説明

pH計を用いたNa+濃度測定システム

【課題】標準pH計と比較電極としてpNaガラス電極を有する差動式pH計を用い、pHの変化量からNa濃度を算出することが可能なNa濃度測定システムを提供する。
【解決手段】比較電極として液絡部を有する標準pH計と比較電極としてNa選択性膜を有する差動式pH計を用い、測定液中のNa濃度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH計を用いたNa+濃度測定システムに関し、比較電極としてKCl溶液と液絡部を有する標準pH計と比較電極としてNa+選択性膜を有する差動式pH計を用い、測定液中のNa+濃度を測定可能としたNa+濃度測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
pHの測定には種々の方法があるが、そのうちの主なものとして、指示薬を用いるもの、水素電極を用いるもの、キンヒドロンを用いるもの、アンチモンを用いるものなどがあるが、現在工業用としてはガラス電極を用いたものが広く用いられている。
【0003】
ガラス電極法はガラス膜の両側に異なった2種の溶液を置いたとき、両方の溶液(内部液と測定液)のpHの差に比例した起電力がガラス膜の両面に発生することを利用するものである。
図2はガラス電極法によるpH測定装置の測定原理を示すものである。
図2に示すように、薄いガラス膜1aで作られたガラス電極1の中にpHのわかっている溶液(pH7)2を入れ、これを測定液3の中に浸すとガラス膜1aの両側に起電力が生じる。4は生じた起電力を取出す内部極(Ag/AgCl)である。
【0004】
一方基準となる比較電極5は内部にKCl溶液(例えば3.3MKCl)6を満たし、この中に内部極7(Ag/AgCl)を浸漬する。比較電極5側は測定液3が多孔質セラミック製液絡部8に接しており、比較電極の内部液であるKCl溶液が液絡部8を通して流出し測定液3と接することで、温度、圧力、流量など測定液の性状の変化に係りなく測定液との間に一定の基準電位を得ている。
この方式は広い測定範囲、短い測定時間、優れた再現性、簡便な操作性を有するという特徴がある。
【0005】
図3はこのようなガラス電極法によるpHと起電力(mV)の関係を示すものである。 ガラス電極法においては、pHガラス電極のスロープは−59.16mV/pH(理論値)であり、比較電極(Ag/AgCl)の起電力はpHに依存せず一定の値(数mV)であり、pHガラス電極の起電力と比較電極の起電力がそれぞれ出力されて変換器でpHガラス電極の演算が行われる。
図3において、破線:pHガラス電極の起電力
点線:比較電極の起電力
である。本発明ではガラス電極1と液絡部8を有する比較電極5で構成されたpH計を標準pH計という。
【0006】
図4はNa+選択性膜を用いた比較電極(以下pNaガラス電極という)を示す要部断面図である。
図4において、10は内部液(pH7)11が満たされた球状のpH応答ガラス膜であり、上方に内部ガラス管14が液密に接続されている。球状のpH応答ガラス膜10の中には塩化銀電極12および温度センサ13が浸漬されている。12aは塩化銀電極12に接続されたリード線である。
【0007】
15はpH応答ガラス膜10の上方に内部ガラス管14を覆って液密に形成された外部ガラス管で、pH応答ガラス膜10に近い下部付近の外周にpNA応答ガラス膜16が形成されている。17はpNa応答ガラス膜16の上方に形成された白金電極で、この白金電極にはリード線17aが接続されている。15aは外部ガラス管15の内面に貼付され白金電極部分を除いて一端が白金電極17の下方まで延長されたシールド板である。
【0008】
18は外部ガラス管と内部ガラス管の間に配置された中部ガラス管で、一端はpNa応答ガラス膜16の上方と白金電極17の間の外部ガラス管15の内周に液密に接続されており、内部ガラス管14と中部ガラス管18の空間には1MNaCl内部液19が満たされている。20は内部ガラス管14と中部ガラス管18の間に配置されpNa応答ガラス膜16の近傍に配置された塩化銀電極、20aは塩化銀電極に接続されたリード線である。
【0009】
図5は図2に示した液絡部を有する比較電極5の替りに図4に示すpNaガラス電極10を有する比較電極21を用いた例を示す模式図である。
この比較電極21における基準電位は内部極22の電位とpNaガラス膜10の電位で決まる。
ここで、
(1)内部極電位は温度、KCl濃度で決まる一定の単極電位を発生する。
(2)pNaガラス電極の電位はNa+濃度が変化しなければ比較電極として使用できる。
【0010】
比較電極としてpNaガラス電極を用いた差動式pH計は標準pH計と同様にH+濃度に選択的なpHガラス電極を使用しているが、比較電極にはKClや液絡ではなく、Na+選択性膜を使用している。その結果、
1)pHガラス電極の起電力と比較電極の起電力がそれぞれ出力されて変換器で演算(pHガラス電極の起電力−比較電極の起電力)が行われる。
【0011】
2)pNaガラス電極は、測定液中のNa+濃度に依存性を示す。
3)校正(二点校正は)は通常1mol/lNa+となるように調整したpH標準液を使用する。次に、測定水のpHを標準のpH検出器使って測定し、差動式pH計のpH値標準pH値に合わせ込む(1点校正)。仮に測定液が1mol/lのNa+を含んでいれば、比較電極としてpNaガラス電極を用いたpH計(差動式pH計)は標準pH計と同じpH値を示し、1点校正の必要はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−26840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、差動式pH計は比較電極にpNaガラス電極を使用しているため、液絡部やKCl溶液を必要としない利点があるが、比較電極であるpNaガラス電極の起電力はNaイオンの濃度に依存してしまう。
【0014】
そのため、pH測定をするためには、測定液中のNa+濃度は一定でなければならないという制約がある。(仮にH+の濃度が一定でも、Na+濃度が変化してしまうと、変換器に出力されるpHは変化してしまう。)
例えば、測定液のNa+濃度が20%増加(減少)すると、指示値は0.1pH高く(低く)表示される。という課題があった。
【0015】
従って本発明は、標準pH計と比較電極としてpNaガラス電極を用いた差動式pH計を用い、pHの変化量からNa+濃度を算出することで、Na+濃度を測定することを可能としたNa+濃度測定システムを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載のpH計を用いたNa+濃度測定システムにおいては、
標準pH計と、比較電極としてpNaガラス電極を用いた差動式のpH計を用い、pHの変化量からNa+濃度を算出することで、Na+濃度を測定することをことを特徴とする。
【0017】
請求項2においては、請求項1に記載のpH計を用いたNa+濃度測定システムにおいて、
Na+濃度の算出は前記標準pH計により得られたpH値と前記差動式pH計により得られたpH値の差から演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したことから明らかなように本発明によれば、
標準pH計と比較電極としてpNaガラス電極を用いた差動式pH計を併用するため、pHの値を測定しながらNa+濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】比較電極としてpNaガラス電極を用いた差動式pH計のNa+濃度に関連した出力の一例を示す説明図である。
【図2】標準pH計の測定原理を示す図である。
【図3】標準pH計によるpHと起電力(mV)の関係を示す図である。
【図4】pNaガラス電極を用いた差動式pH計の構成図である。
【図5】比較電極としてpNaガラス電極を用いた差動式pH計の測定原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1(a〜c)はNa+濃度を1mol/l(pNa=0)から増減させた場合のpHガラス電極、pNaガラス電極の起電力およびpHガラス電極の起電力−pNaガラス電極の起電力を示す図である。
図1(b)は、Na+濃度を1mol/l(pNa=0)とした場合の出力の一例を示すもので、pNaガラス電極の起電力は点線で示されるゼロであるためpHガラス電極の起電力−pNaガラス電極の起電力は図3に示される標準pH計のpHガラス電極の起電力の出力と一致している。
【0021】
図1(a)はNa+濃度が減少した場合の出力の一例を示すもので、Na+濃度が薄くなるとpNaガラス電極の起電力は減少し、その結果(pHガラス電極の起電力−pNaガラス電極の起電力は大きくなる。
る。
【0022】
図1(c)はNa+濃度が増大した場合の出力の一例を示すもので、Na+濃度が濃くなるとpNaガラス電極の起電力は増加し、その結果、pHガラス電極の起電力−pNaガラス電極の起電力は小さくなる。
【0023】
即ち、Na+濃度が1mol/lの場合は、差動式pH計におけるpNaガラス電極の起電力はほぼ0mVで、出力されるpHは標準pH計とほとんど同じ挙動を示す。
Na+濃度が薄くなると、差動式pH計におけるpNaガラス電極の起電力は減少し、その結果pHガラス電極の起電力−pNaガラス電極の起電力は増加するため、結果として出力されるpHは小さくなる。Na+濃度が濃くなると、pNaガラス電極の起電力は増加し、その結果pHガラス電極の起電力−pNaガラス電極の起電力は減少するため、結果として出力されるpHは大きくなる。
【0024】
次に計算方法について説明する。
比較電極としてpNaガラス電極を用いたpH計と標準pH計を用いて測定液のpHを同時に測定する。
【0025】
そして、標準pH計で測定した値がpH=8、比較電極としてpNaガラス電極を用いたpH計がpH5を示したとする。この場合、比較電極としてpNaガラス電極を用いたpH計で測定した値が標準pH計で測定した値よりpHが3減少しているので、pNaで測定した値は3増加していることなり、pNaガラス電極を用いたNa濃度=3(Na= 10-3mol/l)であることが分かる。
【0026】
また、標準のpHの出力がpH=8、比較電極としてpN+ガラス電極を用いた差動式pH計がpH8.75を示したとする。この場合、比較電極としてpNaガラス電極を用いた差動式pH計で測定した値が標準pH計で測定した値よりpHが0.75増加しているので、pNaで測定した値は0.75減少していることなり、pNa=−0.75(Na=5.62mol/l)であることが分かる。
【0027】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0028】
1 ガラス電極
2 pH7の溶液
3 測定液
4、7、11 内部極
5 比較電極
6 3MKCL溶液
8 液絡部
10 Na+選択性膜
12、20 塩化銀電極
12a、17a、20a リード線
13 温度センサ
14 内部ガラス管
15 外部ガラス管
15a シールド板
16 pNa応答ガラス膜
17 白金電極
18 中部ガラス膜
19 1MNaCl内部液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比較電極として液絡部を有する標準pH計と比較電極としてNa+選択性膜を用いた差動式pH計を用い、測定液中のNa+濃度を測定することを特徴とするpH計を用いたNa+濃度測定システム。
【請求項2】
Na+濃度の算出は前記標準pH計により得られたpH値と前記差動式pH計により得られたpH値の差から演算することを特徴とする請求項1に記載のpH計を用いたNa+濃度測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233818(P2012−233818A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103552(P2011−103552)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)