説明

α−ヒドロキシカルボン酸の製造方法

【課題】本発明は、医農薬原料、液晶材料、および光学分割剤として有用なα−ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液中に強酸を添加して該水溶液のpHを1.0〜3.0に調整し、該水溶液からα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させることによって、高い化学純度および高い収率でα−ヒドロキシカルボン酸結晶を製造することができる。また、α−ヒドロキシカルボン酸を高い光学純度で得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬原料、液晶材料および光学分割剤として有用なα−ヒドロキシカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−ヒドロキシカルボン酸は、α-ヒドロキシニトリルの酸加水分解によって製造できることが知られている。そして、そのように製造されたα−ヒドロキシカルボン酸を単離精製する方法として、α−ヒドロキシカルボン酸、その二量体および無機塩を含む水溶液中にアルカリを加えて部分中和し、α−ヒドロキシカルボン酸を塩析効果により単離精製する晶析方法が知られている(特許文献1)。
しかし、この方法は、酸加水分解時に用いた強酸の当量よりも少ない当量のアルカリを用いて中和するものであり、α-ヒドロキシニトリルの酸加水分解時に生成したα−ヒドロキシカルボン酸の二量体を、アルカリ加水分解によって完全にα−ヒドロキシカルボン酸に戻すことは困難であった。そのため、得られたα−ヒドロキシカルボン酸結晶中に二量体が混在し、α−ヒドロキシカルボン酸の化学純度および光学純度が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2003−226666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記実情に鑑み、より高い化学純度および光学純度でα−ヒドロキシカルボン酸を単離することができる晶析方法の開発が求められている。例えば、晶析前にその二量体を一度完全に消去した後、その二量体が再生成せず、かつ、α−カルボン酸をより高い光学純度で単離することができる晶析条件を提供できることが望ましい。
そこで、本発明は、α−ヒドロキシカルボン酸を製造する際に、α−ヒドロキシ酸由来の二量体の副生を抑えることによって高い化学純度および光学純度で、かつ、高収率にα−ヒドロキシカルボン酸を製造する方法を提供することを主目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、α−ヒドロキシカルボン酸水溶液中のpHを強酸により所定範囲に調整し、次いで晶析させることにより、α−ヒドロキシカルボン酸由来の二量体の副生が抑制できることを見出した。そして本発明者らは更に検討し、α−ヒドロキシカルボン酸由来の二量体をアルカリ加水分解により完全に消失させ、得られたα−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩水溶液中のpHを調整して晶析させることにより、高い化学純度および光学純度のα−ヒドロキシカルボン酸が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、以下のα−ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供するものである。
(1)α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液中に強酸を添加して該水溶液のpHを1.0〜3.0に調整し、該水溶液からα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させることを特徴とするα−ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
(2)該水溶液を飽和溶液となる温度以下まで冷却して該水溶液からα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させることを特徴とする(1)記載の方法。
(3)強酸を添加する際の反応系内の温度が40〜80℃である(1)または(2)に記載の方法。
(4)α−ヒドロキシカルボン酸の晶析後に飽和溶液となったα−ヒドロキシカルボン酸水溶液中に存在するα−ヒドロキシカルボン酸由来の二量体含有割合が、α−ヒドロキシカルボン酸およびその二量体の合計面積に対し、2面積%以下である(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)α−ヒドロキシカルボン酸の晶析後に固液分離して得られたα−ヒドロキシカルボン酸結晶中に存在するα−ヒドロキシカルボン酸由来の二量体含有割合が、α−ヒドロキシカルボン酸およびその二量体の合計面積に対し、1面積%以下である(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液中に強酸を添加して該水溶液のpHを1.0〜3.0に調整し、該水溶液を飽和溶液となる温度以下まで冷却し固液分離することを特徴とするα−ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
(7)α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩が、α−ヒドロキシカルボン酸、その二量体および無機塩を含む水溶液中にアルカリを添加してα−ヒドロキシカルボン酸の二量体を消失させたものである(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液のpHが5.0〜12.0である(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、α−ヒドロキシカルボン酸由来の二量体の生成を抑制しながら、目的のα−ヒドロキシカルボン酸結晶を高い化学純度および高い収率で得ることができる。また、目的のα−ヒドロキシカルボン酸を高い光学純度で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明においては、α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液中に強酸を添加して該水溶液のpHを1.0〜3.0に調整し、該水溶液からα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させる。
【0008】
本発明に用いられるα−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液は、α−ヒドロキシカルボン酸のアルカリ塩を含み、α−ヒドロキシカルボン酸由来の二量体を実質的に含まない水溶液である。上記アルカリ塩の水溶液は、例えば、α−ヒドロキシニトリルの酸加水分解によって生成したα−ヒドロキシカルボン酸、その二量体および無機塩を含む水溶液中にアルカリを添加し、二量体を消失させることによって得られる。ここで、「実質的に含まない」とは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により検出されるα−ヒドロキシカルボン酸二量体の含有率が、α−ヒドロキシカルボン酸およびその二量体の合計面積に対し、0.5面積%以下であることをいう。さらにこの含有率は0.2面積%以下であることが好ましく、0.1面積%以下であることがより好ましく、0.02面積%以下とすることが最も好ましい。
【0009】
本発明において、α−ヒドロキシカルボン酸は、カルボン酸のα位にヒドロキシル基を有する化合物であれば特に限定されない。例えば、マンデル酸(2−ヒドロキシ−2−フェニル酢酸)、3−フェノキシマンデル酸(2−ヒドロキシ−2−(3−フェノキシフェニル)酢酸)、4−メチルマンデル酸(2−ヒドロキシ−2−(p−トリル)酢酸)、2−クロロマンデル酸(2−(2−クロロフェニル)−2−ヒドロキシ酢酸)、3−クロロマンデル酸(2−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシ酢酸)、4−クロロマンデル酸(2−(4−クロロフェニル)−2−ヒドロキシ酢酸)、3−ニトロマンデル酸(2−ヒドロキシ−2−(3−ニトロフェニル)酢酸)、3,4−メチレンジオキシマンデル酸(2−ヒドロキシ−2−(3,4−メチレンジオキシフェニル)酢酸)、2,3−メチレンジオキシマンデル酸(2−ヒドロキシ−2−(2,3−メチレンジオキシフェニル)酢酸)、2−(2−フリル)−2−ヒドロキシ酢酸、2−(2−ピリジル)−2−ヒドロキシ酢酸、2−アリール−2−ヒドロキシ酢酸などが挙げられる。好ましくは、マンデル酸、2−クロロマンデル酸、3−クロロマンデル酸、4−クロロマンデル酸、2−(2−ピリジル)−2−ヒドロキシ酢酸などが挙げられる。なお、これらα−ヒドロキシカルボン酸はラセミ体でも光学活性体でも良い。α−ヒドロキシカルボン酸は、対応するα−ヒドロキシニトリルを酸加水分解することによって得ることができる。
【0010】
α−ヒドロキシカルボン酸は、ヒドロキシル基とカルボキシル基を持つため、α−ヒドロキシカルボン酸の水溶液がpH1.0以下の酸性条件下または60℃以上の高温に長時間さらされた場合、分子間でエステル結合を形成してα−ヒドロキシカルボン酸二分子からなる二量体を一部形成する傾向がある。本発明においては、二量体を実質的に含まないα−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液から、二量体の副生を抑制しながらα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させるため、高い化学純度および光学純度のαーヒドロキシカルボン酸を高収率で得ることができる。なお、α−ヒドロキシカルボン酸の二量体の含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの通常の分析方法により測定することができる。
【0011】
なお、α−ヒドロキシニトリルの加水分解溶液をそのまま用い、該溶液にアルカリを添加してα−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液を製造する場合、上記水溶液中には、α−ヒドロキシニトリルの酸加水分解反応により副生するアンモニアと酸加水分解で使用した酸との塩である無機塩が含まれる。無機塩を含有すると、水溶液中の塩濃度が上昇するためα−ヒドロキシカルボン酸の溶解度が低下し、より高収率でα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させることができるので好ましい。本発明に用いられる無機塩は、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウムなどである。
【0012】
本発明において、使用されるアルカリは、α−ヒドロキシカルボン酸の二量体を分解し、α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩を生成するものであれば特に制限されない。アルカリは、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどであり、好ましくは水酸化ナトリウムである。
アルカリの使用量は、α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩水溶液のpHで制御することが望ましく、該水溶液のpHを5.0〜12.0の範囲に維持することが好ましい。該水溶液のpHがこの範囲内であると、上記二量体を短時間に消失させることができ、工業的に有利である。
【0013】
本発明においては、上記α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液中に強酸を添加して該水溶液のpHを1.0〜3.0に調整する。該水溶液のpHを上記範囲に調整することにより、α−ヒドロキシカルボン酸を高収率で取得可能な上に、α−ヒドロキシカルボン酸の二量体の再生成が極力抑制される。更に、得られるα−ヒドロキシカルボン酸結晶の着色を抑制することができる。該水溶液のpHは、好ましくは1.5〜2.5である。
【0014】
本発明に用いられる強酸は、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、過塩素酸、などであり、好ましくは硫酸である。強酸の使用量は、上記水溶液中のpHで制御される。
【0015】
本発明において、強酸を添加する際は、α−ヒドロキシカルボン酸が水溶液中に完全に溶解するように水溶液を適宜加温しながら行ってもよい。例えば、反応系内の温度は40〜80℃であることが好ましく、50〜70℃であることがより好ましく、55〜65℃であることが更に好ましい。強酸は、反応系内の温度が一定範囲内に維持されるように、攪拌しながら、徐々に滴下することが好ましい。
【0016】
なお、強酸添加後のα−ヒドロキシカルボン酸水溶液は、α−ヒドロキシカルボン酸が完全に溶解した状態であることが好ましいが、必ずしも完全に溶解している必要はなく、一部結晶として析出していても良い。
【0017】
次に、得られたα−ヒドロキシカルボン酸水溶液からα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させる。本発明において、α−ヒドロキシカルボン酸の晶析方法は、特に限定されないが、例えば、冷却晶析、濃縮晶析または塩析効果を利用した晶析方法などが挙げられる。本発明においては、公知の晶析方法を適宜設計変更することによって用いることができる。これらの中でも、工業的生産を考えた場合、冷却晶析が好ましい。
【0018】
冷却晶析を用いる場合は、強酸を添加した後、該水溶液の冷却操作を行い、α−ヒドロキシカルボン酸を結晶として析出させる。α−ヒドロキシカルボン酸の二量体の再生成を防ぐ点から冷却速度は、0.5℃/時間以上とすることが好ましく、2.0℃/時間以上とすることがより好ましい。冷却速度の上限は特に制限されないが、通常は10℃/時間以下とすることが好ましく、実製造を考慮すると、5.0℃/時間以下とすることがより好ましい。冷却時間があまりに長時間にわたると不純物を析出することがあるので、冷却時間は、48時間以内であることが好ましく、36時間以内であることがより好ましく、24時間以内であることが更に好ましい。冷却操作は、一般に公知の冷却晶析装置などを用いて行うことができる。
【0019】
α−ヒドロキシカルボン酸水溶液中の結晶を完全に析出させるため、好ましくは、該水溶液を飽和溶液となる温度以下まで冷却した後に固液分離を行う。例えば、α−ヒドロキシカルボン酸が(S)−マンデル酸の場合、その水溶液の飽和温度は、濃度10質量%で25℃であり、また濃度13質量%で30℃である。結晶は通常、冷却晶析後に固液分離し、採取される。
【0020】
本発明において、強酸添加後のα−ヒドロキシカルボン酸水溶液は、α−ヒドロキシカルボン酸濃度を1〜30質量%の範囲に維持することが好ましい。この範囲内とすることにより、α−ヒドロキシカルボン酸の二量体の再生成が抑制され、かつ、生産性が向上する。この濃度は15〜30質量%の範囲とすることがより好ましい。該水溶液の濃度は、強酸添加後、晶析前に水を適量加えるなどによって調整することができる。例えば、冷却晶析によりα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させる場合には、強酸添加後、冷却前に水を適量加えることなどによって該水溶液の濃度を調製することができる。
【0021】
α−ヒドロキシカルボン酸の固液分離の方法は、特に制限されないが、加圧ろ過、自然ろ過、加熱ろ過、または遠心分離による方法などが挙げられる。固液分離操作は、不活性ガス雰囲気下または大気中で行うことができる。着色を防止する点から不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましく、窒素雰囲気下が特に好ましい。また、固液分離は、常圧下、加圧下、または減圧下のいずれの条件でも行うことができる。
【0022】
該水溶液から固液分離して得られたα−ヒドロキシカルボン酸の結晶は、必要に応じて溶媒などで洗浄しても良い。洗浄する場合は、α−ヒドロキシカルボン酸の結晶を1〜5回洗浄し、同様の固液分離操作を繰り返し行うこともできる。
【0023】
洗浄に用いる溶媒は、α−ヒドロキシカルボン酸に不活性な溶媒であれば特に制限されず、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフランなどがある。これらの溶媒は単一で用いても組み合わせて用いても良い。最も好ましいのは水である。
【0024】
以上のようにして、α−ヒドロキシカルボン酸を得ることができる。
本発明によれば、簡便な方法でα−ヒドロキシカルボン酸の二量体の副生を抑制しながら目的のα−ヒドロキシカルボン酸を高い化学純度および高い収率で得ることができる。また、本発明によれば、目的のα−ヒドロキシカルボン酸を高い光学純度で得ることができる。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、飽和溶液となったα−ヒドロキシカルボン酸水溶液中に副生により存在するα−ヒドロキシカルボン酸の二量体の含有割合は、後述するHPLCの測定において、α−ヒドロキシカルボン酸とその二量体の面積合計を100面積%とした場合、2面積%以下、より好ましくは1面積%以下、更に好ましくは0.5%以下にまで減少させることができる。
【0026】
また、本発明の好ましい態様によれば、該水溶液から固液分離して得られたα-ヒドロキシカルボン酸の結晶中に存在するα-ヒドロキシカルボン酸の二量体含有割合は、後述するHPLCの測定において、α−ヒドロキシカルボン酸とその二量体の面積合計を100面積%とした場合、1面積%以下、0.5面積%以下にまで減少させることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳しく説明する。なお、マンデル酸の化学純度、マンデル酸の二量体含有割合、および光学純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、下記の分析条件(表1、2)により測定した。
【0028】
<マンデル酸の化学純度およびマンデル酸の二量体含有割合の分析条件>
【表1】

【0029】
<マンデル酸の光学純度の分析条件>
【表2】

【0030】
(S)−マンデル酸の化学純度は、市販の試薬を標準物質として、HPLCの定量値(検量線法)より算出した。固液分離後の(S)−マンデル酸の回収率は、下記計算式(1)により算出した。
回収率(質量%)=結晶中のマンデル酸/(結晶中のマンデル酸+母液中のマンデル酸)×100 (1)
【0031】
(S)−マンデル酸二量体の含有割合は、HPLC分析より得られた吸収ピークの面積百分率よりマンデル酸とその二量体の面積値を合わせた値を100面積%として、下記計算式(2)により算出した。
マンデル酸二量体(%)=マンデル酸二量体面積値/(マンデル酸二量体面積値+マンデル酸面積値)×100 (2)
【0032】
光学純度はエナンチオマー過剰率(%ee)で示した。(S)−マンデル酸の光学純度は、HPLC分析より得られた吸収ピークのS体およびR体の面積値より、下記計算式(3)により算出した。
S体光学純度(%ee)=(S体面積値−R体面積値)/(S体面積値+R体面積値)×100 (3)
【0033】
[調製例1] マンデル酸アルカリ塩水溶液の調製
温度センサーおよびコンデンサーを備えた1000mL容フラスコに、マンデル酸、その二量体、および、無機塩として塩酸、塩化アンモニウムを含む(S)−マンデル酸水溶液(マンデル酸濃度31.2質量%)663.4gに、48%水酸化ナトリウム水溶液209.8gを系内の温度を75〜80℃に維持したまま2時間かけて攪拌しながら連続的に滴下した。添加終了後の系内のpHは7.8であった。この状態を5時間保持した後、HPLC分析によりマンデル酸の二量体が消失したことを確認した。このときの(S)−マンデル酸の化学純度および光学純度は、それぞれ23.7質量%、98.8%eeであった。
【0034】
[実施例1] (S)−マンデル酸結晶の製造
温度センサーおよびコンデンサーを備えた500mL容フラスコに、調製例1で得られた23.7質量%の(S)−マンデル酸アルカリ塩水溶液(pH7.8)300gを秤り取った。系内の温度を60℃に保持した。98%硫酸水溶液77.0gを系内の温度が60〜62℃になるように維持したまま、1時間かけて攪拌しながら連続的に滴下した。添加終了後の系内のpHは1.8であった。
(S)−マンデル酸が完全に溶解していることを確認した後、60℃からゆっくりと温度を下げ、2時間後に(S)−マンデル酸水溶液から(S)−マンデル酸の結晶を析出させた。このときのフラスコ内部温度は53℃であった。系内の温度を54℃にし、2時間保持した。保持後、系内の(S)−マンデル酸を結晶として完全に析出させるため、冷却速度10℃/時間で飽和温度である30℃まで冷却し、30℃到達後1時間攪拌し冷却晶析した。
冷却晶析終了後、固液分離前に系内を均一にサンプリングし、HPLC分析により(S)−マンデル酸水溶液中に存在する(S)−マンデル酸の二量体含有割合を算出した。(S)−マンデル酸の二量体含有割合は0.19面積%であった。固液分離は桐山ロートを用いて減圧ろ過を行った。大気中で、固液分離を行い、湿粉の(S)−マンデル酸の結晶および分離ろ液を取得した。(S)−マンデル酸結晶の回収率は92.8質量%、光学純度は99.9%ee以上であり、(S)−マンデル酸結晶中に存在する二量体含有割合は0.03面積%であった。
【0035】
[実施例2]
98%硫酸水溶液の添加量を71.1g、硫酸添加中の系内の温度を58〜60℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行い、(S)−マンデル酸結晶を得た。硫酸添加後の系内のpHは2.3であった。固液分離前の(S)−マンデル酸水溶液中に存在する二量体含有割合、固液分離後の(S)−マンデル酸の回収率および(S)−マンデル酸結晶中に存在する二量体含有割合を測定し、その結果を表1に示した。尚、(S)−マンデル酸の光学純度は99.9%ee以上であった。
【0036】
[実施例3]
98%硫酸水溶液の添加量を80.5g、硫酸添加中の系内の温度を62〜64℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行い、(S)−マンデル酸結晶を得た。硫酸添加後の系内のpHは1.5であった。固液分離前の(S)−マンデル酸水溶液中に存在する二量体含有割合、固液分離後の(S)−マンデル酸の回収率および(S)−マンデル酸結晶中に存在する二量体含有割合を測定し、その結果を表1に示した。尚、(S)−マンデル酸の光学純度は99.9%ee以上であった。
【0037】
[実施例4]
98%硫酸水溶液の添加量を83.8g、硫酸添加中の系内の温度を64〜66℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行い、(S)−マンデル酸結晶を得た。硫酸添加後の系内のpHは1.0であった。固液分離前の(S)−マンデル酸水溶液中に存在する二量体含有割合、固液分離後の(S)−マンデル酸の回収率および(S)−マンデル酸結晶中に存在する二量体含有割合を測定し、その結果を表1に示した。尚、(S)−マンデル酸の光学純度は99.9%ee以上であった。
【0038】
[実施例5]
98%硫酸水溶液の添加量を69.5g、硫酸添加中の系内の温度を58〜60℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行い、(S)−マンデル酸結晶を得た。硫酸添加後の系内のpHは2.8であった。固液分離前の(S)−マンデル酸水溶液中に存在する二量体含有割合、固液分離後の(S)−マンデル酸の回収率および(S)−マンデル酸結晶中に存在する二量体含有割合を測定し、その結果を表1に示した。尚、(S)−マンデル酸の光学純度は99.9%ee以上であった。
【0039】
[実施例6]
(S)−マンデル酸結晶の析出に当たり、系内の温度を54℃にし、2時間保持した後、飽和温度以上である40℃まで冷却した以外は、実施例1と同様の操作を行い、(S)−マンデル酸結晶を得た。硫酸添加後の系内のpHは1.8であった。固液分離前の(S)−マンデル酸水溶液中に存在する二量体含有割合、固液分離後の(S)−マンデル酸の回収率および(S)−マンデル酸結晶中に存在する二量体含有割合を測定し、その結果を表1に示した。尚、(S)−マンデル酸の光学純度は99.9%ee以上であった。
【0040】
[比較例1]
98%硫酸水溶液の添加量を68.2g、硫酸添加中の系内の温度を58〜60℃にし、実施例1と同様の操作を行った。しかし、硫酸を全量添加した後に、(S)−マンデル酸が完全に溶解せず、晶析を行うことができなかった。硫酸を添加した後のpHは3.5であった。
【0041】
[比較例2]
98%硫酸水溶液の添加量を65.0g、硫酸添加中の系内の温度を58〜60℃にし、実施例1と同様の操作を行った。しかし、硫酸を全量添加した後に、(S)−マンデル酸が完全に溶解せず、晶析を行うことができなかった。硫酸を添加した後のpHは4.2であった。
【表3】

【0042】
表1に示したとおり、α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液中に強酸を添加した後のpHを1.0〜3.0に調整することにより、α−ヒドロキシカルボン酸の二量体の生成を抑制し、高い化学純度および高い収率で目的のα−ヒドロキシカルボン酸を得ることができた。さらに、強酸添加時のpHを1.5〜2.5の範囲に調整することにより、より高い化学純度および高い収率で目的のα−ヒドロキシカルボン酸が得られた(実施例1〜4参照)。得られたα−ヒドロキシカルボン酸の光学純度はいずれも99.9%ee以上であった。
また、晶析温度などの晶析条件も目的化合物の化学純度および収率に影響し、目的化合物の化学純度が低下する傾向にあることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、簡便な方法でα−ヒドロキシカルボン酸を高い化学純度および高い収率で得ることができる。また、本発明によれば、高い光学純度で目的のα−ヒドロキシカルボン酸を得ることができる。得られたα−ヒドロキシカルボン酸は、医農薬の原料、液晶材料、および光学分割剤などとして幅広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液中に強酸を添加して該水溶液のpHを1.0〜3.0に調整し、該水溶液からα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させることを特徴とするα−ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
該水溶液を飽和溶液となる温度以下まで冷却して該水溶液からα−ヒドロキシカルボン酸を晶析させることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
強酸を添加する際の反応系内の温度が40〜80℃である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
α−ヒドロキシカルボン酸の晶析後に飽和溶液となったα−ヒドロキシカルボン酸水溶液中に存在するα−ヒドロキシカルボン酸由来の二量体含有割合が、α−ヒドロキシカルボン酸およびその二量体の合計面積に対し、2面積%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
α−ヒドロキシカルボン酸の晶析後に固液分離して得られたα−ヒドロキシカルボン酸結晶中に存在するα−ヒドロキシカルボン酸由来の二量体含有割合が、α−ヒドロキシカルボン酸およびその二量体の合計面積に対し、1面積%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液中に強酸を添加して該水溶液のpHを1.0〜3.0に調整し、該水溶液を飽和溶液となる温度以下まで冷却し固液分離することを特徴とするα−ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩が、α−ヒドロキシカルボン酸、その二量体および無機塩を含む水溶液中にアルカリを添加してα−ヒドロキシカルボン酸の二量体を消失させたものである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
α−ヒドロキシカルボン酸アルカリ塩の水溶液のpHが5.0〜12.0である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2008−44856(P2008−44856A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219276(P2006−219276)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】