説明

せん断補強構造、せん断補強方法、補強部材

【課題】ねじ鉄筋と、ねじ鉄筋に螺合するナットとからなる補強部材を埋設することで、コンクリート部材をせん断補強する方法において、ねじ鉄筋に生じる歪がわずかな場合でも、ナットが設計通りの支圧力を発現するようにする。
【解決手段】補強部材30において、中央側のナット32は、回転しなくなるまで中央側に向かって締め付けられることにより、ねじ鉄筋31の軸方向の移動が拘束されており、また、中央側のナット32と端部側のナット33との間には、収縮されたばね部材33が介装されており、端部側のナット33は、このばね部材33により端部側へ向かって付勢されることにより、端部側へ向かう移動が拘束されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材に補強部材を埋設することにより、このコンクリート部材をせん断補強する方法及び構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、カルバートの外壁など面外方向にせん断力が作用するコンクリート部材のせん断補強を行う方法として、コンクリート部材内にせん断力の作用方向と交わるようにせん断補強筋を埋設する方法が用いられている。この方法によれば、コンクリート部材に作用するせん断力をせん断補強筋に負担させることで、せん断補強を行うことができる。
【0003】
このようなせん断補強筋を埋設する方法において、コンクリート部材にせん断力が作用すると、せん断補強筋には引張力が作用するため、せん断補強筋が引張力に抵抗できるように、せん断補強筋をコンクリートに定着させる必要がある。このような定着を行う方法として、せん断補強筋の端部に円盤状の定着部材を取り付けておく方法が知られている。かかる構成のせん断補強筋に引張力が作用すると、引張力が定着部材に伝達され、定着部材はコンクリート部材から支圧力を受ける。これにより、せん断補強筋は、端部がコンクリート部材に定着され、引張荷重に対して抵抗することができる。
【0004】
また、本願出願人らは、せん断補強筋に定着部材を取り付ける方法として、せん断補強筋に、図14(B)に示すような外周面に螺条が形成されたねじ鉄筋211を用い、図14(A)に示すように、定着部材としてナット212をねじ鉄筋211に螺合させて取り付けた補強部材210を用いる方法を提案している(例えば、特許文献1の段落[0022]参照)。
【特許文献1】特開2007―278014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ねじ鉄筋211及びナット212に形成された螺条には製造誤差がある。このため、図15に示すように、ねじ鉄筋211及びナット212に形成された螺条の山211A,212Aの間には隙間が生じてしまう。このように隙間が生じてしまうと、ねじ鉄筋に引張力が作用した際に、ねじ鉄筋211に対してナット212の軸方向に相対移動してしまい、図16に示すグラフのように、ねじ鉄筋に引張力により歪が生じても、期待している(設計通りの)支圧力を受けることができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、ねじ鉄筋と、ねじ鉄筋に螺合するナットとからなる補強部材を埋設することで、コンクリート部材をせん断補強する方法において、ねじ鉄筋に生じる歪がわずかな場合でも、ナットが設計通りの支圧力を発現するようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のせん断補強構造は、外周の少なくとも一部の表面に螺条が形成されたせん断補強筋と、内周面に螺条が形成された孔を有し、当該孔に前記せん断補強筋を螺合させることにより前記せん断補強筋に取り付けられた複数の定着部材と、からなるせん断補強部材をコンクリート部材に埋設することにより構成される前記コンクリート部材をせん断補強する構造であって、前記定着部材は、前記せん断補強筋の中央より両端部側のうち、少なくとも一方に2以上取り付けられており、前記2以上の定着部材のうち最も中央側の定着部材は、前記少なくとも一方の端部側に向けて付勢され、又は、固定され、前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた互いに隣接する定着部材の間には、それらを離間させる向きの付勢力を発生させる弾性部材が介装され、前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた定着部材のうち、前記最も中央側の定着部材を除く定着部材は、前記ばね材により中央側から前記少なくとも一方の端部側に向けて付勢されていることを特徴とする。
【0008】
上記のせん断補強構造において、前記定着部材は、前記せん断補強筋の中央より両端部側に2以上取り付けられており、前記せん断補強筋の中央より両端部側に取り付けられた最も中央側の定着部材の間には、それらを離間させる向きの付勢力を発生させる中央の弾性部材が介装されており、当該最も中央側の定着部材は、前記中央の弾性部材により端部側に向けて付勢されていてもよい。
【0009】
また、前記せん断補強筋は、その両端から夫々所定の距離の部分に螺条が形成された螺条部と、前記螺条部に挟まれた螺条が形成されていない中間部とを備えてなり、前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた最も中央側の定着部材は、前記螺条部に螺合した状態で、前記中間部へ向けて締め付けられることにより、前記せん断補強筋に固定されていてもよい。
【0010】
また、前記せん断補強筋の前記少なくとも一方の端部側には前記定着部材が3以上取り付けられており、前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた定着部材の間に介装されたばね部材は、中央側から前記少なくとも一方の端部側に向かって、付勢力が小さくなるように配置されていてもよい。
【0011】
また、本発明のせん断補強構造は、外周の少なくとも両端部の表面に螺条が形成されたせん断補強筋と、内周面に螺条が形成された孔を有し、当該孔に前記せん断補強筋を螺合させることにより前記せん断補強筋に取り付けられた一対の定着部材と、からなるせん断補強部材をコンクリート部材に埋設することにより構成される前記コンクリート部材をせん断補強する構造であって、前記一対の定着部材の間には、それらを離間させる向きの付勢力を発生させる弾性部材が介装され、前記一対の定着部材は、前記ばね材により中央側から各端部側に向かって、付勢されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のせん断補強方法は、外周の少なくとも一部の表面に螺条が形成されたせん断補強筋と、内周面に螺条が形成された孔を有し、当該孔に前記せん断補強筋を螺合させることにより前記せん断補強筋に取り付けられた複数の定着部材と、からなるせん断補強部材をコンクリート部材に埋設することにより、当該コンクリート部材をせん断補強する方法であって、前記せん断補強筋の中央より両端部側のうち、少なくとも一方に前記定着部材を2以上取り付けておき、前記2以上の定着部材のうち最も中央側の定着部材は、前記少なくとも一方の端部側に向けて付勢し、又は、固定しておき、前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた定着部材のうち前記最も中央側の定着部材を除く定着部材が、中央側から前記少なくとも一方の端部側に向けて付勢されるように、前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた互いに隣接する定着部材の間に、それらを離間させる向きの付勢力を発生させる弾性部材を介装しておくことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の補強部材は、コンクリート部材をせん断補強する際に、当該コンクリート部材に埋設されて用いられる補強部材であって、外周の少なくとも一部の表面に螺条が形成されたせん断補強筋と、内周面に螺条が形成された孔を有し、当該孔に前記せん断補強筋を螺合させることにより前記せん断補強筋の各端部側に夫々一以上取り付けられた複数の定着部材と、からなり、前記定着部材は、前記せん断補強筋の中央より両端部側の少なくとも一方に2以上取り付けられており、前記2以上の定着部材のうち最も中央側の定着部材は、前記少なくとも一方の端部側に向かって付勢され、又は、固定され、前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた互いに隣接する定着部材の間には、それらを離間させる向きの付勢力を発生させるばね材が介装され、前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた定着部材のうち前記最も中央側の定着部材を除く定着部材は、前記ばね材により中央側から前記少なくとも一方の端部側に向かって付勢されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ねじ鉄筋に取り付けられたナットが夫々、ねじ鉄筋の端部側に向かって付勢され、または、固定されているため、せん断力によりねじ鉄筋に生じる歪がわずかな場合であっても、ねじ鉄筋とナットとが相対移動することなく、所望の支圧力を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1は、せん断補強構造20により補強された板状の鉄筋コンクリート部材10を示す図であり、(A)は厚さ方向の断面図、(B)は(A)におけるB―B断面図である。同図に示すように、鉄筋コンクリート部材10は、コンクリート部材本体12と、コンクリート部材本体12の表裏面の近傍に埋設された主鉄筋11と、表裏面の近傍に主鉄筋11と直交するように埋設された配力筋13とを備える。図1(A)に示すように、鉄筋コンクリート部材10に、板厚方向にせん断力Pが作用すると、同図に一点鎖線で示すような斜めひび割れ面が発生する。せん断補強構造20は、このような斜めひび割れ面に当たる面と交差するように補強部材30が埋設されてなる。
【0016】
図2は、補強部材30を示す図であり、(A)は補強部材全体を示す図、(B)は補強部材30を構成するねじ鉄筋31を示す図である。同図に示すように、本実施形態で用いる補強部材30は、両端に表面に螺条が形成された螺条部35を備えるねじ鉄筋31と、このねじ鉄筋31の螺条部35に夫々螺合する中央側のナット32及び端部側のナット33と、螺条部35の中央側のナット32と端部側のナット33との間に夫々介装された収縮した状態のばね部材34とからなる。
【0017】
ねじ鉄筋31は、螺条部35と、螺条部35の間に挟まれた外周面に螺条が形成されていない中央部36とを備える。補強部材30は、中央側のナット32をねじ鉄筋31の螺条部35に螺合させ、さらに、中央側の2つのナット32を両側から中央部36に向けて回転しなくなるまで締め付け、内部をねじ鉄筋31が挿通するようにばね部材34をナット32の両側に配置し、ねじ鉄筋31の両端から端部側のナット33を締め付けることにより形成される。
【0018】
図3は、補強部材30の中央側のナット32の近傍を示す軸方向の鉛直断面図である。同図に示すように、中央側のナット32の螺条の山32Aの中央側の端部は平面状に形成されており、上記のように中央側のナット32を中央部36に向けて回転しなくなるまで締め付けることにより、この面32Bが、ねじ鉄筋31の中央部36と螺条部35との境界における中央側の面36Bに当接するため、ナット32はねじ鉄筋31の中央側への移動が拘束されることとなる。
【0019】
また、中央側のナット32を回転しなくなるまで締め付けることにより、ナット32の螺条の山の中央側の面32Cと、ねじ鉄筋の螺条の山35Aの端部側の面35Bとが当接することとなる。これにより、中央側のナット32は端部側への移動も拘束されることとなる。
【0020】
図4は、補強部材30の端部側のナット33の近傍を示す軸方向の鉛直断面図である。同図に示すように、上記のように、中央側のナット32は中央側への移動が拘束されており、中央側のナット32と端部側のナット33との間には、収縮した状態のばね部材34が介装されているため、端部側のナット33はばね部材34の復元力によりねじ鉄筋31の端部側に向かって付勢される。これにより、端部側のナット33の螺条の山33Aの端部側の面33Bと、ねじ鉄筋31の螺条の山35Aの中央側の面35Cとが当接することになる。これにより、端部側のナット33は端部側への移動が拘束されることとなる。
【0021】
鉄筋コンクリート部材10にせん断力が作用すると、ねじ鉄筋31に引張力が作用する。ここで、上記のように、端部側のナット33及び中央側のナット32は、ともに、ねじ鉄筋31に対して端部側への移動が拘束されている。このため、ねじ鉄筋31にわずかな歪が生じた場合であっても、ねじ鉄筋31に対してナット32,33が相対変位を生じることなく、ねじ鉄筋31に生じた歪がナット32、33に伝達されることとなり、図5のグラフに示すように、ナット32、33に大きな支圧力が作用することとなる。これにより、ナット32、33は期待していた支圧力を受けることとなり、設計通りのせん断補強を行うことが可能となる。
【0022】
本実施形態によれば、中央側のナット32は、中央方向に向かって回転しなくなるまで締め付けることにより、端部側への移動が拘束され、また、端部側のナット33は、ばね部材により端部側に向かって付勢されるため、端部側への移動が拘束されることとなる。このため、鉄筋コンクリート部材10に引張力が作用し、ねじ鉄筋31にわずかな歪が生じた場合でも、期待していた大きな支圧力がナット32、33に作用することなり、設計通りのせん断補強を行うことが可能となる。
【0023】
なお、本実施形態では、軸方向両側に螺条が形成された螺条部を有し、中央部には螺条が形成されていないねじ鉄筋を用いた場合について説明したが、これに限らず、全長に亘って外周面に螺条が形成されたねじ鉄筋を用いることも可能である。図6は、全長に亘って外周面に螺条が形成されたねじ鉄筋41を用いた場合の補強部材40を示す図であり、(A)は補強部材40の全体を示し、(B)はねじ鉄筋41を示す図である。同図に示すように、かかる場合には、中央側のナット42と端部側のナット43との間にばね部材45を挟み、さらに、中央側のナット42の間に、ばね部材45よりも復元力が大きいばね部材44を挟み込む。これにより、端部側のナット43は、ばね部材45によりねじ鉄筋41の端部側に向かって付勢される。また、中央側のナット42は、ばね部材44によりねじ鉄筋41の端部側に向かう復元力を受けるとともに、ばね部材45によりねじ鉄筋41の中央側に向かう復元力を受けるが、上記のようにばね部材44の復元力はばね部材45の復元力よりも大きいため、ねじ鉄筋41の端部側に向かって付勢されることとなる。これにより、上記の実施形態における端部側のナット32と同様に、ねじ鉄筋41にわずかな歪が生じた場合であっても、ナット42、43は支圧力を受けることとなる。
【0024】
また、上記の実施形態では、ねじ鉄筋に各端部側に夫々2のナットを取り付けた場合について説明したが、これに限らず、各端部側に夫々3以上のナットを取り付けることもできる。図7は、各端部側に3つのナットを取り付けた補強部材50を示す図であり、(A)は補強部材50全体を示し、(B)は補強部材50に用いられるねじ鉄筋51を示す。同図に示すように、図7に示す実施形態では、両端部に螺条部58を有し、中央に螺条が形成されていない中央部57を有するねじ鉄筋51を用いている。そして、ねじ鉄筋51の両側より第1のナット52、第2のナット53、第3のナット54を、夫々、間にばね部材55、56が介装させた状態で締め付ける。この際、第1のナット52と第2のナット53との間に介装されたばね部材55に、第2のナット53と第3のナット54との間に介装されたばね部材56よりも復元力が大きいものを用いることにより、これら第1、第2、第3のナット52、53、54が夫々、ねじ鉄筋51の端部側に向かって付勢されることとなる。これにより、上記の実施形態と、同様に、ねじ鉄筋51にわずかな歪が生じた場合であっても、ナット52、53、54は支圧力を受けることとなる。なお、図7に示す実施形態では、各端部側に夫々3のナットを取り付けた場合について説明したが、4以上としてもよく、この場合、各ナットの間に介装するばね部材としては、中央側ほど復元力が大きいものを用いればよい。
【0025】
また、図8(B)に示すように、全長に亘って外周面に螺条が形成されたねじ鉄筋61を用いる場合であっても、各端部側に夫々3以上のナットを取り付けることもできる。かかる場合には、図8(A)に示すように、補強部材60の各端部側に取り付けられたナット62、63、64のうち、最も中央側のナット62の間に復元力が最も大きいばね部材65を介装させ、ねじ鉄筋61の端部側ほど復元力が小さくなるようなばね部材66、67を用いるとよい。かかる構成によっても、各ナット62、63、64はねじ鉄筋61の端部側に向かって付勢されることとなる。
【0026】
また、上記の各実施形態では、ねじ鉄筋の中間部より両端部側に1以上のナットが取り付けられている(すなわち、4以上のナットが取り付けられている)場合について説明したが、これに限らず、両端部側に1のナットが取り付けられている場合にも本発明を適用することができる。
【0027】
図9は、ねじ鉄筋71の両端側に夫々、1のナット72が取り付けられた補強部材70を示す図であり、(A)は補強部材70の全体を示し、(B)はねじ鉄筋71を示す図である。同図(B)に示すように、かかる場合には全長に亘って螺条が形成されたねじ鉄筋71を用いる。そして、ねじ鉄筋71がばね部材73の内部を挿通した状態で、ねじ鉄筋71の両端にナット73を取り付ける。かかる構成によっても、各ナット72はねじ鉄筋71端部側に向かって付勢されることとなる。
【0028】
また、図10は、ねじ鉄筋81の中央に1のナット83が取り付けられ、また、両端側に夫々、1のナット82、84が取り付けられた補強部材80を示す図であり、(A)は補強部材80の全体を示し、(B)はねじ鉄筋81を示す図である。同図(B)に示すように、かかる場合には、一方(図中左側)の端部側には中央部から端部まで螺条が形成された螺条部87を備え、また、他方(図中右側)の端部側には端部からナット84の幅と略等しい距離の部分に螺条が形成された螺条部88を備えるねじ鉄筋81を用いるとよい。補強部材80を構成するには、ねじ鉄筋81の螺条部87にナット83を螺合させ、中央部86に向けて回転しなくなるまで締め付ける。さらに、内部をねじ鉄筋81が挿通するようにばね部材85をナット83の両側に配置し、ねじ鉄筋81の一方の端部にナット82を締め付ける。また、螺条部88にナット84を螺合させ、中央方向に向かって回転しなくなるまで締め付ける。これにより、ナット83及び他方の端部のナット84の軸方向の移動が拘束され、また、ナット82は、ばね部材85の復元力により端部側へ付勢され、端部側への移動が拘束されることとなる。
【0029】
また、既存のコンクリート構造物の壁面などをせん断補強する場合には、図11に示すようにコンクリート構造物101の壁面を削孔し、削孔することで形成された孔102内に補強部材110を挿入し、孔102内にグラウトを充填する。かかる場合には、図11に示すように、孔102の表面側端部に径の大きなナット112が取り付けられ、ナットの取り付け位置を非対称な補強部材110を用いることがある。
【0030】
図12は、ナットの取り付け位置を非対称な補強部材110の一例である補強部材120を示す図であり、(A)は、補強部材120全体を示す図、(B)は補強部材120に用いられるねじ鉄筋121を示す図である。同図(B)に示すように、ねじ鉄筋121は、図10に示すねじ鉄筋81では螺条部87と中央部86との境界が略中央であるが、本螺条部127と中央部126との境界が図中左側に移動している点が異なるが、それ以外の点では図10を参照して説明したねじ鉄筋81と同様の構成のねじ鉄筋が用いられている。また、ナット122、123、124及びばね部材125も、ナット82、83、84及びばね部材85と同様に取り付けられている。このように、ナット124の径が大きく、大きな支圧力を受けるため、ナット122、123に作用する支圧力と釣り合うこととなる。かかる構成の補強部材120においても、ナット123及び他方の端部のナット124を螺条部127、128に螺合させ、ねじ鉄筋121の中央部126へ向けて回転しなくなるまで締め付けることにより、これらのナット123、124の軸方向の移動が拘束され、また、ばね部材125の復元力によりねじ鉄筋121の端部側へナット122が付勢され、ナット122の端部側への移動が拘束されることとなる。
【0031】
また、このように補強部材を非対称な構成とし、さらに、両側端部に取り付けるナットの数を複数にすることも可能である。図13は、かかる場合に用いられる補強部材130を示す図であり、(A)は補強部材130全体を示す図、(B)は補強部材130に用いられるねじ鉄筋131を示す図である。本実施形態では、図13(B)に示すように、両端部側に表面に螺条が形成された螺条部140、142を有するねじ鉄筋141を用いるとよい。そして、螺条部140、142にナット134、135を取り付け、さらに、中央方向に向かって回転しなくなるまで締め付ける。さらに、ナット134、135の間を除く各ナット132、133、134、135、136の間にばね部材137、138、139が介装されるようにナット132、133、136を取り付ける。この際、ばね部材138には、端部側に位置するばね部材137よりも復元力が大きいものを用いる。かかる構成によっても、ナット134、135の軸方向の移動が拘束され、また、ばね部材137、138、139の復元力により端部側へナット122の端部側への移動が拘束されることとなる。
なお、上記の各実施形態におけるばね材に代えて、ゴム材などの弾性部材を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】せん断補強構造により補強された板状の鉄筋コンクリート部材を示す図であり、(A)は厚さ方向の断面図、(B)は(A)におけるB―B断面図である。
【図2】補強部材を示す図であり、(A)は補強部材全体を示す図、(B)は補強部材を構成するねじ鉄筋を示す図である。
【図3】補強部材の中央側のナットの近傍を示す軸方向の鉛直断面図である。
【図4】補強部材の端部側のナットの近傍を示す軸方向の鉛直断面図である。
【図5】本実施形態の補強部材のねじ鉄筋に生じる歪と、ナットが受ける支圧力との関係を示すグラフである。
【図6】全長に亘って外周面に螺条が形成されたねじ鉄筋を用いた場合の補強部材を示す図であり、(A)は補強部材の全体を示し、(B)はねじ鉄筋を示す図である。
【図7】各端部側に3つのナットを取り付けた補強部材を示す図であり、(A)は補強部材全体を示し、(B)は補強部材に用いられるねじ鉄筋を示す。
【図8】全長に亘って螺条が形成されたねじ鉄筋を用いた場合の各端部側に3つのナットを取り付けた補強部材を示す図であり、(A)は補強部材全体を示し、(B)は補強部材に用いられるねじ鉄筋を示す。
【図9】ねじ鉄筋の両端側に夫々、1のナットが取り付けられた補強部材を示す図であり、(A)は補強部材の全体を示し、(B)はねじ鉄筋を示す図である。
【図10】ねじ鉄筋の中央に1のナットが取り付けられ、また、両端側に夫々、1のナットが取り付けられた補強部材を示す図であり、(A)は補強部材の全体を示し、(B)はねじ鉄筋を示す図である。
【図11】既存のコンクリート構造物の壁面などをせん断補強する様子を示す図である。
【図12】既存のコンクリート構造物の壁面などをせん断補強する際に用いられる補強部材を示す図であり、(A)は、補強部材全体を示す図、(B)は補強部材に用いられるねじ鉄筋を示す図である。
【図13】補強部材を非対称な構成とし、さらに、両側端部に取り付けるナットの数を複数にした場合に用いられる補強部材を示す図であり、(A)は補強部材全体を示す図、(B)は補強部材に用いられるねじ鉄筋を示す図である。
【図14】従来用いられていた補強部材を示す図であり、(A)は補強部材全体を示す図、(B)は補強部材に用いられるねじ鉄筋を示す図である。
【図15】補強部材の端部側の近傍を示す軸方向の鉛直断面図である。
【図16】ねじ鉄筋に引張力が作用し、歪が生じた際に、ナットに作用する支圧力を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
10 補強部材 11 主鉄筋
12 コンクリート部材本体 13 配力筋
20 せん断補強構造 30 補強部材
31 中央部 31 ねじ鉄筋
32 ナット 32A ナットの螺条の山
32B ナットの螺条の端面 32C ナットの螺条の中央側の面
33 ナット 33A ナットの螺条の山
33B ナットの螺条の端部側の面 34 ばね部材
35 螺条部 35A ねじ鉄筋の螺条の山
35B ねじ鉄筋の螺条の山の端部側の面 35C ねじ鉄筋の螺条の山の中央側の面
36 中央部 36B ねじ鉄筋の中央部と螺条部の境界の面
40 補強部材 41 ねじ鉄筋
42 ナット 43 ナット
44、45 ばね部材 50 補強部材
51 ねじ鉄筋 52、53、54 ナット
55、56 ばね部材 57 中央部
58 螺条部 60 補強部材
61 ねじ鉄筋 62 ナット
65、66 ばね部材 70 補強部材
71 ねじ鉄筋 72 ナット
73 ばね部材 80 補強部材
81 ねじ鉄筋 82、83、84ナット
85 ばね部材 87、88 螺条部
101 コンクリート構造物 102 孔
110 補強部材 112 ナット
120 補強部材 121 ねじ鉄筋
122、123、124 ナット 125 ばね部材
130 補強部材 131 ねじ鉄筋
132、134 ナット 137、138 ばね部材
140 螺条部 141 ねじ鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周の少なくとも一部の表面に螺条が形成されたせん断補強筋と、内周面に螺条が形成された孔を有し、当該孔に前記せん断補強筋を螺合させることにより前記せん断補強筋に取り付けられた複数の定着部材と、からなるせん断補強部材をコンクリート部材に埋設することにより構成される前記コンクリート部材をせん断補強する構造であって、
前記定着部材は、前記せん断補強筋の中央より両端部側のうち、少なくとも一方に2以上取り付けられており、
前記2以上の定着部材のうち最も中央側の定着部材は、前記少なくとも一方の端部側に向けて付勢され、又は、固定され、
前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた互いに隣接する定着部材の間には、それらを離間させる向きの付勢力を発生させる弾性部材が介装され、
前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた定着部材のうち、前記最も中央側の定着部材を除く定着部材は、前記ばね材により中央側から前記少なくとも一方の端部側に向けて付勢されていることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項2】
請求項1記載のせん断補強構造であって、
前記定着部材は、前記せん断補強筋の中央より両端部側に2以上取り付けられており、
前記せん断補強筋の中央より両端部側に取り付けられた最も中央側の定着部材の間には、それらを離間させる向きの付勢力を発生させる中央の弾性部材が介装されており、当該最も中央側の定着部材は、前記中央の弾性部材により端部側に向けて付勢されていることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項3】
請求項1記載のせん断補強構造であって、
前記せん断補強筋は、その両端から夫々所定の距離の部分に螺条が形成された螺条部と、前記螺条部に挟まれた螺条が形成されていない中間部とを備えてなり、
前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた最も中央側の定着部材は、前記螺条部に螺合した状態で、前記中間部へ向けて締め付けられることにより、前記せん断補強筋に固定されていることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項4】
請求項1から3のうち何れか1項記載のせん断補強構造であって、
前記せん断補強筋の前記少なくとも一方の端部側には前記定着部材が3以上取り付けられており、
前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた定着部材の間に介装されたばね部材は、中央側から前記少なくとも一方の端部側に向かって、付勢力が小さくなるように配置されていることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項5】
外周の少なくとも両端部の表面に螺条が形成されたせん断補強筋と、内周面に螺条が形成された孔を有し、当該孔に前記せん断補強筋を螺合させることにより前記せん断補強筋に取り付けられた一対の定着部材と、からなるせん断補強部材をコンクリート部材に埋設することにより構成される前記コンクリート部材をせん断補強する構造であって、
前記一対の定着部材の間には、それらを離間させる向きの付勢力を発生させる弾性部材が介装され、
前記一対の定着部材は、前記ばね材により中央側から各端部側に向かって、付勢されていることを特徴とするせん断補強構造。
【請求項6】
外周の少なくとも一部の表面に螺条が形成されたせん断補強筋と、内周面に螺条が形成された孔を有し、当該孔に前記せん断補強筋を螺合させることにより前記せん断補強筋に取り付けられた複数の定着部材と、からなるせん断補強部材をコンクリート部材に埋設することにより、当該コンクリート部材をせん断補強する方法であって、
前記せん断補強筋の中央より両端部側のうち、少なくとも一方に前記定着部材を2以上取り付けておき、
前記2以上の定着部材のうち最も中央側の定着部材は、前記少なくとも一方の端部側に向けて付勢し、又は、固定しておき、
前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた定着部材のうち前記最も中央側の定着部材を除く定着部材が、中央側から前記少なくとも一方の端部側に向けて付勢されるように、前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた互いに隣接する定着部材の間に、それらを離間させる向きの付勢力を発生させる弾性部材を介装しておくことを特徴とするせん断補強方法。
【請求項7】
コンクリート部材をせん断補強する際に、当該コンクリート部材に埋設されて用いられる補強部材であって、
外周の少なくとも一部の表面に螺条が形成されたせん断補強筋と、内周面に螺条が形成された孔を有し、当該孔に前記せん断補強筋を螺合させることにより前記せん断補強筋の各端部側に夫々一以上取り付けられた複数の定着部材と、からなり、
前記定着部材は、前記せん断補強筋の中央より両端部側の少なくとも一方に2以上取り付けられており、
前記2以上の定着部材のうち最も中央側の定着部材は、前記少なくとも一方の端部側に向かって付勢され、又は、固定され、
前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた互いに隣接する定着部材の間には、それらを離間させる向きの付勢力を発生させるばね材が介装され、
前記少なくとも一方の端部側に取り付けられた定着部材のうち前記最も中央側の定着部材を除く定着部材は、前記ばね材により中央側から前記少なくとも一方の端部側に向かって付勢されていることを特徴とする補強部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−53531(P2010−53531A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216851(P2008−216851)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】