説明

だしパック及び一番だし抽出方法

【課題】
本発明では、昆布がだしパックの網目から抜け出し湯中に拡散するようなことが起こらず、また、湯中で数分以内に旨味とコクのバランスの良いだしを短時間で抽出することができ、そして、だしパックを製造する際に複雑な工程を設ける必要がなく簡便に、さらに、だしパックを製造するに当たり無駄なエネルギーを消費しないで済むだしパックを製造することを目的とする。
【解決手段】
薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節とを、微細な孔を有する袋状パックに収容しただしパックにより解決することができた。また、薄膜状に削られた昆布が、とろろ昆布、おぼろ昆布から選ばれる少なくとも1種を含有していても良く、節類の削り節の原料となる節類が、鰹節、宗田節、鯖節、鮪節、鯵節、鰯節、秋刀魚節から選ばれる少なくとも1種を含有していても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の料理を作るときに使用され、湯中に投入されることにより内容物に含有される種々の旨味成分を抽出するために使用されるだしパック及び一番だし抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、日本料理などを作るとき、種々の素材を湯中に浸漬し、その素材から旨味成分を抽出した「だし」が利用されており、その代表的な素材として昆布や鰹節の削り節が使用されている。昆布からは旨味成分であるグルタミン酸が抽出され、鰹節の削り節からは旨味成分であるイノシン酸が抽出される。また、これらを併用することで、複雑でふくよかな旨味になるため、昆布と鰹節の削り節をともに使用することも多い。
【0003】
このようなだしに関する文化は日本で広く浸透しており、一般家庭、麺類や総菜の専門店、料理店などで、調理のときにだしを短時間で、効率的に、簡単に取れることが望まれており、不織布などのメッシュを有する袋状パックに種々の素材を封入したものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、不織布に、乾燥昆布、茸類、魚節類、煮干し類、薬草等が収容封止されただしパックに係る発明について記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、通水性のあるパックに、節類、粉末昆布エキスを収容しただしパックに係る発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−269258号公報
【特許文献2】特開2004−283039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、段落0020において乾燥昆布などのだし素材について、そのまま、あるいは破砕、粉砕、磨砕等により粒状、小片化しと記載されているが、粉砕により粉末となればだしパックの網目から抜け出し湯中に拡散してしまい、こぶ茶のように昆布が溶けもはや「だし」ではなくなる。また、そのような場合、昆布から粘度の高いフコイダインなどが溶出して、風味が損なわれてしまう。一方、ブロック状又はチップ状のような小片とすると、旨味成分を抽出するために時間が必要以上にかかってしまい、作業効率が低下する。
【0008】
特許文献2では、粉末昆布エキスをパックに収容しているが、粉末昆布エキスを作成するために昆布を抽出する工程、さらにその抽出したエキスを粉末にする工程をようするために、だしパックを製造するために時間を要する。特に抽出したエキスを粉末するためには水分を蒸発するために多量の熱を必要とするため、だしパックを製造するためのエネルギー効率が良いとはいえなかった。
【0009】
そこで、本発明では、昆布がだしパックの網目から抜け出し湯中に拡散するようなことが起こらず、また、湯中で数分以内に旨味とコクのバランスの良いだしを短時間で抽出することができ、そして、だしパックを製造する際に複雑な工程を設ける必要がなく簡便に、さらに、だしパックを製造するに当たり無駄なエネルギーを消費しないで済むだしパックを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節とを、微細な孔を有する袋状パックに収容しただしパックである。
【0011】
そして、薄膜状に削られた昆布が、とろろ昆布、おぼろ昆布から選ばれる少なくとも1種を含有しているだしパックである。
【0012】
そして、節類の削り節の原料となる節類が、鰹節、宗田節、鯖節、鮪節、鯵節、鰯節、秋刀魚節から選ばれる少なくとも1種を含有しているだしパックである。
【0013】
そして、薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節との配合比が、薄膜状に削られた昆布/節類の削り節=25/75〜45/55(重量比)であるだしパックである。
【0014】
そして、袋状パックが円柱状であり40〜200メッシュの材料で作成されているだしパックである。
【0015】
そして、薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節とから、一番だしを抽出する方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節とを、微細な孔を有する袋状パックに収容しただしパックであれば、昆布がだしパックの網目から抜け出し湯中に拡散するようなことが起こらず、また、湯中で数分以内に旨味とコクのバランスの良いだしを短時間で抽出することができる。
【0017】
そして、薄膜状に削られた昆布が、とろろ昆布、おぼろ昆布から選ばれる少なくとも1種を含有すれば、昆布がだしパックの網目から抜け出し湯中に拡散するようなことが起こらず、また、だしを短時間で抽出することができる。そして、だしパックを製造する際に複雑な工程を設ける必要がなく簡便に、無駄なエネルギーを消費しない。
【0018】
そして、節類の削り節の原料となる節類が、鰹節、宗田節、鯖節、鮪節、鯵節、鰯節、秋刀魚節から選ばれる少なくとも1種を含有すれば、湯中で数分以内という短時間で抽出することができる。
【0019】
そして、薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節との配合比が、薄膜状に削られた昆布/節類の削り節=25/75〜45/55(重量比)であれば、湯中で数分以内に旨味とコクのバランスの良いだしを短時間で抽出することができる。
【0020】
そして、袋状パックが円柱状であり、40〜200メッシュの材料で作成されていていれば、湯中で数分以内に旨味とコクのバランスの良いだしを短時間で抽出することができ、昆布がだしパックの網目から抜け出し湯中に拡散するようなことが起こらない。
【0021】
そして、薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節とから、一番だしを抽出する方法であれば、袋状パックを有さなくとも、湯中で数分以内に旨味とコクのバランスの良いだしを短時間で抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係るだしパックの斜視図。
【図2】本発明の実施例に係る袋状パックの分解斜視図。
【図3】味覚センサーで各実施例及び比較例の旨味とコクを分析した結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に用いられる薄膜状に削られた昆布(1)は、種々知られているマコンブ<真昆布>、オニコンブ<羅臼昆布>、リシリコンブ<利尻昆布>、ホソメコンブ<細目昆布>、ミツイシコンブ<三石昆布、日高昆布>、ナカコンブ<長昆布>、カゴメ<籠目昆布>などの昆布を鋭利な刃物などで薄く削ったものであって、とろろ昆布、おぼろ昆布などが好ましい。これらの昆布は、削る前に酢に浸して柔らかくするなど加工されたものであってもよい。本発明では、昆布の側面を薄く削った糸状のものをとろろ昆布、昆布の表面を薄く削った帯状のものをおぼろ昆布という。なお、使用する昆布については、天然物又は養殖物のいずれであっても良く、また国内産又は外国産のいずれであっても良く、さらにこれらを任意に混合しても良い。
【0024】
このように薄膜状に削られた昆布(1)を用いられることで、上記の昆布を細かい短冊状に裁断した昆布チップに比べて、だしを取るために煮出す時間を短縮することができる。また、上記の昆布を粉末状にしたものに比べて、袋状パック(3)から湯中に拡散する昆布がないため本来のだしとして旨味のみを抽出することができる。
【0025】
これら薄膜状に削られた昆布(1)の膜厚は、10〜200μmが好ましく、20〜160μmがさらに好ましく、40〜100μmが最も好ましい。この膜厚の範囲であれば、湯中で抽出していても割れて微細な孔を有する袋状パック(3)から湯中に拡散することがなく、また素早く旨味成分を抽出することができる。
【0026】
本発明に用いられる節類の削り節(2)は、鰹節、宗田節、鯖節、鮪節、鯵節、鰯節、秋刀魚節等の魚節が薄く削られたものが好ましく、鰹節が薄く削られたものがさらに好ましい。節類の削り節(2)の大きさや厚みについては、特に限定されるものでなく市販品と流通しているものであれば良い。
【0027】
本発明に用いられる微細な孔を有する袋状パック(3)は、通水性を有するが、内容物である薄膜状に削られた昆布(1)や節類の削り節(2)を湯中に拡散しない程度に微細な孔を有している袋状のパックであり、湯中でも安定なものが好ましい。当該袋状パック(3)は、繊維を編んだ織布、不織布などが好ましい。また、その素材については、木綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維、又はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレード、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアクリロニトリルなどの合成繊維、金属繊維などが好ましく、合成繊維がより好ましい。
【0028】
また、当該袋状パック(3)の大きさについては、特に限定されるものではないが、一般家庭、専門店などで使用される鍋の内径よりも小さいことが好ましい。また、形状についても、特に限定されるものでなく、三角形、四角形、その他の多角形、円形、楕円形、扇形、多角錐、円錐、多角柱、円柱、楕円柱、球、半球など種々の形状とすることができる。さらに、有機材料からなる天然繊維又は合成繊維を用いるときには、内容物を収納するために繊維を熱により溶融して封入しても良い。このようにすると接着剤を使用する必要がないため、味に影響を及ぼすことがない。
【0029】
当該袋状パック(3)のメッシュである1インチあたりの目の数は、40〜200が好ましく、60〜150がより好ましく、80〜120が最も好ましい。40〜200の範囲であれば、薄膜状に削られた昆布(1)と、節類の削り節(2)が袋状パック(3)から湯中に拡散することを防止することができる。
【0030】
本発明のだしパックに収容される薄膜状に削られた昆布(1)と、節類の削り節(2)の配合割合は、どのような料理に使用するかによって異なるが、だしのコクと旨味のバランス良いという点から、薄膜状に削られた昆布(1)/節類の削り節(2)=25/75〜45/55(重量比)となることが好ましく、さらに30/70〜40/60(重量比)となることが好ましい。
【0031】
また、必要に応じて本発明に係るだしパックには、椎茸などの茸類、にぼしなどの乾燥魚類などを配合することができる。
【0032】
本発明のだしパックから旨味成分を抽出するために使用される水は、水道水、天然水、純水など挙げられ、また水の硬度によっても分類されるが、カルシウムやマグネシウムの金属イオン含有量が少ない軟水であることが好ましい。
【0033】
以下、本発明に係るだしパックに関する実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するに好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
図1及び図2に示すように薄膜状に削られた昆布(1)として、オニコンブの側面を40〜70μmの厚みとなるように薄く削られたとろろ昆布3.5g、マコンブの側面を40〜70μmの厚みとなるように薄く削られたとろろ昆布1.5g、節類の削り節(2)として、鰹節を薄く削った花かつお10gを、中空の円柱の上面を外した形状で100メッシュのポリエチレン製織布(目開きが200μm)の収容体(31)に収納し、円形の同メッシュのポリエチレン製織布を上蓋(32)として熱融着してだしパックを製造した。
【0035】
そして、鍋に500mlの軟水を入れて、約90℃に沸かしたところへ、そのだしパックを一袋入れて60秒間抽出した後にだしパックを取り出してだし汁を作成した。以下、この60秒間抽出して得られただし汁を「実1−1」ともいう。
【0036】
また、同様な手順により、90秒、120秒間抽出しただし汁も作成した。以下、この90秒間抽出して得られただし汁を「実1−2」、120秒間抽出して得られただし汁を「実1−3」ともいう。
【0037】
得られただし汁の旨味とコクのバランスを調べるために、味覚センサー(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製味認識装置SA402B)を用いて分析を行った。なお、測定に際して、薬品添加、水などによる希釈等の前処理は行わなかった。
【0038】
さらに、120秒間抽出して得られただし汁(実1−3)を、6人の一般男女により色、香、味の3点について評価を行った。
【0039】
(実施例2)
オニコンブより削られたとろろ昆布2.5g、マコンブより削られたとろろ昆布2.5gを用いる以外は実施例1と同様にだしパックを製造した。
【0040】
また、実施例1と同様に、60秒間抽出しただし汁(以下、実2−1ともいう)、90秒間抽出しただし汁(以下、実2−2ともいう)、120秒間抽出しただし汁(以下、実2−3ともいう)を作成した。
【0041】
さらに、得られただし汁(実2−1、実2−2、実2−3)を味覚センサーによる分析及び人による評価を行った。
【0042】
(比較例1)
オニコンブを細かく短冊状に裁断した昆布チップ3.5g、マコンブを細かく短冊状に裁断した昆布チップ1.5gを用いる以外は実施例1と同様にだしパックを製造した。
【0043】
また、実施例1と同様に、60秒間抽出しただし汁(以下、比1−1ともいう)、90秒間抽出しただし汁(以下、比1−2ともいう)、120秒間抽出しただし汁(以下、比較1−3ともいう)を作成した。
【0044】
さらに、得られただし汁(比1−1、比1−2、比1−3)を味覚センサーによる分析及び人による評価を行った。
【0045】
(比較例2)
オニコンブを細かく短冊状に裁断した昆布チップ2.5g、マコンブを細かく短冊状に裁断した昆布チップ2.5gを用いる以外は実施例1と同様にだしパックを製造した。
【0046】
また、実施例1と同様に、60秒間抽出しただし汁(以下、比2−1ともいう)、90秒間抽出しただし汁(以下、比2−2ともいう)、120秒間抽出しただし汁(以下、比2−3ともいう)を作成した。
【0047】
さらに、得られただし汁(比2−1、比2−2、比2−3)を味覚センサーによる分析及び人による評価を行った。
【0048】
(比較例3)
オニコンブを細かく粉末状にすり潰した昆布粉末3.5g、マコンブを細かく粉末状にすり潰した昆布粉末1.5gを用いる以外は実施例1と同様にだしパックを製造した。
【0049】
また、実施例1と同様に、60秒間抽出しただし汁(以下、比3−1ともいう)、90秒間抽出しただし汁(以下、比3−2ともいう)、120秒間抽出しただし汁(以下、比3−3ともいう)を作成した。
【0050】
さらに、得られただし汁(比3−1、比3−2、比3−3)を味覚センサーによる分析及び人による評価を行った。
【0051】
(比較例4)
オニコンブを細かく粉末状にすり潰した昆布粉末2.5g、マコンブを細かく粉末状にすり潰した昆布粉末2.5gを用いる以外は実施例1と同様にだしパックを製造した。
【0052】
また、実施例1と同様に、60秒間抽出しただし汁(以下、比4−1ともいう)、90秒間抽出しただし汁(以下、比4−2ともいう)、120秒間抽出しただし汁(以下、比4−3ともいう)を作成した。
【0053】
さらに、得られただし汁(比4−1、比4−2、比4−3)を味覚センサーによる分析及び人による評価を行った。
【0054】
これらの分析及び評価結果を表1、表2、表3に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
味覚センサー分析において、人工脂質膜を有する味覚センサーは、種々の呈味物質と静電相互作用や疎水性相互作用することにより、脂質膜の膜電位が増減し、その膜電位変化をセンサー出力するものである。そして、演算処理装置がそのセンサー出力より算出し、旨味及又はコクを数値化するものである。具体的には、旨味は、アミノ酸、核酸などの成分による膜電位変化から数値化されたもので、その数値が大きいほど旨味が多いことを示している。そして、コクは、それらの旨味成分の呈する持続性を示すもので、その数値が大きいほどコクがあることを示している。
【0059】
また、人による官能評価結果について、煮出しただしを6人によるパネラーが、色、香及び味について、各実施例及び比較例に記載しただしの中で最も評価が高いと感じたものに1票を投じる方法により評価を行った。具体的には、色については、だしの濁りがないものほど評価が高く、香についてはだしの香が強いものほど評価が高く、味については、旨味及びコクのバランスが良いものほど評価が高いものとして評価を行った。
【0060】
表1〜3及び図3に示すように、本実施例によるだしパックによると、60秒〜120秒という短時間の抽出時間に関わらず、旨味とコクのバランスの良いだしを抽出することができた。
【符号の説明】
【0061】
1・・・薄膜状に削られた昆布
2・・・節類の削り節
3・・・袋状パック
31・・収容体
32・・上蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節とを、微細な孔を有する袋状パックに収容したことを特徴とするだしパック。
【請求項2】
薄膜状に削られた昆布が、とろろ昆布、おぼろ昆布から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載のだしパック。
【請求項3】
節類の削り節の原料となる節類が、鰹節、宗田節、鯖節、鮪節、鯵節、鰯節、秋刀魚節から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のだしパック。
【請求項4】
薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節との配合比が、薄膜状に削られた昆布/節類の削り節=25/75〜45/55(重量比)であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のだしパック。
【請求項5】
袋状パックが円柱状であり、40〜200メッシュの材料で作成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のだしパック。
【請求項6】
薄膜状に削られた昆布と、節類の削り節とから、一番だしを抽出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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