説明

α−置換エステル類の製造方法

【課題】α−置換エステル類の実用的な製造方法を提供する。
【解決手段】α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを亜鉛触媒の存在下にグリニャール試薬と反応させることにより、α−置換エステル類を製造することができる。従来、原料基質として高価なトリフルオロメタンスルホン酸エステルに限られていた反応が、大量規模での生産にも適したフルオロ硫酸エステルでも良好に進行することを新たに見出した。また、光学純度の高い該フルオロ硫酸エステルを用いることにより、立体化学が反転したα−置換エステル類を高い光学純度で得ることができる。本発明は従来技術の問題点を全て解決し、工業的にも実施可能な製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体として重要なα−置換エステル類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−置換エステル類は、医農薬中間体として重要である。本発明に関連する製造技術として、光学活性α−ヒドロキシエステル類のトリフルオロメタンスルホン酸エステルを亜鉛触媒の存在下にグリニャール試薬と反応させることにより、光学活性α−置換エステル類を合成する方法が報告されている(非特許文献1)。また、アルコール類のフルオロ硫酸エステルと求核試薬の種々の置換反応が報告されている(特許文献1、非特許文献2)。
【特許文献1】スペイン国特許公報第2136028号
【非特許文献1】Angewandte Chemie International Edition(ドイツ)、2008年、第47巻、p.5451−5455
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society(米国)、1984年、第106巻、p.7496−7500
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、α−置換エステル類の実用的な製造方法を提供することにある。そのためには、従来技術の問題点を解決する必要がある。
【0004】
非特許文献1については、触媒として安価な塩化亜鉛を用いることができ、極低温等の厳しい反応条件を必要とせず、高い立体反転率で収率良く目的生成物を得ることができる。よって、小スケールの合成には簡便で実用的な方法である。しかしながら、原料基質であるトリフルオロメタンスルホン酸エステルの調製においては、非常に高価なトリフルオロメタンスルホン酸無水物[(CFSOO]を用いる必要があり、大量規模での生産には不向きである。また、原料基質の調製や置換反応を通して量論的に副生するトリフルオロメタンスルホン酸(CFSOH)や該塩は、難分解性のため廃棄物処理において問題がある。
【0005】
特許文献1および非特許文献2については、用いるフルオロ硫酸エステルと求核試薬の種類や組み合わせにより、異なるタイプの置換反応が起こることが知られている(スキーム1を参照)。炭素求核試薬との置換反応は殆ど知られておらず、本発明で対象とする、亜鉛触媒存在下でのα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルとグリニャール試薬の反応は一切報告されていない。本発明の目的生成物はα−置換エステル類であるが、所望のタイプAを経て反応が良好に進行するかは全く不明であった。さらに、光学活性な原料基質を用いた場合に、高い立体反転率で目的生成物が得られるかも不明であった。
【0006】
【化16】

【0007】
この様に、非特許文献1の様な実用的な方法でありながら、大量規模での生産にも適した(原料基質が安価に調製でき、廃棄物処理の問題もない)製造方法が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを亜鉛触媒の存在下にグリニャール試薬と反応させることにより、α−置換エステル類が製造できることを見出した。原料基質としては、α位の置換基がアルキル基または置換アルキル基のものが好ましく、メチル基のものが特に好ましい。また、エステル部位はアルキルエステルのものが好ましく、炭素数が1から6の低級アルキルエステルのものが特に好ましい。さらに、光学活性な原料基質が好ましく、(S)−乳酸エステル類から調製できるものが特に好ましく、反応を通して不斉炭素の立体化学は反転する。亜鉛触媒としては、配位子が塩素、アセテート(CHCO)またはトリフラート(CFSO)のものが好ましく、塩化亜鉛が特に好ましい。グリニャール試薬としては、求核部位がアルキル基または置換アルキル基のものが好ましく、アルキル基のものが特に好ましい。さらに、その中でも塩化マグネシウム反応剤が好ましい。
【0009】
非特許文献1の置換反応において、原料基質であるトリフルオロメタンスルホン酸エステルの代わりに、大量規模での生産にも適したフルオロ硫酸エステルが好適に利用できることを明らかにした。
【0010】
この様に、α−置換エステル類の製造方法として極めて有用な方法を見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明4]を含み、α−置換エステル類の実用的な製造方法を提供する。
【0012】
[発明1]
一般式[1]
【0013】
【化17】

【0014】
で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを、一般式[2]
【0015】
【化18】

【0016】
で示される亜鉛触媒の存在下に、一般式[3]
【0017】
【化19】

【0018】
で示されるグリニャール試薬と反応させることにより、一般式[4]
【0019】
【化20】

【0020】
で示されるα−置換エステル類を製造する方法。
[式中、Rは水素、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、Rはアルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。Rが水素以外の置換基の場合は、RとRの2つの置換基の炭素同士またはヘテロ原子を介する共有結合により環状構造を採ることもできる。Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アセテート(CHCO)またはトリフラート(CFSO)を表し、Xは塩素、臭素またはヨウ素を表す]
[発明2]
一般式[5]
【0021】
【化21】

【0022】
で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを、一般式[6]
【0023】
【化22】

【0024】
で示される亜鉛触媒の存在下に、一般式[7]
【0025】
【化23】

【0026】
で示されるグリニャール試薬と反応させることにより、一般式[8]
【0027】
【化24】

【0028】
で示される光学活性α−置換エステル類を製造する方法。
[式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。RとRの2つの置換基の炭素同士またはヘテロ原子を介する共有結合により環状構造を採ることもできる。Xは塩素、アセテート(CHCO)またはトリフラート(CFSO)を表す。*は不斉炭素を表し、反応を通して不斉炭素の立体化学は反転する]
[発明3]
一般式[9]
【0029】
【化25】

【0030】
で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを、式[10]
【0031】
【化26】

【0032】
で示される亜鉛触媒の存在下に、一般式[11]
【0033】
【化27】

【0034】
で示されるグリニャール試薬と反応させることにより、一般式[12]
【0035】
【化28】

【0036】
で示される光学活性α−置換エステル類を製造する方法。
[式中、Rは炭素数が1から6の低級アルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]
[発明4]
発明1〜3の何れかにおいて、該α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルが、それぞれ、式[1a]、[5a]又は[9a]で表されるアルコール類
【0037】
【化29】

【0038】
【化30】

【0039】
【化31】

【0040】
(式中、R、R、R、R、Rおよび*は前記式[1]、[5]、[9]と同じ意味である。)を、塩基と水の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることによって得たものである、発明1〜3の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0041】
本発明が従来技術に比べて有利な点を以下に述べる。
【0042】
本発明の原料基質であるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルは、特許文献1等を参考にして、フルオロ硫酸無水物[(FSOO]を用いて同様に製造することができる。しかしながら、大量規模での生産にも適した原料基質の安価な調製と言う観点を考慮すると、本発明者らが既に出願した「フルオロ硫酸エステル類の製造方法(特願2008−272020)(以下「先願」という。)」により、α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを調製することが好ましく、先願と本発明の組み合わせは極めて効果的である。
【0043】
先願は、本発明の出願時には未公開であるため簡単に説明する(詳細は「発明を実施するための最良の形態」および参考例1を参照)。該先願は、アルコール類を塩基と水の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより、フルオロ硫酸エステル類を製造する方法である。好ましくは、さらに水と混和しない反応溶媒の存在下に2相系で反応を行うことを特徴とする、上記のフルオロ硫酸エステル類の製造方法である。本先願で用いるスルフリルフルオリドは、燻蒸剤として広く利用されており、大量規模での入手が容易で安価な反応剤である。よって、本発明の原料基質であるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを安価に調製することができる。
【0044】
また、本発明においては、置換反応を通してフルオロ硫酸(FSOH)や該塩が量論的に副生するが、これらの化合物は、無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)または該水溶液と反応させることにより、廃棄物処理において問題となることのない、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム等に簡便に処理することができる。本発明の製造方法は、この点においても大量規模での生産に適していると言える。さらに、該先願による原料基質の調製は、廃棄物処理の点においても優れている。フルオロ硫酸無水物は2つのフルオロスルホニル(FSO)基を有するが、原料基質であるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルに導入されるのはこの内の1つだけであり、残る1つは導入時の脱離基として働く。よって、スルフリルフルオリドはフルオロスルホニル基の導入剤としてのアトムエコノミーも高く、原料基質の調製も含めた全体を通しての廃棄物が有意に削減できる。よって、廃棄物処理の観点からも、該先願と本発明の組み合わせは極めて効果的である。
【0045】
また、本発明の原料基質であるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルと、ハードなグリニャール試薬との亜鉛触媒存在下での置換反応が、スキーム1のタイプBやCに優先して、所望のタイプAを経て選択的に進行することを新たに見出した。さらに、光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを用いると、極めて高い反転率で反応が進行し、医農薬中間体として非常に重要な光学活性α−置換エステル類が収率良く得られることも明らかにした。
【0046】
本発明では分離の難しい不純物を殆ど副生しないため、目的生成物を高い化学純度で得ることができる。さらに、光学純度の高いα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを用いることにより、α−置換エステル類を高い光学純度で得ることができる。
【0047】
この様に、本発明は従来技術の問題点を全て解決し、工業的にも実施可能な製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明のα−置換エステル類の製造方法について詳細に説明する。
【0049】
本発明は、一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを、一般式[2]で示される亜鉛触媒の存在下に、一般式[3]で示されるグリニャール試薬と反応させることにより、一般式[4]で示されるα−置換エステル類を製造する方法である。
【0050】
一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルのRは、水素、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。その中でもアルキル基または置換アルキル基のものが好ましく、メチル基のものが特に好ましい。
【0051】
アルキル基は、炭素数が1から18の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を採ることができる。本明細書におけるアルケニル基は、前述のアルキル基の、任意の隣り合う2つの炭素の単結合が二重結合に、任意の数で置き換わり、該二重結合の立体化学はE体、Z体、またはE体とZ体の混合物を採ることができる[フルオロスルホニルオキシ基(FSOO)が結合した炭素にアルケニル炭素(SP炭素)が直接、結合しない場合も含まれる]。本明細書におけるアルキニル基は、前述のアルキル基の、任意の隣り合う2つの炭素の単結合が三重結合に、任意の数で置き換わることができる[フルオロスルホニルオキシ基が結合した炭素にアルキニル炭素(SP炭素)が直接、結合しない場合も含まれる]。芳香環基は、炭素数が1から18の、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素基、またはピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等の窒素、酸素または硫黄等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基を採ることができる。
【0052】
該アルキル基、アルケニル基、アルキニル基および芳香環基は、任意の炭素上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで、置換基を有することもできる(それぞれ置換アルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基および置換芳香環基に対応する)。係る置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン、アジド基、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等の低級アルキルアミノ基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の低級アルキルチオ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジプロピルアミノカルボニル基等の低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基等の不飽和基、フェニル基、ナフチル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基等の芳香環基、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピロリルオキシ基、フリルオキシ基、チエニルオキシ基等の芳香環オキシ基、ピペリジル基、ピペリジノ基、モルホリニル基等の脂肪族複素環基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基(アミノ酸またはペプチド残基も含む)、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体等が挙げられる。
【0053】
なお、本明細書において、次の各用語は、それぞれ次に掲げる意味で用いられる。“低級”とは、炭素数が1から6の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を意味する。“不飽和基”が二重結合の場合(アルケニル基)は、E体またはZ体の両方の幾何異性を採ることができる。“ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基およびカルボキシル基の保護基”としては、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.に記載された保護基等を用いることができる(2つ以上の官能基を1つの保護基で同時に保護することもできる)。また、“不飽和基”、“芳香環基”、“芳香環オキシ基”および“脂肪族複素環基”には、ハロゲン、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体等が置換することもできる。これらの置換基の中には、亜鉛触媒の存在下にグリニャール試薬と反応する場合もあるが、好適な反応条件を採用することにより所望の反応を良好に行うことができる。
【0054】
一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルのRは、アルキル基または置換アルキル基を表す。これらの置換基は、一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルのRにおいて記した、それぞれに対応する置換基と同じである。その中でもアルキル基のものが好ましく、炭素数が1から6の低級アルキル基のものが特に好ましい。
【0055】
一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルのRが水素以外の置換基の場合は、RとRの2つの置換基の炭素同士またはヘテロ原子(窒素、酸素または硫黄等)を介する共有結合により環状構造を採ることもできる(例えば、α−ヒドロキシラクトン類のフルオロ硫酸エステル等)。
【0056】
一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルのRが水素以外の置換基の場合は、フルオロスルホニルオキシ基が結合した炭素は不斉炭素になるが、反応を通して該不斉炭素の立体化学は反転する。目的生成物として光学活性体を所望する場合には、原料基質として光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを用いることができる(当然、目的生成物に応じてラセミの原料基質を用いることもできる)。
【0057】
一般式[2]で示される亜鉛触媒のXは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アセテートまたはトリフラートを表す。その中でも塩素、アセテートまたはトリフラートのものが好ましく、塩素のものが特に好ましい。
【0058】
一般式[3]で示されるグリニャール試薬のRは、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。これらの置換基は、一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルのRにおいて記した、それぞれに対応する置換基と同じである。その中でもアルキル基または置換アルキル基のものが好ましく、アルキル基のものが特に好ましい。
【0059】
一般式[3]で示されるグリニャール試薬のXは、塩素、臭素またはヨウ素を表す。その中でも塩素のものが好ましい。
【0060】
一般式[5]で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルは、RとRの2つの置換基の炭素同士またはヘテロ原子(窒素、酸素または硫黄等)を介する共有結合により環状構造を採ることもできる(例えば、光学活性α−ヒドロキシラクトン類のフルオロ硫酸エステル等)。
【0061】
一般式[5]で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルの*は、不斉炭素を表し、反応を通して不斉炭素の立体化学は反転する。
一般式[5]で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルの立体化学は、目的生成物の立体化学に応じてR体またはS体を適宜用いることができる。係る光学純度は、75%ee以上を用いれば良く、通常は80%ee以上が好ましく、85%ee以上が特に好ましい。
【0062】
一般式[9]で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルのフルオロスルホニルオキシ基と不斉炭素の結合表示は、フルオロスルホニルオキシ基が紙面下側に向いていることを意味する。
【0063】
一般式[9]で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルの光学純度は、80%ee以上を用いれば良く、通常は85%ee以上が好ましく、90%ee以上が特に好ましい。
【0064】
一般式[12]で示される光学活性α−置換エステル類のRと不斉炭素の結合表示は、Rが紙面上側に向いていることを意味する。
【0065】
一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルは、特許文献1および特願2008−272020等を参考にして、公知または市販のα−ヒドロキシエステル類、必要に応じて該光学活性体から同様に製造することができる。実施例1で用いた(S)−乳酸エチルエステルのフルオロ硫酸エステルは、参考例1を参考にして同様に製造した。
【0066】
一般式[2]で示される亜鉛触媒の使用量は、一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステル1モルに対して0.7モル以下を用いれば良く、0.0001から0.5モルが好ましく、0.001から0.3モルが特に好ましい。
【0067】
一般式[3]で示されるグリニャール試薬の使用量は、一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステル1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から10モルが好ましく、0.9から5モルが特に好ましい。
【0068】
反応溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジn−ブチルエーテル、ジエトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系等が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、ジn−ブチルエーテルおよび1,2−ジメトキシエタンが好ましく、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランおよびtert−ブチルメチルエーテルが特に好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。
【0069】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステル1モルに対して0.01L(リットル)以上を用いれば良く、0.03から30Lが好ましく、0.05から20Lが特に好ましい。
【0070】
反応温度は、−80から+80℃の範囲で行えば良く、−40から+40℃が好ましく、−20から+20℃が特に好ましい。
【0071】
反応時間は、48時間以内の範囲で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0072】
後処理は、反応終了液に水、無機酸(例えば、塩化アンモニウム、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸等)の水溶液または無機塩基(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)の水溶液を加え、有機溶媒(例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル等)で抽出し、必要に応じて回収した有機層を水、無機酸の水溶液または無機塩基の水溶液で洗浄し、さらに乾燥剤(無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム等)で乾燥し、濃縮することにより、一般式[2]で示されるα−置換エステル類を粗生成物として得ることができる。粗生成物は、必要に応じて活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い化学純度に精製することができる。
【0073】
本発明においては、α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを亜鉛触媒の存在下にグリニャール試薬と反応させることにより、α−置換エステル類を製造することができる(態様1)。
【0074】
態様1の中でも、原料基質としては、α位の置換基がアルキル基または置換アルキル基を、さらにエステル部位がアルキルエステルを採る光学活性体であり、亜鉛触媒としては、配位子が塩素、アセテートまたはトリフラートを採る化合物であり、グリニャール試薬としては、求核部位がアルキル基または置換アルキル基を採る塩化マグネシウム反応剤である、これらの組み合わせが好ましい(態様2)。本態様の原料基質、亜鉛触媒およびグリニャール試薬は入手が比較的容易であり、得られる光学活性α−置換エステル類も医農薬中間体として特に重要である。
【0075】
態様2の中でも、原料基質としては、α位の置換基がメチル基を、さらにエステル部位が、炭素数が1から6の低級アルキルエステルを採る、絶対配置がS体の光学活性体であり、亜鉛触媒としては、塩化亜鉛であり、グリニャール試薬としては、アルキル塩化マグネシウム反応剤である、これらの組み合わせが特に好ましい(態様3)。本態様の原料基質、亜鉛触媒およびグリニャール試薬は入手が容易であり、得られる光学活性α−置換エステル類も医農薬中間体として極めて重要である。
【0076】
次に、本発明で原料として使用する、式[1]、[5]又は[9]で表される(光学活性)α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルの製造方法について説明する。本発明において、該α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルはどのような方法で製造したものを用いても良い。しかし、既に述べたように、先願(特願2008−272020)の方法で製造することが、大量規模で安価に製造する上で、極めて好適である。具体的には、式[1a]、[5a]又は[9a]で表されるアルコール類
【0077】
【化32】

【0078】
【化33】

【0079】
【化34】

【0080】
(式中、R、R、R、R、Rおよび*は前記式[1]、[5]、[9]と同じ意味である。)を、塩基と水の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることによって、効率よく製造することができる(以下の[発明A])。
【0081】
中でも、該反応を、水と混和しない反応溶媒の存在下に2相系で行うと、特に好ましい(以下の[発明B])。
【0082】
[発明A]と[発明B]は、アルコール類とスルフリルフルオリドとの反応を、塩基と水の存在下行う点に特徴があり、これによって、フルオロ硫酸エステル類の「−OSOF」基が「−F」で置換された「フッ素化物」の生成を有意に抑制でき、フルオロ硫酸エステル類を高い収率で製造できる。
【0083】
前述の特願2008−272020(先願)は、本発明の出願時には未公開であるため詳細に説明する。
【0084】
[発明A]
一般式[1]
【0085】
【化35】

【0086】
で示されるアルコール類を塩基と水の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより、一般式[2]
【0087】
【化36】

【0088】
で示されるフルオロ硫酸エステル類を製造する方法。
[式中、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、芳香環基、置換芳香環基、アルキルカルボニル基、置換アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、置換アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、置換アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、置換アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、置換アリールアミノカルボニル基またはシアノ基を表す。R、RおよびRの3つの置換基の内、水素とシアノ基の置換基の合計が0または1の場合は、2つの置換基の炭素同士またはヘテロ原子を介する共有結合により環状構造を採ることもできる]
[発明B]
発明Aにおいて、さらに水と混和しない反応溶媒の存在下に2相系で反応を行うことを特徴とする、発明Aに記載のフルオロ硫酸エステル類の製造方法(本特願における“2相系”は、液相の状態だけを対象とした表記であり、スルフリルフルオリドが存在する気相も含めると厳密には“3相系”である)。
【0089】
一般式[1]で示されるアルコール類のR、RおよびRについて、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基および芳香環基は、本発明の一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルのRにおいて記した、それぞれに対応する置換基と同じである。アルキルカルボニル基(COR)のアルキル基(R)は、本発明のアルキル基と同じであり、アリールカルボニル基(COAr)のアリール基(Ar)は、本発明の芳香環基と同じであり、アルコキシカルボニル基(COR)のアルキル基(R)は、本発明のアルキル基と同じであり、アミノカルボニル基はCONHを表し、アルキルアミノカルボニル基(CONHRまたはCONR)のアルキル基(R)は、本発明のアルキル基と同じであり、アリールアミノカルボニル基(CONHArまたはCONAr)のアリール基(Ar)は、本発明の芳香環基と同じである。置換アルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基、置換芳香環基、置換アルキルカルボニル基、置換アリールカルボニル基、置換アルコキシカルボニル基、置換アルキルアミノカルボニル基および置換アリールアミノカルボニル基は、本発明の一般式[1]で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルのRにおいて記した、ハロゲン、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、不飽和基、芳香環基、芳香環オキシ基、脂肪族複素環基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体等の置換基が、それぞれアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香環基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基またはアリールアミノカルボニル基の、任意の炭素上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで、置換したものである。
【0090】
一般式[1]で示されるアルコール類のR、RおよびRが全て異なる置換基の場合は、ヒドロキシル基が結合した炭素は不斉炭素になるが、反応を通して該不斉炭素の立体化学は保持される。原料基質として光学純度の高いアルコール類を用いることにより、フルオロ硫酸エステル類を高い光学純度で得ることができる。該不斉炭素の立体化学は、目的生成物の立体化学に応じてR体またはS体を適宜用いることができる。係る光学純度は、70%ee以上を用いれば良く、通常は80%ee以上が好ましく、90%ee以上が特に好ましい。
【0091】
スルフリルフルオリドの使用量は、一般式[1]で示されるアルコール類1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から10モルが好ましく、0.9から5モルが特に好ましい。
【0092】
塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、トリn−ペンチルアミン、ピリジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,4,6−コリジン、3,5,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルグアニジン、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デセ−5−エン(TBD)、BEMPおよびt−Bu−P4等のホスファゼンベース等の有機塩基、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の無機塩基が挙げられる。これらの塩基は単独または組み合わせて用いることができる。
【0093】
塩基の使用量は、一般式[1]で示されるアルコール類1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から10モルが好ましく、0.9から5モルが特に好ましい。塩基を組み合わせて用いる場合は、トータルの使用量を表す。
【0094】
水の使用量は、一般式[1]で示されるアルコール類1モルに対して0.05L以上を用いれば良く、0.1から30Lが好ましく、0.2から20Lが特に好ましい。
【0095】
水と混和しない反応溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系等が挙げられる。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。
【0096】
水と混和しない反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示されるアルコール類1モルに対して0.01L以上を用いれば良く、0.03から30Lが好ましく、0.05から20Lが特に好ましい。
【0097】
反応温度は、−10から+150℃の範囲で行えば良く、−5から+125℃が好ましく、0から+100℃が特に好ましい。
【0098】
反応時間は、48時間以内の範囲で行えば良い。
【0099】
後処理は、反応終了液に対して通常の操作を行うことにより目的生成物を得ることができる。
【0100】
参考例により本先願の実施の形態を具体的に説明するが、本先願はこの参考例に限定されるものではない。
【0101】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
[実施例1]
テトラヒドロフラン7.5mL(0.33M)に、下記式
【0103】
【化37】

【0104】
で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステル(S体、光学純度91.5%ee)500mg(2.50mmol、1.00eq)と塩化亜鉛(ZnCl)の1.00Mジエチルエーテル溶液0.12mL(0.12mmol、0.05eq)を加え、0℃に冷却し、ベンジルマグネシウムクロライド(CCHMgCl)の0.99Mテトラヒドロフラン溶液3.50mL(3.47mmol、1.39eq)を10分間かけて滴下し、0℃で2時間攪拌した。反応終了液に飽和塩化アンモニウム水溶液20mLを加え、n−ヘキサン20mLで2回抽出し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0105】
【化38】

【0106】
で示される光学活性α−置換エステル類(S体)の粗生成物を475mg得た。粗生成物の収率は99%であった。粗生成物の1H−NMR分析より変換率は95%以上であった(原料基質の残存量から算出)。
【0107】
粗生成物を減圧蒸留(沸点〜100℃、減圧度0.4kPa)することにより、光学活性α−置換エステル類の精製品を得た。精製品のガスクロマトグラフィー純度は81.9%であった。精製品のキラルガスクロマトグラフィー分析より、光学純度は93.3%ee(S体)であった。
【0108】
光学活性α−置換エステル類の1H−NMRを下に示す。
1H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl]、δ ppm;1.15(d、6.8Hz、3H)、1.19(t、7.2Hz、3H)、2.70(m、2H)、3.02(m、1H)、4.09(q、7.2Hz、2H)、7.14−7.32(Ar−H、5H)。
【0109】
[参考例1]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【0110】
【化39】

【0111】
で示される光学活性アルコール類(S体)20.00g(169.3mmol、1.00eq)、トルエン141mL(1.20M)、トリエチルアミン20.56g(203.2mmol、1.20eq)と炭酸カリウム水溶液176.10g[炭酸カリウム35.10g(254.0mmol、1.50eq)と水141mL(1.20M)から調製]を加え、氷浴に浸し、スルフリルフルオリド34.56g(338.6mmol、2.00eq)をボンベより吹き込み、氷冷下で3時間30分攪拌した。反応終了液(有機層)のガスクロマトグラフィー分析より変換率は96%であった。変換率測定時のガスクロマトグラフィー純度は、下記式
【0112】
【化40】

【0113】
で示される光学活性フルオロ硫酸エステル類(S体)が82.9%であり、下記式
【0114】
【化41】

【0115】
で示される光学活性フッ素化物(R体)が4.4%であった。光学活性フルオロ硫酸エステル類と光学活性フッ素化物の生成比は95:5であった。反応終了液(有機層)のキラルガスクロマトグラフィー分析より光学活性フルオロ硫酸エステル類の光学純度は97.6%ee(S体)であった。
【0116】
反応終了液を2相分離して回収した有機層を減圧蒸留(沸点89℃、減圧度3.6kPa)することにより、光学活性フルオロ硫酸エステル類の精製品を21.13g得た。収率は62%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度と光学純度は、それぞれ92.5%、96.9%ee(S体)であった。
【0117】
光学活性フルオロ硫酸エステル類の1Hおよび19F−NMRを下に示す。
1H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl]、δ ppm;1.33(t、7.2Hz、3H)、1.72(d、6.9Hz、3H)、4.31(q、7.2Hz、2H)、5.22(q、6.9Hz、1H)。19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;−63.40(s、1F)。
【0118】
光学活性フッ素化物の1Hおよび19F−NMRを下に示す。
1H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl]、δ ppm;1.32(t、7.2Hz、3H)、1.58(dd、23.6Hz、6.9Hz、3H)、4.26(q、7.2Hz、2H)、5.00(dq、49.0Hz、6.9Hz、1H)。19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;−21.88(dq、48.9Hz、24.4Hz、1F)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]
【化1】

で示されるα−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを、一般式[2]
【化2】

で示される亜鉛触媒の存在下に、一般式[3]
【化3】

で示されるグリニャール試薬と反応させることにより、一般式[4]
【化4】

で示されるα−置換エステル類を製造する方法。
[式中、Rは水素、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、Rはアルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。Rが水素以外の置換基の場合は、RとRの2つの置換基の炭素同士またはヘテロ原子を介する共有結合により環状構造を採ることもできる。Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アセテート(CHCO)またはトリフラート(CFSO)を表し、Xは塩素、臭素またはヨウ素を表す]
【請求項2】
一般式[5]
【化5】

で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを、一般式[6]
【化6】

で示される亜鉛触媒の存在下に、一般式[7]
【化7】

で示されるグリニャール試薬と反応させることにより、一般式[8]
【化8】

で示される光学活性α−置換エステル類を製造する方法。
[式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。RとRの2つの置換基の炭素同士またはヘテロ原子を介する共有結合により環状構造を採ることもできる。Xは塩素、アセテート(CHCO)またはトリフラート(CFSO)を表す。*は不斉炭素を表し、反応を通して不斉炭素の立体化学は反転する]
【請求項3】
一般式[9]
【化9】

で示される光学活性α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルを、式[10]
【化10】

で示される亜鉛触媒の存在下に、一般式[11]
【化11】

で示されるグリニャール試薬と反応させることにより、一般式[12]
【化12】

で示される光学活性α−置換エステル類を製造する方法。
[式中、Rは炭素数が1から6の低級アルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、該α−ヒドロキシエステル類のフルオロ硫酸エステルが、それぞれ、式[1a]、[5a]又は[9a]で表されるアルコール類
【化13】

【化14】

【化15】

(式中、R、R、R、R、Rおよび*は前記式[1]、[5]、[9]と同じ意味である。)を、塩基と水の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることによって得たものである、請求項1〜3の何れかに記載の方法。


【公開番号】特開2010−116331(P2010−116331A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289205(P2008−289205)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】