説明

しなやかさ測定方法及び貼付剤

【課題】貼付剤に要求されるしなやかさを適切に評価できるしなやかさ測定方法等を提供すること。
【解決手段】しなやかさ測定方法は、貼付剤20のしなやかさを、表面11が略扁平な載置台10を用いて測定するものであり、貼付剤20の延出部24が外方向へと延出するように、貼付剤20を外縁部111に接着させる準備手順と、表面11の高さから延出部24が垂れ下がる距離を測定する測定手順と、を備える。この測定手順は、延出部24が垂れ下がる距離D、Dを、膏体層22側及び支持体21側の各々について順次測定する手順である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しなやかさを測定する方法に関し、より詳しくは、貼付剤のしなやかさを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テープ剤、プラスター剤、パップ剤、経皮吸収型製剤等の貼付剤は、患者の皮膚上に貼付されることで、含有される薬剤等の有効成分を経皮的吸収させる。
【0003】
このような貼付剤においては、次のような問題がある。即ち、貼付剤のしなやかさが不充分であると、皮膚表面の凹凸や皮膚の動きに対する貼付剤の追従性が悪化し、貼付剤の一部又は全部が皮膚表面から剥離しやすくなる。このため、貼付剤を長時間に亘って使用することが困難となるだけでなく、貼付剤と皮膚との接触面積が減少することにより、有効成分の送達量が低下する。
【0004】
例えば、特許文献1には、支持体にプラスチック材質を用い、膏体層にゴム系粘着剤を用いた貼付剤(経皮投与用医薬製剤)が開示されているが、この貼付剤は支持体及び/又は膏体層が硬すぎるため、貼付剤のしなやかさが不充分である。このため、皮膚上に貼付された後、皮膚等の動きに追従できず、貼付剤の四隅等から剥離する場合があった。
【0005】
そこで、追従性を向上するために、貼付剤にはしなやかさが要求されており、このような要求に応えるものとして、例えば、以下の構成を備える貼付剤が開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
即ち、この貼付剤は、支持体と、この支持体上に積層された膏体層とを備える。そして、支持体は、発泡体層と、この発泡体層上に配置された補強材とを有し、この補強材上にはアルミニウム蒸着層が設けられている。
以上の貼付剤によれば、支持体にアルミニウム蒸着層を設けたので、着用者の皮膚からの輻射熱がアルミニウム蒸着層に遮られる。このため、外界への放熱が抑制されるため、保温性を向上できる。このようにして保温性が向上されるので、一定の保温性を確保するために必要な発泡体層を薄層化できる。よって、貼付剤が嵩張らず、しなやかさを向上できる。
【特許文献1】特公平7−25669号公報
【特許文献2】特開平5−310560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、追従性を向上できるような貼付剤を開発するためには、貼付剤のしなやかさを適切に評価する必要がある。しかしながら、従来、貼付剤のしなやかさを評価する試験方法は知られていない。
【0008】
特に、全身作用が期待される比較的小型の経皮吸収型製剤に関しては、そのしなやかさを評価する試み自体がなされておらず、これらのしなやかさを評価する試験方法が存在しなかった。
【0009】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、貼付剤に要求されるしなやかさを適切に評価できるしなやかさ測定方法、及び、しなやかさに優れる貼付剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、貼付剤の屈曲性を、貼付剤の表裏両方向について測定することで、貼付剤に要求されるしなやかさを適切に評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 支持体及びこの支持体上に積層された膏体層を備える貼付剤のしなやかさを、表面が略扁平な載置台を用いて測定するしなやかさ測定方法であって、
前記載置台の表面の外縁部に、前記貼付剤の一部が外方向へと延出するように、前記貼付剤を接着させる準備手順と、
前記載置台の表面の高さから前記貼付剤の一部が垂れ下がる距離を測定する測定手順と、を備え、
前記測定手順は、前記貼付剤の一部が垂れ下がる距離を、前記膏体層側及び前記支持体側の各々について順次測定する手順であるしなやかさ測定方法。
【0012】
(1)の発明によれば、まず、準備手順において、載置台に接着された貼付剤の一部が載置台の外方向へと延出される。すると、貼付剤の延出された部分は、重力方向へのしなやかさに依存した程度に、載置台の表面の高さから重力方向へと垂れ下がる。
従って、測定手順において、貼付剤の延出された部分が垂れ下がる距離を測定することで、この距離に基づいて貼付剤の重力方向へのしなやかさが正確に把握される。
【0013】
しかし、貼付剤が貼付される皮膚表面の凹凸や皮膚の動きは極めて複雑であり、これらに追従するためには、一方向のしなやかさに優れるだけでは不充分である。更に、自然状態で膏体層側に湾曲(つまり、支持体側に凸)している貼付剤も存在し、一方向のみの測定では、これらの貼付剤をしなやかさに優れた貼付剤と誤判断するおそれがある。このように、一方向のしなやかさを把握するだけでは、貼付剤に要求されるしなやかさを適切に評価したことには至らない。
そこで、(1)の発明によれば、測定手順において、貼付剤が垂れ下がる距離を膏体層側及び支持体側の各々について測定する構成としたので、貼付剤のしなやかさが表裏両方向について正確に把握される。従って、貼付剤に要求されるしなやかさを適切に評価できる。
【0014】
(2) 前記準備手順は、前記膏体層を前記載置台の表面に当接させることで、前記貼付剤を前記外縁部に接着させる手順であり、
前記測定手順は、前記載置台を、その表面が略反重力方向に向くように設置することで前記膏体層側についての前記距離を測定し、略重力方向に向くように設置することで前記支持体側についての前記距離を測定する手順である(1)記載のしなやかさ測定方法。
【0015】
準備手順において載置台に貼付剤を接着させる方式としては、例えば、粘着力のある膏体層を載置台の表面に当接させる方式、支持体又は載置台の表面に粘着剤等で粘着力を付与した後、支持体を載置台の表面に当接させる方式が挙げられる。
ところで、貼付剤に要求されるしなやかさを適切に測定するためには、使用状態に近似した条件で測定を行う必要がある。そこで、(2)の発明によれば、膏体層を載置台の表面に当接させる構成としたので、皮膚表面に膏体層が当接される使用状態に近似した条件で測定が行われるため、しなやかさをより適切に測定できる。また、粘着力等が実質的にない支持体が外側に配置されるため、測定時の操作中に、貼付剤が操作者にくっつく等により、操作が妨害されることを抑制できる。
【0016】
次に、測定手順において、載置台をひっくり返すだけで、貼付剤のしなやかさを表裏両方向について順次測定できる。よって、貼付剤に要求されるしなやかさを容易に評価できる。
【0017】
(3) 前記準備手順は、前記外縁部から延出する前記貼付剤の方向を変動させる方向変動手順を有する(1)又は(2)記載のしなやかさ測定方法。
【0018】
(3)の発明によれば、方向変動手順において、外縁部から外方向へと延出する貼付剤の向き(例えば、長手方向、短手方向)が変動する。これにより、しなやかさが貼付剤の多様な方向について把握されるので、貼付剤に要求されるしなやかさをより適切に評価できる。
【0019】
(4) 前記準備手順は、前記外縁部から延出する前記貼付剤の一部の面積を変動させる面積変動手順を有する(1)から(3)いずれか記載のしなやかさ測定方法。
【0020】
(4)の発明によれば、面積変動手順において、外縁部から外方向へと延出する貼付剤の面積が変動する。これにより、より多様な条件におけるしなやかさが把握されるので、貼付剤に要求されるしなやかさをより適切に評価できる。
【0021】
(5) 支持体と、この支持体上に積層された膏体層と、を備える貼付剤であって、
(A)載置台の略扁平な表面の外縁部に、前記貼付剤が外方向へと22mm延出するように、前記貼付剤を接着させる手順と、
(B)延出する前記貼付剤の先端が垂れ下がる距離を、前記膏体層側及び前記支持体側の各々について順次測定する手順と、
を経て測定される前記距離が、前記膏体層側について13mm以上であり、前記支持体側について4mm以上である貼付剤。
【0022】
膏体層側への屈曲性が小さすぎると、貼付剤が膏体層側へと伸張される場合、身体に充分に追従できないとともに、使用時に貼付剤が外縁側から剥離しやすくなる。また、支持体側への屈曲性が小さすぎると、貼付剤が支持体側へと伸張される場合、身体に充分に追従できないとともに、使用時に貼付剤の中央部が皮膚表面から浮き上がり、離間しやすくなる。
【0023】
そこで、(5)の発明によれば、所定条件下で貼付剤の先端が重力方向に垂れ下がる距離を、膏体層側について13mm以上、支持体側について4mm以上としたので、あらゆる部位に貼付された場合においても、身体に充分に追従できるとともに、皮膚表面からの剥離を抑制できる。
【0024】
全身作用が期待される貼付剤(経皮吸収型製剤)は、比較的平坦な皮膚上(例えば、身体の胸部、背部、上腕部)に貼付されるのが一般的である。しかし、皮膚表面は、一見すると略平面であっても、身体の動きでねじれや伸縮等、複雑に変形するため、貼付剤の追従性が重要となる。よって、膏体層側へは充分なしなやかさが必要となり、支持体側へもある程度のしなやかさが必要となる。従って、特に全身作用が期待される経皮吸収型貼付剤においては、上記条件を満たすしなやかな貼付剤は、優れた貼付剤と評価される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、貼付剤の延出された部分が垂れ下がる距離を測定することで、この距離に基づいて貼付剤の重力方向へのしなやかさが正確に把握される。
更に、貼付剤が垂れ下がる距離を膏体層側及び支持体側の各々について測定する構成としたので、貼付剤のしなやかさが表裏両方向について正確に把握される。従って、貼付剤に要求されるしなやかさを適切に評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
<しなやかさ測定方法>
まず、本発明のしなやかさ測定方法で使用される器具について説明する。
【0028】
[載置台]
本発明に係るしなやかさ測定方法で使用される載置台10は、本実施形態においては、地面上に水平に設置された固定台15の上に配置されている。載置台10は、少なくとも後述の貼付剤20の接着部25の表面積よりも大きい略扁平な表面11を有し、この表面11が水平となるように設置されている。なお、本実施形態では、表面11の方向を水平方向としたが、統一された条件で測定が行われる限りにおいて、特に限定されない。
【0029】
載置台10及び固定台15の正面12、17には、それぞれ、目盛り121、171が設けられている。これら目盛り121、171は、それぞれ、表面11、16の高さからの距離を示すものである。なお、図1及び図2(A)〜(C)では、正面12、17が同一平面となるように表されているが、これには特に限定されず、貼付剤20の形状や寸法等に応じて、測定しやすいように適宜配置されてよい。
【0030】
[貼付剤]
本発明に係るしなやかさ測定方法で測定できる貼付剤20は、支持体21と、この支持体21の上に積層された膏体層22と、を備える。本実施形態では、貼付剤20は、膏体層22の上に配置された剥離ライナ23を更に備え、この剥離ライナ23で膏体層22が被覆されている。このような貼付剤としては、非水系貼付剤(例えば、テープ剤、プラスター剤、経皮吸収型製剤)、水系貼付剤(例えば、パップ剤)等、あらゆる貼付剤が例示できる。
【0031】
なお、図2では、分かり易く説明するために、実際よりも貼付剤20に厚みをもたせて表現されている。
【0032】
本発明のしなやかさ測定方法は、準備手順と、測定手順と、を少なくとも備え、以上の器具を使用して行われるものである。以下、詳細について説明する。
【0033】
〔準備手順〕
準備手順は、載置台10の表面11の外縁部111に、貼付剤20の一部が外方向へと延出するように、貼付剤20を接着させる手順である。
【0034】
図1は、準備手順を説明するための斜視図であり、図2は、図1を横方向から見た右側面図である。これらの図面を参照して、より具体的に説明する。
【0035】
本実施形態では、図1及び図2(A)に示されるように、まず、貼付剤20から剥離ライナ23を一部剥がして、膏体層22を露出させ、この膏体層22を外縁部111に当接させる。当接作業は、貼付剤20の接着部25は外縁部111に接着されるとともに、貼付剤20の一部である延出部24は外方向(図1における矢印W方向)に延出するように行われる。続いて、図2(B)に示されるように、剥離ライナ23を全部剥がすことで、貼付剤20を実際の使用状態に近似させる。このとき、貼付剤20は、膏体層22側が重力方向に向き、支持体21側が反重力方向に向くように配置されることになる。
【0036】
(方向変動手順)
準備手順は、外縁部から延出する前記貼付剤の方向を変動させる方向変動手順を有することが好ましい。
【0037】
図4は、方向変動手順を説明するための平面図である。方向変動手順において、ある段階では、貼付剤20の長手方向が外縁部111から外方向Wに延出し[図4(A)]、別の段階では、貼付剤20の短手方向が外縁部111から外方向Wに延出する[図4(B)]ように、貼付剤20が外縁部111に貼付される。各々の段階に伴って、後述の測定手順を順次行うことで、貼付剤20のしなやかさをその長手方向及び短手方向について測定できる。これにより、後述の測定手順において、しなやかさが貼付剤20の多様な方向について把握されるので、貼付剤に要求されるしなやかさをより適切に評価できる。
【0038】
なお、方向変動手順においては、二つの方向の間を、連続的に変動させてもよいし、再貼付等により間欠的に変動させてもよい。
【0039】
(面積変動手順)
準備手順は、外縁部から延出する貼付剤の一部の面積を変動させる面積変動手順を有することが好ましい。
【0040】
図5は、面積変動手順を説明するための平面図である。図5(A)〜(C)に示されるように、面積変動手順において、接着部25の面積を減少させることにより、延出部24の面積が増加する。このようにして延出部24の面積が異なる種々の条件を設定し、後述の測定手順でしなやかさを測定することで、貼付剤に要求されるしなやかさをより適切に評価できる。なお、変動距離や貼付剤接着位置を分かり易くするため、載置台10及び固定台15の表面11、16には、それぞれ、目盛りや補助線等が設けられていてもよい。
【0041】
〔測定手順〕
測定手順は、載置台10の表面の高さから貼付剤20の延出部24が垂れ下がる距離D、Dを測定する手順である。即ち、測定手順において、貼付剤20の延出部24が垂れ下がる距離は、膏体層22側及び支持体21側の各々について順次測定される。
【0042】
図3は、図1の正面図であり、より詳しくは、図3(A)は図2(C)に対応し、図3(B)は図2(D)に対応する。これらの図面を参照して、より具体的に説明する。
図2(C)に示されるように、準備手順を経た貼付剤20の延出部24は、重力を受けて、膏体層22側に垂れ下がっている。そこで、図2(C)及び図3(A)に示されるように、まず、目盛り121を読むことで、延出部24が膏体層22側に垂れ下がる距離Dを測定する。
続いて、載置台10を上下方向にひっくり返し、再び表面11を水平方向に保持する。すると、延出部24は、重力を受けて、支持体21側に垂れ下がることになる。そこで、図2(D)及び図3(B)に示されるように、目盛り171を読み、延出部24が支持体21側に垂れ下がる距離Dを測定する。本実施形態では、貼付剤20の厚みを考慮せず、目盛り171から得られる距離を距離Dとみなしている。しかし、パップ剤等のように貼付剤20の厚みが大きく、無視できない場合には、貼付剤20の厚みを更に考慮して、距離Dをより正確に算出してもよい。
【0043】
<貼付剤>
本発明は、以下のような貼付剤も提供する。
即ち、本発明の貼付剤は、支持体と、この支持体上に積層された膏体層と、を備える。更に、本発明の貼付剤は、前述した準備手順において、延出部24が外方向Wへと22mm延出するように貼付剤20を接着させ、測定手順において、延出部24の先端が、膏体層22側には13mm以上垂れ下がり、支持体21側には4mm以上垂れ下がる条件を満たすものである。
【0044】
本発明の貼付剤は、例えば、以下のようにして製造されるが、以上の条件を満たす限りにおいて、その形状、寸法、組成等は、特に限定されない。
【0045】
本発明の膏体層としては、比較的柔らかい性質を示すものが選択され、これにより、しなやかさに優れる貼付剤が構成される。ここで、膏体層として硬い性質を示すものを採用すると、貼付剤のしなやかさが得られないため、膏体層に用いられる粘着剤や添加剤(可塑剤等)の種類及び組成が重要となる。以下、特に限定されないが、これらの例を示す。
【0046】
本発明の膏体層に配合される粘着剤は、同じ分子中にアセトアセチル基を有する(メタ)アクリル系モノマーと、アセトアセチル基を有さない(メタ)アクリル系モノマー及び共重合可能なビニルモノマーから選択される1種又は2種以上のモノマーと、を非水性溶媒中で共重合させることで製造される。
【0047】
アセトアセチル基を有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシエチルアクリレート、3−アセトアセトキシプロピルメタクリレート、3−アセトアセトキシプロピルアクリレート、4−アセトアセトキシブチルメタクリレート、4−アセトアセトキシブチルアクリレートなどのアセトアセトキシアルキルメタクリレート又はアセトアセトキシアルキルアクリレート類が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できるが、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート又は2−アセトアセトキシエチルアクリレートが好ましい。
【0048】
アセトアセチル基を有さない他の(メタ)アクリル系モノマーとしては、分子中に共重合可能な二重結合を有する(メタ)アクリル系モノマーであればよく、1種又は2種以上の(メタ)アクリル系モノマーを使用できる。具体的には、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ジアセトンアクリルアミド、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサエチレングリコールジアクリレート、メチルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート及びアクリル酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられ、2−エチルヘキシルアクリレート、ジアセトンアクリルアミド、ブチルアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる1種又は2種以上のアクリル系モノマーが好ましい。
【0049】
アセトアセチル基を有するモノマーと共重合する他のビニル化合物としては、分子内に共重合可能なビニル基を有するものであればよく、例えばN−ビニル−2−ピロリドン、酢酸ビニルなどのビニル誘導体が挙げられる。
【0050】
粘着剤に用いられる共重合体において、アセトアセチル基を有するモノマーの含量は、共重合体の総質量に対して、1質量%〜40質量%であってよく、5質量%〜40質量%であることが好ましい。含量が少なすぎると、油状物質の保持能力及び凝集力が低下し、一方、大きすぎると、網目構造が密になりすぎるために、可塑剤などの保持能力が低下する。
【0051】
粘着剤の溶媒としては、本発明の貼付剤の製造工程中の加熱乾燥工程で揮散する有機溶媒であればよい。具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類などの有機溶媒が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上の溶媒を使用できる。
【0052】
粘着剤の製造手順は、周知な方法に従えばよいが、有機溶剤中にモノマー類を溶解させラジカル開始剤にて重合する方法が好ましい。
【0053】
あらかじめ所定の有機溶剤に全量のモノマー類を溶解し、窒素置換後、加熱により重合してもよいし、モノマー類を分割して逐次溶剤中に投入して重合を行ってもよい。この際、有機溶剤中のモノマー濃度は、10質量%〜80質量%が好ましい。この濃度が低すぎると高重合度が得られにくく、一方で高すぎると、重合中に生ずる重合熱の制御が難しくなる。重合に使用される有機溶剤は、前述した有機溶剤の群より選ばれる1種又は2種以上の溶剤であってよい。更に、重合中に同種あるいは別種の溶剤を逐次投入してもよい。
【0054】
ラジカル開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤などから選ばれる化合物又はそれらの混合物が使用できる。その使用量は、単量体100質量部に対して、0.001質量部〜2.00質量部が好ましく、0.005質量部〜0.1質量部がより好ましい。
【0055】
過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキシド、tertブチルハイドロパーオキシド、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1’−ジ−tertブチル−パーオキシ−2−メチルシクロヘキサンなどが挙げられる。また、アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩などが挙げられる。
【0056】
重合温度は、ラジカル開始剤が適度のラジカルを発生する温度であればよく、一般的には50℃〜120℃が好ましい。
【0057】
膏体の残存モノマーの量は、皮膚刺激を低下させ且つ薬剤安定性を向上させるため、できる限り少ないことが望ましく、具体的には粘着剤固形分に対して20000ppm以下が好ましい。残存モノマーを低減するため、例えば、重合が完結した後にラジカル開始剤を追加したり、加圧状態でより高温での処理などを施したりすることができる。
【0058】
粘着剤の共重合体の分子量は、大きすぎると粘着性が低下し、小さくすぎると凝集力が低下する。このため、共重合体の分子量は、質量平均分子量で数万〜数百万であればよい。
【0059】
本発明貼付剤の膏体層には、可塑剤が配合されることが好ましい。膏体層に配合される可塑剤としては、一般的に高沸点を有する油状物が使用でき、具体的には、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、オレイン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸エチル、パルミチン酸オクチル、ミリスチン酸イソトリデシル、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどのような脂肪酸エステル誘導体;ヘキシルデカノール、オクチルドデカノールのような高級アルコール誘導体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのようなポリアルキレングリコール類;オリーブ油、ヒマシ油、などのような油脂類が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上のものを混合して使用できるが、なかでもミリスチン酸イソプロピル、又はパルミチン酸イソプロピルが、貼付剤中での薬物の拡散性の促進効果と、薬物の皮膚透過の促進効果の点で好ましく、膏体層のしなやかさを示す点でも好ましい。可塑剤の配合量は、膏体層の総質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、10質量%〜40質量%であることがより好ましい。可塑剤の配合量が大きすぎると、油状物が膏体層中に保持できずに漏出する、いわゆるブリーディングが起こるので好ましくない。
【0060】
膏体層には、経皮吸収性の薬剤及び可塑剤が含まれ、必要に応じて、粘着力を向上させるために、更に粘着付与剤が配合されていてもよい。粘着付与剤としては、例えば、脂環式飽和炭化水素樹脂やロジンエステル誘導体が好適に用いられる。脂環式飽和炭化水素としては「アルコンP−100(商品名)」(荒川化学工業社製)などが挙げられ、ロジンエステル誘導体としては「エステルガムH(商品名)」(荒川化学工業社製)などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用されてよい。
【0061】
貼付剤に配合される薬物としては、特に限定されず、その治療目的に応じて任意に選択でき、例えばステロイドホルモン、非ステロイド鎮痛抗炎症剤、精神安定剤、抗高血圧薬、虚血性心疾患治療薬、抗ヒスタミン薬、抗喘息薬、抗パーキンソン薬、脳循環改善薬、制吐剤、抗うつ薬、抗痴呆薬、シェーグレン症候群治療薬、抗不整脈薬、抗凝固薬、抗痛風薬、抗真菌薬、麻薬性鎮痛薬、ベータ遮断薬、β1作動薬、β2作動薬、抗腫瘍薬、利尿薬、抗血栓薬、ヒスタミンH1レセプター拮抗薬、ヒスタミンH2レセプター拮抗薬、抗アレルギー薬、セロトニンレセプター拮抗薬、抗高コレステロール薬及び禁煙補助剤などの種々の薬物が挙げられる。ただし、これらの薬物は、皮膚面上に滞留するものではなく、皮下若しくは血中まで浸透して局所作用若しくは全身作用を発揮する経皮吸収可能な薬物であることが必要である。これらの薬物は、必要に応じて、2種以上の薬物を併用されてもよく、その配合量は、薬物の種類、薬効、及び投与目的に応じて、適宜設定されてよい。
【0062】
膏体層には、必要に応じて薬物の溶解剤、経皮吸収促進剤、その他の賦形剤などが配合されていてもよい。
【0063】
薬物の溶解剤は、薬剤を溶解し且つ皮膚刺激の少ない溶媒であればよい。具体的には、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類、ヘキサノール、オクタノールなどの中級アルコール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの多価アルコール類、脂肪酸エステル類、ポリビニルアルコール、N−メチルピロリドン、クロタミトンなどが挙げられ、これらの溶媒は、単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
【0064】
薬物の経皮吸収促進剤としては、貼付剤に一般的に使用できるものであれば特に限定されず、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピルなどの脂肪酸エステル類、カプリル酸モノグリセリド、カプリル酸トリグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステルなどの脂肪酸多価アルコールエステル類、l−メントール、ハッカ油、リモネンなどのテルペン類などが挙げられる。
【0065】
賦形剤としては、例えば、無水ケイ酸、軽質無水ケイ酸などのケイ素化合物、エチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子、ジブチルヒドロキシトルエンなどの抗酸化剤、カオリン、酸化チタンなどの粉末が挙げられる。その他、香料、着色料なども、薬理学的に許容できる範囲内で添加できる。
【0066】
貼付剤の支持体としては、特に限定されず、使用目的に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの伸縮性又は非伸縮性の織布、不織布、布又はニット状の布類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニルなどのプラスチック製フィルム、あるいはポリウレタンなどの発泡性フィルムが挙げられ、これらは単独で又は積層された状態で使用できる。このうち、本発明の貼付剤の支持体としては、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。また、支持体の厚さは25μm以下が好ましく、これより厚いとしなやかさを示し難くなる。
【0067】
貼付剤の剥離ライナは、使用前では膏体層を保護し、使用時に剥離されるものである。剥離ライナとしては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリウレタン、金属箔の薄いフィルム、又はこれらの素材が組み合わされた積層構造のフィルムや、膏体層に接着する表面がシリコン処理されたフィルム、あるいはフィルム表面にアルミニウムなどの金属が蒸着されたフィルムが使用できる。更に、剥離ライナには、剥離をより容易にするために、連続又は非連続の直線状又は曲線状の切れ込みが設けられていてもよい。
【0068】
本発明の貼付剤は、例えば、以下のような手順で製造される。
まず、薬物、可塑剤、必要に応じて薬剤の溶解剤又は経皮吸収促進剤、及び粘着剤を含む液を、剥離ライナの表面に塗布する。次に、40〜150℃の温度で加熱乾燥して膏体層を形成した後、膏体層の剥離ライナを貼着した面とは反対側の表面に、支持体を積層する。続いて、積層体を適当な大きさに切断することで、貼付剤が製造される。
なお、支持体として、水の非透過性の支持体を用いる場合には、支持体上に薬剤、可塑剤等を含む粘着剤液を塗布し、加熱乾燥後に、剥離ライナを積層してもよい。また、加熱乾燥する温度は、溶媒類の揮散する温度以上であればよい。この温度が低すぎると溶媒類の揮散が不完全となる一方で、高すぎる(例えば、150℃以上)と、薬物、可塑剤、経皮吸収促進剤に悪影響が及ぼされることが懸念される。
【実施例】
【0069】
以下、実施例に基づいて、本発明の貼付剤及び貼付剤のしなやかさ測定方法を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0070】
<実施例>
まず、2−メチルヘキシルアクリレート158g、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート35.1g、メチルメタクリレート76.2g、ジアセトンアクリルアミド81.3gを均一に溶解し、モノマー溶液を調製した。このモノマー液100gを、ジムロー冷却器、温度計、窒素ガス吹き込み管、及び撹拌翼を備える容積2Lの4つ口フラスコに仕込み、更に溶剤として酢酸エチル350gを添加した。続いて、100mL/分の流速で窒素ガスを吹き込みながら、75℃まで昇温させ、この状態を30分間維持した。その後、開始剤としての過酸化ベンゾイル0.35gを酢酸エチル5gに溶解し、外温を85℃に設定した。溶剤の還流を確認した後、残りのモノマー液を3時間に亘って連続的に投入した。投入時の1時間後、酢酸エチル500gを3時間に亘って連続的に投入した。投入後12時間撹拌を続けた後、過酸化ベンゾイル0.5gを追加触媒として投入し、12時間熱処理した後、冷却することで、膏体を作製した。
【0071】
次に、作製した膏体35.69gを量りとり、更に、ミリスチン酸イソプロピル3.0g及び薬剤成分としてのツロブテロール1.5gを添加し、1時間撹拌した。撹拌物を、乾燥後の膏体質量が20mg/10cmとなるように、コーティング試験機「LTE−S」(Wener Mathis社製)を用いて、支持体としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(32.0mm×32.0mmの略正方形状、厚さ20μm)上に塗布した。乾燥させて形成された膏体層を、シリコン処理面が対向するようにして、ポリエステル製の剥離ライナで被覆することで、実施例の貼付剤を作製した。
【0072】
<比較例1〜7>
既に販売されている各種市販品a〜gを得、これらを比較例1〜7とした。なお、比較例1〜7は、いずれも32.0mm×32.0mmの略正方形状であった。
【0073】
<しなやかさの測定>
前述したようにして作製した実施例及び比較例の貼付剤について、以下の手順に従って、しなやかさを測定した。
まず、剥離ライナを一部剥がして膏体層を露出させ、貼付剤の辺方向に10mmの部分を、実施形態で説明した載置台10の表面11の外縁部111に貼付した(準備手順)。このとき、辺方向に22mmの部分(延出部)が、外縁部111から外方向に延出することになる。重力を受けて延出部が膏体層側に垂れ下がった距離Dを測定した(測定手順)。
その後、貼付剤の向きを90°回転させ、先程と同様に、貼付剤の辺方向に10mmの部分を、実施形態で説明した載置台10の表面11の外縁部111に貼付した(方向変動手順)。このとき、当然、辺方向に22mmの部分(延出部)が、外縁部111から外方向に延出することになる。ここで、重力を受けて延出部が膏体層側に垂れ下がった距離D1’を測定した(測定手順)。
続いて、貼付剤が貼付されたままの状態で載置台10を上下にひっくり返し、延出部が支持体側に垂れ下がった距離Dを測定した。この結果を表1に示す。
【0074】
<追従性の評価>
実施例及び比較例の貼付剤を使用者の上腕部にそれぞれ貼付し、12及び24時間後における剥離の程度を、以下の基準で評価した。この結果を表1に示す。
〇:貼付剤が剥離していない
△:貼付剤がほとんど剥離していない(わずかに剥離が認められる)
×:貼付剤の一部若しくは大部分が剥離している
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示されるように、垂れ下がる距離が膏体層側に13mm以上であり且つ支持体側に4mm以上である実施例の貼付剤は、優れた追従性を発揮していた。一方、以上の二条件のうち少なくとも一方は満たさない比較例1〜7の貼付剤は、不良な追従性を示していた。
【0077】
以上の結果から、本発明のしなやかさ測定方法で測定されるしなやかさは、貼付剤に要求されるしなやかさを適切に反映するものであり、所定のしなやかさを備える本発明の貼付剤は、優れた追従性を発揮することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】しなやかさ測定方法を説明するための斜視図である。
【図2】図1の右側面図である。
【図3】図1の正面図である。
【図4】方向変動手順を説明するための平面図である。
【図5】面積変動手順を説明するための平面図である。
【符号の説明】
【0079】
10 載置台
11 表面
12 正面
15 固定台
16 表面
17 正面
20 貼付剤
21 支持体
22 膏体層
23 剥離ライナ
24 延出部
25 接着部
111 外縁部
121 目盛り
171 目盛り
W 外方向
、D1’、D 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体及びこの支持体上に積層された膏体層を備える貼付剤のしなやかさを、表面が略扁平な載置台を用いて測定するしなやかさ測定方法であって、
前記載置台の表面の外縁部に、前記貼付剤の一部が外方向へと延出するように、前記貼付剤を接着させる準備手順と、
前記載置台の表面の高さから前記貼付剤の一部が垂れ下がる距離を測定する測定手順と、を備え、
前記測定手順は、前記貼付剤の一部が垂れ下がる距離を、前記膏体層側及び前記支持体側の各々について順次測定する手順であるしなやかさ測定方法。
【請求項2】
前記準備手順は、前記膏体層を前記載置台の表面に当接させることで、前記貼付剤を前記外縁部に接着させる手順であり、
前記測定手順は、前記載置台を、その表面が略反重力方向に向くように設置することで前記膏体層側についての前記距離を測定し、略重力方向に向くように設置することで前記支持体側についての前記距離を測定する手順である請求項1記載のしなやかさ測定方法。
【請求項3】
前記準備手順は、前記外縁部から延出する前記貼付剤の方向を変動させる方向変動手順を有する請求項1又は2記載のしなやかさ測定方法。
【請求項4】
前記準備手順は、前記外縁部から延出する前記貼付剤の一部の面積を変動させる面積変動手順を有する請求項1から3いずれか記載のしなやかさ測定方法。
【請求項5】
支持体と、この支持体上に積層された膏体層と、を備える貼付剤であって、
(A)載置台の略扁平な表面の外縁部に、前記貼付剤が外方向へと22mm延出するように、前記貼付剤を接着させる手順と、
(B)延出する前記貼付剤の先端が垂れ下がる距離を、前記膏体層側及び前記支持体側の各々について順次測定する手順と、
を経て測定される前記距離が、前記膏体層側について13mm以上であり、前記支持体側について4mm以上である貼付剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−39618(P2008−39618A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215081(P2006−215081)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000174622)埼玉第一製薬株式会社 (31)
【Fターム(参考)】