説明

ハッチカバーの開閉装置

【課題】油圧配管を不要とするとともに開閉制御を簡単な構造で容易に実現できるハッチカバーの開閉装置を提供する。
【解決手段】ハッチカバー3を浮上沈下させる装置7の駆動源が電動モーター70とされ、この電動モーター70により駆動される浮上沈下装置7にはハッチカバー3の浮上上限位置及び沈下下限位置を制限するストッパー12a、12aがそれぞれ設けられ、電動モーター70にはストッパー12a、12aによる駆動制限時に生じる過電流を検出する過電流検出回路21が設けられ、この過電流検出によって電動モーター70の駆動を停止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のハッチ開口を防水閉鎖するハッチカバーの開閉装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶のハッチ開口を防水閉鎖するハッチカバーとして、図9に示すように船体1の甲板に設けたハッチ開口2のハッチコーミング2aに着座固定したハッチカバー3…3をそれぞれハッチ側部に設けたリモートコントローラー4で船腹方向または船首尾方向(図示例は船腹方向)へ往復移動させることで開閉するようにしたものが広く知られている(特許文献1)。
【0003】
これらリモートコントローラー4により操縦されるハッチカバーの移動装置は、図10に模式的に示すように油圧モーター41を駆動源とし回転軸42に二枚一対のスプロケット43、43を同軸に固定し、これにチェーン44、44をそれぞれ巻き掛け、このチェーン44をハッチ開口2周囲に設けた遊転スプロケット47、案内滑車48…によりハッチ開口2周囲に沿って張り巡らせ、ハッチカバー3に設けた連結部材49、49に連結することによってハッチカバー3,3を矢印で示すように互いに離反または近接移動させるように構成されている。
【0004】
一方、ハッチカバー3、3はハッチ開口を確実に閉鎖する必要上、閉鎖時は図11に示すようにハッチコーミング2aの上面2bに着座させ、ボルトやてこ式の締具などの緊締具6で締め付け固定する構造とされている。
従って、ハッチカバー3、3を開閉移動させる場合には緊締具6を外し、ハッチコーミング2aの上面2bから十分離れるまでハッチカバー3、3を浮上させる必要があり、そのため各ハッチカバー3、3側方には浮上沈下装置7が設けられる。
【0005】
この浮上沈下装置7は、図11にも示すようにハッチカバー3の走行ローラー3aが走行するガイドレール8の切り欠き部8aに設けられ、通常はシリンダピストン装置などからなる油圧装置71により油圧の切替え、加圧減圧などにより上下駆動する構成とされ、浮上行程で図11に点線で示すようにローラー3aをガイドレール8と同じレベルまで持ち上げてガイドレール8へ移行可能とし、沈下行程でガイドレール8と同レベルにあったローラー3aを切り欠き部8aに沈下下降させ、ハッチカバー3がハッチコーミング2a上に着座するようにされていた(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−306193号公報、段落0021および図1の記載
【特許文献2】特開平6−179391号公報、段落0011および図1、図2の記載
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の装置において、浮上沈下装置7は各ハッチについてハッチカバー3のローラー3aの数と同じ数、即ち通常は一枚のハッチカバー3につき4箇所、このハッチカバー3が一つの開口につき2枚突き合わせるように配置されるので、一つのハッチ開口につき最低でも8箇所必要となり、ハッチ開口の多い船舶となるほど油圧駆動装置41、71や、これらに作動油を給排するための油圧配管など艤装工数が非常に増えるという問題点があった。
【0007】
また、油圧源から導かれる作動油圧を常時高めておく必要があるため、油圧ポンプの作動頻度も高くランニングコストが掛かるという問題点があった。
【0008】
また、大量の作動油を必要とし、万一配管等に損傷を来した場合に海洋汚染を招く心配もあった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、油圧配管を不要とするとともに開閉制御を簡単な構造で容易に実現できるハッチカバーの開閉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明のハッチカバーの開閉装置は、ハッチ開口を閉鎖するハッチカバーであって、閉鎖時にはハッチコーミング上に着座固定され、開閉時には浮上沈下装置により前記ハッチコーミングから浮上させ、船幅方向または船首尾方向へ移動装置により移動させることで開閉移動可能とされたハッチカバーにおいて、前記ハッチカバーを浮上沈下させる装置の駆動源が電動モーターとされ、この電動モーターにより駆動される浮上沈下装置にはハッチカバーの浮上上限位置及び沈下下限位置を制限するストッパーがそれぞれ設けられ、前記電動モーターには前記ストッパーによる駆動制限時に生じる電流増を検出する電流検出回路が設けられ、この電流検出によって前記電動モーターの浮上沈下駆動を停止するようにしたことを特徴とする。
【0011】
上記において、前記ハッチコーミングから浮上させたハッチカバーを船幅方向または船首尾方向へ移動させる装置の駆動源が電動モーターとされ、この電動モーターにより駆動されるハッチカバーの開放位置及び閉鎖位置にストッパーがそれぞれ設けられ、前記電動モーターには前記ストッパーによる駆動制限時に生じる電流増を検出する電流検出回路が設けられ、この電流検出によって前記電動モーターの移動駆動を停止するようにしたすることもできる。
【0012】
この過電流検出回路による前記電動モーターの停止は、浮上沈下装置、移動装置のいずれの場合もリセット可能な駆動電源遮断回路により行われるようにすることができる。
【0013】
なお、この過電流検出回路により検出される過電流量は、通常の過電流を検出する安全装置に設定される過電流より少ない電流とし、電動モーターやそれに付属する機構に過大な応力が生じるのを防止する構成とすることができる。
【0014】
上記ハッチカバーの浮上沈下駆動装置は、電動モーターによって回転駆動されるねじ軸とこれにねじ嵌合するねじ駒との組み合わせとからなるねじ送り機構とし、この機構における前記ハッチカバーを浮上沈下動させる機素部材に対し、前記浮上上限位置及び沈下下限位置にストッパーが配置する構成、あるいは、電動モーターの回転軸と同軸に設けられた駆動ねじ軸と、このねじ軸外周にかみ合って回転されるウォーム歯車と、このウォーム歯車の中心孔に形成しためねじ孔にねじ嵌合する従動ねじ軸とから構成し、前記従動ねじ軸の軸方向動によって前記ハッチカバーが浮上沈下動されるようにすることが出来る。そして前記のようにねじ軸とこれに嵌合するねじ駒との組み合わせとからなる機構とした場合、各ねじ嵌合部をボールねじ機構とする事もできる。
【0015】
また、上記の浮上沈下装置を構成する各機素が前記ストッパーによる電動モーターの駆動制限時の負荷に耐えうる強度とすることにより耐久性を向上させることもできる。
【0016】
前記ハッチカバーの浮上沈下駆動装置における、浮上沈下方向へ移動する機素部材が前記ハッチカバー下縁部に当接するブラケットとし、このブラケットの浮上上限位置及び沈下下限位置にストッパーを設けることで各機素に過大な力が加わらないようにすることができる。そして、さらにハッチカバーの移動用ロールのガイド部材の一部を切り欠き、この切り欠き部に前記ブラケットを出没自在に配置し、このブラケット上面が前記移動用ロール下面に当接するように設け、かつ前記ブラケットの上限位置で前記ガイド部材のガイド面と前記ブラケットの上面とがほぼ同一面となるようにすることもできる。
【0017】
またハッチカバーの船幅方向又は船首尾方向への移動装置を、減速機構を備えた電動ウインチと、前記減速機構の出力回転軸に同軸に設けられた二枚一対のスプロケットと、このスプロケットのそれぞれに対応して前記ハッチコーミング側部に設けられた遊転スプロケットと、これらスプロケット間に、前記ハッチカバーの移動方向へ沿って張り巡らされたチェーン状の巻き掛け伝導部材と、この伝導部材の往側と復側のそれぞれに設けられた前記ハッチカバーに対する連結部材とすることもでき、さらにハッチカバーの船幅方向又は船首尾方向への移動装置の走行制御が、インバータ制御方式とすることもできる。
【0018】
そしてハッチカバーの移動装置及び浮上沈下装置のいずれもが電動モーターを駆動源とするものとし、ハッチカバーの開閉操作を行う際のそれぞれの操作が遠隔自動操作可能とすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によると、各ハッチカバーの浮上沈下駆動が、電動モーターによって行われるので、油圧モーターとした場合の作動油を給排する油圧配管を配設する必要がなく、艤装工数を減らせるとともに、作動油によって海洋汚染を招く心配が無い。
【0020】
また、浮上沈下装置や移動装置を駆動するそれぞれの電動モーターの制御を、前記電動モーターの負荷増大に伴い発生する過電流を元にして行うようにしているので、例えばリミットスイッチや光電管などハッチカバーの浮上沈下や移動時の位置制御のために必要となる検出装置ないしは検知回路を設ける必要が無く、非常に安価に浮上沈下装置を提供可能となる。
【0021】
また、この浮上沈下装置や移動装置の電動モーターの停止制御をリセット可能な駆動電源遮断回路とすることで、装置全体の安全装置を兼ねさせることもでき、より安価に提供可能となるのである。
【0022】
また、この際に検出される過電流を必要最小限度とすれば機構部に無理な応力を発生させることがない。
【0023】
また、浮上沈下装置としてねじ軸とこれにねじ嵌合するねじ駒との組み合わせより成る各種のねじ機構とすることもでき、安価に製造可能となると共に、ねじ嵌合する部分をボールねじ機構とすればバックラッシュも無く精密な作動をよりスムーズに行わせるようにできる。
【0024】
なお、この機構の構造上の曲げ強度や圧縮強度などの機械的強度を電動モーターの駆動制限時の負荷に耐えうる以上の強度とすれば、装置の耐用強度が増し、前述の過電流検出時の電流量調整と併せさらに機構の耐用強度を向上させることができる。
【0025】
また、ハッチカバーの開閉装置をも電動モーターとすれば、インバータ制御により微妙な速度調整も容易に可能となり、例えば、開閉作動の動き始め、あるいは終了時近辺における開閉移動速度を低速にするなどの制御が容易に可能となる。また、これら作動をそれぞれ遠隔自動操作可能とすることもでき、ハッチカバー開閉時の省力化も可能となるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】

【0027】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0028】
図1はこの発明の実施の形態におけるハッチカバーの浮上沈下装置の側面図、図2は図1のX−X線矢視断面、図3はこの発明のハッチカバーの浮上沈下装置の他の構成例の断面図、図4はこの発明のハッチカバーの開閉装置の制御回路図、図5は浮上沈下装置のフローチャート図である。
【0029】
この発明のハッチ開口およびハッチカバーの構造そのものは図9〜図11に示した従来のものと同じであり、図6に示すようにハッチカバー3、3を、閉鎖時はハッチ開口の周囲に設けられたハッチコーミング上面に着座させて緊締具により締めつけ、開口時は前記緊締具を外した後ハッチコーミングから浮上沈下装置により浮上させて開口方向または閉鎖方向へ移動させる点は同じである。
この発明のハッチカバーの浮上沈下装置が従来と異なる点は駆動装置およびその制御装置であり、以下それらの点について説明する。
【0030】
図1、図2に示すようにハッチカバーの浮上沈下装置7は、ハッチカバー3に複数設けられたローラー3aの停止位置に対応してガイドレール8を切り欠いた切り欠き部8a下方に設けられている。
【0031】
各浮上沈下装置7は、図1に示すようにガイドレール8の切り欠き部8aの下方に設けた基台11上に設置される。
【0032】
この基台11上には電動モーター70が固定されている。電動モーター70に減速機構75を介して回転運動を直線運動に変換するねじ送り機構72が設けられている。ねじ送り機構72は、図2にその構造の一例を示すように減速機構75の出力側に連結されたねじ軸72aにかみ合って回転し、かつ枠72dに回転自在に支持された歯車72bと、この歯車72bの中心孔に形成しためねじ孔にねじ嵌合し、矢印で示すように軸方向へは移動できるが軸周囲には回転できないように支持された従動ねじ軸72cとからなり、このねじ軸72cに、ローラー3aに接触してハッチカバー3を上昇沈下させるブラケット73が相互に自由回転しないように固定されている。
【0033】
このブラケット73は、上縁73aの幅がガイドレール8の切り欠き部8aに嵌まり込む幅とされ、側面は切り欠き部8aの内側面に形成したガイド条11aと嵌合するようにされている。したがって、従動ねじ軸72cはガイド条11aと勘合するブラケット73により回転しないように支持されて、ガイドレール8と同一面となるまで上昇するようにされている。
【0034】
そして、このブラケット73は基部には側方への張り出し部73b、73bが形成されている。
【0035】
切り欠き部8aの内側面には張り出し部73b、73bに当接するストッパー12a、12aが設けられている。このストッパー12a、12aによりブラケット73の上限及び下限位置が規制される。
【0036】
また、上記において、浮上沈下装置7はねじ送り機構72により作動する構成とされているので、電動モーター70が停止したときブラケット73がハッチカバー3の重量によって自然に下降してしまうことはない。
【0037】
なお、張り出し部73b、73bとストッパー12a、12bとの間には、図3の他の構成例のように皿ばね状の緩衝部材13…を介挿する構成としても良い。
【0038】
このように構成した場合、ブラケット73とストッパー12aとの圧接状態が皿ばねの弾性によって緩和されるので、電動モーター70や減速機構75などに衝撃力が作用するのが防止される。なお、この緩衝材13は図示のような皿ばねとする以外につるまきばねや板ばねなどとすることもできる。
【0039】
なお、図3に示す構成例が図1に示した構成例と異なる点は、ブラケット73と従動ねじ軸72cとの間にスペーサ73cを介挿し、このスペーサ73cに張り出し部73b、73bを設け、この張り出し部73bとストッパー12aとの間に皿ばね13aを介挿した点にある。これ以外の構造は図1、図2に示したものと同じであるので同一部分または相当する部分には同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0040】
また、図1〜図3に示したねじ送り機構72として、いわゆるボールネジを用いたねじ送り機構とすることもできる。摩擦抵抗を非常に少なくできるほか、バックラッシをなくすことができ迅速な制御が可能となる。
【0041】
なお、図2の符号5はハッチカバー3の下縁周囲に沿って設けたシールゴムを示し、ハッチコーミング2aの上面2bに突条2cが対向して設けられ、ハッチカバー3をハッチコーミング2a上に着座させたとき、突条2cがシールゴム5に食い込むことで防水を図るようにしたものである。従って、ボルトやてこ式の締具など緊締具6でハッチコーミング2aに固定すれば、ハッチ開口は防水閉鎖される。
【0042】
また、図1において図中76は電動モーター70に付設されたジャンクションボックスを示し、後述する電源回路20と電動モーター70との回路の接続部を海水による水濡れや塩害から保護するために設けられる。
【0043】
内部構造の図示は省略するが、このジャンクションボックス76は、耐食性金属などからなる下方開口型容器であって底面を水密に蓋閉される構造とされている。そして、底面は、電線を貫通させた樹脂板、さらに必要に応じてゴム板で密閉され、これらの蓋板の前記電線の貫通部を樹脂で水密シールすることにより内部が完全に保護されるように構成されている。
【0044】
次に、ハッチコーミング2aに沿って複数台設けられる各電動モーター70…の駆動電源回路について説明する。
【0045】
図4に示すように各電動モーター70…の電源回路20には、電動モーター70の過電流検出回路21が設けられている。この過電流検出回路21は電動モーター70の動作が制限されたときに生じる過電流を検出するためのもので、電動モーター70により浮上沈下動されるブラケット73がストッパー12a、12bに接して動作が制限されたときに生じる
この過電流検出回路21を構成する検出素子21aならびに信号を出力する回路21bそのものは安全装置としてとられる従来の過電流検出回路と同じであるが、その検出電流の設定値が、従来の電動モーター70の安全運転を図るために設けられる過電流検出値より低い値とされている。
【0046】
例えば従来の過電流検出回路の検出電流設定値が定常電流より15〜20%増とされている場合であれば、それより低い10〜15%増の電流量で検出作動するように設定されている。このようにすることによって停止時に各機構に加わる負荷も小さく出来る。
【0047】
なお、このように低く設定された電流値は、電動モーター70の駆動開始時の突入電流より通常は小となるので、駆動開始時点でこれを検出することが無いように、この回路の検出開始時期をタイマー(図示せず)などで調整されている。また、開閉移動動作時ハッチカバー3の移動抵抗に基づき電動モーター70に定常的に発生する過電流よりは上記設定値が大きい値とされていることはいうまでもない。
【0048】
この回路21bからの過電流検出信号によってモーターの駆動電源を自動的に遮断する回路22が設けられている。電源遮断回路22は、ブレーカー(図示せず)などとされ、遮断後は手動、ないしは次回の電源投入時に自動的にリセット可能とされている。
【0049】
一方、制御回路にはすべての浮上沈下電動モーター70が停止したかどうかをチェックするチェック回路23が設けられ、回路21bからチェック回路23のスイッチ24を接にする指令が出されるようにされている。
【0050】
チェック回路23ではすべてのスイッチ24が閉じられれば回路25によりハッチカバーの浮上沈下行程の終了が例えばパイロットランプ(図示せず)により目視判別できるようにされているとともに後述するハッチカバー3の移動装置の駆動制御をなすようにされている。
【0051】
なお、図4において25は主電源スイッチを示し、船内電源から電源供給がされる。
【0052】
次に浮上沈下装置7の作動を説明する。図5は浮上沈下装置7の作動を示すフローチャートである。
【0053】
ハッチを開閉する前提として、開閉しようとするハッチに設けられた全浮上沈下装置が正常であることと、ハッチカバーの移動装置が停止していることが条件とされる。
【0054】
甲板上に並ぶ複数ハッチの中から開閉しようとするハッチを選択し、そのハッチの浮上沈下装置7の作動スイッチONにする。これにより電動モーター70が浮上または沈下方向いずれか選択された方向へ回転駆動される。なお、この回転駆動直後、過電流検出回路が作動正常か否かがチェックされる。正常であれば図1に示したブラケット73がストッパー12a、12bに接するまで浮上または沈下行程は続行される。
【0055】
過電流検出回路21が異常である場合は、いったん装置全体は停止され異常が回復するまでチェックされ、異常が回復すれば再び最初から浮上沈下作業がやり直される。
【0056】
そして、ブラケット73がストッパー12に当接すると、駆動抵抗増加により電動モーター70には過電流が流れる。この過電流の値が一定以上となると検出回路21(図4)からの信号に基づき電源遮断回路22(同)が作動して電源が遮断され、複数ある電動モーター70のそれぞれが逐次停止していく。そして、チェック回路23(同)のスイッチ24(同)がすべて閉じられれば、浮上または沈下行程が終了と判断され、例えば浮上または沈下作業終了のランプなどが点灯される。
【0057】
上記遮断回路22はリセット可能とされているので、次回のスイッチONにより再び正常に電源供給が開始される。
【0058】
上記において過電流の検出値は、異常時の過電流検出値より低くされているので、ブラケット73がストッパー12に接すれば迅速に電源遮断される。従って、電動モーター70からブラケット73へ力を伝える伝導機構に過大な負荷が加わることもなく、また電動モーター70にも過大な電気的負担もかかることなく安全に稼動させることができる。
【0059】
次に、ハッチカバー3を開閉方向へ走行させる移動装置4を説明する。
ハッチカバーの移動装置4は、図6に示すように駆動原を電動モーター40とし、さらにこの電動モーター40に減速機45を直結したものが使用され、さらにその制御装置として過電流検出回路を使用した点に特徴があり、その他の点は9図に示した移動装置と同じである。
【0060】
即ち図6に示すように減速機45の出力側に同軸に設けられた二枚一対の駆動スプロケット43、43と、この駆動スプロケット43、43のそれぞれに対応してハッチコーミング2a側部に設けられた遊転スプロケット47、47と、これらスプロケット43、47との間に設けた案内滑車48…48と、ハッチカバー3、3の移動方向(矢印A)へ沿ってスプロケット43、47および案内滑車48との間に張り巡らされたチェーン状の巻き掛け伝導部材44、44と、この伝導部材44、44の往側と復側のそれぞれに設けられたハッチカバー3、3に対する連結部材49、49とから構成されている。
【0061】
上記におけるモーターの回転速度は1800rpm程度とされ、これを減速機45により1/90〜1/100程度に減速し、チェーン状の巻き掛け伝導部材44の牽引速度が100m/分程度の牽引速度となるように調整されている。
【0062】
上記の巻き掛け伝導部材44、44の構成は、スプロケット43、47と接触する部分だけをチェーンとし、他の部分をワイヤーとしてもよく、また全体を一律にチェーンとしても良い。
【0063】
また、巻き掛け伝導部材44、44とハッチカバー3、3との連結は、例えば図示の回転軸出力軸46が矢印Rの方向へ回転するとハッチカバー3、3が開く方向へ移動するものとすると、ハッチカバー3、3が互いに離反して開く方向へ伝導部材44、44が移動する側にそれぞれ連結部材49、49を介して連結される。なお、開いたハッチカバー3、3を閉じる場合は、電動モーター40を逆回転させることにより回転出力回軸46を矢印Rと逆方向へ回転させる。
【0064】
また、ハッチカバー3、3の移動方向終端部分にはストッパー9、9が設けられ、このストッパー9、9にハッチカバー3、3が当接した時の電動モーター40の過電流検出回路21が図7に示すように電源回路に設けられている。
【0065】
図中符号30はインバータ回路30を示し、電動モーター40の駆動電源とされる。電動モーター40の制御が容易に行えるのでインバータ方式を採用することが望ましい。
【0066】
そして、この電源回路に過電流検知回路21が設けられる。なお、過電流検知回路21およびこれらを構成する素子、電源遮断回路などの構成は前述した浮上沈下装置と同じであるので、同一符号を付すことにより詳細な説明は省略する。
そして電動モーター40は、コントローラー4によって操作可能とされている。
次に、上記実施の形態におけるハッチカバーの移動操作を説明する。
【0067】
図8はこの移動装置の作動を示すフローチャートである。
【0068】
ハッチカバー3の移動を行うには以下が前提とされる。即ち、(1)ハッチカバー3が浮上させられローラー3aがガイドレール8aへ移動できるようにされていること、(2)浮上沈下装置7が停止していること、(3)ハッチカバーの駆動モーターの過電流検出回路が正常であること、(4)インバータ回路を設けた場合はその回路が正常であること。
【0069】
上記のうち前二者の(1)と (2)はチェック回路23のスイッチ24がすべて閉じられているかどうかによって判断される。
【0070】
なお、このときローラー3aはガイドレール8と同レベルとなっていてハッチカバー3はガイドレール8上を自由に走行可能であるが、ハッチカバー3はその側方で移動装置4のチェーンなどの伝導部材44に結止されているので、船体がリストしていたり大きなトリムがついていても、傾斜方向へ自然に走り出してしまうことはない。
【0071】
ついで、コントローラー10を操作して、移動装置4の電動モーター40を駆動しハッチカバー3を開口方向へと移動させ、ハッチ2を開口させる。
【0072】
ハッチカバー3が開口方向へ移動し、ストッパー9に当接すれば、過電流検出回路21によって電源が遮断され、ハッチカバー3の開口移動が停止され、ついで開口位置に設けられたレールの切り欠き部8aに沈下装置7によりそれぞれローラー3aを沈下させてハッチカバー3を移動しないように固定するのである。
【0073】
ハッチ2を閉じる場合は、前記と逆に切り欠き部8aからローラー3aを支持して浮上させ、ハッチカバー3をガイドレール8と同レベルまで浮上させ、ついでコントローラー10を操作して、前記と逆に移動装置4の電動モーター40を駆動しハッチカバー3を閉鎖方向へとローラー3aがガイドレール8の切り欠き部8aに達するまで移動させてハッチ2を閉鎖し、このときストッパー9に当接してハッチカバー3の移動が制限された時に発生する過電流を検出することにより電源モーター40の電源を遮断して停止させ、次いで浮上沈下装置7を沈下方向へ操作する。この場合は、下降するブラケット73がストッパー12に当接すると、これにより電動モーター70に生じる過電流が検出され、これに基づいて電源が遮断されて電動モーター70が停止する。そして、緊締具6を緊締すればハッチカバー3はハッチコーミング2a上に、突条2cをシールゴム5へ食い込ませて防水着座されるのである。
【0074】
従って、ハッチカバー3の浮上沈下および開閉方向へ移動させる場合の制御回路が非常に簡単にすることができ、しかも作動も確実にすることが可能となる。
【0075】
上記実施の形態のハッチカバー3の浮上沈下装置におけるねじ送り機構72として、ねじ送り機構を二段にわたって設けた場合を示したが、構造簡略化のためねじ送り機構を一段とし図1に示すねじ軸72cが直接減速機75の回転軸72aとなるように構成することによりブラケット73を浮上沈下させる構成としても良い。なお、この場合はねじ軸72aが直立して軸支されることになる。
【0076】
また、上記の実施の形態におけるハッチカバー3の浮上沈下装置におけるストッパー12a、12b、ブラケット73、およびブラケット73に力を伝導する機構72、75の構成部材の材質は、ストッパー12a、12bにブラケット73が当接したあと電動モーター70が停止するまでの間、電動モーター70から加えられる力に耐えうるよう、高張力鋼など強度の優れる材質により形成することが望ましい。
【0077】
さらに、ねじ送り機構72として、図示は省略するがボールねじ機構とすることもできる。この場合、機構の作動抵抗を非常に小さくできるとともにバックラッシュが非常に小さくすることができるので、ハッチカバー3の浮上沈下動作の制御が容易にかつ正確に行える。
【0078】
また、上記実施の形態のハッチカバーの開閉装置におけるハッチカバー3の移動装置4の駆動方式をインバータ制御方式とすることができ、この場合、移動速度の増減制御が容易となり、特にハッチ開き始め時及び閉め終わり時近傍時点における減速調整が行い易くなる。なお、この場合の制御プログラムは図8に点線で囲った部分で示すようにインバータ正常か否かのチェック回路が付加される。
また、インバータ制御とした場合は、回生ブレーキ回路を設けることも出来るので、トリムやリストが大きい時のハッチカバーの速度調整や緊急停止なども容易に実施可能となり安全性を高くすることができる。
【0079】
そして、上記実施の形態において、ハッチカバーの浮上沈下装置7及び移動装置4の駆動源をすべて電動モーターとした場合、これら駆動が電気的配線によって遠隔自動操縦も可能となり、例えば船橋からの監視によって全てのハッチ開口の開閉制御が可能となるなど著しい省力化も図ることが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】この発明のハッチカバーの開閉装置における浮上沈下装置の要部側面図である。
【図2】図1のX-X線矢視断面図である。
【図3】この発明のハッチカバーの開閉装置における浮上沈下装置の他の構成例の要部断面図である。
【図4】図1に示した浮上沈下装置の回路図である。
【図5】図1に示した浮上沈下装置の作動フローチャートである。
【図6】この発明のハッチカバーの開閉装置における移動装置の要部斜視図である。
【図7】図6に示した移動装置の回路図である。
【図8】図6に示した移動装置の作動フローチャートである。
【図9】船体甲板のハッチを示す平面図である。
【図10】従来のハッチカバーの移動装置を説明する要部斜視図である。
【図11】従来のハッチカバーの浮上沈下装置を説明する要部側面図である。
【符号の説明】
【0081】
1 …船体
2 …ハッチ開口
2a…ハッチコーミング
3 …ハッチカバー
3a…ローラー
4 …移動装置
7 …浮上沈下装置
9 …ストッパー
12a…ストッパー
12b…ストッパー
20 …電源回路
21 …過電流検出回路
22 …電源遮断回路
30 …インバータ回路
40 …電動モーター
45 …減速機
70 …電動モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハッチ開口を閉鎖するハッチカバーであって、閉鎖時にはハッチコーミング上に着座固定され、開閉時には浮上沈下装置により前記ハッチコーミングから浮上させ、船幅方向または船首尾方向へ移動装置により移動させることで開閉移動可能とされたハッチカバーにおいて、前記ハッチカバーを浮上沈下させる装置の駆動源が電動モーターとされ、この電動モーターにより駆動される浮上沈下装置にはハッチカバーの浮上上限位置及び沈下下限位置を制限するストッパーがそれぞれ設けられ、前記電動モーターには前記ストッパーによる駆動制限時に生じる電流増を検出する電流検出回路が設けられ、この電流検出によって前記電動モーターの浮上沈下駆動を停止するようにしたことを特徴とするハッチカバーの開閉装置。
【請求項2】
前記ハッチコーミングから浮上させたハッチカバーを船幅方向または船首尾方向へ移動させる装置の駆動源が電動モーターとされ、この電動モーターにより駆動されるハッチカバーの開放位置及び閉鎖位置にストッパーがそれぞれ設けられ、前記電動モーターには前記ストッパーによる駆動制限時に生じる電流増を検出する電流検出回路が設けられ、この電流検出によって前記電動モーターの移動駆動を停止するようにしたことを特徴とする請求項1のハッチカバーの開閉装置。
【請求項3】
前記電動モーターの駆動停止が、リセット可能な駆動電源遮断回路により行われるようにされている請求項1または2のハッチカバーの開閉装置。
【請求項4】
前記電動モーターの過電流検出回路により検出される過電流量が、通常の過電流検出安全装置に設定される過電流より少ない電流とされている請求項1〜3いずれかのハッチカバーの開閉装置。
【請求項5】
前記ハッチカバーの浮上沈下駆動装置が、電動モーターによって回転駆動されるねじ軸とこれにねじ嵌合するねじ駒との組み合わせとからなるねじ送り機構とされ、この機構における前記ハッチカバーを浮上沈下動させる機素部材に対し、前記浮上上限位置及び沈下下限位置にストッパーが配置されてなる請求項1〜4いずれかのハッチカバーの開閉装置。
【請求項6】
前記ハッチカバーの浮上沈下駆動装置が、電動モーターの回転軸に同軸に形成された駆動ねじ軸と、このねじ軸外周にかみ合って回転されるウォーム歯車と、このウォーム歯車の中心孔に形成しためねじ孔にねじ嵌合する従動ねじ軸とからなり、前記従動ねじ軸の軸方向動によって前記ハッチカバーが浮上沈下動される請求項1〜5いずれかのハッチカバーの開閉装置。
【請求項7】
前記ハッチカバーの浮上沈下駆動装置における、ねじ軸とこれに嵌合するねじ駒との組み合わせとからなるねじ送り機構のねじ嵌合部がボールねじ機構とされている請求項5または6に記載のハッチカバーの開閉装置。
【請求項8】
前記ハッチカバーの浮上沈下装置を構成する機構の各機素が、前記ストッパーによる電動モーターの駆動制限時の負荷に耐えうる強度とされている請求項1〜7いずれかのハッチカバーの開閉装置。
【請求項9】
前記ハッチカバーの浮上沈下駆動装置における、浮上沈下方向へ移動する機素部材が前記ハッチカバー下縁部に当接するブラケットとされ、このブラケットの浮上上限位置及び沈下下限位置にストッパーが設けられてなる請求項1〜8いずれかのハッチカバーの開閉装置。
【請求項10】
前記ハッチカバーの移動用ロールのガイド部材の一部が切り欠かれ、この切り欠き部に前記ブラケットが出没自在に配置され、このブラケット上面が前記移動用ロール下面に当接するように設けられ、かつ前記ブラケットの上限位置で前記ガイド部材のガイド面と前記ブラケットの上面とがほぼ同一面となるようにされた請求項9に記載のハッチカバーの開閉装置。
【請求項11】
前記ハッチカバーの船幅方向又は船首尾方向への移動装置が、減速機構を備えた電動ウインチと、前記減速機構の出力回転軸に同軸に設けられた二枚一対のスプロケットと、このスプロケットのそれぞれに対応して前記ハッチコーミング側部に設けられた遊転スプロケットと、これらスプロケット間に、前記ハッチカバーの移動方向へ沿って往復循環するように巡らされた巻き掛け伝導部材と、この伝導部材の往側と復側のそれぞれに設けられた前記ハッチカバーに対する連結部材とからなる請求項1〜10いずれかのハッチカバーの開閉装置。
【請求項12】
前記ハッチカバーの船幅方向又は船首尾方向への移動装置の走行制御が、インバータ制御方式とされた請求項1〜11いずれかのハッチカバーの開閉装置。
【請求項13】
前記ハッチカバーの船幅方向又は船首尾方向への移動装置及び浮上沈下装置のいずれもが電動モーターを駆動源とされ、ハッチカバーの開閉操作を行う際のそれぞれの操作が遠隔自動操作可能とされた請求項1〜12いずれかのハッチカバーの開閉装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−205965(P2006−205965A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22910(P2005−22910)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(593172223)今治造船株式会社 (15)