説明

miRNA−100を含む医薬組成物ならびに血管増殖および内皮炎症を調節するためのその使用

配列番号1、2、3、および/または9のいずれかと少なくとも85%の相同性を有するmiRNA−100分子もしくはそのアンタゴmirまたはそれらの変異体を含む、血管増殖および血管炎症を正または負に調節するための薬剤として使用される医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
マイクロRNA(miRNA)は、タンパク質をコードしない小さなRNAの一種であり、翻訳を阻害することができる。特定の遺伝子から発現されるmiRNA種は、細胞遺伝子発現の制御において重要な役割を担っており、たとえば、成長の制御、造血幹細胞の分化、アポトーシス、がんの発生などに関わっている。miRNAは、RNAポリメラーゼIIまたはIIIによって、単独で転写されるか、または複数個が組み合わさって長い一次転写産物(プリmiRNA(pri−miRNA))へと転写される。ヒトゲノムには、少なくとも500種の異なるmiRNA遺伝子が含まれていると推定され、これらのmiRNA遺伝子は、初期段階では、5’末端にキャップが付加されかつポリアデニル化されたRNAポリメラーゼII転写産物として発現すると考えられている。miRNA遺伝子は、個別に制御された遺伝子として発現するか、または数個のmiRNAを含みうる単一の一次転写産物からプロセシングされたmiRNAクラスターとして発現する。「Drosha(ドローシャ)」は、プリmiRNAを切断して、特定の二次ヘアピンループ構造を形成する70〜100ヌクレオチドのプレmiRNA(pre−miRNA)を生成する。次いで、細胞質において「Dicer(ダイサー)」と呼ばれる酵素によりプロセシングが行われ、約16〜29ヌクレオチドの成熟一本鎖が生成される。このようにして形成された成熟miRNAとそのアンチセンス鎖とを含む二本鎖RNA分子は、ヘリカーゼによってほどかれる。アンチセンス鎖は分解されるが、成熟miRNAはRNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれる。
【0002】
翻訳サイレンシングを引き起こすものとして、標的mRNAの3’非翻訳領域(3’−UTR)への不完全塩基対結合によるタンパク質合成阻害、および/または、標的mRNAへの完全に相補的な結合による該mRNAの切断が挙げられる。したがって、miRNAを介して遺伝子発現を阻害することにより、多種類の標的細胞を制御できる可能性があり、また、複数種のmiRNAで個々の遺伝子を標的とすることもできる。
【0003】
適応性血管新生は、心血管疾患における重要な防御機構のひとつである。しかしながら、この過程における基本的な制御機構は、部分的にしか理解されていない。近年、内因性の小さなRNAが、胎児期および出生後の血管形成に重要な役割を果たしていることが判明した。血管新生制御および動脈新生制御に関与するmiRNAを同定するために、マイクロRNAトランスクリプトーム解析を使用して、後肢虚血を誘導したマウスにおいて差次的に発現されたmiRNAのスクリーニングが行われた。この結果、ダウンレギュレートされたマイクロRNA−100が、内皮細胞の増殖、内皮細胞による血管形成、および内皮細胞が有する血管発芽活性を調節し、また、セリン/トレオニンプロテインキナーゼ(mTOR)の内因性抑制因子として機能することが判明した。また、miR−100の過剰発現により細胞増殖が減弱されたが、これは、miRNA結合部位を欠くmTOR構築物を用いた同時トランスフェクションにより回復できる可能性がある。特定のアンタゴmir(antagomir)によりインビボでmiR−100を阻害すると、マウスの大腿動脈閉塞後の血管新生が促進された。これに対し、mTOR阻害剤であるラパマイシンによる治療を行うと、上記アンタゴmirとは逆の効果が得られた。内皮細胞におけるmiR−100のダウンレギュレーションは、動脈新生促進性サイトカインであるTNF−αレベルの上昇により誘導され、虚血組織におけるTNF−αの発現量はmiR−100レベルと逆相関していた。
【0004】
miR−100は、mTORシグナル伝達を少なくとも部分的に抑制することにより抗血管新生機能を発揮することが実証されている。したがって、miR−100を阻害または増強することは、血管増殖や他のmTOR依存性プロセスを正または負に調節するための新規アプローチとなりうる。
【0005】
さらに、マイクロRNA−100の配列に基づいたオリゴヌクレオチド化合物を使用して、少なくとも3種の内皮接着分子の発現を阻害できることが報告されている。この方法によれば、このマイクロRNAにより、多種多様な炎症性疾患における重大な要素のひとつである、循環白血球の血管壁への付着が強力に抑制される。したがって、マイクロRNA−100の配列に基づいた化合物を使用して、様々な刺激に対する血管炎症反応を抑制することができる。
【0006】
適応性血管新生
適応性血管新生は、慢性閉塞性動脈疾患の患者における重要な防御機構のひとつである。主要な動脈の進行性閉塞は、血行動態変化および下流組織の虚血を引き起こし、これらにより、既存の側副細動脈の増殖(動脈新生)と虚血組織における毛細血管発芽(血管新生)のいずれもが誘導される。最近、転写プロファイリングを使用して、剪断応力依存性動脈新生と低酸素誘導性血管新生のいずれもを促進する制御原理についての研究が行われ、数種の主要制御因子が同定されている。
【0007】
初期の研究において、miRNAが胎児期および出生後の血管形成において重要な制御機能を奏することが示唆されている。マルチドメインタンパク質であるDicerは、miRNA前駆体分子から成熟miRNAへのプロセシングを担い、また、Dicerのホモ接合変異を有するマウスは、血管障害により胎児発生の初期に死に至る。これらのことから、miRNAが胎児の血管発生において重大な役割を果たしていることが示唆されている。Dewsら, Nat. Genet. (2006), 38, 1060-1065では、miR−17−92を癌細胞に形質導入すると腫瘍灌流が増加すること、および、miRNAを調節することにより組織灌流を(この場合、病理学的に)増強できることが実証されている。
【0008】
現在、miRNAによる腫瘍血管新生制御は世界各国のいくつかのグループにより研究がなされているが、閉塞性動脈疾患の代償機構としての非新生物性血管増殖におけるmiRNA発現プロファイルは、現在までほとんど調査されていない。血管閉塞後の適応性新生血管形成においてマイクロRNAの発現量が変化すること、ならびに、閉塞性末梢動脈疾患のモデルマウスにおける血管新生および動脈新生の調節にマイクロRNAが機能的に関与していることが開示されている。
【0009】
Mourelatosら, Genes Dev. (2002), 16, 720-728では、miR−100は内因性の小さなRNAであると記載されており、腫瘍発現パターンに関するいくつかの後続研究において、miR−100は差次的に制御されていることが判明している。
【0010】
miRNA−100は、let7a−2とクラスターを形成して第11染色体に局在しており、関連配列であるmiR−99とともにmiRNAファミリーを形成している。心血管分野においては、miR−100は、Sucharovら, J. Mol. Cell Cardiol (2008), 45, 185-192により初めて報告され、心不全を起こした特発性拡張型心筋症の患者の心臓組織試料においてmiR−100が顕著にアップレギュレートされたことが示されている。このような差次的発現が示された結果を除き、miR−100の制御および機能についてはほとんど調査されてこなかった。近年、Hensonら, Genes Chromosomes Cancer (2009), 48, 569-582により、口腔扁平細胞癌においてmiR−100の発現量が減少したことが報告され、また、培養がん細胞を用いて、miR−100の機能についての研究が初めて行われた。この文献では、プレmiR−100のトランスフェクションにより、細胞増殖が顕著に低減されたことが報告されており、この結果は本明細書に記載の結果とよく一致している。
【0011】
がん生物学においてmiR−100が重要な機能を果たしている可能性は、Shiら, Int. J. Cancer (2009)(Int J Cancer. 2009 Sep 8.[印刷物に先行した電子出版],PMID:19739117)による最近の報告により、さらに強固なものとなった。この文献では、ヒト鼻咽腔癌細胞においてmiR−100の発現レベルが低下したことにより、疾患が進行したことが示されている。この結果は、有糸分裂制御因子ポロ様キナーゼ1が高レベルであることと相関するものであった。しかしながら、mTORなどの他の潜在的標的遺伝子に対する効果については調査されていない。
【0012】
Manegoldら, Clin.Cancer Res., 2008, pp 892-900には、mTOR阻害剤RAD001(エベロリムス)を放射線療法と組み合わせた抗血管新生療法が記載されている。
【0013】
Wangら, Journal of Virology, 2008, pp 9065-9074では、ヒトサイトメガロウイルス感染によって細胞内マイクロRNA種の発現量が変化すると考えられることが報告されており、この文献ではmiR−100がより詳細に分析されている。
【0014】
WO2005/013901では、小さな非コードRNAの調節に使用するためのオリゴマー化合物および組成物が開示されている。
【0015】
先行技術は、腫瘍細胞増殖に対するmiRNA−100の潜在的効果に関するが、本発明は、腫瘍ではなく血管増殖の正または負の調節に関する。
【0016】
血管炎症
炎症は、外部病原体および傷害に対する宿主防御反応の重要な要素のひとつであるが、アテローム性動脈硬化、血管炎、心筋炎などの有害な病態をも引き起こし、これらの病態を持続させうる。循環免疫細胞がその機能を発揮するためには、内皮に付着し、血管壁または血管周囲腔へ入り込む必要があることから、血管内皮細胞層は炎症過程において重要な調節機構である。実際に、流体剪断力の変化、高血圧、またはLDLコレステロールレベルの上昇による内皮接着分子のアップレギュレーションは、現在一般に慢性炎症性疾患であると見なされているアテローム性動脈硬化発症の最も初期の段階のひとつである(1)。
【0017】
過度の炎症反応を予防もしくは低減するために、内皮と白血球との相互作用を調節する多くの試みがこれまでなされてきた。しかしながら、内皮炎症過程の基本的な制御原理はほとんど理解されていない。炎症カスケードの個々の要素を、たとえば接着分子に対する単一の抗体などによって阻害しても、血管炎症に対する持続的効果を達成するには十分でないと考えられる。
【0018】
血管炎症における内皮細胞マイクロRNAの役割についてはほとんど知られていないが、初期の研究において、この小さなRNAが重要な制御機能を有している可能性が示唆されている。miR−126は、内皮細胞において転写因子であるEts−1およびEts−2(3)による制御を受けること、および、VCAM−1を抑制することにより抗炎症作用を奏して白血球の血管壁への付着を抑制することが報告されている。miR−21は、血管平滑筋細胞において高発現されるが、血管形成術後の内膜新生を予防するための標的候補として同定された。このような機能における血管マイクロRNAに関する我々の知識はいまだ限定的であるが、循環免疫細胞中の小さなRNAの機能に重点を置いた研究が既になされており、炎症促進性マイクロRNAおよび抗炎症性マイクロRNAがいくつか同定されている。特に、miR−155は、ほとんどすべての白血球亜集団の分化および機能に重要な役割を果たしているようである。
【0019】
本明細書では、miR−100が、内皮接着分子を抑制して内皮と白血球との相互作用を調節する機能的役割を有することが開示されている。miR−100は、そのものが有する生物学的活性により、血管系関連疾患の治療、特に、血管炎、動脈硬化症、傷害応答血管リモデリング、または再狭窄の治療に使用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
血管系におけるmiR−100の機能は現在まで調査されていない。本明細書では、血管新生を制御する新規マイクロRNAを同定するために、インビボ評価により得られた差次的発現の結果を適用したはじめての研究を開示する。また、本明細書では、インビボ虚血誘導後のマイクロRNA−100のダウンレギュレーション、およびマイクロRNA−100の抗血管新生抑制因子として機能を説明する。
【0021】
miR−100は、後肢虚血誘導後に最も強く脱制御されるマイクロRNAではなく、その発現も血管に特異的ではないが、血管新生時間域において発現量が持続的に減少すること、および、予測される標的遺伝子を確実に選択できることから、この遺伝子に重点を置いて検討を行った。miR−100は、インビボおよび培地において、内皮細胞および血管平滑筋細胞のいずれにおいても発現される。機能欠損手法と機能獲得手法とを用いて、いくつかのインビトロ血管新生モデルにおけるmiR−100の重要な制御機能、および増殖能などの一般的な細胞機能について確認した。興味深いことに、種々の細胞におけるmiR−100の増殖阻害効果の強度は、これらの細胞におけるmiR−100のベースライン値と相関した。
【0022】
miR−100を過剰発現させた内皮細胞におけるゲノムワイドな発現解析と、バイオインフォマティクスによるmiRNA結合部位の予測とを組み合わせて、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)がmiR−100の直接的なmRNA標的であることを確認した。mTORは、低酸素に応答した血管新生および内皮細胞増殖において必要とされることが以前より報告されており、また、新規抗血管新生がん治療の標的として有望なもののひとつである。
【0023】
miR−100によりmTOR依存性細胞増殖が抑制できること、およびこの効果は、miR−100結合部位を欠くmTORを発現させることにより中和できることが実証されている。新生血管形成において観測されたこの効果を媒介するものとして他のmiR−100標的遺伝子を除外することはできないが、mTOR抑制は、血管細胞においてmiR−100が機能を発揮するための重要な中間ステップであることが示されている。さらに、組織学的解析では、側副動脈の増殖によりmTORの発現量が増加すること、および、mTOR阻害剤ラパマイシンを用いた治療では、miR−100特異的アンタゴmirを用いた治療とは逆の効果が後肢灌流回復に対して奏されることが示されている。
【0024】
本発明は、「angiomiR」と称される群に新規の候補を提供するものであり、また、細胞増殖制御および血管新生制御におけるmiR−100の役割、ならびに内因性mTOR調節物質としてのmiR−100の機能について例証するものである。これは、さらに、他の生理学的・病態生理学的過程におけるmiR−100の重要な役割をも包含する。miR−100は、心血管疾患の薬理学療法において有望な新規標的である。
【0025】
本明細書において開示される医薬組成物は、心血管疾患および血管系疾患の治療に使用することが好ましい。特に好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、閉塞性末梢血管疾患、冠動脈疾患、脳血管疾患、血管炎、アテローム性動脈硬化、傷害応答血管リモデリング、および再狭窄からなる群から選択される疾患のいずれにも使用される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】大腿動脈閉塞発症後のマウスにおけるmiR−100発現量を示すグラフである。
【図2】内皮細胞をプレmiR−100または抗miR−100でトランスフェクトしてmiR−100を過剰発現または抑制させた結果を示すグラフである。
【図3】プレmiR−100または抗miR−100でトランスフェクトしたヒト内皮細胞のBrdU取り込みを測定した結果を示すグラフである。
【図4】プレmiR−100または抗miR−100でトランスフェクトした血管平滑筋細胞のBrdU取り込みを測定した結果を示すグラフである。
【図5】プレmiR−100または抗miR−100によってmiR−100を過剰発現または阻害させたときのmTOR発現量を示すグラフである。
【図6】mTORの3’−UTRにおけるmiR−100結合部位を示す図である。
【図7】細胞増殖におけるmTORとmiRNA−100の相互作用を示すグラフである。
【図8】miR−100特異的アンタゴmirによる治療後の各組織におけるmiR−100相対発現量の抑制を示すグラフである。
【図9】miR−100特異的アンタゴmirまたは2種のアンタゴmirコントロールによる治療における血流量を示すグラフである。
【図10】in situ ハイブリダイゼーションおよび内皮細胞マーカーCD31を用いた二重染色による、マウス骨格筋組織切片の毛細血管におけるmiR−100の発現を示す写真である。
【図11】マウスの頸動脈結紮によるmiR−100発現量の減少を示すグラフである。
【図12】mRNA遺伝子発現量の変化を個々の遺伝子レベルでマイクロアレイにより分析した結果を示す表である。
【図13】ICAM−1、VCAM−1、およびE−セレクチンのmRNA発現量のmiR−100による制御を示すグラフである。
【図14】ICAM−1、VCAM−1、およびE−セレクチンのタンパク質発現量のmiR−100による制御を示すグラフである。
【図15】miR−100発現量の変化により生じる、白血球のローリングおよび内皮表面への付着における機能差を評価したグラフ、ならびにこの評価に使用されたヒト内皮細胞および末梢血単核球を示す写真である。
【図16】Aは、TNF−αによって内皮細胞を活性化したときのmiR−100発現量を示すグラフである。Bは、NF−κB阻害剤PS1145をTNF−α刺激ヒト内皮細胞に添加したときのmiR−100発現量を示すグラフである。
【図17】内皮細胞をシンバスタチンとともに培養したときのmiR−100発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、miRNA分子、その相補配列、またはその変異体、具体的には、1以上のアンタゴmirを含む医薬組成物を提供する。アンタゴmirは、内因性マイクロRNAをサイレンシングするために使用される化学的に設計されたオリゴヌクレオチドである。アンタゴmirは、特定の標的miRNAに完全に相補的な小さな合成RNAであり、Ago2切断部位ミスマッチを備えるか、Ago2による切断を阻害するある種の塩基修飾を備える。アンタゴmirは、通常、分解抵抗性を高めるためのある種の修飾が施されている。antagomirization(アンタゴmirがmiRNA活性を阻害する過程)がどのように作動するかははっきりしていないが、不可逆的にmiRNAと結合して阻害すると考えられている。アンタゴmirは、特定のmiRNAの活性を構造的に阻害するために使用される。
【0028】
上記活性分子は、以下の配列を有するmiRNA−100配列に基づく。
GUGUUCAAGCCUAGAUGCCCAA(配列番号1)
【0029】
上記RNA配列は、ウラシル(U)がチミン(T)と置き換わったDNA配列として存在することもできる。そのDNA配列は次のようになる。
GTGTTCAAGCCTAGATGCCCAA(配列番号2)
【0030】
miR−100は、より長い分子であるいわゆるプレmiR分子に由来し、プレmiR分子がプロセシングされて成熟miR−100が生成すると推定されている。実験においては、以下の配列を有するプレmiR−100を使用した。
CCUGUUGCCACAAACCCGUAGAUCCGAACUUGUGGUAUUAGUCCGCACAAGCUUGUAUCUAUAGGUAUGUGUCUGUUAGG(配列番号8)
【0031】
上記プレmiRは、折りたたまれると以下の構造を有すると推定される。

【0032】
上記の構造は、配列番号8のヌクレオチド配列を有し、塩基対合を示している。
【0033】
上記プレmiRは、プロセシングされて、以下の配列を有する成熟miRNA−100を生成する。
AACCCGUAGAUCCGAACUUGUG(配列番号9)
【0034】
配列番号9は、配列番号1の逆配列である。
【0035】
医薬品を用いた治療においては、以下のアンタゴmir配列を使用することが好ましい。
Antag−100:5’−cacaaguucggaucuacggguu−3’(配列番号3)
実験においては、配列番号3を使用し、「抗miR」と称した。
【0036】
コントロールとしては、配列番号4および5の配列を使用した。
Antag−cont1:5’−aaggcaagcugacccugaaguu−3’(配列番号4)
Antag−cont2:5’−caccaguuaggcucuacggauu−3’(配列番号5)
【0037】
本発明は、さらに、上記の配列番号1、配列番号2、および配列番号3の変異体にも関する。「変異」とは、1個または2個のヌクレオチドが、欠失、付加、または他のヌクレオチドと置換されていてもよいことを指す。
【0038】
配列番号1および/または配列番号2の変異体としては、配列番号1および/または配列番号2と少なくとも85%、好ましくは90%、より好ましくは95%の相同性を有するものが好ましい。
【0039】
配列番号3のアンタゴmir配列の変異体としては、配列番号3と少なくとも85%、好ましくは90%、より好ましくは95%の相同性を有するものが好ましい。これは、上記変異体において、最大3個のヌクレオチドが他のヌクレオチドと置換されていてもよいことを意味し、置換されるヌクレオチドの数は、2個が好ましく、1個のみであることがより好ましい。「相同性」は、同一であることを意味する。たとえば、少なくとも85%のヌクレオチドは同一であり、残りのヌクレオチドは異なっていてもよいことを意味する。相同性は、本発明の配列を、同数のヌクレオチドを有する相同配列と比較して決定する。本発明の変異体は、2個以下、好ましくは1個のヌクレオチドが欠失、付加、または別のヌクレオチドによって置換される場合、配列番号1、2、3、8および/または9の配列を有することが好ましい。
【0040】
特定の好ましい実施形態では、アンタゴmir−100は、いくつかのヌクレオチドが修飾された上記配列番号3の配列を有する。この好ましいアンタゴmir−100は、以下の配列を有する。
caaguucggaucuacgg
これは、配列番号に3に相当する。
【0041】
塩基はすべて2−O−メチル−RNAとして合成した。「」はホスホチオアート修飾を示す。3’末端において、上記分子は、細胞に取り込まれやすくなるようにコレステロールで共役される。
【0042】
当業者にとって、上記分子の軽微な変更が可能であることは明らかである。たとえば、コレステロール残基は、5’末端へ付加されてもよい。あるいは、付加される塩基にホスホチオアート修飾が施されていてもよい。
【0043】
上記変異体の好ましい実施形態では、部分配列「UACGGGU」(配列番号6)は変更されない。したがって、配列番号3の配列における変更は、配列番号6に相当しない位置においてのみ行われる。
【0044】
上で述べたことは、相補的配列または相当するデスオキシリボヌクレオチド配列にも当てはまる。好ましい実施形態では、5位、9位、12位および20位の塩基は変異を受けず、これは、配列番号1もしくは配列番号3またはこれらの相補的配列における上記の位置の塩基が変更されないことを意味する。
【0045】
本明細書に記載の生物学的に活性な構造物は、宿主細胞内で自己複製し該構造物のオリゴヌクレオチドを生成するベクター内に核酸として含ませ、治療対象のヒトの体内へと導入することができる。あるいは、本発明のヌクレオチド配列を適切な担体に含ませて患者に投与してもよい。
【0046】
上記の変異体は、さらに、上記の配列と、最終的に生成するアンチセンスオリゴヌクレオチドの活性、細胞内分配、または細胞内取り込みを増強する1種以上の部分が共役した修飾オリゴヌクレオチドとを含んでもよい。上記部分としては、コレステロール部分または脂質部分が好ましい。共役部分として、他には、炭水化物、リン脂質、ビオチン、フェナジン、葉酸塩、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリンおよび色素が挙げられる。変異体のいくつかでは、共役基は、修飾オリゴヌクレオチドに直接結合されている。別の変異体のいくつかでは、共役基は、アミノ、ヒドロキシル、カルボン酸、チオール、不飽和部分(たとえば、二重結合または三重結合)、8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸(ADO)、スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート(SMCC)、6−アミノヘキサン酸(ALEXまたはAHA)、置換C〜C10アルキル、置換または無置換C〜C10アルケニル、および置換または無置換C〜C10アルキニルから選択される連結部分によって修飾オリゴヌクレオチドに結合されている。別の変異体のいくつかでは、置換基は、ヒドロキシル、アミノ、アルコキシ、カルボキシ、ベンジル、フェニル、ニトロ、チオール、チオアルコキシ、ハロゲン、アルキル、アリール、アルケニルおよびアルキニルから選択される。
【0047】
別の変異体のいくつかでは、本発明の化合物は、たとえばヌクレアーゼ安定性などの特性を増強するために片方の末端または両末端に1種以上の安定化基が付加された修飾オリゴヌクレオチドを含む。この安定化基には、キャップ構造も含まれる。これらの末端修飾は、エキソヌクレアーゼ分解から修飾オリゴヌクレオチドを保護し、送達および/または細胞内局在化を補助する。キャップは、5’末端に存在する5’キャップまたは3’末端に存在する3’キャップであってもよく、両末端に存在していてもよい。キャップ構造としては、たとえば、逆位デオキシ脱塩基キャップが挙げられる。
【0048】
適切なキャップ構造としては、4’,5’−メチレンヌクレオチド、1−(β−D−エリトロフラノシル)ヌクレオチド、4’−チオヌクレオチド、炭素環式ヌクレオチド、1,5−アンヒドロヘキシトールヌクレオチド、L−ヌクレオチド、α−ヌクレオチド、修飾塩基ヌクレオチド、ホスホロジチオアート結合、トレオ−ペントフラノシルヌクレオチド、非環式3’,4’−セコヌクレオチド、非環式3,4−ジヒドロキシブチルヌクレオチド、非環式3,5−ジヒドロキシペンチルヌクレオチド、3’−3’−逆位ヌクレオチド部分、3’−3’−逆位脱塩基部分、3’−2’−逆位ヌクレオチド部分、3’−2’−逆位脱塩基部分、1,4−ブタンジオールホスファート、3’−ホスホルアミダート、ヘキシルホスファート、アミノヘキシルホスファート、3’−ホスファート、3’−ホスホロチオエート、ホスホロジチオアート、架橋メチルホスホナート部分、非架橋メチルホスホナート部分、5’−アミノ−アルキルホスファート、1,3−ジアミノ−2−プロピルホスファート、3−アミノプロピルホスファート、6−アミノヘキシルホスファート、1,2−アミノドデシルホスファート、ヒドロキシプロピルホスファート、5’−5’−逆位ヌクレオチド部分、5’−5’−逆位脱塩基部分、5’−ホスホルアミダート、5’−ホスホロチオエート、5’−アミノ、架橋および/または非架橋5’−ホスホルアミダート、ホスホロチオエート、ならびに5’−メルカプト部分が挙げられる。
【0049】
本発明は、医薬組成物において使用され、また適切な薬剤を調製するために使用される、上述したmiRNA−100分子、そのアンタゴmir、またはその変異体に関する。このような医薬組成物は、血管増殖の正または負の調節に使用される。
【0050】
好ましい実施形態では、上記miRNA−100分子またはその変異体は、内皮細胞の増殖、内皮細胞による血管形成、および内皮細胞が有する血管発芽活性を調節するために使用される。上記の分子またはその変異体は、特に心血管疾患の治療において、新生血管を形成する効果を有する。
【0051】
本明細書に記載の、miRNAに相補的な修飾オリゴヌクレオチドまたはその前駆体を含む化合物は、内皮細胞を調節するための医薬組成物として調製される。適切な投与経路としては、経口、直腸内、経粘膜、経腸(intestinal)、経腸(enteral)、局所、坐薬、吸入、髄腔内、脳室内、腹腔内、鼻腔内、眼内、非経口(たとえば、静脈内、筋肉内、髄内、皮下)が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる適切な投与経路として、化学塞栓療法が挙げられる。実施形態のいくつかでは、全身ではなく局所に投与するために、髄腔内投与薬として投与する。たとえば、所望の効果を達成したい部位に医薬組成物を直接注入してもよい。
【0052】
実施形態のいくつかにおいて、本発明の医薬組成物は単位投与剤形(たとえば、錠剤、カプセル、ボーラスなど)で投与される。実施形態のいくつかでは、このような医薬組成物は、25〜800mgの範囲から選択される1回投与量の修飾オリゴヌクレオチドを含む。好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、25mg、50mg、75mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、500mg、600mg、700mg、および800mgから選択される1回投与量の修飾オリゴヌクレオチドを含む。
【0053】
本発明の医薬品は、適切な希釈剤(たとえば、注射用滅菌水、または注射用滅菌生理食塩水)で再構築される、滅菌凍結乾燥修飾オリゴヌクレオチドであってもよい。再構築された製品は、生理食塩水で希釈後、皮下注射または点滴静注として投与される。凍結乾燥薬剤製品は、注射用水または注射用生理食塩水中で調製され、調製工程において酸または塩基によりpH7.0〜9.0に調整され、凍結乾燥された、修飾オリゴヌクレオチドからなる。凍結乾燥修飾オリゴヌクレオチドは、25〜800mgの修飾オリゴヌクレオチドであってよい。
【0054】
本発明の組成物は、医薬組成物において従来使用されている他の添加成分を、当技術分野において確立された使用量に従って含んでいてもよい。したがって、本発明の組成物は、たとえば、薬学的に許容されるさらなる活性物質を含んでいてもよく、このような物質としては、たとえば、止痒剤、収れん剤、局所麻酔剤、抗炎症剤などが挙げられる。また、本発明の組成物を種々の剤形へと物理的に製剤化する際に有益なさらなる物質を含んでいてもよく、このような物質としては、たとえば、色素、香料、保存剤、酸化防止剤、乳濁剤、粘稠化剤、安定剤などが挙げられる。しかしながら、上記の物質は、添加した場合に、本発明の組成物の成分が有する生物学的活性を過度に阻害するものであってはならない。上記製剤は、殺菌してもよく、また所望により、製剤中のオリゴヌクレオチドと有害な相互作用を起こさない助剤、たとえば、滑沢剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼす塩類、緩衝剤、着色剤、香味料および/または芳香剤と混合してもよい。
【0055】
本発明の医薬組成物は、1種以上の修飾オリゴヌクレオチドと1種以上の添加剤とを含んでいてもよい。このような実施形態のいくつかにおいて、添加剤は、水、食塩水、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミラーゼ、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、ヒドロキシメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンから選択される。
【0056】
本発明の医薬組成物は、公知の技術を使用して調製され、これには、混合、溶解、造粒、糖衣形成、微粒子化、乳化、カプセル化、封入、または錠剤化などの処理が含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
本発明の医薬組成物は、液体(たとえば、懸濁剤、エリキシル剤および/または液剤)であってもよい。このような実施形態のいくつかにおいて、液体医薬組成物は、当技術分野で公知の成分を使用して調製され、このような成分としては、水、グリコール、油類、アルコール、香料、保存剤および着色剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
さらに、本発明の医薬組成物は、固体(たとえば、散剤、錠剤および/またはカプセル)であってもよい。このような実施形態のいくつかにおいて、1種以上のオリゴヌクレオチドを含む固体医薬組成物は、当技術分野で公知の成分を使用して調製され、このような成分として、デンプン、糖類、賦形剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、および崩壊剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
実施形態のいくつかにおいて、本発明の医薬組成物は、デポ製剤として製剤化される。このようなデポ製剤のいくつかは、通常、非デポ製剤よりも長期間作用する。実施形態のいくつかにおいて、このような調製物は、埋め込み(たとえば、皮下もしくは筋肉内)または筋肉内注射によって投与される。好ましい実施形態では、デポ製剤は、適切なポリマー材料もしくは疎水性材料(たとえば、許容される油類中の乳剤)、またはイオン交換樹脂を使用して調製されるか、あるいは、たとえば、難溶性塩などの難溶性誘導体として調製される。
【0060】
実施形態のいくつかにおいて、本発明の医薬組成物は送達システムを含む。送達システムとしては、リポソームおよび乳剤が挙げられるが、これらに限定されない。送達システムのいくつかは、疎水性化合物を含む特定の医薬組成物を調製するのに有用である。実施形態のいくつかでは、ジメチルスルホキシドなどの特定の有機溶媒が使用される。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、本発明の1種以上の医薬品を特定の組織または細胞種に送達するよう設計された1種以上の組織特異的送達分子を含む。たとえば、実施形態のいくつかにおいて、医薬組成物は、組織特異的抗体でコーティングされたリポソームを含む。
【0062】
実施形態のいくつかにおいて、本発明の医薬組成物は共溶媒系を含む。このような共溶媒系のいくつかには、たとえば、ベンジルアルコール、非極性界面活性剤、水混和性有機ポリマー、および水相が含まれる。実施形態のいくつかにおいて、このような共溶媒系は疎水性化合物に使用される。このような共溶媒系としては、VPD共溶媒系(ベンジルアルコール3%(w/v)、非極性界面活性剤ポリソルベート80(登録商標)8%(w/v)、およびポリエチレングリコール300 65%(w/v)を含む無水アルコール溶液)が挙げられるが、これに限定されない。共溶媒系の溶解度および毒性特性が大幅に変化しない限り、このような共溶媒系が占める割合を大幅に変更してもよい。さらに、共溶剤成分の一部が変更されてもよい。たとえば、ポリソルベート80の代わりに、他の界面活性剤を使用してもよく;ポリエチレングリコールの占める割合を変更してもよく;ポリエチレングリコールの代わりに、たとえば、ポリビニルピロリドンなどの他の生体適合性ポリマーを使用してもよく;デキストロースの代わりに、他の糖類または多糖類を使用してもよい。
【0063】
好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は徐放システムを含む。このような徐放性システムとしては、固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられるが、これに限定されない。実施形態のいくつかにおいて、徐放性システムは、その化学的特性に応じて、数時間、数日、数週間または数ヶ月にわたり医薬品を放出してもよい。
【0064】
実施形態のいくつかにおいて、本発明の医薬組成物は経口投与用に調製される。このような実施形態のいくつかでは、医薬組成物は、修飾オリゴヌクレオチドを含む1種以上の化合物と1種以上の薬学的に許容される担体とを組み合わせることにより製剤化される。このような担体のいくつかを使用することによって、医薬組成物を、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー、懸濁剤などの、対象に経口投与するための製剤へと加工することができる。実施形態のいくつかでは、経口使用のための医薬組成物は、オリゴヌクレオチドと1種以上の固体添加剤とを混合することにより得られる。適切な添加剤としては、ラクトース、スクロース、マンニトール、およびソルビトールを含む糖類などの充填剤;ならびに、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース調製物が挙げられるが、これらに限定されない。実施形態のいくつかでは、このような混合物は粉砕してもよく、また、助剤を添加してもよい。実施形態のいくつかでは、医薬組成物は、錠剤または糖衣錠コアを得るために成形される。実施形態のいくつかでは、崩壊剤(たとえば、架橋ポリビニルピロリドン、カンテン、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのその塩)が添加される。
【0065】
実施形態のいくつかでは、糖衣錠コアにコーティングが施されている。このような実施形態のいくつかでは、濃縮糖液を使用してもよく、この濃縮糖液は、任意に、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含んでもよい。染料または色素を、錠剤または糖衣錠のコーティングに添加してもよい。
【0066】
別の実施形態では、経口投与用医薬組成物はゼラチン製のプッシュフィットカプセルである。このようなプッシュフィットカプセルのいくつかは、混合物中に、1種以上の本発明の医薬品と、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクやステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤のうちの1種以上と、任意に安定剤とを含む。実施形態のいくつかにおいて、経口投与用医薬組成物は、ゼラチンとグリセリンまたはソルビトールなどの可塑剤とで作られた密閉ソフトカプセルである。ソフトカプセルのいくつかにおいて、本発明の1種以上の医薬品は、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体中に溶解または懸濁されていてもよい。さらに、安定剤が添加されていてもよい。
【0067】
実施形態のいくつかにおいて、医薬組成物は頬側投与用に調製される。このような医薬組成物のいくつかは、慣用の方法で製剤化された錠剤またはロゼンジである。
【0068】
好ましい実施形態では、医薬組成物は、注射(たとえば、静脈内、皮下、筋肉内など)により投与するために調製される。このような実施形態のいくつかにおいて、医薬組成物は担体を含み、水または生理学的に適合する緩衝剤(ハンクス液、リンゲル液または生理食塩緩衝液など)などの水溶液中に含まれる形態で製剤化される。実施形態のいくつかでは、他の成分(たとえば、溶解を補助する成分または保存剤として機能する成分)も含まれる。実施形態のいくつかにおいて、注射用懸濁剤は、適切な液体担体、懸濁化剤などを使用して調製される。注射用医薬組成物のいくつかは、たとえば、アンプルまたは複数回投与容器などの容器に入った単位投与剤形で提供される。注射用医薬組成物のいくつかは、油性または水性ビヒクルに含まれる形態での、懸濁液、溶液、または乳濁液であり、懸濁化剤、安定化剤、および/または分散剤などの製剤化剤を含んでもよい。注射用医薬組成物に使用するのに適したいくつかの溶媒としては、脂肪親和性溶媒;ゴマ油などの脂肪油;オレイン酸エチル、トリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル;およびリポソームが挙げられるが、これらに限定されない。水性注射用懸濁剤は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストランなどの、懸濁剤の粘性を高める物質を含んでもよい。このような懸濁剤は、高濃縮溶液を調製するために、医薬品の溶解度を高める適切な安定剤または薬剤を任意でさらに含んでもよい。
【0069】
実施形態のいくつかにおいて、本発明の医薬組成物は経粘膜投与用に調製される。このような実施形態のいくつかでは、組成物をバリアに浸透させるための、バリアに適した浸透剤が製剤に使用される。そのような浸透剤は当技術分野において公知である。
【0070】
実施形態のいくつかにおいて、本発明の医薬組成物は吸入投与用に調製される。このような吸入用医薬組成物のいくつかは、加圧パックまたはネブライザーで使用するエアロゾルスプレーの形態で調製される。このような医薬組成物のいくつかは、たとえば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、他の適切なガスなどの噴射剤を含む。加圧エアロゾルを使用する実施形態のいくつかでは、1回投与量は、定量を送達するバルブによって決定してもよい。実施形態のいくつかでは、吸入器(inhalerまたはinsufflator)において使用される、カプセルおよびカートリッジとして製剤化してもよい。このような製剤のいくつかは、本発明の医薬品とラクトースやデンプンなどの適切な散剤基剤との粉末混合物を含む。
【0071】
実施形態のいくつかにおいて、医薬組成物は、坐剤や停留浣腸などの直腸内投与用に調製される。このような医薬組成物のいくつかは、カカオ脂および/または他のグリセリドなどの公知の成分を含む。
【0072】
別の実施形態では、本発明の医薬組成物は局所投与用に調製される。このような医薬組成物のいくつかは、軟膏剤またはクリーム剤などの低刺激性保湿基剤を含む。適切な軟膏基剤としては、ワセリン、揮発性シリコーン添加ワセリン、ラノリン、および油中水型乳剤が挙げられるが、これらに限定されない。適切なクリーム基剤としては、コールドクリームおよび親水性軟膏が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
実施形態のいくつかにおいて、本発明の医薬組成物は、治療有効量の修飾オリゴヌクレオチドを含む。通常、治療有効量とは、疾患の症状を予防、緩和、もしくは改善するか、または治療対象の生存を延長するのに十分な量を指す。治療有効量は、当業者により容易に決定されうる。
【0074】
特に好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、血管内の問題および/または疾患の治療において使用されるステントに塗布される。通常、ステントは、ヒトの細胞との接触時に合併症を引き起こさない不活性金属および/またはプラスチック材料からなる支持構造を含む。当業者に知られているこのような支持材料は、コーティングで覆われていることが多い。また、ヒトの細胞および組織に接するこのようなコーティングは免疫システムと適合していなければならない。コーティングは、本発明の医薬組成物を含むマトリックスとして機能する。このようなマトリックスは、恒久的に保持されてもよいし、時間の経過とともに分解されてもよい。選択される材料によって、マトリックスの分解状態は変化しうる。そのようなタイプのマトリックスは、ポリラクチド、ポリラクチド/ポリグリコライドなどの生分解性高分子を使用して形成してもよい。
【0075】
実施形態のいくつかにおいて、本発明の1種以上の修飾オリゴヌクレオチドはプロドラッグとして製剤化される。実施形態のいくつかにおいて、プロドラッグは、インビボ投与された後、化学的に変換され、生物学的、薬学的、または治療学的にさらに活性化された修飾オリゴヌクレオチドとなる。実施形態のいくつかにおいて、プロドラッグは、相当する活性型のものよりも投与が容易となる点で有用である。たとえば、いくつかの例において、プロドラッグは、相当する活性型のものよりも(たとえば、経口投与できることにより)生物学的に利用されやすい。いくつかの例において、プロドラッグは、相当する活性型のものと比較して溶解度が改善されていてもよい。実施形態のいくつかにおいて、プロドラッグは、相当する活性型ものよりも水への溶解度が低い。いくつかの例において、このようなプロドラッグは、水溶解度が高いと通過し難い細胞膜を通過することのできる優れた輸送性を有する。実施形態のいくつかにおいて、プロドラッグはエステルである。このような実施形態のいくつかでは、エステルは、投与されると、代謝的に加水分解されてカルボン酸になる。いくつかの例において、カルボン酸を含むこの化合物は、相当する活性型である。実施形態のいくつかにおいて、プロドラッグは、酸性基に結合したショートペプチド(ポリアミフロ酸)を含む。このような実施形態のいくつかにおいて、ペプチドは、投与されると切断され、相当する活性型を形成する。
【0076】
実施形態のいくつかにおいて、プロドラッグは、活性化合物がインビボ投与後に再生成されるように、活性化合物を薬学的に修飾することにより製造される。プロドラッグは、薬物の代謝的安定性もしくは輸送特性の変化、副作用もしくは毒性の遮蔽、薬物の香味の改善、または薬物の他の特徴または特性の変化を目的として設計されうる。当業者は、薬学的に活性な化合物を知ることさえできれば、インビボにおける薬力学的プロセスおよび薬物代謝に関する知識に基づいて、その化合物のプロドラッグを設計することができる(たとえば、Nogrady (1985) Medicinal Chemistry A Biochemical Approach, Oxford University Press, New York, pages 388-392参照)。
【0077】
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0078】
実施例1:
マイクロアレイの結果およびmiR−100発現パターン
ベースラインおよび5つの時間点において、大腿動脈閉塞発症後の大腿遠位後肢組織からトータルRNAを単離し、miRNAマイクロアレイ解析を行った。
【0079】
マウスの大腿動脈を結紮した後、フェノール−クロロホルム単離法(TRIzol、インビトロジェン)により、6つの時間点において1つの時間点当たり5匹のマウスの遠位内転筋からトータルRNAを単離した。それぞれの時間点につき得られたRNAを等量プールし、サービス提供者(LC Sciences、ヒューストン(テキサス))に委託して、その時点で同定されていた全マウスmiRNA(miRBase9.0)に対するマイクロアレイ分析を行った。
【0080】
解析されたRNA試料の大部分は、増殖中の血管系ではなく周囲組織に由来することから、大腿動脈結紮後の5つの時間点すべてを組み合わせて解析を行って、さらなる解析の対象となるmiRNAを選択した。また、1つの時間点において発現量が大幅に変化したmiRNAを選択してさらなる解析に使用するのではなく、最初のスクリーニングでは、いくつかの時間点にわたって差次的な発現が持続的に示されたmiRNAに注目した。全体では、発現量が統計的有意に(p<0.01)変化し、かつ、いくつかの時間点にわたってはっきりとした傾向が示された19種のアップレギュレートされたmiRNAおよび16種のダウンレギュレートされたmiRNAを同定した。
【0081】
発現量が3日目までは連続的に減少し、その後14日目にベースライン値近くまで回復したmiRNAのうち1つが、マイクロRNA miR−100であった。miR−100用miRNAステムループプライマーを用いたRT−PCRを個々のRNA試料に対して行った結果、マイクロアレイのデータとよく一致した(図1)。
【0082】
in situハイブリダイゼーションと血管マーカーに対する免疫蛍光染色とを組み合わせて、内皮細胞、血管平滑筋細胞、および種々の血管周囲細胞におけるmiR−100の発現を検出した。
【0083】
in situハイブリダイゼーション技術は定性的にアプローチするものであることから、大腿動脈閉塞後の発現レベルの変化を信頼性高く定量化することはできなかった。検出された発現量の変化が実際に血管構造に関連していたのかどうかを確認するため、大腿動脈閉塞の3日後に外膜組織を含む側副動脈をマウス後肢から摘出し、RT−PCR解析を行った。miR−100の発現は、成長中(Ki67の発現により増殖を確認)の側副動脈と、目視で確認できる動脈を有さない周辺筋肉組織とのいずれにおいても確認された。しかしながら、偽手術を行った後肢から得た休止血管と比較して、成長中の側副動脈におけるmiR−100発現量は顕著に低下していた。
【0084】
miR−100は、臓器特異的には発現されないが、ステムループRT−PCRによって種々の組織から検出可能である。
【0085】
実施例2:
培養内皮細胞および血管平滑筋細胞におけるmiR−100発現の調節
純粋な血管壁細胞集団におけるmiR−100の発現を確認するために、ステムループRT−PCRを使用して、培養したヒト内皮細胞(HUVEC)およびヒト大動脈平滑筋細胞から単離したトータルRNAを分析した。
【0086】
マイクロRNAの発現量は、定量ステムループPCR技術(TaqMan MicroRNA Assays、Applied Biosystems、フォスターシティー(カリフォルニア))によって確認した。標的特異的逆転写プライマーおよびTaqManハイブリダイゼーションプローブを使用することにより、成熟マイクロRNAを特異的に検出することが可能となる。マイクロRNAの発現量は、小さなRNAであるrnu19およびrnu48の発現量で標準化した。
【0087】
miR−100は、上記のいずれの細胞種でも強く発現された。血管新生におけるmiR−100の潜在的役割を調べるために、特定のmiR−100前駆体(プレmiR)またはアンチセンス分子(抗miR)で上記の細胞種をトランスフェクトし、miR−100を過剰発現またはサイレンシングさせた。プレmiRNAおよび抗miRNAの蛍光標識コントロールを使用した最適化トランスフェクションプロトコルにおけるトランスフェクション効率は90%を上回っていた。プレmiR−100でトランスフェクトすると24時間後に検出可能なmiR−100が大幅に増加し、抗miR−100でトランスフェクトするとmiR−100レベルが顕著に減少することが定量RT−PCRにより明らかとなった(図2)。関連性のないヌクレオチド配列を有するプレmiRおよび抗miRをネガティブコントロールとして使用した。このような異なる化合物でトランスフェクトした場合、細胞生存性に有意差は見られなかった。
【0088】
miR−100の過剰発現は、平板マトリゲルアッセイにおける内皮ネットワーク形成と三次元スフェロイド培養アッセイにおける内皮細胞の発芽とのいずれにおいても顕著な阻害作用を呈した。抗miRをトランスフェクトしたことよるmiR−100レベルの低下は、いずれのアッセイにおいても促進効果を呈し、結果として内皮ネットワーク形成が進み、総発芽長が増した。平面創傷治癒遊走アッセイにおいては、遊走速度に有意差は見られなかった。
【0089】
上記で検出された差異が、細胞生存性に効果がもたらされたことによるものであったかどうかを評価するために、miR−100により調節した内皮細胞のアポトーシスおよび増殖を調べた。アネキシンV染色による定量フローサイトメトリーを使用して、関連性がないコントロール配列と比較すると、miR−100を過剰発現させた内皮細胞でアポトーシスがわずかに増加することが検出された。しかしながら、抗miRでトランスフェクトすることによりmiR−100をサイレンシングした場合、適切なコントロールと比較して、顕著な効果は見られなかった。したがって、インビトロ血管新生において検出された差異は、miR−100阻害による抗アポトーシス効果では説明できそうにない。次いで、細胞増殖と良好な相関性を示すBrdU取り込みを測定することにより、DNA合成速度を解析した。プレmiR−100でトランスフェクトすると内皮細胞増殖が有意に抑制され、抗miRによりmiR−100を阻害すると一貫した促進作用が呈された(図3)。プレmiR−100でトランスフェクトしたことによる阻害作用は、平滑筋細胞よりも内皮細胞においてより顕著であったが、これは恐らく平滑筋細胞におけるmiR−100のベースライン値がより低いことによる(図4)。
【0090】
実施例3:
mTORを標的としたmiR−100による増殖の調節
miR−100を過剰発現させた後に、バイオインフォマティクスな予測アルゴリズムと、マイクロアレイに基づいた内皮細胞遺伝子発現解析とを組み合わせて、観察された効果に関与していると考えられるmiR−100標的遺伝子候補を探索した。プレmiR−100によるトランスフェクションによりダウンレギュレートされたこと、および、3種のアルゴリズム(PicTar、Targetscan、およびMiranda)によってmiR−100の直接的な標的であると予測されたことより、(FRAP1遺伝子によってコードされる)哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)が特定された。
【0091】
miR−100の過剰発現により、mRNAにおけるmTORの発現およびタンパク質レベルにおけるmTORの発現のいずれもが内皮細胞で顕著に抑制され、miR−100の阻害により、mTORが顕著にアップレギュレートされた(図5)。mTORの3’−UTRにおけるmiR−100結合部位を図6に示す。図6において、hsa−miR−100と称される配列は、配列番号1に相当し、mTOR 3’UTRと称される配列は、配列番号7に相当する。
【0092】
実施例4:
mTORとmiRNA−100との相互作用
mTORの抑制が、観察されたmiR−100による細胞増殖の抑制に関与していたかどうかを調べるために、mTORをコードするプラスミドをプレmiR−100と組み合わせてトランスフェクトすることによりレスキュー実験を行った。
【0093】
マイクロRNA前駆体分子であるプレmiRまたはmiRNA阻害剤である抗miR(いずれもAmbion)でトランスフェクトするため、細胞を70%コンフルエントまで培養し、Lipofectamin RNAiMax(インビトロジェン)をメーカー説明書に従って使用し、8nMプレmiR−100オリゴヌクレオチドまたは抗miR−100オリゴヌクレオチドでトランスフェクトした。mTORプラスミドでHEK293細胞をトランスフェクトするために、Fugene6トランスフェクション試薬(ロシュ)を用いて、細胞3×10個当たりDNA2μgをトランスフェクトした。miRNA前駆体を有するプラスミドと阻害剤を有するプラスミドとによるダブルトランスフェクションを行うために、プレmiRおよび抗miRを上記と同様の終濃度でプラスミド/Fugeneトランスフェクションミックスに加えた。mTOR(Acc.NM004958)の全長(SKU SC124066)およびORF構築物(SKU RC220457)は、Origene collection(Origene、ロックヴィル(メリーランド))から入手した。
【0094】
mTORプラスミドのサイズが大きいため、操作に伴う毒性作用を及ぼすことなく十分な率で内皮細胞をトランスフェクトすることはできなかった。そのため、トランスフェクトが容易なHEK細胞を培養モデルに選択した。この細胞において、内皮細胞の増殖に対するmiR−100の効果を再現することができた(図7)。3’UTRを含むmTOR全長を過剰発現させたところ、プレmiR−100をトランスフェクトさせたときの抗増殖効果を部分的に回復させることができた。これに対して、miR−100結合部位を欠くORFクローンを発現させたところ、この効果を完全に回復させることができた。虚血後肢においてmiR−100の発現量が減少することと一致して、虚血後肢の主にCD31陽性内皮細胞においてmTORが強く発現されていることが免疫蛍光染色により示された。
【0095】
実施例5:
マウスにおけるアンタゴmirを用いたインビボ治療によるmiR−100阻害が促進する灌流回復
マウス後肢虚血モデルは、米国国立衛生研究所によって公表されている「実験動物の管理と使用に関する指針」に準拠しており、このマウスモデルの作成は、適切な機関による承認を得た後に行われた。C57/Bl6Jマウス(Charles River Lab.、ズルツフェルト(ドイツ))の膝関節のすぐ上にある深大腿動脈および遠位大腿動脈の近傍の浅大腿動脈を二重結紮することにより、片側性大腿動脈閉塞を作成した。反対側の脚には、動脈閉塞を作成しない偽手術を施した。分子生物学的分析、組織学的分析およびin situハイブリダイゼーションを行うために、組織を注意深く切開し、液体窒素中で急速凍結し、分析を行うまで保存した。摘出した側副動脈の切開は、リキッドラテックスを後肢血管系に灌流させ、それにより個々の動脈を識別し、単離することにより行った。
【0096】
上記マウスモデルはよく確立されたものであり、ヒトにおける状態を信頼性高く予測することが可能である(Seilerら,Circulation 2001, 104, 2012-2017、またはLimbourgら,Nature Protocols 2009, Vol. 4, No. 12, 1737-1748)。
【0097】
miR−100を阻害することによりインビボにおいて血管再生を促進できるかどうかを評価するために、片側性後肢虚血を誘導した後、マウスをmiR−100特異的アンタゴmirで治療した。アンタゴmirを3回投与したところ、種々の組織においてmiR−100の発現が強力かつ持続的に抑制され(図8)、蛍光標識アンタゴmirを血管内皮層で確認することができた。肝臓および肺の切片において、蓄積は最も顕著であった。
【0098】
上記アンタゴmirによる治療は、異なるアンタゴmirコントロールを用いた2種の治療(すなわち、一方はスクランブルされた抗miR−100アンタゴmir構築物による治療、他方はこのマウスモデルにおいて灌流回復に対する効果がないことが以前より示されているアンタゴmirによる治療)と比較して、虚血誘導後7日目においてより高い流量比をもたらし、灌流回復を顕著に促進した(図9)。さらに、この機能差は、miR−100の阻害により遠位後肢組織中の毛細血管密度が増加したことより、形態学的にも検出可能であった。この比較により、本発明のアンタゴmirの特効が実証された。
【0099】
実施例6:
mTOR阻害によるマウス血管新生障害
次いで、内因性miR−100がダウンレギュレートされ、かつ、その標的遺伝子であるmTORのシグナル伝達が損なわれている条件下における後肢灌流回復の経時変化を調べるために、別々の2つのマウス群にmTOR阻害剤であるラパマイシンまたは溶媒を毎日注射して治療を施した。ラパマイシンによる治療では、大腿動脈結紮後の7日目において血流回復が大幅に抑制され、虚血組織の毛細血管密度が減少した。
【0100】
実施例7:
TNF−αに応答してNF−κB依存的にダウンレギュレートされる内皮細胞中miR−100
内皮細胞におけるmiR−100ダウンレギュレーションの誘発因子候補を探索するために、miR−100発現に対する効果について、いくつかの血管新生促進サイトカインまたは動脈新生促進サイトカインのスクリーニングを行った。VEGF、TGF−β1、およびFGF2は、試験濃度において再現性のある持続的効果を示さなかったが、TNF−αに長時間さらしたところ、miR−100を時間依存的に顕著にダウンレギュレートした。試験濃度において統計的に有意な用量依存性は見られなかったが、TNF−αが高用量なほどmiR−100の発現量がより顕著に低下する傾向が見られた。IκBキナーゼ阻害剤であるPS1145とプレインキュベーションすることによりNF−κB経路を遮断すると、TNF−αの効果が消失した。大腿動脈結紮後のマウス後肢組織においては、TNF−αの発現は顕著にアップレギュレートされたが、これは、インビボにおいてmiR−100のダウンレギュレーションが検出されたことと一致する。免疫組織化学的分析では、閉塞した後肢の血管周囲腔において、マクロファージであると推定されるF4/80陽性細胞が大量に蓄積し、これが虚血組織におけるTNF−αの内因性供給源として機能している可能性がある。
【0101】
実施例8:
フロー条件下における白血球−HUVEC相互作用
HUVECをコンフルエントまで増殖させ、抗miR−100オリゴヌクレオチド、プレmir−100オリゴヌクレオチド、またはスクランブルされたコントロールでトランスフェクトし、30ng/mlのTNF−αで24時間刺激した。ヒトPBMC(HPBMC)は、フィコール−ハイパーク密度勾配遠心分離によって健常ドナーのバフィーコートから得た。フローチャンバを組み立てて倒立顕微鏡のステージ上に設置し、新たに単離したHPBMC(1×10/ml)を内皮細胞単層上を通過するように灌流させた。すべての実験において、白血球相互作用は1dyn/cm、105分間の条件で測定した。内皮の表面と相互作用した細胞を、位相差顕微鏡法を使用して視覚化し記録した。
【0102】
血管炎症におけるマイクロRNA−100の発現、炎症性サイトカインTNF−αおよびスタチンによるマイクロRNA−100の制御、ならびに内皮と白血球との相互作用の調節におけるmiR−100の機能的役割に関する予備結果は、内皮接着分子を抑制することにより得られた。
【0103】
マイクロRNA−100の発現
miR−100は、マウス後肢虚血モデルにおいて血管増殖が誘導されると、血管細胞において高発現され、また、内皮細胞においてダウンレギュレートされる点において、興味深い物質である。ヒトmiRNA−100は、let7a−2とのクラスターとして第11染色体に局在しており、関連配列であるmiR−99とともにmiRNAファミリーを形成している。miRNA−100は、内皮細胞において高発現され、卵巣がんおよび肝細胞癌を含むいくつかの悪性腫瘍において差次的に制御されることが判明している。内皮細胞におけるmiR−100の機能は知られておらず、現在までこのマイクロRNAは炎症過程に結びつけられてきていない。
【0104】
図10は、in situハイブリダイゼーションと内皮細胞マーカーCD31を用いた二重染色による、マウス骨格筋組織切片の毛細血管におけるmiR−100発現(赤色のシグナル)を示す。マウスにおいて発現されないmiR−159に対するプローブをネガティブコントロールとして使用した。
【0105】
興味深いことに、頸動脈結紮によって誘導されたマウスの血管損傷においても、miR−100の顕著なダウンレギュレーションが検出された。この手法では、よく検証されたモデルである炎症誘発性血管リモデリングが誘導されている。
【0106】
図11では、血管損傷によりmiR−100の発現量が減少することが示されている。10週齢のC57BL6マウス(n=3)の頸動脈の片側のみを結紮した。3日後に頸動脈を摘出した。TaqmanベースのステムループPCRを使用して、miR−100の発現レベルを定量化した。結紮しなかった側の動脈をコントロールとした(=P<0.05)。
【0107】
実施例9:
マイクロRNA−100の機能
内皮細胞におけるmiR−100発現量のベースラインが高いこと、ならびに血管損傷および虚血に応答してmiR−100がダウンレギュレートされることを見いだした後、内皮細胞(EC)におけるmiR−100の機能を調べた。すなわち、ヒトアジレント4×44kマイクロアレイプラットフォームにおいて、合成miR−100前駆体分子(プレmir)でトランスフェクトすることにより内皮細胞のmiR−100を過剰発現させ、トランスフェクションの48時間後に、コントロールオリゴヌクレオチドでトランスフェクトした内皮細胞と比較して包括的なmRNA遺伝子発現量の変化を分析した。
【0108】
マイクロアレイの結果を、個々の遺伝子レベルと、特定の生物学的経路または細胞機能を増強する遺伝子の発現量の変化を評価する「Panther Pathways Analysis」ツールを使用した生物学的な経路解析とに関して分析した。
【0109】
個々の遺伝子レベルでは、E−セレクチン(SELE)およびVCAM−1を含むいくつかの接着分子の強力なダウンレギュレーションが見いだされた。これに対し、この実験において、miR−100の直接標的遺伝子であるmTOR(遺伝子名:FRAP1)は、差次的に制御されることが判明した。上記接着分子の遺伝子は、そのmRNA配列にmiR−100結合部位を含んでいないため、miR−100の間接的な標的に違いないと考えられる(図12)。
【0110】
miR−100による上記の2種の接着分子およびICAM−1の制御を、mRNA(図13)およびタンパク質レベル(図14)について評価した。miR−100の過剰発現は、炎症性サイトカインTNF−αによる内皮活性化後のこれらの接着分子のアップレギュレーションを減弱する(図14B)。
【0111】
図12は、内皮細胞のmiR−100を過剰発現させた後のトランスクリプトーム解析の結果を示す。これにより、内皮接着分子がダウンレギュレートされることが明らかとなった。内皮細胞をmiR−100前駆体オリゴヌクレオチドでトランスフェクトした。48時間後にトータルRNAを単離し、マイクロアレイ解析により包括的な遺伝子発現量を調べた。図12に、miR−100過剰発現後にダウンレギュレートされた遺伝子の上位20種を列記する。
【0112】
図13では、miR−100の過剰発現により、VCAM−1、ICAM−1およびE−セレクチンの発現量が減少することが実証されている。ヒト内皮細胞をプレmiR−100オリゴヌクレオチドまたはスクランブルされたプレmiRコントロールオリゴヌクレオチドでトランスフェクトした。RNAを単離後、ステムループTaqman PCRを使用して、種々の接着分子の相対的mRNA発現率を測定した(P値≦0.005)。
【0113】
図14では、miR−100の過剰発現により、VCAM−1、E−セレクチンおよびICAM−1のタンパク質レベルにおけるベースライン発現量が低下し、炎症性刺激に応答したこれらのアップレギュレーションが減弱することが示されている。ヒト内皮細胞においてmiRNA−100を過剰発現させた後、タンパク質を単離した。ウェスタンブロットを使用して、VCAM−1、ICAM−1およびE−セレクチンのタンパク質発現量を決定した。図14AおよびBは、[A]ベースライン発現量、および[B]TNF−αで24時間刺激した後の発現量についての、タンパク質試料とローディングコントロール(β−チューブリン)との含量強度(volume intensity)比を示す。
【0114】
上記発現量の変化によって、白血球のローリングおよび内皮表面への付着において機能差が生じるかどうかを評価するために、フローチャンバ装置による生理的フロー条件下で、トランスフェクトした内皮細胞への単離末梢血単核球(PBMC)の付着を調べた。その結果、miR−100の過剰発現は実際に白血球の付着を顕著に抑制したが、一方miR−100の阻害はローリングおよび循環細胞の付着のいずれをも促進する作用を有することが示された(図15)。
【0115】
図15は、内皮細胞におけるmiR−100の発現が生理的フロー条件下において白血球付着を調節することを実証している。トランスフェクトしたヒト内皮細胞はTNF−αにより刺激した。
【0116】
フローチャンバ装置を用いて、生理学的静脈血フロー(1dyn/cm)を作成し、ローリング数および付着末梢血単核球(PBMC)数を計数した。
【0117】
上記の評価の結果、miR−100が内皮と白血球との相互作用に対して強い影響を与えることが示されたため、炎症促進性刺激または抗炎症性刺激が内皮細胞のmiR−100発現レベルに影響を及ぼすかどうかを調査した。この疑問を解決する第1の試みとして、miR−100の発現に対する潜在的効果について、いくつかの炎症性サイトカインを評価した。その結果、強力な炎症促進性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)−αにより内皮を活性化すると、実際にmiR−100が持続的にダウンレギュレートされることがこれまでに判明している。特異的阻害剤PS1145により転写因子NF−κBを阻害すると、miR−100レベルに対するTNF−αの調節作用が抑制されることから、上記のダウンレギュレーション効果は、NF−κBによって媒介されていると考えられる(図16)。
【0118】
図16は、内皮細胞のmiR−100が、炎症促進性サイトカインTNF−αによってNF−κB依存的にダウンレギュレートされることを示している。図16[A]では、種々の時間点において、10ng/mlのTNF−αでヒト内皮細胞を刺激した。TaqmanベースのステムループPCRを使用して、RNAを単離し定量した。
【0119】
図16[B]では、NF−κB阻害剤PS1145(10μM)を、TNF−α(10ng/ml)で刺激したヒト内皮細胞に加え、ステムループTaqman PCRを使用して、miR−100の発現レベルを測定し、PS1145を含まないコントロールと比較した(*=P<0.05)。
【0120】
HMG−CoA還元酵素阻害剤(スタチン)は、いわゆる多面的効果レパートリーの一部として血管炎症反応を抑制すること、および内皮接着分子の発現量を減少させることが示されているため、スタチンを用いた治療を行うことによりmiR−100を発現させることが可能であるとの仮定を立てた。内皮細胞をシンバスタチンとともに培養することにより、miR−100が確かにアップレギュレートされた結果が得られた(図17)。
【0121】
このデータは、スタチンによりmiR−100がインビボにおいても薬理学的に調節されること、およびmiR−100が血管系におけるスタチンの抗炎症多面的効果を媒介するものとして機能している可能性があることを示している。
【0122】
図17は、シンバスタチンがmiR−100の発現をアップレギュレートすることを実証している。1μMのシンバスタチンでヒト内皮細胞を48時間刺激した。ステムループTaqman PCRを使用して、トータルRNAを単離し定量した(P値<0.05)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、2、3、および/または9のいずれかと少なくとも85%の相同性を有するmiRNA−100分子もしくはそのアンタゴmirまたはそれらの変異体を含む、血管増殖を正または負に調節するための薬剤として使用される医薬組成物。
【請求項2】
前記miRNA−100またはmiRNAアンタゴmirが、配列番号1、2、3および9のいずれかと少なくとも90%の相同性を有することを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
内皮細胞の増殖、内皮細胞による血管形成、および内皮細胞が有する血管発芽活性を調節するために使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記miRNA−100分子が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、または配列番号9の配列のいずれかの少なくとも20ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記miRNA−100分子もしくはそのアンタゴmirまたはそれらの変異体が、配列番号1、配列番号2、または配列番号3の配列と相補性を有する配列の少なくとも20ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドまたはその変異体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記miRNA−100アンタゴmirまたはその変異体が、配列番号3、配列番号1、または配列番号2の配列と少なくとも95%の相同性を有するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項4または5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記オリゴヌクレオチドが、化学修飾塩基を含むRNA分子であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記miRNA−100分子もしくはアンタゴmirまたはそれらの変異体が、前記オリゴヌクレオチドに共有結合した共役物により修飾されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記miRNA−100配列またはその相補的配列が、患者の体内において複製可能なベクターに含まれていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
血管内病態の治療に使用されるステントに塗布されること、または該ステントのコーティングに使用されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
内皮細胞の増殖、内皮細胞による血管形成、および内皮細胞が有する血管発芽活性を調節するための前記使用または内皮細胞の接着分子発現を調節するための前記使用が、閉塞性末梢血管疾患、冠動脈疾患、脳血管疾患、血管炎、動脈硬化症、傷害応答血管リモデリング、および再狭窄からなる群から選択される血管疾患の治療に関連することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、および/もしくは配列番号9の配列のいずれかの少なくとも20ヌクレオチドもしくはその相補的配列;または配列番号1、配列番号2、配列番号3、および/もしくは配列番号9と少なくとも85%の相同性を有するヌクレオチド配列もしくはその相補的配列を含む、血管増殖を調節するための薬剤に使用するためのmiRNA−100分子もしくはそのアンタゴmirまたはそれらの変異体。
【請求項13】
内皮細胞の増殖、内皮細胞による血管形成、内皮細胞が有する血管発芽活性、または内皮細胞の接着分子発現を調節することを特徴とする、請求項12に記載のmiRNA−100分子もしくはそのアンタゴmirまたはそれらの変異体。
【請求項14】
前記オリゴヌクレオチドが、少なくとも1個の塩基が修飾されているRNA分子であることを特徴とする、請求項12に記載のmiRNA−100分子もしくはそのアンタゴmirまたはそれらの変異体。
【請求項15】
前記オリゴヌクレオチドが、前記分子の安定性を増強する少なくとも1種の基により共有結合修飾されていることを特徴とする、請求項12〜14のいずれかに記載のmiRNA−100分子もしくはそのアンタゴmirまたはそれらの変異体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2013−511964(P2013−511964A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540362(P2012−540362)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067717
【国際公開番号】WO2011/064130
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(501476605)ウニヴェルシテートクリニクム フライブルグ (3)
【Fターム(参考)】