説明

抗体特異的プロファイルの治療的および診断的使用方法

【課題】個体において抗体特異的プロファイルを決定する方法を提供する。抗原またはエピトープ特異的プロファイルを決定する手段および方法を提供する。
【解決手段】特異的プロファイルは、自己抗原、アレルゲン、移植片抗原などの複数の抗原および/またはエピトープに対する個体の免疫反応を明らかにしている。抗体特異的プロファイルは、抗体を含有する患者試料のアレイへの結合により決定される。このアレイは、抗原およびエピトープを含むことができる。更に、自己免疫疾患、アレルギーおよび移植片拒絶反応を含む免疫関連疾患の、遺伝子によるまたは個体化された診断および治療のいずれかの開発において使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
免疫系の驚くべき複雑さは、その最大の強みである。1012〜1014種の可能性のある抗体特異性、様々な調節細胞とエフェクター細胞の間の精巧な相互作用、MHC抗原によるT細胞反応の拘束;これらは全て、異物として認識された感染性物質および他の抗原に対し効果的に反応する宿主の能力に寄与している。しかしこの多様性には欠点がある。誤りが生じ;反応の標的が、正常な自己タンパク質となり;炎症反応が誤って調節され;かつ、望ましくないことに、正常な反応が移植片および移植された細胞に対し向けられることがある。これらの状況下において、このシステムの複雑性は、診断および治療を極めて困難なものとしている。
【0002】
ほとんどの自己免疫疾患、アトピー症状および望ましくない免疫応答について、有効な診断的血液検査または治療薬は存在しない。例えば、現在の治療戦略は、全身に及ぶ免疫抑制を基本とすることが多い。この治療は抗原特異性ではないので、結果的には、免疫機能が全般的に低下し、感染症および疾患に罹患しやすくなる。従って、抗原特異的な診断および特に望ましくない免疫反応は停止するが、残りの免疫系は無傷のまま残す寛容療法の臨床的必要性は極めて大きい。しかし抗原特異的療法を提供するには、反応性細胞の抗原特異性を定義する必要がある。
【0003】
自己免疫疾患における抗原性標的を定義することの重要性は、一部これらの疾患の進行に関連する。例えば、多発性硬化症(MS)および実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)のような神経変性疾患における免疫反応は、例えばミエリン塩基性タンパク質、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質、プロテオリピドタンパク質、および様々な他のミエリン抗原のような、1種または複数のミエリン鞘タンパク質に対して方向づけられる。この疾患が進行するにつれて、開始抗原に対する反応性は消失し、かつ新たな免疫反応性の整然としかつ定義可能なセットが生じる。時間経過と共に、抗原特異的自己免疫反応が、「分子内エピトープ伸展」と称されるようなひとつのタンパク質上の様々なエピトープへと拡大するか、または「分子間エピトープ伸展」と称されるような別の構造タンパク質の別のエピトープへと拡大することができる。ひとつのエピトープに対する免疫化により開始されたEAEの経過の間、分子内および分子間の両エピトープ伸展が、自己免疫反応を、開始抗原上の他のエピトープに対するおよび他のミエリン抗原に対する検出可能なT細胞反応を包含するように発展させる(Steinman、J. Exp. Med.、189:1021-1024(1999)参照)。
【0004】
Touhyらにより説明されたように(J. Exp. Med.、189:1033-1042(1999))、患者は、初期免疫反応時に認識されたミエリンエピトープに対する反応性を失い、かつ他のミエリンエピトープに対するT細胞免疫反応性を示した。その疾患は、臨床的に進行し、かつその後慢性化する段階に侵入するので、自己免疫における開始自己抗原に対する免疫反応は、結局は消失する。しかし重要な免疫原性エピトープは、依然慢性疾患状態において認められ、かつこれらは抗原特異的療法の手掛かりを提供する。
【0005】
抗原特異的療法が提供される前に、より正確でハイスループットの診断法に加え、特異的免疫抑制剤を送達する手段が必要とされる。T細胞受容体は適当な主要組織適合性タンパク質に結合した場合のみ抗原を認識するために、自己免疫疾患に対する強力なT細胞成分が存在するような場合の診断の実現は、特に困難である。
【0006】
T細胞の同源抗原の正確な同定は依然難問であるが(Altmanら、Science、274(5284):94-6(1996)参照)、抗体特異的な血清型分類のための技術は存在する。特定の特異性を伴う抗体の検出に関して、当技術分野において多くのアッセイ法が公知でありかつ使用されており、これはELISA、RIA、競合的および非競合的サンドイッチアッセイ法、例えば多孔質支持体上の固相イムノアッセイ法(米国特許第5,486,452号参照)などを含む。例えば、Atassiらの米国特許第5,578,496号(1996)は、標的抗原由来の重複するペプチドを使用する固相放射免疫アッセイ法により、自己抗体の細かい特異性を定義している。同様にHarleyの米国特許第5,637,454号(1997)により、SSAタンパク質に対する自己抗体の特異性を決定するための、固相抗ペプチドアッセイ法が行われた。
【0007】
抗原特異的反応を目的とした療法が開発されている。場合によっては、ペプチドは、その抗原に対する寛容を誘導する方法で宿主へ送達される。例えばミエリン塩基性タンパク質を改変したペプチドによるMSの治療に関する第II相臨床試験が実施されている。この臨床試験の結果は、Kapposらの論文(Nature Medicine、6:1176-1182(2000));および、Bielekovaらの論文(Nat. Med.、6:1167-1175(2000))に説明されている。変更されたペプチドリガンドとして作用する微生物ペプチドは、Ruizらの論文(J. Exo. Med.、189:1275-1283(1999))に説明されている。自己免疫反応により標的化された精製ミエリンタンパク質の送達も、EAE治療における効能を明らかにしている(Critchfieldら、Science、263:1139-43(1994))。自己抗原をコードするDNA配列は、抗原特異的免疫抑制を促進するために使用することもできる。Ruizら(J. Immunol.、162:3336-3341(1999))は、ミエリンプロテオリピドタンパク質の優位なエピトープをコードするミニ遺伝子でワクチン処置し、疾患を予防することを明らかにしている。Garrenら(2001)は、4種の抗原をコードするミニ遺伝子のカクテルでワクチン処置し、活動期の疾患の予防および治療を増強することを明らかにしている。
【0008】
臨床的病態において免疫細胞により認識されている自己抗原レパートリーの正確かつ迅速に診断を行う方法、およびこの知識の特定の治療理学療法への解釈については、まだ満たされていない必要性が存在する。本発明はこの問題点に対処している。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、以下の段階を含む、免疫関連疾患患者における抗体特異的プロファイルを決定する新規方法により達成される:(a)少なくとも2種の疾患関連抗原を含む抗原アレイを調製する段階であり、抗原は、1種または複数の免疫学的エピトープを更に含む段階;(b)段階(a)の抗原アレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階;(c)段階(b)の患者試料中の抗体に結合するマイクロアレイ内の疾患関連抗原を同定する段階;(d)段階(c)の疾患関連抗原に結合した抗体を、(1)段階(a)のマイクロアレイ内の疾患関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体は疾患に関連することがわかっている段階、および(2)段階(a)のマイクロアレイ内の疾患関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体は疾患に関連しない段階。本発明の目的は、以下の段階を含む、免疫関連疾患の患者における抗体特異的プロファイルを決定する新規方法により達成される:(a)1種または複数の疾患関連エピトープを含むエピトープアレイを調製する段階;(b)段階(a)のエピトープアレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階;(c)段階(b)の患者試料中の抗体に結合するマイクロアレイ内の疾患関連エピトープを同定する段階;(d)段階(c)の疾患関連エピトープに結合した抗体を、(1)段階(a)のマイクロアレイ内の疾患関連エピトープに結合している抗体と比較する段階であり、抗体は疾患に関連することがわかっている段階、および(2)段階(a)のマイクロアレイ内の疾患関連エピトープに結合している抗体と比較する段階であり、抗体は疾患に関連しない段階。抗体特異的プロファイルを決定する新規方法は更に、当業者に、場合に応じ、抗原プロファイルまたはエピトーププロファイルも提供する。本発明の方法および組成物は、免疫関連疾患の診断ならびに特異的療法の設計および選択のために使用される。より詳細に述べると、抗体特異的プロファイルを決定することに関連した方法および組成物は、多発性硬化症 (MS)、慢性関節リウマチ(RA)、自己免疫糖尿病、全身性エリスマトーデス(SLE)、筋炎、強皮症、乾癬性関節炎、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、重症筋無力症(MG)、多発性軟骨炎、および組織移植片拒絶反応などの免疫関連疾患を含む、自己免疫疾患のために使用することができる。更に抗体特異的プロファイルを決定する方法は、アレルギーにおいて使用される。ひとつの態様において、ハイスループット決定は、これらの抗体の詳細な結合分析による、患者血清中に存在する疾患関連抗体のスペクトルの作成である。この抗体特異的プロファイルは、1種または複数のエピトープを有する1種または複数の抗原に向けられた、個人の複合免疫反応を明らかにする。
【0010】
本発明は、免疫関連障害を発症している可能性が高いがまだ症状が顕在化していない患者を同定するために、抗体特異的プロファイルを決定する方法を提供する。
【0011】
同じく本発明は、疾患のより重症な形を発症する可能性が高い患者を同定し、患者の抗体特異的プロファイルを基により攻撃的療法の選択を可能にする方法を提供する。
【0012】
本発明は更に、抗原特異的療法および抗原非特異的療法を含む、治療法を設計する方法も提供する。ひとつの態様において、抗原特異的療法は、抗体特異的プロファイルを基に選択される。患者の抗体特異的プロファイルは、B細胞およびT細胞の両方が媒介した反応に関する情報を提供する。抗原特異的治療の個々に合わせられたカクテルは、患者の特異的プロファイルを基に製剤化することができる。別の態様において、同じ免疫障害を有する患者間の共通の抗体特異的プロファイル一致の同定は、その疾患を持つ患者を治療するための一般的抗原特異的療法の製剤を提供する。
【0013】
更に別の本発明の局面においては、免疫関連障害に関する治療を受けている患者において治療的反応をモニタリングするための抗体特異的プロファイルを決定する方法がある。治療的反応は、抗体標的における変化(すなわち、抗原またはエピトーププロファイル)、抗体力価の変化、抗体アイソタイプの変化、および抗体認識の大規模パターンの変化を含む、抗体特異的プロファイルの変更を基に評価される。別の態様において、抗体特異的プロファイルは、個々の患者における有害な結果を予測し、これにより代替療法の選択を可能にするために使用することができる。
【0014】
別の局面において、抗体特異的プロファイルは、疾患に関連した新規抗原および疾患に関連した新規エピトープを同定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ラットにおけるEAEの自己抗体反応のミエリンペプチド特異性の抗原アレイ特徴決定(抗原アレイプロファイル)を含む抗体特異的プロファイルを示す。抗原アレイは、免疫優性なミエリンペプチドエピトープおよび精製された天然型ミエリン塩基性タンパク質をスポットすることにより作製した(表1に列記)。A-Dは、正常対照ラット(A)、および完全フロイントアジュバント中の異なるミエリンタンパク質ペプチドによりEAE発症を誘導した3匹のルイスラット(B-D)からの血清で、引き続きCy-3標識した抗ラットIg二次抗体によりプローブしたアレイの走査した画像(imaged)を表わしている。結果は、ELISAにより確認した。走査した画像の定量的コンピュータ解析は、表1に示した。報告された数値は、バックグラウンドレベルについて調節し、対照血清に対する、SLEにより認識された抗原の蛍光強度の比を表わし、その結果1より大きいまたは小さい比(1=差なし)は、>95%信頼区間での統計学的有意差を表わしている。抗原アレイは、EAEにおける自己抗体反応のペプチド特異性を強力に同定する。
【図2】8種の異なるヒト自己免疫疾患における自己抗体特異性の抗原アレイの同定および特徴決定(抗原アレイプロファイル)を含む、抗体特異的プロファイルを示している。整列された自己抗原アレイを、ロボット型マイクロアレイ装置を用い、4つ組セットでの192種の個別の推定自己抗原のスポットにより作製し、1152種の特性のリウマチ疾患自己抗原アレイを作製した。スポットした抗原は、以下を含む:36種の組換えまたは精製したタンパク質、Ro52、La、ヒスチジル-tRNAシンテターゼ(Jo-1)、SRタンパク質、ヒストンH2A(H2A)、Sm-B/B'、U1小核リボ核タンパク質複合体の70kDaおよびC成分(U1-7OkDa、U1snRNP-C)、Sm-B/B'、hnRNP-B1、Sm/RNP複合体、トポイソメラーゼI(topoI)、動原体タンパク質B(CENP B)、およびピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH);数種類の型の哺乳類二本鎖DNA(dsDNA)および合成一本鎖DNA(ssDNA)を含む、6種の核酸に基づく推定抗原;ならびに、snRNPタンパク質、Smタンパク質、およびヒストンH1、H2A、H3およびH4を表わしている、154種のペプチド。加えて本発明者らは、下記に対して特異的な抗体をスポットした:ヒトIgGおよびIgM(α-IgGおよびα-IgM);インフルエンザAおよび肺炎球菌(ニューモバックス)のワクチン;ならびに、アレイを方向付けるためのマーカースポットとして使用するためのCy-3-およびCy-5で予め標識した抗体の混合物(黄色特徴)。自己抗原アレイを、(a)特異的自己抗体反応性が検出されなかった健常個体(正常);(b)Ro52およびLaに対する自己抗体反応性を示しているシェーグレン症候群;(c)DNA、ヒストンH2A、U1-7OkDa、およびSRタンパク質に対する反応性を示しているSLE;(d)Jo-1およびRo52に対する反応性を示しているPM;(e)DNA、ヒストンH2A、Ro52、およびU1-7OkDaに対する反応性を示しているMCTD;(f)PDHに対する反応性を示しているPBC;(g)topoIに対する反応性を示しているsclero-D;(h)CENP Bに対する反応性を示しているsclero-L;ならびに、(i)hnRNP-B1に対する反応性を示しているRA由来の、希釈した患者血清試料とインキュベーションした。各アレイをプローブするために使用した自己免疫疾患血清は、図の上側に示し、ならびに灰色ボックス内に含まれた抗原特性を切貼りした各行は、単独のアレイからの代表的抗原特性である。実験的自己免疫脳脊髄炎の齧歯類由来の血清中の自己抗体によりアレイ上で認識されたミエリン塩基性タンパク質ペプチドを、代表的陰性対照として含んだ(MBP 68-86)。結合した抗体は、Cy-3標識ヤギ抗ヒトIgM/IgGを用い、走査前に検出した。
【図3】ヒト多発性硬化症患者からの脳脊髄液中の自己抗体反応の抗原アレイ特徴決定(抗原アレイプロファイル)を含む、抗体特異的プロファイルを示す。2400スポットの「ミエリンプロテオーム」アレイを、ロボット型マイクロアレイ装置を用い推定ミエリン抗原(本文中で説明)をスポットすることにより作製し、脳脊髄液で、引き続きCy-3標識した抗ヒトIg二次抗体でプローブし、ジーンピックススキャナーを用い走査し、かつジーンピックスソフトウェアにより画像解析し、各スポットに結合している自己抗体のレベルを決定した。これらのアレイは、MBP、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン希突起膠細胞タンパク質(MOG)、これらのタンパク質を示す重複しているペプチド、ならびに環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNPase)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、およびミエリン関連希突起膠細胞塩基性タンパク質(MBOP)を含む追加のミエリン自己抗原からの優位エピトープを表わすペプチドを含む、400種の異なるミエリンタンパク質およびペプチドエピトープを含んでいる。対照患者において、インフルエンザウイルスおよび肺炎連鎖球菌を含む共通かつ偏在性のヒト病原体に特異的な抗体は検出されているが、ミエリンタンパク質およびペプチドに特異的な抗体は検出されていない。MS患者1において、抗原アレイは、全ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、全ミエリン希突起膠細胞タンパク質(MOG)に特異的な自己抗体、更にはMOGペプチド35-55、MBPペプチド1-20、およびMBPペプチド68-86を認識する自己抗体を検出している。 対照的に、MS患者2において、自己抗体は、MOGタンパク質およびMOGペプチド25-42に対して検出される。MS患者3において、プロテオリピドタンパク質(PLP)ペプチド139-151に特異的な自己抗体が同定される。
【図4】実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)のマウスにおける自己抗体反応の多様性および類似性の抗原アレイ特徴決定(抗原アレイプロファイル)を含む抗体特異的プロファイルを示す。2400スポットの「ミエリンプロテオーム」アレイを、ロボット型マイクロアレイ装置を用い、推定ミエリン抗原をスポットすることにより作製し、EAEマウス血清で、引き続きCy-3標識した抗マウスIg二次抗体でプローブし、ジーンピックススキャナーを用い走査し、かつジーンピックスソフトウェアにより画像解析し、各スポットに結合している自己抗体のレベルを決定した。図4A-Cは、対照マウス由来の血清(A)、および再発疾患を発症したPLPp139-151によるEAE誘導後87日目の2匹のSJLマウス由来の血清(BおよびC)でプローブしたアレイの走査した画像を示している。誘導ペプチドPLPp139-151に対する自己抗体反応性は、EAEの2匹のマウスにおいて、対照と比べ有意に強力であり、隣接する分子内エピトープPLPp89-106に対する自己抗体反応性が、マウス-2において認められたが、マウス-1または対照においては認められず、かつMOGタンパク質、MOGp66-78、CNPase p343-373、およびMBPpI-20を含む分子間タンパク質およびエピトープに対する自己抗体反応性は、EAEの両マウスにおいて認められたが、対照においては認められなかった。結果は、ELISAにより確認し、かつ追加のマウスにおいて認められた自己抗体反応性の典型である。従って、PLPペプチド139-151で誘導したSJLマウスは、それらの自己免疫反応の、PLP上の隣接ペプチドエピトープに加え、MBP、MOGおよびCNPaseを含む3種の追加のミエリンタンパク質のエピトープへの伸展を受ける。これらの結果は、自己抗体反応により標的化された特異的自己抗原の抗原アレイの同定を明らかにしている。自己抗体反応のより多い数の抗原アレイ同定した標的をコードする抗原特異的DNA寛容ワクチンは、自己抗体標的単独または標的化されないミエリン抗原をコードするワクチンよりも、EAEの予防および治療に関してより大きい効能を有した。
【図5】コラーゲン誘導型関節炎(CIA)のマウスにおける自己抗体反応の抗原アレイ特徴決定(抗原アレイプロファイル)を含む抗体特異的プロファイルを示す。抗原アレイは、ロボット型キャピラリーアレイ装置を用いて作製し、ポリ-L-リシン-被覆した顕微鏡スライド上の整列されたアレイにRA中の推定滑液ペプチドおよびタンパク質自己抗原を、スポットした。スポットした抗原は、I、IIおよびIII型コラーゲン、CIIp257-270、Ro52、La、ヒスチジル-tRNAシンテターゼ(Jo-1)、U1小核リボ核タンパク質複合体の70kDaおよびC成分(U1-7OkDa、U1snRNP-C)、hnRNP-B1、およびGP39の重複しているペプチドを含む。本発明者らは、これらのアレイを方向づけるために、「マーカー特徴」としてCy-3で予め標識した抗体をスポットした(緑の特徴の巨大な大部分)。アレイは、(a)正常なDBA/1LacJ血清、または(b)CFAにおけるチックCIIによりCIAを発症するように誘導したDBA/1LacJマウスから疾患開始時(29日目)に得た血清と共にインキュベーションした。結合した抗体は、Cy-3標識したロバ抗マウスIgM/IgGを用い検出した。CIIおよびCIIp257-270の自己抗体特異性は、CIA血清試料中のみで検出される。
【図6】EAE中で自己抗原を同定された抗原アレイからの複数のエピトープをコードするDNA寛容療法は、臨床疾患活性を低下し、かつ自己免疫反応の伸展を低下することを明らかにしているクラスター解析を提供する。個々のマウスはX軸上に列記し、ならびに「ミエリンプロテオーム」アレイ上のペプチドおよびタンパク質抗原は、Y軸上に表わした。緑は、反応性の欠損を表わし、および赤は、自己抗体反応性を示している。抗原アレイの類似性を基にしたマウス群のクラスター解析アルゴリズムは、それらの自己抗体反応の特異性を決定した。この画像は、全クラスターの小領域を表わしている。正常マウス(NMS)クラスターおよび緑の支配性は、列記された抗原に対する自己抗体反応性の欠如を示している。慢性再発性EAEを伴うSJLマウスは、対照ベクターまたは緩衝液(BおよびC)クラスターで治療し、かつ赤で示した、様々なミエリン抗原に対する顕著な自己抗体反応性を有する。これらのマウスにおける自己抗体反応のこの観察された伸展は、それらのより重症な疾患経過に相関し、87日間に平均2.4〜3.5回再発する。麻痺(再発)の臨床増悪の平均回数は、図の一番上に、マウスの関連群を示す線の上の数字で表わしている。対照的に、ミエリンタンパク質カクテルDNA寛容化ワクチン(多数の自己免疫反応の標的を同定された抗原アレイを含み、かつEAE治療における最大の効能を示している[表4])により治療したマウスを、クラスター化し、かつ他の群と比較して増大した緑により示されるような、それらの自己抗体反応の伸展の有意な低下を有する。この自己免疫反応の伸展の低下は、それらのより重症度の低い臨床経過と相関し、87日間に平均1.5回再発する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
態様の詳細な説明
ひとつの態様において、ハイスループット決定は、これらの抗体の詳細な結合分析により、患者血清中に存在する疾患関連抗体で行われる。この抗体特異的プロファイルは、自己抗原、アレルゲン、移植片抗原などの複数のエピトープに対する個体の免疫反応を明らかにしている。このような抗体または抗原特異的プロファイルは、自己免疫疾患、アレルギーおよび移植片拒絶反応を含む、免疫関連疾患の個別化された診断および治療の開発において用いられる。エピトープ伸展、抗原特異性、および定量的結合データを追跡することにより、疾患の病期および進行を決定することができる。
【0017】
自己抗体反応の特異性は、自己反応性T細胞反応の特異性と相関することができることはわかっている。いくつかのヒト自己免疫疾患において、自己免疫T細胞およびB細胞反応は、同じ免疫優性なエピトープを認識する。自己免疫疾患におけるB細胞およびT細胞反応の細かい特異性の間に不一致があるようなこれらの場合において、個体が自己反応するものに対する特異的自己タンパク質を同定する能力は、自己免疫反応の特異性および進化を研究し、かつ適した抗原特異的治療を選択するのに十分であることができる。個々の患者における自己抗体反応の特異性の知識は、早期診断を促進し、予後の指標として提供され、かつ適当な抗原特異的寛容療法の開発および選択を導く上での助けとなることができる。
【0018】
自己免疫糖尿病、全身性エリスマトーデス(SLE)、重症筋無力症、およびグレーブズ病を含むある種の自己免疫疾患に関して、1種または2種の自己タンパク質に対する抗体反応性の検出は、診断での実用性がある。ある種の抗体反応性は更に、予後判定での実用性があることも明らかにされた。例えば、DNAに対する自己抗体は、SLEの一部のモデルにおいて病原性であり、一般には腎の関与が関連づけられており、かつそれらの力価は頻繁に疾患活動度と相関している。多発性筋炎の場合、Jo-1自己抗体は、数ヶ月から数年にわたり臨床疾患に先行することが多く、かつ間質性肺疾患の発症および予後不良を予想する。
【0019】
ヒト自己免疫疾患は、その臨床の症状発現に関して極めて雑多である。例えば、SLE患者は、患者毎に変動する臨床疾患のスペクトルを有する。ある患者は、それらの皮膚および関節の症状発現に主に関連する疾患を有する一方で、他の患者は、心および肺に液体貯留(漿膜炎)を引き起す疾患を有し、同時に他の患者は、主に腎および脳に影響を及ぼす疾患を有する。多発性硬化症において、ある患者は、能力障害とならない良性の経過を辿る再発-寛解する(relapsing-remitting)疾患を有する一方で、別の患者は麻痺および能力障害を引き起す慢性進行性疾患に発展する再発-寛解する疾患を最初に有し、更に別の群は、開始時から慢性進行性疾患を発症する。おそらく、これらの各疾患の異なる臨床形は、個別の疾患亜型を表わし、ここで自己免疫反応は、異なる自己抗原に対して方向付けられ、かつこれは特異的療法に対して示差的に反応すると考えられる。
【0020】
本発明のひとつの態様において、抗体特異的プロファイルは、患者試料由来の抗体の、ペプチドが抗原のエピトープ候補に対応しているアレイを含む抗原への結合により決定される。少量の試料は、多数の異なるペプチドをスクリーニングするのに十分である。このアレイは、タンパク質複合体、全タンパク質および/またはタンパク質断片の個々のスポットを含むことができ、ここでこれらの断片は、完全なタンパク質、またはタンパク質の部分的代表を包含している重複するペプチドであることができ、これは公知の免疫優性なペプチドを含むことがある。このアレイは更に、一本鎖DNA、二本鎖DNA、オリゴヌクレオチド、RNA、脂質、糖質または他の分子を含む他の分子のスポットを含むことがある。自己免疫疾患の場合、抗体特異的プロファイルは、抗原特異的ワクチンまたは治療に対する抗体反応をモニタリングおよび/または予想する手段を提供し、このワクチンもしくは治療は、DNA、ペプチド、タンパク質または他の分子に基づくことができる。この抗体反応プロファイルは、有効な療法が患者に送達されているかどうかを示すことができる。
【0021】
抗体特異的プロファイルから得られた情報を用い、治療をモニタリングし、治療法を修飾し、かつ更に治療薬の選択を最適化する。この方法により、治療および/または診断方法は、治療の経過にわたり異なる時点で得られたこの特異的データに従い個別化およびテーラーメイドにすることができ、これにより個体に適している療法が提供される。加えて患者試料は、分析のために治療プロセスの途中のいずれかの時点で得ることができる。
【0022】
分析のための試料を提供する哺乳類種は、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジなど、ならびに霊長類、特にヒトを含む。動物モデル、特に小型哺乳類、例えばマウス、ウサギなどは、実験研究のために使用することができる。関心対象の動物モデルは、自己免疫、移植片拒絶反応などのモデルに関するものを含む。
【0023】
抗体、自己抗体およびT細胞受容体:
免疫系の抗原特異性は、抗体(または免疫グロブリン)およびT細胞受容体として公知のタンパク質群によりもたらされる。各々は、様々なクラス、サブクラスおよびアイソタイプにおいて産生され、これらは当技術分野において全て周知であり、かつ本発明の目的に関する定義に含まれる。遺伝子組換え法、および場合によっては体細胞変異を通じ、様々なタンパク質配列の非常に大きいレパートリーが、これらのタンパク質の可変領域において作成される。これらの可変領域の非共有結合相互作用は、免疫系が、多糖、ポリペプチド、ポリヌクレオチドなどの分子である抗原に結合することを可能にする。従って抗体またはT細胞受容体の「特異性」は、可変領域の抗原へ高親和性で結合する能力を意味する。
【0024】
抗体の結合部位は、典型的には複数の非共有的相互作用を利用し、高親和性結合を実現する。抗原の数個の接触残基は、結合ポケットに非常に近接するようになり、その抗原分子の他の部分も、結合を可能にする立体配座の維持に必要とされる。抗体により結合された抗原の部分は、エピトープと称される。本明細書において使用されるように、エピトープは、高親和性結合に十分な抗原の一部分である。抗原がタンパク質である場合は、一般に線状エピトープは、長さが少なくとも約7個のアミノ酸であり、約15〜22個のアミノ酸長を超えないと考えられる。しかし抗体は、抗原上の非隣接残基により形成された立体配座依存決定基も認識し、その結果エピトープは、結合のために存在する抗原のより大きい断片を、例えばタンパク質またはリボ核タンパク質複合体ドメイン、タンパク質ドメイン、またはタンパク質配列の実質的に全てを必要とする。例えばハプテンのような別の場合において、エピトープは、例えばジゴキシン、ジゴキシゲニンなどの、非常に小さい分子であることができる。全身性エリスマトーデスおよび他の自己免疫疾患において、自己抗体は、タンパク質、脂質、核酸の複合体、または核タンパク複合体に結合することも良く確立されている。加えて、自己抗体は、自己タンパク質における翻訳後修飾に対して方向づけることができる。本明細書において使用される自己タンパク質は、ゲノム内にコードされかつ生物により産生されたタンパク質である。それに対して自己抗体が検出される翻訳後修飾の例は、リン酸化されたアミノ酸およびシトルリン修飾されたアミノ酸に加え、グリコシル化における差異を含む。ある疾患において、自己免疫反応は、DNA、RNA、脂質および他の分子に対し方向づけられる。
【0025】
「特異的」であると考えられる抗体結合の親和性レベルは、一部抗体クラスにより決定され、例えば、IgMクラスの抗原特異的抗体は、例えばIgGクラスの抗体よりも低い親和性を有する可能性がある。本明細書において使用されたように、「特異的」である抗体相互作用を考慮するためには、この親和性は、少なくとも約10-7M、通常約10-8〜10-9Mであり、かつ関心対象のエピトープについては最大10-11またはそれよりも高くてよい。当業者には、「特異性」という用語は、このような高親和性結合を意味し、その上抗体が更に他の分子には結合することができないことを意味することは意図されないことが理解されると思われる。例えば、抗原の配列または構造の関係により、もしくは抗体結合ポケットそれ自身の構造により、様々なエピトープとの交差反応性を認めることができる。このような交差反応性を示している抗体は、依然として本発明の目的について特異的であると見なされる。
【0026】
T細胞受容体は、抗体よりもより複雑な構造を認識し、かつ主要組織適合性抗原結合ポケットおよび提示されるべき抗原性ペプチドを必要とする。T細胞受容体の結合親和性は、抗体のそれよりも低く、かつ一般には少なくとも約10-4M、より一般的には少なくとも約10-5Mであると考えられる。
【0027】
自己反応性抗体、または自己抗体、およびT細胞受容体は、宿主に存在する分子、一般には例えば自己免疫疾患においては宿主に通常存在する分子に、もしくはある種の癌症例においては腫瘍抗原に、高親和性で結合する抗原受容体である。外来組織の移植片由来の存在する抗原は、一般には自己抗原とは考えられない。開始免疫原は、自己抗原であることができ、もしくは自己抗原と交差反応性の分子であることができる。
【0028】
開示された方法は一部、自己抗体反応の特異性と、自己免疫反応を起動する自己反応性ヘルパーT細胞反応のそれとの相関関係を基にしている。いくつかのヒト自己免疫疾患において、自己免疫T細胞およびB細胞反応は、同じ免疫優性なエピトープを認識する。免疫優性なミエリン塩基性タンパク質(MBP)エピトープは、MSにおいて自己反応性T細胞およびB細胞の両方により認識される。B細胞およびT細胞反応の細かい特異性の間に不一致があるような場合においてでさえも、それに対し個体が自己反応性であるような特異的自己タンパク質を同定する能力は、抗原特異的寛容療法の選択を導くのに十分である。
【0029】
アレイ:
アレイは、アドレス指定可能なエレメントの集合である。このようなエレメントは、マイクロタイタープレート内に含まれるか、もしくは各エレメントが個別のXおよびY座標として存在する平らな表面上にプリントされたアレイのように、空間的にアドレス指定可能である。または、エレメントは、タグ、ビーズ、ナノ粒子、または物理的特性を基にアドレス指定可能である。マイクロアレイは、当業者に公知の方法に従い調製することができる(例えば、米国特許第5,807,522号;Robinsonら、Nature Medicine、8:295-301(2002);Robinsonら、46:885-93(2002)参照)。本明細書において使用されるアレイは、複数のアドレス指定可能なエレメントを伴ういずれかの生物学的アッセイ法を意味する。ひとつの態様において、アドレス指定可能なエレメントは抗原である。別の態様において、アドレス指定可能なエレメントはエピトープである。マイクロアレイは、アレイのミニチュア型である。本明細書において使用されるように、エレメントは、抗体により結合され得るいずれかの抗原を意味する。本明細書において使用される抗原は、特異的に抗体に結合することができる任意の分子を意味する。分子は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、RNA、DNA、脂質、グリコシル化された分子、糖質、リン酸化修飾を伴うポリペプチド、およびシトルリン修飾を伴うポリペプチド、アプタマー、酸化された分子、他の分子、およびその他の分子であることができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
アドレス指定可能性:
本明細書に説明されたエレメントに関して、アドレス指定可能性は、そのエレメントを同定することが可能である配置、位置、タグ、切断可能なタグまたはマーカー、識別子、スペクトル特性、電気泳動特性、または他の物理特性を意味する。コーディングとしても知られているアドレス指定可能性の一例は、空間のアドレス指定可能性であり、ここでは分子の位置は固定され、かつその位置は、アイデンティティと相関されている。この種の空間アレイは、一般に平らな基板上に合成されるかまたはスポットされ、例えば、多数の異なる分子が小さい領域に密に配列されている、例えば1cm2当り少なくとも約400種の異なる配列を含むようなマイクロアレイを作製し、および1cm2当り1000個の配列、もしくは多ければ1cm2当り5000個の配列またはそれ以上であることもできる。プレート内のウェルが各々個別の抗原を含むようなELISAまたはRIAプレートにおいて認められる、密度のより低いアレイは、1プレート当り約96個の配列から、1cm2当り約100個の配列まで、マイクロアレイ最大密度を含むことができる。別の空間的アレイは、光ファイバーを使用し、ここでは個別の抗原がファイバーに結合され、これはその後結合および分析のために束を形成することができる。ポリペプチドの空間的アレイの製造および使用の方法は、当技術分野において公知である。最近の論文は、抗原の連続希釈を含むマイクロアレイに基づくイムノアッセイ法を説明している、Joosらの論文(Electrophoresis、21(13):2641-50(2000));市販のインクジェットプリンターの適合により得られかつセルロースペーパー上にタンパク質を含むスポットの一次元および二次元アレイを作成するために使用されるシステムを説明している、Rodaらの論文(Biotechniques、28(3):492-6(2000));ならびに、タンパク質-タンパク質、タンパク質-DNA、タンパク質-RNAおよびタンパク質-リガンド相互作用の定量的検出のための、万能タンパク質アレイシステムを説明している、Geの論文(Nucleic Acids Res、28(2):e3(2000))を含む。同じく、Mendozaら、「High-throughput microarray-based enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)」Biotechniques、27:778-780(1999);ならびに、Luekingら、「Protein microarrays for gene expression and antibody screening」、Anal. Biochem.、270:103-111(1999)も参照のこと。
【0031】
この種の空間的コーディングアレイの代わりに、標的抗原またはエピトープが、検出可能な標識に結合された分子「タグ」、もしくは抗原またはエピトープの配列に関するコードされた情報を提供するタグを使用する。ある場合において、これらのタグは、そのエレメントから切断され、引き続きそのエレメントを検出し同定することができる。別の態様において、抗原またはエピトープのセットは、コードされたビーズのセットに合成または結合することができ、ここで各ビーズは、個別の抗原またはエピトープに連結され、かつここでこれらのビーズはそれら自身結合した抗原またはエピトープの同定を可能にする方法でコードされている。フローサイトメトリーによる臨床試料の分析のための複合化された微粒子セットの使用は、国際特許出願番号97/14028;ならびに、Fultonら、Clinical Chemistry、43:1749-1756(1997)に記載されている。同じく、他のアドレス指定可能な粒子またはタグの使用が可能である(Robinsonら、Arthritis Rheumatism、46:885-93(2002)に概説されている)。
【0032】
抗原がビーズまたは微粒子に結合されているこの種の「タグアレイ」においては、結合の検出のためにフローサイトメトリーを使用することができる。例えば、蛍光コーディングを有する微粒子が、当技術分野において説明されており、ここで蛍光の色およびレベルは、特定の微粒子を独自に同定する。従って抗原は、「色コード化された」対象に共有結合することができる。標識された抗体は、フローサイトメトリーにより検出することができ、かつ微粒子上のコーディングは結合した抗原を同定するために使用される。
【0033】
抗原アレイ:
アレイのひとつの態様は、抗原アレイである。本明細書において使用される抗原アレイは、患者試料内に含まれた抗体の特異性の同定を可能にする方法で配列されている抗体に結合することが可能な個別の分子実体の空間的に分離されたセットを意味する。すなわち、標的抗原のセットは、個別の配列、三次元の形態、または分子構造を有し、ここで各標的抗原は同定のためにコードされている。このアレイは、1種または複数のタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、RNA、DNA、脂質、グリコシル化された分子、リン酸化修飾を伴うポリペプチド、およびシトルリン修飾を伴うポリペプチド、アプタマー、他の分子、およびその他の分子を含むことができ、ここで異なる分子のクラスは、あるアレイにおいて組合わせることができる。
【0034】
抗原:
抗原は、核酸、脂質、リボ核タンパク質複合体、タンパク質複合体、タンパク質、ポリペプチド、ペプチドのような分子、ならびにそれに対するTリンパ球およびBリンパ球に関連する免疫反応を生じることができるような分子の天然の修飾を含む。各抗原に関して、その抗原の免疫学的決定基を表わしているエピトープのパネルが存在する。抗原は、抗体またはT細胞受容体により一部または全て認識することができる任意の分子を含む。本明細書において使用されるように、自己免疫疾患、アレルギーまたは組織移植片拒絶反応に関連した抗原を含む。自己免疫疾患に関して、抗原は自己抗体と称されることが多い。アレルギー疾患に関して、抗原は、アレルゲンと称されることが多い。抗原は免疫学的エピトープを含む。
【0035】
エピトープ:
エピトープは、Bリンパ球により、および特異的に細胞表面に発現されかつB細胞により分泌された抗体により、認識される抗原の一部である。エピトープは同じく、Tリンパ球上の特異的受容体により認識され得る。個々の抗原は、典型的には複数のエピトープを含むが、抗原が単独のエピトープを含むような場合がある。本発明のひとつの態様において、全タンパク質抗原由来のペプチド断片を用い、B細胞により産生された抗体により標的化された個々のエピトープを表わす。別の態様において、翻訳後修飾を示している分子、糖質、脂質および他の分子の部分は、個々のエピトープを表わすために使用することができる。エピトープは、免疫B細胞およびT細胞により認識された形態を表わしており、かつ更に天然型の抗原内に存在する同じエピトープの形態を有するペプチドおよび他の分子に由来した非抗原により提示されることもある。エピトープ形態を伴うエレメントの例は、アプタマーである。アプタマーは、免疫学的エピトープを模倣することができる形態を提供する分子である。複数のアプタマーを用い、エピトープ形態のライブラリーを作成することができる。
【0036】
本発明の目的のために、自己抗原および自己抗原由来のエピトープのアレイを用い、下記を同定または決定するために、患者の抗体特異的プロファイルを決定することができる:1.疾患を発症している可能性のある患者;2.多かれ少なかれ重度の疾患を発症している可能性のある患者;3.特定の療法に反応する、または特定の療法に関連した有害事象を有する可能性のある患者;4.患者特異的療法;ならびに、5.特定の治療的介入が、成功したか、しなかったか、または増悪するかどうか。自己抗原アレイは、疾患に関連することが分かっているか、特定の疾患に関連することが疑われるかのいずれかの様々な自己抗原、または自己抗原候補のライブラリーを含む。一例において、自己抗原アレイは、特定の疾患について最適化された自己抗原を含むことができるが、別の例においては、疾患を伴う患者における抗体反応の標的を同定するための未知の抗原のライブラリーを含むことができる。自己抗原のパネルからなる自己抗原アレイは、スクリーニング目的に使用することができ、ここでこのパネルは、特定の疾患に関連した異なるエピトープを反映している。関心対象の抗原エピトープパネルは、関心対象の特異的疾患について最適化されたパネルを含み、これは1種または複数の全タンパク質、これらのタンパク質配列内のペプチドおよび重複するペプチド、および優位エピトープを表わしているペプチドを含むことができる。本明細書において使用されるポリペプチドという用語は、いずれかのタンパク質およびペプチドを意味する。短いペプチドが使用される場合、好ましいペプチドは、長さが少なくとも約7個のアミノ酸であり、少なくとも約15個のアミノ酸長、および22個ものアミノ酸長であることができる。これらのペプチドは、7〜10個のアミノ酸が重複し、かつ関心対象のタンパク質の全配列を包含することができる。このペプチドは、例えば環状ペプチド、核酸アプタマーなどの、天然のペプチド形態の擬態でもあり、もしくは抗体またはT細胞受容体分子により認識された三次元の形態を模倣している別の分子、薬物、または有機分子であることができる。
【0037】
免疫学的エピトープ:
免疫学的エピトープは、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、脂質、糖質、または抗体もしくはT細胞受容体により認識される他の分子である。
【0038】
自己抗原:
これは、免疫学的反応の標的であることができる生物により生成された分子である。ひとつの局面において、このような分子は、生物のゲノムにおいてコードされたペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質である。別の局面において、このような分子は、切断、リン酸化、アルギニンのシトルリンへの脱イミノ化、ならびに生理的および非生理的細胞プロセスを通して作成された他の修飾のような、これらのペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質の翻訳後修飾されたものである。更に別の局面において、このような分子は、生物により産生された糖質、脂質および他の分子を含む。本明細書において使用された自己抗原の例は、病原性免疫反応を惹起する内因性タンパク質またはそれらの断片を含む。特に興味があるのは、T細胞で媒介された病原性反応を誘導する自己抗原である。T細胞の関与により特徴付けられる自己免疫疾患は、多発性硬化症、実験的自己免疫脳脊髄炎、慢性関節リウマチ、インスリン依存型糖尿病などを含む。
【0039】
本発明の目的に関して、自己抗原または自己抗原エピトープのパネルを、スクリーニング目的に使用することができ、ここでこのパネルは、特定疾患に関連した異なるエピトープを反映している。関心対象の抗原エピトープパネルは、関心対象の特異的疾患の最適化されたパネルを含み、これは1種または複数の全タンパク質、これらのタンパク質の配列内のペプチドおよび重複するペプチドならびに優位エピトープを示しているペプチドを含むことができる。本明細書において使用されるポリペプチドという用語は、タンパク質およびペプチドのいずれかを意味する。短いペプチドが使用される場合、好ましいペプチドは、少なくとも約7個のアミノ酸長であり、少なくとも約15個のアミノ酸長、および22個ものアミノ酸長であることができる。これらのペプチドは、7〜10個のアミノ酸により重複することができ、かつ関心対象のタンパク質の全配列を包含することができる。
【0040】
抗原アレイは、自己タンパク質、これらの自己タンパク質の修飾、および自己免疫疾患もしくは組織移植片拒絶反応における異常な免疫反応により標的化された組織中に存在する他の分子を提示している抗原のパネルを含む。
【0041】
一般に抗原のパネルまたはアレイは、1種または複数の異なる抗原性分子、すなわち、タンパク質、脂質、多糖、ポリヌクレオチド分子を含み、かつ一般的には2種またはそれ以上の異なる抗原を、より一般的には3種またはそれ以上の抗原を含み、かつ5〜10種、またはそれ以上もの異なる抗原を含むことができる。各抗原は、1種または複数の異なるエピトープ、一般には3種またはそれ以上の、より一般的には5種またはそれ以上の異なるエピトープにより提示され、かつ10〜20種もの異なるエピトープであることができる。
【0042】
特異的疾患のためのアレイの例は、脱髄疾患、例えば多発性硬化症およびEAEのための抗原パネルまたはアレイであり;かつ、プロテオリピドタンパク質(PLP);ミエリン塩基性タンパク質(MBP);ミエリン希突起膠細胞タンパク質(MOG);環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNPase);ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、およびミエリン関連希突起膠細胞塩基性タンパク質(MBOP);α-B-クリスタリン(熱ショックタンパク質);ウイルス性および細菌性擬態ペプチド、例えばインフルエンザ、ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルスなど;OSP(希突起膠細胞特異的タンパク質);シトルリン修飾されたMBP(6位のアルギニンがシトルリンに脱イミノ化されたMBPのC8アイソフォーム)など由来の抗原および/またはエピトープを含むことができる。複合的膜タンパク質PLPは、ミエリンの優位自己抗原である。PLP抗原性の決定基は、いくつかのマウス系統において同定されており、これは残基139-151、103-116、215-232、43-64および178-191を含む。少なくとも26種のMBPエピトープが報告されている(Meinlら、J. Clin. Invest.、92:2633-2643(1993))。注目すべき残基は1-11、59-76および87-99である。いくつかのマウス系統において同定された免疫優性なMOGエピトープは、残基1-22、35-55、64-96を含む。
【0043】
パネルまたはアレイは、例えば、多発性硬化症、関節炎、SLEなどの疾患について、例えば移植関連障害、アレルギー障害などの疾患の種類について特異的であることができ、もしくは複数の疾患について広範な基礎となる抗原性パネルまたはアレイであることができる。
【0044】
疾患関連抗原:
疾患関連抗原は、免疫関連疾患に関連することがわかっている抗原、または現在は関連することがわかっていないが最終的には関連することが示されている抗原である。自己免疫疾患関連抗原の例を、以下に説明する。多発性硬化症およびEAEのような脱髄疾患に関する抗原のパネルまたはアレイは、プロテオリピドタンパク質(PLP);ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリン希突起膠細胞タンパク質(MOG);環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNPase);ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、およびミエリン関連希突起膠細胞塩基性タンパク質(MBOP);α-B-クリスタリン(熱ショックタンパク質);ウイルス性および細菌性擬態ペプチド、例えばインフルエンザ、ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルスなど;OSP(希突起膠細胞特異的-タンパク質);シトルリン修飾されたMBP(6位のアルギニンがシトルリンに脱イミノ化されたMBPのC8アイソフォーム)など由来のエピトープを含むことができる。複合的膜タンパク質PLPは、ミエリンの優位自己抗原である。PLP抗原性の決定基は、いくつかのマウス系統において同定されており、これは残基139-151、103-116、215-232、43-64および178-191を含む。少なくとも26種のMBPエピトープが報告されている(Meinlら、J. Clin. Invest.、92:2633-2643(1993))。注目すべき残基は1-11、59-76および87-99である。いくつかのマウス系統において同定された免疫優性なMOGエピトープは、残基1-22、35-55、64-96を含む。
【0045】
インスリン依存型糖尿病に関する抗原のパネルまたはアレイは、IA-2、IA-2β;GAD;インスリン;プロインスリン;HSP;glima 38;ICA69;および、p52由来の抗原およびエピトープを含むことができる。
【0046】
慢性関節リウマチに関するパネルまたはアレイは、II型コラーゲン;hnRNP;A2/RA33;Sa;フィラグリン;ケラチン;シトルリン;gp39を含む軟骨タンパク質;I型、III型、IV型、V型、IX型、XI型コラーゲン;HSP-65/60;IgM(リウマチ因子);RNAポリメラーゼ;カルジオリピン;アルドラーゼA;シトルリン修飾したフィラグリンおよびフィブリンなど由来のエピトープを含むことができる。修飾されたアルギニン残基(脱イミノ化されシトルリン形成)を含むフィラグリンペプチドを認識する自己抗体は、高割合のRA患者の血清において同定されている。自己反応性T細胞およびB細胞反応は両方共、一部の患者において同じ免疫優性なII型コラーゲン(CII)ペプチド257-270に対して方向づけられている。
【0047】
全身性エリスマトーデス(SLE)に関する抗原のパネルまたはアレイは、DNA;リン脂質;核抗原;Ro;La;U1リボ核タンパク質;Ro60(SS-A);Ro52(SS-A);La(SS-B);カルレチクリン;Grp78;Scl-70;ヒストン;Smタンパク質;および、クロマチンなどを含むことができる。
【0048】
自己免疫性ブドウ膜炎に関する抗原のパネルまたはアレイは、S抗原、および光受容体内レチノド結合タンパク質(IRBP)などを含むことができる。
【0049】
重症筋無力症に関する抗原のパネルまたはアレイは、アセチルコリン受容体を伴うエピトープを含むことができる。グレーブス病に関して、エピトープは、Na+/I-共輸送体;甲状腺刺激ホルモン受容体;Tg;および、TPOを含むことができる。シェーグレン症候群のパネルは、SSA(Ro);SSB(La);およびホドリンを含むことができる。尋常性天疱瘡に関するパネルは、デスモグレイン-3を含むことができる。筋炎に関するパネルは、tRNAシンテターゼ(例えば、トレオニル、ヒスチジル、アラニル、イソロイシル、およびグリシル);Ku;PM/Scl;SSA;U1 sn-リボ核タンパク質;Mi-1;Mi-1;Jo-1;Ku;および、SRPを含むことができる。強皮症に関するパネルは、Scl-70;動原体タンパク質;U1リボ核タンパク質;および、フィブリラリンを含むことができる。原発性胆汁性肝硬変のパネルは、ピルビン酸デヒドロゲナーゼE2およびα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ成分を含むことができる。悪性貧血のパネルは、固有の因子;および、胃のH/K ATPaseの糖タンパク質βサブユニットを含むことができる。
【0050】
自己抗体:
自己抗体は、自己抗原または自己エピトープを認識または結合する抗体である。自己抗原または自己エピトープは、ポリペプチド、タンパク質、ペプチド、脂質、多糖、およびゲノム内にコードされたまたは生物において産生されたこれらの自己抗原の修飾物を含む。
【0051】
アレルゲン:
これは、易罹患性の個体において、増強されたTh2型T細胞反応およびIgE B細胞反応を引き起す免疫原性化合物であり、喘息関連アレルゲンを含む。関心対象のアレルゲンは、イチゴ、ピーナッツ、牛乳タンパク質、卵白などの食物中に見出された抗原を含む。他の関心対象のアレルゲンは、植物花粉、動物のふけ、家ダニの糞などのような、様々な気中浮遊抗原を含む。分子クローニングされたアレルゲンは、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteryonyssinus)(Der P1);ライ草花粉由来Lol p1-V;ノミ(jumper ant)ミルメシア(Myrmecia pilosula)の毒液;ミツバチ(Apis mellifera)ハチ毒ホスホリパーゼA2(PLA2および抗原5S);スズメバチ ベスプラ マチュリフロンス(Vespula maculifrons)およびクロスズメ バチドリクベスプラ マキュラータ(Dolichovespula maculata)由来のホスホリパーゼを含む、多くの昆虫毒;カバノキ花粉、ブタクサ花粉、パロル(Parol)(ヒカゲミズ(Parietaria officinalis)の主要アレルゲン)および交差反応性アレルゲンParjl(パリエタリア ジャダイカ(Parietaria judaica)由来)、および他の大気中の花粉でオリーブ(Olea europaea)、ヨモギ(Artemisia sp.)、イネ(gramineae)などを含む、非常に多数の花粉タンパク質である。他の関心対象のアレルゲンは、吸血節足動物、例えば双翅目、蚊(アノフェレス(Anopheles)種、シマカ(Aedes)種、クリセタ(Culiseta)種、イエカ(Culex)種)、ハエ(サシチョウバエ(Phlebotomus)、クリコキエ(Culicokies))、特にクロバエ、シカバエ、およびヌカカ;マダニ(カクマダニ(Dermacenter sp.)、ヒメダニ(Ornithodoros sp.)、オトビウス(Otobius sp.));ノミ、例えばその他の隠翅類で、ネズミノミ(Xenopsylla)属、ヒトノミ(Pulex)属およびネコノミ(Ctenocephalides felis felis)を含むものにより引き起されるアレルギー性皮膚炎に寄与するものである。特異的アレルゲンは、多糖、脂肪酸部分、タンパク質などであることができる。
【0052】
特異的分析法
免疫関連疾患は、下記を含む:1.免疫反応が異常に自己抗原を攻撃する自己免疫疾患であり、例えば、多発性硬化症(MS)、慢性関節リウマチ(RA)、I型自己免疫糖尿病(IDDM)、および全身性エリスマトーデス(SLE)を含むが、これらに限定されるものではないもの;2.免疫系が、花粉、イエダニ抗原、ハチ毒、ピーナッツ油および他の食品などのような分子を異常に攻撃する、アレルギー性疾患;ならびに、3.免疫系が、例えば血液、骨髄細胞、または心臓、肺、腎臓および肝臓を含む固形臓器のような、生着または移植された組織内で発現されるかまたは拘束された抗原を異常に攻撃する、組織移植片拒絶反応。試料は、免疫関連疾患を示す臨床的症状を伴う患者、または家族歴もしくは遺伝子試験を基にこのような疾患の発症の増大した可能性を有する患者から得られる。
【0053】
ヒト患者試料採取に関する様式は、疾患進行を辿る時間経過、例えば発症初期、急性期、回復期など同様の病期にある異なる患者の比較;薬物療法、ワクチン処置などを含む、療法に対する反応経過期間の患者の追跡を含む。例えばマウス、ラット、ウサギ、サルなどの動物からのデータは、疾患経過、疾患に関連した抗原などを詳述するデータベースを提供するために、集計しかつ分析することができる。患者抗体が収集された生物学的試料は、血液およびそれからの誘導体、例えば血清、血漿、血漿成分などを含む。他の試料の供給源は、滑液、リンパ液、脳脊髄液、関節吸引液のような体液であり、かつ唾液、乳汁、尿などを更に含んでも良い。抗体およびT細胞受容体は両方共、血液、脾臓、胸腺、リンパ節、胎児肝のような組織、例えば膵臓、関節、腎臓、脳脊髄液などのような自己免疫病変部位の組織から収集される適当なリンパ球からも得ることができる。リンパ球は、そのまま分析するか、もしくは分析のために溶解液を調製することができる。患者試料は、抗体を含み、および抗原アレイは、これらの抗体のプロファイリングのために使用される。
【0054】
典型的なアッセイ法において、抗体を含有する患者試料は、抗原アレイと、高親和性結合をもたらすが非特異的相互作用は最小とするような条件下で、物理的に接触される。ひとつの態様において、患者試料は、アドレス指定可能なエレメントを含むアレイ上または空間にピペッティングされる。このアレイは、未結合の材料を洗浄除去され、かつ結合した抗体の存在が検出され、同源抗原と関連づけられる。
【0055】
患者試料内の抗体に結合しているアレイ内の疾患関連抗原を同定する手段は、当技術分野において公知の検出法を使用する。これらの同定法は、試料の直接的または間接的事前標識;これらの抗体または間接標識物に結合する第二段階の抗体、例えば標識したヤギ抗ヒト血清、ラット抗マウスなどの添加を含むことができる。他の同定法は、ビーズ、ナノ粒子、タグ、切断可能なタグ、およびアレイ内のエレメントのもしくはエレメントに付与されたその他の物理的特性のようなアドレス指定可能なエレメントの分析を含む。結合した抗体の定量を促進するために、単独のエピトープが変動する濃度で存在することができる。
【0056】
有用な標識は、蛍光色素、例えばCy2、Cy3、Cy5、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、テキサスレッド、フィコエリトリン、アロフィコシアニン、6-カルボキシフルオロセイン(6-FAM)、2',7'-ジメトキシ-4',5'-ジクロロ-6-カルボキシフルオロセイン(JOE)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシ-2',4',7',4,7-ヘキサクロロフルオロセイン(HEX)、5-カルボキシフルオロセイン(5-FAM)、またはN,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)を含む。間接的標識は、ハプテン、例えばジゴキシンおよびジゴキシゲニン、ビオチンなどを含み、ここで第二段階の結合パートナーは、例えば、アビジン、抗ジゴキシゲニン抗体などであり、酵素で標識しても良く、例として西洋ワサビペルオキシダーゼ、蛍光色素、放射標識などを含む。好ましくは、対照試料が含まれる場合、対照配列を標識するために使用される蛍光レポーターは、被験配列を標識するために使用された蛍光レポーターのものとは検出により識別できる、励起および/または発光波長で蛍光シグナルを放出する。
【0057】
検出は、標識を必要としない方法を用いて行うこともできる。実施例は、単電子トランジスタ、カーボンナノチューブもしくはナノチューブ網に塗布されたタンパク質、表面プラズモン共鳴、原子間力顕微鏡のような方法または装置、および当業者に公知の他の方法を用いる、結合した自己抗原の電荷または質量の変化の検出を含む。
【0058】
当技術分野において公知であるように、一般にアッセイ法は、様々な陰性および陽性対照を含むと考えられる。これらは、疾患がわかっている患者などの公知の自己抗体により「スパイクされた(spiked)」試料の陽性対照を含むことができる。陰性対照は、正常な患者、動物血清などからの試料を含む。
【0059】
抗体含有の試料の抗原アレイへの結合は、当技術分野において周知の方法に従い実現される。この結合条件および洗浄は、好ましくは高親和性結合パートナーのみが維持されるような条件下で行われる。
【0060】
異なる抗体の二色標識は、対照試料と比較された患者試料中の結合レベルをアッセイするために、同じアレイまたは別のアレイへの結合において使用することができる。一方の色の他方に対する比から、任意の特定のアレイエレメントについて、2種の試料中の特定の特異性を伴う抗体の相対的豊富さを決定することができる。加えて、これらの2種の試料の結合の比較は、このアッセイ法に関する内部対照を提供する。競合的アッセイ法は、当技術分野において周知であり、ここでは公知の特異性の競合抗体、またはエピトープ含有分子が、結合反応に含まれる。
【0061】
Shalonらの論文(Genome Res.、6:639(1996))に記されているように、アレイを走査型レーザー顕微鏡を用いてスキャンし、抗体の結合を検出することができる。適当な励起ラインを使用する別の走査が、使用される蛍光体の各々について行われる。その後この走査から形成されたデジタル画像を、引き続きの分析と組合わせる。任意の特定のアレイエレメントに関して、ひとつの試料からのシグナル比が、他方の試料からの蛍光シグナルと比較され、かつ相対的な豊富さが決定される。
【0062】
様々な方法を用い、患者試料から抗体特異的プロファイルが決定される。抗体特異的プロファイルは、最初に個々の患者について決定され、かつこれは本明細書において使用されるように、患者試料からの抗体により結合される抗原またはエピトープを意味する。患者試料から得られた結合パターンと、対照または参照試料から得られた結合パターンとの比較は、適当な演繹プロトコール、AIシステム、統計学的比較、パターン認識アルゴリズムなどの使用により実現される。典型的にはデータマトリックスが作成され、ここではデータマトリックスの各点が、特定のアレイまたは抗原もしくはエピトープからの読取り値に対応している。参照パターンからの情報は、抗原またはエピトープ伸展、相対的豊富さ、経時的変化、生成された抗体アイソタイプの変化、および他の関連した変化を決定するための分析法において用いることができる。
【0063】
抗原またはエピトープの読取り値は、測定値に関連した中間値、平均値、中央値もしくは偏差、または他の統計学的もしくは数学的に得られた値であることができる。抗原またはエピトープ読取り値情報は、対応する参照または対照パターンとの直接比較により更に精緻化することができる。結合パターンは、点の数について評価することができ:データマトリックス内の任意の点について統計学的に有意な変化が存在するかどうか;その変化が、エピトープ結合の増加または減少であるかどうか;その変化が、1種または複数の生理的状態に特異的であるかどうかなどを決定する。同じ条件下で各エピトープについて得られた絶対値は、生存している生物学的システムに本来備わっており、かつ個体の抗体の変動性に加え個体間での本来備わっている変動性も反映する変動性を示すと考えられる。
【0064】
参照パターンを同定するための分類則は、複数回の反復実験から得られたトレーニングデータ(すなわち、データマトリックス)のセットから構築されると考えられる。分類則は、反復された参照パターンを正確に同定し、かつ別個の参照パターンをうまく識別する場合に選択されると考えられる。分類則学習アルゴリズムは、決定樹法、統計学的方法、ナイーブベイズアルゴリズム(naive Bayesian algorithm)などを含むことができる。
【0065】
新規試験パターンを効率よく同定および分類するために、知識のデータベースは十分に複雑でなければならない。これは、分類パターンを十分に包含しているセットを作成するいくつかの方法、およびそれら間を識別するのに十分に強力な数学的/統計学的方法により達成される。
【0066】
ひとつの態様において、血清および他の病理学的組織試料の分析から得られた情報は、抗体特異的プロファイルのデータベースを精緻化しかつ構成するために使用される。例えば、特異的結合部分の同定は、疾患を追跡しかつ治療を開発するために使用することができる。
【0067】
患者の抗体特異的プロファイル:
本明細書において使用される抗体特異的プロファイルは、患者試料由来の抗体により認識された抗原またはエピトープの抗原またはエピトープアレイで決定されたスペクトルを意味する。
【0068】
一旦特定の試料に関する特異性のサブセットが同定されたならば、このデータは、新規診断薬の開発、および個体に最も適した療法の選択に使用される。個々の基準での自己抗体特異性の分析により、病態において存在する特異的エピトープ標的が決定される。次に1種または複数の治療薬を選択し、これは個々の患者および疾患について最良の特異性を有する。
【0069】
分析および治療の条件
慢性関節リウマチ(RA)は、世界人口の0.8%が罹患している慢性の自己免疫炎症性滑膜炎である。現在のRA療法は、免疫機能を非特異的に抑制または変調する治療薬を使用する。最近開発されたTNFαアンタゴニストを含むこのような療法は、根本的には治療的ではなく、かつ疾患活動度は、治療中断後迅速に回復する。全身の免疫抑制または変調を引き起さないような根本的治療法に関する、大きい臨床上の必要性が存在する。
【0070】
変性性関節疾患は、血清陰性脊椎関節炎、例えば、強直性脊椎炎および反応性関節炎;慢性関節リウマチ;痛風;および、全身性エリスマトーデスと同様に、炎症性の場合がある。変性性関節疾患は、共通の特徴を有し、これはすなわち関節の軟骨が腐蝕されるということであり、最終的には骨表面が露出する。軟骨の破壊は、プロテオグリカンの崩壊で始まり、ストロメライシンおよびコラゲナーゼなどの酵素により媒介され、圧縮応力に抵抗する能力の喪失を招く。CD44(Swissprot P22511)、ICAM-1(Swissprot P05362)のような接着分子、ならびにフィブロネクチンおよびテネイシンのような細胞外マトリックスタンパク質の発現の変化が続く。最終的に線維性コラーゲンは、メタロプロテアーゼにより攻撃され、かつ膠原性微小骨格が喪失された場合は、再生による修復は不可能である。
【0071】
炎症性関節炎の経過中に滑膜内に重要な免疫学的活性がある。初期段階での治療が望ましいが、本疾患の有害な症状は、更に後期段階での治療により、少なくとも部分的に改善されうる。関節炎の重症度に関する臨床的指標は、疼痛、腫脹、疲労および早朝強直を含み、かつパンヌス(Pannus)判定基準により定量的にモニタリングすることができる。動物モデルにおける疾患進行は、罹患した関節炎症の測定により辿ることができる。炎症性関節炎の療法は、従来型NSAID治療による主治療と組合わせることができる。一般にこの主治療は、サイクロスポリンA、メトトレキセートなどの疾患を変更する薬物とは一緒にすることはないと考えられる。
【0072】
IFN-γを分泌する能力を伴うミエリン自己反応性T細胞における定量的増加は、MSおよびEAEの病理進行に関連づけられ、これはMS患者の末梢血中の自己免疫インデューサー/ヘルパーTリンパ球が、MS患者における脱髄過程を開始および/または調節し得ることを示している。この顕性疾患は、筋肉の衰弱、腹壁反射の喪失、視野欠損および感覚異常に関連する。前徴の期間に、脳脊髄液への白血球浸潤、炎症および脱髄が存在する。家族歴およびHLAハプロタイプDRB1*1501、DQA1*0102、DQB1*0602の存在は、本疾患の易罹患性の指標である。疾患進行をモニタリングすることができるマーカーは、脳脊髄液中の抗体の存在、視覚皮質および脳幹の脳波記録法により認められる「誘発電位」、およびMRIまたはコンピューター画像診断による脊髄欠損の存在である。本疾患の初期の治療は、更なる神経機能の喪失を遅延または抵抗性とすると考えられる。
【0073】
ヒトIDDMは、インスリン分泌するβ細胞の破壊および顕性の高血糖につながる、細胞媒介型自己免疫障害である。Tリンパ球は、ランゲルハンス島を侵襲し、インスリン産生β-細胞を特異的に破壊する。β細胞の枯渇により、血糖値が調節不能になる。顕性糖尿病は、血糖値が特定のレベル、通常約250mg/dlを超える場合に生じる。ヒトにおいて、糖尿病の開始に先立ち長い前徴期間がある。この期間には、膵のβ細胞機能が段階的に喪失される。本疾患の進行は、家族歴および遺伝子解析により易罹患性であると診断された個体において経過観察することができる。最も重要な遺伝子作用は、主要組織適合性遺伝子座(IDDM1)の遺伝子において認められるが、インスリン遺伝子領域(IDDM2)を含む他の遺伝子座も、本疾患との連鎖を示している(Daviesら、前掲、およびKennedyら、Nature Genetics、9:293-298(1995))。
【0074】
前徴期間において評価することができるマーカーは、膵内のインスリン炎の存在、島細胞抗体、島細胞表面抗体のレベルおよび頻度、膵β細胞上のクラスII MHC分子の異常な発現、血中の糖濃度、および血漿中インスリン濃度である。膵におけるTリンパ球数、島細胞抗体および血糖の増加は、インスリン濃度の低下同様、本疾患の指標である。顕性糖尿病の発症後、インスリンC-ペプチドの血漿中維持により証明されるβ細胞機能が残っている患者も、機能の更なる喪失を防ぐために、本治療の恩恵を受けることができる。
【0075】
アレルギーまたはアトピーは、IgEに基づく感度の増加傾向であり、免疫原に対する、特に昆虫毒、イエダニ、花粉、カビまたは動物のフケのような通常の環境的アレルゲンに対する特異的IgE抗体の産生を生じる。アレルギー反応は、抗原特異性である。更に抗原に対する免疫反応は、反応性T細胞による、Th2型サイトカイン、例えばIL-4、IL-5およびIL-10の過剰産生により特徴付けられる。感作は、遺伝的素因のあるヒトにおいて、低濃度のアレルゲンへの曝露後に生じ;煙草の煙およびウイルス感染症は、この感作過程を補助する。
【0076】
喘息関連アレルギーのヒトは、アトピーに罹患している患者群に含まれる。この集団の約40%がアトピー性であり、この群のほぼ半分は、取るに足りない鼻炎から生命を脅かすような喘息までの臨床疾患を発症している。感作後、アレルゲンへの継続曝露は、喘息罹患率の顕著な増加につながる。喘息は小児の90%および成人の80%がアトピー性である。一旦感作が生じると、アレルゲンへの再曝露は、喘息増悪のリスク因子である。アレルギー性喘息の有効な管理は、薬理療法およびアレルゲン回避を含む。アレルギー関連した喘息の特異的生理的作用は、気道炎症、好酸球増加症、および粘液産生、ならびに抗原特異的IgEおよびIL-4産生を含む。
【0077】
アレルギーに罹患しているヒト集団に加え、非ヒト哺乳類も、アレルギー状態に罹患することがわかっている。ネコノミおよびその他のノミが、哺乳類の生理的障害の主な原因として新たに認められた。これらの昆虫は、イヌ、ネコ、およびヒトを攻撃する外部寄生生物である。一定の種(すなわちイヌおよびネコ)、ならびにこれらの種の個体は、他のものよりもノミの咬傷に対してよりアレルギー性であり、ノミアレルギー性皮膚炎(FAD)またはノミの咬傷に対する過敏症と称される臨床障害をもたらす。FADの顕著な特徴は、ノミの咬傷部位のみではなく、明確に体中にも分散するような強い掻痒(痒み)である。このアレルギー反応は、ノミが咬んだ時に皮内に注入された経口分泌物中の様々なタンパク質物質に対する全身の反応である。慢性のFADは、瘢痕および永久脱毛箇所につながり、脂漏に関連することが多く、イヌの家中に充満する悪臭を生じる。ノミアレルギーは、丘疹状じんま疹として知られているヒトの一般的皮膚炎の有力な原因としても認められている。
【0078】
抗原特異的療法
前述のような、患者試料中に存在する抗体により認識された抗原またはエピトープは、抗原またはエピトープ特異的治療薬の投与を含む、抗原またはエピトープ特異的療法の開発および選択に使用することができ、ここでこの薬物は、患者抗体のアレイ上のアドレス指定可能なエレメントへの結合により定義される。患者の抗体特異的プロファイルは、下記を含む、抗原またはエピトープ特異的療法の開発、選択およびこれに対する反応のモニタリングに使用することができる:(1)「経口寛容」と称される、特異的抗原の経口投与(Annu Rev Immunol.、12:809-37);(2)天然型ペプチドの投与(Science、258:1491-4;J Neurol Sci.、152:31-8);(3)変更されたペプチドリガンドの投与(Nature、379:343-5);(4)全タンパク質の投与(Science、263:1139);融合-タンパク質またはペプチドの投与;DNA、または花粉、チリダニ、ネコの唾液の抗原を含むアレルゲンのような他の分子の投与(J. Rheumatology、28:257-65);標的化された自己タンパク質またはアレルゲンをコードするポリヌクレオチド配列の投与(J. Immunol、162:3336-41;Curr. Dir. Autoimmun、2:203-16)。これらの療法の全てについて、免疫抑制を目的として投与された(またはDNA中にコードされた)抗原は、抗体により同定されたエピトープの全てまたは一部を含み得る。ひとつの態様において、こうして同定された1種または複数のエピトープが投与され、通常2種またはそれ以上、より一般的には3種またはそれ以上が投与され、かつ10種ものまたはそれ以上の異なるエピトープを含むこともできる。個々のペプチドまたはペプチドをコードするDNAを投与することができる。または、全タンパク質、または全てもしくは実質的に全ての抗原性タンパク質をコードするDNAを、投与することもできる。従って1種または複数の、通常2種またはそれ以上の、および3種ものまたはそれよりも多い異なるタンパク質抗原を投与することができる。本明細書において使用される抗原特異的療法は、本発明の新規方法により決定された抗原特異的プロファイルを基にした治療法を意味する。
【0079】
別の本発明の態様において、先に説明された知識に基づく方法を使用し、疾患パターンを同定し、ここで特定の患者試料は、疾患進行のパターンにマッピングすることができる。このような場合に、抑制的エピトープは、患者抗体により現在認められたエピトープを含むのみではなく、疾患の進行を予測し、および本疾患の後期においておそらく疾患に関連するペプチドを投与することもでき、従って多くの自己免疫疾患において観察されたエピトープ伸展を防ぐことができる。
【0080】
ひとつの態様において、治療は、例えば国際特許出願番号PCT出願US00/0623号に記載されているような、例えば筋肉または皮膚のような宿主組織へ注射されたDNA発現カセットの投与による、抗原特異性、抑制性T-細胞反応を誘導することを含む。このベクターは、少なくとも一部の自己抗原、移植抗原などをコードするDNA配列を含む。このワクチン処置に対する反応において、抑制反応が惹起される。抗原特異的T細胞増殖は阻害され、かつTh1サイトカイン産生が低減される。
【0081】
標的化された抗原に関与する自己免疫疾患の予防は、顕性疾患の発症前のワクチンの投与により実現される。抑制性のワクチン処置が患者の臨床症状を安定化または改善するような、進行中の疾患の治療は、特に興味深い。このような治療は、罹患した組織の機能が完全に失われる前に行われることが望ましい。
【0082】
通常ベクターの一部として、抗原の全て、実質的に全て、または一部をコードし、少なくともひとつの完全なエピトープをコードするDNA発現カセットが、レシピエントの組織に導入される。遺伝子またはミニ遺伝子は、この組織において発現され、かつコードされたポリペプチドは、免疫原、または抗原として作用する。CD80およびCD86のような共刺激分子を欠いている、「非プロフェッショナル」細胞による抗原配列の提示は、抑制性T細胞反応を刺激すると仮定することができる。
【0083】
このDNA発現カセットは、抗原断片をコードする配列のほとんどまたは全てを含むと考えられる。このコード配列は、5'または3'末端で切断することができ、完全なポリペプチド配列の断片であることができる。本発明のひとつの態様において、配列は、例えば宿主のクラスII MHC分子により提示されたペプチドのような、病原性T細胞に対して提示されることが分かっているペプチド断片をコードする。このようなペプチドは、文献において説明されており、かつ典型的には約8〜約30個のアミノ酸長である。別の態様において、この配列は、完全な抗原性タンパク質、または実質的に全ての抗原性タンパク質をコードする。更に別の態様において、この配列は、注入された場合に劣化され得るか、もしくは寛容化療法の効能を低下し得るような自己タンパク質の一部が取り除かれたような自己タンパク質をコードする。
【0084】
このワクチンは、1種のエピトープまたはエピトープ配列のカクテルと共に製剤化することができる。場合によっては、複数の配列を含むことが望ましく、ここで各々は、異なるエピトープをコードする。例えばLeadbetterらの論文(J. Immunol.、161:504-512(1998))を参照のこと。別個のエピトープの複数のコード配列で構成された製剤を使用し、より強力および/またはより持続した抑制反応を誘導することができる。このような製剤は、複数の自己反応性T細胞集団を特異的に標的化することにより、自己抗原抵抗性の発症を遅延または予防することができる。
【0085】
自己抗原の特異的エピトープおよびポリペプチドに加え、免疫反応は、Kriegらの論文(Trends Microbiol.、6:23-27(1998))に説明されたCpG配列の含有、およびKingらの論文(Nat. Med.、4:1281-1286(1998))に説明されたヘルパー配列の含有により増強することができる。メチル化されないCpGジヌクレオチドのようなDNAモチーフの生物学的作用は、特に塩基の状況において(CpG-Sモチーフ)、動物に注射された場合に先天的免疫反応を変調することができる。
【0086】
抗原配列は、適当な発現カセットに挿入される。この発現構築物は、通常の方法で調製される。このカセットは、レシピエント細胞におけるこの配列の発現のために適当な転写および翻訳調節配列を有すると考えられる。このカセットは、一般にベクターの一部であり、これはレシピエントへのその導入前に、ベクターの増殖、増幅および操作に必要であるような、適当な複製起点、および選択可能なマーカーをコードする遺伝子を含む。適当なベクターは、プラスミド、YAC、BAC、バクテリオファージ、レトロウイルス、アデノウイルスなどを含む。発現ベクターはプラスミドであることが好都合であると考えられる。レシピエントへの導入前に、このカセットは、当技術分野において公知であるように、切断、増幅などによりベクター配列から単離することができる。注入に関して、DNAは、スーパーコイル状または線状であることができ、好ましくはスーパーコイル状である。このカセットは、宿主細胞において延長された期間維持されるか、もしくは一過性であることができ、一般には一過性である。安定した維持は、例えばレトロウイルスベクター、EBVベクターなどの組込みおよび/または維持を提供する配列を含むことにより達成される。
【0087】
発現カセットは、一般に外因性転写開始領域、すなわち通常存在する染色体内でT細胞受容体に会合されるプロモーター以外のプロモーターを使用する。このプロモーターは、宿主細胞において、特にカセットにより標的化される宿主細胞において機能する。プロモーターはインビトロ組換え法により、もしくは、適当な宿主細胞による配列の、相同的組込みの結果として導入することができる。このプロモーターは、抗原のコード配列に機能的に連結されており、翻訳可能なmRNA転写産物を作製する。発現ベクターは都合の良いことに、抗原配列の挿入を促進するためにプロモーター配列の近傍に配置された制限部位を有する。
【0088】
発現カセットは、構成性または誘導性であることができる転写開始領域、抗原配列をコードする遺伝子、および転写終結領域を含むように調製される。この発現カセットは、様々なベクターに導入することができる。関心対象のプロモーターは、誘導性または構成性であることができ、通常構成性であり、かつレシピエント細胞において転写を提供すると考えられる。このプロモーターは、レシピエント細胞型においてのみ活性があるか、もしくは多くの様々な細胞型において広範に活性があることができる。哺乳類細胞のための多くの強力なプロモーターが当技術分野において公知であり、これはβ-アクチンプロモーター、SV40初期および後期プロモーター、免疫グロブリンプロモーター、ヒトサイトメガロウイルスプロモーター、レトロウイルスLTRなどを含む。これらのプロモーターは、エンハンサーに会合してもしなくとも良く、ここでエンハンサーは、特定のプロモーターに自然に会合されるか、もしくは異なるプロモーターに会合され得る。
【0089】
終結領域は、コード領域の3'側に提供され、ここで終結領域は、可変領域ドメインに天然に会合されるか、または異なる供給源に由来することができる。多種多様な終結領域を、有害に作用する発現を伴わずに使用することができる。
【0090】
一般には20個を超えない、より一般的には15個を超えないような、少数のヌクレオチドを、自己抗原配列の末端に挿入することができる。ヌクレオチドの欠失または挿入は、通常構築の必要性の結果であり、都合の良い制限部位、プロセシングシグナルの追加、コザック共通配列の追加、操作の容易さ、発現レベルの改善などを提供すると考えられる。加えて、同様の理由のために1種または複数のアミノ酸の異なるアミノ酸との置換を望むことができ、通常はこの領域では約5個よりも多いアミノ酸は置換されない。
【0091】
DNAベクターは、生理的に許容される緩衝液、一般には水溶液、例えば通常の生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、水などの中に浮遊される。安定化剤、湿潤剤および乳化剤、浸透圧を変動するための塩、または至適pH値を確実にするための緩衝液、および皮膚浸透増強剤を、補助剤として使用することができる。DNAは通常、濃度が少なくとも約1ng/mlであり、約10mg/mlを超えないように存在し、通常約100μg〜1mg/mlである。
【0092】
DNA寛容療法は、2回またはそれよりも多い投与量に分けることができ、1回の投与量につき少なくとも約1μg、より一般的には少なくとも約100μg、および好ましくは少なくとも約1mgであり、約4日から1週間空けて投与される。本発明の一部の態様において、個体には、完全で広範な免疫反応を生じるために、一連のワクチン処置が施される。本方法に従い、少なくとも2回および好ましくは4回の注射が、時間をかけて行われる。注射の間の時間は、24時間間隔から2週間またはそれよりも長い注射の間隔を含むことができ、好ましくは1週間間隔である。または、少なくとも2回から最大4回の別個の注射を、体の異なる部位に同時に与えられる。
【0093】
DNA治療薬は、筋肉または他の組織に皮下、皮内、静脈内、経口によりまたは髄液もしくは滑液へ直接注入される。特に関心があるのは、骨格筋への注射である。遺伝子治療薬は、直接免疫処置される個体へ、または投与後再移植される個体から取り出された細胞にエクスビボで投与することができる。いずれの経路によっても、遺伝的物質は、個体の体内に存在する細胞へ導入される。または、遺伝子治療薬は、個体から取り出された細胞へ様々な手段により導入することができる。このような手段は、例えば、トランスフェクション、電気穿孔および微量射出可能な遺伝子銃を含む。遺伝子構築物を細胞から取り出した後、これらは個体へ再移植される。さもなければその中に組込まれた遺伝子構築物を有する非免疫原性細胞が、1つの個体から採取され、かつ別の個体へ移植される。
【0094】
ブピバカインまたは機能的類似性を有する化合物は、ワクチンの前にまたはこれと同時に投与することができる。ブピバカインは、メピバカインの相同体であり、リドカインに関連する。これは筋肉組織電位を、ナトリウムチャレンジに対して感受性とし、細胞内イオン濃度に作用する。ブピバカイン、メピバカイン、リドカインおよび他の同様に作用する化合物に加え、他の企図された細胞を刺激する物質は、レクチン、増殖因子、サイトカインおよびリンホカイン、例えば血小板由来増殖因子(PDGF)、gCSF、gMCSF、表皮増殖因子(EGF)およびIL-4がある。
【0095】
DNA寛容化の代替として、またはこれに加えて、特異的ペプチド、変更されたペプチド、またはタンパク質が、自己免疫を治療するための抗原特異的寛容を誘導するために、治療的に投与される。自己免疫反応により標的化された天然型ペプチドは、抗原特異的寛容を誘導するために送達することができる(Science、258:1491-4)。天然型ペプチドは、静脈内に送達され、免疫寛容を誘導する(J Neurol Sci.、152:31-8)。
【0096】
天然型ペプチドから変更されたペプチドの送達も、当技術分野において公知である。天然型ペプチドの重要な残基の選択的変化による変更(変更されたペプチドリガンドまたは「APL」)は、抗原特異的自己反応性T細胞の不応答または応答の変化を誘導することができる。
【0097】
「ペプチド類似体」は、長さが少なくとも7個のアミノ酸であり、かつ類似体と天然型抗原性ペプチドの間にアミノ酸配列における少なくとも1個の違いを含む。天然型ペプチド由来のL-アミノ酸は、タンパク質において通常認められる20個のL-アミノ酸のいずれか他のひとつ、対応するD-アミノ酸のいずれかひとつ、稀なアミノ酸、例えば4-ヒドロキシプロリン、およびヒドロキシリシン、または非タンパク質アミノ酸、例えばβ-アラニンおよびホモセリンに変更することができる。メチル化(例えば、α-メチルバリン)、エチルアミン、エタノールアミン、およびエチレンジアミンなどのアルキルアミンによるC-末端アミノ酸のアミド化、ならびにアミノ酸側鎖機能のアシル化またはメチル化(例えば、リシンのεアミノ基のアシル化)、アルギニンからシトルリンへの脱イミノ化、イソアスパルチル化、またはセリン、トレオニン、チロシンもしくはヒスチジン残基のリン酸化などの化学的手段により変更されているアミノ酸も、本発明の範囲内に含まれる。
【0098】
どのように変更されたペプチドリガンドが有効であるかという作用の機序は、T細胞受容体(TCR)の不完全な動員に関与し得る。APLが誘導することができるいくつかの可能性のある機能的変更があり、これは以下を含む:簡単なアンタゴニスト、ここでAPLは、MHC結合について抗原提示細胞上の天然型ペプチドと競合し、かつ完全なT細胞活性化をもたらさない。これは、APLによりT細胞受容体を介してシグナル伝達されないことを暗示している。アネルギー、ここでAPLはT細胞における完全な不応答の状態を誘導し、その結果T細胞は天然型ペプチドに反応しない。表現型スイッチング、ここでAPLがT細胞における機能的スイッチを誘導し、その結果これは、前炎症性サイトカインの産生を減少し、および/またはIL-4またはIL-10のような非炎症性サイトカインの産生を増加する。
【0099】
ペプチドおよびペプチド類似体は、自動化された手法による合成を含む、標準の化学技術により、合成することができる。一般にペプチド類似体は、C-末端アミドを伴うペプチドを得るためのジシクロヘキシルカルボジイミドによる活性化による、保護されたアミノ酸残基の各々の、好ましくは4-メチルベンズヒドリルアミン樹脂である樹脂支持体へのカップリングを含む固相ペプチド合成法により調製される。または、クロロメチル樹脂(メリフィールド樹脂)を用い、C-末端に遊離カルボン酸を伴うペプチドを得ることができる。最後の残基が結合された後、保護されたペプチド樹脂は、フッ化水素で処理され、ペプチドを樹脂から切断し、更に側鎖官能基を脱保護する。粗生成物は更に、ゲルろ過、HPLC、分配クロマトグラフィー、またはイオン交換クロマトグラフィーにより精製することができる。
【0100】
候補ペプチド類似体は、MHCへの競合的結合を測定するアッセイ法、およびT細胞増殖を測定するアッセイ法により、疾患を治療するそれらの能力に関してスクリーニングすることができる。天然型ペプチドの結合を阻害しかつ自己反応性T細胞の増殖を刺激しないこれらの類似体は、有用な治療薬である。候補ペプチド類似体は更に、直接的様式でこの類似体がT細胞増殖を引き起す能力を測定するか、またはペプチド類似体が天然型ペプチドにより誘導されたT細胞増殖を阻害する能力を測定することにより、T細胞増殖を刺激または阻害するそれらの特性について試験される。
【0101】
これらのペプチドは、1種のまたは異なるエピトープのカクテルとして、例えば静脈内または皮下の経路により、患者へ投与され、免疫反応の抑制を提供する。APLおよび天然型ペプチドは、用量0.5〜100mg/投与で二週間毎から毎月を基本に静脈内および皮下の両方で送達される。
【0102】
別の態様において、自己免疫反応により標的化された全タンパク質抗原は、自己免疫の治療に対する免疫寛容を回復するために送達することができる(Science、263:1139)。
【0103】
アレルゲン免疫療法、または減感作は、通常維持療法として維持される用量までの漸増用量範囲で、一定間隔毎の、抗原としてのアレルゲン抽出物の非経口投与である。免疫療法の適応は、前述のような抗体特異性の診断により決定される。アレルゲン免疫療法は、アレルギー反応の症状および徴候の低減、または昆虫毒、ペニシリンなどのような抗原に対する将来のアナフィラキシーの予防を目標とし、アレルギー患者へアレルゲンの注射を規則的に提供することにより行われる。これは、通常最初に低用量で行われ、用量は1週間かけて漸増される。
【0104】
免疫療法は、注射されたアレルゲンに対し特異的である。これは、下記の免疫学的変化を生じる:サイトカイン産生における対応する変化を伴うTh2型反応からTh1型反応へのT細胞反応のシフト、低下したアレルゲン特異的IgE産生、増加したアレルゲン特異的IgG産生、減少した炎症細胞、減少した炎症メディエーターおよび減少したヒスタミン放出因子。これらの変化は、標的臓器におけるアレルゲンに対する反応性の低下を生じる。
【0105】
注射されるアレルゲンの量は、経験に由来し、かつレシピエントのサイズによって決まり、一般に体重1kg当り少なくとも約100ngのアレルゲンであり、体重1kg当り約1mgのアレルゲンを超えることはない。頻繁に用量は、注射の経過を通じて、約10倍から1,000,000倍までも増大される。注射のスケジュールは、個々の患者で変動する。例えばアルピラル(Allpyral)調製物は、維持量に達するまでは、1〜2週間毎に投与される。維持注射は、2〜4週間毎に投与される。免疫療法スケジュールは個別化され、かつ固定されたスケジュールは推奨されないことは再度強調されるべきである。アレルギー注射は、「永久」に継続されることは稀であり、通常は患者がアレルギー症状を経験せず、かつ維持スケジュールの期間に連続18〜24ヶ月間投薬を必要なくなった後に、終了することができる。平均的患者の治療期間は、3〜5年であるが、ある種の臨床状況においてはより長いことがある。免疫療法の中断後6〜12ヶ月間の経過観察期間の後に症状が再発した場合は、再評価が望まれる。
【0106】
アレルゲン免疫療法は、下記の適応症に適している:最適なアレルゲン回避および投薬が症状の制御に十分有効ではない、重症の季節性(2年またはそれ以上続く)または1年中のIgE依存型アレルギー性鼻結膜炎;IgE媒介型アレルギー性喘息;特に、アレルゲン曝露と喘息の徴候および症状の間に明らかな時間的関係があるもの、ならびに症状が毎年ふたつまたはそれよりも多いアレルギーの季節に生じるもの。チリダニまたはブタクサ花粉により惹起されたIgE媒介型喘息は、アレルゲン免疫療法により治療することができる。IgE媒介型アナフィラキシーは、昆虫の刺創に対して反応する。スズメバチ、キイロスズメバチ、クロスズメバチ、ジガバチおよびミツバチの毒、フシアリの全身の抽出物による免疫療法は有効である。
【0107】
組織移植片拒絶反応
肺、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、ならびに他の臓器および組織を含む組織移植片の免疫拒絶反応は、移植された臓器に対する移植レシピエントにおける免疫反応により媒介される。同種移植した臓器は、移植レシピエントのアミノ酸配列と比較した場合に、アミノ酸配列の変化を伴うタンパク質を含む。移植された臓器のアミノ酸配列は、移植レシピエントのものとは異なるので、これらは頻繁にレシピエントにおいて移植された臓器に対する免疫反応を惹起する。移植された臓器の拒絶反応は、大きい合併症であり、組織移植の制限であり、レシピエントにおいては移植臓器の機能不全を引き起し得る。拒絶反応の結果である慢性の炎症は、移植された臓器の機能障害につながることが頻繁である。移植レシピエントは現在、拒絶反応を防止および抑制するために、様々な免疫抑制剤で処置されている。これらの物質は、糖質コルチコイド、サイクロスポリンA、Cellcept、FK-506、およびOKT3を含む。
【0108】
本発明は、特定の方法、プロトコール、細胞株、動物種または属、ならびに説明された試薬に限定されず、これらは変動することができることは理解されるはずである。本明細書において使用される用語は、特定の態様を説明することのみを目的とし、本発明の範囲を制限することは意図しておらず、これは添付の特許請求の範囲によってのみ制限されることも理解されるはずである。
【0109】
本明細書において使用される単数形(「a」、「an」、「the」)は、本文で別に明確に記さない限りは、複数の意味も含む。本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、特に別に明確に記さない限りは、本発明が属する技術分野の業者により通常理解されるもの同じ意味を有する。
【0110】
下記の実施例は、当業者にいかにして本発明を作製しかつ使用するかという完全な開示および説明を提供するために示しており、本発明とみなされるものの範囲を制限することは意図されていない。使用した数字(例えば、量、温度、濃度など)に関する精度を確実にするために努力が払われているが、若干の実験誤差および偏差は、許されるべきである。別に特に記さない限りは、部は質量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏であり、かつ圧力は大気圧またはその近傍である。
【0111】
本明細書に引用された全ての刊行物および特許出願は、各々個々の刊行物および特許出願が具体的かつ個別に参照として組入れられていることが示されるのと同様に、参照として組入れられている。
【実施例】
【0112】
実施例1
ラットおよびマウスのEAEにおける自己抗体反応の特異性の抗原アレイ特徴決定
EAE動物の血清中の自己抗体特異的プロファイルを決定するために、血清抗体のタンパク質マイクロアレイへの結合を試験するアッセイ法を行った。
【0113】
表1に列記したような、免疫優性なミエリンペプチドエピトープおよび精製した天然型ミエリン塩基性タンパク質をスポットすることにより抗原アレイを作成した。図1A-Dは、正常な対照ラット(A)、および完全フロイントアジュバント中の異なるミエリンタンパク質ペプチドによりEAEを発症するように誘導した3匹のルイス(Lewis)ラット(B-D)の血清で、その後Cy-3標識した抗ラットIg二次抗体によりプローブしたアレイの走査し画像化したものである。
【0114】
走査した画像の定量的コンピュータ解析を、表1に示した。報告された数値は、バックグラウンドレベルについて調節し、対照血清に対するEAE動物由来の血清により認識された抗原の蛍光強度の比で表わし、その結果1より大きいまたは小さい比は(1=差なし)は、>95%信頼区間での統計学的有意差を示している。結果は、ELISAにより確認した。これらの結果は、抗原アレイがEAEにおける自己抗体反応のペプチド特異性を強力に同定することを明らかにしている。
【0115】
(表1)ルイスラットにおけるEAEの自己抗体反応の特異性の抗原アレイ特徴決定

【0116】
実施例2
自己免疫リウマチ疾患における患者の抗体特異的プロファイルの決定
自己抗原アレイは、8種の別個のヒト自己免疫リウマチ疾患の自己抗体プロファイル特性を同定する
50種を超える高度に特徴決定された自己免疫血清試料の自己抗原アレイ分析の代表的実施例を示す(図2)。
【0117】
整列された自己抗原アレイを、ロボット型マイクロアレイ装置を用いる4つ組のセットにおいて192種の別個の推定自己抗原をスポットすることにより作製し、1152種の特性のリウマチ疾患自己抗原アレイを作製した。スポットした抗原は、以下を含む:36種の組換えまたは精製したタンパク質、Ro52、La、ヒスチジル-tRNAシンテターゼ(Jo-1)、SRタンパク質、ヒストンH2A(H2A)、Sm-B/B'、U1小核リボ核タンパク質複合体の70kDaおよびC成分(U1-7OkDa、U1snRNP-C)、Sm-B/B'、hnRNP-B1、Sm/RNP複合体、トポイソメラーゼI(topo I)、動原体タンパク質B(CENP B)、およびピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH);数種類の型の哺乳類二本鎖DNA(dsDNA)および合成一本鎖DNA(ssDNA)を含む、6種の核酸に基づく推定抗原;ならびに、snRNPタンパク質、Smタンパク質、およびヒストンH1、H2A、H3およびH4が代表例である154種のペプチド。加えて、本発明者らは、ヒトIgGおよびIgM(α-IgGおよびα-IgM);インフルエンザAおよび肺炎球菌(ニューモバックス(Pneumovax))に対するワクチン;ならびに、アレイを方向付けるためにマーカースポットとして使用するためのCy-3およびCy-5で予め標識し抗体混合物(黄色特徴)に関する抗体特異性をスポットした。自己抗原アレイは、(a)特異的自己抗体反応性が検出されなかった健常個体(正常);(b)Ro52およびLaに対する自己抗体反応性を示している、シェーグレン症候群;(c)DNA、ヒストンH2A、U1-7OkDa、およびSRタンパク質に対する反応性を示しているSLE;(d)Jo-1およびRo52に対する反応性を示しているPM;(e)DNA、ヒストンH2A、Ro52、およびU1-7OkDaに対する反応性を示しているMCTD;(f)PDHに対する反応性を示しているPBC;(g)topo Iに対する反応性を示しているsclero-D ;(h)CENP Bに対する反応性を示しているsclero-L;ならびに、(i)hnRNP-B1に対する反応性を示しているRA由来の希釈した患者血清試料と共にインキュベーションした。各アレイのプロービングに使用した自己免疫疾患血清は、図の上側に示し、かつ灰色ボックス中に含まれた抗原特性を切貼りした各行は、単独のアレイからの代表的抗原特性である。実験的自己免疫脳脊髄炎の齧歯類由来の血清中の自己抗体によりアレイ上で認識されたミエリン塩基性タンパク質ペプチドを、代表的陰性対照(MBP 68-86)として含んだ。結合した抗体は、Cy-3標識ヤギ抗ヒトIgM/IgGを用いて検出し、その後走査した。
【0118】
公開されたように、シェーグレン症候群、SLE、PM、混合結合組織病(MCTD)、PBC、びまん性および限局性強皮症(sclero-Dおよびsclero-L)、および慢性関節リウマチ(RA)の患者由来の高度に特徴付けられた血清試料は、識別できかつ診断的な自己抗体特異的パターンを同定している。例えば、DNAおよびヒストンに対するSLE特異的自己抗体が検出された(図2c)。DNA特異的自己抗体は、一部のモデルにおいては病原性であり、かつそれらの力価は、疾患活動度と相関することが多い。Jo-1自己抗体(図2d)は、臨床上のPMに数ヶ月から数年先行することが多く、間質性肺疾患の発症および予後不良を予測する。びまん性および限局性のいずれかの強皮症患者由来の自己抗体は、各々、topo IおよびCENP Bを独自に標的としている(図2gおよびh)。CENP B自己抗体は、間質性肺疾患および腎疾患の低い発生率と関連づけられる一方、トポイソメラーゼ自己抗体の存在は、肺線維症のリスク上昇および生存率低下と相関している。自己抗原反応性は、10名の健常個人由来の血清がプローブとして使用される場合には認められなかったにも関わらず、肺炎球菌およびインフルエンザに対する抗体は再現性を伴い検出された(図2a)。これらのアレイプロファイルは、先に説明された従来型のアッセイ法の結果と正確に相関していた。
【0119】
これらの結果は、抗原アレイは、タンパク質、ペプチド、核酸、翻訳後修飾された抗原、およびタンパク質複合体に特異的である自己抗体を検出することを明らかにしている。このような情報は、診断、予後判定、治療に対する反応のモニタリング、ならびに抗原特異的療法の開発および選択に使用することができる。
【0120】
実施例3
ヒト多発性硬化症患者の脳脊髄液からの自己抗体特異的プロファイルの決定
ミエリンタンパク質およびペプチドを含む抗原アレイを用い、多発性硬化症のヒト患者由来の脳脊髄液試料中の自己抗体反応の特異性を特徴決定した(図3)。図3のアレイは、全ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、MBPペプチド1-20(MBPのアミノ酸1-20に相当)、MBPペプチド68-86、全ミエリン希突起膠細胞タンパク質(MOG)、MOGペプチド35-55、およびプロテオリピドタンパク質(PLP)ペプチド139-151に特異的である脳脊髄液自己抗体の検出を明らかにしている。実施例2のように、このような情報は、診断、ならびに特異的療法の開発、モニタリングおよび選択に使用することができる。
【0121】
2400スポットの「ミエリンプロテオーム」アレイを、ロボット型マイクロアレイ装置を用いこれらの推定ミエリン抗原をスポットすることにより作製し、脳脊髄液で、引き続きCy-3標識した抗ヒトIg二次抗体でプローブし、ジーンピックス(GenePix)スキャナーを用い走査し、かつジーンピックスソフトウェアを用いて画像解析し、各スポットに結合している自己抗体のレベルを決定した。これらのアレイは、MBP、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン希突起膠細胞タンパク質(MOG)、これらのタンパク質を表わしている重複しているペプチド、ならびに環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNPase)、ミエリン関連糖タンパク質(MAO)、およびミエリン関連希突起膠細胞塩基性タンパク質(MBOP)を含む追加のミエリン自己抗原から優位エピトープを表わしているペプチドを含んでいる、400種の異なるミエリンタンパク質およびペプチドエピトープを含む。
【0122】
対照患者において、インフルエンザウイルスおよび肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumonia)を含む共通かつ遍在的なヒト病原体に対し特異的な抗体は、検出されるが、ミエリンタンパク質およびペプチドに特異的な抗体は、検出されない。MS患者1において、抗原アレイは、全ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、全ミエリン希突起膠細胞タンパク質(MOG)に特異的な自己抗体に加え、MOGペプチド35-55、MBPペプチド1-20、ならびにMBPペプチド68-86を認識する自己抗体を検出する。対照的に、MS患者2において、自己抗体は、MOGタンパク質およびMOGペプチド25-42に対して検出される。MS患者3において、自己抗体は、 プロテオリピドタンパク質(PLP)ペプチド139-151に対して特異性である抗体は同定される。
【0123】
実施例4
慢性関節リウマチ治療のための抗原特異的療法の選択指針のための患者自己抗体特異的プロファイルの使用
慢性関節リウマチ、コラーゲン誘導型関節炎(CIA)の動物モデルにおける自己抗体反応の抗原アレイ分析
図5は、II型コラーゲン(CII)、I型、III型、IV型、V型、IX型およびXI型コラーゲン、GP-39、免疫グロブリン、Sa、カルパスタチン、RA33、アルドラーゼA、熱ショックタンパク質60および65、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、分子シャペロンBiP、ならびにシトルリン修飾したフィブリンおよびフィラグリンペプチドおよびタンパク質を含む、およそ450種の異なる関節タンパク質およびペプチドを備えたRA/CIAアレイの画像を表わしている。
【0124】
図5は、CIAにおける自己抗体反応の特異性を決定するために、関節由来の抗原およびエピトープのアレイを用い抗体特異的プロファイルを示している。2000スポットの「滑膜プロテオーム」アレイを、ロボット型マイクロアレイ装置を用い推定関節抗原をスポットし、CIAマウス血清で、引き続きCy-3標識した抗マウスIg二次抗体でプローブすることにより作製し、ジーンピックススキャナーを用い走査し、かつジーンピックスソフトウェアを用い画像解析し、各スポットに結合している自己抗体のレベルを決定した。A-Bは、対照DBA/1LacJマウス(A)およびCIAのDBA/1LacJマウス(B)由来の血清でプローブしたアレイの走査画像を示している。II型コラーゲンおよび免疫優性なII型コラーゲンペプチド257-270に対する自己抗体反応性を観察する。結果は、ELISAにより確認し、かつ追加のマウスで認められた自己抗体反応性を代表している。診断および治療を目的とし、放射免疫アッセイ法、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、蛍光に基づく自己抗体試験、および/またはウェスタンブロット分析を含む、通常の方法を用い、自己抗体反応の特異性の決定も行うことができる。
【0125】
同定された抗原アレイをコードするDNAの抗原特異的DNA寛容治療によるCIAの治療はCIAにおいて自己抗体反応を標的とする
DNA寛容治療は、本発明に従い図5において決定されたエピトープ特異的プロファイルを基に設計した。CIAは、図5に示された抗原アレイを用い、自己抗体反応により標的化されるものとして同定されたII型コラーゲン(CII)、CIIp257-270エピトープをコードするDNA寛容治療を用い、予防または治療した。加えて、図5に示した抗原アレイを使用しCIAにおける自己免疫反応の標的としても同定されている全II型コラーゲンをコードするDNAの寛容化は、同じくCIAを効果的に予防および治療した。表5は、代表的実験のデータを示している。
【0126】
(表5)

DBA/1LacJマウスに、完全フロイントアジュバント中に乳化したCIIによるCIAの誘導前に、II型コラーゲン(CII)をコードするDNAを、1週間に1回、各DNAプラスミド用量100μgで、2回に分けて筋肉内投与した。動物は、20日目に、不完全フロイントアジュバント中のCIIで追加免疫した。各マウスは、肉眼によるスコアリングシステムを用い、関節炎について毎日スコア化した。
【0127】
実施例5
多発性硬化症治療のための抗原特異的療法の開発および選択の指針となる抗体特異的プロファイルの使用
多発性硬化症、EAEの動物モデルにおける自己抗体反応の抗原アレイ分析
図4は、MBP、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン希突起膠細胞タンパク質(MOG)、これらのタンパク質を表わしている重複しているペプチド、および環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNPase)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、およびミエリン関連希突起膠細胞塩基性タンパク質(MBOP)を含む追加のミエリン自己抗原由来の優位エピトープを表わしているペプチドを含む、およそ400種の異なるミエリンタンパク質およびペプチドエピトープを備える2400スポットのMS/EAEアレイの画像を表わしている。
【0128】
図4は、EAEにおける自己抗体反応の特異性を研究するために、ミエリン抗原およびエピトープのスペクトルを含むこのアレイの使用を示している。2400スポットの「ミエリンプロテオーム」アレイを、ロボット型マイクロアレイ装置を用い推定ミエリン抗原をスポットすることにより作製し、EAEマウス血清で、引き続きCy-3標識した抗マウスIg二次抗体でプローブし、ジーンピックススキャナーを用い走査し、かつジーンピックスソフトウェアを用い画像解析し、各スポットに結合している自己抗体のレベルを決定した。A-Cは、対照マウス(A)、および再発性疾患を発症したPLPp139-151によるEAE誘導後87日目の2匹のSJLマウス(BおよびC)由来の血清でプローブしたアレイの走査した画像を表わしている。誘導ペプチドPLPp139-151に対する自己抗体反応性は、対照と比べ2匹のEAEマウスにおいて有意に強力であり、隣接分子内エピトープPLPp89-106に対する自己抗体反応性は、マウス-2において認められたが、マウス-1または対照においては認められず、かつMOGタンパク質、MOGp66-78、CNPase p343-373、およびMBPp1-20を含む分子間タンパク質およびエピトープに対する自己抗体反応性は、両方のEAEマウスにおいて認められたが、対照においては認められない。結果は、ELISAにより確認し、かつ追加のマウスで認められた自己抗体反応性の典型とした。
【0129】
完全フロイントアジュバント(CFA)中のPLPp139-151でEAEを発症するよう誘導されたSJLマウスは、PLP上の隣接エピトープに対する、ならびにMBP、MOGおよびCNPaseを含む3種の追加のミエリンタンパク質上のエピトープに対する、それらの自己抗体反応の分子間および分子内の伸展を受ける(図4BおよびC)。EAEのSJLマウスにおいて、より少ない臨床的再発を伴うマウスは、自己抗体反応の有意に少ない伸展を有する(図5)。追加のミエリン抗原に対する自己抗体反応の増大したエピトープ伸展は、再発およびより重症の疾患に関連するというこの知見は、抗原アレイを用いる自己抗体特異的プロファイリングで、個々の動物における臨床結果を推定することができることの更なる証拠を提供する。並行して、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)分析で同定されかつ確認された抗原アレイは、自己抗体反応の特異性を決定した。自己抗体反応の伸展およびそのEAE、T細胞媒介型疾患におけるより重症な疾患との相関関係は、先に説明されており、かつ自己抗体特異的プロファイル決定の診断的および予後判定的実用性が明らかにされている。診断および治療を目的として、自己抗体特異的プロファイルの決定は、放射免疫アッセイ法、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、蛍光に基づく自己抗体試験、および/またはウェスタンブロット分析を含む、通常の方法を用い実行することもできる。
【0130】
抗原特異的療法の例としての抗原特異的DNA寛容治療
慢性的に再発するEAEは、PLPのエピトープをコードするDNAプラスミドミニ遺伝子の導入により予防および治療することができる(J. Immunol、162:3336-41;Curr. Dir. Autoimmun.、2:203-16;表2)。全ミエリンタンパク質をコードするDNAワクチンは、EAE治療において更により効果的であった(表2および3)。両ミエリン抗原をコードするDNAワクチンのIL-4と組合わせた送達は、予防的作用を更に増強した(表3)。
【0131】
(表2)慢性再発性EAEを治療するための抗体特異的プロファイルを用いる同定された抗原をコードする抗原特異的DNA寛容療法

1 カクテル療法を投与されたマウスは、1週間に1回、4種の主要ミエリンプラスミド、MBP、MOG、MAGおよびPLPの各々について用量50μgで、筋肉内に投与した。カクテルは、これら4種のミエリン抗原をコードするDNAからなる。治療は、EAEの初期急性発症から回復直後に開始した。マウスを87日目に屠殺した時点で、血清を収集し、かつミエリンタンパク質アレイ上で使用した。各マウスを、87日間臨床麻痺(再発)の増悪について毎日スコア化しかつこれの平均数を、各マウス群について示している。p値は、両側独立スチューデントt検定を用いて計算した。
【0132】
(表3)慢性再発性EAEを治療するための抗体特異的プロファイルを用いる同定された抗原をコードする抗原特異的DNA寛容療法、IL-4をコードするDNAプラスミドの封入はこの作用を増強する

1 カクテルを投与されたマウスは、1週間に1回、4種の主要ミエリンプラスミド、MBP、MOG、MAGおよびPLPの各々について用量25μgで、筋肉内に投与した。このカクテルは、これら4種のミエリン抗原をコードするDNAからなる。全ての他のDNAは、1週間に1回、動物1匹当りプラスミド50μgの用量で投与した。治療は、EAEの初期急性発症から回復直後に開始した。各マウスを、81日間臨床麻痺(再発)の増悪について毎日スコア化しかつこれの平均数を、各マウス群について示している。p値は、両側独立スチューデントt検定を用いて計算した。
【0133】
EAEのより効率的治療のための選択された抗原特異的寛容療法に対する自己抗体反応の特異性の使用
本発明者らは、抗原アレイで決定された抗体特異的プロファイルにより同定された様々なミエリン抗原をコードするDNAプラスミドを用い、SJLマウスにおいて慢性再発性EAEを治療した。表4は、(1)EAEの誘導を防ぐため、および(2)確立されたEAEを治療するために、抗原特異的DNA寛容療法を用いる複数回の実験からの最終的結果を表わしている。表4は、多数のタンパク質アレイをコードする抗原特異的DNAプラスミドが自己免疫過程により標的化された自己抗原を同定し、EAE治療において、標的化された自己抗原のひとつをコードする(または、標的化されないミエリンタンパク質をコードする)プラスミド単独と比べ優れた効能を有することを表わしている。決定された抗原特異的プロファイルを決定された抗原アレイを基に開発されかつ選択された抗原特異的療法の使用は、より効能のある療法をもたらす。
【0134】
(表4)抗原特異的DNA寛容療法によるEAEの予防および治療の最終結果

【0135】
実施例6
療法に対する反応をモニタリングするための抗体特異的プロファイルの使用
DNAプラスミドによりEAEに対して予防または治療された動物の分析は、タンパク質アレイ分析における自己抗体反応の低下したエピトープ伸展を表わす(図6)。個々のマウスをX軸に列記し、かつ「ミエリンプロテオーム」アレイ上のペプチドおよびタンパク質抗原をY軸上に表わす。緑は、反応性の欠損を表わし、赤は自己抗体反応性を示す。抗原アレイ上の類似性を基にしたマウス群のクラスター解析アルゴリズムは、それらの自己抗体反応の特異性を決定した。この画像は、全クラスターの小領域を表わしている。正常マウス(NMS)クラスターおよび緑の支配性は、列記された抗原に対する自己抗体反応性の欠如を示している。慢性再発性EAEを伴うSJLマウスは、対照ベクターまたは緩衝液(BおよびC)クラスターで治療し、かつ赤で示した様々なミエリン抗原に対する有意な自己抗体反応性を有している。これらのマウスにおける自己抗体反応のこの観察された伸展は、それらのより重症の疾患経過に相関し、87日間に平均2.4〜3.5回再発している。麻痺(再発)の臨床的増悪の平均回数は、図の一番上にマウス関連群を示す線上の数値で表わす。対照的に、ミエリンタンパク質カクテルDNA寛容療法(自己免疫反応の標的を同定した多数の抗原アレイを含み、かつEAE治療における最大の効能を示している[表4])により治療したマウスをクラスター化し、かつ他の群と比較して増大した緑で示されるように、それらの自己抗体反応の伸展の有意な低下を有する。この自己免疫反応の伸展の低下は、それらの臨床重症度の低い臨床経過に相関しており、87日間について平均1.5回再発した。
【0136】
図6は、抗原特異的DNA寛容療法で治療したEAEマウスからの結果の抗原アレイのクラスター分析を示している。自己抗体反応により標的化された抗原アレイにより同定された4種のミエリン抗原をコードするミエリンタンパク質カクテルDNA寛容化療法は、B細胞エピトープ伸展を強力に低下した(図6)。これは、再発率で測定した疾患活動度の有意な低下と相関している(表2および3、図6)。従って、抗原アレイに基づく自己抗体プロファイリングは、抗原特異的療法の選択の指針において利用性があることに加え、抗原特異的療法に対する反応のモニタリングにも使用することができる。示してはいないが、アレイ上の個々の抗原特性に結合している抗体のアイソタイプ分析は、治療反応のより詳細な分析および予測を可能にすると考えられる。例えば、ヒト自己免疫疾患療法において、効能を、組織損傷に関連したTh1アイソタイプサブクラスIgG1およびIgG3から、自己免疫疾患の組織損傷に対する保護に関連したTh2アイソタイプサブクラスIgG2およびIgG4までの、抗体アイソタイプサブクラスにおけるシフトの抗原アレイ同定により示すことができる。抗原特異的療法を選択するための自己抗体反応の特異性の利用は、自己免疫反応の伸展を抑制することにより、自己免疫プロセスを根本的に治療し、かつこれは疾患活動度の低下に相関している。
【0137】
実施例7
組織移植のための患者の抗体特異的プロファイルに基づく療法
組織移植の大きい制限は、レシピエント免疫系による組織移植片の拒絶反応である。組織移植片は、心臓、肺、腎臓、肝臓および他の臓器を含む、固形臓器に加え、血液および血液由来の細胞の移植を含む。免疫拒絶反応は、組織移植片タンパク質内の対立遺伝子変異を認識するレシピエントの免疫系により媒介される。組織移植片拒絶反応は、組織移植片内のMHCクラスIおよびIIタンパク質に対する、ならびに他の組織適合性およびレシピエントに比べ組織移植片内の対立遺伝子変異を伴う追加の抗原に対する、レシピエント免疫反応により媒介される。移植片レシピエントの免疫系が移植片に対して反応する場合、これは、移植片内の抗原に結合する抗体を産生する。
【0138】
Balb/c(H-2d)およびBalb/k(H-2k)マウスの間の組織移植を用い、H-2dクラスIおよびクラスII MHC分子を示している抗原およびエピトープを含む抗原アレイを用い、抗体プロファイルを決定する。標準のプロトコールを使用し、心臓を、H-2dマウスからH-2kマウスの異所的な腹部位置に移植する(異所性移植は、簡単な触診による移植された心臓の密なモニタリングを可能にする)。レシピエントマウス由来の血清を、説明された抗原アレイを用い分析し、ドナーMHC分子に対する抗体反応性を同定する。抗体プロファイルの同定は、移植された心臓に対して拒絶するレシピエント動物を同定することを可能にする。抗体プロファイルは更に、予後判定のための拒絶反応の重症度の評価も可能にし、かつ非特異的療法の選択の指針となる。抗体特異的プロファイルは、移植された組織の消滅を防ぐための組織移植片拒絶反応の治療用の、抗原特異的療法の開発および選択に使用することもできる。この例において、移植片の生存は、移植した心臓の触診によりモニタリングされる。
【0139】
実施例8
アレルギー疾患の抗体特異的プロファイルに基づく療法
アレルギー疾患は、患者が曝される外因性アレルゲンに対して方向づけられた異常な免疫反応により媒介される。実施例として、花粉、イエダニ抗原、ハチ毒、ピーナッツ油、および外界に存在する他の分子に対するアレルギー反応を含む。アレルギー反応において、患者は、攻撃するアレルゲンに対し方向づけられた抗体を産生する。アレルゲン、および免疫エピトープ提示するアレルゲンを含むアレイを作製し、かつアレルゲンに対する抗体特異性の患者プロファイルの決定に使用する。患者の抗体プロファイルの同定は、アレルギー性疾患の診断および患者が反応しているアレルゲンの同定を促進すると考えられる。患者抗体特異性は更に、患者の寛容化のために使用する適当なアレルゲンの開発および選択に使用することができる。患者の寛容化は、不快なアレルゲンに対する患者の異常なアレルギー性免疫反応を停止する方法で、このアレルゲンを投与することを含む。患者の抗体特異的プロファイルは、抗アレルゲン抗体の反応性の変化、抗アレルゲン抗体の力価、および/または抗アレルゲン抗体のアイソタイプサブクラスの使用を基にした、アレルゲン寛容療法に対する患者の反応のモニタリングにも使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患がインスリン依存型糖尿病でない、免疫関連疾患患者における抗体特異的プロファイルを決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)少なくとも2種の疾患関連抗原エレメントを含む抗原アレイを調製する段階であり、各抗原エレメントが少なくとも1種の免疫学的エピトープを更に含む段階;
(b)段階(a)の抗原アレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階;
(c)段階(b)の患者試料中の抗体に結合しているアレイ内の疾患関連抗原を同定する段階;ならびに
(d)段階(c)の疾患関連抗原に結合した抗体を、(1)段階(a)のアレイ内の疾患関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体が疾患に関連することがわかっている段階、および、(2)段階(a)のアレイ内の疾患関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体が疾患に関連しない段階。
【請求項2】
免疫関連疾患が、自己免疫疾患である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
免疫関連疾患が、アレルギーである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
免疫関連疾患が、移植片拒絶反応である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
患者が、臨床症状を発症していない、請求項1記載の方法。
【請求項6】
患者が、臨床症状を有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
自己免疫疾患が、慢性関節リウマチである、請求項2記載の方法。
【請求項8】
自己免疫疾患が、多発性硬化症である、請求項2記載の方法。
【請求項9】
抗原が、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、DNA、RNA、脂質、グリコシル化された分子、リン酸化修飾を伴うポリペプチド、シトルリン修飾を伴うポリペプチド、多糖または他の分子からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
抗原アレイが、マイクロアレイである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
抗原アレイが、アドレス指定可能なエレメントを有する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
抗原アレイが、低密度アレイである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
抗原アレイが、高密度アレイである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
患者試料が、血液試料である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
患者試料が、脳脊髄液試料である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
患者試料が、滑液試料である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
患者試料が、自己免疫疾患病変から採取される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
抗体特異的パネルを含む、抗体に結合された抗原を1種または複数含有する治療的物質を投与することにより、患者を治療する段階を更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
免疫関連疾患患者における抗体特異的プロファイルを決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)少なくとも1種のエピトープエレメントを含むエピトープエレメントアレイを調製する段階;
(b)段階(a)のエピトープアレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階;
(c)段階(b)の患者試料中の抗体に結合しているアレイ内の疾患関連エピトープを同定する段階;ならびに
(d)段階(c)の疾患関連エピトープに結合した抗体を、(1)段階(a)のアレイ内の疾患関連エピトープに結合している抗体と比較する段階であり、抗体が疾患に関連することがわかっている段階、および(2)段階(a)のアレイ内の疾患関連エピトープに結合している抗体と比較する段階であり、抗体が疾患に関連しないような段階。
【請求項20】
アレイが、マイクロアレイである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
免疫関連疾患が、自己免疫疾患である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
免疫関連疾患が、アレルギーである、請求項19記載の方法。
【請求項23】
免疫関連疾患が、移植片拒絶反応である、請求項19記載の方法。
【請求項24】
患者が、臨床症状を発症していない、請求項19記載の方法。
【請求項25】
患者が、臨床症状を有する、請求項19記載の方法。
【請求項26】
自己免疫疾患の治療法であって、以下の段階を含む方法:
(a)(1)少なくとも2種の疾患関連抗原を含む抗原アレイを調製する段階であり、ここで各抗原エレメントが少なくとも1種の免疫学的エピトープを更に含む段階、(2)段階(1)の抗原アレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階、(3)段階(2)の患者試料内の抗体に結合するアレイ内の疾患関連抗原を同定する段階、(4)段階(3)の疾患関連抗原に結合した抗体を、(i)段階(1)のアレイ内の疾患関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体が疾患に関連することがわかっている段階、および、(ii)段階(1)のアレイ内の疾患関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体が疾患に関連しない段階
を含む、患者の抗原特異的プロファイルを決定する段階;
(b)段階(a)の抗原特異的プロファイルを基に、患者に特異的な治療法を設計する段階であり、(1)患者試料中の抗体に結合された抗原を決定する段階、および(2)1種または複数の抗原を患者に投与する段階。
【請求項27】
患者に投与される抗原が、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、DNA、RNA、脂質、グリコシル化された分子、リン酸化修飾を伴うポリペプチド、シトルリン修飾を伴うポリペプチド、多糖または他の分子からなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
患者に投与される抗原が、前記抗原をコードする核酸である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
核酸がDNAである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
自己免疫疾患を治療する方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)(1)エピトープアレイを調製する段階、(2)段階(1)のエピトープアレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階、(3)段階(2)の患者試料中の抗体に結合するアレイ内の疾患関連エピトープを同定する段階、(4)段階(3)の疾患関連エピトープに結合した抗体を、(i)段階(1)のアレイ内の疾患関連エピトープに結合している抗体と比較する段階であり、抗体が疾患に関連することがわかっている段階、および、(ii)段階(1)のアレイ内の疾患関連エピトープに結合している抗体と比較する段階であり、抗体が疾患に関連しない段階
を含む、患者のエピトープ特異的プロファイルを決定する段階;
(b)段階(a)のエピトープ特異的プロファイルを基に、患者に特異的な治療法を設計する段階であり(1)患者試料中の抗体に結合されたエピトープを決定する段階、および(2)1種または複数のエピトープを患者に投与する段階。
【請求項31】
患者に投与されるエピトープが、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、DNA、RNA、脂質、グリコシル化された分子、リン酸化修飾を伴うポリペプチド、シトルリン修飾を伴うポリペプチド、多糖または他の分子からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項32】
患者に投与されるエピトープが、抗原をコードする核酸の形態である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
核酸がDNAである、請求項33記載の方法。
【請求項34】
インスリン依存型糖尿病(IDDM、自己免疫性糖尿病)患者において抗体特異的プロファイルを決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)少なくとも4種のIDDM関連抗原を含む抗原アレイを調製する段階であり、各抗原エレメントが少なくとも1種の免疫学的エピトープを更に含む段階;
(b)段階(a)のIDDM抗原アレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階;
(c)段階(b)の患者試料中の抗体に結合するアレイ内のIDDM関連抗原を同定する段階;
(d)段階(c)の疾患関連抗原に結合した抗体を、(1)段階(a)のアレイ内のIDDM関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体がIDDMに関連することがわかっている段階、および(2)段階(a)のアレイ内の疾患関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体がIDDMに関連しない段階。
【請求項35】
インスリン依存型糖尿病(IDDM、自己免疫性糖尿病)患者において抗体特異的プロファイルを決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)少なくとも4種のIDDM関連エピトープエレメントを含むエピトープアレイを調製する段階;
(b)段階(a)のエピトープアレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階;
(c)段階(b)の患者試料中の抗体に結合するアレイ内のIDDM関連エピトープを同定する段階;
(d)段階(c)のIDDM関連エピトープに結合した抗体を、(1)段階(a)のアレイ内の疾患関連エピトープに結合している抗体と比較する段階であり、抗体がIDDMに関連しない段階。
【請求項36】
インスリン依存型糖尿病(IDDM、自己免疫糖尿病)を治療する方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)(1)少なくとも4種のIDDM関連抗原を含む抗原アレイを調製する段階であり、各抗原エレメントが少なくとも1種の免疫学的抗原を更に含む段階、(2)段階(1)の抗原アレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階、(3)段階(2)の患者試料中の抗体に結合するアレイ内のIDDM関連抗原を同定する段階、(4)段階(3)のIDDM関連抗原に結合した抗体を、(i)段階(1)のアレイ内のIDDM関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体がIDDMに関連することがわかっている段階、および(ii)段階(1)のアレイ内のIDDM関連抗原に結合している抗体と比較する段階であり、抗体がIDDMに関連しない段階
を含む、患者の抗原特異的プロファイルを決定する段階;
(b)段階(a)の抗原特異的プロファイルを基に、患者に特異的な治療法を設計する段階であり、(1)患者試料中の抗体に結合された抗原を決定する段階、および(2)1種または複数の抗原を患者に投与する段階。
【請求項37】
インスリン依存型糖尿病(IDDM、自己免疫糖尿病)を治療する方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)(1)少なくとも4種のIDDM関連エピトープエレメントを含むエピトープアレイを調製する段階、(2)段階(1)のエピトープアレイを、抗体を含有する患者試料と物理的に接触させる段階、(3)段階(2)の患者試料中の抗体に結合するアレイ内のIDDM関連エピトープを同定する段階、(4)段階(3)のIDDM関連エピトープに結合した抗体を、(i)段階(1)のアレイ内のIDDM関連エピトープに結合している抗体と比較する段階であり、抗体がIDDMに関連することがわかっている段階、および(ii)段階(1)のアレイ内のIDDM関連エピトープに結合している抗体と比較する段階であり、抗体がIDDMに関連しない段階
を含む、患者のエピトープ特異的プロファイルを決定する段階;
(b)段階(a)のエピトープ特異的プロファイルを基に、患者に特異的な治療法を設計する段階であり、(1)患者試料中の抗体に結合されたエピトープを決定する段階、および(2)1種または複数のエピトープを患者に投与する段階。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−190898(P2010−190898A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43892(P2010−43892)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【分割の表示】特願2002−581953(P2002−581953)の分割
【原出願日】平成14年4月10日(2002.4.10)
【出願人】(503115205)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リランド スタンフォード ジュニア ユニヴァーシティ (69)
【Fターム(参考)】