フィルタ及び空気調和機
【課題】親水性、疎水性を問わず、あらゆる汚れに対して防汚性能を発揮して、汚れの付着抑制および剥離性が向上するフィルタ用コーティングを施したフィルタを提供する。
【解決手段】この発明に係るフィルタは、フィルタ枠体と、フィルタ枠体に設置される網状体のフィルタ通気体と、フィルタ通気体の表面にコーティング膜103を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子102とを含有し、コーティング膜103が、シリカ微粒子から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物200とを備えたものである。
【解決手段】この発明に係るフィルタは、フィルタ枠体と、フィルタ枠体に設置される網状体のフィルタ通気体と、フィルタ通気体の表面にコーティング膜103を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子102とを含有し、コーティング膜103が、シリカ微粒子から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物200とを備えたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、通過する空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタ、及びそのフィルタを使用する空気調和機、及びそのフィルタとフィルタに捕捉された塵埃を自動で除去するフィルタ清掃装置を有する空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機には、通過する空気と冷凍サイクルを循環する冷媒との熱交換を行う熱交換器が設けられている。熱交換器は、互いが平行となるように配列された複数の薄板状の金属製フィンと、それらのフィンを貫通しながら複数列を成して挿設される金属製の冷媒配管により構成されている。フィンの素材としてはアルミニウムが多く使用され、冷媒配管には、銅パイプが主として用いられる。
【0003】
熱交換器のフィン先端やフィン間へ埃や糸くずがひっかかることにより、ここを通過する空気が目詰まりすることを抑制するために、熱交換器の前面(上流側)にはフィルタが備えられている。従来のフィルタのメンテナンス方法は、2週間に1回程度の頻度で水洗い等の手動清掃を行っていた。近年では、フィルタ掃除の手間を省くために、空気調和機内部に一定期間ごとにフィルタを自動で清掃する機構が備えられている。自動清掃の方法としては、起毛素材の布ブラシ、ワイヤーブラシ、繊維ブラシ、シリコンや粘着式テープなどによって汚れを掻き取る方法、または吸引ファンによって吸い取る方法が使用されている。
【0004】
フィルタの表面には、比較的長い糸くずはもちろん、親水性の砂塵や黄砂、疎水性の油煙や煙草のヤニ、垢、人の皮脂等様々な汚れが捕捉される。フィルタの表面についた汚れをブラシで掻き取る際、繊維埃のみであれば問題はないが、細かな垢や皮脂、砂塵、油分がフィルタに付着するために、これらがバインダー(結合材)として働き、ブラシで繊維埃による汚れさえも掻き取りにくくなる。最悪の場合、汚れが掻き取れないばかりか汚れを押し広げてしまい、フィルタの目を埋めてしまう。フィルタの目が埋まると、フィルタを通過する風量(空気流量)および風到達力が下がると共に、そのために熱交換器での熱交換量が減ってしまい、冷暖房能力が低下してしまう。手動で水洗いする分には落とせる汚れも、自動清掃機構においては、このようなミクロンオーダーの細かな汚れは落としにくいため、問題が顕著となる。
【0005】
そのため、フィルタ汚損を抑制する方法が各種提案されている。例えば、表面エネルギーの低いフッ素化合物をフィルタの表面にコーティングすることで、付着した汚れを剥離しやすくするものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、スパッタリングにより、フィルタ表面にステンレスの金属皮膜を形成して、表面の平滑性によって汚れを剥離しやすくするものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、フィルタ表面に光触媒を含有させることで、水を使って容易に洗い流せる自浄効果を付与しているものもある(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−136062号公報
【特許文献2】特開2007−105645号公報
【特許文献3】特開平9−75633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に示されるフッ素化合物をコーティングしたフィルタは、表面エネルギーの低さにより汚れの付着力が低くなって汚れを剥がしやすい効果はある。しかし、フッ素自体は疎水性(水に対する親和性が低い、すなわち水に溶解しにくい、あるいは水と混ざりにくい物質または分子(の一部分)の性質のこと)のため、疎水性粒子や疎水性ガスは逆に付着しやすく、油煙やタバコ環境負荷が高い場所では、より汚れやすくなるケースが多い。これらが多量に付着して固着してしまった場合には、例えフッ素化合物の効果があってもブラシによる自動清掃は困難である。
【0009】
また、上記特許文献2に示される金属ステンレスを表面にスパッリングしたフィルタは、表面の平滑性が増すために汚れの物理的ひっかかりが抑制できて、剥離しやすいとしている。しかし、従来の樹脂に比べれば汚れがつきにくく剥離しやすいものの、ステンレス自体は疎水性であって付着面積も広いため、疎水性の汚れはよく付着してしまう。また、後述する本発明のコーティングに比べた場合、表面の密度が高いため、汚れ粒子との分子間力が高くなり汚れがとりにくい。
【0010】
また、上記特許文献3に示されるフィルタ表面に光触媒を含有させたフィルタは、光触媒性酸化物へ光を照射することにより生じる光励起によって部分的に親水性を呈するようにするものであり、光照射が十分でない場合には良好な防汚性能が得られないという課題があった。特に通常の空気調和機環境下ではフィルタは外殻に覆われてしまうため、充分な光を得ることは困難である。更には、水を使って容易に洗い流せる自浄効果があっても、自動清掃用フィルタへ適用する場合は、水が無いために洗い流せない。
【0011】
当然ながら、コーティングを施していない従来のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルタによる自動清掃機構においては、親水性の砂塵や黄砂、疎水性の油煙や煙草のヤニ、垢、皮脂等、親水性と疎水性両方の汚れが満遍なく付着していく。径が0.1〜5.0ミリメートルほどある繊維ホコリと違って、細かな垢や皮脂、砂塵、油滴は数ミクロンメートルしかない。これらがフィルタに付着するために、バインダーとして働く結果、ブラシで汚れが掻き取りにくくなったり、汚れを押し広げてしまったりして、フィルタ目詰まりを起こしてしまう危険がある。
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、親水性、疎水性を問わず、あらゆる汚れに対して防汚性能を発揮して、汚れの付着抑制および剥離性が向上するフィルタ用コーティングを施したフィルタ、及びそのフィルタを使用する空気調和機、及びそのフィルタとフィルタに捕捉された塵埃を自動で除去するフィルタ清掃装置を有する空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るフィルタは、
フィルタ枠体と、
フィルタ枠体に設置される網状体のフィルタ通気体と、
フィルタ通気体の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係るフィルタは、フィルタ通気体の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたことにより、親水性汚損物質と疎水性汚損物質の両方に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、低い分子間力と低い静電気力によって良好な剥離性を呈する効果があり、フィルタの目詰まりを防止する効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態に係るフィルタ清掃装置およびフィルタについて、図面に基づいて説明する。なお、以下の各図において、同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0016】
実施の形態1.
本実施の形態は、フィルタ表面に好適なコーティング組成物(親水性を示すシリカ膜に疎水性を示すフッ素樹脂粒子が適度に分散して点在するもの)をコーティングすることにより、フィルタの目詰まりを防止する点に特徴がある。
【0017】
フィルタ表面に好適な上記コーティング組成物をコーティングしたフィルタについて説明する前に、そのフィルタを使用する装置の一例である空気調和機について説明する。以下に説明する空気調和機は、フィルタ表面に好適な上記コーティング組成物をコーティングしたフィルタと、そのフィルタに捕捉された塵埃を自動で除去するフィルタ清掃装置を有する空気調和機である。
【0018】
図1は実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図である。図1において、空気調和機100は、筐体10と、筐体10内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファン20と、送風ファン20が形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷媒(冷凍サイクルに封入される)とが熱交換を行う熱交換器30と、吸引した空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタ40と、フィルタ40を清掃するフィルタ清掃装置50と、を有している。以下、各構成部材について個別に説明する。
【0019】
筐体10は、両端面(図示しない)が塞がれた筒状であって、天面(図中、上側)の一部が開口し、該開口部が空気を吸い込む吸込口11を形成し、地面(図中、下側)の一部が開口し、吸込口11から吸い込んだ空気を吹き出す吹出口14を形成している。そして、前面(図中、左側)は開口し、該開口部を開閉する前面扉12が設置されている。なお、後面(図中、右側)は塞がれ、筐体10を壁等に取り付けるための、壁取付部16が上部に形成されている。
【0020】
そして、筐体10の内部において、後面寄りで天面近くの「位置A」と前面寄りで地面近くの「位置B」とを結ぶ側面視で断面が円弧状の範囲は、特別の部材が設置されていない空間として用意され、該空間がフィルタ40の移動径路となる円弧状移動径路17になっている。
【0021】
送風ファン20は、筐体10の側面視で略中央部に配置される。送風ファン20は、吸込口11から吹出口14間に形成される風路に配置される。送風ファン20と吹出口14との間の吹出側風路の前後は、ノズル13と後面ガイド板15とにより形成されている。
【0022】
熱交換器30は、吸込口11と送風ファン20との間に配置され、吸い込まれた空気を調和(冷却、加熱、加湿、除湿等)する。図中、熱交換器30は送風ファン20の天面側および前面側を取り囲むように配置されているが、本実施の形態は該配置形態に限定するものではない。また、熱交換器30は、伝熱管31と、伝熱管31が挿通する放熱フィン32とを備える。
【0023】
図2は、図1に示すフィルタ40を模式的に示す斜視図である。図1および図2において、フィルタ40は、網状体のフィルタ通気体41と、フィルタ通気体41が設置されたフィルタ枠体42とから形成されている。フィルタ枠体42は略円筒の一部を形成し(断面円弧状)、円弧状に成形する前は矩形状の外枠43と、外枠43の対向する辺を連結する補強桟44とから形成される。補強桟44の内面に内歯車からなるフィルタ従動歯車45が形成されている。
【0024】
なお、フィルタ40は、円弧状移動径路17に沿って、その上縁46が位置Aに到達し、その下縁47が位置Bに到達する範囲を往復移動するものであって、フィルタ枠体42(フィルタ40に同じ)の断面円弧の曲率半径は、円弧状移動径路17の曲率半径と略等しい。すなわち、フィルタ40は曲率半径が変わることなく往復移動するから、フィルタ40を簡素な装置によって移動させることができるだけでなく、フィルタ40自体の劣化が防止されて寿命延長が図られる。
【0025】
図3は、フィルタ通気体41の詳細図である。フィルタ通気体41は、PET(ポリエチレンテレフタレート)を材料とした縦糸と横糸によって織られている。また、ロール状ブラシ71によって塵埃を掻き取る際に、ブラシがきれいに接して効率よく塵埃が除去できるように、凹凸のない平織り形状をしている。メッシュ(網目)の形状は四角形状であり、横糸と縦糸の総数は、1メッシュあたりの捕集効率を上げるために、1インチ*1インチ当たり少なくとも40本以上に設定している(1メッシュの1辺は約0.6mm)。横糸と縦糸の数は、同数であっても、一方が他方より多くてもよい。糸の太さ(線径)は圧力損失と強度から決定され、およそ20〜100d(デニール)である。本実施の形態は、網目が四角形状の平織りフィルタを対象としているが、これに限定するものではなく、網目の形状が六角形状や三角形状であってもよく、また。平織りではなく立体織りであっても問題なく適用できる。
【0026】
フィルタ通気体41は、物理的捕集によって主に熱交換器30への埃の堆積を防止する役目を有しており、集塵対象物の長さは空気中を飛散する0.1mm〜10mm程度の塵埃であり、一般的には繊維状の糸くず92が多い。ところが、空気中には親水性汚損物質90の砂塵や黄砂、疎水性汚損物質91の油煙やヤニ、人の垢や皮脂など様々な汚れが飛散しており、これらは大きさが数ミクロンメートルと非常に小さいにも関わらず、フィルタ繊維上に付着してしまう。特に垢のように粘着性の汚れがついてしまうと、この上についた埃はフィルタ40から剥がれ難くなり、ロール状ブラシ71で擦っても除去し難い。加えて、このような汚れは、カビや菌の栄養分になるため、室内が高湿度環境に曝される場合には、菌糸がフィルタ40上で成長して強固な目詰まりを起こしてしまう。フィルタ40の目詰まりは、通常の設定された送風ファン20(クロスフローファン)の回転数では空気が通りにくくなるため、冷暖房能力の低下や暖房気流の床到達不足、暖房気流の舞い上がり、冷房気流の垂れによる不快感、吹出し近傍での逆吸い込みによる異音の発生、電気代の悪化など様々な悪影響を及ぼす。図4に目詰まりを起こしたフィルタ40による電気代の悪化率を示す。フィルタ40の圧力損失増加に従って、同一能力比較での電気代は10〜20%程度悪化する。
【0027】
図1において、フィルタ清掃装置50は、フィルタ40を移動させるフィルタ移動部60と、フィルタ40のフィルタ通気体41に当接し、これに捕捉された塵埃を除去する塵埃除去部70と、塵埃除去部70によって除去された塵埃を回収する塵埃回収部80と、を有している。
【0028】
図1において、フィルタ移動部60は、フィルタ従動歯車45に噛み合うフィルタ駆動歯車61と、フィルタ駆動歯車61が略中央に固定されたフィルタ駆動軸62と、フィルタ駆動軸62の一方の端部に固定されたフィルタ回転入力歯車(図示せず)と、フィルタ駆動軸62を回転自在に支持するフィルタ移動部本体64を具備している。
【0029】
また、フィルタ移動部本体64には、フィルタ駆動軸62と平行にフィルタ押さえ軸65が設置され、フィルタ押さえ軸65は、フィルタ従動歯車45にフィルタ駆動歯車61が噛み合ってフィルタ40が移動される際、該噛み合いが外れないようにしている。なお、フィルタ押さえ軸65は回転自在な断面円形でも、固定された断面矩形でもよい。
【0030】
図5は、図1に示す塵埃除去部70を模式的に示す斜視図である。図1および図5において、塵埃除去部70は、フィルタ40のフィルタ通気体41の外面に当接して回転するロール状ブラシ71と、ロール状ブラシ71が固定されたロール状ブラシ駆動軸72と、ロール状ブラシ駆動軸72の一方の端部に固定されたロール状ブラシ回転入力歯車73と、ロール状ブラシ駆動軸72を回転自在に支持する塵埃除去部本体74を具備している。
【0031】
なお、塵埃除去部本体74の一方の端面には円筒状の軸貫通突起(図示せず)が形成され、該軸貫通突起をロール状ブラシ駆動軸72が貫通し、他方の端面には円筒状(端部が閉塞されたコップ状を呈している)の軸支持突起75が形成され、軸支持突起75の内部においてロール状ブラシ駆動軸72の端部が支持されている。そして、ロール状ブラシ71は回転または停止され、フィルタ40上の汚れを掻きあげて塵埃を除去する。
【0032】
なお、以上は、塵埃除去部70として回転駆動されるロール状ブラシ71を示しているが、本実施の形態はこれに限定されるものではなく、ロール状ブラシ71に替えて、ブラシに繊維を植えこんだワイヤーブラシを設置してもよい。また、ワイヤーブラシを固定しないで前後に動かして、フィルタ40上の塵埃を掃きとってもよい。ワイヤーの長さや材質、フィルタ40との距離を調整することで、フィルタ40への押し当て力を変化することができる。また、シリコンパッドのような部材でフィルタ40上を擦っても良い。
【0033】
ロール状ブラシ71の方がフィルタ40に密接することができるが、フィルタ40上の塵埃が剥がれ難い場合は、塵埃を押し広げてしまったり、塵埃がフィルタ40に残ってしまったりするリスクが高い。また、ロール状ブラシ71全体にフィルタ40の汚れが移動した後、ロール状ブラシ71自体の接触面積が大きいためロール状ブラシ71に汚れが堆積するリスクもある。一方、ワイヤーブラシの場合はフィルタ40にあたる部分が少なく、フィルタ40とワイヤーブラシの距離ばらつきによって押し当て力が変化するため、汚れが剥がれにくい場合には除去力が著しく低下するリスクがある。
【0034】
図1において、塵埃回収部80は、ロール状ブラシ71に当接して捕捉された塵埃を掻き落とす掻き落し板81と、掻き落し板81をロール状ブラシ71の押し当てるための掻き落し付勢手段82と、掻き落し板81によって掻き落とされた塵埃を溜める集塵箱83と、を具備している。
【0035】
塵埃除去部70の塵埃除去部本体74が、塵埃回収部80の集塵箱83の「開閉蓋」として機能するから、塵埃除去部本体74を集塵箱83に合わせると、塵埃除去部本体74、集塵箱83およびロール状ブラシ71の三者によって、略密閉されたダストボックスが形成される。
【0036】
フィルタ40は下降限にまで移動される。すなわち、フィルタ40は円弧状移動径路17にそって、上縁46が位置Aにあった状態から、下縁47が位置Bに到達するまで移動する。
【0037】
そして、フィルタ40が、正転(図中、反時計回り)するフィルタ駆動歯車61によって移動させられて位置Aから位置Bに向かう「往路」において、ロール状ブラシ71は、フィルタ40の移動方向(図中、略下方向)と同一の方向(図中、時計回り)に回転し、フィルタ通気体41に捕捉された塵埃を除去する。特に、ロール状ブラシ71の周速(Vb)がフィルタ40の移動速度(Vf)よりも遅く(Vb<Vf)なっているから、フィルタ通気体41に捕捉された塵埃は、一旦、ロール状ブラシ71の噛み込み側(図中、天面側)に集められた後、ロール状ブラシ71に付着して噛み出し側(図中、地面側)に運ばれることになる。そして、該付着した塵埃は掻き落し板81によって掻き落とされ、集塵箱83内に回収される。
【0038】
一方、下降限に到達していたフィルタ40は、今度は逆転(図中、時計回り)するフィルタ駆動歯車61によって移動させられ、上昇限にまで戻る(図1参照)。すなわち、上縁46が位置Aに到達する。
【0039】
そして、位置Bから位置Aに向かう「復路」において、ロール状ブラシ71は回転を停止している。したがって、往路において除去されないまま残っていた塵埃が、復路において除去されたとしても、該塵埃は、回転していないロール状ブラシ71の噛み込み側(図中、地面側)に集まるだけで、噛み出し側(図中、天面側)に運ばれることがない。よって、ロール状ブラシ71から除去された塵埃が集塵箱83の外に散逸することはない。
【0040】
フィルタ清掃装置50として、フィルタ通気体41に捕捉された塵埃をロール状ブラシ71で噛み込む方式のものを説明したが、詳細は省くが吸引式のフィルタ清掃装置においても、以下に述べるフィルタ用コーティング組成物がコーティングされたフィルタ40は、有効である。
【0041】
次に、本実施の形態の特徴部分であるフィルタ40の目詰まりを抑制するフィルタ用コーティング組成物について説明する。
【0042】
以下で説明するコーティング組成物200によりコーティングされる物品の実施例として、ここでは空気調和機100に使用されるフィルタ40を用いる。ただし、このコーティング組成物200は、コーティング対象がフィルタ40に限定さるものではなく、他の物品への適用も可能なものである。
【0043】
フィルタ40上の親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、低い分子間力と低い静電気力によって良好な剥離性を呈する効果があり、フィルタ清掃装置50によるホコリの押し広げ、除去残しを低減して、フィルタの目詰まりを防止する効果を得るためのフィルタ用コーティング組成物に関して、図に基づいて説明する。
【0044】
図6はこの実施の形態1のコーティング組成物200が被コーティング物であるフィルタ40のフィルタ通気体41(フィルタ繊維107)にコーティングされ、コーティング膜103が形成された状態での断面を示す説明のための概念図である。図7は図6におけるコーティング組成物200によるコーティング膜103の部分のみを示した概念図である。図8は図6もしくは図7のコーティング膜103の上面を見た概念図である。図6〜8においては、いずれもコーティング組成物200が乾燥されコーティング膜103を形成している状態を示している。
【0045】
この実施の形態1のコーティング組成物200は、乾燥された状態において、シリカ微粒子101から成る親水性を示すシリカ膜104中に疎水性を示すフッ素樹脂粒子102が点在し、シリカ膜104から全部でなく部分的に露出した構成のコーティング膜103が形成されるものである。
【0046】
シリカ(SiO2)は、地殻の約60%を占める珪素の酸化物であり、主として珪砂を原料として化学的に反応させて、多孔質で大きな表面積構造を持つ合成シリカを作り出すことにより各種分野における優れた特性を生み出す。その化学的な安定性と共に広い分野で脚光を浴びている。
【0047】
このコーティング組成物200は、シリカ微粒子101が分散された水(分散液)と、フッ素樹脂粒子102が分散された水(分散液)とを混合することによって得られるもので、コーティング膜103が形成される前は水分中にシリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が分散された液の状態であり、物品表面にその分散液(コーティング溶液)を塗布したり、物品をその分散液中に浸漬させたりした後で、乾燥させ水分を除去することにより、コーティング膜103が物品表面に形成されるものである。コーティング膜103におけるシリカ膜104は、珪素Siと酸素Oの結合が続き、表面にOH基を有する膜となる。
【0048】
なおここでは、図7に示すように、コーティング組成物200により物品表面に形成された被覆層をコーティング膜103と呼ぶ。コーティング膜103は、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が点在するとともに、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出されている状態となっているものである。また、ここでは基本的にコーティング組成物200は、上記した分散液の状態である一般的にコーティング溶液と呼ばれている状態を指すものとする。
【0049】
このコーティング組成物200に用いるシリカ微粒子101の平均粒径(平均粒子径)は、光散乱法により測定した場合、15nm以下、好ましくは4〜12nmのものとする。粒径は光散乱法により測定できる。このように極めて小さい平均粒径を有するシリカ微粒子101は、水に分散したコーティング溶液の状態では、水と接している全表面部分が平衡して水に半ば溶解した状態になっており(接する表面部分が水とシリカの中間的性質の物質となっており)、コーティング組成物200が乾燥されると、この半ば溶解した状態のシリカ成分が、シリカ微粒子101同士をつなぐバインダー(粒子を固める結合剤)として働くため、特別なバインダーを添加しなくとも、乾燥後にはシリカ微粒子101同士が凝集し固化し易くなる。そのため、クラックが入りにくいなど強度的に優れたシリカ膜104、ひいてはコーティング膜103を得ることができる。
【0050】
平均粒径が4〜15nmの範囲内にあるシリカ微粒子101では、1つのシリカ微粒子101について、シリカ微粒子101重量のおおよそ15〜30%の重量に相当する表面部分が、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態となっている。しかし、平均粒径が15nmを超えるシリカ粒子の場合、平均粒径が大きくなるほど、シリカ微粒子101の重量に対するコーティング溶液における水に半ば溶解した状態のシリカ成分の重量は少なくなり、バインダーとしての作用が得られなくなってくるため、形成されるコーティング膜103が十分な強度を有さず、クラックが入り易いなどコーティング膜としては好ましくない。そのため、別途バインダーを添加する必要が生じてくる。
【0051】
逆に、平均粒径が4nm未満のシリカ微粒子101の場合では、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態のシリカ成分の割合が高くなりすぎて、コーティング溶液中でシリカ微粒子101同士が凝集してしまうなど、コーティング組成物200としての安定性が得られなくなる。また、乾燥後に形成されるシリカ膜104(コーティング膜103)の強度や後述する防汚性能も所望のものが得られなくなる。
【0052】
また、シリカ微粒子101の粒径は、形成されるコーティング膜103の透明性等の外観特性にも影響を与える。平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子101であれば、コーティング膜103により反射する光の散乱が小さくなるため、コーティング膜103の透明性が向上し、被コーティング物の色調や風合いの変化を抑え、被コーティング物の色調や風合いを損なわないようにすることができる。
【0053】
また、シリカ微粒子101として、平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子101を使用することで、得られるコーティング膜103中のシリカ膜104が、緻密ではありながらシリカ微粒子101間に微細な空隙を有するものとなる。シリケートやゾルゲル法等で形成する微粒子を用いない従来から使用されている一般的なシリカ膜や、可溶性の有機や無機物からなるバインダーが添加されたシリカ膜と比較して、シリカ膜104は、薄く形成でき、またシリカ粒子によるシリカ膜104表面の凹凸を小さくして平滑に形成することができるので、汚損物質が引っ掛かったりせず、防汚性能が高められる。
【0054】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の含有量は、コーティング組成物200に対して0.1〜5重量%としており、好ましくは0.3〜2.5重量%とする。この範囲の含有量(濃度)のコーティング組成物200を用い、浸漬やかけ塗り等で被コーティング物(例えば、熱交換器30)の表面に液膜を形成し、余剰のコーティング溶液を流し去ったり、強制的に排除したりして乾燥させる方法でコーティングを行うと、形成されるコーティング膜103の厚さは50〜500nm程度となり、シリカ膜104が凹凸のない均一な厚さとすることができ、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことがないコーティング膜103を形成することができる。
【0055】
シリカ微粒子101の含有量が0.1重量%未満であると、シリカ膜104が薄くなりすぎて部分的な欠損が生じ、被コーティング物の表面にコーティングできていない部分が発生してしまうといった不具合が起こることがあり、コーティング組成物200としては適さないものとなってしまう。
【0056】
一方、シリカ微粒子101の含有量が5重量%を超えると、シリカ膜104が厚くなりすぎて白濁膜となってしまい、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことになる。また、シリカ微粒子101自体の重量割合が大きいため、上記したコーティング溶液中の半ば水に溶解したシリカ成分によるバインダー作用が得難くなり、乾燥後のシリカ微粒子101同士の固化状態が弱くなって、シリカ膜104にクラックが入り易くなったり、剥離し易くなったりと強度的に劣るようになる。
【0057】
次に、このコーティング組成物200に用いられるフッ素樹脂粒子102について説明する。コーティング膜103において、シリカ膜104中に点在し、シリカ膜104から全部でなく部分的に露出しているフッ素樹脂粒子102の平均粒径(平均粒子径)は、50〜500nm、好ましくは100〜250nmであるものを用いる。粒径の測定は、光散乱法により可能である。このような範囲の粒径のものを使用することで、シリカ膜104の厚さよりも大きい粒径となり、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散し易く、コーティング膜103の表面に(シリカ膜104表面から)フッ素樹脂粒子102の部分的な露出がされ易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られるようになる。
【0058】
かかる平均粒径が50nm未満のフッ素樹脂粒子102であると、コーティング溶液において、フッ素樹脂粒子102同士が凝集、合一してしまうなど性状の安定性が得られなくなる。また形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から露出し難くなり、後述する防汚性能が得られないことにもなる。
【0059】
一方、平均粒径が500nmを超えるフッ素樹脂粒子102であると、形成されるコーティング膜103において、シリカ膜104の表面から露出するフッ素樹脂粒子102部分が大きくなる。そのようになると、コーティング膜103の表面に疎水性を示す部分の領域が大きくなりすぎ、後述する防汚性能が得られないことになる。またコーティング膜103表面の凹凸が大きくなりすぎ、汚損物質(汚れ)が引っかかり易くなって、付着した汚損物質が除去され難くなる。
【0060】
このコーティング組成物200が乾燥して被コーティング物の表面に形成されるコーティング膜103において、シリカ膜104の厚さは、フッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さいものである。シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも薄く管理することで、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散して点在し、シリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出し易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られる。
【0061】
例えば、平均粒径が150nmのフッ素樹脂粒子102を使用する場合では、シリカ膜104の厚さを100nm未満に管理する。すなわち、シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の平均粒径の2/3未満とするのである。このように、シリカ膜104を100nmより薄い薄膜に形成するためには、被コーティング物の表面でシリカ微粒子101が固化する以前に、強い気流で被コーティング物の表面のコーティング溶液をブローするとよい。このときのブロー速度やブロー時間、ブロー温度などの因子を調整することにより、シリカ膜104の厚さを管理することが可能となる。
【0062】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比(シリカ微粒子101の重量 フッ素樹脂粒子102の重量)は、50:50〜95:5としており、好ましくは75:25とする。このような範囲の重量比であれば、シリカ微粒子101(シリカ膜104)による親水性領域と、フッ素樹脂粒子102による疎水性領域とがバランスよく混在するコーティング膜103が常温での乾燥により得られる。この親水性領域と疎水性領域のバランスがよいことが、後述する防汚性能に影響する。
【0063】
ただし、シリカ微粒子101のみを用いて純粋なシリカ膜104を形成した場合にも、防汚効果はかなり制限されるものの、油煙のような疎水性粒子を遠ざける効果および表面の静電気力や分子間力を低下させる効果を有し、コーティングを施さない場合に比べて、汚れ耐力が向上する。
【0064】
これより、このコーティング組成物200によって形成されるコーティング膜103による防汚性能(防汚特性)について説明する。汚れとは、物品の表面に汚損物質が付着し、それが除去されずに物品表面に固着してしまうことである。そのため、汚損物質が物品の表面に固着しないようにする、またもし物品表面に汚損物質が付着したとしても、汚損物質が表面に固着することなく表面から容易に除去されることが、物品表面の汚れを防止することとなる。
【0065】
このように、汚損物質が表面に固着し難い特性、また仮に汚損物質が付着したとしても、表面に固着することなく表面から容易に離脱できる(除去される)特性を、「防汚性能」と呼ぶものとする。物品表面をコーティングすることで、物品表面がこの防汚性能に優れた状態にできるコーティング組成物(コーティング膜)を防汚性能が高い、もしくは防汚性能に優れたコーティング組成物(コーティング膜)と表現するものとする。なおここにおいて、付着とは、単純に表面に載っている状態も含めて、その後にその表面から比較的容易に除去できる状態を指し、固着とは、表面から容易には除去できない状態を指すものとして、区別して使用する。
【0066】
汚れを生じさせる汚損物質には、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91がある。親水性汚損物質90は、親水性を示す部分に付着し易く、疎水性を示す部分には付着し難い。そして、疎水性汚損物質91はその逆となる。親水性汚損物質90は、砂塵やホコリ等であり、親水性汚損物質90と物品表面の親水性部分にそれぞれ存在する親水基(OH基)同士による静電的な結合により、もしくは、親水性汚損物質90と物品表面の親水性部分が近接することによる分子間力により、または、水等の液が介在して液架橋により、物品表面(コーティング膜表面も含む)の親水性部分に付着する。
【0067】
空気中に浮遊している親水性汚損物質90である砂塵は、大きさが数μm〜数十μmの微小な粒子である。また、同じく親水性汚損物質90であるホコリは、砂塵よりはるかに大きなもので、0.1mm〜5mmの大きさがある。このような親水性汚損物質90が、上記のような作用で物品表面の親水性部分に固着するためには、親水性汚損物質90と物品表面の親水性部分とが十分に密着できる(接触できる)だけの親水性部分の面積が存在しなければならない。
【0068】
しかし、この実施の形態のコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性を示すシリカ膜104に疎水性を示すフッ素樹脂粒子102が適度に分散して点在しているため、砂塵をはじめとして親水性汚損物質90が安定して密着できるだけの連続した面積を有するシリカ膜104表面がほとんど存在しない。コーティング膜103の上に付着した親水性汚損物質90は、シリカ膜104から突出(露出)しているフッ素樹脂粒子102の表面の疎水性により、もしくは、突出しているフッ素樹脂粒子102の物理的な阻害により、シリカ膜104の表面とは十分に密着できない。このため、親水性汚損物質90は、容易に離脱してコーティング膜103に固着しない。
【0069】
また、シリカ膜104は、シリカ微粒子101から成るもの(バインダーの役目もシリカ微粒子101のシリカ成分が担っている)でシリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性の膜であるため密度が小さく、仮に親水性汚損物質90が近接しても、分子間力が小さく親水性汚損物質90を固着させ難い。
【0070】
さらに、シリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性のシリカ膜104であるため、仮に水等による液架橋が生じた場合にも、親水性汚損物質90とシリカ膜104表面間の水が、シリカ膜104の微細な空隙を通して除去され、液架橋が消失されるので、液架橋により親水性汚損物質90が固着することもない。
【0071】
このように、このコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質90に対して、優れた防汚性能を発揮する。
【0072】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で95:5より多くなれば、コーティング膜103におけるシリカ膜104中に点在するフッ素樹脂粒子102の間隔が大きくなり、シリカ膜104に微小な砂塵など大きさが小さい親水性汚損物質90が安定して固着できる面積を有する露出表面部分が出現してしまい、親水性汚損物質90がシリカ膜104表面に固着する可能性が生ずる。コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の量を、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で100:0としても疎水性汚れに対する少量の効果は期待できる。
【0073】
一方で、点在するフッ素樹脂粒子102の間隔が大きく、フッ素樹脂粒子102に遮断されずに連続するシリカ膜104が広いと、シリカ膜104表面の吸湿性が向上することにより、コーティング膜103に帯電する電荷が漏洩し易くなるので、コーティング膜103表面の帯電を効率よく抑制できるという利点がある。物品表面が帯電すると、親水性、疎水性に関係なく空気中の汚損物質である微細な浮遊粒子が静電引力で引きつけられて物品表面に付着し易くなる。
【0074】
このコーティング組成物200では、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比を50:50〜95:5としているので、この範囲のコーティング組成物200で形成されるコーティング膜103のシリカ膜104においては、帯電を抑制できる連続性を有し、すなわちシリカ膜104が電荷を漏洩できる程度の連続する面積を有するような適度な間隔でフッ素樹脂粒子102が点在し、帯電による浮遊粒子(汚損物質)の付着を防ぐ効果がある。コーティング組成物200で物品表面をコーティングし、表面にコーティング膜103を形成することで、静電気に由来する汚れも防止することができるのである。また、フィルタ通気体41からの汚れ剥離性も向上する。
【0075】
コーティング組成物3におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で50:50より少なくなれば、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が点在する間隔が狭くなり、上記のような連続するシリカ膜104による帯電の抑制効果、それにより静電気に由来する汚れが防止できる効果を得難くなり、防汚性能が劣ってくる。
【0076】
もう一つの汚損物質である疎水性汚損物質91は、油煙やカーボン、煙草のヤニ等であり、汚れの原因となるものはこれらの中で微粒子として空気中に浮遊しているものである。その粒子径が5μm以下、多くは0.1〜0.3μmと親水性汚損物質90に比べて小さいものである。疎水性汚損物質91は、親水性を示す表面部分に対しては、表面に親水基や吸着した水分が存在するため、固着し難く、疎水性を示す表面部分には、固着し易い。このような疎水性汚損物質91が、物品表面に固着するのは、疎水性汚損物質91が疎水性を示す表面部分と密着することで生じる分子間力によるためである。
【0077】
このコーティング組成物200において疎水性を示すものは、上記の通り平均粒径が50〜500nmのフッ素樹脂粒子102である。フッ素樹脂粒子102は、物品表面で形成されるコーティング膜103においては、変形や合一により、単体の粒径よりも大きくなることも起こり得るが、汚れの原因となる疎水性汚損物質91の大きさと比べて同等か小さく、疎水性を示す表面部分を有するフッ素樹脂粒子102には、疎水性汚損物質91が、十分に密着できる面積が存在しない場合が多い。
【0078】
このような場合、互いに固着させるような分子間力が作用せず、疎水性汚損物質91は疎水性を示すフッ素樹脂粒子102に対して固着し難くなる。当然、疎水性汚損物質91は親水性を示すシリカ膜104には固着しないので、コーティング膜103は疎水性汚損物質に対しても高い防汚性能を発揮する。
【0079】
上記のようなフッ素樹脂粒子102の大きさ(粒径)が、疎水性汚損物質91の大きさに比べて同等か小さいことにより、疎水性汚損物質91がコーティング膜103のフッ素樹脂粒子102に十分に密着できずに固着に到る分子間力が作用しない、ということだけでは、疎水性汚損物質91が部分的にフッ素樹脂粒子102に密着し、分子間力の作用により部分的には固着する可能性がある。また、疎水性汚損物質91の方がフッ素樹脂粒子102よりも小さい場合もあり、互いが十分に密着できる面積がフッ素樹脂粒子102に存在することも起こり得る。
【0080】
しかし、このコーティング膜103は、上記以外にも疎水性汚損物質91をフッ素樹脂粒子102に固着させない他の作用を有しており、そのような部分的な固着、小さい疎水性汚損物質91の固着さえも起こり難くしている。その作用について、以下に説明する。
【0081】
このコーティング組成物200のフッ素樹脂粒子102は、フッ素樹脂の重合時や水への分散液の状態、およびシリカ微粒子101の分散液と混合されたコーティング溶液の状態において、添加される界面活性剤により表面が親水性を示す状態になっている。乾燥されコーティング膜103となった場合には、界面活性剤は剥離して、フッ素樹脂粒子102の表面は疎水性を示すようになるが、コーティング溶液中には、シリカ微粒子101が共存しているため、乾燥後に形成されるコーティング膜103のフッ素樹脂粒子102表面には、フッ素樹脂粒子102より粒径の小さいシリカ微粒子101がまばらに付着した状態になる。
【0082】
このように、フッ素樹脂粒子102の表面に親水基を有する(親水性を示す)シリカ微粒子101が散らばって付着しているために、フッ素樹脂粒子102の表面には疎水性汚損物質91の部分的な固着も、またフッ素樹脂粒子102よりも小さい疎水性汚損物質91の固着も起こり難いのである。フッ素樹脂粒子102の表面に部分的に親水基が導入されることで、フッ素樹脂粒子102と疎水性汚損物質91との密着を抑制する効果が得られるのである。そして、フッ素樹脂粒子102の表面に疎水性汚損物質91が付着しても、シリカ微粒子101が散らばって付着しているので、その付着は不安定で、容易に離脱できる。
【0083】
一方で、そのようにシリカ微粒子101がまばらに付着しているフッ素樹脂粒子102の表面であっても、シリカ微粒子101の大きさに比べるとはるかに大きい親水性汚損物質90に対しては、十分な疎水性としての効果を発揮し、親水性汚損物質90がフッ素樹脂粒子102の表面に固着することはない。また、フッ素樹脂粒子102は、柔軟な表面を有しているのだが、このようにシリカ微粒子101がまばらに付着することで、フッ素樹脂粒子102の表面が硬くなり、疎水性汚損物質5が密着し難くなる効果も得られる。
【0084】
また、フッ素樹脂自体が、従来からフッ素樹脂コーティングで知られているように、非常に表面エネルギーが小さく摩擦係数が低いため、疎水性を示すばかりでなく、撥油性も有しており、他の疎水性を示す樹脂に比べて、疎水性汚損物質91の固着が起こり難い性質を備えている。その点も、疎水性汚損物質91がフッ素樹脂粒子102に固着しない作用効果の一つである。
【0085】
このように、このコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、疎水性汚損物質91に対しても、優れた防汚性能を発揮する。
【0086】
コーティング組成物200におけるフッ素樹脂粒子102の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で50:50より多くなると、コーティング膜103において露出するフッ素樹脂粒子102の疎水性を呈する部分の表面積が大きくなりすぎ、疎水性汚損物質91のコーティング膜103への固着が増す傾向が見られるようになる。そして、多数のフッ素樹脂粒子102の存在により、それらの一部が合一するなどして、コーティング膜103が白濁して、被コーティング物の表面の色調や風合いを損なうようになる。また、フッ素樹脂粒子102が合一すると、シリカ膜104の連続性が阻害されることにもなる。
【0087】
なお、シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102に粒径よりも大きく(厚く)した場合には、新水性を呈するシリカ膜104がコーティング膜103の表面として広く露出することになり、親水性汚損物質90に対する防汚性能が劣る。さらに、フッ素樹脂粒子102のシリカ膜104中への分散が阻害され、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104から分離してシリカ膜104表面に析出し、フッ素樹脂粒子102同士が合一して塊となってしまい、その部分で局所的に新水性が悪化したり、疎水性汚損物質91が固着したりすることが起こり得る。そのため、上記したようにシリカ膜104の厚さは、フッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さく(薄く)して、フッ素樹脂粒子102が、シリカ膜104中に適度に分散され、それぞれのフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104から全部ではなく部分的に露出できるようにする。
【0088】
このコーティング組成物200におけるフッ素樹脂粒子102としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体),PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等や、これらの共重合体もしくは混合物、またはこれらに他の樹脂を混合したものが使用できる。
【0089】
フッ素樹脂粒子102は、コーティング組成物200が製造される前に水に分散した分散液の状態である必要がある。分散させる方法は、懸濁重合や乳化重合により重合したフッ素樹脂粒子102を用い、界面活性剤を利用することで可能となる。水に分散した状態においては、フッ素樹脂粒子102の表面は疎水性が低い状態となっているが、これらが乾燥され固形物(コーティング膜103)となった状態にて、表面が疎水性を示すようになればよい。使用するフッ素樹脂としては上記の中で特に、PTFEとFEPが、分散液やコーティング溶液において凝集しないといった安定性に優れている点、また乾燥されコーティング膜103となった時の疎水性が高い点から好ましい。
【0090】
以上のように、このコーティング組成物200により物品表面に形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方とも固着させず、また付着しても容易に離脱させることができるので、優れた防汚性能と剥離性を発揮して、コーティングされたフィルタ表面の汚れを防止することができる。後述する実施例(実験結果)においても、この実施の形態によるコーティング組成物200の防汚性能が優れていることが証明されている。
【0091】
この実施の形態のコーティング組成物200の製造方法は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子101の分散液と、フッ素樹脂粒子102の分散液と、を混合することによって容易に製造することができる。ここで、シリカ微粒子101の分散液は、15nm以下の平均粒径を有するシリカ微粒子101が水に分散されたもの、例えば、市販のコロイダルシリカを用いることができる。シリカ微粒子101の分散液では、分散液中のシリカ微粒子101の体積比率が、20%以下であることが好ましい。体積比率が20%を超えると、シリカ微粒子101が凝集するなど分散液の安定性が低下してしまうことがあるためである。
【0092】
また、フッ素樹脂粒子102の分散液は、500nm以下の平均粒径を有するフッ素樹脂粒子102が水に分散されたもの、例えば、PTFEディスパージョンを用いることができる。なお、疎水性のフッ素樹脂粒子102をコーティング組成物200に凝集することなく均一に分散させるために、界面活性剤を加えてもよい。なお、どちらの分散液においても極性溶媒は水に限定されるものではない。
【0093】
それぞれの分散液に使用される水は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が凝集することなく分散して安定するために、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のイオン性不純物が少ないものがよい。2価以上のイオン性不純物が200ppm以下であることが望ましく、より望ましくは50ppm以下である。2価以上のイオン性不純物が多くなると、シリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が凝集して沈殿したり、形成されるコーティング膜103の強度や透明性が低下したりする恐れが生じる。
【0094】
このコーティング組成物200は、有機溶剤を含まないので、安全で環境にやさしいものである。また、上記のように市販されている分散液を混合するだけで製造できるので、容易に低コストで製造できる利点がある。
【0095】
ただし、コーティング組成物200は、疎水性のフッ素樹脂粒子102の安定性確保や、被コーティング物品の材質に応じて、形成されるコーティング膜103の密着性向上やコーティング膜103の親水性の調整を図る観点から、界面活性剤や有機溶剤を添加してもよい。また、コーティング組成物200には、形成されるコーティング膜103の密着性や透明性、強度の向上、さらにはコーティング膜103の親水性の調整目的でカップリング剤やシラン化合物を添加してもよい。
【0096】
ここで、このコーティング組成物200に使用可能な界面活性剤としては、各種のアニオン系又はノニオン系の界面活性剤が挙げられる。かかる界面活性剤の中でも、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックポリマーやポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤等が、起泡性が低く使用し易いので好ましい。
【0097】
また、このコーティング組成物200に使用可能な有機溶剤としては、各種のアルコール系、グリコール系、エステル系、エーテル系等のものが挙げられる。
【0098】
また、このコーティング組成物200に使用可能なカップリング剤としては、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ系、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のメタクリロキシ系やメルカプト系、スルフィド系、ビニル系、ウレイド系等が挙げられる。
【0099】
また、このコーティング組成物200に使用可能なシラン化合物としては、トリフルオロプロピルトリメトキシランやメチルトリクロロシラン等のハロゲン含有物、ジメチルジメトキシシランやメチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有物、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシラザン化合物、メチルメトキシシロキサン等のオリゴマー等が挙げられる。
【0100】
以上の添加剤の含有量は、このコーティング組成物200の防汚性能や初期親水性、長期の親水持続性を損なわない範囲であれば、特に制限されることはなく、選択した添加剤に応じて適宜調整すればよい。
【0101】
この実施の形態のコーティング組成物200の物品表面へのコーティング方法としては、特に制限されることはなく、従来から公知の方法を用いて行うことが可能であるが、コーティング組成物200を被コーティング物品表面に塗付した後、余剰のコーティング組成物200を気流で除去する方法が望ましい。余剰なコーティング組成物200が物品表面に滞留してしまうと、その部分に形成されるコーティング膜103が厚くなり、シリカ膜104にクラックが入り易くなるなど強度が低下したり、白濁して被コーティング物の色調や風合いを損なったりする恐れがある。
【0102】
また、余剰のコーティング組成物200を乾燥させるために、乾燥時間が増加してしまう。乾燥時間の増加は、物品の製造工程上好ましくないだけでなく、乾燥中にフッ素樹脂粒子102が空気界面に集積して、得られるコーティング膜103の疎水性が強くなり、疎水性汚損物質91が固着し易くなって高い防汚特性が得られなくなる恐れが生じる。余剰のコーティング組成物200を気流で除去する方法であれば、余剰のコーティング組成物200を除去するだけでなく、気流により乾燥が促進される効果も得られ、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が適度に点在した良好なコーティング膜103が得られるという利点もある。
【0103】
このように気流で余剰のコーティング組成物200を被コーティング物品の表面から除去する場合、その気流の温度は、110℃以下、望ましくは90℃以下がよい。気流の温度が高すぎる場合、シリカ膜104が変質して形成されるコーティング膜103の疎水性が強くなる傾向があり、疎水性汚損物質91が固着し易くなって好ましくない。気流の温度の下限については、35℃以下であると乾燥時間が長くなり、上記の通り、製造工程上、そして得られるコーティング膜103の疎水性が強くなる恐れがあり、好ましくない。
【0104】
気流を吹き付ける時間についても、気流の温度や被コーティング物品の形状にも依存するため限定されるものではないが、単純な形状の物品では、2秒以上20秒以下が望ましい。微小な隙間や穴を有するような複雑な形状を有する物品については、5秒以上50秒以下が好ましい。時間が短ければ余剰のコーティング組成物200が残留しやすく、時間が長くかかりすぎる状態であると、上記の通り、製造工程上だけでなく、コーティング膜103の疎水性が強くなる恐れが生じ好ましくない。
【0105】
この実施の形態のコーティング組成物200の被コーティング物表面への塗付方法は、特に制限されることはいが、浸漬、もしくはかけ塗り等、物品表面をコーティング組成物200で覆う方法で行うと、コーティングされていない部分がなく、また厚みにむらが少ない均一なコーティング膜103が形成でき、好ましい。浸漬やかけ塗りの方法では、物品表面をコーティング組成物200が欠陥なく覆うことができる。
【0106】
厚みにむらの少ないコーティング膜103とするために、上記した気流で余剰のコーティング組成物200を除去する方法も好ましいが、浸漬の場合には、コーティング溶液(コーティング組成物200)から被コーティング物品をゆっくり引き上げて、コーティング溶液の流れ落ちにより、余剰なコーティング組成物200を除去し、むらを抑制する方法、浸漬もしくはかけ塗りの場合には被コーティング物品を回転させるなどして、余剰のコーティング組成物200を振り切って除去する方法も好ましい。
【0107】
なお、このコーティング組成物200でコーティングする物品によっては、コーティング組成物200が乾燥して物品表面に形成されるコーティング膜103の親水性や密着性を向上させる観点から、物品表面に予め、コロナ処理、UV処理等の前処理を施してもよい。この実施の形態のコーティング組成物200は、シリカ微粒子101が乾燥のみで固化するため、加熱などを必要せずに、フッ素樹脂粒子102をコーティング膜103の表面に露出させることが可能となる。
【実施例】
【0108】
以下、具体的な実施例を示すことにより、この実施の形態のコーティング組成物200の詳細な実験結果および特性を説明する。なお、以下に示す実施例が、この実施の形態の範囲を限定するものではない。コーティングして表面にコーティング膜を形成する試験対象としては、フィルタ用のPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維を使用している。
【0109】
実施例1〜7.
実施例1〜7では、純水に平均粒径6nmのシリカ微粒子を分散したコロイダルシリカ(触媒化成工業株式会社製、pH10)と、平均粒径150nmのフッ素樹脂粒子を純水に分散したPTFEディスパージョン(旭硝子株式会社製、pH10)とを撹拌混合した後、非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエステル)をさらに加えて撹拌混合することにより、図9に示す組成を有するコーティング組成物を調合した。コーティング組成物中の非イオン系界面活性剤の含有量は、0.05重量%であった。これらで試験片の表面をコーティングした。また、最適なシリカ微粒子とフッ素樹脂粒子の重量比を見つけるために、シリカ微粒子とフッ素樹脂粒子の重量比を30:70〜100:0の範囲で変化させた。
【0110】
比較例1〜4.
比較例1では、従来から空気調和機100に用いられるコーティング無しのPETフィルタであり、シリカもフッ素も含まない。比較例2では、金属ステンレスコーティングをスパッタ法によりフィルタ表面に施した。比較例3では、フッ素樹脂のみによってフッ素コーティングを施した。比較例4では、実施例6と同様の重量比でありながら、シリカ微粒子のコーティング組成物に対する重量比を高めて、すなわち微粒子の濃度を高くしてコーティング組成物を調合した。図9に詳細を示す。
【0111】
各例のコーティング組成物を試験片に塗布し、エアブローにて余剰液を吹き飛ばす方法にて試験片にコーティング膜を形成し、形成されたコーティング膜の性状、初期接触角θおよび防汚性能をそれぞれ評価した。なお、エアブローは30m/sの流速とした。ここで、コーティング膜の性状は、目視観察により評価した。接触角θは、接触角計(協和界面化学株式会社製DM100)により測定した。防汚性能は、親水性汚損物質である砂塵の固着性、疎水性汚損物質であるカーボン粉塵の固着性を評価した。
【0112】
親水性汚損物質90の固着性評価は、1〜3μmを中心粒径とするJIS関東ローム粉塵をエアーでコーティング表面(コーティング膜)に吹き付けることにより、赤色の関東ローム粉塵の固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、関東ローム粉塵の固着がほとんどないものを1とし、関東ローム粉塵の固着が多いものを5と表記する。また、疎水性汚損物質91の固着性評価は、油系のカーボンブラックをエアーでコーティング表面(コーティング膜)に吹き付けることにより、黒色のカーボンブラックの固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、カーボンブラックの固着がほとんどないものを1とし、カーボンブラックの固着が多いものを5と表記する。その評価結果を図10に示す。
【0113】
図10に示す実験結果から、実施例1〜7のコーティング組成物により形成されたコーティング膜は、いずれも親水性、疎水性の両方の汚損物質に対して優れた防汚性能を示し、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との含有量(重量比率)を調整することにより、形成されるコーティング膜の巨視的な特性(親水性又は疎水性)を調整することができた。本実施の形態のコーティング膜は連続してつながった親水性シリカ膜がベースになっているため、接触角θは総じて低い値を示しているが、ミクロ領域(微視的)では、親水性と疎水性が交互にナノレベルで連続して配置される。また、シリカの割合を多くした場合は疎水性汚損物質91の付着を抑制することができ、フッ素の割合を多くした場合は親水性汚損物質90の付着を抑制できることができる。
【0114】
ただし、フッ素樹脂粒子102の重量比が高い実施例1(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量=30:70)では、疎水性汚損物質91に対する防汚性能がやや劣る傾向があることがわかる。また、シリカ微粒子101のみで形成した実施例7(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量=100:0)では、疎水性汚損物質91に対してのみの防汚効果であり、フッ素樹脂粒子102による微小凹凸が無いために付着面積が広く、全体としての防汚効果はかなり限定されてしまう。
【0115】
実施例1〜7のコーティング組成物200では、厚さが均一で薄いコーティング膜を形成することができた。実施例5は微白濁であったが、それ以外は透明な膜を形成できた。実施例6と比較例4を比べれば、同じシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102の重量比であっても膜の性状は変化することがわかる。シリカ微粒子101の含有量(濃度)が高い(5重量%を超える)場合には、形成されるコーティング膜は、厚さが不均一で白濁してクラックが入りやすく好ましくない。
【0116】
親水性と疎水性の両方の汚損物質に対して防汚性能を両立するものとして、シリカ微粒子101に対するフッ素樹脂粒子102の重量比率が、50:50〜85:15の範囲にある実施例2〜5が特に好ましい。更に詳細には重量比率が75:25である実施例4が最も好ましく、親水性・疎水性の両方の粒子の汚損から効果的にフィルタ40を守れる。シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との含有量(重量比率)を調整することにより、防汚特性の制御が容易である。
【0117】
一方、比較例1の従来から空気調和機100に用いられるコーティング無しのPETフィルタ(PET繊維)では、いずれの汚れも5点と明白に付着して汚損され易い事が示された。絶対値での防汚効果を知るために別途PETフィルムに関東ローム砂塵とカーボンブラックを吹き付けて、光透過度から評価を行った。その結果、実施例4(シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比75:25)は、従来のコーティングを施さない場合に比べて、親水性・疎水性の両性ともに約1/20に付着量を抑制できる。また、比較例1のPET繊維の表面抵抗(体積抵抗率)は約1016Ω・cmと高い値を示すのに対して、実施例1〜7のコーティングの表面抵抗(体積抵抗率)は約1012Ω・cmと低い値を示すため、表面の静電気力が従来のPET繊維比べて低くなり、それだけ付着した汚れは剥がれやすい。これは、本実施の形態のコーティングが巨視的には親水性を示すため、表面のOH基によりイオン伝導が促されて電気が通りやすくなるためである。
【0118】
フィルタ通気体41(PET繊維)への汚れや粘着物の付着を抑制することで、ロール状ブラシ71で掻き取る際に塵埃がフィルタ40から離れにくい不具合や、ロール状ブラシ71がフィルタ40のメッシュに塵埃を押し広げてしまい、フィルタ清掃装置50があるにも関わらずフィルタ40の目が詰まってしまうといった不具合を回避できる。結果として、フィルタ清掃装置50の長期信頼性を得ることができ、長期間常にフィルタ40をきれいな状態に保つことができる。
【0119】
比較例2の金属ステンレスコーティング、比較例3のフッ素樹脂によるフッ素コーティングはいずれも親水性汚れに対しては一定の防汚効果は認められたが、疎水性汚れに対しては汚れ度合いが高かった。これら疎水性汚損物質91のバインダー効果により、後から通過してくる長い繊維ホコリや糸くずがフィルタ上に付着して離れにくくなる。また、比較例2のステンレスコーティングは、密度が約7〜8g/cm3であるのに対して、実施例1〜7のコーティングの密度は0.2〜0.7g/cm3であるので分子間力が金属コーティングに比べて低くなり、それだけ付着した汚れは剥がれやすい。
【0120】
最後に、疎水性粒子の代表としてカーボンブラックを用いたが、その他の疎水性汚損物質91である油煙の影響を確認した。焼肉から発する油煙をフィルタ前面風速1m/sに設定して20cm角の風洞に設置した実施例4のフィルタ40および比較例1〜3の従来のフィルタ40に通して油煙付着具合を目視ならびに顕微鏡にて観察した。各フィルタ40は1辺0.6mmとした。その後、フィルタ40のメッシュサイズより小さな0.5mm以下の繊維ホコリを通した。その結果、実施例4では明白にホコリの付着量が少なく、油煙の付着が抑制されたことが示された。これは、疎水性粒子の付着面積が少ない効果に加えて、膜が低密度なために例え油煙が付着してもコーティング内部に吸収されるので表面に油煙が残らないためである。また、時間が経過するとホコリが剥がれ落ちる効果も確認された。一方、比較例2〜4の従来のフィルタ40では、フィルタ繊維に油煙付着が明白に確認され、繊維ホコリの補足率が向上してホコリは時間が経ってもフィルタ繊維から剥がれ難かった。
【0121】
これまで、フィルタ40に対してコーティングした場合の効果を示してきたが、ロール状ブラシ71も同様にホコリが付着して絡まり異常動作に発展するリスクはある。本実施の形態で示した、コーティング組成物200はフィルタ40だけでなく、ロール状ブラシ71に施しても同様に防汚効果があり、フィルタ40を自動で清掃するフィルタ清掃装置50を有した空気調和機100の長期信頼性の向上ができる。
【0122】
以上説明してきたように、本実施の形態に係るフィルタ清掃装置50は、フィルタ40に捕捉された塵埃を除去する塵埃除去部70を有し、フィルタ40表面のコーティング組成物200は、シリカ微粒子101と、フッ素樹脂粒子102とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きく、シリカ膜104の平均膜厚はフッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さいことを特徴としている。それにより、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、低い分子間力と低い静電気力によって良好な剥離性を呈する効果があり、フィルタ清掃装置50によるホコリの押し広げ、除去残しを低減して、フィルタ40の目詰まりを防止するものである。その結果、風量の低下を抑制して、冷暖房能力の低下や暖房気流の床到達不足、暖房気流の舞い上がり、冷房気流の垂れによる不快感、吹出し近傍での逆吸い込みによる異音の発生、電気代の悪化など様々な悪影響を未然に防止するものである。
【0123】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、フィルタ清掃装置50を備えた空気調和機100を例に説明したが、フィルタ清掃装置50を持たない空気調和機100のフィルタ40の表面に、実施の形態1と同様のコーティング組成物200をコーティングしてもよく、コーティング組成物200が親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して優れた防汚性能を発揮して、フィルタ40の目詰まりを防止することができる。
【0124】
図11、図12は実施の形態2を示す図で、図11は空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図、図12はフィルタ40を模式的に示す斜視図である。
【0125】
図11に示す空気調和機100は、フィルタ40を自動で清掃するフィルタ清掃装置50を持たない。フィルタ40の清掃は、空気調和機100の使用者がフィルタ40を空気調和機100から取り出して行う。
【0126】
空気調和機100の使用者がフィルタ40を空気調和機100から取り出すには、前面扉12を開放してフィルタ40を下縁47側から引き出すことで行う。
【0127】
図12に示すフィルタ40は、空気調和機100がフィルタ清掃装置50を持たないため、図2に示すフィルタ従動歯車を備えていない。
【0128】
また、フィルタ40は、上縁46から下縁47までの長さが図2に示すフィルタ40よりも長くなっている。その長さは、フィルタ40が熱交換器30の上面と前面とを略覆う。
【0129】
上記実施の形態1と同様に、フィルタ40表面にコーティング組成物200をコーティングする。コーティング組成物200は、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102とを含有し、コーティング膜がシリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きく、シリカ膜104の平均膜厚はフッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さいものである。
【0130】
フィルタ40表面に、上記コーティング組成物200をコーティングすることにより、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して優れた防汚性能を発揮するので、フィルタ40の目詰まりを防止することができる。
【0131】
そのため、空気調和機100の使用者がフィルタ40を空気調和機100から取り出して行うフィルタ40の清掃の頻度が、従来のフィルタ40にコーティング組成物200をコーティングしない空気調和機100に比べて大幅に減る。
【0132】
また、空気調和機100の使用者が行うフィルタ40の清掃は、フィルタ40の表面にコーティングされているコーティング組成物200が、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して低い分子間力と低い静電気力によって良好な剥離性を呈する効果があるため、従来のコーティング組成物200をコーティングしてないフィルタ40に比べはるかに容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図。
【図2】図1のフィルタ40を模式的に示す斜視図。
【図3】実施の形態1を示す図で、フィルタ通気体41の詳細図。
【図4】実施の形態1を示す図で、フィルタ40の目詰まりと電気代悪化度の関係図。
【図5】実施の形態1を示す図で、塵埃除去部70を模式的に示す斜視図。
【図6】実施の形態1を示す図で、コーティング組成物200がフィルタ40表面にコーティングされ、コーティング膜が形成された状態の断面を示す概念図。
【図7】実施の形態1を示す図で、コーティング組成物200によるコーティング膜103の部分のみを示した概念図。
【図8】実施の形態1を示す図で、コーティング膜103の上面を見た概念図。
【図9】実施例1〜7及び比較例1〜4のコーティングの組成を示す図。
【図10】実施例1〜7及び比較例1〜4のコーティング膜の性状、初期接触角θおよび防汚性能をそれぞれ評価した結果を示す図。
【図11】実施の形態2を示す図で、空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図。
【図12】実施の形態2を示す図で、フィルタ40を模式的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0134】
10 筐体、11 吸込口、12 前面扉、13 ノズル、14 吹出口、15 後面ガイド板、16 壁取付部、17 円弧状移動径路、20 送風ファン、30 熱交換器、31 伝熱管、32 放熱フィン、40 フィルタ、41 フィルタ通気体、42 フィルタ枠体、43 外枠、44 補強桟、45 フィルタ従動歯車、46 上縁、47 下縁、50 フィルタ清掃装置、60 フィルタ移動部、61 フィルタ駆動歯車、62 フィルタ駆動軸、64 フィルタ移動部本体、70 塵埃除去部、71 ロール状ブラシ、72 ロール状ブラシ駆動軸、73 ロール状ブラシ回転入力歯車、74 塵埃除去部本体、75 軸支持突起、80 塵埃回収部、81 掻き落し板、82 付勢手段、83 集塵箱、90 親水性汚損物質、91 疎水性汚損物質、100 空気調和機、101 シリカ微粒子、102 フッ素樹脂粒子、103 コーティング膜、104 シリカ膜、107 フィルタ繊維、200 コーティング組成物。
【技術分野】
【0001】
この発明は、通過する空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタ、及びそのフィルタを使用する空気調和機、及びそのフィルタとフィルタに捕捉された塵埃を自動で除去するフィルタ清掃装置を有する空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機には、通過する空気と冷凍サイクルを循環する冷媒との熱交換を行う熱交換器が設けられている。熱交換器は、互いが平行となるように配列された複数の薄板状の金属製フィンと、それらのフィンを貫通しながら複数列を成して挿設される金属製の冷媒配管により構成されている。フィンの素材としてはアルミニウムが多く使用され、冷媒配管には、銅パイプが主として用いられる。
【0003】
熱交換器のフィン先端やフィン間へ埃や糸くずがひっかかることにより、ここを通過する空気が目詰まりすることを抑制するために、熱交換器の前面(上流側)にはフィルタが備えられている。従来のフィルタのメンテナンス方法は、2週間に1回程度の頻度で水洗い等の手動清掃を行っていた。近年では、フィルタ掃除の手間を省くために、空気調和機内部に一定期間ごとにフィルタを自動で清掃する機構が備えられている。自動清掃の方法としては、起毛素材の布ブラシ、ワイヤーブラシ、繊維ブラシ、シリコンや粘着式テープなどによって汚れを掻き取る方法、または吸引ファンによって吸い取る方法が使用されている。
【0004】
フィルタの表面には、比較的長い糸くずはもちろん、親水性の砂塵や黄砂、疎水性の油煙や煙草のヤニ、垢、人の皮脂等様々な汚れが捕捉される。フィルタの表面についた汚れをブラシで掻き取る際、繊維埃のみであれば問題はないが、細かな垢や皮脂、砂塵、油分がフィルタに付着するために、これらがバインダー(結合材)として働き、ブラシで繊維埃による汚れさえも掻き取りにくくなる。最悪の場合、汚れが掻き取れないばかりか汚れを押し広げてしまい、フィルタの目を埋めてしまう。フィルタの目が埋まると、フィルタを通過する風量(空気流量)および風到達力が下がると共に、そのために熱交換器での熱交換量が減ってしまい、冷暖房能力が低下してしまう。手動で水洗いする分には落とせる汚れも、自動清掃機構においては、このようなミクロンオーダーの細かな汚れは落としにくいため、問題が顕著となる。
【0005】
そのため、フィルタ汚損を抑制する方法が各種提案されている。例えば、表面エネルギーの低いフッ素化合物をフィルタの表面にコーティングすることで、付着した汚れを剥離しやすくするものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、スパッタリングにより、フィルタ表面にステンレスの金属皮膜を形成して、表面の平滑性によって汚れを剥離しやすくするものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、フィルタ表面に光触媒を含有させることで、水を使って容易に洗い流せる自浄効果を付与しているものもある(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−136062号公報
【特許文献2】特開2007−105645号公報
【特許文献3】特開平9−75633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に示されるフッ素化合物をコーティングしたフィルタは、表面エネルギーの低さにより汚れの付着力が低くなって汚れを剥がしやすい効果はある。しかし、フッ素自体は疎水性(水に対する親和性が低い、すなわち水に溶解しにくい、あるいは水と混ざりにくい物質または分子(の一部分)の性質のこと)のため、疎水性粒子や疎水性ガスは逆に付着しやすく、油煙やタバコ環境負荷が高い場所では、より汚れやすくなるケースが多い。これらが多量に付着して固着してしまった場合には、例えフッ素化合物の効果があってもブラシによる自動清掃は困難である。
【0009】
また、上記特許文献2に示される金属ステンレスを表面にスパッリングしたフィルタは、表面の平滑性が増すために汚れの物理的ひっかかりが抑制できて、剥離しやすいとしている。しかし、従来の樹脂に比べれば汚れがつきにくく剥離しやすいものの、ステンレス自体は疎水性であって付着面積も広いため、疎水性の汚れはよく付着してしまう。また、後述する本発明のコーティングに比べた場合、表面の密度が高いため、汚れ粒子との分子間力が高くなり汚れがとりにくい。
【0010】
また、上記特許文献3に示されるフィルタ表面に光触媒を含有させたフィルタは、光触媒性酸化物へ光を照射することにより生じる光励起によって部分的に親水性を呈するようにするものであり、光照射が十分でない場合には良好な防汚性能が得られないという課題があった。特に通常の空気調和機環境下ではフィルタは外殻に覆われてしまうため、充分な光を得ることは困難である。更には、水を使って容易に洗い流せる自浄効果があっても、自動清掃用フィルタへ適用する場合は、水が無いために洗い流せない。
【0011】
当然ながら、コーティングを施していない従来のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルタによる自動清掃機構においては、親水性の砂塵や黄砂、疎水性の油煙や煙草のヤニ、垢、皮脂等、親水性と疎水性両方の汚れが満遍なく付着していく。径が0.1〜5.0ミリメートルほどある繊維ホコリと違って、細かな垢や皮脂、砂塵、油滴は数ミクロンメートルしかない。これらがフィルタに付着するために、バインダーとして働く結果、ブラシで汚れが掻き取りにくくなったり、汚れを押し広げてしまったりして、フィルタ目詰まりを起こしてしまう危険がある。
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、親水性、疎水性を問わず、あらゆる汚れに対して防汚性能を発揮して、汚れの付着抑制および剥離性が向上するフィルタ用コーティングを施したフィルタ、及びそのフィルタを使用する空気調和機、及びそのフィルタとフィルタに捕捉された塵埃を自動で除去するフィルタ清掃装置を有する空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るフィルタは、
フィルタ枠体と、
フィルタ枠体に設置される網状体のフィルタ通気体と、
フィルタ通気体の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係るフィルタは、フィルタ通気体の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたことにより、親水性汚損物質と疎水性汚損物質の両方に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、低い分子間力と低い静電気力によって良好な剥離性を呈する効果があり、フィルタの目詰まりを防止する効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態に係るフィルタ清掃装置およびフィルタについて、図面に基づいて説明する。なお、以下の各図において、同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0016】
実施の形態1.
本実施の形態は、フィルタ表面に好適なコーティング組成物(親水性を示すシリカ膜に疎水性を示すフッ素樹脂粒子が適度に分散して点在するもの)をコーティングすることにより、フィルタの目詰まりを防止する点に特徴がある。
【0017】
フィルタ表面に好適な上記コーティング組成物をコーティングしたフィルタについて説明する前に、そのフィルタを使用する装置の一例である空気調和機について説明する。以下に説明する空気調和機は、フィルタ表面に好適な上記コーティング組成物をコーティングしたフィルタと、そのフィルタに捕捉された塵埃を自動で除去するフィルタ清掃装置を有する空気調和機である。
【0018】
図1は実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図である。図1において、空気調和機100は、筐体10と、筐体10内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファン20と、送風ファン20が形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷媒(冷凍サイクルに封入される)とが熱交換を行う熱交換器30と、吸引した空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタ40と、フィルタ40を清掃するフィルタ清掃装置50と、を有している。以下、各構成部材について個別に説明する。
【0019】
筐体10は、両端面(図示しない)が塞がれた筒状であって、天面(図中、上側)の一部が開口し、該開口部が空気を吸い込む吸込口11を形成し、地面(図中、下側)の一部が開口し、吸込口11から吸い込んだ空気を吹き出す吹出口14を形成している。そして、前面(図中、左側)は開口し、該開口部を開閉する前面扉12が設置されている。なお、後面(図中、右側)は塞がれ、筐体10を壁等に取り付けるための、壁取付部16が上部に形成されている。
【0020】
そして、筐体10の内部において、後面寄りで天面近くの「位置A」と前面寄りで地面近くの「位置B」とを結ぶ側面視で断面が円弧状の範囲は、特別の部材が設置されていない空間として用意され、該空間がフィルタ40の移動径路となる円弧状移動径路17になっている。
【0021】
送風ファン20は、筐体10の側面視で略中央部に配置される。送風ファン20は、吸込口11から吹出口14間に形成される風路に配置される。送風ファン20と吹出口14との間の吹出側風路の前後は、ノズル13と後面ガイド板15とにより形成されている。
【0022】
熱交換器30は、吸込口11と送風ファン20との間に配置され、吸い込まれた空気を調和(冷却、加熱、加湿、除湿等)する。図中、熱交換器30は送風ファン20の天面側および前面側を取り囲むように配置されているが、本実施の形態は該配置形態に限定するものではない。また、熱交換器30は、伝熱管31と、伝熱管31が挿通する放熱フィン32とを備える。
【0023】
図2は、図1に示すフィルタ40を模式的に示す斜視図である。図1および図2において、フィルタ40は、網状体のフィルタ通気体41と、フィルタ通気体41が設置されたフィルタ枠体42とから形成されている。フィルタ枠体42は略円筒の一部を形成し(断面円弧状)、円弧状に成形する前は矩形状の外枠43と、外枠43の対向する辺を連結する補強桟44とから形成される。補強桟44の内面に内歯車からなるフィルタ従動歯車45が形成されている。
【0024】
なお、フィルタ40は、円弧状移動径路17に沿って、その上縁46が位置Aに到達し、その下縁47が位置Bに到達する範囲を往復移動するものであって、フィルタ枠体42(フィルタ40に同じ)の断面円弧の曲率半径は、円弧状移動径路17の曲率半径と略等しい。すなわち、フィルタ40は曲率半径が変わることなく往復移動するから、フィルタ40を簡素な装置によって移動させることができるだけでなく、フィルタ40自体の劣化が防止されて寿命延長が図られる。
【0025】
図3は、フィルタ通気体41の詳細図である。フィルタ通気体41は、PET(ポリエチレンテレフタレート)を材料とした縦糸と横糸によって織られている。また、ロール状ブラシ71によって塵埃を掻き取る際に、ブラシがきれいに接して効率よく塵埃が除去できるように、凹凸のない平織り形状をしている。メッシュ(網目)の形状は四角形状であり、横糸と縦糸の総数は、1メッシュあたりの捕集効率を上げるために、1インチ*1インチ当たり少なくとも40本以上に設定している(1メッシュの1辺は約0.6mm)。横糸と縦糸の数は、同数であっても、一方が他方より多くてもよい。糸の太さ(線径)は圧力損失と強度から決定され、およそ20〜100d(デニール)である。本実施の形態は、網目が四角形状の平織りフィルタを対象としているが、これに限定するものではなく、網目の形状が六角形状や三角形状であってもよく、また。平織りではなく立体織りであっても問題なく適用できる。
【0026】
フィルタ通気体41は、物理的捕集によって主に熱交換器30への埃の堆積を防止する役目を有しており、集塵対象物の長さは空気中を飛散する0.1mm〜10mm程度の塵埃であり、一般的には繊維状の糸くず92が多い。ところが、空気中には親水性汚損物質90の砂塵や黄砂、疎水性汚損物質91の油煙やヤニ、人の垢や皮脂など様々な汚れが飛散しており、これらは大きさが数ミクロンメートルと非常に小さいにも関わらず、フィルタ繊維上に付着してしまう。特に垢のように粘着性の汚れがついてしまうと、この上についた埃はフィルタ40から剥がれ難くなり、ロール状ブラシ71で擦っても除去し難い。加えて、このような汚れは、カビや菌の栄養分になるため、室内が高湿度環境に曝される場合には、菌糸がフィルタ40上で成長して強固な目詰まりを起こしてしまう。フィルタ40の目詰まりは、通常の設定された送風ファン20(クロスフローファン)の回転数では空気が通りにくくなるため、冷暖房能力の低下や暖房気流の床到達不足、暖房気流の舞い上がり、冷房気流の垂れによる不快感、吹出し近傍での逆吸い込みによる異音の発生、電気代の悪化など様々な悪影響を及ぼす。図4に目詰まりを起こしたフィルタ40による電気代の悪化率を示す。フィルタ40の圧力損失増加に従って、同一能力比較での電気代は10〜20%程度悪化する。
【0027】
図1において、フィルタ清掃装置50は、フィルタ40を移動させるフィルタ移動部60と、フィルタ40のフィルタ通気体41に当接し、これに捕捉された塵埃を除去する塵埃除去部70と、塵埃除去部70によって除去された塵埃を回収する塵埃回収部80と、を有している。
【0028】
図1において、フィルタ移動部60は、フィルタ従動歯車45に噛み合うフィルタ駆動歯車61と、フィルタ駆動歯車61が略中央に固定されたフィルタ駆動軸62と、フィルタ駆動軸62の一方の端部に固定されたフィルタ回転入力歯車(図示せず)と、フィルタ駆動軸62を回転自在に支持するフィルタ移動部本体64を具備している。
【0029】
また、フィルタ移動部本体64には、フィルタ駆動軸62と平行にフィルタ押さえ軸65が設置され、フィルタ押さえ軸65は、フィルタ従動歯車45にフィルタ駆動歯車61が噛み合ってフィルタ40が移動される際、該噛み合いが外れないようにしている。なお、フィルタ押さえ軸65は回転自在な断面円形でも、固定された断面矩形でもよい。
【0030】
図5は、図1に示す塵埃除去部70を模式的に示す斜視図である。図1および図5において、塵埃除去部70は、フィルタ40のフィルタ通気体41の外面に当接して回転するロール状ブラシ71と、ロール状ブラシ71が固定されたロール状ブラシ駆動軸72と、ロール状ブラシ駆動軸72の一方の端部に固定されたロール状ブラシ回転入力歯車73と、ロール状ブラシ駆動軸72を回転自在に支持する塵埃除去部本体74を具備している。
【0031】
なお、塵埃除去部本体74の一方の端面には円筒状の軸貫通突起(図示せず)が形成され、該軸貫通突起をロール状ブラシ駆動軸72が貫通し、他方の端面には円筒状(端部が閉塞されたコップ状を呈している)の軸支持突起75が形成され、軸支持突起75の内部においてロール状ブラシ駆動軸72の端部が支持されている。そして、ロール状ブラシ71は回転または停止され、フィルタ40上の汚れを掻きあげて塵埃を除去する。
【0032】
なお、以上は、塵埃除去部70として回転駆動されるロール状ブラシ71を示しているが、本実施の形態はこれに限定されるものではなく、ロール状ブラシ71に替えて、ブラシに繊維を植えこんだワイヤーブラシを設置してもよい。また、ワイヤーブラシを固定しないで前後に動かして、フィルタ40上の塵埃を掃きとってもよい。ワイヤーの長さや材質、フィルタ40との距離を調整することで、フィルタ40への押し当て力を変化することができる。また、シリコンパッドのような部材でフィルタ40上を擦っても良い。
【0033】
ロール状ブラシ71の方がフィルタ40に密接することができるが、フィルタ40上の塵埃が剥がれ難い場合は、塵埃を押し広げてしまったり、塵埃がフィルタ40に残ってしまったりするリスクが高い。また、ロール状ブラシ71全体にフィルタ40の汚れが移動した後、ロール状ブラシ71自体の接触面積が大きいためロール状ブラシ71に汚れが堆積するリスクもある。一方、ワイヤーブラシの場合はフィルタ40にあたる部分が少なく、フィルタ40とワイヤーブラシの距離ばらつきによって押し当て力が変化するため、汚れが剥がれにくい場合には除去力が著しく低下するリスクがある。
【0034】
図1において、塵埃回収部80は、ロール状ブラシ71に当接して捕捉された塵埃を掻き落とす掻き落し板81と、掻き落し板81をロール状ブラシ71の押し当てるための掻き落し付勢手段82と、掻き落し板81によって掻き落とされた塵埃を溜める集塵箱83と、を具備している。
【0035】
塵埃除去部70の塵埃除去部本体74が、塵埃回収部80の集塵箱83の「開閉蓋」として機能するから、塵埃除去部本体74を集塵箱83に合わせると、塵埃除去部本体74、集塵箱83およびロール状ブラシ71の三者によって、略密閉されたダストボックスが形成される。
【0036】
フィルタ40は下降限にまで移動される。すなわち、フィルタ40は円弧状移動径路17にそって、上縁46が位置Aにあった状態から、下縁47が位置Bに到達するまで移動する。
【0037】
そして、フィルタ40が、正転(図中、反時計回り)するフィルタ駆動歯車61によって移動させられて位置Aから位置Bに向かう「往路」において、ロール状ブラシ71は、フィルタ40の移動方向(図中、略下方向)と同一の方向(図中、時計回り)に回転し、フィルタ通気体41に捕捉された塵埃を除去する。特に、ロール状ブラシ71の周速(Vb)がフィルタ40の移動速度(Vf)よりも遅く(Vb<Vf)なっているから、フィルタ通気体41に捕捉された塵埃は、一旦、ロール状ブラシ71の噛み込み側(図中、天面側)に集められた後、ロール状ブラシ71に付着して噛み出し側(図中、地面側)に運ばれることになる。そして、該付着した塵埃は掻き落し板81によって掻き落とされ、集塵箱83内に回収される。
【0038】
一方、下降限に到達していたフィルタ40は、今度は逆転(図中、時計回り)するフィルタ駆動歯車61によって移動させられ、上昇限にまで戻る(図1参照)。すなわち、上縁46が位置Aに到達する。
【0039】
そして、位置Bから位置Aに向かう「復路」において、ロール状ブラシ71は回転を停止している。したがって、往路において除去されないまま残っていた塵埃が、復路において除去されたとしても、該塵埃は、回転していないロール状ブラシ71の噛み込み側(図中、地面側)に集まるだけで、噛み出し側(図中、天面側)に運ばれることがない。よって、ロール状ブラシ71から除去された塵埃が集塵箱83の外に散逸することはない。
【0040】
フィルタ清掃装置50として、フィルタ通気体41に捕捉された塵埃をロール状ブラシ71で噛み込む方式のものを説明したが、詳細は省くが吸引式のフィルタ清掃装置においても、以下に述べるフィルタ用コーティング組成物がコーティングされたフィルタ40は、有効である。
【0041】
次に、本実施の形態の特徴部分であるフィルタ40の目詰まりを抑制するフィルタ用コーティング組成物について説明する。
【0042】
以下で説明するコーティング組成物200によりコーティングされる物品の実施例として、ここでは空気調和機100に使用されるフィルタ40を用いる。ただし、このコーティング組成物200は、コーティング対象がフィルタ40に限定さるものではなく、他の物品への適用も可能なものである。
【0043】
フィルタ40上の親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、低い分子間力と低い静電気力によって良好な剥離性を呈する効果があり、フィルタ清掃装置50によるホコリの押し広げ、除去残しを低減して、フィルタの目詰まりを防止する効果を得るためのフィルタ用コーティング組成物に関して、図に基づいて説明する。
【0044】
図6はこの実施の形態1のコーティング組成物200が被コーティング物であるフィルタ40のフィルタ通気体41(フィルタ繊維107)にコーティングされ、コーティング膜103が形成された状態での断面を示す説明のための概念図である。図7は図6におけるコーティング組成物200によるコーティング膜103の部分のみを示した概念図である。図8は図6もしくは図7のコーティング膜103の上面を見た概念図である。図6〜8においては、いずれもコーティング組成物200が乾燥されコーティング膜103を形成している状態を示している。
【0045】
この実施の形態1のコーティング組成物200は、乾燥された状態において、シリカ微粒子101から成る親水性を示すシリカ膜104中に疎水性を示すフッ素樹脂粒子102が点在し、シリカ膜104から全部でなく部分的に露出した構成のコーティング膜103が形成されるものである。
【0046】
シリカ(SiO2)は、地殻の約60%を占める珪素の酸化物であり、主として珪砂を原料として化学的に反応させて、多孔質で大きな表面積構造を持つ合成シリカを作り出すことにより各種分野における優れた特性を生み出す。その化学的な安定性と共に広い分野で脚光を浴びている。
【0047】
このコーティング組成物200は、シリカ微粒子101が分散された水(分散液)と、フッ素樹脂粒子102が分散された水(分散液)とを混合することによって得られるもので、コーティング膜103が形成される前は水分中にシリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が分散された液の状態であり、物品表面にその分散液(コーティング溶液)を塗布したり、物品をその分散液中に浸漬させたりした後で、乾燥させ水分を除去することにより、コーティング膜103が物品表面に形成されるものである。コーティング膜103におけるシリカ膜104は、珪素Siと酸素Oの結合が続き、表面にOH基を有する膜となる。
【0048】
なおここでは、図7に示すように、コーティング組成物200により物品表面に形成された被覆層をコーティング膜103と呼ぶ。コーティング膜103は、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が点在するとともに、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出されている状態となっているものである。また、ここでは基本的にコーティング組成物200は、上記した分散液の状態である一般的にコーティング溶液と呼ばれている状態を指すものとする。
【0049】
このコーティング組成物200に用いるシリカ微粒子101の平均粒径(平均粒子径)は、光散乱法により測定した場合、15nm以下、好ましくは4〜12nmのものとする。粒径は光散乱法により測定できる。このように極めて小さい平均粒径を有するシリカ微粒子101は、水に分散したコーティング溶液の状態では、水と接している全表面部分が平衡して水に半ば溶解した状態になっており(接する表面部分が水とシリカの中間的性質の物質となっており)、コーティング組成物200が乾燥されると、この半ば溶解した状態のシリカ成分が、シリカ微粒子101同士をつなぐバインダー(粒子を固める結合剤)として働くため、特別なバインダーを添加しなくとも、乾燥後にはシリカ微粒子101同士が凝集し固化し易くなる。そのため、クラックが入りにくいなど強度的に優れたシリカ膜104、ひいてはコーティング膜103を得ることができる。
【0050】
平均粒径が4〜15nmの範囲内にあるシリカ微粒子101では、1つのシリカ微粒子101について、シリカ微粒子101重量のおおよそ15〜30%の重量に相当する表面部分が、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態となっている。しかし、平均粒径が15nmを超えるシリカ粒子の場合、平均粒径が大きくなるほど、シリカ微粒子101の重量に対するコーティング溶液における水に半ば溶解した状態のシリカ成分の重量は少なくなり、バインダーとしての作用が得られなくなってくるため、形成されるコーティング膜103が十分な強度を有さず、クラックが入り易いなどコーティング膜としては好ましくない。そのため、別途バインダーを添加する必要が生じてくる。
【0051】
逆に、平均粒径が4nm未満のシリカ微粒子101の場合では、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態のシリカ成分の割合が高くなりすぎて、コーティング溶液中でシリカ微粒子101同士が凝集してしまうなど、コーティング組成物200としての安定性が得られなくなる。また、乾燥後に形成されるシリカ膜104(コーティング膜103)の強度や後述する防汚性能も所望のものが得られなくなる。
【0052】
また、シリカ微粒子101の粒径は、形成されるコーティング膜103の透明性等の外観特性にも影響を与える。平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子101であれば、コーティング膜103により反射する光の散乱が小さくなるため、コーティング膜103の透明性が向上し、被コーティング物の色調や風合いの変化を抑え、被コーティング物の色調や風合いを損なわないようにすることができる。
【0053】
また、シリカ微粒子101として、平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子101を使用することで、得られるコーティング膜103中のシリカ膜104が、緻密ではありながらシリカ微粒子101間に微細な空隙を有するものとなる。シリケートやゾルゲル法等で形成する微粒子を用いない従来から使用されている一般的なシリカ膜や、可溶性の有機や無機物からなるバインダーが添加されたシリカ膜と比較して、シリカ膜104は、薄く形成でき、またシリカ粒子によるシリカ膜104表面の凹凸を小さくして平滑に形成することができるので、汚損物質が引っ掛かったりせず、防汚性能が高められる。
【0054】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の含有量は、コーティング組成物200に対して0.1〜5重量%としており、好ましくは0.3〜2.5重量%とする。この範囲の含有量(濃度)のコーティング組成物200を用い、浸漬やかけ塗り等で被コーティング物(例えば、熱交換器30)の表面に液膜を形成し、余剰のコーティング溶液を流し去ったり、強制的に排除したりして乾燥させる方法でコーティングを行うと、形成されるコーティング膜103の厚さは50〜500nm程度となり、シリカ膜104が凹凸のない均一な厚さとすることができ、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことがないコーティング膜103を形成することができる。
【0055】
シリカ微粒子101の含有量が0.1重量%未満であると、シリカ膜104が薄くなりすぎて部分的な欠損が生じ、被コーティング物の表面にコーティングできていない部分が発生してしまうといった不具合が起こることがあり、コーティング組成物200としては適さないものとなってしまう。
【0056】
一方、シリカ微粒子101の含有量が5重量%を超えると、シリカ膜104が厚くなりすぎて白濁膜となってしまい、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことになる。また、シリカ微粒子101自体の重量割合が大きいため、上記したコーティング溶液中の半ば水に溶解したシリカ成分によるバインダー作用が得難くなり、乾燥後のシリカ微粒子101同士の固化状態が弱くなって、シリカ膜104にクラックが入り易くなったり、剥離し易くなったりと強度的に劣るようになる。
【0057】
次に、このコーティング組成物200に用いられるフッ素樹脂粒子102について説明する。コーティング膜103において、シリカ膜104中に点在し、シリカ膜104から全部でなく部分的に露出しているフッ素樹脂粒子102の平均粒径(平均粒子径)は、50〜500nm、好ましくは100〜250nmであるものを用いる。粒径の測定は、光散乱法により可能である。このような範囲の粒径のものを使用することで、シリカ膜104の厚さよりも大きい粒径となり、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散し易く、コーティング膜103の表面に(シリカ膜104表面から)フッ素樹脂粒子102の部分的な露出がされ易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られるようになる。
【0058】
かかる平均粒径が50nm未満のフッ素樹脂粒子102であると、コーティング溶液において、フッ素樹脂粒子102同士が凝集、合一してしまうなど性状の安定性が得られなくなる。また形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から露出し難くなり、後述する防汚性能が得られないことにもなる。
【0059】
一方、平均粒径が500nmを超えるフッ素樹脂粒子102であると、形成されるコーティング膜103において、シリカ膜104の表面から露出するフッ素樹脂粒子102部分が大きくなる。そのようになると、コーティング膜103の表面に疎水性を示す部分の領域が大きくなりすぎ、後述する防汚性能が得られないことになる。またコーティング膜103表面の凹凸が大きくなりすぎ、汚損物質(汚れ)が引っかかり易くなって、付着した汚損物質が除去され難くなる。
【0060】
このコーティング組成物200が乾燥して被コーティング物の表面に形成されるコーティング膜103において、シリカ膜104の厚さは、フッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さいものである。シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも薄く管理することで、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散して点在し、シリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出し易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られる。
【0061】
例えば、平均粒径が150nmのフッ素樹脂粒子102を使用する場合では、シリカ膜104の厚さを100nm未満に管理する。すなわち、シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の平均粒径の2/3未満とするのである。このように、シリカ膜104を100nmより薄い薄膜に形成するためには、被コーティング物の表面でシリカ微粒子101が固化する以前に、強い気流で被コーティング物の表面のコーティング溶液をブローするとよい。このときのブロー速度やブロー時間、ブロー温度などの因子を調整することにより、シリカ膜104の厚さを管理することが可能となる。
【0062】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比(シリカ微粒子101の重量 フッ素樹脂粒子102の重量)は、50:50〜95:5としており、好ましくは75:25とする。このような範囲の重量比であれば、シリカ微粒子101(シリカ膜104)による親水性領域と、フッ素樹脂粒子102による疎水性領域とがバランスよく混在するコーティング膜103が常温での乾燥により得られる。この親水性領域と疎水性領域のバランスがよいことが、後述する防汚性能に影響する。
【0063】
ただし、シリカ微粒子101のみを用いて純粋なシリカ膜104を形成した場合にも、防汚効果はかなり制限されるものの、油煙のような疎水性粒子を遠ざける効果および表面の静電気力や分子間力を低下させる効果を有し、コーティングを施さない場合に比べて、汚れ耐力が向上する。
【0064】
これより、このコーティング組成物200によって形成されるコーティング膜103による防汚性能(防汚特性)について説明する。汚れとは、物品の表面に汚損物質が付着し、それが除去されずに物品表面に固着してしまうことである。そのため、汚損物質が物品の表面に固着しないようにする、またもし物品表面に汚損物質が付着したとしても、汚損物質が表面に固着することなく表面から容易に除去されることが、物品表面の汚れを防止することとなる。
【0065】
このように、汚損物質が表面に固着し難い特性、また仮に汚損物質が付着したとしても、表面に固着することなく表面から容易に離脱できる(除去される)特性を、「防汚性能」と呼ぶものとする。物品表面をコーティングすることで、物品表面がこの防汚性能に優れた状態にできるコーティング組成物(コーティング膜)を防汚性能が高い、もしくは防汚性能に優れたコーティング組成物(コーティング膜)と表現するものとする。なおここにおいて、付着とは、単純に表面に載っている状態も含めて、その後にその表面から比較的容易に除去できる状態を指し、固着とは、表面から容易には除去できない状態を指すものとして、区別して使用する。
【0066】
汚れを生じさせる汚損物質には、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91がある。親水性汚損物質90は、親水性を示す部分に付着し易く、疎水性を示す部分には付着し難い。そして、疎水性汚損物質91はその逆となる。親水性汚損物質90は、砂塵やホコリ等であり、親水性汚損物質90と物品表面の親水性部分にそれぞれ存在する親水基(OH基)同士による静電的な結合により、もしくは、親水性汚損物質90と物品表面の親水性部分が近接することによる分子間力により、または、水等の液が介在して液架橋により、物品表面(コーティング膜表面も含む)の親水性部分に付着する。
【0067】
空気中に浮遊している親水性汚損物質90である砂塵は、大きさが数μm〜数十μmの微小な粒子である。また、同じく親水性汚損物質90であるホコリは、砂塵よりはるかに大きなもので、0.1mm〜5mmの大きさがある。このような親水性汚損物質90が、上記のような作用で物品表面の親水性部分に固着するためには、親水性汚損物質90と物品表面の親水性部分とが十分に密着できる(接触できる)だけの親水性部分の面積が存在しなければならない。
【0068】
しかし、この実施の形態のコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性を示すシリカ膜104に疎水性を示すフッ素樹脂粒子102が適度に分散して点在しているため、砂塵をはじめとして親水性汚損物質90が安定して密着できるだけの連続した面積を有するシリカ膜104表面がほとんど存在しない。コーティング膜103の上に付着した親水性汚損物質90は、シリカ膜104から突出(露出)しているフッ素樹脂粒子102の表面の疎水性により、もしくは、突出しているフッ素樹脂粒子102の物理的な阻害により、シリカ膜104の表面とは十分に密着できない。このため、親水性汚損物質90は、容易に離脱してコーティング膜103に固着しない。
【0069】
また、シリカ膜104は、シリカ微粒子101から成るもの(バインダーの役目もシリカ微粒子101のシリカ成分が担っている)でシリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性の膜であるため密度が小さく、仮に親水性汚損物質90が近接しても、分子間力が小さく親水性汚損物質90を固着させ難い。
【0070】
さらに、シリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性のシリカ膜104であるため、仮に水等による液架橋が生じた場合にも、親水性汚損物質90とシリカ膜104表面間の水が、シリカ膜104の微細な空隙を通して除去され、液架橋が消失されるので、液架橋により親水性汚損物質90が固着することもない。
【0071】
このように、このコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質90に対して、優れた防汚性能を発揮する。
【0072】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で95:5より多くなれば、コーティング膜103におけるシリカ膜104中に点在するフッ素樹脂粒子102の間隔が大きくなり、シリカ膜104に微小な砂塵など大きさが小さい親水性汚損物質90が安定して固着できる面積を有する露出表面部分が出現してしまい、親水性汚損物質90がシリカ膜104表面に固着する可能性が生ずる。コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の量を、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で100:0としても疎水性汚れに対する少量の効果は期待できる。
【0073】
一方で、点在するフッ素樹脂粒子102の間隔が大きく、フッ素樹脂粒子102に遮断されずに連続するシリカ膜104が広いと、シリカ膜104表面の吸湿性が向上することにより、コーティング膜103に帯電する電荷が漏洩し易くなるので、コーティング膜103表面の帯電を効率よく抑制できるという利点がある。物品表面が帯電すると、親水性、疎水性に関係なく空気中の汚損物質である微細な浮遊粒子が静電引力で引きつけられて物品表面に付着し易くなる。
【0074】
このコーティング組成物200では、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比を50:50〜95:5としているので、この範囲のコーティング組成物200で形成されるコーティング膜103のシリカ膜104においては、帯電を抑制できる連続性を有し、すなわちシリカ膜104が電荷を漏洩できる程度の連続する面積を有するような適度な間隔でフッ素樹脂粒子102が点在し、帯電による浮遊粒子(汚損物質)の付着を防ぐ効果がある。コーティング組成物200で物品表面をコーティングし、表面にコーティング膜103を形成することで、静電気に由来する汚れも防止することができるのである。また、フィルタ通気体41からの汚れ剥離性も向上する。
【0075】
コーティング組成物3におけるシリカ微粒子101の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で50:50より少なくなれば、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が点在する間隔が狭くなり、上記のような連続するシリカ膜104による帯電の抑制効果、それにより静電気に由来する汚れが防止できる効果を得難くなり、防汚性能が劣ってくる。
【0076】
もう一つの汚損物質である疎水性汚損物質91は、油煙やカーボン、煙草のヤニ等であり、汚れの原因となるものはこれらの中で微粒子として空気中に浮遊しているものである。その粒子径が5μm以下、多くは0.1〜0.3μmと親水性汚損物質90に比べて小さいものである。疎水性汚損物質91は、親水性を示す表面部分に対しては、表面に親水基や吸着した水分が存在するため、固着し難く、疎水性を示す表面部分には、固着し易い。このような疎水性汚損物質91が、物品表面に固着するのは、疎水性汚損物質91が疎水性を示す表面部分と密着することで生じる分子間力によるためである。
【0077】
このコーティング組成物200において疎水性を示すものは、上記の通り平均粒径が50〜500nmのフッ素樹脂粒子102である。フッ素樹脂粒子102は、物品表面で形成されるコーティング膜103においては、変形や合一により、単体の粒径よりも大きくなることも起こり得るが、汚れの原因となる疎水性汚損物質91の大きさと比べて同等か小さく、疎水性を示す表面部分を有するフッ素樹脂粒子102には、疎水性汚損物質91が、十分に密着できる面積が存在しない場合が多い。
【0078】
このような場合、互いに固着させるような分子間力が作用せず、疎水性汚損物質91は疎水性を示すフッ素樹脂粒子102に対して固着し難くなる。当然、疎水性汚損物質91は親水性を示すシリカ膜104には固着しないので、コーティング膜103は疎水性汚損物質に対しても高い防汚性能を発揮する。
【0079】
上記のようなフッ素樹脂粒子102の大きさ(粒径)が、疎水性汚損物質91の大きさに比べて同等か小さいことにより、疎水性汚損物質91がコーティング膜103のフッ素樹脂粒子102に十分に密着できずに固着に到る分子間力が作用しない、ということだけでは、疎水性汚損物質91が部分的にフッ素樹脂粒子102に密着し、分子間力の作用により部分的には固着する可能性がある。また、疎水性汚損物質91の方がフッ素樹脂粒子102よりも小さい場合もあり、互いが十分に密着できる面積がフッ素樹脂粒子102に存在することも起こり得る。
【0080】
しかし、このコーティング膜103は、上記以外にも疎水性汚損物質91をフッ素樹脂粒子102に固着させない他の作用を有しており、そのような部分的な固着、小さい疎水性汚損物質91の固着さえも起こり難くしている。その作用について、以下に説明する。
【0081】
このコーティング組成物200のフッ素樹脂粒子102は、フッ素樹脂の重合時や水への分散液の状態、およびシリカ微粒子101の分散液と混合されたコーティング溶液の状態において、添加される界面活性剤により表面が親水性を示す状態になっている。乾燥されコーティング膜103となった場合には、界面活性剤は剥離して、フッ素樹脂粒子102の表面は疎水性を示すようになるが、コーティング溶液中には、シリカ微粒子101が共存しているため、乾燥後に形成されるコーティング膜103のフッ素樹脂粒子102表面には、フッ素樹脂粒子102より粒径の小さいシリカ微粒子101がまばらに付着した状態になる。
【0082】
このように、フッ素樹脂粒子102の表面に親水基を有する(親水性を示す)シリカ微粒子101が散らばって付着しているために、フッ素樹脂粒子102の表面には疎水性汚損物質91の部分的な固着も、またフッ素樹脂粒子102よりも小さい疎水性汚損物質91の固着も起こり難いのである。フッ素樹脂粒子102の表面に部分的に親水基が導入されることで、フッ素樹脂粒子102と疎水性汚損物質91との密着を抑制する効果が得られるのである。そして、フッ素樹脂粒子102の表面に疎水性汚損物質91が付着しても、シリカ微粒子101が散らばって付着しているので、その付着は不安定で、容易に離脱できる。
【0083】
一方で、そのようにシリカ微粒子101がまばらに付着しているフッ素樹脂粒子102の表面であっても、シリカ微粒子101の大きさに比べるとはるかに大きい親水性汚損物質90に対しては、十分な疎水性としての効果を発揮し、親水性汚損物質90がフッ素樹脂粒子102の表面に固着することはない。また、フッ素樹脂粒子102は、柔軟な表面を有しているのだが、このようにシリカ微粒子101がまばらに付着することで、フッ素樹脂粒子102の表面が硬くなり、疎水性汚損物質5が密着し難くなる効果も得られる。
【0084】
また、フッ素樹脂自体が、従来からフッ素樹脂コーティングで知られているように、非常に表面エネルギーが小さく摩擦係数が低いため、疎水性を示すばかりでなく、撥油性も有しており、他の疎水性を示す樹脂に比べて、疎水性汚損物質91の固着が起こり難い性質を備えている。その点も、疎水性汚損物質91がフッ素樹脂粒子102に固着しない作用効果の一つである。
【0085】
このように、このコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、疎水性汚損物質91に対しても、優れた防汚性能を発揮する。
【0086】
コーティング組成物200におけるフッ素樹脂粒子102の量が、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比で50:50より多くなると、コーティング膜103において露出するフッ素樹脂粒子102の疎水性を呈する部分の表面積が大きくなりすぎ、疎水性汚損物質91のコーティング膜103への固着が増す傾向が見られるようになる。そして、多数のフッ素樹脂粒子102の存在により、それらの一部が合一するなどして、コーティング膜103が白濁して、被コーティング物の表面の色調や風合いを損なうようになる。また、フッ素樹脂粒子102が合一すると、シリカ膜104の連続性が阻害されることにもなる。
【0087】
なお、シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102に粒径よりも大きく(厚く)した場合には、新水性を呈するシリカ膜104がコーティング膜103の表面として広く露出することになり、親水性汚損物質90に対する防汚性能が劣る。さらに、フッ素樹脂粒子102のシリカ膜104中への分散が阻害され、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104から分離してシリカ膜104表面に析出し、フッ素樹脂粒子102同士が合一して塊となってしまい、その部分で局所的に新水性が悪化したり、疎水性汚損物質91が固着したりすることが起こり得る。そのため、上記したようにシリカ膜104の厚さは、フッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さく(薄く)して、フッ素樹脂粒子102が、シリカ膜104中に適度に分散され、それぞれのフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104から全部ではなく部分的に露出できるようにする。
【0088】
このコーティング組成物200におけるフッ素樹脂粒子102としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体),PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等や、これらの共重合体もしくは混合物、またはこれらに他の樹脂を混合したものが使用できる。
【0089】
フッ素樹脂粒子102は、コーティング組成物200が製造される前に水に分散した分散液の状態である必要がある。分散させる方法は、懸濁重合や乳化重合により重合したフッ素樹脂粒子102を用い、界面活性剤を利用することで可能となる。水に分散した状態においては、フッ素樹脂粒子102の表面は疎水性が低い状態となっているが、これらが乾燥され固形物(コーティング膜103)となった状態にて、表面が疎水性を示すようになればよい。使用するフッ素樹脂としては上記の中で特に、PTFEとFEPが、分散液やコーティング溶液において凝集しないといった安定性に優れている点、また乾燥されコーティング膜103となった時の疎水性が高い点から好ましい。
【0090】
以上のように、このコーティング組成物200により物品表面に形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方とも固着させず、また付着しても容易に離脱させることができるので、優れた防汚性能と剥離性を発揮して、コーティングされたフィルタ表面の汚れを防止することができる。後述する実施例(実験結果)においても、この実施の形態によるコーティング組成物200の防汚性能が優れていることが証明されている。
【0091】
この実施の形態のコーティング組成物200の製造方法は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子101の分散液と、フッ素樹脂粒子102の分散液と、を混合することによって容易に製造することができる。ここで、シリカ微粒子101の分散液は、15nm以下の平均粒径を有するシリカ微粒子101が水に分散されたもの、例えば、市販のコロイダルシリカを用いることができる。シリカ微粒子101の分散液では、分散液中のシリカ微粒子101の体積比率が、20%以下であることが好ましい。体積比率が20%を超えると、シリカ微粒子101が凝集するなど分散液の安定性が低下してしまうことがあるためである。
【0092】
また、フッ素樹脂粒子102の分散液は、500nm以下の平均粒径を有するフッ素樹脂粒子102が水に分散されたもの、例えば、PTFEディスパージョンを用いることができる。なお、疎水性のフッ素樹脂粒子102をコーティング組成物200に凝集することなく均一に分散させるために、界面活性剤を加えてもよい。なお、どちらの分散液においても極性溶媒は水に限定されるものではない。
【0093】
それぞれの分散液に使用される水は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が凝集することなく分散して安定するために、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のイオン性不純物が少ないものがよい。2価以上のイオン性不純物が200ppm以下であることが望ましく、より望ましくは50ppm以下である。2価以上のイオン性不純物が多くなると、シリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が凝集して沈殿したり、形成されるコーティング膜103の強度や透明性が低下したりする恐れが生じる。
【0094】
このコーティング組成物200は、有機溶剤を含まないので、安全で環境にやさしいものである。また、上記のように市販されている分散液を混合するだけで製造できるので、容易に低コストで製造できる利点がある。
【0095】
ただし、コーティング組成物200は、疎水性のフッ素樹脂粒子102の安定性確保や、被コーティング物品の材質に応じて、形成されるコーティング膜103の密着性向上やコーティング膜103の親水性の調整を図る観点から、界面活性剤や有機溶剤を添加してもよい。また、コーティング組成物200には、形成されるコーティング膜103の密着性や透明性、強度の向上、さらにはコーティング膜103の親水性の調整目的でカップリング剤やシラン化合物を添加してもよい。
【0096】
ここで、このコーティング組成物200に使用可能な界面活性剤としては、各種のアニオン系又はノニオン系の界面活性剤が挙げられる。かかる界面活性剤の中でも、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックポリマーやポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤等が、起泡性が低く使用し易いので好ましい。
【0097】
また、このコーティング組成物200に使用可能な有機溶剤としては、各種のアルコール系、グリコール系、エステル系、エーテル系等のものが挙げられる。
【0098】
また、このコーティング組成物200に使用可能なカップリング剤としては、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ系、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のメタクリロキシ系やメルカプト系、スルフィド系、ビニル系、ウレイド系等が挙げられる。
【0099】
また、このコーティング組成物200に使用可能なシラン化合物としては、トリフルオロプロピルトリメトキシランやメチルトリクロロシラン等のハロゲン含有物、ジメチルジメトキシシランやメチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有物、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシラザン化合物、メチルメトキシシロキサン等のオリゴマー等が挙げられる。
【0100】
以上の添加剤の含有量は、このコーティング組成物200の防汚性能や初期親水性、長期の親水持続性を損なわない範囲であれば、特に制限されることはなく、選択した添加剤に応じて適宜調整すればよい。
【0101】
この実施の形態のコーティング組成物200の物品表面へのコーティング方法としては、特に制限されることはなく、従来から公知の方法を用いて行うことが可能であるが、コーティング組成物200を被コーティング物品表面に塗付した後、余剰のコーティング組成物200を気流で除去する方法が望ましい。余剰なコーティング組成物200が物品表面に滞留してしまうと、その部分に形成されるコーティング膜103が厚くなり、シリカ膜104にクラックが入り易くなるなど強度が低下したり、白濁して被コーティング物の色調や風合いを損なったりする恐れがある。
【0102】
また、余剰のコーティング組成物200を乾燥させるために、乾燥時間が増加してしまう。乾燥時間の増加は、物品の製造工程上好ましくないだけでなく、乾燥中にフッ素樹脂粒子102が空気界面に集積して、得られるコーティング膜103の疎水性が強くなり、疎水性汚損物質91が固着し易くなって高い防汚特性が得られなくなる恐れが生じる。余剰のコーティング組成物200を気流で除去する方法であれば、余剰のコーティング組成物200を除去するだけでなく、気流により乾燥が促進される効果も得られ、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が適度に点在した良好なコーティング膜103が得られるという利点もある。
【0103】
このように気流で余剰のコーティング組成物200を被コーティング物品の表面から除去する場合、その気流の温度は、110℃以下、望ましくは90℃以下がよい。気流の温度が高すぎる場合、シリカ膜104が変質して形成されるコーティング膜103の疎水性が強くなる傾向があり、疎水性汚損物質91が固着し易くなって好ましくない。気流の温度の下限については、35℃以下であると乾燥時間が長くなり、上記の通り、製造工程上、そして得られるコーティング膜103の疎水性が強くなる恐れがあり、好ましくない。
【0104】
気流を吹き付ける時間についても、気流の温度や被コーティング物品の形状にも依存するため限定されるものではないが、単純な形状の物品では、2秒以上20秒以下が望ましい。微小な隙間や穴を有するような複雑な形状を有する物品については、5秒以上50秒以下が好ましい。時間が短ければ余剰のコーティング組成物200が残留しやすく、時間が長くかかりすぎる状態であると、上記の通り、製造工程上だけでなく、コーティング膜103の疎水性が強くなる恐れが生じ好ましくない。
【0105】
この実施の形態のコーティング組成物200の被コーティング物表面への塗付方法は、特に制限されることはいが、浸漬、もしくはかけ塗り等、物品表面をコーティング組成物200で覆う方法で行うと、コーティングされていない部分がなく、また厚みにむらが少ない均一なコーティング膜103が形成でき、好ましい。浸漬やかけ塗りの方法では、物品表面をコーティング組成物200が欠陥なく覆うことができる。
【0106】
厚みにむらの少ないコーティング膜103とするために、上記した気流で余剰のコーティング組成物200を除去する方法も好ましいが、浸漬の場合には、コーティング溶液(コーティング組成物200)から被コーティング物品をゆっくり引き上げて、コーティング溶液の流れ落ちにより、余剰なコーティング組成物200を除去し、むらを抑制する方法、浸漬もしくはかけ塗りの場合には被コーティング物品を回転させるなどして、余剰のコーティング組成物200を振り切って除去する方法も好ましい。
【0107】
なお、このコーティング組成物200でコーティングする物品によっては、コーティング組成物200が乾燥して物品表面に形成されるコーティング膜103の親水性や密着性を向上させる観点から、物品表面に予め、コロナ処理、UV処理等の前処理を施してもよい。この実施の形態のコーティング組成物200は、シリカ微粒子101が乾燥のみで固化するため、加熱などを必要せずに、フッ素樹脂粒子102をコーティング膜103の表面に露出させることが可能となる。
【実施例】
【0108】
以下、具体的な実施例を示すことにより、この実施の形態のコーティング組成物200の詳細な実験結果および特性を説明する。なお、以下に示す実施例が、この実施の形態の範囲を限定するものではない。コーティングして表面にコーティング膜を形成する試験対象としては、フィルタ用のPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維を使用している。
【0109】
実施例1〜7.
実施例1〜7では、純水に平均粒径6nmのシリカ微粒子を分散したコロイダルシリカ(触媒化成工業株式会社製、pH10)と、平均粒径150nmのフッ素樹脂粒子を純水に分散したPTFEディスパージョン(旭硝子株式会社製、pH10)とを撹拌混合した後、非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエステル)をさらに加えて撹拌混合することにより、図9に示す組成を有するコーティング組成物を調合した。コーティング組成物中の非イオン系界面活性剤の含有量は、0.05重量%であった。これらで試験片の表面をコーティングした。また、最適なシリカ微粒子とフッ素樹脂粒子の重量比を見つけるために、シリカ微粒子とフッ素樹脂粒子の重量比を30:70〜100:0の範囲で変化させた。
【0110】
比較例1〜4.
比較例1では、従来から空気調和機100に用いられるコーティング無しのPETフィルタであり、シリカもフッ素も含まない。比較例2では、金属ステンレスコーティングをスパッタ法によりフィルタ表面に施した。比較例3では、フッ素樹脂のみによってフッ素コーティングを施した。比較例4では、実施例6と同様の重量比でありながら、シリカ微粒子のコーティング組成物に対する重量比を高めて、すなわち微粒子の濃度を高くしてコーティング組成物を調合した。図9に詳細を示す。
【0111】
各例のコーティング組成物を試験片に塗布し、エアブローにて余剰液を吹き飛ばす方法にて試験片にコーティング膜を形成し、形成されたコーティング膜の性状、初期接触角θおよび防汚性能をそれぞれ評価した。なお、エアブローは30m/sの流速とした。ここで、コーティング膜の性状は、目視観察により評価した。接触角θは、接触角計(協和界面化学株式会社製DM100)により測定した。防汚性能は、親水性汚損物質である砂塵の固着性、疎水性汚損物質であるカーボン粉塵の固着性を評価した。
【0112】
親水性汚損物質90の固着性評価は、1〜3μmを中心粒径とするJIS関東ローム粉塵をエアーでコーティング表面(コーティング膜)に吹き付けることにより、赤色の関東ローム粉塵の固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、関東ローム粉塵の固着がほとんどないものを1とし、関東ローム粉塵の固着が多いものを5と表記する。また、疎水性汚損物質91の固着性評価は、油系のカーボンブラックをエアーでコーティング表面(コーティング膜)に吹き付けることにより、黒色のカーボンブラックの固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、カーボンブラックの固着がほとんどないものを1とし、カーボンブラックの固着が多いものを5と表記する。その評価結果を図10に示す。
【0113】
図10に示す実験結果から、実施例1〜7のコーティング組成物により形成されたコーティング膜は、いずれも親水性、疎水性の両方の汚損物質に対して優れた防汚性能を示し、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との含有量(重量比率)を調整することにより、形成されるコーティング膜の巨視的な特性(親水性又は疎水性)を調整することができた。本実施の形態のコーティング膜は連続してつながった親水性シリカ膜がベースになっているため、接触角θは総じて低い値を示しているが、ミクロ領域(微視的)では、親水性と疎水性が交互にナノレベルで連続して配置される。また、シリカの割合を多くした場合は疎水性汚損物質91の付着を抑制することができ、フッ素の割合を多くした場合は親水性汚損物質90の付着を抑制できることができる。
【0114】
ただし、フッ素樹脂粒子102の重量比が高い実施例1(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量=30:70)では、疎水性汚損物質91に対する防汚性能がやや劣る傾向があることがわかる。また、シリカ微粒子101のみで形成した実施例7(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量=100:0)では、疎水性汚損物質91に対してのみの防汚効果であり、フッ素樹脂粒子102による微小凹凸が無いために付着面積が広く、全体としての防汚効果はかなり限定されてしまう。
【0115】
実施例1〜7のコーティング組成物200では、厚さが均一で薄いコーティング膜を形成することができた。実施例5は微白濁であったが、それ以外は透明な膜を形成できた。実施例6と比較例4を比べれば、同じシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102の重量比であっても膜の性状は変化することがわかる。シリカ微粒子101の含有量(濃度)が高い(5重量%を超える)場合には、形成されるコーティング膜は、厚さが不均一で白濁してクラックが入りやすく好ましくない。
【0116】
親水性と疎水性の両方の汚損物質に対して防汚性能を両立するものとして、シリカ微粒子101に対するフッ素樹脂粒子102の重量比率が、50:50〜85:15の範囲にある実施例2〜5が特に好ましい。更に詳細には重量比率が75:25である実施例4が最も好ましく、親水性・疎水性の両方の粒子の汚損から効果的にフィルタ40を守れる。シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との含有量(重量比率)を調整することにより、防汚特性の制御が容易である。
【0117】
一方、比較例1の従来から空気調和機100に用いられるコーティング無しのPETフィルタ(PET繊維)では、いずれの汚れも5点と明白に付着して汚損され易い事が示された。絶対値での防汚効果を知るために別途PETフィルムに関東ローム砂塵とカーボンブラックを吹き付けて、光透過度から評価を行った。その結果、実施例4(シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比75:25)は、従来のコーティングを施さない場合に比べて、親水性・疎水性の両性ともに約1/20に付着量を抑制できる。また、比較例1のPET繊維の表面抵抗(体積抵抗率)は約1016Ω・cmと高い値を示すのに対して、実施例1〜7のコーティングの表面抵抗(体積抵抗率)は約1012Ω・cmと低い値を示すため、表面の静電気力が従来のPET繊維比べて低くなり、それだけ付着した汚れは剥がれやすい。これは、本実施の形態のコーティングが巨視的には親水性を示すため、表面のOH基によりイオン伝導が促されて電気が通りやすくなるためである。
【0118】
フィルタ通気体41(PET繊維)への汚れや粘着物の付着を抑制することで、ロール状ブラシ71で掻き取る際に塵埃がフィルタ40から離れにくい不具合や、ロール状ブラシ71がフィルタ40のメッシュに塵埃を押し広げてしまい、フィルタ清掃装置50があるにも関わらずフィルタ40の目が詰まってしまうといった不具合を回避できる。結果として、フィルタ清掃装置50の長期信頼性を得ることができ、長期間常にフィルタ40をきれいな状態に保つことができる。
【0119】
比較例2の金属ステンレスコーティング、比較例3のフッ素樹脂によるフッ素コーティングはいずれも親水性汚れに対しては一定の防汚効果は認められたが、疎水性汚れに対しては汚れ度合いが高かった。これら疎水性汚損物質91のバインダー効果により、後から通過してくる長い繊維ホコリや糸くずがフィルタ上に付着して離れにくくなる。また、比較例2のステンレスコーティングは、密度が約7〜8g/cm3であるのに対して、実施例1〜7のコーティングの密度は0.2〜0.7g/cm3であるので分子間力が金属コーティングに比べて低くなり、それだけ付着した汚れは剥がれやすい。
【0120】
最後に、疎水性粒子の代表としてカーボンブラックを用いたが、その他の疎水性汚損物質91である油煙の影響を確認した。焼肉から発する油煙をフィルタ前面風速1m/sに設定して20cm角の風洞に設置した実施例4のフィルタ40および比較例1〜3の従来のフィルタ40に通して油煙付着具合を目視ならびに顕微鏡にて観察した。各フィルタ40は1辺0.6mmとした。その後、フィルタ40のメッシュサイズより小さな0.5mm以下の繊維ホコリを通した。その結果、実施例4では明白にホコリの付着量が少なく、油煙の付着が抑制されたことが示された。これは、疎水性粒子の付着面積が少ない効果に加えて、膜が低密度なために例え油煙が付着してもコーティング内部に吸収されるので表面に油煙が残らないためである。また、時間が経過するとホコリが剥がれ落ちる効果も確認された。一方、比較例2〜4の従来のフィルタ40では、フィルタ繊維に油煙付着が明白に確認され、繊維ホコリの補足率が向上してホコリは時間が経ってもフィルタ繊維から剥がれ難かった。
【0121】
これまで、フィルタ40に対してコーティングした場合の効果を示してきたが、ロール状ブラシ71も同様にホコリが付着して絡まり異常動作に発展するリスクはある。本実施の形態で示した、コーティング組成物200はフィルタ40だけでなく、ロール状ブラシ71に施しても同様に防汚効果があり、フィルタ40を自動で清掃するフィルタ清掃装置50を有した空気調和機100の長期信頼性の向上ができる。
【0122】
以上説明してきたように、本実施の形態に係るフィルタ清掃装置50は、フィルタ40に捕捉された塵埃を除去する塵埃除去部70を有し、フィルタ40表面のコーティング組成物200は、シリカ微粒子101と、フッ素樹脂粒子102とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きく、シリカ膜104の平均膜厚はフッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さいことを特徴としている。それにより、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、低い分子間力と低い静電気力によって良好な剥離性を呈する効果があり、フィルタ清掃装置50によるホコリの押し広げ、除去残しを低減して、フィルタ40の目詰まりを防止するものである。その結果、風量の低下を抑制して、冷暖房能力の低下や暖房気流の床到達不足、暖房気流の舞い上がり、冷房気流の垂れによる不快感、吹出し近傍での逆吸い込みによる異音の発生、電気代の悪化など様々な悪影響を未然に防止するものである。
【0123】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、フィルタ清掃装置50を備えた空気調和機100を例に説明したが、フィルタ清掃装置50を持たない空気調和機100のフィルタ40の表面に、実施の形態1と同様のコーティング組成物200をコーティングしてもよく、コーティング組成物200が親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して優れた防汚性能を発揮して、フィルタ40の目詰まりを防止することができる。
【0124】
図11、図12は実施の形態2を示す図で、図11は空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図、図12はフィルタ40を模式的に示す斜視図である。
【0125】
図11に示す空気調和機100は、フィルタ40を自動で清掃するフィルタ清掃装置50を持たない。フィルタ40の清掃は、空気調和機100の使用者がフィルタ40を空気調和機100から取り出して行う。
【0126】
空気調和機100の使用者がフィルタ40を空気調和機100から取り出すには、前面扉12を開放してフィルタ40を下縁47側から引き出すことで行う。
【0127】
図12に示すフィルタ40は、空気調和機100がフィルタ清掃装置50を持たないため、図2に示すフィルタ従動歯車を備えていない。
【0128】
また、フィルタ40は、上縁46から下縁47までの長さが図2に示すフィルタ40よりも長くなっている。その長さは、フィルタ40が熱交換器30の上面と前面とを略覆う。
【0129】
上記実施の形態1と同様に、フィルタ40表面にコーティング組成物200をコーティングする。コーティング組成物200は、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102とを含有し、コーティング膜がシリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きく、シリカ膜104の平均膜厚はフッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さいものである。
【0130】
フィルタ40表面に、上記コーティング組成物200をコーティングすることにより、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して優れた防汚性能を発揮するので、フィルタ40の目詰まりを防止することができる。
【0131】
そのため、空気調和機100の使用者がフィルタ40を空気調和機100から取り出して行うフィルタ40の清掃の頻度が、従来のフィルタ40にコーティング組成物200をコーティングしない空気調和機100に比べて大幅に減る。
【0132】
また、空気調和機100の使用者が行うフィルタ40の清掃は、フィルタ40の表面にコーティングされているコーティング組成物200が、親水性汚損物質90と疎水性汚損物質91の両方に対して低い分子間力と低い静電気力によって良好な剥離性を呈する効果があるため、従来のコーティング組成物200をコーティングしてないフィルタ40に比べはるかに容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】実施の形態1に係る空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図。
【図2】図1のフィルタ40を模式的に示す斜視図。
【図3】実施の形態1を示す図で、フィルタ通気体41の詳細図。
【図4】実施の形態1を示す図で、フィルタ40の目詰まりと電気代悪化度の関係図。
【図5】実施の形態1を示す図で、塵埃除去部70を模式的に示す斜視図。
【図6】実施の形態1を示す図で、コーティング組成物200がフィルタ40表面にコーティングされ、コーティング膜が形成された状態の断面を示す概念図。
【図7】実施の形態1を示す図で、コーティング組成物200によるコーティング膜103の部分のみを示した概念図。
【図8】実施の形態1を示す図で、コーティング膜103の上面を見た概念図。
【図9】実施例1〜7及び比較例1〜4のコーティングの組成を示す図。
【図10】実施例1〜7及び比較例1〜4のコーティング膜の性状、初期接触角θおよび防汚性能をそれぞれ評価した結果を示す図。
【図11】実施の形態2を示す図で、空気調和機100を模式的に示す側面視の略中央部における断面図。
【図12】実施の形態2を示す図で、フィルタ40を模式的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0134】
10 筐体、11 吸込口、12 前面扉、13 ノズル、14 吹出口、15 後面ガイド板、16 壁取付部、17 円弧状移動径路、20 送風ファン、30 熱交換器、31 伝熱管、32 放熱フィン、40 フィルタ、41 フィルタ通気体、42 フィルタ枠体、43 外枠、44 補強桟、45 フィルタ従動歯車、46 上縁、47 下縁、50 フィルタ清掃装置、60 フィルタ移動部、61 フィルタ駆動歯車、62 フィルタ駆動軸、64 フィルタ移動部本体、70 塵埃除去部、71 ロール状ブラシ、72 ロール状ブラシ駆動軸、73 ロール状ブラシ回転入力歯車、74 塵埃除去部本体、75 軸支持突起、80 塵埃回収部、81 掻き落し板、82 付勢手段、83 集塵箱、90 親水性汚損物質、91 疎水性汚損物質、100 空気調和機、101 シリカ微粒子、102 フッ素樹脂粒子、103 コーティング膜、104 シリカ膜、107 フィルタ繊維、200 コーティング組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ枠体と、
前記フィルタ枠体に設置される網状体のフィルタ通気体と、
前記フィルタ通気体の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、前記コーティング膜が、前記シリカ微粒子から成るシリカ膜中に前記フッ素樹脂粒子が前記シリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、前記シリカ膜の露出面積が前記フッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたことを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
前記コーティング組成物は、前記シリカ微粒子の含有量と前記フッ素樹脂粒子の含有量との重量比が、30:70〜95:5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記コーティング組成は、物前記シリカ微粒子の平均粒径が、4〜15nmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記コーティング組成は、前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が、50〜500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項5】
前記シリカ微粒子の含有量は、前記コーティング組成物に対して0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項6】
前記コーティング膜にあって、前記シリカ膜の平均厚さが、前記フッ素樹脂粒子の平均粒径より小さいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項7】
筐体と、
前記筐体内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファンと、
前記送風ファンが形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷凍サイクルの冷媒とが熱交換を行う熱交換器と、
吸引した空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタと、
前記フィルタを清掃するフィルタ清掃装置とを備え、
前記フィルタに、請求項1乃至6のいずれかに記載のフィルタを用いることを特徴とする空気調和機。
【請求項8】
筐体と、
前記筐体内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファンと、
前記送風ファンが形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷凍サイクルの冷媒とが熱交換を行う熱交換器と、
吸引した空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタとを備え、
前記フィルタに、請求項1乃至6のいずれかに記載のフィルタを用いることを特徴とする空気調和機。
【請求項1】
フィルタ枠体と、
前記フィルタ枠体に設置される網状体のフィルタ通気体と、
前記フィルタ通気体の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、前記コーティング膜が、前記シリカ微粒子から成るシリカ膜中に前記フッ素樹脂粒子が前記シリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、前記シリカ膜の露出面積が前記フッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物とを備えたことを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
前記コーティング組成物は、前記シリカ微粒子の含有量と前記フッ素樹脂粒子の含有量との重量比が、30:70〜95:5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記コーティング組成は、物前記シリカ微粒子の平均粒径が、4〜15nmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記コーティング組成は、前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が、50〜500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項5】
前記シリカ微粒子の含有量は、前記コーティング組成物に対して0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項6】
前記コーティング膜にあって、前記シリカ膜の平均厚さが、前記フッ素樹脂粒子の平均粒径より小さいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項7】
筐体と、
前記筐体内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファンと、
前記送風ファンが形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷凍サイクルの冷媒とが熱交換を行う熱交換器と、
吸引した空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタと、
前記フィルタを清掃するフィルタ清掃装置とを備え、
前記フィルタに、請求項1乃至6のいずれかに記載のフィルタを用いることを特徴とする空気調和機。
【請求項8】
筐体と、
前記筐体内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファンと、
前記送風ファンが形成する風路内に配置され、吸引した空気と冷凍サイクルの冷媒とが熱交換を行う熱交換器と、
吸引した空気に含まれる塵埃を捕捉するフィルタとを備え、
前記フィルタに、請求項1乃至6のいずれかに記載のフィルタを用いることを特徴とする空気調和機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−88960(P2010−88960A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258282(P2008−258282)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]