説明

β−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法

【課題】溶剤、洗浄剤などとして優れた性能を有するβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法として、マイルドな条件で短時間の反応で得られ、しかも、反応後の後処理、精製が容易である製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】塩基性触媒の存在下、アクリル酸アミド類とメタノールを反応させることを特徴とするβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法であって、常圧及び温度10〜40℃で反応を行う、前記β−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、アクリル酸アミド類と低級一価アルコールをマイルドな条件で反応させることにより、β−アルコキシプロピオンアミド類を効率よく製造する方法に関する。
本発明で製造されるβ−アルコキシプロピオンアミド類は、特に溶剤,洗浄剤などに使用できる有用なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、アミド系有機溶剤は、優れた溶解力と、水に容易に溶解する性質を有することから、水によるリンスが可能であり、溶剤又は洗浄剤として望ましい性能を有している。また、最近では、ハロゲン系溶剤がオゾン層を破壊するなど環境汚染をもたらすおそれがあることや毒性が大きいことから、アミド系溶剤は、従来のハロゲン系溶剤に代替される傾向にある。
このようなアミド系溶剤としては、例えばホルムアミド、モノメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、モノエチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N、N−ジメチルホルムアミドなどが知られている。
【0003】
しかし、アミド系溶剤についても、溶解力や洗浄力に優れるとともに、さらに沸点が高くて取り扱い易く、しかもその製造が容易な化合物が望まれる。
一方、特許文献1には、重合性モノマーとして用いるα,β−オレフィン系不飽和モノカルボン酸のN,N−ジアルキルアミド類の製造法において、中間体としてβ−アルコキシ−N,N−ジアルキルプロピオンアミド類が記載されている。この中間体は、β−アルコキシプロピオン酸アルキルエステル類とジアルキルアミン類とを反応させてアミド化したものである。その反応は、例えばβ−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミドを製造する場合は、シールされた加圧ボンベ中で、しかも24〜40時間と長時間を要するものであり、これは経済的には不利な方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭49−66623号公報(第11,12頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下で、本発明は、アミド系溶剤の一つとして、優れた溶解力を有するβ−アルコキシプロピオンアミド類を、マイルドな条件で短時間の反応で製造でき、しかも、反応後の後処理、精製が容易である製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、β−置換された低級アルコキシプロピオンアミド類が溶剤や洗浄剤として極めて有用であることを知見するとともに、その製造方法を工夫することにより前記の課題を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)塩基性触媒の存在下、アクリル酸アミド類とメタノールを反応させることを特徴とするβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法であって、常圧及び温度10〜40℃で反応を行う、前記β−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法、
(2)アクリル酸アミド類が、一般式(I)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のエーテル結合を有してもよい一価の炭化水素基を示し、それらは互いに同一であっても異なっていてもよく、さらに互いに結合して環構造を形成してもよい。)
で表される化合物である上記(1)記載のβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法、
(3)アクリル酸アミド類が、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、又は4−アクリロイルモルホリンである上記(2)記載のβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法、
(4)塩基性触媒が、ナトリウムメトキシド及び/又はカリウムメトキシドである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法、
(5)塩基性触媒の使用量が、アクリル酸アミド類1モルに対して0.0001〜0.05モルの割合である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、β−アルコキシプロピオンアミド類を、反応条件がマイルドで短時間の反応で得ることができ、しかも反応後の後処理、精製が容易で効率的に製造することができる。
また、本発明で製造されるβ−アルコキシプロピオンアミド類は、溶解力、洗浄力に優れた性能を有しているので、溶剤や洗浄剤として広く適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明におけるβ−アルコキシプロピオンアミド類は、原料としてのアクリル酸アミド類と炭素数1〜4の脂肪族一価アルコールを反応させることにより得られる。ここで、アクリル酸アミド類としては、好ましくは下記一般式(I)で表される化合物である。
【0009】
【化2】

【0010】
上記一般式(I)において、R1及びR2は、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のエーテル結合を有してもよい一価の炭化水素基を示す。ここで、炭化水素基としては直鎖状,分岐状のいずれであってもよいが飽和炭化水素基が好ましい。その例としては、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基などが挙げられる。そして、R1及びR2は互いに同一であっても異なっていてもよく、さらに互いに結合して環構造を形成してもよい。この環構造は、窒素をヘテロ原子とする複素環構造であってもよく、また、窒素原子と酸素原子をヘテロ原子とする複素環構造であってもよい。この複素環構造を有する基としては、例えば1−ピロリジニル基、ピペジリノ基、モルホリノ基などを挙げることができる。
このようなアクリル酸アミドは、具体的には、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N,N−ジプロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、1−アクリロイルピロリジン、1−アクリロイルピペリジン、4−アクリロイルモルホリンなどが挙げられるが、これらの中で特にアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、及び4−アクリロイルモルホリンが好ましい。
【0011】
本発明におけるβ−アルコキシプロピオンアミド類のもう一つの原料には、炭素数1〜4の脂肪族一価アルコール(以下、低級一価アルコールと称すことがある。)が用いられる。この低級一価アルコールは、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールを挙げることができるが、これらの中でメタノール及びエタノールが好ましく、特にメタノールが好ましい。
本発明におけるβ−アルコキシプロピオンアミド類が、溶剤や洗浄剤などとして、混合物の形態で用いられる場合には、反応において混合物を製造してもよい。この場合、原料の前記アクリル酸アミド類を二種以上組み合わせて用いてもよいし、前記低級一価アルコールを二種以上組み合わせて用いてもよく、またその両方であってもよい。
【0012】
前記アクリル酸アミド類と前記低級一価アルコールとの使用割合は、低級一価アルコールを化学量論的量又はそれよりも過剰に用いることが好ましいが、あまり過剰に用いると経済性の面で不利となるので、一般的には、アクリル酸アミド類1モルに対して、低級一価アルコールが1.0〜3モル、好ましくは1.0〜2モルの範囲で用いられる。
本発明の方法においては、前記アクリル酸アミド類と、低級一価アルコールとの反応は、塩基性触媒の存在下に行われる。この塩基性触媒としては、特に制限はなく、無機塩基、有機塩基のいずれも用いることができる。無機塩基としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物等が挙げられ、有機塩基としては、例えば上記アルカリ金属のアルコキシド、第三級アミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7などが挙げられる。これらの中でアルカリ金属のアルコキシドが好ましく、特にナトリウムメトキシド及びカリウムメトキシドが好適である。
【0013】
本発明においては、前記塩基性触媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量は特に制限はなく、原料の種類などに応じて適宜選定されるが、一般的には、アクリル酸アミド類1モルに対して、0.0001〜0.05モルの範囲好ましくは0.005〜0.02モルの範囲で選定される。
本発明の方法を反応式で示すと、次のとおりである。
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R3は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R1及びR2は前記と同じである。)
すなわち、一般式(I)で表されるアクリル酸アミド類と一般式(II)で表される低級一価アルコールとを、塩基性触媒の存在下に反応させることにより、一般式(III)で表されるβ−アルコキシプロピオンアミド類が生成する。
反応条件としては、使用する原料や触媒の種類などに応じて適宜選定されるが、反応温度は通常10〜100℃の範囲で選定される。低級一価アルコールとしてメタノールを用い、かつ塩基性触媒としてアルカリ金属のアルコキシドを用いる場合には、反応温度は10〜50℃が好ましく、10〜40℃がより好ましく、さらに25〜40℃の範囲から選択することが好ましい。あまり高温では収率が低下する場合があり、あまり低温では反応速度が低下して実用的でない。また、反応圧力は、一般的に常圧で反応が容易に進行するので経済的に有利である。反応時間は、使用する原料や触媒の種類、反応温度などに左右され、一概に決めることはできないが、通常1〜10時間で充分であり、好ましくは2〜5時間である。
【0016】
低級一価アルコールとしてメタノールを用いる場合には、生成するβ−アルコキシプロピオンアミド類としては、具体的には、β−メトキシプロピオンアミド、β−メトキシ−N−メチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N−エチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド、β−メトキシ−(N−プロピル)プロピオンアミド、β−メトキシ−(N,N−ジプロピル)プロピオンアミド、β−メトキシ−N−ブチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N,N−ジブチルプロピオンアミド、1−(β−メトキシプロピオニル)ピロリジン、1−(β−メトキシプロピオニル)ピペリジン、4−(β−メトキシプロピオニル)モルホリンなどが好ましく挙げられる。
また、低級一価アルコールとして、他のアルコールを用いた場合には、前記β−メトキシプロピオンアミド類におけるメトキシ基が、使用するアルコール由来のアルコキシル基に置換された化合物を挙げることができる。
生成したβ−アルコキシプロピオンアミド類は、反応終了後に酢酸などの酸で中和した後、蒸留などの手段により目的物である生成物を分離することにより、ほぼ100%純度の製品を容易に得ることができる。
このように、本発明においては、アミド系溶剤として優れた性能を有するβ−アルコキシプロピオンアミド類を、マイルドな条件で短時間に反応させることができ、しかも反応後の後処理、精製が容易な方法で製造することができる。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0018】
実施例1
攪拌装置、熱電対および窒素ガス導入管を備えた500ミリリットル三つ口フラスコに、N,N−ジメチルアクリルアミド198.0g(2モル)、メタノール96g(3モル)を入れた。これに、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、室温でナトリウムメトキシド1.08g(0.02モル)を含むメタノール溶液20ミリリットルを加えた。徐々に溶液の温度が上昇し、反応開始後30分で反応温度が38℃に達した。水浴を使って反応温度を30〜40℃に調節した。5時間の後に反応液の発熱はなくなり、酢酸で中和した。未反応物を留去した後、133Pa,58℃で留出した生成物を得た。この生成物は、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMRおよび13C−NMR)による解析結果から、β−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミドであり、収量は199g(収率76%)であった。
【0019】
実施例2
攪拌装置、熱電対および窒素ガス導入管を備えた200ミリリットル三つ口フラスコに、N,N−ジメチルアクリルアミド49.5g(0.5モル)、メタノール20g(0.63モル)を入れた。これに、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、室温でナトリウムメトキシド0.5g(0.009モル)を含むメタノール溶液10ミリリットルを反応液の温度が30〜40℃になるようにゆっくりと調節しながら滴下した。4時間の反応の後に、酢酸で中和し、未反応物を留去して後、実施例1と同様にして生成物を得た。この生成物は、β−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミドであり、収量は57.6g(収率88%)であった。
【0020】
実施例3
攪拌装置、熱電対および窒素ガス導入管を備えた500ミリリットル三つ口フラスコに、N,N−ジエチルアクリルアミド159g(1.25モル)、メタノール40g(1.25モル)を入れた。これに、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、室温でナトリウムメトキシド1.5g(0.028モル)を含むメタノール溶液20ミリリットルを加えた。水浴を使って反応温度を30〜40℃になるように調節した。4時間後に酢酸で中和を行い、析出した物を濾別し、溶液を蒸留して生成物(133Pa,65℃)を得た。この生成物は、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMRおよび13C−NMR)による解析結果から、β−メトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミドであり、収量は174g(収率91%)であった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明で製造されるβ−アルコキシプロピオンアミド類は、特に溶剤、洗浄剤などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性触媒の存在下、アクリル酸アミド類とメタノールを反応させることを特徴とするβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法であって、常圧及び温度10〜40℃で反応を行う、前記β−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法。
【請求項2】
アクリル酸アミド類が、一般式(I)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のエーテル結合を有してもよい一価の炭化水素基を示し、それらは互いに同一であっても異なっていてもよく、さらに互いに結合して環構造を形成してもよい。)
で表される化合物である請求項1記載のβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法。
【請求項3】
アクリル酸アミド類が、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、又は4−アクリロイルモルホリンである請求項記載のβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法。
【請求項4】
塩基性触媒が、ナトリウムメトキシド及び/又はカリウムメトキシドである請求項1〜3のいずれかに記載のβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法。
【請求項5】
塩基性触媒の使用量が、アクリル酸アミド類1モルに対して0.0001〜0.05モルの割合である請求項1〜4のいずれかに記載のβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法。

【公開番号】特開2009−185079(P2009−185079A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127982(P2009−127982)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【分割の表示】特願2003−40537(P2003−40537)の分割
【原出願日】平成15年2月19日(2003.2.19)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】