説明

smallRNAの取得用担体、取得方法及び取得用試薬

【課題】 本発明は、small RNAを高収率で且つ高い純度で取得することが可能となる担体、それを用いた簡便な、small RNAの分離方法及び/又はsmall RNAの標的核酸の取得方法並びに上記担体を含んでなる試薬及びキットの提供を課題とする。
【解決手段】 本発明は、(1)核となる粒子の表面に重合性官能基又は連鎖移動基を導入し、該粒子と重合性モノマーを混合し、次いで重合反応を進行させることにより、該粒子表面に高分子化合物を含む層を形成した粒子とし、更にその表面上に、small RNA結合タンパク質に対して親和性を有する生理活性物質を固定化した、small RNA取得用担体、(2)上記担体を用いることを特徴とするsmall RNAの取得方法、(3)上記担体を含んでなるsmall RNA又は/及びsmall RNA標的核酸の取得用試薬、(4)該試薬を含んでなる、small RNA又は/及びsmall RNA標的核酸の取得用試薬キット、及び(5)上記担体を用いることを特徴とするsmall RNA標的核酸の取得方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、small RNAの取得用担体及びそれを用いたsmall RNA又は/及びsmall RNAの標的核酸の取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
micro RNA(miRNA)は約22塩基からなる一群の機能性低分子RNAであり、遺伝子発現を転写後に制御するガイド分子として注目を集めている。特に、細胞分化やガン化などに深く関わっていることが現在知られている。更に、miRNAは、細胞中で複数のステップを通して成熟化した後、RISC(RNA-induced silencing complex)と呼ばれるタンパク質複合体を形成する。そして、タンパク質複合体に取り込まれたmiRNAは、その塩基配列に依存して標的mRNAを探し出し、切断もしくは翻訳抑制することが報告されている。
一方、RISC の主要コンポーネントであるAgo2タンパク質は、miRNAと結合することが知られており、Ago2タンパク質を認識する抗体として抗Ago2抗体も市販されている。そして、該抗Ago2抗体を用いた免疫沈降法によりmiRNAを取得する方法はIkeda et.al. Journal of lmmunological Methods, 10417, 2006等で報告されている。しかしながら、ここで用いられている抗Ago2抗体固定化担体は、抗Ago2抗体をProteinAとのアフィニティ(親和性)を利用して結合させており、反応条件により抗Ago2抗体が溶出するという問題点や、ProteinA固定化担体以外に抗Ago2抗体を準備しておき、これらとRISCとを反応させなければならないといった煩雑な操作が必要であるという問題点を有していた。そのため、このような煩雑な操作が不要で且つ抗Ago2抗体が溶出しない、安定した抗Ago2抗体固定化担体が望まれていた。また、該抗Ago2抗体固定化担体を用いた免疫沈降法に関しては、開発が始まったばかりであるため、該方法を用いて高収率で且つ高い純度でmiRNA等のsmall RNAを取得する方法の開発も望まれていた。
【非特許文献1】Ikeda et.al. Journal of lmmunological Methods, 10417, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、small RNAを高収率で且つ高い純度で取得することが可能となる担体、それを用いた簡便な、small RNA及び/又はsmall RNAの標的核酸(以下、small RNA標的核酸と略記する場合がある)の取得方法並びに上記担体を含んでなる試薬及びキットの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記状況に鑑み、本発明者らが鋭意研究してなされた発明であり、(1)核となる粒子の表面に重合性官能基又は連鎖移動基を導入し、該粒子と重合性モノマーを混合し、次いで重合反応を進行させることにより、該粒子表面に高分子化合物を含む層を形成した粒子とし、更にその表面上に、small RNA結合タンパク質に対して親和性を有する生理活性物質を固定化した、small RNA取得用担体、(2)上記担体を用いることを特徴とするsmall RNAの取得方法、(3)上記担体を含んでなるsmall RNA又は/及びsmall RNA標的核酸の取得用試薬、(4)該試薬を含んでなる、small RNA又は/及びsmall RNA標的核酸取得用試薬キット、及び(5)上記担体を用いることを特徴とするsmall RNA標的核酸の取得方法に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明の担体は、例えば細胞ライセート中の共雑タンパク質がその表面に吸着されにくいため、これらタンパク質が非特異的に結合することによる、担体表面の生理活性物質とsmall RNA結合タンパク質との結合反応の阻害(例えば、Ago2と抗Ago2抗体との抗原抗体反応の阻害)が生じにくい。また、タンパク質の非特異的吸着が少ないため、担体表面からのsmall RNA結合タンパク質(例えばAgo2)の回収の確認が容易である。更にRNA精製の際にこれら非特異的に吸着されたタンパク質に起因する阻害要因も大きくならないので、本発明の担体を用いた、本発明のsmall RNAの取得方法によれば、small RNAを高収率で且つ高い純度で取得することができる。更に、本発明のsmall RNAの取得方法によれば、従来の方法と比較して、担体に抗体等の生理活性物質を固定化するステップを省くことができ、非特異的吸着を防ぐために用いられるブロッキング剤等の添加の必要もなく、簡便な操作によりsmall RNAを取得することができる。更にまた、本発明の担体を用いれば、small RNAの取得方法と同様の操作によりsmall RNA標的核酸を簡便に且つ効率よく取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に係る粒子は、核となる粒子の表面に重合性官能基または連鎖移動基を導入し、該粒子と重合性モノマーを混合し、次いで重合反応を進行させることにより、核となる粒子表面に高分子化合物を含む層が形成された粒子である。前記重合性モノマーは、生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)を含むものであり、要すれば更にエチレン系不飽和重合性モノマー(b)を含むものであることが好ましい。核となる粒子表面に形成される高分子化合物は、特定の生理活性物質を固定化する性質をしている。また、アルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)はタンパク質等の非特異的吸着を抑制する性質を有する。さらに、核となる粒子表面と共有結合を形成した重合性官能基または連鎖移動基を利用して高分子化合物を粒子表面に形成させるため、核となる粒子表面に高密度で該高分子化合物をグラフトさせることが可能である。このようにして得られたグラフト化粒子は、洗浄工程により該高分子化合物が流出してしまうことがない。
【0007】
本発明に係る、生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)の官能基としては、化学的に活性な基、受容体基、リガンド基などがあるが、これらに限定されない。具体的な例としては、アルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基、ビオチン由来の基、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ヒドロキシル基、アクリレート基、マレイミド基、ヒドラジド基、アジド基、アミド基、スルホネート基、ストレプトアビジン由来の基、金属キレートなどがある。これらの中でも生理活性物質に多く含まれるアミノ基との反応性の点からアルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基が好ましく、また生理活性物質と結合定数が高い点ではビオチン由来の基が好ましい。なかでもモノマーの保存安定性の点から活性エステル基が最も好ましい。
【0008】
本発明に係る、生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)は、特に限定されないが、下記の一般式[1]で表される、(メタ)アクリル基と活性エステル基が炭素数1〜10のアルキレンオキシ基の連鎖またはアルキレン基を介して結合した化合物であることが好ましい。特に、アルキレンオキシ基の連鎖は、それ自体がタンパク質の非特異的吸着を抑制する性質を有している。このため、(メタ)アクリル基と活性エステル基がアルキレンオキシ基の連鎖を介して結合したモノマーは、生理活性物質を固定化する性質とタンパク質の非特異的吸着を抑制する性質とを併せ持つ。従ってこのようなモノマーの重合体は、たとえ単独の重合体であったとしても、少なくとも片側の末端に反応性官能基を有していれば、粒子表面に層を形成する高分子化合物として好適に用いることができる。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中R1は水素原子またはメチル基を示し、Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基またはアルキレン基を示す。Wは活性エステル基を示す。pは1〜100の整数を示す。pが2以上100以下の整数である場合、繰り返されるXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
式[1]で、アルキレンオキシ基及びアルキレン基Xの炭素数は1〜10であり、好ましくは1〜6であり、より好ましくは2〜4であり、更に好ましくは2〜3であり、最も好ましくは2である。アルキレンオキシ基及びアルキレン基Xの繰り返し数pは1〜100の整数であり、より好ましくは2〜90の整数であり、最も好ましくは2〜80の整数である。なお、pが2以上100以下の場合は、繰り返されるp個のアルキレンオキシ基又はアルキレン基の炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。
【0011】
上記アルキレン基としては、直鎖状、分枝状、環状の何れでもよく、具体的には、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、1−エチルエチレン基、2−メチルトリメチレン基、2−エチルトリメチレン基、へキシレン基、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基等が挙げられ、中でもエチレン基が好ましい。アルキレンオキシ基としては、上記アルキレン基にオキシ基が結合したもの等が挙げられ、中でもエチレンオキシ基が好ましい。式[1]のアルキレンオキシ基及びアルキレン基Xは、上記の中でもアルキレンオキシ基が好ましく、エチレンオキシ基が特に好ましい。
【0012】
本発明に使用する「活性エステル基」は、エステル基の片方の置換基に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応に対して活性化されたエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味するものとして、各種の化学合成、例えば高分子化学、ペプチド合成等の分野で慣用されているものである。実際的には、例えばある化合物中のカルボキシル基と、水酸基又はメルカプト基を有する化合物とが脱水縮合することにより生じるエステル基である。エステル基が導入されて生じるエステルとしては、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N−ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基を有するものとして知られている。
【0013】
このような活性エステル基としては、例えばp-ニトロフェニル活性エステル基、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、フタル酸イミド活性エステル基、5−ノルボルネン−2、3−ジカルボキシイミド活性エステル基等が挙げられるが、中でもp-ニトロフェニル活性エステル基又はN−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基が好ましく、p-ニトロフェニル活性エステル基が最も好ましい。
【0014】
本発明に係る、生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)に由来するモノマー単位の高分子化合物中での組成比は特に制限されるものではないが、1〜99.7mol%が好ましく、より好ましくは1〜80mol%、最も好ましくは1〜70mol%である。
【0015】
本発明に使用するアルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)は、特に構造を限定しないが、一般式[2]で表される、(メタ)アクリル基と炭素数1〜10のアルキレンオキシ基Yの連鎖からなる化合物であることが好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
(式中Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。Yは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、qは1〜100の整数を示す。繰り返されるYは、同一であっても異なっていてもよい。)
式[2]中のアルキレンオキシ基Yの炭素数は1〜10であり、好ましくは1〜6であり、より好ましくは2〜4であり、更に好ましくは2〜3であり、最も好ましくは2である。アルキレンオキシ基Yの繰り返し数qは、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜100の整数であり、より好ましくは2〜100の整数であり、更に好ましくは2〜95の整数であり、最も好ましくは20〜90の整数である。繰り返し数2以上100以下の場合は、繰り返されるq個のアルキレンオキシ基Yの炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。
【0018】
アルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)としては、例えばメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びその水酸基の一置換エステル、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及びその水酸基の一置換エステル、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールを側鎖とする(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール (メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられるが、目的とする生理活性物質以外の成分の非特異的吸着が少ないこと及び入手性からメトキシポリエチレングリコールメタクリレートまたはエトキシポリエチレングリコールメタクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートがより好ましい。
【0019】
本発明に係る、アルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)に由来するモノマー単位の高分子化合物中での組成比は特に制限されるものではないが、0.3〜99mol%が好ましく、より好ましくは20〜99mol%、最も好ましくは30〜99mol%である。
【0020】
本発明に係る粒子表面に導入する重合性官能基としては、ビニル基、アリル基、メタクリル基、エポキシ基、スチレン基等が挙げられるが、重合性に優れている点でメタクリル基が好ましい。
【0021】
本発明に係る粒子表面に導入する連鎖移動基としては、メルカプト基、アミノ基等が挙げられるが、反応性に優れている点でメルカプト基が好ましい。
【0022】
粒子表面に重合性官能基または連鎖移動基を導入する方法としては、特に限定されないが、重合性官能基または連鎖移動基を有するシランカップリング剤と核となる粒子表面の官能基との共有結合を形成させる方法が好ましい。
【0023】
重合性官能基を有するシランカップリング剤としては、例えば、(3−メタクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)ジエチルメトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)ジメチルエトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)ジエチルエトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)エチルジメトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)メチルジエトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)エチルジエトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)トリエトキシシラン等が挙げられるが、反応性、及び入手性の点から(3−メタクリロキシプロピル)トリメトキシシランや(3−メタクリロキシプロピル)トリエトキシシランが好ましい。これらのシランカップリング剤は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0024】
連鎖移動基を有するシランカップリング剤としては、例えば(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)メチルジエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)ジメチルエトキシシラン、(メルカプトメチル)トリメトキシシラン、(メルカプトメチル)メチルジメトキシシラン、(メルカプトメチル)ジメチルメトキシシラン、(メルカプトメチル)トリエトキシシラン、(メルカプトメチル)メチルジエトキシシラン、(メルカプトメチル)ジメチルエトキシシランなどが挙げられるが、入手性から(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシランや(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシランが好ましい。これらのメルカプトシラン化合物は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。これらのシランカップリング剤は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0025】
重合性官能基または連鎖移動基を有するシランカップリング剤を用いて、重合性官能基または連鎖移動基と核となる粒子表面の官能基との共有結合を形成させる方法は特に制限されるものではないが、例えば、pH2〜4の酸性水溶液に重合性官能基または連鎖移動基を有するシランカップリング剤を0.01〜1.0mol/Lとなるように添加し、撹拌混合して加水分解した後、核となる粒子を投入して10〜100℃で5〜180分間撹拌し、次いで、20〜100℃に加熱して粒子を乾燥させて行う。核となる粒子と重合性官能基または連鎖移動基を有するシランカップリング剤の使用割合は特に制限されるものではないが、通常核となる粒子1gに対し、重合性官能基または連鎖移動基を有するシランカップリング剤0.1〜10mmolの割合で用いられる。酸性水溶液は特に限定されるものではないが、酢酸水溶液、塩酸水溶液等が用いられる。なかでも、取り扱いが比較的容易な酢酸水溶液が好ましい。
【0026】
核となる粒子の表面に重合性官能基または連鎖移動基を導入し、該粒子と重合性モノマーを混合し、次いで重合反応を進行させる方法は特に限定されるものではないが、例えば重合性モノマー、及び重合開始剤を溶解した溶媒中に核となる粒子を投入し、撹拌下、0〜80℃で1〜30時間加熱することにより行われる。その後、表面が高分子化合物で被覆された粒子は減圧下ろ過され、洗浄後乾燥される。
【0027】
核となる粒子と重合性モノマー、及び重合開始剤の使用割合は特に制限されるものではないが、通常核となる粒子1gに対し、重合性モノマー0.1〜10mmol、重合開始剤0.01〜10mmolの割合で用いられる。
【0028】
溶媒としてはそれぞれの重合性モノマーが溶解するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0029】
重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(以下「AIBN」という)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1 −カルボニトリル)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の有機過酸化物等を挙げることができる。
【0030】
本発明に係る粒子表面に使用する高分子化合物の化学構造は、少なくとも生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーに由来するモノマー単位を含有する(共)重合体であれば、その結合方式がランダム、ブロック、グラフト等いずれの形態をなしていてもかまわない。
【0031】
本発明に使用する核となる粒子の素材は、特に限定されるものではなく、有機物、無機物を問わず用いることができるが、シランカップリング剤と反応し得る基を有する(又は導入し得る)ものが好ましい。有機物の担体としては、アフィニティクロマトグラフィーの担体として用いられる、多孔性のアガロース粒子(商品名:Sepharose)、デキストラン粒子(商品名:Sephadex)の他に、ポリアクリルアミドゲル(商品名:Bio-Gel P、バイオラッド社)、ポリスチレン、エチレン−無水マレイン酸共重合物、ポリメタクリル酸メチルなどからなる粒子などが使用できる。一方、無機物としては、無機酸化物が粒子自体の強度が高く、好ましい。中でも、酸化ケイ素が取り扱いやすく最も好ましい。また、粒子の大きさは何ら制限を受けるものではなく、目的・用途に合わせて適宜選択できる。このことは核となる粒子の大きさを選択すれば、いかなる大きさの粒子でも作製できることを意味している。この点は粒径の制御が困難な乳化重合や懸濁重合で粒子を作製する方法に比較して、大きな利点となっている。実際に粒子として用いる場合には、用途によっても異なるが、粒径が数nmから100μm程度のものが好ましい。
【0032】
本発明に係る粒子は、以上のようにして得られるものであり、粒子表面の高分子化合物を含む層の成分にアルキレンオキシ基(アルキレングリコール残基)を含む成分を加えることにより、目的とするタンパク質以外の成分による非特異的吸着を抑制する性質が増強される。しかも、核となる粒子表面と共有結合を形成した重合性官能基または連鎖移動基を利用して高分子化合物を形成させるため、核となる粒子表面に高密度で該高分子化合物をグラフトさせることが可能である。このようにして得られたグラフト化粒子は、非特異的吸着が極めて低く、また洗浄工程により該高分子化合物が流出してしまうことがない、優れた粒子である。
【0033】
本発明に係るsmall RNA結合タンパク質は、標的とするRNAの種類により異なるが、例えばリボゾームタンパク質、snRNPタンパク質、snoRNPタンパク質、Argonatuteファミリータンパク質等が挙げられ、中でもArgonauteファミリータンパク質が好ましい。Argonauteファミリータンパク質としては、具体的には、Ago1、Ago 2、Ago 3、Ago 4等のArgonauteサブファミリーとPIWIL1、PIWIL2、PIWIL 3、PIWIL 4、MILI、MIWI等のPiwiサブファミリーが挙げられ、Ago1、Ago 2、Ago 3、Ago 4等のArgonauteサブファミリーが好ましく、その中でもsiRNA、microRNA(miRNA)と結合するAgo 2が特に好ましい。
【0034】
本発明に係るsmall RNA 結合タンパク質が結合するsmall RNAとしては、5SrRNA、tRNA、核内低分子RNA(snRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、siRNA、piRNA、miRNA等が挙げられるが、中でもpiRNA、siRNA、miRNA等が好ましく、siRNA、miRNA等がより好ましく、miRNA等が特に好ましい。また、その長さは、通常5〜200nt、好ましくは10〜50nt、より好ましくは10〜30ntである。
【0035】
small RNA結合タンパク質に対して親和性を有する生理活性物質(以下、本発明に係る生理活性物質と略記する場合がある)は、上記small RNA結合タンパク質の種類により異なるが、small RNA 結合タンパク質に対して親和性(結合能)を有する抗体やアプタマー等が挙げられ、中でも抗体が好ましい。具体的には例えば、small RNA 結合タンパク質としてAgo2を用いる場合には、抗Ago2抗体が、Ago3を用いる場合には、抗Ago3抗体が用いられる。
【0036】
本発明に係る生理活性物質として用いられる抗体の由来については特に限定されず、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でも何れにても良いが、モノクローナル抗体の方が好ましい。また、これら抗体は、市販品を用いても良いし、必要であればペプシン,パパイン等の酵素を用いて消化してF(ab’)、Fab’、あるいはFabとして使用してもよい。
【0037】
上記ポリクローナル抗体を得る方法としては、測定対象物を[免疫実験学入門、第2刷、松橋直ら、(株)学会出版センター、1981]等に記載の方法に従って、例えば馬、牛、羊、兎、山羊、モルモット、ラット、マウス等の動物に免役する常法により作製すればよい。また、モノクローナル抗体を得る方法としては、測定対象物を免疫原として免疫した、例えばラット、マウス等の動物の、例えば脾細胞、リンパ球等の免疫感作された細胞と、例えば骨髄腫細胞等の永久的に増殖する性質を有する細胞とを、ケラーとミルシュタインらにより開発された自体公知の細胞融合技術(Nature, 256, 495, 1975)により融合させてハイブリドーマを作製し、測定対象物に特異的なモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを選択し、該ハイブリドーマを培地中で培養するか、動物の腹腔内に投与して腹水中に抗体を産生させて、該培養物または腹水より目的のモノクローナル抗体を採取する方法、例えば遺伝子組換え技術等を応用した自体公知の方法(Eur.J.Immunol., 6, 511, 1976)により上記した如き性質を有する抗体を産生する細胞を作製し、この細胞を培養することにより目的のモノクローナル抗体を採取する方法等が挙げられる。
また、上記アプタマーの作製方法としては、米国特許第5,270,163号に記載の方法等が好ましい。
【0038】
本発明のsmall RNA取得用担体(以下、本発明の担体と略記する場合がある)に固定化される本発明に係る生理活性物質の量は、用いられる生理活性物質の種類により異なるが、担体1gに対して通常0.1〜10mg、好ましくは1〜10mgである。
【0039】
本発明の担体は、上記本発明に係る粒子の表面上に、上記本発明に係る生理活性物質を固定化したものであり、本発明のsmall RNAの取得方法に用いられる担体である。本発明に係る粒子の表面上に本発明に係る生理活性物質を固定化する方法は、自体公知の固定化方法、例えば共有結合等の化学結合により固定化する方法あるいは物理的に吸着させて固定化する方法(特公平5-41946号公報等)等の固定化方法を利用すればよいが、化学結合により固定化される方法が好ましく、特に粒子表面に導入された生理活性物質を固定化する官能基を利用して固定化する方法が特に好ましい。具体的には、例えば本発明に係る生理活性物質を通常2μg/mL〜200μg/mL、好ましくは20μg/mL〜200μg/mL含む溶液0.5mLと本発明に係る粒子10mgとを、要すれば適当な縮合剤等の共存下で、接触させ、通常20〜50℃、好ましくは30〜40℃で通常1〜20時間、好ましくは1〜10時間、より好ましくは2〜5時間反応させることにより生理活性物質がその表面上に固定化された本発明の担体を得ることができる。ここで、要すれば使用される縮合剤等は、この分野の常法で用いられるものを適宜使用すればよい。また、生理活性物質を固定化した後、エタノールアミン等のブロッキング剤等で処理し、生理活性物質が固定されなかった本発明に係る粒子表面上の官能基を不活性化する処理を行うことが望ましい。
本発明に係る生理活性物質の溶液を調製するための溶媒としては、用いられる生理活性物質が不溶性担体上に吸着あるいは結合するのを妨げる性質を有するものでなければよく、例えば精製水、例えばpH 5.0〜10.0、好ましくはpH 8.5〜10に緩衝作用を有する、例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸水素ナトリウム緩衝液等が好ましい。また、これらの緩衝液中の緩衝剤濃度としては、通常0.1〜5 M、好ましくは0.6〜2.5 Mの範囲から適宜選択される。また、この溶液中には、該抗体が不溶性担体上に吸着あるいは結合するのを妨げない量であれば、例えば糖類、NaCl等の塩類、界面活性剤、防腐剤、蛋白質等が含まれていても良い。
なお、本発明に係る粒子は非特異的吸着が少ないため、上述のごとくして得られた本発明の担体を、通常この分野で行われているブロッキング処理に付す必要はない。
【0040】
本発明の担体は、具体的には以下の如く製造される。
【0041】
即ち、例えば0.01〜1.0mol/Lのシランカップリング剤の酢酸水溶液(例えばpH2〜4)中に、シリカビーズ1〜10gを添加し、50〜100℃で10〜180分反応させ、重合性官能基又は連鎖移動基を有するシリカビーズを作製する。一方、一般式[1]で表されるモノマーと一般式[2]で表されるモノマーを例えば1:99〜70:30となるように混合し、脱水エタノール等の溶媒に溶解する。次いで、該溶液に対して1〜10倍molのAIBN等の重合開始剤を添加し撹拌させ、モノマー混合溶液を得る。上記重合性官能基又は連鎖移動基を有するシリカビーズ1gに対して上記重合体が0.1〜10mmol存在するように、シリカビーズを該モノマー混合溶液に添加し、50〜80℃、10〜30時間、要すればアルゴン雰囲気下で反応させ、乾燥することにより、本発明に係る粒子が得られる。次いで、該粒子1gに対して抗Ago2抗体等の本発明に係る生理活性物質0.1〜10mg存在するようにして、本発明に係る粒子を本発明に係る生理活性物質を含有する炭酸水素ナトリウム緩衝液中に添加して、30〜40℃で、2〜10時間反応させることにより、本発明に係る生理活性物質が粒子の表面上に固定化され、本発明の担体が得られる。
【0042】
上記本発明の担体は、非特異的吸着が少なく、small RNA結合タンパク質とsmall RNAとの複合体、更には、small RNAが標的核酸と結合する場合には(例えばsmall RNAがmiRNAやpiRNAの場合)、small RNA結合タンパク質とsmall RNAとsmall RNA標的核酸との複合体(以下、これらを総称して、small RNA結合タンパク質複合体等と略記する場合がある)を特異的に吸着することができる。担体がsmall RNA結合タンパク質複合体等以外のタンパク質を非特異的に吸着してしまうと、吸着されたタンパク質が原因となって、small RNA結合タンパク質複合体等が担体に結合するのを阻害(阻害立体障害等)する場合がある。そのため、small RNA結合タンパク質複合体等の回収率が低下する。しかし、本発明の担体ではそのような立体障害等が生じる可能性が低いため、該担体を用いた方法によれば、small RNA結合タンパク質複合体等を高収率で回収することができ、結果としてsmall RNA等も高収率で得ることができる。
【0043】
本発明のsmall RNAの取得方法は、上記の如く得られた本発明の担体を用いることによりsmall RNAを取得する方法であり、具体的には、以下の工程からなる。
即ち、工程(1):核となる粒子の表面に重合性官能基又は連鎖移動基を導入し、該粒子と重合性モノマーを混合し、次いで重合反応を進行させることにより、該粒子表面に高分子化合物を含む層を形成した粒子の表面上に、small RNA結合タンパク質に対して親和性を有する生理活性物質を固定化した担体と、当該small RNA結合タンパク質とsmall RNAの複合体(small RNA結合タンパク質−small RNA複合体)とを接触させ、当該担体表面に該生理活性物質と該small RNA結合タンパク質−small RNA複合体の結合物(以下、生理活性物質−small RNA結合タンパク質−small RNA結合物と略記する場合がある)を形成させる工程、工程(2):得られた、生理活性物質−small RNA結合タンパク質−small RNA結合物を表面上に有する担体を分離する工程、工程(3):前記生理活性物質−small RNA結合タンパク質−small RNA結合物からsmall RNAを溶出する工程、及び工程(4):溶出したsmall RNAを精製する工程からなる。
【0044】
具体的には、まず、small RNA結合タンパク質−small RNA複合体を含む溶液に本発明の担体を添加し、2〜37℃、好ましくは2〜10℃で1〜30時間、好ましくは2〜24時間反応させ、本発明の担体表面に生理活性物質と該small RNA結合タンパク質−small RNA複合体の複合体を形成させる(工程(1))。上記small RNA結合タンパク質−small RNA複合体としては、本発明に係るsmall RNA結合タンパク質と本発明に係るsmall RNAとが結合した複合体を含むものであり、該複合体に結合するタンパク質(例えばGemin3、Gemin4、FMRP等)を更に含んでいてもよい。該複合体の具体例としては、例えばRISC(RNA-induced silencing complex)等が挙げられる。この際に用いられる、small RNA結合タンパク質−small RNA複合体を含む溶液としては、small RNA結合タンパク質−small RNA複合体を含む細胞ライセート(細胞抽出液)等が挙げられ、該ライセートは、通常溶液1mL中に5×106〜1×107細胞を含有するものが用いられる。small RNA結合タンパク質−small RNA複合体を含む溶液の溶媒(反応溶媒)としては、通常この分野で用いられる細胞溶解液全てが挙げられ、具体的には例えば界面活性剤及びNaClを含む緩衝液等が挙げられる。該界面活性剤としては、例えばポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル(NP-40)等が挙げられ、その濃度は、緩衝液全量に対して通常0.01〜0.5%である。該NaClの濃度は、緩衝液中の濃度として通常100〜200mMである。また、緩衝液としては、例えばpH 5.0〜10.0、好ましくはpH 6.5〜8.5の中性付近に緩衝作用を有する、例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液等が好ましい。また、緩衝液中の緩衝剤濃度としては、通常10〜500 mM、好ましくは10〜300 mMの範囲から適宜選択される。また、上記界面活性剤及びNaClを含む緩衝液は、必要に応じてTritonX-100やSDS等を通常この分野で用いられる濃度添加してもよい。上記工程(1)における本発明の担体の使用量としては、上記small RNA結合タンパク質−small RNA複合体溶液1mLに対して、通常1〜10mg、好ましくは1〜5mgであり、本発明に係る生理活性物質量として、通常0.1〜100μg、好ましくは1〜50μgである。
【0045】
次いで、上記工程(1)の反応の後、得られた反応溶液から、生理活性物質−small RNA結合タンパク質−small RNA結合物を表面上に有する担体を、分離する(工程(2))。具体的には、(1)の反応液を遠心分離に付した後、その上清を取り除くことによりなされ、これにより、(1)の反応液から本発明の担体が分離される。更に、担体表面に付着した、遊離のsmall RNA結合タンパク質−small RNA複合体や細胞由来成分を取り除くため、得られた担体を洗浄液により洗浄するのが好ましい。上記遠心分離は、通常この分野で行われている態様であれば特に制限されないが、適当な洗浄液に懸濁した本発明の担体を例えば1000〜10000×gで10〜100秒遠心分離する操作を、好ましくは数回行えばよい。洗浄液としては、通常この分野で用いられる緩衝液等が挙げられ、例えばpH 5.0〜10.0、好ましくはpH 6.5〜8.5の中性付近に緩衝作用を有する、例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液等が挙げられる。また、緩衝液中の緩衝剤濃度としては、通常10〜500 mM、好ましくは10〜300 mMの範囲から適宜選択される。なお、該洗浄液は、工程(1)の反応溶媒と同じものを用いるのが好ましい。洗浄液の使用量は、通常上記工程(1)の反応液量の1〜10倍量である。
【0046】
続いて、上記工程(2)による前記結合物を表面上に有する担体の分離後、担体表面上の、生理活性物質−small RNA結合タンパク質−small RNA結合物からsmall RNAを溶出させる。具体的には、前記結合物を表面上に有する担体にタンパク変性剤を添加し、生理活性物質を変性させることによりなされる。これにより、生理活性物質及びsmall RNA結合タンパク質が変性され、small RNAが分離溶出される(工程(3))。ここで用いられるタンパク変性剤としては、本発明に係る生理活性物質を変性し得るものであればよく、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸ナトリウム、尿素、グアニジン塩酸、グアニジンチオシアン酸、クエン酸緩衝液(pH2〜pH4)等が挙げられ、中でもSDSが好ましい。その使用量は、担体1〜5mgに対し10〜1000μL、好ましくは10〜400μLである。
【0047】
更に、上記工程(3)で溶出されたsmall RNAを、核酸抽出方法等で精製することにより、small RNAは分離される(工程(4))。核酸抽出方法としては、通常この分野で用いられている方法であれば何れも用いることができるが、例えばフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール混合溶液による抽出等が挙げられる。該混合液の比率は、通常フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1であり、その使用量は、溶出溶液と等量である。上記の如く得られたsmall RNAは、通常この分野で用いられる、アルコール沈殿、カラム精製、フィルターろ過等の方法により精製されるのがより好ましい。
【0048】
本発明のsmall RNAの取得方法としては、より具体的には、以下の如くなされる。即ち、例えばAgo2とsmall RNAの複合体を含む5×106〜1×107の細胞ライセート1mLに本発明の担体1〜10mg、好ましくは1〜5mgを添加し、2〜10℃で2〜24時間反応させる。更に、得られた反応溶液を3000〜5000×gで10〜50秒遠心分離して上清を取り除いた後、反応溶液1mLに対して1〜5mLのトリス緩衝液(pH 6.5〜8.5)で、複合体が結合した担体を複数回洗浄する。次いで、SDS溶液を本発明の担体1〜5mgに対して10〜400μL添加し、small RNAを担体から溶出する。更に、溶出溶液1μLに対してフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を1μL添加してsmall RNAを抽出した後、抽出溶液1μLに対してエタノールを2〜3μL、酢酸ナトリウムを0.05〜0.1μL、エタ沈メート、グリコーゲン等の共沈剤0.005〜0.01μL添加することにより、精製されたsmall RNAが沈殿物として得られる。
【0049】
本発明のsmall RNAの取得方法では、生理活性物質が粒子表面に固定化された担体(本発明の担体)を用いるため、従来の方法と比較して、担体に抗体等の生理活性物質を固定化するステップを省くことができる。また、非特異的吸着を防ぐために用いられるブロッキング剤等の添加の必要もなく、精製も容易であり、簡便な操作によりsmall RNA等を取得することができる。
【0050】
small RNAの中には、核酸を標的として結合するものがある。その性質を利用して、本発明の担体を用いることにより、small RNAの標的核酸を取得することも可能となる。なお、標的核酸とは、small RNAが標的とするものであればDNAであってもRNAであってもよく、その鎖長も特に限定されない。ここでいう、標的とはsmall RNAが親和性を有することを表し、具体的には、相補的に結合することが好ましい。相補的に結合する場合、全ての鎖が相補的である必要はないが、small RNAと標的核酸の少なくとも6塩基以上が相補的である必要がある。標的核酸としては、例えばsmall RNAがmicroRNAの場合、RNAが好ましく、mRNAがより好ましい。また、small RNAがpiRNAの場合はRNAが好ましいが、DNAが標的核酸となり得る場合にはDNAであってもよい。
small RNAの標的核酸の取得方法としては、以下の如くなされる。
即ち、上記性質を有するsmall RNAは細胞内で標的核酸と結合しているため、上記本発明のsmall RNAの取得方法の工程(1)、(2)及び(3)を行うことにより、好ましくは工程(1)、(2)、(3)及び(4)を行うことにより、small RNAとその標的核酸の結合物が得られる。よって、得られたsmall RNAとその標的核酸の結合物を、ホルムアミド等の溶液を添加して分離させ、それを、例えば変性アクリルアミドゲル等の電気泳動に付して目的のヌクレオチド(nt)を有する核酸を抽出することにより、small RNAが標的とする核酸を得ることができる。このようにして得られたsmall RNA標的核酸は通常濃度が薄い。よって、small RNA標的核酸がDNAの場合には、得られた核酸をPCR反応に付して増幅してもよい。上記で得られた得られたsmall RNAとその標的核酸の結合物中の標的核酸の濃度も薄いので、該結合物を直接PCR反応に付して増幅してもよい。なお、PCR反応の条件は、通常この分野で行われている条件に準じて設定される。
また、標的核酸がRNAの場合には、上記のようにして得られたsmall RNAとその標的核酸の結合物を、標的核酸に対応するプライマーを用いた逆転写反応に付すことにより標的核酸のcDNAを得、それを上記のDNAの場合と同様に、PCR反応に付して増幅してもよい。なお、逆転写反応の条件は、通常この分野で行われている条件に準じて設定される。また、上記の如く得られたDNAをシークエンスすることにより、small RNAの標的核酸を特定することが可能となる。更には、small RNA結合タンパク質−small RNA複合体等による、標的核酸に対する切断や翻訳抑制等の作用の解析をも可能とする。
【0051】
以下に実施例、参考例等により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等により何等限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
実験例1 本発明に係る粒子を用いたマウスIgG固定化担体の作製
(1)タンパク質固定化用粒子(ビーズ)の作製
[p-ニトロフェニルオキシカルボニルーポリエチレングリコールメタクリレート(MEONP)の合成]
0.01molのポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製 Blenmer PE-200)を20mLのクロロホルムに溶解させた後、-30℃まで冷却した。-30℃に保ちながらこの溶液に、予め作製しておいた0.01molのp-二トロフェニルクロロファーメート(Aldrich社製)と0.01molのトリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)及びクロロホルム20mLの均一溶液をゆっくりと滴下した。-30℃にて1時間反応させた後、室温でさらに2時間溶液を撹拌した。その後反応液から塩をろ過により除去し、溶媒を留去してp-二トロフェニルオキシカルボニル−ポリエチレングリコールメタクリレート(以下MEONPと記載)粗体を得た。さらに、得られた粗体をシリカゲルカラムにて精製を行った。得られたモノマーを重クロロホルム溶媒中1H-NMRで測定し、エチレングリコール残基が4.5単位含まれていることを確認した。
【0053】
[メタクリロキシプロピルルトリメトキシシランで処理したシリカビーズの作製]
メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製 LS3380)7.45gをpH3.0の酢酸水溶液39.3gに添加し、室温で1時間撹拌した。そこにシリカビーズ(平均粒径5μm、細孔径70Å、富士シリシア化学(株)製 SMB70-5)5gを投入し85℃で2時間撹拌した後、吸引ろ過により反応溶液からシリカビーズを回収し、100℃で1時間加熱した。その後、エタノールで分散させて、室温で1時間振とうし、遠心分離により上澄みを除去する操作を2回繰り返し、さらに、エタノールで分散させてボルテックスミキサーで撹拌し、遠心分離により上澄みを除去する操作を5回繰り返した後乾燥させた。
【0054】
[タンパク質固定化用粒子(ビーズ)の作製]
数平均分子量Mn 約475のポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(別名メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、以下PEGMA475と記載、Aldrich社製)及び上記で得られたMEONPを脱水エタノールに溶解させ、モノマー混合溶液を調製した。総モノマー濃度は0.2mol/L、それぞれのモル比はPEGMA475:MEONP=80:20とした。そこにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.004mol/Lになるように添加し、均一になるまで撹拌した。その後、上記のメタクリロキシプロピルルトリメトキシシランで処理したシリカビーズ1gを投入し、アルゴンガス雰囲気下、60℃で22時間反応させた、次いで、吸引ろ過により反応溶液からシリカビーズを回収し、エタノールで分散させ、遠心分離により上澄みを除去する操作を5回繰り返した後、吸引ろ過によりビーズを回収し、よく乾燥させた。
【0055】
(2)マウスIgG固定化担体の作製
[マウスIgG溶液の調製]
マウスIgG(和光純薬工業(株)製)1mgをリン酸緩衝液(PBS、和光純薬工業株式会社製、pH7.4)1mLに溶解し、1mg/mLマウスIgG溶液とした。
【0056】
[マウスIgG固定化担体の作製]
上記(1)で得られたタンパク質固定化用粒子10mg、マウスIgG溶液50μL、タンパク質固定化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)500μLを混合し、37℃で4時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を2回行った。その後、不活性化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)500μLを入れ、室温で1時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を5回行い、PBS(pH7.4)1mLで懸濁した。
【0057】
比較例1 各種担体を用いたマウスIgG抗体固定化担体の作製
(1)GEヘルスケア社製担体へのマウスIgGの固定化
担体としてNHS-activated Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア社製)を用い、その推奨プロトコールに従い、マウスIgG抗体を以下の如く固定化した。即ち、NHS-activated Sepharose 4 Fast Flow100μLを、氷冷した1mM塩酸500μLで2回洗浄した後、マウスIgG溶液50μL、カップリング緩衝液(0.2M炭酸水素ナトリウムを含む0.5M塩化ナトリウム pH8.3)500μLを加え混合し、室温で4時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、カップリング緩衝液500μLで洗浄を行い、その後、クエンチング緩衝液(0.5Mエタノールアミン、0.5M塩化ナトリウム(pH8.3) )500μLを入れ、室温で30分間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、クエンチング緩衝液500μLおよび洗浄液(0.1M酢酸を含む0.5M塩化ナトリウム pH4)500μLで交互に3回洗浄行い、その後PBS(pH7.4)500μLで洗浄を3回行い、PBS(pH7.4)1mLで懸濁した。
【0058】
(2)Pierce社製担体へのマウスIgGの固定化
免疫沈降キット(Seize-Primary Mammalian Immunoprecipitation Kit、Pierce社製)を用いてその推奨プロトコールに従い、担体にマウスIgG(和光純薬工業(株)製)を固定化した。キットコンポーネントのビーズ100μLをカップリング緩衝液(Pierce社製)400μLで2回洗浄した後、マウスIgG溶液50μL、カップリング緩衝液200μL、5M シアノ水素化ホウ素ナトリウム(Pierce社製) 4μLを加え混合し、室温で4時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、カップリング緩衝液400μLで洗浄を行い、その後、クエンチング緩衝液(Pierce社製)400μLと5M シアノ水素化ホウ素ナトリウム 4μLを入れ、室温で30分間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、洗浄液(Pierce製)400μLで6回洗浄行い、その後PBS(pH7.4)400μLで洗浄を3回行い、PBS(pH7.4)1mLで懸濁した。
【0059】
(3)Dynal社製担体へのマウスIgGの固定化
担体としてDynabeads M-270 Carboxylic Acid(DYNAL社製)を用い、推奨プロトコールに従い、マウスIgG抗体を以下の如く固定化した。Dynabeads M-270 Carboxylic Acid 100μLを反応緩衝液(0.1M MES pH5.0)500μLで3回洗浄した後、マウスIgG溶液50μL、反応緩衝液500μLを加え混合し、室温で30分間転倒混和した。その後10mg/mL 水溶性カルボジイミド(WSC)溶液 25μLを添加し、室温で一晩転倒混和した。磁性分離後、洗浄液(25mM トリス塩酸,150mM塩化ナトリウムを含む0.05w/v%Tween20 (pH7.4) )500μLで4回洗浄を行い、PBS(pH7.4)1mLで懸濁した。
【0060】
実験例2 各種担体を用いたマウスIgG抗体固定化担体による非特異的吸着実験
[細胞ライセートの調製]
終濃度が10v/v%となるようにウシ胎児血清(FBS、Thermo Electron社製)を添加したDullbecco's Modified Eagle's Medium培地(DMEM、和光純薬工業(株)製)でHeLa細胞(大日本製薬(株)製)を培養し、培養液を除いた後、PBS(-)(カルシウム、マグネシウム不含PBS)で2回洗浄を行った。トリプシン・EDTA溶液(和光純薬工業(株)製)を用いて細胞をディッシュから剥がした後、培地を加えトリプシン活性を抑え、培養液を遠心分離後(1000×g、5分間)、上清を除いた。細胞ペレットをPBS(-)1mLで懸濁後細胞数を計測し、1×107細胞を滅菌済み1.5mL容チューブに移し、遠心分離(1000×g、5分間)後上清を除いた。
細胞ペレットに細胞溶解液(20mM トリス塩酸、200mM塩化ナトリウム、2.5mM塩化マグネシウムを含む0.05w/v%NP-40(和光純薬工業(株)製)) 1mLを添加し、ピペッティングにより細胞を懸濁後、氷上で10分間静置した。遠心分離(20000×g、20分間、4℃)後に上清(細胞ライセート)を分取した。
【0061】
[細胞由来タンパク質の非特異吸着性試験]
実験例1で得た本発明のマウスIgG固定化担体並びに比較例1で得たマウスIgGを固定化した各社担体各200μLを遠心分離(3000×g、30秒間)または磁気分離後、上清を除き、それぞれに細胞ライセート1mLを添加し、冷蔵で一晩転倒混和した。遠心分離(3000×g、30秒間)または磁気分離後、上清を除き、細胞溶解液1mLで3回洗浄した。その後ペレットに2w/v% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液20μLを添加し、担体に結合したタンパク質を溶出した。
溶出液10μLに2×SDSサンプル緩衝液(和光純薬工業(株)製)を添加し、95℃で3分間インキュベーションしたサンプルをスーパーセップHG10-20w/v%ゲル(和光純薬工業(株)製)にアプライし、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(25mA、1時間)した。その後ゲルを銀染色2キットワコー(和光純薬工業(株)製)を用いて銀染色した。
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を図1に示す。
【0062】
図1の結果から明らかなように、本発明に係る粒子を用いたマウスIgG固定化担体は、比較例1で得たマウスIgGを固定化した各社担体に比べ、細胞由来タンパク質の非特異吸着性が低いことが判った。
【0063】
実施例1 抗ヒトAgo2抗体固定化担体の作製
1mg/mL抗ヒトAgo2抗体(和光純薬工業(株)製)50μLに実験例1(1)で得られたタンパク質固定化用粒子10mg、タンパク質固定化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)500μLを混合し、37℃で4時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を2回行った。その後、不活性化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)500μLを入れ、室温で1時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を5回行い、PBS(pH7.4)1mLで懸濁し、抗ヒトAgo2抗体固定化担体を得た。
【0064】
比較例2 各種担体を用いた抗ヒトAgo2抗体固定化担体の作製
(1)GEヘルスケア社製担体への抗ヒトAgo2抗体の固定化
マウスIgG溶液50μLの代わりに1mg/mL抗ヒトAgo2抗体(和光純薬工業(株)製)50μLを用いた以外は、比較例1(1)のGEヘルスケア社製担体へのマウスIgGの固定化方法と同様の操作により、抗ヒトAgo2抗体を担体に固定化した。
(2)Pierce社製担体へのマウスIgGおよび抗ヒトAgo2抗体の固定化
マウスIgG溶液50μLの代わりに1mg/mL抗ヒトAgo2抗体(和光純薬工業(株)製)50μLを用いた以外は、比較例1(2)のPierce社製担体へのマウスIgGの固定化方法と同様の操作により、抗ヒトAgo2抗体を担体に固定化した。
(3)Dynal社担体へのマウスIgGおよび抗ヒトAgo2抗体の固定化
マウスIgG溶液50μLの代わりに1mg/mL抗ヒトAgo2抗体(和光純薬工業(株)製)50μLを用いた以外は、比較例1(3)のDynal社製担体へのマウスIgGの固定化方法と同様の操作により、抗ヒトAgo2抗体を担体に固定化した。
【0065】
実験例3 各種担体を用いた抗ヒトAgo2抗体固定化担体を用いた特異的吸着実験
[細胞由来タンパク質の特異吸着性試験]
実施例1で得た抗ヒトAgo2抗体固定化担体溶液、並びに比較例2で得た抗ヒトAgo2抗体を固定化した各社担体溶液各200μLを遠心分離(3000×g、30秒間)または磁気分離後、上清を除き、それぞれに実験例2で得た細胞ライセート1mLを添加し、冷蔵で一晩転倒混和した。遠心分離(3000×g、30秒間)または磁気分離後、上清を除き、細胞溶解液1mLで3回洗浄した。その後ペレットに2w/v% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液20μLを添加し、担体に結合したタンパク質を溶出した。
各溶出液10μLに2×SDSサンプル緩衝液(和光純薬工業(株)製)10μLを添加し、95℃で3分間インキュベーションしたサンプルをスーパーセップHG10-20w/v%ゲル(和光純薬工業(株)製)にアプライし、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(25mA、1時間)した。その後ゲルを銀染色2キットワコー(和光純薬工業(株)製)を用いて銀染色した。
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を図2に示す。
【0066】
図2の結果から明らかなように、本発明に係る粒子を用いた抗ヒトAgo2抗体固定化担体の場合、図1では見られなかった約100kDaのAgo2のバンドがみられ、Ago2を特異的にトラップできていることが判った。また、比較例2で得た、抗ヒトAgo2抗体を固定化した各種担体について得られた結果と比較して、本発明の担体を用いると、Ago2のバンドが濃く現れており、且つ全般的に非特異的に吸着された細胞由来タンパク質のバンドが少なく、Ago2以外の非特異的吸着物量が低いことも判った。即ち、該担体を用いると高い収率でAgo2並びにAgo2と結合しているmiRNAを取得できることが判った。
【0067】
実施例2 miRNAの分離方法
[抗ヒトAgo2抗体固定化溶液の調製]
1mg/mL抗ヒトAgo2抗体(和光純薬工業(株)製)25、50、100μLに対し、タンパク質固定化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)をそれぞれ475、450、400μL添加混合し、2.5、5、10μg抗体/mgビーズ固定化用溶液を調製した。
【0068】
[抗ヒトAgo2抗体固定化担体の作製]
実験例1(1)で得られたタンパク質固定化用粒子10mgと上記で調製した各種抗ヒトAgo2抗体固定化溶液500μLを混合し、37℃で4時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を2回行った。その後、不活性化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)500μLを入れ、室温で1時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を5回行い、PBS(pH7.4)1mLで懸濁した。
【0069】
[細胞ライセートの調製]
終濃度が10v/v%となるようにFBS(Thermo Electron製)を添加したDMEM(和光純薬工業(株)製)培地でHeLa細胞(大日本製薬(株)製)を培養し、培養液を除いた後、PBS(-)で2回洗浄を行った。トリプシン・EDTA溶液(和光純薬工業(株)製)を用いて細胞をディッシュから剥がした後、培地を加えトリプシン活性を抑え、培養液を遠心分離後(1000×g、5分間)、上清を除いた。細胞ペレットをPBS(-)1mLで懸濁後細胞数を計測し、1×107細胞を滅菌済み1.5mL容チューブに移し、遠心分離(1000×g、5分間)後上清を除いた。
細胞ペレットに細胞溶解液(20mM トリス塩酸、200mM塩化ナトリウム、2.5mM塩化マグネシウム、0.05w/v%NP-40) 1mLを添加し、ピペッティングにより細胞を懸濁後、氷上で10分間静置した。遠心分離(20000×g、20分間、4℃)後に上清(細胞ライセート)を分取した。
【0070】
[免疫沈降法による細胞由来microRNA(miRNA)の単離]
上記方法により得られた抗ヒトAgo2固定化担体溶液200μL(ビーズ2mg相当量)を遠心分離(3000×g、30秒間)後、上清を除き、細胞ライセート1mLを添加し、冷蔵で一晩転倒混和した。遠心分離(3000×g、30秒間)後上清を除き、細胞溶解液1mLで3回洗浄した。その後ペレットに2w/v% SDS溶液40μLを添加し、担体に結合したタンパク質を溶出した。溶出液に滅菌水360μL、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)400μLを添加し、ボルテックスミキサーで混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。上層を分取し、クロロホルム400μLを添加し、ボルテックスミキサーで混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。上層を分取し、エタ沈メイト(ニッポンジーン(株)製) 3μL、3M酢酸ナトリウム 40μL、エタノール 1mLを加え、ボルテックスミキサーで懸濁後、遠心分離(20000×g、15分間)した。沈殿を70 v/v %エタノール1mLで洗浄後、室温で20分間風乾し、滅菌水10μLに溶解し、泳動用試料とした。
電気泳動用の変性ポリアクリルアミドゲルを以下の如く調製した。先ず、5×TBE(ニッポンジーン(株)製)1mL、尿素4.8g、40%ポリアクリルアミド溶液(アクリルアミド:メチレンビスアクリルアミド=19:1)2.5mL、滅菌水2.5mLを混合後、TEMED(N,N,N,N-tetramethylethylenediamine) 10μL、10%過硫酸アンモニウム80μLを添加しゲルを架橋した。
上記泳動用試料5μLにホルムアミド(和光純薬工業(株)製)10μLを添加し、80℃で3分間インキュベーションした後、氷上で急冷したものを上記変性ポリアクリルアミドゲル(10w/v%アクリルアミド / 8M尿素 / 0.5×TBE)にアプライした。
またコントロールとして0.25、0.5、1、2ng/μLの鎖長22ヌクレオチドの合成RNAオリゴ(UAGCUUAUCAGACUGAUGUUGA)各1μLにホルムアミド10μLを添加し、80℃で3分間インキュベーションした後、氷上で急冷したサンプルを上記変性ポリアクリルアミドゲルにアプライした。
0.5×TBE緩衝液中で電気泳動(10mA、1時間)した後、ゲルをCLEAR STAIN Ag(ニッポンジーン(株)製)を用いて銀染色した。変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を図3に示す。
【0071】
図3の結果から明らかなように、本発明の担体を用いた免疫沈降法により、miRNA分画を高純度に単離できることが判った。
【0072】
実施例3 miRNAに対応する標的mRNAの分離方法
[マウスIgG固定用化溶液の調製]
マウスIgG(和光純薬工業(株)製)1mgをPBS(pH7.4)1mLに溶解し、1mg/mLマウスIgG溶液とした。1mg/mLマウスIgG溶液50μLに対し、タンパク質固定化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)450μLを添加混合し、5μgマウスIgG/mg固定化用溶液を調製した。
【0073】
[抗ヒトAgo2抗体固定化溶液の調製]
1mg/mL抗ヒトAgo2抗体(和光純薬工業(株)製)50μLに対し、タンパク質固定化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)450μLを添加混合し、5μg抗ヒトAgo2抗体ビーズ固定化用溶液を調製した。
【0074】
[マウスIgG固定化担体溶液および抗ヒトAgo2抗体固定化担体溶液の作製]
実験例1(1)で得られたタンパク質固定化用粒子10mgと上記で調製したマウスIgG固定化溶液又は抗ヒトAgo2抗体固定化溶液をそれぞれ混合し、37℃で4時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を2回行った。その後、不活性化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)500μLを入れ、室温で1時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を5回行い、PBS(pH7.4)1mLで懸濁し、マウスIgGを固定化した担体を含む溶液をマウスIgG固定化担体溶液とし、抗ヒトAgo2抗体を固定化した担体を含む溶液を抗ヒトAgo2抗体固定化担体溶液とした。
【0075】
[免疫沈降法によるHeLa細胞由来RNAの精製]
マウスIgG固定化担体溶液および抗ヒトAgo2抗体固定化担体溶液各200μL(ビーズ2mg相当量)を各々遠心分離(3000×g、30秒間)後、上清を除き、実施例1と同様にして得た、HeLa細胞ライセート1mLをそれぞれに添加し、冷蔵で3時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、30秒間)後上清を除き、細胞溶解液1mLで3回洗浄した。その後ビーズペレットに0.5w/v %SDS溶液50μLを添加し、担体に結合したタンパク質を溶出した。溶出液に滅菌水350μL、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)400μLを添加し、ボルテックスミキサーで混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。上層を分取し、クロロホルム400μLを添加し、ボルテックスミキサーで混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。上層を分取し、エタ沈メイト(ニッポンジーン(株)製) 3μL、3M酢酸ナトリウム 40μL、エタノール 1mLを加え、ボルテックスミキサーで懸濁後、遠心分離(20000×g、15分間)した。沈殿を70 v/v %エタノール1mLで洗浄後、室温で20分間風乾し、滅菌水10μLに溶解して精製RNAをそれぞれ得、マウスIgG固定化担体を用いて得たRNA含有溶液をマウスIgG固定化担体によるRNA溶液、抗ヒトAgo2抗体固定化担体を用いて得たRNA含有溶液を抗ヒトAgo2抗体固定化担体によるRNA溶液とした。
【0076】
[HeLa細胞由来Total RNAの精製]
HeLa細胞ペレット(1×107細胞)にISOGEN(ニッポンジーン(株)製)1mLを添加し、ピペッティングにより細胞を溶解した後、クロロホルム0.2mLを添加し、ボルテックスミキサーで混合した。混合液を氷上で1時間静置した後、遠心分離(20000×g、10分間)し、上層を分取した。分取した溶液にクロロホルム0.6mLを添加し、ボルテックスミキサーで混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。上層を分取し、イソプロパノール0.6mLを添加混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。沈殿を70 v/v %エタノール1mLで洗浄後、室温で20分間風乾し、滅菌水261μLに溶解し、RNA濃度1mg/mL溶液とした。
【0077】
[精製RNAの逆転写反応]
上記免疫沈降法により得た、マウスIgG固定化担体によるRNA溶液及び抗ヒトAgo2抗体固定化担体によるRNA溶液各々10μLに滅菌水1μLと5mMオリゴd(T)12-18プライマー(GEヘルスケア社製)1μLを添加混合した。また、上記精製Total RNA溶液1μLに滅菌水10μLと5mMオリゴd(T)12-18プライマー(GEヘルスケア社製)1μLを添加混合した。各混合液を 70℃で3分間インキュベーションした後、氷冷し、そこに、2.5mMdNTP混合液(ニッポンジーン(株)製)4μL、RNase阻害剤スーパー(和光純薬工業(株)製)1μL、リバースクリプトIV用10×反応緩衝液(和光純薬工業(株)製)2μL、 リバースクリプトIV(逆転写酵素、和光純薬工業(株)製)1μLを添加混合し総量20μLの反応液を、42℃で30分間インキュベーションした。
【0078】
[ヒトNRAS cDNAのPCR増幅]
ヒトNRAS cDNA(GenBank Accession: NM_002524)のPCR増幅用プライマーとして、Forwardプライマー(AATAATAGCAAGTCATTTGCGG)およびReverseプライマー(CCACACATGGCAATCCCATA)を合成した(シグマアルドリッチジャパン社)を用いた。
上記各逆転写反応産物1μLに、5μM Forwardプライマー1μL、5μM Reverseプライマー1μL、2.5mMdNTP混合液(タカラバイオ社製)0.8μL、Ex Taqポリメラーゼ用10×反応緩衝液(タカラバイオ社製)1μL、Ex Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)0.2μL、滅菌水5μLを添加し、総量10μLの反応液を調製し、40サイクルのPCR反応(95℃ 30秒間、60℃ 30秒間、60℃ 60秒間)を行った。
反応液5μLにLoading buffer(ニッポンジーン(株)製)1μLを添加したサンプルを、終濃度1μg/mLエチジウムブロマイドを添加した1.5%アガロースゲルにアプライし、1×TAE緩衝液(ニッポンジーン(株)製)中で電気泳動(100V、25分間)した。電気泳動後のゲルはUVトランスイルミネーターFASIII(東洋紡社製)でバンドを検出した。
アガロースゲル電気泳動の結果を図4に示す。
【0079】
Johnson et. al, Cell,Vol.120,635-647, 2005等では、HeLa細胞で発現するlet-7 miRNAに対応する標的mRNAとしてNRAS mRNAが報告されている。図4の結果より、NRAS mRNAに対応するcDNAの増幅バンド(302bp)は、マウスIgGを固定化した本発明に係る粒子を用いた免疫沈降法では検出されなかったが、抗Ago2抗体を固定化した本発明に係る粒子を用いた免疫沈降法では検出された。即ち、本発明の抗Ago2抗体固定化担体を用いれば、Ago2と結合するmiRNAの標的mRNAも取得できることが判った。また、実験例2の結果と同様、マウスIgGを固定化した本発明に係る粒子を用いた免疫沈降法では増幅バンドが検出されなかったことから、標的mRNAの担体への非特異的吸着がないことが判った。従って、抗Ago2抗体を固定化した本発明の担体を用いた免疫沈降法によれば、miRNAだけでなくmiRNAが標的とするmRNAも取得できることが明らかとなった。
【0080】
実施例4 miRNAに対応する標的mRNAの解析
miR-122(micro RNA)を有さない細胞としてHepG2細胞(肝ガン細胞)を用い、該細胞にmiR-122を導入し、導入した細胞からmiR-122の標的mRNA(AlodoA及びCAT-1)が得られるかどうかを抗ヒトAGO2抗体固定化担体を用いて実験した。
【0081】
[miR-122導入HepG2細胞及びホタルルシフェラーゼsiRNA(GL3)導入HepG2細胞の調製]
終濃度が10v/v%となるようにウシ胎児血清(FBS、Thermo Electron社製)を添加したDullbecco's Modified Eagle's Medium培地(DMEM、和光純薬工業(株)製)で、HepG2細胞(大日本製薬(株)製)を培養し、培養液を除いた後、PBS(-)(カルシウム、マグネシウム不含PBS)で2回洗浄を行った。トリプシン・EDTA溶液(和光純薬工業(株)製)を用いて細胞をディッシュから剥がした後、培地を加えトリプシン活性を抑え、培養液を遠心分離後(1000×g、5分間)、上清を除いた。細胞ペレットを終濃度10v/v%ウシ胎児血清添加DMEM培地で懸濁後、細胞数を計測し、5×106細胞を終濃度10v/v%ウシ胎児血清添加DMEM培地50mLと共に210cm2培養フラスコ(コーニング社製)に移した。
600pmol hsa-miR-122合成2本鎖RNA(5'-UGGAGUGUGACAAUGGUGUUUGU-3', 5'-AAACACCAUUGUCACACUCCAUA-3')又は600pmol ホタルルシフェラーゼsiRNA(GL3,ニッポンジーン社製)を、Opti-MEM培地(インビトロジェン社製)10mLと混合した。得られた2種の混合液それぞれにLipofectamine RNAi max(インビトロジェン社製)100μLを添加混合し、室温で20分間放置した後、上記培養フラスコに添加し、37℃で24時間培養した。
それぞれのフラスコから培養液を除いた後、PBS(-)で2回洗浄を行った。さらに、トリプシン・EDTA溶液を用いて細胞をディッシュから剥がした後、終濃度10v/v%ウシ胎児血清添加DMEM培地を加えトリプシン活性を抑え、培養液を遠心分離後(1000×g、5分間)、上清を除いた。得られた各ペレットを、それぞれPBS(-)1mLで懸濁し、900μLを免疫沈降RNA精製用に、100μLをTotal RNA精製用に分注し、遠心分離(1000×g、5分間)後上清を除き、免疫沈降RNA精製用及びTotal RNA精製用の、miR-122導入細胞ペレット及びGL3導入細胞ペレットを得た。
【0082】
[抗ヒトAGO2抗体固定化溶液の調製]
1mg/mL抗ヒトAGO2抗体(和光純薬工業(株)製)50μLに対し、タンパク質固定化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)450μLを添加混合し、5μg抗ヒトAGO2抗体ビーズ固定化用溶液を調製した。
【0083】
[抗ヒトAGO2抗体固定化担体溶液の作製]
実験例1(1)で得られたタンパク質固定化用粒子10mgと上記で調製した抗ヒトAGO2抗体固定化溶液を混合し、37℃で4時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を2回行った。その後、不活性化用緩衝液(住友ベークライト(株)製)500μLを入れ、室温で1時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、1分間)後、上清をピペットで除き、PBS(pH7.4)500μLで洗浄を5回行い、PBS(pH7.4)1mLで懸濁し、抗ヒトAGO2抗体固定化担体溶液とした。
【0084】
[免疫沈降法によるRNAの精製]
免疫沈降RNA精製用に分注した、miR-122導入細胞ペレット及びGL3導入細胞ペレットそれぞれに細胞溶解液(20mM トリス塩酸、200mM塩化ナトリウム、2.5mM塩化マグネシウムを含む0.05w/v%NP-40(和光純薬工業(株)製)) 1mLを添加し、ピペッティングにより細胞を懸濁後、氷上で10分間静置した。その後、遠心分離(20000×g、20分間、4℃)後に上清(細胞ライセート)を分取した。
上記抗ヒトAGO2抗体固定化担体溶液200μL(ビーズ2mg相当量)を遠心分離(3000×g、30秒間)後、上清を除き、上記各細胞ライセート1mLを添加し、冷蔵で3時間転倒混和した。遠心分離(3000×g、30秒間)後上清を除き、細胞溶解液1mLで3回洗浄した。その後ビーズペレットに0.5w/v %SDS溶液50μLを添加し、担体に結合したタンパク質を溶出した。溶出液に滅菌水350μL、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)400μLを添加し、ボルテックスミキサーで混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。上層を分取し、クロロホルム400μLを添加し、ボルテックスミキサーで混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。上層を分取し、エタ沈メイト(ニッポンジーン製) 3μL、3M酢酸ナトリウム 40μL、エタノール 1mLを加え、ボルテックスミキサーで懸濁後、遠心分離(20000×g、15分間)した。沈殿を70 v/v %エタノール1mLで洗浄後、室温で20分間風乾し、滅菌水50μLに溶解して、miR-122導入細胞由来の免疫沈降精製RNA溶液及びGL3細胞由来の免疫沈降精製RNA溶液を得た。
【0085】
[Total RNAの精製]
Total RNA精製用に分注した、miR-122導入細胞ペレット及びGL3細胞ペレットそれぞれにISOGEN(ニッポンジーン社製)1mLを添加し、ピペッティングにより細胞を溶解した後、クロロホルム0.2mLを添加し、ボルテックスミキサーで混合した。混合液を氷上で1時間静置した後、遠心分離(20000×g、10分間)し、上層を分取した。分取した各溶液にクロロホルム0.6mLを添加し、ボルテックスミキサーで混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。その後、上層を分取し、イソプロパノール0.6mLを添加混合後、遠心分離(20000×g、10分間)した。沈殿を70 v/v %エタノール1mLで洗浄後、室温で20分間風乾し、滅菌水50μLに溶解し、miR-122導入細胞由来の精製RNA溶液及びGL3細胞由来の精製RNA溶液を得た。
【0086】
[miRNAの逆転写反応および定量PCR]
miRNAの逆転写反応はTaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit(アプライドバイオシステムズ社)およびTaqMan MicroRNA Assay Kit(hsa-miR-122用, hsa-miR-21用)(アプライドバイオシステムズ社)を用いて下記のように行った。
上記miR-122導入細胞由来の免疫沈降精製RNA 1μLに精製水99μLを添加した100倍希釈液 1μL、又はGL3導入細胞の免疫沈降精製RNA1μLに精製水99μLを添加した100倍希釈液 1μLに、100mM dNTP mix 0.15μL、10×RT Buffer 0.75μL、20U/μL RNase Inhibitor 0.19μL、50U/μL Multiscribe RT enzyme 1μL 、5×RT primer( hsa-miR-122またはhsa-miR-21用)3μL、精製水8.16μLをそれぞれ添加しtotal 15μLの反応液を2種の反応液を調製した。各反応液を 16℃で30分間、42℃で30分間インキュベーションした後、85℃で5分間インキュベーションし、逆転写反応産物を得た。
各逆転写反応産物1.33μLに、TaqMan 2×PCR Master Mix (アプライドバイオシステムズ社製)10μL、20×TaqMan Assay Mix( hsa-miR-122またはhsa-miR-21用)1μL、精製水7.67μLを添加し、total 20μLの反応液を調製し、ABI7500 Fast Real-Time PCR System(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて定量PCR検出を行い、各Ct値を求めた。一方、1本鎖合成miR-122(5'-UGGAGUGUGACAAUGGUGUUUGU-3')または1本鎖合成miR-21(5'-UAGCUUAUCAGACUGAUGUUGA-3')を標準RNAとし、精製水で101〜105copies/μLに10倍希釈した希釈溶液を作製し、上記と同様の方法で逆転写反応させ定量PCR検出を行った。得られた各希釈標準RNA溶液のCt値とその分子数から、miR-122とmiR-21の検量線を作成した。該検量線を用いて、上記で得られた各Ct値よりmiR-122およびmiR-21の分子数を算出した。miR-122導入細胞由来のmiR-21及びmiR-122並びにGL3導入細胞由来のmiR-21及びmiR-122についての定量結果を、それぞれ図5に示す。
図5の結果から、GL3導入細胞では見られなかったmiR-122が、miR-122導入細胞では検出されており、HepG2細胞にmiR-122が導入されていることが確認できた。
【0087】
[mRNAの逆転写反応および定量PCR]
mRNAの逆転写反応はSuperSript VILO cDNA Synthesis Kit(インビトロジェン社製)を用いて下記のように行った。
即ち、上記miR-122導入細胞由来の免疫沈降精製RNA溶液又はGL3細胞由来の免疫沈降精製RNA溶液各14μLに、5×VILO Reaction Mix 4μLと10×SuperScript Mix 2μLをそれぞれ添加混合し、合計20μLの2種の免疫沈降精製RNA反応液を調製した。また、上記miR-122導入細胞由来の精製Total RNA及びGL3細胞由来の精製Total RNA 2μLに、5×VILO Reaction Mix 4μLと10×SuperScript Mix 2μLと精製水12μLをそれぞれ添加混合し合計20μLの2種のTotal RNA反応液を調製した。免疫沈降精製RNA反応液及びTotal RNA反応液をそれぞれ25℃で10分間、42℃で60分間インキュベーションした後、85℃で5分間インキュベーションし、逆転写反応産物を得た。
一方、ヒトAldolaseA(AldoA)cDNA(GenBank Accession:NM_000034)増幅用のPCRプライマーとしてForwardプライマー(GTTGTGGGCATCAAGGT)とReverseプライマー(CAATCTTCAGCACACAACG)を、ヒトCathionic amino acid transporter-1(CAT-1)cDNA(GenBank Accession:NM_003045)増幅用のPCRプライマーとしてForwardプライマー(GTTCCAGAGGGAGCATC)とReverseプライマー(CAAGCAAATAACTACCAGGTC)を、ヒトGAPDH cDNA(GenBank Accession:NM_002046)増幅用のPCRプライマーとしてForwardプライマー(AATCCCATCACCATCTTCC)とReverseプライマー(GCAGAGATGATGACCCTTT)をそれぞれ合成した。
上記で得られた、免疫沈降精製RNA反応液の逆転写反応産物各1μLに、各cDNA合成用の5μM Forwardプライマー0.8μL、5μM Reverseプライマー0.8μL、2×Power SYBR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社製)10μL、精製水7.4μLをそれぞれ添加し、合計20μLの各反応液を調製し、ABI7500 Fast Real-Time PCR System(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて各反応溶液の定量PCR検出を行い、miR122導入細胞由来の、AldoAのCt値、CAT-1のCt値及びGAPDHのCt値、並びにGL3導入細胞由来の、AldoAのCt値、CAT-1のCt値及びGAPDHのCt値を得た。また、上記で得られた、Total RNA反応液の各逆転写反応産物を用いて、上記免疫沈降精製RNA反応液の逆転写反応産物を用いた方法と同様の方法で定量PCR検出を行い、miR122導入細胞由来の、AldoAのCt値、CAT-1のCt値及びGAPDHのCt値、並びにGL3導入細胞由来の、AldoAのCt値、CAT-1のCt値及びGAPDHのCt値を得た。
免疫沈降精製RNAのAldoA、CAT-1及びGAPDHそれぞれについて、また、total RNAのAldoA、CAT-1及びGAPDHそれぞれについて、miR-122導入細胞由来のRNAのCt値からGL3導入細胞由来のRNAのCt値を減じた値を以下の式で算出し、
log2[−(GL3細胞由来のRNA Ct値−miR-122細胞由来のRNA Ct値)]
GL3導入細胞に対するmiR-122 導入細胞の各mRNA量の増減を比較した。その結果を図6に示す。
【0088】
Joacim et.al.,Nucleic Acids Research,36(4),2008,によるとAldorase A(AldoA)は、mRNAの3'UTR領域にmiR-122の標的となるシード配列を有しており、miR-122の標的mRNAと報告されている。また、Suvendra et.al., Cell,125,1111-1124,2006,によるとcationic amino acid transporter1(CAT-1)もmiR-122の標的mRNAと報告されている。一方、ホタルルシフェラーゼsiRNA(GL3)はmiRNAではないため、これをHepG2に導入してもAldoA、CAT-1等のmRNAとは結合しない。よって、本実験におけるGL3導入細胞は、miR-122導入細胞のコントロール(標準)となる。
図6に示されるようにmiR-122の標的であるAldoA、CAT-1 mRNAはmiR-122導入細胞でGL3導入細胞に比べtotal mRNA量が減少したにもかかわらず、Ago2免疫沈降RNAではmRNA量が増加していた。一方、miR-122の標的配列を持たないGAPDH mRNAはtotal RNAおよびAgo2免疫沈降RNAのCt値に有意な差が見られなかった。以上のことから、miR-122を導入したHepG2細胞を用いて本発明のAgo2免疫沈降方法を行うことで、miR-122の標的mRNAであるAldoA及びCAT-1を効率よく取得できることが判る。即ち、この結果から、特定のmicroRNAを過剰発現させることでmicroRNAとその標的mRNAがAgo2免疫沈降RNA中に特異的に濃縮されることが示され、本発明の方法を用いることにより、microRNAの標的mRNA等small RNA標的核酸を効率よく取得することができ、mRNA等の標的核酸の解析も効率よく行えることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】HeLa細胞を試料として各種担体を用いたマウスIgG抗体固定化担体を用いて免疫沈降法により非特異的吸着実験を行い、それによって得た溶液をゲル電気泳動した結果である。
【図2】HeLa細胞を試料として各種担体から作製した抗Ago2抗体固定化担体を用いて免疫沈降法によりAgo2吸着実験を行い、それによって得た溶液をゲル電気泳動した結果である。
【図3】HeLa細胞を試料として各種濃度の抗ヒトAgo2抗体固定化担体を用いて免疫沈降法により得た溶液(miRNA含有溶液)をゲル電気泳動した結果である。
【図4】HeLa細胞のTotal RNA溶液、マウスIgG固定化担体を用いて免疫沈降法により得た溶液、並びに抗ヒトAgo2抗体固定化担体を用いて免疫沈降法により得た溶液を用いて、各溶液に含まれるRNAを逆転写反応に付し、更にPCR反応に付し、得られた溶液をゲル電気泳動した結果である。
【図5】miR-122 2本鎖RNAまたはホタルルシフェラーゼsiRNA(GL3)を導入したHepG2細胞から取得したAgo2免疫沈降RNA中のmiR-122量およびmiR-21量を定量PCR法により測定した結果である。
【図6】miR-122 2本鎖RNAまたはホタルルシフェラーゼsiRNA(GL3)を導入したHepG2細胞から取得したAgo2免疫沈降RNAおよびtotal RNA中のAldoA、CAT-1、GAPDH mRNA量を定量PCR法により測定した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核となる粒子の表面に重合性官能基又は連鎖移動基を導入し、該粒子と重合性モノマーを混合し、次いで重合反応を進行させることにより、該粒子表面に高分子化合物を含む層を形成した粒子の表面上に、small RNA結合タンパク質に対して親和性を有する生理活性物質を固定化した、small RNA取得用担体。
【請求項2】
生理活性物質が抗体である請求項1に記載の担体。
【請求項3】
抗体が抗Argonauteファミリータンパク質抗体である請求項2に記載の担体。
【請求項4】
前記重合性モノマーが、少なくとも生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)を含むものであり、要すれば更にアルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)を含むものである、請求項1〜3の何れかに記載の担体。
【請求項5】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)の官能基がアルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基、及びビオチンから選ばれる少なくとも一つの官能基である、請求項4記載の担体。
【請求項6】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)が下記の一般式[1]で表される活性エステル基を有するモノマーである、請求項4記載の担体。
【化1】

(式中R1は水素原子またはメチル基を示し、Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基またはアルキレン基を示す。Wは活性エステル基を示す。pは1〜100の整数を示す。pが2以上100以下の整数である場合、繰り返されるXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい)。
【請求項7】
前記活性エステル基がp-ニトロフェニル活性エステル基である請求項6記載の担体。
【請求項8】
アルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)が下記の一般式[2]で表されるモノマーである請求項4〜7の何れか記載の担体。
【化2】

(式中Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。Yは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、qは1〜100の整数を示す。繰り返されるYは、同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項9】
アルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)がメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである請求項4〜7の何れか記載の担体。
【請求項10】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)がp-ニトロフェニルオキシカルボニル−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートであり、アルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)がメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである、請求項4記載の担体。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の担体を用いることを特徴とする、small RNAの取得方法。
【請求項12】
以下の工程からなる請求項11記載の取得方法;
(1)核となる粒子の表面に重合性官能基又は連鎖移動基を導入し、該粒子と重合性モノマーを混合し、次いで重合反応を進行させることにより、該粒子表面に高分子化合物を含む層を形成した粒子の表面上に、small RNA結合タンパク質に対して親和性を有する生理活性物質を固定化した担体と、当該small RNA結合タンパク質とsmall RNAの複合体(small RNA結合タンパク質−small RNA複合体)とを接触させ、当該担体表面に該生理活性物質と該small RNA結合タンパク質−small RNA複合体の結合物を形成させ、
(2)得られた、生理活性物質とsmall RNA結合タンパク質−small RNA複合体の結合物を表面上に有する担体を分離し、
(3)当該生理活性物質とsmall RNA結合タンパク質−small RNA複合体の結合物からsmall RNAを溶出し
(4)溶出したsmall RNAを精製する。
【請求項13】
生理活性物質が抗体である請求項12に記載の取得方法。
【請求項14】
抗体が抗Argonauteファミリータンパク質抗体である請求項12に記載の取得方法。
【請求項15】
前記重合性モノマーが、少なくとも生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)を含むものであり、要すれば更にアルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)を含むものである、請求項12〜14の何れか記載の取得方法。
【請求項16】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)の官能基がアルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基、及びビオチンから選ばれる少なくとも一つの官能基である、請求項15に記載の取得方法。
【請求項17】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)が下記の一般式[1]で表される活性エステル基を有するモノマーである、請求項15に記載の取得方法。
【化3】

(式中R1は水素原子またはメチル基を示し、Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基またはアルキレン基を示す。Wは活性エステル基を示す。pは1〜100の整数を示す。pが2以上100以下の整数である場合、繰り返されるXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい)。
【請求項18】
前記活性エステル基がp-ニトロフェニル活性エステル基である請求項16記載の取得方法。
【請求項19】
アルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)が下記の一般式[2]で表されるモノマーである請求項15〜18の何れか記載の取得方法。
【化4】

(式中Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。Yは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、qは1〜100の整数を示す。繰り返されるYは、同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項20】
アルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)がメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである請求項15〜18の何れか記載の取得方法。
【請求項21】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)がp-ニトロフェニルオキシカルボニル−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートであり、アルキレンオキシ基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)がメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである、請求項15記載の取得方法。
【請求項22】
請求項1〜10の何れか記載の担体を含んでなる、small RNA及び/又はsmall RNAの標的核酸取得用試薬。
【請求項23】
請求項22記載の試薬を含んでなる、small RNA及び/又はsmall RNAの標的核酸取得用試薬キット。
【請求項24】
請求項1〜10の何れかに記載の担体を用いることを特徴とする、small RNAの標的核酸の取得方法。
【請求項25】
以下の工程からなる請求項24記載の取得方法;
(1)核となる粒子の表面に重合性官能基又は連鎖移動基を導入し、該粒子と重合性モノマーを混合し、次いで重合反応を進行させることにより、該粒子表面に高分子化合物を含む層を形成した粒子の表面上に、small RNA結合タンパク質に対して親和性を有する生理活性物質を固定化した担体と、当該small RNA結合タンパク質とsmall RNAとsmall RNAの標的核酸の複合体(small RNA結合タンパク質−small RNA−標的核酸複合体)とを接触させ、当該担体表面に該生理活性物質と該small RNA結合タンパク質−small RNA−標的核酸複合体の結合物を形成させ、
(2)得られた、生理活性物質とsmall RNA結合タンパク質−small RNA−標的核酸複合体の結合物を表面上に有する担体を分離し、
(3)当該生理活性物質とsmall RNA結合タンパク質−small RNA−標的核酸複合体の結合物からsmall RNA−標的核酸結合物を溶出する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−148243(P2009−148243A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129068(P2008−129068)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】