説明

β−アミロイドタンパク質会合体形成阻害剤

【課題】 β−アミロイドタンパク質(Aβ)のフィブリル生成を起こしにくくする阻害剤を提供する。
【解決手段】 配列番号1 KLVFF で示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端を、アスパルチルーアスパルチルー(アミノエトキシ)エトキシ酢酸で修飾したβ−アミロイドタンパク質のフィブリル生成阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、β−アミロイドタンパク質(Aβ)のフィブリル生成に対して有効に阻害する阻害剤に関する。
【0002】
【従来の技術】β−アミロイドタンパク質(Aβ)は、(DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA 配列番号2)で示されるポリペプチドであり、アルツハイマー病を引き起こすタンパク質として知られており、単独では毒性を示さないが、図1に示されるように会合(aggregation)してフィブリルを形成すると、神経細胞(neural cell)を死滅させることが解っている。
【0003】しかし、なぜ会合(aggregation)してフィブリルを形成するのかも、またどのようにすればフィブリルを形成しなくなるのかも良く分かっていなかった。
【0004】
【発明の解決しようとする課題】本発明者は鋭意研究した結果、β−アミロイドタンパク質(Aβ)が会合(aggregation)する箇所が、β−アミロイドタンパク質(Aβ)の分子中のほぼ同じ箇所であることを突き止めた。この部分は16〜20番目のペプチド(KLVFF)であり、比較的疎水性のアミノ酸が連なった部分であることが分かった。
【0005】そこで、β−アミロイドタンパク質(Aβ)が会合を起こしやすい付近のペプチドの配列の中から、16〜20番目のペプチド(KLVFF 配列番号1)に注目し、このペプチドを有効にブロックすれば会合が起こりにくくなると判断し、この16〜20番目のペプチド(KLVFF 配列番号1)の末端に親水基を付加する実験を行った。
【0006】さらに実験を重ねた結果、16〜20番目のペプチド(KLVFF 配列番号1)のカルボキシル末端に親水基を付加すると、β−アミロイドタンパク質(Aβ)が会合(aggregation)してフィブリルを形成しにくいことを見いだした。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、16〜20番目のペプチド(KLVFF 配列番号1)のカルボキシル末端にアスパルチルーアスパルチルー(アミノエトキシ)エトキシ酢酸又はその重合体を、図2に示すように、デザインして実験を行ったところ会合(aggregation)が起こりにくいことが解った。
【0008】
【発明の実施の態様】本発明は、16〜20番目のペプチド(KLVFF 配列番号1)のカルボキシル末端に付加する親水基として、アスパルチルーアスパルチルー(アミノエトキシ)エトキシ酢酸が非常に有力であることを見いだした。また、アスパルチルーアスパルチルー(アミノエトキシ)エトキシ酢酸は、この繰り返し単位を有する重合体であれば、さらに良い結果が得られた。
【0009】実施例アスパルチルーアスパルチルー(アミノエトキシ)エトキシ酢酸の3量体から成る親水性部分を持つ会合阻害剤((DDX)3)は、アミノ基をFmoc基で保護したアミノ酸と(アミノエトキシ)エトキシ酢酸を用い固相合成法によって合成した。フィブリル生成阻害の実験及び細胞毒性阻害の実験では、適切な溶解性を得るため、40アミノ酸残基から構成されるβ−アミロイドタンパク質を用いた。β−アミロイドタンパク質(100μM)と会合阻害剤(200μM)を含む溶液を5日間インキュベートした後、この混合溶液5μLをpH7.2に調整した25μMのコンゴーレッド溶液120μLに加え、540nmにおける吸光度を測定した。この吸光度の値によって、β−アミロイドタンパク質のフィブリル生成率を表した。β−アミロイドタンパク質の細胞毒性に対する会合阻害剤の効果は、IMR−32ヒト神経芽細胞腫を用いて調べた。β−アミロイドタンパク質(最終濃度:100μM)と会合阻害剤溶液(最終濃度:200μM)を含む溶液を調製した。この溶液を37℃で4日間インキュベートした後、96ウェルのプレート上で1x10個/ウェルになるように調整されたIMR−32ヒト神経芽細胞腫に加えた。β−アミロイドタンパク質の最終濃度は0.5μMとなった。24時間後、MTT試薬[3−(4,5−ジメチル−2−チアゾイル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロマイド](2.0mg/mL)を25μL/ウェルずつ加え、4時間培養した後、3000rpm(回転/分)で10分間遠心し、上清を除き、DMSO(ジメチルスルホキシド)を200μL/ウェルずつ加えて540nmの吸光度を測定し、生細胞数の割合を計算した。結果を表1及び表2に示す。
【0010】
【表1】


なお、DDXとは、アスパルチルーアスパルチルー(アミノエトキシ)エトキシ酢酸を表す。表1の結果より、阻害剤の存在下では、540nmでの吸光度が小さくなるので、フィブリルの生成が阻害されることが解る。阻害剤の親水性の部分が長いほど、この効果が大きいことが期待できる。
【0011】
【表2】


阻害剤存在下では、生き残る細胞数が増える。すなわち、β−アミロイドタンパク質の毒性が軽減される。
【0012】
【発明の効果】本発明の阻害剤が、β−アミロイドタンパク質のフィブリル生成に対して有効に阻害することが確認された。このフィブリル生成に対する阻害剤は、アルツハイマー病の予防、治療、診断等に役立つことが期待できる。
【0013】
【配列表】
SEQUENCE LISTING <110> Director-General of National Institute of Advanced Industrial Science and Technology,Ministry of Economy,Trade and Industry<120> Inhibitor for aggregation of beta-Amyloid<130> 11900413<140><141><150><151><160> 2 <170> PatentIn Ver. 2.1<210> 1<211> 5<212> PRT<400> 1Lys Leu Val Phe Phe 1 5<210> 2<211> 42<212> PRT<400> 2Asp Ala Glu Phe Arg His Asp Ser Gly Tyr Glu Val His His Gln Lys 1 5 10 15 Leu Val Phe Phe Ala Glu Asp Val Gly Ser Asn Lys Gly Ala Ile Ile 20 25 30 Gly Leu Met Val Gly Gly Val Val Ile Ala 35 40

【特許請求の範囲】
【請求項1】 配列番号1で示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端を、アスパルチルーアスパルチルー(アミノエトキシ)エトキシ酢酸で修飾したβ−アミロイドタンパク質(Aβ)のフィブリル生成阻害剤。
【請求項2】 修飾基が、アスパルチルーアスパルチルー(アミノエトキシ)エトキシ酢酸の重合体である請求項1に記載されたβ−アミロイドタンパク質(Aβ)のフィブリル生成阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2002−241302(P2002−241302A)
【公開日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−41170(P2001−41170)
【出願日】平成13年2月19日(2001.2.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】