説明

真空用玉軸受およびそれを用いたターボ分子ポンプ

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 この発明は、真空用玉軸受およびそれを用いたターボ分子ポンプに関する。
従来の技術および発明の課題 ターボ分子ポンプ用玉軸受としては、従来、保持器を備えたグリース潤滑軸受が知られている。
ところで、ターボ分子ポンプ用グリース潤滑玉軸受は、たとえば75000rpm程度の高速回転で使用されるため、保持器のポケット部や保持器と軌道輪との案内面までグリースが十分に供給されない。さらに、真空中であるため、軸受の回転によって生じる摩擦熱が外部に伝わりにくく、軸受内部に熱が残る。このため、保持器のポケット部と玉との間や保持器の外周と外輪内周の案内面との間で早期に焼付が発生したり、グリースが早期に劣化したりしていた。その結果、軸受は大気中よりも許容温度の面からも寿命的な制限を受けて、寿命が短くなり、ひいてはターボ分子ポンプの寿命が短いという問題が生じていた。
この発明の目的は、上記の問題を解決した寿命の長い真空用玉軸受およびそれを用いたターボ分子ポンプを提供することにある。
課題を解決するための手段 この発明による真空用玉軸受は、鋼製の内輪および外輪、窒化ケイ素を主体とするセラミックス製の玉、ならびにシールド板よりなる密封型総玉軸受であり、ジエステル系合成油の基油、有機系凝縮剤および四フッ化エチレン樹脂系添加剤を含む低揮発性剤製のグリースが封入されているものである。
この発明によるターボ分子ポンプは、 ケーシング内に軸方向に多段に設けられた固定翼と、上記ケーシング内に玉軸受を介して支持され電動機により回転させられる回転体と、この回転体に設けられ上記固定翼と軸方向に対向する多段の回転翼とを備えたターボ分子ポンプにおいて、 上記回転体を支持する玉軸受が、鋼製の内輪および外輪、窒化ケイ素を主体とするセラミックス製の玉、ならびにシールド板よりなる密封型総玉軸受であり、軸受内に封入されるグリースが、ジエステル系合成油の基油、有機系凝縮剤および四フッ化エチレン樹脂系添加剤を含むことを特徴とするものである。
作用 保持器のない密封型の総玉軸受であるから、従来のような保持器の部分の焼付の問題がない。保持器がないため、軸受内の無攪拌容積が増大し、グリース封入量が増す。保持器がないため、グリースが外輪内周に多く付着し、玉と軌道輪との間のグリース供給性が良くなる。従来のような保持器と玉との間および保持器と外輪内周の案内面との間のすべりがなくなるので、トルクが小さくなり、軸受自体の発熱が少なく、電動機の発熱も少なくなるため、グリースの蒸発量が少なくなる。しかも、グリースがジエステル系合成油の基油、有機系凝縮剤および四フッ化エチレン樹脂系添加剤を含む低揮発性剤製であるから、グリースの蒸発がきわめて少なく、しかも高温での潤滑性に優れている。
玉がセラミックス製であるから、玉相互間の焼付が生じいない。セラミックス製の玉は軽量であるためジャイロすべりが少なく、摩擦トルクが減少する。このため、前記同様、軸受自体および電動機の発熱が少なく、グリースの蒸発量が少なくなって、グリース寿命がのびる。
実施例 以下、図面を参照して、この発明の実施例を説明する。
第2図は、ターボ分子ポンプの主要部を概略的に示す。
第2図において、上部に軸方向に多段に設けられた回転翼(1)を備えた回転体(2)の軸(3)が2個の玉軸受(4)によってケーシング(5)内に回転支持されている。ケーシング(5)内の上部には、回転体(2)および回転翼(1)と同心で回転翼(1)と軸方向に対向する多段の固定翼(6)が固定されている。ケーシング(5)の上端部に吸気口(7)が、下部に排気口(8)が設けられている。ケーシング(5)内の下部にたとえば高周波電動機(15)のモータステータ(9)が設けられ、軸(3)の下部にこれと対をなすモータロータ(10)が設けられている。そして、軸(3)のモータロータ(10)の上下の部分が、軸受(4)によって支持されている。
上記のターボ分子ポンプは、以下のように動作する。すなわち、ケーシング(5)の吸気口(7)と接続されるチャンバ(図示略)、ケーシング(5)、さらに粗引き用ロータリポンプ(図示略)とつながる排気口(8)で真空系が構成されており、まず、粗引き用ロータリポンプを運転して真空系全体を低真空雰囲気に維持する。次に、電動機(15)と始動し軸(3)を回転すると、回転翼(1)と固定翼(6)との相互作用により、上記チャンバ内およびターボ分子ポンプ内の気体分子を排気口(8)から連続排気し、双方内に高真空雰囲気を実現するようになっている。
第1図は、軸受(4)の1例を示す。
第1図において、軸受(4)には、カウンタボアが形成された内輪(11)、カウンタボアが形成されていない外輪(12)、玉(13)および外輪(12)の両端部に取付けられたシールド板(14)よりなるアンギュラコンタクト総玉軸受である。
内輪(11)、外輪(12)およびシールド板(14)は、ステンレス鋼製である。玉(13)は、窒化ケイ素を主体とするセラミックス製である。そして、内輪(11)と外輪(12)の間に、低揮発性剤製のグリース(蒸気圧7.5×10-6Torr(20℃))であって、従来のフッ素系基油に比べ高温・高速潤滑性に優れたジエステル系合成油の基油、たとえばベントンなどの有機系凝縮剤1%および高温での安定性が良好で潤滑性に優れる四フッ化エチレン樹脂系添加剤29%を含むグリースが封入されている。このようなグリースを用いたことにより、従来のフッ素系基油のグリースを用いた場合に比べて寿命がより長くなった。また、内輪(11)、外輪(12)およびシールド板(14)が耐食性のあるステンレス鋼で形成され、玉(13)も耐食性のあるセラミックスで形成されているため、ターボ分子ポンプのように真空環境下で使用された場合、従来、鋼製の材料で問題となっていた防錆用オイルの揮発による装置内汚染も解消できる。
発明の効果 この発明によれば、上述のように、玉軸受内に封入されたグリースの蒸発が少なく、高温での潤滑性に優れているため、長期間にわたって良好な潤滑性が保たれ、焼付も生じにくく、したがって、玉軸受の寿命が向上し、ひいてはターボ分子ポンプの寿命が向上する。
【図面の簡単な説明】
第1図はこの発明の実施例を示すターボ分子ポンプ用玉軸受の要部縦断面図、第2図は第1図の玉軸受を使用したターボ分子ポンプの1例を概略的に示す要部縦断面図である。
(1)…回転翼、(12)…回転体、(4)…玉軸受、(5)…ケーシング、(6)固定翼、(11)…内輪、(12)…外輪、(13)…玉、(14)…シールド板、(15)…電動機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】鋼製の内輪および外輪、窒化ケイ素を主体とするセラミックス製の玉、ならびにシールド板よりなる密封型総玉軸受であり、ジエステル系合成油の基油、有機系凝縮剤および四フッ化エチレン樹脂系添加剤を含む低揮発性剤製のグリースが封入されている真空用玉軸受。
【請求項2】ケーシング内に軸方向に多段に設けられた固定翼と、上記ケーシング内に玉軸受を介して支持され電動機により回転させられる回転体と、この回転体に設けられ上記固定翼と軸方向に対向する多段の回転翼とを備えたターボ分子ポンプにおいて、上記回転体を支持する玉軸受が、鋼製の内輪および外輪、窒化ケイ素を主体とするセラミックス製の玉、ならびにシールド板よりなる密封型総玉軸受であり、軸受内に封入されるグリースが、ジエステル系合成油の基油、有機系凝縮剤および四フッ化エチレン樹脂系添加剤を含むことを特徴とするターボ分子ポンプ。

【第1図】
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【第2図】
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【特許番号】第2913061号
【登録日】平成11年(1999)4月16日
【発行日】平成11年(1999)6月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−54497
【出願日】平成2年(1990)3月5日
【公開番号】特開平3−255215
【公開日】平成3年(1991)11月14日
【審査請求日】平成9年(1997)3月4日
【出願人】(999999999)光洋精工株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭50−91606(JP,A)
【文献】特開 平1−279117(JP,A)
【文献】実開 平2−117426(JP,U)