説明

ねじ込みインサートおよび車両用部品

本発明は、雌ねじ(14)が形成された中心同軸孔(12)を回転対称性を有する本体内に有し、該本体の一端部に外力係合部(16)が設けられ、中央に半径方向外向きに突出するフランジ(18)が設けられたねじ込みインサート(10)に関し、前記外力係合部(16)とは反対側に位置する前記本体の他端部に、前記フランジ(18)の他側において、前記雌ねじ(14)とは逆向きのねじピッチを有する雄ねじ(20)が設けられ、前記フランジ(18)には、前記雄ねじ(20)に対向する側で、半径方向に延在するリブ(26)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ込みインサートに関し、また、このようなねじ込みインサートを具えた軽金属製の車両用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
重量を軽減するため、軽金属で構成される自動車が増加している。しかし、このような軽金属製の車両の車体構造に鋼製のねじを締結しなければならない。軽金属の小さな抵抗力により、単に軽金属に切ったねじ穴にねじを配置するだけでは、対応するねじが容易にむしり取られることになる。
【0003】
この問題を解決するため、現在まで、雌ねじが設けられた中心同軸孔を有する回転対称性を有する本体と、フランジを有する鋼製のねじ込みインサート(フランジナット)が用いられてきた。当時は、これらのねじ込みインサートは、切削ねじの代わりに軽金属製コンポーネント上の対応する孔に配置された。しかしながら、これは、対応するねじを締結する間、軽金属製コンポーネントの裏側にアクセスして、ねじ込みインサートを保持した状態で、ねじを締結することができる場合にのみ使用することができた。
【0004】
従来技術によれば、ねじを締結する間対応する裏側にアクセスすることができない場合においては、ケージナット等の金属クリップを用いて、対応するナットを孔の中に固定するしかなかった。しかしながら、これは更なる問題を生じた。すなわち、ねじをナットに対して強く圧し付け過ぎた場合、対応するクリップが折れる。次に、ナットがずれており、したがって、ねじがねじ穴に垂直に締結されず、代わりに傾斜した状態で締結される。場合によっては、クリップも誤って設置され、ねじが、ナットのねじが切られた内側孔に達することができない。さらに、対応するコンポーネントを取り付ける前に、クリップを孔に設置しなければならない。そうしているうちに、他の作業処理により、クリップが脱離することがあり得る。さらに、多くの場合、車両の両側に異なる設計のクリップを用いる必要がある。このことから、左右の部品が混同されてしまうおそれがあり、さらには、より多数の部品を保持する必要がある。結局、対応するクリップの製造、およびこれらの対応する孔への挿入は、非常にコストがかかる。最後に、多くの場合、ナットおよびクリップの調和する組み合わせは、過度の断続的な力が軽金属製コンポーネントの一点に加わることになる。これらの場合、軽金属は、経時的に結合がゆるくなるおそれのある「フロー」につながる傾向を示す。この最後の問題は、従来技術によるねじ込みインサートを、十分に大きなフランジを選択しないで用いる場合、またはこれが不可能な場合にも生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、低コストで且つ信頼性の高い、鋼製ねじを車両の軽金属製の車体コンポーネントに締結し得る手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、雌ねじとは逆向きのねじピッチを備える雄ねじを有するねじ込みインサートによって、また、インサートにおける一端に、フランジの他側において、雌ねじとは逆向きのねじピッチを有する雄ねじが設けられ、これにより雄ねじが車両用部品における対応する雌ねじに締結される鋼製のねじインサートを有する軽金属製の車両用部品によって、この課題が解決される。
【0007】
互いに逆向きのピッチを有するねじを用いることで、対応するねじを締結すると、ねじ込みインサートがより堅固に車両用部品に締結されることが有利に達成される。さらに、全締結力がフランジを介して軽金属に伝達されるわけではなく、代わりに雄ねじによりこの締結力のある程度の部分が軽金属内に伝達される。この方法により、軽金属のフローイングを生じる恐れのある、軽金属上の、フランジの当接面における最大負荷の発生が回避される。本発明によれば、例えば、従来技術によるねじ込みインサートと比較してより大きな力を伝達することができ、またより小さな対応するフランジを選択することができる。
【0008】
これに関連して、雌ねじは右ねじであり、雄ねじは左ねじであることが特に好適である。これにより、右ねじを有する通常のねじを通常の方法により締結することができる。
【0009】
この態様では対応するねじに対する、材料の最適な適合を達成する見地から、ねじ込みインサートは、好適には鋼製である。
【0010】
特に好適には、フランジには、雄ねじに対向する側で、半径方向に延在するリブが設けられている。これにより、ねじ込みインサートと軽金属製コンポーネントとの間のゆるみに対するさらなる安全性を達成する。
【0011】
さらには、フランジと雄ねじとの間に環状の周溝を設置することが好適である。この態様では、雄ねじと対向するフランジの側面が、その表面全体で担持しており、かつ、ねじ込みインサートは雄ねじとフランジとの間の移行部における小さな領域で当接していないだけであり、したがってこの領域での伝達力のみが得られないようにすることが確実となる。この周溝を設けない場合、ねじ込みインサートが締結される孔に、対応する凹部を設ける必要があり、これは追加的作業による出費を意味する。
【0012】
これに関連して、周溝は、アンダーカットにより、フランジ内に軸方向にも延在することが特に好ましい。
【0013】
好適には、外力係合部として六角外面部を用いる。
【0014】
フランジに、雄ねじに対向する表面上の外縁部に、軸方向に突出し且つ環状に延在する突条が設けられることで、腐食影響に対する雄ねじの封止を達成することが特に好ましい。
【0015】
さらに、フランジにおける、雄ねじに対向する表面上に、軸方向に突出し且つ雄ねじを包囲する環状延在突条が設けられることが好ましい。これは、外部からの湿度および塩分に対する雄ねじの更なる封止にも役立ち、雄ねじと車両用部品の軽金属との間の万が一の電解腐食を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による、ねじ込みインサートの斜視図である。
【図2】ねじ込みインサートの回転軸を通過する平面での部分断面における、側面から図1のねじ込みインサートを示す図である。
【図3】外力係合部の側から見た、図1によるねじ込みインサートを示す図である。
【図4】車両メンバの方向から見た、図1によるねじ込みインサートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付の図面を参照し、本発明に例示の実施例を以下により詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明による回転対称性を有する本体を有するねじ込みインサートを三次元的に側方から斜めに示したものである。好ましくは、このねじ込みインサートは、鋼製である。雌ねじ14を有する中心同軸孔を有する。この結合における雌ねじ14は、通常の右ねじとして機能する。外側部において、ねじ込みインサートは、この一端に外力係合部16を有する。好適には、これを六角外面部として設計する。外力係合部16には、ねじ込みインサート10の中央に設けられている環状の外部突出フランジ18が続く。このフランジ18を越え、ねじ込みインサート10の他端に、左ねじとして設計した雄ねじ20を設ける。この結合において、有利には、雌ねじ14および雄ねじ20のピッチは互いに逆方向である。自明ながら、雌ねじ14は左ねじとすることもでき、雄ねじ20は右ねじとすることもできる。
【0019】
雄ねじ20とフランジ18との間には環状の周溝22が配置される。図2の断面図により明確に図示したように、この環状の周溝22は、フランジ18内に向けて軸方向にわずかに延在する。
【0020】
雄ねじ20に対向し、したがって後に車両用部品の表面に対向するフランジ18の表面上で、周溝22には、フランジ18の表面から突出した循環リング24が続く。車両メンバにねじ20を締結する間、フランジ18は車両用部品の表面に対して押圧され、したがって、ねじ20の封止がなされる。この環状突条24を外側に越えて車両用部品に対向するフランジ18の表面上には、車両用部品の表面の方向に突出し、且つ、接線方向の断面においてはっきり曲がるよう設計された、半径方向に延在するリブ様突条22が存在する。これらのリブ様突条26は、緩みに対する安全性を与え、作業中に雄ねじ20が、このねじを締結した車両用部品から緩むことを回避する。これらリブ26の効果は、従来技術(EP426895B1参照)から公知の、リブワッシャに関連するリブに対応する。
【0021】
本実施例に関連して、このようなリブ26を12本設ける。自明ながら、これらのリブの数は、ねじ込みインサートの大きさに依存し、かつ、材料の組み合わせに依存して、種々選択することができる。好ましいくは、リブ26を全周に亘って均一に配置する。
【0022】
車両メンバに対向するフランジ18の表面上のリブ26を含む領域を越えるとさらに、ねじ込みインサート10の取付け状態において、毛細管現象により侵入する液体に対する、ねじ20およびリブ様突条26のためのさらなる封止に役立つ環状延在突条28が存在する。
【0023】
本発明による上述の実施例は、以下の利点を有する。
【0024】
雌ねじ14および雄ねじ20のピッチを逆向きとすることで、ねじを雌ねじ14に締結する間に、ねじ込みインサートが車両用部品に、より一層堅固に締結されることが確実となる。この方法によれば、有利には、雌ねじ14により伝達される張力が、雄ねじに対向するフランジ18の表面上および雄ねじ20に分配される。したがって、表面圧力は減少し、よって、フランジ18の直径をより小さくし、またはねじに締結するトルクをより大きくすることののいずれも選択することができる。
【0025】
環状の周溝22の存在により、車両用部品上のねじ穴の縁部に、雄ねじ20に対する凹部を設ける経費を節減することができる。それにもかかわらず、フランジ18がその表面全体で当接することを確実にする。車両用部品上のねじ穴に凹部を設けず、且つ、雄ねじ20周囲のほんの小さな環状領域に周溝22を設けない場合には、そうはならない。
【0026】
本発明は、確かに、軽金属製(例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金)の車両用部品および鋼製のねじ込みインサートの組み合わせのため開発された。しかしながら、このようなねじ込みインサートは、有利には、プラスチックまたはGFK等の軟質材を含む他のコンポーネントにおいて用いることができる。したがって、ねじ込みインサート10を異なる材料、例えば、それに応じてより硬質としたプラスチックまたはより軟質の金属を用いて製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌ねじ(14)が形成された中心同軸孔(12)を回転対称性を有する本体内に有し、該本体の一端部に外力係合部(16)が設けられ、中央に半径方向外向きに突出するフランジ(18)が設けられたねじ込みインサート(10)において、前記外力係合部(16)とは反対側に位置する前記本体の他端部に、前記フランジ(18)の他側において、前記雌ねじ(15)とは逆向きのねじピッチを有する雄ねじ(20)が設けられ、前記フランジ(18)には、前記雄ねじに対向する側で、半径方向に延在するリブ(26)が設けられていることを特徴とするねじ込みインサート。
【請求項2】
請求項1に記載のねじ込みインサート(10)において、前記雌ねじ(14)が右ねじとして、前記雄ねじ(20)が左ねじとして形成されていることを特徴とするねじ込みインサート。
【請求項3】
請求項1または2に記載のねじ込みインサート(10)において、前記ねじ込みインサート(10)が鋼製であることを特徴とするねじ込みインサート。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載のねじ込みインサート(10)において、前記フランジ(18)と前記雄ねじとの間に環状の周溝(22)が配置されていることを特徴とするねじ込みインサート。
【請求項5】
請求項4に記載のねじ込みインサート(10)において、前記周溝(22)は、アンダーカットにより、前記フランジ(18)内に軸方向にも延在することを特徴とするねじ込みインサート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のねじ込みインサート(10)において、前記外力係合部(16)が六角外面部であることを特徴とするねじ込みインサート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のねじ込みインサート(10)において、前記フランジ(18)における、前記雄ねじ(20)に対向する表面上の外縁部に、軸方向に突出し且つ環状に延在する突条(28)が設けられていることを特徴とするねじ込みインサート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のねじ込みインサート(10)において、前記フランジ(18)における、前記雄ねじ(20)に対向する表面上で、前記雄ねじ(20)の内側に、軸方向に突出し且つ環状に延在する突条(24)が設けられていることを特徴とするねじ込みインサート。
【請求項9】
軽金属製の車両用部品であって、雌ねじ(14)が形成された中心同軸孔(12)を回転対称性を有する本体内に有するねじ込みインサート(10)を具え、該ねじ込みインサート(10)がフランジ(18)により車両用部品の表面に当接する車両用部品において、前記ねじ込みインサート(10)における前記フランジ(18)を越えた一端部に、前記雌ねじ(14)とは逆向きのねじピッチを有する雄ねじ(20)が設けられ、該雄ねじにより前記ねじ込みインサート(10)が前記車両用部品の対応する雌ねじ内に締結され、前記ねじ込みインサート(10)のフランジ(18)における、車両用部品に対向する表面上に、半径方向に延在するリブ(26)が設けられていることを特徴とする車両用部品。
【請求項10】
請求項9に記載の車両用部品において、前記ねじ込みインサート(10)の前記雌ねじ(14)が右ねじとして、前記雄ねじ(20)が左ねじとして形成されていることを特徴とする車両用部品。
【請求項11】
請求項9または10に記載の車両用部品において、前記ねじ込みインサート(10)には、前記フランジ(18)と前記雄ねじ(20)との間に環状の周溝(22)が配置されていることを特徴とする車両用部品。
【請求項12】
請求項11に記載の車両用部品において、前記周溝(22)は、アンダーカットにより、前記フランジ(18)内に軸方向にも延在することを特徴とする車両用部品。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか一項に記載の車両用部品において、前記ねじ込みインサート(10)には外力係合部(16)が設けられていることを特徴とする車両用部品。
【請求項14】
請求項13に記載の車両用部品において、前記外力係合部(16)は、六角外面部であることを特徴とする車両用部品。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか一項に記載の車両用部品において、前記ねじ込みインサート(10)の前記フランジ(18)における、前記雄ねじ(20)に対向する表面上の外縁部に、軸方向に突出する環状延在突条(28)が設けられていることを特徴とする車両用部品。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか一項に記載の車両用部品において、前記ねじ込みインサート(10)の前記フランジ(18)における、前記雄ねじ(20)に対向する表面上に、軸方向に突出し且つ前記雄ねじ(20)を包囲する環状延在突条(24)が設けられていることを特徴とする車両用部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−510242(P2011−510242A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543372(P2010−543372)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【国際出願番号】PCT/DE2009/000058
【国際公開番号】WO2009/092355
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(504387724)アキュメント ゲーエムベーハー ウント コー オーハーゲー (4)