説明

耐熱性絶縁電線

【課題】400℃を超えるような環境でも使用可能な耐熱性と、周辺環境を汚染してしまうことがないクリーン性を有する耐熱性絶縁電線を提供すること。
【解決手段】導体線1と、該導体線の外周に形成された耐熱絶縁層2と、該耐熱絶縁層2の外周に形成されたポリイミドテープ層3とからなる耐熱性絶縁電線。上記ポリイミドテープ層3は、内側に熱可塑性ポリイミド層を有するポリイミドテープから構成されている耐熱性絶縁電線。上記耐熱絶縁層2は、マイカ層2aと、該マイカ層2aの外周に形成された耐熱繊維層2bと、該耐熱繊維層2bに塗布形成された樹脂塗膜2cとからなる耐熱性絶縁電線。上記ポリイミドテープ層が最外層である耐熱性絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体製造装置に使用されるヒータへ接続される電線などの耐熱性絶縁電線に係り、特に、400℃を超えるような環境でも使用可能な耐熱性と、周辺環境を汚染してしまうことがないクリーン性を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁電線としては、導体上に有機高分子材料を絶縁被覆したものが一般的である。しかし、これらの絶縁電線の場合、有機高分子材料の耐熱性には限界があり、特に耐熱性に優れるフッ素系ポリマーを用いたとしても使用温度の上限は300℃程度である。そのため、例えば、半導体製造装置に使用されるヒータなど、400℃を超える高温となる装置へ接続する電線としては、使用することが困難であった。
【0003】
このような高温の環境で使用される絶縁電線としては、例えば、導体上に直接セラミック絶縁層を設けたもの、導体にアルコキシド系絶縁塗料を塗布焼付けしたもの、導体上に直接ポリイミドテープを巻回したものなどがある。しかし、これらの絶縁電線は、導体上に形成した絶縁層が厚くなると可撓性が著しく低下するとともに、絶縁層にクラックが入るという問題が生じるため、絶縁層の厚さを数十μm程度にしか設計できない。そのため、絶縁破壊電圧が数百V以下になってしまうことから、例えば、ヒータへの給電を行う電線など、大きな電圧がかかる電線として使用することはできなかった。
【0004】
そこで、上記の問題を解決するものとして、無機繊維による編組或いは横巻を施した下地電線に、耐熱性絶縁塗料を塗布してなる耐熱絶縁電線(例えば、特許文献1参照)や、導体の外周にマイカ積層テープの絶縁層を形成し、この絶縁層上にシリカガラス繊維編組の耐熱層を設け、該耐熱層の外面に耐熱性塗料を塗布焼付けしてなる耐熱電線(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−325655号公報:クラベ
【特許文献2】特開平6−290649号公報:二宮電線、住友電気工業
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、マイカ積層テープやシリカガラス繊維などの編組を使用した絶縁電線の場合、高温環境で使用することでマイカや編組を構成する繊維が粉末化して飛散し、周辺環境を汚染してしまうことがある。ここで、上記特許文献1,2のような絶縁電線では、耐熱性塗料の塗膜により繊維を収束しているが、この塗膜は層の厚さが薄く、塗膜自体も長時間の高温環境によって脆化して粉末化してしまうことが懸念される。
【0007】
本発明は、このような従来技術の欠点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、400℃を超えるような環境でも使用可能な耐熱性と、周辺環境を汚染してしまうことがないクリーン性を有する耐熱性絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するべく、本発明の請求項1による耐熱性絶縁電線は、導体線と、該導体線の外周に形成された耐熱絶縁層と、該耐熱絶縁層の外周に形成されたポリイミドテープ層とからなるものである。
又、請求項2記載の耐熱性絶縁電線は、上記ポリイミドテープ層が、内側に熱可塑性ポリイミド層を有するポリイミドテープから構成されていることを特徴とするものである。
又、請求項3記載の耐熱性絶縁電線は、上記耐熱絶縁層が、マイカ層と、該マイカ層の外周に形成された耐熱繊維層と、該耐熱繊維層に塗布形成された樹脂塗膜とからなることを特徴とするものである。
又、請求項4記載の耐熱性絶縁電線は、上記ポリイミドテープ層が、ポリイミドテープの横巻からなり、該横巻のラップ率が25%〜60%であることを特徴とするものである。
又、請求項5記載の耐熱性絶縁電線は、上記ポリイミドテープ層が最外層であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱絶縁層によって充分な絶縁破壊電圧が得られる。そして、各構成がそれぞれ耐熱性に優れるものであるため、400℃を超えるような環境でも使用可能な耐熱性を得ることができる。又、ポリイミドテープ層によって耐熱絶縁層が覆われているため、耐熱絶縁層として耐熱性繊維やマイカ等を使用しても、これらの粉末化による粉末の飛散を防止することができ、周辺環境を汚染してしまうことがないクリーン性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態を示す図で、耐熱性絶縁電線を示す一部切欠き斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明する。図中、符号1は導体線、符号2は耐熱絶縁層、符号3はポリイミドテープ層である。
【0012】
導体線1としては、例えば、軟銅線、ニッケル線、ニッケルメッキ軟銅線、銀メッキ軟銅線、アルミニウム線など、導体材料として種々公知のものを使用することができる。これらは、単線でも良いし、複数本を撚り合せ又は引き揃えたものでも良い。
【0013】
本実施の形態においては、耐熱絶縁層2として、マイカ層2aと、マイカ層2aの外周に形成された耐熱繊維層2bと、耐熱繊維層2bに塗布形成された樹脂塗膜2cとからなるものを使用している。本発明はこの構成に限定されることはなく、耐熱絶縁層2は、必要とされる耐熱性や絶縁破壊電圧等を考慮して適宜に構成を選択すれば良い。例えば、マイカ層のみを使用しても良いし、耐熱繊維層のみを使用しても良い。高度の耐熱性を得るためには、無機材料を基本構成とすることが好ましい。
【0014】
マイカ層2aは、導体線1の外周にマイカテープを横巻又は縦添えすることにより形成することができる。マイカテープとしては、例えば、ガラスクロスや耐熱樹脂フィルム等の補強材に軟質或いは硬質集成マイカ箔を張り合わせたものなどを使用することができる。マイカ層2aは、単層のマイカテープにより形成しても良いし、複数層のマイカテープにより形成しても良い。
【0015】
耐熱繊維層2bは、マイカ層2aの外周に耐熱性繊維を編組又は横巻することにより形成することができる。又、耐熱性繊維の不織布等によっても形成することができる。耐熱性繊維としては、例えば、シリカガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、メタ系芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維などが挙げられるが、これらの中でも、シリカガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維などの無機繊維が好ましく使用される。耐熱繊維層2bは、単層でも良いし複数層を形成しても良い。又、複数層の耐熱繊維層2bを形成する場合、耐熱性繊維の編組と横巻を適宜組合せても良い。耐熱繊維層2bには、耐熱繊維間に空間が存在するため、耐熱繊維層2bを有することで空間絶縁がなされ絶縁抵抗を向上させることができる。
【0016】
この耐熱繊維層2bの外面には、樹脂塗膜2cが塗布形成されることが好ましい。樹脂塗膜4の材料としては、例えば、メチルシリコーン系、メチルフェニルシリコーン系等のシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、種々混合して用いても良い。又、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタンなどの無機充填剤を配合しても良い。これらを塗膜として形成する方法としては、例えば、これら材料を溶剤で希釈した状態で塗布した後に溶剤を揮発させる、これら材料を水や溶剤などの分散媒中に分散させた状態で塗布した後に分散媒を蒸発させる、これら材料を前駆体の状態で塗布した後に縮合等の化学反応をさせる、などの方法が挙げられる。樹脂塗膜2cにより、耐熱繊維層2bの表面を収束させることができるため、耐熱繊維層2bを構成する耐熱性繊維による毛羽立ちや耐熱性繊維片の飛散を防止することができる。
【0017】
上記のような耐熱絶縁層2の外周に、ポリイミドテープを横巻又は縦添えすることでポリイミドテープ層3が形成される。この際、縦添えであるとポリイミドテープに開きが生じてしまう可能性が高いので、横巻の方が好ましい。横巻のラップ率は、隙間をなくし、ポリイミドテープが剥離しないように密着させるために、25%以上であることが好ましい。又、横巻のラップ率が60%を超えると重なり部分が大きくなりすぎて無駄が生じるため、横巻のラップ率は、60%以下であることが好ましい。なお、ラップ率は、テープの全幅に対する重なった部分の幅の割合である。又、ポリイミドテープとしては、熱可塑性ポリイミド層を有するものが好ましい。このようなポリイミドテープであれば、熱可塑性ポリイミド層を内側にして樹脂塗膜2cが塗布形成された耐熱編組層2bの外周に横巻又は縦添えし、加熱・融着することで、樹脂塗膜4とポリイミドテープ層3とが融着一体化することになる。それにより、ポリイミドテープ層3が剥離してしまうこともなく、耐熱性繊維による粉末の飛散をより一層防止することができる。
【0018】
又、ポリイミドテープの押さえを目的として、ポリイミドテープ層3の外周に金属線による編組を設けることも考えられる。しかし、この金属線によってポリイミドテープ層3や耐熱繊維層2bに傷が生じるおそれがあるとともに、万が一絶縁不良となった場合に、この金属線に電流が流れてしまうことがあるため、できることであればポリイミドテープ層3を最外層とすることが好ましい。
【実施例】
【0019】
本実施例は、図1に示すとおりのものである。外径0.259mmのニッケルメッキ軟銅線を37本撚り合せてなる導体線1の外周に、厚さ0.51mm、幅10mmのガラスクロスに硬質集成マイカ箔を張り合わせてなるマイカテープを2層横巻し、マイカ層2aを形成した。このマイカ層2aの外周に、シリカガラス繊維を16打ち、ピッチ8mmで編組して厚さ0.48mmの耐熱繊維層2bを形成し、連続して水系分散したシリコーンエマルションの槽を通過させ、加熱乾燥させてシリコーン樹脂からなる樹脂塗膜2cを形成した。この樹脂塗膜2cが形成された耐熱繊維層2bの外周に、厚さ25μm、幅15mmで熱可塑性ポリイミド層を有するポリイミドテープを横巻してポリイミドテープ層3を形成した。この際、熱可塑性ポリイミド層が内側となるようにして、ラップ率36%で横巻を行った。このようにして、仕上り外径3.92mmの耐熱性絶縁電線10を作製した。併せて、ポリイミドテープ層3を有さないものを比較例として作製した。
【0020】
上記のようにして得られた耐熱性絶縁電線10について、絶縁抵抗、耐電圧、耐熱性、耐湿性、耐曲げ性、クリーン性の各試験を行った。絶縁抵抗は、JIS C3005(2000)に準拠して測定した。耐電圧は、JIS C3005(2000)に準拠してAC2000Vの電圧を1分間印加して、絶縁破壊しなかったものを合格とした。耐熱性は、500℃の恒温槽に6時間放置した後、JIS C3005(2000)に準拠してAC1000Vの電圧を1分間印加して、絶縁破壊しなかったものを合格とした。耐湿性は、温度30℃、湿度85%Rhの状態で100時間放置した後、上記同様に絶縁抵抗を測定した。耐曲げ性は、自己径5倍の曲率半径で180度折り曲げ、表面にひび割れ等が発生しないものを合格とした。クリーン性は、500℃の恒温槽に6時間放置した後、MIL−STD−202F−Method201Aを援用して周波数10〜55Hz、振れ幅1.52mmの振動をXYZの3方向に2時間ずつ加え、粉末の飛散のないものを合格とした。上記各試験の結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
上記表1に記載の通り、本実施例による耐熱性絶縁電線は、何れの試験においても使用上充分な特性を有していることが確認された。これに対して、比較例による絶縁電線は、粉末の飛散が確認されて、クリーン性の面で充分ではないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の耐熱性絶縁電線によれば、特に、400℃を超えるような環境でも使用可能な耐熱性と、周辺環境を汚染してしまうことがないクリーン性を有するものである。このような耐熱性絶縁電線は、例えば、半導体製造装置への接続電線、自動車エンジン周りに使用される電線、加熱調理器具に接続される電線など、高温環境であるとともに、粉末等による汚染を防止する必要がある環境において、特に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 導体線
2 耐熱絶縁層
2a マイカ層
2b 耐熱繊維層
2c 樹脂塗膜
3 ポリイミドテープ層
10 耐熱性絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体線と、該導体線の外周に形成された耐熱絶縁層と、該耐熱絶縁層の外周に形成されたポリイミドテープ層とからなる耐熱性絶縁電線。
【請求項2】
上記ポリイミドテープ層が、内側に熱可塑性ポリイミド層を有するポリイミドテープから構成されていることを特徴とする請求項1記載の耐熱性絶縁電線。
【請求項3】
上記耐熱絶縁層が、マイカ層と、該マイカ層の外周に形成された耐熱繊維層と、該耐熱繊維層に塗布形成された樹脂塗膜とからなることを特徴とする請求項2記載の耐熱性絶縁電線。
【請求項4】
上記ポリイミドテープ層が、ポリイミドテープの横巻からなり、該横巻のラップ率が25%〜60%であることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の耐熱性絶縁電線。
【請求項5】
上記ポリイミドテープ層が最外層であることを特徴とする請求項2〜請求項4記載の耐熱性絶縁電線。

【図1】
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