説明

ねじ浮き検出兼用ドライバビット

【課題】ねじ締め時にねじの頭部座面がワークあるいは部品等に対して確実に着座したか否かの良否判定を可能にするねじ浮き検出兼用ドライバビットを得る。
【解決手段】回転駆動力が伝達される軸部11と係合部12との間に係合部12を駆動穴22に係合させたときに頭部頂面に当接するストッパ部13を形成し、ねじ20の頭部頂面にストッパ部13が当接して係合状態となった駆動穴22の底と係合部先端との間には僅かな隙間を有する構成とし、しかも、ストッパ部13の外周円の直径(D)は駆動穴22の外接円の直径(m)より大きいねじ浮き検出兼用ドライバビットであるので、頭部座面が着座しているか否かを正確に判定できる。また、駆動穴とドライバビットの係合部先端との間に僅かな隙間が生じる構成なので、駆動穴や係合部になんらかの原因で損傷が生じても、ねじ浮きの良否判定に何らの悪影響も及ぼさない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに所定の締結力で締め付けられるねじ部品において、あらかじめ設定されたねじ締めトルクでワークに締め付けられたときにねじの頭部座面がワークの表面に着座しているか否かの確実な判定を可能にするねじ浮き検出兼用ドライバビットに関する。
【背景技術】
【0002】
ねじをワークの所定位置に締め付け、部品等を固定する場合、ねじの座面がワークあるいは固定される部品に着座しないで浮いていると、部品がワークに対して固定されず、ガタ付きが生じる。そのため、この現象が製品不良の原因の一つになっている。特に、自動組立ラインにおいては図5に示すような自動ねじ締め機が使用されており、ワークの下穴に対してねじ20が自動ねじ締め機1の先端に保持されている状態でドライバユニット5がガイドロッド7に沿い下降し、このねじ20をドライバビット10を介して所定の締結力で締め付けるようになっている。このような自動ねじ締め機において、前記ねじ浮き状態を解消するために、例えば、実公平2−24587号公報に示すような構成の自動ねじ締め機も以前から使用されている。これは、自動ねじ締め機のドライバビットの下降位置をセンサで検知し、この位置があらかじめ設定されている着座状態あるいはねじ浮き状態のどちらにあるかを判定し、この結果により所定締結力でのねじ締め完了時において頭部がねじ浮き状態か着座状態かを決定するようになっている。そして、このねじ締め作業に使用されているドライバビットはJIS(日本工業規格)に定められている通常のドライバビットである。
【0003】
また、十字穴を有するねじとしてはJISに示された一般的なものからこれ以外の特殊駆動穴形状のねじまで多くの形状があり、このようなねじに使用されるドライバビットも駆動穴に対応して様々な形状を有しているのが現状である。特殊駆動穴形状としては、例えば、特開平11−311226号公報に示すようなものがあり、このねじの十字穴122は図6に示す形状を有している。これはドライバビット110のカムアウト現象を防止し、ねじ120の破損を防止するとともに、十字穴122が破損しても、迅速なねじ締め作業を達成するために十字穴122の端縁部を所定深さのほぼ垂直端壁部123としたものである。しかも、この十字穴122に嵌るドライバビット110は図7に示すように、前記十字穴122の垂直端壁部123に嵌る相似形状となっており、この十字穴122とドライバビット110とが安定して嵌合し、ねじ締め時にカムアウトが解消されるようにしたねじとドライバビットとの組合せとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−311226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記先行技術文献に示されているねじはその駆動穴の端縁部が垂直端壁部となっており、このため、この駆動穴に対応する形状の前記ドライバビットを使用することによりねじとビットの軸線が同一になるように嵌め合わされ、カムアウト現象やねじ等の破損を阻止することはできるが、ねじ浮き状態か否かを判定することはできない。また、このような特殊駆動穴でない通常のねじの駆動穴においても、これに嵌りねじ締め作用をするドライバビットもカムアウト現象が生じやすく、ねじの頭部座面が着座していてもねじ浮き状態とみなす等の不良判定を行うこともありその信頼性が欠けている。更に、ねじの頭部に形成されている十字形状の駆動穴は通常、圧造加工により製造されており、圧造加工の工具であるパンチで素材を打圧することにより形成されているが、繰り返しパンチが使用されているとこれが摩耗したり、駆動穴の深さにバラツキが生じており、これが影響してねじの頭部がワークに着座しているにもかかわらず、ねじ締め不良と判定している。しかも、駆動穴の深さが頭部頂面からの所定寸法より深いと、ドライバビットの先端がこの駆動穴に対して深く進入することになり、このため、ねじの座面が着座していなくてワークとの間に隙間が生じているにもかかわらず、良品と判定することもある。このような判定は駆動穴に嵌るドライバビットが摩耗している場合にも生じている等、様々な問題が起因している。一方、ねじの駆動穴は前記のように圧造加工により製造されているので、その調整方法により駆動穴の深さ等が微妙に変化することからねじの頭部十字穴はその形状が常に正確に形成されておらず、依然としてその深さや形状等にバラツキが生じている。このため、ねじ浮き状態の正確な判定が得られず、判定にはこのようなねじの十字穴形状のバラツキが影響し、その良品、不良品の判定に正確性が欠ける等の課題がある。
【0006】
本発明の目的は、このような課題を解消するとともにねじ締め時にねじの頭部座面がワークあるいは部品等に対して確実に着座したか否かの良否判定を可能にするねじ浮き検出兼用ドライバビットを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、回転駆動力が伝達される軸部11とこの軸部11と一体で且つねじ20の頭部21に形成された駆動穴22に駆動力を伝達する際に係合可能な係合部12とからなるドライバビットにおいて、軸部11と係合部12との間に係合部12を駆動穴22に係合させたときに頭部頂面に当接するストッパ部13を形成し、このねじ20の頭部頂面にストッパ部13が当接して係合状態となった前記駆動穴22の底と係合部先端との間には僅かな隙間を有する構成とし、しかも、このストッパ部13の外周円の直径(D)は前記駆駆動穴22の外接円の直径(m)より大きいねじ浮き検出兼用ドライバビットを提供することで達成される。
【0008】
前記発明において、ストッパ部は軸部11の中心線に直交する水平横断面上に形成された平面であるねじ浮き検出兼用ドライバビットとすることで、ねじとドライバビットとの軸心が一致した状態においてねじの頭部頂面に正確に当接することができる。また、係合部はこれの外周壁面12aとストッパ部13とが交叉して形成した交叉角部12bを同一平面上において接続する交叉軌跡円を有し、この交叉軌跡円の直径(M)と前記駆動穴22の外接円の直径(m)との間には(M<m)の関係が存在する構成とすることで、駆動穴へのドライバビットの係合部の挿入が安定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動ねじ締め機でねじを締め付ける場合に、ねじ締め完了時の駆動穴とドライバビットとの嵌め合わせ位置を検出することで、ねじの頭部座面が着座したか否かを判定している従来例に比べて、ドライバビットのストッパ部が頭部頂面に当接した状態を基準にしているので、頭部座面が着座しているか否かを正確に判定できる。また、このようにストッパ部がねじの頭部頂面に当接するとともに駆動穴とドライバビットの係合部先端との間に僅かな隙間が生じる構成なので、駆動穴や係合部になんらかの原因で損傷が生じても、ストッパ部が頭部頂面に当接していれば、ねじ浮きの良否判定に何らの悪影響も及ぼさない。更に、ねじの駆動穴のゲージ沈み深さを規定している規格では、その許容誤差が規定されており、この誤差が大きいとねじ浮きの良否判定に影響を与えていたが、ドライバビットのストッパ部が頭部頂面に当接することをねじ浮き状態の良否判定の条件にしているので、規格に定められている深さの許容誤差はねじ浮き良否判定に影響しない。
【0010】
特に、ねじの頭部に形成されている駆動穴は通常、圧造加工により製造されており、圧造加工の工具であるパンチで打圧されることにより形成されているが、繰り返しパンチが使用されているとこれが摩耗して、駆動穴の深さが浅くなったり、駆動穴内に僅かな突起が発生したりして駆動穴寸法にバラツキが生じていたとしても、このドライバビットのストッパ部が頭部頂面に当接した状態で係合部から駆動力がねじに加えられてドライバビットが所定位置まで移動していれば、ねじの頭部座面が着座した状態と判定され、駆動穴の許容誤差範囲内での深さのバラツキがあってもねじ浮き状態は生じず、組立製品の正確な良品、不良品の判定ができる等の特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態を示す要部正面図である。
【図2】図1の底面図である。
【図3】ねじの要部部分断面正面図である。
【図4】本発明の使用状態を示す正面図である。
【図5】本発明を使用する自動ねじ締め機の要部断面図である。
【図6】従来例としてのねじの要部断面図である。
【図7】図6のねじに使用するドライバビットの従来例を示す要部正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について最良の実施の形態を図1乃至図5に基づき説明する。図5において、10はドライバビットであり、このドライバビット10は自動ねじ締め機1にあらかじめ設定されている所定ねじ締めトルクを加えるための駆動力が伝達されるよう伝達軸2と一体になっている。この伝達軸2は回転駆動源3からの回転が伝達されるよう連結してあり、ドライバビット10は作業サイクル毎に供給されるねじ20を保持するキャッチャ4の上方に先端が位置しており、ねじ締め作業時にはキャッチャ4から突出してワーク(図示せず)にねじ20を締め付けるようになっている。一方、ドライバビット10を内蔵したドライバユニット5は昇降駆動源6により昇降自在に支えられており、ドライバユニット5は鉛直方向に配置されたガイドロッド7に沿い昇降するようになっている。
【0013】
このようにしてねじ20の頭部21の嵌合穴22に係合するドライバビット10は図1及び図2に示す形状を有しており、このドライバビット10は前記伝達軸2から回転駆動力が伝達されるよう連結される軸部11とこの軸部11の先端にあって一体となっている係合部12とから構成されている。この係合部12はねじ20の頭部21に形成された駆動穴22に駆動力を伝達する際に係合可能な形状となっており、軸部11と係合部12との間には係合部12を駆動穴22に係合させたときに頭部頂面に当接するストッパ部13が形成されている。このストッパ部13は軸部11の中心線に直交する水平横断面上に形成された平面となっている。
【0014】
また、このドライバビット10により締め付けられるねじ20の頭部21に形成されている駆動穴22はこの実施例では、JIS規格に設定されている十字穴であり、図3に示すような形状となっている。そして、このねじ20の頭部頂面にストッパ部13が当接して係合状態となった前記駆動穴22の底と係合部12の先端との間には図4に示すように、僅かな隙間を有する構成となっている。その上、このストッパ部13の外周円の直径(D)と前駆駆動穴22の外接円の直径(m)との間には(D>m)の関係を満足させて、(D)は(m)より常時大きくなるよう設定してある。更に、前記係合部12はこれの円錐形状となった外周壁面12aとストッパ部13とが交叉して形成した交叉角部12bを同一平面上において接続する交叉軌跡円を有し、この交叉軌跡円の直径(M)と前記駆動穴22の外接円の直径(m)との間は(M<m)の関係を満足する構成となっている。
【0015】
具体的には、この十字穴はJIS B 1111に規定されている附属書、付表1の十字穴付きなべ小ねじで、その呼びをM4とすると、十字穴の外接円の直径(m)は4.2mmで、これに使用するドライバビット10のストッパ部13及び軸部11の外周円の直径(D)は6mmに設定されている。しかも、前記交叉軌跡円の直径(M)は3.5mmに設定してあり、このような寸法設定にすることで、十字穴に対してドライバビットの係合部は駆動穴22である十字穴に係合してねじ20に所定ねじ締めトルクを加える締結力を伝達することができる。この交叉軌跡円の直径(M)の設定値は駆動穴22の外接円の直径(m)の80%以上100%未満に設定すればよく(本実施例においては好適な値として85%を採用している。)、これ以下であると駆動穴22への締結力の伝達において係合面積が少なくなって駆動穴22が潰れたり、ドライバビット10の係合部12の破損を招きやすくなる。一方、駆動穴22の中心と係合部12の中心とが僅かにずれたとしても、駆動穴22の外接円の直径(m)に対して軸部11の外周円の直径(D)は十分に大きく設定されているので、ねじ20の頭部21にはドライバビット10のストッパ部13が安定して当接することができる。
【0016】
尚、前記円錐形状となった外周壁面12aは駆動穴22が十字穴である場合の壁面であって、これ以外の形状の駆動穴22には直立壁のものもあり、何も十字穴に限定されるものではなく、他の形状の駆動穴22にも当然に適用できるものである。その場合は外周壁面12aが円錐形状とは限らず、円筒状をなすものもある。
【0017】
このように構成されたドライバビット10を自動ねじ締め機1に組み込んでねじ締め作業を行うと、図4に示すように、十字穴形状の駆動穴22に向かってドライバビット10は下降する。この下降によりドライバビット10の先端の係合部12が駆動穴22に係合されると、ドライバビット10の回転を受けてねじ20はワークに締め付けられる。このねじ締め作業において、二点鎖線で示すように、ドライバビット10のストッパ部13は駆動穴22への係合部12の進入と同時に頭部頂面に当接する。このとき、駆動穴22の底と係合部12の先端との間には僅かな隙間が生じている。
【0018】
このようにしてねじ20がワークにねじ込まれ、所定ねじ締めトルクに達すると、自動ねじ締め機1の回転駆動源3は停止し、ねじ締め作業が完了する。一方、この状態におけるねじ20の頭部座面はワークに着座し、ねじ浮き状態でない状態を良品基準とするセンサ(図示せず)で位置検出を行うことでねじ浮きの正確な良否判定が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、製品の組立作業において、ねじ20の座面が部品(図示せず)あるいはワークに確実に着座しているか否かを判定するのに好適で、ねじ20の種類が変わっても簡単に対応できるものであり、ねじ浮き良否判定機能を有するねじ締め作業への広範囲な適用が可能となる。
【符号の説明】
【0020】
1 自動ねじ締め機
2 伝達軸
3 回転駆動源
4 キャッチャ
5 ドライバユニット
6 昇降駆動源
7 ガイドロッド
10 ドライバビット
11 軸部
12 係合部
12a 外周壁面
12b 交叉角部
13 ストッパ部
20 ねじ
21 頭部
22 駆動穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動力が伝達される軸部(11)とこの軸部と一体で且つねじ(20)の頭部(21)に形成された駆動穴(22)に駆動力を伝達する際に係合可能な係合部(12)とからなるドライバビットにおいて、
軸部と係合部との間に係合部を駆動穴に係合させたときに頭部頂面に当接するストッパ部(13)を形成し、このねじの頭部頂面にストッパ部が当接して係合状態となった前記駆動穴の底と係合部先端との間には隙間を有する構成とし、しかも、このストッパ部の外周円の直径(D)は前記駆駆動穴の外接円の直径(m)より大きいことを特徴とするねじ浮き検出兼用ドライバビット。
【請求項2】
ストッパ部は軸部の中心線に直交する水平横断面上に形成された平面であることを特徴とする請求項1記載のねじ浮き検出兼用ドライバビット。
【請求項3】
係合部はこれの外周壁面(12a)とストッパ部とが交叉して形成した交叉角部(12b)を同一平面上において接続する交叉軌跡円を有し、この交叉軌跡円の直径(M)と前記駆動穴の外接円の直径(m)との間には(M<m)の関係が存在する構成であることを特徴とする請求項1又は2記載のねじ浮き検出兼用ドライバビット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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