β−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法
【課題】 酵素法によらない製造法でβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを製造する方法を提供する。
【解決手段】 糖質材料としてD−グルコース及びD−フルクトースを用い、酵素反応を利用することなく、加熱して反応させてFp2−6Gを生成させ、反応物中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得する。一つの具体的なFp2−6Gの製造方法は加熱反応時に水を添加しない方法であり、D−グルコース及びD−フルクトースの混合物に対して水を添加することなく加熱して反応させることによりβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを製造することができる。
【解決手段】 糖質材料としてD−グルコース及びD−フルクトースを用い、酵素反応を利用することなく、加熱して反応させてFp2−6Gを生成させ、反応物中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得する。一つの具体的なFp2−6Gの製造方法は加熱反応時に水を添加しない方法であり、D−グルコース及びD−フルクトースの混合物に対して水を添加することなく加熱して反応させることによりβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、グルコースとフルクトースの共存下において、加熱条件下で酵素反応を利用することなく反応させてβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース(以下「Fp2−6G」と略す場合もある)は日本国の特許第3871222号公報(発行日:平成19年1月24日)において新規化合物であると示された。該公報において、Fp2−6Gの製造は酵素反応を利用した方法(酵素法)により製造された。即ち該公報には、糖質を含む基質溶液に対してβ−フルクトフラノシダーゼを作用させることにより、Fp2−6Gを該溶液中に生成させ、該溶液中からFp2−6Gを取得するか、或いは、糖質を含む培地に対してβ−フルクトフラノシダーゼを産生する微生物を作用させ、Fp2−6Gを該培地中に生成させ、該培地中からFp2−6Gを取得することが示されている。
【0003】
しかしながら、Fp2−6Gを製造する方法において、酵素反応を利用せずに製造する方法、即ち、酵素を用いずに、或いは微生物を用いずにFp2−6Gを製造する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3871222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酵素法によらない製造法でβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するための主たる本発明のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース(即ち、Fp2−6G)の製造方法は、糖質材料としてD−グルコース及びD−フルクトースを用い、酵素反応を利用することなく、加熱して反応させてFp2−6Gを生成させ、反応物中からFp2−6Gを取得することを特徴とする。
【0007】
さらに一つの具体的な本発明のFp2−6Gの製造方法は加熱反応時に水を使用しない方法であり、前記主たる本発明のFp2−6Gの製造方法において、D−グルコース及びD−フルクトースの混合物に対して水を添加することなく加熱して反応させ、次いで反応物に水を添加し、溶解させてβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを含有する水溶液とし、該水溶液中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とする。
【0008】
さらに別の具体的な本発明のFp2−6Gの製造方法は、加熱反応時に水を存在させる方法であり、前記主たる本発明のFp2−6Gの製造方法において、D−グルコース及びD−フルクトースの混合物を水の存在下で加熱して反応させ、次いで反応物を含む水溶液中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とする。
【0009】
本発明のFp2−6Gの製造において加熱反応させる際の温度条件は、25℃以上200℃以下となる条件が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース(即ち、Fp2−6G)を製造する方法は、前記従来の酵素法で製造するよりも、収率が飛躍的に高く、また製造時間も短縮できるため、製造効率がよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】D−グルコース及びD−フルクトースから合成したFp2−6Gの温度の影響を、横軸を温度、縦軸をFp2−6Gの相対合成量(%)をとったグラフを示す図である。
【図2】D−グルコース及びD−フルクトースから合成したFp2−6Gの経時変化を、横軸を時間(分)、縦軸をFp2−6Gの相対合成量(%)をとったグラフを示す図である。
【図3】水を添加することなく反応させてFp2−6Gを製造した場合のFp2−6Gを含む合成糖溶液(糖サンプル溶液)のHPLC分析のチャートを示す図である。
【図4】水を添加することなく反応させてFp2−6Gを製造した場合のFp2−6Gの回収画分のHPAEC分析のチャートを示す図である。対照として植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gも併せて示す。
【図5】水を添加することなく反応させてFp2−6Gを製造した場合のFp2−6Gの回収画分の4−アミノ安息香酸エチルエステル標識化(ABEE標識化)分析のチャートを示す図である。対照として植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gも併せて示す。
【図6】対照として植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gの 1H−NMR分析のチャートを示す図である。
【図7】対照として植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gの13C−NMR分析のチャートを示す図である。
【図8】原料として用いるD−グルコースとD−フルクトースの種々の比率によるFp2−6Gの合成量の違いのグラフを示す図である。
【図9】植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gの検量線のグラフを示す図である。
【図10】ABEE標識化法による植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gの検量線のグラフを示す図である。
【図11】D−グルコース・D−フルクトース混合溶液から合成したFp2−6G相対合成量の経時変化のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のFp2−6Gの製造に用いるD−グルコースには、β−D−グルコース、無水のD−グルコース、1 水和物のD−グルコース、アノマー混合のD−グルコースの何れでもよい。D−グルコース、D−フルクトースには市販のものが好適に利用できる。また、本発明で利用可能なD−グルコース、D−フルクトースの形態は、粉末状、顆粒状、シロップ状或いは水溶液の状態でもよい。
【0013】
本発明において使用する水には、反応条件を厳密にする目的で精製水を用いることが好ましい。精製水には、ミリQ水、蒸留水或いはイオン交換水を用いることができる。
【0014】
Fp2−6Gを含有する水溶液の製造の好ましい実施の態様として、次の方法1、方法2を示す。
【0015】
〔方法1〕
方法1は、加熱反応時に水を使用しない場合のFp2−6Gの製造方法である。
【0016】
粉末状または顆粒状のD−グルコースとD−フルクトースをガラス試験管にとり混合し、水を添加しない状態で、50℃以上200℃以下、好ましくは110℃以上180℃以下、最も好ましくは130℃以上170℃以下、さらに最も好ましくは130℃以上160℃以下である。加熱反応時の温度が50℃未満であるとFp2−6Gは製造されず、また200℃を超えるとカラメル化が進み、Fp2−6Gの製造率が落ちるため好ましくない。
【0017】
加熱時間は好ましくは30分〜120分間、さらに好ましくは45分〜90分間加熱処理し、精製水を添加後溶解し、濾過してFp2−6Gを生成した糖溶液を得ることができる(下記実施例3、4、図1、図2参照)。濾過は、ディスポーサブル0.45μmあるいは0.22μmフィルター(例えば、孔径0.45μmあるいは0.22μmのDISMIC−25cs Cellulose Acetate )で濾過してFp2−6G含有糖溶液とすることができる。このFp2−6G含有糖溶液は、−4℃以下(好ましくは−80℃以下)のフリーザーで凍結させることにより保存できる。
【0018】
〔方法2〕
方法2は、加熱反応時に水を存在させる場合のFp2−6Gの製造方法である。
【0019】
粉末状、顆粒状、シロップ状又は水溶液状のD−グルコースとD−フルクトースをマイクロチューブにとり、精製水を添加後溶解し、濾過して、好ましくは25℃〜80℃、更に好ましくは25℃〜50℃で14日間以上加温処理し、Fp2−6Gを生成した糖溶液を得ることができる。製造環境が25℃以上であるならば、反応時に加熱を要しない。25℃未満ではFp2−6Gを製造することが困難である。また、50℃を超えると水分が蒸発し、定量性に欠けるので好ましくない。
【実施例】
【0020】
下記の実施例1〜4は水を添加することなく加熱した場合の実施例であり、実施例5は水の存在下で加熱した場合の実施例である。
[実施例1]
(Fp2−6G標準サンプル溶液の調製)
Fp2−6Gの標準品は、前記特許文献1に記載されている植物エキス発酵液から調製する方法により製造し、HPLC分析、ABEE標識化分析、HPAEC分析、TOF/MS分析およびNMR分析により最終的に単一にしたものをFp2−6G標準品として使用した。Fp2−6G標準品を1.0mg精秤し、0 .1 mlのMilli−Q水を加えて1.0%の「Fp2−6G標準サンプル溶液」とした。
【0021】
このFp2−6G標準サンプル溶液をさらに希釈し、0.1−1.0%(1−10mg/ml)濃度に調製し、以下の定性試験の標準対照物質として用いた。
【0022】
(標準品のFp2−6Gを用いた検量線の作成)
標準品のFp2−6Gを1mg/ml、2mg/ml、4mg/ml、8mg/mlおよび10mg/mlとなるように、それぞれ精製水で溶解させ前記実施例1のHPLC条件−A1を行い、検出されたFp2−6Gのピークから検量線を作成した。図9に標準品Fp2−6Gの検量線のグラフを示す。
【0023】
(加熱処理によるFp2−6Gの合成)
D−グルコース(シグマ社製、純度99%)100mgおよびD−フルクトース(シグマ社製、純度99%)100mgをガラス試験管に測りとり、混合し、アルミホイルで蓋をし、予め140℃に温めておいたサーモバスヒーターで60分加熱した。加熱後、デシケーター内で室温まで冷やし、Milli−Q水を1ml加え、溶解させることによりFp2−6G含有水溶液を得た。得られたFp2−6G含有水溶液を「糖サンプル溶液」とし、以下の定性試験及び定量試験に用いた。
【0024】
(加熱処理により合成したFp2−6Gの定性試験)
前記工程で得られた1.0%Fp2−6G標準サンプル溶液と、前記工程で得られた糖サンプル溶液を以下の条件でHPLC分析を行った。
【0025】
(1)HPLC条件−A1
HPLC装置〔デュアルポンプ(DP8020:商品名、東ソー株式会社製)、検出器(RI−8020:商品名、東ソー株式会社製)、インテグレータ(Chromatocorder21:商品名、東ソー株式会社製)、カラム(ODS−80Ts column:商品名、4.6mm×25cm、×2本、東ソー株式会社製)〕、溶出(H2 O、0 .4 ml/min)、カラム温度(室温)、注入量(10μl)。以後この分析条件を「HPLC条件−A1」とする。
【0026】
HPLC条件−A1で得られたFp2−6G標準サンプル溶液及び糖サンプル溶液の結果を図3に示す。Fp2−6G標準サンプル溶液と糖サンプル溶液を比較すると同一の溶出時間に溶出されたピークが一致している箇所が見られる。
【0027】
次に、Fp2−6G標準サンプル溶液のピークと、同一時間に溶出された糖サンプル溶液のピークがFp2−6Gについてのものであるかを確認するために以下の条件で、該ピークを分取した。
【0028】
(2)HPLC条件−A2
分取用HPLC装置〔デュアルポンプ(DP8020:商品名、東ソー株式会社製)、検出器(RI−8020:商品名、東ソー株式会社製)、オーブン(CO−8020:商品名、東ソー株式会社製)、インテグレータ(Chromatocorder21:商品名、東ソー株式会社製)、カラム(ODS−80Ts column:商品名、20mm×25cm、東ソー株式会社製)〕、溶出(H2 O、3.0ml/min)、カラム温度(35℃)、注入量(200μl)。以後この分析条件をHPLC条件−A2とする。
【0029】
標準品のFp2−6Gと同一の溶出時間に検出された糖サンプル溶液のピークを10回分取し、この分取液を濃縮・乾固し、11.3mgの凍結乾燥物を得た。その後、Mill−Q水に溶解させ、以下のようにしてその後の定性分析に用いた。
【0030】
(3)HPLC条件−B(HPAEC分析)
前記(2)HPLC条件−A2で得られた分取物(ODS−80Ts分取画分)のピークが単一のFp2−6Gであることを確認するために、該分取物と標準品のFp2−6Gについて、以下の条件でHPAEC分析を行った。
【0031】
カラム(Dionex,CarboPac PA1:商品名、4.0mmID×250mm、ダイオネックス株式会社製)、ガードカラム(Dionex,CarboPac Gurd:商品名、ダイオネックス株式会社製)、移動層A(150mM NaOH)、移動層B(500mM sodium acetate in 150mM NaOH)、グラジエント条件(0→1分:25mM、1→2分:25−50mM、2→20分:50−200mM、20→22分:500mM、22→30分:25mM)、カラム温度(室温)、注入量(25μl)、測定電位((El):0.1V(500ms))、酸化電位((E2 ):0.6V(100ms))、還元電位((E3):−0.6V(50ms))。以後この分析条件を「HPLC条件−B」とする。
【0032】
この分析結果を回収分画のHPAEC分析のチャートとして図4に示す。図4によれば、標準品のFp2−6Gの同溶出時間にHPLC条件−Bにおいてもピークが認められた。
【0033】
(4)HPLC条件−C(ABEE標識化分析)
前記(2)HPLC条件−A2で得られた分取物(ODS−80Ts分取画分)のピークがFp2−6Gと同じ還元性の物質であることを確認するために該分取物と標準品のFp2−6Gについて、以下の条件で周知のABEE標識化分析を行った。ABEE標識化分析は、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry., 61(11), 1944-1946 (1997)に記載の方法に準じて行った。
【0034】
前記(2)HPLC条件−A2で得られたサンプル10ulにABEE化試薬〔株式会社J−オイルミルズ製、ABEE溶液(4−アミノ安息香酸エチルエステルを含むメタノール溶液)、酢酸、還元剤(ピリジンボランコンプレックス)からなる試薬〕40μlを加え、80℃で1 時間加熱した。加熱後、精製水0.2mlとクロロホルム0.2mlを加え混合し、遠心分離(1,000rpm)後上澄み液を精製水にて適宜希釈したものをHPLCサンプルとした。
【0035】
ABEE標識化HPLC装置〔デュアルポンプ(DP8020:商品名、東ソー株式会社製)、検出器(UV−8020:商品名、東ソー株式会社製)、インテグレータ(Chromatocorder21:商品名、東ソー株式会社製)、カラム(Honenpak C−18 column:商品名、4.6mm×7.5cm、×2 本、J−オイルミルズ社製)〕、溶出(6.0%アセトニトリルを含む0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH4 .0 )、0 .5 ml/mm)、カラム温度(室温)、注入量(10μl)。以後この分析条件を「HPLC条件−C」とする。
【0036】
該分析条件で標準品のFp2−6GとODS−80Ts分取画分をABEE標識化分析した結果を表すチャートを図5に示す。図5によれば、HPLC条件−A2で得られたODS−80Ts分取画分のピークは、標準品であるFp2−6Gと同溶出時間のピークであることが認めれ、且つこの物質は還元性を持つことが認められた。
【0037】
(5)TOF/MS分析
前記HPLC条件−A2で得られた分取物のピークの分子量を確認するためTOF/MS分析を行った。その結果、HPLC条件−A2で得られたピークは365の〔M+Na〕イオンピークを与え、標準品のFp2−6Gと同じ分子量であることが認められた。
【0038】
(6)NMR分析
HPLC条件−A2 で得られたピークの構造を確認するためNMR分析を行った。その結果を表1のケミカルシフト、図6と図7のチャートに示す。NMR分析による構造の確認は、標準品のFp2−6Gの 1H−(図6)と13C−NMR(図7)のケミカルシフトの比較により特定できた。
【0039】
【表1】
【0040】
以上のHPLC条件−Al、HPLC条件−A2、HPLC条件−B、HPLC条件−C、TOF/MS分析およびNMR分析の結果、得られたピークは標準品であるFp2−6Gと同一物質で単一であることが分かる。
【0041】
(7)グルコースとフルクトースの比率による合成量の違い
前記の加熱処理によるFp2−6Gの合成方法において、D−グルコースとD−フルクトースの比率をそれぞれ、D−グルコース:D−フルクトース=1:0、1:1、1:2、2:1、0:1と変えて、Fp2−6Gの製造量を確認した。その結果を図8のグラフにて示す。図8のグラフによれば、D−グルコース:D−フルクトースが1:1、1:2、2:1の時にFp2−6Gが製造されることが分かる。D−グルコース:D−フルクトース=1〜2:1〜2が好ましく、さらに好ましくはD−グルコース:D−フルクトース=1:1〜2であることが分かる。
【0042】
(8)酵素法との比較
前記の加熱処理によるFp2−6Gの合成方法において、D−グルコース100mg、D−フルクトース100mgとして、90分の反応でFp2−6Gを6.0mg得た。
【0043】
これは、酵素法によるFp2−6Gの最大合成量の約15倍に相当することから、収率が飛躍的に高い。さらに、酵素法ではFp2−6Gの合成量が最大になる時間が168時間なのに対し、本発明では1.5時間でFp2−6Gの合成量が最大となることから、製造時間の短縮になる。
【0044】
[実施例2]
(電気炉を用いたFp2−6Gの合成)
D−グルコース(シグマ社製、純度99%)100mgおよびD−フルクトース(シグマ社製、純度99%)100mgをガラス試験管に測りとり、アルミホイルあるいはアルミキャップで蓋をし、予め150℃に温めておいた電気炉で60分加熱した。加熱後、デシケーター内で室温まで冷やし、Milli−Q水を1ml加え溶解させFp2−6G含有水溶液を得た。得られたFp2−6G含有水溶液を「糖サンプル溶液」とした。
【0045】
(測定)
前記実施例1のFp2−6G標準サンプル溶液の調製と同じ方法により調製した標準サンプルの1%Fp2−6G溶液、及び前記工程で調製した糖サンプル溶液を、前記実施例1のHPLC条件−A1で分析した結果、標準サンプルの1%Fp2−6G溶液と糖サンプル溶液は同一溶出時間にピークが検出された。検出されたピークがFp2−6Gであることを確認するために前記実施例1のHPLC条件−A2で糖サンプル溶液について標準品のFp2−6Gだと思われるピークを10回分取した。
【0046】
得られた分取液を凍結濃縮乾燥し、6.7mgの凍結乾燥物を得た。得られた凍結乾燥物をMilli−Q水に溶解させて以下の定性試験に用いた。
【0047】
前記HPLC条件−A2で得られた糖サンプル溶液の分取物のピークが単一のFp2−6Gであることを確認するため、前記実施例1のHPLC条件−BでHPAEC分析を行った。その結果、糖サンプル溶液の分取物はFp2−6G標準サンプルと同一の溶出時間にピークが検出された。
【0048】
HPLC条件−A2で得られたピークがFp2−6Gと同じ還元性の物質であることを確認するために前記実施例1のHPLC条件−CでABEE標識化分析を行った。その結果、標準品であるFp2−6Gと同一溶出時間にピークが検出され、この物質は還元性を持つことが認められた。
【0049】
HPLC条件−A2 で得られたピークの分子量を確認するためTOF/MS分析を行った結果、HPLC条件−A2で得られたピークは365の〔M+Na〕イオンピークを与え、標準品であるFp2−6Gと同一分子量であることが認められた。
【0050】
HPLC条件−A2で得られたピークの構造を確認するためNMR分析を行った。
【0051】
前記HPLC条件−A1、HPLC条件−A2、HPLC条件−B、HPLC条件−C、TOF/MS分析およびNMR分析の結果、得られたピークは標準品であるFp2−6Gと同一物質であることが認められた。
【0052】
電気炉を用いたD−グルコース100mgとD−フルクトース100mgからFp2−6Gを3.5mgを得た。これは、酵素法によるFp2−6Gの最大合成量の約8倍に相当することから、収率が飛躍的に高い。
【0053】
[実施例3]
(各温度における加熱処理によるFp2−6Gの合成)
前記実施例1の加熱処理によるFp2−6Gの合成において、反応温度を110℃から180℃までの10℃刻みに(110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃)温めておいたサーモバスヒーターでそれぞれ60分間加熱した以外は、前記実施例1と同様に行って、Fp2−6G含有水溶液(糖サンプル溶液)を得た。
【0054】
前記実施例1のHPLC条件−A1を行った。植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gと同じ溶出時間に溶出されたピークについて前記実施例1で作成した検量線を用いて濃度を算出し、Fp2−6が最も製造される温度を相対合成量100%とし、各温度におけるFp2−6Gの濃度(相対合成量%)のグラフを図1に示す。
【0055】
図1によれば、110℃以上180℃以下が好ましく、最も好ましくは130℃以上170℃以下、一番好ましくは130℃以上160℃以下、最大相対合成量(100%)が140℃であることが分かる。
【0056】
[実施例4]
(各反応時間における加熱処理によるFp2−6Gの合成)
前記実施例1の加熱処理によるFp2−6Gの合成において、140℃での加熱時の反応時間を0、15、30、45、60、90、120、180分間とした以外は前記実施例1と同様に行って、Fp2−6G含有水溶液(糖サンプル溶液)を得た。
【0057】
前記実施例1のHPLC条件−A1を行った。植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gと同じ溶出時間に溶出されたピークについて前記実施例1で作成した検量線を用いて濃度を算出し、Fp2−6Gが最も製造される反応時間を相対合成量100%とし、各反応時間におけるFp2−6Gの濃度(相対合成量%)のグラフを図2に示す。図2によれば、加熱時間は好ましくは30分〜120分間、さらに好ましくは45分〜90分間であることが分かる。
【0058】
[実施例5]
(ABEE標識化法での標準品Fp2−6Gの検量線の作製)
前記実施例1で用いた標準品のFp2−6Gを0.02、0.04、0.06、0.08および0.01%になるように調製し、前記実施例1のHPLC条件−Cを行い、検出されたFp2−6Gのピークから検量線を作成した。図10に標準品Fp2−6Gの検量線グラフを示す。
【0059】
(水溶液からのFp2−6Gの合成)
40%D−グルコース溶液と40%D−フルクトース溶液を混合して20%グルコース・フルクトース混合糖水溶液とし、50℃の乾燥機内で0、15、30、60、120および180日間反応させ、それぞれの糖サンプル溶液を得た。
【0060】
溶液について標準品のFp2−6Gだと思われるピークを30回分取した。
得られた糖サンプル溶液を、前記HPLC条件−Cで分析した結果、標準品のFp2−6Gと同一溶出時間にピークが検出された。検出されたピークがFp2−6Gであることを確認するために前記実施例1のHPLC条件−Alで糖サンプル溶液について標準品のFp2−6Gだと思われるピークを30回分取した。
【0061】
得られた分取液を凍結濃縮乾燥し2.7mgの凍結乾燥物を得た。得られた凍結乾燥物をMilli−Q水に溶解させて以下の定性試験に用いた。
【0062】
前記HPLC条件−Alで得られた糖サンプル溶液の分取物のピークが単一のFp2−6Gであることを確認するため、前記実施例1のHPLC条件−BでHPAEC分析を行った。その結果、糖サンプル溶液の分取物はFp2−6G標準サンプルと同一の溶出時間にピークが検出された。
【0063】
前記HPLC条件−Alで得られたピークの分子量を確認するためにTOF/MS分析を行った結果、前記HPLC条件−Alで得られたピークは365の[M+Na]イオンピークを与え、標準品であるFp2−6Gと同一分子量であることが認められた。
【0064】
前記HPLC条件−Alで得られたピークの構造を確認するためNMR分析を行った。
【0065】
前記HPLC条件−A1、HPLC条件−C、TOF/MS分析およびNMR分析の結果、得られたピークは標準品であるFp2−6Gと同一物質であることが認められた。
【0066】
前記実施例1のHPLC条件−Cを行い、植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gと同じ溶出時間に溶出されたピークについて本実施例5で作成した検量線を用いて濃度を算出し、D−グルコース・D−フルクトース混合溶液の状態でのFp2−6Gが最も製造される日数を100%とし、各日数におけるFp2−6Gの濃度(相対合成量%)のグラフを図11に示す。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明はFp2−6Gの効率の良い製造方法を提供できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、グルコースとフルクトースの共存下において、加熱条件下で酵素反応を利用することなく反応させてβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース(以下「Fp2−6G」と略す場合もある)は日本国の特許第3871222号公報(発行日:平成19年1月24日)において新規化合物であると示された。該公報において、Fp2−6Gの製造は酵素反応を利用した方法(酵素法)により製造された。即ち該公報には、糖質を含む基質溶液に対してβ−フルクトフラノシダーゼを作用させることにより、Fp2−6Gを該溶液中に生成させ、該溶液中からFp2−6Gを取得するか、或いは、糖質を含む培地に対してβ−フルクトフラノシダーゼを産生する微生物を作用させ、Fp2−6Gを該培地中に生成させ、該培地中からFp2−6Gを取得することが示されている。
【0003】
しかしながら、Fp2−6Gを製造する方法において、酵素反応を利用せずに製造する方法、即ち、酵素を用いずに、或いは微生物を用いずにFp2−6Gを製造する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3871222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酵素法によらない製造法でβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するための主たる本発明のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース(即ち、Fp2−6G)の製造方法は、糖質材料としてD−グルコース及びD−フルクトースを用い、酵素反応を利用することなく、加熱して反応させてFp2−6Gを生成させ、反応物中からFp2−6Gを取得することを特徴とする。
【0007】
さらに一つの具体的な本発明のFp2−6Gの製造方法は加熱反応時に水を使用しない方法であり、前記主たる本発明のFp2−6Gの製造方法において、D−グルコース及びD−フルクトースの混合物に対して水を添加することなく加熱して反応させ、次いで反応物に水を添加し、溶解させてβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを含有する水溶液とし、該水溶液中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とする。
【0008】
さらに別の具体的な本発明のFp2−6Gの製造方法は、加熱反応時に水を存在させる方法であり、前記主たる本発明のFp2−6Gの製造方法において、D−グルコース及びD−フルクトースの混合物を水の存在下で加熱して反応させ、次いで反応物を含む水溶液中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とする。
【0009】
本発明のFp2−6Gの製造において加熱反応させる際の温度条件は、25℃以上200℃以下となる条件が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース(即ち、Fp2−6G)を製造する方法は、前記従来の酵素法で製造するよりも、収率が飛躍的に高く、また製造時間も短縮できるため、製造効率がよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】D−グルコース及びD−フルクトースから合成したFp2−6Gの温度の影響を、横軸を温度、縦軸をFp2−6Gの相対合成量(%)をとったグラフを示す図である。
【図2】D−グルコース及びD−フルクトースから合成したFp2−6Gの経時変化を、横軸を時間(分)、縦軸をFp2−6Gの相対合成量(%)をとったグラフを示す図である。
【図3】水を添加することなく反応させてFp2−6Gを製造した場合のFp2−6Gを含む合成糖溶液(糖サンプル溶液)のHPLC分析のチャートを示す図である。
【図4】水を添加することなく反応させてFp2−6Gを製造した場合のFp2−6Gの回収画分のHPAEC分析のチャートを示す図である。対照として植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gも併せて示す。
【図5】水を添加することなく反応させてFp2−6Gを製造した場合のFp2−6Gの回収画分の4−アミノ安息香酸エチルエステル標識化(ABEE標識化)分析のチャートを示す図である。対照として植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gも併せて示す。
【図6】対照として植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gの 1H−NMR分析のチャートを示す図である。
【図7】対照として植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gの13C−NMR分析のチャートを示す図である。
【図8】原料として用いるD−グルコースとD−フルクトースの種々の比率によるFp2−6Gの合成量の違いのグラフを示す図である。
【図9】植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gの検量線のグラフを示す図である。
【図10】ABEE標識化法による植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gの検量線のグラフを示す図である。
【図11】D−グルコース・D−フルクトース混合溶液から合成したFp2−6G相対合成量の経時変化のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のFp2−6Gの製造に用いるD−グルコースには、β−D−グルコース、無水のD−グルコース、1 水和物のD−グルコース、アノマー混合のD−グルコースの何れでもよい。D−グルコース、D−フルクトースには市販のものが好適に利用できる。また、本発明で利用可能なD−グルコース、D−フルクトースの形態は、粉末状、顆粒状、シロップ状或いは水溶液の状態でもよい。
【0013】
本発明において使用する水には、反応条件を厳密にする目的で精製水を用いることが好ましい。精製水には、ミリQ水、蒸留水或いはイオン交換水を用いることができる。
【0014】
Fp2−6Gを含有する水溶液の製造の好ましい実施の態様として、次の方法1、方法2を示す。
【0015】
〔方法1〕
方法1は、加熱反応時に水を使用しない場合のFp2−6Gの製造方法である。
【0016】
粉末状または顆粒状のD−グルコースとD−フルクトースをガラス試験管にとり混合し、水を添加しない状態で、50℃以上200℃以下、好ましくは110℃以上180℃以下、最も好ましくは130℃以上170℃以下、さらに最も好ましくは130℃以上160℃以下である。加熱反応時の温度が50℃未満であるとFp2−6Gは製造されず、また200℃を超えるとカラメル化が進み、Fp2−6Gの製造率が落ちるため好ましくない。
【0017】
加熱時間は好ましくは30分〜120分間、さらに好ましくは45分〜90分間加熱処理し、精製水を添加後溶解し、濾過してFp2−6Gを生成した糖溶液を得ることができる(下記実施例3、4、図1、図2参照)。濾過は、ディスポーサブル0.45μmあるいは0.22μmフィルター(例えば、孔径0.45μmあるいは0.22μmのDISMIC−25cs Cellulose Acetate )で濾過してFp2−6G含有糖溶液とすることができる。このFp2−6G含有糖溶液は、−4℃以下(好ましくは−80℃以下)のフリーザーで凍結させることにより保存できる。
【0018】
〔方法2〕
方法2は、加熱反応時に水を存在させる場合のFp2−6Gの製造方法である。
【0019】
粉末状、顆粒状、シロップ状又は水溶液状のD−グルコースとD−フルクトースをマイクロチューブにとり、精製水を添加後溶解し、濾過して、好ましくは25℃〜80℃、更に好ましくは25℃〜50℃で14日間以上加温処理し、Fp2−6Gを生成した糖溶液を得ることができる。製造環境が25℃以上であるならば、反応時に加熱を要しない。25℃未満ではFp2−6Gを製造することが困難である。また、50℃を超えると水分が蒸発し、定量性に欠けるので好ましくない。
【実施例】
【0020】
下記の実施例1〜4は水を添加することなく加熱した場合の実施例であり、実施例5は水の存在下で加熱した場合の実施例である。
[実施例1]
(Fp2−6G標準サンプル溶液の調製)
Fp2−6Gの標準品は、前記特許文献1に記載されている植物エキス発酵液から調製する方法により製造し、HPLC分析、ABEE標識化分析、HPAEC分析、TOF/MS分析およびNMR分析により最終的に単一にしたものをFp2−6G標準品として使用した。Fp2−6G標準品を1.0mg精秤し、0 .1 mlのMilli−Q水を加えて1.0%の「Fp2−6G標準サンプル溶液」とした。
【0021】
このFp2−6G標準サンプル溶液をさらに希釈し、0.1−1.0%(1−10mg/ml)濃度に調製し、以下の定性試験の標準対照物質として用いた。
【0022】
(標準品のFp2−6Gを用いた検量線の作成)
標準品のFp2−6Gを1mg/ml、2mg/ml、4mg/ml、8mg/mlおよび10mg/mlとなるように、それぞれ精製水で溶解させ前記実施例1のHPLC条件−A1を行い、検出されたFp2−6Gのピークから検量線を作成した。図9に標準品Fp2−6Gの検量線のグラフを示す。
【0023】
(加熱処理によるFp2−6Gの合成)
D−グルコース(シグマ社製、純度99%)100mgおよびD−フルクトース(シグマ社製、純度99%)100mgをガラス試験管に測りとり、混合し、アルミホイルで蓋をし、予め140℃に温めておいたサーモバスヒーターで60分加熱した。加熱後、デシケーター内で室温まで冷やし、Milli−Q水を1ml加え、溶解させることによりFp2−6G含有水溶液を得た。得られたFp2−6G含有水溶液を「糖サンプル溶液」とし、以下の定性試験及び定量試験に用いた。
【0024】
(加熱処理により合成したFp2−6Gの定性試験)
前記工程で得られた1.0%Fp2−6G標準サンプル溶液と、前記工程で得られた糖サンプル溶液を以下の条件でHPLC分析を行った。
【0025】
(1)HPLC条件−A1
HPLC装置〔デュアルポンプ(DP8020:商品名、東ソー株式会社製)、検出器(RI−8020:商品名、東ソー株式会社製)、インテグレータ(Chromatocorder21:商品名、東ソー株式会社製)、カラム(ODS−80Ts column:商品名、4.6mm×25cm、×2本、東ソー株式会社製)〕、溶出(H2 O、0 .4 ml/min)、カラム温度(室温)、注入量(10μl)。以後この分析条件を「HPLC条件−A1」とする。
【0026】
HPLC条件−A1で得られたFp2−6G標準サンプル溶液及び糖サンプル溶液の結果を図3に示す。Fp2−6G標準サンプル溶液と糖サンプル溶液を比較すると同一の溶出時間に溶出されたピークが一致している箇所が見られる。
【0027】
次に、Fp2−6G標準サンプル溶液のピークと、同一時間に溶出された糖サンプル溶液のピークがFp2−6Gについてのものであるかを確認するために以下の条件で、該ピークを分取した。
【0028】
(2)HPLC条件−A2
分取用HPLC装置〔デュアルポンプ(DP8020:商品名、東ソー株式会社製)、検出器(RI−8020:商品名、東ソー株式会社製)、オーブン(CO−8020:商品名、東ソー株式会社製)、インテグレータ(Chromatocorder21:商品名、東ソー株式会社製)、カラム(ODS−80Ts column:商品名、20mm×25cm、東ソー株式会社製)〕、溶出(H2 O、3.0ml/min)、カラム温度(35℃)、注入量(200μl)。以後この分析条件をHPLC条件−A2とする。
【0029】
標準品のFp2−6Gと同一の溶出時間に検出された糖サンプル溶液のピークを10回分取し、この分取液を濃縮・乾固し、11.3mgの凍結乾燥物を得た。その後、Mill−Q水に溶解させ、以下のようにしてその後の定性分析に用いた。
【0030】
(3)HPLC条件−B(HPAEC分析)
前記(2)HPLC条件−A2で得られた分取物(ODS−80Ts分取画分)のピークが単一のFp2−6Gであることを確認するために、該分取物と標準品のFp2−6Gについて、以下の条件でHPAEC分析を行った。
【0031】
カラム(Dionex,CarboPac PA1:商品名、4.0mmID×250mm、ダイオネックス株式会社製)、ガードカラム(Dionex,CarboPac Gurd:商品名、ダイオネックス株式会社製)、移動層A(150mM NaOH)、移動層B(500mM sodium acetate in 150mM NaOH)、グラジエント条件(0→1分:25mM、1→2分:25−50mM、2→20分:50−200mM、20→22分:500mM、22→30分:25mM)、カラム温度(室温)、注入量(25μl)、測定電位((El):0.1V(500ms))、酸化電位((E2 ):0.6V(100ms))、還元電位((E3):−0.6V(50ms))。以後この分析条件を「HPLC条件−B」とする。
【0032】
この分析結果を回収分画のHPAEC分析のチャートとして図4に示す。図4によれば、標準品のFp2−6Gの同溶出時間にHPLC条件−Bにおいてもピークが認められた。
【0033】
(4)HPLC条件−C(ABEE標識化分析)
前記(2)HPLC条件−A2で得られた分取物(ODS−80Ts分取画分)のピークがFp2−6Gと同じ還元性の物質であることを確認するために該分取物と標準品のFp2−6Gについて、以下の条件で周知のABEE標識化分析を行った。ABEE標識化分析は、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry., 61(11), 1944-1946 (1997)に記載の方法に準じて行った。
【0034】
前記(2)HPLC条件−A2で得られたサンプル10ulにABEE化試薬〔株式会社J−オイルミルズ製、ABEE溶液(4−アミノ安息香酸エチルエステルを含むメタノール溶液)、酢酸、還元剤(ピリジンボランコンプレックス)からなる試薬〕40μlを加え、80℃で1 時間加熱した。加熱後、精製水0.2mlとクロロホルム0.2mlを加え混合し、遠心分離(1,000rpm)後上澄み液を精製水にて適宜希釈したものをHPLCサンプルとした。
【0035】
ABEE標識化HPLC装置〔デュアルポンプ(DP8020:商品名、東ソー株式会社製)、検出器(UV−8020:商品名、東ソー株式会社製)、インテグレータ(Chromatocorder21:商品名、東ソー株式会社製)、カラム(Honenpak C−18 column:商品名、4.6mm×7.5cm、×2 本、J−オイルミルズ社製)〕、溶出(6.0%アセトニトリルを含む0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH4 .0 )、0 .5 ml/mm)、カラム温度(室温)、注入量(10μl)。以後この分析条件を「HPLC条件−C」とする。
【0036】
該分析条件で標準品のFp2−6GとODS−80Ts分取画分をABEE標識化分析した結果を表すチャートを図5に示す。図5によれば、HPLC条件−A2で得られたODS−80Ts分取画分のピークは、標準品であるFp2−6Gと同溶出時間のピークであることが認めれ、且つこの物質は還元性を持つことが認められた。
【0037】
(5)TOF/MS分析
前記HPLC条件−A2で得られた分取物のピークの分子量を確認するためTOF/MS分析を行った。その結果、HPLC条件−A2で得られたピークは365の〔M+Na〕イオンピークを与え、標準品のFp2−6Gと同じ分子量であることが認められた。
【0038】
(6)NMR分析
HPLC条件−A2 で得られたピークの構造を確認するためNMR分析を行った。その結果を表1のケミカルシフト、図6と図7のチャートに示す。NMR分析による構造の確認は、標準品のFp2−6Gの 1H−(図6)と13C−NMR(図7)のケミカルシフトの比較により特定できた。
【0039】
【表1】
【0040】
以上のHPLC条件−Al、HPLC条件−A2、HPLC条件−B、HPLC条件−C、TOF/MS分析およびNMR分析の結果、得られたピークは標準品であるFp2−6Gと同一物質で単一であることが分かる。
【0041】
(7)グルコースとフルクトースの比率による合成量の違い
前記の加熱処理によるFp2−6Gの合成方法において、D−グルコースとD−フルクトースの比率をそれぞれ、D−グルコース:D−フルクトース=1:0、1:1、1:2、2:1、0:1と変えて、Fp2−6Gの製造量を確認した。その結果を図8のグラフにて示す。図8のグラフによれば、D−グルコース:D−フルクトースが1:1、1:2、2:1の時にFp2−6Gが製造されることが分かる。D−グルコース:D−フルクトース=1〜2:1〜2が好ましく、さらに好ましくはD−グルコース:D−フルクトース=1:1〜2であることが分かる。
【0042】
(8)酵素法との比較
前記の加熱処理によるFp2−6Gの合成方法において、D−グルコース100mg、D−フルクトース100mgとして、90分の反応でFp2−6Gを6.0mg得た。
【0043】
これは、酵素法によるFp2−6Gの最大合成量の約15倍に相当することから、収率が飛躍的に高い。さらに、酵素法ではFp2−6Gの合成量が最大になる時間が168時間なのに対し、本発明では1.5時間でFp2−6Gの合成量が最大となることから、製造時間の短縮になる。
【0044】
[実施例2]
(電気炉を用いたFp2−6Gの合成)
D−グルコース(シグマ社製、純度99%)100mgおよびD−フルクトース(シグマ社製、純度99%)100mgをガラス試験管に測りとり、アルミホイルあるいはアルミキャップで蓋をし、予め150℃に温めておいた電気炉で60分加熱した。加熱後、デシケーター内で室温まで冷やし、Milli−Q水を1ml加え溶解させFp2−6G含有水溶液を得た。得られたFp2−6G含有水溶液を「糖サンプル溶液」とした。
【0045】
(測定)
前記実施例1のFp2−6G標準サンプル溶液の調製と同じ方法により調製した標準サンプルの1%Fp2−6G溶液、及び前記工程で調製した糖サンプル溶液を、前記実施例1のHPLC条件−A1で分析した結果、標準サンプルの1%Fp2−6G溶液と糖サンプル溶液は同一溶出時間にピークが検出された。検出されたピークがFp2−6Gであることを確認するために前記実施例1のHPLC条件−A2で糖サンプル溶液について標準品のFp2−6Gだと思われるピークを10回分取した。
【0046】
得られた分取液を凍結濃縮乾燥し、6.7mgの凍結乾燥物を得た。得られた凍結乾燥物をMilli−Q水に溶解させて以下の定性試験に用いた。
【0047】
前記HPLC条件−A2で得られた糖サンプル溶液の分取物のピークが単一のFp2−6Gであることを確認するため、前記実施例1のHPLC条件−BでHPAEC分析を行った。その結果、糖サンプル溶液の分取物はFp2−6G標準サンプルと同一の溶出時間にピークが検出された。
【0048】
HPLC条件−A2で得られたピークがFp2−6Gと同じ還元性の物質であることを確認するために前記実施例1のHPLC条件−CでABEE標識化分析を行った。その結果、標準品であるFp2−6Gと同一溶出時間にピークが検出され、この物質は還元性を持つことが認められた。
【0049】
HPLC条件−A2 で得られたピークの分子量を確認するためTOF/MS分析を行った結果、HPLC条件−A2で得られたピークは365の〔M+Na〕イオンピークを与え、標準品であるFp2−6Gと同一分子量であることが認められた。
【0050】
HPLC条件−A2で得られたピークの構造を確認するためNMR分析を行った。
【0051】
前記HPLC条件−A1、HPLC条件−A2、HPLC条件−B、HPLC条件−C、TOF/MS分析およびNMR分析の結果、得られたピークは標準品であるFp2−6Gと同一物質であることが認められた。
【0052】
電気炉を用いたD−グルコース100mgとD−フルクトース100mgからFp2−6Gを3.5mgを得た。これは、酵素法によるFp2−6Gの最大合成量の約8倍に相当することから、収率が飛躍的に高い。
【0053】
[実施例3]
(各温度における加熱処理によるFp2−6Gの合成)
前記実施例1の加熱処理によるFp2−6Gの合成において、反応温度を110℃から180℃までの10℃刻みに(110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃)温めておいたサーモバスヒーターでそれぞれ60分間加熱した以外は、前記実施例1と同様に行って、Fp2−6G含有水溶液(糖サンプル溶液)を得た。
【0054】
前記実施例1のHPLC条件−A1を行った。植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gと同じ溶出時間に溶出されたピークについて前記実施例1で作成した検量線を用いて濃度を算出し、Fp2−6が最も製造される温度を相対合成量100%とし、各温度におけるFp2−6Gの濃度(相対合成量%)のグラフを図1に示す。
【0055】
図1によれば、110℃以上180℃以下が好ましく、最も好ましくは130℃以上170℃以下、一番好ましくは130℃以上160℃以下、最大相対合成量(100%)が140℃であることが分かる。
【0056】
[実施例4]
(各反応時間における加熱処理によるFp2−6Gの合成)
前記実施例1の加熱処理によるFp2−6Gの合成において、140℃での加熱時の反応時間を0、15、30、45、60、90、120、180分間とした以外は前記実施例1と同様に行って、Fp2−6G含有水溶液(糖サンプル溶液)を得た。
【0057】
前記実施例1のHPLC条件−A1を行った。植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gと同じ溶出時間に溶出されたピークについて前記実施例1で作成した検量線を用いて濃度を算出し、Fp2−6Gが最も製造される反応時間を相対合成量100%とし、各反応時間におけるFp2−6Gの濃度(相対合成量%)のグラフを図2に示す。図2によれば、加熱時間は好ましくは30分〜120分間、さらに好ましくは45分〜90分間であることが分かる。
【0058】
[実施例5]
(ABEE標識化法での標準品Fp2−6Gの検量線の作製)
前記実施例1で用いた標準品のFp2−6Gを0.02、0.04、0.06、0.08および0.01%になるように調製し、前記実施例1のHPLC条件−Cを行い、検出されたFp2−6Gのピークから検量線を作成した。図10に標準品Fp2−6Gの検量線グラフを示す。
【0059】
(水溶液からのFp2−6Gの合成)
40%D−グルコース溶液と40%D−フルクトース溶液を混合して20%グルコース・フルクトース混合糖水溶液とし、50℃の乾燥機内で0、15、30、60、120および180日間反応させ、それぞれの糖サンプル溶液を得た。
【0060】
溶液について標準品のFp2−6Gだと思われるピークを30回分取した。
得られた糖サンプル溶液を、前記HPLC条件−Cで分析した結果、標準品のFp2−6Gと同一溶出時間にピークが検出された。検出されたピークがFp2−6Gであることを確認するために前記実施例1のHPLC条件−Alで糖サンプル溶液について標準品のFp2−6Gだと思われるピークを30回分取した。
【0061】
得られた分取液を凍結濃縮乾燥し2.7mgの凍結乾燥物を得た。得られた凍結乾燥物をMilli−Q水に溶解させて以下の定性試験に用いた。
【0062】
前記HPLC条件−Alで得られた糖サンプル溶液の分取物のピークが単一のFp2−6Gであることを確認するため、前記実施例1のHPLC条件−BでHPAEC分析を行った。その結果、糖サンプル溶液の分取物はFp2−6G標準サンプルと同一の溶出時間にピークが検出された。
【0063】
前記HPLC条件−Alで得られたピークの分子量を確認するためにTOF/MS分析を行った結果、前記HPLC条件−Alで得られたピークは365の[M+Na]イオンピークを与え、標準品であるFp2−6Gと同一分子量であることが認められた。
【0064】
前記HPLC条件−Alで得られたピークの構造を確認するためNMR分析を行った。
【0065】
前記HPLC条件−A1、HPLC条件−C、TOF/MS分析およびNMR分析の結果、得られたピークは標準品であるFp2−6Gと同一物質であることが認められた。
【0066】
前記実施例1のHPLC条件−Cを行い、植物エキス発酵液から調製した標準品Fp2−6Gと同じ溶出時間に溶出されたピークについて本実施例5で作成した検量線を用いて濃度を算出し、D−グルコース・D−フルクトース混合溶液の状態でのFp2−6Gが最も製造される日数を100%とし、各日数におけるFp2−6Gの濃度(相対合成量%)のグラフを図11に示す。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明はFp2−6Gの効率の良い製造方法を提供できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質材料としてD−グルコースとD−フルクトースを用い、酵素反応を利用することなく、加熱して反応させてβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを生成させ、反応物中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とするβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法において、
糖質材料に対して水を添加することなく加熱して反応させ、
次いで反応物に水を添加し、溶解させてβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを含有する水溶液とし、
該水溶液中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とするβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法において、
糖質材料を水の存在下で加熱して反応させ、
次いで反応物を含む水溶液中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とするβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項4】
前記D−グルコース及びD−フルクトースが粉末状又は顆粒状である請求項1乃至3の何れか1項に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項5】
前記加熱する際の温度条件は、50℃以上200℃以下となる条件である請求項1又は2に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項6】
前記加熱する際の温度条件は、25℃以上80℃以下となる条件である請求項3に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項1】
糖質材料としてD−グルコースとD−フルクトースを用い、酵素反応を利用することなく、加熱して反応させてβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを生成させ、反応物中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とするβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法において、
糖質材料に対して水を添加することなく加熱して反応させ、
次いで反応物に水を添加し、溶解させてβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを含有する水溶液とし、
該水溶液中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とするβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法において、
糖質材料を水の存在下で加熱して反応させ、
次いで反応物を含む水溶液中からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを取得することを特徴とするβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項4】
前記D−グルコース及びD−フルクトースが粉末状又は顆粒状である請求項1乃至3の何れか1項に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項5】
前記加熱する際の温度条件は、50℃以上200℃以下となる条件である請求項1又は2に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項6】
前記加熱する際の温度条件は、25℃以上80℃以下となる条件である請求項3に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−46681(P2011−46681A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263086(P2009−263086)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【特許番号】特許第4485602号(P4485602)
【特許公報発行日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(303027335)大高酵素株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【特許番号】特許第4485602号(P4485602)
【特許公報発行日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(303027335)大高酵素株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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