説明

散水用ノズル及びそれを備えた散水管並びに散水装置

【課題】ノズルの先端部に塵埃に起因する異物が付着する虞が無く、散水を適正かつ継続的に連続して行うことが可能であり、しかも、構成が簡単かつ安価で、かつ、運転経費も極力低額となるような散水用ノズル及びそれを備えた散水管並びに散水装置を提供する。
【解決手段】水を噴霧するためのスプレーノズル部の先端部にコーチング付着防止用プレート3を嵌め込み固定したもので、このコーチング付着防止用プレート3は、弾性体からなる正方形状の板体21の中央部に、スプレーノズル部の先端部に嵌め込み可能な円形の孔22を形成し、この板体21の周縁部である4辺それぞれに、外方へ向かって垂直方向に延在する長尺の板体23を一体に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散水用ノズル及びそれを備えた散水管並びに散水装置に関し、更に詳しくは、散水用ノズルによりガス中に散水して当該ガスの温度を下げる際に好適に用いられ、比較的多量の塵埃を含むガス中にて散水を行う場合に、散水用ノズルの先端部にこの塵埃に起因する異物が付着する虞が無く、散水を適正かつ継続的に連続して行うことが可能な散水用ノズル及びそれを備えた散水管並びに散水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造工程でセメントクリンカと石膏等を混合して粉砕する場合、粉砕により熱が発生して混合・粉砕時の温度が高温となり、粉砕やセメント品質に影響を及ぼす。そこで、粉砕時の温度を適度に調整する手段として、粉砕機に散水装置を取り付け、この散水装置により混合・粉砕物に霧状に散水して所定の温度範囲内まで降温することが行なわれている。
また、セメントキルンからの排ガスを直接集塵装置に導入して外部へ排出する場合、この排ガスをそのまま集塵装置に導入したのでは、集塵装置の処理条件に適合せず、集塵を良好に行うことができない。そこで、この排ガスを一旦冷却塔に導入し、この冷却塔内で散水装置により排ガスに霧状に散水して、この排ガスの温度及び湿度を所定の範囲内に調整することが行われている。
【0003】
しかしながら、これらの散水装置では、しばしば、散水管の先端部を覆い隠すように、排ガス中の塵埃と水との混合物からなる異物(以下、この異物をコーチングと称す)が付着し、水の噴霧量が減少したり、場合によっては霧化されずに水道水の如く流れ落ちることがある。
このように、散水管の先端部にコーチングが付着した場合、排ガスの温度及び湿度を所定の範囲内に調整することが難しくなり、所望の降温効果及び加湿効果が達成されなくなり、最悪の場合、粉砕効率の低下、セメント品質の低下、あるいは、集塵効率の低下による塵埃の外部への流出等、様々なトラブルが発生する虞がある。
【0004】
そこで、古くから散水管のノズルないしその周辺に、コーチングが付着するのを防止するための様々な方法や部材が提案されてきた。
最も簡単な方法は、散水管のノズルないしその周辺を定期的に掃除する方法である。しかしながら、散水管は、概ね2〜4m程度の長さのものが多く用いられており、1〜1.5m程度の比較的短いものは少ない。また、散水管は、二重管ないし三重管の多重管構造である場合が多く、かつ、散水時に加圧するために肉厚の鋼管を使用する場合が殆どである。このように、散水管の形状及び重量を鑑みると、作業員一人で散水管を取り扱うことはかなりの重労働であり、より簡単に散水管のノズルないしその周辺にコーチングが付着するのを防止する方法や部材が求められていた。
【0005】
コーチング付着を防止する一つの方法として、スプレーノズルの外周にダストパージ管を配置し、該ダストパージ管の先端部に、スプレーノズルのノズル部外周とダストパージ管の先端部の内面との間隔を2〜5mmに狭めた環状の絞り部を形成し、このダストパージ管を、上記の隙間から2〜5kg/cmの圧縮空気を瞬時に供給するパルス弁を介して圧縮空気ヘッダー管に接続した排ガス冷却塔のスプレーノズルが提案されている(特許文献1参照)。
このスプレーノズルでは、圧縮空気によりスプレーノズルの先端部をパージすることにより、スプレーノズル先端部のノズル及びその周辺へのコーチング付着を防止している。同時に、スプレーノズルの遊休時にノズル孔が詰まることの無いよう、空気を流出させている。
【0006】
コーチング付着を防止する他の一つの方法として、外筒と内筒を同軸的に立設配置し、この内筒の下端に、該内筒径より小径の短い案内円筒群を、その下端が逆円錐形となるように同心状に配置して垂下させ、この内筒内に複数のスプレーノズルを内筒周方向に均等でかつ高さ方向に傾斜して配置したスプレータワーが提案されている(特許文献2参照)。
このスプレータワーは、塵埃を含むガスを内筒と外筒との間を下降させた後、反転させて内筒内を上昇させることにより、このガスの除塵、調温、調湿を行うもので、散水量の調整を、散水するスプレーノズルの本数で調整し、散水していない遊休スプレーノズルについては、圧縮空気にて間歇的にパージを行ない、スプレーノズルへのコーチング付着を防止している。
【特許文献1】特開2001−132936号公報
【特許文献2】特開2001−286785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来のスプレーノズルでは、間歇的にではあるが圧縮空気を用いてパージを行ない、スプレーノズルへのコーチング付着を防止しているが、スプレーを休止した際にスプレーノズルの内部に洗浄用の空気を速やかに送るために、パルス弁、逆止弁、バルブ等を配管の各所に設ける必要があり、装置構成が複雑かつ高価になる等の問題点があった。
また、スプレーノズルの外周にダストパージ管を配置して同軸の二重管構造とし、このスプレーノズルとダストパージ管との間をスプレーノズルの先端部をパージする圧縮空気の流路としたことにより、装置構成が複雑かつ高価になる等の問題点があった。
【0008】
さらに、このスプレーノズルでは、パージを行なうために圧縮空気を間歇的に供給しているが、パージを行なう時間の間隔を長くすると、圧縮空気の供給量は減少するが、パージ効果は低下する。一方、パージを行なう時間の間隔を短くすると、圧縮空気の供給量は増大するが、パージ効果は向上する。
このように、間歇的にパージを行なう時間を調整した場合、圧縮空気の供給量とパージ効果との間にはトレードオフの関係があり、パージ効果を向上させようとすると、圧縮空気の供給量が増大し、圧縮空気の供給に係わるランニングコストが上昇することにもなる。
そこで、構成が簡単かつ安価で、かつ、運転経費も極力低額となるようなスプレーノズルが求められていた。
【0009】
また、従来のスプレータワーでは、散水していない遊休スプレーノズルについて圧縮空気にて間歇的にパージを行なうことにより、スプレーノズルへのコーチング付着を防止しているが、この方法は、スプレーノズルの内部の洗浄と、スプレーノズルの先端部の前面部のみへのコーチングの付着防止を図ったものであるから、スプレーノズルの先端部周辺に付着したコーチングを除去することができず、場合によってはコーチングがスプレーノズルを覆うように発達して塊状となってしまい、この塊状のコーチングがスプレーノズルの散水を妨げ、水が霧状に噴霧されず滴り落ちることとなり、場合によっては、コーチングの塊が脱落する等、様々なトラブルが生ずる虞があるという問題点があった。
【0010】
このようなトラブルを防止するためには、定期的にスプレーノズルを掃除する必要があるが、本来、スプレーノズルが重量物であること、及びスプレーノズルの稼働率の向上等の観点から、定期的掃除を省くべく圧縮空気によるパージを実施しているものであるから、定期的にスプレーノズルを掃除することは、スプレーノズルの稼働率の低下、メンテナンスのためのコストの上昇等が生じることとなる。したがって、スプレーノズルを定期的に抜き出して掃除をするのは極めて困難である。
そこで、定期的に掃除する必要が無く、しかも、構成が簡単かつ安価で、かつ、運転経費も極力低額となるようなスプレーノズルが求められていた。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、ノズルの先端部に塵埃に起因する異物が付着する虞が無く、散水を適正かつ継続的に連続して行うことが可能であり、しかも、構成が簡単かつ安価で、かつ、運転経費も極力低額となるような散水用ノズル及びそれを備えた散水管並びに散水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、管状のノズルの先端部に、弾性体からなる多角形状または円形状の板体の周縁部に外方へ向かって延在する弾性体からなる突起部を複数個設けた部材を取り付ければ、ノズルの先端部に塵埃に起因する異物が付着する虞が無く、しかも、散水を適正かつ継続的に連続して行うことが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の散水用ノズルは、管状のノズルの先端部に異物の付着を防止する部材を設けてなる散水用ノズルであって、前記部材は、弾性体からなる多角形状または円形状の板体の中央部に前記先端部に嵌め込み可能な孔を形成し、この板体の周縁部に該周縁部から外方へ向かって延在する弾性体からなる突起部を複数個設けてなることを特徴とする。
【0014】
この散水用ノズルでは、管状のノズルの先端部に、弾性体からなる多角形状または円形状の板体の周縁部に外方へ向かって延在する弾性体からなる突起部を複数個設けてなる部材を設けたことにより、前記ノズルの先端部に塵埃に起因する異物が付着した場合、複数の突起部が、その弾性により付着した異物を払い落とす。これにより、ノズルの先端部に付着した塵埃に起因する異物を容易に除去し、ノズルの先端部を常に清浄な状態に保つ。
また、この部材は構成が簡単であり、かつ安価である。
よって、散水を適正かつ継続的に連続して行うことが可能になり、ランニングコストも安価なものとなる。
【0015】
本発明の散水用ノズルでは、前記突起部は、長尺の板状体であることが好ましい。
前記突起部を長尺の板状体とすることにより、これら長尺の板状体が、その弾性により付着した異物を効率的に払い落とし、ノズルの周縁部に異物が残存する虞がない。
【0016】
本発明の散水用ノズルでは、前記突起部を、前記板体の周縁部に沿って等間隔に複数個設けてなることが好ましい。
前記突起部を、前記板体の周縁部に沿って等間隔に複数個設けたことにより、これらの突起部がノズルの周囲に付着した異物を効率的に払い落とし、ノズルの周縁部に異物が残存する虞がない。
【0017】
本発明の散水管は、散水用の管の先端部に、本発明の散水用ノズルを備えてなることを特徴とする。
この散水管では、散水用の管の先端部に本発明の散水用ノズルを備えたことにより、散水を適正かつ継続的に連続して行うことが可能になる。
【0018】
本発明の散水装置は、本発明の散水管と、この散水管の先端部に圧縮空気を供給する圧縮空気供給手段と、前記散水管に水を供給する水供給手段とを備えてなることを特徴とする。
この散水装置では、本発明の散水管と、圧縮空気供給手段と、水供給手段とを備えたことにより、散水を適正かつ継続的に連続して行うことが可能になり、装置の稼働率も向上する。また、定期的なメンテナンスが不要になることから、ランニングコストも安価なものとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の散水用ノズルによれば、管状のノズルの先端部に、弾性体からなる多角形状または円形状の板体の周縁部に外方へ向かって延在する弾性体からなる突起部を複数個設けてなる部材を設けたので、このノズルの先端部に塵埃に起因する異物が付着した場合においても、この異物を容易に除去し、ノズルの先端部を常に清浄な状態に保つことができる。したがって、散水を適正かつ継続的に連続して行うことができ、ランニングコストも低減することができる。
また、この部材は、構成が簡単であり、価格も安価であり、かつ、ランニングコストも極力低額であるから、経済的である。
【0020】
本発明の散水管によれば、散水用の管の先端部に本発明の散水用ノズルを備えたので、散水を適正かつ継続的に連続して行うことができ、ランニングコストも低減することができる。
【0021】
本発明の散水装置によれば、本発明の散水管と、この散水管の先端部に圧縮空気を供給する圧縮空気供給手段と、前記散水管に水を供給する水供給手段とを備えたので、散水を適正かつ継続的に連続して行うことができ、装置の稼働率を向上させることができる。
また、定期的なメンテナンスが不要になるので、ランニングコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の散水用ノズル及びそれを備えた散水管並びに散水装置の最良の形態について、図面に基づき説明する。
なお、本形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態の散水装置を示す正面図であり、セメント製造工程でセメントクリンカと石膏等を混合して粉砕する際に、この混合・粉砕物に散水して所定の温度範囲内まで降温するとともに、所定の湿度範囲内まで加湿する散水装置の例である。
図において、1は散水スプレー管(散水管)、2は散水スプレー管1の先端部に設けられ水を霧状に噴霧するためのスプレーノズル部(散水用ノズル)、3はスプレーノズル部2の先端部に嵌め込まれて固定されたコーチング付着防止用プレート(異物の付着を防止する部材)、4は散水スプレー管1及びスプレーノズル部3を保護する保護管、5は圧縮空気ヘッダー管(圧縮空気供給手段)、6は水ヘッダー管(水供給手段)、7は空気ヘッダー管、8〜10は配管、11、12は逆止弁である。
【0024】
散水スプレー管1は、供給される水の吐出圧力をもって霧状に噴霧する。霧状に噴霧する液滴の粒径は、散水する場所の温度や使用状況により適宜に選択することとし、それを達成するべくスプレーノズル部2の形状等を設定する。霧状に噴霧する場合、噴霧する粒径を細かくするために、水と空気の二流体で噴霧する方法を用いることもある。この散水スプレー管1における水の供給圧力は、通常、0.2MPa〜4MPaの範囲であるから、配管9等は、これに耐え得る仕様のものとする。
【0025】
また、この散水スプレー管1が散水量の調整や設備の休止等により一時的に遊休の状態となった場合、供給される水を停止するだけでは、散水スプレー管1及びスプレーノズル部2の内部に周辺の塵埃(ダスト)が入り込み、付着して詰まりを生じる虞がある。そこで、圧縮空気ヘッダー管5により散水スプレー管1及びスプレーノズル部2の内部を圧縮空気にて間歇的ないし連続的にパージする。
【0026】
このパージは、エネルギー消費等を考慮すると、連続的に圧縮空気を送出するより、コーチングが付着・成長する箇所に圧縮空気を瞬時に噴射する間歇的なパージが好ましい。通常、圧縮空気の圧力は0.2MPa〜0.8MPaの範囲にあり、使用する配管8等は、圧縮空気に耐え得る仕様のものとするが、この配管8には、散水スプレー管1に供給される水が入り込む部分があるので、この部分は供給する水の圧力に耐え得る仕様のものとする。
【0027】
保護管4は、散水スプレー管1及びスプレーノズル部2を保護するためのもので、図1に示すように、散水スプレー管1及びスプレーノズル部2全体を覆う場合の他、散水スプレー管1の途中までを覆う場合、あるいは、散水スプレー管1の磨耗が想定される面のみを覆う場合等種々ある。
この保護管4では、スプレーノズル部2の先端部にコーチングが付着・成長しないように、この保護管4と散水スプレー管1及びスプレーノズル部2との間に1mm〜数mm程度の隙間を設け、この隙間を利用して空気ヘッダー管7から配管10を介して空気を送出してパージする。このパージに用いる空気は、散水スプレー管1やスプレーノズル部2の内部をパージする際に用いられるような圧縮空気を用いても良いが、必ずしも圧縮空気である必要は無く、ルーツブロアやファン等で供給できる数百mmAq〜数千mmAq程度のもので十分である。
【0028】
配管8は、圧縮空気ヘッダー管5に接続される配管の他、鋼管並びにフレキシブルホース等を含むもので、圧縮空気ヘッダー管5から圧縮空気を送出していない時に水が浸入しないよう逆止弁11が設けられている。この配管8には、特に圧縮空気を間歇的に送出する場合には、パルス弁(図示略)のような間歇的に動作する装置を設ける。
配管9は、水ヘッダー管6に接続される配管の他、鋼管並びにフレキシブルホース等を含むもので、この配管9においても、配管8と同様の理由により逆止弁12が設けられている。
配管10は、空気ヘッダー管7に接続される配管の他、鋼管並びにフレキシブルホース等を含むものである。
【0029】
コーチング付着防止用プレート3は、図2及び図3に示すように、コーチングが付着・成長し難い材料、例えば、合成ゴムや天然ゴム、合成樹脂等の弾性体からなる正方形状の板体21の中央部に、スプレーノズル部2の先端部に嵌め込み可能な円形の孔22が形成され、この板体21の周縁部である4辺それぞれには、板体21と同一材料からなりかつこの4辺それぞれから外方へ向かって垂直方向に延在する長尺の板体23が形成され、これら板体21及び板体23は一体に形成されている。
【0030】
このコーチング付着防止用プレート3は、スプレーノズル部2の先端部に嵌め込んで固定するので十分であるが、温度的な変化等で嵌合のみでの取り付けが心配な場合には、適宜、接着剤を利用してもよい。
また、このコーチング付着防止用プレート3の取り付け位置は、このプレート3の表面がスプレーノズル部2の先端部の端面とほぼ同一になるように取り付けてもよく、若干ではあるがスプレーノズル部2の先端部の端面がプレート3の表面より1mm〜数mm程度突出したように取り付けてもよい。ただし、この突出した部分にコーチングが付着する虞があるので、突出部分はできるだけ小さい方がよい。
【0031】
図4は、コーチング付着防止用プレートの変形例を示す正面図であり、このコーチング付着防止用プレート31は、合成ゴムや天然ゴム等の弾性体からなる正五角形状の板体32の中央部に、スプレーノズル部2の先端部に嵌め込み可能な円形の孔22が形成され、この板体32の周縁部である5辺それぞれには、板体と同一材料からなりかつこの5辺それぞれから外方へ向かって垂直方向に延在する長尺の板体33が形成され、これら板体32及び板体33は一体とされている。
【0032】
図5は、コーチング付着防止用プレートの他の変形例を示す正面図であり、このコーチング付着防止用プレート41は、合成ゴムや天然ゴム等の弾性体からなる正六角形状の板体42の中央部に、スプレーノズル部2の先端部に嵌め込み可能な円形の孔22が形成され、この板体42の周縁部である6辺それぞれには、板体と同一材料からなりかつこの6辺それぞれから外方へ向かって垂直方向に延在する長尺の板体43が形成され、これら板体42及び板体43は一体とされている。
【0033】
ここで、コーチング付着防止用プレート3、31、41を採用した理由について説明する。
一般に、セメント製造工程では、セメントクリンカと石膏等とを粉砕・混合する際に、これらの粉砕・混合物に散水して所定の温度範囲内まで降温するとともに、所定の湿度範囲内まで加湿するが、この粉砕・混合の際に、スプレーノズル部2の先端部やその周辺部にセメントクリンカ及び石膏等を主成分とする塵埃が付着する。
【0034】
従来の散水装置では、圧縮空気ヘッダー管により散水スプレー管及びスプレーノズル部の内部を圧縮空気にて間歇的ないし連続的にパージすることで、散水スプレー管及びスプレーノズル部の内部、並びにスプレーノズル部の先端部正面へのコーチング付着・成長を防止することはできる。
一方、保護管及びスプレーノズル部の先端部周辺、すなわち先端部付近の外周面にもコーチングが付着・成長するが、このコーチングは従来の装置では防止することができない。
【0035】
例えば、散水スプレー管を複数本設置して、散水する本数を変更しながら散水量を調整するような場合、一つの散水スプレー管から噴霧された霧状の水滴が相互干渉して他の散水スプレー管にガス中に含まれる塵埃(ダスト)と一緒に付着・成長することがある。
一方、散水スプレー管が1本だけ単独で設けられることが多い仕上ミルのような場合、スプレーノズル、あるいはスプレーノズル及び保護管の先端部の周辺にコーチングが付着・成長することが多く、この付着・成長の原因は、散水スプレー管を複数本設置した場合と全く異なる。
【0036】
仕上ミルは、ミル入口の静圧の変動が比較的大きく、これによりミル内のガスの流れが一定にならずに揺らぎが生じるような状態となり、スプレーノズルの先端部から広角で噴霧された霧状の水滴の一部が、このガスの揺らぎに乗ってスプレーノズルの先端部周辺、あるいはスプレーノズル及び保護管の先端部周辺に、ガス中に含まれるセメント組成物の微粉と一緒に付着・成長する。
表1に、スプレーノズルの先端部周辺に付着したコーチング、セメントクリンカと石膏等とを粉砕・混合して得られたセメント、各々の化学分析の結果を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
本実施形態の散水装置では、コーチングが付着・成長し難い材料により構成されているコーチング付着防止用プレート3、31、41をスプレーノズル部2の先端部に嵌め込むことで、粉砕・混合の際に発生する塵埃がスプレーノズル部2の先端部やその周辺部に付着するのを防止する。また、塵埃が付着した場合にも、板体23、33、43が周辺のガスの流れにより撓み、この撓みがある程度進んだ状態になったときに板体23、33、43自体が有する弾性により反発して基の位置まで復原する、という揺動を繰り返し行うことにより、スプレーノズル部2の先端部やその周辺部に付着した異物を剥がし、払い落とす。
【0039】
この撓み及び復元という動作は、撓みの程度が大きければ大きい程、板体23、33、43の揺動幅が大きくなり、より強く付着したコーチングを払い落とす。これにより、スプレーノズル部2の先端部やその周辺部に付着したコーチングを容易に除去し、スプレーノズル部2の先端部及びその周辺部を常に清浄な状態に保つ。
これにより、散水を適正かつ継続的に連続して行うことが可能になり、ランニングコストも安価なものとなる。
【0040】
次に、コーチング付着防止用プレート3、31、41の材質について説明する。
このコーチング付着防止用プレート3、31、41の板体23、33、43は、コーチングが付着し難い材料である他、防止揺動を繰り返し行うことができるだけの弾性を有することが必要であり、例えば、所定の弾性力を有する合成ゴムや天然ゴム、シリコン樹脂等の合成樹脂等が好適に用いられる。
【0041】
板体23、33、43に不向きな材料としては、柔らかなビニル製のシートやブロック状の硬いゴムがある。
この板体23、33、43が、厚さが1mm程度の柔らかなビニル製のシートであった場合、スプレーノズル部2の先端部、あるいは保護管4の先端部に嵌合するように取り付けても、自立することはなく下に垂れ下がった状態となる。また、このビニル製のシートは、ガスの流れによって吹流しのように撓むが、撓んだ状態のまま反発して復原することはない。したがって、柔らかなビニル製のシートでは、撓みと復原との繰り返しによる揺動を生ずることがなく、付着するコーチングを払い落とすこともできない。
【0042】
また、この板体23、33、43が、厚さが50mm程度のブロック状の硬いゴムであった場合、スプレーノズル部2の先端部、あるいは保護管4の先端部に嵌合するように取り付ければ自立するが、ガスの流れによって撓むことはない。したがって、ブロック状の硬いゴムでは、撓みと復原との繰り返しによる揺動を生ずることがなく、付着するコーチングを払い落とすこともできない。
このように、板体23、33、43としては、スプレーノズル部2が設けられる箇所でのガス温度及びガスの流速等の条件に合わせて弾性力及び厚み等を適宜選択し、撓みと復原との繰り返しによる揺動を生ずる状態を作り出すことが重要になる。
【0043】
次に、コーチング付着防止用プレートの形状について説明する。
このコーチング付着防止用プレートの形状を検討した当初、スプレーノズル部2の先端部、あるいは保護管4の先端部に付着するコーチングが概ね円形状に発達していることから、図6に示すような円板52の中央部に、スプレーノズル部2の先端部に嵌め込み可能な円形の孔22を形成したプレート51を作製した。 このプレート51をスプレーノズル部2の先端部に取り付けたところ、スプレーノズル部2の先端部、あるいは保護管4の先端部に付着するコーチングが大幅に減少し、大きな塊状になることは防止することができたが、このプレート51の表面には若干のコーチングが付着している状態であった。
【0044】
そこで、図7に示すような円板62の周縁部近傍に、スプレーノズル部2の先端部に嵌め込み可能な円形の孔22を形成したプレート61、及び図8に示すような円板72のうち一方の半円部分を三角形状とし、この中央部に、スプレーノズル部2の先端部に嵌め込み可能な円形の孔22を形成したプレート71を作製し、これらのプレート61、71をスプレーノズル部2の先端部に取り付けてみたが、大きな改善はできなかった。
【0045】
そこで、比較的幅の狭い弾性を有する板体の一方の端部に近い位置に、スプレーノズル部2の先端部に嵌合する孔を形成し、さらに、この板体を1枚ではなく複数枚とし、しかも放射状とすれば、複数の板体そのものが個々に撓みとその反発による復原とを繰り返し行い、スプレーノズル部2の先端部、あるいは保護管4の先端部に付着するコーチングを払い落とすことができると考え、本実施形態のコーチング付着防止用プレート3、31、41を提案するに至った。
【0046】
このコーチング付着防止用プレート3をスプレーノズル部2の先端部に取り付けたところ、表面に薄くコーチングが付着するものの、発達して塊状になることがなく、運転中、あるいは運転を休止してスプレーノズル部2の先端部、あるいは保護管4の先端部に付着するコーチングを抜き出して掃除する必要も無く、長期に亘って継続して運転することができるようになった。
【0047】
これらコーチング付着防止用プレート3、31、41における板体23、33、43の位置や数、個々の長さ等は、図2〜図5に限定されることなく、様々に変更可能である。例えば、板体23、33、43の長さは、全て同一の長さとする必要はなく、取り付け位置に応じて長さが異なるようにしてもよい。長さが異なることで、板体各々の揺動時間の間隔に変化が生じ、コーチングの付着・成長を抑制するには有効である。
【0048】
また、弾性体からなる円板の中央部に、スプレーノズル部2の先端部に嵌め込み可能な円形の孔を形成し、この円板の周縁部に等間隔に長尺の板体を複数枚形成した構成としてもよい。
長尺の板体の枚数は、多すぎると製作が難しくなる虞があるので、通常は4枚、最大でも6枚程度とするのが好ましい。また、板体21、32、42は、孔22を中心に破断することの無い、最小限の大きさとすることが好ましい。
【0049】
本実施形態の散水装置によれば、スプレーノズル部2の先端部に、コーチング付着防止用プレート3を嵌め込み固定したので、従来少なくとも2、3日おきに実施していたコーチングの掃除が不要なまでに改善することができる。
したがって、散水作業の軽減を図ることができ、コーチング発生による散水のトラブルの虞も無い。また、散水スプレー管及びスプレーノズル部の性能を長期間、維持することができ、かつ、散水スプレーの噴霧も良好に維持できることから、余分な水を噴霧することなく十分な冷却効果を挙げることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の散水用ノズル及びそれを備えた散水管並びに散水装置について実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【0051】
(実施例1)
仕上ミルとしては、ミル寸法が内径5.2m、長さ15.5mL、ミル設備動力が6500kW、ミル能力が176t/h(普通ポルトランドセメント粉砕ベース)の仕様を有し、ミル内の粉砕温度を調整するための散水スプレー管を1本備えたミルを用いた。
また、スプレーノズル部の仕様は、使用水圧力が1.0MPa以上、散水量が79.2L/分、散水角度65°、水滴の平均粒子径が400μmであった。
【0052】
また、散水スプレー管は、保護管なしとし、直接ミルの入口側シュート部よりミル内へ向けて、概ねミルの回転中心軸線に挿し込み、スプレーノズル部の先端部がミル本体の端部(ミル入口トラニオンのミル本体側端部)より140mmほど手前に位置するように配置した。また、最大散水量を2.7t/時としてミル出口ガス温度を目安に散水量の調整を自動制御することとし、ミル入口部よりクリンカや石膏等と一緒に導入される空気のスプレーノズル部の先端部付近の平均流速を概ね5m/秒とした。
【0053】
このスプレーノズル部の先端部に、図2及び図3に示すコーチング付着防止用プレート3を取り付けた。
ここでは、板体21の厚みを10mm、一辺の長さを40mm、孔22の内径を26mmとした。また、板体23の厚みを10mm、その長手方向の長さを、上下のものは200mm、左右のものは140mmとし、幅を40mmとした。そして、板体21の表面がスプレーノズル部の先端部の端面とほぼ同一面となるように取り付けた。
【0054】
この仕上ミルを1ヵ月間稼働した結果、コーチング付着防止用プレート3上には、コーチングが汚れのように若干付着する程度で、コーチングの付着・成長は認められず、スプレーノズル部の掃除をすることなく1ヵ月以上に亘って運転を継続して行うことができることが分かった。
【0055】
(実施例2)
実施例1の仕上ミルのスプレーノズル部の先端部に、図4に示すプレート31を取り付けて1ヵ月間稼働し、プレート31上におけるコーチングの付着・成長を調べたところ、プレート31上には、コーチングが汚れのように若干付着する程度で、コーチングの付着・成長は認められず、スプレーノズル部の掃除をすることなく1ヵ月以上に亘って運転を継続して行うことができることが分かった。
【0056】
(実施例3)
実施例1の仕上ミルのスプレーノズル部の先端部に、図5に示すプレート41を取り付けて1ヵ月間稼働し、プレート41上におけるコーチングの付着・成長を調べたところ、プレート41上には、コーチングが汚れのように若干付着する程度で、コーチングの付着・成長は認められず、スプレーノズル部の掃除をすることなく1ヵ月以上に亘って運転を継続して行うことができることが分かった。
【0057】
(比較例1)
実施例1の仕上ミルのスプレーノズル部の先端部に、図6に示すプレート51を取り付けて1ヵ月間稼働し、プレート51上におけるコーチングの付着・成長を調べたところ、プレート51上には、1日〜2日程度でコーチングの付着・成長が若干認められ、1ヵ月後にはコーチングの付着・成長が明らかに認められた。これにより、1ヵ月以上に亘って運転を行った場合、定期的にスプレーノズル部の掃除をする必要があることが分かった。
【0058】
(比較例2)
実施例1の仕上ミルのスプレーノズル部の先端部に、図7に示すプレート61を取り付けて1ヵ月間稼働し、プレート61上におけるコーチングの付着・成長を調べたところ、プレート61上には、1日〜2日程度でコーチングの付着・成長が若干認められ、1ヵ月後にはコーチングの付着・成長が明らかに認められた。これにより、1ヵ月以上に亘って運転を行った場合、定期的にスプレーノズル部の掃除をする必要があることが分かった。
【0059】
(比較例3)
実施例1の仕上ミルのスプレーノズル部の先端部に、図8に示すプレート71を取り付けて1ヵ月間稼働し、プレート71上におけるコーチングの付着・成長を調べたところ、プレート71上には、1日〜2日程度でコーチングの付着・成長が若干認められ、1ヵ月後にはコーチングの付着・成長が明らかに認められた。これにより、1ヵ月以上に亘って運転を行った場合、定期的にスプレーノズル部の掃除をする必要があることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態の散水装置を示す正面図である。
【図2】本発明の一実施形態の散水装置のコーチング付着防止用プレートを示す正面図である。
【図3】本発明の一実施形態の散水装置のコーチング付着防止用プレートを示す側面図である。
【図4】本発明の一実施形態の散水装置のコーチング付着防止用プレートの変形例を示す正面図である。
【図5】本発明の一実施形態の散水装置のコーチング付着防止用プレートの他の変形例を示す正面図である。
【図6】比較例のコーチング付着防止用プレートを示す正面図である。
【図7】比較例のコーチング付着防止用プレートを示す正面図である。
【図8】比較例のコーチング付着防止用プレートを示す正面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 散水スプレー管
2 スプレーノズル部
3 コーチング付着防止用プレート
4 保護管
5 圧縮空気ヘッダー管
6 水ヘッダー管
7 空気ヘッダー管
8〜10 配管
11、12 逆止弁
21 板体
22 孔
23 長尺の板体
31 コーチング付着防止用プレート
32 板体
33 長尺の板体
41 コーチング付着防止用プレート
42 板体
43 長尺の板体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のノズルの先端部に異物の付着を防止する部材を設けてなる散水用ノズルであって、
前記部材は、弾性体からなる多角形状または円形状の板体の中央部に前記先端部に嵌め込み可能な孔を形成し、この板体の周縁部に該周縁部から外方へ向かって延在する弾性体からなる突起部を複数個設けてなることを特徴とする散水用ノズル。
【請求項2】
前記突起部は、長尺の板状体であることを特徴とする請求項1記載の散水用ノズル。
【請求項3】
前記突起部を、前記板体の周縁部に沿って等間隔に複数個設けてなることを特徴とする請求項1または2記載の散水用ノズル。
【請求項4】
散水用の管の先端部に、請求項1、2または3記載の散水用ノズルを備えてなることを特徴とする散水管。
【請求項5】
請求項4記載の散水管と、この散水管の先端部に圧縮空気を供給する圧縮空気供給手段と、前記散水管に水を供給する水供給手段とを備えてなることを特徴とする散水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−260653(P2007−260653A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93334(P2006−93334)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】