説明

β核形成剤及びその製造方法

本発明は、新規なβ核形成剤及びそれの製造方法に関する。好ましくは、β核形成剤は炭酸カルシウム及び二塩基性有機酸のカルシウム塩の、水を含まない混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン用β核形成剤の新規な製造方法、それにより得られる新規なβ核形成剤及び該β核形成剤を含むポリプロピレン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、単斜晶系のα修飾において溶解物を冷却すると、概して結晶化する。しかしながら、ポリプロピレンは、該α修飾に加えて、六方晶系のβ修飾及び斜方晶系のγ修飾においても結晶化する。β修飾は力学的特性の改良、特に衝撃強度の改良及び応力亀裂への耐性の改良によって特徴付けられる。
【0003】
典型的には、β修飾における結晶化は、特許文献1に開示される、例えばキナクリドン顔料のような特異的なβ核形成剤を添加することにより達成される。さらによく知られているクラスのβ核形成剤は、二塩基性有機酸の第2族(group II)の塩である。
【0004】
特許文献2は、第2族の金属の酸化物、水酸化物もしくは酸性塩と、二塩基酸の混合物からなる二成分のβ核形成剤で、イソタクチックポリプロプレンを混合させることによって、β核形成が達成され得ることを開示している。二塩基酸の適切な例には、ピメリン酸、アゼライン酸、o‐フタル酸、テレフタル酸及びイソフタル酸などがある。適切な第2族の金属の酸化物、水酸化物もしくは酸性塩は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムもしくはバリウムを含む化合物であって、典型的な例には炭酸カルシウムもしくはその他の炭酸塩が含まれる。
【0005】
しかしながら、この先行技術文献で開示される二成分のβ核形成剤の欠点は、溶融温度、せん断条件、調製時間、不純物及び水の存在などのパラメーターの影響により、ポリプロピレンとの二成分のβ核形成剤の溶融混合が様々な結果を生じ得るがゆえに、達成される効果の再現性が不十分なことである。特許文献3は、比較例において、その場(in situ)で生成されるβ核形成を形成するために、ステアリン酸カルシウム及びピメリン酸の存在下でポリプロピレンを溶融させる工程を含む、ポリプロピレンにおけるβ修飾の含量を増加させるための方法を開示する。この先行技術文献における比較例が高含量のβ修飾を開示する一方で、類似条件下で実質的に0であるβ修飾の量を示す、本出願書類に含まれる比較例によってさらに実証されるように、該溶融混合及び溶融反応過程の再現性は非常に不満足なものである。
【0006】
β核形成剤を製造するための該先行技術において使用される出発材料のいくつかはかなり高価であるため、特にこれら高価な材料の信頼できかつ再現性のある使用に関して、改良が求められていることがさらに強調されるべきことである。
【0007】
したがって、二塩基性有機酸及び第2族の金属化合物に基づいた、β核形成を達成するためのより信頼のできる系を調製するための試みが為されている。
【0008】
特許文献3は、より信頼のできるβ修飾を達成するためのかかる試みについて開示している。この文献は、60から80℃で水性エタノール含有溶液中に1モルのジカルボン酸と1モルの炭酸カルシウムを反応させることによって産生される、一成分のβ核形成剤を使用することによって、改良が達成され得ることを開示している。この反応は、濾過によって単離することが可能である微細析出物の形態で得られる、ジカルボン酸のカルシウム塩を産出する。その後、該産生物を乾燥し、β核形成剤として使用してもよい。
【0009】
一方において、この一成分のβ核形成剤、つまりジカルボン酸のカルシウム塩の欠点は、得られる沈殿物が、β核形成の効果を減少させる1モルの結晶水を含むという事実である。しかしながら、この結晶水の除去は、追加の加熱の工程が必要となるがために、添加剤のコストを増大させる厳しい条件下でのみ達成可能である。さらなる欠点は、一成分のβ核形成剤が、濾過の間に問題を生じさせる、微細析出物の形態で得られるという事実である。特に、合成のスケールアップを考慮した場合には、微細析出物は濾過効率を劇的に減少させるので、微細析出物は大きな欠点となる。
【0010】
さらに、二塩基性有機酸はかなり高価な原材料であるので、β核形成に要求される二塩基性有機酸の量を減少させることは有利であろうことを考慮に入れるべきである。
【0011】
前述したキナクリドン顔料のようなその他のβ核形成剤に関して、わずか低含量で添加した場合でさえ、キナクリドン顔料のようなその他のβ核形成剤はポリプロピレンの変色を生じさせることにさらに注目すべきである。10ppm以下の量でさえ、かかるβ核形成剤を含むポリプロピレンの色は、目で識別できる変色、典型的には明るい赤色を示す。当然ながら、このことは、核形成ポリプロピレンの価値を減少させるさらなる欠点となる。
【0012】
特許文献4は、剛性及び透明性を改良するために使用される結晶性熱可塑性樹脂用核形成添加剤として、ヘキサヒドロフタル酸の金属塩を開示する。これらの核形成剤は、清澄剤でもある核形成剤を指すこの先行技術文献における開示から容易く明らかであるように、α核形成剤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】EP0177961A2
【特許文献2】US-A-5,231,126
【特許文献3】EP0682066A1
【特許文献4】WO02/078924
【特許文献5】DE3610644
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Busico et al. in Macromolecules 28 (1995) 1887-1892
【非特許文献2】A. Thuner-Jones et al., Makromol Chem., 75 (1964) 134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記で明確にされる欠点を鑑みて、本発明の目的は、例えば変色のような、従来のβ核形成剤に関連する欠点を生じさせることなく、β修飾におけるポリプロピレンの製造を可能にする、新規でかつ改良されたβ核形成剤を提供することである。さらに、得られる効果は再現可能であるべきであり、例えば二塩基性有機酸のような高価な原材料の使用は、可能な限り低減されるべきである。さらに、該β核形成剤は、さらなる大きなスケールでβ核形成剤の製造をも可能にする方法によって得られるべきである。さらに、例えば結晶水の除去など、費用的かつ時間的に消費させるさらなる処理を回避可能であるならば、有利となるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的は、請求項1に従う方法で解決される。好ましい実施態様は、従属請求項2−7や以下の明細書中に開示される。さらに、本発明は、それぞれ、請求項8及び11に規定されるβ核形成剤を提供する。好ましい実施態様はさらに、それぞれ、従属請求項9及び10や12及び13に提示される。最後に、本発明は、請求項14で規定される、ポリプロピレン組成物をも提供する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に規定されるように、本発明は、120℃を超える温度で、二塩基性有機酸及び第2族の金属の酸化物、水酸化物もしくは酸性塩を含む混合物を処理するための工程を含む、β核形成剤を製造する方法を提供する。
【0018】
この点に関して、請求項1に規定され、かつ本明細書でさらに例示される本発明に従って、該方法は第2族の金属化合物が所望の温度で二塩基性有機酸と直接的に反応する反応である、すなわち、例えば溶融ポリマー材料のような、いずれかのさらなる溶媒もしくは溶融材料の追加の存在なしに、この反応が生じることを強調することこそが大切である。二塩基性有機酸との第2族金属化合物の反応は、いずれかのさらなる成分の存在なし(反応に干渉しない空気または他の気体雰囲気を例外として)のこれら2成分の反応である。特に、本発明に従う方法は、溶液中またはポリマーの溶融マトリックス中で実行される反応ではない。本発明に従う方法で、第2族の金属化合物及び二塩基性有機酸は、互いに直接接触し、本明細書で規定される温度で反応する。
【0019】
本発明に従って使用される二塩基酸は、4またはそれを超える炭素原子を含む二塩基性有機酸から選択してもよい。二塩基酸の好ましい例は、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、o‐フタル酸、テレフタル酸及びイソフタル酸がある。これらの酸は、単独またはいずれかの所望の混合物で使用してもよい。特に好ましくは、ピメリン酸、スベリン酸及びアゼライン酸である。
【0020】
本発明に従って使用される第2族の金属の酸化物、水酸化物もしくは酸性塩は、典型的には、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムまたはバリウムあるいはこれらの混合物を含む化合物である。特に好ましくは、カルシウム化合物である。適切な例には、水酸化カルシウムや炭酸カルシウム、さらに炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウムや炭酸バリウムが含まれる。特に好ましいのは、炭酸カルシウムである。
【0021】
二塩基性有機酸及び第2族の金属の化合物は、任意の所望の比で使用してもよい。適切には、第2族の金属化合物を、二塩基性有機酸よりも高量もしくは等量のモル量で含む混合物である。しかしながら、本発明の特に好ましい実施態様は、β核形成剤の製造のためにより高価でない成分である、第2族の金属化合物を過剰に多く含む混合物の使用である。二塩基性有機酸に対する第2族の金属化合物の適切な比は以下の通りである:
【0022】
重量比:10:5−0.1、特に10:3−0.5、より好ましくは10:2−1
モル比:10:5−0.1、特に10:3−0.5、より好ましくは10:2−1
【0023】
本発明に従う方法において、特に、前述の熱処理に先立って、二成分は激しく、好ましくはボールミル、ロールミルもしくはそれらに相当する装置を用いて、混合される場合が好ましい。この事前の混合は、典型的には、10から40℃、好ましくは20から25℃の温度で実施される。
【0024】
前記で明確にしたように、β核形成剤の製造のための成分は、本発明の技術教示に従って、120℃もしくはそれを超える、好ましくは140℃もしくはそれを超える、最も好ましくは150℃もしくはそれを超える温度で熱処理にさらされる。特に適切な処理温度は約160℃である。熱処理は、本発明に従って、所望の一成分であるβ核形成剤を生じさせるのに適切な一定期間実施させてもよく、処理時間の典型的な例は、30分もしくはそれを超える、好ましくは1時間もしくはそれを超える、特には、1.5時間もしくはそれ超える時間であって例えば約2時間などである。この熱処理は、通常、空気の存在下または窒素のような不活性気体の存在下のいずれかで、周囲圧力で実施する。この温度の上限は決定的ではないが、この温度は、二塩基性有機酸の分解温度を超えるべきではない。
【0025】
熱処理は、撹拌槽やボールミルや流動床反応器を含む、いずれかの所望で適切な装置で実施してもよい。特に、流動床反応器の使用が、本発明に従って好ましい。当業者に周知であるこれらの装置により、二成分の充分な混合が可能となり、さらに連続的な方法が可能となり、本発明に従う方法のスケールアップに関して特にさらなる利点となる。
【0026】
本発明に従う熱処理は、溶媒または他の液体反応培地の存在なしに実施される。以下の実施例に例示される結果に従って、熱処理は、二塩基酸及び第2族の金属化合物の間で固相反応(すなわち、第2族の金属化合物が固相に存在する一方で、有機酸が溶融形態で存在してもよい反応)を生じさせて、二塩基酸の相当する塩を生じさせ、それは出発化合物、残留第2族の金属化合物の比に依存する。従って、本発明は、等モルの混合物を使用した場合には、二塩基酸の純粋な第2族の金属塩の製造を可能にし、一方で同時に、出発化合物、残留第2族の金属化合物の比に応じて、二塩基酸の塩のいずれかの所望の混合物の製造をも可能とする。本発明の文脈において驚くべきことは、本発明に従う熱処理が固相反応を生じさせる一方、他方において、等モルでない混合物でさえ、低含量の二塩基酸の塩しか存在しないにも関わらず、熱処理後、非常に効率的なβ核形成剤を産生する事実である。
【0027】
熱処理後、得られる一成分のβ核形成剤はさらなる続く処理にさらしてもよく、特には室温まで冷却した後でもよい。この点に関して、得られる一成分のβ核形成剤をさらなる粉砕処理にさらして、1から10μm、好ましくは2から7μm、特には3から5μmの重量平均粒径を有する微粒子を得ることが特に好ましい。
【0028】
得られるβ核形成剤は、反応形態での、第2族の金属化合物や二塩基性有機酸を含む、一成分のβ核形成剤である。すなわち、驚くべきことに、二塩基性有機酸は、熱処理中に第2族の金属化合物と反応して、第2族の金属化合物及び二塩基酸の第2族の金属塩を、組成比に応じて含む、一成分のβ核形成剤を形成する。熱処理後、遊離の二塩基酸は、もはや一成分のβ核形成剤中には通常含まれない。
【0029】
一成分のβ核形成剤を製造するための方法が水性溶液もしくは他の液体性反応培地中で何らかの反応工程を伴わないという事実を鑑みると、先行技術に関連して前述で明確にされたように結晶水を含む産物を得る欠点が回避可能である。本発明の方法は固相反応であるので、時間的コスト的に厳しい濾過方法が回避可能である。さらに、組成比に応じて、残留量の第2族の金属化合物との混合物としての微量の二塩基性有機酸の第2族金属塩のみを含む、一成分のβ核形成剤を得ることが可能である。しかし、以下にさらに説明されるように、第2族の金属化合物の小粒子の表面で二塩基性有機酸の第2族の金属塩により修飾される第2族の金属化合物の小粒子として認識され得る、これらの一成分のβ核形成剤でさえ、ポリプロピレン組成物において再現性及び高効率のβ核形成を達成するので、先行技術のβ核形成剤と比較して、要求される二塩基性有機酸が低量のポリプロピレンの所望のβ修飾を得ることが可能である。
【0030】
さらに、本発明に従う方法は、例えば流動床反応器のような、適切に適合された標準装置を用いることにより、信頼でき、容易に実施でき、かつスケールアップが可能になる。高効率かつ信頼できるβ核形成剤が本発明を使用して産生され得るということを考慮すると、本発明が当該技術に対して重大な改良を加えたことは自明である。驚くべきことは、この点に関して特に、溶媒として水を使用することによってのみ溶液中で二塩基酸の塩があらかじめ製造され得るがゆえに固相反応が達成される一方で、例えばエタノールのような他の極性溶媒を使用する試みでは少しも反応を生じさせなかったという事実がある。
【0031】
β核形成剤をポリプロピレンに添加して核形成させる場合、本発明に従って得られるβ核形成剤は、微粒子型、好ましくは微粒子(微粉)として使用してもよいが、本発明はまた、マスターバッチの形態、すなわち、ポリマーマトリックス、好ましくはポリプロピレン、及びかなり高濃度のβ核形成剤を含む化合物の形態でのβ核形成剤の使用をも想定している。
【0032】
本発明により得られるβ核形成剤は、0.001から5重量%、好ましくは0.01から2重量%、例えば0.05から1重量%の量(ポリプロピレン含量を基準として算出)でポリプロピレン組成物中に使用される。それゆえに、DSCによって決定される、80%までもしくはそれを超えるポリプロピレン中のβ修飾の程度が、例え他の添加剤、例えば充填剤、安定剤、潤滑剤などの存在下においても達成され得る。β修飾の量は、Turner-Jonesに従ってk値として表されてもよく、本発明は0.94まで、もしくはそれを超える(例えば0.97などの)k値を達成する。Tuner-Jonesに従うk値及びそれの計算に関しては、参考として特許文献3に相当する記述が為されており、参照として本明細書中に取り込まれる。
【0033】
添加されてもよい本発明に従うβ核形成剤に対するポリプロピレンは、ホモポリマーやコポリマーであってよく、ランダムコポリマーやブロックコポリマーを含む。ポリプロピレンは通常、立体規則性のポリプロピレンであり、好ましくは80%もしくはそれを超える立体規則性の程度を有する、イソタクチックポリプロピレンやエラストマーポリプロピレンなどがある。立体規則性は、非特許文献1などに記述されるように、立体規則性としてイソスタチックな五元の(pentad)規則性(mmmm)を測定することにより、溶液において、13C‐NMR分光計によって決定するのが好ましい。
【0034】
本発明のさらなる態様に従って、本発明は、本出願書類で明確にされる方法により得ることが可能である、新規な一成分のβ核形成剤を提供する。
【0035】
同様に、本発明の方法に関連して前述により明確にされる好ましい実施態様が、本発明に従う一成分のβ核形成剤に関しても適用される。
【0036】
さらに、本発明は、二塩基性有機酸と、酸化物、水酸化物や酸性塩から選択される第2族の金属化合物との固相反応産物を含む新規なβ核形成剤を提供し、該β核形成剤は、前述で明確にされるように、二塩基性有機酸の第2族の金属塩で表面を修飾された第2族の金属化合物の粒子を含む。
【0037】
これらの新規なβ核形成剤は、本発明に従う方法に従って得られ、過剰な第2族の金属化合物が使用され、好ましくはさらに以下に規定されるように過剰に使用されるので、第2族の金属化合物の各粒子が二塩基性有機酸により表面でのみ修飾される結果、第2族の金属化合物の粒子の表面上に存在する、二塩基性有機酸の第2族の金属塩が生じる。これらの二塩基性有機酸の第2族の金属塩は、第2族の金属化合物の粒子の表面上で形成され、そこでは該二塩基性有機酸が前記粒子と接触する。ポリプロピレン中で核形成剤として使用する場合、二塩基性有機酸の第2族の金属塩が化学反応で、例えば溶液中で形成される先行技術と比較すると特に、かなり微量の高価な出発材料である二塩基性有機酸を使用するにも関わらず、得られるβ核形成剤は依然としてβ修飾を提供するのに非常に満足のいく能力を示す。本発明のこの実施態様は、従って、β核形成剤を扱うのに、費用効率が高くかつ容易であり、それらの有利な効果は特に、以下で示されるように、実施例3において例示される。本出願書類に含まれる実施例中で与えられ、説明されるように、実施例3に従う低量のβ核形成剤でさえ、満足のいく量のβ核形成を得ることが可能である。
【0038】
同様に、本発明に従う方法に関連して前述により明確にされる好ましい実施態様が、本明細書に規定されるβ核形成剤に関してもまた適用される。
【0039】
特に、β核形成剤は、二塩基性有機酸に対する第2族の金属化合物の比を以下のように含む:
【0040】
重量比:10:5−0.1、特に10:3−0.5、より好ましくは10:2−1
モル比:10:5−0.1、特に10:3−0.5、より好ましくは10:2−1
【0041】
特に好ましいβ核形成剤は、炭酸カルシウム及び二塩基酸、好ましくはピメリン酸のカルシウム塩を、個々の炭酸カルシウム粒子の表面上に含む。この構造は、本発明のβ核形成剤を産出させる固相反応により生じる。この構造及び組成物は、個々の粒子の表面部分の評価を可能にする、IR分光計や顕微鏡技術により確認することができる。
【0042】
特に大過剰の第2族の金属化合物を用いて製造される実施態様において、かかるβ核形成剤は、ポリプロピレン組成物中に完全に満足のいき、かつ再現可能な含量の所望のβ修飾を産出する一方で、β核形成のために必要とされる二塩基酸の必要量を劇的に低減させる。これは、充分に再現性のないβ核形成を産出するかあるいは高価な二塩基酸をより高量で必要とする先行技術と比較して、重大な改良である。
【0043】
最後に、本発明は、本明細書で規定されるように、ポリプロピレン及びβ核形成剤を含むポリプロピレン組成物を提供する。前記で説明したように、ポリプロピレンはいずれかの種類のポリプロピレンであってよく、例えばホモポリマーやコポリマー、典型的には、当該技術分野においてランダムコポリマーとして記述されるコポリマーのような、少量のコモノマーのみを含むコポリマーなどの、特にイソスタチックポリプロピレンが含まれる。
【0044】
本発明によって提供される組成物は、本明細書で規定されるように、ポリプロピレンの含量に基づいて、典型的には0.001から5重量%、好ましくは0.01から2重量%、実施態様においては0.05から1重量%の所望の含量のβ修飾を産生させる量での、β核形成剤を含む。他の有用な添加剤及び充填剤が、同様に典型的な量で存在してもよい。本発明に従うポリプロピレン組成物は、典型的には0.5を超えるTurner-Jonesに従うk値を示し、本発明は、0.85と同じぐらいかそれより高いk値を示すポリプロピレン組成物の提供を可能にする。これは、DSCにより決定される場合の、80%までもしくはそれを超えるβ修飾の含量に相当する。
【0045】
以下の実施例は、本発明をさらに例示する:
【実施例】
【0046】
混合物1−3を、室温で炭酸カルシウム(Fluka, Art. No. 21060より供給)及びピメリン酸(Fluka, Art No. 80500より供給)を激しく混合することによって調製し、次いで、これらの混合物を対流式オーブンに160℃で2時間入れた。室温まで冷却した後、全ての混合物を、平均粒径3−5μmを有する微粒子になるまで粉砕した。
【0047】
【表1】

【0048】
別の混合物(混合物4)を以下の方法で調製した:
【0049】
16.02gのピメリン酸を純粋エタノール(Fluka, Art. No.02883より供給)100mlに溶解し、60℃まで加熱してから、次いで、10.01gのCaCO(Fluka, Art. No. 21060より供給)を添加して、2時間撹拌した。COの発生が全く観察されなかったので、ピメリン酸Caの反応は全く検出されなかったことになるであろう。懸濁液を濾過し、110℃で乾燥し、IR分光計により同定した。沈殿物は純粋CaCOとして同定され得るが、ピメリン酸Caは同定され得ない。
【0050】
混合物1−4を、ポリプロピレン中のβ核形成に関して評価した:
【0051】
処方及び結果:
ポリプロピレンホモポリマー粉末(MFR(230/2.16):0.2g/10分)を、0.5%のペンタエリトリチル−テトラキス(3−(3’,5’−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオン酸(Ciba SCよりIrganox 1010として供給)、0.10%のトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)亜リン酸(Ciba SCよりIrgafos 168として供給)及び0.10%のステアリン酸Ca(Faciよりステアリン酸Ca Sとして供給)と混合し、混合物1−4を、前述したように、下表で示されるような量で添加して、230℃の溶融温度でTheyson TSE24二軸押出機で押出した。得られた産物を評価し、それらの結果を下表に示す:
【0052】
【表2】

【0053】
β含量を、β相の溶融ピークに対する融合の熱と、融合の全熱(β相+β相)間の比率として計算した:
【0054】
β含量=Hβ相/(Hβ相+Hβ相
【0055】
β含量のさらなる計算をTurner-Jones方程式により行った(非特許文献2)。
【0056】
【表3】

【0057】
混合物1−3の一つを含む全混合物のβ含量が、DSCにより60%より有意に高く、このことは、これらの混合物がβ核形成剤として高効率であることを示している。
【0058】
β核形成剤なしの比較例1(CE1)及び溶液調製混合物4を有する比較例2(CE2)は有意なβ含量を示さない。
【0059】
Turner-Jonesに従うk値は、本発明の混合物を用いて調製される全サンプルについて0.5よりも有意に高く、このことはサンプル中のβ修飾の高含量を示し、それゆえに、強力なβ核形成剤として高効率であることを示す。
【0060】
本発明の実施例より、等モル比(混合物2)からの二塩基酸の相対量の減少から10もの非常に高い重量比(混合物3)までは、同一濃度でさえ、β核形成剤としての効率に影響を与えることはないことが明確に理解され得る。
【0061】
比較例3−5を、いずれかのさらなる処理をすることなく、CaCO及びステアリン酸Caをそれぞれピメリン酸と混合することにより(重量で1:1)、特許文献5(特許文献2のドイツ語でのものに相当するもの)に従って調製した。
【0062】
前の実施例において使用したのと同一のポリプロピレンホモポリマー粉末(MFR(230/2.16):0.2g/10分)を、0.5%のペンタエリトリチル−テトラキス(3−(3’,5’−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオン酸(Ciba SCよりIrganox 1010として供給)、0.10%のトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)亜リン酸(Ciba SCよりIrgafos 168として供給)及び0.10%のステアリン酸Ca(Faciよりステアリン酸Ca Sとして供給)と混合し、特許文献5に従って調製したCaCO/ピメリン酸混合物を、前述したように、230℃の溶融温度でTheyson TSE24二軸押出機で押出した。得られた産物の組成及び以降の評価の結果を下表に示す:
【0063】
【表4】

【0064】
比較例CE3からCE5は、DSCによって測定されるように、ポリプロピレンのβ修飾の含量の増加の示唆は何ら示さない。
【0065】
比較例6:
BE50(何らかの核形成剤なしの、Borealis社製商業用PP−ホモポリマー、MFR(230/2.16):0.2g/10分)について、2mmの厚さの圧縮成形プラーク(plaque)を製造し、Turner-Jonesに従うk値を測定した。k値は<0.01であり、このことは、PPのβ修飾の存在が基本的にないことを示唆する。この組成物は、前記で示される比較例1の一つに相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
120℃もしくはそれを超える温度で、第2族の金属化合物を二塩基性有機酸と熱処理する工程を含んでなる、β核形成剤の製造方法。
【請求項2】
前記第2族の金属化合物がカルシウム化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二塩基性有機酸が、ピメリン酸、スベリン酸、及びアゼライン酸のうちから選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理が150℃もしくはそれを超える温度で実施される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理が流動床反応器中で実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理が1.5時間もしくはそれを超える時間で実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記二塩基性有機酸が、10:5−0.1の、二塩基酸に対する第2族の金属化合物の重量比もしくはモル比を生じさせる量で使用される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に規定される方法のいずれかによって得ることができる、β核形成剤。
【請求項9】
前記第2族の金属化合物と前記二塩基性有機酸が、等モル量または過剰のモルの第2族の金属化合物を含む比で、請求項1から6のいずれか一項に規定される方法で使用される、請求項8に記載のβ核形成剤。
【請求項10】
二塩基性有機酸に対する第2族の金属化合物のモル比または重量比が10:1である、請求項8または9に記載のβ核形成剤。
【請求項11】
第2族の金属化合物及び二塩基性有機酸の固相反応産物を含み、その表面で二塩基性有機酸の第2族の金属塩により修飾される第2族の金属化合物の粒子を含む、β核形成剤。
【請求項12】
前記第2族の金属化合物が炭酸カルシウムであり、前記二塩基性有機酸がピメリン酸である、請求項11に記載のβ核形成剤。
【請求項13】
二塩基性有機酸の第2族の金属塩に対する第2族の金属化合物のモル比または重量比が10:1である、請求項11または12に記載のβ核形成剤。
【請求項14】
ポリプロピレン及び請求項8から13のいずれか一項に記載のβ核形成剤または請求項1から7のいずれか一項に記載の方法によって得られるβ核形成剤を含む、ポリプロピレン組成物。

【公表番号】特表2010−514846(P2010−514846A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541880(P2009−541880)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011203
【国際公開番号】WO2008/074494
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(500224380)ボレアリス テクノロジー オイ (39)
【Fターム(参考)】