説明

つば輪を有する円筒ころ軸受

【課題】軸受とつば輪をバックアップロール軸に組み付ける際に、つば輪の向きが間違った方向で組込まれていることが直ぐに認知できる様にする。
【解決手段】軸受の内輪1の両端面に軸方向のインロー部または座ぐり、つば輪の一方の端面に、軸方向の座ぐりまたはインロー部を形成し、軸受内輪1とつば輪5aが間違った向きで組み合わされた時に、つば輪5aと内輪1とを組合わせた幅が所定の幅Wを超える様にして、組み間違いであることがすぐに認知出来る様にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄鋼用圧延機に使用される、圧延ロール用軸受の様な円筒ころ軸受のつば輪組付け間違い防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼用多段圧延機のワークロール又は中間ロールの支持を行う為に組込まれるバックアップロールには、円筒ころ軸受が使用されている。図5のように、多段圧延機400には、圧延する素材を挟持して押圧し、薄く成形する一対のワークロール40が配設されている。このワークロール40の後方には、複数の中間ロール41及びバックアップロール42が配設されて、ワークロール40が受ける強大な圧延力を支承するように構成されている。
【0003】
バックアップロール42は、図1のように、バックアップロール軸10にサドル11、11と円筒ころ軸受100を交互に並べて構成される。バックアップロール42に使用される円筒ころ軸受100は軌道輪である内輪1、外輪2と、両軌道輪1、2の間で転動自在に複列配置される円筒ころ3、3と、円筒ころ3、3を等間隔に保持する保持器4と、内輪1の軸方向両端に当接するつば輪5、5から構成される。また、外輪2の軸方向中央にはつば2aが形成されている。
【0004】
バックアップロール42は使用される円筒ころ軸受100の外輪外径面で直接ワークロール40又は中間ロール41を支えてバックアップを行う。その際、ワークロール40又は中間ロール41の軸に対するバックアップロール軸10のミスアライメントにより、円筒ころ軸受100にスラスト荷重が働く。
【0005】
円筒ころ軸受100は外輪で受けたスラスト荷重を、図2のように外輪つば部2aから円筒ころ端面3a、3a、つば輪5を介して、サドル11で受け止めている。つば輪5、5と、円筒ころ端面3a、3aとの接触部は転がりすべりの状態でスラスト荷重を受ける。その為、つば輪5、5の、円筒ころ端面3a、3aと接触する面には耐磨耗を目的とした加工や表面処理が施されている。
【0006】
また、設備の運転中は常に他ロールとの接触及び、鉄粉等の異物の噛み込みが発生する可能性があり、その結果、外輪外径面の形状や表面粗さが、次第に劣化していく。その為、バックアップロール42は定期的に圧延機より取り外され、円筒ころ軸受100の外輪外径面を研磨し、所定の形状、表面粗さに仕上げた後、再び圧延機に組込まれる。円筒ころ軸受100の外輪外径面を研磨する際は、一般的に円筒ころ軸受を分解し、外輪2のみを研磨機にセットして加工を行い、研磨後に再び組立てられる。
【0007】
軸受の組立て時、つば輪5、5は、耐磨耗処理を施された、円筒ころ端面3a、3aと接触する側と、耐磨耗処理が施されていないサドル11と当接する側で方向性がある為、正しい向きで内輪1端面に配置する必要がある。この為、つば輪5、5には方向性を示す刻印等のマーキングを施してあり、また、軸受の図面にもつば輪の配置方向が判るよう記載されている。
【0008】
しかし、軸受の組立やバックアップロール42の組付けを行う実作業において、軸受図面が提示されない場合もあり、つば輪5、5の方向性を認識せずに正規の方向でない状態で軸受に組み込まれてしまう可能性がある。さらに、この状態で軸受を圧延機へ組込んでしまう可能性がある。
【0009】
その結果、つば輪5、5の耐磨耗処理を施していない面が円筒ころ端面3a,3aと転がりすべり接触し、早期に接触部のかじりや、つば輪5、5の異常磨耗等の損傷を生じる恐れがある。
【0010】
この部分の先行技術としては、特開2004−11661号公報(特許文献1)がある。
【0011】
上記先行技術文献の図1には、複列の転動体の外側寸法よりも幅広な内輪を有し、前記内輪の側方に、前記内輪の端面及び端部を覆うようにつば輪を配置した構造が開示されている。この様な形状のつば輪を有する軸受において、つば輪の方向を逆に組込もうとすると、内輪端面を覆っている部分が外方に突出しつば輪と内輪の組合せの寸法が大きくなる為、組込み間違いのまま作業が進むことを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−11661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、つば輪が内輪外径面の一部を覆う構成の為、ころの長さに制約を受けるという問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、軸受とつば輪をバックアップロール軸に組込む際に、間違った向きでつば輪を組込むのを防ぎ、且つころの長さの制約を受けないことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
内径部に複数列の外輪軌道面が形成された外輪と、
外径部に内輪軌道面が形成された内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に複数列に整列され転動自在に介装された複数個の円筒形転動体と、
からなる複列円筒ころ軸受において、
両端面の径方向中間に全周に渡り軸方向外向きに形成されたインロー部を有する内輪と、
前記インロー部の軸方向寸法よりも大きい深さと前記インロー部の径方向直径よりも大きい内径の座ぐりが形成され、前記内輪の側方に配置した時に前記座ぐりが前記内輪のインロー部を覆うように構成したつば輪とを備えることを特徴としている。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、
内径部に複数列の外輪軌道面が形成された外輪と、
外径部に内輪軌道面が形成された内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に複数列に整列され転動自在に介装された複数個の円筒形転動体と、
からなる複列円筒ころ軸受において、
両端面の径方向中間に全周に渡り軸方向に形成された座ぐりを有する内輪と、
前記座ぐりの軸方向寸法よりも小さい深さと前記座ぐりの径方向直径よりも小さい外径のインロー部が一端面に形成され、前記内輪の側方に配置した時に前記インロー部が前記内輪の座ぐりに嵌合する様に構成したつば輪とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以上のような構成を有しており、つば輪によるころの寸法を制約が無く、つば輪を間違った向きで軸受へ組込むのを防止できるという効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のバックアップロールと軸受の構成を示す図である。
【図2】バックアップロール軸受に働くスラスト荷重の伝達経路を示すものである。
【図3】本発明の第1の実施例を示すものである。
【図4】本発明の第2の実施例を示すものである。
【図5】多段圧延機の構成を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
第1の実施例を図3aに示す。複列円筒ころ軸受け200の内輪1aの両端面に、インローを形成する。つば輪5a、5aの端面には内輪1aのインロー外径よりも大きい内径且つ、インロー高さよりも深い座ぐりを形成する。
【0021】
内輪1aのインローにつば輪5a、5aの座ぐりが覆いかぶさるように配置された状態を、軸受200とつば輪5a、5aの正しい組み合わせとし、その時の内輪1aとつば輪5aとを組み合わせた幅をWとする。
【0022】
図3bの様に内輪1aに対してつば輪5a、5aの座ぐりを外向きに配置した場合、すなわち内輪1aに対してつば輪5a,5aを間違った向きで配置した場合、内輪1aのインロー端面と、つば輪5a、5aの反座ぐり側端面とが当接する。この時、内輪1aとつば輪5aとを組み合わせた幅が、前記正しい組み合わせの幅Wよりも、内輪1aの両端に形成したインロー部の軸方向寸法の分大きくなる。
【0023】
これにより、作業者がつば輪の組み間違いをすぐに認知することが出来る。
【0024】
第2の実施例を図4に示す。複列円筒事軸受300の内輪1bの両端面に座ぐりを形成する。つば輪5b,5bの端面には内輪1bの座ぐり内径よりも小さい外径且つ、内輪1bの座ぐり深さ寸法よりも短いインローを形成する。作用と効果については第1の実施例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、例えば鉄鋼用圧延機に使用される、圧延ロール用軸受として利用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 内輪
1a 内輪
1b 内輪
2 外輪
2a 外輪つば部
3 円筒ころ
3a 円筒ころ端面
4 保持器
5 つば輪(従来)
5a つば輪(実施例1)
5b つば輪(実施例2)
10 バックアップロール軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径部に複数列の外輪軌道面が形成された外輪と、
外径部に内輪軌道面が形成された内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に複数列に整列され転動自在に介装された複数個の円筒形転動体と、
からなる複列円筒ころ軸受において、
両端面の径方向中間に全周に渡り軸方向外向きに形成されたインロー部を有する内輪と、
前記インロー部の軸方向寸法よりも大きい深さと前記インロー部の径方向直径よりも大きい内径の座ぐりが形成され、前記内輪の側方に配置した時に前記座ぐりが前記内輪のインロー部を覆うように構成したつば輪とを備えることを特徴とする複列円筒ころ軸受。
【請求項2】
内径部に複数列の外輪軌道面が形成された外輪と、
外径部に内輪軌道面が形成された内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に複数列に整列され転動自在に介装された複数個の円筒形転動体と、
からなる複列円筒ころ軸受において、
両端面の径方向中間に全周に渡り軸方向に形成された座ぐりを有する内輪と、
前記座ぐりの軸方向寸法よりも小さい深さと前記座ぐりの径方向直径よりも小さい外径のインロー部が一端面に形成され、前記内輪の側方に配置した時に前記インロー部が前記内輪の座ぐりに嵌合する様に構成したつば輪とを備えることを特徴とする複列円筒ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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