説明

遺伝子解析用配線基板

【課題】ナノポアを用いた遺伝子の解析方法に用いられるのに好適な遺伝子解析用配線基板を提供すること。
【解決手段】第1の絶縁層2と、第1の絶縁層2の上面にマトリックス状に配設された銅から成る複数の検出用電極9と、第1の絶縁層2上に積層されており、検出用電極9を底面とする検出用凹部11が形成された第2の絶縁層3と、検出用凹部11内に露出する検出用電極9の全面および検出用電極9上から検出用凹部11の側壁の途中の高さまでの領域を被覆するめっき金属層13とを具備して成る遺伝子解析用配線基板である。検出用電極9から検出用凹部11内への不要な銅イオンの溶出を防止することができ、それによりナノポアを用いた遺伝子の解析方法に用いられるのに好適な遺伝子解析用配線基板を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子を解析するために用いれらる遺伝子解析用配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子を解析する技術は、急速な進歩を遂げている。このような遺伝子を解析する技術の中で、ナノポアを用いた遺伝子の解析方法が注目されている。このナノポアを用いた遺伝子の解析方法は、遺伝子の分子よりも僅かに大きなサイズの細孔であるナノポアを遺伝子が通過する際の電流の変化を検出して塩基配列を読み取るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−242135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、ナノポアを用いた遺伝子の解析方法に用いられるのに好適な遺伝子解析用配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の遺伝子解析用配線基板は、第1の絶縁層と、この第1の絶縁層の上面にマトリックス状に配設された銅から成る複数の検出用電極と、第1の絶縁層上に積層されており、検出用電極を底面とする検出用凹部が形成された第2の絶縁層と、前記検出用凹部内に露出する前記検出用電極の全面および該検出用電極上から前記検出用凹部の側壁の途中の高さまでの領域を被覆するめっき金属層とを具備して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の遺伝子解析用配線基板によれば、検出用凹部内に露出する検出用電極の全面およびその検出用電極上から検出用凹部の側壁の途中の高さまでの領域を被覆するめっき金属層を具備していることから、検出用電極から検出用凹部内への不要な銅イオンの溶出を防止することができ、それによりナノポアを用いた遺伝子の解析方法に用いられるのに好適な遺伝子解析用配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明の遺伝子解析用配線基板の実施形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、図1に示す遺伝子解析用配線基板の上面図である。
【図3】図3は、図1に示す遺伝子解析用配線基板の要部拡大断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の遺伝子解析用配線基板の実施形態の一例を図1、図2を基にして説明する。図1に示すように、本例の遺伝子解析用配線基板は、コア基板1の上下面に絶縁層2および絶縁層3を積層して成る。
【0009】
コア基板1は、例えばガラス繊維束を縦横に織ったガラスクロスにビスマレイミドトリアジン樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた電気絶縁材料から成る。コア基板1の厚みは100〜1000μm程度であり、コア基板1の上面から下面にかけては直径が100〜300μm程度のスルーホール4が形成されている。
【0010】
コア基板1の上下面およびスルーホール4の内壁にはコア導体層5が被着されている。コア導体層5は、例えば厚みが5〜25μm程度の銅箔や銅めっき層等の良導電性の金属材料から成る。さらに、コア導体層5が被着されたスルーホール4の内部はエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂から成る孔埋め樹脂6が充填されている。
【0011】
このようなコア基板1は、以下のようにして形成される。先ず、ガラスクロスに熱硬化性樹脂を含浸させた絶縁板の上下両面に厚みが5〜35μm程度の銅箔が被着された両面銅張板を準備する。次に、両面銅張板にドリル加工やレーザ加工によりスルーホール4を穿孔する。次に、スルーホール4内をデスミア処理した後、スルーホール4内および上下の銅箔表面に無電解銅めっき層および電解銅めっき層を順次被着させる。無電解銅めっき層の厚みは0.1〜1μm程度、電解銅めっき層の厚みは5〜25μm程度とする。次に、電解銅めっき層が施されたスルーホール4の内部に孔埋め樹脂6を充填する。孔埋め樹脂6の充填は、ペースト状の熱硬化性樹脂をスクリーン印刷法によりスルーホール4内に充填した後、それを熱硬化させることにより行なう。充填された孔埋め樹脂6は、その上下端を上下面の銅めっき層とともに研磨することにより平坦化する。次に、平坦化された孔埋め樹脂6の上下端面および上下面の銅めっき層上に無電解銅めっき層および電解銅めっき層を順次被着する。無電解銅めっき層の厚みは0.1〜1μm程度、電解銅めっき層の厚みは5〜25μm程度とする。最後に、銅箔およびその上の銅めっき層を周知のサブトラクティブ法によりパターン加工してコア導体層5を形成することによりコア基板1を得る。
【0012】
絶縁層2は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含む絶縁材料から成る。絶縁層2の厚みは30〜50μm程度であり、絶縁層2の上面から下面にかけては直径が50〜100μm程度のビアホール7が形成されている。このような絶縁層2は、例えば以下のようにして形成される。まず、コア基板1の上下面に熱硬化性の樹脂フィルムを積層する。積層には真空プレス機を用いる。樹脂フィルムは、未硬化の熱硬化性樹脂成分と無機絶縁フィラーとを含んでいる。最後に、樹脂フィルムを熱硬化させた後、その表面からレーザ加工を施してビアホール7を穿孔することにより絶縁層2が形成される。なお、ビアホール7を穿孔した後は、必要に応じてデスミア処理やソフトエッチング処理を施す。
【0013】
絶縁層2の表面およびビアホール7内には導体層8が被着されている。導体層8は、厚みが5〜25μm程度の銅めっき層から成る。導体層8の一部は、上面側の絶縁層2の表面において遺伝子の塩基配列に応じた電流を検出するための検出用電極9を形成している。検出用電極9は直径が50〜100μm程度の円形であり、図2に示すように、100〜200μm程度のピッチでマトリックス状に配設されている。また、導体層8の一部は、上下両方の絶縁層2の表面において外部の分析装置に接続される外部接続端子10を形成している。これらの検出用電極9と外部接続端子10とは、所定のもの同士が導体層8やコア導体層5を介して互いに電気的に接続されている。
【0014】
このような導体層8は、以下のようにして形成される。まず、絶縁層2の表面およびビアホール7内に、無電解銅めっき層を被着させる。無電解銅めっき層の厚みは0.1〜1μm程度とする。次に、無電解銅めっき層の上に、導体層8のパターンに対応した開口部を有するめっきレジスト層を被着する。めっきレジスト層は感光性を有する熱硬化性の樹脂フィルムを無電解銅めっき層上に貼着するとともに周知のフォトリソグラフィ技術を採用して所定のパターンに露光および現像することにより形成する。次にめっきレジスト層の開口内に露出する無電解銅めっき層の上に電解銅めっき層を被着する。電解銅めっき層の厚みは、5〜25μm程度とする。最後に、めっきレジスト層を剥離除去した後、電解銅めっき層から露出する無電解銅めっき層をエッチング除去することにより導体層8が形成される。
【0015】
絶縁層3は、絶縁層2と同じ電気絶縁材料あるいは異なる絶縁材料から成る。絶縁層3の厚みは、20〜30μm程度であり、絶縁層2よりも5〜25μm程度薄い。絶縁層3には、検出用電極9を底面とする検出用凹部11がレーザ加工により形成されている。検出用凹部11の開口径は30〜50μm程度である。さらに絶縁層3には、外部接続端子10を露出させる窓部12が形成されている。窓部12は外部接続端子10を露出させるのに十分な大きさに形成されている。
【0016】
このような絶縁層3は、以下のようにして形成される。先ず、導体層8が被着された絶縁層2の表面に感光性を有する熱硬化性の樹脂層を積層する。積層には樹脂ペーストを塗布した後に乾燥させる方法と、樹脂フィルムを真空プレス機を用いて貼着する方法とがある。次に、積層された感光性の樹脂層にフォトリソグラフィ技術を採用して検出用凹部11および窓部12を有するように露光および現像処理を施し、最後に、樹脂層を熱硬化させることにより絶縁層3が形成される。あるいは、絶縁層2の表面に熱硬化性の樹脂フィルムを貼着して熱硬化させた後、その表面からレーザ加工を施して検出用凹部11および窓部12を形成することにより絶縁層3が形成される。
【0017】
そして、本例の遺伝子解析用配線基板によれば、図3に要部拡大断面模式図で示すように、検出用凹部11を覆うようにしてナノポアPを有する膜Mを被着するとともに遺伝子GがナノポアPを通過する際にその塩基配列に応じて発生する電流を検出し、その電流を外部接続端子10に接続された外部の解析装置で解析することによって遺伝子Gの塩基配列を特定することができる。外部接続端子10と外部の解析装置との接続は、外部解析装置に外部接続端子10に対応したソケットを設けておき、そのソケットに外部接続端子10が形成された端部を挿入することによって行なわれる。
【0018】
なお、本例の遺伝子解析用配線基板においては、検出用凹部11内に露出する検出用電極9の全面および検出用電極9上から検出用凹部11側壁の途中の高さまでの領域を被覆するめっき金属層13が被着されている。このめっき金属層13は、例えば厚みが2〜10μmのニッケルめっき層と厚みが0.02〜0.1μmの金めっき層とを順次被着させた複合めっき層から成り、無電解めっき法により形成されている。具体的には、無電解めっき用の触媒を検出用凹部11内の検出用電極9の表面および検出用凹部11側壁の下端部のみに多く付着させた後、触媒が多く付着した部分のみに無電解めっき法によりめっき金属層13を被着させる方法が採用される。なお、活性の高い触媒液を用いて絶縁層3の表面および検出用凹部11内に触媒を付着させた後、洗浄により絶縁層3表面の触媒を除去する工程を行なうと、検出用凹部11の下端部では洗浄液の当たりが弱くなるので、検出用凹部11内の検出用電極9の表面および検出用凹部11側壁の下端部のみに触媒を多く付着させることができる。このようなめっき金属層13を有することによって、検出用凹部11内に検出用電極9から銅イオンが溶出することを有効に防止している。検出用凹部11内に銅イオンが溶出すると、遺伝子GがナノポアPを通過する際にその塩基配列に応じて発生する電流を正確に検出することが困難となる。
【0019】
本発明においては、めっき金属層13が検出用凹部11内に露出する検出用電極9の全面および検出用電極9上から検出用凹部11側壁の途中の高さまでの領域を被覆していることから、検出用凹部11の底面外周縁における検出用電極9と絶縁層3との境界部をめっき金属層13により広い幅で覆うことができる。したがって、検出用凹部11の底面外周縁における検出用電極9と絶縁層3との境界部を通しての検出用電極9からの銅イオンの溶出を極めて効果的に防止することが可能である。
【0020】
なお、めっき金属層13をニッケルめっき層およびその上の金めっき層で形成する場合、ニッケルめっき層の厚みが2μm未満であると、その上に金めっき層を良好に被着することが困難となり、10μmを超えると、そのような厚いニッケルめっき層を形成するのに長時間を要するので基板の生産効率が悪いものとなる。また、金めっき層の厚みが0.02μm未満であると、その下のニッケルめっき層を良好に被覆することができずにニッケルめっき層が酸化してしまう危険性が高くなり、0.1μmを超えると、金めっき層が必要以上に厚いものとなり、基板の製造コストが高いものとなってしまう。したがって、めっき金属層13をニッケルめっき層およびその上の金めっき層で形成する場合、ニッケルめっき層の厚みは2〜10μmの範囲であるのが好ましく、金めっき層の厚みは0.02〜0.1μmの範囲であることが好ましい。
【0021】
また、めっき金属層13が検出用電極9上から検出用凹部11側壁の途中まで覆う高さが2μm未満であると、検出用凹部11の底面外周縁における検出用電極9と絶縁層3との境界部をめっき金属層13により十分に広い幅で覆うことができずに、検出用凹部11の底面外周縁における検出用電極9と絶縁層3との境界からの銅イオンの溶出を有効に防止することから困難となる。したがって、めっき金属層13が検出用電極9上から検出用凹部11側壁の途中まで覆う高さは2μm以上であることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明の遺伝子解析用配線基板によれば、めっき金属層13は、検出用凹部11内に露出する検出用電極9の全面および検出用電極9上から検出用凹部11側壁の途中の高さまでの領域を被覆していることから、検出用電極9と絶縁層3とはめっき金属層13を介さずに直接密着することとなる。したがって、互いに密着性に優れる検出用電極9の銅と絶縁層3の熱硬化性樹脂とが強固に密着する。
【0023】
なお、検出用凹部11は、レーザ加工により絶縁層3に形成されている場合、開口径が30〜50μmの微細な検出用凹部11における寸法精度が高いものとなり、それによりナノポアPを通過する遺伝子Gの塩基配列に応じて発生する電流を正確に検出することができる。したがって検出用凹部11はレーザ加工により形成されていることが好ましい。
【0024】
さらに、絶縁層2と絶縁層3とを同じ絶縁材料で形成すると、基板の反りを低減することができるとともに絶縁層2と絶縁層3との積層を強固なものとすることができる。したがって、絶縁層2と絶縁層3とは、同じ絶縁材料で形成することが好ましい。
【0025】
また、絶縁層3の厚みを絶縁層2の厚みよりも薄くすると、絶縁層3にレーザ加工により微細で寸法制度に優れる検出用凹部を容易に形成することができる。したがって、絶縁層3の厚みを絶縁層2の厚みよりも薄くすることが好ましい。
【0026】
またさらに、絶縁層2と絶縁層3との間に、少なくとも外部接続用端子10を投影した部分を占有するダミーの電極14を配設すると、外部接続用端子10における平坦性を良好に保つことができ、それにより外部との接続をより確実なものとすることができる。したがって、絶縁層2と絶縁層3との間に、少なくとも外部接続用端子10を投影した部分を占有するダミーの電極14を配設することが好ましい。
【0027】
かくして、本発明によれば、ナノポアを用いた遺伝子の解析方法に用いられるのに好適な遺伝子解析用配線基板を提供することができる。なお、本発明は上述の実施形態の一例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変更は可能であり、例えば上述した一例では、めっき金属層13をニッケルめっき層および金めっき層を順次被着させたもので形成したが、めっき金属層13は、ニッケルめっき層およびパラジウムめっき層および金めっき層を順次被着させたものであっもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の遺伝子解析用配線基板は、遺伝子以外の物質の解析についても利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
2 第1の絶縁層
3 第2の絶縁層
9 検出用電極
11 検出用凹部
13 めっき金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の絶縁層と、該第1の絶縁層の上面にマトリックス状に配設された銅から成る複数の検出用電極と、前記第1の絶縁層上に積層されており、前記検出用電極を底面とする検出用凹部が形成された第2の絶縁層と、前記検出用凹部内に露出する前記検出用電極の全面および該検出用電極上から前記検出用凹部の側壁の途中の高さまでの領域を被覆するめっき金属層とを具備して成ることを特徴とする遺伝子解析用配線基板。
【請求項2】
前記めっき金属層は、厚みが2〜10μmのニッケルめっき層と厚みが0.02〜0.1μmの金めっき層とを順次被着させものから成ることを特徴とする請求項1記載の遺伝子解析用配線基板。
【請求項3】
前記めっき金属層が前記検出用電極上から前記検出用凹部側壁の途中まで覆う高さが2μm以上であることを特徴とする請求項1のまたは2に記載の遺伝子解析用配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−68436(P2013−68436A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205408(P2011−205408)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(304024898)京セラSLCテクノロジー株式会社 (213)
【Fターム(参考)】