説明

α−イズロニダーゼ酵素活性の検定のための方法

α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法、およびムコ多糖症I型につき新生児をスクリーニングするための方法。一実施形態においては、上記方法は、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するために、α−L−イズロニダーゼ、α−L−イズロニダーゼ産物、およびα−L−イズロニダーゼ内部標準を含む水性酵素反応混合物を有機溶媒により抽出するステップと;α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年8月17日に出願された米国仮特許出願第60/956,644号の利益を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に明確に参考として援用される。
【0002】
(政府の認可権利の陳述)
本発明は、国立健康研究所により授与された政府契約番号2RO1DK067859−07の下、政府の支援により成された。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
治療可能な疾患と関係する代謝産物のレベルを定量するために、新生児スクリーニングプログラムが確立されている。ムコ多糖症I型(MPS−I)は、α−L−イズロニダーゼ(IdA;EC3.2.1.76)酵素活性の欠損により引き起こされるリソソーム蓄積障害であり、三つの主な臨床表現型を呈しうる:ハーラー、シャイエおよびハーラー−シャイエ症候群である。
【0004】
IdAは、リイソソーム内でのグリコサミノグリカン類、デルマタンおよびヘパラン硫酸の分解に必須である。これらの多糖類の分解不全が、関節硬直、骨格異常、および角膜混濁等の身体的変化を引き起こす。ハーラー症候群は、幼児期の弁膜性心疾患、精神機能低下および死を特徴とする。幼い頃に症状に気づかないことがあるため、MPS−Iの診断は難しい作業である。酵素補充療法および骨髄移植が、この疾患のために開発されており、いずれも早期に実行されると有益である。療法への最大の臨床反応には早期発見が必要であるため、MPS−Iの早期発見のためのスクリーニングの開発の必要性が、大きな関心事である。
【0005】
タンデム質量分析(タンデムMSまたはMSMS)は、いくつかのリソソーム蓄積障害の原因である酵素の活性の定量的測定のために、再水和された乾燥濾紙血液(DBS)を用いて疾患に関連する酵素活性を測定するための、一つのプラットフォームである。エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI−MSMS)アッセイに加えて、α−L−イズロニダーゼのための蛍光定量および放射分析アッセイが開発されている。
【0006】
現在MPS−Iで利用可能な治療は、療法に対する最適な臨床反応のために早期発見を必要とする。したがって、関連する酵素、α−L−イズロニダーゼの活性の新生児スクリーニングのための方法が必要とされる。本発明はこの必要を満たし、さらなる関連の利点を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
一態様では、本発明は、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法を提供する。
【0008】
一実施形態においては、上記方法は、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するために、α−L−イズロニダーゼ、α−L−イズロニダーゼ産物、およびα−L−イズロニダーゼ内部標準を含む水性酵素反応混合物を有機溶媒により抽出するステップと;α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップとを含む。
【0009】
別の実施形態においては、本発明は、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法であり、
(a)α−L−イズロニダーゼ基質をα−L−イズロニダーゼとともに所定の時間インキュベートして、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供する、ステップと;
(b)α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液にバッファーを加えて、酵素反応物をクエンチするステップと;
(c)α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液にα−L−イズロニダーゼ内部標準を加えて、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を提供する、ステップと;
(d)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を有機溶媒により抽出して、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供する、ステップと;
(e)α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップ
を含む、方法を提供する。
【0010】
一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼを含む試料を第一バッファー溶液と接触させることにより、α−L−イズロニダーゼを含む溶液が得られる。一実施形態においては、試料は、血液試料である。一実施形態においては、試料は、新生児スクリーニング用カードからの乾燥血液班である。
【0011】
一実施形態においては、基質は、化学式(I):
【0012】
【化1】

を有し、式中、mは2〜12の整数である。一実施形態においては、基質は、(N−[4’’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−O−(α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセトアミドである。
【0013】
一実施形態においては、内部標準は、化学式(II):
【0014】
【化2】

を有し、式中、Rはそれぞれ独立してHまたはDであり、nは2〜12の整数である。一実施形態においては、内部標準は、(N−[3’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−プロピル])7−ヒドロキシクマリン−4−アセトアミドである。
【0015】
一実施形態においては、有機溶媒は、酢酸エチルである。
【0016】
一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップは、α−L−イズロニダーゼ産物のα−L−イズロニダーゼ内部標準に対する比を決定するステップを含む質量分光分析を含む。一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップは、タンデム質量分光分析を含む。一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップは、産物フラグメントイオンおよび内部標準フラグメントイオンを提供するために、産物および内部標準の親イオンが生成され、単離され、衡突誘発性解離に供される、タンデム質量分光分析を含む。一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップは、α−L−イズロニダーゼ産物の量を計算するために、産物フラグメントイオンと内部標準フラグメントイオンのピーク強度を比較するステップを含む。
【0017】
一実施形態においては、方法は、乾燥血液試料がムコ多糖症I型の治療の候補からのものであるかを決定するために、α−L−イズロニダーゼ産物の量を用いるステップをさらに含む。
【0018】
本発明の方法の他の実施形態には:
α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法であり、
(a)α−L−イズロニダーゼ基質をα−L−イズロニダーゼとともにインキュベートして、α−L−イズロニダーゼ産物を含む酵素反応混合物を提供するステップと、
(b)α−L−イズロニダーゼ内部標準を含むバッファー溶液により、酵素反応をクエンチするステップと、
(c)酵素反応混合物を有機溶媒により抽出して、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するステップと、
(d)α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップと;
を含む、方法、および、
α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法であり、
(a)α−L−イズロニダーゼ内部標準の存在下で、α−L−イズロニダーゼ基質をα−L−イズロニダーゼとともにインキュベートして、α−L−イズロニダーゼ産物を含む酵素反応混合物を提供するステップと、
(b)酵素反応物をクエンチするステップと、
(c)酵素反応混合物を有機溶媒により抽出して、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するステップと、
(d)α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップと
を含む、方法が、含まれる。
【0019】
本発明の別の態様では、ムコ多糖症I型につき新生児をスクリーニングする方法が、提供される。一実施形態においては、方法には:
(a)新生児スクリーニング用カードからの乾燥血液試料を第一バッファー溶液と接触させ、α−L−イズロニダーゼを含む溶液を提供するステップと;
(b)α−L−イズロニダーゼを含む溶液にα−L−イズロニダーゼ基質を加え、基質を酵素とともに所定の時間インキュベートして、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供するステップと;
(c)α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液に第二バッファーを加えて、酵素反応物をクエンチするステップと;
(d)α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液にα−L−イズロニダーゼ内部標準を加えて、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を提供するステップと;
(e)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を有機溶媒により抽出して、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するステップと;
(f)タンデム質量分光分析により、α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップであり、
(i)上記産物および内部標準の親イオンを生成し、単離し、衡突誘起解離させて、産物フラグメントイオンと内部標準フラグメントイオンとを提供する、ステップと、
(ii)α−L−イズロニダーゼ産物の量を計算するために、産物フラグメントイオンと内部標準フラグメントイオンとのイオンピーク強度を比較するステップと
を含む、ステップと;
(g)新生児がムコ多糖症I型の治療の候補であるかを予測するために、α−L−イズロニダーゼ産物の量を用いるステップが含まれる。
【0020】
別の態様においては、本発明は、化学式(I):
【0021】
【化3】

を有する化合物を提供し、式中、mは2〜12の整数である。一実施形態においては、化合物は、(N−[4’’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−O−(α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセトアミドである。化合物は、本発明の方法において、α−L−イズロニダーゼのための基質として有用である。
【0022】
別の態様においては、本発明は、化学式(II):
【0023】
【化4】

を有する化合物を提供し、式中、Rはそれぞれ独立して、HまたはDであり、nは2〜12の整数である。一実施形態においては、化合物は、(N−[3’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−プロピル])7−ヒドロキシクマリン−4−アセトアミドである。化合物は、本発明の方法において、内部標準として有用である。
【0024】
別の態様においては、本発明は、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定するための蛍光定量的方法であり、
(a)乾燥血液試料を第一バッファー溶液と接触させて、α−L−イズロニダーゼを含む溶液を提供するステップと;
(b)α−L−イズロニダーゼを含む溶液にα−L−イズロニダーゼ基質を加え、基質を酵素とともに所定の時間インキュベートし、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供するステップと;
(c)溶液に第二バッファーを加えて、酵素反応物をクエンチするステップと;
(d)α−L−イズロニダーゼ産物を酵素反応物から分離するステップと;
(e)α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液の蛍光強度を測定するステップ
を含む、方法を提供する。
【0025】
一実施形態において、蛍光定量的方法には、α−L−イズロニダーゼ産物を酵素反応混合物から分離するための、液液抽出ステップが含まれる。別の実施形態においては、蛍光定量的方法には、α−L−イズロニダーゼ産物を酵素反応混合物から分離するための、固相抽出ステップが含まれる。一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ基質は、化学式(I)の化合物である。
【0026】
本発明の前述の態様および付随する利点の多くは、同が添付の図面を参照しながら以下の詳細な記載を参照することでより良く理解されることで、より容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の方法により分析される代表的なイズロニダーゼ基質(IdA−S)、その対応する酵素産物(IdA−P)、および衡突誘起解離(CID)から生じる酵素産物から得られるフラグメントを示す。
【図2】本発明の方法により分析される代表的なイズロニダーゼ内部標準(IdA−IS)および衡突誘起解離(CID)から生じる内部標準から得られるフラグメントを示す。
【図3】本発明の方法で有用な代表的なイズロニダーゼ基質(IdA−S)の合成の略図である。試薬および条件:(a)HBr/AcOH;(b)AgF、MeCN、74%(2ステップ);(c)NBS、CCl、hv、還流、77%;(d)BuSnH、ベンゼン、還流、65%;(e)HOCHCCl、DCC、CHCl、96%;(f)2−プロパノール中2M NH、THF、78%;(g)(MeSi)NH、LiClO/SiO、CHCl;(h)i.化合物4、BF.OEt、CHCl;ii.BF.OEt、AcO、88%(2ステップ);(i)亜鉛末、CuCl、90%aq.AcOH水溶液、THF、0℃、95%;(j)HN(CHNHBoc、EDC、HOBt、THF、65%;(k)NaOMe、MeOH、86%;(l)NaOH、MeOH/HO(1:1)、量。
【図4】本発明の方法において有用な代表的なイズロニダーゼ内部標準(IdA−IS)の合成の略図である。試薬および条件:(a)HN(CHNHBoc、EDC、HOBt、THF、61%;(b)NaOMe、MeOH/CHCl(6:1)、92%。
【図5】インキュベーションの間の酵素反応のpHの関数として、乾燥濾紙血液(DBS)において測定される、IdA生成産物の量を示すグラフであり、本明細書に記載のアッセイを用いて37℃で20時間反応が行われた(三回の分析についての誤差バーが示される)。
【図6】インキュベーション時間の関数として、DBSにおいて測定される、IdA生成産物の量(nmol)を示すグラフであり、0.5mmol/LのIdA−Sおよび本明細書に記載の条件を用いて37℃で反応が行われた(三回の分析についての誤差バーが示される;実線は、データの線形回帰あてはめを示す)。
【図7】IdA−Sの濃度の関数として、DBSにおいて測定される、IdA生成産物の量(nmol)を示すグラフであり、本明細書に記載のアッセイを用いて37℃で20時間反応が行われた(三回の分析についての誤差バーが示される;実線は、ミカエリス−メンテン式へのデータの回帰あてはめを示す)。
【図8】DBSパンチのサイズの関数として、DBSにおいて測定される、IdA生成産物の量(nmol)を示すグラフであり、本明細書に記載のアッセイを用いて37℃で20時間反応が行われた(三回の分析についての誤差バーが示される)。
【図9】IdAアッセイに加えられるIdA−PおよびIdA−ISの相対量(産物対内部標準の比)の関数として、ESI−MSMSにより観察される産物対内部標準(IdA−P/IdA−IS)のイオン比を示すグラフであり、試料は、基質を除く全てのアッセイ成分、固定量のIdA−IS(0.2nmol)および様々な量のIdA−Pを含んだ(三回の分析についての誤差バーが示される;実線は、データの回帰あてはめを示す)。
【図10】病気の新生児(患者)、ムコ多糖症I型(MPS−I)保有者(保有者)、および病気でない新生児(ランダム新生児)から得た試料につき、本発明の方法により決定されるIdA活性(μmol/h/L血液)を比較したグラフである。
【図11】本発明の代表的な蛍光定量アッセイについて、酵素産物(IdA−P)濃度の関数として蛍光強度を示す校正曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
一態様では、本発明は、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法を提供する。本方法の実施形態においては、酵素産物から得られるシグナルを、既知量のα−L−イズロニダーゼ内部標準から得られるシグナルと比較することにより、α−L−イズロニダーゼ産物の量が決定される。検定される試料に加えられるα−L−イズロニダーゼ基質上のα−L−イズロニダーゼの酵素活性により、α−L−イズロニダーゼ産物の量が決定され、酵素産物の定量により、試料中のα−L−イズロニダーゼ酵素活性の測定が提供される。方法は、新生児がα−L−イズロニダーゼ酵素活性の欠損を患い、したがってムコ多糖症I型の治療の候補であるかを評価するために、新生児におけるα−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する上で有用である。
【0029】
方法の一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ産物およびα−L−イズロニダーゼ内部標準は質量が異なり、α−L−イズロニダーゼ産物の量が質量分析により決定される。
【0030】
方法の一定の実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ産物およびα−L−イズロニダーゼ内部標準が、有機溶媒を用いた液液抽出により、α−L−イズロニダーゼ、余剰α−L−イズロニダーゼ基質、α−L−イズロニダーゼ産物、およびα−L−イズロニダーゼ内部標準を含む水性酵素反応混合物から抽出される。
【0031】
他の実施態様においては、上記の水性酵素反応混合物が適切な固相に適用され、そこからα−L−イズロニダーゼ産物およびα−L−イズロニダーゼ内部標準が溶出される。
【0032】
各方法において、α−L−イズロニダーゼ内部標準を定量することにより、α−L−イズロニダーゼ産物の定量が促進される。
【0033】
一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法は:
(a)α−L−イズロニダーゼを含む溶液を提供するために、乾燥血液試料を第一バッファー溶液に接触させるステップと;
(b)α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供するために、α−L−イズロニダーゼ基質をα−L−イズロニダーゼを含む溶液に加え、基質を酵素とともに所定の時間インキュベートするステップと;
(c)酵素反応物をクエンチするために、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液に第二バッファーを加えるステップと;
(d)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を提供するために、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液にα−L−イズロニダーゼ内部標準を加えるステップと;
(e)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するために、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を有機溶媒により抽出するステップと;
(f)量α−L−イズロニダーゼ産物を決定するステップ
を含む。
【0034】
一実施形態においては、乾燥血液試料は、新生児スクリーニング用カードからの乾燥濾紙血液である。しかし、方法は、ヒト、動物、および非生体ソースからの試料(例えば血漿、血清、組織)を含む、α−L−イズロニダーゼを含む任意の試料で行われうる。乾燥血液以外の血液試料も、方法によるアッセイに適切である。
【0035】
方法においては、α−L−イズロニダーゼを含む溶液を提供するために、α−L−イズロニダーゼを含む試料が、第一バッファー溶液と接触させられる。このステップは、酵素反応が生じうるように、試料(例えば乾燥濾紙血液)中のα−L−イズロニダーゼが水性液相に抽出される、抽出ステップであると考えらうる。溶液は均質である必要はなく、α−L−イズロニダーゼとα−L−イズロニダーゼ基質との間の酵素反応に十分な水性液相を提供すれば足りる。一実施形態においては、第一バッファーは、pHが約3.4の水性バッファーである(例えば75μmol/LのD−サッカリン酸1,4−ラクトンを含む0.1mol/Lのギ酸ナトリウム)。第一バッファーは、必要に応じて、酵素の基質とのインキュベーションにより酵素産物を提供する酵素反応混合物を提供するために、試料から酵素を抽出し、溶解するために十分なpHを有する。適切なバッファーは、pHが約2.8〜4.2である。いうまでもなく、ある実施形態においては、試料が、α−L−イズロニダーゼ基質を含む検定バッファーに直接加えられうる。
【0036】
α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定するために、α−L−イズロニダーゼ基質が、α−L−イズロニダーゼとともにインキュベートされて、α−L−イズロニダーゼ産物が提供される。一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供するために、α−L−イズロニダーゼ基質がα−L−イズロニダーゼ溶液に加えられ、所定の時間インキュベートされる。所定の時間は変動し得、試料の酵素活性の量ならびに酵素産物および内部標準を定量するための分析法の感度により決まる。一実施形態においては、所定の時間インキュベートするステップには、基質を酵素とともに37℃で20時間インキュベートするステップが含まれる。所定のインキュベーション時間は、試料に応じて1時間未満から20時間超まで変動しうる。一実施形態においては、基質が、アッセイバッファー溶液(すなわち第一バッファー溶液)に含まれる。所定の時間の後、第二バッファー(例えば0.1mol/Lの酢酸ナトリウムpH5.4)の添加により、酵素反応物がクエンチされる(すなわち停止される)。クエンチングバッファーは、酵素反応を止めるために十分なpHを有する。酵素反応混合物のpHは、有意な量の基質も抽出されることなく、酵素産物と内部標準との分離が達成されるようなものである(すなわちpH≧基質カルボン酸基のpKa)。
【0037】
本発明のある実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ内部標準に伴うシグナルを、α−L−イズロニダーゼ産物に伴うシグナルと比較することにより、酵素産物の量が決定される。方法の一実施形態においては、α−L−イズロニダーゼ産物を含むクエンチされた酵素反応混合物に、内部標準が加えられる。あるいは、α−L−イズロニダーゼ内部標準が、酵素反応物をクエンチするために用いられる第二バッファーの成分として加えられればよく、または内部標準は、酵素とのインキュベーションの前に基質とともに加えられればよい。
【0038】
方法においては、α−L−イズロニダーゼ産物およびα−L−イズロニダーゼ内部標準が、さらなる分析のために水性酵素反応混合物から分離される(すなわち酵素および余剰基質から分離される)。一実施形態においては、酵素産物と内部標準とを含む有機相を提供するために、水性酵素反応混合が有機溶媒により抽出される。適切な有機溶媒は、実質的に水と混ざらず、酵素または酵素基質を可溶化するのに有効でない。適切な有機溶媒は、選択的および効率的に産物および内部標準を抽出し、各々を実質的に等しく抽出する(すなわち酵素産物および内部標準は、所与の溶媒で実質的に同じ分配係数を有する)。好適な溶媒には、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、およびブタノールが含まれる。一実施形態においては、有機溶媒は、酢酸エチルである。
【0039】
別の実施形態においては、(内部標準を含む)酵素反応混合水溶液から固相抽出により、酵素産物が分離される。本発明の方法のこの実施形態においては、酵素基質は化学式(I)を有する化合物であり、内部標準は化学式(II)を有する化合物である。この実施形態においては、水性酵素反応混合物が適切な固相に適用される。適切な固相は、酵素産物および内部標準を実質的に等しく選択的に保持および解放するのに有効である。代表的な固相には、シリカゲル、逆相シリカ(例えばC18−シリカ)、および陰イオン交換樹脂類等のイオン交換樹脂類が含まれる。それから、酵素製品および内部標準が、一つ以上の適切な有機溶媒により順次または同時に固相から溶出され、得られた溶液(単数または複数)が本明細書に記載のように分析されうる。適切な有機溶媒は、固相から酵素産物および内部標準を実質的に完全に溶出する。産物および内部標準は、固相から別々または一緒に溶出されうる。一実施形態においては、産物および内部標準が一緒に溶出される。
【0040】
酵素産物および内部基質が単離されたら、酵素産物が定量される。方法のある実施形態においては、内部標準により、酵素製品の量の測定が促進される。内部標準の量が既知であるため、内部標準に伴うシグナルを測定し、そのシグナルを酵素産物に伴うシグナルと比較することにより、酵素産物の量の測定が可能になる。上記のように、酵素産物および内部標準に伴うシグナルは、質量分析(例えばタンデム質量分析)により測定されうる。
【0041】
一実施形態においては、タンデム質量分光分析によりα−L−イズロニダーゼ産物のα−L−イズロニダーゼ内部標準に対する比を決定することにより、酵素産物の量が決定される。MSMS法においては、産物および内部標準の親イオンが生成され、単離され、衡突誘起解離されて、産物フラグメントイオンおよび内部標準フラグメントイオンがそれぞれ提供される。産物フラグメントイオンおよび内部標準フラグメントイオンのピーク強度を比較することにより、α−L−イズロニダーゼ産物の量の計算が可能になる。
【0042】
本発明の方法においては、既知量のα−L−イズロニダーゼ内部標準が上記の通りに酵素反応系に加えられ、これにより、α−L−イズロニダーゼの存在下でα−L−イズロニダーゼ産物が最終的に生成される。本発明のタンデム質量分析法においては、酵素産物フラグメントイオンおよび内部標準フラグメントイオンのピーク面積積分値が測定され、酵素産物ピーク面積の内部標準ピーク面積に対する比が、加えた内部標準のモル数と掛け合わせられて酵素産物のモル数が提供され、これにより、元の試料中のα−L−イズロニダーゼにより生成された酵素産物が定量される。
【0043】
本発明のタンデム質量分析方法は、α−L−イズロニダーゼ産物を効果的に定量する。方法は、産物および内部標準の親質量が同じであり、フラグメントが異なるとき、または、産物および内部標準の親質量が異なり、フラグメントがともに同じまたはともに異なるときに、有効に。
【0044】
α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定するための本発明の方法は、α−L−イズロニダーゼ産物およびα−L−イズロニダーゼ内部標準からのシグナルの測定に依存する。酵素産物および内部標準は、いくつかの方法で関連しうる。水性酵素反応混合物からの酵素産物の単離のために液液抽出に依存する本発明の方法では、各々が有機抽出溶剤に実質的に等しく抽出可能である(理想的に同じ)。質量分光分析に依存する本発明の方法では、各々が、異なる質量を有し他方から分離されうるフラグメントイオンを産出し、実質的に同じ(理想的に同じ)イオン化効率を有する各フラグメントから、産物および内部フラグメントイオンが生成される。
【0045】
代表的な酵素基質は、化学式(I):
【0046】
【化5】

を有し、式中、mは1〜20の整数である。一実施形態においては、mは2〜12である。一実施形態においては、mは4(すなわち、N−[4’’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−O−(α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセトアミド)である。
【0047】
代表的な内部標準は、化学式(II):
【0048】
【化6】

を有し、Rはそれぞれ独立してHまたはDであり、nは1〜20の整数である。一実施形態においては、mは2〜12である。一実施形態においては、RはHであり、nは3(すなわち、(N−[3’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−プロピル])7−ヒドロキシクマリン−4−アセトアミド)である。
【0049】
本発明の方法においては、酵素基質(例えば化学式(I)の化合物)および内部標準(例えば化学式(II)の化合物)は関連する。例えば、実施例3に記載される本発明の代表的な方法では、酵素基質はm=4である化学式(I)の化合物であり、内部標準はm=3である化学式(II)の化合物である。この基質および内部標準の組み合わせでは、酵素産物および内部標準は、単一のメチレン単位により異なる。質量分光分析は、各々からのフラグメントイオンを容易に区別し、それらの定量を可能にする。質量分光分析を用いた本発明の方法では、化学式(II)のRがH、m≠n(すなわち基質および標準が少なくとも一つのメチレン単位により異なる)であるように、酵素基質および内部標準がそれぞれ化学式(I)および(II)の化合物から選択される。
【0050】
あるいは、質量分光分析を用いた本発明の方法では、酵素基質および内部標準は、それぞれ化学式(I)および(II)の化合物から選択されればよく、式中、内部標準が一つ以上の重元素を含む(例えばメチレン鎖の全てのRが水素ではない)とき、m=nである。
【0051】
本発明の方法で有用な代表的なα−L−イズロニダーゼ産物(IdA−P)が、図1に示される。酵素産物を産生するα−L−イズロニダーゼ基質(IdA−S)も、図1に示される。IdA−Sは、十三(13)のステップで、安価な出発物質から調製された。基質は、t−ブチルカルバミル化アミノ基により終了する4−炭素鎖が結合されるウンベリフェリル−α−L−イズロニドである。DBS中に存在するIdAとのインキュベーションにより、イズロニル基の酵素の放出がもたらされて、ウンベリフェリル誘導体産物IdA−Pが産生される(図1を参照)。
【0052】
本発明の方法で有用な代表的なα−L−イズロニダーゼ内部標準(IdA−IS)が、図2に示される。IdA−ISはIdA−Pに密接に関連し、本実施形態においては、その炭素鎖は一つのメチレン基だけ短いことにより、内部標準が異なる分子量を有する(図2を参照)。IdA−PおよびIdA−ISは、t−ブチルカルバメート基の衝突誘起除去の後、ESI−MSMSにより、それらのフラグメントイオンとして別々に検出され、定量される(100−Daの質量差;図1および2を参照)。代表的な方法においては、ESI−MSMSが、正イオン、複数反応モニタリングモードで運転するタンデム四重極機器で行われた。IdA−PおよびIdA−ISの親イオン(それぞれm/z391.2および377.2)が単離され、衡突誘起解離(CID)された。分析されるフラグメントイオンは、イソブテンおよび二酸化炭素の除去によりIdA−PおよびIdA−ISからそれぞれ得られる、m/z291.1および277.1である。IdA−Pのイオンピーク強度をIdA−ISと比較することにより、産物の量が計算された。
【0053】
上記の代表的な酵素基質および内部標準の合成が、実施例1および2に記載され、図3および4にそれぞれ概略的に示される。
【0054】
本発明の方法においては、酵素産物および内部標準が酵素反応混合物から分離される。ある実施形態においては、酵素反応混合物中に比較的高い濃度で存在するバッファー塩が、液液抽出ステップにより除去される。抽出ステップは、産物および内部標準を抽出するためのハイスループット分析に適する。例えばpH5.4の、IdA−Sの糖残基上の帯電カルボキシレート官能基の存在が、その有機層への抽出を防止するが、IdA−PおよびIdA−ISはpH5.4で荷電せず、酢酸エチルに容易に抽出される。ESI−MSMSの間にIdA−Sのグリコシド結合の切断が生じ、IdA−Pイオンが形成され、これにより偽陽性IdA活性が生じうるため、この抽出ステップは重要である。正常DBSのアッセイにより生成されるMSMSシグナルは、先に記載の条件で調製されるブランクよりも一般に4〜10倍大きい。
【0055】
したがって、一態様においては、本発明のα−L−イズロニダーゼ酵素活性の検定のための方法には、(a)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するために、α−L−イズロニダーゼ、α−L−イズロニダーゼ産物、およびα−L−イズロニダーゼ内部標準を含む水性酵素反応混合物を有機溶媒により抽出するステップと、(b)α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップとが含まれる。上記の如く、酵素産物の量は、方法により検定される試料におけるα−L−イズロニダーゼ酵素活性に関連する。この方法では、α−L−イズロニダーゼ、α−L−イズロニダーゼ産物、およびα−L−イズロニダーゼ内部標準ならびに酵素を含む水性酵素反応混合物は、検定される試料(例えば新生児乾燥濾紙血液)からのものであり;α−L−イズロニダーゼ基質、α−L−イズロニダーゼ産物、α−L−イズロニダーゼ内部標準、有機溶媒、および産物の定量は、上記の通りである。
【0056】
上述の通り、酵素反応混合物への内部標準の添加は、方法の異なる段階で生じうる。したがって、本発明の方法の実施形態は、内部標準が含まれる時点で異なる。
【0057】
一実施形態においては、本発明は、(a)α−L−イズロニダーゼ産物を含む酵素反応混合物を提供するために、α−L−イズロニダーゼ基質をα−L−イズロニダーゼとともにインキュベートするステップと;(b)酵素反応をクエンチするステップと;(c)α−L−イズロニダーゼ内部標準を酵素反応混合物に加えるステップと;(d)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するために、酵素反応混合物を有機溶媒により抽出するステップと;(e)α−L−イズロニダーゼ産物を定量するステップを含む、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法を提供する。
【0058】
別の実施形態においては、本発明は、(a)α−L−イズロニダーゼ産物を含む酵素反応混合物を提供するために、α−L−イズロニダーゼ基質をα−L−イズロニダーゼとともにインキュベートするステップと;(b)α−L−イズロニダーゼ内部標準を含むバッファー溶液により、酵素反応をクエンチするステップと;(c)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するために、酵素反応混合物を有機溶媒により抽出するステップと;(d)α−L−イズロニダーゼ産物を定量するステップを含む、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法を提供する。
【0059】
別の実施形態においては、本発明は、(a)α−L−イズロニダーゼ産物を含む酵素反応混合物を提供するために、α−L−イズロニダーゼ内部標準の存在下で、α−L−イズロニダーゼ基質をα−L−イズロニダーゼとともにインキュベートするステップと;(b)酵素反応物をクエンチするステップと;(c)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するために、酵素反応混合物を有機溶媒により抽出するステップと;(d)α−L−イズロニダーゼ産物を定量するステップを含む、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法を提供する。
【0060】
これらの方法では、α−L−イズロニダーゼは、検定される試料(例えば新生児乾燥濾紙血)からのものであり;α−L−イズロニダーゼ基質、α−L−イズロニダーゼ産物、α−L−イズロニダーゼ内部標準、有機溶媒および産物の定量は、上記の通りである。
【0061】
タンデム質量分析によりα−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定するための、本発明の代表的な方法が、実施例3に記載される。アッセイの最適化により、pH3.4で最大のIdA活性がみられた(図5)。IdA−Pの量は、0〜30時間のインキュベーション時間とともに線形に増加し(図6);20時間が、実施例3に記載されるアッセイの標準的なインキュベーション時間として選択された。20時間で形成されるIdA−Pの量は、IdA−Sの濃度が0〜0.67mmol/Lに増えると双曲線状に増加し、Kは0.2mmol/Lと決定された(図7)。飽和条件下とするために、0.5mmol/LのIdA−S濃度が選択された。IdA−P増加の量は、加えられるDBSの表面積とともに増加し(図8)、高いほうの血液量で横ばいに達する(DBS中の内因性阻害剤の存在によると推測される)。一実施形態においては、方法は、3mmのDBSパンチを使用する。
【0062】
図10に示されるように、5人の患者におけるIdA活性(範囲、0〜0.268;平均、0.053μmol/h/L血液)は、10人の病気でない新生児(ランダム新生児)から得られた試料における活性の範囲(範囲、7.4〜23.4;平均、12.3μmol/h/L血液)をはるかに下回った。5人のMPS−I保有者(保有者)におけるIdA活性は、中間だった(範囲、1.4〜5.6;平均、2.9μmol/h/L血液)が、なお病気の患者の活性からは十分離れていた。健常コントロールからのDBSの重複分析により、アッセイの不正確性が計算された:アッセイ内CVは5.9%(n=3)であり、アッセイ間CVは9.3%(n=10)であった。
【0063】
本発明の別の態様では、蛍光分析によりα−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法が提供される。一実施形態においては、蛍光定量的方法には、酵素反応混合物からα−L−イズロニダーゼ産物を分離するための、(上記の)液液抽出ステップが含まれる。別の実施形態においては、蛍光定量的方法には、酵素反応混合物からα−L−イズロニダーゼ産物を分離するための、(上記の)固相抽出ステップが含まれる。しかし、タンデム質量分析方法とは異なり、蛍光定量的方法は内部標準を利用しない。蛍光定量的方法においては、酵素産物が上記の方法により単離され、標準的な検量曲線を用いて定量される。一実施形態においては、蛍光定量的方法は、上記の産物(すなわち化学式(II)を有する産物)を産生するために、α−L−イズロニダーゼ基質(すなわち化学式(I)を有する基質)を利用する。好適な検量体には、酵素産物自体、クマリンおよびメチルウンベリフェロン等が含まれる。
【0064】
したがって、別の実施形態においては、本発明は、
(a)α−L−イズロニダーゼを含む溶液を提供するために、乾燥血液試料を第一バッファー溶液と接触させるステップと;
(b)α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供するために、α−L−イズロニダーゼを含む溶液にα−L−イズロニダーゼ基質を加えて、基質を酵素とともに所定の時間インキュベートするステップと;
(c)酵素反応物をクエンチするために、第二バッファーを加えるステップと;
(d)酵素反応からα−L−イズロニダーゼ産物を分離するステップと;
(e)α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液の蛍光強度を測定するステップ
を含む、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法を提供する。
【0065】
一実施形態においては、蛍光定量的方法には、酵素反応混合物からα−L−イズロニダーゼ産物を分離するための液液抽出ステップが含まれる。別の実施形態においては、蛍光定量的方法には、酵素反応混合物からα−L−イズロニダーゼ産物を分離するための固相抽出ステップが含まれる。当然のことながら、この方法では、基質が第一バッファーに含まれてもよい。
【0066】
本発明のさらなる態様においては、ムコ多糖症I型(MPS−I)につき新生児をスクリーニングする方法が提供される。様々な実施形態において、本発明のMPS−Iスクリーニング法は、α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定するために上記された各々の方法を用いることができる(すなわち上記のアッセイの各々の実施形態が、スクリーニング法に適切である)。スクリーニング法においては、新生児の血液試料(例えば乾燥濾紙血液)からα−L−イズロニダーゼが得られ、α−L−イズロニダーゼ産物の量を用いて、血液試料が(MPS−I)の治療の候補からのものであるかが決定される。
【0067】
一実施形態においては、MPS−Iにつき新生児をスクリーニングするための方法には、
(a)α−L−イズロニダーゼを含む溶液を提供するために、新生児スクリーニング用カードからの乾燥血液試料を第一バッファー溶液に接触させるステップと;
(b)α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供するために、α−L−イズロニダーゼを含む溶液にα−L−イズロニダーゼ基質を加え、基質を酵素とともに所定の時間インキュベートするステップと;
(c)酵素反応物をクエンチするために、第二バッファーを加えるステップと;
(d)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を提供するために、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液にα−L−イズロニダーゼ内部標準を加えるステップと;
(e)α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するために、α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を有機溶媒により抽出するステップと;
(f)タンデム質量分光分析により、α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップであり、
(i)産物フラグメントイオンおよび内部標準フラグメントイオンを提供するために、産物および内部標準の親イオンを生成し、単離し、衡突誘起解離させるステップと、
(ii)α−L−イズロニダーゼ産物の量を計算するために、産物フラグメントイオンおよび内部標準フラグメントイオンのイオンピーク強度を比較するステップと;
を含む、ステップと;
(g)新生児がムコ多糖症I型の治療の候補であるかを予測するために、α−L−イズロニダーゼ産物の量を用いるステップ
が含まれる。
【0068】
上記の本発明の方法により得られた代表的なスクリーニング結果が、実施例3に示され、図10に図示される。
【0069】
本発明の方法は、ヘパリン分解のための大きな体積の亜硝酸の処理の技術的困難と産物から不純物を除去する必要性により基質の合成のスケールアップが困難である、以前に開発された、市販のヘパリンの分解から得られる酵素基質を使ったMPS−Iのエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI−MSMS)アッセイの欠陥を克服した(Wang D,Eadala B,Sadilek M,Chamoles NA,Turecek F,Scott CR,Gelb MH.Tandem mass spectrometric analysis of dried blood spots for screening of Mucopolysaccharidosis I in newborns.Clin Chem 2005;51:898−900)。本発明の方法は、再水和DBS中のIdAの反応速度を直接測定する、改良されたESI−MSMSアッセイを提供し、MPS−Iの新生児スクリーニングに応用できる。方法は、世界的な新生児スクリーニングに適切なスケールでの全合成により調製できる改変基質を利用する(>1,000,000アッセイに10gの基質)。
【0070】
本発明は、新生児スクリーニング検査室におけるハイスループット分析に実際的であり、ESI−MSMSベースのアッセイが既に開発されているものを含む他のリソソーム酵素の同時アッセイと適合する、IdAのESI−MSMSベースのアッセイを提供する。このアッセイは、マイクロタイタープレートおよび多チャネルピペット操作技術(またはロボット工学)と適合する。アッセイで使用される基質および内部標準は、以前に開発された第一IdAアッセイが過去に直面した合成の問題を克服する。各IdAアッセイが、8.5μgの基質と0.075μgの内部標準とを必要とするにとどまる。アッセイにおいて使用されるESI−MSMS前精製プロトコルは、単純な液液抽出であり、過去のアッセイで報告されるC18−シリカプレートを用いた精製よりも、実行が容易である。
【0071】
以下の実施例は、本発明の制限ではなく説明を目的として提供される。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
代表的なイズロニダーゼ基質(IdA−S)の合成:
(N−[4’’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−O−(α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセトアミド
下記の代表的なイズロニダーゼ基質(IdA−S)、(N−[4’’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−O−(α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセトアミドの合成は、IdA−Sのスモールスケール(ミリグラム量)合成である。合成が、図3に概略的に示される。
【0073】
メチル(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルフルオライド)ウロン酸(2)。メチル1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−α,β−D−グルコピラノシルウロン酸1(4.98g、13.25mmol、1eq)が、0℃で67mLの酢酸中33%臭化水素酸に、窒素下で懸濁された。15分間0℃で撹拌後、反応混合物を、室温に温まらせ、2時間撹拌した。それから、反応混合物がトルエンで希釈され、減圧下で濃縮された。残留物が250mLの酢酸エチルで希釈され、150mLの冷飽和重炭酸ナトリウムおよび150mLの冷塩水により洗浄された。有機層が、MgSO上で乾燥され、減圧下で濃縮されて、直接次のステップで使用された粗製ブロミド誘導体が産出された。ブロミド中間体が、室温で、窒素下で167mLの無水アセトニトリルに溶解された。それからフッ化銀(3.36g、26.49mmol、2eq)が加えられた。反応混合物が、暗中で合計21時間撹拌された。反応混合物が、セライトで濾過され、濾過液が減圧下で濃縮された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:EtOAc、4:1から2:1)により、産物2(3.3g、74%)が提供された:スペクトルデータは、報告されたものと良く一致した。
【0074】
メチル(5−ブロモ−2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルフルオライド)ウロン酸(3)。無水四塩化炭素中の2(3.3g、9.8mmol、1eq)およびN−ブロモコハク酸イミド(3.32g、18.65mmol、1.9eq)の懸濁液が、窒素下で、還流下で照射を伴って合計6時間撹拌された。反応の2時間および4時間後に、N−ブロモコハク酸イミド(3.32g、18.65mmol、1.9eq)が加えられた。反応混合物が室温に冷却され、ガラスウールで濾過された。溶媒が減圧下で除去された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:EtOAc、3:1)により、産物3(3.12g、77%)が提供された:スペクトルデータは、報告されたものと良く一致した。
【0075】
メチル(2,3,4−トリ−O−アセチル−α−L−イドピラノシルフルオライド)ウロン酸(4)。ブロミド3(3.16g、7.61mmol、1eq)が、50mLの無水ベンゼンに溶解され、窒素下で撹拌された。トリブチルスズヒドリド(3.1mL、11.4mmol、1.5eq)が加えられ、反応混合物が40分間還流された。混合物が室温に冷却され、溶媒が減圧下で除去された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(トルエン:EtOAc、8:1から6:1)により、産物4(1.67g、65%)が提供された:スペクトルデータは、報告されたものと良く一致した。
【0076】
(2’,2’,2’−トリクロロエチル)7−アセトキシクマリン−4−アセテート(6a)。室温で、窒素下の47mLの無水ジクロロメタン中の7−アセトキシクマリン−4−酢酸5(945mg、3.6mmol、1eq)の懸濁液に、2,2,2−トリクロロエタノール(431μL、4.5mmol、1.25eq)が加えられた。10mLの無水ジクロロメタン中のN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(818mg、4mmol、1.1eq)の溶液が、加えられた。反応混合物が15分間撹拌された後、ジクロロメタンで希釈され、濾過された。濾過液が、減圧下で濃縮された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(CHClの後CHCl:EtOAc、10:1)により、産物6a(1.37g、96%)が提供された:
【0077】
【化7】

(2’,2’,2’−トリクロロエチル)7−ヒドロキシクマリン−4−アセテート(6b)。108mLの無水テトラヒドロフラン中の6a(1.08g、2.74mmol、1eq)の溶液が、窒素下で、室温で調製された。2−プロパノール(6.8mL、13.7mmol、5eq)中の2Mアンモニアの溶液が、滴下で加えられた。反応混合物が、しっかり密封されたフラスコにおいて、18時間室温で撹拌された。反応混合物が、減圧下で濃縮された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(CHCl、その後CHCl:Et0Ac、10:1から5:1)による精製により、産物6b(753mg、78%)が提供された:
【0078】
【化8】

(2’’,2’’,2’’−トリクロロエチル)7−O−(メチル2’,3’,4’−トリ−O−アセチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセテート(7)。2mLの無水ジクロロメタン中の6b(703mg、2mmol、1.26eq)およびLiClO/SiO(200mg)の懸濁液が、窒素下で、室温で撹拌された。1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(835μL、4mmol、2.52eq)が、滴下で加えられた。反応混合物が、35分間撹拌された。反応混合物がジクロロメタンで希釈され、濾過された。濾過液が回転蒸発により濃縮されて、(2’,2’,2’−トリクロロエチル)7−O−トリメチルシリルクマリン−4−アセテート6cが提供され、さらなる精製なしで次のステップで使用された。窒素下の10mLの無水のジクロロメタン中のグリコシル供与体4(534mg、1.6mmol、1eq)および以前に調製されたグリコシル受容体6cの溶液が、0℃に冷却された。三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート(196μL、1.6mmol、1eq)を滴下で加えた後、反応混合物を室温に温まらせた。反応フラスコはしっかり封をされ、反応混合物が1.5時間撹拌されてから、減圧下で濃縮された。残留物が無水酢酸(10mL)に溶解され、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート(88μL)が加えられた。20分間撹拌の後、反応物が200mLのジクロロメタンで希釈され、100mLの水、100mLの飽和重炭酸ナトリウムおよび100mLの塩水によって洗浄された。有機層がMgSOで乾燥され、トルエンとの追加的な同時蒸発を伴って減圧下で濃縮された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(CHCl、その後CHCl:EtOAc、10:1から5:1)により、産物7(934mg、88%)が提供された:
【0079】
【化9】

(N−[4’’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−O−(メチル2’,3’,4’−トリ−O−アセチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセトアミド(9a)。グリコシド7(831mg、1.2mmol、1eq)が、室温で41mLの無水テトラヒドロフランに溶解された。溶液が0℃に冷却され、90%の酢酸水溶液(5.5mL)が加えられた。最後に、塩化銅(167mg、1.2mmol、1eq)および亜鉛末(813mg、12.4mmol、10eq)が、加えられた。反応混合物が0℃で合計39時間撹拌され、その間に、亜鉛末(813mg、12.4mmol、10eq)が反応の15時間および25時間後に加えられた。反応混合物がセライトで濾過され、濾過液が減圧下で濃縮された。残留物が、200mLのジクロロメタンにおいて可溶化され、150mLの水(二回)および150mLの塩水により洗浄された。有機層が、MgSOで乾燥され、減圧下で濃縮された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(CHCl、その後CHCl:EtOAc、5:1から2:1;全溶媒1%酢酸)により、産物8(634mg、95%)が提供された。20mLの無水テトラヒドロフラン中の酸8(627mg、1.2mmol、1eq)の溶液が、0℃に冷却された。N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミドヒドロクロリド(245mg、1.28mmol、1.1eq)および1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(196mg、1.28mmol、1.1eq)が加えられ、懸濁液が0℃で30分間撹拌された。2mLの無水N,N−ジメチルホルムアミド中のN−Boc−1,4−ジアミノブタン(223μL、1.2mmol、1eq)の溶液が、懸濁液にゆっくり加えられた。反応混合物を室温に温まらせ、3時間撹拌した。反応混合物が、減圧下で濃縮された。残留物が250mLの酢酸エチルに取り込まれ、150mLの1M HCl、150mLの水および150mLの塩水によって洗浄された。有機層が、MgSOにより乾燥され、減圧下で濃縮された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(トルエン:アセトン、3:1から2:1)により、産物9a(528mg、65%)が提供された:
【0080】
【化10】

(N−[4’’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−O−(α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセトアミド(IdA−S)。16mLのメタノール中の9a(98mg、0.165mmol、1eq)の溶液が、0℃に冷却された。メタノール(140μL、0.07mmol、0.4eq)中の0.5Mナトリウムメトキシドの溶液が、滴下で加えられた。反応混合物が、1.5時間0℃で撹拌された。反応混合物が、アンバーライトIR−120(H)により中和され、濾過された。濾過液が、減圧下で濃縮された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(CHCl、その後CHCl:MeOH、9:1)により、産物9b(69mg、86%)が提供された:
【0081】
【化11】

化合物9b(21mg、0.036mmol、1eq)が、2mLの水/メタノール(1:1)に室温で溶解された。溶液のpHが約8(pH紙)に達するまで、水酸化ナトリウム水溶液0.1Mが、0.1eq NaOHずつ加えられた。反応の進行とともに0.1M NaOHの分割添加によりpHが維持された。反応混合物が、5.5時間撹拌された。反応混合物が、アンバーライトIR−120(H)により中和され、濾過された。濾過液が減圧下で濃縮されてから、凍結乾燥されて、産物IdA−S(20mg、量)が得られた:
【0082】
【化12】

(実施例2)
代表的なイズロニダーゼ内部標準(IdA−IS)の合成:
(N−[3’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−プロピル])7−ヒドロキシクマリン−4−アセトアミド
以下に記載の代表的なイズロニダーゼ内部標準(IdA−IS)、(N−([3’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−プロピル])7−ヒドロキシクマリン−4−アセトアミド)の合成は、IdA−ISのスモールスケール(ミリグラム量)合成である。合成は、図4に概略的に示される。
【0083】
(N−[3’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−プロピル])7−アセトキシクマリン−4−アセトアミド(10)。20mLの無水テトラヒドロフラン中の5(302mg、1.15mmol、1eq)の溶液が0℃に冷却された。N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミドヒドロクロリド(243mg、1.27mmol、1.1eq)および1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(194mg、1.27mmol、1.1eq)が加えられ、懸濁液が0℃で30分間撹拌された。1mLの無水N,N−ジメチルホルムアミド中のN−Boc−1,3−ジアミノプロパン(201μL、1.15mmol、1eq)の溶液が、懸濁液にゆっくり加えられた。反応混合物を、室温に温まらせ、6時間撹拌した。反応混合物が、減圧下で濃縮された。残留物が、200mLの酢酸エチルに取り込まれ、60mLの1M HCl、60mLの水および60mLの塩水で洗浄された。有機層がMgSOで乾燥され、減圧下で濃縮された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(CHCl、その後CHCl:MeOH、98:2から97:3)により、産物10(296mg、61%)が提供された:
【0084】
【化13】

(N−[3’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−プロピル])7−ヒドロキシクマリン−4−アセトアミド(IdA−IS)。化合物10(160mg、0.38mmol、1eq)が、21mLのメタノール/ジクロロメタン(6:1)に溶解され、溶液が0℃に冷却された。メタノール(383μL、0.19mmol、0.5eq)中の0.5Mのナトリウムメトキシドの溶液が、滴下で加えられた。0℃で30分間撹拌後、反応混合物が室温に温められ、18時間撹拌された。そして、反応混合物がアンバーライトIR−120(H)により中和され、濾過された。濾過液が、減圧下で濃縮された。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(CHCl、その後CHCl:MeOH、95:5から90:10)による精製により、産物IdA−IS(132mg、92%)が提供された:
【0085】
【化14】

(実施例3)
α−L−イズロニダーゼ酵素活性を直接検定するための代表的なESI−MSMS法
本実施例では、新生児スクリーニング用カードからの乾燥濾紙血液(DBS)からα−L−ウロニダーゼ(uronidase)酵素活性を直接検定するための、本発明の代表的な方法(タンデム質量分析)が説明される。
【0086】
全ての実験が、施設内倫理委員会ガイドラインに従って行われた。全てのMPS−Iの患者が、確立された臨床および生化学的手法により、以前に診断されていた。DBSは、輸送の間周囲温度に保たれ(<10日)、それからジップロックプラスチックバッグにおいて−20℃で保管された(一つのバッグを二つ目のバッグに封入)。ジップロックバッグは、乾燥剤(無水CaSO顆粒)を含む密封されたプラスチックボックスに保たれた。
【0087】
単一の3mm直径DBS(約3.6μLの血液を含む)が、レザーパンチにより得られ、1−mLエッペンドルフチューブ内に配置された。抽出バッファー[75μmol/LのD−サッカリン酸1,4−ラクトンを含む160μLの0.1mol/Lのギ酸ナトリウムpH3.4(Sigma);−20℃で保管]が、チューブに加えられた。1分間のボルテックス混合の後、チューブが、オービタルシェーカ上で、45分間37℃で穏やかに振動された。二十マイクロリットルの血液抽出物が、0.6mLエッペンドルフチューブに移され、水中の10μLの1.5mmol/L IdA−S(−20℃で保管)が加えられた。酵素反応物が、温度制御されたエアシェーカにおいて37℃で20時間インキュベートされてから、100μLの0.1mol/L酢酸ナトリウムpH5.4を加えることによりクエンチされた。水中の十マイクロリットルの20μmol/L IdA−IS(−20℃で保管)も加えられ、チューブがボルテックス混合された。20μLの血液抽出物のチューブおよび10μLの1.5mmol/LのIdA−Sのチューブを0.1mol/Lのギ酸ナトリウムpH3.4中で、別々に37℃で20時間インキュベートした後、二つの溶液を混合し、100μLの水中0.1mol/Lの酢酸ナトリウムpH5.4および10μLの20μmol/L IdA−ISを加えることによって、ブランクが調製された。
【0088】
250μLの酢酸エチルの添加により、酵素反応物およびブランクからのIdA−PおよびIdA−ISの抽出が実行された。15秒間のボルテックス混合の後、卓上遠心機を最大値速度で用いてチューブが1分間遠心分離された。上部有機層の200μLアリコートが、1mLエッペンドルフチューブに移された。窒素流下で溶媒が除去された(典型的に室温で30分)。残留物に、70μLのメタノール中5mmol/Lギ酸アンモニウムが加えられ、試料が、Watersサンプルマネージャーの96ウェルプレートのウェルに移された(Greiner Bio−One,cat.#651201)。試料(メタノール中5mmol/Lギ酸アンモニウム中試料70μLの20μL)が、Waters自動注入システムにより、質量分析計に注入された。試料注入の後、質量分析計に試料を送達し、次の注入前に送達ラインをクリーニングするために、メタノール中0.2%蟻酸が0.2mL/分で4分間注入された。試料注入後0〜3分の期間に、MSMSデータが集められた。注入の最初の45秒以内に試料が分析され、1分後に、MSMSシグナルはバックグラウンドレベルに戻った。新生児スクリーニング検査室においては、分析は、所与の試料に費やされる時間を最小限にするために、試料あたり1〜2分に減らされうる。
【0089】
ESI−MSMSが、正イオン、多重反応モニタリングモードで運転する、Waters ACQUITYタンデム四重極機器で行われた。MassLynx4.1ソフトウェアにより、以下の設定でイオンスキャニングが行われた:キャピラリー電圧、4500V;コーン電圧、19V;イクストラクター、3V;RF、0.4V;ソース温度、80℃;脱溶媒和温度、250℃;コーンガス流量、0L/h;脱溶媒和ガス流量、500L/h;衝突ガス流量、0.20mL/分;LM1分解能、13.2;HM1分解能、14.6;イオンエネルギー1,0;MSMSモードentrance、1;MSMSコリジョンエネルギー、10eV(IdA−P)および9eV(IdA−IS);MSMSモードexit、0.5;LM2分解能、13.0;HM2分解能、14.6;イオンエネルギー2、0.7;コリジョンセル圧力、〜3.7e−3mbar;コリジョンガス、アルゴン。m/z391.2→291.1および377.2→277.1の移行につき多重反応モニタリングモードが以下の設定で使用された:dwell時間、0.1秒;delay、0.02秒。
【0090】
IdA−PおよびIdA−ISの親イオン(それぞれm/z391.2および377.2)が単離され、衡突誘起解離された。分析されるフラグメントイオンは、イソブテンおよび二酸化炭素の除去によりIdA−PおよびIdA−ISからそれぞれ導出される、m/z291.1および277.1である。産物(IdA−P)の内部標準(IdA−IS)に対するイオン存在比から、ブランクコントロール(別々にインキュベートされたバッファーpH3.4中の血液抽出物および基質)からのものを減算し、加えた内部標準の量を掛け合わせ、産物の内部標準に対するレスポンスファクター比で割って、産物の量を計算した(図9を参照)。産物の量をインキュベーション時間および血液の体積(3mmDBSパンチ中3.6μL血液)で割って、酵素活性が計算された。
【0091】
上に詳述される本発明の方法により、DBSにおけるIdA活性が、MPS−I患者(5人)、MPS−I保有者(5人)、および正常新生児(10人)につき測定された。5人の患者(MPS−Iを患う新生児)につき測定されたα−L−イズロニダーゼ活性は、10人のランダムに選択された新生児に見られた区間をはるかに下回った;5人のMPS−I保有者につき測定された活性は、病気の新生児とランダムに選択された新生児の中間だった。結果が、下表1にまとめられる。
【0092】
【表1】

バッファーpH3.4中の血液抽出物および基質が別々にインキュベートされた同一のアッセイから得られた、ブランク値[平均(SD)、2.67(0.26)μmol/h/L血液;15の独立アッセイから計算]を引いて値が得られた。
【0093】
結果が、図10にグラフで示される。図10を参照すると、IdA活性が一連の値を示す水平のバーにより示され、ボックスは25〜75%の値を示し、ボックス内の水平線は中央値を示し、■は平均を示す。
【0094】
(実施例4)
α−L−イズロニダーゼ酵素活性を直接検定する代表的な蛍光定量的方法
本実施例では、乾燥濾紙血液(DBS)からα−L−ウロニダーゼ(uronidase)酵素活性を直接検定するための、本発明の代表的な方法(蛍光定量)が記載される。使用された酵素基質(IdA−S)は、実施例1で先述した通りである。
【0095】
濾紙カード上の乾燥濾紙血液が、酵素のソースとして使われた。血液抽出物が、以下の通りに調製された:3mmの乾燥濾紙血液パンチ(約3.6μLの血液を含む)が、標準的なレザーパンチを用いて得られ、1mLのエッペンドルフチューブに配置された。抽出バッファー[75μM D−サッカリン酸1,4−ラクトンを含む160μLの0.1Mギ酸ナトリウムpH3.4]が、チューブに加えられた。1分のボルテックス混合の後、チューブがオービタルシェーカ上で、37℃で45分間穏やかに振盪されて、酵素α−L−イズロニダーゼを含む血液抽出物が得られた。
【0096】
20μLの血液抽出物に、水中の10μLの1mM基質IdA−Sが加えられた。温度制御されたエアシェーカにおける37℃での20時間のインキュベーション後、100μLの85mMグリシン−カルボネートpH10.5の添加により反応が停止され、得られた溶液の蛍光が測定された。20μLの血液抽出物のチューブと10μLの1mM基質IdA−Sのチューブを0.1Mのギ酸ナトリウムpH3.4中で、別々に37℃で20時間インキュベートした後、二つの溶液を混合し、100μLの85mMグリシン−カルボネートpH10.5を加えることにより、ブランクが調製された。各アッセイが三通りで行われ、ブランク値を減算することにより修正された。放出されたアグリコンの蛍光測定が、(N−[4’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−ヒドロキシクマリン−4−アセトアミドIdA−Pにつき波長λex/λemで355/460nmで、PerkinElmer蛍光光度計VICTORVにより行われた。検量曲線を用いて(図11)、血液一リットルにつき一時間あたりに加水分解されるマイクロモルの基質として、酵素活性が計算された。
【0097】
上で詳述される本発明の方法により、二人の病気でない個体につき、DBSのIdA活性が測定された。結果が、下表2にまとめられる。
【0098】
【表2】

バッファーpH3.4中の血液抽出物および基質が別々にインキュベートされた同一のアッセイから得られた、ブランク値[平均(SD)、1.83(0.09)μmol/h/L血液;2つの独立アッセイから計算](本文参照)を減算して値が得られた。
【0099】
例示的実施形態が例示および記載されているが、当然のことながら、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、様々な変更が施されうる。
【0100】
排他的な権利および特権を主張する発明の実施形態を以下で定義する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法であって、
(a)α−L−イズロニダーゼ基質をα−L−イズロニダーゼとともに所定の時間インキュベートして、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供するステップと;
(b)該α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液に、バッファーを加えて、酵素反応物をクエンチするステップと;
(c)α−L−イズロニダーゼ内部標準を該α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液に加えて、該α−L−イズロニダーゼ産物と該α−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を提供するステップと;
(d)該α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む該溶液を、有機溶媒により抽出して、該α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するステップと;
(e)該α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
α−L−イズロニダーゼを含む前記溶液が、α−L−イズロニダーゼを含む試料を、第一バッファー溶液と接触させることにより得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が、血液試料である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が、新生児スクリーニング用カードからの乾燥血液班である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第一バッファー溶液が、約3.4のpHを有する水性バッファーである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記基質を前記酵素とともに所定の時間インキュベートするステップは、約37℃で約20時間インキュベートするステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基質が、化学式(I):
【化15】

を有し、式中、mは2〜12の整数である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基質が、(N−[4’’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−O−(α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセトアミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第二バッファー溶液が、約5.4のpHを有する水性バッファーである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記内部標準が、化学式(II):
【化16】

を有し、式中、Rはそれぞれ独立して、HまたはDであり、nは2〜12の整数である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記内部標準が、(N−[3’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−プロピル])7−ヒドロキシクマリン−4−アセトアミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記有機溶媒が、酢酸エチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップは、前記α−L−イズロニダーゼ産物のα−L−イズロニダーゼ内部標準に対する比を決定するステップを含み、該ステップは、質量分光分析を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップは、タンデム質量分光分析を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップは、該産物および内部標準の親イオンが生成され、単離され、衡突誘発性解離に供される、タンデム質量分光分析を含み、産物フラグメントイオンおよび内部標準フラグメントイオンが提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップは、α−L−イズロニダーゼ産物の量を計算するために、前記産物フラグメントイオンと内部標準フラグメントイオンとのピーク強度を比較するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記α−L−イズロニダーゼ産物の量を用いて、前記乾燥血液試料がムコ多糖症I型の治療の候補からのものであるかを決定するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項18】
ムコ多糖症I型に対して新生児をスクリーニングするための方法であり、
(a)新生児スクリーニング用カードからの乾燥血液試料を、第一バッファー溶液と接触させて、α−L−イズロニダーゼを含む溶液を提供するステップと;
(b)該α−L−イズロニダーゼを含む溶液にα−L−イズロニダーゼ基質を加え、該基質を該酵素とともに所定の時間インキュベートして、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供する、ステップと;
(c)該α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液に第二バッファーを加えて、酵素反応物をクエンチする、ステップと;
(d)α−L−イズロニダーゼ内部標準を該α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液に加えて、該α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む溶液を提供する、ステップと;
(e)該α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む該溶液を、有機溶媒により抽出して、該α−L−イズロニダーゼ産物とα−L−イズロニダーゼ内部標準とを含む有機相を提供するステップと;
(f)タンデム質量分光分析により、該α−L−イズロニダーゼ産物の量を決定するステップであって、
(i)該産物および内部標準の該親イオンを生成し、単離し、衡突誘発性解離に供して、産物フラグメントイオンおよび内部標準フラグメントイオンを提供する、ステップと、
(ii)α−L−イズロニダーゼ産物の量を計算するために、該産物フラグメントイオンと内部標準フラグメントイオンとのイオンピーク強度を比較する、ステップと
を含む、ステップと;
(g)α−L−イズロニダーゼ産物の量を用いて、該新生児がムコ多糖症I型の治療の候補であるかを予測する、ステップと
を含む、方法。
【請求項19】
化合物(I):
【化17】

を有する化学式であり、式中、mは2〜12の整数である、化合物。
【請求項20】
(N−[4’’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−ブチル])7−O−(α−L−イドピラノシルウロン酸)クマリン−4−アセトアミド。
【請求項21】
化学式(II):
【化18】

を有する化合物であり、式中、Rはそれぞれ独立してHまたはDであり、nは2〜12の整数である、化合物。
【請求項22】
(N−[3’−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−プロピル])7―ヒドロキシクマリン−4−アセトアミド。
【請求項23】
α−L−イズロニダーゼ酵素活性を検定する方法であり、
(a)乾燥血液試料を第一バッファー溶液と接触させて、α−L−イズロニダーゼを含む溶液を提供する、ステップと;
(b)α−L−イズロニダーゼを含む溶液にα−L−イズロニダーゼ基質を加え、該基質を該酵素とともに所定の時間インキュベートし、α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液を提供する、ステップと;
(c)該α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液に第二バッファーを加えて、酵素反応物をクエンチする、ステップと;
(d)該α−L−イズロニダーゼ産物を該酵素反応物から分離する、ステップと;
(e)該α−L−イズロニダーゼ産物を含む溶液の蛍光強度を測定する、ステップ
を含む、方法。
【請求項24】
前記α−L−イズロニダーゼ産物を前記酵素反応物から分離するステップは、有機溶媒により、該α−L−イズロニダーゼ産物を酵素反応混合物から抽出するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記α−L−イズロニダーゼ産物を前記酵素反応物から分離するステップは、固相抽出を用いて、該α−L−イズロニダーゼ産物を酵素反応混合物から抽出するステップを含む、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−536347(P2010−536347A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521227(P2010−521227)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/073516
【国際公開番号】WO2009/026252
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【Fターム(参考)】