説明

はさみおよびこれに用いる押当部材

【課題】
被切断物が薄手のものである場合や、柔らかい素材からなるものであっても優れた切断力を有する、使い勝手のよいはさみおよびこれに用いる押当部材を提供する。
【解決手段】
先端側に刃部1が設けられ、根元側に把持部2が設けられた一対の刃物体を交差状に配置し、回転軸3で軸支してなるはさみの、使用する状態で上側になる方の刃部1aの外側部分に、刃部1aの刃1a'に沿って厚肉の線状材からなる押当部材4を設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被切断物が薄手のものである場合や、柔らかい素材からなるものである場合であっても、容易に切断することができる使い勝手のよいはさみおよびこれに用いられる押当部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汎用品であるはさみは、先端側に刃部が設けられ根元側に把持部が設けられた一対の刃物体を交差状に配置し回転軸で軸支されており、使用の際には、上記両把持部のうち、使用する状態で上側になる方の把持部に親指を挿通するとともに、下側になる方の把持部にその他の指を挿通し、その状態で、てのひらを握るような動作を行う。これにより、上記両刃部が閉じ合わされ、その両刃部の間に配置されたものが切断されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、上記両刃部は互いに密着し、摺り合わせられるように配置されているものの、被切断物が薄手のものである場合や、柔らかい素材からなるものである場合には、これが上記両刃部の間に入り込んでしまい、上手く切断することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−181036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、被切断物が薄手のものである場合や、柔らかい素材からなるものであっても優れた切断力を有する使い勝手のよいはさみおよびこれに用いられる押当部材の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、先端側に刃部が設けられ根元側に把持部が設けられたはさみであって、はさみを使用する状態で上側になる方の刃部の外側部分に、刃部の刃に沿って被切断物の切断部近傍を固定するための、厚肉の線状材からなる押当部材が設けられているはさみを第1の要旨とし、第1の要旨のはさみに用いられる押当部材であって、はさみの刃部に対峙する垂直面と上記刃部に対し略直角に配置される水平面とを有し、上記垂直面が接着用面となり、上記水平面が押当用面になっている押当部材を第2の要旨とする。
【0007】
本発明者は、被切断物が薄手のものである場合や、柔らかい素材からなるものである場合に、はさみの両刃部の間に被切断物が入り込んで、上手く切断できないという問題が発生することに鑑み、これを解消すべく研究を重ねた。そして、その過程で、被切断物が薄手のものである場合や、柔らかい素材からなるものである場合には、これを切断するために刃部を動かすと、被切断物が一方の刃部(主に動かす方の刃部)に、いわばまとわりつく様に折れ曲がり、その状態のままで、上記両刃部が閉じ合わされることにより、上記両刃部の間に被切断物が入り込むことが判明した。したがって、刃部を動かす際に、被切断物の上記折れ曲がりを抑制できれば、切断物がはさみの両刃部の間に入り込まず、有効に切断できるのではないかと考え、さらに研究を重ねた。その結果、はさみを使用する状態で上側になる方の刃部の外側に、この刃部の刃に沿って被切断物の切断部近傍を固定するための、厚肉の線状材からなる押当部材を設けるようにすると、両刃部を閉じ合わせる際、この押当部材が被切断物に幅のある面として当たるため、両者の間に発生する摩擦により押当部材表面に被切断物を瞬間的に保持,固定する状態が発生して、押当部材の存在により被切断物の折れ曲がりが阻止される。そして、その片側がいわば押当部材に当接して固定された状態の被切断物を切断することになるため、被切断物を有効に切断できることを突き止め、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明の第1の要旨であるはさみは、先端側に刃部が設けられ根元側に把持部が設けられたはさみであって、はさみを使用する状態で上側になる方の刃部の外側部分に、刃部の刃に沿って被切断物の切断部近傍を固定するための、厚肉の線状材からなる押当部材が設けられている。このため、はさみの刃部を閉じ合わせる動作によって、上記押当部材が被切断物に幅のある面として当たり、両者の間に摩擦が生じ、押当部材の押当用面に被切断物が瞬間的に保持,固定される状態になるため、被切断物の折れ曲がりが抑制され、被切断物が両刃部の間に入り込むことがない。また、その片側がいわば押当部材に当接して固定された状態の被切断物を切断することになるため、被切断物が薄手のものである場合や、柔らかい素材からなるものである場合でも、難なく切断できる。
【0009】
また、上記押当部材が、その下端面(押当用面)を、はさみを使用する状態で上側になる方の刃部の下端面と揃えた状態、もしくはその下端面から上下方向に10mm以下の幅でずらした状態で上記刃部の外側部分に取り付けられている場合には、はさみの刃部を閉じ合わせる際に、より確実に被切断物の折れ曲がりを抑制できるとともに、押当部材と被切断物との間の摩擦が大きくなるため、切れ味および操作性に優れたものとなる。
【0010】
そして、上記押当部材が、弾性を有する材料で形成されている場合には、はさみの刃部を閉じ合わせる際に、押当部材と被切断物との間の摩擦が大きくなり、より大きな力で被切断物を押当部材上に保持,固定できる。
【0011】
さらに、はさみの刃部に対峙する垂直面と上記刃部に対し略直角に配置される水平面とを有し、上記垂直面が接着用面となり、上記水平面が押当用面になっている本発明の第2の要旨である厚肉の線状の押当部材は、汎用のはさみにこれを取り付けるだけで、上記第1の要旨のはさみとすることができるため、簡単に、しかも安価に上記第1のはさみを得ることができる。
【0012】
上記押当部材の断面が略L字状である場合は、これをはさみに取り付けた際の安定性が高まる。また、少ない材料で押当部材を形成できると同時に、これを取り付けた際のはさみの軽量化を図ることができる。
【0013】
上記押当部材の断面が略四角状である場合は、単純な形状であるため、より容易に押当部材を形成でき、その製造コストを低減させることができる。
【0014】
上記押当部材が弾性を有する材料で形成されている場合は、これを取り付けたはさみの刃部を閉じ合わせる際に、押当部材と被切断物との間の摩擦が大きくなり、より大きな力で被切断物を押当部材表面に保持,固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態であるはさみを閉じた状態を示す外観図である。
【図2】上記はさみを開いた状態を示す外観図である。
【図3】上記はさみの押当部材の拡大説明図である。
【図4】(a)は上記はさみの押当部材の取り付け位置の断面説明図、(b),(c)はいずれも、上記はさみの押当部材の取り付け位置の変形例を示す断面説明図である。
【図5】(a),(b)はいずれも、上記はさみの使用方法の説明図である。
【図6】(a),(b)はいずれも、上記はさみの押当部材の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態であるはさみを示しており、図2は、そのはさみを開いた状態を示している。上記はさみは、先端側にテンレス製の刃部1(長さ7cm)が設けられ、根元側に合成樹脂製の把持部2(長さ10cm)が設けられた一対の刃物体を交差状に配置し、回転軸3で軸支してなるものである。ただし、上記刃物体は、把持部2の根元側に刃部1の基部領域を差し込み固定して形成されている。そして、使用する状態で上側になる方の刃部1aの外側部分(刃部の閉じ合わせ面の反対面)に、刃部1aの刃1a’に沿って押当部材4が設けられている。なお、図1,2において、各部分は模式的であり、実際の大きさとは異なっている(以下の図においても同じ)。
【0018】
上記押当部材4は、図3に示すように、先端側に下り傾斜面4cを有する、長さが6cmの合成ゴム製の厚肉の線状体であり、そのX−X断面が略L字状であって、略L字の一辺(長さ5mm)に対応する面(はさみの刃部1aに対峙する垂直面)が接着用面4aとなるよう平らに形成され、また、他辺(長さ7mm)に対応する面(上記刃部1aに対し略直角に配置される水平面)が被切断物を保持,固定,押圧する押当用面4bとなるよう平らに形成されている。そして、図4(a)に示すように、押当部材4は、その押当用面4bを、はさみを使用する状態で上側になる方の刃部1aの下端面から上方向に幅αだけずらした状態で、刃部1aの外側(刃部の閉じ合わせ面の反対面)部分に、取り付けられている。なお、この例では、α=1mmである。また、押当部材4が被切断物に幅のある面として、よりしっかりと当たり、両者の間に生じる充分な摩擦によって、押当部材4の押当用面4b表面に被切断物が確実に保持,固定される状態となる点で、上記押当用面4bの幅γと上記刃部1aの厚みδとが、γ≧2δの関係にあると好ましく、より好ましくは、γ≧3δの関係である。この関係は、押当部材の取り付け位置の変形例を示す後記の図4(b)、図4(c)でも同様である。
【0019】
そして、上記のはさみによって、例えば、薄手のビニール片を切断するには、まず、図5(a)に示すように、はさみの刃部1a,1bを上下に開き、切断片がはさみの進行方向の右側(紙面では下側)に生じるようにビニール片Pを配置する。ついで、図5(b)に示すように、上記両刃部1a,1bを閉じ合わせるようにする。
【0020】
上記両刃部1a,1bの閉じ合わせ動作に伴い、はさみの進行方向の右側に配置されたビニール片Pは、同じく左側に配置されたビニール片Pに比べ面積が少なく軽量であるため、刃部1aに巻き込まれように折り曲げられ、切断されない状態になるところ、押当部材4がビニール片Pに幅のある面として当たるため、両者の間に摩擦が生じ、押当部材4の押当用面4b表面にビニール片Pが瞬間的に保持,固定される状態となり、刃部外側への折れ曲がりが抑制されるようになる。また、その片側がいわば固定された状態のビニール片Pを切断することになるため、両刃部1a,1bの間にビニール片Pが入り込むことがなく、これを容易に切断することができる。
【0021】
このとき、押当部材4は、合成ゴムで形成されているため、刃部1a,1bを閉じ合わせる際に、ビニール片Pとの間に生じる摩擦が大きくなる。したがって、より大きな摩擦力で押当用面4b表面にビニール片Pを保持,固定することができるため、ビニール片Pの折り曲げ状態を抑制するとともに、ビニール片Pの切断予定個所をより平な状態にすることができる。また、押当部材4が、押当用面4bを刃部1aの下端面から上方向に幅1mmだけずらした状態で、刃部1aの外側部分に取り付けられているため、より確実に両刃部の間へのビニール片Pの巻き込みを防止できる。
【0022】
そして、上記押当部材4は、断面略L字状の厚肉の線状材からなり、断面の略L字の一辺に対応する面が接着用面4aとなり、他辺に対応する面が押当用面4bとなっている。このため、接着用面4aに、例えば接着剤を塗布するだけで、簡単にはさみの刃部1aに接着剤を介して取り付けることができる。また、押当部材4が、断面略四角状の厚肉の線状材からなる場合に比べて軽量化されているため、操作性に優れる。そして、押当部材形成に用いる材料がより少量化されているため、安価に製造できる。
【0023】
なお、上記実施の形態では、右手用のはさみについて説明したが、左手用のはさみに装着する場合は、左右の構成を逆にすればよい。
【0024】
また、上記実施の形態では、はさみの刃部1をステンレス製としたが、他の金属等の他の材料によって形成するようにしてもよい。優れた切れ味を長期に渡って得られる観点からはステンレス製が好ましく、はさみの軽量化を図る観点からは合成樹脂製が好ましい。また、把持部2を合成樹脂製としたが、ステンレス等の金属、他の材料によって形成するようにしてもよい。
【0025】
さらに、上記実施の形態では、刃物体が、刃部1の基部領域を把持部2の根元側に差し込んで固定することで形成されているが、刃部1と把持部2とを同一の材料により一体的に形成するようにしてもよい。
【0026】
そして、上記実施の形態では、押当部材4が、その下端面である押当用面4bを、使用する状態で上側になる方の刃部1aの下端面から上方向にずらした状態で、刃部1aの外側(刃部の閉じ合わせ面の反対面)部分に取り付けられているが〔図4(a)参照〕、被切断物の種類やその目的に応じて、その取り付け位置は適宜に調整される。例えば、図4(b)に示すように、押当部材4が、その下端面である押当用面4bを、刃部1aの下端面から下方向に幅βだけずらした状態で、刃部1aの外側部分に取り付けられていてもよく、この場合、糸のように細いもの(刃に接する面積の少ないもの)を切断するのに好適である。また、図4(c)に示すように、押当部材4が、その下端面である押当用面4bを、刃部1aの下端面と揃えた状態で、刃部1aの外側部分に取り付けられていてもよい。この場合、切れ味と操作性とバランスに優れる点で好ましい。このように、押当部材4が、その下端面である押当用面4bを、刃部1aの下端面と揃えた状態、もしくはその下端面から上下方向に10mm以下の幅でずらした状態で刃部1aの外側部分に取り付けられていると、より確実に切断時の被切断物の折れ曲がりを抑制でき、また、押当用面4b表面に被切断物をより強い力で保持,固定できるため、切れ味および操作性に優れたものとなる。
【0027】
また、上記の実施の形態では、押当部材4の長さが6cmに形成されているが、はさみの刃部1の長さ等に応じて、その長さを適宜に調整することが好ましい。また、押当部材4を合成ゴム製としたが、ステンレス等の金属、合成樹脂等、他の材料によって形成することができる。しかし、はさみの使用時に、被切断物との間に生じる摩擦の観点からは、合成ゴム製であることが好ましい。このような合成ゴムとしては、例えば、NBR(ニトリルゴム)、CR(クロロプレンゴム)、EPDM(エチレンプロピレン共重合ゴム)等があげられる。
【0028】
さらに、上記の実施の形態では、押当部材4は、断面略L字状の、厚肉の線状材からなるが、この他にも、図6(a)に示すように、断面略四角状の、厚肉の線状材からなる押当部材4’としてもよい。この場合、一面が接着用面4'a、これと直角をなす他の面が押当用面4'bとなる。このものは、単純な形状であるため、図3の形状のものに比べて、より容易に製造でき、製造コストを低減できる。また、図6(b)に示すように、接着用面4"aは平らに形成し、押当用面4"bを、その断面が下向き円弧状となるように突出した曲面にしてもよい。この場合も、被切断物の折れ曲がりをより効果的に抑制することができる。
【0029】
また、上記押当部材4の押当用面4bも、平滑面に限らず、例えば、その表面にエンボス加工や凹凸加工等を行い、被切断物との摩擦力をさらに高めるようにしてもよい。また、表面が平面に形成されている場合でも、被切断物との摩擦力を高める観点から、表面粗さ(Ra)の値が大きいものが好ましい。さらに、上記押当部材4として、発泡体、焼成体等の表面に凹凸を有する材料を用い、それ自身の有する性質を利用して、押当用面4bの表面を凹凸に形成するようにしてもよい。
【0030】
そして、上記の実施の形態では、上記押当部材4が、その接着用面4aに接着剤を塗布し、これを介して、刃部1aに取り付けられているが、このほかにも、両面テープ等を用いて取り付けるようにしてもよい。また、押当部材4を磁石で形成し、これを金属製の刃部1aに、磁力によって取り付けるようにしてもよい。この場合、特別な道具を使用せずにワンタッチで脱着できるという利点を有する。さらに、刃部1aを形成する際に、刃部1aと一体的に押当部材4を形成するようにしてもよい。この場合、押当部材4がずれたり、脱落したりすることがなく、長期に渡って優れた効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、被切断物が薄手のものである場合や、柔らかい素材からなるものであっても、容易に切断することができる使い勝手のよいはさみとして、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 刃部
1a (上側)刃部
1a’ (上側)刃
2 把持部
3 回転軸
4 押当部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に刃部が設けられ根元側に把持部が設けられたはさみであって、はさみを使用する状態で上側になる方の刃部の外側部分に、刃部の刃に沿って被切断物の切断部近傍を固定するための、厚肉の線状材からなる押当部材が設けられていることを特徴とするはさみ。
【請求項2】
上記押当部材が、その下端面を、はさみを使用する状態で上側になる方の刃部の下端面と揃えた状態、もしくはその下端面から上下方向に10mm以下の幅でずらした状態で上記刃部の外側部分に取り付けられている請求項1記載のはさみ。
【請求項3】
上記押当部材が、弾性を有する材料で形成されている請求項1または2記載のはさみ。
【請求項4】
上記請求項1記載のはさみに用いられる押当部材であって、はさみの刃部に対峙する垂直面と上記刃部に対し略直角に配置される水平面とを有し、上記垂直面が接着用面となり、上記水平面が押当用面になっていることを特徴とする押当部材。
【請求項5】
上記押当部材の断面が、略L字状である請求項4記載の押当部材。
【請求項6】
上記押当部材の断面が、略四角状である請求項4記載の押当部材。
【請求項7】
上記押当部材が、弾性を有する材料で形成されている請求項4〜6のいずれか一項に記載の押当部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−196406(P2012−196406A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64149(P2011−64149)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)
【Fターム(参考)】