2、静電容量C/2、第2の電圧維持コンデンサ421a、421bは定格電圧V、静電容量C/5とすることにより、平滑コンデンサ412及び422に対して、第1の電圧維持コンデンサ411a、411bは定格電圧を1/2、静電容量を1/2に、第2の電圧維持コンデンサ421a、421bは静電容量を1/5と小さくして小型化を図ることが可能となる。
【0047】
このように、本発明の第1の実施形態によれば、要求される管電圧リップルを満足し、かつコッククロフト・ウォルトン回路の電圧維持コンデンサと平滑コンデンサをそれぞれの目的に対応して適正な定格電圧、静電容量としたので、小型・軽量なインバータ式X線高電圧装置を提供することができる。
この小型・軽量化されたインバータ式X線高電圧装置をX線CT装置のスキャナに搭載することにより、さらなるスキャンの高速化に寄与するものとなる。
【0048】
《第2の実施形態》
図6は、本発明の第2の実施形態によるインバータ式X線高電圧装置の回路構成図である。
このインバータ式X線高電圧装置は、高電圧変圧器3の出力電圧をn倍に昇圧するコッククロフト・ウォルトン回路7が異なるのみで、他は図1の回路と同一であるので、ここでは、コッククロフト・ウォルトン回路7の構成とインバータ回路2の動作周波数によって決まる動作周期よりも長い期間だけ前記高電圧変圧器3の出力電圧のピーク値を維持するための電圧維持コンデンサ及び管電圧を平滑する平滑コンデンサの定数について説明する。
【0049】
前記コッククロフト・ウォルトン回路7は、高電圧変圧器3の出力電圧の1周期毎に該高電圧変圧器3の出力電圧のピ―ク値を整流するダイオード713、723、・・・7n3及び714、724、・・・7n4と、前記高電圧変圧器3の出力電圧のピ―ク値を維持するコンデンサ711、712、721、722、・・・7n1、7n2とで構成され、前記コンデンサ712、722、7n2は負荷である陽極接地型X線管5の陽極5aと陰極5b間に並列に接続されて管電圧を平滑する平滑コンデンサとしての機能を有する。
【0050】
前記コッククロフト・ウォルトン回路7の倍電圧数を多くすると管電圧の応答が遅くなるので、この応答性能を許容できる範囲で倍電圧数を多くする。
【0051】
このように構成されたインバータ式X線高電圧装置についても、図1の回路と同様、管電圧リップルを目標値以下にするためには、陽極接地型X線管5の陽極5aと陰極5b間に並列に接続されるコンデンサ712、722、・・・7n2の静電容量は、コンデンサ711、721、・・・7n1の静電容量よりも大きくする必要がある。
また、初段のコンデンサ711の定格電圧は、他のコンデンサ712、721、722、7n1、7n2の定格電圧の1/2で良い。
【0052】
このように、第2の実施形態によれば、コッククロフト・ウォルトン回路に半波n倍型コッククロフト・ウォルトン回路を用いても、コッククロフト・ウォルトン回路の電圧維持コンデンサと平滑コンデンサをそれぞれの目的に対応して適切な定格電圧、静電容量としたので、要求された管電圧リップルを満足し、かつ小型・軽量なインバータ式X線高電圧装置を提供することができる。
【0053】
《第3の実施形態》
本発明によるインバータ式X線高電圧装置は、X線管に陽極接地型X線管を用いたX線発生装置のみに適用するものではなく、中性点接地型X線管を用いたX線発生装置にも適用することができる。
【0054】
図7は、本発明の第3の実施形態によるインバータ式X線高電圧装置を中性点接地型X線管に用いたX線発生装置の回路構成図である。
このインバータ式X線高電圧装置は、高電圧変圧器3´の二次巻線を3a´と3b´の二つに分割し、一方の二次巻線3a´には図6の半波型コッククロフト・ウォルトン回路7と同じ構成で、極性が反転した第1のコッククロフト・ウォルトン回路9aを接続し、他方の二次巻線3b´には図6の半波型コッククロフト・ウォルトン回路7と同じ構成の第2のコッククロフト・ウォルトン回路9bを接続してコッククロフト・ウォルトン回路9を構成する。
そして、第1のコッククロフト・ウォルトン回路9aの負の出力端と第2のコッククロフト・ウォルトン回路9bの正の出力端とを接続して該接続点を接地し、前記第1のコッククロフト・ウォルトン回路9aの正の出力端とX線管8の陽極8aとを接続し、前記第2のコッククロフト・ウォルトン回路9bの負の出力端とX線管8の陰極8bとを接続して中性点接地型X線発生装置を構成する。
【0055】
このように構成された中性点接地型X線発生装置において、前記第2の実施形態と同様に、前記コッククロフト・ウォルトン回路9の倍電圧数を多くすると管電圧の応答が遅くなるので、この応答性能を許容できる範囲で倍電圧数を多くする。
【0056】
そして、上記のように構成されたインバータ式X線高電圧装置についても、図1の回路と同様に管電圧リップルを目標値以下にするためには、X線管8の陽極8aと接地間に並列に接続されるコンデンサ912a、922a、・・・、9n2a及び陰極8bと接地間に並列に接続されるコンデンサ912b、922b、・・・、9n2b
の静電容量は、他のコンデンサ911a、921a、・・・、9n1a及び911b、921b、・・・、9n1bの静電容量よりも大きくする必要がある。
また、初段のコンデンサ911a及び911bの定格電圧は、他のコンデンサ912a、922a、・・・、9n2a、912b、922b、・・・、9n2b及び921a、・・・、9n1a及び921b、・・・、9n1bの定格電圧の1/2で良い。
【0057】
このように、第3の実施形態によれば、コッククロフト・ウォルトン回路に二つの半波型コッククロフト・ウォルトン回路を用いて構成された中性点接地型のX線発生装置においても、コッククロフト・ウォルトン回路の電圧維持コンデンサと平滑コンデンサをそれぞれの目的に対応して適切な定格電圧、静電容量としたので、要求された管電圧リップルを満足し、かつ小型・軽量のインバータ式X線高電圧装置を提供することができる。
【0058】
なお、本発明のインバータ式X線高電圧装置は、上記実施形態に用いたコッククロフト・ウォルトン回路に限定するものではない。
コッククロフト・ウォルトン回路には種々の回路形態が在り、X線管の陽極と陰極間に並列に接続されるコッククロフト・ウォルトン回路のコンデンサの静電容量を他のコンデンサの静電容量よりも大きくするという本発明の技術思想の範囲で適宜変更可能である。
また、本発明によるインバータ式X線高電圧装置を用いたX線発生装置の接地方式においても限定するものではなく、陽極接地型及び中性点接地型のいずれの接地方式にも適用可能である。
【0059】
さらに、本発明のインバータ式X線高電圧装置は、X線CT装置用に限定するものではなく、どのようなX線撮影装置(透視も含む)にも適用することができ、特に移動して病院内を回診する回診車や車に搭載して集団検診を行う車載用検診車に小型・軽量な本発明のインバータ式X線高電圧装置を用いることによって、小型化による設置スペースの低減と軽量化による移動性の向上に寄与するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態によるインバータ式X線高電圧装置の回路構成図。
【図2】図1の回路におけるシミュレーションによる第1の電圧維持コンデンサの静電容量と管電圧リップルの関係を示す図。
【図3】図1の回路におけるシミュレーションによる第2の電圧維持コンデンサの静電容量と管電圧リップルの関係を示す図。
【図4】図1の回路におけるシミュレーションによる平滑コンデンサの静電容量と管電圧リップルの関係を示す図。
【図5】図1の回路におけるシミュレーションによる第1及び第2の電圧維持コンデンサの静電容量と該コンデンサのリップル電圧の関係を示す図。
【図6】本発明の第2の実施形態によるインバータ式X線高電圧装置の回路構成図。
【図7】本発明の第3の実施形態によるインバータ式X線高電圧装置の回路構成図。
【符号の説明】
【0061】
1 直流電源、2 インバータ回路(直流/交流変換手段)、3 高電圧変圧器、3´ 二つの2次巻線を有する高電圧変圧器、4 2段の全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路、4a 第1の全波整流昇圧回路、4b 第2の全波整流昇圧回路、5 陽極接地型X線管、6 高電圧発生装置、7半波n倍型コッククロフト・ウォルトン回路、8 中性点接地型X線管、9 二つの半波n倍型コッククロフト・ウォルトン回路を用いたコッククロフト・ウォルトン回路、411a及び411b 第1の電圧維持手段としてのコンデンサ、421a及び421b 第2の電圧維持手段としてのコンデンサ、412 第1の平滑手段としてのコンデンサ、422 第2の平滑手段としてのコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、この直流電源の出力電圧を所定の周波数の交流電圧に変換する直流/交流変換手段と、この直流/交流変換手段で変換された交流電圧を昇圧する高電圧変圧器と、この高電圧変圧器の出力電圧をさらに昇圧して直流電圧に変換するコッククロフト・ウォルトン回路とを備えたインバータ式X線高電圧装置において、前記直流/交流変換手段の動作周期の少なくとも半周期間に、前記高電圧変換器の出力電圧のピーク値を維持する電圧維持コンデンサの静電容量よりも、前記コッククロフト・ウォルトン回路の出力電圧を平滑する平滑コンデンサの静電容量が大きいことを特徴とするインバータ式X線高電圧装置。
【請求項2】
前記電圧維持コンデンサのうちの前記高電圧変圧器の出力巻線に接続される電圧維持コンデンサを除く他の電圧維持コンデンサの静電容量を前記平滑コンデンサの静電容量の1/5以下とすることを特徴とする請求項1に記載のインバータ式X線高電圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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