β−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法及びβ−クリプトキサンチンの抽出方法
【課題】柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチンを残存させつつ、運搬性及び保存性を向上させると共に、柿果皮からのβ−クリプトキサンチンの抽出に際して抽出効率及び作業効率を向上させる方法を提供する。
【解決手段】柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程を含むβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法、及び、柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程と、前記乾燥処理後の柿果皮からβ−クリプトキサンチンを抽出する工程とを含むβ−クリプトキサンチンの抽出方法。
【解決手段】柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程を含むβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法、及び、柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程と、前記乾燥処理後の柿果皮からβ−クリプトキサンチンを抽出する工程とを含むβ−クリプトキサンチンの抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法、及びβ−クリプトキサンチンの抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−クリプトキサンチンはカロテノイドの一種であり、プロビタミンAの特性を有すると共に、抗発癌プロモーター機能、過剰な活性酸素の除去機能等を有している。
【0003】
従来、β−クリプトキサンチンは柑橘類に含有することが知られている。柑橘類からβ−クリプトキサンチンを抽出する方法としては、みかん果汁の沈殿物からのβ−クリプトキサンチンを含有する溶剤抽出分を加水分解した後に、高速液体クロマトグラフィーを用いて高純度のβ−クリプトキサンチンを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、加水分解物を一次展開溶液と共に平均粒子径10〜80μmのシリカ粉末が充填された第1カラムに導入してβ−クリプトキサンチンを含むフラクションを分離し、脱溶媒した後に、分離物を二次展開溶媒と共に平均粒子径10〜80μmのオクタデシルシランシリカが充填された第2カラムに導入して、β−クリプトキサンチンを分離する。β−クリプトキサンチンの分離の際には、一次展開溶媒として石油エーテルを主成分とする有機溶媒を使用し、二次展開溶媒としてアセトニトリルを主成分とする有機溶媒を使用する。このため、上記の方法によって得られるβ−クリプトキサンチンを食品や飲料に添加する場合には、製品の安全性について消費者に不安を与える恐れがある。
【0004】
また、柑橘類に含まれるβ−クリプトキサンチンの量は極めて少量である。例えば、バレンシアオレンジ果汁では0.02mg/100gである。このため、β−クリプトキサンチンを柑橘類から工業的に生産する場合には、多量の原料を必要とし、製造コストがかかり、実用的ではない。
【0005】
これらの課題に対しては、本発明者らが、以前の研究において、柿果皮中に多量のβ−クリプトキサンチンが含有されていることを見出し、これを原料として有機溶媒によりβ−クリプトキサンチンを抽出する方法を提案している(例えば、特許文献2、3参照)。
【0006】
柿果皮は、例えば、干し柿の製造過程等において発生するものであり、通常は産業廃棄物として廃棄される。したがって、柿果皮を利用し有用成分を抽出することは、廃棄物利用の観点からも有用な技術である。
【0007】
【特許文献1】特開2000−136181号公報
【特許文献2】特開2004−329058号公報
【特許文献3】特開2004−331528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、柿果皮はその高い水分含量により嵩高となるため、β−クリプトキサンチン抽出に際して抽出装置が大型化し設備コストが増加すると共に、抽出効率、及び作業効率の観点からも改善すべき点があった。また、水分を多く含んだ嵩高な柿果皮は運搬性が悪く、さらに保存する場合には、広い保存スペースの確保や、腐敗防止のための低温での保存等が必要となり、全体として製造コストが高くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチンを残存させつつ、運搬性及び保存性を向上させると共に、柿果皮からのβ−クリプトキサンチンの抽出に際して抽出効率及び作業効率を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、柿果皮を所定の温度条件下で乾燥させることにより、β−クリプトキサンチンを有効に残存させたまま、柿果皮の水分含量を低下できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明に係るβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法の特徴構成は、柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程を含む点にある。
【0012】
本構成によれば、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン等の有用成分を残存させたまま、短時間に柿果皮の水分含量を低下させることができ、柿果皮の質量及び容積を低減させることができる。これにより、β−クリプトキサンチン抽出までの柿果皮の運搬性、並びに保存性を向上できる。
【0013】
本発明に係るβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法は、前記乾燥処理の前に前記柿果皮の水洗を行わないことが好ましい。これにより、乾燥後のβ−クリプトキサンチンの保存性の低下を防止することができる。
【0014】
また、本発明に係るβ−クリプトキサンチンの抽出方法の特徴構成は、柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程と、前記乾燥処理後の柿果皮からβ−クリプトキサンチンを抽出する工程とを含む点にある。
【0015】
本構成によれば、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン等の有用成分を残存させたまま、短時間に柿果皮の水分含量を低下させることができ、柿果皮の質量及び容積を低減させることができる。これにより、柿果皮よりβ−クリプトキサンチンを抽出する際に要する抽出スケールを縮小でき、コストを低減できると共に、抽出効率及び作業効率を向上できる。
本発明に係るβ−クリプトキサンチンの抽出方法は、前記抽出が有機溶媒による抽出であることが好ましい。
【0016】
本発明に係るβ−クリプトキサンチンの抽出方法は、前記乾燥処理の前に前記柿果皮の水洗を行わないことが好ましい。これにより、柿果皮における乾燥後のβ−クリプトキサンチンの保存性の低下を防止することができるため、抽出効率をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。しかし、本発明は以下の説明に限定されることなく適宜変更することができる。
【0018】
〔β−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法〕
本発明は、β−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法を提供する。詳細には、柿果皮を所定の温度条件下で乾燥処理することにより、柿果皮を保存するものである。
【0019】
ここで、原料とする柿果皮は、柿の種類に制限はなく、甘柿、渋柿の別を問わず、いずれをも使用することができる。柿の品種としては、例えば、富有、次郎、甘百日、御所、花御所、晩御所、天神御所、藤原御所、徳田御所、三ヶ谷御所、禅寺丸、藤八、水島、正月等の甘柿品種、横野、平核無、富士、西条、堂上蜂屋、会津身不知、衣紋、祇園坊、四ツ溝、大四ツ溝、愛宕、葉隠、川端、田倉、作州身不知等の渋柿品種が挙げられる。柿果皮は、そのままでも使用できるが、切断、または粉砕したものを使用することが好ましい。また、乾燥処理後に、切断、または粉砕することもできる。
【0020】
また、柿果皮は、特に限定はされないが、水洗しないまま用いることが好ましい。柿果皮は、水洗すると、β−クリプトキサンチンを柿果皮の内部に保持するために必要と考えられる糖質が水中に溶け出し、乾燥後のβ−クリプトキサンチンの保存性が低下する恐れがある。このため、柿果皮は水洗しない方が好ましく、水洗する必要がある場合には、70℃より低温の水で洗浄することが好ましく、室温以下の水で洗浄することがより好ましい。また、洗浄時間は短時間で行うことが好ましい。
【0021】
乾燥処理は、柿果皮を80〜115℃にて乾燥する。特には、105℃での乾燥が好ましい。尚、乾燥温度が低くなり過ぎると、乾燥に長時間を要し処理効率が低下するため好ましくない。一方、乾燥温度が高くなり過ぎると、短時間で乾燥できるが、β−クリプトキサンチンをはじめとする柿果皮に含まれる有用成分の残存率が低下するため好ましくない。
【0022】
乾燥処理は、上記温度条件下で、柿果皮の質量変化が起こらなくなる程度まで行うことが好ましい。具体的な乾燥所要時間は、好ましくは40〜75分間であり、特には、80℃の場合には75分間、100℃の場合には45分間、105℃の場合には45分間、110℃の場合には40分間、115℃の場合には40分間程度行うことが好ましい。
【0023】
乾燥処理は、柿果皮を上記条件で乾燥できる限り、当該分野で公知の乾燥手段を適宜に採用できる。例えば、熱風加熱乾燥装置、赤外線加熱乾燥装置、マイクロ波加熱乾燥装置等を利用することができるが、これらに限定するものではない。また、いずれも、常圧、或いは減圧を問わず、任意の圧力条件下で行うことができる。さらに、上記したような乾燥装置を使用する場合に、乾燥室内における柿果皮の載置される位置によって温度及び湿度条件に偏りがでないように、空気循環手段や調湿手段を設けることが好ましい。
【0024】
本発明によれば、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン等の有用成分を残存させたまま、短時間に柿果皮の水分含量を低下させることができ、柿果皮の質量及び容積を低減させることができる。これにより、β−クリプトキサンチン抽出までの柿果皮の運搬性、及び保存性を向上させることができる。つまり、柿果皮の剥離現場から抽出現場までに材料の運搬を要する場合であっても、運搬コストを低減でき、また保存スペースの確保においても有利である。また、水分含量の低下により腐敗の程度を低減できる。
【0025】
〔β−クリプトキサンチンの抽出方法〕
本発明は、柿果皮からのβ−クリプトキサンチンの抽出方法をも提供する。柿果皮を上述の温度条件下で乾燥処理した後、柿果皮よりβ−クリプトキサンチンを抽出するものである。
【0026】
β−クリプトキサンチンを抽出する手段としては、公知のいずれをも適用できる。有機溶媒による抽出等を利用することができ、例えば、下記の実施例2に記載の方法や、上述の特許文献2、3に記載の方法を利用することができる。具体的には、柿果皮を細かく切断し、有機溶媒の存在下で、アジテーター等により粉砕後、濾過する。得られた濾液を減圧下で濃縮した後、有機溶媒を除去する。次いで、有機溶媒で洗浄後、減圧下で干し柿臭がなくなるまで濃縮を繰り返してβ−クリプトキサンチン成分含有抽出物を得る。そして、得られたβ−クリプトキサンチン成分含有抽出物から減圧下で、例えばロータリーエバポレーター等を使用して有機溶媒を除去し、濃縮する。
【0027】
このとき、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の飽和炭化水素類が例示されるが、特に制限されるものではない。好ましくは、エタノール等、人体の健康に問題を生じさせる恐れのないものが使用される。
【0028】
本発明によれば、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン等の有用成分を残存させたまま、短時間に柿果皮の水分含量を低下させることができ、柿果皮の質量及び容積を低減させることができる。これにより、柿果皮よりβ−クリプトキサンチンを抽出する際に要する抽出スケールを縮小でき、設備投資に要するコストを低減することができる。また、柿果皮を乾燥させることによりβ−クリプトキサンチン量と水分含量の差が縮小でき、柿果皮からのβ−クリプトキサンチン抽出に際して抽出効率及び作業効率を向上させることができる。
【0029】
〔柿果皮の乾燥温度の算出方法〕
乾燥後の柿果皮からのβ−クリプトキサンチンとその近縁化合物を追跡することより柿果皮の乾燥温度を求めることができる。例えば、β−クリプトキサンチンの吸収極大波長付近の450nmにおける、クロマトグラムにおけるピークの変化を検出することにより、乾燥柿果皮の乾燥温度を求めることができる。具体的な一例を例示すると、下記の実施例4に示すクロマトグラム条件下での、約8分及び約18分に抽出されるピークのピーク面積を算出し、それによって乾燥温度を求めることができる。乾燥温度の算出に際しては、予め所与のクロマトグラム条件下での、乾燥温度と、所与の溶出時間における溶出物のピーク面積との関係を求めた検量線を作成し、かかる検量線に基づいて被検試料の乾燥温度を求めることが好ましい。このような算出方法により乾燥柿果皮の乾燥温度を求めることができることから、乾燥温度に特徴を有する本発明の保存方法、及び抽出方法の実施を判断するツールとしても利用することができる。
【実施例】
【0030】
〔実施例1〕柿果皮の乾燥温度と乾燥時間
柿果皮を種々の温度条件で乾燥させて、乾燥終了時間を求めると共に、各乾燥温度条件での柿果皮の質量変化をモニタリングした。
【0031】
<実験材料>
生の柿果皮(2006年、愛媛県西条市産の愛宕柿)を用いた。実験まで、密封した袋に入れ−30℃以下で保存した。
【0032】
<方法>
前記冷凍保存されていた柿果皮80〜90gを室温(18℃)で解凍、600mlの水で30秒間洗浄した後、紙の上に広げ水気を切った。続いて、手で1cm角にちぎり、ガラスシャーレに重ならないように広げて載せ質量を計測した後、乾燥させた。
【0033】
乾燥は、室温(時期2月、10〜20℃、暗所)、及び設定温度(雰囲気温度)を50、80、100、120、150℃とした乾燥機(ヤマト科学、DV600)を用いて行った。目視によって乾燥後に試料が明らかに湿っていない時間を、乾燥終了時間として求めた。さらに、各温度条件で乾燥後、乾燥柿果皮の質量を計測すると同時に、乾燥前の質量を100として、柿果皮を乾燥させたときの各乾燥時間に対する質量変化比率を求めた。
【0034】
<結果>
目視による確認での乾燥終了時間は、150℃の場合には25±5分間、120℃の場合には35±5分間、100℃の場合には45±5分間、80℃の場合には75±10分間、50℃の場合には210±15分間であった(実測値)。なお、室温で乾燥させた場合には、乾燥終了までに3〜4日要した。
【0035】
そして、各温度条件において柿果皮を乾燥させた場合の、質量変化比率と乾燥時間の関係を図1に示す。図1に示す通り、いずれの場合も完全に乾燥させると、乾燥前の質量に比べ20±2%まで減少した。
さらに、各乾燥温度条件での、質量変化比率と乾燥時間の関係から近似曲線(3次関数)を作製し、接線の傾きが0となる点を乾燥終了時間として求めた。その結果、150℃の場合には25.4分間、120℃の場合には31.0分間、100℃の場合には51.1分間、80℃の場合には81.0分間、50℃の場合には209.9分間となった(理論値)。
【0036】
続いて、上記で得られた乾燥終了時間と乾燥温度の関係を実測値及び理論値夫々につき、近似曲線と共に図2に示す。図2に示す通り、実測値と理論値は、誤差の範囲内にほぼ収まった。
【0037】
なお、図2に示す近似曲線は、以下の式により求めた。
(数1)
実測値:y=721.66×-0.5043
R2=0.9898
【0038】
(数2)
理論値:y=721.66×-0.4953
R2=0.9889
【0039】
〔実施例2〕乾燥前後における柿果皮中のβ−クリプトキサンチン量の変化
乾燥前の生の柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量は、乾燥によって、どの程度変化するのかを、種々の温度条件での乾燥前後における柿果皮中のβ−クリプトキサンチンの質量変化比率を求めることにより検討した。
【0040】
<方法>
乾燥前の生の柿果皮と、各乾燥温度条件(室温にて3〜4日間、50℃にて210分間、80℃にて75分間、100℃にて45分間、105℃にて45分間、110℃にて40分間、115℃にて40分間、120℃にて35分間、150℃にて25分間)で乾燥機により乾燥させた柿果皮を、それぞれ乳鉢ですり潰し、色が出なくなるまでエタノール抽出を行った。抽出後、濃縮乾固し、t−ブチルメチルエーテル10ml、エタノール10ml、60%水酸化カリウム水溶液2mlを加え、窒素雰囲気下で50℃、1時間反応させた。反応終了後、分液漏斗に移し、t−ブチルメチルエーテル30mlと食塩水30mlを加えて激しく振り分離させた後、水層を除去した。さらに食塩水を30ml加えて激しく振り、水層除去後、エーテル層を回収し、濃縮乾固した。得られた抽出物はメタノール/t−ブチルメチルエーテル=9/1溶媒に溶かし、20mlにメスアップした。調製した溶液中のβ−クリプトキサンチン濃度を、HPLCを用いて測定し、各乾燥条件における柿果皮中のβ−クリプトキサンチン量を見積もった。
【0041】
<結果>
乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率を図3に示す。乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率は、乾燥前の生の柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量を100として、各乾燥温度における乾燥後のβ−クリプトキサンチン量の比率を求めることで算出した。図3中、横軸に乾燥温度と乾燥時間を表示した。なお、生の柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量は柿の個体差が大きく、生の柿果皮100g中に15〜40mgの範囲で含まれていた。乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率を求めると、室温の場合は75.0、50℃にて210分間の場合は71.1、80℃にて75分間の場合は77.1、100℃にて45分間の場合は74.0、105℃にて45分間の場合は75.0、110℃にて40分間の場合は64.9、115℃にて40分間の場合は59.1、120℃にて35分間の場合は46.6、150℃にて25分間の場合は42.0となった。
【0042】
以上の結果より、乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率は、乾燥温度が105℃以下では70%以上であったが、更に乾燥温度を上げると減少し、120℃を超えると50%以下になることが判明した。
【0043】
〔実施例3〕乾燥柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量の比較
種々の乾燥温度条件での、乾燥柿果皮一定質量当たりに含まれるβ−クリプトキサンチン量を比較検討した。
【0044】
<方法>
生の柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量と水分含量の差が大きいため、最適な乾燥温度を決定するにあたり、生からの歩留りで単純に決定できない。その差をなくすために、乾燥柿果皮一定質量あたりに含まれるβ−クリプトキサンチンの質量比率を求めた。β−クリプトキサンチンの質量比率は、100℃での45分間の乾燥時を1.00として、各乾燥温度条件における乾燥柿果皮一定質量当たりのβ−クリプトキサンチンの質量の比率を求めることで算出した。なお、乾燥柿果皮一定質量当たりのβ−クリプトキサンチンの質量は実施例2に記載の方法に準じて測定した。
【0045】
<結果>
各乾燥温度における乾燥果皮中のβ−クリプトキサンチンの質量比率を図4に示す。図4に示す通り、室温の場合は0.93、50℃にて210分間の場合で0.87、80℃にて75分間の場合で0.93、105℃にて45分間の場合で1.01、110℃にて45分間の場合で0.88、115℃にて45分間の場合で0.80、120℃にて35分間の場合で0.64、150℃にて25分間の場合で0.51であった。
【0046】
以上の乾燥果皮中のβ−クリプトキサンチン質量比率に関する検討結果、115℃以下での乾燥処理より、β−クリプトキサンチンを良好に残存させつつ、水分を蒸発できることが判明した。
そして、実施例1〜3の結果より、80℃にて75分間〜115℃にて40分間での乾燥処理が、β−クリプトキサンチンを残存させつつ、短時間で柿果皮の水分含量を低下できる良好な乾燥条件であることが導かれる。
【0047】
〔実施例4〕柿果皮含有化合物の乾燥温度による変化
乾燥柿果皮中に含まれる化合物が乾燥温度に依存して変化するか否かを検討した。
【0048】
<方法>
各温度条件で乾燥した乾燥柿果皮からの抽出物を溶媒{メチルブチルエーテル/エタノール/60%(w/v)KOH水溶液=10/10/2(v/v/v)}中、窒素雰囲気下で40℃、2時間反応させることによりけん化した後、HPLC測定し、それぞれのクロマトグラムを比較した。なお、HPLC条件は以下の通りである。
【0049】
(分析条件)
カラム:YMC社製 Carotenoid 5μ C30
(4.6mmI.D.×250mm)
高速液体クロマトグラフ:島津製作所(株)製 HPLC−6A
検出器:島津製作所(株)製 SPD−6AV
移動層:(A)メタノール:メチルブチルエーテル:水:酢酸アンモニウム
=81:15:4:0.1
(B)メタノール:メチルブチルエーテル:酢酸アンモニウム
=10:90:0.1
タイムプログラム:開始(0分)は(A)が100%で、60分後に(B)が100%
流速:1.0ml/min
オーブン温度:32℃
検出波長:450nm
注入量:20μl
【0050】
<結果>
HPLC測定の結果得られたクロマトグラムを図5〜図11に示す。図5は乾燥前の生の柿果皮の場合の結果、図6は室温で乾燥させた場合の結果、図7は50℃にて210分間の場合の結果、図8は80℃にて75分間の場合の結果、図9は100℃にて45分間の場合の結果、図10は120℃にて35分間の場合の結果、図11は150℃にて25分間の場合の結果をそれぞれ示す。
【0051】
かかる結果より、各乾燥温度において出現するピークが相違することが確認された。具体的には、80℃以上で乾燥させると溶出時間約8.5分にピークが現れるようになった(図8〜図11)。さらに、100℃以上で乾燥させた場合、溶出時間約18分に新たなピークが検出できた(図9〜図11)。溶出時間約7分に見られていたピークは150℃で乾燥させた場合、ピークが小さくなり識別できなくなった(図11)。全体的な量は高温で乾燥させるほど減少傾向にあったが、それぞれのピーク面積の比に大きな変化は見られなかった。
【0052】
なお、図5に示すように、溶出時間約21分はβ−クリプトキサンチンであり、同約12分はルテイン、同約13分はゼアキサンチン、同約28分はβ‐カロテンであることが同定されている。その他のピークは同定していないが、溶出時間約10分、及び同約7分はカロテノイド生合成経路から、及び酸処理によってピークが消失することから、5,6−エポキシ基を有するアンテラキサンチン、ビオラキサンチンと夫々推測した。
【0053】
以上の結果より、柿果皮を乾燥する際の温度条件によって得られるクロマトグラムが相違することが判明した。したがって、柿果皮中に含まれるβ−クリプトキサンチン及びその近縁化合物を追跡することにより、例えば、溶出時間約18分の新たなピークが検出されるまで乾燥処理を行う等、乾燥柿果皮の乾燥温度を算出できることが判明した。
【0054】
〔実施例5〕柿果皮の水洗の有無の検討
乾燥前に柿果皮を水で洗浄することにより、β-クリプトキサンチンの残存量が影響を受けるか否かを検討した。
【0055】
<方法>
70℃の水に2時間浸漬処理後、室温乾燥させた場合と、水洗を行なわずに室温乾燥させた場合のβ-クリプトキサンチンの残存量を比較した。
【0056】
<結果>
処理前の生果皮に含まれるβ-クリプトキサンチン量を100とした場合に、β-クリプトキサンチン残存量は、水に浸漬処理を行なった後に乾燥処理すると44.1であり、水洗を行わないで室温乾燥すると85.2であった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】柿果皮における乾燥温度と乾燥時間の関係を示すグラフ
【図2】乾燥温度と乾燥終了時間の関係を示すグラフ
【図3】乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率を示すグラフ
【図4】乾燥温度に対する乾燥柿果皮中のβ−クリプトキサンチンの質量比率を示すグラフ
【図5】生の柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図6】室温の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図7】50℃にて210分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図8】80℃にて75分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図9】100℃にて45分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図10】120℃にて35分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図11】150℃にて25分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法、及びβ−クリプトキサンチンの抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−クリプトキサンチンはカロテノイドの一種であり、プロビタミンAの特性を有すると共に、抗発癌プロモーター機能、過剰な活性酸素の除去機能等を有している。
【0003】
従来、β−クリプトキサンチンは柑橘類に含有することが知られている。柑橘類からβ−クリプトキサンチンを抽出する方法としては、みかん果汁の沈殿物からのβ−クリプトキサンチンを含有する溶剤抽出分を加水分解した後に、高速液体クロマトグラフィーを用いて高純度のβ−クリプトキサンチンを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、加水分解物を一次展開溶液と共に平均粒子径10〜80μmのシリカ粉末が充填された第1カラムに導入してβ−クリプトキサンチンを含むフラクションを分離し、脱溶媒した後に、分離物を二次展開溶媒と共に平均粒子径10〜80μmのオクタデシルシランシリカが充填された第2カラムに導入して、β−クリプトキサンチンを分離する。β−クリプトキサンチンの分離の際には、一次展開溶媒として石油エーテルを主成分とする有機溶媒を使用し、二次展開溶媒としてアセトニトリルを主成分とする有機溶媒を使用する。このため、上記の方法によって得られるβ−クリプトキサンチンを食品や飲料に添加する場合には、製品の安全性について消費者に不安を与える恐れがある。
【0004】
また、柑橘類に含まれるβ−クリプトキサンチンの量は極めて少量である。例えば、バレンシアオレンジ果汁では0.02mg/100gである。このため、β−クリプトキサンチンを柑橘類から工業的に生産する場合には、多量の原料を必要とし、製造コストがかかり、実用的ではない。
【0005】
これらの課題に対しては、本発明者らが、以前の研究において、柿果皮中に多量のβ−クリプトキサンチンが含有されていることを見出し、これを原料として有機溶媒によりβ−クリプトキサンチンを抽出する方法を提案している(例えば、特許文献2、3参照)。
【0006】
柿果皮は、例えば、干し柿の製造過程等において発生するものであり、通常は産業廃棄物として廃棄される。したがって、柿果皮を利用し有用成分を抽出することは、廃棄物利用の観点からも有用な技術である。
【0007】
【特許文献1】特開2000−136181号公報
【特許文献2】特開2004−329058号公報
【特許文献3】特開2004−331528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、柿果皮はその高い水分含量により嵩高となるため、β−クリプトキサンチン抽出に際して抽出装置が大型化し設備コストが増加すると共に、抽出効率、及び作業効率の観点からも改善すべき点があった。また、水分を多く含んだ嵩高な柿果皮は運搬性が悪く、さらに保存する場合には、広い保存スペースの確保や、腐敗防止のための低温での保存等が必要となり、全体として製造コストが高くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチンを残存させつつ、運搬性及び保存性を向上させると共に、柿果皮からのβ−クリプトキサンチンの抽出に際して抽出効率及び作業効率を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、柿果皮を所定の温度条件下で乾燥させることにより、β−クリプトキサンチンを有効に残存させたまま、柿果皮の水分含量を低下できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明に係るβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法の特徴構成は、柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程を含む点にある。
【0012】
本構成によれば、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン等の有用成分を残存させたまま、短時間に柿果皮の水分含量を低下させることができ、柿果皮の質量及び容積を低減させることができる。これにより、β−クリプトキサンチン抽出までの柿果皮の運搬性、並びに保存性を向上できる。
【0013】
本発明に係るβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法は、前記乾燥処理の前に前記柿果皮の水洗を行わないことが好ましい。これにより、乾燥後のβ−クリプトキサンチンの保存性の低下を防止することができる。
【0014】
また、本発明に係るβ−クリプトキサンチンの抽出方法の特徴構成は、柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程と、前記乾燥処理後の柿果皮からβ−クリプトキサンチンを抽出する工程とを含む点にある。
【0015】
本構成によれば、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン等の有用成分を残存させたまま、短時間に柿果皮の水分含量を低下させることができ、柿果皮の質量及び容積を低減させることができる。これにより、柿果皮よりβ−クリプトキサンチンを抽出する際に要する抽出スケールを縮小でき、コストを低減できると共に、抽出効率及び作業効率を向上できる。
本発明に係るβ−クリプトキサンチンの抽出方法は、前記抽出が有機溶媒による抽出であることが好ましい。
【0016】
本発明に係るβ−クリプトキサンチンの抽出方法は、前記乾燥処理の前に前記柿果皮の水洗を行わないことが好ましい。これにより、柿果皮における乾燥後のβ−クリプトキサンチンの保存性の低下を防止することができるため、抽出効率をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。しかし、本発明は以下の説明に限定されることなく適宜変更することができる。
【0018】
〔β−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法〕
本発明は、β−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法を提供する。詳細には、柿果皮を所定の温度条件下で乾燥処理することにより、柿果皮を保存するものである。
【0019】
ここで、原料とする柿果皮は、柿の種類に制限はなく、甘柿、渋柿の別を問わず、いずれをも使用することができる。柿の品種としては、例えば、富有、次郎、甘百日、御所、花御所、晩御所、天神御所、藤原御所、徳田御所、三ヶ谷御所、禅寺丸、藤八、水島、正月等の甘柿品種、横野、平核無、富士、西条、堂上蜂屋、会津身不知、衣紋、祇園坊、四ツ溝、大四ツ溝、愛宕、葉隠、川端、田倉、作州身不知等の渋柿品種が挙げられる。柿果皮は、そのままでも使用できるが、切断、または粉砕したものを使用することが好ましい。また、乾燥処理後に、切断、または粉砕することもできる。
【0020】
また、柿果皮は、特に限定はされないが、水洗しないまま用いることが好ましい。柿果皮は、水洗すると、β−クリプトキサンチンを柿果皮の内部に保持するために必要と考えられる糖質が水中に溶け出し、乾燥後のβ−クリプトキサンチンの保存性が低下する恐れがある。このため、柿果皮は水洗しない方が好ましく、水洗する必要がある場合には、70℃より低温の水で洗浄することが好ましく、室温以下の水で洗浄することがより好ましい。また、洗浄時間は短時間で行うことが好ましい。
【0021】
乾燥処理は、柿果皮を80〜115℃にて乾燥する。特には、105℃での乾燥が好ましい。尚、乾燥温度が低くなり過ぎると、乾燥に長時間を要し処理効率が低下するため好ましくない。一方、乾燥温度が高くなり過ぎると、短時間で乾燥できるが、β−クリプトキサンチンをはじめとする柿果皮に含まれる有用成分の残存率が低下するため好ましくない。
【0022】
乾燥処理は、上記温度条件下で、柿果皮の質量変化が起こらなくなる程度まで行うことが好ましい。具体的な乾燥所要時間は、好ましくは40〜75分間であり、特には、80℃の場合には75分間、100℃の場合には45分間、105℃の場合には45分間、110℃の場合には40分間、115℃の場合には40分間程度行うことが好ましい。
【0023】
乾燥処理は、柿果皮を上記条件で乾燥できる限り、当該分野で公知の乾燥手段を適宜に採用できる。例えば、熱風加熱乾燥装置、赤外線加熱乾燥装置、マイクロ波加熱乾燥装置等を利用することができるが、これらに限定するものではない。また、いずれも、常圧、或いは減圧を問わず、任意の圧力条件下で行うことができる。さらに、上記したような乾燥装置を使用する場合に、乾燥室内における柿果皮の載置される位置によって温度及び湿度条件に偏りがでないように、空気循環手段や調湿手段を設けることが好ましい。
【0024】
本発明によれば、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン等の有用成分を残存させたまま、短時間に柿果皮の水分含量を低下させることができ、柿果皮の質量及び容積を低減させることができる。これにより、β−クリプトキサンチン抽出までの柿果皮の運搬性、及び保存性を向上させることができる。つまり、柿果皮の剥離現場から抽出現場までに材料の運搬を要する場合であっても、運搬コストを低減でき、また保存スペースの確保においても有利である。また、水分含量の低下により腐敗の程度を低減できる。
【0025】
〔β−クリプトキサンチンの抽出方法〕
本発明は、柿果皮からのβ−クリプトキサンチンの抽出方法をも提供する。柿果皮を上述の温度条件下で乾燥処理した後、柿果皮よりβ−クリプトキサンチンを抽出するものである。
【0026】
β−クリプトキサンチンを抽出する手段としては、公知のいずれをも適用できる。有機溶媒による抽出等を利用することができ、例えば、下記の実施例2に記載の方法や、上述の特許文献2、3に記載の方法を利用することができる。具体的には、柿果皮を細かく切断し、有機溶媒の存在下で、アジテーター等により粉砕後、濾過する。得られた濾液を減圧下で濃縮した後、有機溶媒を除去する。次いで、有機溶媒で洗浄後、減圧下で干し柿臭がなくなるまで濃縮を繰り返してβ−クリプトキサンチン成分含有抽出物を得る。そして、得られたβ−クリプトキサンチン成分含有抽出物から減圧下で、例えばロータリーエバポレーター等を使用して有機溶媒を除去し、濃縮する。
【0027】
このとき、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の飽和炭化水素類が例示されるが、特に制限されるものではない。好ましくは、エタノール等、人体の健康に問題を生じさせる恐れのないものが使用される。
【0028】
本発明によれば、柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン等の有用成分を残存させたまま、短時間に柿果皮の水分含量を低下させることができ、柿果皮の質量及び容積を低減させることができる。これにより、柿果皮よりβ−クリプトキサンチンを抽出する際に要する抽出スケールを縮小でき、設備投資に要するコストを低減することができる。また、柿果皮を乾燥させることによりβ−クリプトキサンチン量と水分含量の差が縮小でき、柿果皮からのβ−クリプトキサンチン抽出に際して抽出効率及び作業効率を向上させることができる。
【0029】
〔柿果皮の乾燥温度の算出方法〕
乾燥後の柿果皮からのβ−クリプトキサンチンとその近縁化合物を追跡することより柿果皮の乾燥温度を求めることができる。例えば、β−クリプトキサンチンの吸収極大波長付近の450nmにおける、クロマトグラムにおけるピークの変化を検出することにより、乾燥柿果皮の乾燥温度を求めることができる。具体的な一例を例示すると、下記の実施例4に示すクロマトグラム条件下での、約8分及び約18分に抽出されるピークのピーク面積を算出し、それによって乾燥温度を求めることができる。乾燥温度の算出に際しては、予め所与のクロマトグラム条件下での、乾燥温度と、所与の溶出時間における溶出物のピーク面積との関係を求めた検量線を作成し、かかる検量線に基づいて被検試料の乾燥温度を求めることが好ましい。このような算出方法により乾燥柿果皮の乾燥温度を求めることができることから、乾燥温度に特徴を有する本発明の保存方法、及び抽出方法の実施を判断するツールとしても利用することができる。
【実施例】
【0030】
〔実施例1〕柿果皮の乾燥温度と乾燥時間
柿果皮を種々の温度条件で乾燥させて、乾燥終了時間を求めると共に、各乾燥温度条件での柿果皮の質量変化をモニタリングした。
【0031】
<実験材料>
生の柿果皮(2006年、愛媛県西条市産の愛宕柿)を用いた。実験まで、密封した袋に入れ−30℃以下で保存した。
【0032】
<方法>
前記冷凍保存されていた柿果皮80〜90gを室温(18℃)で解凍、600mlの水で30秒間洗浄した後、紙の上に広げ水気を切った。続いて、手で1cm角にちぎり、ガラスシャーレに重ならないように広げて載せ質量を計測した後、乾燥させた。
【0033】
乾燥は、室温(時期2月、10〜20℃、暗所)、及び設定温度(雰囲気温度)を50、80、100、120、150℃とした乾燥機(ヤマト科学、DV600)を用いて行った。目視によって乾燥後に試料が明らかに湿っていない時間を、乾燥終了時間として求めた。さらに、各温度条件で乾燥後、乾燥柿果皮の質量を計測すると同時に、乾燥前の質量を100として、柿果皮を乾燥させたときの各乾燥時間に対する質量変化比率を求めた。
【0034】
<結果>
目視による確認での乾燥終了時間は、150℃の場合には25±5分間、120℃の場合には35±5分間、100℃の場合には45±5分間、80℃の場合には75±10分間、50℃の場合には210±15分間であった(実測値)。なお、室温で乾燥させた場合には、乾燥終了までに3〜4日要した。
【0035】
そして、各温度条件において柿果皮を乾燥させた場合の、質量変化比率と乾燥時間の関係を図1に示す。図1に示す通り、いずれの場合も完全に乾燥させると、乾燥前の質量に比べ20±2%まで減少した。
さらに、各乾燥温度条件での、質量変化比率と乾燥時間の関係から近似曲線(3次関数)を作製し、接線の傾きが0となる点を乾燥終了時間として求めた。その結果、150℃の場合には25.4分間、120℃の場合には31.0分間、100℃の場合には51.1分間、80℃の場合には81.0分間、50℃の場合には209.9分間となった(理論値)。
【0036】
続いて、上記で得られた乾燥終了時間と乾燥温度の関係を実測値及び理論値夫々につき、近似曲線と共に図2に示す。図2に示す通り、実測値と理論値は、誤差の範囲内にほぼ収まった。
【0037】
なお、図2に示す近似曲線は、以下の式により求めた。
(数1)
実測値:y=721.66×-0.5043
R2=0.9898
【0038】
(数2)
理論値:y=721.66×-0.4953
R2=0.9889
【0039】
〔実施例2〕乾燥前後における柿果皮中のβ−クリプトキサンチン量の変化
乾燥前の生の柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量は、乾燥によって、どの程度変化するのかを、種々の温度条件での乾燥前後における柿果皮中のβ−クリプトキサンチンの質量変化比率を求めることにより検討した。
【0040】
<方法>
乾燥前の生の柿果皮と、各乾燥温度条件(室温にて3〜4日間、50℃にて210分間、80℃にて75分間、100℃にて45分間、105℃にて45分間、110℃にて40分間、115℃にて40分間、120℃にて35分間、150℃にて25分間)で乾燥機により乾燥させた柿果皮を、それぞれ乳鉢ですり潰し、色が出なくなるまでエタノール抽出を行った。抽出後、濃縮乾固し、t−ブチルメチルエーテル10ml、エタノール10ml、60%水酸化カリウム水溶液2mlを加え、窒素雰囲気下で50℃、1時間反応させた。反応終了後、分液漏斗に移し、t−ブチルメチルエーテル30mlと食塩水30mlを加えて激しく振り分離させた後、水層を除去した。さらに食塩水を30ml加えて激しく振り、水層除去後、エーテル層を回収し、濃縮乾固した。得られた抽出物はメタノール/t−ブチルメチルエーテル=9/1溶媒に溶かし、20mlにメスアップした。調製した溶液中のβ−クリプトキサンチン濃度を、HPLCを用いて測定し、各乾燥条件における柿果皮中のβ−クリプトキサンチン量を見積もった。
【0041】
<結果>
乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率を図3に示す。乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率は、乾燥前の生の柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量を100として、各乾燥温度における乾燥後のβ−クリプトキサンチン量の比率を求めることで算出した。図3中、横軸に乾燥温度と乾燥時間を表示した。なお、生の柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量は柿の個体差が大きく、生の柿果皮100g中に15〜40mgの範囲で含まれていた。乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率を求めると、室温の場合は75.0、50℃にて210分間の場合は71.1、80℃にて75分間の場合は77.1、100℃にて45分間の場合は74.0、105℃にて45分間の場合は75.0、110℃にて40分間の場合は64.9、115℃にて40分間の場合は59.1、120℃にて35分間の場合は46.6、150℃にて25分間の場合は42.0となった。
【0042】
以上の結果より、乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率は、乾燥温度が105℃以下では70%以上であったが、更に乾燥温度を上げると減少し、120℃を超えると50%以下になることが判明した。
【0043】
〔実施例3〕乾燥柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量の比較
種々の乾燥温度条件での、乾燥柿果皮一定質量当たりに含まれるβ−クリプトキサンチン量を比較検討した。
【0044】
<方法>
生の柿果皮に含まれるβ−クリプトキサンチン量と水分含量の差が大きいため、最適な乾燥温度を決定するにあたり、生からの歩留りで単純に決定できない。その差をなくすために、乾燥柿果皮一定質量あたりに含まれるβ−クリプトキサンチンの質量比率を求めた。β−クリプトキサンチンの質量比率は、100℃での45分間の乾燥時を1.00として、各乾燥温度条件における乾燥柿果皮一定質量当たりのβ−クリプトキサンチンの質量の比率を求めることで算出した。なお、乾燥柿果皮一定質量当たりのβ−クリプトキサンチンの質量は実施例2に記載の方法に準じて測定した。
【0045】
<結果>
各乾燥温度における乾燥果皮中のβ−クリプトキサンチンの質量比率を図4に示す。図4に示す通り、室温の場合は0.93、50℃にて210分間の場合で0.87、80℃にて75分間の場合で0.93、105℃にて45分間の場合で1.01、110℃にて45分間の場合で0.88、115℃にて45分間の場合で0.80、120℃にて35分間の場合で0.64、150℃にて25分間の場合で0.51であった。
【0046】
以上の乾燥果皮中のβ−クリプトキサンチン質量比率に関する検討結果、115℃以下での乾燥処理より、β−クリプトキサンチンを良好に残存させつつ、水分を蒸発できることが判明した。
そして、実施例1〜3の結果より、80℃にて75分間〜115℃にて40分間での乾燥処理が、β−クリプトキサンチンを残存させつつ、短時間で柿果皮の水分含量を低下できる良好な乾燥条件であることが導かれる。
【0047】
〔実施例4〕柿果皮含有化合物の乾燥温度による変化
乾燥柿果皮中に含まれる化合物が乾燥温度に依存して変化するか否かを検討した。
【0048】
<方法>
各温度条件で乾燥した乾燥柿果皮からの抽出物を溶媒{メチルブチルエーテル/エタノール/60%(w/v)KOH水溶液=10/10/2(v/v/v)}中、窒素雰囲気下で40℃、2時間反応させることによりけん化した後、HPLC測定し、それぞれのクロマトグラムを比較した。なお、HPLC条件は以下の通りである。
【0049】
(分析条件)
カラム:YMC社製 Carotenoid 5μ C30
(4.6mmI.D.×250mm)
高速液体クロマトグラフ:島津製作所(株)製 HPLC−6A
検出器:島津製作所(株)製 SPD−6AV
移動層:(A)メタノール:メチルブチルエーテル:水:酢酸アンモニウム
=81:15:4:0.1
(B)メタノール:メチルブチルエーテル:酢酸アンモニウム
=10:90:0.1
タイムプログラム:開始(0分)は(A)が100%で、60分後に(B)が100%
流速:1.0ml/min
オーブン温度:32℃
検出波長:450nm
注入量:20μl
【0050】
<結果>
HPLC測定の結果得られたクロマトグラムを図5〜図11に示す。図5は乾燥前の生の柿果皮の場合の結果、図6は室温で乾燥させた場合の結果、図7は50℃にて210分間の場合の結果、図8は80℃にて75分間の場合の結果、図9は100℃にて45分間の場合の結果、図10は120℃にて35分間の場合の結果、図11は150℃にて25分間の場合の結果をそれぞれ示す。
【0051】
かかる結果より、各乾燥温度において出現するピークが相違することが確認された。具体的には、80℃以上で乾燥させると溶出時間約8.5分にピークが現れるようになった(図8〜図11)。さらに、100℃以上で乾燥させた場合、溶出時間約18分に新たなピークが検出できた(図9〜図11)。溶出時間約7分に見られていたピークは150℃で乾燥させた場合、ピークが小さくなり識別できなくなった(図11)。全体的な量は高温で乾燥させるほど減少傾向にあったが、それぞれのピーク面積の比に大きな変化は見られなかった。
【0052】
なお、図5に示すように、溶出時間約21分はβ−クリプトキサンチンであり、同約12分はルテイン、同約13分はゼアキサンチン、同約28分はβ‐カロテンであることが同定されている。その他のピークは同定していないが、溶出時間約10分、及び同約7分はカロテノイド生合成経路から、及び酸処理によってピークが消失することから、5,6−エポキシ基を有するアンテラキサンチン、ビオラキサンチンと夫々推測した。
【0053】
以上の結果より、柿果皮を乾燥する際の温度条件によって得られるクロマトグラムが相違することが判明した。したがって、柿果皮中に含まれるβ−クリプトキサンチン及びその近縁化合物を追跡することにより、例えば、溶出時間約18分の新たなピークが検出されるまで乾燥処理を行う等、乾燥柿果皮の乾燥温度を算出できることが判明した。
【0054】
〔実施例5〕柿果皮の水洗の有無の検討
乾燥前に柿果皮を水で洗浄することにより、β-クリプトキサンチンの残存量が影響を受けるか否かを検討した。
【0055】
<方法>
70℃の水に2時間浸漬処理後、室温乾燥させた場合と、水洗を行なわずに室温乾燥させた場合のβ-クリプトキサンチンの残存量を比較した。
【0056】
<結果>
処理前の生果皮に含まれるβ-クリプトキサンチン量を100とした場合に、β-クリプトキサンチン残存量は、水に浸漬処理を行なった後に乾燥処理すると44.1であり、水洗を行わないで室温乾燥すると85.2であった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】柿果皮における乾燥温度と乾燥時間の関係を示すグラフ
【図2】乾燥温度と乾燥終了時間の関係を示すグラフ
【図3】乾燥前後におけるβ−クリプトキサンチンの質量変化比率を示すグラフ
【図4】乾燥温度に対する乾燥柿果皮中のβ−クリプトキサンチンの質量比率を示すグラフ
【図5】生の柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図6】室温の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図7】50℃にて210分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図8】80℃にて75分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図9】100℃にて45分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図10】120℃にて35分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【図11】150℃にて25分間の乾燥における乾燥柿果皮中に含まれる化合物を示すHPLCチャート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程を含むβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法。
【請求項2】
前記乾燥処理の前に前記柿果皮の水洗を行わない請求項1に記載のβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法。
【請求項3】
柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程と、前記乾燥処理後の柿果皮からβ−クリプトキサンチンを抽出する工程とを含むβ−クリプトキサンチンの抽出方法。
【請求項4】
前記抽出が有機溶媒による抽出である請求項3に記載のβ−クリプトキサンチンの抽出方法。
【請求項5】
前記乾燥処理の前に前記柿果皮の水洗を行わない請求項3または4に記載のβ−クリプトキサンチンの抽出のための柿果皮の保存方法。
【請求項1】
柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程を含むβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法。
【請求項2】
前記乾燥処理の前に前記柿果皮の水洗を行わない請求項1に記載のβ−クリプトキサンチンを抽出するための柿果皮の保存方法。
【請求項3】
柿果皮を80〜115℃にて乾燥処理する工程と、前記乾燥処理後の柿果皮からβ−クリプトキサンチンを抽出する工程とを含むβ−クリプトキサンチンの抽出方法。
【請求項4】
前記抽出が有機溶媒による抽出である請求項3に記載のβ−クリプトキサンチンの抽出方法。
【請求項5】
前記乾燥処理の前に前記柿果皮の水洗を行わない請求項3または4に記載のβ−クリプトキサンチンの抽出のための柿果皮の保存方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−50188(P2009−50188A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218790(P2007−218790)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(507152970)財団法人東洋食品研究所 (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(507152970)財団法人東洋食品研究所 (14)
【Fターム(参考)】
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