説明

siRNAによるRNA切断反応の検出方法

【課題】一分子蛍光分析技術を応用することにより、RNA干渉において用いられるsiRNAによるRNA切断反応を、簡便かつ迅速に検出する方法の提供。
【解決手段】RNA干渉において用いられるsiRNAによるRNA切断反応を検出する方法であって、RNA切断反応の基質RNAとして蛍光標識された一本鎖RNAを用いて、siRNAによって前記基質RNAが切断されたか否かを、一分子蛍光分析法により検出することを特徴とする、siRNAによるRNA切断反応の検出方法、前記基質RNAが、3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識された一本鎖RNAである前記記載の検出方法、前記一分子蛍光分析法が、蛍光強度分布解析法である前記いずれか記載の検出方法、及び、siRNAによるRNA切断反応が、細胞内又は反応溶液内において行われる前記いずれか記載の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA干渉において用いられるsiRNAによるRNA切断反応を、一分子蛍光分析法により検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉法は、線虫の体内に二本鎖RNAを導入した時に遺伝子特異的な抑制が引き起こされる現象として、1998年にFireらにより報告された(例えば、非特許文献1、特許文献1参照。)。その後、線虫のみならず、ハエ、植物、動物等といった広範囲の生物種にも存在する現象ということが明らかになった。但し、ヒト等の哺乳動物においては、30塩基対以上の二本鎖RNAを導入することにより、インターフェロン応答が引き起こされることも知られていた(例えば、非特許文献2、3参照。)。インターフェロン応答は、免疫応答に前もって働くことが知られている生体の防御機構であり、非特異的な一本鎖RNAの分解が引き起こされることが知られている。その後、21塩基対の二本鎖RNA(siRNA:short interfering RNA)を細胞に導入することにより、インターフェロン応答を回避し、配列特異的なRNA干渉が起こることが、Elbashirらによって示された(例えば、非特許文献4参照。)。この実験により、哺乳動物においても、RNA干渉の技術を応用する道が開けることになった。
【0003】
哺乳動物における成功をきっかけとして、RNA干渉の技術が核酸医薬として応用できるのではないかという期待が膨らんだ。核酸医薬は従来の低分子化合物医薬に比べて以下のような優位点が考えられる。
【0004】
(1)標的分子との関係が明確であるという点。ある医薬が、生体内において、標的物質以外の生体物質に対してどの程度作用するのかは、副作用等を検討する上で非常に重要である。しかしながら、主にタンパク質に作用すると考えられる従来の低分子化合物医薬は、あるタンパク質が、ある低分子化合物医薬の標的タンパク質であるのか否かの確認や、標的タンパク質以外のタンパク質に作用する副作用の検討が、非常に困難であり、基本的には、生体に直接低分子化合物医薬を投与し、副作用等を検討する以外には、確実な方法はあまりない。これは、生体内でのタンパク質の構造等を全て検討することは困難であるためと考えられる。これに対して、主に核酸に作用すると考えられる核酸医薬は、標的核酸の同定や、標的核酸以外の核酸に対する副作用の予測等が、タンパク質に作用する低分子化合物医薬に比べてはるかに簡便に精度よく行うことができる。核酸医薬においても、副作用として、遺伝子配列上の相同性等から、標的遺伝子以外の遺伝子に対する機能阻害等を引き起こすことが考えられるが、ヒトゲノムの遺伝子配列がほぼ完全に解読されているため、副作用の予見が高い精度で可能である。実際に、RNA干渉を利用した創薬では、標的ではない遺伝子に対する副作用を回避するための予測プログラム(RNAi社、siDirect(登録商標)等)が販売されている。
【0005】
(2)創薬プロセスの標的同定からヒット・リード分子の取得へのプロセスが早いという点。低分子化合物医薬の製造においては、一般的に、標的タンパク質を決定した後、該標的タンパク質の発現系の構築、最適なアッセイ系の構築、数万以上の化合物ライブラリからのスクリーニング、というステップを踏む必要がある。タンパク質の発現系の構築工程や、最適なアッセイ系の構築工程は、タンパク質の種類ごとにその機能に沿った至適な条件を見つけ出す必要がある。このため、これらの工程は、熟練した技術者でも、数ヶ月から1年程度はかかる作業であり、非常に労力を要する。さらにその後、最低でも数万個の低分子化合物を有する化合物ライブラリから、標的タンパク質と結合し得るヒット・リード化合物をスクリーニングする必要がある。これに対して、核酸医薬では、標的遺伝子を決定した後、該遺伝子が有する塩基配列と相補的な塩基配列を元に、直接的に核酸医薬のヒット・リード分子を設計することができる。さらに、せいぜい数千種類の候補核酸医薬からスクリーニングを行うことによって、核酸医薬として十分な効果を有する分子を取得し得る。
【0006】
このような利点を有するため、現在、核酸医薬の開発が加速しつつある。一例を挙げると、2005年2月には、Acutiy Pharmaceuticals社の加齢性黄斑変性症を標的とした修飾siRNAが、臨床試験第一相に入ったという報告がある。この核酸医薬は、血管内皮増殖因子(VEGF)を標的として、疾患を引き起こす血管新生を阻害することが、ラットをモデルにした実験系で実証されている。
【0007】
このように、RNA干渉技術を応用した核酸医薬を開発しようとする取組みが、世界中で活発に行われているが、この開発工程において、現時点ではいくつか問題点がある。
その1つは、RNA干渉技術の評価方法にある。従来の方法では、RNA干渉が起こっているかどうかの判断は、標的遺伝子の産物であるタンパク質の発現の有無を調べることにより間接的に検出されていた。この際の、タンパク質の発現の有無の判断においては、特に、GFP等の蛍光タンパク質や、ルシフェラーゼ(luciferase)等の発光反応を触媒するタンパク質が、多く利用されている(例えば、非特許文献4参照。)。しかしながら、この方法では、RNA干渉により標的遺伝子の転写産物たるmRNAが分解されたためにタンパク質の発現が抑制された場合と、RNA干渉における分解反応以外の原因によってタンパク質の合成が阻害されている場合とを、区別することができない。
【0008】
その他にも、試験管内で、数千もの候補核酸医薬のスクリーニングする方法の効率が不十分であるという問題もある。従来のスクリーニング方法では、細胞アッセイや、計算機による予測等の方法が使われている。しかしながら、細胞アッセイでは、スクリーニングするためには細胞培養をしなければならず、労力と費用がかかってしまう。一方、計算機による予測では、確実に活性のあるものが選択できるという予測確度は未だ低い。その他、試験管内での検出方法は、一般的に、予め放射性同位体で標識した核酸を電気泳動することにより、RNA干渉による核酸分解が生じているか否かを調べるため、大量の候補核酸医薬に対して行われるスクリーニングには向いていない。
【0009】
上記の2つの問題点から、RNA干渉技術を応用した核酸医薬の開発促進のためには、RNA干渉における分解反応を、生体内もしくは生体外の溶液中において、直接検出することができる、効率的かつ簡便な方法の開発が重要であることが示唆される。
【0010】
一方、近年の光計測技術の発展は目覚ましく、蛍光一分子からの蛍光を測定・解析することができる一分子蛍光分析技術が多くの分野で応用されつつある。一分子蛍光分析技術を応用することにより、例えば、分解反応において基質となる分子を蛍光標識し、この蛍光標識分子から検出される蛍光シグナルを解析することによって、分解反応やそれに伴う分子量変化を検出することができる。分解反応の検出に用いられる方法として、現在までに、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、蛍光偏光(FP)、蛍光相関分光法(FCS)、蛍光相互相関分光法(FCCS)、蛍光強度分布解析法(FIDA)等が知られている。
【0011】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、分子をそれぞれ分光特性の異なる複数の蛍光物質で標識し、蛍光分子同士の距離が非常に近づいたとき生じる蛍光分子間の蛍光エネルギーの移動を観測する手法である(例えば、非特許文献5参照。)。一般的には、FRETでは、蛍光エネルギーを与える蛍光物質(ドナー)とそのエネルギーを励起エネルギーとして受け取る蛍光物質(アクセプター)の、2種類の分光特性の異なる蛍光物質を用いる。蛍光共鳴エネルギー遷移は、2つの蛍光分子が互いに混合して相互作用し、1つの吸収波長が他方の放射波長と重複する場合に観測される。ここで、2つの蛍光分子間の平均間隔をrとした場合に、エネルギー遷移の効率は、r−6に比例する。このため、2つの分子間の相互作用や相互の親和性が増大すると、エネルギー遷移現象が増強され、その結果、アクセプターからの蛍光発光が増大することとなる。そこで、従来から、分解反応の基質となる分子をドナーとアクセプターで標識し、分解反応に伴うFRETを検出することにより、核酸やペプチドの分解を検出する方法は知られている。
【0012】
蛍光偏光法(FP)は、分子の体積及びミクロ粘度の高感度測定のために、研究及び臨床の両方の用途に用いられている。溶液中の分子はそれらの種々の軸の周りに“混転する(tumble)”傾向があり、FPは溶液中の分子の回転特性の変化に依存する。具体的には、大型分子ほど、例えば体積又は分子量がより大きいものほど、小型分子よりも緩慢に、より少ない軸に沿って混転する。したがって、励起と発光の間の運動がより少なく、このため発光光線は比較的高度の偏光を示す。逆に、励起と発光の間でより大きな混転を示す小型の蛍光性分子からの蛍光発光ほど、より多面性(multiplanar)であり、偏光度が低い。小型分子が、より大きい、又はより堅牢なコンホメーションをとると、その混転は低下し、発光蛍光は相対的により大きく偏光するようになる。この発光蛍光の偏光度の変化を測定して、蛍光分子の大きさや堅牢度の増大の指標として利用することができる。
【0013】
蛍光相関分光法(FCS)は、蛍光ラベルした反応体と相互作用活性を持つ物質とを、透明な媒体中で自由に拡散させることにより、相互作用による分子量変化を検出する方法の1つである(例えば、特許文献3参照。)。媒体中を拡散している分子は、焦点(極微小空間)を通過する際に、共焦点光学系で検出可能な蛍光強度の変動を発生させる。そこで、この蛍光シグナルに対して自己相関解析を行うことにより、該相互作用により得られる反応体の分子量変化を解析又は定量することができる。なお、特許文献3は、RNA干渉反応におけるRNAの分解反応検出については開示していない。
【0014】
蛍光相互相関分光法(FCCS)は、それぞれ分光特性の異なる蛍光物質を用いて標識した分子同士の相互作用を解析する方法である。つまり、試料に対し、各蛍光物質に対応した励起光を同時に照射し、それぞれの分子から検出された蛍光シグナルの相互相関を解析することにより、異なる分子の動きに同時性があるかどうかを確認することができる。このように、FCCSは、FCSとは異なり、相互作用前後での分子サイズの変化に全く依存せずに分子間の相互作用を解析することが可能である。このため、相互作用前後での分子サイズの変化が小さい場合であっても好適に分子間相互作用を解析することができる。
【0015】
また、蛍光強度分布解析法(FIDA)は、溶液中の粒子の混合物の蛍光明度の分析のための方法である(例えば、特許文4参照。)。すなわち、FIDAは、FCS分析に用いられるものと同様の光学的かつ電子的構成に基づいているが、焦点から検出された蛍光シグナルの分析のために、FCSとは異なるアルゴリズムを利用するものである。具体的には、この方法は、光子カウント数のヒストグラムを測定し、かつ所定の粒子当たりの平均カウント率として表される比明度の関数として蛍光粒子の濃度を決定する。異種の試料における様々な蛍光種の濃度の測定に適用可能であり、様々な分野において有益なツールである。例えば、薬剤開発及び診断に対する基本的な研究等においても適用可能である。一例として、FIDAにより、フリーの蛍光ラベルされた抗原と、二価抗体分子等の多価レセプターに結合した蛍光ラベルされた抗原とを、区別することができる。なお、特許文献4は、RNA干渉反応におけるRNAの分解反応検出については開示していない。
【特許文献1】特表2002−516062号公報
【特許文献2】特開2005−337805号公報
【特許文献3】特表平11−502608号公報
【特許文献4】特表2002−543414号公報
【非特許文献1】ファイヤ(Fire)、外5名、ネイチャー(Nature)、1998年、第391巻、806〜811ページ。
【非特許文献2】ギル(Gil)、外1名、アポトーシス(Apoptsis)、2000年、第5巻、107〜114ページ。
【非特許文献3】ウイテイ(Ui-Tei)、外3名、フェブス・レター(FEBS letters)、2000年、第479巻、79〜82ページ。
【非特許文献4】エルバシール(Elbashir)、外5名、ネイチャー(Nature)、2001年、第411巻、494〜498ページ。
【非特許文献5】テオドラス(Theodorus)、外2名、ジャーナル・オブ・ザ・セル・バイオロジー(The Journal of Cell Biology)、1995年、第129巻、1543〜1558ページ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者は、従来、核酸やタンパク質等の分解反応や相互作用反応の解析に供されてきた上記のような一分子蛍光分析技術を応用することにより、RNA干渉におけるRNA分解反応を、直接的に効率よく検出することができるのではないか、と考えた。
【0017】
しかしながら、例えば、FRETを用いてRNA分解反応を検出しようとした場合には、FRET効率は分子距離に大きく依存するため、基質となるRNAの核酸長が長い場合には、FRET効率が悪く、切断反応の検出に用いることが困難な場合がある。また、FRETを測定するための装置が複雑である、という問題もある。
【0018】
また、FPは、基準となる偏光度の上昇が分子量30kDa程度で飽和してしまうことが知られている。このため、RNAの分子サイズを考慮した場合、分解前のRNAと分解後のRNAでは区別できない場合が多い、という問題がある。
一方、FCSでは、分子量に4倍程度の差がないと分子量変化を検出することができない。このため、RNA干渉によるRNAの切断部位によっては、分解前のRNAと分解後のRNAとを、区別できない可能性がある。このように、FCSにおいては、切断部位の違いは検出能に大きな影響を与えるため、特にスクリーニング等の、多種多様な候補siRNAを並列に比較する用途には、FCSは適当ではない。
【0019】
その他、FCCSでは、相互作用前後での分子サイズの変化が2倍程度しかないような場合にも解析は可能であるという利点がある。しかしながら、微小空間である一の観測領域に、波長の異なる励起光を照射して蛍光シグナルを検出するため、使用する対物レンズ等の軸上色収差により、それぞれの波長の励起光の共焦点領域は完全には一致せず、目的の分子間相互作用の検出感度や精度が低下してしまうという重大な課題がある。
【0020】
本発明は、一分子蛍光分析技術を応用することにより、RNA干渉において用いられるsiRNAによるRNA切断反応を、簡便かつ迅速に検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、RNA切断反応の基質となるRNAとして、蛍光標識された一本鎖RNAを用いることにより、siRNAによって前記一本鎖RNAが切断されたか否かを、一分子蛍光分析法、特にFIDAを用いて検出することによって、直接的に効率よく検出することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0022】
すなわち、本発明は、
(1) RNA干渉において用いられるsiRNAによるRNA切断反応を検出する方法であって、RNA切断反応の基質RNAとして蛍光標識された一本鎖RNAを用いて、siRNAによって前記基質RNAが切断されたか否かを、一分子蛍光分析法により検出することを特徴とする、siRNAによるRNA切断反応の検出方法、
(2) 前記基質RNAが、3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識された一本鎖RNAであることを特徴とする前記(1)記載のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法、
(3) 前記一分子蛍光分析法が、蛍光強度分布解析法(FIDA)であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法、
(4) RNA干渉において用いられるsiRNAによるRNA切断反応を検出する方法であって、RNA切断反応の基質RNAとして、3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識された一本鎖RNAを用いるものであり、RNAヘリカーゼ、及びRISC複合体を含む反応溶液に、siRNA及び前記基質RNAを添加し、反応させる反応工程と、前記反応工程後、前記反応溶液に、前記蛍光物質を励起し得る波長の光を照射し、当該蛍光物質から発生する蛍光を、蛍光シグナルとして検出する検出工程と、前記検出工程において検出された蛍光シグナルに基づいて蛍光強度分布解析を行い、RNA切断反応効率を測定する測定工程と、を有することを特徴とする、siRNAによるRNA切断反応の検出方法、
(5) siRNAによるRNA切断反応が、細胞内又は反応溶液内において行われることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法を用いることにより、基質となるRNAの長さや分子の大きさ、siRNAによる切断部位等の条件を、個々のRNAに対して別個に検討することを要することなく、簡便かつ迅速にRNA切断反応を検出することができる。
特に、RNA干渉においては、標的遺伝子の機能を抑制・阻害する上で、20塩基対程度の短い二本鎖RNA(siRNA)の選択は非常に重要であるが、本発明のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法を用いることにより、多数のsiRNA候補分子の中から、実際に抑制効率の高いsiRNAを選択する上で、手間や時間の節約に資することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法(以下、本発明の検出方法、ということがある。)は、RNA干渉において用いられるsiRNAによるRNA切断反応を検出する方法であって、RNA切断反応の基質RNAとして、蛍光標識された一本鎖RNAを用いて、siRNAによって前記基質RNAが切断されたか否かを、一分子蛍光分析法により検出することを特徴とする。標的遺伝子の発現産物であるタンパク質の発現効率や機能効率を指標としてsiRNAの抑制効率を測定する従来法(例えば、非特許文献4等参照。)と比較して、本発明の検出方法は、siRNAによる基質RNAの切断効率を直接測定しているため、より信頼性の高いデータを得ることができる。
【0025】
本発明における基質RNAは、RNA干渉の標的遺伝子(RNA干渉により、当該遺伝子又は当該遺伝子の発現産物の機能を抑制・阻害する対象である遺伝子)由来の一本鎖RNAであって、siRNAによるRNA切断反応における基質として機能するRNAである。標的遺伝子由来の一本鎖RNAは、標的遺伝子から転写された一本鎖RNAであれば特に限定されるものではなく、mRNA等が挙げられる。
【0026】
標的遺伝子は、構造遺伝子であってもよく、非構造遺伝子であってもよい。また、標的遺伝子の由来する生物種は特に限定されるものではなく、線虫、ハエ等の昆虫、植物、動物のいずれであってもよい。本発明においては、ヒトをはじめとする哺乳動物由来の遺伝子であることが好ましい。
【0027】
本発明の検出方法において用いられる基質RNAは、蛍光標識された一本鎖RNAである。蛍光標識は、基質RNAが切断されたか否かを判別し得る部分、すなわち、蛍光標識から検出される蛍光シグナルを解析することにより、切断前の基質RNAと切断後の基質RNAとの識別が可能である位置であれば、特に限定されるものではなく、検出に用いられる一分子蛍光分析法の種類、基質RNAの種類、siRNAの種類等を考慮して、適宜決定することができる。
【0028】
本発明の検出方法においては、基質RNAの3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識されていることが好ましい。基質RNAの両末端が蛍光標識されていることにより、siRNAによる基質RNAの切断部位を考慮することなく、基質RNAの切断の有無をFIDAにより簡便に検出することができるためである。例えば、基質RNAの3’末端と5’末端とに、同種の蛍光物質を結合させた場合には、理論的には、切断後の基質RNAの一分子当たりの蛍光強度は、切断前の基質RNAの一分子当たりの蛍光強度の半分になる。このため、一分子当たりの蛍光強度が異なる分子を区別して検出することが可能なFIDAにより、切断後の基質RNAと切断前の基質RNAとを識別して、切断反応効率を算出することができる。
【0029】
基質RNAの蛍光標識に用いられる蛍光物質としては、特に限定されるものではなく、一般的に核酸の蛍光標識に用いられる蛍光物質の中から適宜決定することができる。このような蛍光物質としては、例えば、TAMRA、FITC(フルオレセインイソチオシアナート)、フルオレセイン、ローダミン、NBD、TMR(テトラメチルローダミン)、Alexa Fluor(登録商標)(インビトロジェン社製)、GFP(Green Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)等がある。RNA切断反応に対する影響を抑えることができるため、TAMRA、FITC、フルオレセイン、ローダミン、NBD、TMR、Alexa Fluor等の比較的分子量の小さい蛍光物質であることが好ましい。特に、TMR等のように、連続して光照射を行った場合でも比較的安定して蛍光を発する色素であることが好ましい。このように退色し難い蛍光物質を標識として用いることにより、光照射の時間や回数の影響を抑えて、計測値ごとのばらつきを防止し、より安定した解析結果を得ることができる。
【0030】
基質RNAを蛍光標識する方法は、特に限定されるものではなく、核酸を蛍光標識する場合に通常行われている手法を使用して行うことができる。例えば、基質RNAに直接蛍光物質を結合させてもよく、蛍光物質と基質RNAとの相互作用を利用して間接的に結合させたものであってもよい。本発明の検出方法において基質RNAとして好適な3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識されている一本鎖RNAは、例えば、以下の手法(A)〜(C)により得ることができる。なお、本発明において用いられる基質RNAは、下記(A)〜(C)により合成されたものに限定されるものではない。
【0031】
・手法(A)
まず、標的遺伝子(DNA)から、mRNAを調製する。例えば、RiboMAX System(Promega社製)等の市販のmRNA合成キットを用いることにより、試験管内等のin vitroにおいても、簡便にmRNAを調製することができる。
次に、5’末端が蛍光物質により標識されている10〜20塩基長程度の任意の塩基配列を持つ一本鎖RNA(5’末端標識RNA)、及び、3’末端が蛍光物質により標識されている10〜20塩基長程度の任意の塩基配列を持つ一本鎖RNA(3’末端標識RNA)を、それぞれ化学合成する。5’末端標識RNAと3’末端標識RNAの塩基配列は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、化学合成は、当該技術分野において公知のいずれの手法により行ってもよく、シグマジェノシス社等の受託サービスを利用してもよい。
【0032】
さらに、標的遺伝子から調製したmRNAと5’末端標識RNAと3’末端標識RNAとを連結させて、3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識されている基質RNAを得た後、分子量の差や親和性の差を利用して公知の手法により精製することができる。一例としては、図1に模式的に示すように、まず、mRNA(1)と5’末端標識RNA(2)とを、T4 RNA ligase等の酵素を用いて結合させて、5’末端標識済みmRNA(3)を得る。その後、ゲル濾過クロマトグラフィー法等により、分子サイズによる分画を行い、分子量が顕著に小さい5’末端標識RNA(2)を除去する。さらに、残ったmRNA(1)及び5’末端標識済みmRNA(3)の混合物を、5’末端標識RNA(2)と相補的な塩基配列を有する一本鎖RNAが固定された担体(4)を用いたアフィニティークロマトグラフィー法等により、親和性(アフィニティー)による分画を行い、mRNA(1)を除去して5’末端標識済みmRNA(3)を精製する。次に、この精製された5’末端標識済みmRNA(3)と3’末端標識RNA(5)とを、T4 RNA ligase等の酵素を用いて結合させて、両末端標識済みmRNA(6)を得る。その後、同様にして、分子サイズによる分画を行い、3’末端標識RNA(5)を除去した後、親和性(アフィニティー)による分画を行うことにより、精製された両末端標識済みmRNA(6)が得られる。
【0033】
・手法(B)
まず、標的遺伝子の5’側領域及び3’側領域の両方に、蛍光物質と特異的に結合するRNAアプタマーを有するmRNAを合成するために、標的遺伝子(DNA)を組み換えた組み換え遺伝子を得る。この組み換え遺伝子(DNA)から、手法(A)と同様にしてmRNAを調製し、mRNA(1)の3’末端及び5’末端に、蛍光物質と特異的に結合するRNAアプタマー(7)を有するアプタマー付加mRNA(8)を得る。その後、図2に模式的に示すように、反応液に蛍光物質(F)を添加し、アプタマー(7)と蛍光物質(F)と結合させた後、分子サイズによる分画を行い、蛍光物質(F)と結合したアプタマー付加mRNA(8)を精製する。
【0034】
・手法(C)
まず、標的遺伝子の5’側領域及び3’側領域の両方に、10〜20塩基長程度の任意の塩基配列を有するmRNAを合成するために、標的遺伝子(DNA)を組み換えた組み換え遺伝子を得る。この組み換え遺伝子(DNA)から、手法(A)と同様にしてmRNAを調製し、mRNA(1)の3’末端及び5’末端に、10〜20塩基長程度の任意の塩基配列を有する一本鎖RNA(9)を有する配列付加mRNA(10)を得る。その後、図3に模式的に示すように、反応液に、塩基配列(9)と相補的な配列を有し、3’末端が蛍光物質(F)により標識されている一本鎖RNAである3’末端標識RNAプローブ(11)と、一本鎖RNA(9)と相補的な配列を有し、5’末端が蛍光物質により標識されている一本鎖RNAである5’末端標識RNAプローブ(12)とを添加し、配列付加mRNA(10)及び3’末端標識RNAプローブ(11)、並びに、配列付加mRNA(10)及び5’末端標識RNAプローブ(12)を、ハイブリダイズさせる。これにより形成された3者からなる複合体は、分子サイズによる分画を行い、精製することができる。
【0035】
本発明において、siRNAとは、基質RNAの一部又は全部と相補的な配列を有するRNA鎖(アンチセンス鎖)と、それに相補的な配列を有するRNA鎖(センス鎖)とからなる二本鎖RNAである。該siRNAの塩基対長は、RNA干渉において有効な長さであれば特に限定されるものではなく、標的遺伝子の種類や塩基配列、標的遺伝子が由来する生物種、細胞等への導入方法等を考慮して、適宜決定することができる。ヒト等の哺乳動物に対するRNA干渉において用いられるsiRNAとしては、基質RNAと相補的な配列部分が15〜25塩基対長であることが好ましい。
【0036】
本発明において用いられるsiRNAは、当該技術分野において公知のいずれの手法により設計し、合成してもよい。例えば、標的遺伝子由来のmRNAの塩基配列情報に基づき、siRNAの塩基配列を常法により設計した後、該設計に基づき、公知の核酸合成反応により合成することができる。siRNAの合成は、例えば、市販の合成機を用いて独自に合成してもよく、受託サービスを利用して合成することもできる。
【0037】
なお、本発明において用いられるsiRNAは、基質RNAに対するRNA切断反応を阻害しない限り、基質RNAの一部又は全部と相補的な配列以外の付加的な塩基配列を有していてもよい。また、2’−O−メチル化等の修飾がなされた二本鎖RNAであってもよい。
【0038】
本発明の検出方法は、例えば、RNA切断反応の基質RNAとして、3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識された一本鎖RNAを用いて、RNAヘリカーゼ、及びRISC複合体を含む反応溶液に、siRNA及び前記基質RNAを添加し、反応させる反応工程と、前記反応工程後、前記反応溶液に、前記蛍光物質を励起し得る波長の光を照射し、当該蛍光物質から発生する蛍光を、蛍光シグナルとして検出する検出工程と、前記検出工程において検出された蛍光シグナルに基づいて蛍光強度分布解析を行い、RNA切断反応効率を測定する測定工程と、を有していてもよい。
【0039】
まず、反応工程として、RNAヘリカーゼ及びRISC複合体を含む反応溶液に、siRNAと3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識されている基質RNAとを添加して反応させる。siRNAは、RNAヘリカーゼによる巻き戻しを受けて1本鎖RNAとなり、主にアンチセンス鎖と複数のタンパク質がRISC(RNA−induced silencing complex)複合体を形成する。このsiRNAのアンチセンス鎖が、基質RNA中の相補的な部位と結合することにより、RISCのリボヌクレアーゼ活性によって基質RNAが分解される。
【0040】
この反応工程において用いられる反応溶液は、ヘリカーゼやRISC等のRNA切断反応に必要な分子を含有する溶液であれば、特に限定されるものではなく、RNA干渉を行う場合に一般的に用いられている試薬等を適宜用いて調製することができる。好ましくは、培養細胞等から調製した細胞抽出液である。元々RNA干渉は細胞内において生じる現象であり、よって、細胞抽出液には、RNA干渉に必要な分子が含有されているためである。なお、細胞抽出液は、Dignamらの方法(Nucleic Acids Research、1983年、第11巻、第1475〜1489ページ参照。)等の常法により調製することができる。
【0041】
また、該反応工程は、試験管内等のin vitroで行ってもよく、細胞内(in vivo)で行ってもよい。in vitroで行う場合には、例えば、反応溶液に、siRNAを添加して反応させた後、さらに基質RNAを添加して反応させることにより、siRNAにより基質RNAを切断することができる。一方、in vivoで行う場合には、例えば、細胞にsiRNAを導入して反応させた後、さらに基質RNAを導入して反応させることにより、siRNAにより基質RNAを切断することができる。なお、siRNAや基質RNAの細胞への導入は、当該技術分野において公知のいずれの手法により行ってもよい。例えば、lipofectamine 2000(Invtrogen社製)等の市販の核酸導入試薬を用いることにより、細胞内へのsiRNAや基質RNAの導入を簡便に行うことができる。
【0042】
反応させる時間は、反応溶液の種類、反応溶液中のヘリカーゼやRISC等の活性、基質RNAやsiRNAの濃度等を考慮して適宜決定することができる。また、反応温度は、反応溶液中のヘリカーゼやRISC等の活性において好適な温度範囲で適宜設定することができる。例えば、反応溶液が、ヒト由来培養細胞から調製された細胞培養液に、基質RNAを添加した溶液である場合には、当該反応溶液にsiRNAを添加し、37℃で15分間以上反応させた後、さらに基質RNAを添加し、37℃で2〜6時間程度反応させることができる。一方、反応工程をヒト由来培養細胞内で行う場合には、例えば、37℃で培養している細胞培養に、核酸導入試薬を用いてsiRNAを導入し、導入後48〜96時間経過後に、核酸導入試薬を用いて基質RNAを導入し、さらに48〜96時間培養することができる。
【0043】
次に、反応工程後、検出工程として、反応溶液に、基質RNAの標識に用いた蛍光物質を励起し得る波長の光を照射し、当該蛍光物質から発生する蛍光を、蛍光シグナルとして検出する。具体的には、共焦点(コンフォーカル)光学系を有する蛍光光度計に、該反応溶液を設置し、常法により蛍光シグナルを検出することができる。また、反応工程を細胞内で行った場合には、該細胞を、共焦点光学系を有する蛍光顕微鏡に設置し、常法により蛍光シグナルを検出することができる。なお、FIDAをはじめとする一分子蛍光分析法は、一般的には、共焦点光学系を利用するものであるが、一分子由来の蛍光シグナルを取得して蛍光強度分布解析を行うことができる光学系であれば、特に限定されるものではなく、共焦点光学系以外の他の光学系を用いることも可能である。
【0044】
蛍光シグナルの計測条件は、使用する蛍光光度計や蛍光顕微鏡の仕様により、適宜決定することができるが、例えば、1サンプル当たり、15秒間で5回程度行う。計測時間はこれ以上長くても良く、回数もこれ以上多くても良い。但し、検出に用いる装置の種類によっては、計測時間が10秒間以下等の短時間である場合や、測定回数が1回程度のみである場合には、データの再現性、信頼性が低下するおそれがある。また、蛍光シグナルを計測するサンプルに対して焦点位置を走査させることにより、より多数の分子から情報(蛍光シグナル)を取得することができ、統計的な精度を高めることも可能である。
【0045】
その後、測定工程として、検出された蛍光シグナルに基づいて蛍光強度分布解析を行い、RNA切断反応効率を測定する。すなわち、検出された蛍光シグナルのデータに対して蛍光強度分布解析を行うことにより、蛍光分子の蛍光強度や、検出領域中の濃度を算出することができる。具体的には、一分子当たりの蛍光強度から、該蛍光分子が切断された基質RNAか、未切断の基質RNAかを判別し、これらの分子数の割合を算出する。
【0046】
RNA切断反応の効率は、蛍光強度の減少や、蛍光強度の小さい分子の濃度の増加から判断することが可能である。図4(B)は、RNA切断反応前と反応後のフォトンの数(Number of photons)とその確率(Probability)の変化を示した図である。図4(A)に示すように、理論的には、切断された基質RNAの蛍光強度は、未切断の基質RNAの蛍光強度のおよそ半分となる。さらに、RNA切断により、蛍光分子数は2倍となる。つまり、切断反応により、蛍光強度の小さい分子数の割合が多いほど、siRNAによるRNA切断反応の反応効率が高いことを示す。
【0047】
以下、反応工程を細胞内において行う場合と、細胞外において行う場合の、それぞれにおける本発明の一実施態様を示す。なお、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
【0048】
[細胞内において反応工程を行う場合]
1.RNA干渉の効率を検出したい標的遺伝子(DNA)を用意する。RiboMAX System(Promega社製)等を用いることにより、試験管内で標的遺伝子(DNA)からmRNAを発現させる。
2.上記の手法(A)、(B)、(C)のいずれかの手法により、mRNAの両末端を蛍光標識する。
3.培養細胞に、lipofectamine 2000(Invtrogen社製)等の核酸導入試薬を用いて、当該標的遺伝子を標的とする20塩基対前後の長さのsiRNAを導入し、RNA干渉を引き起こす。siRNA導入後、48〜96時間培養した後の培養細胞に対して、核酸導入試薬を用いて、上記2で合成した蛍光標識mRNAを導入し、さらに48〜96時間培養する。
4.導入後48〜96時間培養した培養細胞から、直接、コンフォーカル(共焦点)光学系を用いた蛍光光度計を用いて、蛍光パターンを検出し、記録部等に記録する。蛍光パターンの検出に際し、培養細胞(サンプル)に対して焦点位置を走査させることにより、より多数の分子から情報(蛍光シグナル)を取得して統計的な精度を高めると同時に、空間的な分解効率の情報を取得することも可能である。
5.記録された蛍光パターンのデータに対してFIDAを行い、蛍光分子の並進時間を求め、測定された各蛍光分子の蛍光強度及び濃度を算出する。RNA切断反応の効率は、蛍光強度の減少や、蛍光分子の濃度の増加から判断することが可能である。
【0049】
[細胞外において反応工程を行う場合]
直接核酸医薬候補となる配列を有するsiRNAを用いることにより、候補核酸医薬のスクリーニング等に好適な方法である。
1.RNA干渉の効率を検出したい標的遺伝子(DNA)を用意する。RiboMAX System(Promega社製)等を用いることにより、試験管内で標的遺伝子(DNA)からmRNAを発現させる。
2.上記の手法(A)、(B)、(C)のいずれかの手法により、mRNAの両末端を蛍光標識する。
3.培養細胞から常法により細胞抽出液を調製する。
4.上記3で調製した細胞抽出液に、当該標的遺伝子を標的とする20塩基対前後の長さのsiRNAを添加して混合し、37℃で約15分間以上インキュベーションする。
5.下記の試薬を所定の濃度になるように添加して混合する;10mM HEPES−KOH(pH7.9)、0.5mM DTT、1.5mM MgCl、100mM KCl、1mM ATP、0.2mM GTP、10U/ml Rnasin(Promega社製)、1nM〜10nMの濃度に調製した上記2で合成した蛍光標識mRNA、全体の50%の容量になるように調製した上記4の細胞抽出液。
6.上記5で調製した反応溶液を、37℃で2〜6時間程度インキュベーションする。
7.反応後、該反応溶液を、コンフォーカル(共焦点)光学系を用いた蛍光光度計に設置し、蛍光パターンを検出し、記録部等に記録する。蛍光パターンの検出に際し、サンプル(反応溶液)に対して焦点位置を走査させることにより、より多数の分子から情報(蛍光シグナル)を取得して統計的な精度を高めると同時に、空間的な分解効率の情報を取得することも可能である。
8.記録された蛍光パターンのデータに対してFIDAを行い、蛍光分子の並進時間を求め、測定された各蛍光分子の蛍光強度及び濃度を算出する。RNA切断反応の効率は、蛍光強度の減少や、蛍光分子の濃度の増加から判断することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法を用いることにより、簡便かつ迅速にRNA切断反応を検出することができるため、多数の候補分子の中から、RNA干渉効果の高いsiRNAを簡便にスクリーニングすることも可能であり、学術研究分野のみならず、siRNAを応用した核酸医薬の開発の分野においても利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】蛍光標識した基質RNAを製造する手法(A)を模式的に示した図である。
【図2】蛍光標識した基質RNAを製造する手法(B)を模式的に示した図である。
【図3】蛍光標識した基質RNAを製造する手法(C)を模式的に示した図である。
【図4】図4(A)は、3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識された基質RNA(両末端標識済みmRNA(6))が、RNA切断反応により切断される反応を模式的に示した図である。また、図4(B)は、RNA切断反応前と反応後のフォトンの数(Number of photons)とその確率(Probability)の変化を示した図である。
【符号の説明】
【0052】
1…mRNA、2…5’末端標識RNA、3…5’末端標識済みmRNA、4…担体、5…3’末端標識RNA、6…両末端標識済みmRNA、7…蛍光物質と特異的に結合するRNAアプタマー、8…アプタマー付加mRNA、9…一本鎖RNA、10…配列付加mRNA、11…3’末端標識RNAプローブ、12…5’末端標識RNAプローブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNA干渉において用いられるsiRNAによるRNA切断反応を検出する方法であって、
RNA切断反応の基質RNAとして蛍光標識された一本鎖RNAを用いて、siRNAによって前記基質RNAが切断されたか否かを、一分子蛍光分析法により検出することを特徴とする、siRNAによるRNA切断反応の検出方法。
【請求項2】
前記基質RNAが、3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識された一本鎖RNAであることを特徴とする請求項1記載のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法。
【請求項3】
前記一分子蛍光分析法が、蛍光強度分布解析法(FIDA)であることを特徴とする請求項1又は2記載のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法。
【請求項4】
RNA干渉において用いられるsiRNAによるRNA切断反応を検出する方法であって、
RNA切断反応の基質RNAとして、3’末端及び5’末端が蛍光物質により標識された一本鎖RNAを用いるものであり、
RNAヘリカーゼ、及びRISC複合体を含む反応溶液に、siRNA及び前記基質RNAを添加し、反応させる反応工程と、
前記反応工程後、前記反応溶液に、前記蛍光物質を励起し得る波長の光を照射し、当該蛍光物質から発生する蛍光を、蛍光シグナルとして検出する検出工程と、
前記検出工程において検出された蛍光シグナルに基づいて蛍光強度分布解析を行い、RNA切断反応効率を測定する測定工程と、
を有することを特徴とする、siRNAによるRNA切断反応の検出方法。
【請求項5】
siRNAによるRNA切断反応が、細胞内又は反応溶液内において行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のsiRNAによるRNA切断反応の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−104297(P2010−104297A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280118(P2008−280118)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】