説明

α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を精製する方法

本発明は、式I−(CFCFY)−Iのα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を精製する方法であって、不純物を含むα,ω−ジヨード過フッ素化化合物と適当な金属イオン封鎖剤とを可逆的な付加物の形成を伴うように接触させる工程と、α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を付加物から分離する工程とを含む方法に関する。金属イオン封鎖剤としては、「メトニウム化合物(methonium compounds)」とも呼ばれる、一般式[R1,2,3N−(CH−NR4,5,6]2X(R1〜6:C1〜C6アルキル;n:8〜26;X:I,Br,Cl)で表されるジアンモニウムジハロゲン化物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を精製するための方法及びこのようにして得られる数種の純粋α,ω−ジヨード過フッ素化化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
α,ω−ジヨード過フッ素化化合物は、特にフルオロエラストマーを製造するため及びフッ素化ビニルモノマーの重合のための連鎖移動試薬として、フッ素化学薬品の分野で注目される化合物の一つに分類される。
【0003】
式X−(CF2−Yで表されるジハロペルフルオロアルカンを調製するための方法であって、nが2〜6の整数であり、X及びYがそれぞれ独立にI、Br、及びClのいずれかである方法が、既知である(特許文献1、特許文献2)。これらの特許の教示によれば、説明される実施形態のそれぞれに対して行われるガスクロマトグラフィー分析の結果が示すように、異なるジハロペルフルオロアルカンの混合物であって、それぞれのジハロペルフルオロアルカンの比が可変である混合物(一例としては、モル%で、C2:C4:C6:C8:C10=7.29:48.27:29.68:10.50:3.64の混合物;ここで、略語C2、C4,C6、C8、及びC10は、それぞれ、テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン、ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン、ヘキサデカ−フルオロ−1,8−ジヨードオクタン、及びイコサフルオロ−1,10−ジヨードデカンを表わす)からなる生成物を約70%の収量で得ることができる。
【0004】
式X−(CFCF−Yで表されるα,ω−ジハロペルフルオロアルカンであって、テロメリゼーション反応(短鎖重合反応)によって得られる、nが2〜6の整数の、α,ω−ジハロペルフルオロアルカンの調製法が既知である(特許文献3)。特にその実施例1においては、化合物I−(CFCF−Iを、CをI−(C)−Iでテロメライズし、次に分別蒸留することで生成させることが明記されている。同様にして、実施例3においてI−(CFCF−Iを生成させている。
【0005】
更に、式I−(CFCF−Iで表されるα,ω−ジヨードペルフルオロアルカンであって、1,2−ジヨードペルフルオロエタンとテトラフルオロエチレンとの反応によって得られ、nが2〜6の整数であるα,ω−ジヨードペルフルオロアルカンを調製するための方法が既知である(特許文献4)。このようにして、α,ω−ジヨードペルフルオロアルカンの混合物が得られるが、これから少量のヨウ素を分離する必要がある。
【0006】
短鎖のα,ωジヨードペルフルオロアルカンの場合、式I−(CFCF−Iで表される化合物であって、mが1〜4であり、高純度のI−(CFCF−Iが市販されている。特に、以下の化合物が知られている:
式I−(CFCF)−Iのテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(純度98%)
式I−(CFCF−Iのオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン(純度98%)
式I−(CFCF−Iのドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン(純度96%)
式I−(CFCF−Iのヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードエタン(純度98%)
【0007】
前記化合物は、既知の調製方法によって調製され、通常は分別蒸留である既知の精製方法によって精製される。幾つかの場合において、分別蒸留を行うことによって、非常に高い純度の等級をもたらすことができるが、いずれにせよ、不適当な低収率になることが知られている。加えて、この過程は、複雑で費用がかかり、多大な時間を必要とし、より多くのエネルギーを費やす。
【0008】
他方で、mが4を超える場合の式I−(CFCF−Iで表される化合物は、上述の従来技術の特許においても開示されているように、可変の成分比を有する混合物としてのみ知られている。実際、既知の分離方法、それゆえ分別蒸留も含まれる方法による、このような化合物の分離は、複雑で困難であり、そして殆んど効果的ではないことが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,150,565号明細書
【特許文献2】米国特許第6,002,055号明細書
【特許文献3】米国特許第4,731,170号明細書
【特許文献4】米国特許第6,825,389号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は、2〜20の炭素原子を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を精製するための方法であって、このような化合物を高収量かつ最適純度で得ることを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、請求項1に示されるような、α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の精製方法によって達成される。本発明の更なる利点及び好ましい実施形態は、従属請求項に示される。
【0012】
したがって本発明は、α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の精製方法であって、不純物を含むα,ω−ジヨード過フッ素化化合物と適切な金属イオン封鎖剤とを接触させる工程、付加物を形成させる工程、及びα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を前記付加物そのものから分離する工程を含む精製方法に関する。
【0013】
本発明において、用語「不純物を含む(impure)」とは、95%未満の純度を有する化学薬品化合物、即ち、不純物を有する化合物を意味する。また、本発明において、用語「不純物(impurities)」とは、α,ω−ジヨードペルフルオロアルカンの調製のために選択された方法における未反応試薬及び副生成物を意味し、例えば,ヨウ素、溶剤残渣、分解生成物、及び精製される化合物とは異なる他のα,ω−ジヨードペルフルオロアルカン等を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
さらに、本発明の特徴と利点が、本発明において例示されるが、本発明はそれに限定されない実施形態及び添付の図面を参照してなされる以下の詳細な説明から明らかになる。図面は、
【図1】実施例1に従い、得られた本発明の付加物の結晶構造を示す。
【図2】実施例2に従い、得られた本発明の付加物の結晶構造を示す。
【図3】実施例3に従い、得られた本発明の付加物の結晶構造を示す。
【図4】実施例8に従い、得られた本発明の付加物の結晶構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
このゆえに、本発明は、式I−(CFCFY)−Iで表されるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を精製する方法であって、
a)不純物を含むα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を提供する工程と、
b)工程a)の不純物を含むα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を下式の金属イオン封鎖剤と
【化1】

接触させ、付加物を形成させる工程と、
c)工程b)の付加物からα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を分離する工程とを含む方法において、
mが1〜10の整数であり、
もし存在するならば、YがO及びSのいずれかであり、
AがN及びPのいずれかであり、
XがCl,Br,及びIのいずれかであり、
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が、互いに独立に、C1〜C6のアルキル基であり、
Bが、C,O,及びSから選択される原子Zのn個からなる飽和鎖及び不飽和鎖のいずれかからなるスペーサー基であり、前記鎖は、任意に1以上の飽和及び不飽和のいずれかの5員環、6員環、及び7員環のいずれかを含み、もし存在するならば、前記1以上の環は、それぞれ4Zに等価であり、n=2m+6であることを特徴とする方法に関する。
【0016】
工程a)は、式I−(CFCFY)−Iで表される、提供される不純物を含むα,ω−ジヨード過フッ素化化合物では、Yがもし存在するならばO及びSのいずれかであり、mが1〜10の数であることを規定する。したがって、Yが存在しない場合、これらは式I−(CFCF−Iで表されるα,ω−ジヨードペルフルオロアルカン化合物であり、YがOである場合、これらは式I−(CFCFO)−Iで表されるα,ω−ジヨードペルフルオロエーテル化合物であり、そしてYがSである場合、これらは式I−(CFCFS)−Iで表されるα,ω−ジヨードペルフルオロスルフィド化合物である。
【0017】
このような不純物を含む化合物は、前述の8未満の炭素原子数を有する化合物のように約2%〜約5%の不純物を有する化合物であっても、従来技術の方法によって得られる、対象としない他のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物の混合物を不純物として、高い濃度で(即ち、約60%)有する化合物であってもよい。
【0018】
工程b)は、工程a)において式I−(CFCFY)−Iで表されるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物と接触させる金属イオン封鎖剤が、以下の式で表される化合物であり、式中、mが1〜10の整数であり、AがN及びPのいずれかであり、XがCl,Br,及びIのいずれかであり、R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が、互いに独立に、C1〜C6の直鎖アルキル基であり、Bが、C,O,及びSから選択される原子Zのn個からなる飽和鎖及び不飽和鎖のいずれかからなるスペーサー基であり、前記鎖は、任意に1以上の飽和及び不飽和のいずれかの5員環、6員環、及び7員環のいずれかを含み、もし存在するならば、前記1以上の環は、それぞれ4Zに等価であり、n=2m+6であることを規定する。
【化2】

【0019】
スペーサー基Bが直鎖である場合、この直鎖はC、O、及びSのいずれかから選択される原子Zをn個有する。したがって、nは、2個の原子Aに挟まれた鎖を形成する原子Zの合計数、即ちn=ΣZである。それに応じて、この場合、ΣZ=2m+6とされる。したがって、精製されるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物及び既知のmが与えられれば、対象とされるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物に対して効果的且つ選択的となるために適切な金属イオン封鎖剤が保持しなければならないスペーサー基の鎖長を、有利なことに決定することができる。
【0020】
もしスペーサー基Bの鎖が1個以上の5員環、6員環、及び7員環のいずれかを含む場合は、一旦精製されるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物及び、それゆえ、既知のmが与えられれば、金属イオン封鎖剤を選択するためには、本発明における前記1以上の5員環、6員環、及び7員環は、それぞれ4Zに等価であるとして計算される。
【0021】
例えば、もしスペーサー基が1個のベンゼン、1個のシクロペンタン、及び1個のシクロヘキサンのいずれかを含む場合、いずれの場合でもこれらのそれぞれの前記基Bへの原子A間に挟まれたスペーサーとしての寄与は、4Zに等価、即ちZ原子4個の鎖によって与えられる寄与に等価である。
【0022】
Bが脂肪族直鎖である場合が、好ましく且つ有利である。このような脂肪族直鎖が炭素原子だけで構成されることが好ましい。
【0023】
R1、R2、R3、R4、R5、及びR6が、互いに独立に、直鎖のアルキル基C1〜C3であることが最も好ましい。R1、R2、R3、R4、R5、及びR6が等しいことが好ましい。R1、R2、R3、R4、R5、及びR6が、全てメチル基であることが更に好ましい。
【0024】
XがIである実施形態が更に好ましい。
【0025】
金属イオン封鎖剤が[(CHN−(CH−N(CH2+・2Iである実施形態が最も好ましい。
【0026】
本発明による方法の工程b)では、精製されるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物に対して、前記金属イオン封鎖剤を等モル量加えることが好ましい。
【0027】
本発明の前記金属イオン封鎖剤は、文献で既知の方法に従って合成できる。
【0028】
例えば、J.Zhang et al.(2003)J.Mol.Struct.,660巻,pp.119−129から、ヨウ化デカメトニウム同族体が既知となっており、特にこれらの化合物は、下式の化合物として知られる:
(CH−(CH−N(CH
式中、mは、5〜18の範囲の数である。
【0029】
このような金属イオン封鎖剤の合成のためには、Zaimis,Eleanor, “The synthesis of methonium compounds, their isolation from urine, and their photometric determination”,J.Natl.Inst.Med.Research,London,British Journal of Pharmacology and Chemotherapy(1950),5巻、pp.424−30に説明される方法が適切である。
【0030】
本発明による前記金属イオン封鎖剤は、固形粉体形状として、適切な溶媒溶液中に溶解させて、又は適切な支持体上に結合乃至吸着/吸収させて用いることができる。
このような適切な支持体は、吸着/吸収能力を有する塗膜で任意に被覆されていてもよい有機ポリマー支持体であってもよく、吸着/吸収能力を有する塗膜で任意に被覆されていてもよい無機微粒子であってもよい。前記無機微粒子は、例えば、分子ふるいであっても、多孔質ポリマー構造物中に捕捉された無機微粒子であってもよい。もし前記金属イオン封鎖剤を、固形粉体形状として与えるか、適切な支持体上に結合或いは吸着/吸収された形態で与える場合は、前記支持体としてのベッド、カラム、及びチューブ上に前記金属イオン封鎖剤を結合或いは吸着/吸収させて与えることができる。
【0031】
本発明の工程b)においては、式I−(CFCFY)−Iの前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物が、n=2m+6の関係を満たすnを有する上述の前記金属イオン封鎖剤と、付加物を形成する。
【0032】
いかなる理論に縛られることも望むことなく考えられることは、2m+6個の原子Zからなる鎖Bを有する金属イオン封鎖剤が、前記金属イオン封鎖剤の陰イオンIとα,ω−ジヨード過フッ素化化合物の原子Iと間の交互作用によって、m個の原子からなる鎖を有する前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を収容する、大きさが適切な空洞を形成することができることである。前記空洞は、他により長い鎖を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物やより短い鎖を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物が存在する場合でも、前記金属イオン封鎖剤が、精製する予定の前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を高度に選択的に遮へいすることを可能にする。
【0033】
以下の実施例から明らかになるように、形成された付加物は、前記金属イオン封鎖剤と精製する予定の単一α,ω−ジヨード過フッ素化化合物とからなる結晶性固体として沈殿させることによって、前記反応混合物から、分離される。
【0034】
工程c)は、先行する工程b)において形成された前記付加物から前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を分離する。前記付加物をろ過し、適切な溶媒、例えばCHClで洗浄すると、付加物それ自体から前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の分離が行われる。
【0035】
このような分離は、任意に室温より高い温度下での真空昇華と、低温での再凝縮によるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物の回収により行われる。事実、有機塩である前記金属イオン封鎖剤が極度に高い昇華温度を有し、前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物は、揮発性を有する。この異なる特徴に基づいて、前記付加物の結晶を真空のチェンバーに入れる。より揮発性の低い、長鎖α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を昇華させるためには、短鎖α,ω−ジヨード過フッ素化化合物よりも強力な真空状態におく必要がある。このような、真空状態は、10mmHg〜0.1mmHgの範囲であることが好ましい。真空状態にある間は、チェンバーの温度は室温であることがより好ましい。長鎖α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の場合、化合物の定量的な昇華を促進するために、前記チェンバーの温度を約60℃へ上昇させると有利である。また、このために、付加物結晶を前もって粉砕して露出表面積を可能な限り増加させるようにすると有利である。
【0036】
昇華したα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を再凝縮するために、前記昇華チェンバーに少なくとも1つの冷却トラップへ連結することが有利である。このようなトラップの温度は、少なくとも−60℃であることが好ましい。短鎖α,ω−ジヨード過フッ素化化合物、即ち、より揮発性の高い化合物の場合は、トラップの温度を、更に低くしてもよく、液体窒素の温度、即ち約−200℃まで低くすることが有利である。順次温度を低下させて再凝縮させることによって前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の回収収率を増加させるために、前記昇華チェンバーをそれぞれが先行するトラップよりも低い温度を有する一連の冷却トラップへと連結させることがより有利である。
【0037】
あるいは、前記付加物から前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の分離は、固相/液相クロマトグラフィーによる分離によって行ってもよい。
【0038】
以下の実施例からも明白になるように、いかなる理論に縛られることも望むことなく考えられることは、α,ω−ジヨード過フッ素化化合物と金属イオン封鎖剤との間の前記付加物中に存在するI…I相互作用によって、前記付加物自体の形成を有利に可逆的に行うことができることである。したがって、一旦形成されると、付加物は、工程c)において上述したように処理することができ、遮へいされたα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を定量的に放出させることができる。さらに、工程b)において、前記金属イオン封鎖剤が、対象とする化合物を定量的及び選択的に封鎖し、次に工程c)において同様に対象とする化合物が定量的に放出されるという事実は、純α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の収量を有利に高くすることを可能にする。いずれの場合でも、工程c)の収量、即ち、前記付加物からの前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の分離における収量は、100%近くになる。
【0039】
したがって、本発明の方法は、対象とするα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を選択的且つ定量的に封鎖し、前記対象とするα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を前記金属イオン封鎖剤から分離することによって精製することを可能にし、それゆえ、有意に高収量で、少なくとも95%の純度を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を精製することを可能にする。好ましくは、このような方法は、かなりの高収量で、少なくとも99%の純度を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を生成することを可能にする。なお、より好ましくは、このような方法は、かなりの高収量で、100%の純度を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を生成することを可能にする。
【0040】
さらに、このような方法では、前記付加物は、室温で沈殿しそして分離され、前記金属イオン封鎖剤が再利用できるので、その工程は単純で経済的であり、実行上の利点及び製造上の利点の観点からも、このような方法は、非常に有利である。
【0041】
別の態様では、本発明は、請求項11に規定される、式I−(CFCFY)−Iで表されるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物と下式の金属イオン封鎖剤との付加物に関する。
【化3】

式中、mは、1〜10の整数であり、
もし存在するならば、Yは、O及びSのいずれかであり、
Aは、N及びPのいずれかであり、
Xは、Cl,Br,及びIのいずれかであり、
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6は、互いに独立に、C1〜C6の直鎖アルキル基であり、
Bは、C,O,及びSから選択される原子Zのn個からなる飽和鎖及び不飽和鎖のいずれかからなるスペーサー基であり、前記鎖は、任意に1以上の飽和及び不飽和のいずれかの1以上の5員環、6員環、及び7員環のいずれかを含み、もし存在するならば、前記1以上の環は、それぞれ4Zに等価であり、n=2m+6である。
【0042】
製品の特徴の観点からも有利且つ好ましくさえある、本発明のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物の精製方法のために上述した前記金属イオン封鎖剤に関する全ての局面は、前記付加物についても同様であることが理解されなければならない。
【0043】
このような付加物は、固体形状であり、金属イオン封鎖剤及び精製される予定の単一α,ω−ジヨード過フッ素化化合物からなる。このようにして、不純物を含む出発化合物からα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を高度に選択的且つ定量的に分離することができる。過フッ素化化合物は、非常に高い揮発性を有し、急速に劣化し易いことが知られているが、前記付加物中では、前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物は、非常に安定している。したがって、付加物を形成させることは、前記ジヨード過フッ素化化合物の精製のためだけでなく、例えばこのような化合物を安定したマトリックス中にトラップしてその保存性を改善するためにも、非常に有利且つ便利である。別の例は、前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を長期間にわたり一定速度で供給しなければならない方法における使用であってもよい。この場合、付加物の結晶を反応チェンバー中に直接置き、徐々に加熱して、前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を必要とされる流速で放出させることができる。
【0044】
更なる態様においては、本発明は、請求項19に規定されるような、純α,ω−ジヨード過フッ素化化合物であって、式I−(CFCFY)−Iで表され、mが5〜10であるα,ω―ジヨード過フッ素化化合物に関する。本発明の方法によれば、実際、上述の従来技術の特許から得られるような混合物としてしか今まで利用可能でなかった長鎖α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を単離することが可能になる。式I−(CFCFY)−Iで表され、mが5〜10である前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物が、約100%の純度を有することが好ましい。
【実施例】
【0045】
本発明によるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物の精製法の、本明細書で与えられる、例示的で、本発明を限定しない幾つかの例を次に示す。
【0046】
(実施例1)
(テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(m=1)の精製(溶液状態での))
25%のテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(m=1)、25%のオクタフルオロ−1,4−テトラヨードブタン(m=2)、25%のドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン(m=3)、及び25%のヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(m=4)を含む市販のα、ω−ジヨード過フッ素化化合物の混合物(83mg)(Apolo Scientific Ltd.)を1mLのCHClに溶解させ、式(CH−(CH−N(CH・2Iで表される金属イオン封鎖剤、即ち、ヨウ化オクタメトニウム(octamethonium iodide)を20mg、1mLのCHOHに溶解した。
【0047】
この2種類の溶液を試験管中で混合し、その後試験管を閉じた。約2時間後、白色の固体沈殿物が形成されるのが観察され、その沈殿物を次にろ過し、CClで2回洗浄し、そして真空下で乾燥した。以下に説明するように、実施した分析の結果が示すところによれば、得られた生成物は、ヨウ化オクタメトニウムとテトラフルオロ−1、2−ジヨードエタンとの付加物であることが確認された。
【0048】
前記テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンを、次に、結晶付加物を約30℃の温度で真空下に置くことで結晶付加物から昇華させること、及び、約−198℃の温度で昇華したテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンを再凝縮させて回収することによって、金属イオン封鎖剤から分離した。
これにより、純度100%のテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンが得られた。
【0049】
前記結晶付加物に対して実施したテストの結果は以下の通りである。
融点:201℃;
IR(cm−1、選択吸収帯):
純ヨウ化オクタメトニウム:3012,2929,2857,1475,1465,966,955,921,907;
ヨウ化オクタメトニウムとテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンとの付加物:3011,2945,2872,2854,1477,1405,1128,1090,950,905,693;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
ヨウ化オクタメトニウムとテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンとの付加物:Δδ=0.02
【0050】
前記付加物の結晶に対して、X線回折分析(XRD anlysis)を行ったところ、ヨウ化オクタメトニウム及びテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンが排他的に存在することが確認された。実際、図1には、ヨウ化オクタメトニウム分子(炭素原子及び窒素原子を薄いグレーで示し、そして水素原子を白色で示した)がテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン分子(炭素原子を薄いグレーで示し、水素原子を白色で示し、そしてヨウ素原子を濃いグレーで示した)及びヨウ素原子(濃いグレーで示した)と交互に重なる付加物の結晶構造が示されている。さらに、結晶状態では、テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンが、発生させられ、図1には破線で描かれる、ヨウ素−ヨウ素相互作用によって、ヨウ化オクタメトニウムの2個の窒素原子間及びヨウ化オクタメトニウムの2個のヨウ素原子間のスペーサー鎖によって画定される空洞を占有するので、ヨウ化オクタメトニウムとテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンが交互に重なる並行層を形成するのが観察されている。
このように、以下の結晶学的測定値が示される:
【表1】

【0051】
観測できるように、付加物の結晶において、テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン分子に対して一直線上に並ぶ表1に示されるようなヨウ素原子間の距離Bと、付加物中の同一のオクタメトニウム分子に属する窒素原子間の距離Aとの差Δ(B−A)は、0.799Åに等しく、前記相互作用I…Iの存在は十分に大きい。
【0052】
具体的には、従って、n=2m+6の関係から、適切な金属イオン封鎖剤、即ち、精製される予定のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物のサイズに正確に適合した窒素原子間又はリン原子間の距離Aを有する金属イオン封鎖剤を選択することが可能になり、これにより、前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を、図1に明確に示されるような、金属イオン封鎖剤の鎖Bと前記金属イオン封鎖剤のヨウ素原子によって形成される空洞内に有利に収容することが可能になる。
【0053】
実際、いかなる理論に縛られることも望むことなく考えられることは、固体状態で付加物が高い融点及び高度の安定性を有するのは、観測されるその結晶のパッキング状態のためであり、この結晶のパッキング状態によって、精製される予定のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物のm値により近いm値を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物が他に存在する場合でも、前記精製される予定のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物に基づいて本発明の教示により適切に選択される金属イオン封鎖剤が、α,ω−ジヨード過フッ素化物に対して高い選択性を有することができる。このような選択性は、n=2m+6という関係で表される質的条件と、α,ω−ジヨード過フッ素化化合物に対して金属イオン封鎖剤を過剰モル量与えるという量的条件とによりもたらされる。このα,ω−ジヨード過フッ素化化合物に対して金属イオン封鎖剤を過剰モル量与えるという条件下では、最初に前記関係n=2m+6を満たす結晶付加物が定量的に沈澱するのが観測され、次に、前記精製される予定の(前記関係n=2m+6を満たす結晶付加物に使用される)α,ω−ジヨード過フッ素化化合物が使いつくされるやいなや、前記精製される予定のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物とは異なるm値を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物と金属イオン封鎖剤との付加物がさらに徐々に形成され始める。特に、前記精製される予定のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物とは異なるm値を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物の中でも、同様に溶解している他のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物よりも高い融点を有する結晶を形成し得るものから先に、付加物を形成し始めるのが観測されている。
【0054】
前記このようにして得られた純粋テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンに対して実施したテストの結果は以下の通りである。
IR(cm−1、選択吸収帯)
純粋テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン:1147,1096,973,834,689;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
純粋テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン:δF=−56.24.
【0055】
また、ガスクロマトグラフィーによる試験から、この生成物は100%の純度のテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンであることが確認された。
【0056】
いかなる理論に縛られることを望むことなく考えられることは、前記付加物中で観測される相互作用I…I−は、付加物の可逆的形成を有利にする。したがって、一旦形成させた付加物を、工程c)で述べたようにして処理し、付加物から遮へいされていたα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を定量的に放出させることができる。更に、前記金属イオン封鎖剤によって定量的且つ選択的に、対象とする化合物を遮へいし、次にこの化合物を定量的に放出させることによって、純粋α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を有利に高収量で得ることが可能になる。
【0057】
したがって、本発明による方法は、異なるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物の混合物から純テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンを非常に高収量で得ることを可能にする。その結果、既に高純度で市販されているテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンを精製する場合では、本発明の方法は、実施例9にも示されるように、上述の場合よりもより効果的でさえある。
【0058】
(実施例2)
(オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン(m=2)の精製(溶液状態での))
25%のテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(m=1)、25%のオクタフルオロ−1,4−テトラヨードブタン(m=2)、25%のドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン(m=3)、及び25%のヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(m=4)からなる,市販のα、ω−ジヨード過フッ素化化合物の混合物(79mg)(Apolo Scientific Ltd.)を1mLのCHClに溶解し、式(CH−(CH10−N(CH・2Iで表される金属イオン封鎖剤、即ち、ヨウ化デカメトニウムを20mg、1mLのCHOHに溶解した。
【0059】
次に、この2種類の溶液を試験管中で混合し、その後試験管は閉じた。約2時間後、白色の固体沈殿物が形成されるのが観察され、その沈殿物をろ過し、CClで2回洗浄し、そして真空下で乾燥した。以下に説明するように、実施された試験の結果が示すところによれば、得られた生成物は、ヨウ化デカメトニウムとオクタフルオロ−1、4−ジヨードブタンとの付加物であることが確認された。
【0060】
前記オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンを、次に、結晶付加物を約40℃の温度で真空下に置くことで結晶付加物から昇華させること、及び、約−198℃の温度で昇華したオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンを再凝縮させて回収することによって、金属イオン封鎖剤から分離した。
これにより、100%の純オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンが得られた。
【0061】
前記結晶付加物に対して実施したテストの結果は以下の通りである。
融点:230℃;
IR(cm−1、選択吸収帯):
純粋ヨウ化デカメトニウム:3002,2923,2859,1628,1492,1479,964,950,910,714;
ヨウ化デカメトニウムとオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンとの付加物:3010,2941,2870,1475,1405,1184,1123,1040,961,761;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
ヨウ化デカメトニウムとオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンとの付加物:Δδ(IC2CF2)2=0.02,Δδ(ICF2C2)2=0.00.
【0062】
前記付加物結晶に対して、X線回折テスト(XRD test)を行ったところ、ヨウ化デカメトニウム及びオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンが排他的に存在することが確認された。実際、図2には、ヨウ化デカメトニウム分子(炭素原子及び窒素原子を薄いグレーで示した)がオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン分子(炭素原子を薄いグレーで示し、水素原子を白色で示し、そしてヨウ素原子を濃いグレーで示した)及びヨウ素原子(濃いグレーで示した)と交互に重なる付加物の結晶構造が示されている。さらに、結晶状態では、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンが、発生させられたヨウ素−ヨウ素相互作用によって、ヨウ化デカメトニウムの2個の窒素原子間及びヨウ化デカメトニウムの2個のヨウ素原子間のスペーサー鎖によって画定される空洞を占有するので、ヨウ化デカメトニウムとオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンが交互に重なる並行層を形成するのが観察されている。
【0063】
このように、以下の結晶学的測定値が得られる:
【表2】

【0064】
観測できるように、付加物結晶において、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン分子に対して一直線上に並ぶ表2に示されるようなヨウ素原子間の距離Bと、付加物中の同一のデカメトニウム分子に属する窒素原子間の距離Aとの差Δ(B−A)は、0.866Åに等しく、前記相互作用I…Iの存在は十分に大きい。
【0065】
前記このようにして得られた純粋オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンに対して実施したテストの結果は以下の通りである。
IR(cm−1、選択吸収帯)
純粋オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン:1190,1130,1039,887,763;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
純粋オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン:δ=−63.80(ICCF,−112.02(ICF
【0066】
また、ガスクロマトグラフィーによる試験から、この生成物は100%の純度のオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンであることが確認された。
【0067】
(実施例3)
(ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン(m=3)の精製(溶液状態での))
25%のテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(m=1)、25%のオクタフルオロ−1,4−テトラヨードブタン(m=2)、25%のドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン(m=3)、及び25%のヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(m=4)を含む市販のα、ω−ジヨード過フッ素化化合物の混合物(75mg)(Apolo Scientific Ltd.)を1mLのCHClに溶解し、式(CH−(CH12−N(CH・2Iで表される金属イオン封鎖剤、即ち、ヨウ化ドデカメトニウムを20mg、1mLのCHOHに溶解した。
【0068】
次に、この2種類の溶液を、試験管中で混合し、その後試験管を閉じた。約2時間後、白色の固体沈殿物が形成されるのが観察され、その沈殿物をろ過し、CClで2回洗浄し、そして真空下で乾燥した。以下に説明するように、実施された試験の結果が示すところによれば、得られた生成物は、ヨウ化ドデカメトニウムとドデカフルオロ−1、6−ジヨードヘキサンとの付加物であることが確認された。
【0069】
次に、前記ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンを結晶付加物を約50℃の温度で真空下に置くことで結晶付加物から昇華させること、及び、約−198℃の温度で昇華したドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンを再凝縮させて回収することによって、金属イオン封鎖剤から分離した。
これにより、100%の純粋ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンが得られた。
【0070】
前記結晶付加物に対して実施したテストの結果は以下の通りである。
融点:226℃;
IR(cm−1、選択吸収帯):
純粋ヨウ化ドデカメトニウム:3002,2914,2851,1483,1464,973,939,916,731;
ヨウ化ドデカメトニウムとドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンとの付加物:3010,2941,2867,1475,1203,1141,1125,1081,963,909,731;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
ヨウ化ドデカメトニウムとドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンとの付加物:Δδ(IC2CF2CF2)2=0.08,Δδ(ICF2C2CF2)2=0.01,Δδ(ICF2CF2C2)2=0.00.
【0071】
前記付加物結晶に対して、X線回折テスト(XRD test)を行ったところ、ヨウ化デカメトニウム及びドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンが排他的に存在することが確認された。実際、図3には、ヨウ化ドデカメトニウム分子(炭素原子及び窒素原子を薄いグレーで示し、水素原子を白色で示した)がドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン分子(炭素原子を薄いグレーで示し、水素原子を白色で示し、そしてヨウ素原子を濃いグレーで示した)及びヨウ素原子(濃いグレーで示した)と交互に重なる付加物の結晶構造が示されている。さらに、結晶状態では、ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンが、発生させられたヨウ素−ヨウ素相互作用によって、ヨウ化ドデカメトニウムの2個の窒素原子間及びヨウ化ドデカメトニウムの2個のヨウ素原子間のスペーサー鎖によって画定される空洞を占有するので、ヨウ化ドデカメトニウムとドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンが交互に重なる並行層を形成するのが観察されている。
【0072】
このように、以下の結晶学的測定値が得られる:
【表3】

【0073】
観測できるように、付加物結晶において、ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン分子に対して一直線上に並ぶ表3に示されるようなヨウ素原子間の距離Bと、付加物中の同一のドデカメトニウム分子に属する窒素原子間の距離Aとの差Δ(B−A)は、0.688Åに等しく、前記相互作用I…Iの存在は十分に大きい。
【0074】
前記このようにして得られた純ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンに対して実施したテストの結果は以下の通りである。
IR(cm−1、選択吸収帯)
純粋ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン:1190,1130,1039,887,763;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
純粋ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン:δ=−63.80(ICCF,−112.02(ICF
【0075】
また、ガスクロマトグラフィーによる試験からも、この生成物は100%の純度のドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンであることが確認された。
【0076】
(実施例4)
(ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(m=4)の精製(溶液状態での))
25%のテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(m=1)、25%のオクタフルオロ−1,4−テトラヨードブタン(m=2)、25%のドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン(m=3)、及び25%のヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(m=4)からなる,市販のα、ω−ジヨード過フッ素化化合物の混合物(35mg)(Apolo Scientific Ltd.)を1mLのCHClに溶解し、式(CH−(CH14−N(CH・2Iで表される金属イオン封鎖剤、即ち、ヨウ化テトラデカメトニウムを10mg、1mLのCHOHに溶解した。
【0077】
次に、この2種類の溶液を、試験管中で混合し、その後試験管を閉じた。約2時間後、白色の固体沈殿物が形成されるのが観察され、その沈殿物をろ過し、CClで2回洗浄し、そして真空下で乾燥した。以下に説明するように、実施された試験の結果が示すところによれば、得られた生成物は、ヨウ化テトラデカメトニウムとヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンとの付加物であることが確認された。
【0078】
次に、前記ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンを結晶付加物を約60℃の温度で真空下に置くことで結晶付加物から昇華させること、及び、約−198℃の温度で昇華したヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンを再凝縮させて回収することによって、金属イオン封鎖剤から分離した。
【0079】
これにより、100%の純ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンが得られた。
【0080】
前記結晶付加物に対して実施したテストの結果は以下の通りである。
融点:230℃;
IR(cm−1、選択吸収帯):
純粋ヨウ化テトラデカメトニウム:3004,2917,2852,1482,1464,972,951,921,897,733;
ヨウ化テトラデカメトニウムとヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンとの付加物:3010,2940,2865,1475,1210,1146,1105,1056,959,905,827,731;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンとヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンとの付加物:Δδ(IC2CF2CF2CF2)2=0.10,Δδ(ICF2C2CF2CF2)2=0.01,Δδ(ICF2CF2C2CF2)2=0.00,Δδ(ICF2CF2CF2C2)2=0.00.
【0081】
前記付加物結晶に対して、X線回折テスト(XRD test)を行ったところ、ヨウ化テトラデカメトニウム及びヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンが排他的に存在することが確認された。さらに、結晶状態では、ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンが、発生させられたヨウ素−ヨウ素相互作用によって、ヨウ化デカメトニウムの2個の窒素原子間及びヨウ化デカメトニウムの2個のヨウ素原子間のスペーサー鎖によって画定される空洞を占有するので、ヨウ化テトラデカメトニウムとヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンが交互に重なる並行層を形成するのが観察されている。
【0082】
前記純粋ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンに対して実施したテストの結果は以下の通りである。
IR(cm−1、選択吸収帯)
純粋ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン:1203,1145,1112,1090,1055,833;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
純粋ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン:δ=−64.71(ICCFCFCF,−113.01(ICFCFCF,−120.20(ICFCFCF,−121.05(ICFCFCF
【0083】
また、ガスクロマトグラフィーによる試験からも、この生成物は100%の純度のヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンであることが確認された。
【0084】
(実施例5)
(ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(m=4)の精製(溶液状態での))
29.3%のヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(m=4)、41.9%のイコサフルオロ−1,10−ジヨードデカン(m=5)、20.5%のテトラコサフルオロ−1,12−ジヨードドデカン(m=6)、6.6%のオクタコサフルオロ−1,14−ジヨードテトラデカン(m=7)、及び1.6%ドトリアコンタフルオロ−1,16−ジヨードヘキサデカン(m=8)からなる,市販のα、ω−ジヨード過フッ素化化合物の混合物(47mg)(分別蒸留による製品が、Solvay Solexis S.p.A.から提供される)を3mLのCFClCFClに溶解し、式(CH−(CH14−N(CH・2Iで表される金属イオン封鎖剤、即ち、ヨウ化テトラデカメトニウムを9mg、別に1mLのCFClCFClに溶解した。
【0085】
次に、この2種類の溶液を試験管中で混合し、その後試験管を閉じた。約2時間後、白色の固体沈殿物が形成されるのが観察され、その沈殿物をろ過し、CClで2回洗浄し、そして真空下で乾燥した。以下に説明するように、実施された試験の結果が示すところによれば、得られた生成物は、ヨウ化テトラデカメトニウムとヘキサデカフルオロ−1、8−ジヨードオクタンとの付加物であることが確認された。
【0086】
前記ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンを、次に、結晶付加物を約60℃の温度で真空下に置くことで結晶付加物から昇華させること、及び、約−198℃の温度で昇華したヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンを再凝縮させて回収することによって、金属イオン封鎖剤から分離した。
これにより、100%の純ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンが得られた。
【0087】
前記結晶付加物に対して実施したテストの結果は以下の通りである。
融点:230℃;
IR(cm−1、選択吸収帯):
純粋ヨウ化テトラデカメトニウム:3004,2917,2852,1482,1464,972,951,921,897,733;
ヨウ化テトラデカメトニウムとヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンとの付加物:3010,2940,2865,1475,1210,1146,1105,1056,959,905,827,731;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
ヨウ化テトラデカメトニウムとヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンとの付加物:Δδ(ICF2CF2CF2CF2)2=0.10,Δδ(ICF2C2CF2CF2)2=0.01,Δδ(ICF2CF2C2CF2)2=0.00,Δδ(ICF2CF2CF2C2)2=0.00.
【0088】
前記付加物結晶に対して、X線回折テスト(XRD test)を行ったところ、ヨウ化テトラデカメトニウム及びヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンが排他的に存在することが確認された。さらに、結晶状態では、ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンが、発生させられたヨウ素−ヨウ素相互作用によって、ヨウ化デカメトニウムの窒素原子間及びヨウ化デカメトニウムの2個のヨウ素原子間のスペーサー空洞によって画定される空洞を占有するので、ヨウ化テトラデカメトニウムとヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンが交互に重なる並行層を形成するのが観察されている。
【0089】
前記純粋ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンに対して実施したテストの結果は以下の通りである。
IR(cm−1、選択吸収帯)
純粋ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン:1203,1145,1112,1090,1055,833;
19F NMR(470.6MHz,CDOD,0.002M):
純粋ヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン:δ=−64.71(ICCFCFCF,−113.01(ICFCFCF,−120.20(ICFCFCF,−121.05(ICFCFCF
【0090】
また、ガスクロマトグラフィーによる試験からも、この生成物は100%の純度のヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンであることが確認された。
【0091】
(実施例6)
(イコサフルオロ−1,10−ジヨードデカン(m=5)の精製(溶液状態での))
29.3%のヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(m=4)、41.9%のイコサフルオロ−1,10−ジヨードデカン(m=5)、20.5%のテトラコサフルオロ−1,12−ジヨードドデカン(m=6)、6.6%のオクタコサフルオロ−1,14−ジヨードテトラデカン(m=7)、及び1.6%ドトリアコンタフルオロ−1,16−ジヨードヘキサデカン(m=8)からなる,市販のα、ω−ジヨード過フッ素化化合物の混合物(25mg)(分別蒸留による製品が、Solvay Solexis S.p.A.から提供される)を1mLのCClに溶解し、式(CH−(CH16−N(CH・2Iで表される金属イオン封鎖剤、即ち、ヨウ化ヘキサデカメトニウムを6mg、1mLのCHOHに溶解した。
【0092】
次に、この2種類の溶液を試験管中で混合し、その後試験管を閉じた。約2時間後、白色の固体沈殿物が形成されるのが観察され、その沈殿物をろ過し、CClで2回洗浄し、そして真空下で乾燥した。実施された試験の結果が示すところによれば、得られた生成物は、ヨウ化ヘキサデカメトニウムとイコサフルオロ−1,10−ジヨードデカンとの付加物であることが確認された。
【0093】
結晶付加物の融点は、222℃であった。
【0094】
前記イコサフルオロ−1,10−ジヨードデカンを、次に、結晶付加物を約60℃の温度で真空下に置くことで結晶付加物から昇華させること、及び、約−198℃の温度で昇華したイコサフルオロ−1,10−ジヨードデカンを再凝縮させて回収することによって、金属イオン封鎖剤から分離した。
【0095】
また、ガスクロマトグラフィーによる試験からも、この生成物は100%の純度のイコサフルオロ−1,10−ジヨードデカンであることが確認された。
【0096】
(実施例7)
(テトラコサフルオロ−1,12−ジヨードドデカン(m=6)の精製(溶液状態での))
29.3%のヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(m=4)、41.9%のイコサフルオロ−1,10−ジヨードデカン(m=5)、20.5%のテトラコサフルオロ−1,12−ジヨードドデカン(m=6)、6.6%のオクタコサフルオロ−1,14−ジヨードテトラデカン(m=7)、及び1.6%ドトリアコンタフルオロ−1,16−ジヨードヘキサデカン(m=8)からなる,市販のα、ω−ジヨード過フッ素化化合物の混合物(50mg)(分別蒸留による製品が、Solvay Solexis S.p.A.から提供される)を3mLのCFClCFClに溶解し、式(CH−(CH18−N(CH・2Iで表される金属イオン封鎖剤、即ち、ヨウ化オクタデカメトニウムを5mg、別に1mLのCFClCFClに溶解した。
【0097】
この2種類の溶液を、次に試験管中で混合し、その後試験管を閉じた。約2時間後、白色の固体沈殿物が形成されるのが観察され、その沈殿物をろ過し、CClで2回洗浄し、そして真空下で乾燥した。実施された試験の結果が示すところによれば、得られた生成物は、ヨウ化オクタデカメトニウムとテトラコサフルオロ−1,12−ジヨードドデカンとの付加物であることが確認された。
【0098】
前記テトラコサフルオロ−1,12−ジヨードドデカンを、次に、結晶付加物を約60℃の温度で真空下に置くことで結晶付加物から昇華させること、及び、約−198℃の温度で昇華したテトラコサフルオロ−1,12−ジヨードドデカンを再凝縮させて回収することによって、金属イオン封鎖剤から分離した。
【0099】
また、ガスクロマトグラフィーによる試験からも、この生成物は100%の純度のテトラコサフルオロ−1,12−ジヨードドデカンであることが確認された。
【0100】
(実施例8)
(金属イオン封鎖剤の選択性の評価)
(1.ヨウ化オクタメトニウム(n=8)とオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン(m=2)の付加物の調製)
ヨウ化オクタメトニウム(20mg;1当量)を約0.5mLのCHOH中に溶解した。このような溶液を、実施例2に従って得られたオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン18.8mg(1当量)を約0.5mLのCHCl中に溶解した溶液を含む試験管へ注いだ。次に、この開放状態の試験管をパラフィンオイルを含む円筒体中に設置し、このボトルを次に閉鎖した。数日後、ボトル中で溶媒が徐々に拡散した結果、ヨウ化オクタメトニウムとオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンの付加物が白色固体の形で沈殿した。
【0101】
このような沈殿物に対して実施された試験の結果は以下の通りである。
融点:188℃;
IR(cm−1,選択吸収帯):3015,2929,2862,1488,1450,1178,1128,1042,954,910,759.
【0102】
試験の結果、得られた生成物は、ヨウ化オクタメトニウムとオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンの純粋の付加物であることが確認された。前記付加物結晶に対して実施されたXRD試験によって、前記付加物結晶中には、排他的にヨウ化オクタメトニウムとオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンが存在することが確認された。実際、図4に示されるように、付加物の結晶構造中では、ヨウ化オクタメトニウム分子(炭素原子及び窒素原子を薄いグレーで示し、水素原子を白色で示した)がオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン分子(炭素原子を薄いグレーで示し、水素原子を白色で示し、そしてヨウ素原子を濃いグレーで示した)と交互に重なる。
【0103】
このように、以下の結晶学的測定値が得られる:
【表4】

【0104】
観測できるように、付加物結晶において、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン分子に対して一直線上に並ぶ表4に示されるようなヨウ素原子間の距離Bと、付加物中の同一のオクタメトニウム分子に属する窒素原子間の距離Aとの差Δ(B−A)は、3.570Åに等しく、同一の金属イオン封鎖剤とテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンからなる実施例1において観測される付加物での差Δ(B−A)よりも遥かに大きい。さらに、実施例1の場合の窒素原子間の距離Aが、前記関係n=2m+6を満たさないこの実施例の付加物の場合の同距離よりも遥かに大きいことも観測できる。いかなる理論に縛られることも望むことなく考えられることは、このヨウ化オクタメトニウムとオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンの付加物が、実施例1の場合に観測される結晶のパッキング状態と異なる結晶のパッキング状態を有しているということである。実際、同一のオクタメトニウム分子に属する窒素原子間の距離Aは、この場合、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンを収容するために適切な空洞を与えるためには不十分である。したがって、たとえ形成されたとしても、この付加物は、異なる結晶構造を有する。
【0105】
(2.ヨウ化オクタメトニウムの選択性の試験)
ヨウ化オクタメトニウムとオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンの付加物20gを試験管に入れ、実施例1で得られたテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(m=1)100gを第2の試験管に入れた。この両試験管を、開放したまま、チェンバー内に共に置き、次に前記チェンバーを閉じた。そして前記テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンを、室温下で、前記チェンバー内を自由に拡散させた。6日後、固体を含む試験管を、前記チェンバーから取り出した。この固体を、CClで洗浄し、そして減圧下で乾燥した。得られた固体に対して粉末X線回折分析を実施した所、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン(m=2)がテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(m=1)で完全に置換されていること、即ち、純粋な、ヨウ化オクタメトニウム(n=8)とテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(m=1)の1:1の混合比の付加物が形成されることが認められた。さらに、このようにして形成された付加物、即ち気相/固相交換反応から得られた付加物は、実施例1の溶液状態から得られた付加物と同一の結晶相を有していることがわかった。
【0106】
これらの結果から、本発明による前記関係n=2m+6に従い選択され、固有のm値を有する精製される予定のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物と非常に安定な付加物を形成する金属イオン封鎖剤が、選択性を有することが確認された。精製される予定のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物のm値に近いm値を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物との付加物中で結晶化する場合でさえ、このn=2m+6の関係を有する金属イオン封鎖剤が、前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を、いずれにせよ定量的に封鎖することを考慮すると、この金属イオン封鎖剤が選択性を有することはよりいっそう明らかである。
【0107】
同じ結果がまた示すところによれば、本発明の付加物は、液相において、即ち不純物を含むα,ω−ジヨード過フッ素化化合物及び金属イオン封鎖剤とを含有する溶液においてと、固相上の気相から、即ち固体金属イオン封鎖剤マトリックス上の気相に与えられた不純物を含むα,ω−ジヨード過フッ素化化合物からとの両方の場合から得ることができる。これに関連して、本発明の方法が気相/固相反応においても有効であることを更に示すための実施例を以下に示す。
【0108】
(実施例9)
(テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(m=1)の精製(気相/固相法による))
ヨウ化オクタメトニウム(20mg)と100mgの純度98%のテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン(Apolo Scientific Ltd.から市販)とをそれぞれ異なる2本の開放試験管に入れた。両方の前記開放試験管を、すぐに、チェンバーに入れ、直ちにチェンバーを閉じた。このテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンは、非常に高い揮発性を有するので、閉じられたチェンバー内を拡散し、そのため前記固体のヨウ化オクタメトニウムに接触する。前記テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンを室温で放置し6時間かけて拡散させると、黄色の固体の形成が観測されるので、この黄色固体をチェンバーから抽出し、CClで洗浄し、そして真空下で乾燥した。このようにして得られる固体に対して、内部標準としての(CFCHO)の存在下に、H及び19F NMR試験を実施したところ、形成された付加物は、1:1の混合比の2種の化合物からなることが確認された。この付加物結晶に対してX線回折テスト(XRD test)を実施したところ、この付加物結晶中には、ヨウ化オクタメトニウム及びテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンが排他的に存在し、実施例1で得られた付加物と同一の結晶相を観測できることが確認された。
【0109】
前記テトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンを、次に、約30℃の温度で真空下、結晶付加物から昇華させること、及び、約−198℃の温度で再凝縮し回収することで、前記金属イオン封鎖剤から分離した。
【0110】
これにより、市販の純度98%を有するテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタン化合物を更に、本発明の固相上の気相からの方法によって、精製し、100%の純度を有するテトラフルオロ−1,2−ジヨードエタンを得、本発明の液相から方法によって得られる最適の結果と同じ結果を得ることが可能になった。
【0111】
(実施例10)
(オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン(m=2)の精製(気相/固相法による))
ヨウ化デカメトニウム(20mg)と100mgの純度98%のオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン(Sigma−Aldrichから市販)とをそれぞれ異なる2本の開放試験管に入れた。両方の前記開放試験管を、すぐに、チェンバーに入れ、直ちにチェンバーを閉じた。このオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンは、非常に高い揮発性を有するので、閉じられたチェンバー内を拡散し、そのため前記固体のヨウ化デカメトニウムに接触する。前記オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンを室温で放置し6時間かけて拡散させると、黄色の固体の形成が観測されるので、この黄色固体をチェンバーから抽出し、CClで洗浄し、そして真空下で乾燥した。このようにして得られる固体に対して、内部標準としての(CFCHO)の存在下に、H及び19F NMR試験を実施したところ、形成された付加物は、1:1の混合比の2種の化合物からなることが確認された。この付加物結晶に対してX線回折テスト(XRD test)を実施したところ、この付加物結晶中には、ヨウ化デカメトニウム及びオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンが排他的に存在し、実施例2で得られた付加物と同一の結晶相を観測できることが確認された。
【0112】
前記オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンを、次に、約40℃の温度で真空下、結晶付加物から昇華させること、及び、約−198℃の温度で再凝縮し回収することで、前記金属イオン封鎖剤から分離した。
【0113】
これにより、市販の純度98%を有するオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン化合物を更に、本発明の固相上の気相からの方法によって、精製し、100%の純度を有するオクタフルオロ−1,4−ジヨードブタンを得、本発明の液相から方法によって得られる最適の結果と同じ結果を得ることが可能になった。
【0114】
(実施例11)
(ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン(m=3)の精製(気相/固相法による))
ヨウ化ドデカメトニウム(20mg)と100mgの純度98%のドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサン(Sigma−Aldrichから市販)とをそれぞれ異なる2本の開放試験管に入れた。両方の前記開放試験管を、すぐに、チェンバーに入れ、直ちにチェンバーを閉じた。このドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンは、非常に高い揮発性を有するので、閉じられたチェンバー内を拡散し、そのため前記固体のヨウ化ドデカメトニウムに接触する。前記ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンを室温で放置し6時間かけて拡散させると、黄色の固体の形成が観測されるので、この黄色固体をチェンバーから抽出し、CClで洗浄し、そして真空下で乾燥した。このようにして得られる固体に対して、内部標準としての(CFCHO)の存在下に、H及び19F NMR試験を実施したところ、形成された付加物は、1:1の混合比の2種の化合物からなることが確認された。この付加物結晶に対してX線回折テスト(XRD test)を実施したところ、この付加物結晶中には、ヨウ化ドデカメトニウム及びドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンが排他的に存在し、実施例3で得られた付加物と同一の結晶相を観測できることが確認された。
【0115】
次に、約50℃の温度で真空下、前記ドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンを結晶付加物から昇華させ、約−198℃で再凝縮し回収することで、前記金属イオン封鎖剤から分離した。
【0116】
これにより、市販の純度98%を有するドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンを更に、本発明の固相上の気相からの方法によって、精製し、100%の純度を有するドデカフルオロ−1,6−ジヨードヘキサンを得、本発明の液相から方法によって得られる最適の結果と同じ結果を得ることができた。
【0117】
したがって、本発明の方法は、対象とするα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を選択的且つ定量的に封鎖し、前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を精製する一方、100%の純度を有するα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を著しく高い収量で得るために、前記α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を金属イオン封鎖剤から分離することを可能にしている。特に、長鎖を有する、即ち8を超える数の炭素原子を有する、純度100%のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を提供することを可能にしている。
【0118】
さらに、このような方法では、分別蒸留が関与する既知の方法と異なり、前記付加物が室温で沈殿しそして分離され、前記金属イオン封鎖剤が再利用できるので、その工程は単純で経済的であり、実行上の利点及び製造上の利点の観点から、このような方法は、非常に有利である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I−(CFCFY)−Iで表されるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を精製する方法であって、
a)不純物を含むα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を提供する工程と、
b)工程a)の不純物を含むα,ω−ジヨード過フッ素化化合物と下式の金属イオン封鎖剤とを接触させ、付加物を形成させる工程と、
【化4】

c)工程b)の前記付加物からα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を分離する工程とを含み、
mが、1〜10の整数であり、
もし存在するならば、Yが、O及びSのいずれかであり、
Aが、N及びPのいずれかであり、
XがCl,Br,及びIのいずれかであり、
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が、互いに独立に、C1〜C6の直鎖アルキル基であり、Bが、C,O,及びSから選択される原子Zのn個からなる飽和鎖及び不飽和鎖のいずれかからなるスペーサー基であり、前記鎖は、任意に、1以上の飽和及び不飽和のいずれかの5員環、6員環、及び7員環のいずれかを含み、もし存在するならば、前記1以上の環は、それぞれ4Zに等価であり、n=2m+6であることを特徴とする方法。
【請求項2】
スペーサー基Bが脂肪族直鎖である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スペーサー基Bが炭素原子の脂肪族直鎖である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が、互いに独立に、C1〜C3の直鎖アルキル基である請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が互いに同等である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が全てメチル基である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
Xが、Iである請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
金属イオン封鎖剤が、式[(CHN−(CH−N(CH2+・2Iで表される請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
金属イオン封鎖剤が、α,ω−ジヨード過フッ素化化合物と等モル量で与えられる請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程b)で得られた付加物からα,ω−ジヨード過フッ素化化合物を分離する工程c)が、α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を真空昇華させ、次に低温再凝縮によって、α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を回収することによって行われる請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
式I−(CFCFY)−Iで表されるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物と下式で表される金属イオン封鎖剤
【化5】

との付加物であって、
mが、1〜10の整数であり、
もし存在するならば、Yが、O及びSのいずれかであり、
Aが、N及びPのいずれかであり、
Xが、Cl,Br,及びIのいずれかであり、
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が、互いに独立に、C1〜C6の直鎖アルキル基であり、Bが、C,O,及びSから選択される原子Zのn個からなる飽和鎖及び不飽和鎖のいずれかからなるスペーサー基であり、前記鎖が、任意に1以上の飽和及び不飽和のいずれかの5員環、6員環、及び7員環のいずれかを含み、もし存在するならば、前記1以上の環が、それぞれ4Zに等価であり、n=2m+6であることを特徴とする付加物。
【請求項12】
スペーサー基Bが、脂肪族直鎖である請求項11に記載の直鎖。
【請求項13】
スペーサー基Bが炭素原子の脂肪族直鎖である請求項12に記載の付加物。
【請求項14】
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が、互いに独立に、C1〜C3の直鎖アルキル基である請求項11から13のいずれかに記載の付加物。
【請求項15】
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が等しい請求項14に記載の付加物。
【請求項16】
R1,R2,R3,R4,R5,R6が全てメチル基である請求項15に記載の付加物。
【請求項17】
XがIである請求項11から16のいずれかに記載の付加物。
【請求項18】
金属イオン封鎖剤が、式[(CHN−(CH−N(CH2+・2Iで表される請求項11から17のいずれかに記載の付加物。
【請求項19】
式I−(CFCFY)−Iで表される純α,ω−ジヨード過フッ素化化合物であって、mが、5〜10であることを特徴とする純α,ω−ジヨード過フッ素化化合物。
【請求項20】
約100%の純度を有する請求項19に記載のα,ω−ジヨード過フッ素化化合物。
【請求項21】
式I−(CFCFY)−Iで表される純α,ω−ジヨード過フッ素化化合物を提供するための請求項10から17のいずれかに記載の前記式I−(CFCFY)−Iで表されるα,ω−ジヨード過フッ素化化合物と下式の金属イオン封鎖剤との付加物の使用であって、
【化6】

mが、1〜10の整数であり、
もし存在するならば、Yが、O及びSのいずれかであり、
Aが、N及びPのいずれかであり、
Xが、Cl,Br,及びIのいずれかであり、
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が、互いに独立に、C1〜C6の直鎖アルキル基であり、Bが、C,O,及びSから選択される原子Zのn個からなる飽和鎖及び不飽和鎖のいずれかからなるスペーサー基であり、前記鎖が、任意に1以上の飽和及び不飽和のいずれかの5員環、6員環、及び7員環のいずれかを含み、もし存在するならば、前記1以上の環が、それぞれ4Zに等価であり、n=2m+6であることを特徴とする付加物の使用。
【請求項22】
請求項19及び20のいずれかに記載の純α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の使用であって、前記純α,ω−ジヨード過フッ素化化合物が、mが5から10の整数である式I−(CFCFY)−Iで表され、フルオロエラストマーの製造のための連鎖移動試薬、及び、フッ素化ビニルモノマーの重合試薬のいずれかとして使用されることを特徴とする純α,ω−ジヨード過フッ素化化合物の使用。
【請求項23】
金属イオン封鎖剤としての下記化合物の使用であって、
【化7】

Aが、N及びPのいずれかであり、
Xが、Cl,Br,及びIのいずれかであり、
R1,R2,R3,R4,R5,及びR6が、互いに独立に、C1〜C6の直鎖アルキル基であり、
Bが、C,O,及びSから選択される原子Zのn個からなる飽和鎖及び不飽和鎖のいずれかからなるスペーサー基であり、前記鎖が、任意に1以上の飽和及び不飽和のいずれかの5員環、6員環、及び7員環のいずれかを含み、もし存在するならば、前記1以上の環が、それぞれ4Zに等価であり、nが、8から26の整数であることを特徴とする化合物の使用。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−533136(P2010−533136A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515475(P2010−515475)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058588
【国際公開番号】WO2009/007302
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(501193001)ポリテクニコ ディ ミラノ (18)
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO−Italy
【Fターム(参考)】