説明

repE変異遺伝子を含有する構成的高発現ベクター

本発明は目的タンパク質の構成的高発現ベクターに関し、より一層詳しくはRepEタンパク質においてC末端の21個のアミノ酸が欠失されたRepE変異タンパク質及び前記変異タンパク質をコードする遺伝子を含有する目的タンパク質の構成的高発現ベクターに関する。本発明に係る構成的高発現ベクターは、目的タンパク質を安定的に高発現させ、本発明に係る表面発現ベクターは、目的タンパク質を構成的に高発現させると共に組換え微生物に表面発現させて必要なワクチン製造用抗原作製に有効に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的タンパク質の構成的高発現ベクターに関し、より一層詳しくはRepEタンパク質においてC末端の21個のアミノ酸が欠失されたRepE変異タンパク質及び前記変異タンパク質をコードする遺伝子を含有する目的タンパク質の構成的高発現ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、米国及びヨーロッパにおいて乳酸菌を利用した生ワクチンの開発、有用なホルモン剤の腸内運搬体に対する研究、及びこれのために効率的な遺伝資源の確保と乳酸菌用挿入ベクター開発に対する研究が進められている。特に、乳酸菌に含まれている多量の構成成分である非メチル化の(unmethylated)CpG DNA、リポタイコ酸(lipoteichoic acid)、ペプチドグリカン等がアジュバント(adjuvant)としての役割を果たすと知られているため、乳酸菌のワクチン伝達体(vehicle)としての有用性が高く評価されている。また、乳酸菌は胆汁酸及び胃酸に抵抗性を示し、腸までの抗原伝達が可能であるため、腸内粘膜免疫を誘導できるという点で多くの長所を持っている(Jos F. M. K. Seegers, Trends Biotechnol., 20:508, 2002)。
【0003】
しかし、乳酸菌をワクチン伝達体として用いるためには、疾病予防用抗体生成のための抗原タンパク質を菌体の内部または外部に提示し、抗原抗体反応がスムーズになるようにする技術の開発が必要であり、実際にHPV(Human papilloma virus)のL1タンパク質が内部発現される乳酸菌を利用した抗体誘導能の確認(Karina, A. A. et al., Appl. Environ. Microbiol., 72:745, 2006)及びIL−2(Interleukin-2)の乳酸菌分泌発現菌株を利用した疾病治療効能確認(Lothar, S. et al., Nat. Biotechnol., 21:785, 2003)等、この他にも乳酸菌がワクチン伝達体として適していることを証明した多様な研究結果が発表されている。前記のように目的タンパク質を発現する乳酸菌に対する多様な用途開発と学問的研究が活発に行われているが、未だに、発現する目的タンパク質の発現量が不充分であるという問題点と発現ベクターが宿主細胞内において不安定であるという問題がある。
【0004】
宿主細胞において外来タンパク質を産生する方法としては、高効率プロモーターを利用して、発現を増加させる方法、宿主細胞の表面に所望のタンパク質を付着して、発現させる細胞表面発現(cell surface display)方法、宿主細胞内発現ベクターのコピー数を増加させる方法等が挙げられる。
【0005】
細胞表面発現技術は、バクテリアや酵母等、微生物の表面タンパク質を表面発現母体(surface anchoring motif)と用いて外来タンパク質を表面に発現させる技術として、組換え生ワクチンの産生、ペプチド/抗体ライブラリー作製及びスクリーニング、全細胞吸着剤(whole cell absorbent)、全細胞生物転換触媒(whole cell bioconversion catalysts)等、多様な応用範囲を有する技術である。即ち、この技術はどのタンパク質を細胞表面に発現させるのかによって、その応用範囲が決められ、従って細胞表面発現技術を利用した産業的応用潜在力は相当なものであると言える。
【0006】
本発明者等は、バシラス属菌株由来のポリγグルタミン酸の合成複合体遺伝子(pgsBCA)を新しい表面発現母体として活用することに対し鋭意検討して研究した結果、pgsBCA遺伝子を利用して、外来タンパク質を微生物の表面に効果的に発現させる新しいベクター、微生物の表面に外来タンパク質を多量発現させる方法を開発したことがある(韓国登録特許第469800号)。
【0007】
高効率プロモーターを用いる方法において、乳酸菌で有用な外来タンパク質を産生するための高効率プロモーターとしては、ストレプトコッカス・サモフィルスA504、ラクトコッカスラクチスMG1614、ラクトコッカスクレマチスWg2のゲノム由来の構成的発現プロモーターが知られており(Philippe, S. et al., Appl. Envion. Microbial., 57:1333, 1991, Teija, K. et al., Appl. Envion. Microbial., 57:333, 1991, J. M. van der Vossen et al., Appl. Envion. Microbial., 53:2452, 1987)、本発明者等はラクトバシラスカゼイ由来の構成的高発現ベクターであるアルドラーゼプロモーターを含有するベクターについて出願したことがある(韓国公開特許第10−2008−0086161号)。
【0008】
宿主細胞内において発現ベクターの複製コピー数を増加させる方法に対する研究も進められており(Tomio, M. et al, Appl. Microbiol. Biotechnol. 28:170, 1988)、プラスミドの複製に係わるRepEタンパク質を利用して、細胞内プラスミドの複製コピー数を変化させる方法に対する研究も進められてきた(Yashuo, K. et al., J. Bacteriology, 173:1064, 1991)。
【0009】
RepEタンパク質は、mini−Fプラスミドの複製開始タンパク質(replication initiator protein)であり、オリジンから複製を始めるのに重要な役割を果たすタンパク質で、29kDaの分子量を有しori2の19bpの長さの繰返し配列に結合する(Maki, S. et al., Mol. Gen. Genet., 194:337, 1984, Tolun, A. et al., Mol. Gen. Genet. 186:372, 1982)。RepEタンパク質は、さらにプラスミドのコピー数の調節に係わり、細胞内RepEタンパク質の濃度に応じて、ori2における複製開始頻度が決定され、これによってプラスミドのコピー数が決定されると推測されている(Tokino, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:4109, 1986)。
【0010】
従って、RepEタンパク質を調節して、プラスミドのコピー数と安全性を増加させようとする努力がなされており、RepEを点突然変異させて、形質転換体内のプラスミドのコピー数を増加させた研究(Yashuo, K. et al., J. Bacteriology, 173:1064, 1991)とRepEタンパク質のC末端をフレームシフトさせ構造的に変異させた変異タンパク質が目的タンパク質の転写を抑制するリプレッサーとしての役割を果たすことを示した研究(Hujihiko, M. et al., J. Bacteriology, 177:1994, 1995)等があった。
【0011】
そこで、本発明者等は形質転換された組換え微生物内において発現ベクターを安定化させて、目的タンパク質を高発現させるベクターを開発しようと鋭意努力した結果、RepEタンパク質のC末端の21個のアミノ酸を欠失させたRepE変異タンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターが、目的タンパク質を安定的に高発現させることを確認して本発明の完成に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、形質転換された組換え微生物において安定的に複製される構成的高発現ベクターを提供することである。
本発明の他の目的は、形質転換された組換え微生物の表面に目的タンパク質を安定的、かつ構成的に高発現させられる構成的高発現ベクターを提供することである。
本発明のさらに他の目的は、前記ベクターで形質転換された組換え微生物及び前記微生物を培養することを特徴とする目的タンパク質の製造方法を提供することである。
【課題を達成するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、本発明はRepEタンパク質においてC末端21個のアミノ酸が欠失された配列番号1のアミノ酸配列を有するRepE変異タンパク質を提供する。
本発明はさらに、前記RepE変異タンパク質をコードするrepE変異遺伝子を提供する。
本発明はさらに、前記repE変異遺伝子及び前記repE変異遺伝子と作動可能に連結した目的タンパク質をコードする遺伝子を含有する目的タンパク質の構成的高発現ベクターを提供する。
本発明はさらに、前記ベクターで形質転換された組換え微生物を提供する。
本発明はさらに、前記微生物を培養して、目的タンパク質を微生物表面に生成させる工程、及び前記生成された目的タンパク質を回収する工程を含む目的タンパク質の製造方法を提供する。
本発明はさらに、前記repE変異遺伝子、乳酸菌由来アルドラーゼプロモーター(Pald),pgsB、pgsC及びpgsAで構成された群から選択されるいずれか一つ以上のポリグルタミン酸合成酵素複合体遺伝子,及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含む,目的タンパク質の構成的表面発現ベクターを提供する。
本発明はさらに、前記ベクターで形質転換された組換え微生物を提供する。
本発明はさらに、前記組換え微生物を培養して、目的タンパク質を微生物表面に生成させる工程、及び前記生成された目的タンパク質を回収するか、または目的タンパク質が表面に生成された微生物を回収する工程を含む目的タンパク質の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】非変異repE遺伝子を含有する構成的高発現ベクターのpAT−Pald−PgsA−Amylaseの遺伝子地図である。
【図2】21個のアミノ酸が欠けたRepEをコードする遺伝子を含有する構成的高発現ベクターであるpKV−Pald−PgsA−Amylaseの遺伝子地図である。
【図3】前記pKV−Pald−PgsA−Amylaseで形質転換されたラクトバシラスカゼイ菌株が産生するアミラーゼの分解能をヨード発色反応で確認したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一つの観点において、本発明はRepEタンパク質においてC末端21個のアミノ酸が欠失された配列番号1のアミノ酸配列を有するRepE変異タンパク質及び前記RepE変異タンパク質をコードするrepE変異遺伝子に関する。
RepEタンパク質は、プラスミドのオリジンに結合して、複製開始に係わるタンパク質で、本発明では前記RepEタンパク質を変異させ、前記変異されたRepEタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターが形質転換された組換え微生物において、前記発現ベクターが安定的に高発現できるRepE変異体を取得した。
【0016】
本発明においてrepE遺伝子を含有し、目的タンパク質をコードする遺伝子でアミラーゼ遺伝子を含有するプラスミドにおいてRepEタンパク質のC末端、中間及びN末端に該当する遺伝子部位を各々site−directed−mutagenesis方法で変異させ、前記repE遺伝子が変異されたプラスミドを乳酸菌に形質転換させ、アミラーゼ活性を確認する方法を通して、C末端の21個のアミノ酸が欠失されたRepE変異タンパク質をコードする遺伝子を含有するベクターのみが形質転換された乳酸菌において高いアミラーゼ活性を着実に維持することを確認し、前記変異タンパク質を構成的高発現ベクター用RepE変異タンパク質として選別した。
【0017】
従って、前記repE変異遺伝子は配列番号2の塩基配列を有することを特徴とする。
他の観点において、本発明は、前記repE変異遺伝子及び前記repE変異遺伝子と作動可能に連結した目的タンパク質をコードする遺伝子を含有する目的タンパク質の構成的高発現ベクター及び前記ベクターで形質転換された組換え微生物に関する。
【0018】
発現ベクターは、通常、転写を可能にするプロモーター、プロモーターのダウンストリームに目的タンパク質を発現する遺伝子、微生物内において自己複製して、増幅できる遺伝子及び目的とするベクターを選別するための抗生物質の選択マーカー遺伝子が最小限必要であり、標的遺伝子を除いた前記遺伝子はベクターのバックボーン(backbone)及び選択された宿主により変わる。ベクター作製において前記最小限に必要な遺伝子は当業者には広く知られており、遺伝子発現条件及び目的に応じて容易に選択することができる。
【0019】
標的遺伝子だけでなく追加的に調節部位を含む遺伝子発現を目的とするベクターまたはDNA配列を適する宿主細胞に挿入するために多様な方法及び手段を用いることができる。例えば、トランスフォーメーション、トランスフェクション、接合(conjugation)、原形質融合(protoplast fusion)法及びカルシウムホスフェート沈殿法のような生化学的方法や、DEAE(diethylminoehtyl)デキストラン、またはエレクトロポレーション等の物理的な方法を用いることができる。
【0020】
発現ベクターを適切な宿主細胞に挿入した後、当業界に周知の通常の技術を用いて、形質転換体だけを選別できる抗生物質を含む宿主の生長に適する選択培地を使って、標的遺伝子を発現できるベクターを含有する形質転換体を選別することができる。
前記「目的タンパク質」または「外来タンパク質」は、前記タンパク質を発現する形質転換された宿主細胞においては正常には存在できないタンパク質を意味する。例えば、乳酸菌においてウイルス由来または腫瘍由来タンパク質を人為的に発現するように操作した場合、前記タンパク質を外来タンパク質または目的タンパク質という。
【0021】
本発明において核酸は、他の核酸配列と機能的関係に配置される際に「作動可能に連結(operably linked)」される。これは適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)は調節配列に結合される際、遺伝子発現を可能にする方式で連結された遺伝子及び調節配列であってもよい。例えば、前配列(pre-sequence)または分泌リーダー(leader)に対するDNAは、ポリペプチドの分泌に係わる前タンパク質として発現する場合、ポリペプチドに対するDNAに作動可能に連結され、プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結されたり、またはリボソーム結合部位は、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結されたり、またはリボソーム結合部位は翻訳を容易にするように配置される場合、コード配列に作動可能に連結される。一般に、「作動可能に連結される」ことは連結されたDNA配列が接触し、また分泌リーダーの場合接触してリーディングフレーム内に存在することを意味する。しかし、エンハンサー(enhancer)は、接触する必要がない。これらの配列の連結は、適当な制限酵素部位においてライゲーション(連結)により行われる。そのような部位が存在しない場合、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプター(oligonucleotide adaptor)またはリンカー(linker)を用いる。
【0022】
また他の観点において、本発明は、前記微生物を培養して、目的タンパク質を微生物表面に生成させる工程、及び前記生成された目的タンパク質を回収する工程を含む目的タンパク質の製造方法に関する。
【0023】
本発明に係る組換え微生物の培養は、広く公知の方法に従って行われ、培養温度及び時間、培地のpH等の条件は適宜調節される。前記組換え微生物の菌体回収は、通常の分離技術、例えば遠心分離法、分子量によるカッティング等を利用することができる。
【0024】
また他の観点において、本発明は、前記repE変異遺伝子、乳酸菌由来アルドラーゼプロモーター(Pald)、pgsB、pgsC及びpgsAで構成された群から選択されるいずれか一つ以上のポリグルタミン酸合成酵素複合体遺伝子、及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含む、目的タンパク質の構成的表面発現ベクター及び前記ベクターで形質転換された組換え微生物に関する。
【0025】
本発明においては、構成的高発現プロモーターであるアルドラーゼプロモーターを用いており、前記プロモーターはラクトバシラスカゼイに存在するアルドラーゼ遺伝子の発現を誘導するプロモーターである。
【0026】
前記プロモーターのダウンストリームには表面発現母体であるポリγグルタミン酸合成酵素複合体の遺伝子を含み、前記表面発現母体はベクターのDNA配列上においてプロモーターと標的遺伝子との間に位置する。前記表面発現母体の遺伝子はアミノ酸でコードされた後には目的タンパク質の前半部に連結されて発現したタンパク質が細胞膜の脂質と結合するように誘導する作用をするため、目的タンパク質が表面発現されるのに決定的な役割を果たす。前記表面発現母体の遺伝子をプロモーター及び標的遺伝子と連結する方法は、PCR、制限酵素切断及びライゲーション法等、当業者によって容易に実施できる通常の技術が使用される。
【0027】
本発明において用いられた表面発現母体は、ポリγグルタミン酸の合成酵素遺伝子pgsBCA中pgsAである。
本発明のプロモーターによって発現されて、宿主の表面に提示される目的タンパク質は、酵素、抗体、抗原、吸着タンパク質または付着タンパク質であってもよいが、より好ましくは抗原である。
【0028】
前記目的タンパク質または抗原は、好ましくは感染性微生物、免疫疾患由来抗原または腫瘍由来の抗原、例えば、真菌性病原体、バクテリア、寄生虫、腸内寄生虫(helminth)、ウイルスまたはアレルギー誘発物質等を含むが、これらに限定されない。より詳細には、前記抗原は、破傷風トキソイド(tetanus toxoid)、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(hemagglutinin)または核タンパク質、ジフテリアトキソイド(diphtheria toxoid)、HIVのgp120またはその断片、HIVのgagタンパク質、IgAプロテアーゼ(protease)、インシュリンペプチドB、スポンゴスポラサブテレエニア(Spongospora subterranea)抗原、ビブリオ(Vibriose)抗原、サルモネラ(Salmonella)抗原、肺炎球菌抗原(Pneumococcus)、RSV(Respiratory syncytial virus)抗原、インフルエンザ菌(Hemophilus influenza)外膜タンパク質、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)抗原、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)のウレアーゼ(urease)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のピリン(pilin)、淋菌(N. gonorrhoeae)のピリン(pilin)、メラノーマ関連タンパク質(melanoma associated antigens:TRP2、MAGE−1、MAGE−3、gp100、チロシナーゼ、MART−1、HSP−70、beta−HCG)、HPV−16、−18、−31、−35、または−45から由来するE1、E2、E6及びE7を含むヒトパピローマウイルスの抗原、CEA腫瘍抗原、正常または変異されたrasタンパク質、正常または変異されたp53、Muc1、pSA等を含み、また、コレラ、ジフテリア、ヘモフィルス(Haemophilus)、A型肝炎、B型肝炎、インフルエンザ、麻疹、脳炎、耳下腺炎、百日咳、水痘、肺炎(pneumococcal pneumonia)、小児麻痺、恐水病、風疹(rubella)、破傷風、結核、アジソン病(Addison’s disease)、免疫反応誘発物質(immunogen)、アレルギー誘発物質(allergen)、固形腫瘍及び血液腫瘍を含む癌、後天性免疫不全症、腎臓、膵臓、灰骨、肝等の移植拒否時係わる因子等から由来する当業界に周知の抗原及び自家免疫を誘発する抗原等を含んでもよい。
【0029】
本明細書において、「宿主」、または「微生物」とは、プロバイオチック(probiotic)のグラム陽性菌である乳酸菌を意味し、に言及することができ、一般的なプロバイオティク微生物の選別基準には(i)ヒト由来の微生物であること、(ii)胆汁、酸、酵素及び酸素に安定的であること、(iii)腸内粘膜に付着する能力があること、(iv)消化器官内においてコロニーを形成できる能力があること、(v)抗バクテリア性物質を産生できること、及び(vi)効能や安全性が証明できること等の条件が含まれている。前記条件を根拠に乳酸菌は人体内における生長が親和的、無害な菌であることが明白である。従って、乳酸菌を宿主とする形質転換体を人体に適用させて、疾病の予防または治療のための遺伝子伝達またはタンパク質伝達等の用途として用いる場合、菌株を使う通常のワクチン製造方法とは異なって菌株の無毒化の工程を要しない。
【0030】
本発明において、形質転換微生物は、乳酸菌または大腸菌であることを特徴とする。
本発明において、前記乳酸菌は、ラクトバシラス属、ストレプトコッカス属及びビフィドバクテリウム属を含んでもよい。代表的には、ラクトバシラス属は、ラクトバシラスアシドフィルス(L. acidophilus)、ラクトバシラスカゼイ(L. casei)、ラクトバシラスプランタルム(L. plantarum)、ラクトバシラスファーメンタム(L. fermentum)、ラクトバシラスデルブリュッキ(L. delbrueckii)、ラクトバシラスジョンソニー(L. johnsonii LJI)、ラクトバシラスロイテリ(L. reuteri)及びラクトバシラスブルガリクス(L. bulgaricus)、ストレプトコッカス属は、ストレプトコッカスサーモフィルス(S. thermophilus)、ビフィドバクテリウム属は、ビフィドバクテリウムインファンティス(B. infantis)、ビフィドバクテリウムビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウムロンガム(B. longum)、ビフィドバクテリウムシュードロンゴム(B. psuedolongum)、ビフィドバクテリウムブレブ(B. breve)、ビフィドバクテリウムラクチスBb−12(B. lactis Bb-12)及びビフィドバクテリウムアドレッセンティス(B. adolescentis)等を宿主として使用でき、より好ましくはラクトバシラス属である。
【0031】
本発明においては、前記変異されたRepE、プロモーター及び表面発現母体であるpgsAが連結された塩基配列を含み、標的遺伝子としてαアミラーゼ遺伝子の発現できる発現ベクター(pKV−PgsAL−Amylase)を作製し、前記発現ベクターをラクトバシラスカゼイに挿入して、アミラーゼを発現する形質転換体を製造した。
本発明の向上した遺伝子発現能力を有するプロモーターで発現する目的タンパク質は、菌体表面に発現し、従って本発明の形質転換された組換え微生物はワクチン(vaccine)として用いられる。
【0032】
また他の観点において、本発明は、前記組換え微生物を培養して、目的タンパク質を微生物表面に生成させる工程、及び前記生成された目的タンパク質を回収するか、または目的タンパク質が表面に生成された微生物を回収する工程を含む目的タンパク質の製造方法に関する。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を、実施例を挙げて詳述する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないことは当業者において通常の知識を有する者にとって自明である。即ち、下記工程は一つの例示として説明されるだけであり、本発明の範囲がこれらに限定されない。
【0034】
[実施例1]アルドラーゼプロモーターを利用したアミラーゼ表面発現ベクター(pAT−Pald−PgsA−Amylase)の構築及び乳酸菌形質転換を介したアミラーゼ活性観察
構成的高発現ベクターを作製するために、先ず、バシラス属菌株由来のポリγグルタミン酸合成に係わる遺伝子(pgsBCA)中、pgsAを利用してグラム陰性及びグラム陽性微生物で目的タンパク質を表面発現できるベクターにおいて、特に乳酸菌宿主においてより安定的に高い発現率を示すことができるようプロモーターと複製(replication)と係わる部分を改良して、プラスミドの複製開始に係わるタンパク質であるRepEを変異させて、宿主細胞内においてより安定的に複製され、維持される構成的高発現表面発現ベクターであるpKV−Pald−PgsAL−Amylaseを得た。
【0035】
本実施例においては、乳酸菌においてベクターに挿入された目的タンパク質の発現量を高めるためのプロモーターであるアルドラーゼプロモーターを含有する乳酸菌−大腸菌シャトルベクターを作製した。
先ず、乳酸菌においてベクターに挿入された目的タンパク質の発現量を高めるため、ラクトバシラスカゼイ由来のプロモーターであるアルドラーゼプロモーター断片を得た。前記アルドラーゼプロモーターは韓国公開特許第10−2008−0086161号に開示されたpDT−PgsA−Amylaseを鋳型として配列番号3と配列番号4のプライマーを用いてPCR方法を介して得た。
【0036】
配列番号3:5”−CGC GCA TGC AAT ACC CAC TTA TTG CG−3
配列番号4:5’−cag ttc ttt ttt cat gta gat atc ctc c−3’
その結果、アルドラーゼプロモーターを含み、5'末端にはSphI制限酵素部位を含んでおり、3'末端にはpgsAのN末端17bpを含んでいる421bpのDNA切片を取得し、同じベクターを鋳型として、配列番号5と配列番号5のプライマーを用いてPCRを行い、先に取得したアルドラーゼプロモーター切片と連結できるpgsA遺伝子の部分を得た。
【0037】
配列番号5 5’−gga gga tat cta cat gaa aaa aga act g−3’
配列番号6 5”−ggc gct ggc ggt cgt ttg g−3”
その結果、確保されたDNA切片のN末端の部分は、アルドラーゼプロモーターの3'末端の13bpを含み、pgsAが直接連結されている782bp切片を得た。
この切片のpgsA部分内にPstI制限酵素部位が含まれている。
前記確保された二つの切片を連結して両側末端のプライマーを用いてPCRを行って、1175bpのDNA切片を取得し、SphIとPstIで切断して、アルドラーゼプロモーターとpgsA N末端の一部分を含んだ切片を得た。
【0038】
pBT:pgsA−Amylase(pAT−PslpA−pgsA−amylase、韓国登録特許第0872042号の間接実施例参照)を制限酵素SphI及びPstIで切断してSlpA7プロモーターの部分とpgsAのN末端の部分を除去して、発現ベクターの骨格にした。
SphIとPstIで切断したアルドラーゼプロモーターを含有しているDNA断片を同じ制限酵素で切断したpBT:pgsA−Amylaseと連結して、pAT−Pald−PgsA−Amylaseを完成した(図1)。
前記完成された構築体pAT−Pald−PgsA−Amylaseをelectroporation方法を利用して、繰り返しラクトバシラスカゼイに形質転換を行ったたが、1%澱粉(starch)含有固体MRS培地において活性を示す形質転換体を取得できなかった。
【0039】
[実施例2]repE遺伝子変異導入(pKV vector)Amylase表面発現大腸菌−乳酸菌シャトルベクターの製造(pKV−Pald−PgsAL−Amylase)及び乳酸菌形質転換体のアミラーゼ活性観察
細胞内において、プラスミドの複製開始に係わるタンパク質と知らされるRepEをコードする遺伝子に変異を誘発させて、目的タンパク質の乳酸菌における安定した表面発現を誘導しようと大腸菌−乳酸菌シャトルベクターを製造した。
【0040】
repE遺伝子のN末端、中間、C末端部位に多様にsite−directed mutagenesis方法を介して、変異を誘発させて大腸菌でプラスミドを取得した後、ラクトバシラスカゼイ(L. casei)に形質転換して、各々確保された形質転換体のアミラーゼ活性を比較した。
pAT−Pald−PgsA−Amylaseに含まれたrepE遺伝子のC末端部位を変異させるため、下記のようにPCRを行って確保されたDNA断片を連結して、特定部位の塩基配列を変化させるsite−directed mutagenesisを行った。先ず、pAT−Pald−PgsA−Amylaseを鋳型として配列番号7と8及び配列番号9と10のプライマーを用いて、各々PCR方法を介してDNA断片を得た。
【0041】
配列番号7 5’−cgg aaa tcg ttt gat tg−3’
配列番号8 5’−cta gct tgt ttc aag tct c−3’
配列番号9 5’−cat tca aga gac ttg aaa caa g−3’
配列番号10 5’−ctg gta gtt gtg tga ccg caa tcg g−3’
前記確保された二つの切片を連結し、両側末端のプライマーを用いてPCRを行って、3、888bpのDNA切片を取得し、確保された切片はrepE遺伝子部位の1、424bp部位にTがGに変異された。変異された切片をHindIIIとPvuIIで切断して、repE遺伝子のC末端と複製に係わる部位を含んだ2、192bpのDNA切片を得た。
【0042】
pAT−Pald−PgsA−AmylaseをPvuIIとBamHI及びBamHIとHindIIIで切断して、アルドラーゼプロモーターとpgsA遺伝子を含む1、770bpのDNA切片とアミラーゼ遺伝子とエリスロマイシン抗生剤抵抗性遺伝子等を含んだ6、582bpのDNA切片を各々得た。
前記site−dircted mutagenesis方法で変異が誘発されたrepE遺伝子のC末端切片と1、770bpのDNA切片と6、582bpのDNA切片とを連結して、repE遺伝子に変異が誘発された大腸菌−乳酸菌シャトルベクターのpKV−Pald−PgsA−Amylase(変異pAT−Pald−PgsA−Amylase)を得た。
【0043】
前記repE遺伝子を変異させた変異pAT−Pald−PgsA−Amylaseベクターを大腸菌に形質転換させて、変異が正しく生じたベクターで形質転換された菌体を取得した。前記取得された形質転換体からプラスミドを分離して、得られたプラスミドベクターをラクトバシラスカゼイに形質転換させた後、1%澱粉が添加されたMRS固体培地において一定時間培養後、表面発現されたアミラーゼによって、培地上に含まれた澱粉が分解される程度を、ヨード染色を介して確認した。
【0044】
その結果、前記変異体中、RepEタンパク質の475番目のアミノ酸であるLeu(TTA)がストップコドン(TGA)に変異されながら、21個のアミノ酸が欠けたRepEをコードする遺伝子を有する乳酸菌形質転換体が50個の形質転換体全てにおいて安定的かつ強く発現することを観察した(図3)。
【0045】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を持った者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されることはないという点は明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とこれらの等価物により定義されると言える。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る構成的高発現ベクターは、目的タンパク質を安定的に高発現させ、本発明に係る表面発現ベクターは、目的タンパク質を構成的に高発現させると共に組換え微生物に表面発現させて必要なワクチン製造用抗原作製に有効に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RepEタンパク質においてC末端21個のアミノ酸が欠失された配列番号1のアミノ酸配列を有するRepE変異タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のRepE変異タンパク質をコードするrepE変異遺伝子。
【請求項3】
配列番号2の塩基配列を有する、請求項2に記載のrepE変異遺伝子。
【請求項4】
請求項2に記載のrepE変異遺伝子及び前記repE変異遺伝子と作動可能に連結した目的タンパク質をコードする遺伝子を含有する目的タンパク質の構成的高発現ベクター。
【請求項5】
前記repE変異遺伝子が、配列番号1の塩基配列を有する、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターで形質転換された組換え微生物。
【請求項7】
請求項6に記載の組換え微生物を培養して、目的タンパク質を生成させる工程、及び前記生成された目的タンパク質を回収する工程を含む目的タンパク質の製造方法。
【請求項8】
請求項2に記載のrepE変異遺伝子、乳酸菌由来アルドラーゼプロモーター(Pald)、pgsB、pgsC及びpgsAで構成された群から選択されるいずれか一つ以上のポリグルタミン酸合成酵素複合体遺伝子、及び目的タンパク質をコードする遺伝子が連結されている目的タンパク質の構成的表面発現ベクター。
【請求項9】
前記repE変異遺伝子が、配列番号1の塩基配列を有する、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
前記ベクターが、大腸菌−乳酸菌シャトルベクターである、請求項8に記載のベクター。
【請求項11】
前記目的タンパク質が、抗原である、請求項8に記載のベクター。
【請求項12】
請求項8に記載のベクターで形質転換された組換え微生物。
【請求項13】
乳酸菌または大腸菌である、請求項12に記載の組換え微生物。
【請求項14】
請求項12に記載の組換え微生物を培養して、目的タンパク質を微生物表面に生成させる工程、及び前記生成された目的タンパク質を回収するか、または目的タンパク質が表面に生成された微生物を回収する工程を含む目的タンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−514468(P2012−514468A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545295(P2011−545295)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際出願番号】PCT/KR2010/000109
【国際公開番号】WO2010/079982
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(506010208)バイオリーダーズ コーポレーション (16)
【氏名又は名称原語表記】BIOLEADERS CORPORATION
【出願人】(511166998)ククミン ユニバーシティ インダストリー−アカデミック コオペレーション ファウンデーション (3)
【Fターム(参考)】