うっ血性心不全を処置するための方法
【課題】心機能の喪失を阻害することにより、そして理想的には、うっ血性心不全を持つ人あるいはリスクを持っている人の心機能を向上させることにより、この疾患を予防する。
【解決手段】本発明は、ニューレグリン遺伝子によってコードされる上皮増殖因子を含むポリペプチドを投与することによってうっ血性心不全を処置または予防する方法を特徴とする。この方法は、哺乳動物におけるうっ血性心不全を処置または予防するための方法であって、該哺乳動物に対して、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含むポリペプトイドを投与する工程を包含し、ここで、該EGF様ドメインが、ニューレグリン遺伝子によってコードされ、ここで、該投与工程が、該哺乳動物における心不全を処置または予防するのに有効量である。
【解決手段】本発明は、ニューレグリン遺伝子によってコードされる上皮増殖因子を含むポリペプチドを投与することによってうっ血性心不全を処置または予防する方法を特徴とする。この方法は、哺乳動物におけるうっ血性心不全を処置または予防するための方法であって、該哺乳動物に対して、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含むポリペプトイドを投与する工程を包含し、ここで、該EGF様ドメインが、ニューレグリン遺伝子によってコードされ、ここで、該投与工程が、該哺乳動物における心不全を処置または予防するのに有効量である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦政府の後援による研究に関する供述)
この研究は一部、NIH助成金HL−38189、HL−36141、およびNASA awardからのサポートを得て行われた。政府はこの発明に関するある一定の権利を有する。
【0002】
(発明の分野)
発明の分野は、うっ血性心不全の治療および予防である。
【背景技術】
【0003】
(本発明の背景)
うっ血性心不全は先進国において主要な死因の1つで、心臓に対する負荷の増大とそのポンプ機能が徐々に低下することに起因して起こる。初めに、高血圧、または収縮性組織の損失に起因して心臓への負荷が増大し、代償性心筋肥大と左心室壁の肥厚が誘発され、それによって収縮性を増大させ心機能を維持している。しかしながら、このような状態が継続すると、左心房が拡張し、収縮期のポンプ機能は低下し、心筋細胞はアポトーシス細胞死へと進み、心筋機能は次第に低下する。
【0004】
うっ血性心不全の原因となる因子としては、高血圧、虚血性心疾患、アントラサイクリン抗生物質などの心臓毒性化合物への曝露、心不全のリスクを増大させることが公知の遺伝的欠陥が挙げられる。
【0005】
ニューレグリン(NRGS)とNRG受容体は、神経、筋肉、上皮および他組織の器官形成に関係している細胞間シグナリングのための増殖因子−受容体チロシンキナーゼ系から構成されている(Lemke,Mol.Cell.Neurosci.7:247−262,1996およびBurdenら、Neuron
18:847−855,1997)。NRGファミリーは、上皮増殖因子(EGF)様ドメイン、免疫グロブリン(Ig)ドメイン、および他の認め得るドメインを含む多数のリガンドをコードする3つの遺伝子から成る。少なくとも、20(おそらく50以上)の分泌性および膜結合性アイソフォームがリガンドとしてこのシグナル系で機能し得る。NRGリガンドに対する受容体は全てEGF受容体(EGFR)ファミリーのメンバーであり、またヒトにおいてHER1、HER2、HER3、HER4としてもそれぞれ知られているEGFR(またはErbBI)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を含んでいる(Meyerら、Development 124: 3575−3586,1997;Orr−Urtregerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA
90:1867−71,1993;Marchionniら、Nature 362:312−8,1993;Chenら、J Comp.Neurol.349:389−400,1994;Corfasら、Neuron 14:103−115,1995;Meyerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:1064−1068,1994;およびPinkas−Kramarskiら、Oncogene 15:2803−2815,1997)。
【0006】
3つのNRG遺伝子、Nrg−1、Nrg−2、およびNrg−3は異なる染色体遺伝子座に位置しており(Pinkas−Kramaskiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:9387−91,1994;Carrawayら、Nature 387:512−516,1997;Changら、Nature 387:509−511,1997;およびZhangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:9562−9567,1997)、いずれも異なったアレイのNRG蛋白質をコードしている。今までのところ最も詳細に研究されているのはNrg−1の遺伝子産物で、これは構造的に類似しているおよそ15の異なるアイソフォームの群を含む(Lemke.Mol.Cell.Neurosci.7:247−262,1996および、Peles,Yardenら、Bio Essays 15:815−824,1993)。NRG−1のアイソフォームのうち最初に同定されたものには、Neu分化因子(NDF;Pelesら、Cell 69,205−216,1992および、Wenら、Cell 69,559−572,1992)、ヘレグリン(HRG;Holmesら、Science 256:1205−1210,1992)、アセチルコリン受容体誘導アクチベーター(ARIA;Fallsら、Cell 72:801−815,1993)、グリア増殖因子であるGGF1、GGF2およびGGF3(Marchionniら、Nature 362:312−8,1993)が含まれていた。
【0007】
Nrg−2遺伝子はホモロジークローニング(Changら、Nature 387:509−512,1997;Carrawayら、Nature 387:512−516,1997;およびHigashiyamaら、J.Biochem.122:675−680,1997)およびゲノムアプローチ(Busfieldら、Mol.Cell.Biol.17:4007−4014,1997)によって同定された。NRG−2 cDNAはまた、ErbBキナーゼの神経および胸腺由来アクチベーター(NTAK;Genbank登録番号AB005060)、ニューレグリンの派生物(Don−1)、および小脳由来増殖因子(CDGF;PCT出願WO 97/09425)として公知である。ErbB4を単独で発現している、またはErbB2/ErbB4を共発現している細胞がNRG−2に対して特に強い応答を示すようであるという実験証拠が示されている(Pinkas−Kramarskiら、Mol.Cell.Biol.18:6090−6100、1998)。また、Nrg−3遺伝子産物(Zhangら、前出)はErb4受容体に結合しそれを活性化するということが公知である(Hijaziら、Int.J.Oncol.13:1061−1067,1998)。
【0008】
EGF様ドメインは全ての形態のNRG蛋白質のコアに存在しており、ErbB受容体に結合しそれを活性化するために必要である。3つのNRG遺伝子においてコードされているEGF様ドメインの推定アミノ酸配列は約30〜40%同一である(対形式(pairwise)比較)。その上、NRG−1およびNRG−2には、異なる生理活性と組織特異的能力を付与しうる少なくとも2つのEGF様ドメインのサブフォームがあると考えられる。
【0009】
NRGに対する細胞応答は上皮増殖因子受容体ファミリーであるNRG受容体チロシンキナーゼEGFR、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を介して媒介される。全てのNRGリガンドの高親和性は、主にErbB3またはErbB4のいずれかが媒介する。NRGリガンドの結合によって、他のErbBサブユニットとの二量体がもたらされ、特定のチロシン残基に対するリン酸化によるトランス活性化が起こる。ある一定の条件下においては、ErbB受容体のほとんど全ての組み合わせでNRG−1アイソフォームの結合に応答して二量体を形成し得るようである。しかしながら、ErbB2はリガンド−受容体複合体の安定化において重要な役割を持ち得る、二量体形成のための好適なパートナーであると思われる。最近、NRG−1、ErbB2、およびErbB4の発現がマウスの発生過程における心室心筋の肉柱形成に必要であるという証拠が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
世界全体でうっ血性心不全の有病率が高いという点から見て、心機能の喪失を阻害することにより、そして理想的には、うっ血性心不全を持つ人あるいはリスクを持っている人の心機能を向上させることにより、この疾患を予防するか、または進行を最小限に抑えるということは非常に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明者らはニューレグリンが代償的な肥大型の増殖を刺激し、生理的ストレスにさらされている心筋細胞のアポトーシスを阻害するということを見出した。本発明者らの観察からニューレグリン処置が高血圧、虚血性心疾患、心臓毒性などの根底にある因子に起因するうっ血性心不全の予防、症状の進行抑制、回復に有用であることが示される。
【0012】
本発明は哺乳動物におけるうっ血性心不全の治療方法または予防方法を提供する。本方法は、哺乳動物に対して上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを持つポリペプチドを投与することを包含する。ここで、EGF様ドメインがニューレグリン遺伝子にコードされており、また哺乳動物の心不全を処置または予防するために効果的な量の本ポリペプチドが投与される。
【0013】
本発明の様々な好適な実施形態において、ニューレグリン遺伝子はNRG−1遺伝子、NRG−2遺伝子、またはNRG−3遺伝子であり得る。さらに、本ポリペプチドはこれら3つのニューレグリン遺伝子のどれによってもコードされ得る。またさらに、本方法で使われるポリペプチドはリコンビナントヒトGGF2であり得る。
【0014】
本発明の別の好適な実施形態において、哺乳動物はヒトであり得る。
【0015】
本発明の他の実施形態において、うっ血性心疾患は、高血圧、虚血性心疾患、心臓毒性化合物(例としては、コカイン、アルコール、HERCEPTIN(登録商標)のような抗ErbB2抗体または抗HER2抗体、あるいはドキソルビシンまたはダウノマイシンのようなアントラサイクリン抗生物質)への曝露、心筋炎、甲状腺疾患、ウイルス感染、歯肉炎、薬物濫用、アルコール濫用、心膜炎(periocarditis)、アテローム硬化、血管性疾患、肥大型心筋症、急性心筋梗塞、以前の心筋梗塞、左心室収縮機能不全、冠動脈バイパス手術、飢餓、摂食障害、または遺伝的欠陥に起因し得る。
【0016】
本発明の別の実施形態において、HERCEPTIN(登録商標)などの抗ErB2または抗HER2抗体を哺乳動物に対して、アントラサイクリン投与の前、中、後のいずれかに投与する。
【0017】
本発明の他の実施様態において、ニューレグリン遺伝子にコードされているEGF様ドメインを含むポリペプチドを、心臓毒性物質に曝露する前、中、後に投与する。また他の実施形態において、EGF様ドメインを含むポリペプチドを曝露前、中、後のうち2回、または3回全て投与する。
【0018】
本発明のさらに他の実施形態おいて、本ポリペプチドを哺乳動物におけるうっ血性心疾患の診断前、あるいは後のどちらかに投与する。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態において、本ポリペプチドを既に代償性心肥大を受けた哺乳動物に投与する。
【0020】
本発明の他の好適な実施形態において、本ポリペプチドの投与によって左心室肥大の状態を維持するか、心筋の薄膜化が予防されるか、または心筋細胞のアポトーシスが阻害される。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態において、本ポリペプチドをコードする発現ベクターを哺乳動物に投与することにより、本ポリペプチドを投与し得る。
【0022】
「うっ血性心不全」とは、心臓による安静時または運動時の正常な血液の送り出しの維持が不可能になること、あるいは正常な心室充満期血圧の調整において正常な心拍出量の維持が不可能になるという、心機能の損失を意味している。左心室駆出率が約40%以下であることは、うっ血性心不全の指標である(比較として、駆出率が60%である場合は正常である)。うっ血性心不全患者は、周知の臨床徴候および前兆(例えば、頻呼吸、胸膜滲出液、安静時または運動時の疲労、収縮機能障害、浮腫)を示す。うっ血性心不全は周知の方法で容易に診断される(例として、「慢性心不全の管理における共通指針」、Am J.Cardiol.,83(2A):1A−38−A,1999を参照のこと)。
【0023】
相対的な重篤度および疾患の進行は、身体検査、心エコー図、放射性核種画像化、非侵襲性血液動態モニタリング、磁気共鳴血管造影法、および酸素取り込み研究と組み合わせた運動トレッドミルテスト(exercise treadmill testing)などの周知の方法によって判定できる。
【0024】
「虚血性心疾患」とは、心筋が必要とする酸素と適正な酸素供給との間の不均衡に起因する任意の疾患を意味している。虚血性心疾患のほとんどのケースがアテローム硬化または別の血管障害において起こるのと同様に、冠動脈狭窄に起因している。
【0025】
「心筋梗塞」とは、虚血性心疾患によって結果的に心筋のある領域の組織が瘢痕組織に置き換わっていく過程を意味している。
【0026】
「心臓毒性」とは、直接的または間接的に心筋細胞を傷害するか、または死滅させることによって心機能を低下させる化合物を意味している。
【0027】
「高血圧」とは、資格を持つ医療従事者(例として、医師または看護士ら)によって、血圧が正常よりも高く、うっ血性心不全が起こるリスクが増大すると判断される血圧を意味する。
【0028】
「処置をする」とは、ニューレグリンまたはニューレグリン様ポリペプチドの投与によって、治療中を通してうっ血性心不全の進行が、処置が行われない場合に起こる疾患の進行に比べて統計的に有意に遅くなる、または抑制されるということを意味している。疾患の進行程度は、生存率および入院率だけでなく左心室駆出率、運動能力、および前に列挙した他の臨床試験などの周知の指標を用いて評価することができる。処置によって疾患の進行が統計的に有意な様式で遅くなるか、あるいは阻害されるかどうかは、当該分野での周知の方法(例として、SOLVD Investigators,N.Engl.J.Med.327:685−691,1992およびCohnら、N.Engl.J.Med.339:1810−1816,1998を参照のこと)を用いて決定し得る。
【0029】
「予防する」とは、うっ血性心不全発症のリスク(「うっ血性心不全の管理に対する共通指針」Am.J.Cardiol.,83(2A):1A−38−A,1999において定義されている)を持つ哺乳動物におけるうっ血性心不全の発症を最小限に抑える、または部分的あるいは完全に阻害するということを意味している。うっ血性心不全がニューレグリンまたはニューレグリン様ポリペプチドの投与によって最小限に抑えられるか、または予防されるかということは、SOLVD Investigators、前出、およびCornら、前出で記述されている方法などの公知の方法を用いて判断される。
【0030】
「うっ血性心不全のリスクがある」とは、喫煙者、肥満(すなわち、理想体重を20%以上上回っている)、心臓毒性化合物(アントラサイクリン抗生物質など)に曝露されているか、または将来曝露されるか、現在、高血圧、虚血性心疾患、心筋梗塞である(または過去これらの既往があった)か、心疾患のリスクを増やすことが公知の遺伝的欠陥があるか、家族に心不全、心筋肥大、肥大型心筋症、左心室収縮機能不全、冠動脈バイパス手術、血管性疾患、アテローム硬化、アルコール中毒症、心膜炎、ウイルス感染、歯肉炎または摂食障害(例えば、食欲不振または過食症)の既往歴があるか、アルコール中毒またはコカイン常用者である個体を意味している。
【0031】
「心筋の薄膜化の進行を低下させる」とは心室壁の厚さを維持するまたは増大させるように、心室心筋細胞の肥厚を維持することを意味している。
【0032】
「心筋細胞のアポトーシスを阻害する」とは、ニューレグリン処置が、処置していない心筋細胞と比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、なおより好ましくは少なくとも25%、さらみ好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%まで心筋細胞死を阻害することを意味している。
【0033】
「ニューレグリン」または「NRG」とは、NRG−1、NRG−2、NRG−3の遺伝子または核酸(例えばcDNA)にコードされており、かつErbB2、ErbB3、ErbB4受容体またはそれらの組合わせと結合しそれらを活性化するポリペプチドを意味している。
【0034】
「ニューレグリン1」、「NRG−1」、「ヘレグリン」、「GGF2」、または「p185 erbB2リガンド」とはErbB2受容体と結合し、USPN5,530,109;USSN5,716,930号;およびUSSN08/461,097に記述されているp185erbB2リガンド遺伝子にコードされるポリペプチドを意味している。
【0035】
「ニューレグリン様ポリペプチド」とはニューレグリン遺伝子にコードされたEGF様ドメインを持っていて、ErbB2、ErbB3、ErbB4またはそれらの組合わせと結合しそれらを活性化するポリペプチドを意味している。
【0036】
「上皮増殖因子様ドメイン」または「EGF様ドメイン」とはNRG−1、NRG−2、NRG−3遺伝子にコードされるポリペプチドモチーフを意味し、これらの遺伝子は、ErbB2、ErbB3、ErbB4受容体またはそれらの組合わせと結合しそれらを活性化し、そしてHolmesらに開示しているように、EGF受容体結合ドメインと構造的に類似性を持っている(Holmsら、Science 256:1205−1210,1992;USPN5,530,109;USPN5,716,930;USSN08/461,097;Hijaziら、Int.J.Oncol,13:1061−1067,1998;Changら、Nature387:509−512,1997;Carrawayら、Nature 387:512−516,1997;Higashiyamaら、J.Biochem.122:675−680,1997;およびWO
97/09425)。
【0037】
「抗ErbB2抗体」または「抗HER2抗体」とはErbB2(ヒトHER2としても公知)受容体細胞外ドメインと特異的に結合し、ニューレグリンの結合によって開始されるErbB2(HER2)依存的シグナル伝達を妨げる抗体を意味している。
【0038】
「形質転換細胞」とは、ニューレグリンまたはニューレグリン EGF様ドメインをもったポリペプチドをコードしているDNA分子を、リコンビナントDNA技術または既存の遺伝子療法技術を用いて導入した細胞(またはその細胞由来の細胞)を意味している。
【0039】
「プロモーター」とは、転写を指向するに十分な最小限の配列を意味している。本発明には、細胞種あるいは生理学的な状態(例えば低酸素対正酸素状態)についてプロモーター依存性遺伝子発現を制御可能を可能にするか、または外来のシグナルや薬剤によって遺伝子発現を誘導可能にするに十分なプロモーターエレメントも含まれる;そのようなエレメントはネイティブ遺伝子の5’または3’または内部領域に位置している可能性がある。
【0040】
「作動可能に連結されている」とは、適切な分子(例えば、転写アクチベーター蛋白質)が調節配列に結合される場合、ポリペプチドをコードしている核酸(例えば、cDNA)と、1つ以上の調節配列が、遺伝子発現が可能になる形式で連結されていることを意味している。
【0041】
「発現ベクター」とは、遺伝子操作されたプラスミドまたはウイルス(例えばバクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、または人工的な染色体に由来する)を意味しており、それらは、宿主細胞の中でコードされたペプチドまたはポリペプチドが発現されるように、プロモーターと作動可能に連結しているポリペプチド(例えばニューレグリン)コード配列を宿主細胞に移入するために使用される。
本願発明は、例えば以下を提供する。
(項目1) 哺乳動物におけるうっ血性心不全を処置または予防するための方法であって、該方法が、該哺乳動物に対して、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含むポリペプトイドを投与する工程を包含し、ここで、該EGF様ドメインが、ニューレグリン遺伝子によってコードされ、ここで、該投与工程が、該哺乳動物における心不全を処置または予防するのに有効量である、方法。
(項目2) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ニューレグリン遺伝子が、NRG−1遺伝子である、方法。
(項目3) 項目2に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、NRG−1遺伝子によってコードされる、方法。
(項目4) 項目3に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、組換えヒトGGF2である、方法。
(項目5) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ニューレグリン遺伝子が、NRG−2遺伝子である、方法。
(項目6) 項目5に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、NRG−2遺伝子によってコードされる、方法。
(項目7) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ニューレグリン遺伝子が、NRG−3遺伝子である、方法。
(項目8) 項目7に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、NRG−3遺伝子によってコードされる、方法。
(項目9) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記哺乳動物が、ヒトである、方法。
(項目10) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記うっ血性心不全が、高血圧;虚血性心臓疾患;心臓毒性化合物への曝露;心筋炎;甲状腺疾患;ウイルス感染;歯肉炎;薬物濫用;アルコール濫用;心膜炎;アテローム硬化;血管性疾患;肥大型心筋症;急性心筋梗塞;左心室収縮機能不全;冠動脈バイパス手術;飢餓;摂食障害;または遺伝的欠陥から生じる、方法。
(項目11) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記哺乳動物が、心筋梗塞を被っている、方法。
(項目12) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記心臓毒性化合物が、アントラサイクリン;アルコール;またはコカインである、方法。
(項目13) 項目12に記載の方法であって、ここで、前記アントラサイクリンが、ドキソルビシンまたはダウノマイシンである、方法。
(項目14) 項目13に記載の方法であって、ここで、抗ErbB2抗体または抗HER2抗体が、アントラサイクリンの投与の前、投与の間、または投与の後に前記哺乳動物に投与される、方法。
(項目15) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記心臓毒性化合物が、抗ErbB2抗体または抗HER2抗体である、方法。
(項目16) 項目14または15に記載の方法であって、ここで、前記抗ErbB2抗体または抗HER2抗体が、HERCEPTIN(登録商標)である、方法。
(項目17) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記心臓毒性化合物に曝露される前に投与される、方法。
(項目18) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記心臓毒性化合物に曝露される間に投与される、方法。
(項目19) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記心臓毒性化合物に曝露された後に投与される、方法。
(項目20) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記哺乳動物におけるうっ血性心不全の診断の前に投与される、方法。
(項目21) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記哺乳動物におけるうっ血性心不全の診断の後に投与される、方法。
(項目22) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、代償性心肥大を被る哺乳動物に投与される、方法。
(項目23) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドの投与が、左心室肥大を維持する、方法。
(項目24) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記方法が、心筋の薄膜化の進行を妨げる、方法。
(項目25) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドの投与が、心筋細胞アポトーシスを阻害する、方法。
(項目26) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、該ポリペプチドをコードする発現ベクターを該哺乳動物に投与する工程によって投与される、方法。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1Aは、心臓の発生の間、および成体ラット心筋細胞中のニューレグリンレセプターの発現を示す半定量的RT−PCR分析の図面である。 図1Bは、組換えヒト神経膠増殖因子2(rhGGF2)で処置された心筋細胞中のErbB4レセプターのチロシンリン酸化を示す、アッセイの図面である。
【図2A】図2Aは、ミオシン重鎖(図2A)についての、新生仔ラットの心室筋細胞の染色を示す顕微鏡写真の図面である。
【図2B】図2Bは、BrdUポジティブ核(図2B)についての、新生仔ラットの心室筋細胞の染色を示す顕微鏡写真の図面である。
【図2C】図2Cは、rhGGF2が、新生仔ラット心室筋細胞中でDNA合成(%BrdUポジティブ筋細胞で表される)を刺激することを示すグラフである。
【図3】図3Aおよび図3Bは、rhGGF2が、新生仔ラット心室筋細胞中でDNA合成(%相対3H−チミジン取込みで表される)を刺激することを示すグラフである。
【図4】図4は、ErbB2およびErbB4が、新生仔ラット心室筋細胞中で相対3H−チミジン取込みに対するGGF2の効果を仲介することを示すグラフである。
【図5】図5は、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物における生存を促進することを示すグラフである。
【図6A】図6Aは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6B】図6Bは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6C】図6Cは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6D】図6Dは、rhGGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示すグラフである(TUNELポジティブ筋細胞の百分率の減少によって表される)。
【図6E】図6Eは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6F】図6Fは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6G】図6Gは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6H】図6Hは、rhGGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示すグラフである(rhGGF2処置細胞のヨウ化プロピジウム染色の後のsub−G1画分のフローサイトメトリー分析によって決定)。
【図7】図7Aおよび7Bは、rhGGF2が、成体ラット心室筋細胞の初代培養物における生存を増加させ、アポトーシス細胞死を減少させることを示すグラフである。
【図8A】図8Aは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真の図面である。
【図8B】図8Bは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真の図面である。
【図8C】図8Cは、プレプロ心房性ナトリウム利尿因子(プレプロ−ANF)、心室肥大のマーカー、およびα−骨格アクチンが、GGF2で処置された新生仔ラット心室筋細胞中でアップレギュレートされることを示す、ノーザンブロットの図面である。
【図8D】図8Dは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞におけるタンパク質の合成(相対3H−ロイシン取込みによって表される)を刺激することを示すグラフである。
【図9A】図9Aは、GGF2が、成体ラット心室筋細胞の初代培養物における肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真である。
【図9B】図9Bは、GGF2が、成体ラット心室筋細胞の初代培養物における肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真である。
【図9C】図9Cは、GGF2が、成体ラット心室筋細胞の初代培養物における肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真である。
【図9D】図9Dは、プレプロ−ANFおよびα−骨格アクチンが、GGF2で処置された成体ラット心室筋細胞中でアップレギュレートされることを示す、ノーザンブロットの図面である。
【図9E】図9Eは、GGF2が、成体ラット心室筋細胞におけるタンパク質の合成(相対3H−ロイシン取込みによって表される)を刺激することを示すグラフである。
【図10A】図10Aは、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室におけるErbB2(図10A)、ErbB4(図10B)、およびβ−アクチンの発現レベルを示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの図面である。
【図10B】図10Bは、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室におけるErbB2(図10A)、ErbB4(図10B)、およびβ−アクチンの発現レベルを示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの図面である。
【図11】図11は、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室由来の筋細胞における、ANFおよびグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH、ハウスキーピング遺伝子)の発現を示す、ノーザンブロットの図面である。
【図12A】図12Aは、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室由来の筋細胞におけるErbB2(図12A)、およびβ−アクチンの発現レベルを示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの図面である。
【図12B】図12Bは、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室由来の筋細胞におけるErbB4(図12B)、およびβ−アクチンの発現レベルを示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの図面である。
【図13A】図13Aは、6週齢(図13A)の大動脈狭窄およびコントロールのラット心臓におけるErbB2の発現レベルを示す、ウェスタンブロットの図面である。
【図13B】図13Bは、22週齢(図13B)の大動脈狭窄およびコントロールのラット心臓におけるErbB2の発現レベルを示す、ウェスタンブロットの図面である。
【図13C】図13Cは、6週齢(図13C)の大動脈狭窄および対照のラット心臓におけるErbB4の発現レベルを示す、ウェスタンブロットの図面である。
【図13D】図13Dは、22週齢(図13D)の大動脈狭窄および対照のラット心臓におけるErbB4の発現レベルを示す、ウェスタンブロットの図面である。
【図14】図14は、IGF−1またはNRG−1で予め処置されたラット心筋細胞培養物が、ダウノルビシンで誘導されるアポトーシスに対して感受性が低いことを示す、グラフである。
【図15】図15Aは、IGF−およびNRG−1で刺激されたAktのリン酸化がPI−3キナーゼインヒビターであるウォルトマンニン(wortmannin)によって阻害されることを示す、リン酸化アッセイの図面である。 図15Bは、ダウノルビシンに曝露された細胞中のカスパーゼ3活性化のIGF−1阻害およびNRG−1阻害がPI−3キナーゼ依存性であることを示す、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、ニューレグリンが、ErbB2およびErbB4レセプターの活性化を通じて、培養心筋細胞の生存および肥大性増殖を促進することを見いだした。
【0044】
さらに、本発明者らは、実験的に心臓内圧の過負荷を誘導した動物において、心筋細胞のErbB2およびErbB4のレベルが初期の代償性肥大の間は正常であり、そして初期心不全への移行期の間は減少することを観察した。
【0045】
それと共に、本発明者らのインビトロおよびインビボでの知見は、ニューレグリンが、増大した生理学的ストレスに応答した代償性肥大性増殖の刺激に関与し、同時に、このようなストレスに曝された心筋細胞のアポトーシスを阻害することを示す。これらの観察は、ニューレグリン処置が、うっ血性心疾患の予防、最小化、または逆転に有用であることを示す。理論で拘束されることを望むものではないが、ニューレグリン処置は、心筋細胞の肥大を刺激することによって、心臓のポンプ能力を強化するようであり、そして、心筋細胞のアポトーシスを抑制することによって、心臓の更なる劣化を、部分的または完全に阻害する。
【0046】
(ニューレグリン)
NRG−1、NRG−2、およびNRG−3遺伝子によってコードされるポリペプチドはEGF様ドメインを有し、これにより、これらはErbBレセプターに結合し、そしてErbBレセプターを活性化することが可能となる。Holmesら(Science 256:1205−1210、1992)は、EGF様ドメインが単独で、p185erbB2レセプターに結合し、そしてこれを活性化するに十分であることを示した。従って、NRG−1、NRG−2、またはNRG−3の遺伝子によってコードされる任意のポリペプチド産物、あるいは任意のニューレグリン様ポリペプチド(例えば、ニューレグリン遺伝子またはcDNAによってコードされるEGF様ドメイン(例えば、米国特許第5,530,109号、米国特許第5,716,930号、および米国特許出願第08/461,097号に記載されるようなNRG−1ペプチドサブドメインC−C/DまたはC−C/D’を含むEGF様ドメイン;またはWO 97/09425に開示のようなEGF様ドメイン)を有するポリペプチド)が、本発明において、うっ血性心不全の予防または処置のために使用され得る。
【0047】
(危険因子)
個体のうっ血性心不全を発症する確立を増大させる危険因子は周知である。これには、限定されないが、喫煙、肥満、高血圧、虚血性心疾患、血管疾患、冠状動脈バイパス手術、心筋梗塞、左心室収縮機能不全、心臓毒性化合物(アルコール、コカインのような薬物、ドキソルビシン、およびダウノルビシンのようなアントラサイクリン系抗生物質)に対する曝露、ウイルス感染、心膜炎、心筋炎、歯肉炎、甲状腺疾患、心不全のリスクを高めることが知られている遺伝子欠損(例えば、BachinskiおよびRoberts、Cardiol.Clin.16:603−610、1998;Siuら、Circulation 8:1022−1026、1999;およびArbustiniら、Heart 80:548−558、1998に記載のようなもの)、飢餓、食欲不振および過食症のような摂食障害、心不全の家族歴、および心筋肥大が包含される。
【0048】
従って、ニューレグリンは、リスクがあると確認された個体のうっ血性心疾患を防ぐために、またはうっ血性心疾患の進行速度を減少させるために、投与され得る。例えば、ニューレグリンを初期代償性肥大の患者に投与すると、肥大状態を維持させ得、そして心不全への進行を妨げ得る。加えて、上記のように、リスクがあると確認された個体は、代償性肥大の発生の前に、心臓保護的な(cardioprotective)ニューレグリン処置を受け得る。
【0049】
癌患者への、アントラサイクリン化学療法またはアントラサイクリン/抗ErbB2(抗HER2)抗体(例えば、HERCEPTIN(登録商標)併用療法の前またはその最中のニューレグリン投与は、患者の心筋細胞がアポトーシスすることを防ぎ得、これにより心臓の機能を保護する。既に心筋細胞を損失した患者もまた、ニューレグリン処置の恩恵を被ることができる。なぜなら、残った心筋組織は、肥大性増殖および収縮性の増大を示すことによって、ニューレグリン曝露に対して応答するからである。
【0050】
(処置)
ニューレグリン、およびニューレグリン遺伝子でコードされるEGF様ドメインを含むポリペプチドは、患者または実験動物に、薬学的に受容され得る希釈剤、キャリア、または賦形剤と共に、単位投与形態で投与され得る。従来の薬学実践が、このような組成物を患者または実験動物に投与するための適切な処方または組成物を提供するために使用され得る。静脈内投与が好ましいが、任意の適切な投与経路、例えば、非経口、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼、心室内、包内、脊髄内、槽内、腹腔内、鼻腔内、エアーゾル、経口、または局所(例えば、皮膚を透過し得、そして血流に入ることができる処方物を保有する接着性パッチの適用による)投与が使用され得る。治療処方物は、液状の溶液または懸濁液の形態であり得る。経口投与のためには、処方物は錠剤またはカプセル剤の形態であり得る。鼻腔内処方物のためには、散剤、鼻用ドロップ、またはエアーゾルであり得る。上記のいずれの処方物も、持続放出処方物であり得る。
【0051】
処方物を作製するための当該分野で周知の方法は、例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に見いだされる。非経口投与のための処方物は、例えば、賦形剤、滅菌水、または生理食塩水、ポリエチレングリコールのようなポリアルキレングリコール、植物起源の油、または水素化ナフタレン(napthalene)を含み得る。持続放出性、生体適合性、生分解性のラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーを用いて、化合物の放出を制御し得る。本発明の分子を投与するための他の潜在的に有用な非経口送達系は、エチレン−酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透性ポンプ、移植できる灌流系、およびリポソームを包含する。吸入のための処方物は、賦形剤、例えば、ラクトースを含み得、あるいは、例えばポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、グリココール酸およびデオキシコール酸塩を含む水溶液であり得、あるいは鼻用ドロップの形態、あるいはゲルとして投与するためには油性溶液であり得る。
【0052】
(遺伝子治療)
ニューレグリン、およびニューレグリンEGF様ドメインを含むニューレグリン様ポリペプチドはまた、体細胞遺伝子治療によって投与され得る。ニューレグリン遺伝子治療のための発現ベクター(例えば、プラスミド、人工染色体、またはウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、またはヘルペスウイルス由来のもの)は、ニューレグリンコード(またはニューレグリン様ポリペプチドコード)DNAを、適切なプロモーターの転写制御下で保有する。プロモーターは、当該分野で公知の任意の非組織特異的プロモーターであり得る(例えば、SV−40またはサイトメガロウイルスプロモーター)。あるいは、プロモーターは、組織特異的プロモーター、例えば、横紋筋特異的、心房または心室の心筋細胞特異的(例えば、Franzら、Cardiovasc.Res.35:560−566、1997に記載のような)、あるいは内皮細胞特異的なプロモーターであり得る。プロモーターは、誘導性プロモーター、例えば、Prenticeら(Cardiovasc.Res.35:567−574、1997)に記載のような虚血誘導性プロモーターであり得る。プロモーターはまた、内在性ニューレグリンプロモーターであり得る。
【0053】
発現ベクターは、裸のDNAとして、DNAの細胞中への進入を増強する薬剤、例えば、LipofectinTM、LipofectamineTM(Gibco/BRL、Bethesda、MD)、DOTAPTM(Boeringer−Mannheim、Indianapolis、IN)または類似の化合物のようなカチオン性脂質、リポソーム、あるいはDNAを特定の型の細胞(例えば、心筋細胞または内皮細胞)に向けて標的化する抗体と混合して、あるいはこれと結合させて、投与され得る。投与の方法は、上記の「治療」のセクションに記載の方法のいずれかであり得る。特に、体細胞遺伝子治療のためのDNAは、静脈内注射、心臓灌流、および心筋層に直接注入することによって心臓への送達に成功している(例えば、Losordoら、Circulation 98:2800−2804、1998;Linら、Hypertension 33:219−224、1999;Labhasetwar、J.Pharm.Sci. 87:1347−1350、1998;Yayamaら、Hypertension 31:1104−1110,1998を参照のこと)。治療用DNAは、患者の細胞中に進入して発現し、そしてベクターがコードする治療的ポリペプチドが心筋細胞ErbBレセプターに結合してこのレセプターを活性化させるように、投与される。
【0054】
以下の実施例は、当業者が本発明ならびにその原理および利点をよりよく理解するための一助となる。これらの実施例は、本発明の例示であり、本発明の範囲を限定するものではないことが意図される。
【0055】
(実施例I:一般的方法)
(心筋細胞および非筋細胞の初代培養物の調製)
新生仔ラット心室筋細胞(NRVM)初代培養物を、以前に記載されたようにして(Springhornら、J.Biol.Chem.267:14360−14365、1992)調製した。筋細胞を選択的に富化するために、解離した細胞を2回、500rpmで5分間遠心分離し、75分間、2回、予備プレーティング(pre−plated)し、そして最後に低密度(0.7〜1×104細胞/cm2)で、7%ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma、St.Louis、MO)を補充したダルベッコ改変イーグル(DME)培地(Life Technologies Inc.、Gaithersburg、MD)中にプレーティングした。シトシンアラビノシド(AraC;10μM;Sigma)を、チミジン取込み測定のために用いる培養物以外では、最初の24〜48時間の間に培養物に添加して、非筋細胞の増殖を防いだ。他に指示のない限り、全ての実験は、無血清培地であるDME+ITS(インスリン、トランスフェリン、およびセレン;Sigma)に替えた後、36〜48時間後に行った。この方法を用いて、本発明者らは、自発的収縮の顕微鏡観察によって、そしてモノクローナル抗心臓ミオシン重鎖抗体(抗MHC;Biogenesis、Sandown、NH)を用いた免疫蛍光染色によって評価して、>95%筋細胞を含む初代培養物を慣用的に得た。
【0056】
非筋細胞を富化した新生仔心臓から単離された細胞画分の初代培養物を、予備プレーティング手順の間に組織培養皿に接着した細胞を2回継代することによって調製した。これらの非筋細胞培養物は、抗MHCポジティブ細胞をわずかしか含んでおらず、20%FBSを補充したDME中でサブコンフルエンス(subconfluence)まで増殖させ、その後、DME−ITSに替えて、引き続き36から48時間増殖させた。
【0057】
成体ラット心室筋細胞(ARVM)初代培養物の単離および調製を、以前に記載された技術(Bergerら、Am.J.Physiol.266:H341−349、1994)を用いて行った。棒状の心筋細胞を培地中で、ラミニン(10μg/ml;Collaborative Research、Bedford、 MA)を予めコーティングしたディッシュ上で60分間プレーティングし、次に培地を1回替えて、弱く付着した細胞を除いた。ARVM初代培養物への非筋細胞の混入は、血球計算板で計数して測定すると、典型的には5%未満であった。全てのARVM初代培養物を「ACCITT」(Ellingsenら、Am.J.Physiol.265:H747−H754、1993)と名付けられた、DMEで構成され、2mg/mlのBSA、2mMのL−カルニチン、5mMのクレアチン、5mMのタウリン、0.1μMのインスリン、および10nMのトリヨウドスレオニンが補充され、100IU/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含む、規定された培地中で維持した。筋細胞の生存および/またはアポトーシスを検査するように設計された実験プロトコルにおいては、インスリンはこの規定培地から除外され、従ってこれは、「ACCTT」と名付けられる。
【0058】
(ラット心臓中のErbBレセプターのPCR分析)
ErbBレセプターのC末端の一部をコードするcDNA配列を、以下の合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅した:ErbB2コドン857位から1207位(Bargmannら、Nature 319:226−230、1986)の増幅のためのErbB2A(5’−TGTGCTAGTCAAGAGTCCCAACCAC−3’:センス;配列番号1)およびErbB2B(5’−CCTTCTCTCGGTACTAAGTATTCAG−3’:アンチセンス;配列番号2);ErbB3コドン712位から1085位(Krausら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:9193−9197、1989)の増幅のためのErbB3A(5’−GCTTAAAGTGCTTGGCTCGGGTGTC−3’:センス;配列番号3)およびErbB3B(5’−TCCTACACACTGACACTTTCTCTT−3’:アンチセンス;配列番号4);ErbB4コドン896位から1262位(Plowmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:1746−1750、1993)の増幅のためのErbB4A(5’−AATTCACCCATCAGAGTGACGTTTGG−3’:センス;配列番号5)およびErB4B(5’−TCCTGCAGGTAGTCTGGGTGCTG:アンチセンス:配列番号6)。ラット心臓または新たに単離した新生仔ラットおよび成体ラットの心室筋細胞由来のRNA試料(1μg)を逆転写して、第1鎖cDNAを生成した。PCR反応を、およそ50ngの第1鎖cDNAを含む最終容量50μlで、PTC−100TMプログラム式熱コントローラー(Programmable Thermal Controller)(MJ Research,Inc.;Watertown、MA)中で30サイクル行った。各サイクルは、94℃で30秒間、63℃で75秒間、および72℃で120秒間を含んでいた。各反応混合物の30μlのアリコートを1%アガロースゲル中の電気泳動と臭化エチジウム染色によって分析した。PCR産物をTAクローニングベクター(Invitrogen Co.、San Diego、CA)中に直接クローニングし、そして自動DNA配列決定によって確認した。
【0059】
(ErbBレセプターのリン酸化分析)
どのレセプターサブタイプがチロシンリン酸化されるかを分析するために、新生仔および成体の心室の筋細胞を無血清培地中で24から48時間維持し、次いで組換えヒトグリア増殖因子2(rhGGF2)を20ng/ml用いて37℃で5分間処理した。細胞を、氷冷したリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で2回素早くリンスし、1% NP40、50mM Tris−HCl(pH 7.4)、150mM NaCl、1mM エチレングリコール−ビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、1mM オルトバナジウム酸ナトリウム、10mM モリブデン酸ナトリウム、8.8g/L ピロリン酸ナトリウム、4g/L NaFl、1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、10μg/ml アプロチニンおよび20μM ロイペプチンを含んだ冷たい溶解緩衝液に溶解した。溶解産物を12,000×gで4℃で20分間遠心分離し、上清の500μg(新生仔の筋細胞)または2000μg(成体の筋細胞)のアリコートをErbB2またはErbB4(Santa Cruz Biotechnology Inc.,Santa Cruz,CA)に特異的な抗体とともに4℃で一晩インキュベートし、プロテインA−アガロース(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)で沈降させた。免疫沈降物を回収し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)サンプル緩衝液中で煮沸することにより、遊離させた。サンプルをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分画し、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)メンブレン(Biorad Laboratories,Hercules,CA)に転写し、PY20抗ホスホチロシン抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)でプローブした。ErbB2の検出については、上清をまた、ビオチン化したRC20抗ホスホチロシン抗体(Upstate Biotechnology,Inc.,Lake Placid,NY)で免疫沈降し、ErbB2(Ab−2;Oncogene Research Products,Cambridge,MA)に対するモノクローナル抗体でブロットした。
【0060】
([3H]チミジンおよび[3H]ロイシンの取り込み)
DNA合成の指標として、以前に述べられているように(Berkら、Hypertension 13:305−314,1989)、[3H]チミジンの取り込みを測定した。無血清培地(DME+ITS)で36から48時間インキュベートした後、その細胞を20時間、異なった濃度のrhGGF2(Cambridge NeuroScience Co.,Cambridge,MA)で刺激した。次いで[3H]チミジン(0.7 Ci/mmol;Dupont)を5μCi/mlの濃度でこの培地に加え、その細胞をさらに8時間培養した。細胞をPBSで2回、10% TCAで1回洗浄し、10% TCAを加え、4℃で45分間、タンパク質を沈殿させた。rhGGF2にさらしていない筋細胞の並行培養物を、コントロールと同様の条件下で採取した。沈殿物を95% エタノールで2回洗浄し、0.15N NaOHに再懸濁し、1M HClで飽和させ、次いで、アリコートをシンチレーションカウンターでカウントした。結果を、それぞれの実験でのコントロール細胞の平均cpmに対して正規化した1ディッシュ当りの相対cpmとして表す。抗体をブロックする実験として、rhGGF2またはrhFGF2のどちらかを加える前に、それぞれのニューレグリンレセプター(c−neu Ab−2,Oncogene Research Products;およびErbB3またはErbB4,Santa Cruz
Biotechnology)に特異的な抗体(0.5g/ml)とともに細胞を2時間プレインキュベートしたという点を除き、同様の手順を適用した。
【0061】
[3H]ロイシンの取り込みの割合をタンパク質合成の指標として使用した。これらの実験のために、10μMのシトシンアラビノシドを培養培地に加えた。細胞を無血清培地で36から48時間増殖させ、次いで異なった用量のrhGGF2で刺激した。40時間後、[3H]ロイシン(5μCi/ml)を8時間加え、細胞をPBSで洗浄し、10% TCAで採取した。TCAで沈殿可能な放射能を、上述のようにシンチレーションカウンティングによって決定した。
【0062】
(5−ブロモ−2’−デオキシ−ウリジンの取り込みおよび免疫蛍光染色)
核の5−ブロモ−2’−デオキシ−ウリジン(BrdU)の取り込みおよび心筋特異的抗原のミオシン重鎖(MHC)を二重間接免疫蛍光を用いて同時に可視化した。初代NRVM培養物をDME+ITS中で48時間維持し、次いでrhGGF2(40ng/ml)で30時間刺激した。コントロール培養物も同様に、しかし、rhGGF2を除いて調製した。BrdU(10μM)を最後の24時間にわたって加えた。細胞を、pH 2.0の50mMグリシン緩衝液中の70%エタノールの溶液中で−20℃、30分間固定化し、PBS中で再水和し、4N HCl中で20分間インキュベートした。次いで細胞をPBS中で3回洗浄して中和し、1% FBSで15分間インキュベートし、続いてマウスのモノクローナル抗体の抗MHC(1:300;Biogenesis,Sandown,NH)で37℃、60分間処理した。一次抗体を、TRITC結合体化ヤギ抗マウスIgG(1:300,The Jackson Laboratory,Bar Harbor,ME)で検出し、核BrdUの取り込みを、インサイチュ細胞増殖キット(Boehringer Mannheim Co.Indianapolis,IN)からのフルオレセイン結合体化抗BrdU抗体で検出した。カバーグラスをFlu−mount(Fisher Scientific;Pittsburgh,PA)の上に置き、免疫蛍光顕微鏡によって検査した。約500個の筋細胞がそれぞれのカバーグラスにおいてカウントされ、BrdU陽性の筋細胞のパーセンテージを計算した。
【0063】
rhGGF2を用いての筋細胞表現型の変化を検査するために、細胞を4%(w/v)パラホルムアルデヒド中で30分間、室温で固定し、PBSでリンスし、0.1% Triton X−100で15分間浸透性にし、次いで1% FBSとともにさらに15分間インキュベートし、続いて抗MHC(1:300)とともにインキュベートし、TRITC結合体化二次抗体(NRVM)またはFITC結合体化二次抗体(ARVM)を用いて可視化した。ARVMを、MRC600共焦点顕微鏡(BioRad;Hercules,CA)とKr/Arレーザーを用いて検査した。
【0064】
(細胞生存アッセイおよびアポトーシスの検出)
細胞の生存率を、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT,Sigma)細胞呼吸アッセイによって決定した。このアッセイは、生細胞のミトコンドリアの活性に依存している(Mosman、J.Immunol.Meth.65:55−63,1983)。無血清培地中で2日後、NRVMの初代培養物を4日間または6日間のいずれかにわたって、異なる濃度のrhGGF2で刺激した。ARVMをACCTT培地中またはACCTT培地+異なった濃度のrhGGF2中で6日間維持した。次いでMTTをこの細胞と3時間、37℃でインキュベートした。ジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma)で細胞融解した後、生細胞は、テトラゾリウム環を、570nmで光学密度を読み取ることによって定量され得る暗青色のホルマザン結晶に変化させる。
【0065】
アポトーシスを、新生仔および成体の筋細胞中で、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)媒介dUTPニックエンドラベリング(TUNEL)検定を用いて検出した。フルオレセイン結合体化dUTPを用いたDNAの3’末端ラベリングを製造者の指示通りにインサイチュ細胞死検出キット(Boehringer Mannheim,Indianapolis,IN)を用いて行った。細胞を上述のように抗MHC抗体を用いて対比染色し、核もまた、Hoescht 33258(10μM,Sigma)を用いて5分間染色した。500個を超える筋細胞をそれぞれのカバーグラスで数え、TUNEL陽性の筋細胞のパーセンテージを計算した。70%エタノール/PBS中で固定し、そしてヨウ化プロピジウムで染色した新生仔の筋細胞のフローサイトメトリー分析をまた、アポトーシスが起こっている細胞のパーセンテージを定量するために行った。この方法はアポトーシスが起こっている細胞は低2倍体量のDNAを有し、DNAヒストグラムのG0/G1ピークより下の、広い範囲に局在するという観察に基づいている。手短には、細胞をトリプシン処理によって採取し、非接着細胞と一緒にプールし、70%エタノール中で固定した。PBSで1回リンスした後、細胞を室温で30分間、RNaseA(5Kuniz単位/ml)を含んだヨウ化プロピジウム(20μg/ml,Sigma)溶液でインキュベートした。データを、FACScan(Becton−Dickinson,San Jose,CA)を用いて収集した。それぞれのサンプルについて、10,000の事象を収集した。凝集した細胞および極端に小さい細胞破片は除去した。
【0066】
(RNAの単離およびハイブリダイゼーション)
総細胞RNAをTRIZOL試薬(Life Technologies Inc.,Gaithersburg,MD)を用いて、酸性グアジニウム/チオシアネート−フェノール/クロロホルム抽出法(ChomczynskiおよびSacchi、Anal.Biochem.162:156−159,1987)の改変法によって単離した。RNAをホルムアルデヒドアガロースゲル電気泳動によってサイズ分画し、一晩のキャピラリーブロッティングによって、ナイロンフィルター(Dupont,Boston,MA)に転写し、ランダムプライミング(Life Technologies Inc.)によって[α−32P]dCTPでラベルしたcDNAプローブとハイブリダイズさせた。フィルターをストリンジェント条件下で洗浄し、X線フィルム(Kodak X−Omat
AR,Rochester,NY)に曝露した。シグナルの強度を、デンシトメトリー(Ultrascan XL、Pharmacia)によって決定した。次のcDNAプローブを用いた:ラットプレプロ心房性ナトリウム利尿因子(prepro−ANF;心筋細胞の肥大のマーカー)(0.6kbのコード領域)(Seidmanら、Science、225:324−326、1984)およびラット骨格α−アクチン(240bpの3’非翻訳領域)(Shaniら、Nucleic Acids Res.9:579−589,1981)。ラットグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH;ハウスキーピング遺伝子)cDNAプローブ(240bpのコード領域)(Tsoら、Nucleic Acids Res.13:2485−2502,1985)をローディングおよび転写効率のコントロールとして使用した。
【0067】
(大動脈狭窄モデル)
上行大動脈狭窄を、乳離れしたばかりの雄ウィスターラット(体重50〜70g、3〜4週間、Charles River Breeding Laboratories,Wilmington,Massより入手)で以前に記載されたように行った(Schunkertら、Circulation,87:1328−1339,1993;Weinbergら、Circulation,90:1410−1422,1994;Feldmanら、Circ.Res.,73:184−192,1993;Schunkertら、J.Clin.Invest.96:2768−2774,1995;Weinbergら、Circulation,95:1592−1600,1997;Litwinら、Circulation,91:2642−2654;1995)。擬似手術の動物は、年齢が一致したコントロールとして役立った。大動脈狭窄動物および年齢が一致した擬似手術のコントロールを、手術後6および22週間に、65mg/kgの腹腔内ペントバルビタールで麻酔した後に屠殺した(1グループ当りn=20〜29)。このモデルでの血流力学および心エコーの研究は、正常な左心室(LV)腔の大きさおよび収縮指数を伴う代償肥大が結紮の6週間後に存在し、一方、動物は結紮の22週間後までに早期不全を発達させ、この不全は左心室腔の膨大発症、および柏出指数の軽い抑制、ならびに左心室グラム質量当りの圧力増加、の開始によって特徴付けられることを示した。本研究では、以前に記載されたように、屠殺する前にインビボ左心室圧力の測定を行った(Schunkertら、Circulation,87:1328−1339,1993;Weinbergら、Circulation,90:1410−1422,1994;Feldmanら、Circ.Res.,73:184−192,1993;Schunkertら,J.Clin.Invest.96:2768−2774,1995;Weinbergら、Circulation,95:1592−1600,1997;Litwinら、Circulation,91:2642−2654;1995)。また動物を、頻呼吸、腹水および胸水の存在を含む心不全の臨床マーカーについて検査した。体重および左心室の重さの両方を記録した。
【0068】
(RNA抽出のための左心室筋細胞の単離)
動物の部分集合(グループ当りn=10)の中で、心臓を迅速に切除し、大動脈カニューレに付着させた。筋細胞のコラゲナーゼ灌水による解離を以前に記載されたように行った(Kagayaら、Circulation,94:2915−2922,1996;Itoら、J.Clin.Invest.99:125−135,1997;Tajimaら、Circulation,99:127−135,1999)。最終細胞懸濁液中の筋細胞のパーセンテージを評価するために、筋細胞のアリコートを固定し、浸透化し、ブロックした。次いで細胞懸濁液を、筋細胞と内皮細胞との間を区別するために、α−サルコメアアクチンに対する抗体(mAb,Sigma,1:20)およびフォンビルブラント因子に対する抗体(pAb,Sigma,1:200)とともにインキュベートした。テキサスレッド(あるいはオレゴングリーン)結合体とともに二次抗体(ヤギ抗ウサギ、ヤギ抗マウスpAb、Molecular probes、1:400)を検出系として用いた。98%の筋細胞および2%未満の内皮細胞または非染色細胞(線維芽細胞)のフラグメントを慣用的に得た。
【0069】
(RNA分析)
全RNAを、TRI Reagent(Sigma)を用いて、コントロールの筋細胞および肥大した筋細胞(それぞれのグループでn=10の心臓)から、ならびに左心室組織(それぞれのグループでn=10の心臓)から単離した。組織および筋細胞のRNAを次のプロトコールに使用した。筋細胞RNAを用い、ノーザンブロットを用いて、GAPDHに対して標準化し、心房性ナトリウム利尿ペプチドのメッセージレベルを評価した(Feldmanら、Circ.Res.73:184−192,1993;Tajimaら、Circulation,99:127−135,1999)。これらの実験を行って、この肥大の分子マーカーを用いて、RNAの筋細胞起源の特異性を確かめた。
【0070】
本発明者らはまた、成体のラットの心臓および成体の筋細胞に由来するサンプル中のErbB2、ErbB4およびニューレグリンの存在の最初の見積もりのために、次のプライマー対を用いて、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行った:ErbB2センス 5’GCT GGC TCC GAT GTA TTT GAT GGT 3’(配列番号7)、ErbB2アンチセンス 5’GTT CTC TGC CGT AGG TGT CCC TTT 3’(配列番号8)(Sarkarら、Diagn.Mol.Pathol.2:210−218,1993);ErbB3センス 5’GCT TAA AGT GCT TGG CTC GGG TGT C 3’(配列番号3)、ErbB3アンチセンス 5’TCC TAC ACA CTG ACA CTT TCT CTT 3’(配列番号4)(Krausら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9193−9197;1989)、ErbB4センス 5’AAT TCA CCC ATC AGA GTG ACG TTT GG 3’(配列番号5)、ErbB4アンチセンス 5’TCC TGC AGG TAG TCT GGG TGC TG 3’(配列番号6)(Plowmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:1746−1750;1993);ニューレグリンセンス 5’GCA TCA CTG GCT GAT TCT GGA G 3’(配列番号9)、ニューレグリンアンチセンス 5’CAC ATG CCG GTT ATG GTC AGC A 3’(配列番号10)。後者のプライマーはNRG−1遺伝子によってコードされた核酸を認識するが、そのアイソフォーム間を区別しない。増幅を、1分間の変性、遺伝子に特異的な温度での2分間のアニーリング、および72℃にて2分間の伸長によって開始した。PCR反応物全体を1%アガロースゲルで電気泳動し、予想サイズのPCR産物をゲル精製した。
【0071】
pGEM−Tベクター(Promega,Madison,WI)にこれらのフラグメントをクローンニングした後、これらのフラグメントのベクター内での正確さおよび方向を配列決定によって確かめた。クローニングされたPCRフラグメントを用いて、MAXIscriptインビトロ転写キット(Ambion,Inc.,Austin,TX)およびα−32P−UTPを用いて、放射性標識したリボプローブを生成した。ErbB2、ErbB4またはニューレグリンフラグメントを含んだプラスミドを直鎖にし、そして、T7またはT3 RNAポリメラーゼを用いたインビトロ転写によって、放射性標識したプローブを合成した。キットによって提供されたβ−アクチンプローブを、T7またはT3ポリメラーゼを用いて転写し、それぞれ330および300bpのフラグメントを得た。RPAIIキット(Ambion)のプロトコールにより、後の標準化のための2×104cpmのβ−アクチンと一緒に、5×105cpmのErbB2、ErbB4またはニューレグリンのc−RNAに対して20μgの全RNAをハイブリダイズさせた。
【0072】
RNaseA/RNaseT1で消化した後、サンプルを沈殿させ、乾燥し、再溶解し、最後に2時間にわたって5%ポリアクリルアミドゲルによって分離した。ゲルをKodak MRフィルムに12から48時間曝露し、アッセイをImage Quant ソフトウェア(Molecular Dynamics,Inc.,Sunnyvale,CA)を使用して、オートラジオグラフのデンシトメトリースキャニングで定量した。ErbB2、ErbB4およびニューレグリンのmRNAレベルをβ−アクチンに対して標準化した。
【0073】
(ErbB2およびErbB4のウエスタンブロッティング)
左心室組織(1グループ当りn=5の心臓)を、50mmol/L Tris
HCl、pH 7.4、1% NP−40、0.1% SDS、0.25% Na−デオキシコール酸塩、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM
PMSF、1μg/mlアプロチニン、1μg/mlロイペプチン、1μg/mlぺプスタチンおよび1mM Na3PO4を含んだRIPA緩衝液中で迅速にホモジナイズした。タンパク質を、ローリーアッセイキット(Sigma)を用いて定量した。レムリSDSサンプル緩衝液中の50μgのタンパク質を5分間煮沸し、遠心分離した後、10% SDS−PAGEゲルにローディングした。電気泳動の後、タンパク質を100mAで一晩、ニトロセルロースメンブレンに転写した。フィルターを0.05% Tween−20、5%脱脂乳でブロッキングし、次いで、抗ErbB2または抗ErbB4(Santa Cruz Biotechnology、それぞれ1:100、1μg/mlに希釈)とともにインキュベートした。1:2000に希釈したヤギ抗ウサギペルオキシダーゼ結合体化二次抗体とともにインキュベートした後、ブロットを増強化学発光(ECL)検出法(Amersham,Life Science)に供し、その後Kodak MRフィルムに30〜180秒間曝露した。タンパク質レベルを抗β−アクチン(Sigma)を用いて検出されたβ−アクチンのタンパク質レベルに対して標準化した。
【0074】
(ニューレグリンについてのインサイチュハイブリダイゼーション)
左心室組織(n=2コントロールおよび6週間大動脈の狭窄した心臓)の10μm凍結切片をインサイチュハイブリダイゼーションに使用した。アンチセンスRNAプローブおよびセンスRNAプローブを、pBluescript中のcDNAフラグメントから、T7 RNAポリメラ−ゼまたはT3 RNAポリメラ−ゼのいずれかおよびジゴキシゲニン標識のUTP(DIG RNA Labeling Mix、Boehringer Mannheim)を用いて合成した。組織切片を、最初に4%パラホルムアルデヒドで20分間処理し、続いてプロテイナーゼK(10μg/ml)で37℃、30分間消化し、さらに5分間4%パラホルムアルデヒドで固定した。
【0075】
固定の次に、スライドをPBS中で5分間にわたって3回洗浄し、その後0.25%無水酢酸中の0.1M塩化トリエタノールアミン緩衝液中に切片を10分間浸漬して切片上の極性基および荷電した基をブロックし、それゆえプローブの非特異的な結合を妨げた。2×SSC中でスライドを洗浄した後、次いでこれらのスライドを、45℃で60分間、50%ホルムアミド/2×SSCを充填した湿気のあるチャンバー内で、プレハイブリダイズをした(50%ホルムアミド、2×SSC、5%デキストラン硫酸、0.1%SDS、1×デンハルト、400μg/ml変性サケ精子DNA)。1時間後、プローブをプレハイブリダイゼーション溶液に加え、スライドを16〜18時間45℃でハイブリダイズした。
【0076】
一晩のハイブリダイゼーションの後、スライドを、振盪しながら4×SSC中で30分間45℃で2回洗浄し、次いで、RNaseA(40μg/ml)を加えた500mM NaCl、10mM Tris、1mM EDTA、pH8.0中で、30分間37℃でインキュベートして、ハイブリダイズしていないプローブを除いた。RNaseで処理した後、切片を2×SSC中で50℃で30分間浸漬し、次いで0.2×SSC中で同じ温度でさらに30分浸漬した。スライドをTBSI緩衝液(100mM Tris、150mM NaCl、pH 7.5)で平衡化し、次いで製造者のプロトコール(DIG Nucleic Acid Detection Kit,Boehringer Mannheim)に従い、30分間室温でブロッキング試薬でブロックした。
【0077】
ブロッキング試薬を取り除いた後、スライドをTBSI中に1分間浸漬し、次いで、抗DIG−AP結合体溶液(DIG Nucleic Acid Detection Kit,Boehringer Mannheim)をそれぞれの切片に1.5時間室温で、湿気のあるチャンバー内で適用した。その後スライドをTBSI中で1回の洗浄当り10分間ずつ3回洗浄して、過度の抗体を洗浄除去し、TBSII(100mM Tris、100mM NaCl、pH 9.5、50mM MgCl2・7H2O)で5分間平衡化した。色の基質を製造者の指示に従って調製し、青色着色反応が可視化するまでそれぞれの切片に適用した。反応を止め、スライドをPBSおよび蒸留水でそれぞれ5分間洗浄した。核の対比染色の後、切片をエタノールシリーズを通して脱水し、キシレンに浸漬し、Permount中でのカバーグラスによって検鏡用に作製した。
【0078】
(統計的解析)
全ての数値を平均値±SEMで表す。大動脈狭窄症グループ(結紮(banding)してから6週間、22週間)と年齢を合わせた(age−matched)コントロールのグループとの間に見られる差異の統計的な解析を、ANOVA比較によって行った。片側(unpaired)スチューデント検定を用いて、両グループ間で結紮後に同じ年齢での比較を行った。p<0.05のレベルを統計的有意とした。
【0079】
(実施例II:ニューレグリンは心筋細胞の生存と増殖を促進する)
(心臓におけるニューレグリン受容体の発現)
ラットの心筋においてどのNRG受容体(すなわちErbB2, ErbB3, ErbB4)が発現しているかを決定するために、ラット心臓組織の発生の各段階、および分離したばかりの新生仔および成体の心室筋細胞由来のRNAを、ErbB受容体の可変性C末端に隣接したプライマーを用いてPCRによって逆転写し、そして増幅した。図1Aは心臓発生の間のニューレグリン受容体mRNAレベルの半定量的RT−PCR解析を示す。胎児(E14、E16、E19)、新生仔(Pl)または成体(Ad)のラット心臓、および新生仔ラット心室筋細胞(NRVM)または成体ラット心室筋細胞(ARVM)に由来する総RNAを、cDNAへと逆転写し、受容体アイソフォームに特異的なプライマーを用いて増幅した(方法を参照のこと)。逆転写、PCRによる増幅、およびゲルのローディングの際のコントロールとして、GAPDHを用いた(「M」は、1kbまたは120bpのDNA分子量標準を示す)。RT−PCR産物を、DNA配列決定によって確かめた。
【0080】
三種全てのErbB受容体は、中期胚発生(E14)の発生期ラット心臓において発現した。その相対的なmRNA量の順序は、ErbB4>ErbB2>ErbB3であった。ErbB受容体の発現は、胚発生の後期においてダウンレギュレートされた。E16およびE19において、ならびに出生後1日目(P1)においては、ErbB2とErbB4のmRNAのみが検出され得た。成体ラット心臓においては、ErbB4は検出されたものの、そのmRNA量は胚発生および新生仔の心臓において検出されたものに比べて低かった。それに対して、ErbB2 mRNAおよび、まれにではあるがErbB3 mRNAが、成体心筋においてごく低いレベルで検出し得た。分離されたばかりの新生仔および成体のラット心室筋細胞の初代培養において、ErbB2およびErbB4両方のmRNAを、RT−PCRによって容易に検出したが、ErbB4の発現レベルはErbB2の発現レベルよりも矛盾なく高かった。さらに、ErbB2、ErbB3およびErbB4についての受容体特異的cDNAプローブを用いたときには、ErbB4の転写のみを、分離されたばかりの新生仔および成体のラット心室筋細胞において、ノーザンブロットにより容易に検出し得た。
【0081】
どのErbB受容体がニューレグリン処理後にチロシンリン酸化されたかを決定するために、24〜48時間の間、無血清培地中に維持されていたNRVMまたはARVMの初期培養物を、ニューレグリン添加あるいは無添加のいずれか(すなわち、組換えヒトグリア増殖因子2(rhGGF2))(20ng/ml)で5分間処理を行った。ErbB4受容体タンパク質は、抗ErbB4抗体とともに500μgのNRVM溶解物あるいは2000μgのARVM溶解物から免疫沈降した。そしてリン酸化形態のErbB4を抗ホスホチロシン抗体を用いて検出した。図1Bに示されたブロットは3回の独立した実験を示す。図1Bに示すように、リン酸化されたErbB4は新生仔の筋細胞において顕著に存在したが、あまり強くはなかった。しかし、成体の筋細胞において検出可能であった。このことは、我々が上記で観察したErbB4 mRNA量のレベルと一致した。リン酸化形態のErbB2およびErbB3は、たとえビオチン化抗ホスホチロシン抗体とともに免疫沈降したとしても、検出され得なかった。このことは、出生後の心筋細胞において、これら2つのニューレグリン受容体のmRNA量がはるかに減少していることと一致した。
【0082】
(GGF2は、新生仔心室筋細胞におけるDNA合成を刺激する)
NRVM初代培養物におけるGGF2のDNA合成刺激能を調べるために、二日間無血清培地で維持した筋細胞を、40ng/mlのrhGGF2で30時間続いて処理した。BrdU(図2B)あるいは[3H]チミジン(図3A、3B)いずれかの取り込みを測定することによって、DNA合成をモニタリングした。これらの物質は、各実験が終わる24時間あるいは8時間前に、それぞれ培地に添加した。
【0083】
図2Aは、NRVMにおいてTRITC結合体化ヤギ抗マウス抗体によって視覚化された筋細胞のミオシン重鎖を示す(赤)。図2Bは、フルオレセイン結合体化マウス抗BrdU抗体によって視覚化されたBrdU陽性核を示す(緑)。図2Aおよび2Bのスケールバーは10μmを示す。図2Cはコントロール条件下およびGGF2存在下でのBrdU陽性筋細胞の割合を示す(データは三回の実験の平均±SDである(*p<0.01))。図2Cに示されているように、40mg/ml(およそ0.7nM)のrhGGF2は、BrdUで標識した筋細胞(出生後1日目のラット心室由来)の割合を約80%増加させた。この増加の大きさは、[3H]チミジンの取り込みによって観察された増加と類似した(図3A)。
【0084】
図3Aおよび図3Bは、ラット心室筋細胞の初代単離物由来の筋細胞リッチ画分および非筋細胞画分におけるDNA合成に対するGGF2の影響を示す。図3Aにおいて、NRVMリッチ初代単離物あるいは非筋細胞リッチ画分(方法を参照のこと)を、コントロール(すなわち、無血清)培地のみ(Ctl)、あるいは40ng/mlのrhGGF2(GGF)または7%のウシ胎仔血清(FBS)のいずれかを含む培地に曝した。図3Bにおいて、NRVMのDNA合成に対するGGF2濃度依存性の効果を示す。[3H]チミジンの取り込みによってDNA合成を評価し、そしてデータを、それぞれの実験においてコントロール細胞の平均cpmに対して正規化した相対的cpm/ディッシュとして表す(三つの独立した実験から、三連で分析した平均±SD、*コントロールに対してp<0.01)。20ng/mlのrhGGF2は、NRVMへの[3H]チミジン取り込みのおよそ60%の増加を引き起こす。これは、7%FBS添加で観察された値の約半分であった。NRVMに対するrhGGF2の細胞分裂促進効果は濃度依存的であり、50ng/mlの濃度(すなわち、0.9nM)においては、約80%増加であった(図3B)。GGF2は、ラットの胚性心室筋細胞(E19)および出生後の心室筋細胞(P5)におけるBrdUまたは[3H]チミジン取り込みに対して、類似の細胞分裂促進効果を持っていた。それに対して、100ng/ml程度のGGF2高濃度は、成体ラット心室筋細胞初代培養物において、DNA合成に影響しなかった。
【0085】
新生仔ラット心室筋細胞単離手順の前プレート化工程の後に得られた、非筋細胞画分に対するrhGGF2の影響も調べた。図3Aに示すように、rhGGF2は非筋細胞への[3H]チミジンの取り込みにおいて、有意な変化を誘導しなかった。これは、7%FBS(この細胞集団への[3H]チミジンの取り込みにおいて約10倍の増加を誘導した)とは対照的である。それゆえ、GGF2は、我々がここで採った筋細胞単離方法を用いた場合には、主として繊維芽細胞および内皮細胞から構成される筋細胞枯渇細胞集団と比較して、心筋細胞に対して比較的特異的な作用を示す。
【0086】
どの公知のニューレグリン受容体が胎児および新生仔の心室筋細胞に対するGGF2の細胞分裂促進効果を媒介するのかを決定するために、ErbB2、ErbB3およびErbB4に特異的な抗体と共にインキュベートした後、初代NRVM培養物において、DNA合成を測定した。新生仔の筋細胞を二日間、無血清培地中で培養した後、なし(コントロール)、またはrhGGF2存在下(10ng/ml)、またはrhFGF2存在下(20ng/ml)、またはGGF2/FGF2存在下のいずれかと、ErbB2、ErbB3またはErbB4に対する抗体で30時間、示したように、単独で、または組み合わせのいずれかで処理した。抗体(0.5μg/ml/抗体)を2時間細胞と共にプレインキュベートした後、GGF2またはFGF2のいずれかを添加した。[3H]チミジンは最後の8時間の間添加した(各実験において、コントロール細胞の平均cpmに対して正規化した相対的cpm/ディッシュとして、データを表す。また、データは平均±SDとして表される。n=3(独立した実験);*rhGGF2のみに対してp<0.04;#rhGGF2のみに対してp>0.1)。
【0087】
図4に示すように、c−neu/ErbB2の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体は、GGF2によるNRVMへのGGF2に依存した[3H]チミジン取り込みの増加を阻害した。同様に、ErbB4のC末端に対する抗体もまた、GGF2により誘導される[3H]チミジンの取り込みの増加を約50%ブロックした。これら二つの抗体を組み合わせて使った場合にも、抗ErbB2抗体あるいは抗ErbB4抗体のいずれか単独の場合と同じ効果が得られた。対照的に、ErbB3に対する抗体はGGF2により誘導されるDNA合成に対して効果がなかった。ErbB2およびErbB4に対する抗体で見られた効果がGGF特異的であったことを立証するために、姉妹NRVM初代培養物を20ng/mlのrhFGF2(組換えヒトbFGF2)で処理した。どちらの抗体も、rhFGF2を用いた[3H]チミジンの取り込みのおよそ二倍の増加に影響を与えなかった。これらの結果は、少なくとも二種の公知のニューレグリン受容体チロシンキナーゼが存在し、新生仔心室筋細胞における下流のシグナル伝達カスケードと共役したことを示唆する。
【0088】
(GGF2はインビトロでの心筋細胞の生存を促進する)
発生過程において、機能性の胚性筋細胞数の正味の増加は、筋細胞の増殖能と生存との両方に依存している。それ故に、GGF2が心筋細胞の増殖に加えて生存を促進しうるかどうかを調べることは非常に興味深い。10μMのシトシンアラビノシド(AraC)存在、非存在下、無血清培地で培養したNRVMの初代培養液を4日間、示された濃度のGGF2で処理した。また、MTT細胞呼吸アッセイ(方法を参照のこと)により、代謝活性を有する細胞の相対数を測定した。データはGGFを添加した時を0日とし、三つの培養ディッシュにおいて、筋細胞の平均MTT活性のパーセントで表されている。データは平均±SD(n=3実験;*、コントロールに対してp<0.05)として表されている。本発明者らは、およそ25%の細胞が4日目までに死滅しているのを観察した。これに対し、GGF2の添加により、コントロールに比べてMTT活性が30%上昇した。その効果は0.2ng/mlのEC50を用いたときには濃度依存的であった(図5)。このような生存効果はNRVM初期培養において7日目まで見られた。また、増殖阻害剤であるシトシンアラビノシド(AraC)存在下においても見られた。図5に示すように、GGF2の生存効果はシトシアラビノシドの連続存在下で4日間見られた。このとき、筋細胞の生存能力はコントロールではおよそ70%であったのに対し、50ng/mlのrhGGF2存在下では90%であった。これに対し、筋細胞を欠失した「非筋細胞」リッチな初期単離物の4日目までの生存には重大な効果を示さなかった。
【0089】
次に本発明者らは、GGF2の生存効果がプログラム細胞死(アポトーシス)の阻害によって仲介されているかどうかについて調べた。無血清培地で2日間培養したNRVM初代培養液を、rhGGF2不在下(図6A〜C)または20ng/mlのrhGGF2存在下(図6E〜G)のいずれかで4日間培養した。次に細胞を固定し、心筋を視覚化するために抗MHC抗体およびTRITCを結合した二次抗体を用いて(図6AおよびE)、またはアポトーシスを起こしている細胞を明らかにするためにフルオレセイン結合dUTP(すなわち、TUNEL)を用いて(図6Bおよび6F)染色した。TUNELによる染色でポジティブであった筋細胞は、細胞の収縮およびクロマチンの濃縮を示した。これらはヘキスト33258による染色により同定された(図6Cおよび6G)。アポトーシスはTUNELポジティブな細胞の数をカウントすることにより(図6D)、または、示された濃度のrhGGF2(H)で4日間処理したNRVM初代培養液をプロピジウムヨウ素で染色し、フローサイトメトリーでサブG1画分を解析する事によるのいずれかで、定量した。図6Dおよび図6Hに示されているデータは、3回の独立した実験についての平均±SDとして与えられる。図6A〜6Cおよび図6E〜6Gに示すスケールバーは、10μMを意味する。
【0090】
無血清培地に入れてから6日後に、低い細胞濃度(すなわち、サブコンフルエント)でコントロール条件下で培養したNRVMの約17%が、TUNEL染色により検出し、アポトーシスの証拠を示した。これらの細胞では、アポトーシスによる細胞死と一致して、核は凝縮して小さくなり、細胞の収縮が見られた(図6A〜6C、6E〜6G)。20ng/mlのrhGGF2存在下では、TUNELポジティブな筋細胞の数は約8%にまで減少した(図6D)。アポトーシス阻害に対するGGF2の効果もまた、プロピジウムヨウ素で標識したNRVM初代培養液のフローサイトメトリーによる解析により定量した。無血清培地およびインスリン欠乏培地で4日間培養した後、22%のNRVMが低二倍体になっていた。これはプログラム細胞死の開始と一致している。10ng/ml以上の濃度のrhGGF2存在下では、10%未満のNRVMが、アポトーシスの兆候を示した(図6H)。
【0091】
成体ラット心室筋細胞(ARVM)に対するGGF2の生存および抗アポトーシス効果もまた、MTT細胞呼吸アッセイおよびTUNEL染色により調べられた。図7Aに示された実験において、ARVM初代培養液を無血清およびインスリン欠乏培地(すなわち「ACCTT」、方法を参照のこと)、あるいは、GGF2を添加したACCTT培地中のいずれかで6日間培養した。代謝活性を持つ細胞の数は、MTT細胞呼吸アッセイにより決定した。データは、処理していないコントロール細胞の平均吸光度に対して正規化された相対吸光度として表されている。それぞれのバーは平均±SD(n=3実験;*、コントロールに対してp<0.05)を表している。図7Bに示された実験において、ARVM初代培養液はACCTT培地(コントロール)あるいはrhGGF2を添加(25ng/ml)したACCTT培地中で3日間培養した。4%パラホルムアルデヒドにより固定した後、筋細胞を抗MHC抗体およびTRITCを結合した二次抗体で可視化し、アポトーシス細胞をTUNEL染色により同定した。それぞれのカバーグラス上で約500の筋細胞を計数した(データは三回の独立した実験の平均±SDである;*、コントロールに対してp<0.05)。10%より多い細胞がTUNEL標識にポジティブである、未処理のARVM初代培養液に比べた場合、rhGGF2処理(20ng/ml)を行った成体の筋細胞培養液は、約3%のTUNELポジティブ染色しか示さなかった(図7B)。これらの結果は、ニューレグリンは、新生仔と成体の両方の心室筋細胞において、少なくとも部分的にプログラム細胞死を抑制することによる、生存因子として作用するということを示している。
【0092】
(GGF2は心筋細胞の肥大増殖を誘導する)
ニューレグリンシグナルが心筋細胞において肥大(増殖)応答を誘導しうるかどうかを調べるために、本発明者らは、新生仔と成体の両方のラットの心室筋細胞初代培養液において、GGFが筋細胞の肥大増殖に誘導に対する効果について調べた。図8Aと8Bは20ng/mlのrhGGF2存在(図8B)および非存在(図8A)下のいずれかで無血清培地で72時間インキュベートしたサブコンフルエントなNRVM初期単離物の顕微鏡写真を示している。その後、細胞を固定し、心臓MHCに対する抗体(赤;TRITC)で染色し、間接免疫蛍光顕微鏡下で観察した。図中のスケールバーは、10μMを表す。20ng/ml(すなわち0.36nM)のrhGGF2存在下、無血清培地で72時間インキュベートした後、新生仔の心筋細胞(NRVM)は、細胞の大きさおよび筋繊維の発達に大きな増加を示した。
【0093】
心筋細胞における肥大応答は、細胞の大きさの増加に加え、表現型の変化の数によっても特徴づけられた。例えば、細胞の増殖を伴わない、収縮性のあるタンパク含量の増加および「胚性の」遺伝子プログラムの再活性化が挙げられる。それゆえ、本発明者らは、prepro−ANFおよび骨格のα−アクチンmRNAレベル(新生仔および成体の心室筋細胞において比較的低存在量で正常に見出される転写物)に対して、そしてNRVM初代培養液におけるタンパク質合成率としての[3H]ロイシンの取り込みに対するニューログリンの効果を調べた。図8Cは、20ng/mlのrhGGF2存在または非存在下のいずれかでインキュベートしたNRVM由来の全RNA(20μg/レーン)中のprepro−ANFおよび骨格α−アクチンmRNAの、示された時間におけるノーザンブロット解析を示す。等量のRNAがロードおよび移入されていることは、GAPDHハイブリダイゼーションにより確かめた。rhGGF2(20ng/ml)は60分以内にprepro−ANFおよび骨格αーアクチンのmRNAレベルを上昇させ、16時間経過時にはおよそ2倍になっていた。
【0094】
タンパク合成に対するGGF2の効果を調べるために、NVRMを24時間、無血清培地中で培養し、その後、それらを示されている濃度のrhGGF2で40時間処理し、[3H]ロイシンのパルスを与え、8時間後、GGF2による刺激を終結した。各GGF2濃度における[3H]ロイシンの取り込みは、各ディッシュのタンパク含量に対して正規化され、データは各実験において未処理のコントロール細胞の平均cpmに対して正規化した相対cpm/ディッシュで表されている(平均±SD、n=3実験、コントロールに対してp<0.01)。図8Dはまた、5ng/mlの濃度において、GGF2は[3H]ロイシンの取り込みを刺激しているということを示している。このとき、48時間で約120%に増加する。非筋細胞コンタミタント細胞への[3H]ロイシンの取り込み速度に対するGGF2の、起こりうる、困惑させるような効果を最小にするために、これらの実験を、シトシンアラビノシドの連続的な存在下において繰り返し、その結果、同様の実験結果が得られた。
【0095】
GGF2はまた、培養された成体のラット心室筋細胞(ARVM)における肥大応答を引き起こした。ARVMの初代培養液を24ウェルディッシュ中のカバーグラス上に置き、rhGGF2(20ng/ml)存在(図9Bおよび図9C)、非存在(図9A)下のいずれかで、ACCITT培地中で5日間維持した。細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、ミオシン重鎖に対する抗体(緑、FITC)で染色し、共焦点顕微鏡で観察した。スケールバーは10μMを示す。20ng/mlのrhGGF2の連続的な存在下において、72時間までに、いくらかの成体の筋細胞は、主にインターカレートされた円盤領域から「pseudopod」様膨張をし始めた。そして5日目までに、GGF処理された成体の心筋細胞の60%より多くが、図9Bおよび9Cに示されたのと一致して表現型の変化を見せた。その一方で、未処理のARVMの80%より多くは、図9Aに示された表現型を維持した。
【0096】
GGF2はまた、ARVMにおけるprepro−ANFおよび骨格α−アクチンの発現を高めた。ARVMの初期単離物は、示された時間、20ng/mlのrhGGF2存在、非存在下のいずれかで刺激を与えた。全RNAを単離し、prepro−ANFおよび骨格α−アクチンcDNAプローブを用いたノーザンブロット(25μg/レーン)により解析した。等量のローディング及び移入条件を、GAPDHハイブリダイゼーションにより確認した。肥大増殖のポジティブコントロールとして、フェニレフリン(PE、10μM)を用いた。図9Dに示すように、rhGGF2(20ng/ml)は、ARVM初代培養液におけるprepro−ANFのmRNAの存在量を、8時間で二倍に、20時間で3〜4倍に増加させた。また、骨格α−アクチンmRNA量の増加も見られたが、これは、成体のラットの心室筋細胞において肥大増殖および多くの胎児遺伝子の再発現を誘導することが公知の、α−アドレナリン作動性アゴニストであるフェニレフリン(10μM)を用いた時に見られるよりもはるかに大きかったことが観察された。7時間の間に、骨格α−アクチンmRNAレベルは容易に検出できるようになり、30時間GGF2で処理することにより、さらに250%もの増加を示した。ここで用いた条件下において、GGF2、フェニレフリンは共にGAPDHのmRNA存在量に何ら影響を与えなかった。
【0097】
タンパク質合成に対するGGF2の効果を試験するために、ARVM(ACCITT培地で2日)を刺激し、40時間、rhGGF2の濃度の増加し、そして[3H]ロイシンを最後の14時間で加えた。GGF2処置培養物中への[3H]ロイシン取り込みを、非刺激コントロール筋細胞における[3H]ロイシン取り込みの平均に対して正規化した。データをまた、ディッシュ間の細胞数の任意の可変性を調節するために各ディッシュのタンパク質含有量に対して正規化した(平均±S.D;n=4;*、コントロールに対するp<0.01)。図9Eに示されるように、GGF2は、[3H]ロイシン取り込みにおける容量依存性増加を誘導し、5ng/mlの濃度で70%が増加する。従って、このニューレグリンは、サブナノモルの濃度で、新生仔と成体の両方のラット心室筋細胞での肥大性適応と一致して表現型変化を誘導する。
【0098】
(実施例III:ErbB2およびErbB4発現レベルは、慢性肥大から初期心不全への遷移での大動脈弁狭窄ラットにおいて減少する)
(LV肥大および血流力学)
表1に示されるように、左心室(LV)を秤量し、そしてLV/体重比は、年齢を一致させたコントロールと比較して、6週齢および22週齢の大動脈弁狭窄動物において有意に(p<0.05)増加した。インビボLV収縮期圧は、年齢を一致させたコントロールと比較して、6週齢と22週齢の両方の大動脈弁狭窄動物において有意に増加した。インビボLV終端(end)心拡張圧はまた、年齢を一致させたコントロールと比較して、大動脈弁狭窄動物においてより高かった。このモデルにおける先行研究と一致して、1グラムあたりのLV心収縮発生(developed)圧は、年齢を一致させたコントロールと比較して、6週齢大動脈弁狭窄動物で有意に高いが、22週齢の大動脈弁狭窄動物において抑制された。結紮(banding)22週間後、大動脈弁狭窄動物はまた、頬呼吸、小胸水および心嚢貯留液を含む破壊の臨床的マーカーを示した。
(表1。左心室の肥大および血流力学)
【0099】
【表1】
表1の説明:LVH、左心室肥大を持っている心臓であり、大動脈狭窄後6および22週たったもの;C、一致した年齢のコントロール;BW、体重;LV Wt、左心室の重さ;LVEDP、LV終端心拡張圧力;LVSP、LV心収縮圧;LV devP、1gあたりのLV発生圧。値は平均±SEM;*一致した年齢のコントロールに対してp<0.05;6週齢のLVHに対してp<0.05。n=14〜20/グループ。
【0100】
(大動脈狭窄における、LV ErbB2、ErbB4およびニューレグリンの発現)
RT−PCRを用いることにより、本発明者らは、通常および肥大筋細胞においてならびに、左心室肥大の存在、非存在の成体のオスのラットの心臓由来のLV組織において、ErbB2、ErbB4およびニューレグリンmRNAを検出し得たが、ErbB3 mRNAを検出することがし得なかった。図10Aは6週齢の大動脈狭窄を起こした心臓およびコントロールならびに22週齢の大動脈狭窄を起こした心臓およびコントロールにおけるLV ErbB2およびβ−アクチンmRNAの発現を示す、リボヌクレアーゼプロテクションアッセイの結果を示す。図10Bは6週齢の大動脈狭窄を起こした心臓およびコントロール、ならびに22週齢の大動脈狭窄を起こした心臓およびコントロールにおけるLV ErbB4およびβ−アクチンmRNAの発現を示すリボヌクレアーゼプロテクションアッセイの結果を示す。次いで、大動脈狭窄ラットおよびコントロール由来のLV組織におけるErbB2、ErbB4およびニューレグリンmRNAのレベルの安定した状態のレベル(n=5心臓/1群)は、リボヌクレアーゼプロテクションアッセイ(RPA)により測定され、β−アクチンに対して正規化された。LVニューレグリンmRNAレベルは、6週齢の大動脈狭窄ラットと一致した年齢のコントロールラット由来の組織において有意な差は無かった(0.68±0.12vs0.45±0.12単位、NS)。これは、22週齢の大動脈狭窄ラットと一致した年齢のコントロールラット由来の組織において有意なさは無かった(0.78±0.21vs0.51±0.21単位、NS)。さらに、β−アクチンのレベルに対して正規化したLV ErbB2およびErbB4のmRNAレベルは、6週齢の大動脈狭窄ラットにおいて、コントロールに対して代償的な肥大を伴って保存されていた。これに対し、LV ErbB2(p<0.05)およびErbB4(p<0.01)伝達レベルは、初期不全の段階にある22週齢の大動脈狭窄ラットにおいて顕著に弱められていた(図10および表2)。
【0101】
表2.ErbBレセプターのLV mRNA及びタンパク質のレベル
【0102】
【表2】
表2の説明:LVH,大動脈狭窄後6および22週齢の左心室肥大を有する心臓;C,相応の年齢のコントロール;左心室(LV)mRNAレベルをリボヌクレアーゼ保護アッセイによって測定しβ−アクチンに対して正規化した;mRNAレベルはLV組織(mRNA、LV;n=5心臓/群)およびLV筋細胞(mRNA、筋細胞;ErbB2 n=5心臓/群;ErbB4 n=3〜4心臓/群)の両方由来のRNAにおいて測定した。LVタンパク質レベルをウエスタンブロッティングによりLV組織(n=5/群)において測定し、β−アクチンに対して正規化した。値は平均±SEMで表しており;*p<0.05 相応の年齢のコントロールに対して;**p<0.01 相応の年齢のコントロールに対して、である。
【0103】
次に本発明者らは、6週および22週齢の大動脈狭窄動物およびコントロールのLV筋細胞由来のRNAにおける遺伝子発現について調べた。筋細胞における発現の特異性を、筋細胞のRNAおよびGAPDHレベルに対する正規化を用いて、圧負荷肥大のポジティブ分子マーカーである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)のメッセージレベルを試験することにより決定した。図11に示すように、ANPはコントロール(n=5/群)に比べて、6週齢の大動脈狭窄動物(710±16 対 230±40単位、p<0.05)および22週齢の大動脈狭窄動物(898±52 対 339±13単位、p<0.05)の両方からの筋細胞において、上方制御された。ニューレグリンは、RPAによっては、どの群の筋細胞由来のRNAにおいても検出されなかった。
【0104】
ErbB2(n=5/群)およびErbB4(n=3〜4/群)のメッセージレベルもまた、両方の大動脈狭窄群由来の筋細胞RNAにおいて測定した(図12および表2)。図12Aは、6週齢の大動脈狭窄心臓およびコントロールならびに22週齢の大動脈狭窄心臓およびコントロールにおけるLV筋細胞ErbB2およびβ−アクチンのmRNAの発現を示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの結果を示す。図12Bは、6週齢の大動脈狭窄心臓およびコントロールおよび22週齢の大動脈狭窄心臓およびコントロールにおけるLV筋細胞ErbB4およびβ−アクチンのmRNAの発現を示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの結果を示す。LV組織サンプルにおける測定結果と一致して、β−アクチンレベルに対して正規化された心筋ErbB2およびErbB4のmRNAレベルは、代償性肥大(NS)のステージにある6週齢の大動脈狭窄動物におけるコントロールと比較して保存される。しかし、ErbB2およびErbB4の両方の発現は、不全への遷移途中にある22週齢の大動脈狭窄動物においては有意に下方制御を受ける。
【0105】
(LV ErbB2およびErbB4タンパク質のレベル)
相応の年齢のコントロールと比較して、6週および22週齢の大動脈狭窄ラットのLV組織由来のタンパク質サンプルを用いて、ErbB2およびErbB4に対するポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った(n=5/群)。図13Aおよび13Bは、6週齢(図13A)の大動脈狭窄心臓およびコントロールおよび22週齢(図13B)の大動脈狭窄心臓およびコントロールにおける、LV ErbB2およびβ−アクチンのタンパク質レベルを示すウェスタンブロットを示す。図13Cおよび13Dは、6週齢(図13A)の大動脈狭窄心臓およびコントロールおよび22週齢(図13B)の大動脈狭窄心臓およびコントロールにおける、LV ErbB4およびβ−アクチンのタンパク質レベルを示すウェスタンブロットを示す。図13A〜13Dおよび表2に示されているように、ErbB2およびErbB4のmRNA発現は、代償性肥大(NS)のステージにある6週齢の大動脈狭窄動物におけるコントロールと比較して保存されている。しかし、ErbB2(p<0.05)およびErbB4(p<0.01)は、初期不全の間に22週齢の大動脈狭窄動物において下方制御される。このように、LVメッセージならびにErbB2およびErbB4のタンパク質レベルの両方の減少が、この圧負荷のモデルにおいて初期不全のステージにおいて現れる。
【0106】
(ニューレグリンに対するインサイチュハイブリダイゼーショ)
ディゴキシゲニン標識ニューレグリンのアンチセンスmRNAは、LV凍結切片上に再現性のあるハイブリダイゼーションシグナルを生成した。その一方で、対応するセンス転写物は、バックグラウンドの上にシグナルを示さなかった。成人の心臓の凍結切片におけるニューレグリンシグナルは、心臓の微小血管の上皮細胞において観察され、他の細胞区分においては弱いか、全く観察されなかった。コントロールと大動脈狭窄動物の間には違いは全く存在しなかった。
【0107】
(実施例IV:ニューレグリンー1のEGF様ドメインを有するポリぺプチドによる、大動脈狭窄マウスにおける心不全の阻害)
上記の実施例のデータは、rhGGF2が、ErbB2およびErbB4依存性様式でアポトーシスを抑制し、心筋細胞の肥大を刺激するとことを示す。さらに、ErbB2およびErbB4レセプターは、圧負荷誘導心不全を有するラットの左心室において下方制御される。心筋細胞のアポトーシスは大動脈狭窄マウスにおいて、初期の代償性肥大ステージ(すなわち、大動脈染色から4週間後)の間にはほとんど見られないが、初期心不全への遷移の間には一貫して見られる(すなわち、大動脈染色から7週間後)。
【0108】
これらの上記の観察は、ニューレグリン遺伝子によってコードされているEGF様ドメインを有するポリぺプチドの投与が、うっ血性心不全の進行阻害あるいは防止に対して有用であるということを示す。理論によって束縛されることを望まないが、ニューレグリン処置は心筋細胞の肥大を刺激することにより心臓のポンプ能力を増強し、そして心筋細胞のアポトーシスを抑制することにより、それ以上心臓が悪化することを部分的にまたは完全に防ぐようである。
【0109】
当業者は、当該分野で公知のうっ血性心不全のための多くのモデル動物の1つを使用することにより、うっ血性心不全に対する予防法を提供するか、またはすでに存在している心臓病の進行を遅くかもしくは停止させるために必要とされる最適な処方量を容易に決定し得る。例えば、出発点として、大動脈狭窄マウスモデルにおける血管疾患の初期および後期ステージで投与された0.3mg/kgの量のGGF2の相対的な効果は、以下のようにして評価され得る。
【0110】
群1(n=6);処理:大動脈染色後の48時間後にrhGGF2の注入(一日おきに0.3mg/kg)を開始し、そして7週間続けた。
【0111】
群2(n=6);処理:大動脈染色後、4週目の始まりにrhGGF2(0.3mg/ml)処理を開始し、7週間続けた。
【0112】
群3(n=6);コントロール:大動脈染色後の48時間後に偽物の(sham)注入を開始し、そして7週間続けた。
【0113】
群4(n=6);コントロール:大動脈染色後、4週目の始まりに偽物の注入を開始し、そして7週間続けた。
【0114】
モデル動物を7週目の終わりに屠殺する。屠殺の前に、上記の実施例Iあるいは標準プロトコールを用いて左心室の血行動態を測定した。標準プロトコールまたは実施例Iに記載される方法を用いて、インサイチュニック末端標識化(TUNEL)法、および細胞死を測定するための同様の技術による筋細胞の増殖(肥大)および筋細胞のアポトーシスを定量するために、共焦点顕微鏡を使用し得る。
【0115】
当業者は、うっ血心不全を最小にするか、予防するか、または復帰するための最適なニューレグリン用量レジメン(例えば、処方量、投与の頻度、疾患の経過の中でニューレグリン処置を開始するための最適時間など)を決定するために必要とされる実験を実施する方法かを完全に理解し、認識する。
【0116】
(実施例5:ラット心筋細胞において、NRG−1はアントラサイクリンによって誘導されるアポトーシスを阻害する)
20年以上の間、アントラサイクリン抗体(ダウノルビシンおよびドキソルビシンなど)は、癌の化学的治療の大黒柱であった。しかし、これらの薬物の短期および長期に渡る心臓毒性は、患者に送達され得る個々の用量および累積用量の両方をを制限する。
【0117】
アントラサイクリンによって誘導される心臓毒性には2つの臨床タイプがある。一度のアントラサイクリンの投与の後により生じ得る急性のタイプは、心電図変化、不整脈および心室の収縮性機能における可逆的な疾患によって特徴付けられる。慢性遅延タイプは、拡大性の心筋症およびうっ血性心不全へと進行する、心室の収縮機能における大きな不可逆性疾患によって特徴付けられる。この慢性の心臓毒性の範囲は、蓄積性のアントラサイクリン投与に対して正比例(direct proportion)する。
【0118】
本発明者らは、GGF2(NRG−1)がラット心筋細胞においてアントラサイクリンにより誘導されるアポトーシスを阻害することを見出した。図14は、IGF−1あるいはNRG−1で前処理したラット心筋細胞培養液が、1μMダウノルビシンによって誘導されるアポトーシス(TUNEL染色により示される)に対してほとんど感受性ではないことを示す。IGF−1について、この保護効果は迅速であり、そして30分のプレインキュベーションの間に達成され得た。これは、仔ウシ心筋細胞について報告されたのと同じである。対照的に、この効果は、NRG−1との24時間のプレインキュベーションを要する。
【0119】
図15Aは、IGF−1およびNRG−1の両方がAktの迅速なリン酸化を引き起こす(図15A)こと、およびこれはPI−3キナーゼインヒビターであるワートマニン(wortmannin)によって阻害される。Aktは、プロアポトーシスタンパク質であるカスパーゼ3のリン酸化および不活性化を介して、いくつかのシステムにおいて、生存シグナルを媒介する際に関与してきた。IGF−1と共に30分間プレインキュベートまたはNRG−1と共に24時間プレインキュベートすることにより、アントラサイクリンにより誘導されるカスパーゼの活性化を予防する。この効果およびIGF−1の生存効果は、ワートマニンにより完全に妨げられる(図15B)。このように、PI−3キナーゼの活性化は、筋細胞に対するIGFの細胞保護効果にとって必要不可欠である。しかし、同様の時間経過にわたるNRG−1による細胞保護の欠如は、PI−3キナーゼおよびAktの活性化が細胞保護にとって十分でないことを示す。細胞保護に必要とされる比較的長期間のNRG−1の露出期間は、アポトーシスに対するNRG−1依存的な心筋細胞の保護が新規のタンパク質合成を必要とすることを示唆する。この観察と一致して、シクロヘキサミドでの細胞の処理は、心筋細胞に対するNRG−1の抗アポトーシス効果を阻害した。
【0120】
上記の結果は、NRG−1がアントラサイクリンによって誘導されるアポトーシスを効果的に阻害することを示す。従って、NRG−1はアントラサイクリン化学治療を受けている患者において心臓毒性を制限するかまたは予防するために使用され、そしてアントラサイクリンや他の心臓毒性を有する薬物によって誘導された心臓毒性により引き起こされたうっ血性心不全を有する患者に対して使用され得る。
【0121】
当該分野において、アントラサイクリンによって誘導される心臓毒性の、種々の周知の動物モデルが存在する。アントラサイクリンによって誘導された心臓毒性を寛解するための治療組成物の相対的な効果を評価するためのマウス、ラット、ウサギ、ハムスター、イヌ、ブタおよびサルのモデルが「Amekiration of Chemotherapy Induced Cardiotoxicity」Semin.Oncol.25(4)Suppl.10,August 1998(例えば、Myers,Semin.Oncol.25:10−14,1998;HermanおよびFerrans,Semin.Oncol.25:15−21,1998;ならびにImondi,Semin.Oncol.25:22−30,1998を参照のこと)。これらのモデルは、アントラサイクリンによって誘導される心臓毒性を最小にするか、予防するかまたは復帰するめの最適のニューレグリンあるいはニューレグリン様ポリぺプチド処置レジメンを決定するために使用され得る(投与の量および頻度ならびにアントラサイクリンの投与に関するタイミングなど)。
【0122】
(実施例VI:アントラサイクリン/抗ErbB2(抗HER2)の併用療法によって誘導される心不全のニューレグリン依存性阻害)
様々なタイプの癌細胞は、ErbBレセプターの増加した発現、または増加した生物学的活性を示す。これらの膜貫通レセプターチロシンキナーゼは、ニューレグリン(へレグリンとしてもまた公知である)ファミリーに属する増殖因子に結合する。癌細胞におけるErbB2レセプター(HER2およびneuとしても知られる)の発現は、様々な組織由来の癌細胞の増殖における増加と関連している。これらの組織には胸、卵巣、前立腺、結腸、膵臓、唾液腺などが含まれるが、これらに限定されない。
【0123】
近年、ヒトErbB2(HER2)レセプターの細胞外ドメインに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体であるHERCEPTIN(登録商標)(Trastuzumab;Genentech,Inc.,South San Francisco,CA)が、インビトロおよびインビボにおいてErbB2活性を下方制御することにより、胸部の癌細胞の増殖を阻害するということが示されている。乳癌患者においてHERCEPTIN(登録商標)治療と伝統的なアントラサイクリン(ドキソルビシン)化学療法との組み合わせの安全性および有効性を評価するためのPhaseIII臨床試験は、併用治療を施された患者が、どちらか一方の治療法のみを施された患者よりも、より強い腫瘍の収縮および癌進行阻害を示すことを示した。しかし、併用治療法を施された患者では、どちらか一方の治療法のみを施された患者に比べ、増加した心臓毒性を受ける。このことは、HERCEPTIN(登録商標)のような抗ErbB2(抗HER2)抗体が、アントラサイクリンにより誘導される心臓毒性を増加することを示す。さらに、始めにドキソルビシンで処置され、後からHERCEPTIN(登録商標)を受けた患者もまた、ドキソルビシンのみで処置された患者に比べて、心臓毒性の増加した程度を示した。
【0124】
近年示された、寛解されつつあるErbB2過剰発現胸部腫瘍におけるHERCEPTIN(登録商標)/アントラサイクリンの併用療法の成功を考慮すると、同様の併用療法が、他のErbB2過剰発現腫瘍を処置するためにまもなく使用されることになるだろう。しかし、その関連する心臓毒性が減少あるいは予防され得る場合、抗ErbB2抗体/アントラサイクリンの併用療法の利点/リスクの比は、非常に改善されるだろう。
【0125】
アントラサイクリンによって誘導される心臓毒性の動物モデル(例えば、HermanおよびFerrans,Semin.Oncol.25:15−21,1998ならびにHermanら Cancer Res.58:195−197,1998を参照のこと)は、当該分野において周知である。さらに、上記のような、ニューレグリンのErbB2レセプターへの結合をブロックする抗体もまた周知である。アントラサイクリン毒性のための公知の動物モデルにおいてアントラサイクリン/抗ErbB2抗体依存的心不全を誘導することにより、当業者は、そのような心不全を最小にする、または予防するために必要なニューレグリン用量レジメンを容易に決定し得る。
【0126】
(他の実施形態)
本明細書中に列挙される全ての刊行物および特許出願は、それぞれの独立した刊行物または特許出願が参考として具体的かつ個別に援用されるように示されるような程度と同程度に本明細書中で参考として援用される。
【0127】
本発明は、それらの特定の実施形態と共に記載してきたが、さらなる改変が可能であり、本願が、一般に発明の原理に従う本発明の任意の変化、使用または適応をカバーすることを意図されるということが理解される:このような本開示からの逸脱が公知になるかまたは本発明が属する分野において慣行になること、および本明細書中上文に記載されそして添付のクレームの範囲に従う本質的な特色に適用され得ることを含む。
【技術分野】
【0001】
(連邦政府の後援による研究に関する供述)
この研究は一部、NIH助成金HL−38189、HL−36141、およびNASA awardからのサポートを得て行われた。政府はこの発明に関するある一定の権利を有する。
【0002】
(発明の分野)
発明の分野は、うっ血性心不全の治療および予防である。
【背景技術】
【0003】
(本発明の背景)
うっ血性心不全は先進国において主要な死因の1つで、心臓に対する負荷の増大とそのポンプ機能が徐々に低下することに起因して起こる。初めに、高血圧、または収縮性組織の損失に起因して心臓への負荷が増大し、代償性心筋肥大と左心室壁の肥厚が誘発され、それによって収縮性を増大させ心機能を維持している。しかしながら、このような状態が継続すると、左心房が拡張し、収縮期のポンプ機能は低下し、心筋細胞はアポトーシス細胞死へと進み、心筋機能は次第に低下する。
【0004】
うっ血性心不全の原因となる因子としては、高血圧、虚血性心疾患、アントラサイクリン抗生物質などの心臓毒性化合物への曝露、心不全のリスクを増大させることが公知の遺伝的欠陥が挙げられる。
【0005】
ニューレグリン(NRGS)とNRG受容体は、神経、筋肉、上皮および他組織の器官形成に関係している細胞間シグナリングのための増殖因子−受容体チロシンキナーゼ系から構成されている(Lemke,Mol.Cell.Neurosci.7:247−262,1996およびBurdenら、Neuron
18:847−855,1997)。NRGファミリーは、上皮増殖因子(EGF)様ドメイン、免疫グロブリン(Ig)ドメイン、および他の認め得るドメインを含む多数のリガンドをコードする3つの遺伝子から成る。少なくとも、20(おそらく50以上)の分泌性および膜結合性アイソフォームがリガンドとしてこのシグナル系で機能し得る。NRGリガンドに対する受容体は全てEGF受容体(EGFR)ファミリーのメンバーであり、またヒトにおいてHER1、HER2、HER3、HER4としてもそれぞれ知られているEGFR(またはErbBI)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を含んでいる(Meyerら、Development 124: 3575−3586,1997;Orr−Urtregerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA
90:1867−71,1993;Marchionniら、Nature 362:312−8,1993;Chenら、J Comp.Neurol.349:389−400,1994;Corfasら、Neuron 14:103−115,1995;Meyerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:1064−1068,1994;およびPinkas−Kramarskiら、Oncogene 15:2803−2815,1997)。
【0006】
3つのNRG遺伝子、Nrg−1、Nrg−2、およびNrg−3は異なる染色体遺伝子座に位置しており(Pinkas−Kramaskiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:9387−91,1994;Carrawayら、Nature 387:512−516,1997;Changら、Nature 387:509−511,1997;およびZhangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:9562−9567,1997)、いずれも異なったアレイのNRG蛋白質をコードしている。今までのところ最も詳細に研究されているのはNrg−1の遺伝子産物で、これは構造的に類似しているおよそ15の異なるアイソフォームの群を含む(Lemke.Mol.Cell.Neurosci.7:247−262,1996および、Peles,Yardenら、Bio Essays 15:815−824,1993)。NRG−1のアイソフォームのうち最初に同定されたものには、Neu分化因子(NDF;Pelesら、Cell 69,205−216,1992および、Wenら、Cell 69,559−572,1992)、ヘレグリン(HRG;Holmesら、Science 256:1205−1210,1992)、アセチルコリン受容体誘導アクチベーター(ARIA;Fallsら、Cell 72:801−815,1993)、グリア増殖因子であるGGF1、GGF2およびGGF3(Marchionniら、Nature 362:312−8,1993)が含まれていた。
【0007】
Nrg−2遺伝子はホモロジークローニング(Changら、Nature 387:509−512,1997;Carrawayら、Nature 387:512−516,1997;およびHigashiyamaら、J.Biochem.122:675−680,1997)およびゲノムアプローチ(Busfieldら、Mol.Cell.Biol.17:4007−4014,1997)によって同定された。NRG−2 cDNAはまた、ErbBキナーゼの神経および胸腺由来アクチベーター(NTAK;Genbank登録番号AB005060)、ニューレグリンの派生物(Don−1)、および小脳由来増殖因子(CDGF;PCT出願WO 97/09425)として公知である。ErbB4を単独で発現している、またはErbB2/ErbB4を共発現している細胞がNRG−2に対して特に強い応答を示すようであるという実験証拠が示されている(Pinkas−Kramarskiら、Mol.Cell.Biol.18:6090−6100、1998)。また、Nrg−3遺伝子産物(Zhangら、前出)はErb4受容体に結合しそれを活性化するということが公知である(Hijaziら、Int.J.Oncol.13:1061−1067,1998)。
【0008】
EGF様ドメインは全ての形態のNRG蛋白質のコアに存在しており、ErbB受容体に結合しそれを活性化するために必要である。3つのNRG遺伝子においてコードされているEGF様ドメインの推定アミノ酸配列は約30〜40%同一である(対形式(pairwise)比較)。その上、NRG−1およびNRG−2には、異なる生理活性と組織特異的能力を付与しうる少なくとも2つのEGF様ドメインのサブフォームがあると考えられる。
【0009】
NRGに対する細胞応答は上皮増殖因子受容体ファミリーであるNRG受容体チロシンキナーゼEGFR、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を介して媒介される。全てのNRGリガンドの高親和性は、主にErbB3またはErbB4のいずれかが媒介する。NRGリガンドの結合によって、他のErbBサブユニットとの二量体がもたらされ、特定のチロシン残基に対するリン酸化によるトランス活性化が起こる。ある一定の条件下においては、ErbB受容体のほとんど全ての組み合わせでNRG−1アイソフォームの結合に応答して二量体を形成し得るようである。しかしながら、ErbB2はリガンド−受容体複合体の安定化において重要な役割を持ち得る、二量体形成のための好適なパートナーであると思われる。最近、NRG−1、ErbB2、およびErbB4の発現がマウスの発生過程における心室心筋の肉柱形成に必要であるという証拠が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
世界全体でうっ血性心不全の有病率が高いという点から見て、心機能の喪失を阻害することにより、そして理想的には、うっ血性心不全を持つ人あるいはリスクを持っている人の心機能を向上させることにより、この疾患を予防するか、または進行を最小限に抑えるということは非常に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明者らはニューレグリンが代償的な肥大型の増殖を刺激し、生理的ストレスにさらされている心筋細胞のアポトーシスを阻害するということを見出した。本発明者らの観察からニューレグリン処置が高血圧、虚血性心疾患、心臓毒性などの根底にある因子に起因するうっ血性心不全の予防、症状の進行抑制、回復に有用であることが示される。
【0012】
本発明は哺乳動物におけるうっ血性心不全の治療方法または予防方法を提供する。本方法は、哺乳動物に対して上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを持つポリペプチドを投与することを包含する。ここで、EGF様ドメインがニューレグリン遺伝子にコードされており、また哺乳動物の心不全を処置または予防するために効果的な量の本ポリペプチドが投与される。
【0013】
本発明の様々な好適な実施形態において、ニューレグリン遺伝子はNRG−1遺伝子、NRG−2遺伝子、またはNRG−3遺伝子であり得る。さらに、本ポリペプチドはこれら3つのニューレグリン遺伝子のどれによってもコードされ得る。またさらに、本方法で使われるポリペプチドはリコンビナントヒトGGF2であり得る。
【0014】
本発明の別の好適な実施形態において、哺乳動物はヒトであり得る。
【0015】
本発明の他の実施形態において、うっ血性心疾患は、高血圧、虚血性心疾患、心臓毒性化合物(例としては、コカイン、アルコール、HERCEPTIN(登録商標)のような抗ErbB2抗体または抗HER2抗体、あるいはドキソルビシンまたはダウノマイシンのようなアントラサイクリン抗生物質)への曝露、心筋炎、甲状腺疾患、ウイルス感染、歯肉炎、薬物濫用、アルコール濫用、心膜炎(periocarditis)、アテローム硬化、血管性疾患、肥大型心筋症、急性心筋梗塞、以前の心筋梗塞、左心室収縮機能不全、冠動脈バイパス手術、飢餓、摂食障害、または遺伝的欠陥に起因し得る。
【0016】
本発明の別の実施形態において、HERCEPTIN(登録商標)などの抗ErB2または抗HER2抗体を哺乳動物に対して、アントラサイクリン投与の前、中、後のいずれかに投与する。
【0017】
本発明の他の実施様態において、ニューレグリン遺伝子にコードされているEGF様ドメインを含むポリペプチドを、心臓毒性物質に曝露する前、中、後に投与する。また他の実施形態において、EGF様ドメインを含むポリペプチドを曝露前、中、後のうち2回、または3回全て投与する。
【0018】
本発明のさらに他の実施形態おいて、本ポリペプチドを哺乳動物におけるうっ血性心疾患の診断前、あるいは後のどちらかに投与する。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態において、本ポリペプチドを既に代償性心肥大を受けた哺乳動物に投与する。
【0020】
本発明の他の好適な実施形態において、本ポリペプチドの投与によって左心室肥大の状態を維持するか、心筋の薄膜化が予防されるか、または心筋細胞のアポトーシスが阻害される。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態において、本ポリペプチドをコードする発現ベクターを哺乳動物に投与することにより、本ポリペプチドを投与し得る。
【0022】
「うっ血性心不全」とは、心臓による安静時または運動時の正常な血液の送り出しの維持が不可能になること、あるいは正常な心室充満期血圧の調整において正常な心拍出量の維持が不可能になるという、心機能の損失を意味している。左心室駆出率が約40%以下であることは、うっ血性心不全の指標である(比較として、駆出率が60%である場合は正常である)。うっ血性心不全患者は、周知の臨床徴候および前兆(例えば、頻呼吸、胸膜滲出液、安静時または運動時の疲労、収縮機能障害、浮腫)を示す。うっ血性心不全は周知の方法で容易に診断される(例として、「慢性心不全の管理における共通指針」、Am J.Cardiol.,83(2A):1A−38−A,1999を参照のこと)。
【0023】
相対的な重篤度および疾患の進行は、身体検査、心エコー図、放射性核種画像化、非侵襲性血液動態モニタリング、磁気共鳴血管造影法、および酸素取り込み研究と組み合わせた運動トレッドミルテスト(exercise treadmill testing)などの周知の方法によって判定できる。
【0024】
「虚血性心疾患」とは、心筋が必要とする酸素と適正な酸素供給との間の不均衡に起因する任意の疾患を意味している。虚血性心疾患のほとんどのケースがアテローム硬化または別の血管障害において起こるのと同様に、冠動脈狭窄に起因している。
【0025】
「心筋梗塞」とは、虚血性心疾患によって結果的に心筋のある領域の組織が瘢痕組織に置き換わっていく過程を意味している。
【0026】
「心臓毒性」とは、直接的または間接的に心筋細胞を傷害するか、または死滅させることによって心機能を低下させる化合物を意味している。
【0027】
「高血圧」とは、資格を持つ医療従事者(例として、医師または看護士ら)によって、血圧が正常よりも高く、うっ血性心不全が起こるリスクが増大すると判断される血圧を意味する。
【0028】
「処置をする」とは、ニューレグリンまたはニューレグリン様ポリペプチドの投与によって、治療中を通してうっ血性心不全の進行が、処置が行われない場合に起こる疾患の進行に比べて統計的に有意に遅くなる、または抑制されるということを意味している。疾患の進行程度は、生存率および入院率だけでなく左心室駆出率、運動能力、および前に列挙した他の臨床試験などの周知の指標を用いて評価することができる。処置によって疾患の進行が統計的に有意な様式で遅くなるか、あるいは阻害されるかどうかは、当該分野での周知の方法(例として、SOLVD Investigators,N.Engl.J.Med.327:685−691,1992およびCohnら、N.Engl.J.Med.339:1810−1816,1998を参照のこと)を用いて決定し得る。
【0029】
「予防する」とは、うっ血性心不全発症のリスク(「うっ血性心不全の管理に対する共通指針」Am.J.Cardiol.,83(2A):1A−38−A,1999において定義されている)を持つ哺乳動物におけるうっ血性心不全の発症を最小限に抑える、または部分的あるいは完全に阻害するということを意味している。うっ血性心不全がニューレグリンまたはニューレグリン様ポリペプチドの投与によって最小限に抑えられるか、または予防されるかということは、SOLVD Investigators、前出、およびCornら、前出で記述されている方法などの公知の方法を用いて判断される。
【0030】
「うっ血性心不全のリスクがある」とは、喫煙者、肥満(すなわち、理想体重を20%以上上回っている)、心臓毒性化合物(アントラサイクリン抗生物質など)に曝露されているか、または将来曝露されるか、現在、高血圧、虚血性心疾患、心筋梗塞である(または過去これらの既往があった)か、心疾患のリスクを増やすことが公知の遺伝的欠陥があるか、家族に心不全、心筋肥大、肥大型心筋症、左心室収縮機能不全、冠動脈バイパス手術、血管性疾患、アテローム硬化、アルコール中毒症、心膜炎、ウイルス感染、歯肉炎または摂食障害(例えば、食欲不振または過食症)の既往歴があるか、アルコール中毒またはコカイン常用者である個体を意味している。
【0031】
「心筋の薄膜化の進行を低下させる」とは心室壁の厚さを維持するまたは増大させるように、心室心筋細胞の肥厚を維持することを意味している。
【0032】
「心筋細胞のアポトーシスを阻害する」とは、ニューレグリン処置が、処置していない心筋細胞と比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、なおより好ましくは少なくとも25%、さらみ好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%まで心筋細胞死を阻害することを意味している。
【0033】
「ニューレグリン」または「NRG」とは、NRG−1、NRG−2、NRG−3の遺伝子または核酸(例えばcDNA)にコードされており、かつErbB2、ErbB3、ErbB4受容体またはそれらの組合わせと結合しそれらを活性化するポリペプチドを意味している。
【0034】
「ニューレグリン1」、「NRG−1」、「ヘレグリン」、「GGF2」、または「p185 erbB2リガンド」とはErbB2受容体と結合し、USPN5,530,109;USSN5,716,930号;およびUSSN08/461,097に記述されているp185erbB2リガンド遺伝子にコードされるポリペプチドを意味している。
【0035】
「ニューレグリン様ポリペプチド」とはニューレグリン遺伝子にコードされたEGF様ドメインを持っていて、ErbB2、ErbB3、ErbB4またはそれらの組合わせと結合しそれらを活性化するポリペプチドを意味している。
【0036】
「上皮増殖因子様ドメイン」または「EGF様ドメイン」とはNRG−1、NRG−2、NRG−3遺伝子にコードされるポリペプチドモチーフを意味し、これらの遺伝子は、ErbB2、ErbB3、ErbB4受容体またはそれらの組合わせと結合しそれらを活性化し、そしてHolmesらに開示しているように、EGF受容体結合ドメインと構造的に類似性を持っている(Holmsら、Science 256:1205−1210,1992;USPN5,530,109;USPN5,716,930;USSN08/461,097;Hijaziら、Int.J.Oncol,13:1061−1067,1998;Changら、Nature387:509−512,1997;Carrawayら、Nature 387:512−516,1997;Higashiyamaら、J.Biochem.122:675−680,1997;およびWO
97/09425)。
【0037】
「抗ErbB2抗体」または「抗HER2抗体」とはErbB2(ヒトHER2としても公知)受容体細胞外ドメインと特異的に結合し、ニューレグリンの結合によって開始されるErbB2(HER2)依存的シグナル伝達を妨げる抗体を意味している。
【0038】
「形質転換細胞」とは、ニューレグリンまたはニューレグリン EGF様ドメインをもったポリペプチドをコードしているDNA分子を、リコンビナントDNA技術または既存の遺伝子療法技術を用いて導入した細胞(またはその細胞由来の細胞)を意味している。
【0039】
「プロモーター」とは、転写を指向するに十分な最小限の配列を意味している。本発明には、細胞種あるいは生理学的な状態(例えば低酸素対正酸素状態)についてプロモーター依存性遺伝子発現を制御可能を可能にするか、または外来のシグナルや薬剤によって遺伝子発現を誘導可能にするに十分なプロモーターエレメントも含まれる;そのようなエレメントはネイティブ遺伝子の5’または3’または内部領域に位置している可能性がある。
【0040】
「作動可能に連結されている」とは、適切な分子(例えば、転写アクチベーター蛋白質)が調節配列に結合される場合、ポリペプチドをコードしている核酸(例えば、cDNA)と、1つ以上の調節配列が、遺伝子発現が可能になる形式で連結されていることを意味している。
【0041】
「発現ベクター」とは、遺伝子操作されたプラスミドまたはウイルス(例えばバクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、または人工的な染色体に由来する)を意味しており、それらは、宿主細胞の中でコードされたペプチドまたはポリペプチドが発現されるように、プロモーターと作動可能に連結しているポリペプチド(例えばニューレグリン)コード配列を宿主細胞に移入するために使用される。
本願発明は、例えば以下を提供する。
(項目1) 哺乳動物におけるうっ血性心不全を処置または予防するための方法であって、該方法が、該哺乳動物に対して、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含むポリペプトイドを投与する工程を包含し、ここで、該EGF様ドメインが、ニューレグリン遺伝子によってコードされ、ここで、該投与工程が、該哺乳動物における心不全を処置または予防するのに有効量である、方法。
(項目2) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ニューレグリン遺伝子が、NRG−1遺伝子である、方法。
(項目3) 項目2に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、NRG−1遺伝子によってコードされる、方法。
(項目4) 項目3に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、組換えヒトGGF2である、方法。
(項目5) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ニューレグリン遺伝子が、NRG−2遺伝子である、方法。
(項目6) 項目5に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、NRG−2遺伝子によってコードされる、方法。
(項目7) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ニューレグリン遺伝子が、NRG−3遺伝子である、方法。
(項目8) 項目7に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、NRG−3遺伝子によってコードされる、方法。
(項目9) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記哺乳動物が、ヒトである、方法。
(項目10) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記うっ血性心不全が、高血圧;虚血性心臓疾患;心臓毒性化合物への曝露;心筋炎;甲状腺疾患;ウイルス感染;歯肉炎;薬物濫用;アルコール濫用;心膜炎;アテローム硬化;血管性疾患;肥大型心筋症;急性心筋梗塞;左心室収縮機能不全;冠動脈バイパス手術;飢餓;摂食障害;または遺伝的欠陥から生じる、方法。
(項目11) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記哺乳動物が、心筋梗塞を被っている、方法。
(項目12) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記心臓毒性化合物が、アントラサイクリン;アルコール;またはコカインである、方法。
(項目13) 項目12に記載の方法であって、ここで、前記アントラサイクリンが、ドキソルビシンまたはダウノマイシンである、方法。
(項目14) 項目13に記載の方法であって、ここで、抗ErbB2抗体または抗HER2抗体が、アントラサイクリンの投与の前、投与の間、または投与の後に前記哺乳動物に投与される、方法。
(項目15) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記心臓毒性化合物が、抗ErbB2抗体または抗HER2抗体である、方法。
(項目16) 項目14または15に記載の方法であって、ここで、前記抗ErbB2抗体または抗HER2抗体が、HERCEPTIN(登録商標)である、方法。
(項目17) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記心臓毒性化合物に曝露される前に投与される、方法。
(項目18) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記心臓毒性化合物に曝露される間に投与される、方法。
(項目19) 項目10に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記心臓毒性化合物に曝露された後に投与される、方法。
(項目20) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記哺乳動物におけるうっ血性心不全の診断の前に投与される、方法。
(項目21) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、前記哺乳動物におけるうっ血性心不全の診断の後に投与される、方法。
(項目22) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、代償性心肥大を被る哺乳動物に投与される、方法。
(項目23) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドの投与が、左心室肥大を維持する、方法。
(項目24) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記方法が、心筋の薄膜化の進行を妨げる、方法。
(項目25) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドの投与が、心筋細胞アポトーシスを阻害する、方法。
(項目26) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ポリペプチドが、該ポリペプチドをコードする発現ベクターを該哺乳動物に投与する工程によって投与される、方法。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1Aは、心臓の発生の間、および成体ラット心筋細胞中のニューレグリンレセプターの発現を示す半定量的RT−PCR分析の図面である。 図1Bは、組換えヒト神経膠増殖因子2(rhGGF2)で処置された心筋細胞中のErbB4レセプターのチロシンリン酸化を示す、アッセイの図面である。
【図2A】図2Aは、ミオシン重鎖(図2A)についての、新生仔ラットの心室筋細胞の染色を示す顕微鏡写真の図面である。
【図2B】図2Bは、BrdUポジティブ核(図2B)についての、新生仔ラットの心室筋細胞の染色を示す顕微鏡写真の図面である。
【図2C】図2Cは、rhGGF2が、新生仔ラット心室筋細胞中でDNA合成(%BrdUポジティブ筋細胞で表される)を刺激することを示すグラフである。
【図3】図3Aおよび図3Bは、rhGGF2が、新生仔ラット心室筋細胞中でDNA合成(%相対3H−チミジン取込みで表される)を刺激することを示すグラフである。
【図4】図4は、ErbB2およびErbB4が、新生仔ラット心室筋細胞中で相対3H−チミジン取込みに対するGGF2の効果を仲介することを示すグラフである。
【図5】図5は、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物における生存を促進することを示すグラフである。
【図6A】図6Aは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6B】図6Bは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6C】図6Cは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6D】図6Dは、rhGGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示すグラフである(TUNELポジティブ筋細胞の百分率の減少によって表される)。
【図6E】図6Eは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6F】図6Fは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6G】図6Gは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示す顕微鏡写真の図面である。
【図6H】図6Hは、rhGGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の初代培養物におけるアポトーシス細胞死を減少させることを示すグラフである(rhGGF2処置細胞のヨウ化プロピジウム染色の後のsub−G1画分のフローサイトメトリー分析によって決定)。
【図7】図7Aおよび7Bは、rhGGF2が、成体ラット心室筋細胞の初代培養物における生存を増加させ、アポトーシス細胞死を減少させることを示すグラフである。
【図8A】図8Aは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真の図面である。
【図8B】図8Bは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞の肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真の図面である。
【図8C】図8Cは、プレプロ心房性ナトリウム利尿因子(プレプロ−ANF)、心室肥大のマーカー、およびα−骨格アクチンが、GGF2で処置された新生仔ラット心室筋細胞中でアップレギュレートされることを示す、ノーザンブロットの図面である。
【図8D】図8Dは、GGF2が、新生仔ラット心室筋細胞におけるタンパク質の合成(相対3H−ロイシン取込みによって表される)を刺激することを示すグラフである。
【図9A】図9Aは、GGF2が、成体ラット心室筋細胞の初代培養物における肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真である。
【図9B】図9Bは、GGF2が、成体ラット心室筋細胞の初代培養物における肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真である。
【図9C】図9Cは、GGF2が、成体ラット心室筋細胞の初代培養物における肥大性増殖を誘導することを示す顕微鏡写真である。
【図9D】図9Dは、プレプロ−ANFおよびα−骨格アクチンが、GGF2で処置された成体ラット心室筋細胞中でアップレギュレートされることを示す、ノーザンブロットの図面である。
【図9E】図9Eは、GGF2が、成体ラット心室筋細胞におけるタンパク質の合成(相対3H−ロイシン取込みによって表される)を刺激することを示すグラフである。
【図10A】図10Aは、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室におけるErbB2(図10A)、ErbB4(図10B)、およびβ−アクチンの発現レベルを示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの図面である。
【図10B】図10Bは、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室におけるErbB2(図10A)、ErbB4(図10B)、およびβ−アクチンの発現レベルを示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの図面である。
【図11】図11は、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室由来の筋細胞における、ANFおよびグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH、ハウスキーピング遺伝子)の発現を示す、ノーザンブロットの図面である。
【図12A】図12Aは、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室由来の筋細胞におけるErbB2(図12A)、およびβ−アクチンの発現レベルを示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの図面である。
【図12B】図12Bは、コントロールおよび大動脈狭窄のラットの心臓の左心室由来の筋細胞におけるErbB4(図12B)、およびβ−アクチンの発現レベルを示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの図面である。
【図13A】図13Aは、6週齢(図13A)の大動脈狭窄およびコントロールのラット心臓におけるErbB2の発現レベルを示す、ウェスタンブロットの図面である。
【図13B】図13Bは、22週齢(図13B)の大動脈狭窄およびコントロールのラット心臓におけるErbB2の発現レベルを示す、ウェスタンブロットの図面である。
【図13C】図13Cは、6週齢(図13C)の大動脈狭窄および対照のラット心臓におけるErbB4の発現レベルを示す、ウェスタンブロットの図面である。
【図13D】図13Dは、22週齢(図13D)の大動脈狭窄および対照のラット心臓におけるErbB4の発現レベルを示す、ウェスタンブロットの図面である。
【図14】図14は、IGF−1またはNRG−1で予め処置されたラット心筋細胞培養物が、ダウノルビシンで誘導されるアポトーシスに対して感受性が低いことを示す、グラフである。
【図15】図15Aは、IGF−およびNRG−1で刺激されたAktのリン酸化がPI−3キナーゼインヒビターであるウォルトマンニン(wortmannin)によって阻害されることを示す、リン酸化アッセイの図面である。 図15Bは、ダウノルビシンに曝露された細胞中のカスパーゼ3活性化のIGF−1阻害およびNRG−1阻害がPI−3キナーゼ依存性であることを示す、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、ニューレグリンが、ErbB2およびErbB4レセプターの活性化を通じて、培養心筋細胞の生存および肥大性増殖を促進することを見いだした。
【0044】
さらに、本発明者らは、実験的に心臓内圧の過負荷を誘導した動物において、心筋細胞のErbB2およびErbB4のレベルが初期の代償性肥大の間は正常であり、そして初期心不全への移行期の間は減少することを観察した。
【0045】
それと共に、本発明者らのインビトロおよびインビボでの知見は、ニューレグリンが、増大した生理学的ストレスに応答した代償性肥大性増殖の刺激に関与し、同時に、このようなストレスに曝された心筋細胞のアポトーシスを阻害することを示す。これらの観察は、ニューレグリン処置が、うっ血性心疾患の予防、最小化、または逆転に有用であることを示す。理論で拘束されることを望むものではないが、ニューレグリン処置は、心筋細胞の肥大を刺激することによって、心臓のポンプ能力を強化するようであり、そして、心筋細胞のアポトーシスを抑制することによって、心臓の更なる劣化を、部分的または完全に阻害する。
【0046】
(ニューレグリン)
NRG−1、NRG−2、およびNRG−3遺伝子によってコードされるポリペプチドはEGF様ドメインを有し、これにより、これらはErbBレセプターに結合し、そしてErbBレセプターを活性化することが可能となる。Holmesら(Science 256:1205−1210、1992)は、EGF様ドメインが単独で、p185erbB2レセプターに結合し、そしてこれを活性化するに十分であることを示した。従って、NRG−1、NRG−2、またはNRG−3の遺伝子によってコードされる任意のポリペプチド産物、あるいは任意のニューレグリン様ポリペプチド(例えば、ニューレグリン遺伝子またはcDNAによってコードされるEGF様ドメイン(例えば、米国特許第5,530,109号、米国特許第5,716,930号、および米国特許出願第08/461,097号に記載されるようなNRG−1ペプチドサブドメインC−C/DまたはC−C/D’を含むEGF様ドメイン;またはWO 97/09425に開示のようなEGF様ドメイン)を有するポリペプチド)が、本発明において、うっ血性心不全の予防または処置のために使用され得る。
【0047】
(危険因子)
個体のうっ血性心不全を発症する確立を増大させる危険因子は周知である。これには、限定されないが、喫煙、肥満、高血圧、虚血性心疾患、血管疾患、冠状動脈バイパス手術、心筋梗塞、左心室収縮機能不全、心臓毒性化合物(アルコール、コカインのような薬物、ドキソルビシン、およびダウノルビシンのようなアントラサイクリン系抗生物質)に対する曝露、ウイルス感染、心膜炎、心筋炎、歯肉炎、甲状腺疾患、心不全のリスクを高めることが知られている遺伝子欠損(例えば、BachinskiおよびRoberts、Cardiol.Clin.16:603−610、1998;Siuら、Circulation 8:1022−1026、1999;およびArbustiniら、Heart 80:548−558、1998に記載のようなもの)、飢餓、食欲不振および過食症のような摂食障害、心不全の家族歴、および心筋肥大が包含される。
【0048】
従って、ニューレグリンは、リスクがあると確認された個体のうっ血性心疾患を防ぐために、またはうっ血性心疾患の進行速度を減少させるために、投与され得る。例えば、ニューレグリンを初期代償性肥大の患者に投与すると、肥大状態を維持させ得、そして心不全への進行を妨げ得る。加えて、上記のように、リスクがあると確認された個体は、代償性肥大の発生の前に、心臓保護的な(cardioprotective)ニューレグリン処置を受け得る。
【0049】
癌患者への、アントラサイクリン化学療法またはアントラサイクリン/抗ErbB2(抗HER2)抗体(例えば、HERCEPTIN(登録商標)併用療法の前またはその最中のニューレグリン投与は、患者の心筋細胞がアポトーシスすることを防ぎ得、これにより心臓の機能を保護する。既に心筋細胞を損失した患者もまた、ニューレグリン処置の恩恵を被ることができる。なぜなら、残った心筋組織は、肥大性増殖および収縮性の増大を示すことによって、ニューレグリン曝露に対して応答するからである。
【0050】
(処置)
ニューレグリン、およびニューレグリン遺伝子でコードされるEGF様ドメインを含むポリペプチドは、患者または実験動物に、薬学的に受容され得る希釈剤、キャリア、または賦形剤と共に、単位投与形態で投与され得る。従来の薬学実践が、このような組成物を患者または実験動物に投与するための適切な処方または組成物を提供するために使用され得る。静脈内投与が好ましいが、任意の適切な投与経路、例えば、非経口、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼、心室内、包内、脊髄内、槽内、腹腔内、鼻腔内、エアーゾル、経口、または局所(例えば、皮膚を透過し得、そして血流に入ることができる処方物を保有する接着性パッチの適用による)投与が使用され得る。治療処方物は、液状の溶液または懸濁液の形態であり得る。経口投与のためには、処方物は錠剤またはカプセル剤の形態であり得る。鼻腔内処方物のためには、散剤、鼻用ドロップ、またはエアーゾルであり得る。上記のいずれの処方物も、持続放出処方物であり得る。
【0051】
処方物を作製するための当該分野で周知の方法は、例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に見いだされる。非経口投与のための処方物は、例えば、賦形剤、滅菌水、または生理食塩水、ポリエチレングリコールのようなポリアルキレングリコール、植物起源の油、または水素化ナフタレン(napthalene)を含み得る。持続放出性、生体適合性、生分解性のラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーを用いて、化合物の放出を制御し得る。本発明の分子を投与するための他の潜在的に有用な非経口送達系は、エチレン−酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透性ポンプ、移植できる灌流系、およびリポソームを包含する。吸入のための処方物は、賦形剤、例えば、ラクトースを含み得、あるいは、例えばポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、グリココール酸およびデオキシコール酸塩を含む水溶液であり得、あるいは鼻用ドロップの形態、あるいはゲルとして投与するためには油性溶液であり得る。
【0052】
(遺伝子治療)
ニューレグリン、およびニューレグリンEGF様ドメインを含むニューレグリン様ポリペプチドはまた、体細胞遺伝子治療によって投与され得る。ニューレグリン遺伝子治療のための発現ベクター(例えば、プラスミド、人工染色体、またはウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、またはヘルペスウイルス由来のもの)は、ニューレグリンコード(またはニューレグリン様ポリペプチドコード)DNAを、適切なプロモーターの転写制御下で保有する。プロモーターは、当該分野で公知の任意の非組織特異的プロモーターであり得る(例えば、SV−40またはサイトメガロウイルスプロモーター)。あるいは、プロモーターは、組織特異的プロモーター、例えば、横紋筋特異的、心房または心室の心筋細胞特異的(例えば、Franzら、Cardiovasc.Res.35:560−566、1997に記載のような)、あるいは内皮細胞特異的なプロモーターであり得る。プロモーターは、誘導性プロモーター、例えば、Prenticeら(Cardiovasc.Res.35:567−574、1997)に記載のような虚血誘導性プロモーターであり得る。プロモーターはまた、内在性ニューレグリンプロモーターであり得る。
【0053】
発現ベクターは、裸のDNAとして、DNAの細胞中への進入を増強する薬剤、例えば、LipofectinTM、LipofectamineTM(Gibco/BRL、Bethesda、MD)、DOTAPTM(Boeringer−Mannheim、Indianapolis、IN)または類似の化合物のようなカチオン性脂質、リポソーム、あるいはDNAを特定の型の細胞(例えば、心筋細胞または内皮細胞)に向けて標的化する抗体と混合して、あるいはこれと結合させて、投与され得る。投与の方法は、上記の「治療」のセクションに記載の方法のいずれかであり得る。特に、体細胞遺伝子治療のためのDNAは、静脈内注射、心臓灌流、および心筋層に直接注入することによって心臓への送達に成功している(例えば、Losordoら、Circulation 98:2800−2804、1998;Linら、Hypertension 33:219−224、1999;Labhasetwar、J.Pharm.Sci. 87:1347−1350、1998;Yayamaら、Hypertension 31:1104−1110,1998を参照のこと)。治療用DNAは、患者の細胞中に進入して発現し、そしてベクターがコードする治療的ポリペプチドが心筋細胞ErbBレセプターに結合してこのレセプターを活性化させるように、投与される。
【0054】
以下の実施例は、当業者が本発明ならびにその原理および利点をよりよく理解するための一助となる。これらの実施例は、本発明の例示であり、本発明の範囲を限定するものではないことが意図される。
【0055】
(実施例I:一般的方法)
(心筋細胞および非筋細胞の初代培養物の調製)
新生仔ラット心室筋細胞(NRVM)初代培養物を、以前に記載されたようにして(Springhornら、J.Biol.Chem.267:14360−14365、1992)調製した。筋細胞を選択的に富化するために、解離した細胞を2回、500rpmで5分間遠心分離し、75分間、2回、予備プレーティング(pre−plated)し、そして最後に低密度(0.7〜1×104細胞/cm2)で、7%ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma、St.Louis、MO)を補充したダルベッコ改変イーグル(DME)培地(Life Technologies Inc.、Gaithersburg、MD)中にプレーティングした。シトシンアラビノシド(AraC;10μM;Sigma)を、チミジン取込み測定のために用いる培養物以外では、最初の24〜48時間の間に培養物に添加して、非筋細胞の増殖を防いだ。他に指示のない限り、全ての実験は、無血清培地であるDME+ITS(インスリン、トランスフェリン、およびセレン;Sigma)に替えた後、36〜48時間後に行った。この方法を用いて、本発明者らは、自発的収縮の顕微鏡観察によって、そしてモノクローナル抗心臓ミオシン重鎖抗体(抗MHC;Biogenesis、Sandown、NH)を用いた免疫蛍光染色によって評価して、>95%筋細胞を含む初代培養物を慣用的に得た。
【0056】
非筋細胞を富化した新生仔心臓から単離された細胞画分の初代培養物を、予備プレーティング手順の間に組織培養皿に接着した細胞を2回継代することによって調製した。これらの非筋細胞培養物は、抗MHCポジティブ細胞をわずかしか含んでおらず、20%FBSを補充したDME中でサブコンフルエンス(subconfluence)まで増殖させ、その後、DME−ITSに替えて、引き続き36から48時間増殖させた。
【0057】
成体ラット心室筋細胞(ARVM)初代培養物の単離および調製を、以前に記載された技術(Bergerら、Am.J.Physiol.266:H341−349、1994)を用いて行った。棒状の心筋細胞を培地中で、ラミニン(10μg/ml;Collaborative Research、Bedford、 MA)を予めコーティングしたディッシュ上で60分間プレーティングし、次に培地を1回替えて、弱く付着した細胞を除いた。ARVM初代培養物への非筋細胞の混入は、血球計算板で計数して測定すると、典型的には5%未満であった。全てのARVM初代培養物を「ACCITT」(Ellingsenら、Am.J.Physiol.265:H747−H754、1993)と名付けられた、DMEで構成され、2mg/mlのBSA、2mMのL−カルニチン、5mMのクレアチン、5mMのタウリン、0.1μMのインスリン、および10nMのトリヨウドスレオニンが補充され、100IU/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含む、規定された培地中で維持した。筋細胞の生存および/またはアポトーシスを検査するように設計された実験プロトコルにおいては、インスリンはこの規定培地から除外され、従ってこれは、「ACCTT」と名付けられる。
【0058】
(ラット心臓中のErbBレセプターのPCR分析)
ErbBレセプターのC末端の一部をコードするcDNA配列を、以下の合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅した:ErbB2コドン857位から1207位(Bargmannら、Nature 319:226−230、1986)の増幅のためのErbB2A(5’−TGTGCTAGTCAAGAGTCCCAACCAC−3’:センス;配列番号1)およびErbB2B(5’−CCTTCTCTCGGTACTAAGTATTCAG−3’:アンチセンス;配列番号2);ErbB3コドン712位から1085位(Krausら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:9193−9197、1989)の増幅のためのErbB3A(5’−GCTTAAAGTGCTTGGCTCGGGTGTC−3’:センス;配列番号3)およびErbB3B(5’−TCCTACACACTGACACTTTCTCTT−3’:アンチセンス;配列番号4);ErbB4コドン896位から1262位(Plowmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:1746−1750、1993)の増幅のためのErbB4A(5’−AATTCACCCATCAGAGTGACGTTTGG−3’:センス;配列番号5)およびErB4B(5’−TCCTGCAGGTAGTCTGGGTGCTG:アンチセンス:配列番号6)。ラット心臓または新たに単離した新生仔ラットおよび成体ラットの心室筋細胞由来のRNA試料(1μg)を逆転写して、第1鎖cDNAを生成した。PCR反応を、およそ50ngの第1鎖cDNAを含む最終容量50μlで、PTC−100TMプログラム式熱コントローラー(Programmable Thermal Controller)(MJ Research,Inc.;Watertown、MA)中で30サイクル行った。各サイクルは、94℃で30秒間、63℃で75秒間、および72℃で120秒間を含んでいた。各反応混合物の30μlのアリコートを1%アガロースゲル中の電気泳動と臭化エチジウム染色によって分析した。PCR産物をTAクローニングベクター(Invitrogen Co.、San Diego、CA)中に直接クローニングし、そして自動DNA配列決定によって確認した。
【0059】
(ErbBレセプターのリン酸化分析)
どのレセプターサブタイプがチロシンリン酸化されるかを分析するために、新生仔および成体の心室の筋細胞を無血清培地中で24から48時間維持し、次いで組換えヒトグリア増殖因子2(rhGGF2)を20ng/ml用いて37℃で5分間処理した。細胞を、氷冷したリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で2回素早くリンスし、1% NP40、50mM Tris−HCl(pH 7.4)、150mM NaCl、1mM エチレングリコール−ビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、1mM オルトバナジウム酸ナトリウム、10mM モリブデン酸ナトリウム、8.8g/L ピロリン酸ナトリウム、4g/L NaFl、1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、10μg/ml アプロチニンおよび20μM ロイペプチンを含んだ冷たい溶解緩衝液に溶解した。溶解産物を12,000×gで4℃で20分間遠心分離し、上清の500μg(新生仔の筋細胞)または2000μg(成体の筋細胞)のアリコートをErbB2またはErbB4(Santa Cruz Biotechnology Inc.,Santa Cruz,CA)に特異的な抗体とともに4℃で一晩インキュベートし、プロテインA−アガロース(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)で沈降させた。免疫沈降物を回収し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)サンプル緩衝液中で煮沸することにより、遊離させた。サンプルをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分画し、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)メンブレン(Biorad Laboratories,Hercules,CA)に転写し、PY20抗ホスホチロシン抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)でプローブした。ErbB2の検出については、上清をまた、ビオチン化したRC20抗ホスホチロシン抗体(Upstate Biotechnology,Inc.,Lake Placid,NY)で免疫沈降し、ErbB2(Ab−2;Oncogene Research Products,Cambridge,MA)に対するモノクローナル抗体でブロットした。
【0060】
([3H]チミジンおよび[3H]ロイシンの取り込み)
DNA合成の指標として、以前に述べられているように(Berkら、Hypertension 13:305−314,1989)、[3H]チミジンの取り込みを測定した。無血清培地(DME+ITS)で36から48時間インキュベートした後、その細胞を20時間、異なった濃度のrhGGF2(Cambridge NeuroScience Co.,Cambridge,MA)で刺激した。次いで[3H]チミジン(0.7 Ci/mmol;Dupont)を5μCi/mlの濃度でこの培地に加え、その細胞をさらに8時間培養した。細胞をPBSで2回、10% TCAで1回洗浄し、10% TCAを加え、4℃で45分間、タンパク質を沈殿させた。rhGGF2にさらしていない筋細胞の並行培養物を、コントロールと同様の条件下で採取した。沈殿物を95% エタノールで2回洗浄し、0.15N NaOHに再懸濁し、1M HClで飽和させ、次いで、アリコートをシンチレーションカウンターでカウントした。結果を、それぞれの実験でのコントロール細胞の平均cpmに対して正規化した1ディッシュ当りの相対cpmとして表す。抗体をブロックする実験として、rhGGF2またはrhFGF2のどちらかを加える前に、それぞれのニューレグリンレセプター(c−neu Ab−2,Oncogene Research Products;およびErbB3またはErbB4,Santa Cruz
Biotechnology)に特異的な抗体(0.5g/ml)とともに細胞を2時間プレインキュベートしたという点を除き、同様の手順を適用した。
【0061】
[3H]ロイシンの取り込みの割合をタンパク質合成の指標として使用した。これらの実験のために、10μMのシトシンアラビノシドを培養培地に加えた。細胞を無血清培地で36から48時間増殖させ、次いで異なった用量のrhGGF2で刺激した。40時間後、[3H]ロイシン(5μCi/ml)を8時間加え、細胞をPBSで洗浄し、10% TCAで採取した。TCAで沈殿可能な放射能を、上述のようにシンチレーションカウンティングによって決定した。
【0062】
(5−ブロモ−2’−デオキシ−ウリジンの取り込みおよび免疫蛍光染色)
核の5−ブロモ−2’−デオキシ−ウリジン(BrdU)の取り込みおよび心筋特異的抗原のミオシン重鎖(MHC)を二重間接免疫蛍光を用いて同時に可視化した。初代NRVM培養物をDME+ITS中で48時間維持し、次いでrhGGF2(40ng/ml)で30時間刺激した。コントロール培養物も同様に、しかし、rhGGF2を除いて調製した。BrdU(10μM)を最後の24時間にわたって加えた。細胞を、pH 2.0の50mMグリシン緩衝液中の70%エタノールの溶液中で−20℃、30分間固定化し、PBS中で再水和し、4N HCl中で20分間インキュベートした。次いで細胞をPBS中で3回洗浄して中和し、1% FBSで15分間インキュベートし、続いてマウスのモノクローナル抗体の抗MHC(1:300;Biogenesis,Sandown,NH)で37℃、60分間処理した。一次抗体を、TRITC結合体化ヤギ抗マウスIgG(1:300,The Jackson Laboratory,Bar Harbor,ME)で検出し、核BrdUの取り込みを、インサイチュ細胞増殖キット(Boehringer Mannheim Co.Indianapolis,IN)からのフルオレセイン結合体化抗BrdU抗体で検出した。カバーグラスをFlu−mount(Fisher Scientific;Pittsburgh,PA)の上に置き、免疫蛍光顕微鏡によって検査した。約500個の筋細胞がそれぞれのカバーグラスにおいてカウントされ、BrdU陽性の筋細胞のパーセンテージを計算した。
【0063】
rhGGF2を用いての筋細胞表現型の変化を検査するために、細胞を4%(w/v)パラホルムアルデヒド中で30分間、室温で固定し、PBSでリンスし、0.1% Triton X−100で15分間浸透性にし、次いで1% FBSとともにさらに15分間インキュベートし、続いて抗MHC(1:300)とともにインキュベートし、TRITC結合体化二次抗体(NRVM)またはFITC結合体化二次抗体(ARVM)を用いて可視化した。ARVMを、MRC600共焦点顕微鏡(BioRad;Hercules,CA)とKr/Arレーザーを用いて検査した。
【0064】
(細胞生存アッセイおよびアポトーシスの検出)
細胞の生存率を、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT,Sigma)細胞呼吸アッセイによって決定した。このアッセイは、生細胞のミトコンドリアの活性に依存している(Mosman、J.Immunol.Meth.65:55−63,1983)。無血清培地中で2日後、NRVMの初代培養物を4日間または6日間のいずれかにわたって、異なる濃度のrhGGF2で刺激した。ARVMをACCTT培地中またはACCTT培地+異なった濃度のrhGGF2中で6日間維持した。次いでMTTをこの細胞と3時間、37℃でインキュベートした。ジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma)で細胞融解した後、生細胞は、テトラゾリウム環を、570nmで光学密度を読み取ることによって定量され得る暗青色のホルマザン結晶に変化させる。
【0065】
アポトーシスを、新生仔および成体の筋細胞中で、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)媒介dUTPニックエンドラベリング(TUNEL)検定を用いて検出した。フルオレセイン結合体化dUTPを用いたDNAの3’末端ラベリングを製造者の指示通りにインサイチュ細胞死検出キット(Boehringer Mannheim,Indianapolis,IN)を用いて行った。細胞を上述のように抗MHC抗体を用いて対比染色し、核もまた、Hoescht 33258(10μM,Sigma)を用いて5分間染色した。500個を超える筋細胞をそれぞれのカバーグラスで数え、TUNEL陽性の筋細胞のパーセンテージを計算した。70%エタノール/PBS中で固定し、そしてヨウ化プロピジウムで染色した新生仔の筋細胞のフローサイトメトリー分析をまた、アポトーシスが起こっている細胞のパーセンテージを定量するために行った。この方法はアポトーシスが起こっている細胞は低2倍体量のDNAを有し、DNAヒストグラムのG0/G1ピークより下の、広い範囲に局在するという観察に基づいている。手短には、細胞をトリプシン処理によって採取し、非接着細胞と一緒にプールし、70%エタノール中で固定した。PBSで1回リンスした後、細胞を室温で30分間、RNaseA(5Kuniz単位/ml)を含んだヨウ化プロピジウム(20μg/ml,Sigma)溶液でインキュベートした。データを、FACScan(Becton−Dickinson,San Jose,CA)を用いて収集した。それぞれのサンプルについて、10,000の事象を収集した。凝集した細胞および極端に小さい細胞破片は除去した。
【0066】
(RNAの単離およびハイブリダイゼーション)
総細胞RNAをTRIZOL試薬(Life Technologies Inc.,Gaithersburg,MD)を用いて、酸性グアジニウム/チオシアネート−フェノール/クロロホルム抽出法(ChomczynskiおよびSacchi、Anal.Biochem.162:156−159,1987)の改変法によって単離した。RNAをホルムアルデヒドアガロースゲル電気泳動によってサイズ分画し、一晩のキャピラリーブロッティングによって、ナイロンフィルター(Dupont,Boston,MA)に転写し、ランダムプライミング(Life Technologies Inc.)によって[α−32P]dCTPでラベルしたcDNAプローブとハイブリダイズさせた。フィルターをストリンジェント条件下で洗浄し、X線フィルム(Kodak X−Omat
AR,Rochester,NY)に曝露した。シグナルの強度を、デンシトメトリー(Ultrascan XL、Pharmacia)によって決定した。次のcDNAプローブを用いた:ラットプレプロ心房性ナトリウム利尿因子(prepro−ANF;心筋細胞の肥大のマーカー)(0.6kbのコード領域)(Seidmanら、Science、225:324−326、1984)およびラット骨格α−アクチン(240bpの3’非翻訳領域)(Shaniら、Nucleic Acids Res.9:579−589,1981)。ラットグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH;ハウスキーピング遺伝子)cDNAプローブ(240bpのコード領域)(Tsoら、Nucleic Acids Res.13:2485−2502,1985)をローディングおよび転写効率のコントロールとして使用した。
【0067】
(大動脈狭窄モデル)
上行大動脈狭窄を、乳離れしたばかりの雄ウィスターラット(体重50〜70g、3〜4週間、Charles River Breeding Laboratories,Wilmington,Massより入手)で以前に記載されたように行った(Schunkertら、Circulation,87:1328−1339,1993;Weinbergら、Circulation,90:1410−1422,1994;Feldmanら、Circ.Res.,73:184−192,1993;Schunkertら、J.Clin.Invest.96:2768−2774,1995;Weinbergら、Circulation,95:1592−1600,1997;Litwinら、Circulation,91:2642−2654;1995)。擬似手術の動物は、年齢が一致したコントロールとして役立った。大動脈狭窄動物および年齢が一致した擬似手術のコントロールを、手術後6および22週間に、65mg/kgの腹腔内ペントバルビタールで麻酔した後に屠殺した(1グループ当りn=20〜29)。このモデルでの血流力学および心エコーの研究は、正常な左心室(LV)腔の大きさおよび収縮指数を伴う代償肥大が結紮の6週間後に存在し、一方、動物は結紮の22週間後までに早期不全を発達させ、この不全は左心室腔の膨大発症、および柏出指数の軽い抑制、ならびに左心室グラム質量当りの圧力増加、の開始によって特徴付けられることを示した。本研究では、以前に記載されたように、屠殺する前にインビボ左心室圧力の測定を行った(Schunkertら、Circulation,87:1328−1339,1993;Weinbergら、Circulation,90:1410−1422,1994;Feldmanら、Circ.Res.,73:184−192,1993;Schunkertら,J.Clin.Invest.96:2768−2774,1995;Weinbergら、Circulation,95:1592−1600,1997;Litwinら、Circulation,91:2642−2654;1995)。また動物を、頻呼吸、腹水および胸水の存在を含む心不全の臨床マーカーについて検査した。体重および左心室の重さの両方を記録した。
【0068】
(RNA抽出のための左心室筋細胞の単離)
動物の部分集合(グループ当りn=10)の中で、心臓を迅速に切除し、大動脈カニューレに付着させた。筋細胞のコラゲナーゼ灌水による解離を以前に記載されたように行った(Kagayaら、Circulation,94:2915−2922,1996;Itoら、J.Clin.Invest.99:125−135,1997;Tajimaら、Circulation,99:127−135,1999)。最終細胞懸濁液中の筋細胞のパーセンテージを評価するために、筋細胞のアリコートを固定し、浸透化し、ブロックした。次いで細胞懸濁液を、筋細胞と内皮細胞との間を区別するために、α−サルコメアアクチンに対する抗体(mAb,Sigma,1:20)およびフォンビルブラント因子に対する抗体(pAb,Sigma,1:200)とともにインキュベートした。テキサスレッド(あるいはオレゴングリーン)結合体とともに二次抗体(ヤギ抗ウサギ、ヤギ抗マウスpAb、Molecular probes、1:400)を検出系として用いた。98%の筋細胞および2%未満の内皮細胞または非染色細胞(線維芽細胞)のフラグメントを慣用的に得た。
【0069】
(RNA分析)
全RNAを、TRI Reagent(Sigma)を用いて、コントロールの筋細胞および肥大した筋細胞(それぞれのグループでn=10の心臓)から、ならびに左心室組織(それぞれのグループでn=10の心臓)から単離した。組織および筋細胞のRNAを次のプロトコールに使用した。筋細胞RNAを用い、ノーザンブロットを用いて、GAPDHに対して標準化し、心房性ナトリウム利尿ペプチドのメッセージレベルを評価した(Feldmanら、Circ.Res.73:184−192,1993;Tajimaら、Circulation,99:127−135,1999)。これらの実験を行って、この肥大の分子マーカーを用いて、RNAの筋細胞起源の特異性を確かめた。
【0070】
本発明者らはまた、成体のラットの心臓および成体の筋細胞に由来するサンプル中のErbB2、ErbB4およびニューレグリンの存在の最初の見積もりのために、次のプライマー対を用いて、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行った:ErbB2センス 5’GCT GGC TCC GAT GTA TTT GAT GGT 3’(配列番号7)、ErbB2アンチセンス 5’GTT CTC TGC CGT AGG TGT CCC TTT 3’(配列番号8)(Sarkarら、Diagn.Mol.Pathol.2:210−218,1993);ErbB3センス 5’GCT TAA AGT GCT TGG CTC GGG TGT C 3’(配列番号3)、ErbB3アンチセンス 5’TCC TAC ACA CTG ACA CTT TCT CTT 3’(配列番号4)(Krausら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9193−9197;1989)、ErbB4センス 5’AAT TCA CCC ATC AGA GTG ACG TTT GG 3’(配列番号5)、ErbB4アンチセンス 5’TCC TGC AGG TAG TCT GGG TGC TG 3’(配列番号6)(Plowmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:1746−1750;1993);ニューレグリンセンス 5’GCA TCA CTG GCT GAT TCT GGA G 3’(配列番号9)、ニューレグリンアンチセンス 5’CAC ATG CCG GTT ATG GTC AGC A 3’(配列番号10)。後者のプライマーはNRG−1遺伝子によってコードされた核酸を認識するが、そのアイソフォーム間を区別しない。増幅を、1分間の変性、遺伝子に特異的な温度での2分間のアニーリング、および72℃にて2分間の伸長によって開始した。PCR反応物全体を1%アガロースゲルで電気泳動し、予想サイズのPCR産物をゲル精製した。
【0071】
pGEM−Tベクター(Promega,Madison,WI)にこれらのフラグメントをクローンニングした後、これらのフラグメントのベクター内での正確さおよび方向を配列決定によって確かめた。クローニングされたPCRフラグメントを用いて、MAXIscriptインビトロ転写キット(Ambion,Inc.,Austin,TX)およびα−32P−UTPを用いて、放射性標識したリボプローブを生成した。ErbB2、ErbB4またはニューレグリンフラグメントを含んだプラスミドを直鎖にし、そして、T7またはT3 RNAポリメラーゼを用いたインビトロ転写によって、放射性標識したプローブを合成した。キットによって提供されたβ−アクチンプローブを、T7またはT3ポリメラーゼを用いて転写し、それぞれ330および300bpのフラグメントを得た。RPAIIキット(Ambion)のプロトコールにより、後の標準化のための2×104cpmのβ−アクチンと一緒に、5×105cpmのErbB2、ErbB4またはニューレグリンのc−RNAに対して20μgの全RNAをハイブリダイズさせた。
【0072】
RNaseA/RNaseT1で消化した後、サンプルを沈殿させ、乾燥し、再溶解し、最後に2時間にわたって5%ポリアクリルアミドゲルによって分離した。ゲルをKodak MRフィルムに12から48時間曝露し、アッセイをImage Quant ソフトウェア(Molecular Dynamics,Inc.,Sunnyvale,CA)を使用して、オートラジオグラフのデンシトメトリースキャニングで定量した。ErbB2、ErbB4およびニューレグリンのmRNAレベルをβ−アクチンに対して標準化した。
【0073】
(ErbB2およびErbB4のウエスタンブロッティング)
左心室組織(1グループ当りn=5の心臓)を、50mmol/L Tris
HCl、pH 7.4、1% NP−40、0.1% SDS、0.25% Na−デオキシコール酸塩、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM
PMSF、1μg/mlアプロチニン、1μg/mlロイペプチン、1μg/mlぺプスタチンおよび1mM Na3PO4を含んだRIPA緩衝液中で迅速にホモジナイズした。タンパク質を、ローリーアッセイキット(Sigma)を用いて定量した。レムリSDSサンプル緩衝液中の50μgのタンパク質を5分間煮沸し、遠心分離した後、10% SDS−PAGEゲルにローディングした。電気泳動の後、タンパク質を100mAで一晩、ニトロセルロースメンブレンに転写した。フィルターを0.05% Tween−20、5%脱脂乳でブロッキングし、次いで、抗ErbB2または抗ErbB4(Santa Cruz Biotechnology、それぞれ1:100、1μg/mlに希釈)とともにインキュベートした。1:2000に希釈したヤギ抗ウサギペルオキシダーゼ結合体化二次抗体とともにインキュベートした後、ブロットを増強化学発光(ECL)検出法(Amersham,Life Science)に供し、その後Kodak MRフィルムに30〜180秒間曝露した。タンパク質レベルを抗β−アクチン(Sigma)を用いて検出されたβ−アクチンのタンパク質レベルに対して標準化した。
【0074】
(ニューレグリンについてのインサイチュハイブリダイゼーション)
左心室組織(n=2コントロールおよび6週間大動脈の狭窄した心臓)の10μm凍結切片をインサイチュハイブリダイゼーションに使用した。アンチセンスRNAプローブおよびセンスRNAプローブを、pBluescript中のcDNAフラグメントから、T7 RNAポリメラ−ゼまたはT3 RNAポリメラ−ゼのいずれかおよびジゴキシゲニン標識のUTP(DIG RNA Labeling Mix、Boehringer Mannheim)を用いて合成した。組織切片を、最初に4%パラホルムアルデヒドで20分間処理し、続いてプロテイナーゼK(10μg/ml)で37℃、30分間消化し、さらに5分間4%パラホルムアルデヒドで固定した。
【0075】
固定の次に、スライドをPBS中で5分間にわたって3回洗浄し、その後0.25%無水酢酸中の0.1M塩化トリエタノールアミン緩衝液中に切片を10分間浸漬して切片上の極性基および荷電した基をブロックし、それゆえプローブの非特異的な結合を妨げた。2×SSC中でスライドを洗浄した後、次いでこれらのスライドを、45℃で60分間、50%ホルムアミド/2×SSCを充填した湿気のあるチャンバー内で、プレハイブリダイズをした(50%ホルムアミド、2×SSC、5%デキストラン硫酸、0.1%SDS、1×デンハルト、400μg/ml変性サケ精子DNA)。1時間後、プローブをプレハイブリダイゼーション溶液に加え、スライドを16〜18時間45℃でハイブリダイズした。
【0076】
一晩のハイブリダイゼーションの後、スライドを、振盪しながら4×SSC中で30分間45℃で2回洗浄し、次いで、RNaseA(40μg/ml)を加えた500mM NaCl、10mM Tris、1mM EDTA、pH8.0中で、30分間37℃でインキュベートして、ハイブリダイズしていないプローブを除いた。RNaseで処理した後、切片を2×SSC中で50℃で30分間浸漬し、次いで0.2×SSC中で同じ温度でさらに30分浸漬した。スライドをTBSI緩衝液(100mM Tris、150mM NaCl、pH 7.5)で平衡化し、次いで製造者のプロトコール(DIG Nucleic Acid Detection Kit,Boehringer Mannheim)に従い、30分間室温でブロッキング試薬でブロックした。
【0077】
ブロッキング試薬を取り除いた後、スライドをTBSI中に1分間浸漬し、次いで、抗DIG−AP結合体溶液(DIG Nucleic Acid Detection Kit,Boehringer Mannheim)をそれぞれの切片に1.5時間室温で、湿気のあるチャンバー内で適用した。その後スライドをTBSI中で1回の洗浄当り10分間ずつ3回洗浄して、過度の抗体を洗浄除去し、TBSII(100mM Tris、100mM NaCl、pH 9.5、50mM MgCl2・7H2O)で5分間平衡化した。色の基質を製造者の指示に従って調製し、青色着色反応が可視化するまでそれぞれの切片に適用した。反応を止め、スライドをPBSおよび蒸留水でそれぞれ5分間洗浄した。核の対比染色の後、切片をエタノールシリーズを通して脱水し、キシレンに浸漬し、Permount中でのカバーグラスによって検鏡用に作製した。
【0078】
(統計的解析)
全ての数値を平均値±SEMで表す。大動脈狭窄症グループ(結紮(banding)してから6週間、22週間)と年齢を合わせた(age−matched)コントロールのグループとの間に見られる差異の統計的な解析を、ANOVA比較によって行った。片側(unpaired)スチューデント検定を用いて、両グループ間で結紮後に同じ年齢での比較を行った。p<0.05のレベルを統計的有意とした。
【0079】
(実施例II:ニューレグリンは心筋細胞の生存と増殖を促進する)
(心臓におけるニューレグリン受容体の発現)
ラットの心筋においてどのNRG受容体(すなわちErbB2, ErbB3, ErbB4)が発現しているかを決定するために、ラット心臓組織の発生の各段階、および分離したばかりの新生仔および成体の心室筋細胞由来のRNAを、ErbB受容体の可変性C末端に隣接したプライマーを用いてPCRによって逆転写し、そして増幅した。図1Aは心臓発生の間のニューレグリン受容体mRNAレベルの半定量的RT−PCR解析を示す。胎児(E14、E16、E19)、新生仔(Pl)または成体(Ad)のラット心臓、および新生仔ラット心室筋細胞(NRVM)または成体ラット心室筋細胞(ARVM)に由来する総RNAを、cDNAへと逆転写し、受容体アイソフォームに特異的なプライマーを用いて増幅した(方法を参照のこと)。逆転写、PCRによる増幅、およびゲルのローディングの際のコントロールとして、GAPDHを用いた(「M」は、1kbまたは120bpのDNA分子量標準を示す)。RT−PCR産物を、DNA配列決定によって確かめた。
【0080】
三種全てのErbB受容体は、中期胚発生(E14)の発生期ラット心臓において発現した。その相対的なmRNA量の順序は、ErbB4>ErbB2>ErbB3であった。ErbB受容体の発現は、胚発生の後期においてダウンレギュレートされた。E16およびE19において、ならびに出生後1日目(P1)においては、ErbB2とErbB4のmRNAのみが検出され得た。成体ラット心臓においては、ErbB4は検出されたものの、そのmRNA量は胚発生および新生仔の心臓において検出されたものに比べて低かった。それに対して、ErbB2 mRNAおよび、まれにではあるがErbB3 mRNAが、成体心筋においてごく低いレベルで検出し得た。分離されたばかりの新生仔および成体のラット心室筋細胞の初代培養において、ErbB2およびErbB4両方のmRNAを、RT−PCRによって容易に検出したが、ErbB4の発現レベルはErbB2の発現レベルよりも矛盾なく高かった。さらに、ErbB2、ErbB3およびErbB4についての受容体特異的cDNAプローブを用いたときには、ErbB4の転写のみを、分離されたばかりの新生仔および成体のラット心室筋細胞において、ノーザンブロットにより容易に検出し得た。
【0081】
どのErbB受容体がニューレグリン処理後にチロシンリン酸化されたかを決定するために、24〜48時間の間、無血清培地中に維持されていたNRVMまたはARVMの初期培養物を、ニューレグリン添加あるいは無添加のいずれか(すなわち、組換えヒトグリア増殖因子2(rhGGF2))(20ng/ml)で5分間処理を行った。ErbB4受容体タンパク質は、抗ErbB4抗体とともに500μgのNRVM溶解物あるいは2000μgのARVM溶解物から免疫沈降した。そしてリン酸化形態のErbB4を抗ホスホチロシン抗体を用いて検出した。図1Bに示されたブロットは3回の独立した実験を示す。図1Bに示すように、リン酸化されたErbB4は新生仔の筋細胞において顕著に存在したが、あまり強くはなかった。しかし、成体の筋細胞において検出可能であった。このことは、我々が上記で観察したErbB4 mRNA量のレベルと一致した。リン酸化形態のErbB2およびErbB3は、たとえビオチン化抗ホスホチロシン抗体とともに免疫沈降したとしても、検出され得なかった。このことは、出生後の心筋細胞において、これら2つのニューレグリン受容体のmRNA量がはるかに減少していることと一致した。
【0082】
(GGF2は、新生仔心室筋細胞におけるDNA合成を刺激する)
NRVM初代培養物におけるGGF2のDNA合成刺激能を調べるために、二日間無血清培地で維持した筋細胞を、40ng/mlのrhGGF2で30時間続いて処理した。BrdU(図2B)あるいは[3H]チミジン(図3A、3B)いずれかの取り込みを測定することによって、DNA合成をモニタリングした。これらの物質は、各実験が終わる24時間あるいは8時間前に、それぞれ培地に添加した。
【0083】
図2Aは、NRVMにおいてTRITC結合体化ヤギ抗マウス抗体によって視覚化された筋細胞のミオシン重鎖を示す(赤)。図2Bは、フルオレセイン結合体化マウス抗BrdU抗体によって視覚化されたBrdU陽性核を示す(緑)。図2Aおよび2Bのスケールバーは10μmを示す。図2Cはコントロール条件下およびGGF2存在下でのBrdU陽性筋細胞の割合を示す(データは三回の実験の平均±SDである(*p<0.01))。図2Cに示されているように、40mg/ml(およそ0.7nM)のrhGGF2は、BrdUで標識した筋細胞(出生後1日目のラット心室由来)の割合を約80%増加させた。この増加の大きさは、[3H]チミジンの取り込みによって観察された増加と類似した(図3A)。
【0084】
図3Aおよび図3Bは、ラット心室筋細胞の初代単離物由来の筋細胞リッチ画分および非筋細胞画分におけるDNA合成に対するGGF2の影響を示す。図3Aにおいて、NRVMリッチ初代単離物あるいは非筋細胞リッチ画分(方法を参照のこと)を、コントロール(すなわち、無血清)培地のみ(Ctl)、あるいは40ng/mlのrhGGF2(GGF)または7%のウシ胎仔血清(FBS)のいずれかを含む培地に曝した。図3Bにおいて、NRVMのDNA合成に対するGGF2濃度依存性の効果を示す。[3H]チミジンの取り込みによってDNA合成を評価し、そしてデータを、それぞれの実験においてコントロール細胞の平均cpmに対して正規化した相対的cpm/ディッシュとして表す(三つの独立した実験から、三連で分析した平均±SD、*コントロールに対してp<0.01)。20ng/mlのrhGGF2は、NRVMへの[3H]チミジン取り込みのおよそ60%の増加を引き起こす。これは、7%FBS添加で観察された値の約半分であった。NRVMに対するrhGGF2の細胞分裂促進効果は濃度依存的であり、50ng/mlの濃度(すなわち、0.9nM)においては、約80%増加であった(図3B)。GGF2は、ラットの胚性心室筋細胞(E19)および出生後の心室筋細胞(P5)におけるBrdUまたは[3H]チミジン取り込みに対して、類似の細胞分裂促進効果を持っていた。それに対して、100ng/ml程度のGGF2高濃度は、成体ラット心室筋細胞初代培養物において、DNA合成に影響しなかった。
【0085】
新生仔ラット心室筋細胞単離手順の前プレート化工程の後に得られた、非筋細胞画分に対するrhGGF2の影響も調べた。図3Aに示すように、rhGGF2は非筋細胞への[3H]チミジンの取り込みにおいて、有意な変化を誘導しなかった。これは、7%FBS(この細胞集団への[3H]チミジンの取り込みにおいて約10倍の増加を誘導した)とは対照的である。それゆえ、GGF2は、我々がここで採った筋細胞単離方法を用いた場合には、主として繊維芽細胞および内皮細胞から構成される筋細胞枯渇細胞集団と比較して、心筋細胞に対して比較的特異的な作用を示す。
【0086】
どの公知のニューレグリン受容体が胎児および新生仔の心室筋細胞に対するGGF2の細胞分裂促進効果を媒介するのかを決定するために、ErbB2、ErbB3およびErbB4に特異的な抗体と共にインキュベートした後、初代NRVM培養物において、DNA合成を測定した。新生仔の筋細胞を二日間、無血清培地中で培養した後、なし(コントロール)、またはrhGGF2存在下(10ng/ml)、またはrhFGF2存在下(20ng/ml)、またはGGF2/FGF2存在下のいずれかと、ErbB2、ErbB3またはErbB4に対する抗体で30時間、示したように、単独で、または組み合わせのいずれかで処理した。抗体(0.5μg/ml/抗体)を2時間細胞と共にプレインキュベートした後、GGF2またはFGF2のいずれかを添加した。[3H]チミジンは最後の8時間の間添加した(各実験において、コントロール細胞の平均cpmに対して正規化した相対的cpm/ディッシュとして、データを表す。また、データは平均±SDとして表される。n=3(独立した実験);*rhGGF2のみに対してp<0.04;#rhGGF2のみに対してp>0.1)。
【0087】
図4に示すように、c−neu/ErbB2の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体は、GGF2によるNRVMへのGGF2に依存した[3H]チミジン取り込みの増加を阻害した。同様に、ErbB4のC末端に対する抗体もまた、GGF2により誘導される[3H]チミジンの取り込みの増加を約50%ブロックした。これら二つの抗体を組み合わせて使った場合にも、抗ErbB2抗体あるいは抗ErbB4抗体のいずれか単独の場合と同じ効果が得られた。対照的に、ErbB3に対する抗体はGGF2により誘導されるDNA合成に対して効果がなかった。ErbB2およびErbB4に対する抗体で見られた効果がGGF特異的であったことを立証するために、姉妹NRVM初代培養物を20ng/mlのrhFGF2(組換えヒトbFGF2)で処理した。どちらの抗体も、rhFGF2を用いた[3H]チミジンの取り込みのおよそ二倍の増加に影響を与えなかった。これらの結果は、少なくとも二種の公知のニューレグリン受容体チロシンキナーゼが存在し、新生仔心室筋細胞における下流のシグナル伝達カスケードと共役したことを示唆する。
【0088】
(GGF2はインビトロでの心筋細胞の生存を促進する)
発生過程において、機能性の胚性筋細胞数の正味の増加は、筋細胞の増殖能と生存との両方に依存している。それ故に、GGF2が心筋細胞の増殖に加えて生存を促進しうるかどうかを調べることは非常に興味深い。10μMのシトシンアラビノシド(AraC)存在、非存在下、無血清培地で培養したNRVMの初代培養液を4日間、示された濃度のGGF2で処理した。また、MTT細胞呼吸アッセイ(方法を参照のこと)により、代謝活性を有する細胞の相対数を測定した。データはGGFを添加した時を0日とし、三つの培養ディッシュにおいて、筋細胞の平均MTT活性のパーセントで表されている。データは平均±SD(n=3実験;*、コントロールに対してp<0.05)として表されている。本発明者らは、およそ25%の細胞が4日目までに死滅しているのを観察した。これに対し、GGF2の添加により、コントロールに比べてMTT活性が30%上昇した。その効果は0.2ng/mlのEC50を用いたときには濃度依存的であった(図5)。このような生存効果はNRVM初期培養において7日目まで見られた。また、増殖阻害剤であるシトシンアラビノシド(AraC)存在下においても見られた。図5に示すように、GGF2の生存効果はシトシアラビノシドの連続存在下で4日間見られた。このとき、筋細胞の生存能力はコントロールではおよそ70%であったのに対し、50ng/mlのrhGGF2存在下では90%であった。これに対し、筋細胞を欠失した「非筋細胞」リッチな初期単離物の4日目までの生存には重大な効果を示さなかった。
【0089】
次に本発明者らは、GGF2の生存効果がプログラム細胞死(アポトーシス)の阻害によって仲介されているかどうかについて調べた。無血清培地で2日間培養したNRVM初代培養液を、rhGGF2不在下(図6A〜C)または20ng/mlのrhGGF2存在下(図6E〜G)のいずれかで4日間培養した。次に細胞を固定し、心筋を視覚化するために抗MHC抗体およびTRITCを結合した二次抗体を用いて(図6AおよびE)、またはアポトーシスを起こしている細胞を明らかにするためにフルオレセイン結合dUTP(すなわち、TUNEL)を用いて(図6Bおよび6F)染色した。TUNELによる染色でポジティブであった筋細胞は、細胞の収縮およびクロマチンの濃縮を示した。これらはヘキスト33258による染色により同定された(図6Cおよび6G)。アポトーシスはTUNELポジティブな細胞の数をカウントすることにより(図6D)、または、示された濃度のrhGGF2(H)で4日間処理したNRVM初代培養液をプロピジウムヨウ素で染色し、フローサイトメトリーでサブG1画分を解析する事によるのいずれかで、定量した。図6Dおよび図6Hに示されているデータは、3回の独立した実験についての平均±SDとして与えられる。図6A〜6Cおよび図6E〜6Gに示すスケールバーは、10μMを意味する。
【0090】
無血清培地に入れてから6日後に、低い細胞濃度(すなわち、サブコンフルエント)でコントロール条件下で培養したNRVMの約17%が、TUNEL染色により検出し、アポトーシスの証拠を示した。これらの細胞では、アポトーシスによる細胞死と一致して、核は凝縮して小さくなり、細胞の収縮が見られた(図6A〜6C、6E〜6G)。20ng/mlのrhGGF2存在下では、TUNELポジティブな筋細胞の数は約8%にまで減少した(図6D)。アポトーシス阻害に対するGGF2の効果もまた、プロピジウムヨウ素で標識したNRVM初代培養液のフローサイトメトリーによる解析により定量した。無血清培地およびインスリン欠乏培地で4日間培養した後、22%のNRVMが低二倍体になっていた。これはプログラム細胞死の開始と一致している。10ng/ml以上の濃度のrhGGF2存在下では、10%未満のNRVMが、アポトーシスの兆候を示した(図6H)。
【0091】
成体ラット心室筋細胞(ARVM)に対するGGF2の生存および抗アポトーシス効果もまた、MTT細胞呼吸アッセイおよびTUNEL染色により調べられた。図7Aに示された実験において、ARVM初代培養液を無血清およびインスリン欠乏培地(すなわち「ACCTT」、方法を参照のこと)、あるいは、GGF2を添加したACCTT培地中のいずれかで6日間培養した。代謝活性を持つ細胞の数は、MTT細胞呼吸アッセイにより決定した。データは、処理していないコントロール細胞の平均吸光度に対して正規化された相対吸光度として表されている。それぞれのバーは平均±SD(n=3実験;*、コントロールに対してp<0.05)を表している。図7Bに示された実験において、ARVM初代培養液はACCTT培地(コントロール)あるいはrhGGF2を添加(25ng/ml)したACCTT培地中で3日間培養した。4%パラホルムアルデヒドにより固定した後、筋細胞を抗MHC抗体およびTRITCを結合した二次抗体で可視化し、アポトーシス細胞をTUNEL染色により同定した。それぞれのカバーグラス上で約500の筋細胞を計数した(データは三回の独立した実験の平均±SDである;*、コントロールに対してp<0.05)。10%より多い細胞がTUNEL標識にポジティブである、未処理のARVM初代培養液に比べた場合、rhGGF2処理(20ng/ml)を行った成体の筋細胞培養液は、約3%のTUNELポジティブ染色しか示さなかった(図7B)。これらの結果は、ニューレグリンは、新生仔と成体の両方の心室筋細胞において、少なくとも部分的にプログラム細胞死を抑制することによる、生存因子として作用するということを示している。
【0092】
(GGF2は心筋細胞の肥大増殖を誘導する)
ニューレグリンシグナルが心筋細胞において肥大(増殖)応答を誘導しうるかどうかを調べるために、本発明者らは、新生仔と成体の両方のラットの心室筋細胞初代培養液において、GGFが筋細胞の肥大増殖に誘導に対する効果について調べた。図8Aと8Bは20ng/mlのrhGGF2存在(図8B)および非存在(図8A)下のいずれかで無血清培地で72時間インキュベートしたサブコンフルエントなNRVM初期単離物の顕微鏡写真を示している。その後、細胞を固定し、心臓MHCに対する抗体(赤;TRITC)で染色し、間接免疫蛍光顕微鏡下で観察した。図中のスケールバーは、10μMを表す。20ng/ml(すなわち0.36nM)のrhGGF2存在下、無血清培地で72時間インキュベートした後、新生仔の心筋細胞(NRVM)は、細胞の大きさおよび筋繊維の発達に大きな増加を示した。
【0093】
心筋細胞における肥大応答は、細胞の大きさの増加に加え、表現型の変化の数によっても特徴づけられた。例えば、細胞の増殖を伴わない、収縮性のあるタンパク含量の増加および「胚性の」遺伝子プログラムの再活性化が挙げられる。それゆえ、本発明者らは、prepro−ANFおよび骨格のα−アクチンmRNAレベル(新生仔および成体の心室筋細胞において比較的低存在量で正常に見出される転写物)に対して、そしてNRVM初代培養液におけるタンパク質合成率としての[3H]ロイシンの取り込みに対するニューログリンの効果を調べた。図8Cは、20ng/mlのrhGGF2存在または非存在下のいずれかでインキュベートしたNRVM由来の全RNA(20μg/レーン)中のprepro−ANFおよび骨格α−アクチンmRNAの、示された時間におけるノーザンブロット解析を示す。等量のRNAがロードおよび移入されていることは、GAPDHハイブリダイゼーションにより確かめた。rhGGF2(20ng/ml)は60分以内にprepro−ANFおよび骨格αーアクチンのmRNAレベルを上昇させ、16時間経過時にはおよそ2倍になっていた。
【0094】
タンパク合成に対するGGF2の効果を調べるために、NVRMを24時間、無血清培地中で培養し、その後、それらを示されている濃度のrhGGF2で40時間処理し、[3H]ロイシンのパルスを与え、8時間後、GGF2による刺激を終結した。各GGF2濃度における[3H]ロイシンの取り込みは、各ディッシュのタンパク含量に対して正規化され、データは各実験において未処理のコントロール細胞の平均cpmに対して正規化した相対cpm/ディッシュで表されている(平均±SD、n=3実験、コントロールに対してp<0.01)。図8Dはまた、5ng/mlの濃度において、GGF2は[3H]ロイシンの取り込みを刺激しているということを示している。このとき、48時間で約120%に増加する。非筋細胞コンタミタント細胞への[3H]ロイシンの取り込み速度に対するGGF2の、起こりうる、困惑させるような効果を最小にするために、これらの実験を、シトシンアラビノシドの連続的な存在下において繰り返し、その結果、同様の実験結果が得られた。
【0095】
GGF2はまた、培養された成体のラット心室筋細胞(ARVM)における肥大応答を引き起こした。ARVMの初代培養液を24ウェルディッシュ中のカバーグラス上に置き、rhGGF2(20ng/ml)存在(図9Bおよび図9C)、非存在(図9A)下のいずれかで、ACCITT培地中で5日間維持した。細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、ミオシン重鎖に対する抗体(緑、FITC)で染色し、共焦点顕微鏡で観察した。スケールバーは10μMを示す。20ng/mlのrhGGF2の連続的な存在下において、72時間までに、いくらかの成体の筋細胞は、主にインターカレートされた円盤領域から「pseudopod」様膨張をし始めた。そして5日目までに、GGF処理された成体の心筋細胞の60%より多くが、図9Bおよび9Cに示されたのと一致して表現型の変化を見せた。その一方で、未処理のARVMの80%より多くは、図9Aに示された表現型を維持した。
【0096】
GGF2はまた、ARVMにおけるprepro−ANFおよび骨格α−アクチンの発現を高めた。ARVMの初期単離物は、示された時間、20ng/mlのrhGGF2存在、非存在下のいずれかで刺激を与えた。全RNAを単離し、prepro−ANFおよび骨格α−アクチンcDNAプローブを用いたノーザンブロット(25μg/レーン)により解析した。等量のローディング及び移入条件を、GAPDHハイブリダイゼーションにより確認した。肥大増殖のポジティブコントロールとして、フェニレフリン(PE、10μM)を用いた。図9Dに示すように、rhGGF2(20ng/ml)は、ARVM初代培養液におけるprepro−ANFのmRNAの存在量を、8時間で二倍に、20時間で3〜4倍に増加させた。また、骨格α−アクチンmRNA量の増加も見られたが、これは、成体のラットの心室筋細胞において肥大増殖および多くの胎児遺伝子の再発現を誘導することが公知の、α−アドレナリン作動性アゴニストであるフェニレフリン(10μM)を用いた時に見られるよりもはるかに大きかったことが観察された。7時間の間に、骨格α−アクチンmRNAレベルは容易に検出できるようになり、30時間GGF2で処理することにより、さらに250%もの増加を示した。ここで用いた条件下において、GGF2、フェニレフリンは共にGAPDHのmRNA存在量に何ら影響を与えなかった。
【0097】
タンパク質合成に対するGGF2の効果を試験するために、ARVM(ACCITT培地で2日)を刺激し、40時間、rhGGF2の濃度の増加し、そして[3H]ロイシンを最後の14時間で加えた。GGF2処置培養物中への[3H]ロイシン取り込みを、非刺激コントロール筋細胞における[3H]ロイシン取り込みの平均に対して正規化した。データをまた、ディッシュ間の細胞数の任意の可変性を調節するために各ディッシュのタンパク質含有量に対して正規化した(平均±S.D;n=4;*、コントロールに対するp<0.01)。図9Eに示されるように、GGF2は、[3H]ロイシン取り込みにおける容量依存性増加を誘導し、5ng/mlの濃度で70%が増加する。従って、このニューレグリンは、サブナノモルの濃度で、新生仔と成体の両方のラット心室筋細胞での肥大性適応と一致して表現型変化を誘導する。
【0098】
(実施例III:ErbB2およびErbB4発現レベルは、慢性肥大から初期心不全への遷移での大動脈弁狭窄ラットにおいて減少する)
(LV肥大および血流力学)
表1に示されるように、左心室(LV)を秤量し、そしてLV/体重比は、年齢を一致させたコントロールと比較して、6週齢および22週齢の大動脈弁狭窄動物において有意に(p<0.05)増加した。インビボLV収縮期圧は、年齢を一致させたコントロールと比較して、6週齢と22週齢の両方の大動脈弁狭窄動物において有意に増加した。インビボLV終端(end)心拡張圧はまた、年齢を一致させたコントロールと比較して、大動脈弁狭窄動物においてより高かった。このモデルにおける先行研究と一致して、1グラムあたりのLV心収縮発生(developed)圧は、年齢を一致させたコントロールと比較して、6週齢大動脈弁狭窄動物で有意に高いが、22週齢の大動脈弁狭窄動物において抑制された。結紮(banding)22週間後、大動脈弁狭窄動物はまた、頬呼吸、小胸水および心嚢貯留液を含む破壊の臨床的マーカーを示した。
(表1。左心室の肥大および血流力学)
【0099】
【表1】
表1の説明:LVH、左心室肥大を持っている心臓であり、大動脈狭窄後6および22週たったもの;C、一致した年齢のコントロール;BW、体重;LV Wt、左心室の重さ;LVEDP、LV終端心拡張圧力;LVSP、LV心収縮圧;LV devP、1gあたりのLV発生圧。値は平均±SEM;*一致した年齢のコントロールに対してp<0.05;6週齢のLVHに対してp<0.05。n=14〜20/グループ。
【0100】
(大動脈狭窄における、LV ErbB2、ErbB4およびニューレグリンの発現)
RT−PCRを用いることにより、本発明者らは、通常および肥大筋細胞においてならびに、左心室肥大の存在、非存在の成体のオスのラットの心臓由来のLV組織において、ErbB2、ErbB4およびニューレグリンmRNAを検出し得たが、ErbB3 mRNAを検出することがし得なかった。図10Aは6週齢の大動脈狭窄を起こした心臓およびコントロールならびに22週齢の大動脈狭窄を起こした心臓およびコントロールにおけるLV ErbB2およびβ−アクチンmRNAの発現を示す、リボヌクレアーゼプロテクションアッセイの結果を示す。図10Bは6週齢の大動脈狭窄を起こした心臓およびコントロール、ならびに22週齢の大動脈狭窄を起こした心臓およびコントロールにおけるLV ErbB4およびβ−アクチンmRNAの発現を示すリボヌクレアーゼプロテクションアッセイの結果を示す。次いで、大動脈狭窄ラットおよびコントロール由来のLV組織におけるErbB2、ErbB4およびニューレグリンmRNAのレベルの安定した状態のレベル(n=5心臓/1群)は、リボヌクレアーゼプロテクションアッセイ(RPA)により測定され、β−アクチンに対して正規化された。LVニューレグリンmRNAレベルは、6週齢の大動脈狭窄ラットと一致した年齢のコントロールラット由来の組織において有意な差は無かった(0.68±0.12vs0.45±0.12単位、NS)。これは、22週齢の大動脈狭窄ラットと一致した年齢のコントロールラット由来の組織において有意なさは無かった(0.78±0.21vs0.51±0.21単位、NS)。さらに、β−アクチンのレベルに対して正規化したLV ErbB2およびErbB4のmRNAレベルは、6週齢の大動脈狭窄ラットにおいて、コントロールに対して代償的な肥大を伴って保存されていた。これに対し、LV ErbB2(p<0.05)およびErbB4(p<0.01)伝達レベルは、初期不全の段階にある22週齢の大動脈狭窄ラットにおいて顕著に弱められていた(図10および表2)。
【0101】
表2.ErbBレセプターのLV mRNA及びタンパク質のレベル
【0102】
【表2】
表2の説明:LVH,大動脈狭窄後6および22週齢の左心室肥大を有する心臓;C,相応の年齢のコントロール;左心室(LV)mRNAレベルをリボヌクレアーゼ保護アッセイによって測定しβ−アクチンに対して正規化した;mRNAレベルはLV組織(mRNA、LV;n=5心臓/群)およびLV筋細胞(mRNA、筋細胞;ErbB2 n=5心臓/群;ErbB4 n=3〜4心臓/群)の両方由来のRNAにおいて測定した。LVタンパク質レベルをウエスタンブロッティングによりLV組織(n=5/群)において測定し、β−アクチンに対して正規化した。値は平均±SEMで表しており;*p<0.05 相応の年齢のコントロールに対して;**p<0.01 相応の年齢のコントロールに対して、である。
【0103】
次に本発明者らは、6週および22週齢の大動脈狭窄動物およびコントロールのLV筋細胞由来のRNAにおける遺伝子発現について調べた。筋細胞における発現の特異性を、筋細胞のRNAおよびGAPDHレベルに対する正規化を用いて、圧負荷肥大のポジティブ分子マーカーである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)のメッセージレベルを試験することにより決定した。図11に示すように、ANPはコントロール(n=5/群)に比べて、6週齢の大動脈狭窄動物(710±16 対 230±40単位、p<0.05)および22週齢の大動脈狭窄動物(898±52 対 339±13単位、p<0.05)の両方からの筋細胞において、上方制御された。ニューレグリンは、RPAによっては、どの群の筋細胞由来のRNAにおいても検出されなかった。
【0104】
ErbB2(n=5/群)およびErbB4(n=3〜4/群)のメッセージレベルもまた、両方の大動脈狭窄群由来の筋細胞RNAにおいて測定した(図12および表2)。図12Aは、6週齢の大動脈狭窄心臓およびコントロールならびに22週齢の大動脈狭窄心臓およびコントロールにおけるLV筋細胞ErbB2およびβ−アクチンのmRNAの発現を示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの結果を示す。図12Bは、6週齢の大動脈狭窄心臓およびコントロールおよび22週齢の大動脈狭窄心臓およびコントロールにおけるLV筋細胞ErbB4およびβ−アクチンのmRNAの発現を示す、リボヌクレアーゼ保護アッセイの結果を示す。LV組織サンプルにおける測定結果と一致して、β−アクチンレベルに対して正規化された心筋ErbB2およびErbB4のmRNAレベルは、代償性肥大(NS)のステージにある6週齢の大動脈狭窄動物におけるコントロールと比較して保存される。しかし、ErbB2およびErbB4の両方の発現は、不全への遷移途中にある22週齢の大動脈狭窄動物においては有意に下方制御を受ける。
【0105】
(LV ErbB2およびErbB4タンパク質のレベル)
相応の年齢のコントロールと比較して、6週および22週齢の大動脈狭窄ラットのLV組織由来のタンパク質サンプルを用いて、ErbB2およびErbB4に対するポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った(n=5/群)。図13Aおよび13Bは、6週齢(図13A)の大動脈狭窄心臓およびコントロールおよび22週齢(図13B)の大動脈狭窄心臓およびコントロールにおける、LV ErbB2およびβ−アクチンのタンパク質レベルを示すウェスタンブロットを示す。図13Cおよび13Dは、6週齢(図13A)の大動脈狭窄心臓およびコントロールおよび22週齢(図13B)の大動脈狭窄心臓およびコントロールにおける、LV ErbB4およびβ−アクチンのタンパク質レベルを示すウェスタンブロットを示す。図13A〜13Dおよび表2に示されているように、ErbB2およびErbB4のmRNA発現は、代償性肥大(NS)のステージにある6週齢の大動脈狭窄動物におけるコントロールと比較して保存されている。しかし、ErbB2(p<0.05)およびErbB4(p<0.01)は、初期不全の間に22週齢の大動脈狭窄動物において下方制御される。このように、LVメッセージならびにErbB2およびErbB4のタンパク質レベルの両方の減少が、この圧負荷のモデルにおいて初期不全のステージにおいて現れる。
【0106】
(ニューレグリンに対するインサイチュハイブリダイゼーショ)
ディゴキシゲニン標識ニューレグリンのアンチセンスmRNAは、LV凍結切片上に再現性のあるハイブリダイゼーションシグナルを生成した。その一方で、対応するセンス転写物は、バックグラウンドの上にシグナルを示さなかった。成人の心臓の凍結切片におけるニューレグリンシグナルは、心臓の微小血管の上皮細胞において観察され、他の細胞区分においては弱いか、全く観察されなかった。コントロールと大動脈狭窄動物の間には違いは全く存在しなかった。
【0107】
(実施例IV:ニューレグリンー1のEGF様ドメインを有するポリぺプチドによる、大動脈狭窄マウスにおける心不全の阻害)
上記の実施例のデータは、rhGGF2が、ErbB2およびErbB4依存性様式でアポトーシスを抑制し、心筋細胞の肥大を刺激するとことを示す。さらに、ErbB2およびErbB4レセプターは、圧負荷誘導心不全を有するラットの左心室において下方制御される。心筋細胞のアポトーシスは大動脈狭窄マウスにおいて、初期の代償性肥大ステージ(すなわち、大動脈染色から4週間後)の間にはほとんど見られないが、初期心不全への遷移の間には一貫して見られる(すなわち、大動脈染色から7週間後)。
【0108】
これらの上記の観察は、ニューレグリン遺伝子によってコードされているEGF様ドメインを有するポリぺプチドの投与が、うっ血性心不全の進行阻害あるいは防止に対して有用であるということを示す。理論によって束縛されることを望まないが、ニューレグリン処置は心筋細胞の肥大を刺激することにより心臓のポンプ能力を増強し、そして心筋細胞のアポトーシスを抑制することにより、それ以上心臓が悪化することを部分的にまたは完全に防ぐようである。
【0109】
当業者は、当該分野で公知のうっ血性心不全のための多くのモデル動物の1つを使用することにより、うっ血性心不全に対する予防法を提供するか、またはすでに存在している心臓病の進行を遅くかもしくは停止させるために必要とされる最適な処方量を容易に決定し得る。例えば、出発点として、大動脈狭窄マウスモデルにおける血管疾患の初期および後期ステージで投与された0.3mg/kgの量のGGF2の相対的な効果は、以下のようにして評価され得る。
【0110】
群1(n=6);処理:大動脈染色後の48時間後にrhGGF2の注入(一日おきに0.3mg/kg)を開始し、そして7週間続けた。
【0111】
群2(n=6);処理:大動脈染色後、4週目の始まりにrhGGF2(0.3mg/ml)処理を開始し、7週間続けた。
【0112】
群3(n=6);コントロール:大動脈染色後の48時間後に偽物の(sham)注入を開始し、そして7週間続けた。
【0113】
群4(n=6);コントロール:大動脈染色後、4週目の始まりに偽物の注入を開始し、そして7週間続けた。
【0114】
モデル動物を7週目の終わりに屠殺する。屠殺の前に、上記の実施例Iあるいは標準プロトコールを用いて左心室の血行動態を測定した。標準プロトコールまたは実施例Iに記載される方法を用いて、インサイチュニック末端標識化(TUNEL)法、および細胞死を測定するための同様の技術による筋細胞の増殖(肥大)および筋細胞のアポトーシスを定量するために、共焦点顕微鏡を使用し得る。
【0115】
当業者は、うっ血心不全を最小にするか、予防するか、または復帰するための最適なニューレグリン用量レジメン(例えば、処方量、投与の頻度、疾患の経過の中でニューレグリン処置を開始するための最適時間など)を決定するために必要とされる実験を実施する方法かを完全に理解し、認識する。
【0116】
(実施例5:ラット心筋細胞において、NRG−1はアントラサイクリンによって誘導されるアポトーシスを阻害する)
20年以上の間、アントラサイクリン抗体(ダウノルビシンおよびドキソルビシンなど)は、癌の化学的治療の大黒柱であった。しかし、これらの薬物の短期および長期に渡る心臓毒性は、患者に送達され得る個々の用量および累積用量の両方をを制限する。
【0117】
アントラサイクリンによって誘導される心臓毒性には2つの臨床タイプがある。一度のアントラサイクリンの投与の後により生じ得る急性のタイプは、心電図変化、不整脈および心室の収縮性機能における可逆的な疾患によって特徴付けられる。慢性遅延タイプは、拡大性の心筋症およびうっ血性心不全へと進行する、心室の収縮機能における大きな不可逆性疾患によって特徴付けられる。この慢性の心臓毒性の範囲は、蓄積性のアントラサイクリン投与に対して正比例(direct proportion)する。
【0118】
本発明者らは、GGF2(NRG−1)がラット心筋細胞においてアントラサイクリンにより誘導されるアポトーシスを阻害することを見出した。図14は、IGF−1あるいはNRG−1で前処理したラット心筋細胞培養液が、1μMダウノルビシンによって誘導されるアポトーシス(TUNEL染色により示される)に対してほとんど感受性ではないことを示す。IGF−1について、この保護効果は迅速であり、そして30分のプレインキュベーションの間に達成され得た。これは、仔ウシ心筋細胞について報告されたのと同じである。対照的に、この効果は、NRG−1との24時間のプレインキュベーションを要する。
【0119】
図15Aは、IGF−1およびNRG−1の両方がAktの迅速なリン酸化を引き起こす(図15A)こと、およびこれはPI−3キナーゼインヒビターであるワートマニン(wortmannin)によって阻害される。Aktは、プロアポトーシスタンパク質であるカスパーゼ3のリン酸化および不活性化を介して、いくつかのシステムにおいて、生存シグナルを媒介する際に関与してきた。IGF−1と共に30分間プレインキュベートまたはNRG−1と共に24時間プレインキュベートすることにより、アントラサイクリンにより誘導されるカスパーゼの活性化を予防する。この効果およびIGF−1の生存効果は、ワートマニンにより完全に妨げられる(図15B)。このように、PI−3キナーゼの活性化は、筋細胞に対するIGFの細胞保護効果にとって必要不可欠である。しかし、同様の時間経過にわたるNRG−1による細胞保護の欠如は、PI−3キナーゼおよびAktの活性化が細胞保護にとって十分でないことを示す。細胞保護に必要とされる比較的長期間のNRG−1の露出期間は、アポトーシスに対するNRG−1依存的な心筋細胞の保護が新規のタンパク質合成を必要とすることを示唆する。この観察と一致して、シクロヘキサミドでの細胞の処理は、心筋細胞に対するNRG−1の抗アポトーシス効果を阻害した。
【0120】
上記の結果は、NRG−1がアントラサイクリンによって誘導されるアポトーシスを効果的に阻害することを示す。従って、NRG−1はアントラサイクリン化学治療を受けている患者において心臓毒性を制限するかまたは予防するために使用され、そしてアントラサイクリンや他の心臓毒性を有する薬物によって誘導された心臓毒性により引き起こされたうっ血性心不全を有する患者に対して使用され得る。
【0121】
当該分野において、アントラサイクリンによって誘導される心臓毒性の、種々の周知の動物モデルが存在する。アントラサイクリンによって誘導された心臓毒性を寛解するための治療組成物の相対的な効果を評価するためのマウス、ラット、ウサギ、ハムスター、イヌ、ブタおよびサルのモデルが「Amekiration of Chemotherapy Induced Cardiotoxicity」Semin.Oncol.25(4)Suppl.10,August 1998(例えば、Myers,Semin.Oncol.25:10−14,1998;HermanおよびFerrans,Semin.Oncol.25:15−21,1998;ならびにImondi,Semin.Oncol.25:22−30,1998を参照のこと)。これらのモデルは、アントラサイクリンによって誘導される心臓毒性を最小にするか、予防するかまたは復帰するめの最適のニューレグリンあるいはニューレグリン様ポリぺプチド処置レジメンを決定するために使用され得る(投与の量および頻度ならびにアントラサイクリンの投与に関するタイミングなど)。
【0122】
(実施例VI:アントラサイクリン/抗ErbB2(抗HER2)の併用療法によって誘導される心不全のニューレグリン依存性阻害)
様々なタイプの癌細胞は、ErbBレセプターの増加した発現、または増加した生物学的活性を示す。これらの膜貫通レセプターチロシンキナーゼは、ニューレグリン(へレグリンとしてもまた公知である)ファミリーに属する増殖因子に結合する。癌細胞におけるErbB2レセプター(HER2およびneuとしても知られる)の発現は、様々な組織由来の癌細胞の増殖における増加と関連している。これらの組織には胸、卵巣、前立腺、結腸、膵臓、唾液腺などが含まれるが、これらに限定されない。
【0123】
近年、ヒトErbB2(HER2)レセプターの細胞外ドメインに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体であるHERCEPTIN(登録商標)(Trastuzumab;Genentech,Inc.,South San Francisco,CA)が、インビトロおよびインビボにおいてErbB2活性を下方制御することにより、胸部の癌細胞の増殖を阻害するということが示されている。乳癌患者においてHERCEPTIN(登録商標)治療と伝統的なアントラサイクリン(ドキソルビシン)化学療法との組み合わせの安全性および有効性を評価するためのPhaseIII臨床試験は、併用治療を施された患者が、どちらか一方の治療法のみを施された患者よりも、より強い腫瘍の収縮および癌進行阻害を示すことを示した。しかし、併用治療法を施された患者では、どちらか一方の治療法のみを施された患者に比べ、増加した心臓毒性を受ける。このことは、HERCEPTIN(登録商標)のような抗ErbB2(抗HER2)抗体が、アントラサイクリンにより誘導される心臓毒性を増加することを示す。さらに、始めにドキソルビシンで処置され、後からHERCEPTIN(登録商標)を受けた患者もまた、ドキソルビシンのみで処置された患者に比べて、心臓毒性の増加した程度を示した。
【0124】
近年示された、寛解されつつあるErbB2過剰発現胸部腫瘍におけるHERCEPTIN(登録商標)/アントラサイクリンの併用療法の成功を考慮すると、同様の併用療法が、他のErbB2過剰発現腫瘍を処置するためにまもなく使用されることになるだろう。しかし、その関連する心臓毒性が減少あるいは予防され得る場合、抗ErbB2抗体/アントラサイクリンの併用療法の利点/リスクの比は、非常に改善されるだろう。
【0125】
アントラサイクリンによって誘導される心臓毒性の動物モデル(例えば、HermanおよびFerrans,Semin.Oncol.25:15−21,1998ならびにHermanら Cancer Res.58:195−197,1998を参照のこと)は、当該分野において周知である。さらに、上記のような、ニューレグリンのErbB2レセプターへの結合をブロックする抗体もまた周知である。アントラサイクリン毒性のための公知の動物モデルにおいてアントラサイクリン/抗ErbB2抗体依存的心不全を誘導することにより、当業者は、そのような心不全を最小にする、または予防するために必要なニューレグリン用量レジメンを容易に決定し得る。
【0126】
(他の実施形態)
本明細書中に列挙される全ての刊行物および特許出願は、それぞれの独立した刊行物または特許出願が参考として具体的かつ個別に援用されるように示されるような程度と同程度に本明細書中で参考として援用される。
【0127】
本発明は、それらの特定の実施形態と共に記載してきたが、さらなる改変が可能であり、本願が、一般に発明の原理に従う本発明の任意の変化、使用または適応をカバーすることを意図されるということが理解される:このような本開示からの逸脱が公知になるかまたは本発明が属する分野において慣行になること、および本明細書中上文に記載されそして添付のクレームの範囲に従う本質的な特色に適用され得ることを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6D】
【図6H】
【図7】
【図8C】
【図8D】
【図9D】
【図9E】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6D】
【図6H】
【図7】
【図8C】
【図8D】
【図9D】
【図9E】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【公開番号】特開2011−157402(P2011−157402A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−116364(P2011−116364)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【分割の表示】特願2000−613391(P2000−613391)の分割
【原出願日】平成12年4月20日(2000.4.20)
【出願人】(501411422)セネス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (1)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【出願人】(305049506)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116364(P2011−116364)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【分割の表示】特願2000−613391(P2000−613391)の分割
【原出願日】平成12年4月20日(2000.4.20)
【出願人】(501411422)セネス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (1)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【出願人】(305049506)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター (8)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]