説明

[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドまたはその塩酸塩の製造方法

本発明は、4−ピペリジノピペリジンとホスゲンとの反応において、溶媒としてジクロロメタンを使用し、蒸留温度を上げるために別の蒸留溶媒を追加して前記反応溶媒を除去することを含む、[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドまたはその塩酸塩の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の製造に重要な出発原料である[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドまたはその塩酸塩の製造方法に関する。特にそれはイリノテカンの製造方法に使用できる。
【背景技術】
【0002】
式Iで表されるイリノテカン塩酸塩、すなわち(S)−4,11−ジエチル−3,4,12,14−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−3,14−ジオキソ−1H−ピラノ[3’,4’:6,7]−インドリジノ[1,2−b]キノリン−9−イル[1,4’−ビピペリジン]−1’−カルボキシレート塩酸塩または7−エチル−10−[4−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジノ]カルボニルオキシカンプトテシン塩酸塩は、カンプトテシンの類似体であり、トポイソメラーゼI阻害剤である。その3水和物は、結腸ガン治療薬として1996年に米国で承認されているが、肺ガン、胃ガン、膵臓ガンなどの他のガンの治療薬としても興味がもたれている。
【0003】
【化1】

【0004】
イリノテカンは、通常、中国産樹木の一種、喜樹(Camptotheca acuminata)に含まれる天然カンプトテシンから半合成的に製造される。米国特許第4,604,463号は、イリノテカンを含む数種類のカンプトテシン誘導体および薬学的に許容され得るその塩、ならびに天然カンプトテシンを出発原料とするそれらの製造方法を記載している。また、米国特許第6,121,451号は、カンプトテシン誘導体、たとえばイリノテカン塩酸塩を合成するための中間体および製造方法を開示している。
【0005】
サワダら(Chem. Pharm. Bull. 39(6), 1446-1454(1991))は、5段階で天然カンプトテシンからイリノテカン塩酸塩3水和物を全収率20%で合成する方法を記載している。
【0006】
上記のイリノテカンの製造方法は、いずれも7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンと[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドとの反応を含んでいる。
【0007】
本発明は、イリノテカンの製造において、例えば出発原料として使用できる[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドまたはその塩酸塩の製造方法に関する。
【0008】
[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドの製造方法は、米国特許第4,604,463号に記載されており、それによれば、この化合物は溶媒中でアミンにホスゲンまたはジホスゲンを反応させることにより生成することができる。そこに記載されている好適な溶媒は、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素およびヘキサンなどの脂肪族炭化水素である。CA参照番号2002:975660(JP2002371061)には、溶媒としてテトラヒドロフランおよびヘキサンを使用する方法が記載されている。CA1997:389121(JP09110865)に記載の方法における溶媒はベンゼンである。Henegar(J. Org. Chem. 62(1997), 6588-6597)によれば、この工程に使用される溶媒はトルエンである。上記製造方法にこれらの溶媒を使用した場合、除去が困難な二量体やその他の不純物が多量に形成される。二量体が存在すると、イリノテカン製造において収率は低下するのに対して、二量体の生成量が少ないと、イリノテカンの品質および色は改善される。EP特許第976,733号には、溶媒としてジクロロメタンを使用し、トリアルキルシリル化合物を経由する[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩の製造方法に対する異なるアプローチが記載されている。
【0009】
予想外なことに、本発明者は、[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドまたはその塩酸塩を、ジクロロメタンを溶媒として、4−ピペリジノピペリジンとホスゲンとを反応させることにより生成させると、生成する[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩またはその塩酸塩から遊離させた塩基中に含まれる二量体の量が、劇的に減少することを発見した。それ以外の不純物は、反応溶媒を蒸留するときに、蒸留温度を上げることができる追加的溶媒を使用することにより除去可能である。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、たとえばイリノテカンの製造における有用な中間体である[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドまたはその塩酸塩の製造方法に関する。4−ピペリジノピペリンとホスゲンの反応に溶媒としてジクロロメタンを使用し、蒸留温度を上昇させるために追加的蒸留溶媒を使用して反応溶媒を除去すると、[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩が高収率、高純度で得られる。二量体不純物の量は5%未満に抑えられ、1%未満に収まることもあろう。
【0011】
本発明の別の実施態様は、本発明にしたがって生成される[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドまたはその塩酸塩の、やはり高収率、高純度で達成できるイリノテカンの製造における出発原料としての使用である。
【0012】
本発明によれば、[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩は、ジクロロメタンを溶媒として使用する、4−ピペリジノピペリジンとホスゲンとの反応によって生成される。ホスゲンの代わりにジホスゲンまたはトリホスゲンも使用することができる。アミンと反応させると、ジホスゲンまたはトリホスゲンは、まずホスゲンに変換される。最も使いやすい形は、固体化合物であるトリホスゲンであり、本反応の場合、4−ピペリジニルピペリジンに対して1.2〜2.0当量(ホスゲンとして)であり、好ましくは1.3〜1.5当量が使用される。
【0013】
反応が完結すると、反応混合物に適切な非プロトン性溶媒、たとえばアセトニトリルが添加され、溶媒の一部が留去される。別の好適な溶媒は、[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩を溶解するが、それとは反応しない他のニトリル、エステルまたはケトンである。溶媒の添加は、蒸留前でもよいし蒸留中でもよく、たとえば溶媒を半分留去したあとでもよい。追加的溶媒を使用すると蒸留温度を高くすることができ、その場合は不純物の除去が改善される。追加的溶媒には、温度が50〜70℃に上昇するまで蒸留を継続できるように溶媒が選択される。アセトニトリルを追加的溶媒として使用する場合、上記温度におけるアセトニトリルとジクロロメタンとの比は、60:40〜90:10容量/容量である。本発明の一つの実施形態において、最終蒸留温度は60〜65℃であり、その場合、アセトニトリルとジクロロメタンの比は70:30〜80:20容量/容量である。この蒸留では、余分なホスゲンも留去され、ホスゲンに由来する不純物は生成物中に含まれない。
【0014】
蒸留終了後、適切な結晶化溶媒が添加される。好適な溶媒は芳香族および脂肪族炭化水素、エステル、ケトンおよびエーテルである。好ましくはトルエンが使用される。結晶生成物は、当業において公知である任意の方法によって単離され、たとえば、濾過または遠心分離法が使用できる。反応および単離中、保護用ガスとして任意選択的に窒素を使用することができる。
【0015】
塩基である[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドが、所望の生成物である場合、蒸留後、溶液は、任意選択的に炭酸水素ナトリウムまたは炭酸カリウムなどの弱塩基の水溶液で処理される。塩基を含むこの溶液は、そのままイリノテカンの合成に使用できる。
【0016】
高純度イリノテカンを合成する場合、出発原料も純粋であることが重要である。たとえば米国特許第6,121,451号に記載の7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンと反応させてイリノテカンを製造する場合に、本発明の方法にしたがって生成した[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドまたはその塩酸塩を使用すると、高純度のイリノテカンまたはその塩酸塩が得られ得る。結晶[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドは不安定なため、好ましい試薬はその塩酸塩であり、最初に遊離塩基に変換される。
【実施例】
【0017】
実施例1.[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩
反応および蒸留中、スクラッバーシステムが使われた。ホスゲンは、反応中に生成する。
【0018】
トリホスゲン(100g)をジクロロメタン1280mLに溶解した。4−ピペリジノピペリジン129.5gの溶液をジクロロメタン1280mLに溶解し、この溶液を、20〜25℃でトリホスゲン溶液に、冷却しながら(発熱反応)加えた。ジクロロメタンの一部(1500mL)を留去した。アセトニトリル(580mL)を少しずつ加えた。温度が63℃に達するまでジクロロメタンを留去した。トルエン(2000mL)を少しずつ加えた。混合物を室温まで冷却した。結晶化合物を濾過し、トルエン(約1000mL)で洗浄した。化合物を約40℃で減圧下にて乾燥した。
【0019】
収量は175.9g(85.5%)であった。
【0020】
HPLCによる純度99.2%、二量体不純物0.8%。
【0021】
実施例2.[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド
[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩(9.7g)、ジクロロメタン(150mL)およびK2CO3(10.5g、2.1当量)を反応容器に入れた。混合物を約1時間攪拌した。溶液を濾過し、濾過ケーキをジクロロメタン10mLで洗浄した。溶液([1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド8.4gを含む)は、そのままでイリノテカンの製造に使用できる。
【0022】
実施例3.7−エチル−10−[4−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジノ]カルボニルオキシ−カンプトテシン塩酸塩(イリノテカン)
7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン・H2O(10g)およびピリジン(120mL)を反応容器に入れた。[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩(9.6g)およびトリエチルアミン(8.5mL)をジクロロメタン(150mL)に溶かした溶液を加えた。混合物を室温で2時間攪拌した。混合物を減圧下にて蒸留し、乾固した。水(150mL)を加え、約80℃でpHを塩酸(5%)で4.0に調整した。混合物を0〜5℃まで冷却し、約20時間攪拌した。結晶化合物を濾過し、水で洗浄した。生成物を減圧下にて乾燥した。収量は13.2g(80%)であった。
【0023】
実施例4.7−エチル−10−[4−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジノ]カルボニルオキシ−カンプトテシン塩酸塩(イリノテカン)
7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン(4.5g)およびピリジン(60mL)を反応容器に入れた。[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩(3.44g)およびトリエチルアミン(4.8mL)をジクロロメタン(75mL)に溶かした溶液を30〜40℃で加えた。混合物を30〜40℃で1.5時間攪拌した。4−ピペリジノピペリジン(0.58g)を加え、混合物を0.5時間攪拌した。残留物の体積が約25mLになるまでジクロロメタンおよびピリジンを留去した。アセトニトリル(100mL)を加え、混合物を60℃まで加熱した。混合物を室温まで冷却し、5%塩酸を15mL加えた。混合物を室温で約20時間攪拌した。混合物を0±5℃まで冷却した。結晶化合物を濾過し、アセトニトリル:水10:1混合物(10mL)およびアセトニトリル(10mL)で洗浄した。
【0024】
生成物を減圧下にて乾燥した。収量は6.4g(90%)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩の製造方法であって、溶媒としてジクロロメタン中において4−ピペリジノ−ピペリジンとホスゲンとを反応させることを含む製造方法。
【請求項2】
さらに、前記[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩から、相当する塩基を遊離させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩を適切な溶媒から結晶化させることにより単離することを含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒がトルエンである請求項3記載の方法。
【請求項5】
さらに、[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリドと7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンとを反応させて、イリノテカンまたは薬学的に許容され得るその塩を製造することを含む請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
a)適切な非プロトン性溶媒を加えること、
b)溶媒の一部を留去すること、および
c)[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩を結晶化させること
を含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
工程a)の非プロトン性溶媒がアセトニトリルである請求項6記載の方法。
【請求項8】
工程b)の蒸留を温度が少なくとも50℃に上昇するまで継続する請求項6記載の方法。
【請求項9】
工程b)の蒸留を温度が少なくとも60℃に上昇するまで継続する請求項6記載の方法。
【請求項10】
請求項6記載の方法によって製造され、二量体不純物含有量が5%未満である[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩。
【請求項11】
請求項6記載の方法によって製造され、二量体不純物含有量が1%未満である[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩。
【請求項12】
さらに、[1,4’]ビピペリジニル−1’−カルボニルクロリド塩酸塩および7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンを反応させてイリノテカンを得ることを含む請求項6記載の方法。

【公表番号】特表2008−529991(P2008−529991A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553632(P2007−553632)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【国際出願番号】PCT/FI2006/000032
【国際公開番号】WO2006/084940
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(506090750)
【Fターム(参考)】