説明

mRNAに連結された可溶性ランダムポリペプチドのライブラリーの生成

可溶性ランダムポリペプチドのライブラリーを作製するための方法および組成物が提供される。この方法では、ポリペプチド中の親水性残基の分率が、ポリペプチド構築物の溶解度を維持するために制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年2月12日出願の米国仮特許出願第60/900869号の優先権を主張する。この優先出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
発明の背景
発明の分野
本発明は、可溶性ランダムポリペプチドのライブラリーを作製するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
タンパク質のin vitro進化は、所望の特性を有し得るタンパク質の出発集団が、改善された特性を有するタンパク質を進化させるために、選択および変異の回を重ねて受けるプロセスである。例えば、タンパク質を、レセプターなどの標的に対するその結合特性に関して選択することができる。タンパク質は、RNAディスプレイ、リボソームディスプレイ、ファージディスプレイなどにおけるように、それらをコードするポリヌクレオチドに連結され得るものであり、所望の特性を有するタンパク質のサブセットの回収後、そうしたタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、さらなる選択回で使用するためのタンパク質集団を得るために、変異を受け得る。このようにして、特性の改善されたタンパク質が、進化によって迅速に取得し得る。タンパク質のこのようなin vitro進化を達成するための系は、例えば、米国特許出願第11/415,844号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0003】
しばしば、タンパク質が大きな可溶性構成体(それ自体のmRNAなど)に結合している場合、その構成体は、溶液中で結合体を維持するための溶解度タグとして作用する。このような場合、タンパク質はタグから解離すると、溶解できなくなる。この進化段階は、溶解度に基づく1つまたは複数の選択ステップを使用しなかったので、その結果はほとんど使用できない恐れがある。したがって、機能的選択をするための可溶性タンパク質構築物のライブラリーの構築は、重要性を増してきた(Eur. J. Biochem. 271, 1595-1608; FEBS 2004)。終止コドンを欠くライブラリーは構築できるが、そのようなライブラリーは必ずしも可溶性ではないタンパク質を提供する。1つの顕著な例において、Choらはあるライブラリーを構築し、そこから、それ自体のmRNAに結合したATP結合タンパク質を選択した。しかし、それ自体の結合したmRNAから離れると、こうして選択したタンパク質は非常に不溶性となった。Cho, G., Keefe, A.D., Liu,R., Wilson, D.S.、およびSzostak, J. W. (2000) J. Mol. Biol. 297, 309-319(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。各クローンは、一部だけが折り畳まれ機能的なようであった。該タンパク質自体は、遊離タンパク質として発現した場合、凝集する傾向がある。これらのタンパク質の選択は、mRNA−cDNAテイルにより付与された改善された溶解度により促進された可能性があるとの仮説が立てられ、これは、このような配列が典型的なファージディスプレイ選択において見出されないであろうことを示す。Takahashi, T.ら、TRENDS in Biochemical Sciences, Vol.28, No.3, 2003年3月(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。Choらが記載した方法は、109アミノ酸の構築物を使用しており、そのうち80アミノ酸はランダムであった。Cho, G., Keefe, A. D., Liu, R., Wilson, D. S.およびSzostak, J. W. (2000) J. Mol. Biol. 297, 309-319。Choらの方法では、コドンを偏らせることは含まれていなかった。構築物末端の29アミノ酸は同定されてなかったが、それらが顕著に偏ったものでない限り、この集団が概して可溶性であると予測することは不可能であろう。
【0004】
機能的クローンの不溶性は、広大な配列空間で折り畳まれかつ機能的なタンパク質の相対的な不足をおそらく反映していると示唆されている。Takahashi, T.ら、TRENDS in Biochemical Sciences, Vol.28, No.3, 2003年3月。したがって、可溶性タンパク質および可溶性タンパク質のライブラリーを調製する方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第11/415,844号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Eur. J. Biochem. 271, 1595-1608; FEBS 2004
【非特許文献2】Cho, G., Keefe, A.D., Liu,R., Wilson, D.S.
【非特許文献3】Szostak, J. W. (2000) J. Mol. Biol. 297, 309-319
【非特許文献4】Takahashi, T.ら、TRENDS in Biochemical Sciences, Vol.28, No.3, 2003年3月
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
一実施形態において、可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに連結された当該可溶性ポリペプチドのライブラリーの作製方法が提供され、この方法は、複数のポリヌクレオチドを合成するステップ、これらのポリヌクレオチドから、コードされたポリペプチドを産生するステップ、および各ポリペプチドを、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに連結するステップを含み、各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合は、そのポリペプチドが可溶性になるように選択される。
【0008】
さらなる実施形態において、このポリペプチドは、長さ約100アミノ酸残基となることができる。さらなる実施形態において、このポリヌクレオチドは、キャップなしトリマーホスホラミダイト(uncapped trimer phosphoramidites)を使用して合成され得る。さらなる実施形態において、このポリヌクレオチドは終止コドンを含まない。
【0009】
さらなる実施形態において、親水性または表面適合性アミノ酸残基は、Asp、Arg、Ser、Gln、Asn、Lys、Glu、Gly、Proおよびそれらの組合せからなる群より選択され得る。さらなる実施形態において、親水性または表面適合性アミノ酸残基は、Arg、Lys、Asn、His、ProおよびAspならびにそれらの組合せからなる群より選択され得る。さらなる実施形態において、少なくとも1つのプロリンまたはグリシン残基が各ポリペプチドに含まれ得る。
【0010】
さらなる実施形態において、各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合は、以下の式:
【0011】
【数1】

【0012】
を使用して選択でき、式中、N=分子中のアミノ酸数であり、c=親水性または表面適合性アミノ酸の分率であり、yは、0.01、0.02、0.03、0.04および0.05からなる群より選択される。
【0013】
さらなる実施形態において、各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合は、以下の式:
【0014】
【数2】

【0015】
を使用して選択でき、式中、N=各ポリペプチド中のアミノ酸数であり、c=親水性アミノ酸の分率である。
【0016】
さらなる実施形態において、各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合は、以下の式:
【0017】
【数3】

【0018】
を使用して選択でき、式中、N=各ポリペプチド中のアミノ酸数であり、c=親水性アミノ酸の分率である。
【0019】
一実施形態において、可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに連結された当該ポリペプチドのライブラリーが提供され、このライブラリーは、以下のステップ:複数のポリヌクレオチドを合成するステップ、これらのポリヌクレオチドから、コードされたポリペプチドを産生するステップ、および各ポリペプチドを、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに連結するステップを含み、各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合は、そのポリペプチドが可溶性になるように選択されることを含む方法によって作製された、可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに連結された当該可溶性ポリペプチドのライブラリーを含む。
【0020】
さらなる実施形態において、このライブラリーはファージライブラリーとなることができる。さらなる実施形態において、請求項のライブラリーは、真核生物細胞内に存在し得る。さらなる実施形態において、このライブラリーは、リボソームディスプレイライブラリーとなることができる。さらなる実施形態において、このライブラリーは、RNAディスプレイライブラリーとなることができる。さらなる実施形態において、このライブラリーはプラスミドディスプレイライブラリーとなることができる。さらなる実施形態において、このポリヌクレオチドは終止コドンを含まない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】疎水性アミノ酸分率による、長さ100アミノ酸のタンパク質の集団の分布を示す図である。
【図2】開示された実施形態のいくつかの間に生じ得る種々の可能なステップを記載するフローチャートを示す図である。
【0022】
図面の簡単な説明
図1は、疎水性アミノ酸分率による、長さ100アミノ酸のタンパク質の集団の分布を示す図である。およそ61のセンスコドンの比率である、50%の親水性アミノ酸および50%の疎水性アミノ酸の集団から配列が選択される場合。Min-yi Shen, Fred P. Davis, Andrej Sali; The optimal size of a globular protein domain: A simple sphere-packing model; Chemical Physics Letters 405 (2005) 224-228)より。
【0023】
図2は、開示された実施形態のいくつかの間に生じ得る種々の可能なステップを記載するフローチャートを示す図である。
【0024】
好ましい実施形態の詳細な説明
本開示は、本来的に可溶性のランダムポリペプチドのライブラリーを生成するための組成物および方法に関する。種々の実施形態において、可溶性タンパク質のライブラリーを調製するための方法が提供される。有利なことに、本明細書に開示されるライブラリーは、種々の異なる形式(RNAディスプレイ、リボソームディスプレイ、ファージディスプレイなどを含む)を取ることができる。本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、ポリペプチド中に存在する疎水性アミノ酸に対する親水性アミノ酸の比率を制御することによる、可溶性ポリペプチドの調製に関する。本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、ポリペプチド中の表面適合性アミノ酸の含量を制御することによる、可溶性ポリペプチドの調製に関する。本明細書に開示される種々の実施形態において、in vitro進化の可溶性産物の選択のための方法が提供される。本明細書に記載される種々の実施形態は、可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに連結された当該可溶性ポリペプチドの調製に関する。
【0025】
当業者に理解されるとおり、可溶性ポリペプチドを作製する能力は、広範な種々の適用において大きな利益(例えば、選択系へのアクセスしやすさの増加を含む)を有し得る。本明細書に開示される方法およびそのような方法によって生成されるライブラリーは、例えば、所望の特性を有するポリペプチドを開発するためのin vitro進化プロセスにおいて有用である。このような特性には、例えば、標的タンパク質(例えばレセプター)への結合の増大またはワクチンに使用されるポリペプチドの開発が含まれる。
【0026】
上記およびさらなる実施形態は、本明細書で使用する用語の一部について定義を簡単に考察した後、以下により詳細に考察する。
【0027】
本明細書で使用される各項の見出しは、編成だけを目的としており、記載する主題を限定するものと決して解釈すべきでない。本出願中に引用されるすべての文献および同様の資料(特許、特許出願、記事、書籍、論文およびインターネットウェブページが含まれるが、これらに限定されない)は、任意の目的のために、その全体が参照により明示的に組み込まれる。組み込まれた文献中の用語の定義が、本教示に示す定義と異なるように思われる場合には、本教示に示す定義が優先するものとする。本教示中で議論される温度、濃度、時間などの前には暗黙の「約」が存在し、わずかで実質的でない逸脱は、本明細書の教示の範囲内であると理解される。本出願において、単数形の使用は、そうでないと特に示されない限り複数形を含む。また、「含む(comprise、comprises、comprising、contain、contains、containing、include、includesおよびincluding)」の使用は、限定を意図するものではない。上記の一般的説明および以下の詳細な説明の両方は、例示および説明のみであり、本発明を制限しないことが理解されるべきである。
【0028】
他に定義がない場合、本明細書に記載される本発明に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者が一般的に理解している意味を有するものとする。さらに、文脈が他を要求しない限り、単数形の用語は複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。本明細書に提供する実施形態に従って利用する場合、以下の用語は、別途指示がない限り、以下の意味を有すると理解するものとする。
【0029】
用語「タンパク質」、「ペプチド」および「ポリペプチド」は、任意の形態(例えば、D−アミノ酸またはL−アミノ酸、ペプチド結合を介して重合可能な合成または修飾アミノ酸など)のアミノ酸を含む2つ以上の単位のポリマー分子を意味すると本明細書で定義され、これらの用語は、本明細書で互換的に使用し得る。
【0030】
用語「連結された」とは、本明細書で使用する場合、結合していることを意味する。本明細書に記載されるような連結された構成体は、そうである必要はないが、互いに物理的に直接接続することができる。いくつかの実施形態において、連結された構成体は、互いに物理的に直接結合される。直接的な物理的連結の一例は、ポリペプチド−mRNA融合物である。直接的な物理的連結の別の例は、mRNAを、そのmRNAから合成されたポリペプチドに連結させるリボソームである。他の実施形態において、構成体同士は、同じファージ、リボソームまたは細胞との結合によって間接的に連結できるが、必ずしも互いに物理的に直接結合していない。間接的連結の例には以下が含まれるがこれらに限定されない:ポリヌクレオチドを含み、そのポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを発現しているファージ、およびポリヌクレオチドを含み、そのポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを発現している細胞。
【0031】
用語「表面適合性」は、本明細書で使用する場合、ポリペプチドの不溶性に実質的に寄与せずにそのポリペプチドの表面に存在できることを意味する。アミノ酸Asp、Arg、Ser、Gln、Asn、Lys、Glu、GlyおよびProは、「表面適合性」とみなされる。
【0032】
「ヌクレオチド」とは、モノマー単位としての、または核酸内の、ヌクレオシドのリン酸エステルをいう。「ヌクレオチド5’−三リン酸」とは、5’位に三リン酸エステル基を有するヌクレオチドをいい、しばしば、リボース糖の構造的特徴を特に指摘するために、「NTP」または「dNTP」および「ddNTP」と示される。三リン酸エステル基は、種々の酸素の硫黄置換を含み得る(例えば、α−チオ−ヌクレオチド5’−三リン酸)。核酸化学の総説については、Shabarova, Z.およびBogdanov, A. Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, VCH, New York, 1994を参照のこと。
【0033】
用語「核酸」とは、天然核酸、人工核酸、それらのアナログ、またはそれらの組合せをいう。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は互換的に使用され、ヌクレオチドモノマーの一本鎖および二本鎖のポリマー(核酸)を意味し、これには、ヌクレオチド間ホスホジエステル結合連結(例えば、3’−5’および2’−5’、逆連結(inverted linkage)、例えば、3’−3’および5’−5’、分枝構造)によって連結された、2’−デオキシリボヌクレオチド(核酸)およびリボヌクレオチド(RNA)、またはアナログ核酸が含まれるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチドは、H+、NH4+、トリアルキルアンモニウム、Mg2+、Na+などの対イオンと結合している。ポリヌクレオチドは、全体がデオキシリボヌクレオチドから構成できるか、全体がリボヌクレオチドから構成できるか、またはそれらのキメラ混合物でもよい。ポリヌクレオチドは、核酸塩基および糖アナログを含み得る。ポリヌクレオチドのサイズは、典型的に、数モノマー単位(例えば、より一般に当技術分野でオリゴヌクレオチドと頻繁に呼ばれる場合には5〜40)から、数千モノマーヌクレオチド単位までの範囲である。別に示されない限り、ポリヌクレオチド配列が示される場合はいつでも、ヌクレオチドは、左から右に5’から3’の順であり、「A」はデオキシアデノシンを示し、「C」はデオキシシチジンを示し、「G」はデオキシグアノシンを示し、そして「T」はチミジンを示すことが理解されよう。
【0035】
用語「tRNA分子」は、本明細書で使用する場合、通常の意味を有し、また、安定なアミノアシルtRNAアナログ(SATA)、連結tRNAアナログ(Linking tRNA Analog)およびナンセンスサプレッサーアナログも意味するものとするが、これらのアナログはすべて本明細書に記載されている。tRNA分子には、ネイティブtRNA、合成tRNA、ネイティブtRNAと合成tRNAとの組合せ、それらの任意の修飾が含まれる。好ましい実施形態において、tRNAは、リボソームペプチジルトランスフェラーゼにより新生ペプチドに接続され、tRNA分子のアンチコドンとRNAメッセージのコドンとの間の紫外線誘発架橋を介してmRNAに接続される。これは、例えば、チオウラシル、ブロモウラシルなどによって行われ得る。1つの好ましい実施形態において、リンカーは、mRNAの最後の翻訳可能なコドンまたは好ましくは選択したtRNAアンチコドンのいずれかの上に予め配置した、ソラレンモノ付加体、非ソラレン架橋剤、またはそれらのアナログもしくは修飾体から形成されたソラレン架橋である。好ましくは、tRNA終止アンチコドンが選択される。終止コドン/アンチコドン対は、全長転写物のために選択する。当業者は、終止コドンを有さないmRNAも使用され得ること、さらには、任意のコドンまたは核酸トリプレットが、本発明のいくつかの実施形態に従って使用され得ることを、理解するであろう。天然に存在しないアンチコドンを有するtRNAは、当技術分野で公知の方法に従って合成できる。
【0036】
一実施形態において、tRNAのアンチコドンは、mRNAとの架橋を形成でき、この架橋は、以下の1つまたは複数からなる群より選択される:2−チオシトシン、2−チオウリジン、4−チオウリジン、5−ヨードシトシン、5−ヨードウリジン、5−ブロモウリジンおよび2−クロロアデノシン、アリールアジド、ならびにそれらの修飾またはアナログ。これらの架橋剤は、Ambion,Inc.(Austin、TX)、Dharmacon,Inc.(Lafayette、CO)および他の周知の科学材料製造業者から市販されている。
【0037】
用語「偽終止コドン」は、天然にはナンセンスコドンではないが、メッセージがさらに翻訳されるのを防ぐコドンを意味するように、本明細書で定義される。偽終止コドンは、以下に記載するように、「安定なアミノアシルtRNAアナログ」即ちSATAを使用することによって、作製され得る。このように、偽終止コドンは、SATAによって認識され、SATAに結合するコドンである。偽終止コドンを作製する別の方法は、その偽コドンに相補的なアンチコドンを有する必要なtRNAが実質的に枯渇された、人工の系を作製することである。したがって、翻訳は、存在しないtRNAが要求されるときに、例えば偽終止コドンで、停止する。
【0038】
可溶性ポリペプチドのためのアミノ酸の選択
ポリペプチドに関する多くの用途が、水溶性を要する。本明細書に開示された方法を使用して、可溶性ポリペプチドを産生するように偏らせたライブラリーを構築できる。
【0039】
ポリペプチドの溶解度は、他のタンパク質特徴のなかでも、ポリペプチド中の疎水性残基の割合およびそのポリペプチドの長さに依存する。一般に、ポリペプチドが可溶性となるには、ポリペプチドが、好ましくは、折り畳みの制約にかかわりなく、疎水性コアを被覆するために利用可能な適切な数の親水性アミノ酸を有する。分子の体積に対する表面の比率は、サイズの減少と共に増大するので、この比率は、異なるサイズまたは長さの配列について異なるであろう。
【0040】
単純なモデルは、偏りのないアミノ酸含量について、溶解度に最適なサイズが約150アミノ酸であることを示している。Shen, M.- Y., Davis, F., Sali, A. Chemical Physics Letters (2005) 405, pp.224-228(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。この2005年の単純なモデルに従えば、長さ109アミノ酸のポリペプチドの少なくとも90%が、不溶性であると予測される。アミノ酸を、疎水性対親水性、または表面対コア占有者とみなす場合、集団中の異なる比率の分布は、確率pおよび1−pとして2つの型のパーセンテージを有する二項分布として理解できる:
【0041】
【数4】

【0042】
式中、rは、配列中に存在する第1のクラスを示すアミノ酸数であり、(n−r)は第2のクラスを示すアミノ酸数であり、n=配列の長さである。したがって、50%の疎水性アミノ酸および50%の親水性アミノ酸を有するタンパク質集団について、n=100のときの疎水性アミノ酸分率による母分布は、図1に示すように見える。
【0043】
ポリペプチドの溶解度に影響を与える主な因子の1つは、水溶媒への疎水性アミノ酸の露出である。溶解度の増大のために、ポリペプチドが、水溶媒から離れて位置づけられる疎水性アミノ酸を有することが一般に所望される。これは、ある意味では、体積に対する表面の比率の制約である。ポリペプチドが小さいほど、体積に対する表面の比率は大きくなるであろう。体積に対する表面の比率は、タンパク質の長さによって変化するので、疎水性アミノ酸に対する親水性アミノ酸の割合は、ポリペプチド中の総アミノ酸数に従って、溶解度に向けてこの比率を偏らせるように、調整され得る。
【0044】
完全に親水性アミノ酸のポリペプチド集団について、分子は完全に折り畳まれない状態でいることができるので、構造は存在しないであろう。これを、非常に低いがゼロではない疎水性アミノ酸分率を有する集団と比較すると、親水性アミノ酸残基の分布の仕方はより少なく、親水性アミノ酸残基は疎水性アミノ酸残基を溶媒からなおも遮蔽する。ポリペプチドの疎水性アミノ酸分率が増大するにつれて、親水性アミノ酸残基の配置に対する制約は増加し、したがって、構造化する傾向が高まる。この傾向は、「ランダムコイル」の次に「本質的に無秩序なポリペプチド(intrinsically disordered polypeptide)」、次に「モルテングロビュール」、そして剛直な高度に構造化したグロビュール、そして最終的には不溶性凝集体の順に、進む。したがって、ポリペプチドの疎水性アミノ酸集団がゼロから100%に増大するにつれ、ポリペプチドの構造は以下のように変化する:構造なし→ランダムコイル→本質的に無秩序なポリペプチド→モルテングロビュール→剛直な高度に構造化されたグロビュール→不溶性凝集体。
【0045】
一般に、所与の長さのポリペプチドについて、本質的に無秩序なポリペプチドに最適な疎水性に対する親水性の比率が存在し、モルテングロビュールに関する比率については疎水性に対する親水性の比率はより低く、剛直なグロビュールについての疎水性に対する親水性の比率はさらにより低く、それを下回ると溶解度の機会はほとんどない。
【0046】
可溶性ポリペプチドライブラリーの調製において、ポリペプチド中の疎水性アミノ酸残基および親水性または表面適合性アミノ酸残基の分布は、ポリペプチドが可溶性になるように親水性または表面適合性アミノ酸の割合を選択することによって、溶解度に向かって含量を偏らせるように選択できる。以下の式が、ポリペプチドが可溶性になるように親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合を選択するために使用され得る:
【0047】
【数5】

【0048】
式中、N=ポリペプチド中のアミノ酸数であり、c=親水性または表面適合性アミノ酸の分率である。この式は以下のように導出される:
【0049】
【数6】

【0050】
式中、N=ポリペプチド中のアミノ酸数であり、c=親水性または表面適合性アミノ酸の分率である。上記式を使用する一例において、N=100のとき、表面適合性アミノ酸の割合は58%であり、内側は42%である。上記式を、親水性または表面適合性アミノ酸の割合を選択するためのガイドラインとして使用して、ポリペプチド中の疎水性アミノ酸残基および親水性即ち「表面適合性」アミノ酸残基の分布の調整は、所望のレベルの溶解度が達成されるまで実施され得る。
【0051】
アミノ酸Asp、Arg、Ser、Gln、Asn、Lys、Glu、GlyおよびProは、「表面適合性」とみなされる。親水性または表面適合性アミノ酸の割合を選択することに加えて、アミノ酸の骨格における鋭い方向転換も、特にポリペプチドが小さくなるにつれて、溶解度を補助することになろう。したがって、いくつかの実施形態において、グリシンおよびプロリンの添加も、偏りの中に含めることができる。単純な結合ポリペプチドを含むいくつかの実施形態において、高い溶解度を有する緩いポリペプチド立体配置が、しばしば適切であり得る。したがって、緩いポリペプチド立体配置および高い溶解度が十分であるような状況では、必要な変異導入ステップはより少ない。より堅固でより剛直なポリペプチド構造を要する他の実施形態では、溶解度の限界に向かってより近づくことが有用となり得る。言い換えると、いくつかの実施形態において、ポリペプチドがほぼ不溶性になるように、ポリペプチド中の疎水性アミノ酸残基および親水性アミノ酸残基の分布を調整することが所望され得る。これは、例えば、溶解度の限界により近いところから始めるか、さらなる回数変異導入を続けることによって、実施され得る。
【0052】
およそ61のセンスコドンの比率である、50%の親水性アミノ酸および50%の疎水性アミノ酸の集団から配列が選択される場合、各変異導入ステップは、ポリペプチド中の親水性アミノ酸および疎水性アミノ酸の割合を、ランダムコドントリプレットの平均に向けて約1.5%変化させると概算される。これは、各配列につき平均して1変異の変異率を前提とする。異なる比率は、割合における異なる変化を与える。
【0053】
いくつかの実施形態において、以下の式が、ポリペプチドが可溶性になるように親水性または表面適合性アミノ酸の割合を選択するために使用され得る:
【0054】
【数7】

【0055】
式中、N=分子中のアミノ酸数であり、c=親水性または表面適合性アミノ酸の分率であり、yは約0、0.01、0.02、0.03、0.04または0.05となり得る。
【0056】
好ましい実施形態において、以下の式が、ポリペプチドが可溶性になるように親水性または表面適合性アミノ酸の割合を選択するために使用され得る:
【0057】
【数8】

【0058】
式中、N=分子中のアミノ酸数であり、c=親水性または表面適合性アミノ酸の分率である。
【0059】
他の好ましい実施形態において、以下の式が、ポリペプチドが可溶性になるように親水性または表面適合性アミノ酸の割合を選択するために使用され得る:
【0060】
【数9】

【0061】
式中、N=分子中のアミノ酸数であり、c=親水性または表面適合性アミノ酸の分率である。
【0062】
表面適合性アミノ酸の合わせた分率がcをはるかに超える場合、そのポリペプチド集団の剛直性が概して低下し、その立体配置に対する制約が減少することになろう。親水性または表面適合性アミノ酸の合わせた分率がcに近づくにつれて、そのポリペプチドの剛直性が高まり、折り畳まれ方が減少することになろう。
【0063】
図2は、可溶性ポリペプチドのライブラリーを調製するための一実施形態を示す。長さ約N残基の複数のランダムポリペプチドが、出発点として使用され得る(図2の100)。Nは、例えば、限定でなく、約2から約10,000アミノ酸までの任意の数などの、アミノ酸残基の任意の数でもよい。いくつかの実施形態では、Nは、約10〜約1000アミノ酸でもよい。他の実施形態では、Nは、約50〜約500アミノ酸でもよい。他の実施形態において、Nは、約80〜約150アミノ酸でもよい。他の実施形態において、Nは、約50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119または120でもよい。割合cは、各ポリペプチド中のアミノ酸残基数であるNに基づいて、以下のように計算できる:
【0064】
【数10】

【0065】
式中、N=各ポリペプチド中のアミノ酸数である(図2の110)。各ポリペプチドについての親水性または表面適合性アミノ酸の新たな割合は、各ポリペプチドについて上記のように計算したcとなるように選択される。各ポリペプチドのアミノ酸含量は、各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸の割合が(110)で上述のとおり計算したcとなるように調整され、それによって可溶性ポリペプチドのライブラリーを提供する(図2の120)。
【0066】
したがって、可溶性ポリペプチドは、親水性または表面適合性アミノ酸の分率を選択することによって設計され得る。一旦ポリペプチドのアミノ酸含量が選択されると、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、当技術分野で公知の種々の方法を使用して合成され得る。ポリヌクレオチドの調製のための好ましい実施形態は、次の項に記載される。本明細書に記載されるように設計した可溶性ポリペプチドを調製するのに適切な他の例示的方法は、Doi,N.ら、Protein Engineering, Design & Selection vol.18 no.6 pp.279-284, 2005; Keefe, A. D.およびSzostak, J. W. (2001) Nature, 410, 715-718; Yamauchi, A.ら、(1998) FEBS Lett., 421, 147-151.; Prijambada, I.ら、(1996) FEBS Lett., 382, 21-25.;ならびにDavidson, A.およびSauer, R. (1994) Proc. Natl Acad. Sci. USA, 91, 2146-2150(これらはすべて、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる)に提供されるが、限定ではない。いくつかの実施形態において、可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは次いで、例えば、ポリヌクレオチドに連結された可溶性ポリペプチドのライブラリーを調製するために使用され得る。
【0067】
ポリヌクレオチド調製
いくつかの実施形態において、可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、所望のアミノ酸のためのコドンに対応するヌクレオチドトリプレットを使用して調製される。ポリヌクレオチドの合成は、当技術分野で公知の種々の方法を使用して実施され得る。例えば、ポリヌクレオチドは、ホスホラミダイトを用いる方法を使用して、3’から5’へポリヌクレオチドを構築するための他の化学的方法を使用して、またはトリヌクレオチドおよび適切なリガーゼ(例えば、T4 DNAリガーゼまたはRNAリガーゼ)を使用して酵素的に、調製され得る。いくつかの実施形態において、ホスホラミダイト法が、所望の長さまで酵素的にライゲーションされ得る短い配列を構築するために使用され得る。
【0068】
種々の実施形態において、ホスホラミダイト技術は、全長ポリヌクレオチドを作製するために使用され得る。いくつかの実施形態において、約150ヌクレオチドよりも長いオリゴの合成に適合する、例えば約1000Åを超える孔サイズを有するCPG支持体を使用することが有用となり得る。このようなCPG支持体は市販されている(例えば、3000ÅについてはMilliporeおよび3−Prime、2000ÅについてはGlen Research)。トリヌクレオチドを一緒に付加するための種々の方法が、当技術分野で公知である。
【0069】
いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、修飾されたホスホラミダイト系を使用して調製され得る。例えば、ポリヌクレオチドは、コドンホスホラミダイトなどの修飾ホスホラミダイト、またはDNA合成装置における使用のために完全に保護されたヌクレオチドトリマー(例えば、Biolyticsより市販される)を使用して調製され得る。所望の疎水性/親水性比率でトリマーを混合することによって、配列のランダム部分の合成の間に、この比率で繰り返して、貯蔵所から単純に付加できる。
【0070】
トリマーホスホラミダイトのカップリング効率は、ほとんどのホスホラミダイト試薬についての>99%と比較して、一般に80〜90%に過ぎない。無水酢酸によるキャッピングが、リーディングフレームの変更を防止するために使用され得る。しかし、付加を受容できない各配列が、無水酢酸でキャッピングされてさらなる反応から除外される場合、損耗(attrition)が、多くの試薬の長さをひどく制限し得る。したがって、従来の合成プロトコルで使用されるトリマーは、非常に短くなる傾向がある。しかし、リーディングフレームを変更しないでキャッピングステップを省くことは、より長い試薬を提供し得る。キャッピングステップを、5’末端をさらなる付加のために空けておくステップで置き換えることによって、さらなる付加が損耗なく可能になり得る。いくつかのプロトコルは、乾燥(例えば、Expedite 8900 Workstation Software User's Guideを参照のこと)および側鎖修飾の調整(Pon, R.ら、(1986) Nuc. Acids Res. 14, 6453-6470)などの他の機能のためにキャッピングを使用しているので、キャッピングステップを省く場合には、さらなる手順が所望され得る。
【0071】
キャッピングステップの除去は、単一の長さの代わりに、キャッピングされていないさらなる長さの分布を生じ得る。この分布はまた、それぞれ0.8および0.2の確率(80%のカップリング効率を仮定)を有する付加対非付加の二項式に従うので、平均100のランダム付加を有するには、さらに125回のサイクルを実行することが必要となろう。
【0072】
いくつかの実施形態において、メチルイミジゾール(methylimidizole)を用いる「モック」キャッピングステップおよび水性ではあるが無水酢酸キャッピング試薬を用いないステップが、ランダムヌクレオチドのライブラリーを構築するために使用され得る(Pon, R. T., Usman, N., Damha, M.およびOgilvie, K. K. (1986) Nuc. Acids Res. 14, 6453-6470; J. Scott EadieおよびD. Scott Davidson, Nucleic Acids Research 15: 8333-8349 1987)。付加されたホスホラミダイトは、鎖の切断を後に導き得るグアニン塩基のO6に結合できるので、水性ステップが使用される。「モック」キャッピングステップまたは水性ステップは、グアニンから修飾を除去し、切断を防ぐ。
【0073】
いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、意図したリーディングフレーム中に終止コドンを含まない。
【0074】
種々の実施形態において、可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドに連結された可溶性ポリペプチドのライブラリーを調製するために使用することができる。可溶性ポリペプチドは、例えば限定しないが、RNAディスプレイ、リボソームディスプレイ、ファージディスプレイなどによって、それらをコードするポリヌクレオチドに連結され得る。種々のライブラリー形式が、可溶性ペプチドライブラリーのために使用することができる。
【0075】
ライブラリー調製
本発明のライブラリーは、以下に記載されるものを含む多数の形式で調製することができる。ライブラリー形式の各々について、可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、可溶性ポリペプチドライブラリーの調製において使用され得る。このポリヌクレオチドは、上記項目に記載されるように、または当技術分野で公知の種々の方法によって、合成することができる。
【0076】
いくつかの実施形態において、可溶性ランダムポリペプチドをコードするmRNAに連結された、終止コドンを欠くそのようなポリペプチドのライブラリーが、提供される。いくつかの実施形態において、リボソームの解離後、これらのポリペプチド−mRNA融合物に対して選択が実施され得る。例えば米国特許出願第11/415,844号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示された方法が、ポリペプチド−mRNA融合物を作製するために使用され得る。いくつかの実施形態において、例えば連結tRNAアナログが、mRNAをその同族ペプチドに接続するために使用できる。いくつかの実施形態において、連結tRNAアナログは、例えば、アンチコドンループ上に配置された架橋剤を有する、ネイティブまたは合成のtRNA(またはネイティブ−合成ハイブリッドの組合せ)でもよい。好ましくは、この架橋剤は、共有結合を介してアンチコドンループに結合される。いくつかの実施形態において、連結tRNAアナログは、リボソームペプチジルトランスフェラーゼの作用を介して、その3’アミノアシル部分に新生ペプチドを受容する。3’アミノアシル部分は、そのtRNAにとってネイティブでもよく、または合成により導入することができる。いくつかの実施形態において、メッセージは、tRNAが結合したコドン(連結コドン)を越えては翻訳されないので、ペプチドとtRNAとの間のエステル結合は、リボソームペプチジルトランスフェラーゼから保護される。したがって、リボソームペプチジルトランスフェラーゼは、tRNAからペプチドを開放することができない。したがって、本発明のいくつかの実施形態において、tRNAとペプチド鎖との間のエステル結合は、ピューロマイシンの必要性を避けるのに十分に頑丈である。連結tRNAアナログとペプチドとの間の接続は、エステル結合を介して連結される場合、翻訳されたメッセージを、連結コドンを越えて「翻訳できない」ようにすることによって、リボソームペプチジルトランスフェラーゼによる解離から保護される。有利なことに、メッセージは次いで、さらなる同定、選択および進化のために、そのペプチドに安定に結合される。別の利点は、合成または修飾されたtRNAを、連結tRNAアナログを使用するいくつかの実施形態において使用する必要がないということである。
【0077】
いくつかの特定の実施形態において、tRNAは、3’末端が未修飾であるという意味で未修飾であり、アンチコドンループ上には軽微な修飾を有しても有さなくてもよい。多くの実施形態において、未修飾のネイティブtRNA(特に、3’末端が未修飾)が使用でき、したがって、この系を、とりわけ、コスト効果をよりよくし、より効率的にし、より迅速にし、エラーを起こりにくくし、かなり高い収率を生じることを可能にする。以下の理論に拘束されることを望まないが、ピューロマイシン(または類似のリンカー)の存在は、いくつかの場合には低い収率を生じ得る。なぜなら、ピューロマイシンは、伸長因子のtRNAとの相互作用を妨害し、したがって収率に影響を与えるからである。さらに、伸長因子は、ピューロマイシン(または類似のリンカー)によって妨害されない場合、動的なプルーフリーディングを達成でき、それによってエラー率を低下させる。
【0078】
上記RNAディスプレイライブラリー形式に加えて、多数の細胞ベースのライブラリー法が、可溶性ポリペプチドライブラリーに利用可能である(例えば、ファージ(Smith, G. P. (1985) Science 228 1315-1317)、細菌(Georgiou, G.ら、(1993) TIBTECH 11 6-10)および動物ウイルス(Kasahara, Nら、(1994) Science 266, 1373-1376)の表面上)。ファージディスプレイでは、タンパク質またはペプチドは、コートタンパク質への融合物としてファージの表面上に個々に発現され、一方で同じファージ粒子が、そのタンパク質またはペプチドをコードするDNAを保有する。ファージの選択は、特定のファージが単離およびクローニングされるのを可能にし、そのタンパク質またはペプチドに関するDNAが回収および増殖または発現されるのを可能にする、タンパク質またはペプチドの認識を含む特異的結合反応を介して達成される。
【0079】
本明細書に開示される可溶性タンパク質ライブラリーに適した別のライブラリー形式は、リボソームディスプレイである。この形式は、コード化mRNAとの安定な複合体もまた形成されるような、リボソーム表面上での新生形態でのポリペプチドのディスプレイを含む;この複合体は、タンパク質またはペプチドに対するリガンドおよび単離されたmRNAの逆転写によって得られる遺伝情報を用いて選択される。これは、リボソームディスプレイまたはポリソームディスプレイとして知られる。このような方法の説明は、G.Kawasaki/Optein Inc.に付与された2つの米国特許(Kawasaki, G.、米国特許第5,643,768号、Cell free synthesis and isolation of novel genes and polypeptides (1997年7月1日)および同第5,658,754号(1997年8月19日)であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)中に見出され得る。
【0080】
上記の種々のデバイスおよび系は、本発明を実施するための多数の方法を提供する。記載されたすべての目的または利点が、必ずしも本明細書に記載された任意の特定の実施形態に従って達成され得るわけではないことを理解すべきである。また、本発明は、特定の実施形態および例との関連で開示されてきたが、本発明が、具体的に開示された実施形態を越えて、他の代替的実施形態および/または使用ならびにその明らかな改変および均等物まで及ぶことが、当業者には理解されよう。したがって、本発明は、本明細書の好ましい実施形態の具体的な開示によって限定されることを意図しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに連結された当該可溶性ポリペプチドのライブラリーを作製する方法であって、
複数のポリヌクレオチドを合成するステップ、
前記ポリヌクレオチドから、コードされたポリペプチドを産生するステップ、および
各ポリペプチドを、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに連結するステップ
を含み、各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合は、そのポリペプチドが可溶性になるように選択される方法。
【請求項2】
前記ポリペプチドが長さ約100アミノ酸残基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが、キャップなしトリマーホスホラミダイトを使用して合成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドが終止コドンを含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
可溶性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに連結され、請求項1に記載の方法によって作製された、当該可溶性ポリペプチドのライブラリー。
【請求項6】
ファージライブラリーである、請求項5に記載のライブラリー。
【請求項7】
真核生物細胞中に存在する、請求項5に記載のライブラリー。
【請求項8】
リボソームディスプレイライブラリーである、請求項5に記載のライブラリー。
【請求項9】
RNAディスプレイライブラリーである、請求項5に記載のライブラリー。
【請求項10】
プラスミドディスプレイライブラリーである、請求項5に記載のライブラリー。
【請求項11】
各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合が、以下の式:
【数1】

を使用して選択され、式中、N=分子中のアミノ酸数であり、c=親水性または表面適合性アミノ酸の分率であり、yは、0.01、0.02、0.03、0.04および0.05からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合が、以下の式:
【数2】

を使用して選択され、式中、N=各ポリペプチド中のアミノ酸数であり、c=親水性または表面適合性アミノ酸の分率である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
各ポリペプチド中の親水性または表面適合性アミノ酸残基の割合が、以下の式:
【数3】

を使用して選択され、式中、N=各ポリペプチド中のアミノ酸数であり、c=親水性または表面適合性アミノ酸の分率である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
親水性または表面適合性アミノ酸残基が、Asp、Arg、Ser、Gln、Asn、Lys、Glu、Gly、Proおよびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項1から4または11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
親水性または表面適合性アミノ酸残基が、Arg、Lys、Asn、His、ProおよびAspならびにそれらの組合せからなる群より選択される、請求項1から4または11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つのプロリンまたはグリシン残基が各ポリペプチドに含まれる、請求項1から4または11から13のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−517583(P2010−517583A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549303(P2009−549303)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/053757
【国際公開番号】WO2008/100961
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(506198285)プロテオノヴァ、 インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】PROTEONOVA, INC.
【Fターム(参考)】