細胞培養環境評価方法及びその装置
【課題】細胞培地を多面的に評価する。
【解決手段】標準培地で細胞を培養したときの画像Aと、別途同じ標準培地で細胞を培養したときの画像A’と、対照培地で細胞を培養したときの画像Bとを用いて、各細胞について複数の形態特徴量を求め、各画像につき階層的クラスタリングを実行し、デンドログラムを作成する。各画像から得られたデンドログラムを用いてクラスタ数を値2から順に設定していき、画像Aと画像A’との間でクラスタごとの細胞数を用いてχ二乗検定を、画像Aと画像Bとの間でクラスタごとの細胞数を用いてχ二乗検定を行う。その検定値を用いて評価値を算出し、クラスタ数と評価値との関係から最適クラスタ数を設定する。標準培地のデンドログラムを最適クラスタ数のクラスタに分け、検討培地で培養したときの細胞を各クラスタに割り振り、各クラスタと細胞の存在比率との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成する。
【解決手段】標準培地で細胞を培養したときの画像Aと、別途同じ標準培地で細胞を培養したときの画像A’と、対照培地で細胞を培養したときの画像Bとを用いて、各細胞について複数の形態特徴量を求め、各画像につき階層的クラスタリングを実行し、デンドログラムを作成する。各画像から得られたデンドログラムを用いてクラスタ数を値2から順に設定していき、画像Aと画像A’との間でクラスタごとの細胞数を用いてχ二乗検定を、画像Aと画像Bとの間でクラスタごとの細胞数を用いてχ二乗検定を行う。その検定値を用いて評価値を算出し、クラスタ数と評価値との関係から最適クラスタ数を設定する。標準培地のデンドログラムを最適クラスタ数のクラスタに分け、検討培地で培養したときの細胞を各クラスタに割り振り、各クラスタと細胞の存在比率との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養環境評価方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の培養には、細胞培養環境として培地、培養容器、培養温度、培養圧力など様々な環境要因の重要性が提唱されている。細胞を体外で培養する際には、これらの環境要因の最適化は必要不可欠である。
【0003】
特に細胞培地は培養環境を作る要素として重要視されると共に、最も広く他種類の商品化がなされており、商品としても、DMEMやF12,MSCGMなど、様々なものが販売されている。このような商品としての細胞培地成分の開発においては、個々の細胞が最もよい表現形や活性を示す成分が理想とされている。しかしその培地成分については、その組成が明らかなものも存在するが、近年開発が進む幹細胞のための特殊培地や、動物由来の血清成分を低下させた無血清培地、低血清培地、分化培地等の成分などが数多く存在するが、多くの成分は非公開であるばかりか、開発企業であっても経験的に成分を組み合わせている現状が多く、どの因子が本質的に細胞培養環境を決定付けているかは明らかで無い場合が多い。本質的に細胞培地は、他種類の無機・有機成分の種類および比率の無限の組み合わせから調整されるものであり、その組み合わせの多さから本質的な決定因子を限定発見することが困難であるとされている。
【0004】
こうしたことから、細胞培地を新規開発する際には検討しなくてはならない成分組み合わせの数が膨大すぎるため、各成分培地において、その細胞に対する性能を簡便に評価する方法が必要不可欠とされており、細胞への影響を評価する一つの限定的な手法として細胞増殖能を評価する方法が開発されている。これは多くの細胞培地開発が歴史的に細胞増殖能を一つの「目標培地の性能」として追求してきたためである。例えば、特許文献1の細胞増殖能を評価する方法では、個々の接着依存性細胞が培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積を算出し、その投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が培養容器に接着しているか否かを選別し、その選別結果に基づいて培養容器内の接着依存性細胞の集団としての細胞増殖能を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−21628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した細胞増殖能の評価方法では、細胞が培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積に基づいて細胞増殖能を評価しているため、細胞増殖に関連した活性のみを評価しているに過ぎず、細胞培養環境の多面的な影響を評価しているとは言い難い。
【0007】
すなわち、ある2つの細胞培養環境を比較した場合、細胞の投影面積から得られる情報(増殖率や接着率など増殖に関連する情報)については両方ともほぼ同じ結果が得られたとしても、細胞の活性(タンパク質生産量、分化度、未分化能、寿命など)については全く異なることが多く存在する。多くの場合、分化や成熟が進んだ細胞の増殖率は低下することが知られており、細胞環境として分化や成熟が進んだものを探索したい場合には、上記技術では全く検出できない。
【0008】
さらに、上記技術は細胞の接着率や増殖率など、画像中または条件内での細胞集団の情報を一つの「率」や「度合い」の値として表現するものであり、集団の平均的な値の解析であって、ヘテロ性の高い集団内の活性等のバラツキを定量的に評価・比較することができない。
【0009】
新規細胞培養環境(細胞培地を含む、培養容器、培養温度、培養圧力など様々な環境要因)を設計するためには、従来の接着率・増殖率だけに限られたような細胞評価結果や細胞集団が均質であると仮定したような平均値などによる評価とは本質的に異なった、質的に情報の多い評価結果を得る手法であって、簡便かつコストの低い培地条件の比較・評価方法が求められている。本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、細胞培地を多面的かつ集団内分布を加味した定量性を持った評価を行うことを主目的とし、細胞培地を細胞培養環境の一つのモデル例として取り上げて有効性を検証したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の細胞培養環境評価方法は、
(a)標準培養環境を用いて特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Aと、別途、前記標準培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群A’と、前記標準培養環境とは異なる対照培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Bとを取得するステップと、
(b)前記画像群A,A’,Bの全てにおいて、各細胞について予め定められた複数の形態特徴量の値を算出するステップと、
(c)前記画像群A,A’,Bの各々につき、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて相関分析を実行し、全画像群中に含まれる細胞に関する相関関係図を作成するステップと、
(d)前記画像群A,A’,Bの各々につき、前記細胞に関する相関関係図をもとに、相関性の高い複数の細胞が所属するグループとしてクラスタを設定することを目標とし、クラスタ数を値2から順に所定数まで設定していき、設定されたクラスタ数に分割されたクラスタと各クラスタに振り分けられた細胞数とを用いてχ(カイ)二乗検定を行い、各画像群A,A’,Bの検定値を求めるステップと、
(e)前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群A’から得られた検定値との差Δ1と、前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群Bから得られた検定値との差Δ2との差分Δ2−Δ1を評価値として算出するステップと、
(f)クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数n(nは2以上の整数)に設定するステップと、
(g)前記画像群A又は前記画像群A’で得られた全細胞につき、該画像群の相関関係図を前記最適クラスタ数nで分けたときの第1〜第nクラスタと、各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップと、
(h)検討培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに撮影した画像Xを取得し、該画像Xに含まれる各細胞について前記複数の形態特徴量の値を算出し、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データと前記第1〜第nクラスタ中の全ての細胞との相関性(相関係数)を算出することにより、画像Xに含まれる全細胞が所属する各々の前記第1〜第nクラスタ名と所属クラスタに含まれる細胞数を求めることで形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップと、
を含むものである。
【0011】
この細胞培養環境評価方法によれば、標準培養環境を用いて細胞を培養したときの形態クラスタ比率プロファイルと、検討培養環境を用いて細胞を培養したときの形態クラスタ比率プロファイルとが作成されるため、この2つの形態クラスタ比率プロファイルを比較すれば、その細胞の培養環境として、検討培養環境が標準培養環境と相関性があるのか相関性が無いのかを「細胞集団内のヘテロ性を加味し」かつ「定量的に」判断することができる。
【0012】
また、形態クラスタ比率プロファイルは、細胞と複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて作成されるため、検討培養環境が標準培養環境と似ているのか似ていないのかの判断は、一つの形態特徴量(例えば細胞の投影面積のみ)ではなく複数の形態特徴量という多面的な「形の多次元情報」と共に、細胞集団内の小集団の分布という多面的な「細胞集団内のヘテロ性を加味した」評価をすることができる。
【0013】
更に、クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数nに設定し、この最適クラスタ数nでデンドログラムを分けて得られる第1〜第nクラスタを用いて形態クラスタ比率ファイルを求めるため、各培養環境の形態クラスタ比率プロファイルを比較したときの類似・非類似の判断を客観的かつ自動で、かつ精度よく行うことができる。
【0014】
ここで、培養環境とは、培地、培養面、培養条件などを含む意であり、培養面としてはコーティング材料、凹凸加工、表面性質などが挙げられ、培養条件としては酸素量、圧力、ストレス、滅菌の有無、感染の有無などが挙げられる。検討培養環境とは、性能が未知の培養環境を意味する。相関分析としては、例えば階層的クラスタリングなどが挙げられ、相関関係図としては、例えばデンドログラムなどが挙げられる。
【0015】
なお、χ二乗検定や形態クラスタ比率プロファイルに用いる「各クラスタに振り分けられた細胞数」は、実質的に細胞数を表す値であればよく、例えば、細胞数そのもののほか、各クラスタに振り分けられた細胞の存在比率(各クラスタに振り分けられた細胞数を全細胞数で除した値)としてもよい。また、クラスタ数に対する評価値が上限に達したことは、クラスタ数に対する評価値の増加割合がゼロとみなすことのできる範囲になったことにより判断してもよいし、その増加割合が正から負に転じたことにより判断してもよい。
【0016】
本発明の細胞培養環境評価方法において、前記標準培養環境は、前記特定の細胞を培養するのに適すると評価されている既知の培養環境であり、前記対照培養環境は、前記特定の細胞を培養するのに適さないと評価されている1以上の既知の培養環境、もしくは、前記標準培養環境から1又は複数の必須成分を欠如させた培養環境であるとしてもよい。こうすれば、検定値Δ2が大きくなるため、ひいては評価値(Δ2−Δ1)が大きくなり、クラスタ数に対する評価値の増加割合が正から負に転じた時点のクラスタ数又は評価値が上限に達した時点のクラスタ数を精度よく求めることができる。
【0017】
本発明の細胞培養環境評価方法において、前記複数の形態特徴量は、細胞の面積に関係する特徴量と、楕円形度に関係する特徴量と、円形度に関係する特徴量とを含むとしてもよい。また、形態特徴量の中には、細胞画像情報の輝度ムラや輝度の集積度合いから推定される細胞の表面形態特徴量(滑らかさ、凹凸、などのテクスチャ情報)を含んでいてもよい。これらの形態特徴量を用いる際には互いの相関係数が低いものを選抜して利用することにより、細胞培養環境をより多面的に評価することができる。細胞の面積に関する特徴量としては、例えばHole Area, Total Areaなどが挙げられ、楕円形度に関係する特徴量としては、例えばElliptical Form Factorなどが挙げられ、円形度に関係する特徴量としては、例えばShape Factor, Inner Radiusなどが挙げられる。細胞の表面形態特徴量としては、Relative Hole Areaなどが挙げられる。
【0018】
本発明の細胞培養環境評価方法は、更に、(i)前記画像群Bについての各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを前記第1〜第nクラスタに割り振ることにより、前記第1〜第nクラスタと各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップを含んでいてもよい。こうすれば、検討培養環境の形態クラスタ比率プロファイルを標準培養環境及び対照培養環境の形態クラスタ比率プロファイルと比較することにより、検討培養環境が標準培養環境と環境が似ているのか、あるいは、対照培養環境と環境が似ているのかを判断することができる。なお、対照培養環境は複数種類としてもよい。こうすれば、これらの複数種類の培養環境と環境が似ているかどうかを判断することができる。
【0019】
本発明の細胞培養環境評価方法は、更に、(j)各形態クラスタ比率プロファイルに基づいて培養環境の定量的相似度を算出するステップを含んでいてもよい。こうすれば、各培養環境が似ているか否かを、定量的相似度という数値でもって判断することができる。こうした定量的相似度としては、例えば、各形態クラスタ比率プロファイルの間でχ二乗検定を行うなどの統計的検定値や、各プロファイルデータ間のユークリッド距離や積分面積の差など、プロファイル間の距離に関する指標を用いてもとしてもよい。
【0020】
本発明の細胞培養環境評価装置は、
標準培養環境を用いて特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Aと、別途、前記標準培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群A’と、前記標準培養環境とは異なる対照培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Bとを取得する画像取得手段と、
前記画像群A,A’,Bの全てにおいて、各細胞について予め定められた複数の形態特徴量の値を算出する形態特徴量算出手段と、
前記画像群A,A’,Bの各々につき、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて相関分析を実行し、全画像群中に含まれる細胞に関する相関関係図を作成する相関関係図作成手段と、
前記画像群A,A’,Bの各々につき、前記細胞に関する相関関係図をもとに、相関性の高い複数の細胞が所属するグループとしてクラスタを設定することを目標とし、クラスタ数を値2から順に所定数まで設定していき、設定されたクラスタ数に分割されたクラスタと各クラスタに振り分けられた細胞数とを用いてχ(カイ)二乗検定を行い、各画像群A,A’,Bの検定値を求める検定値算出手段と、
前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群A’から得られた検定値との差Δ1と、前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群Bから得られた検定値との差Δ2との差分Δ2−Δ1を評価値として算出する評価値算出手段と、
クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数n(nは2以上の整数)に設定する最適クラスタ値設定手段と、
前記画像群A又は前記画像群A’で得られた全細胞につき、該画像群の相関関係図を前記最適クラスタ数nで分けたときの第1〜第nクラスタと、各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成する標準培養環境プロファイル作成手段と、
)検討培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに撮影した画像Xを取得し、該画像Xに含まれる各細胞について前記複数の形態特徴量の値を算出し、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データと前記第1〜第nクラスタ中の全ての細胞との相関性(相関係数)を算出することにより、画像Xに含まれる全細胞が所属する各々の前記第1〜第nクラスタ名と所属クラスタに含まれる細胞数を求めることで形態クラスタ比率プロファイルを作成する検討培養環境プロファイル作成手段と、
を備えたものである。
【0021】
この細胞培養環境評価装置は、上述した細胞培養環境評価方法の各ステップを実行するため、上述した細胞培養環境評価方法と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】細胞培養環境評価装置10の全体構成を示す説明図である。
【図2】最適クラスタ数決定処理ルーチンのフローチャートである。
【図3】各細胞の特徴量プロファイルを示した説明図である。
【図4】1回目の標準培地での培養において8時間経過した時点でのデンドログラムである。
【図5】デンドログラムを複数のクラスタに分割する様子を示す説明図である。
【図6】1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、2回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行うときの説明図である。
【図7】クラスタ数と評価値(Δ2−Δ1)との対応関係を表すグラフである。
【図8】形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンのフローチャートである。
【図9】検討培地での特徴量プロファイルをクラスタに振り分ける様子を示す説明図である。
【図10】ヒト角化細胞を3種類の培地で培養したときの形態クラスタ比率プロファイルのグラフである。
【図11】ヒト角化細胞を3種類の培地で培養したときの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の細胞培養環境評価方法を具現化した細胞培養環境評価装置10について説明する。図1は、細胞培養環境評価装置10の全体構成を示す説明図である。
【0024】
細胞培養環境評価装置10は、インキュベータ20と、コンピュータ30とを備えている。
【0025】
インキュベータ20は、複数の培養容器22を収容するストッカー24と、培養容器22の撮影を行う撮影装置26と、ストッカー24と撮影装置26の撮影位置との間で培養容器22を移動させるロボットアーム28とを備えている。ストッカー24は、複数の棚を有しており、この棚に培養容器22が収容される。撮影装置26は、透光板27が置かれた撮影位置に配置された培養容器22に対して上方からLED光源26aにより光を照射し、そのときの培養容器22の細胞を、培養容器22の下方から位相差顕微鏡を通して撮影する。ロボットアーム28は、予め定められたタイムスケジュールにしたがって、ストッカー24から所望の培養容器22を取り出して撮影位置に運び、撮影装置26による撮影終了後にその培養容器22を撮影位置からストッカ24ーの元の位置に戻す。また、インキュベータ20は、細胞の培養に適した環境(例えば温度37℃、湿度90%の雰囲気)になるように温度、湿度が管理されている。こうしたインキュベータの詳細については、WO2010/98105に開示されている。
【0026】
コンピュータ30は、周知のCPU、ROM、RAM、HDD等を備え、撮影装置26から画像を入力可能に接続されている。CPUは各種プログラムを実行するものであり、ROMは各種プログラム(後述する最適クラスタ数決定ルーチンや形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチン、cluster3.0、chisq.testなど)やテーブルなどを記憶するものであり、RAMはデータを一時的に記憶するものであり、HDDは撮影装置26から入力した画像などを格納するものである。なお、コンピュータ30が、本発明の細胞培地評価装置に相当する。
【0027】
ここでは、コンピュータ30のHDDには、既に、撮影装置26によって撮影された画像が格納されているものとする。その画像は、以下のようにして撮影されたものである。すなわち、ヒト角化細胞の培養に最適とされる既知の培地を標準培地(本発明の標準培地)とし、ヒト角化細胞の培養にあまり適していないとされる既知の培地を対照培地(本発明の対照培地)として用意した。例えば、標準培地としてはEpi−life(クラボウ)、対照培地としてはDMEMが例示される。そして、インキュベータ20内で、標準培地にヒト角化細胞を播種した培養容器22と、同じ標準培地にヒト角化細胞を播種した培養容器22と、対照培地にヒト角化細胞を播種した培養容器22を入れて4日間培養した。なお、一方の標準培地による培養を1回目の標準培地での培養と称し、もう一方の標準培地による細胞培養を2回目の標準培地での培養と称する。そして、培養開始から8時間経過するごとに、撮影装置26でそれぞれの培養容器22の細胞の画像を5枚ずつ撮影した。1度に撮影される5枚の画像のうち、1枚は培養容器22のウェルの中央領域を撮影した画像であり、残り4枚はその中央領域の上下左右の領域を撮影した画像である。これらの5枚の画像を1回分の画像という。ここでは、培養期間が4日間のため、それぞれの培養容器22につき12回分の画像が得られた。コンピュータ30のHDDには、撮影装置26によって撮影された画像に培地名と経過時間とを対応付けて格納した。なお、画像は、8ビットのBMP画像であり、各ピクセルの値が0〜255グレイレベルの数字の輝度値で表されるものとした。このようにして、コンピュータ30のHDDには、1回めの標準培地での培養で得られた12回分の画像(本発明の画像Aに相当)と、2回めの標準培地での培養で得られた12回分の画像(本発明の画像A’に相当)と、対照培地での培養で得られた12回分の画像(本発明の画像Bに相当)が格納されている。
【0028】
次に、細胞培養環境評価装置10を用いて形態クラスタ比率プロファイルを作成する手順を説明する。本実施形態では、最適クラスタ数決定ルーチンを実行し、その後、形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンを実行する。ここで、最適クラスタ数決定ルーチンは、ある細胞を培養したときの細胞の形態的な特徴を利用して階層的クラスタリングを実行し、その結果得られるデンドログラムを用いていくつかのクラスタに分割する際の、そのクラスタ数の最適値を最適クラスタ数n(nは2以上の整数)として決定するルーチンである。形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンは、横軸に第1〜第nクラスタ、縦軸に各クラスタに含まれる細胞の存在比率をとったグラフである形態クラスタ比率プロファイルを作成するルーチンである。形態クラスタ比率プロファイルは、細胞の種類とその細胞が培養されたときの分化・増殖の程度とに対応した形状になることから、特定の細胞をある培地で培養したときに適切に分化・増殖しているか否かの指標になる。
【0029】
まず、最適クラスタ数決定ルーチンについて説明する。図2は、このルーチンのフローチャートである。コンピュータ30は、最適クラスタ数決定ルーチンが開始されると、まず、1回目の標準培地での培養で得られた各回分の画像に含まれる全細胞の各々について、二値化処理、オブジェクト認識処理、オブジェクト数値化処理を施したあと複数の形態特徴量を取得する(ステップS110)。二値化処理では、所定の輝度値(例えば88グレイレベル)を閾値とし、その閾値以上の画素を白、閾値未満の画素を黒に変換する。また、形態特徴量としては、以下の(1)〜(16)のうち、Total area, Hole area, Relative hole area, Breadth, Fiber length, Fiber breadth, Shape factor, Elliptical form factor, Inner radiusの9つを取得する。これら9つを選択したのは、互いの相関係数が低いもの、つまり類似性の低い互いに独立したものだからである。なお、これらの形態特徴量は市販のソフトウェア(例えばUniversal Imaging Corporation製のMetaMorph)を使用することにより取得することができる。このステップS110が終了すると、1回目の標準培地での培養について、各経過時間ごとに、全細胞の各々につき9つの形態特徴量が対応づけられたデータ(特徴量プロファイル)が得られる。各細胞の特徴量プロファイルを図3に模式的に示す。
【0030】
(1)Total area
注目する細胞の面積を示す値であり、細胞内に画像処理上生じる穴様のコントラストがあっても無視して算出される。具体的には、注目する細胞の領域の画素数に基づいて算出される。
(2)Hole area
注目する細胞内の穴の面積を示す値である。ここで、穴は、コントラストによって細胞内における画像の輝度値が閾値以上となる部分(位相差観察では白に近い状態となる箇所)を指す。例えば、細胞内小器官の染色されたリソソームなどが穴として検出される。また、画像によっては、細胞核や他の細胞小器官が穴として検出される。具体的には、細胞内における輝度値が閾値以上となる画素のまとまりを穴として検出し、この穴の画素数に基づいて算出される。
(3)Relative hole area
注目する細胞の面積に対するその細胞領域内の輝度ムラから生じる画像的な穴の面積の相対比、つまりHole area/Total areaである。この値は、細胞の大きさにおける細胞内小器官の割合を示すパラメータであって、例えば細胞内小器官の肥大化や核の形の悪化などに応じて変動する。
(4)Perimeter
注目する細胞の外周の長さを示す値である。具体的には、細胞を抽出するときの輪郭追跡処理により取得する。
(5)Width
注目する細胞の画像横方向(X方向)での長さを示す値である。
(6)Height
注目する細胞の画像縦方向(Y方向)での長さを示す値である。
(7)Length
注目する細胞を横切る線分のうち最長の線分の長さ(細胞の全長)を示す値である。
(8)Breadth
Lengthを求めたときの線分に直交する線分のうち最長の線分の長さ(細胞の横幅)を示す値である。
(9)Fiber length
注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の長さを示す値である。具体的には、下記式により求める。
Fiber length=1/4[P-(P2-16A)1/2] (P=Perimeter, A=Total area)
(10)Fiber breadth
注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の幅(Fiber lengthを求めた線分と直交する方向の長さ)を示す値である。具体的には、下記式により求める。
Fiber breadth=1/4[P+(P2-16A)1/2] (P=Perimeter, A=Total area)
(11)Shape factor
注目する細胞の円形度(細胞の丸さ)を示す値である。具体的には、下記式により求める。
Shape factor=4πA/P2 (P=Perimeter, A=Total area)
(12)Elliptical form factor
細胞の横幅に対する細胞の全長の相対比、つまりLength/Breadthである。細胞の細長さの度合いを示すパラメータとなる。
(13)Inner radius
注目する細胞の内接円の半径を示す値である。
(14)Outer radius
注目する細胞の外接円の半径を示す値である。
(15)Mean radius
注目する細胞の輪郭を構成する全点とその重心点との平均距離を示す値である。
(16)Equivalent radius
注目する細胞と同面積の円の半径を示す値である。注目する細胞を仮想的に円に近似した場合の大きさを示す。
【0031】
続いて、コンピュータ30は、階層的クラスタリングを実行する(ステップS120)。具体的には、1回目の標準培地での培養について、各経過時間ごとに、全細胞の各々につき9つの形態特徴量が対応づけられたデータを用いて、階層的クラスタリングを実行する。
【0032】
例えば、1回目の標準培地を用いた培養で8時間経過した時点での全細胞(細胞1,細胞2,……)の特徴量プロファイルを用いて階層的クラスタリングを実行する場合を説明すると、まず、形態特徴量ごとに数値の標準正規化を行う。続いて、細胞1の全形態特徴量と細胞2の全形態特徴量との相関係数、細胞1の全形態特徴量と細胞3の全形態特徴量との相関係数、……という具合に細胞1と残りの細胞とのそれぞれの相関係数を求める。また、細胞2,細胞3、……についても、同様にして他の細胞との相関係数を求める。相関係数は、単位がなく、−1から1の間の実数値をとり、1に近いときには2つの間に正の相関があり、−1に近いときには負の相関があり、ゼロに近いときには相関がほとんどない。なお、相関係数の求め方は周知のため、ここでは説明を省略する。続いて、すべての相関係数の中で最も1に近い相関係数を持つ2つの細胞をデンドログラムでつなぎ、データとして横に並ぶように配置変換を行う。デンドログラムでつながれた二つ以上のデータをノードと呼び、ノードに所属する細胞は以降の相関係数の計算過程では扱われず、代わりにノードがノード内の全形態特徴量のサンプル平均値(または中央値)を与えられて代わりの疑似細胞データとして相関係数の網羅的計算に用いられる。その後、新生ノードがノード内の細胞の代わりにデータ集団に投入され、再度、細胞およびノードデータ内での網羅的データ間相関係数の算出を行う。相関計数が最も1に近い細胞同士、もしくは、細胞とノード、もしくはノードとノードが見つかった場合、この2つのデータ同士をデンドログラムでつなぎ新生ノードとする。この操作を繰り返し順々に行うことにより、次々とノードを生成していく。そして、最後に残った2つのノードを結合した時点で終了する。こうした階層的クラスタリングは、全データ間の相関係数を繰り返し算出しノードを生成するルーチンをプログラム化すれば、どのようなプログラム言語でも算出することができ、簡易にはフリーソフトウェアのcluster3.0を用いて実行することができる。階層的クラスタリングの結果は、デンドログラム(サンプル(上記細胞のクラスタリングの例では細胞と記述)に関するデンドログラム)として視覚化することができる。デンドログラムの視覚化は、例えばフリーソフトウェアのTree ViewやMaple Treeを用いて作成することができる。図4に、1回目の標準培地を用いた培養で8時間経過した時点におけるデンドログラムの視覚化例を示す。このデンドログラムでは、線で結ばれたサンプル同士(本例では細胞同士)は1つのノードとして表現されている。デンドログラムの線分の高さhは、低いほど結合された2つの間の相関係数の大きさに応じて規定されており、高いほど相関が低いことを意味する。本手法では、デンドログラム内のノード群を、ヒートマップのパターンからグループとしてまとめたものを、クラスタと呼ぶ。全体のノード群を、何個のグループとするかが、最適クラスタ数の決定アルゴリズムであり、何個にグループに分類するかが規定されると、デンドログラムの相関係数の低い順番にノードを辿ることで、一義的に規定グループ数のクラスタ(ノード群)を規定することができる。
【0033】
次に、2回目の標準培地での培養で得られた各回分の画像に含まれる全細胞について、ステップS110と同様にして複数の形態特徴量を取得し(ステップS130)、2回目の標準培地での培養について、ステップS120と同様にして階層的クラスタリングを実行し、デンドログラムを作成する(ステップS140)。更に、対照培地での培養で得られた各回分の画像に含まれる全細胞について、ステップS110と同様にして複数の形態特徴量を取得し(ステップS150)、2回目の標準培地での培養について、ステップS120と同様にして階層的クラスタリングを実行し、デンドログラムを作成する(ステップS160)。
【0034】
次に、コンピュータ30は、クラスタ数mに値2を設定し(ステップS170)、すべてのデンドログラムの各々につき、m個のクラスタに分かれるようにデンドログラムを分割する(ステップS180)。1回目の標準培地での培養において8時間経過した時点で得られたデンドログラムを2個(m=2)のクラスタC1〜C2に分かれるように分割した場合の説明図を図5(a)に、3個(m=3)のクラスタC1〜C3に分かれるように分割した場合の説明図を図5(b)に示す。図5からわかるように、デンドログラムの縦のラインを最上段から下方に徐々にずらしていくことで、デンドログラムをm個のクラスタに分けることができる。
【0035】
次に、コンピュータ30は、すべてのデンドログラムにつき、m個のクラスタの各々に含まれる細胞数を算出し、クラスタごとに細胞比率を算出する(ステップS190)。細胞比率は、各クラスタに存在する細胞数を全細胞数で除した値である。
【0036】
次に、コンピュータ30は、同じ経過時間のデータを用いて、1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、2日目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行って検定値を求め、その後、全経時分の検定値の総和を検定値の総数で除して平均検定値Δ1を算出する(ステップS200)。このときの様子を図6に示す。χ二乗検定とは、ある2つの標本の各カテゴリーごとの比率が、基準の比率と一致しているかどうかを判定する周知の統計的手法であり、χ二乗検定の値が小さいほど2つの標本は類似していると判断される。ここでは、同じ標準培地を用いて培養した結果を用いているため、平均検定値Δ1は理論的には小さな値(ゼロに近い値)になるはずである。こうしたχ二乗検定は、例えばR言語で記述されたchisq.testを用いて実行することができる。
【0037】
次に、コンピュータ30は、同じ経過時間のデータを用いて、1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、対照培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行って検定値を求め、その後、全経時分の検定値の総和を検定値の総数で除して平均検定値Δ2を算出する(ステップS210)。ここでは、標準培地はヒト角化細胞の培養に適している培地であるのに対して、対照培地はヒト角化細胞の培養に適していない培地であるため、平均検定値Δ2は理論的には大きな値になるはずである。
【0038】
次に、コンピュータ30は、両平均検定値の差分(Δ2−Δ1)を評価値として算出する(ステップS220)。その後、クラスタ数mが予め定められた上限値(例えば50とか100)に達したか否かを判定し(ステップS230)、達していないならば、クラスタ数mを1インクリメントし(ステップS240)、再びステップS180に戻る。
【0039】
一方、クラスタ数mが上限値に達していたならば、クラスタ数ごとに評価値が算出されているため、クラスタ数と評価値との対応関係を求め、評価値が上限に達した時点のクラスタ数を最適クラスタ数nに設定する(ステップS250)。前述したように、平均検定値Δ2は理論的には大きな値になるはずであり、平均検定値Δ1は理論的に小さな値になるはずなため、両者の差分(Δ2−Δ1)すなわち評価値が大きいほど評価にとって理想的といえる。一方、評価値が上限に達したあと更にクラスタ数を増加していくと、クラスタ数が多くなりすぎてかえって後述する形態クラスタ比率プロファイルによる比較が曖昧になることがあるため、好ましくない。こうしたことから、評価値が上限に達した時点のクラスタ数を最適クラスタ数nに設定しているのである。なお、評価値が上限に達したことは、例えば、クラスタ数を増加させたときの評価値の増加割合が実質的にゼロとみなすことのできる範囲に入ったことで判断してもよいし、あるいは評価値の増加割合が正から負に転じたことで判断してもよい。クラスタ数と評価値(Δ2−Δ1)との対応関係を表すグラフを図7に示す。図7は、細胞としてヒト角化細胞、標準培地としてEpi−life(クラボウ)、対照培地としてDMEMを使用したときの例である。図7では、クラスタ数が値6のときに評価値が上限に達しているため、最適クラスタ数nは値6に設定される。
【0040】
次に、形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンについて説明する。図8は、このルーチンのフローチャートである。このルーチンを実行する前に、検討培地を用いて、最適クラスタ数nを求めたときに用いた細胞と同種類の細胞を培養し、上述した標準培地での培養と同様、培養開始から8時間経過毎に撮影装置26により1回分(5枚)の画像を取得し、合計12回分の画像をコンピュータ30のHDDに格納しておく。
【0041】
コンピュータ30は、形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンが開始されると、まず、検討培地での培養で得られた各回分の画像に含まれる全細胞について、ステップS110と同様にして複数の形態特徴量を取得する(ステップS310)。その結果、その検討培地での培養について、各経過時間ごとに、全細胞の各々につき9つの形態特徴量が対応づけられたデータ(特徴量プロファイル)が得られる(図3参照)。
【0042】
次に、コンピュータ30は、検討培地で培養された細胞をクラスタに割り振る(ステップS320)。具体的には、予めオペレータが指定した経過時間(例えば8時間経過時)の全細胞の特徴量プロファイルから1つの細胞の特徴量プロファイルを読み出し、その特徴量プロファイルが予めオペレータが指定した比較対象の培地(例えば標準培地)で得られたデンドログラムの中のどの細胞の特徴量プロファイルと最も類似しているかを相関係数を用いて判断し、最も類似している細胞が属するクラスタ(第1〜第nクラスタのいずれか)にその細胞を割り振る。なお、nは上述した最適クラスタ数である。こうした割り振り操作を、全細胞について行う。このときの一例を図9に示す。図9では、標準培地での培養で8時間経過時の特徴量プロファイルを階層的クラスタリングした結果を用いて、検討培地での培養で8時間経過時の特徴量プロファイル(標準規格化後の数値を色分けしたもの)を第1〜第3クラスタC1〜C3のいずれかに振り分ける様子を例示している。図9の例では、最適クラスタ数は値3である。こうすることにより、予めオペレータが指定した経過時間における全細胞が各クラスタに割り振られる。
【0043】
次に、コンピュータ30は、形態クラスタ比率プロファイルを作成し、ディスプレイに出力する(ステップS330)。具体的には、各クラスタごとに割り振られた細胞の個数を積算し、各クラスタ毎に細胞の存在比率を算出し、クラスタ番号(1〜n)と細胞の存在比率との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成し、それをディスプレイに出力する。
【0044】
次に、コンピュータ30は、検討培地の環境と比較対象の培地の環境との定量的相似度を算出し、ディスプレイに出力する(ステップS340)。具体的には、比較対象の培地が標準培地の場合、今回使用した検討培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルと、標準培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルとの間でχ二乗検定を行った検定値を培養環境の定量的相似度として算出し、それをディスプレイに出力する。検定値が小さいほど(ゼロに近いほど)、定量的相似度が高いため、両方の培地環境は増殖率が似通っているだけでなく、細胞の形態が似ていることになり、細胞の分化の程度や活性なども似通っている可能性が高いと判断することができる。
【0045】
図10は、ヒト角化細胞をEpi life(標準培地)で培養したときに得られた形態クラスタ比率プロファイルと、ヒト角化細胞をDMEM(対照培地)で培養したときに得られた形態クラスタ比率プロファイルと、ヒト角化細胞を検討培地で培養したときに得られた形態クラスタ比率プロファイルとを比較したものである。培養開始からの経過時間は96時間である。このような形態クラスタ比率プロファイルは、観察画像を取得した全ての経過時間によって得られ、運用上もっとも効率的かつ目的とする対象培地とのプロファイルができるだけ大きく異なる時間帯を選ぶことによって、効率的な運用が可能となっている。ここで、対照培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルは、上述した形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンにおいて、検討培地を対照培地に置き換えて処理した結果得られたものである。ここでは、最適クラスタ数nは値6であった。図10から、検討培地の環境は、対照培地の環境にあまり似ておらず、標準培地の環境に似ていることがわかる。また、今回使用した検討培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルと、標準培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルとの間でχ二乗検定を行った検定値は、今回使用した検討培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルと、対照培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルとの間でχ二乗検定を行った検定値よりも小さかった。
【0046】
図11は、ヒト角化細胞をEpi life(標準培地)で培養したときの写真と、ヒト角化細胞をDMEM(対照培地)で培養したときの写真と、ヒト角化細胞を検討培地で培養したときの写真である。培養開始からの経過時間は48時間である。 図11の写真を比べると、検討培地の細胞の形状は、対照培地の細胞の形状とあまり似ておらず、標準培地の細胞の形状に類似している。このことは、図10の形態クラスタ比率プロファイルによる比較結果を支持している。このような形態クラスタ比率プロファイルは、観察画像を取得した全ての経過時間によって得られ、運用上もっとも効率的かつ目的とする対象培地とのプロファイルができるだけ大きく異なる時間帯を選ぶことによって、効率的な運用が可能となっている。
【0047】
以上詳述した本実施形態によれば、標準培地を用いて細胞を培養したときの形態クラスタ比率プロファイルと、検討培地を用いて細胞を培養したときの形態クラスタ比率プロファイルとが作成されるため、この2つの形態クラスタ比率プロファイルを比較することにより、特定の細胞の培養環境として、検討培地が標準培地と似ているのか似ていないのかを判断することができる。特に、検討培地の形態クラスタ比率プロファイルを標準培地のみならず対照培地の形態クラスタ比率プロファイルとも比較するため、検討培地が標準培地と環境が似ているのかあるいは対照培地と環境が似ているのかを判断することができる。
【0048】
また、形態クラスタ比率プロファイルは、細胞と複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データ(特徴量プロファイル)を用いて作成されるため、検討培地が標準培地と似ているのか似ていないのかの判断は、一つの形態特徴量(例えば細胞の投影面積のみ)ではなく複数の形態特徴量に基づいて行われることになる。したがって、細胞培地を多面的に評価することができる。
【0049】
更に、クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数nに設定し、この最適クラスタ数nでデンドログラムを分けることにより、形態クラスタ比率ファイルを求めるため、各培地の形態クラスタ比率プロファイルを比較したときの類似・非類似の判断を精度よく行うことができる。
【0050】
更にまた、標準培地は、特定の細胞を培養するのに最適と評価されている既知の培地であり、対照培地は、その特定の細胞を培養するのに適さないと評価されている既知の培地である。このため、検定値Δ2が大きくなり、ひいては評価値(Δ2−Δ1)が大きくなる。その結果、クラスタ数に対する評価値の増加割合が正から負に転じた時点のクラスタ数又は評価値が上限に達した時点のクラスタ数を精度よく求めることができる。
【0051】
そしてまた、複数の形態特徴量は、細胞の面積に関係する特徴量と、楕円形度に関係する特徴量と、円形度に関係する特徴量とを含むが、これらの形態特徴量は相関係数が低いため、相関係数の高い形態特徴量だけを用いる場合に比べて、細胞培地をより多面的に評価することができる。
【0052】
そして更に、各形態クラスタ比率プロファイルに基づいて培養環境の定量的相似度を算出するため、各培地の培養環境が似ているか否かを、定量的相似度という数値でもって判断することができる。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0054】
例えば、上述した実施形態では、細胞としてヒト角化細胞を例示したが、どのような種類の細胞であってもよい。例えば、接着依存性細胞であってもよいし、浮遊性細胞であってもよい。
【0055】
上述した実施形態では、定量的相似度としてχ二乗検定の検定値を用いたが、その代わりに、各形態クラスタ比率プロファイルの差分面積を算出し、それを培養環境の定量的相似度として用いてもよい。
【0056】
上述した実施形態の図10には、3つの形態クラスタ比率プロファイルを示したが、1つの検討培地に対して、標準培地の形態クラスタ比率プロファイルのほか、2種類以上の既知の培地の形態クラスタ比率プロファイルを比較するようにしてもよい。その場合、既知の培地は、ヒト角化細胞(特定の細胞)の培養に適しているものでもよいし、適していないものでもよい。こうすれば、検討培地の環境が既知のどの培地の環境に似ているのかをより明確に判断することができる。
【0057】
上述した実施形態のステップS200〜S220では、平均検定値Δ1,Δ2を求めて評価値(Δ2−Δ1)を算出したが、次のように算出してもよい。すなわち、ある1つ経過時間における、1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、2日目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行うことにより得られた検定値をΔ1とする。また、同じ経過時間における、1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、対照培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行うことにより得られた検定値をそのままΔ2とする。そして、Δ2−Δ1を評価値とする。但し、上述した実施形態のように平均検定値Δ1,Δ2を求めて評価値(Δ2−Δ1)を算出する方が、細胞形態の変化のバリエーションが多く解析データに含まれることで、全ての細胞形態特徴量における最小値と最大値の差が広がり、細胞培養中に生じる可能性のあるできる限り全ての形態パターンを網羅した形態クラスタ比率プロファイル算出のためのクラスタ数を求めることができる。具体的には、培養初期段階だけの画像だけでクラスタを算出をすると、伸展した細胞が少ないために「伸展している細胞」という培養後期には現れてくる細胞集団を表現するためのクラスタが欠落した形態クラスタ比率プロファイルとなってしまう。逆に培養後期だけの画像では、伸展した、もしくは、特徴が細胞集団全体で均一してきてしまった細胞が増えるために、細胞集団の中に形態特徴の差が小さくなり、クラスタが激減する可能性もある。このような形態特徴の差や変動の程度は、細胞の種類によって異なり、全経時を用いる場合が効果的な場合も、特徴的な時間を用いる場合が効果的な場合も想定される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の細胞培地評価方法は、検討培地が特定の細胞にとって適しているかどうかを客観的に判断することができるため、細胞治療や抗体医薬、バイオ医薬品の開発や、細胞接触面が存在するような医療機器表面の開発をするのに利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 細胞培養環境評価装置、20 インキュベータ、22 培養容器、24 ストッカー、26 撮影装置、26a 光源、27 透光板、28 ロボットアーム、30 コンピュータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養環境評価方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の培養には、細胞培養環境として培地、培養容器、培養温度、培養圧力など様々な環境要因の重要性が提唱されている。細胞を体外で培養する際には、これらの環境要因の最適化は必要不可欠である。
【0003】
特に細胞培地は培養環境を作る要素として重要視されると共に、最も広く他種類の商品化がなされており、商品としても、DMEMやF12,MSCGMなど、様々なものが販売されている。このような商品としての細胞培地成分の開発においては、個々の細胞が最もよい表現形や活性を示す成分が理想とされている。しかしその培地成分については、その組成が明らかなものも存在するが、近年開発が進む幹細胞のための特殊培地や、動物由来の血清成分を低下させた無血清培地、低血清培地、分化培地等の成分などが数多く存在するが、多くの成分は非公開であるばかりか、開発企業であっても経験的に成分を組み合わせている現状が多く、どの因子が本質的に細胞培養環境を決定付けているかは明らかで無い場合が多い。本質的に細胞培地は、他種類の無機・有機成分の種類および比率の無限の組み合わせから調整されるものであり、その組み合わせの多さから本質的な決定因子を限定発見することが困難であるとされている。
【0004】
こうしたことから、細胞培地を新規開発する際には検討しなくてはならない成分組み合わせの数が膨大すぎるため、各成分培地において、その細胞に対する性能を簡便に評価する方法が必要不可欠とされており、細胞への影響を評価する一つの限定的な手法として細胞増殖能を評価する方法が開発されている。これは多くの細胞培地開発が歴史的に細胞増殖能を一つの「目標培地の性能」として追求してきたためである。例えば、特許文献1の細胞増殖能を評価する方法では、個々の接着依存性細胞が培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積を算出し、その投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が培養容器に接着しているか否かを選別し、その選別結果に基づいて培養容器内の接着依存性細胞の集団としての細胞増殖能を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−21628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した細胞増殖能の評価方法では、細胞が培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積に基づいて細胞増殖能を評価しているため、細胞増殖に関連した活性のみを評価しているに過ぎず、細胞培養環境の多面的な影響を評価しているとは言い難い。
【0007】
すなわち、ある2つの細胞培養環境を比較した場合、細胞の投影面積から得られる情報(増殖率や接着率など増殖に関連する情報)については両方ともほぼ同じ結果が得られたとしても、細胞の活性(タンパク質生産量、分化度、未分化能、寿命など)については全く異なることが多く存在する。多くの場合、分化や成熟が進んだ細胞の増殖率は低下することが知られており、細胞環境として分化や成熟が進んだものを探索したい場合には、上記技術では全く検出できない。
【0008】
さらに、上記技術は細胞の接着率や増殖率など、画像中または条件内での細胞集団の情報を一つの「率」や「度合い」の値として表現するものであり、集団の平均的な値の解析であって、ヘテロ性の高い集団内の活性等のバラツキを定量的に評価・比較することができない。
【0009】
新規細胞培養環境(細胞培地を含む、培養容器、培養温度、培養圧力など様々な環境要因)を設計するためには、従来の接着率・増殖率だけに限られたような細胞評価結果や細胞集団が均質であると仮定したような平均値などによる評価とは本質的に異なった、質的に情報の多い評価結果を得る手法であって、簡便かつコストの低い培地条件の比較・評価方法が求められている。本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、細胞培地を多面的かつ集団内分布を加味した定量性を持った評価を行うことを主目的とし、細胞培地を細胞培養環境の一つのモデル例として取り上げて有効性を検証したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の細胞培養環境評価方法は、
(a)標準培養環境を用いて特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Aと、別途、前記標準培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群A’と、前記標準培養環境とは異なる対照培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Bとを取得するステップと、
(b)前記画像群A,A’,Bの全てにおいて、各細胞について予め定められた複数の形態特徴量の値を算出するステップと、
(c)前記画像群A,A’,Bの各々につき、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて相関分析を実行し、全画像群中に含まれる細胞に関する相関関係図を作成するステップと、
(d)前記画像群A,A’,Bの各々につき、前記細胞に関する相関関係図をもとに、相関性の高い複数の細胞が所属するグループとしてクラスタを設定することを目標とし、クラスタ数を値2から順に所定数まで設定していき、設定されたクラスタ数に分割されたクラスタと各クラスタに振り分けられた細胞数とを用いてχ(カイ)二乗検定を行い、各画像群A,A’,Bの検定値を求めるステップと、
(e)前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群A’から得られた検定値との差Δ1と、前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群Bから得られた検定値との差Δ2との差分Δ2−Δ1を評価値として算出するステップと、
(f)クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数n(nは2以上の整数)に設定するステップと、
(g)前記画像群A又は前記画像群A’で得られた全細胞につき、該画像群の相関関係図を前記最適クラスタ数nで分けたときの第1〜第nクラスタと、各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップと、
(h)検討培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに撮影した画像Xを取得し、該画像Xに含まれる各細胞について前記複数の形態特徴量の値を算出し、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データと前記第1〜第nクラスタ中の全ての細胞との相関性(相関係数)を算出することにより、画像Xに含まれる全細胞が所属する各々の前記第1〜第nクラスタ名と所属クラスタに含まれる細胞数を求めることで形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップと、
を含むものである。
【0011】
この細胞培養環境評価方法によれば、標準培養環境を用いて細胞を培養したときの形態クラスタ比率プロファイルと、検討培養環境を用いて細胞を培養したときの形態クラスタ比率プロファイルとが作成されるため、この2つの形態クラスタ比率プロファイルを比較すれば、その細胞の培養環境として、検討培養環境が標準培養環境と相関性があるのか相関性が無いのかを「細胞集団内のヘテロ性を加味し」かつ「定量的に」判断することができる。
【0012】
また、形態クラスタ比率プロファイルは、細胞と複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて作成されるため、検討培養環境が標準培養環境と似ているのか似ていないのかの判断は、一つの形態特徴量(例えば細胞の投影面積のみ)ではなく複数の形態特徴量という多面的な「形の多次元情報」と共に、細胞集団内の小集団の分布という多面的な「細胞集団内のヘテロ性を加味した」評価をすることができる。
【0013】
更に、クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数nに設定し、この最適クラスタ数nでデンドログラムを分けて得られる第1〜第nクラスタを用いて形態クラスタ比率ファイルを求めるため、各培養環境の形態クラスタ比率プロファイルを比較したときの類似・非類似の判断を客観的かつ自動で、かつ精度よく行うことができる。
【0014】
ここで、培養環境とは、培地、培養面、培養条件などを含む意であり、培養面としてはコーティング材料、凹凸加工、表面性質などが挙げられ、培養条件としては酸素量、圧力、ストレス、滅菌の有無、感染の有無などが挙げられる。検討培養環境とは、性能が未知の培養環境を意味する。相関分析としては、例えば階層的クラスタリングなどが挙げられ、相関関係図としては、例えばデンドログラムなどが挙げられる。
【0015】
なお、χ二乗検定や形態クラスタ比率プロファイルに用いる「各クラスタに振り分けられた細胞数」は、実質的に細胞数を表す値であればよく、例えば、細胞数そのもののほか、各クラスタに振り分けられた細胞の存在比率(各クラスタに振り分けられた細胞数を全細胞数で除した値)としてもよい。また、クラスタ数に対する評価値が上限に達したことは、クラスタ数に対する評価値の増加割合がゼロとみなすことのできる範囲になったことにより判断してもよいし、その増加割合が正から負に転じたことにより判断してもよい。
【0016】
本発明の細胞培養環境評価方法において、前記標準培養環境は、前記特定の細胞を培養するのに適すると評価されている既知の培養環境であり、前記対照培養環境は、前記特定の細胞を培養するのに適さないと評価されている1以上の既知の培養環境、もしくは、前記標準培養環境から1又は複数の必須成分を欠如させた培養環境であるとしてもよい。こうすれば、検定値Δ2が大きくなるため、ひいては評価値(Δ2−Δ1)が大きくなり、クラスタ数に対する評価値の増加割合が正から負に転じた時点のクラスタ数又は評価値が上限に達した時点のクラスタ数を精度よく求めることができる。
【0017】
本発明の細胞培養環境評価方法において、前記複数の形態特徴量は、細胞の面積に関係する特徴量と、楕円形度に関係する特徴量と、円形度に関係する特徴量とを含むとしてもよい。また、形態特徴量の中には、細胞画像情報の輝度ムラや輝度の集積度合いから推定される細胞の表面形態特徴量(滑らかさ、凹凸、などのテクスチャ情報)を含んでいてもよい。これらの形態特徴量を用いる際には互いの相関係数が低いものを選抜して利用することにより、細胞培養環境をより多面的に評価することができる。細胞の面積に関する特徴量としては、例えばHole Area, Total Areaなどが挙げられ、楕円形度に関係する特徴量としては、例えばElliptical Form Factorなどが挙げられ、円形度に関係する特徴量としては、例えばShape Factor, Inner Radiusなどが挙げられる。細胞の表面形態特徴量としては、Relative Hole Areaなどが挙げられる。
【0018】
本発明の細胞培養環境評価方法は、更に、(i)前記画像群Bについての各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを前記第1〜第nクラスタに割り振ることにより、前記第1〜第nクラスタと各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップを含んでいてもよい。こうすれば、検討培養環境の形態クラスタ比率プロファイルを標準培養環境及び対照培養環境の形態クラスタ比率プロファイルと比較することにより、検討培養環境が標準培養環境と環境が似ているのか、あるいは、対照培養環境と環境が似ているのかを判断することができる。なお、対照培養環境は複数種類としてもよい。こうすれば、これらの複数種類の培養環境と環境が似ているかどうかを判断することができる。
【0019】
本発明の細胞培養環境評価方法は、更に、(j)各形態クラスタ比率プロファイルに基づいて培養環境の定量的相似度を算出するステップを含んでいてもよい。こうすれば、各培養環境が似ているか否かを、定量的相似度という数値でもって判断することができる。こうした定量的相似度としては、例えば、各形態クラスタ比率プロファイルの間でχ二乗検定を行うなどの統計的検定値や、各プロファイルデータ間のユークリッド距離や積分面積の差など、プロファイル間の距離に関する指標を用いてもとしてもよい。
【0020】
本発明の細胞培養環境評価装置は、
標準培養環境を用いて特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Aと、別途、前記標準培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群A’と、前記標準培養環境とは異なる対照培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Bとを取得する画像取得手段と、
前記画像群A,A’,Bの全てにおいて、各細胞について予め定められた複数の形態特徴量の値を算出する形態特徴量算出手段と、
前記画像群A,A’,Bの各々につき、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて相関分析を実行し、全画像群中に含まれる細胞に関する相関関係図を作成する相関関係図作成手段と、
前記画像群A,A’,Bの各々につき、前記細胞に関する相関関係図をもとに、相関性の高い複数の細胞が所属するグループとしてクラスタを設定することを目標とし、クラスタ数を値2から順に所定数まで設定していき、設定されたクラスタ数に分割されたクラスタと各クラスタに振り分けられた細胞数とを用いてχ(カイ)二乗検定を行い、各画像群A,A’,Bの検定値を求める検定値算出手段と、
前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群A’から得られた検定値との差Δ1と、前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群Bから得られた検定値との差Δ2との差分Δ2−Δ1を評価値として算出する評価値算出手段と、
クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数n(nは2以上の整数)に設定する最適クラスタ値設定手段と、
前記画像群A又は前記画像群A’で得られた全細胞につき、該画像群の相関関係図を前記最適クラスタ数nで分けたときの第1〜第nクラスタと、各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成する標準培養環境プロファイル作成手段と、
)検討培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに撮影した画像Xを取得し、該画像Xに含まれる各細胞について前記複数の形態特徴量の値を算出し、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データと前記第1〜第nクラスタ中の全ての細胞との相関性(相関係数)を算出することにより、画像Xに含まれる全細胞が所属する各々の前記第1〜第nクラスタ名と所属クラスタに含まれる細胞数を求めることで形態クラスタ比率プロファイルを作成する検討培養環境プロファイル作成手段と、
を備えたものである。
【0021】
この細胞培養環境評価装置は、上述した細胞培養環境評価方法の各ステップを実行するため、上述した細胞培養環境評価方法と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】細胞培養環境評価装置10の全体構成を示す説明図である。
【図2】最適クラスタ数決定処理ルーチンのフローチャートである。
【図3】各細胞の特徴量プロファイルを示した説明図である。
【図4】1回目の標準培地での培養において8時間経過した時点でのデンドログラムである。
【図5】デンドログラムを複数のクラスタに分割する様子を示す説明図である。
【図6】1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、2回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行うときの説明図である。
【図7】クラスタ数と評価値(Δ2−Δ1)との対応関係を表すグラフである。
【図8】形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンのフローチャートである。
【図9】検討培地での特徴量プロファイルをクラスタに振り分ける様子を示す説明図である。
【図10】ヒト角化細胞を3種類の培地で培養したときの形態クラスタ比率プロファイルのグラフである。
【図11】ヒト角化細胞を3種類の培地で培養したときの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の細胞培養環境評価方法を具現化した細胞培養環境評価装置10について説明する。図1は、細胞培養環境評価装置10の全体構成を示す説明図である。
【0024】
細胞培養環境評価装置10は、インキュベータ20と、コンピュータ30とを備えている。
【0025】
インキュベータ20は、複数の培養容器22を収容するストッカー24と、培養容器22の撮影を行う撮影装置26と、ストッカー24と撮影装置26の撮影位置との間で培養容器22を移動させるロボットアーム28とを備えている。ストッカー24は、複数の棚を有しており、この棚に培養容器22が収容される。撮影装置26は、透光板27が置かれた撮影位置に配置された培養容器22に対して上方からLED光源26aにより光を照射し、そのときの培養容器22の細胞を、培養容器22の下方から位相差顕微鏡を通して撮影する。ロボットアーム28は、予め定められたタイムスケジュールにしたがって、ストッカー24から所望の培養容器22を取り出して撮影位置に運び、撮影装置26による撮影終了後にその培養容器22を撮影位置からストッカ24ーの元の位置に戻す。また、インキュベータ20は、細胞の培養に適した環境(例えば温度37℃、湿度90%の雰囲気)になるように温度、湿度が管理されている。こうしたインキュベータの詳細については、WO2010/98105に開示されている。
【0026】
コンピュータ30は、周知のCPU、ROM、RAM、HDD等を備え、撮影装置26から画像を入力可能に接続されている。CPUは各種プログラムを実行するものであり、ROMは各種プログラム(後述する最適クラスタ数決定ルーチンや形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチン、cluster3.0、chisq.testなど)やテーブルなどを記憶するものであり、RAMはデータを一時的に記憶するものであり、HDDは撮影装置26から入力した画像などを格納するものである。なお、コンピュータ30が、本発明の細胞培地評価装置に相当する。
【0027】
ここでは、コンピュータ30のHDDには、既に、撮影装置26によって撮影された画像が格納されているものとする。その画像は、以下のようにして撮影されたものである。すなわち、ヒト角化細胞の培養に最適とされる既知の培地を標準培地(本発明の標準培地)とし、ヒト角化細胞の培養にあまり適していないとされる既知の培地を対照培地(本発明の対照培地)として用意した。例えば、標準培地としてはEpi−life(クラボウ)、対照培地としてはDMEMが例示される。そして、インキュベータ20内で、標準培地にヒト角化細胞を播種した培養容器22と、同じ標準培地にヒト角化細胞を播種した培養容器22と、対照培地にヒト角化細胞を播種した培養容器22を入れて4日間培養した。なお、一方の標準培地による培養を1回目の標準培地での培養と称し、もう一方の標準培地による細胞培養を2回目の標準培地での培養と称する。そして、培養開始から8時間経過するごとに、撮影装置26でそれぞれの培養容器22の細胞の画像を5枚ずつ撮影した。1度に撮影される5枚の画像のうち、1枚は培養容器22のウェルの中央領域を撮影した画像であり、残り4枚はその中央領域の上下左右の領域を撮影した画像である。これらの5枚の画像を1回分の画像という。ここでは、培養期間が4日間のため、それぞれの培養容器22につき12回分の画像が得られた。コンピュータ30のHDDには、撮影装置26によって撮影された画像に培地名と経過時間とを対応付けて格納した。なお、画像は、8ビットのBMP画像であり、各ピクセルの値が0〜255グレイレベルの数字の輝度値で表されるものとした。このようにして、コンピュータ30のHDDには、1回めの標準培地での培養で得られた12回分の画像(本発明の画像Aに相当)と、2回めの標準培地での培養で得られた12回分の画像(本発明の画像A’に相当)と、対照培地での培養で得られた12回分の画像(本発明の画像Bに相当)が格納されている。
【0028】
次に、細胞培養環境評価装置10を用いて形態クラスタ比率プロファイルを作成する手順を説明する。本実施形態では、最適クラスタ数決定ルーチンを実行し、その後、形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンを実行する。ここで、最適クラスタ数決定ルーチンは、ある細胞を培養したときの細胞の形態的な特徴を利用して階層的クラスタリングを実行し、その結果得られるデンドログラムを用いていくつかのクラスタに分割する際の、そのクラスタ数の最適値を最適クラスタ数n(nは2以上の整数)として決定するルーチンである。形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンは、横軸に第1〜第nクラスタ、縦軸に各クラスタに含まれる細胞の存在比率をとったグラフである形態クラスタ比率プロファイルを作成するルーチンである。形態クラスタ比率プロファイルは、細胞の種類とその細胞が培養されたときの分化・増殖の程度とに対応した形状になることから、特定の細胞をある培地で培養したときに適切に分化・増殖しているか否かの指標になる。
【0029】
まず、最適クラスタ数決定ルーチンについて説明する。図2は、このルーチンのフローチャートである。コンピュータ30は、最適クラスタ数決定ルーチンが開始されると、まず、1回目の標準培地での培養で得られた各回分の画像に含まれる全細胞の各々について、二値化処理、オブジェクト認識処理、オブジェクト数値化処理を施したあと複数の形態特徴量を取得する(ステップS110)。二値化処理では、所定の輝度値(例えば88グレイレベル)を閾値とし、その閾値以上の画素を白、閾値未満の画素を黒に変換する。また、形態特徴量としては、以下の(1)〜(16)のうち、Total area, Hole area, Relative hole area, Breadth, Fiber length, Fiber breadth, Shape factor, Elliptical form factor, Inner radiusの9つを取得する。これら9つを選択したのは、互いの相関係数が低いもの、つまり類似性の低い互いに独立したものだからである。なお、これらの形態特徴量は市販のソフトウェア(例えばUniversal Imaging Corporation製のMetaMorph)を使用することにより取得することができる。このステップS110が終了すると、1回目の標準培地での培養について、各経過時間ごとに、全細胞の各々につき9つの形態特徴量が対応づけられたデータ(特徴量プロファイル)が得られる。各細胞の特徴量プロファイルを図3に模式的に示す。
【0030】
(1)Total area
注目する細胞の面積を示す値であり、細胞内に画像処理上生じる穴様のコントラストがあっても無視して算出される。具体的には、注目する細胞の領域の画素数に基づいて算出される。
(2)Hole area
注目する細胞内の穴の面積を示す値である。ここで、穴は、コントラストによって細胞内における画像の輝度値が閾値以上となる部分(位相差観察では白に近い状態となる箇所)を指す。例えば、細胞内小器官の染色されたリソソームなどが穴として検出される。また、画像によっては、細胞核や他の細胞小器官が穴として検出される。具体的には、細胞内における輝度値が閾値以上となる画素のまとまりを穴として検出し、この穴の画素数に基づいて算出される。
(3)Relative hole area
注目する細胞の面積に対するその細胞領域内の輝度ムラから生じる画像的な穴の面積の相対比、つまりHole area/Total areaである。この値は、細胞の大きさにおける細胞内小器官の割合を示すパラメータであって、例えば細胞内小器官の肥大化や核の形の悪化などに応じて変動する。
(4)Perimeter
注目する細胞の外周の長さを示す値である。具体的には、細胞を抽出するときの輪郭追跡処理により取得する。
(5)Width
注目する細胞の画像横方向(X方向)での長さを示す値である。
(6)Height
注目する細胞の画像縦方向(Y方向)での長さを示す値である。
(7)Length
注目する細胞を横切る線分のうち最長の線分の長さ(細胞の全長)を示す値である。
(8)Breadth
Lengthを求めたときの線分に直交する線分のうち最長の線分の長さ(細胞の横幅)を示す値である。
(9)Fiber length
注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の長さを示す値である。具体的には、下記式により求める。
Fiber length=1/4[P-(P2-16A)1/2] (P=Perimeter, A=Total area)
(10)Fiber breadth
注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の幅(Fiber lengthを求めた線分と直交する方向の長さ)を示す値である。具体的には、下記式により求める。
Fiber breadth=1/4[P+(P2-16A)1/2] (P=Perimeter, A=Total area)
(11)Shape factor
注目する細胞の円形度(細胞の丸さ)を示す値である。具体的には、下記式により求める。
Shape factor=4πA/P2 (P=Perimeter, A=Total area)
(12)Elliptical form factor
細胞の横幅に対する細胞の全長の相対比、つまりLength/Breadthである。細胞の細長さの度合いを示すパラメータとなる。
(13)Inner radius
注目する細胞の内接円の半径を示す値である。
(14)Outer radius
注目する細胞の外接円の半径を示す値である。
(15)Mean radius
注目する細胞の輪郭を構成する全点とその重心点との平均距離を示す値である。
(16)Equivalent radius
注目する細胞と同面積の円の半径を示す値である。注目する細胞を仮想的に円に近似した場合の大きさを示す。
【0031】
続いて、コンピュータ30は、階層的クラスタリングを実行する(ステップS120)。具体的には、1回目の標準培地での培養について、各経過時間ごとに、全細胞の各々につき9つの形態特徴量が対応づけられたデータを用いて、階層的クラスタリングを実行する。
【0032】
例えば、1回目の標準培地を用いた培養で8時間経過した時点での全細胞(細胞1,細胞2,……)の特徴量プロファイルを用いて階層的クラスタリングを実行する場合を説明すると、まず、形態特徴量ごとに数値の標準正規化を行う。続いて、細胞1の全形態特徴量と細胞2の全形態特徴量との相関係数、細胞1の全形態特徴量と細胞3の全形態特徴量との相関係数、……という具合に細胞1と残りの細胞とのそれぞれの相関係数を求める。また、細胞2,細胞3、……についても、同様にして他の細胞との相関係数を求める。相関係数は、単位がなく、−1から1の間の実数値をとり、1に近いときには2つの間に正の相関があり、−1に近いときには負の相関があり、ゼロに近いときには相関がほとんどない。なお、相関係数の求め方は周知のため、ここでは説明を省略する。続いて、すべての相関係数の中で最も1に近い相関係数を持つ2つの細胞をデンドログラムでつなぎ、データとして横に並ぶように配置変換を行う。デンドログラムでつながれた二つ以上のデータをノードと呼び、ノードに所属する細胞は以降の相関係数の計算過程では扱われず、代わりにノードがノード内の全形態特徴量のサンプル平均値(または中央値)を与えられて代わりの疑似細胞データとして相関係数の網羅的計算に用いられる。その後、新生ノードがノード内の細胞の代わりにデータ集団に投入され、再度、細胞およびノードデータ内での網羅的データ間相関係数の算出を行う。相関計数が最も1に近い細胞同士、もしくは、細胞とノード、もしくはノードとノードが見つかった場合、この2つのデータ同士をデンドログラムでつなぎ新生ノードとする。この操作を繰り返し順々に行うことにより、次々とノードを生成していく。そして、最後に残った2つのノードを結合した時点で終了する。こうした階層的クラスタリングは、全データ間の相関係数を繰り返し算出しノードを生成するルーチンをプログラム化すれば、どのようなプログラム言語でも算出することができ、簡易にはフリーソフトウェアのcluster3.0を用いて実行することができる。階層的クラスタリングの結果は、デンドログラム(サンプル(上記細胞のクラスタリングの例では細胞と記述)に関するデンドログラム)として視覚化することができる。デンドログラムの視覚化は、例えばフリーソフトウェアのTree ViewやMaple Treeを用いて作成することができる。図4に、1回目の標準培地を用いた培養で8時間経過した時点におけるデンドログラムの視覚化例を示す。このデンドログラムでは、線で結ばれたサンプル同士(本例では細胞同士)は1つのノードとして表現されている。デンドログラムの線分の高さhは、低いほど結合された2つの間の相関係数の大きさに応じて規定されており、高いほど相関が低いことを意味する。本手法では、デンドログラム内のノード群を、ヒートマップのパターンからグループとしてまとめたものを、クラスタと呼ぶ。全体のノード群を、何個のグループとするかが、最適クラスタ数の決定アルゴリズムであり、何個にグループに分類するかが規定されると、デンドログラムの相関係数の低い順番にノードを辿ることで、一義的に規定グループ数のクラスタ(ノード群)を規定することができる。
【0033】
次に、2回目の標準培地での培養で得られた各回分の画像に含まれる全細胞について、ステップS110と同様にして複数の形態特徴量を取得し(ステップS130)、2回目の標準培地での培養について、ステップS120と同様にして階層的クラスタリングを実行し、デンドログラムを作成する(ステップS140)。更に、対照培地での培養で得られた各回分の画像に含まれる全細胞について、ステップS110と同様にして複数の形態特徴量を取得し(ステップS150)、2回目の標準培地での培養について、ステップS120と同様にして階層的クラスタリングを実行し、デンドログラムを作成する(ステップS160)。
【0034】
次に、コンピュータ30は、クラスタ数mに値2を設定し(ステップS170)、すべてのデンドログラムの各々につき、m個のクラスタに分かれるようにデンドログラムを分割する(ステップS180)。1回目の標準培地での培養において8時間経過した時点で得られたデンドログラムを2個(m=2)のクラスタC1〜C2に分かれるように分割した場合の説明図を図5(a)に、3個(m=3)のクラスタC1〜C3に分かれるように分割した場合の説明図を図5(b)に示す。図5からわかるように、デンドログラムの縦のラインを最上段から下方に徐々にずらしていくことで、デンドログラムをm個のクラスタに分けることができる。
【0035】
次に、コンピュータ30は、すべてのデンドログラムにつき、m個のクラスタの各々に含まれる細胞数を算出し、クラスタごとに細胞比率を算出する(ステップS190)。細胞比率は、各クラスタに存在する細胞数を全細胞数で除した値である。
【0036】
次に、コンピュータ30は、同じ経過時間のデータを用いて、1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、2日目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行って検定値を求め、その後、全経時分の検定値の総和を検定値の総数で除して平均検定値Δ1を算出する(ステップS200)。このときの様子を図6に示す。χ二乗検定とは、ある2つの標本の各カテゴリーごとの比率が、基準の比率と一致しているかどうかを判定する周知の統計的手法であり、χ二乗検定の値が小さいほど2つの標本は類似していると判断される。ここでは、同じ標準培地を用いて培養した結果を用いているため、平均検定値Δ1は理論的には小さな値(ゼロに近い値)になるはずである。こうしたχ二乗検定は、例えばR言語で記述されたchisq.testを用いて実行することができる。
【0037】
次に、コンピュータ30は、同じ経過時間のデータを用いて、1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、対照培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行って検定値を求め、その後、全経時分の検定値の総和を検定値の総数で除して平均検定値Δ2を算出する(ステップS210)。ここでは、標準培地はヒト角化細胞の培養に適している培地であるのに対して、対照培地はヒト角化細胞の培養に適していない培地であるため、平均検定値Δ2は理論的には大きな値になるはずである。
【0038】
次に、コンピュータ30は、両平均検定値の差分(Δ2−Δ1)を評価値として算出する(ステップS220)。その後、クラスタ数mが予め定められた上限値(例えば50とか100)に達したか否かを判定し(ステップS230)、達していないならば、クラスタ数mを1インクリメントし(ステップS240)、再びステップS180に戻る。
【0039】
一方、クラスタ数mが上限値に達していたならば、クラスタ数ごとに評価値が算出されているため、クラスタ数と評価値との対応関係を求め、評価値が上限に達した時点のクラスタ数を最適クラスタ数nに設定する(ステップS250)。前述したように、平均検定値Δ2は理論的には大きな値になるはずであり、平均検定値Δ1は理論的に小さな値になるはずなため、両者の差分(Δ2−Δ1)すなわち評価値が大きいほど評価にとって理想的といえる。一方、評価値が上限に達したあと更にクラスタ数を増加していくと、クラスタ数が多くなりすぎてかえって後述する形態クラスタ比率プロファイルによる比較が曖昧になることがあるため、好ましくない。こうしたことから、評価値が上限に達した時点のクラスタ数を最適クラスタ数nに設定しているのである。なお、評価値が上限に達したことは、例えば、クラスタ数を増加させたときの評価値の増加割合が実質的にゼロとみなすことのできる範囲に入ったことで判断してもよいし、あるいは評価値の増加割合が正から負に転じたことで判断してもよい。クラスタ数と評価値(Δ2−Δ1)との対応関係を表すグラフを図7に示す。図7は、細胞としてヒト角化細胞、標準培地としてEpi−life(クラボウ)、対照培地としてDMEMを使用したときの例である。図7では、クラスタ数が値6のときに評価値が上限に達しているため、最適クラスタ数nは値6に設定される。
【0040】
次に、形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンについて説明する。図8は、このルーチンのフローチャートである。このルーチンを実行する前に、検討培地を用いて、最適クラスタ数nを求めたときに用いた細胞と同種類の細胞を培養し、上述した標準培地での培養と同様、培養開始から8時間経過毎に撮影装置26により1回分(5枚)の画像を取得し、合計12回分の画像をコンピュータ30のHDDに格納しておく。
【0041】
コンピュータ30は、形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンが開始されると、まず、検討培地での培養で得られた各回分の画像に含まれる全細胞について、ステップS110と同様にして複数の形態特徴量を取得する(ステップS310)。その結果、その検討培地での培養について、各経過時間ごとに、全細胞の各々につき9つの形態特徴量が対応づけられたデータ(特徴量プロファイル)が得られる(図3参照)。
【0042】
次に、コンピュータ30は、検討培地で培養された細胞をクラスタに割り振る(ステップS320)。具体的には、予めオペレータが指定した経過時間(例えば8時間経過時)の全細胞の特徴量プロファイルから1つの細胞の特徴量プロファイルを読み出し、その特徴量プロファイルが予めオペレータが指定した比較対象の培地(例えば標準培地)で得られたデンドログラムの中のどの細胞の特徴量プロファイルと最も類似しているかを相関係数を用いて判断し、最も類似している細胞が属するクラスタ(第1〜第nクラスタのいずれか)にその細胞を割り振る。なお、nは上述した最適クラスタ数である。こうした割り振り操作を、全細胞について行う。このときの一例を図9に示す。図9では、標準培地での培養で8時間経過時の特徴量プロファイルを階層的クラスタリングした結果を用いて、検討培地での培養で8時間経過時の特徴量プロファイル(標準規格化後の数値を色分けしたもの)を第1〜第3クラスタC1〜C3のいずれかに振り分ける様子を例示している。図9の例では、最適クラスタ数は値3である。こうすることにより、予めオペレータが指定した経過時間における全細胞が各クラスタに割り振られる。
【0043】
次に、コンピュータ30は、形態クラスタ比率プロファイルを作成し、ディスプレイに出力する(ステップS330)。具体的には、各クラスタごとに割り振られた細胞の個数を積算し、各クラスタ毎に細胞の存在比率を算出し、クラスタ番号(1〜n)と細胞の存在比率との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成し、それをディスプレイに出力する。
【0044】
次に、コンピュータ30は、検討培地の環境と比較対象の培地の環境との定量的相似度を算出し、ディスプレイに出力する(ステップS340)。具体的には、比較対象の培地が標準培地の場合、今回使用した検討培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルと、標準培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルとの間でχ二乗検定を行った検定値を培養環境の定量的相似度として算出し、それをディスプレイに出力する。検定値が小さいほど(ゼロに近いほど)、定量的相似度が高いため、両方の培地環境は増殖率が似通っているだけでなく、細胞の形態が似ていることになり、細胞の分化の程度や活性なども似通っている可能性が高いと判断することができる。
【0045】
図10は、ヒト角化細胞をEpi life(標準培地)で培養したときに得られた形態クラスタ比率プロファイルと、ヒト角化細胞をDMEM(対照培地)で培養したときに得られた形態クラスタ比率プロファイルと、ヒト角化細胞を検討培地で培養したときに得られた形態クラスタ比率プロファイルとを比較したものである。培養開始からの経過時間は96時間である。このような形態クラスタ比率プロファイルは、観察画像を取得した全ての経過時間によって得られ、運用上もっとも効率的かつ目的とする対象培地とのプロファイルができるだけ大きく異なる時間帯を選ぶことによって、効率的な運用が可能となっている。ここで、対照培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルは、上述した形態クラスタ比率プロファイル作成ルーチンにおいて、検討培地を対照培地に置き換えて処理した結果得られたものである。ここでは、最適クラスタ数nは値6であった。図10から、検討培地の環境は、対照培地の環境にあまり似ておらず、標準培地の環境に似ていることがわかる。また、今回使用した検討培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルと、標準培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルとの間でχ二乗検定を行った検定値は、今回使用した検討培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルと、対照培地での培養で得られた形態クラスタ比率プロファイルとの間でχ二乗検定を行った検定値よりも小さかった。
【0046】
図11は、ヒト角化細胞をEpi life(標準培地)で培養したときの写真と、ヒト角化細胞をDMEM(対照培地)で培養したときの写真と、ヒト角化細胞を検討培地で培養したときの写真である。培養開始からの経過時間は48時間である。 図11の写真を比べると、検討培地の細胞の形状は、対照培地の細胞の形状とあまり似ておらず、標準培地の細胞の形状に類似している。このことは、図10の形態クラスタ比率プロファイルによる比較結果を支持している。このような形態クラスタ比率プロファイルは、観察画像を取得した全ての経過時間によって得られ、運用上もっとも効率的かつ目的とする対象培地とのプロファイルができるだけ大きく異なる時間帯を選ぶことによって、効率的な運用が可能となっている。
【0047】
以上詳述した本実施形態によれば、標準培地を用いて細胞を培養したときの形態クラスタ比率プロファイルと、検討培地を用いて細胞を培養したときの形態クラスタ比率プロファイルとが作成されるため、この2つの形態クラスタ比率プロファイルを比較することにより、特定の細胞の培養環境として、検討培地が標準培地と似ているのか似ていないのかを判断することができる。特に、検討培地の形態クラスタ比率プロファイルを標準培地のみならず対照培地の形態クラスタ比率プロファイルとも比較するため、検討培地が標準培地と環境が似ているのかあるいは対照培地と環境が似ているのかを判断することができる。
【0048】
また、形態クラスタ比率プロファイルは、細胞と複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データ(特徴量プロファイル)を用いて作成されるため、検討培地が標準培地と似ているのか似ていないのかの判断は、一つの形態特徴量(例えば細胞の投影面積のみ)ではなく複数の形態特徴量に基づいて行われることになる。したがって、細胞培地を多面的に評価することができる。
【0049】
更に、クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数nに設定し、この最適クラスタ数nでデンドログラムを分けることにより、形態クラスタ比率ファイルを求めるため、各培地の形態クラスタ比率プロファイルを比較したときの類似・非類似の判断を精度よく行うことができる。
【0050】
更にまた、標準培地は、特定の細胞を培養するのに最適と評価されている既知の培地であり、対照培地は、その特定の細胞を培養するのに適さないと評価されている既知の培地である。このため、検定値Δ2が大きくなり、ひいては評価値(Δ2−Δ1)が大きくなる。その結果、クラスタ数に対する評価値の増加割合が正から負に転じた時点のクラスタ数又は評価値が上限に達した時点のクラスタ数を精度よく求めることができる。
【0051】
そしてまた、複数の形態特徴量は、細胞の面積に関係する特徴量と、楕円形度に関係する特徴量と、円形度に関係する特徴量とを含むが、これらの形態特徴量は相関係数が低いため、相関係数の高い形態特徴量だけを用いる場合に比べて、細胞培地をより多面的に評価することができる。
【0052】
そして更に、各形態クラスタ比率プロファイルに基づいて培養環境の定量的相似度を算出するため、各培地の培養環境が似ているか否かを、定量的相似度という数値でもって判断することができる。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0054】
例えば、上述した実施形態では、細胞としてヒト角化細胞を例示したが、どのような種類の細胞であってもよい。例えば、接着依存性細胞であってもよいし、浮遊性細胞であってもよい。
【0055】
上述した実施形態では、定量的相似度としてχ二乗検定の検定値を用いたが、その代わりに、各形態クラスタ比率プロファイルの差分面積を算出し、それを培養環境の定量的相似度として用いてもよい。
【0056】
上述した実施形態の図10には、3つの形態クラスタ比率プロファイルを示したが、1つの検討培地に対して、標準培地の形態クラスタ比率プロファイルのほか、2種類以上の既知の培地の形態クラスタ比率プロファイルを比較するようにしてもよい。その場合、既知の培地は、ヒト角化細胞(特定の細胞)の培養に適しているものでもよいし、適していないものでもよい。こうすれば、検討培地の環境が既知のどの培地の環境に似ているのかをより明確に判断することができる。
【0057】
上述した実施形態のステップS200〜S220では、平均検定値Δ1,Δ2を求めて評価値(Δ2−Δ1)を算出したが、次のように算出してもよい。すなわち、ある1つ経過時間における、1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、2日目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行うことにより得られた検定値をΔ1とする。また、同じ経過時間における、1回目の標準培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率と、対照培地での培養で得られたクラスタごとの細胞比率とを用いて、χ二乗検定を行うことにより得られた検定値をそのままΔ2とする。そして、Δ2−Δ1を評価値とする。但し、上述した実施形態のように平均検定値Δ1,Δ2を求めて評価値(Δ2−Δ1)を算出する方が、細胞形態の変化のバリエーションが多く解析データに含まれることで、全ての細胞形態特徴量における最小値と最大値の差が広がり、細胞培養中に生じる可能性のあるできる限り全ての形態パターンを網羅した形態クラスタ比率プロファイル算出のためのクラスタ数を求めることができる。具体的には、培養初期段階だけの画像だけでクラスタを算出をすると、伸展した細胞が少ないために「伸展している細胞」という培養後期には現れてくる細胞集団を表現するためのクラスタが欠落した形態クラスタ比率プロファイルとなってしまう。逆に培養後期だけの画像では、伸展した、もしくは、特徴が細胞集団全体で均一してきてしまった細胞が増えるために、細胞集団の中に形態特徴の差が小さくなり、クラスタが激減する可能性もある。このような形態特徴の差や変動の程度は、細胞の種類によって異なり、全経時を用いる場合が効果的な場合も、特徴的な時間を用いる場合が効果的な場合も想定される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の細胞培地評価方法は、検討培地が特定の細胞にとって適しているかどうかを客観的に判断することができるため、細胞治療や抗体医薬、バイオ医薬品の開発や、細胞接触面が存在するような医療機器表面の開発をするのに利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 細胞培養環境評価装置、20 インキュベータ、22 培養容器、24 ストッカー、26 撮影装置、26a 光源、27 透光板、28 ロボットアーム、30 コンピュータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)標準培養環境を用いて特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Aと、別途、前記標準培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群A’と、前記標準培養環境とは異なる対照培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Bとを取得するステップと、
(b)前記画像群A,A’,Bの全てにおいて、各細胞について予め定められた複数の形態特徴量の値を算出するステップと、
(c)前記画像群A,A’,Bの各々につき、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて相関分析を実行し、全画像群中に含まれる細胞に関する相関関係図を作成するステップと、
(d)前記画像群A,A’,Bの各々につき、前記細胞に関する相関関係図をもとに、相関性の高い複数の細胞が所属するグループとしてクラスタを設定することを目標とし、クラスタ数を値2から順に所定数まで設定していき、設定されたクラスタ数に分割されたクラスタと各クラスタに振り分けられた細胞数とを用いてχ(カイ)二乗検定を行い、各画像群A,A’,Bの検定値を求めるステップと、
(e)前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群A’から得られた検定値との差Δ1と、前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群Bから得られた検定値との差Δ2との差分Δ2−Δ1を評価値として算出するステップと、
(f)クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数n(nは2以上の整数)に設定するステップと、
(g)前記画像群A又は前記画像群A’で得られた全細胞につき、該画像群の相関関係図を前記最適クラスタ数nで分けたときの第1〜第nクラスタと、各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップと、
(h)検討培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに撮影した画像Xを取得し、該画像Xに含まれる各細胞について前記複数の形態特徴量の値を算出し、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データと前記第1〜第nクラスタ中の全ての細胞との相関性を算出することにより、画像Xに含まれる全細胞が所属する各々の前記第1〜第nクラスタ名と所属クラスタに含まれる細胞数を求めることで形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップと、
を含む細胞培養環境評価方法。
【請求項2】
前記標準培養環境は、前記特定の細胞を培養するのに適すると評価されている既知の培養環境であり、前記対照培養環境は、前記特定の細胞を培養するのに適さないと評価されている1以上の既知の培養環境、もしくは、前記標準培養環境から1又は複数の必須成分を欠如させた培養環境である、
請求項1に記載の細胞培養環境評価方法。
【請求項3】
前記複数の形態特徴量は、細胞の面積に関係する特徴量と、楕円形度に関係する特徴量と、円形度に関係する特徴量とを含む、
請求項1又は2に記載の細胞培養環境評価方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養環境評価方法であって、
(i)前記画像群Bについての各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを前記第1〜第nクラスタに割り振ることにより、前記第1〜第nクラスタと各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップ
を含む細胞培養環境評価方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養環境評価方法であって、
(j)各形態クラスタ比率プロファイルに基づいて培養環境の定量的相似度を算出するステップ
を含む細胞培養環境評価方法。
【請求項6】
前記培養環境の定量的相似度は、各形態クラスタ比率プロファイルの間でχ二乗検定を行った検定値である、
請求項5に記載の細胞培養環境評価方法。
【請求項7】
標準培養環境を用いて特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Aと、別途、前記標準培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群A’と、前記標準培養環境とは異なる対照培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Bとを取得する画像取得手段と、
前記画像群A,A’,Bの全てにおいて、各細胞について予め定められた複数の形態特徴量の値を算出する形態特徴量算出手段と、
前記画像群A,A’,Bの各々につき、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて相関分析を実行し、全画像群中に含まれる細胞に関する相関関係図を作成する相関関係図作成手段と、
前記画像群A,A’,Bの各々につき、前記細胞に関する相関関係図をもとに、相関性の高い複数の細胞が所属するグループとしてクラスタを設定することを目標とし、クラスタ数を値2から順に所定数まで設定していき、設定されたクラスタ数に分割されたクラスタと各クラスタに振り分けられた細胞数とを用いてχ(カイ)二乗検定を行い、各画像群A,A’,Bの検定値を求める検定値算出手段と、
前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群A’から得られた検定値との差Δ1と、前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群Bから得られた検定値との差Δ2との差分Δ2−Δ1を評価値として算出する評価値算出手段と、
クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数n(nは2以上の整数)に設定する最適クラスタ値設定手段と、
前記画像群A又は前記画像群A’で得られた全細胞につき、該画像群の相関関係図を前記最適クラスタ数nで分けたときの第1〜第nクラスタと、各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成する標準培養環境プロファイル作成手段と、
)検討培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに撮影した画像Xを取得し、該画像Xに含まれる各細胞について前記複数の形態特徴量の値を算出し、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データと前記第1〜第nクラスタ中の全ての細胞との相関性(相関係数)を算出することにより、画像Xに含まれる全細胞が所属する各々の前記第1〜第nクラスタ名と所属クラスタに含まれる細胞数を求めることで形態クラスタ比率プロファイルを作成する検討培養環境プロファイル作成手段と、
を備えた細胞培養環境評価装置。
【請求項1】
(a)標準培養環境を用いて特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Aと、別途、前記標準培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群A’と、前記標準培養環境とは異なる対照培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Bとを取得するステップと、
(b)前記画像群A,A’,Bの全てにおいて、各細胞について予め定められた複数の形態特徴量の値を算出するステップと、
(c)前記画像群A,A’,Bの各々につき、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて相関分析を実行し、全画像群中に含まれる細胞に関する相関関係図を作成するステップと、
(d)前記画像群A,A’,Bの各々につき、前記細胞に関する相関関係図をもとに、相関性の高い複数の細胞が所属するグループとしてクラスタを設定することを目標とし、クラスタ数を値2から順に所定数まで設定していき、設定されたクラスタ数に分割されたクラスタと各クラスタに振り分けられた細胞数とを用いてχ(カイ)二乗検定を行い、各画像群A,A’,Bの検定値を求めるステップと、
(e)前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群A’から得られた検定値との差Δ1と、前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群Bから得られた検定値との差Δ2との差分Δ2−Δ1を評価値として算出するステップと、
(f)クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数n(nは2以上の整数)に設定するステップと、
(g)前記画像群A又は前記画像群A’で得られた全細胞につき、該画像群の相関関係図を前記最適クラスタ数nで分けたときの第1〜第nクラスタと、各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップと、
(h)検討培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに撮影した画像Xを取得し、該画像Xに含まれる各細胞について前記複数の形態特徴量の値を算出し、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データと前記第1〜第nクラスタ中の全ての細胞との相関性を算出することにより、画像Xに含まれる全細胞が所属する各々の前記第1〜第nクラスタ名と所属クラスタに含まれる細胞数を求めることで形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップと、
を含む細胞培養環境評価方法。
【請求項2】
前記標準培養環境は、前記特定の細胞を培養するのに適すると評価されている既知の培養環境であり、前記対照培養環境は、前記特定の細胞を培養するのに適さないと評価されている1以上の既知の培養環境、もしくは、前記標準培養環境から1又は複数の必須成分を欠如させた培養環境である、
請求項1に記載の細胞培養環境評価方法。
【請求項3】
前記複数の形態特徴量は、細胞の面積に関係する特徴量と、楕円形度に関係する特徴量と、円形度に関係する特徴量とを含む、
請求項1又は2に記載の細胞培養環境評価方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養環境評価方法であって、
(i)前記画像群Bについての各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを前記第1〜第nクラスタに割り振ることにより、前記第1〜第nクラスタと各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成するステップ
を含む細胞培養環境評価方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養環境評価方法であって、
(j)各形態クラスタ比率プロファイルに基づいて培養環境の定量的相似度を算出するステップ
を含む細胞培養環境評価方法。
【請求項6】
前記培養環境の定量的相似度は、各形態クラスタ比率プロファイルの間でχ二乗検定を行った検定値である、
請求項5に記載の細胞培養環境評価方法。
【請求項7】
標準培養環境を用いて特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Aと、別途、前記標準培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群A’と、前記標準培養環境とは異なる対照培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに経時的に撮影した画像群Bとを取得する画像取得手段と、
前記画像群A,A’,Bの全てにおいて、各細胞について予め定められた複数の形態特徴量の値を算出する形態特徴量算出手段と、
前記画像群A,A’,Bの各々につき、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データを用いて相関分析を実行し、全画像群中に含まれる細胞に関する相関関係図を作成する相関関係図作成手段と、
前記画像群A,A’,Bの各々につき、前記細胞に関する相関関係図をもとに、相関性の高い複数の細胞が所属するグループとしてクラスタを設定することを目標とし、クラスタ数を値2から順に所定数まで設定していき、設定されたクラスタ数に分割されたクラスタと各クラスタに振り分けられた細胞数とを用いてχ(カイ)二乗検定を行い、各画像群A,A’,Bの検定値を求める検定値算出手段と、
前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群A’から得られた検定値との差Δ1と、前記画像群Aから得られた検定値と前記画像群Bから得られた検定値との差Δ2との差分Δ2−Δ1を評価値として算出する評価値算出手段と、
クラスタ数に対する評価値が上限に達した時点のクラスタ数を、最適クラスタ数n(nは2以上の整数)に設定する最適クラスタ値設定手段と、
前記画像群A又は前記画像群A’で得られた全細胞につき、該画像群の相関関係図を前記最適クラスタ数nで分けたときの第1〜第nクラスタと、各クラスタに含まれる細胞数との関係を表す形態クラスタ比率プロファイルを作成する標準培養環境プロファイル作成手段と、
)検討培養環境を用いて前記特定の細胞を培養したときに撮影した画像Xを取得し、該画像Xに含まれる各細胞について前記複数の形態特徴量の値を算出し、各細胞と前記複数の形態特徴量の値とを対応づけた細胞−形態特徴量対応データと前記第1〜第nクラスタ中の全ての細胞との相関性(相関係数)を算出することにより、画像Xに含まれる全細胞が所属する各々の前記第1〜第nクラスタ名と所属クラスタに含まれる細胞数を求めることで形態クラスタ比率プロファイルを作成する検討培養環境プロファイル作成手段と、
を備えた細胞培養環境評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【公開番号】特開2012−175946(P2012−175946A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41469(P2011−41469)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(390023951)極東製薬工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(390023951)極東製薬工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]