説明

β−D−グルコピラノシルアミン誘導体組成物および中空繊維状有機チューブの製造方法

【課題】β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖不飽和脂肪酸誘導体を含む有機チューブが知られていたが、長鎖不飽和脂肪酸の市販原料には、自動酸化を受け易い分子内に複数の炭素−炭素二重結合を有する多価不飽和脂肪酸が不可避的に含まれるため、このような原料を用いた有機チューブも自動酸化を受け易く不安定であるという問題があった。本発明の課題は、有機チューブに含まれる多価不飽和脂肪酸構造を減少させることである。
【解決手段】飽和脂肪酸残基としてラウロイル基およびミリストイル基、不飽和脂肪酸残基としてオレオイル基をもつ原料を特定の組成で組み合わせたときに、不飽和脂肪酸誘導体の含有量を減少させても有機チューブが得られることを見出し、全体組成中での多価不飽和脂肪酸残基の比率を極小に抑えた有機チューブ用組成物を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、化粧品、機能性材料等の分野で重要なβ−D−グルコピラノシルアミン誘導体の組成物、ならびに、中空繊維状有機チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−D−グルコピラノシルアミンのアミノ基に長鎖飽和脂肪酸をアミド結合させた誘導体は界面活性剤として用いることができることが非特許文献1に開示されており、また、炭素数12〜41の長鎖不飽和脂肪酸をアミド結合させた誘導体は中空繊維状有機ナノチューブの構成単位として用いることができることが特許文献1および2に開示されている。このように、β−D−グルコピラノシルアミンは医薬、農薬、化粧品、機能性材料等の分野で重要な化合物である。しかしながら、上記化合物類の長鎖脂肪酸部分の脂肪酸組成に関する詳細な研究例は報告されていない。
【0003】
したがって、例えば、β−D−グルコピラノシルアミンのアミノ基に長鎖飽和脂肪酸をアミド結合させた誘導体と、炭素数12〜41の長鎖不飽和脂肪酸をアミド結合させた誘導体との混合物がどのような機能を持つかという点はこれまで知られていなかった。
また、β−D−グルコピラノシルアミンのアミノ基にステアリン酸をアミド結合させた誘導体を、水溶液からの再結晶による中空繊維状有機ナノチューブ形成条件に供した場合、有機ナノチューブは得られない(非特許文献2)か、または、大部分が塊状で一部得られる程度(特許文献1)であると報告されている。
【0004】
なお、長鎖脂肪酸とは、炭素数12以上の脂肪酸を意味する慣用名である。長鎖脂肪酸類は、一般には天然油脂から得られるものが工業品として流通している。したがって、天然油脂の産地、気候、収穫時期等の影響により含有される脂肪酸の組成が異なることが知られている。特に、不飽和脂肪酸類の場合は工業的な精製法の難易度からその影響が大きい。このような天然油脂由来の製品の一つであるオレイン酸クロリドは、高純度品の工業的な入手は困難であり、流通品の純度(ガスクロマトグラフィー分析による脂肪酸組成)は各社の試薬カタログによれば、例えば、Merck社製は70%、Sigma−Aldrich社製は85%、関東化学製は65%、東京化成工業製は55%、と記載されている。
【0005】
特許文献1で開示される中空繊維状有機ナノチューブの工業的な製造を考えた場合、長鎖不飽和脂肪酸部分の原料としてオレイン酸クロリドを使用するのがコスト上有利であるが、上述のごとく、オレイン酸クロリドはその純度(脂肪酸組成)が入手経路、入手時期等により変動する。したがって、工業原料を用いた場合には、特許文献1で開示される中空繊維状有機ナノチューブを、安定した品質を保って大量に製造することが困難であるという課題があった。
【0006】
また、天然油脂由来のオレイン酸を原料とした製品には、リノール酸等の、分子内に複数の炭素−炭素二重結合を有する長鎖多価不飽和脂肪酸類が、不純物として一定量混入することが知られている。リノール酸等の長鎖多価不飽和脂肪酸類は自動酸化を受けやすく、過酸化脂質の生成による分解や着色といった品質低下の原因となる(非特許文献3およびその引用文献)。したがって、特許文献1で開示される中空繊維状有機ナノチューブを、天然油脂由来の工業原料である市販のオレイン酸クロリドを原料として製造した場合、リノール酸等の長鎖多価不飽和脂肪酸誘導体の混入を免れないことから、製造された中空繊維状有機ナノチューブが自動酸化による分解を受けやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−224717号公報
【特許文献2】特開2008− 30185号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Carbohydrate Research, 266 211−219 (1995)
【非特許文献2】Langmuir, 21, 743−750 (2005)
【非特許文献3】化学工学論文集、 27, 76−84 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、品質の安定した中空繊維状有機チューブを工業的に製造するための、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖飽和脂肪酸誘導体と長鎖不飽和脂肪酸誘導体との組成物、ならびに、中空繊維状有機チューブの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、品質の安定した中空繊維状有機チューブを工業的に製造するための手段に関して鋭意検討した結果、β−D−グルコピラノシルアミンのラウリン酸誘導体および/またはミリスチン酸誘導体を主成分とし、β−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体が少量の特定の比率で混在する組成物が良好な中空繊維状有機チューブを形成できることを見出した。
本発明は以下の通りである。
1.下記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンと、
下記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび下記式(3)で示されるミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンの少なくとも一方と、を含み、
高速液体クロマトグラフィーの210nmの吸収波長で測定されるチャート上の相対面積比で、下記式(1)、下記式(2)および下記式(3)の総和を100%とした場合、
下記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンが、0.3〜50%含有されることを特徴とするβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

2.前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンが、1〜10%含有される、前記1.記載のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物。
3.分子中に炭素−炭素二重結合を二つ以上含む長鎖多価脂肪酸誘導体の総和が、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体の長鎖多価脂肪酸誘導体組成物全体を100%とした場合に、20%以下である前記1.又は2.記載のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物。
4.β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物全体を100%とした場合に、前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンと、
前記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび前記式(3)で示されるとミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンの少なくとも一方との総和が、80〜100%である前記1.乃至3.のいずれか一項に記載のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物。
5.前記1.乃至4.のいずれか一項に記載のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物を、炭素数4以下のアルコールに溶解し、その後、該β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物を析出させ、本中空繊維状有機チューブの平均外径が、100〜4000nmであることを特徴とする中空繊維状有機チューブの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明で提供される組成物は、脂肪酸組成中の飽和脂肪酸比率が高く、不飽和脂肪酸比率が低いため、品質の安定した中空繊維状有機チューブを形成できるという効果を有しており、利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた中空繊維状有機チューブの電子顕微鏡写真。
【図2】実施例1で得られた中空繊維状有機チューブの拡大電子顕微鏡写真。
【図3】実施例2で得られた中空繊維状有機チューブの電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1>本発明は、前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンと、前記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび前記式(3)で示されるミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンの少なくとも一方と、を含み、
高速液体クロマトグラフィーの210nmの吸収波長で測定されるチャート上の相対面積比で、前記式(1)、前記式(2)および前記式(3)の総和を100%とした場合、
前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンが、0.3〜50%含有されることを特徴とするβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物である.
【0014】
<2>他の本発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物を、炭素数4以下のアルコールに溶解し、その後、該β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物を析出させ、本有機チューブの平均外径が、100〜4000nmであることを特徴とする中空繊維状有機チューブの製造方法である。
【0015】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、有機物の分析、分離に汎用される周知の方法であり、使用するカラムの種類、溶出溶媒、検出方法などの諸条件は、その目的により選択される。本発明では下記の条件を採用した場合に得られるチャート上の相対面積比で、組成物を構成するβ−D−グルコピラノシルアミン誘導体の組成比率を規定する。
具体的に、以下に示すHPLC条件において、高速液体クロマトグラフィーを実施した。その代表例としての実施例1における、β−D−グルコピラノシルアミン誘導体組成物の各保持時間に現れる各成分名を下記表1に示す。
尚、この各成分が所定の化合物であることは、各ピーク位置でのHPLC流出液を分取し、MALDI−TOF MS法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)によって各々の成分の分子量を決定することによって同定した。
そして、チャートの現われる各成分ピークの全面積を100%とした場合、各成分ピークの各面積の百分率(%)を表2に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
<HPLC条件>
ポンプ 日立L−6000
検出器 日立L−4200
データ処理機 日立D−2500
カラム 関東化学 マイティシルRP−18 GP 150−4.6(5μm)
溶出溶媒 メタノール/0.05 Mリン酸二水素ナトリウム水溶液(V/V)=
80/20
カラム温度 40℃
検出波長 210nm
流速 0.9ml/min.
測定時間 0〜40分
【0018】
一般的に脂肪酸残基中の炭化水素鎖は波長210nmでは光吸収を示さないので、検出波長210nmにおける光吸収は、各誘導体に共通するβ−D−グルコピラノシルアミド部分に起因する。また、式(1)〜(3)の各誘導体は脂肪酸残基の炭化水素鎖部分が異なるだけなので、210nmにおけるモル吸光係数もほぼ同じと考えられる。HPLC測定では、リテンションタイムが長くなるほど吸収波形の半値幅が大きくなる傾向はあるものの、上記の理由から、各誘導体の示した吸光ピーク面積の比率が、各誘導体のモル濃度の比率を反映すると考えることは合理的である。したがって本発明ではHPLC測定で波長210nmにおける各誘導体の吸光ピーク面積を、組成物を構成するβ−D−グルコピラノシルアミン誘導体のモル組成比率を反映する数値として用いるのである。
【0019】
すなわち、上記の本発明の<1>は、前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミン(β−D−グルコピラノシルアミンとオレイル酸クロリド又はオレイル酸との縮合構造)と、前記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミン(β−D−グルコピラノシルアミンとラウリル酸クロリド又はラウリル酸との縮合構造)、および、前記式(3)で示されるとミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミン(β−D−グルコピラノシルアミンとミリスチン酸クロリド又はミリスチン酸との縮合構造)の少なくとも一方と、を含み、
高速液体クロマトグラフィーの210nmの吸収波長で測定されるチャート上の相対面積比で、前記式(1)、前記式(2)および前記式(3)の総和を100%とした場合、前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンが、0.3〜50%含有されることを特徴とするβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物である。
前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンは、好ましくは0.5〜35%、より好ましくは1〜10%含有される。
また、前記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび下記式(3)で示されるミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンの両方を含む場合は、その一方が50%以上、さらには80%以上含有されることが好ましい。
更に、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物全体を100%とする場合、前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンと、前記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび前記式(3)で示されるとミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンの少なくとも一方との総和が、70〜100%、好ましくは80〜100%、より好ましくは85〜98%であるものとすることができる。
また、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体全体(特に、デカノイル誘導体(4)、ラウロイル誘導体(2)、ミリストイル誘導体(3)、パルミトイル誘導体(5)、ステアロイル誘導体(6)、オレオイル誘導体(1)及びリノレオイル誘導体(7)の全体)を100%とする場合、前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンと、前記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび前記式(3)で示されるとミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンの少なくとも一方との総和が、70〜100%、好ましくは80〜100%、より好ましくは85〜100%、更に好ましくは90〜100%であるものとすることができる。
さらに、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体の総和を100%とする場合、前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンと、前記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび前記式(3)で示されるミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンの少なくとも一方との総和が、85〜100%、好ましくは88〜98%であるものとすることができる。
前記に示す前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンは二重結合を一つ含む誘導体であるが、二重結合を一つ含むこの誘導体に限らず、二重結合を一つ含む他の誘導体及び分子内に複数の炭素−炭素二重結合を有する長鎖多価不飽和脂肪酸類は、結晶性が低くなる。この傾向は分子内に含まれる炭素−炭素二重結合の数が多くなるとさらに顕著になり、溶液から再結晶する際には、炭素−炭素二重結合を多く含む誘導体の含有量が多くなるほど、再結晶で得られる結晶の収率が下がる。このため、炭素−炭素二重結合を含む誘導体の総量を少なくすることが好ましい。例えば、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物全体に対して、炭素−炭素二重結合を含む誘導体の総和は、50%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下である。
分子内に二重結合を二つ以上含む誘導体(二つの例;リノレオイル誘導体等)は、再結晶を妨げる影響が大きい上に、自然酸化を受けやすく、着色や分解を引き起こす場合があるので、特に総量を少なくすることが好ましい。分子内に二重結合を二つ以上含む長鎖多価脂肪酸誘導体の総和は、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物全体に対して、20%以下が好ましく、より好ましくは2%以下である。
【0020】
前記式(1)、(2)、(3)で示される化合物はいずれも公知の化合物である。例えば、前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンは(特許文献1)または(特許文献2)記載の方法等で調製することができる。また、前記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび前記式(3)で示されるミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンは(非特許文献1)記載の方法等で調製することができる。このような公知の方法等で調製した各化合物を所望の割合で混合し、例えば炭素数4以下のアルコール溶液から再結晶することにより、有機チューブを調製することができる。
また、β−D−グルコピラノシルアミンに長鎖脂肪酸クロリドを反応させる際、ラウリン酸クロリドおよび/またはミリスチン酸クロリドと、オレイン酸クロリドを所望の割合で順次または予め混合して反応させることで調製した混合物を、例えば炭素数4以下のアルコール溶液から再結晶する方法で中空繊維状有機チューブを調製することができる。
【0021】
以下、β−D−グルコピラノシルアミンに長鎖脂肪酸クロリドを反応させて調製した混合物を、例えば炭素数4以下のアルコールから再結晶することによる中空繊維状有機チューブの製造方法を例に詳細に説明する。
【0022】
本製造方法で使用するβ−D−グルコピラノシルアミンは、例えば、D−グルコースの水溶液に、重炭酸アンモニウムを飽和させて37℃で数日間反応させた後、脱塩する方法(特許文献1、合成例1)、触媒量の重炭酸アンモニウム存在下でD−グルコースを濃アンモニア水に溶解し、42℃で36時間反応後、減圧濃縮と凍結乾燥する方法(非特許文献1)、7Nのアンモニア/メタノール溶液にD−グルコースを加え、40℃で24時間反応させた後、減圧濃縮する方法などで調製したものなどを使用することができる。これらの方法で調製したβ−D−グルコピラノシルアミンは、通常、未反応のD−グルコース等の不純物を含有しているため、H−NMR等の分析手段により純度を確認して、純度を考慮した仕込み組成として、長鎖脂肪酸クロリドとの反応に用いることが好ましい。なお、7Nのアンモニア/メタノール溶液とは、7モル/リットル濃度のアンモニアを含むメタノール溶液を意味する慣用表現である。
【0023】
つぎに、前述のごとく調製したβ−D−グルコピラノシルアミンに長鎖脂肪酸クロリドを反応させる。
本工程におけるβ−D−グルコピラノシルアミンと長鎖脂肪酸クロリドの総使用量との仕込み比は、特に限定されるものではないが、収率とコストを勘案すると、β−D−グルコピラノシルアミンに対して、長鎖脂肪酸クロリドの総使用量を化学量論量付近から小過剰となる量の範囲で反応させることがコスト的に好ましい。具体的にはβ−D−グルコピラノシルアミンの1モルに対して総使用量として0.5〜2.5モルの長鎖脂肪酸クロリドを反応させた場合、トータルのコストを最小限にすることができるので好ましく、さらに好ましくは1.0〜2.0モルである。
【0024】
前記長鎖脂肪酸クロリドは、ラウリン酸クロリドおよび/またはミリスチン酸クロリドと、オレイン酸クロリドとを予め混合したものを反応させても良く、同時に反応系に加えても良く、また、任意の順で反応系に加えても良い。ラウリン酸クロリドおよび/またはミリスチン酸クロリドとオレイン酸クロリドとの使用比率は、長鎖脂肪酸クロリドの総使用量、反応順序等の条件により異なるが、モル分率でオレイン酸クロリドが0.5%〜50%、好ましくは1%〜40%、さらに好ましくは3%〜25%である。オレイン酸クロリドの使用比率が少なすぎる場合、平均外径が100〜4000nmである中空繊維状有機チューブの調製が困難となる。また、オレイン酸クロリドの使用比率が高すぎる場合、オレイン酸クロリドに含有されるリノール酸クロリド等に起因する不純物の量が増加し、中空繊維状有機チューブの品質が不安定化する。
【0025】
ラウリン酸クロリドとミリスチン酸クロリドはいずれか一方、または、任意の比率で使用することができるが、目的物である中空繊維状有機チューブの収率を勘案すると、ミリスチン酸クロリドを主成分として使用する方がより好適である。
【0026】
上記の反応は、反応溶媒中で行なわれる。反応溶媒として好ましいのは極性溶媒であり、具体的にはメタノール、エタノール、2−プロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などであり、さらに好ましいのはメタノールである。極性溶媒中には50重量%以下、好ましくは30重量%以下の水が含まれていても本発明の反応を実施することができる。また、二層分離しない程度の量の非極性溶媒を含んでいてもよい。
【0027】
反応溶媒の好ましい使用量はβ−D−グルコピラノシルアミンの使用量1gに対して3〜30mlの反応溶媒を使用するのが好適である。反応溶媒の使用量が少なすぎると反応の進行が不十分となり、多すぎる場合はコストが上昇する。
【0028】
また、上記反応において副生する酸の捕捉剤として塩基性物質を共存させることができる。この場合の塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸ナトリウム等のアルカリ金属化合物、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、N,N−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7などの3級アミンが例示され、これらは単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。反応性とコストを考慮するとトリエチルアミンが好適である。また、塩基性物質の添加量は、長鎖脂肪酸クロリドの添加量1モルに対して0.5モル〜2.0モルが好ましく、さらに好ましくは1.0モル〜1.5モルである。
【0029】
反応温度は低いほうが副生成物の発生を抑えることができるが反応時間が長時間になる傾向があり、反応温度を高くすれば反応の進行が加速されて反応時間が短くて済む。反応温度は−5℃〜35℃、更に好ましくは0℃〜25℃の範囲である。この場合の好ましい反応時間は各種条件設定により異なるが、好ましくは5分〜50時間、さらに好ましくは10分〜10時間である。
【0030】
反応液からは、溶媒抽出、溶媒洗浄、再結晶、活性炭処理、各種クロマトグラフィー等の常法により、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体の組成物を分離・精製して得ることができる。
【0031】
つぎに、本発明の第二発明であるβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物を低級アルコールに溶解後、析出させることを特徴とする平均外径が、100〜4000nmである中空繊維状有機チューブの製造方法について、説明する。
再結晶(析出)の方法は、同業者に周知の方法をいずれも用いることができるが、炭素数4以下のアルコールに加熱溶解後、温度を降下させて析出する方法が好適である。また、炭素数4以下のアルコールに溶解後、溶解度以下に濃縮する方法や、炭素数4以下のアルコールに溶解後、使用した上記のアルコールに溶解し、かつ、グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体に対する貧溶媒を加えて結晶化を促進する方法等も用いることができる。貧溶媒とは、β−D−グルコピラノシルアミン長鎖脂肪酸誘導体を溶解し難い溶媒のことであり、好ましいものとして、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等が例示される。さらに好ましいのは結晶化促進効果の大きいメチルエチルケトンである。
【0032】
再結晶に使用するのは炭素数4以下のアルコール類であり、メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−ブタノールを使用するのが好ましく、メタノール、エタノール、2−プロパノールの使用がより好適である。これらのアルコール類は、単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物を、加温して炭素数4以下のアルコール類に溶解するときの温度に限定はなく、雰囲気の圧力を上げることによってアルコール類の沸点以上で溶解することも可能であるが、好ましくは40℃以上90℃以下であり、さらに好ましくは45℃以上85℃以下である。アルコール溶液には活性炭やゼオライト、シリカゲルなどの吸着剤を接触させて不純分を吸着させることもできる。
【0034】
アルコール溶液の温度を下げてグルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物を再結晶させるときは、溶媒が凍結しない範囲で低い温度まで下げることが好ましいが、工業的に容易に実現できる−30℃〜35℃まで下げるのが好ましい。さらに好ましくは−5℃〜30℃、より好ましくは0℃〜25℃である。この時の反応液の温度の下降速度は遅い方が均一な結晶を得られるが、あまり遅いと時間がかかるので、好ましくは降温速度が毎時2℃以上50℃以下である。再結晶を促進するために、種となるβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖脂肪酸誘導体の固体を接触させたり、気体や固体片を接触させたり、上記の貧溶媒を添加したりすることもできる。
【0035】
再結晶によって、溶液中にβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖脂肪酸誘導体組成物の結晶が析出したら、ろ過や遠心分離など、公知の固液分離方法によってβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖脂肪酸誘導体組成物の固体を回収することができる。
【0036】
β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物をメタノール等の低級アルコール中で合成した場合、反応中または反応終了後に、反応液からβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物が析出する場合がある。この析出物をろ過や遠心分離など、公知の固液分離方法によって回収した後、上述のように再結晶することができる。また、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物が析出した反応混合物をそのまま加熱し、一旦析出物を溶解させた後、放冷、貧溶媒の添加等の上述の手順で再結晶することで目的物を得ることもできる。
【0037】
前記のようにして製造された中空繊維状有機チューブは、例えば図1及び2に示すように、両端開放の筒状、特に長尺筒状であり、中空繊維形状をしている。この外径は、特に限定されないが、通常、100〜4000nm、好ましくは、200〜3000nm、更に好ましくは300〜2000nmである。また、この内径も特に問わないが、通常、50〜4900nm、好ましくは、150〜2900nmである。更に、その長さも、特に問わないが、通常、100nm〜10mm、好ましくは、200nm〜1mmである。
上述のようにして得られた固体を電子顕微鏡等で観察することにより、平均外径が100〜4000nmである中空繊維状有機チューブの存在を確認することができる。電子顕微鏡を用いる例としては、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡のいずれでも好ましく用いることができ、画面上に水平状に置かれた中空繊維状有機チューブを精度良い寸法測定が可能な倍率に拡大してチューブの直径を測定することができる。寸法の測定は画像解析ソフトを用いたり、画面上にゲージを写し出して比較したりする事もできる。好ましくは5000倍〜10万倍の倍率で多数のチューブの画像を写し取り、画像解析により好ましくは10本以上のチューブの直径を測定して数平均で平均値を求めることができる。
本発明においては、以下の実施例1に示す方法により平均外径を求めた。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明を実施例を挙げて、本発明を一層明らかにするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<HPLC条件>
β−D−グルコピラノシルアミン長鎖脂肪酸誘導体組成物の分離分析をするため、結晶をメタノールに溶解して、次の測定条件でHPLC測定を行った
【0039】
<HPLC条件>
ポンプ 日立L−6000
検出器 日立L−4200
データ処理機 日立D−2500
カラム 関東化学 マイティシルRP−18 GP 150−4.6(5μm)
溶出溶媒 メタノール/0.05Mリン酸二水素ナトリウム水溶液(V/V)=80/20
カラム温度 40℃
検出波長 210nm
流速 0.9ml/min.
測定時間 0〜40分
【0040】
なお、本HPLC条件下では、デカノイル−β−D−グルコピラノシルアミン(表1ではデカノイル誘導体と略記、その他の誘導体についても同様に略記した)は約3分、ラウロイル誘導体は約5分、ミリストイル誘導体は約8分、リノレオイル誘導体は約13分、パルミトイル誘導体は約17分、オレオイル誘導体は約20分、ステアロイル誘導体は約34分の保持時間で溶出された。
【0041】
<実験例1>
和光純薬製のD−(+)−グルコース(13.0g,72.2mmol)と7Nアンモニア/メタノール(30ml)および回転子を肉厚ガラス容器に入れ、密栓後、反応容器を40℃に加温しマグネチックスターラーによる攪拌を行った。24時間後、開封し、内容物をナス型フラスコに移した。つぎに、20℃の水浴上で真空ポンプに連結し、減圧下でアンモニア/メタノールを除去した。3時間後にフラスコ内容物が乾固したのでかきとり、β−D−グルコピラノシルアミンの粗生成物(14.4g)を得た。H−NMR分析により、本粗生成物はモル分率でβ−D−グルコピラノシルアミン46%、α−グルコース19%、β−グルコース29%、および、ジ−β−D−グルコピラノシルアミン6%からなる混合物であることを確認した。
【0042】
<実験例2>
前記<実験例1>と同様の方法で調製したβ−D−グルコピラノシルアミン40.4mmolを含む混合物に、メタノール(70ml)を加えて攪拌して溶解した。つぎに、氷冷下液温4℃で和光純薬製のオレイン酸クロリド(6.80ml、20.6mmol)を5分間にわたって滴下した後、トリエチルアミン(6.00ml、43.0mmol)を5分間にわたって滴下した。さらに同温で、和光純薬製のオレイン酸クロリド(6.80ml、20.6mmol)を5分間にわたって滴下した後、25℃に昇温した。3時間攪拌を継続した後、減圧下でメタノールを留去することでβ−D−グルコピラノシルアミンとオレイン酸クロリドとの反応混合物を得た。本反応混合物に、テトラヒドロフラン(60ml)を加えて、50℃で30分間攪拌した。同温で、不溶物を吸引濾過により濾別し、テトラヒドロフランで洗浄した。濾液と洗浄液をあわせて回収し、減圧濃縮した。
【0043】
つぎに、得られた残渣に2−プロパノール(50ml)を加え、75℃で溶解した。同温で、活性炭(1g)を加え、30分間攪拌した。不溶物をセライトを用いた吸引濾過により濾別し、2−プロパノールで洗浄した。濾液と洗浄液をあわせて回収し、減圧濃縮した。
得られた残渣を40mlの2−プロパノールに80℃で溶解後、2時間かけて20℃まで冷却し、18時間静置した後、再結晶した固体を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収することで、オレオイル−β−D−グルコピラノシルアミン(6.36g)を得た。
【0044】
<実施例1>
上記<実験例1>で調製したβ−D−グルコピラノシルアミン46%、α−グルコース19%、β−グルコース29%、および、ジ−β−D−グルコピラノシルアミン6%からなる混合物(14.3g、β−D−グルコピラノシルアミンの純分33.2mmol)にメタノール(200ml)を加えて溶解した。この溶液を氷冷し、攪拌しながら、和光純薬製のオレイン酸クロリド(3.30ml,9.98mmol)を約3分間かけて滴下した。つぎに、同温で東京化成工業製のミリスチン酸クロリド(4.00ml,14.7mmol)を約4分間かけて滴下した。つぎに、同温でトリエチルアミン(7.00ml,50.2mmol)を約7分間で滴下した。さらに、同温で、東京化成工業製のミリスチン酸クロリド(6.80ml,25.0mmol)を約7分間かけて滴下した。その後、同温で1時間攪拌した後、4℃で18時間静置した。
【0045】
つぎに、生成した固体を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収し、メタノール(50ml)で洗浄した。得られた無色の固体を減圧乾燥し、重量を測定したところ、5.67gであった。この得られた個体(β−D−グルコピラノシルアミン誘導体組成物)について、前述の条件で測定したHPLCチャート上の相対面積比を表2に示す。
更に、この固体に、メタノール(310ml)を加え、外浴温度55℃で緩やかに攪拌しながら溶解した。その後、攪拌を止めて外浴をはずして25℃まで自然放冷し、そのまま18時間静置した。析出した無色の結晶を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収し、0℃のメタノール(50ml)で洗浄した。得られた無色の結晶を減圧乾燥し、重量を測定したところ、2.34gであった。走査型電子顕微鏡により本品の10,000倍写真を撮影したところ、図1のように、均一な中空繊維状有機チューブが形成されていることがわかった。走査型電子顕微鏡のサンプリングでは、平均的なチューブ径を測定するために、まず得られた有機チューブ全体を軽く攪拌した後、その一部を採り、試料台上の導電粘着テープにスパーテルで押し付けて固定した。このとき、有機チューブが折れたり潰れたりするので、板状に潰れた形状のチューブは測定対象から外し、10,000倍の画面上で、折れた有機チューブの断面が環状に見えているものを測定対象に選択した。そして図1に示したように、断面に有機チューブの長手方向と垂直方向に補助線aを引き、補助線aと接する断面上で外径および内径を読み取った。写真画面上のスケールの長さに基づいて、画面上で読み取ったチューブの外径および内径を換算した。図1の画面上に環状の断面が見えているチューブすべてについて同じ操作を繰り返し、外径と内径の各々について全ての換算値を平均して測定値とした。これらの結果を表2に示す。
尚、そのチューブの形状が十二分に視認できるように、その拡大写真を図2に示す。
また、表2中のラウロイル誘導体(2)、ミリストイル誘導体(3)及びリノレオイル誘導体(1)の括弧内の数字は、これらの3者を100%とした場合の各割合を示している。他の実施例の場合も同様である。
【0046】
[耐候性試験]:実施例1で得られた無色の結晶を減圧乾燥したもの1gを、めのう乳鉢で粉砕して、赤外線透過サンプル作成用の錠剤成型器でプレスして白色の錠剤としたものを、耐候性試験機(ATLAS社製UVCON)にかけて耐候試験した。60℃で波長350nm以下の紫外線を4時間照射することを3回繰り返し、色差計(日本電色工業株式会社製色彩色差計SZ−Σ80)を用いて、紫外線照射前の色彩(L1,a1,b1)及び照射後の色彩(L2,a2,b2)を測定し、これらの測定値から下式〔B〕により色差(ΔE)を算出した。
ΔE=〔(L1−L2)+(a1−a2)+(b1−b2)1/2 〔B〕
12時間後のΔEの値が10より小さい場合を○、10以上の場合を×と評価した。
この結果を表2に示す。以下の他例についても同様に耐候試験を行なって結果を表2に示す。
【0047】
<実施例2>
前記<実験例1>と同様の方法で調製したβ−D−グルコピラノシルアミン32.4mmolを含む混合物に、メタノール(120ml)を加えて溶解した。この溶液を氷冷し、内温4℃で攪拌しながら、和光純薬製のオレイン酸クロリド(0.80ml,2.42mmol)を約1分間かけて滴下した。つぎに、同温で東京化成工業製のラウリン酸クロリド(5.00ml,21.6mmol)を約5分間かけて滴下した。つぎに、同温でトリエチルアミン(7.00ml,50.2mmol)を約7分間で滴下した。さらに、同温で、東京化成工業製のラウリン酸クロリド(5.60ml,24.2mmol)を約5分間かけて滴下した。その後、同温で1時間攪拌した後、4℃で18時間静置した。
【0048】
つぎに、生成した固体を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収し、メタノール(50ml)で洗浄した。得られた無色の固体を減圧乾燥し、重量を測定したところ、4.38gであった。この得られた個体(β−D−グルコピラノシルアミン誘導体組成物)について、前述の条件で測定したHPLCチャート上の相対面積比を表2に示す。
更に、この固体に、メタノール(145ml)を加え、外浴温度55℃で緩やかに攪拌しながら溶解した。その後、攪拌を止めて外浴をはずして25℃まで自然放冷し、そのまま18時間静置した。析出した無色の結晶を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収し、0℃のメタノール(50ml)で洗浄した。得られた無色の結晶を減圧乾燥し、重量を測定したところ、0.82gであった。本品の10,000倍写真を電子顕微鏡で撮影したところ、図3のように外径約300−400nmの中空繊維状有機チューブが形成されていることがわかった。実施例1と同様に、写真上で断面の測定のできる有機チューブの外径と内径をすべて計測し、平均外径を350nm、平均内径を300nmと算出した。これらの結果を表2に示す。
【0049】
<実施例3>
前記<実験例1>と同様の方法で調製したβ−D−グルコピラノシルアミン33.2mmolを含む混合物に、メタノール(200ml)を加えて溶解した。この溶液を氷冷し、内温4℃で攪拌しながら、和光純薬製のオレイン酸クロリド(1.65ml,4.99mmol)を約2分間かけて滴下した。つぎに、同温で東京化成工業製のミリスチン酸クロリド(5.30ml,19.5mmol)を約5分間かけて滴下した。つぎに、同温でトリエチルアミン(7.00ml,50.2mmol)を約7分間で滴下した。さらに、同温で、東京化成工業製のミリスチン酸クロリド(6.70ml,24.6mmol)を約7分間かけて滴下した。その後、同温で1時間攪拌した後、4℃で18時間静置した。
【0050】
つぎに、生成した固体を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収し、メタノール(50ml)で洗浄した。得られた無色の固体を減圧乾燥し、重量を測定したところ、5.90gであった。この得られた個体(β−D−グルコピラノシルアミン誘導体組成物)について、前述の条件で測定したHPLCチャート上の相対面積比を表2に示す。
更に、この固体に、メタノール(330ml)を加え、外浴温度55℃で緩やかに攪拌しながら溶解した。その後、攪拌を止めて外浴をはずして25℃まで自然放冷し、そのまま18時間静置した。析出した無色の結晶を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収し、0℃のメタノール(50ml)で洗浄した。得られた無色の結晶を減圧乾燥し、重量を測定したところ、3.72gであった。本品を実施例1と同じ方法で電子顕微鏡観察し、10,000倍の写真画面上に環状の断面が見えているチューブすべてについて外径と内径を計測した結果、平均外径が約1,000nm、平均内径が900nmの中空繊維状有機チューブが形成されていることがわかった。これらの結果を表2に示す。
【0051】
<実施例4>
<実験例2>で得られたオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンを200mg、および、(非特許文献1)記載の方法で調製したミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミン800mgをメタノール(84ml)に加え、攪拌しながらメタノールの沸点近くまで加熱して溶解した。その後、攪拌を止めて25℃まで自然放冷し、そのまま18時間静置した。析出した無色の結晶を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収し、0℃のメタノール(20ml)で洗浄した。得られた無色の結晶を減圧乾燥し、重量を測定したところ、256mgであった。この得られた個体(β−D−グルコピラノシルアミン誘導体組成物)について、前述の条件で測定したHPLCチャート上の相対面積比を表2に示す。
本品の30,000倍写真を電子顕微鏡で撮影したところ、外径約600−800nmの中空繊維状有機チューブが形成されていることがわかった。平均内径、平均外径の測定は実施例1と同じ方法で、10,000倍の電子顕微鏡写真画面上に環状の断面が見えているチューブすべてについて外径と内径を計測した結果、平均外径が約700nm、平均内径が600nmの中空繊維状有機チューブが形成されていることがわかった。これらの結果を表2に示す。
【0052】
<実施例5>
上記<実験例1>と同様に調製したβ−D−グルコピラノシルアミンの純分33.2mmolを含む混合物に、メタノール(200ml)を加えて溶解した。この溶液を氷冷し、攪拌しながら、和光純薬製のオレイン酸クロリド(4.00ml,12.1mmol)を約3分間かけて滴下した。つぎに、同温で東京化成工業製のミリスチン酸クロリド(3.30ml,12.1mmol)を約4分間かけて滴下した。つぎに、同温でトリエチルアミン(7.00ml,50.2mmol)を約7分間で滴下した。さらに、同温で、東京化成工業製のミリスチン酸クロリド(6.60ml,24.3mmol)を約7分間かけて滴下した。その後、同温で1時間攪拌した後、4℃で18時間静置した。
【0053】
つぎに、生成した固体を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収し、メタノール(50ml)で洗浄した。得られた無色の固体を減圧乾燥し、重量を測定したところ、3.85gであった。この得られた個体(β−D−グルコピラノシルアミン誘導体組成物)について、前述の条件で測定したHPLCチャート上の相対面積比を表2に示す。
実施例1と同じ方法で、10,000倍の電子顕微鏡写真画面上に環状の断面が見えているチューブすべてについて外径と内径を計測した結果、平均外径が約350nm、平均内径が300nmの中空繊維状有機チューブが形成されていることがわかった。これらの結果を表2に示す。
実施例1の粗結晶段階は5.67gであり、比較すると実施例5の方が収量が低い。これは不飽和誘導体が多く、結晶性が低下したため、実施例5の結晶析出量が減少したためと考えられる。
【0054】
<比較例1>
<実験例2>で得られたオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミン3.00gにメタノール(30ml)を加え、外浴温度55℃で緩やかに攪拌しながら溶解した。その後、攪拌を止めて外浴をはずして25℃まで自然放冷し、そのまま18時間静置した。析出した無色の結晶を吸引濾過(濾紙No.5C)で回収し、0℃のメタノール(15ml)で洗浄した。得られた無色の結晶を減圧乾燥し、重量を測定したところ、1.58gであった。この得られた結晶について、前述の条件で測定したHPLCチャート上の相対面積比を表2に示す。
更に、本品を実施例1と同じ方法で電子顕微鏡観察し、10,000倍の写真画面上に環状の断面が見えているチューブすべてについて外径と内径を計測した結果、平均外径が約230nm、平均内径が180nmの中空繊維状有機チューブが形成されていることがわかった。これらの結果を表2に示す。
【0055】
<比較例2>
<実施例4>と同様の方法で、デカノイル−β−D−グルコピラノシルアミンとオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンの混合物をメタノールから再結晶することで、HPLCチャート上の相対面積比で、デカノイル−β−D−グルコピラノシルアミンを83.1%およびオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンを9.4%含む組成物を得た。本品を電子顕微鏡で観察したが中空繊維状有機チューブは確認できなかったので耐候試験も実施しなかった。これらの結果を表2に示す。
【0056】
<比較例3>
<実施例4>と同様の方法で、パルミトイル−β−D−グルコピラノシルアミンとオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンの混合物をメタノールから再結晶することで、HPLCチャート上の相対面積比で、パルミトイル−β−D−グルコピラノシルアミンを77.4%およびオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンを13.9%含む組成物を得た。本品を電子顕微鏡で観察したが中空繊維状有機チューブは確認できなかったので耐候試験も実施しなかった。これらの結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示したように、<実施例1>〜<実施例5>で調製されたラウロイル誘導体またはミリストイル誘導体を主成分とする組成物はいずれも中空繊維状有機チューブが形成されたのに対して、<比較例2>で調製したデカノイル誘導体を主成分とする組成物と<比較例3>で調製したパルミトイル誘導体を主成分とする組成物は中空繊維状有機チューブが形成されなかった。また、<比較例1>で調製したオレオイル誘導体を主成分とする組成物は中空繊維状有機チューブが形成されたが、自動酸化に対して不安定なリノレオイル誘導体がかなりの量混入していることが明らかとなった。それに対して<実施例1>〜<実施例5>では不安定なリノレオイル誘導体の混入量は極僅かであった。
【0059】
また、リノレオイル誘導体の含量が20%以上である比較例1では、中空繊維状有機チューブは形成された。しかし、得られた中空繊維状有機チューブの耐候試験の結果は、悪く、長鎖多価不飽和脂肪酸の含有量が多い場合は、耐候安定性に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物は平均外径が100〜4000nmである中空繊維状有機チューブとして、医薬、農薬、化粧品、機能性材料等の分野で好適に使用できる。
【符号の説明】
【0061】
・図1および図3右下の「1μm」の数字と直上の横線は、電子顕微鏡写真中のスケールを表し、画面上で横線の全長が1μmであることを示す。
・図2の右下の「100nm」の数字と真上の横線は、電子顕微鏡写真中のスケールを表し、画面上で横線の全長が100nmであることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンと、
下記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび下記式(3)で示されるミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンの少なくとも一方と、を含み、
高速液体クロマトグラフィーの210nmの吸収波長で測定されるチャート上の相対面積比で、下記式(1)、下記式(2)および下記式(3)の総和を100%とした場合、
下記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンが、0.3〜50%含有されることを特徴とするβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンが、1〜10%含有される請求項1記載のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物。
【請求項3】
分子中に炭素−炭素二重結合を二つ以上含む長鎖多価脂肪酸誘導体の総和が、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体の長鎖多価脂肪酸誘導体組成物全体を100%とした場合に、20%以下である請求項1又は2記載のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物。
【請求項4】
β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物全体を100%とした場合に、前記式(1)で示されるオレオイル−β−D−グルコピラノシルアミンと、
前記式(2)で示されるラウロイル−β−D−グルコピラノシルアミンおよび前記式(3)で示されるとミリストイル−β−D−グルコピラノシルアミンの少なくとも一方との総和が、80〜100%である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物を、炭素数4以下のアルコールに溶解し、その後、該β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体組成物を析出させ、本中空繊維状有機チューブの平均外径が、100〜4000nmであることを特徴とする中空繊維状有機チューブの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−79756(P2011−79756A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231928(P2009−231928)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】