説明

α−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの製造法

【課題】工業的に好適なα-メチル−1,3−ベンゼンジオキソール-5-プロパナールの製造法を提供することである。
【解決手段】次の工程を備える製造法。
(1)元素周期表11〜13属元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物、ハロゲン化ホウ素からなる群から選ばれる1種以上の触媒の存在下、メタクロレインと炭素数1〜10のカルボン酸無水物を反応させる第1工程。
(2)第1工程で得られた3,3-ジアルキルカルボニルオキシ-2-メチル-プロペンと1,2-メチレンジオキシベンゼンを第1工程と同じ触媒の存在下で反応させる第2工程。
(3)第2工程の反応液を水洗し、触媒を除去する第3工程。
(4)第3工程を経て得られた1-アルキルカルボニルオキシ-2-メチル-3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)プロペンとアルコールを塩基の存在下で反応させα-メチル-1,3-ベンゼンジオキソール-5-プロパナールを製造する第4工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は香料として有用なα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの製造法としては、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び非特許文献1にサフロールやイソサフロールのヒドロホルミル化による製造法が記載されているが、一酸化炭素を用いる点で安全性の問題があり、収率も30%程度と充分ではなかった。また、分離困難な異性体が生成する事も問題であった。
【0003】
非特許文献2には、4−ブロモ−1,2−メチレンジオキシベンゼンとβ−メチルアリルアルコールを原料としたヘック反応による製造法が記載されているが、収率は50%程度と充分ではなかった。
【0004】
特許文献4には、ピペロニリデンプロパナールの還元による製造法が記載されているが、目的のα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールが更に還元されたアルコール体が生じ、精製において、その分離は困難であった。また、同製造法で用いられるピペロニリデンプロパナールは、非特許文献3及び特許文献5ではヘリオトロピンとプロパナ−ルとの縮合により、特許文献6ではビルスマイヤー反応によりイソサフロールから製造されることが知られているが、前者は選択性、収率共に低く(収率30〜50%程度)、後者は多量の燐廃棄物が副産するなどの問題があった。
【0005】
特許文献7には、α−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールに誘導することができる1−アセトキシ−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンの製造方法が記載されているが、メタクロレインからα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールへの工業的な製造法については記載されていない。
【特許文献1】特開昭53−137963号公報
【特許文献2】特開昭54−9271号公報
【特許文献3】独国特許発明第2235466号明細書
【特許文献4】特公昭48−1380号公報
【特許文献5】米国特許第2102965号明細書
【特許文献6】特開平10−120674
【特許文献7】国際公開第04/054997号パンフレット
【非特許文献1】C1 Mol.Chem.,1985,p.213
【非特許文献2】Journal of Organic Chemistry.,1976,41,p.1206
【非特許文献3】Am.Perfumer.,1930,p.617
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
香料として有用なα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールを、廃棄物の少ない環境に優しい方法によって、簡便且つ収率良く得る、工業的に好適な製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、香料として有用なα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの環境に優しく、簡便且つ収率の良い工業的な製造法を見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、次の各工程を備えるα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの製造法に関する。
(1)元素周期表11〜13族元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物、ハロゲン化ホウ素からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む触媒の存在下で、メタクロレインと炭素数1〜10のカルボン酸無水物とを反応させて3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンを合成する第1工程。
(2)次に、第1工程で得られた3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンと1,2−メチレンジオキシベンゼンとを第1工程と同じ触媒の存在下で反応させて1−アルキルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンを合成する第2工程。
(3)第2工程の反応液を水洗し、触媒を除去する第3工程。
(4)第3工程を経て得られた1−アルキルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンとアルコールとを塩基の存在下で反応させてα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールを製造する第4工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、香料として有用なα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの簡便で収率が良いのみならず、廃棄物の少ない環境に優しい工業的な製造法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明によれば、下記(1)〜(4)の工程を備えるα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの製造法により、廃棄物を抑え、簡便且つ収率良くα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールを製造できる。
(1)元素周期表11〜13族元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物、ハロゲン化ホウ素からなる群から選ばれた少なくとも1種を含む化合物を含む触媒の存在下で、メタクロレインと炭素数1〜10のカルボン酸無水物とを反応させて3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンを合成する第1工程。
(2)次に、第1工程で得られた3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンと1,2−メチレンジオキシベンゼンとを第1工程と同じ触媒の存在下で反応させて1−アルキルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンを合成する第2工程。
(3)第2工程の反応液を水洗し、触媒を除去する第3工程。
(4)第3工程を経て得られた1−アルキルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンとアルコールとを塩基の存在下で反応させてα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールを製造する第4工程。
【0010】
第1工程において使用するメタクロレインは、市販のものを用いることも出来るが、例えば、pH値2〜5に調整した第2級アミン鉱酸塩の水溶液存在下、パラホルムアルデヒドとプロピオンアルデヒドを反応させて製造することもできる。
【0011】
ここで第2級アミン鉱酸塩としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、メチルエチルアミン、メチル−n−ブチルアミン、ジフェニルアミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、ピラゾリジン、ピロリジン、ピラゾール、インドール等の第2級アミンの、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸の塩が挙げられるが、好ましくは、モルホリンの塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸の塩である。
【0012】
パラホルムアルデヒドの重合度は特に規定はなく、トリオキサンなどが使用できる。また、これらは市販のものを使用することができる。
【0013】
上記メタクロレインの合成方法としては、例えば、以下の工程を備える合成方法によって行うこともできる。
(A)鉱酸と第2級アミンによりpH値2〜5に調整した第2級アミンの鉱酸塩の水溶液とパラホルムアルデヒドとを混合した後、加熱して完全溶解させるA工程、
(B)A工程で得られた混合液に、第2級アミンの鉱酸塩に対して1〜100倍モルのプロピオンアルデヒドを加えて還流して、メタクロレインを生成させるB工程、
(C)B工程で生成したメタクロレインを反応液中の水と共沸蒸留して単離精製するC工程、
(D)C工程の共沸蒸留後、蒸留残留液を第2級アミンの鉱酸塩の水溶液として再度A工程に供するD工程。
【0014】
A工程の加熱は、70〜100℃であり、攪拌時間は、5分〜10時間が好ましく、更には10分〜5時間が好ましい。
【0015】
B工程の、プロピオンアルデヒドの添加は、一度に添加することもできるが、分割して添加するか、連続的に反応液に滴下するのが好ましい。ここで滴下は、20〜40ml/分である。また、還流時間は、1〜10時間である。
【0016】
C工程の共沸蒸留は、共沸温度、55〜120℃にて行うことができるが、好ましくは69〜100℃である。
【0017】
この共沸蒸留で得られたメタクロレインと水の混合液を、分液等の通常の方法で分離することでメタクロレインが得られる。
【0018】
D工程において、C工程の共沸蒸留後の蒸留残留液のpH値が2〜5を逸脱する場合は反応に使用する鉱酸あるいは塩基でpH値を2〜5に調整して、これを第2級アミンの鉱酸塩の水溶液として再度A工程に供することが好ましい。
【0019】
第1工程で用いられる触媒としては、元素周期表11〜13族元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物、ハロゲン化ホウ素からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む触媒が用いられる。
ここで元素の族の名称は、18族元素周期表、IUPAC無機化合物命名法、1990
年に基づく。
【0020】
周期表11族元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物としては、銅、銀及び金の
トリフラート化合物及びハロゲン化合物が挙げられるが、銅、銀及び金のトリフラート化
合物が好ましく、更に銅トリフラート化合物が好ましい。
ここで、「トリフラート」はトリフルオロメタンスルホネートを意味する。
【0021】
周期表12族元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物としては、亜鉛のハロゲン
化物(弗化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛)、カドミウムのハロゲン化物(弗化カ
ドミウム、塩化カドミウム、臭化カドミウム、沃化カドミウム)、水銀のハロゲン化物(
弗化水銀、塩化水銀、臭化水銀、沃化水銀)等が挙げられる。この内、亜鉛のハロゲン化
物が好ましく、塩化亜鉛が更に好ましい。
【0022】
周期表13族元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物としては、ホウ素のトリフ
ラート化合物及びハロゲン化合物が挙げられるが、ホウ素のハロゲン化合物が好ましい。
ホウ素のハロゲン化合物としては、フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯
体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯塩、三フッ化ホウ素
二水和物、三フッ化ホウ素n−ブチルエーテル錯体などが挙げられるが、好ましくは三フ
ッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯塩である。これら化合物は市販
の物を使用することが出来る。
【0023】
スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物としては、スズト
リフラート、スズのハロゲン化物(弗化スズ、塩化スズ、臭化スズ、沃化スズ)、セリウ
ムのハロゲン化物(弗化セリウム、塩化セリウム、臭化セリウム、沃化セリウム)、セリ
ウムトリフラート、ジスプロシウムのハロゲン化物(弗化ジスプロシウム、塩化ジスプロ
シウム、臭化ジスプロシウム、沃化ジスプロシウム)、ジスプロシウムトリフラート、ホ
ルミウムのハロゲン化物(弗化ホルミウム、塩化ホルミウム、臭化ホルミウム、沃化ホル
ミウム)、ホルミウムトリフラート、エルビウムのハロゲン化物(弗化エルビウム、塩化
エルビウム、臭化エルビウム、沃化エルビウム)、エルビウムトリフラート、ツリウムの
ハロゲン化物(弗化ツリウム、塩化ツリウム、臭化ツリウム、沃化ツリウム)、ツリウム
トリフラート、イッテルビウムのハロゲン化物(弗化イッテルビウム、塩化イッテルビウ
ム、臭化イッテルビウム、沃化イッテルビウム)、イッテルビウムトリフラート、ルテチ
ウムのハロゲン化物(弗化ルテチウム、塩化ルテチウム、臭化ルテチウム、沃化ルテチウ
ム)、ルテチウムトリフラート等が挙げられる。又はこれら化合物は、その水和物を包含
する。
これらの化合物の中では、塩化スズ、スズトリフラート、セリウムトリフラート、エル
ビウムトリフラート、又はイッテルビウムトリフラートが好ましい。
【0024】
前記触媒の使用量は、メタクロレイン1モルに対して1モル以下であり、好ましくは0.005〜0.5モルである。この範囲より使用量が少ないと反応が24時間では完結せず、多いと過剰量の触媒を分解・廃棄するなど煩雑な操作が必要であり工業的なスケールには適さない。
【0025】
炭素数1〜10のカルボン酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水絡酸等が挙げられるが、好ましくは無水酢酸である。
【0026】
炭素数1〜10のカルボン酸無水物の使用量は、メタクロレイン1モルに対して、1〜10モル、好ましくは1〜5モルである。
【0027】
本工程の3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンの合成反応は、無溶媒で行われる。
【0028】
反応温度は、原料物質の種類等によって異なるが、−10〜80℃であり
、好ましくは0〜50℃である。
反応時間は、前記の触媒、カルボン酸無水物等の使用量や、温度によって変化するが、0.5〜24時間である。
【0029】
この工程は、通常、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気、或はこれらガス気流下で行われる。また、用いられる反応圧は通常、常圧である。
【0030】
第1工程で合成された3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンは、蒸留などの方法によって単離、精製して次工程に用いる事ができるが、精製する事無く、次工程に用いる事もできる。
【0031】
第2工程の1,2−メチレンジオキシベンゼンは、市販のものを使用することが出来る。
【0032】
メチレンジオキシベンゼンの使用量は、3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペン1モルに対して1〜50モルであり、好ましくは1〜20モルである。
【0033】
触媒としては、第1工程で使用されるものと同じ触媒を使用することが出来る。
【0034】
触媒の使用量は、3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペン1モルに対して1モル以下であり、好ましくは0.01〜0.5モルである。これより使用量が少ないと反応が24時間では完結せず、多いと過剰量のハロゲン化ホウ素等の触媒を分解・廃棄するなど煩雑な操作が必要であり工業的なスケールでは適さない。
【0035】
第2工程の1−アルキルカルボニルオキシ−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンの合成反応は、無溶媒で行われる。
【0036】
反応温度は、原料物質の種類によって異なるが、−10〜80℃であり、好ましくは0〜50℃である。
【0037】
反応時間は、前記の触媒や1,2−メチレンジオキシベンゼンの使用量等や、温度によって変化するが0.5〜24時間である。
【0038】
この工程は、通常、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気、或はこれらガス気流下で行われる。また、用いられる反応圧は通常、常圧である。
【0039】
1−アルキルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンを合成する際には、3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンに対して1,2−メチレンジオキシベンゼンを過剰に使用した場合、未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンを蒸留して回収し、再度第2工程の1,2−メチレンジオキシベンゼンとして使用することができる。
【0040】
第3工程の水洗は、第2工程で得られた反応液中に存在する、第1工程及び第2工程で使用した全触媒量の1モルに対して水0.1〜50Lが好ましく、更には、2〜20Lが好ましい。洗浄回数ならびに洗浄時間は適宜選択される。
水洗後、1−アルキルカルボニルオキシ−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンを含有する反応液は、工業的に生産性の低いクロマトグラフィーによる精製手段は必要ではなく、蒸留、或いは再結晶の手段により1−アルキルカルボニルオキシ−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンを適宣精製することができるが、単離、精製することなく次工程に用いることも出来る。
【0041】
この工程は、通常、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気、或はこれらガス気流下で行われる。また、用いられる反応圧は通常、常圧である。
【0042】
第4工程で用いられるアルコールとしては、炭素数1から8の直鎖状の低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、炭素数2から8の直鎖状の2価低級脂肪族アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール等)等が用いられる。好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールであり、更にはメタノール、エタノール、エチレングリコールが好ましい。またこれらのアルコールは混合物としても使用することができる。
【0043】
アルコールの使用量は、1−アルキルカルボニルオキシ−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペン1モルに対して、1モル〜30モル、好ましくは3〜14モルである。
溶媒の使用量が、この範囲より低いと反応が進行しにくくなり収率が低下する。また、これより高いと生産性が低下する。
【0044】
塩基としては、アルカリ金属の炭酸塩又はアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸カルシウム等)、アルカリ金属の炭酸水素化物(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等)、アルカリ金属の水素化物(水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド等)、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ金属のアルコキシド、更に好ましくはアルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属のアルコキシドが使用される。アルカリ金属の炭酸塩の中では炭酸カリウムが最も好ましく、アルカリ金属のアルコキシドの中ではナトリウムメトキシドが最も好ましい。なお、これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0045】
前記塩基の使用量は、1−アルキルカルボニルオキシ−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンに1モル対して、好ましくは0.001〜1モル、更に好ましくは0.001〜0.2モルである。
【0046】
塩基として、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩を使用する場合、その水溶液として使用することもできる。また、アルカリ金属のアルコキシドを使用する場合は、アルコール溶液として使用することもできる。これら溶液の濃度としては、2〜50重量パーセントが好ましい。
【0047】
本工程は無溶媒で行われる。
【0048】
反応温度は、0〜65℃であり、好ましくは15〜40℃である。
【0049】
反応時間は、アルコールや塩基の使用量、反応温度によって変化するが、0.5〜24時間である。 反応時間が長くなると生成物であるα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの分解が進行し、収率が低下する。反応時間が短い場合は反応が完結しない。
【0050】
この工程は、大気中で行っても良いが、通常、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気、或いはこれらガス気流下で行われる。また、用いられる反応圧は通常、常圧である。
【0051】
第4工程で使用したアルコールは、蒸留して回収し、再度第4工程のアルコールとして使用することができる。
【0052】
合成されたα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールは、工業的に生産性の低いクロマトグラフィーによる精製手段は必要ではなく、反応終了後、中和し、抽出、濃縮等の通常の後処理を行ない、必要に応じて蒸留或いは再結晶により適宜精製することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例を示す。
【0054】
実施例1
窒素気流下、20Lのセパラブルフラスコに無水酢酸2039.2g(20.0モル)を加え、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体3.0g(0.02モル)を加えた。内温4〜5℃でメタクロレイン1000.0g(14.3モル)を40分間かけて滴下し、内温4〜5℃で2時間攪拌した。ガスクロマトグラフィーで定量を行うと、3,3−ジアセトキシ−2−メチル−プロペンの収量は2264.0g(収率はメタクロレイン基準で92.1%)であった。引き続き反応溶液に1,2−メチレンジオキシベンゼン8711.7g(71.3モル)を加え、内温38℃で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体60.7g(0.4モル)を加えた。40℃で3時間攪拌した後、反応液を高速液体クロマトグラフィーで定量すると1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンの収量は2797.6g(収率はメタクロレイン基準で83.7%)であった。反応液を2200mLの水で2回洗浄し、有機層から減圧下で1,2−メチレンジオキシベンゼン7160gを回収した。釜残にメタノール5485.5g(171.2モル)を加え、25℃で炭酸カリウム78.9g(0.6モル)を加え1時間攪拌した。次いで、酢酸85.7g(1.4モル)を加え15分攪拌した後、メタノールを留去した。有機層を2200mLの水で水洗し、減圧下で蒸留し、α−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナール2191.6gを得た。α−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの収率はメタクロレイン基準で80.0%であった。
【0055】
実施例2
窒素気流下、20Lのセパラブルフラスコに無水酢酸2039.2g(20.0モル)を加え、塩化亜鉛29.2g(0.2モル)を加えた。内温4℃でメタクロレイン1095.3g(14.3モル)を1時間かけて滴下し、内温4℃で2時間30分攪拌した。ガスクロマトグラフィーで定量を行うと、3,3−ジアセトキシ−2−メチル−プロペンの収量は2385.0g(収率はメタクロレイン基準で97.1%)であった。引き続き反応溶液に1,2−メチレンジオキシベンゼン8711.7g(71.3モル)を加え、内温18℃で塩化亜鉛194.5g(1.4モル)を加えた。30分かけて反応液を昇温し内温40℃で2時間30分攪拌した。反応液を高速液体クロマトグラフィーで定量すると1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンの収量は2731.0g(収率はメタクロレイン基準で81.6%)であった。反応液を水2200mLで3回洗浄し、有機層から減圧下で1,2−メチレンジオキシベンゼン5505.0g(45.1モル)を留去した。釜残にメタノール(5485.5g,171.21mol)を加え、内温0℃に冷却した。炭酸カリウム39.4g(0.28モル)を加え内温0℃で1時間攪拌し、さらに炭酸カリウム19.7g(0.14モル)を加え内温0℃で1時間攪拌した。次いで、酢酸77.1g(1.28モル)を加え15分攪拌した後、メタノールを留去した。有機層を水2200mLで2回水洗し、減圧下で蒸留し、α−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナール2208.0g、1,2−メチレンジオキシベンゼン1406.0gを得た。α−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの収率はメタクロレイン基準で80.5%であった。
【0056】
実施例3
窒素気流下、20Lのセパラブルフラスコに無水酢酸1527.6g(15.0モル)を加え、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体2.7g(0.02モル)を加えた。内温4〜5℃でメタクロレイン919.0g(12.5モル)を40分間かけて滴下し、内温4〜5℃で2時間攪拌した。ガスクロマトグラフィーで定量を行うと、3,3−ジアセトキシ−2−メチル−プロペンの収量は2020.1g(収率はメタクロレイン基準で94.1%)であった。引き続き反応溶液に実施例1で回収取得した1,2−メチレンジオキシベンゼンを含む1,2−メチレンジオキシベンゼン7613.7g(62.4モル)を加え、内温38℃で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体53.1g(0.4モル)を加えた。40℃で3時間攪拌した後、反応液を高速液体クロマトグラフィーで定量すると1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンの収量は2517.9g(収率はメタクロレイン基準で86.2%)であった。反応液を1900mLの水で2回洗浄し、有機層から減圧下で1,2−メチレンジオキシベンゼン6040gを回収した。得られた釜残に実施例1で回収取得したメタノールを含むメタノール4794.2g(149.6モル)を加え、25℃で炭酸カリウム25.9g(0.2モル)を加え1時間30分攪拌した。次いで、酢酸28.1g(0.5モル)を加え15分攪拌した後、メタノールを留去した。有機層を1900mLの水で水洗し、減圧下で蒸留して、α−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナール1953.6gを得た。α−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの収率はメタクロレイン基準で81.5%であった。
【0057】
参考例1
200mLの四口フラスコに水49.08gを入れ、水冷下、内温15℃にて、98.5重量%硫酸15.0gを滴下した。次いで、99.0重量%モルホリン26.40gを滴下した。さらに、98.5重量%硫酸0.58gを追加しpH値を2.6に調整した。
これに92.0重量%パラホルムアルデヒド32.64gを加え、内温を80℃まで昇温した後、90分間加熱撹拌し、反応溶液を均一にした。内温を50℃まで降温し、98.0重量%プロピオンアルデヒド 59.27gを滴下した。加熱用のバス温を80℃に昇温し、2時間撹拌した後、受器にあらかじめハイドロキノン63.2mgを加えて常圧下で蒸留を行った。得られた受器中の二層の液を分液し、有機層68.37g、水層24.34gを得た。有機層をガスクロマトグラフィーで定量した結果、メタクロレイン収率96.2%、プロピオンアルデヒド転化率98.8%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の各工程を備えるα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの製造法。
(1)元素周期表11〜13族元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物、ハロゲン化ホウ素からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む触媒の存在下で、メタクロレインと炭素数1〜10のカルボン酸無水物とを反応させて3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンを合成する第1工程。
(2)次に、第1工程で得られた3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンと1,2−メチレンジオキシベンゼンとを第1工程と同じ触媒の存在下で反応させて1−アルキルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンを合成する第2工程。
(3)第2工程の反応液を水洗し、触媒を除去する第3工程。
(4)第3工程を経て得られた1−アルキルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンとアルコールとを塩基の存在下で反応させてα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールを製造する第4工程。
【請求項2】
第2工程で、3,3−ジアルキルカルボニルオキシ−2−メチル−プロペンに対して過剰に使用した未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンを回収し、再度第2工程の1,2−メチレンジオキシベンゼンとして使用することを特徴とする請求項1記載のα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの製造法。
【請求項3】
第3工程で使用したアルコールを回収し、再度第4工程のアルコールとして使用することを特徴とする請求項1又は2記載のα−メチル−1,3−ベンゼンジオキソール−5−プロパナールの製造法。

【公開番号】特開2007−126436(P2007−126436A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362557(P2005−362557)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】