説明

がいし

【課題】金具部を防食処理することによって寿命延伸を図ることができるがいしを提供する。
【解決手段】溶融亜鉛めっき層7は、がいしの金具部3A,3Bの腐食を防止する金属めっき層である。腐食防止層8は、金具部3A,3Bの溶融亜鉛めっき層7の表面に塗布されて、この溶融亜鉛めっき層7の表面に密着しこの溶融亜鉛めっき層7の腐食を防止する塗膜である。腐食防止層8は、錆層に容易に浸透して錆層を固着化する錆転換型の防食塗料を塗布して形成されるプライマ層である。耐候性向上層9は、腐食防止層8の表面に塗布されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層8の耐候性を向上させる塗膜である。耐候性向上層9は、塗膜表面の硬度(機械的強度)を向上させて傷つき防止効果を図るトップコート層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金具部が防食処理されているがいしに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のがいしは、表面に釉薬層が形成されている磁器製の本体部と、この本体部の円盤状の笠部の内側に接合されるピン状の金具部と、本体部の上向きに突出する円筒状の頭部の外側に接合されるキャップ状の金具部などを備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来のがいしは、金具部の表面に溶融亜鉛めっきなどによって金属めっき層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-134972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のがいしは、金具部分の材質が亜鉛めっきを施された鋼や鉄で形成されているため、塩害地区での使用によって経年とともに金具部の腐食が進み、この金具部が損傷して寿命が著しく短くなる。
【0005】
この発明の課題は、金具部を防食処理することによって寿命延伸を図ることができるがいしを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図3に示すように、金具部(3A,3B)が防食処理されているがいしであって、前記金具部の溶融亜鉛めっき層(7)の表面に塗布されて、この溶融亜鉛めっき層の表面に密着しこの亜鉛めっき層の表面の腐食を防止する腐食防止層(8)と、前記腐食防止層の表面に塗布されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層の耐候性を向上させる耐候性向上層(9)とを備えるがいし(1)である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のがいしにおいて、前記耐候性向上層は、導電性金属フレーク含有塗料を塗布して形成されていることを特徴とするがいしである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のがいしにおいて、前記腐食防止層は、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料又はアクリル樹脂塗料を塗布して形成されていることを特徴とするがいしである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のがいしにおいて、図5に示すように、前記金具部(3A)とがいし本体部(2)とを接合するセメント(4)の露出面(4a)を被覆し、これらの間からセメントが流出するのを防止する流出防止層(10)を備えることを特徴とするがいしである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、金具部を防食処理することによって寿命延伸を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の第1実施形態に係るがいしの一部を破断して示す正面図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係るがいしの一部を破断して示す側面図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係るがいしの金具部の一部を拡大して模式的に示す部分断面図である。
【図4】この発明の第2実施形態に係るがいしの一部を破断して示す正面図である。
【図5】図4のV-V線で切断した状態を示す断面図である。
【図6】この発明の実施例及び比較例に係るがいしの課電暴露試験前後の絶縁抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図7】この発明の実施例及び比較例に係るがいしの課電暴露試験の状況と課電暴露試験後の状態とを示す外観写真であり、(A)は課電暴露試験の状況を示す写真であり、(B)は実施例(対策品)に係るがいしの外観写真であり、(C)は比較例(未対策品)に係るがいしの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1及び図2に示すがいし(碍子)1は、電気導体を絶縁して支持する部材である。がいし1は、支持物によって架線を支持するときにこの架線とこの支持物との間を電気的に絶縁しており、電気鉄道などにおいて絶縁のために加圧部分と接地間に使用される絶縁体である。がいし1は、例えば、電気車に電力を供給する電車線又はき電用変電所からこの電車線に電力を供給するき電線などの電線を電柱、ビーム又は腕金などに支持したり、き電線と電車線とを電気的に区分したり、電車線のトロリ線の風圧による動揺を抑制する振止金具又は曲線区間でトロリ線を外側に引っ張る曲線引装置などの付属物を電柱、ビーム又は腕金などに支持したりするときに使用される。図1及び図2に示すがいし1は、電車線を支持物によって支持又は引留めるときや電車線を絶縁区分するときに使用される絶縁用の電車線路用がいしの一種である懸垂がいしである。がいし1は、図1及び図2に示すように、本体部(磁器部)2と、金具部(キャップ金具)3Aと、金具部(ピン金具)3Bと、図1に示すセメント4と、図1及び図2に示す連結部材5A,5Bなどを備えている。がいし1は、金具部3A,3Bが防食処理されている耐食性がいしであり、電路設備として使用される場合には、直流電圧では1500V、交流電圧では20〜25kVの高電圧下で使用される。
【0013】
本体部2は、がいし1の主要部を構成する部分である。本体部2は、例えば、硬質な磁器製の絶縁体の表面に釉薬を施して表面が平滑に形成されている。本体部2は、例えば、陶石、長石、珪石又は粘土などの原料を粉砕して粉末にし水を加えて所定の形状に成型し、乾燥後に釉薬を塗布して約1300℃で焼成し焼結させて製造される。本体部2は、図1に示すように、絶縁部の漏洩距離を長くするとともに雨水の流入を防ぐひだ部2aと、図1及び図2に示すようにこのひだ部2aを内面に有する円盤状の笠部2bと、図1に示すようにこの笠部2bの中央部から上方に突出した略円筒状の頭部2cなどを備えている。
【0014】
金具部3Aは、支持物と本体部2とを連結する部分であり、本体部2の頭部2cの外周面を被覆するように、この本体部2と一体に組み立てられている。金具部3Bは、架線と本体部2とを連結する部分であり、本体部2の頭部2cの内周面に上端部を挿入するように、この本体部2と一体に組み立てられている。金具部3Aは、例えば、可鍛鋳鉄又は球状黒鉛鋳鉄などであり、金具部3Bは一般構造用圧延鋼材などである。金具部3A,3Bは、連結部3a,3bと貫通孔3c,3dとを備えている。連結部3aは、金具部3Aと支持物とを連結する部分であり、連結部3bは金具部3Bと電車線路とを連結する部分である。連結部3aは、金具部3Aの上端部から突出する一対の板状部であり、連結部3bは金具部3Aの下端部から突出する一対の板状部である。貫通孔3c,3dは、締結ボルトが貫通する部分である。貫通孔3cは、一対の連結部3a間に取付金具6Aを挿入した状態でコッタボルト5aを挿入可能なように、連結部3aに形成されている。貫通孔3dは、一対の連結部3b間に取付金具6Bを挿入した状態でコッタボルト5bを挿入可能なように、連結部3bに形成されている。金具部3A,3Bは、図3に示すように、溶融亜鉛めっき層7と、腐食防止層8と、耐候性向上層9などを備えている。
【0015】
図1に示すセメント4は、本体部2と金具部3A,3Bとを接合する部材である。セメント4は、金具部3Aの内面と本体部2の頭部2cの外面とを接合するとともに、金具部3Bの上端部の外面と本体部2の頭部2cの内面とを接合するポルトランドセメントなどである。セメント4は、骨材と水とともに練り混ぜられて充填されており、硬化後に本体部2と金具部3A,3Bとを一体に固着させる。
【0016】
図1に示す連結部材5Aは、取付金具6Aとがいし1の連結部3aとを着脱自在に連結する部材であり、図2に示す連結部材5Bは取付金具6Bとがいし1の連結部3bとを着脱自在に連結する部材である。連結部材5A,5Bは、図1及び図2に示すように、連結部3a,3bの貫通孔3c,3dに挿入されるコッタボルト5a,5bと、このコッタボルト5a,5bの雄ねじ部に装着されるナット5c,5dと、コッタボルト5a,5bの雄ねじ部の貫通孔に差し込まれてナット5c,5dの脱落を防止する割りピン5e,5fなどを備えている。
【0017】
取付金具6A,6Bは、がいし1を取り付けるための部材である。取付金具6A,6Bは、支持物又は電車線路などに着脱自在に取り付けられており、連結部材5A,5Bのコッタボルト5a,5bが貫通する貫通孔を備えている。例えば、取付金具6Aはがいし1を支持する支持物に取り付けられており、取付金具6Bは電車線路の一端部に取り付けられている。
【0018】
図3に示す溶融亜鉛めっき層7は、金具部3A,3Bの腐食を防止する金属めっき層である。溶融亜鉛めっき層7は、例えば、金具部3A,3Bの耐食性を向上させるために、溶融亜鉛浴中に素材金属である金具部3A,3Bを直接浸漬して、この金具部3A,3Bの表面に亜鉛被覆層を形成する溶融亜鉛めっき法によって形成されている。溶融亜鉛めっき層7は、例えば、付着量が500g/m2以上になるように、金具部3A,3Bの全面に形成されており、貫通孔3c,3dの内周面にも形成されている。
【0019】
腐食防止層8は、金具部3A,3Bの溶融亜鉛めっき層7の表面に塗布されて、この溶融亜鉛めっき層7の表面に密着しこの溶融亜鉛めっき層7の腐食を防止する塗膜である。腐食防止層8は、錆層に容易に浸透して錆層を固着化する錆転換型の防食塗料を塗布して形成されるプライマ層である。腐食防止層8は、例えば、高分子キレート剤作用によって化学的に安定な無機/有機結合体の防食皮膜を形成し、同時に赤錆層を非晶質錆に変換する防食タイプの錆止め塗料(錆面防食プライマ)を塗布して形成される。腐食防止層8は、金属素材である溶融亜鉛めっき層7の表面に溶剤型一液性のエポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料又はアクリル樹脂塗料などを塗布して形成されている。腐食防止層8は、錆層に浸透し溶融亜鉛めっき層7と密着する。腐食防止層8は、耐食性と絶縁性の両性能の保持から30μm以上の膜厚が確保されていることが望ましく、膜厚が60μmを超えると塗膜の可撓性が上がり、上塗り塗膜表面硬度との相関性が必要であるため、膜厚が30〜60μmの範囲内になるように塗布されて形成されている。腐食防止層12は、溶剤一液型変性エポキシ樹脂塗料の希釈率が15%を下回ると当該材料のレべリング性が下がるため、めっき層表面への馴染み性能及び錆層への浸透性が必須条件であり、希釈率が40%を超えると要求膜厚減になり、性能発揮のための膜厚確保が困難になるため、希釈量が15〜40%の範囲内になるように塗布され形成されている。
【0020】
耐候性向上層9は、腐食防止層8の表面に塗布されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層8の耐候性を向上させる塗膜である。耐候性向上層9は、塗膜表面の硬度(機械的強度)を向上させて傷つき防止効果を図るトップコート層である。耐候性向上層9は、例えば、腐食性物質を遮断し長期的な耐食性及び耐薬品性を向上させ、有害な紫外線による劣化を防止し塗膜の化学的な安定性も向上させる金属フレーク(金属顔料)を含有したトップコート塗料を塗布することによって形成される。耐候性向上層9は、本体がアクリルポリオール樹脂を主成分とし、硬化剤がイソシアネート樹脂を主成分とし、導電性金属フレーク9aを含有するポリウレタン樹脂塗料を塗布して形成されており、このような導電性金属フレーク含有塗料としてはステンレス、アルミニウム又は亜鉛などの導電性金属フレーク9aを含有する。耐候性向上層9は、図3に示すように、乾燥時には樹脂の層内に導電性金属フレーク9aが数層にオーバーラップしている状態になる。耐候性向上層9は、耐候性と導電性及び強度の各性能を保持するため、30μm以上の膜厚が確保されていることが望ましい。導電性金属フレーク9aは、厚みが0.3〜0.5μm、縦横の大きさが20μm×30μm〜40μm×50μmの極薄片であり、アスペクト比(直径:厚み)が大きいものが好ましく、層数(厚さ)が7〜12枚(30〜50μm)であることが好ましい。
【0021】
次に、この発明の第1実施形態に係るがいしの製造方法について説明する。
溶剤型一液性のエポキシ樹脂塗料をシンナーによって希釈率15〜40%で希釈し、金具部3A,3Bの溶融亜鉛めっき層7の表面に希釈後の溶剤型一液性のエポキシ樹脂塗料を刷毛塗り又はスプレー塗装によって塗布し、常温で16時間〜7日間程度放置し乾燥させて腐食防止層8を形成する。このとき、溶融亜鉛めっき層7の表面に錆層が存在するときには、この錆層を塗装前に除去するとともに、溶融亜鉛めっき層7の表面に油又はグリースなどが付着しているときには、これらをシンナーによって塗装前に除去する。次に、導電性金属フレーク含有塗料をシンナーによって希釈し、金具部3A,3Bの腐食防止層8の表面に希釈後の導電性金属フレーク含有塗料を刷毛塗り又はスプレー塗装によって塗布し、常温で16時間〜7日間程度放置し乾燥させて耐候性向上層9を形成する。次に、金具部3Aをセメント4によって本体部2の頭部2cの外周面に接合するとともに、金具部3Bをセメント4によって本体部2の頭部2cの内周面に接合して、金具部3A,3Bが耐食処理されたがいし1が製造される。
【0022】
この発明の第1実施形態に係るがいしには、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、金具部3A,3Bの溶融亜鉛めっき層7の表面に塗布されて、この溶融亜鉛めっき層7の表面に密着しこの溶融亜鉛めっき層7の表面の腐食を腐食防止層8が防止し、この腐食防止層8の表面に塗布されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層8の耐候性を耐候性向上層9が向上させる。このため、がいし1の金具部3A,3Bが防食処理されて、溶融亜鉛めっき層7及び母材である鋼や鉄の腐食の進行を遅らせることができる。その結果、がいし1を塩害地区で使用するときに、このがいし1の寿命を延ばすことができ、メンテナンスコストを大幅に削減することができる。
【0023】
(2) この第1実施形態は、導電性金属フレーク含有塗料を塗布して耐候性向上層9が形成されている。このため、導電性金属フレーク9aによる腐食性物質の遮断効果によって塗膜の変質を防ぐとともに、導電性金属フレーク9aによって有害な紫外線による劣化を防ぐことができる。その結果、耐食性、耐薬品性及び耐汚染性を向上させることができ、初期の塗膜性能を長期間にわたり維持することができる。また、耐候性向上層9の表面に低電圧下では絶縁性があるが高電圧下では導電性を付与することができる。例えば、低電圧下だけではなく高電圧下においても絶縁性を付与する塗料を塗布して耐候性向上層9を形成した場合には、この耐候性向上層9の一部がはく離するとこの部分にアーク電流が流れて溶融亜鉛めっき層7が損傷し、この損傷箇所から腐食が進行する可能性がある。この第1実施形態では、導電性金属フレーク9aによって耐候性向上層9に高電圧下で導電性を付与することができるため、この耐候性向上層9にアーク電流が流れるのを防ぎ、金具部3A,3Bの腐食を防止することができる。
【0024】
(3) この第1実施形態は、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料又はアクリル樹脂塗料を塗布して腐食防止層8が形成されている。このため、新亜鉛メッキの場合、簡単な素地調整後塗布することで防食効果を発揮し、赤錆層の場合錆層に浸透して錆を固定化し安定性のある物質に変換することができる。その結果、塗膜が大気を遮断して溶融亜鉛めっき層7を保護することができる。また、腐食防止層8が耐アルカリ性及び耐酸性に優れ、可撓性を有し、溶融亜鉛めっき層7との密着性に優れ、耐水性及び耐塩水噴霧性にも優れており、取扱いが簡単でスプレーや刷毛で容易に塗装することができる。
【0025】
(第2実施形態)
以下では、図1〜図3に示す部分と同一の部分については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図4に示すがいし1は、本体部2の頭部2cと金具部3Aとの間の間隙部にこれらを接合するセメント4が僅かに露出している。図5に示す流出防止層10は、金具部3Aと本体部2とを接合するセメント4の露出面4aを被覆し、これらの間からセメントが流出するのを防止する塗膜である。流出防止層10は、風雨などによってセメント4の露出面4aが流れ落ちるのを防ぐために、本体部2の頭部2cと金具部3Aとをセメント4によって接合した後に、この露出面4aに塗料などを吹き付けてこの露出面4aを被覆し定着させる。流出防止層10は、例えば、図3に示す腐食防止層8と同様の錆止め塗料をセメント4の露出面4aの全面に耐候性向上層9と重なるように塗布し、この錆止め塗料の塗膜の表面に耐候性向上層9と同様の金属フレーク含有トップコート塗料を塗布して形成される。この第2実施形態では、第1実施形態の効果に加えて、がいし1の本体部2の笠部2b側(キャップ金具側)のセメント4が水分によって流れ落ち、がいし1の絶縁性能が低下するのを防ぐことができる。
【実施例】
【0026】
次に、この発明の実施例及び比較例について説明する。
電車線路用の懸垂がいしのキャップ金具及びピン金具を防食処理して、実施例及び比較例に係るがいしを製造し、各がいしについて暴露試験を実施して絶縁性能を評価した。
(実施例)
実施例は、電車線路用の懸垂がいしの溶融亜鉛めっき層の表面に特殊変性エポキシ樹脂塗料を塗布し、この特殊変性エポキシ樹脂塗料の塗膜表面にステンレスフレーク入り塗料を塗布した対策品のがいしである。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表1は、この発明の実施例に係るがいしに使用した特殊変性エポキシ樹脂塗料の成分内容及び含有量である。表2は、この発明の実施例に係るがいしに使用した特殊変性エポキシ樹脂塗料のJIS K 5600に規定する試験条件で測定した塗膜性能である。電車線路用の180mm懸垂がいし(日本碍子株式会社製、形式180C)のキャップ金具の表面及びピン金具の全面を素地調整し、表1,2に示す特殊変性エポキシ樹脂塗料(日本パーカライジング株式会社製 商品名トリック1000)をシンナーで希釈率15〜40%に希釈して、このキャップ金具の表面及びピン金具の全面に、膜厚が20μm以上になるようにスプレーで塗布し、常温で16時間〜7日間放置して乾燥させた。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
表3は、この発明の実施例に係るがいしに使用したステンレスフレーク入り塗料の成分及び含有量である。表4は、この発明の実施例に係るがいしに使用したステンレスフレーク入り塗料のJIS K 5600に規定する試験条件で測定した塗膜性能である。表3に示す本体/硬化剤を4/1の割合で配合したステンレスフレーク入り塗料をシンナーで希釈して、表1,2に示す特殊変性エポキシ樹脂塗料の乾燥後の塗膜の表面に、膜厚が20μm以上になるようにスプレーで塗布し、常温で16時間〜7日間放置して乾燥させ、実施例に係るがいしを製造した。
【0033】
次に、ステンレスフレーク入り塗料による塗膜の抵抗率を測定した。表3に示す本体/硬化剤を4/1の割合で配合したステンレスフレーク入り塗料をシンナーで希釈して高絶縁体のタイルの表面に、特殊変性エポキシ樹脂塗料とステンレスフレーク入り塗料の塗膜の合計が厚さ0.26〜0.28mmとなるように、幅10mm×測定長さ50mmで3本のラインで塗布して塗装皮膜を形成した。1000Vの絶縁抵抗計を用いてこの塗装皮膜の抵抗を測定し、抵抗率(固有抵抗)を計算した。その結果、抵抗率が0.1〜0.35(0.1,0.3,0.35)(MΩ)であり、抵抗率が5.2〜19.6(5.2,16.8,19.6)(Ωm)であり、測定長さ10mmで測定した場合にはいずれも0(MΩ)であった。このため、ステンレスフレーク入り塗料による塗膜が絶縁体よりも僅かに抵抗が小さいことが確認された。
【0034】
(比較例)
比較例は、実施例と同じ懸垂がいしの溶融亜鉛めっき層の表面を防食処理していない現用品(未対策品)のがいしである。
【0035】
(課電暴露試験の結果)
財団法人鉄道総合技術研究所の勝木塩害試験場において実施例及び比較例に対して課電曝露試験を実施した。勝木塩害試験場は、新潟県村上市勝木(がつぎ)に位置し、道路を隔てて日本海に面しており、潮風に含まれる塩分が絶縁物に付着して絶縁性能が低下するいわゆる塩害を受けやすい環境にあり、絶縁物の耐塩害性能の評価及び検証に適している。課電曝露試験は、実施例及び比較例にDC3000Vの電圧をかけた状態で13ヵ月間にわたり屋外で暴露し、暴露開始後のがいしの腐食状態を観察した。
【0036】
【表5】

【0037】
表5は、この発明の実施例及び比較例に係るがいしの課電曝露試験による絶縁性能の評価結果であり、課電暴露試験前後のがいしのキャップ金具とピン金具との間の絶縁抵抗値(MΩ)を暴露期間(ヶ月)経過後に絶縁抵抗計によって測定した測定結果ある。ここで、表5に示す実施例の4000表記は、絶縁抵抗計の測定結果が∞MΩであり、実施例の0.01表記は絶縁抵抗計の測定結果が0 MΩであり、比較例の4000表記は絶縁抵抗計の測定結果が∞である。表5に示す「散水なし」は、実施例及び比較例に散水をせずに課電暴露試験を実施したときの評価結果であり、「散水あり」は実施例及び比較例に散水をして課電暴露試験を実施したときの絶縁抵抗値(MΩ)の測定結果である。表5に示す「散水なし」の場合には、実施例及び比較例のいずれについても絶縁抵抗値に変化が殆ど認められなかった。表5に示す「散水あり」の場合には、実施例については13ヶ月経過後の課電暴露試験後の絶縁抵抗値が0.2(MΩ)であり絶縁性能が良好であり、外観に腐食が確認されなかった。比較例は、13ヶ月経過後の課電暴露試験後の絶縁抵抗値が0.01(MΩ)であり絶縁抵抗値が実施例に比べて低く、絶縁性能が低下していることが確認された。
【0038】
図6に示す縦軸は、課電暴露試験前後のがいしのキャップ金具とピン金具との間の絶縁抵抗値(MΩ)であり、横軸は暴露期間(ヶ月)である。図6及び図7に示す比較例は、暴露試験を開始してから13ヶ月経過後の表面を観察すると、キャップ金具及びピン金具のいずれも腐食して腐食生成物が雨水などに溶け出し、磁器部の表面が変色し磁器部の損傷が進んでいる。一方、図6及び図7に示す実施例は、比較例に比べて暴露試験後の絶縁抵抗値が高くなっており、絶縁性能を維持していることが分かる。また、実施例は、図7に示すように、暴露試験を開始してから13ヶ月経過後の表面を観察すると、キャップ金具の内側を防錆処理しなかったため磁器部の表面にわずかに腐食生成物が流れているが、キャップ金具及びピン金具のいずれも全体として良好な状態である。
【0039】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、電車線設備などの電路設備で使用されるがいし1を例に挙げて説明したが、電路設備以外の電力用又は電信用のがいしについてもこの発明を適用することができる。例えば、電車線路、き電線路、これらに附属する機器、電線及び防護設備などに使用するがいしや、高圧送電線とこの支持物との間を絶縁するがいしなどについてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、がいし1が懸垂がいしである場合を例に挙げて説明したが、可動ブラケット、振止装置又は曲線引装置などを支持する長幹がいし、機器を支持する支持がいしなどについてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、がいし1が磁器がいしである場合を例に挙げて説明したが、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)をシリコーンゴムで被覆したポリマーがいしや、強化ガラス化処理がされたガラスがいしなどについてもこの発明を適用することができる。
【0040】
(2) この実施形態では、がいし1の金具部3A,3Bの表面に溶融亜鉛めっき層7が形成されている場合を例に挙げて説明したが、溶融亜鉛めっき層7が形成されておらず金具部が溶融亜鉛−アルミニウム合金製のがいしについてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、がいし1の金具部3A,3Bの全面に腐食防止層8及び耐候性向上層9を形成して防食処理する場合を例に挙げて説明したが、金具部3A,3Bの片面に腐食防止層8及び耐候性向上層9を形成して防食処理したり、がいし1の本体部2と接合する部分以外の部分のみに腐食防止層8及び耐候性向上層9を形成して防食処理したりすることもできる。さらに、この第2実施形態では、本体部2の頭部2cと金具部3Aとを接合するセメント4の露出面4aを流出防止層10によって被覆する場合を例に挙げて説明したが、本体部2の頭部2cと金具部3Bとを接合するセメント4の露出面を流出防止層によって被覆することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 がいし
2 本体部(がいし本体部)
2a ひだ部
2b 笠部
2c 頭部
3A,3B 金具部
3a,3b 連結部
3c,3d 貫通孔
4 セメント
5A,5B 連結部材
5a,5b コッタボルト
5c,5d ナット
5e,5f 割りピン
6A,6B 取付金具
7 溶融亜鉛めっき層
8 腐食防止層
9 耐候性向上層
9a 導電性金属フレーク
10 流出防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金具部が防食処理されているがいしであって、
前記金具部の溶融亜鉛めっき層の表面に塗布されて、この溶融亜鉛めっき層の表面に密着しこの亜鉛めっき層の表面の腐食を防止する腐食防止層と、
前記腐食防止層の表面に塗布されて、高電圧下で導電性を有するとともにこの腐食防止層の耐候性を向上させる耐候性向上層と、
を備えるがいし。
【請求項2】
請求項1に記載のがいしにおいて、
前記耐候性向上層は、導電性金属フレーク含有塗料を塗布して形成されていること、
を特徴とするがいし。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のがいしにおいて、
前記腐食防止層は、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料又はアクリル樹脂塗料を塗布して形成されていること、
を特徴とするがいし。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のがいしにおいて、
前記金具部とがいし本体部とを接合するセメントの露出面を被覆し、これらの間からセメントが流出するのを防止する流出防止層を備えること、
を特徴とするがいし。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−54943(P2013−54943A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192791(P2011−192791)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】