説明

π電子系分子導電体の結晶からなる分子性導体膜を形成する方法

【課題】分子性導体からなる均一な薄膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】2本の金属板のそれぞれに磁気により接続され,平行になるように前記容器内に設置され,10cm以上1m以下の間隔を有する2本の電極であって,少なくとも一方は平板状のものと,前記2本の金属板に電圧を印加することで,前記2本の電極間に電場を生成するための電源と,を有する結晶成長装置を用い,π電子を含む有機化合物からなる電子伝導体を含む溶液に0.1V以上1kV以下の電圧を0.1秒以上90秒以下印加する工程を含み,これにより,基板の表面に分子導電体の結晶からなる膜を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π電子系分子導電体の結晶からなる分子性導体膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2009−79295号公報は,フタロシアニンのシアノコバルト錯体を用いた導電性ナノワイヤの製造方法に関する。特開2009−79295号公報では,電極間にナノワイヤとよばれる微細な針状結晶を成長させるものである。特開2009−79295号公報は,薄膜を得ようとするものではない。
【0003】
特開2004−149871号公報は,コバルトアンミン錯体の水溶液を飽和カロメル参照電極に対し,電解し陰極上に金属コバルトを析出させることを特徴とする金属コバルト微粒子の電解析出方法に関する。特開2004−149871号公報により得られる微粒子は,上記の写真に見られるように針状結晶の集合体である。
【0004】
特開2009−046748号公報は,シアノ架橋金属錯体を析出させる方法に関する。特開2009−046748号公報では金属錯体を得ることができるものの,マイクロオーダーの凹凸があり,均一な状態ではない。すなわち,特開2009−046748号公報に開示された方法では,精工な結晶薄膜を得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−79295号公報
【特許文献2】特開2004−149871号公報
【特許文献3】特開2009−046748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,π電子系分子導電体の結晶からなる均一な分子性導体の薄膜を形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面は,π電子系分子導電体の結晶からなる均一な分子性導体の薄膜を形成する方法に関する。この方法は,結晶成長装置を用いる。
【0008】
結晶成長装置は,分子導電体の溶液を収容する容器と,容器内に挿入された2本の金属板と,磁気により2本の金属板のそれぞれに接続され,平行になるように容器内に設置された2本の電極と,金属板に電圧を印加することで2本の電極間に電場を生成するための電源とを有する。
【0009】
分子導電体は,π電子を含む有機化合物からなる伝導体である。分子導電体のキャリアの例は,電子又はホールである。2本の電極は,それぞれ磁気により2本の金属板と接続される。そして,電源は,0.1V以上1kV以下の電圧を0.1秒以上90秒以下2本の電極に印加するものである。これにより,本発明は,電極のうち少なくとも一方であって平板状のものの表面に前記分子導電体の結晶からなる膜を形成する。
【0010】
分子導電体の結晶からなる分子性導体の膜は,例えば,0.1マイクロメートル以上,10マイクロメートル以下の膜厚である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,これまで製造することができなかったπ電子系分子導電体の結晶からなる均一な分子性導体の薄膜を容易に製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は,結晶成長装置の概略図を示す。
【図2】図2は,本実施例により得られた結晶薄膜の図面に替わるSEM写真である。
【図3】図3は,電圧の印加時間を短くした場合に得られた結晶薄膜の図面に替わるSEM写真である。
【図4】図4は,電圧の印加時間を長くした場合に得られた結晶薄膜の図面に替わるSEM写真である。
【図5】図5は,図4の拡大写真である。
【図6】図6は,実施例で得られた微結晶膜の電流−電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。本発明の第1の側面は,π電子系分子導電体の結晶からなる均一な薄膜を形成する方法に関する。この方法は,結晶成長装置を用いる。
【0014】
結晶成長装置は,容器と,2本の金属板と,2本の平板状の電極と,電源とを有する。
【0015】
容器は,分子導電体の溶液を収容する。容器の大きさは,適宜調整すればよい。分子導電体は,π電子を含む有機化合物からなる伝導体である。π電子を含む有機化合物の例は、BEDT−TTF誘導体を含むTTF誘導体、dmit錯体類、ポルフィリン錯体類、フタロシアニン類、縮合多環炭化水素誘導体、複素環化合物誘導体、複素多環化合物誘導体及びこれらを含む錯体である。これらの中でも、BEDT−TTF誘導体を含むTTF誘導体、dmit錯体類、ポルフィリン錯体類、フタロシアニン類が好ましい。ポルフィリン錯体の例は,ポルフィリンのシアノ錯体又はポルフィリン誘導体のシアノ錯体である。フタロシアニン類の例は,フタロシアニンのシアノ錯体又はフタロシアニン誘導体のシアノ錯体である。分子導電体の例は,TPP・[Co(Pc)(CN)(テトラフェニルホスホニウム・ジシアノコバルト(III)フタロシアニン)および,[Co(Pc)(CN)(CHCl)である。
【0016】
2本の金属板は,電源と接続され,容器内に挿入される。また,電源から金属板に伝えられた電圧は,電極に伝えられる。
【0017】
電極は,磁気により2本の金属板のそれぞれに接続され,平行になるように容器内に設置される。そして,電極は,溶液と接する。電極は,平板状である。結晶薄膜が形成されない方の電極は,平板状以外の形状であっても構わない。電極(電極のうち結晶薄膜が形成される部分)の面積の例は,10cm以上1mm以下である。電極の面積が比較的広い場合に,電極上に均一な分子性導体の結晶薄膜が形成される。この電極が,針状の場合は,電極間に針状結晶が成長するため,均一な結晶薄膜を得ることができない。
【0018】
2本の電極の間隔が近すぎると,電極間に針状結晶が成長する。そこで,電極の間隔の例は,1mm以上1m以下である。この間隔を広くするほど,均一な結晶薄膜を得ることができる。よって,電極の間隔は,10cm以上1m以下が好ましい。
【0019】
電極上に分子性導体の結晶薄膜が形成された後,金属板から結晶が形成された電極を容易に取り外せることが好ましい。このため,2本の電極は,それぞれ磁気により2本の金属板と接続される。たとえば,電極が強磁性体であり,磁石で電極及び金属板をはさむ構成とすればよい。そして,この磁場が電極表面に印加されることで,磁石による磁場が存在しない場合に比べてより均一な結晶薄膜を得ることができる。
【0020】
電源は,金属板に電圧を印加することで2本の電極間に電場を生成するためのものである。電源は,0.1V以上1kV以下の電圧を0.1秒以上90秒以下2本の電極に印加するものである。これにより,本発明は,電極のうち少なくとも一方の表面に分子導電体の結晶からなる分子性導体の膜を形成できるすなわち,本発明は,通常の結晶成長方法とは全く異なり,非常に強力な電圧を短時間電極間に印加する。これにより,微小結晶を均一に成長させることができ,結晶薄膜を得ることができる。さらに,本発明は,電極と接する磁石が存在するため,磁場が生ずる。このため,より均一な分子性導体の結晶薄膜を得ることができる。
【0021】
分子導電体の結晶からなる膜は,例えば,0.1マイクロメートル以上,10マイクロメートル以下の膜厚である。
【実施例1】
【0022】
図1に示す結晶成長装置を用いてπ電子系導電性分子からなる分子性導体の結晶薄膜を形成した。この例では,電極としてITO基板を用いた。
【0023】
図2は,本実施例により得られた結晶薄膜のSEM写真である。図2から,ITO電極表面が微小結晶で覆われていることがわかる。このように,本発明によれば,π電子系導電性分子の微小結晶からなる結晶薄膜を得ることができる。この結晶薄膜は,有機分子が電荷移動相互作用によって凝集した結晶であった。
【0024】
図3は,電圧の印加時間を短くした場合に得られた結晶薄膜のSEM写真である。このように,結晶薄膜を形成する時間が短い場合は,比較的規則正しい位置に微小結晶の島が形成されることがわかる。すなわち,本発明によれば,きわめて薄い結晶膜を製造できるといえる。
【0025】
図4は,電圧の印加時間を長くした場合に得られた結晶薄膜のSEM写真である。図5は,図4の拡大写真である。図4及び図5に示されるように,本発明によれば結晶が均一に成長した薄膜を得ることができる。実施例で得られた結晶薄膜の電流−電圧測定を行った。図6は,実施例で得られた微結晶膜の電流−電圧特性を示すグラフである。図6から,本発明で得られた結晶薄膜は,特異的な特性を示す導電体であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は,導電性を有する結晶薄膜を形成することができる。よって,本発明は,電子部品の製造業などの分野で利用されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子導電体の溶液を収容する容器と,
前記容器内に挿入された2本の金属板と,
前記2本の金属板のそれぞれに磁気により接続され,平行になるように前記容器内に設置され,10cm以上1m以下の間隔を有する2本の電極であって,少なくとも一方は平板状のものと,
前記2つの金属板に電圧を印加することで,前記2本の電極間に電場を生成するための電源と,
を有する結晶成長装置を用いた,分子導電体の結晶からなる分子性導体膜を形成する方法であって,

前記分子導電体は,
π電子を含む有機化合物からなる電子伝導体であり,

前記電源が,
0.1V以上1kV以下の電圧を0.1秒以上90秒以下前記2本の電極に印加する工程を含み,

前記電極のうち少なくとも一方であって平板状の電極の表面に前記分子導電体の結晶からなる膜を形成する方法。

【請求項2】
前記分子導電体の結晶からなる分子性導体膜は,
0.1マイクロメートル以上,10マイクロメートル以下の膜厚である請求項1に記載の方法。

【請求項3】
前記容器内に挿入された2本の金属板と,
前記2本の金属板のそれぞれに磁気により接続され,平行になるように前記容器内に設置され,10cm以上1m以下の間隔を有する2本の電極と,
前記2つの金属板に電圧を印加することで,前記2本の電極間に電場を生成するための電源と,
を有する結晶成長装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−12677(P2012−12677A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151505(P2010−151505)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】