説明

さのう入り飲料の製造方法及びさのう入り飲料

【課題】さのうの色合いを損なうことなく着色されたさのう入り飲料を製造できる、さのう入り飲料の製造方法、及びさのうの色合いを損なうことなく着色されたさのう入り飲料を提供すること。
【解決手段】結晶状の油溶性色素粒子を飲料溶液に含有させる工程を有するさのう入り飲料の製造方法によれば、さのう入り飲料に含有される色素が結晶状の油溶性色素粒子であるので、さのうが色素に着色されてさのうの色合いを損なうことなく、着色されたさのう入り飲料を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はさのう入り飲料の製造方法及びさのう入り飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特に清涼飲料水の分野において、かんきつ類のさのうを含有した商品が広く知られている。このようなさのうを含有する清涼飲料水は、さのうの独特の食感やさのうを含有させることにより向上する果汁感のため、消費者にも広く親しまれている。
【0003】
さのうを使用した飲料としては、例えば、特許文献1には、長径1mmから3mmの範囲に細断されたさのうの割合が35%以上であり、それより大きい長径のさのうの割合が10%以下であることを特徴とする細断さのう、及びこれを用いたさのう含有飲料が開示されている。また、特許文献2には、含まれているさのうが、さのう柄を備えた略々原形に近い張りのある形状のものから実質的になることを特徴とするさのう入りジュース缶詰が開示されている。
【0004】
これらのさのう入り飲料は、主に柑橘系果実の果汁又は柑橘系香料を含むものであり、柑橘系の清涼飲料水の果汁感を高めることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−206349号公報
【特許文献2】特開昭56−048864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、近年、レモンさのう、オレンジさのう、グレープフルーツさのう等と様々なさのうをさのう入り飲料に使用することが検討され、果汁についても、柑橘系果実の果汁のみならず、カシス果汁、ブドウ果汁、モモ果汁等、様々な果汁をさのう入り飲料に使用することが検討されている。これらのさのう入り飲料では、果汁の調製に用いられる果実の色を再現するために、赤、オレンジ、紫等の着色料の使用が検討されることもある。例えば、さのう入り飲料を赤色に着色する場合は、赤キャベツ色素、紫いも色素、紫とうもろこし色素等、アントシアン系の水溶性色素の使用が検討されることもある。
【0007】
しかしながら、例えば、アントシアン系の赤色色素等、水溶性の色素をさのう入り飲料の着色に用いる場合、飲料自体は赤色等、食欲をそそるきれいな色に着色できるが、さのうは茶色等、痛んだ果肉のような色合いに着色されることが多い。このため、さのうの色合いを損なうことなく着色されたさのう入り飲料を製造できる、さのう入り飲料の製造方法が求められていた。
【0008】
従って、本発明は、さのうの色合いを損なうことなく着色されたさのう入り飲料を製造できる、さのう入り飲料の製造方法、及びさのうの色合いを損なうことなく着色されたさのう入り飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った。その結果、結晶状の油溶性色素粒子を飲料溶液に含有させる工程を有するさのう入り飲料の製造方法によれば、さのうの色合いを損なうことなくさのう入り飲料を着色できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
具体的には、本発明は、結晶状の油溶性色素粒子を飲料溶液に含有させる工程を有するさのう入り飲料の製造方法を提供する。
また、本発明は、結晶状の油溶性色素粒子を含有するさのう入り飲料を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のさのう入り飲料の製造方法によれば、さのう入り飲料に含有される色素が結晶状の油溶性色素粒子であるので、さのうが色素に着色されてさのうの色合いを損なうことなく、着色されたさのう入り飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例2において、紫いも色素の色素溶液及びこれに浸漬したさのうを示す写真である。
【図2】実施例2において、赤キャベツ色素の色素溶液及びこれに浸漬したさのうを示す写真である。
【図3】実施例2において、リコピンの分散液及びこれに浸漬したさのうを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
<さのう入り飲料の製造方法>
本発明のさのう入り飲料の製造方法は、結晶状の油溶性色素粒子を飲料溶液に含有させる工程(以下、「色素添加工程」とも称する)を有する。
【0015】
[色素添加工程]
色素添加工程においては、結晶状の油溶性色素粒子を飲料溶液に含有させる。ここで、飲料溶液に含有させる色素としては、水に溶解しない油溶性色素であれば特に限定することなく用いることができるが、そのような色素の例としては、リコピン;及びβ−カロチン、カプサンチン、アスタキサンチン等のカロチノイド系色素を挙げることができる。これらの中でも、結晶状リコピン粒子及び結晶状β−カロチン粒子を用いることが好ましく、結晶状リコピン粒子を用いることが更に好ましい。
【0016】
なお、β−カロチンは、通常清涼飲料水やアルコール飲料の着色にも使用されることがあるが、そのような着色に用いられるβ−カロチンは、油性の溶媒に溶解したものであり、ここでいう「結晶状の油溶性色素粒子」には含まれない。
【0017】
リコピンは、一般にはトマトに含まれる赤色色素であるリコピンを精製したもので、乾燥状態では赤いリコピンの微細な結晶として存在していて、水に可溶ではないが、乳化剤を用いることにより微細な粒子として水に分散させることができる。リコピンは結晶状の粒子として分散されているので、さのう入り飲料に添加された場合でもさのうを着色することが少ない。
【0018】
上記の結晶状の油溶性色素粒子は、疎水性溶媒を含まない固体の状態にあるものを微細な結晶粒子に粉砕した結晶状の粒子であり、この結晶状の粒子は、疎水性溶媒に溶解されることなく直接飲料用溶液に添加されるか、又は水を主体とする分散媒に添加されて飲料溶液に添加される。飲料溶液に結晶状の油溶性色素粒子を添加する場合、飲料溶液に結晶状の油溶性色素粒子を均一に分散させ、結晶状の油溶性色素粒子の沈殿を防止するため、乳化剤を添加することが好ましい。使用できる乳化剤としては、従来飲料分野に用いられている公知の乳化剤を使用することができ、特に限定されるものではないが、アラビアガム、ガティガム、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0019】
ここで、例えば、結晶状のリコピン粒子を飲料溶液の着色に用いる場合、例えば、トマトから抽出したリコピンを乾燥させて結晶状の粒子としたものを、リコピンの含有量が0.1質量%から5質量%となるように、プロピレングリコール及び水を含む分散媒に添加し、更にアラビアガム等の乳化剤を添加して分散媒中に結晶状リコピン粒子を分散させた製剤を用いることができる。リコピンは水に不溶であるため、結晶状リコピン粒子を分散させた分散液中では、結晶状リコピン粒子が結晶のままで分散されており、これが飲料溶液に添加されても分散状態が維持される。
【0020】
色素添加工程において添加される結晶状の油溶性色素粒子の添加量は、さのう入り飲料の全質量を基準とし、結晶の質量換算で、0.1質量ppm以上20質量ppm以下が好ましく、0.3質量ppm以上5質量ppm以下が更に好ましい。結晶状の油溶性色素粒子の添加量を上記範囲内のものとすることにより、結晶状の油溶性色素粒子の分散性を良好に保ちつつ、さのう入り飲料を好適に着色することができる。
【0021】
色素添加工程においては、結晶状の油溶性色素粒子に加えて、少量の水溶性色素を添加してもよい。水溶性色素を添加することにより、結晶状の油溶性色素粒子の添加により示されるさのう入り飲料の色相を、結晶状の油溶性色素粒子による色相以外の色相に変更することができ、更に水溶性色素の添加量が少量であるので、さのう自体のへ着色も限定的にすることができる。
【0022】
色素添加工程においてさのう入り飲料に添加できる水溶性色素としては、特に限定されるものではないが、カラメル色素、赤キャベツ色素、紫とうもろこし色素、紫いも色素、クチナシ色素、及びぶどう色素からなる群から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。これらの中でも、カラメル色素、及びぶどう色素が好ましく、カラメル色素が特に好ましい。なお、例えば、結晶状のリコピン粒子とカラメル色素を併用する場合、結晶状のリコピン粒子はさのう自体をほとんど着色しないので、実質的にカラメル色素のみがさのうを着色することなり、オレンジ色や黄色のさのう入り飲料を調製することができる。
【0023】
色素添加工程においてさのう入り飲料に添加される水溶性色素の添加量は、特に限定されるものではないが、10質量ppm以上1000質量ppm以下が好ましく、30質量ppm以上300質量ppm以下が更に好ましい。水溶性色素の添加量を上記範囲内のものとすることにより、さのう入り飲料とさのう自体の色相を好適に調整することができる。
【0024】
(さのう)
さのう入り飲料に使用できるさのうとしては、特に限定されるものではなく、従来公知のかんきつ類のさのうを使用することができる。具体的には、オレンジ、温州みかん、レモン、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、ユズ、タンジェリン、タンジェロ、及びカラマンシー等のさのうを挙げることができる。これらのかんきつ類に由来するさのうは、単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
【0025】
さのう入り飲料に添加されるさのうの添加量は、適宜調整することができるが、さのう入り飲料の全質量に対して、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることが更に好ましい。一般に、さのう入り飲料においてさのうの添加量が多いほど、さのうによる果実感は向上する傾向にあるため、さのう入り飲料において、高い果実感が求められる場合には、さのうの添加量を高めることが好ましい。
【0026】
(甘味料)
本発明のさのう入り飲料は、甘味料を含有することが好ましい。甘味料としては、特に限定されるものではなく、従来公知の天然甘味料及び人工甘味料を使用することができる。具体的には、天然甘味料として、ショ糖、ブトウ糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖、オリゴ糖等を挙げることができ、人工甘味料として、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファームK、甘草エキス、サッカリン、モネリン、ソーマチン等の高甘味度甘味料を挙げることができる。これらの甘味料は、単独で用いても、併用して用いてもよい。
【0027】
さのう入り飲料に添加される甘味料が天然甘味料である場合、その添加量は、5g/L以上200g/L以下であることが好ましく、50g/L以上150g/L以下であることが更に好ましい。また、さのう入り飲料に添加される甘味料が高甘味度甘味料である場合、その添加量は、0.03g/L以上1.0g/L以下であることが好ましく、0.1g/L以上0.5g/L以下であることが更に好ましい。天然甘味料及び高甘味度甘味料の添加量を上記の範囲内のものとすることにより、さのう入り飲料の甘味を好適に調整することができる。
【0028】
なお、近年の健康志向の高まりに対応するためにも、甘味料は高甘味度甘味料を主体として用いることが好ましい。この場合、さのう入り飲料のエネルギー含量は、20kcal/100ml以下であることが好ましく、18kcal/100ml以下であることがより好ましい。
【0029】
(香料)
本発明のさのう入り飲料に添加する香料としては、特に限定されるものではないが、さのう入り飲料の色相にあわせて、かんきつ類の風味を有する香料の他、さのうを有さない果実の風味を有する香料を添加することができる。さのうを有さない果実としては、特に限定されるものではないが、具体的には、リンゴ、ブドウ、イチゴ、キイチゴ、マンゴー、パッションフルーツ、パイナップル、メロン、カシス等を挙げることができる。これらの果実の風味を有する香料は、人工的に合成された香料を用いてもよいし、天然香料を用いてもよい。また、上記の果実の果汁をさのう入り飲料に添加することにより、香りを付与してもよい。かんきつ類以外の果実の風味を有する香料を用いてさのう入り飲料を調製した場合、香料が有する果実の風味により、さのう入り飲料を、当該果実の果汁感及び果肉感に富んだものとすることができる。
【0030】
なお、香料を用いる場合、その添加量は10質量ppm以上4000質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以上2000質量ppm以下であることが更に好ましい。
【0031】
(アルコール原料)
本発明のさのう入り飲料は、アルコール飲料であってもよい。この場合、さのう入り飲料が含有するアルコール原料としては、特定のものに限定されるものではないが、醸造用アルコール、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ類、リキュール類、焼酎、清酒、ワイン、及びビール等を挙げることができる。これらのアルコール類は、単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。これらのアルコール原料の中でも、醸造用アルコール、焼酎、及びウォッカを用いることが好ましい。
【0032】
さのう入り飲料がアルコールを含有する場合、さのう入り飲料のアルコール濃度は、好ましくは30容量%以下であり、より好ましくは10容量%以下であり、さらにより好ましくは2容量%以上9容量%以下である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
<実施例1;結晶状のリコピン粒子を用いたさのう入りブドウチューハイ>
水にアルコール35mL、55%果糖ブドウ糖液糖20g、アセスルファームK0.1g、スクラロース0.02g、ブドウ果汁10g、クエン酸1.5g、ブドウ香料1mL、「リコピンベース」(三栄源社製、リコピン分散物、1%リコピン含有)0.1gを加えてよくかき混ぜ、水で総量を1Lとした。この溶液に、ガス付け機で炭酸ガスを2.3L溶解させた。
【0035】
続いて、350mL缶を用意し、オレンジさのうを4g充填した後、上記溶液を充填し、缶蓋を巻き閉めて密閉した。その後、65℃で15分殺菌して試作品とした。この試作品は、37℃で1ヶ月間保存した後も、さのうへのリコピンの赤色の着色は見られなかった。
【0036】
<比較例1;アントシアン系色素を用いたさのう入りブドウチューハイ>
「リコピンベース」に代えて、「サンレッドNo.4248」(登録商標、三栄源社製、紫いも色素(アントシアン系色素)製剤、紫いも色素含有70%)を0.1g加えた点以外は、実施例1と同様にして試作品を作製した。
【0037】
この試作品を、37℃で1ヶ月間保存したところ、さのうへの紫いも色素の赤色の着色が見られ、外観価値は損なわれていた。
【0038】
なお、色素製剤は紫いも色素だけではなく、赤キャベツ色素(「サンレッドRCFU」(登録商標)、アントシアン系色素製剤、赤キャベツ色素含有70%)を用いても、同様にさのうへの明確な着色が見られ、外観価値が損なわれた。また、さのうは、レモン由来、グレープフルーツ由来のものを用いても、アントシアン系色素を用いた場合には、さのうへの明確な着色がみられ、外観価値が損なわれたが、リコピン分散物を用いると、さのうへの着色は少なく、外観価値は損なわれなかった。
【0039】
<実施例2>
色価をそろえた3種類の色素液(「サンレッドNo.4248」、「サンレッドRCFU」、及び「リコピンベース」;前二者は登録商標)にグレープフルーツさのうを6時間浸漬し、さのうへの着色を目視した。それぞれの溶液のさのうの添加量は5%であり、リコピンベース添加溶液のリコピン含量は、薄い溶液は0.4ppmであり濃い溶液は4ppmである。結果を図1(「サンレッドNo.4248」)、2(「サンレッドRCFU」)、及び3(「リコピンベース」)に示す。各図において、上段は、使用した色素溶液を図面左から右に向かって順に色価が大きくなるように配列したものを示し、下段は、一番左に色素液に浸漬していないさのうを、他のさのうは、図面左から右に向かって順に色価が大きい上段の色素溶液に6時間浸漬したものである。各図において、上段の一番左の溶液、その右隣の溶液の色価がそれぞれ互いに同一である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶状の油溶性色素粒子を飲料溶液に含有させる工程を有するさのう入り飲料の製造方法。
【請求項2】
結晶状の油溶性色素粒子が結晶状リコピン粒子及び/又は結晶状カロチノイド系色素粒子である請求項1に記載のさのう入り飲料の製造方法。
【請求項3】
前記結晶状カロチノイド系色素粒子が結晶状β−カロチン粒子、結晶状カプサンチン粒子、及び結晶状アスタキサチン粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項2記載のさのう入り飲料の製造方法。
【請求項4】
さのう入り飲料中の結晶状の油溶性色素粒子の添加量が0.1質量ppm以上20質量ppm以下である請求項1から3のいずれかに記載のさのう入り飲料の製造方法。
【請求項5】
乳化剤を用いて、結晶状の油溶性色素粒子を飲料溶液に分散させる請求項1から4のいずれかに記載のさのう入り飲料の製造方法。
【請求項6】
更に、カラメル色素、赤キャベツ色素、紫とうもろこし色素、紫いも色素、クチナシ色素、及びぶどう色素からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性色素を添加する請求項1から5のいずれか記載のさのう入り飲料の製造方法。
【請求項7】
さのう入り飲料中の水溶性色素の添加量が10質量ppm以上1000質量ppm以下である請求項6に記載のさのう入り飲料の製造方法。
【請求項8】
結晶状の油溶性色素粒子を含有するさのう入り飲料。
【請求項9】
さのう入り飲料中の結晶状の油溶性色素粒子の含有量が0.1質量ppm以上20質量ppm以下である請求項8に記載のさのう入り飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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