説明

ε−カプロラクタム製造用触媒とその製造方法およびこれを用いてなるε−カプロラクタムの製造方法

【課題】シクロヘキサノンオキシムの気相ベックマン転位反応において再生を行なわなくても長期間にわたり良好な活性を保つことができるε−カプロラクタム製造用触媒とその製造方法およびこれを用いてなるε−カプロラクタムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のε−カプロラクタム製造用触媒は、主成分がペンタシル型ゼオライトであり、半径0.3μm以上の細孔容積が0.05mL/g以上、かつ累積細孔容積が0.60mL/g以上である。本発明のε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法は、ペンタシル型ゼオライトからなる触媒粉末に細孔付与剤を混合し、該混合物を成形したのちに焼成し、その後イオン交換処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキサノンオキシムを気相ベックマン転位させるのに有用なε−カプロラクタム製造用触媒とその製造方法およびこれを用いてなるε−カプロラクタムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ε−カプロラクタムの製造方法として、シクロヘキサノンオキシムを固体酸触媒の存在下、気相ベックマン転位させる方法が知られている。例えば、酸化ホウ素含有流動床触媒を用いる方法(特許文献1参照)、高シリカ含有ゼオライトを触媒として用いる方法(特許文献2参照)、タングステン含有固体触媒を用いる方法(特許文献3参照)、ゼオライトと結晶質粘土鉱物と特定無機酸化物および/または酸化物形成化合物(シリカ、シリカアルミナ、アルミナなど)とを焼成してなる固体酸触媒を用いる方法(特許文献4参照)等が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭53−37686号公報
【特許文献2】特開昭57−139062号公報
【特許文献3】特開2002−145853号公報
【特許文献4】WO2002/064560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、気相ベックマン転位反応においては、反応が進行するにつれ使用する固体酸触媒上に炭素質物質が沈積し、このため活性点が炭素質物質で覆われて次第に活性が低下するという問題があった。このように炭素質物質で覆われて活性が低下した固体触媒を再生するには、酸素含有ガスにより炭素質物質を酸化して除去すればよいことが知られている。したがって、これまで、触媒活性が低下してくるタイミングに合わせて、酸素含有ガスを触媒層に送りこむなどして炭素質物質を酸化、除去し触媒活性を回復させる再生操作を行っていた。しかし、ε−カプロラクタムを工業的に連続して製造する場合には、再生操作を行なう度に反応を中断しなければならず、これが生産性を大きく損なう要因となっていた。
【0005】
そのため、ε−カプロラクタムの工業的製造プロセスにおいては、なるべく再生操作の回数を減らすべく、再生を行なわなくても長期間にわたり良好な活性を保つことができる触媒が要望されていたが、従来知られたε−カプロラクタム製造用触媒ではこれを満足させることは難しかった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、シクロヘキサノンオキシムの気相ベックマン転位反応において再生を行なわなくても長期間にわたり良好な活性を保つことができるε−カプロラクタム製造用触媒とその製造方法およびこれを用いてなるε−カプロラクタムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、ペンタシル型ゼオライトを主成分にするとともに特定の細孔構造を有するよう設計した触媒であれば、シクロヘキサノンオキシムの気相ベックマン転位反応において再生を行なわなくても長期間にわたり良好な活性を保つことができ高いシクロヘキサノンオキシム転化率が得られること、さらに、前述した特定の細孔構造を有する触媒を得るには、触媒粉末に細孔付与剤を混合して成形するようにすればよいことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)主成分がペンタシル型ゼオライトであり、半径0.3μm以上の細孔容積が0.05mL/g以上、かつ累積細孔容積が0.60mL/g以上である、ことを特徴とするε−カプロラクタム製造用触媒。
(2)半径0.3μm以上の細孔容積が0.25mL/g以上、かつ累積細孔容積が0.90mL/g以上である、前記(1)記載のε−カプロラクタム製造用触媒。
(3)外径3〜5φmm、内径1〜2φmm、長さ1〜10mmのリング状ないしは筒状のペレットである、前記(1)記載のε−カプロラクタム製造用触媒。
(4)前記ペンタシル型ゼオライトは、ケイ素(Si)と酸素とを必須成分とする多孔質結晶体である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のε−カプロラクタム製造用触媒。
(5)前記ペンタシル型ゼオライトは、ケイ素以外の金属元素(Me)を、ケイ素(Si)との原子比がSi/Me≧500となる範囲で含有する、前記(4)記載のε−カプロラクタム製造用触媒。
【0009】
(6)前記(1)〜(5)記載のε−カプロラクタム製造用触媒を製造する方法であって、ペンタシル型ゼオライトからなる触媒粉末に細孔付与剤を混合し、該混合物を成形したのちに焼成し、その後イオン交換処理を施す、ことを特徴とするε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
(7)前記細孔付与剤として吸水によって膨潤する膨潤性物質を用い、該細孔付与剤を触媒粉末100重量部に対して1〜30重量部の割合で混合する、前記(6)記載のε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
(8)前記膨潤性物質は、平均粒子径が1〜500μmである、前記(7)記載のε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
(9)前記細孔付与剤として吸水しても膨潤しない非膨潤性物質を用い、該細孔付与剤を触媒粉末100重量部に対して10〜120重量部の割合で混合する、前記(6)記載のε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
(10)前記非膨潤性物質は、平均粒子径が1〜40μmである、前記(9)記載のε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
【0010】
(11)触媒存在下でシクロヘキサノンオキシムを気相ベックマン転位させる反応によりε−カプロラクタムを製造する方法において、前記触媒として前記(1)〜(5)のいずれかに記載のε−カプロラクタム製造用触媒を用いる、ことを特徴とするε−カプロラクタムの製造方法。
(12)前記反応を固定床反応器で行なう、前記(11)記載のε−カプロラクタムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シクロヘキサノンオキシムを気相ベックマン転位反応させてε−カプロラクタムを製造する際に再生を行なわなくても長期間にわたり良好な活性を保つことができるε−カプロラクタム製造用触媒を提供することができ、該触媒によって、高い転化率で生産性よくシクロヘキサノンオキシムからε−カプロラクタムを製造することができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[ε−カプロラクタム製造用触媒]
本発明のε−カプロラクタム製造用触媒(以下、省略して「本発明の触媒」と称することもある。)においては、主成分がペンタシル型ゼオライトであることが重要である。
【0013】
前記ペンタシル型ゼオライトは、ケイ素(Si)と酸素と必須成分とするものであり、必要に応じて、ケイ素以外の金属元素(Me)をも含有することがある多孔質結晶体である。ケイ素以外の金属元素(Me)としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、鉄、ホウ素、ジルコニウム、クロム、ベリリウム、コバルト、ランタン、グルマニウム、チタンニウム、ハフニウム、バナジウム、ニッケル、アンチモン、ビスマス、銅、ニオビウム等が挙げられる。これら金属元素(Me)は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。ペンタシル型ゼオライトの具体例としては、ZSM−5型やZSM−11型等が特に好ましく挙げられる。
【0014】
本発明の触媒においては、前記ペンタシル型ゼオライトがケイ素以外の金属元素(Me)をも含有する場合、ケイ素(Si)とケイ素以外の金属元素(Me)との原子比がSi/Me≧500となっていることが好ましい。原子比Si/Meが500未満となる場合、充分な触媒活性が得られず、転化率、選択率ともに低下する恐れがある。
【0015】
前記ペンタシル型ゼオライトの平均粒子径は、特に制限されないが、好ましくは1〜60μm、より好ましくは3〜30μmであるのがよい。ペンタシル型ゼオライトの平均粒子径が大きすぎると、成形体として充分な強度が得られない恐れがあり、一方、小さすぎると、取り扱い性に劣る傾向がある。
【0016】
本発明のε−カプロラクタム製造用触媒は、細孔を有するものであり、半径0.3μm以上の細孔容積が0.05mL/g以上、かつ累積細孔容積が0.60mL/g以上であることが重要である。好ましくは、半径0.3μm以上の細孔容積が0.25mL/g以上、かつ累積細孔容積が0.90mL/g以上であるのがよい。このような特定の細孔構造を有することで、本発明の触媒は再生を行なわなくても長期間にわたり良好な活性を保つものとなるのである。半径0.3μm以上の細孔容積が0.05mL/g未満であると、充分な転化率が得られない。一方、累積細孔容積が0.60mL/g未満であると、固体酸触媒上に炭素質物質が沈積しやすくなり、頻繁に再生を行なわないと良好な活性が維持できない。
【0017】
本発明の触媒は、外径3〜5φmm、内径1〜2φmm、長さ1〜10mmのリング状ないしは筒状のペレットであることが、反応管への充填のし易さ等の点で、好ましい。触媒が小さすぎると、反応管の圧力損失が大きくなる傾向があり、一方、触媒が大きすぎると、反応管に所定量の触媒を充填できない恐れがある。
【0018】
[ε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法]
本発明の触媒の製造方法は、ペンタシル型ゼオライトからなる触媒粉末に細孔付与剤を混合し、該混合物を成形したのちに焼成し、その後イオン交換処理を施すものである。このような方法によれば、前述した本発明の触媒を容易に得ることができる。
【0019】
ペンタシル型ゼオライトからなる触媒粉末は、例えば、テトラエチルオルソシリケートと水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液とを原料として水熱合成し、生じた固体を濾過、乾燥、仮焼することにより、得ることができる。ここで、水熱合成は、オートクレーブにて通常100〜200℃の温度で撹拌しながら行なわれる。乾燥または仮焼は、通常100〜600℃の温度で行なわれる。勿論、ペンタシル型ゼオライトの粉末は前述以外の方法でも得ることができる。
【0020】
細孔付与剤は、混合して成形したのち焼成によって消失させることで細孔を形成しうるものであり、触媒活性に影響を与えないものであれば、特に制限はないが、通常は、例えば、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等の無機塩、穀物、でんぷん、セルロース等の多糖類、メタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等の樹脂類、ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド共重合体、N−ビニルアセトアミド、イソブチレン−無水マレイン酸等の吸水性樹脂類、ナフタレン等の炭化水素類などが挙げられる。これら細孔付与剤は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前述した細孔付与剤は、大別すると、例えば吸水性樹脂等の吸水によって膨潤する膨潤性物質と、例えば結晶性セルロース微粒子等の吸水しても膨潤しない非膨潤性物質とに分けられる。
【0022】
前記細孔付与剤として前記膨潤性物質を用いる場合、その使用量は、触媒粉末100重量部に対して1〜30重量部の割合とすることが好ましい。より好ましくは、触媒粉末100重量部に対して2〜20重量部である。膨潤性物質である細孔付与剤の使用量が前記範囲よりも少なすぎると、半径0.3μm以上の細孔が形成されにくく、充分な転化率が得られない恐れがあり、一方、前記範囲よりも多すぎると、触媒成形体の強度が低下する恐れがある。
前記膨潤性物質の平均粒子径は、1〜500μmであることが好ましい。より好ましくは10〜300μmである。膨潤性物質の平均粒子径が前記範囲よりも小さすぎると、半径0.3μm以上の細孔が形成されにくく、充分な転化率が得られない恐れがあり、一方、前記範囲よりも大きすぎると、触媒成形体の強度が低下する恐れがある。また、該膨潤性物質の吸水倍率は、重量比で、通常、10〜1000倍であるのが好ましく、20〜50倍であるのがより好ましい。
【0023】
前記細孔付与剤として前記非膨潤性物質を用いる場合、その使用量は、触媒粉末100重量部に対して10〜120重量部の割合とすることが好ましい。より好ましくは、触媒粉末100重量部に対して20〜100重量部である。非膨潤性物質である細孔付与剤の使用量が前記範囲よりも少なすぎると、半径0.3μm以上の細孔が形成されにくく、充分な転化率が得られない恐れがあり、一方、前記範囲よりも多すぎると、触媒成形体の強度が低下する恐れがある。
前記非膨潤性物質の平均粒子径は、1〜40μmであることが好ましい。より好ましくは6〜10μmである。非膨潤性物質の平均粒子径が前記範囲よりも小さすぎると、半径0.3μm以上の細孔が形成されにくく、充分な転化率が得られない恐れがあり、一方、前記範囲よりも大きすぎると、触媒成形体の強度が低下する恐れがある。
【0024】
前記触媒粉末に前記細孔付与剤を混合する際に用いられる装置は、特に制限されないが、例えば、ボールミル、振動ミル、V型混合機、コンクリートミキサー、レーディゲミキサー、ナウターミキサー、リボンミキサー、オムニミキサー等を使用することができる。
【0025】
成形は、通常、押出し成形などで行なわれる。押出し成形とは、粉末と水などの成形助剤を混合し、混錬機等によって粘土状にした後、所定形状のダイスで押出して成形する方法であり、押出し成形に用いられる押出機としては、例えば、金型、一軸式真空押出成形機、二軸式真空押出成形機、円筒造粒機等がある。
【0026】
成形に際しては、必要に応じて、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ワックス類などの添加剤を添加して成形することもできる。さらには、ガラスファイバー、石英ファイバー、アルミナファイバー、シリカアルミナファイバー、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾルなどを添加して成形することもできる。
【0027】
焼成は、通常100〜600℃の温度で行なうことが好ましい。焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、通常、10時間〜100時間とするのが好ましい。
焼成に用いられる装置としては、成形体を加熱できる装置であれば、特に制限はないが、例えば、熱風循環式焼成炉、静置式焼成炉、トンネル炉、ロータリーキルン、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉等を使用することができる。
【0028】
イオン交換処理は、通常、焼成した成形体をアンモニア水等のアルカリ性液とともにオートクレーブ内に入れ、撹拌することにより行なうことができる。このとき、アルカリ性液のpHは通常9〜14であるのが好ましく、アルカリ性液の温度は通常50〜100℃であるのが好ましい。イオン交換処理の時間(攪拌時間)は通常1〜24時間とするのが好ましい。イオン交換処理は、アルカリ性液を入れ替えて繰り返し行なってもよく、イオン交換処理の回数は通常1〜4回とするのが好ましい。
【0029】
イオン交換処理の後、必要に応じて、洗浄水のpHが中性になるまで濾過、洗浄を繰り返し、乾燥して、本発明の触媒が得られる。このとき、濾過、洗浄の回数はイオン交換処理で用いたアルカリ性液のpHにもよるが、通常1〜4回とするのが好ましい。乾燥温度は通常100〜200℃とするのが好ましい。
【0030】
[ε−カプロラクタムの製造方法]
本発明のε−カプロラクタムの製造方法は、前述した本発明の触媒の存在下でシクロヘキサノンオキシムを気相ベックマン転位させる反応(以下、「ベックマン転位反応」と称することもある。)によりε−カプロラクタムを製造する方法である。詳しくは、前記ベックマン転位反応は、シクロヘキサノンオキシムを異性化させてε−カプロラクタムとする反応である。
【0031】
本発明のε−カプロラクタムの製造方法においては、前記ベックマン転位反応は固定床反応器で行なうことが好ましい。前述した本発明の触媒は固定床方式の反応においてより効果を発揮するものであるからである。
【0032】
原料とするシクロヘキサノンオキシムは、蒸気状(ガス状)あるいは液状のいずれの形態で使用してもよい。例えば、固定床反応器にて反応を行なう場合には、通常、蒸気状(ガス状)のシクロヘキサノンオキシムを反応温度に保持された触媒層を備えた固定床反応器に導入すればよい。
【0033】
前記ベックマン転位反応において、反応温度は、通常、好ましくは250〜450℃、より好ましくは300〜400℃とするのがよい。また、反応圧力は、通常、好ましくは10kPa〜0.5MPa、より好ましくは50kPa〜0.3MPaとするのがよい。
【0034】
原料とするシクロヘキサノンオキシムの反応器(固定床反応器)内における空間速度は、通常、WHSV(重量空間速度)が好ましくは0.1h-1〜20h-1、より好ましくは0.2h-1〜10h-1(すなわち、触媒1kg当たりのシクロヘキサノンオキシムの供給速度が、好ましくは0.1〜20kg/h、より好ましくは0.2〜10kg/h)の範囲から選ばれる。
【0035】
前記ベックマン転位反応に際しては、反応系にシクロヘキサノンオキシムとともに、炭素数1〜6の低級アルコールを共存させることも可能である。これにより、ε−カプロラクタムの選択率を向上させたり、触媒寿命を延ばしたりする効果が期待できる。炭素数1〜6の低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、n−アミルアルコール、n−ヘキサノール等が挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノールが好ましく用いられる。これら低級アルコールは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。前記低級アルコールを共存させる場合、その量は、通常、シクロヘキサノンオキシムに対して重量比で、好ましくは0.1〜20倍、より好ましくは0.2〜10倍で用いるのがよい。
【0036】
前記シクロヘキサノンオキシムを反応器へ導入するに際しては、水を共存させることも有利である。この場合、共存させる水の量は、シクロヘキサノンオキシムに対して2.5モル倍以下の量にすることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において示す物性値の測定方法は以下の通りである。
【0038】
<結晶相> 触媒粉末試料を乳鉢にて5分間粉砕した後、X線回折装置(理学電機社製「RINT−2100V」)により分析し、得られたX線回折スペクトルのピークデータから結晶相を同定した。
【0039】
<ケイ素(Si)/ケイ素以外の金属元素(Me)原子比> 触媒粉末試料をアルカリ融解させた後に酸に溶解させ、ICP発光分光装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「SPS4000」)により分析して、触媒粉末試料中のケイ素(Si)含有量を求めた。他方、触媒粉末試料をフッ化水素酸で処理し、その後、アルカリ融解させた後に酸に溶解させ、上記と同じICP発光分光装置により分析して、触媒粉末試料中のケイ素以外の金属元素(Me)の含有量を求めた。そして、SiとMeそれぞれの含有量を各々の原子量で割り、原子比(Si/Me)を算出した。
【0040】
<細孔容積> 得られた触媒(触媒成形体)を有姿のまま熱風循環型乾燥機で120℃で4時間乾燥した。その後、細孔分布測定装置(MICROMERITICS製「オートポアIII9420型」)を使用して水銀圧入法により該試料の細孔分布を測定した。そして、横軸を細孔半径とし、縦軸を細孔半径の大きいものから小さいものへ順次その容積を累積していった累積細孔容積とする累積細孔分布曲線より、累積細孔容積および半径0.3μm以上の細孔容積を求めた。
【0041】
(実施例1−1)
〔触媒粉末の調製〕
5Lのステンレス製オートクレーブにテトラエチルオルソシリケート(Al含有量10ppm以下)500g、10%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液1120g、エタノール1070gを仕込み、120分間激しく撹拌した。混合液のpHは13であった。オートクレーブの蓋を締めた後、内温を105℃に保ち400rpm以上の回転数で撹拌を行ないながら、96時間水熱合成を行なった。この間オートクレーブの内圧は0.2〜0.3MPaに達した。水熱合成終了時のpHは11.8であった。白色の固体を濾別し、次いで濾液のpHが7付近になるまで蒸留水で連続的に洗浄し、固体濃度40%のスラリー300gを得た。得られたスラリー300gを濾過、乾燥、焼成し粉末状白色固体を得た。
【0042】
得られた粉末状白色固体をX線回折で分析した結果、ペンタシル型ゼオライトと同定された。また、この粉末状白色固体を原子吸光分析法により分析した結果、Alの含有量は3ppm、Si/Al原子比は147000であった。
【0043】
次に、この粉末状白色固体を、振動式ロスインウエィトフィーダーにより毎分125gの速度で小型衝突板式ジェットミル(セイシン企業製「CO−JET」)に供給し、グラインディングノズル圧力0.49MPa、プッシャーノズル圧力0.54MPaの条件で粉砕して、触媒粉末100gを得た。
【0044】
〔細孔付与剤の混合・成形〕
得られた触媒粉末100重量部に、細孔付与剤として結晶性セルロース(旭化成ケミカルズ社製「アビセルPH−M06」、成分:メチルセルロース、平均粒子径8μm)40重量部と、成形助剤としての結晶性セルロース(信越化学製「メトローズ90SH−4000」、成分:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、平均粒子径80μm)3重量部とをオムニミキサーを使用して3分間混合し、さらに、水85重量部を加えて3分間混合した。得られた混合物を混錬機で混練した後、外径5φmmで中心に直径2φmmのピンを備えたダイスが取り付けられた金型に充填した。この金型を圧縮試験機で加圧し、外径5φmm、内径2φmmの押出品を得た。この押出品は押出しの際にピアノ線によって5mmの長さに切断された。得られた押出品を室温で24時間以上放置して乾燥し、100gの押出し乾燥品を得た。
【0045】
〔焼成〕
得られた押出し乾燥品100gを、窒素と空気の混合ガス(容量比1:1)の流通下、500〜530℃で6時間焼成し、70gの焼成品を得た。
【0046】
〔イオン交換処理〕
得られた焼成品70gを、28重量%アンモニア水と蒸留水から調製したpH11.5のアンモニア水200gとともにオートクレーブに入れ、90℃で1時間撹拌した後、デカンテーションすることによりアンモニア水を除去した。このアルカリ処理の操作を合計3回行なった後、濾過、水洗、乾燥(120℃×16時間)することにより触媒(1)を得た。
【0047】
得られた触媒(1)の細孔分布を測定した結果、累積細孔容積が0.88mL/gで、半径0.3μm以上の細孔容積が0.08mL/gであった。該測定で得られた累積細孔分布曲線を図1に示す。
【0048】
(実施例1−2)
実施例1−1の〔細孔付与剤の混合・成形〕において、結晶性セルロース(旭化成ケミカルズ社製「アビセルPH−M06」、成分:メチルセルロース、平均粒子径8μm)40重量部に代えて、吸水性樹脂(住友精化製「アクアコークTWB」、成分:ポリエチレンオキサイド共重合体、平均粒子径140μm)16重量部を用い、オムニミキサーを使用して3分間混合した後に加える水の量を85重量部から160重量部に変更したこと以外は、実施例1−1に記載の方法と同様にして、触媒(2)を得た。
【0049】
得られた触媒(2)の細孔分布を測定した結果、累積細孔容積が1.17mL/gで、半径0.3μm以上の細孔容積が0.57mL/gであった。該測定で得られた累積細孔分布曲線を図2に示す。
【0050】
(実施例1−3)
実施例1−1の〔細孔付与剤の混合・成形〕において、結晶性セルロース(旭化成ケミカルズ社製「アビセルPH−M06」、成分:メチルセルロース、平均粒子径8μm)の量を40重量部から90重量部に変更し、成形助剤としての結晶性セルロース(信越化学製「メトローズ90SH−4000」、成分:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、平均粒子径80μm)の量を3重量部から3.3重量部に変更し、オムニミキサーを使用して3分間混合した後に加えた水85重量部に代えて、〔触媒粉末の調製〕で得られたスラリー141重量部を用いたこと以外は、実施例1−1に記載の方法と同様にして、触媒(3)を得た。
【0051】
得られた触媒(3)の細孔分布を測定した結果、累積細孔容積が1.82mL/gで、半径0.3μm以上の細孔容積が0.94mL/gであった。該測定で得られた累積細孔分布曲線を図3に示す。
【0052】
(実施例1−4)
実施例1−1の〔細孔付与剤の混合・成形〕において、結晶性セルロース(旭化成ケミカルズ社製「アビセルPH−M06」、成分:メチルセルロース、平均粒子径8μm)40重量部に代えて、メタクリル樹脂(綜研化学製「ケミスノーMX−150」、成分:ポリメタクリル酸メチル、平均粒子径1.4μm)90重量部を用い、オムニミキサーを使用して3分間混合した後に加える水の量を85重量部から66重量部に変更したこと以外は、実施例1−1に記載の方法と同様にして、触媒(4)を得た。
【0053】
得られた触媒(4)の細孔分布を測定した結果、累積細孔容積が1.75mL/gで、半径0.3μm以上の細孔容積が0.48mL/gであった。該測定で得られた累積細孔分布曲線を図4に示す。
【0054】
(実施例1−5)
実施例1−1の〔細孔付与剤の混合・成形〕において、結晶性セルロース(旭化成ケミカルズ社製「アビセルPH−M06」、成分:メチルセルロース、平均粒子径8μm)40重量部に代えて、ポリN−ビニルアセトアミド(昭和電工社製)、平均粒子径13.2μm)10重量部を用い、オムニミキサーを使用して3分間混合した後に加える水の量を85重量部から140重量部に変更したこと以外は、実施例1−1に記載の方法と同様にして、触媒(5)を得た。
【0055】
得られた触媒(5)の細孔分布を測定した結果、累積細孔容積が0.82mL/gで、半径0.3μm以上の細孔容積が0.06mL/gであった。該測定で得られた累積細孔分布曲線を図5に示す。
【0056】
(実施例2−1〜2−5)
実施例1−1〜1−5で得られた触媒(1)〜(5)を使用して、それぞれにシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応を行なった。すなわち、固定床流通式の反応装置を用い、そこに、触媒2.0gを内径2cmの石英ガラス製反応管に充填してなる触媒層を形成させた。この反応管に窒素1.16L/hを流通させ、反応管の温度を350℃にして1時間予熱処理をした。次いで、窒素1.16L/hを流通させたまま、反応管の温度を365℃に上げ、シクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.3(重量比)の混合物を23g/h(シクロヘキサノンオキシムのWHSV=5h-1)の供給速度で反応管に供給して、同温度にて反応を行なった。
【0057】
シクロヘキサノンオキシム/メタノールの混合物を反応管に供給後、直ちに15分間サンプリングし(これを「初期」のサンプルとする)、さらに供給開始から12時間後に15分間サンプリングし(これを「12時間後」のサンプルとする)、シクロヘキサノンオキシムおよびε−カプロラクタムの分析をガスクロマトグラフィーにより行い、シクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を次のようにして求めた。すなわち、シクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率は、供給したシクロヘキサノンオキシムのモル数をX、未反応のシクロヘキサノンオキシムのモル数をY、生成したε−カプロラクタムのモル数をZとして、それぞれ下記式により算出した。結果を表1に示す。
【0058】
シクロヘキサノンオキシムの転化率(%)=[(X−Y)/X]×100
ε−カプロラクタムの選択率(%)=[Z/(X−Y)]×100
【0059】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1−1で得られた触媒(1)の累積細孔分布曲線を示すグラフである。
【図2】実施例1−2で得られた触媒(2)の累積細孔分布曲線を示すグラフである。
【図3】実施例1−3で得られた触媒(3)の累積細孔分布曲線を示すグラフである。
【図4】実施例1−4で得られた触媒(4)の累積細孔分布曲線を示すグラフである。
【図5】実施例1−5で得られた触媒(5)の累積細孔分布曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分がペンタシル型ゼオライトであり、半径0.3μm以上の細孔容積が0.05mL/g以上、かつ累積細孔容積が0.60mL/g以上である、ことを特徴とするε−カプロラクタム製造用触媒。
【請求項2】
半径0.3μm以上の細孔容積が0.25mL/g以上、かつ累積細孔容積が0.90mL/g以上である、請求項1記載のε−カプロラクタム製造用触媒。
【請求項3】
外径3〜5φmm、内径1〜2φmm、長さ1〜10mmのリング状ないしは筒状のペレットである、請求項1記載のε−カプロラクタム製造用触媒。
【請求項4】
前記ペンタシル型ゼオライトは、ケイ素(Si)と酸素とを必須成分とする多孔質結晶体である、請求項1〜3のいずれかに記載のε−カプロラクタム製造用触媒。
【請求項5】
前記ペンタシル型ゼオライトは、ケイ素以外の金属元素(Me)を、ケイ素(Si)との原子比がSi/Me≧500となる範囲で含有する、請求項4記載のε−カプロラクタム製造用触媒。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のε−カプロラクタム製造用触媒を製造する方法であって、ペンタシル型ゼオライトからなる触媒粉末に細孔付与剤を混合し、該混合物を成形したのちに焼成し、その後イオン交換処理を施す、ことを特徴とするε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記細孔付与剤として吸水によって膨潤する膨潤性物質を用い、該細孔付与剤を触媒粉末100重量部に対して1〜30重量部の割合で混合する、請求項6記載のε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記膨潤性物質は、平均粒子径が1〜500μmである、請求項7記載のε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記細孔付与剤として吸水しても膨潤しない非膨潤性物質を用い、該細孔付与剤を触媒粉末100重量部に対して10〜120重量部の割合で混合する、請求項6記載のε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記非膨潤性物質は、平均粒子径が1〜40μmである、請求項9記載のε−カプロラクタム製造用触媒の製造方法。
【請求項11】
触媒存在下でシクロヘキサノンオキシムを気相ベックマン転位させる反応によりε−カプロラクタムを製造する方法において、前記触媒として請求項1〜5のいずれかに記載のε−カプロラクタム製造用触媒を用いる、ことを特徴とするε−カプロラクタムの製造方法。
【請求項12】
前記反応を固定床反応器で行なう、請求項11記載のε−カプロラクタムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−222758(P2007−222758A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45866(P2006−45866)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】