説明

ひずみ量測定機能付き締結具

【課題】半導体ひずみセンサを内部に設けたひずみ測定機能付き締結具において、締結具へのひずみセンサの設置が容易・正確となり、高精度にひずみを測定することが可能でかつ感度ばらつきが小さいひずみ測定機能付き締結具を提供する。
【解決手段】本発明のひずみ量測定機能付き締結具は、締結具のひずみ量を計測する半導体ひずみセンサと、前記半導体ひずみセンサを保持するセンサ保持部材と、前記半導体ひずみセンサおよび/または前記センサ保持部材へ前記締結具に掛かる応力を伝える応力伝播部材とを具備し、前記締結具には締結具の中心軸を含む軸方向に穴が設けられ、前記穴には前記半導体ひずみセンサを保持した前記センサ保持部材が挿入され、前記穴と前記センサ保持部材との間には前記応力伝播部材が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結具に係る応力に対応したひずみを高精度に測定する機能を有する締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト等の締結具における軸ひずみを測定する技術として、ボルトの軸中心近傍の軸方向に穴を設け、その穴の内部にひずみゲージと温度センサを設置した軸力管理ボルトが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の軸力管理ボルトにおいては、作製した該管理ボルトに対し、各雰囲気温度における軸力とひずみゲージ抵抗値変化との関係をあらかじめ測定して較正値を測定器に記憶させ、較正処理機能を有する測定器とコネクタ接続することによって、実使用環境で簡便にボルトの軸力が測定できるとされている。この軸力管理ボルトは、ひずみゲージを用いた通常のひずみ測定の場合のように、ひずみ測定器内部の3個の固定抵抗と組み合わせたホイートストンブリッジを構成していないことから、測定器を小さくでき簡便に測定できる利点を有するが、測定精度が低下する欠点も有する。
【0003】
一方、シリコン単結晶基板上に所定の結晶方位となるように制御した不純物拡散抵抗を形成し、これらの抵抗を組み合わせてホイートストンブリッジを構成した半導体ひずみセンサを用い、ボルトの長軸線方向に設けた穴の内部に設置したひずみ量測定機能付きボルトが開示されている(例えば、特許文献2)。特許文献2に記載のひずみ量測定機能付きボルトにおいては、ひずみ検知抵抗とダミー抵抗を同一の基板上に近接して形成することでホイートストンブリッジ自体をボルト内に構成することができ、各抵抗の温度が略同じとなることから自動的に温度補正を行うことができるとされている。また、半導体デバイスの製造プロセスを利用できることから、数100μm程度以下の小さなホイートストンブリッジが実現可能であり、径の小さなボルトにも利用できるとされている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−347349号公報
【特許文献2】特開2005−114441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなボルトの軸方向に設けた穴の内部にひずみゲージや半導体ひずみセンサが設置されたボルト型ひずみ測定装置の場合、ひずみを精度良く計測するためには、穴内部における所定の位置・所定の方向にひずみゲージや半導体ひずみセンサを正しく設置することが重要である。特に半導体ひずみセンサにおいては、センサ自体の大きさが非常に小さいため、穴内部の所定の位置・方向に正しく設置することに多大な労力を要していた。また、センサの設置がずれた場合に、ひずみ測定の精度や感度がばらつく問題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、半導体ひずみセンサを内部に設けたひずみ測定機能付き締結具において、穴内部へのひずみセンサの正しい設置を容易とし、その結果、高精度にひずみを測定することが可能で、かつ感度ばらつきが小さいひずみ測定機能付き締結具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、締結具のひずみ量を計測する半導体ひずみセンサを有する締結具であって、
前記半導体ひずみセンサを保持するセンサ保持部材と、
前記半導体ひずみセンサおよび/または前記センサ保持部材へ前記締結具に係る応力を伝える応力伝播部材とを具備し、
前記締結具には締結具の中心軸を含む軸方向に穴が設けられ、
前記穴には前記半導体ひずみセンサを保持した前記センサ保持部材が挿入され、
前記穴と前記センサ保持部材との間には前記応力伝播部材が充填されていることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記の本発明に係るひずみ量測定機能付き締結具において、以下のような改良や変更を加えることができる。さらに、それらを組み合わせることができる。
(1)前記半導体ひずみセンサから見て前記センサ保持部材の軸方向両端の領域に応力伝播補助部材が具備されている。
(2)前記センサ保持部材が前記締結具の穴の内壁に当接している。
(3)前記半導体ひずみセンサが前記締結具の略中心軸上に設置されている。
(4)前記締結具のヤング率E1と前記応力伝播部材のヤング率E2との関係が少なくとも「E1 ≧ E2 ≧5GPa」であり、かつ前記締結具のヤング率E1と前記センサ保持部材のヤング率E3との関係が少なくとも「E1 ≧ E3 ≧5GPa」である。
(5)前記センサ保持部材が、エポキシ系樹脂、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金またはシリコン基板のいずれかである。
(6)前記応力伝播補助部材が、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金またはシリコン基板のいずれかである。
(7)前記センサ保持部材がシリコン単結晶基板であり、前記半導体ひずみセンサが前記センサ保持部材の表面領域に直接形成されている。
(8)前記半導体ひずみセンサは、シリコン単結晶基板の表面領域に不純物拡散抵抗が形成されたたものであり、4本の前記不純物拡散抵抗によってホイートストンブリッジ回路が構成されたものである。
(9)前記不純物拡散抵抗はp型不純物拡散抵抗であり、前記ホイートストンブリッジ回路は、前記p型不純物拡散抵抗の内の2本の長手方向が前記シリコン単結晶基板の<110>方向と平行であり、かつ他の2本の長手方向が前記<110>方向と垂直方向に平行である。
(10)前記不純物拡散抵抗はn型不純物拡散抵抗であり、前記ホイートストンブリッジ回路は、前記n型不純物拡散抵抗の内の2本の長手方向が前記シリコン単結晶基板の<100>方向と平行であり、かつ他の2本の長手方向が前記<100>方向と垂直方向に平行である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、締結具の中心軸を含む軸方向に設けられた穴に対して半導体ひずみセンサを所定の位置・方向に正しく設置することが容易となり、その結果、高精度にひずみを測定することが可能で、かつ感度ばらつきが小さいひずみ測定機能付き締結具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、図を参照しながら、本発明に係る実施の形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施の形態に限定されることはない。
【0011】
〔本発明の第1の実施形態〕
(ひずみ測定機能付き締結具の構造)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の主要部分の構造例を示す縦断面模式図であり、図2は、図1のA−A断面を示す模式図である。図1,2に示すように、締結具(例えば、ボルトやピン等)1には中心軸を含む軸方向に穴1aが設けられ、穴1aには半導体ひずみセンサ4を保持したセンサ保持部材3が挿入され、穴1aとセンサ保持部材3との間には応力伝播部材2が充填されている。半導体ひずみセンサ4は、センサ保持部材3の所定の位置に接合部材(例えば、接着剤、はんだ等)で固定されている。
【0012】
本発明によれば、特に、従来は半導体ひずみセンサ4の設置が困難であった穴1aの内径が小さい場合においても、半導体ひずみセンサ4を締結具1の所定位置・方向に正確・容易に設置することができる。言い換えると、穴1aの内径を小さくできることから、締結具1の機械的強度に対する影響を無視できるレベルに小さくできる。
【0013】
なお、図1,2においては、センサ保持部材3が略円柱形状をしている場合について示したが、センサ保持部材3を角柱あるいは板状としてもよい。半導体ひずみセンサ4を固定する箇所に平坦面が形成されていれば、センサ保持部材3の形状は特に限定されない。また、図1においては穴1aが締結具頭部から設けられているが、必要に応じて締結部尾部から穴1aを設けてもよく、締結部頭部から尾部までの貫通孔としてもよい。
【0014】
また、図1に示すように、穴1aの底部にセンサ保持部材3の位置決め用穴1bを設けることは好ましい。センサ保持部材3を位置決め用穴1bに差し込むことにより、センサ保持部材3の穴1a内での位置決めをより確実に行うことができる。なお、位置決め用穴1bの代わりにリング等の位置決め用部材(図示せず)を用いてもよい。また、穴1aの開口部付近を防水・防湿性材料5で封止することは好ましい。これにより、穴1aへの水分等の浸入を抑制でき、水分等による応力伝播部材2やセンサ保持部材3等の劣化を抑制することができる。
【0015】
本発明においては、半導体ひずみセンサ4が穴1aの内壁と直接接触していないことから、締結具1のひずみを半導体ひずみセンサ4に伝える応力伝播部材2および/またはセンサ保持部材3が重要な役割を果たす。締結具1のヤング率E1と応力伝播部材2のヤング率E2との関係が「E1 ≧ E2 ≧5GPa」であり、かつ締結具1のヤング率E1とセンサ保持部材3のヤング率E3との関係が「E1 ≧ E3 ≧5GPa」であることが望ましい。一方、「E1 < E2, E3」となると、締結具1のひずみが半導体ひずみセンサ4に伝わりにくくなり、半導体ひずみセンサ4の出力信号が小さくなるので測定感度や精度が劣化する。
【0016】
センサ保持部材3の材料の例としては、エポキシ系樹脂(ヤング率:約5GPa)、マグネシウム合金(例えば、AZ31、ヤング率:約45 GPa)、アルミニウム(ヤング率:約70 GPa)、アルミニウム合金(例えば、A7075、ヤング率:約70 GPa)、銅合金(例えば、C2801、ヤング率:約100 GPa)、銅(例えば、C1020、ヤング率:約120 GPa)、シリコン基板(多結晶基板のヤング率:約160 GPa、単結晶基板のヤング率:約190 GPa)などが挙げられる。また、応力伝播部材2の材料の例としては、エポキシ系樹脂(ヤング率:約5GPa)などの樹脂材料が挙げられる。例えば、センサ保持部材3をエポキシ系樹脂とし、応力伝播部材2もエポキシ系樹脂とすることにより、「E1 ≧ E2 = E3 ≧5GPa」となる。
【0017】
(ひずみ測定機能付き締結具の製造)
本発明に係るひずみ量測定機能付き締結具の製造方法は、センサ保持部材3の所定の位置に所定の方向を向けた半導体ひずみセンサ4を固定する「半導体ひずみセンサの固定工程」と、半導体ひずみセンサ4が固定されたセンサ保持部材3を締結具の穴1a内部の所定位置に挿入する「センサ保持部材の挿入工程」と、応力伝播部材2を穴1aの内部に充填する「応力伝播部材の充填工程」とを有する。応力伝播部材中に気泡等の空隙が存在すると、締結具のひずみが半導体ひずみセンサに伝播しづらくなることから好ましくない。そこで、締結具の穴径の絶対値が小さく(すなわち、穴とセンサ保持部材との間の空間が小さく)応力伝播部材を充填する際に穴の内部に気泡等が残存し易い場合には、「応力伝播部材の充填工程」の後で応力伝播部材が硬化する前に「センサ保持部材の挿入工程」を行ってもよい。これにより、穴内部での気泡等の残存を抑制することができる。また、締結具の穴1aを締結部頭部から尾部までの貫通孔とすることによっても、気泡等の残存抑制に有利となる。
【0018】
〔本発明の第2の実施形態〕
(ひずみ測定機能付き締結具の構造)
図3は、本発明の第2の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の構造例を示す横断面模式図であり、第1の実施形態と共通の部分には同一の符号を付した。本実施の形態において、主要部分の構造は第1の実施形態と同様であるが、センサ保持部材3が穴1aの内壁に当接している点で第1の実施形態と異なる。なお、図3においては、センサ保持部材3として板状の部材を用い、半導体ひずみセンサ4が締結具の略中心軸上に設置されており、半導体ひずみセンサ4がセンサ保持部材3の内部に埋め込み固定されている例を示した。
【0019】
センサ保持部材3の少なくとも2辺が穴1aの内壁に当接する構造とすることにより、穴1aの内部におけるセンサ保持部材3の位置決めがより安定し、ひずみ測定の精度・感度のばらつきを抑制することができる。さらに、締結具1の剪断方向に掛かる応力・ひずみがセンサ保持部材3に直接的に伝わることから、剪断方向におけるひずみ測定の精度・感度が向上する利点もある。
【0020】
また、半導体ひずみセンサ4が締結具1の中心軸上に配置されることは好ましい。締結具の曲げ変形に対する中立線である中心軸上に半導体ひずみセンサ4を設置することにより、曲げ変形による余分な圧縮/引張ひずみの影響を排除できセンサ出力の余分な変動を抑制することができることから、高精度のひずみ測定が可能となる。
【0021】
また、半導体ひずみセンサ4がセンサ保持部材3の内部に埋め込み固定されることは好ましい。センサ保持部材3の表面がなだらかになることから、半導体ひずみセンサ4の周りでの気泡等の残存を抑制できる利点がある。
【0022】
図4は、本発明の第2の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の別の構造例を示す縦断面模式図である。図5は図4のB−B断面の1例を示す模式図であり、図6は図4のB−B断面の別の1例を示す模式図である。図4〜6に示すように、応力伝播補助部材2’を付加することによって、締結具1の軸方向に掛かる応力・ひずみがセンサ保持部材3および/または半導体ひずみセンサ4に伝わりやすくなることから、軸方向におけるひずみ測定の精度・感度が向上する。応力伝播補助部材2’の材料の例としては、マグネシウム合金(例えば、AZ31、ヤング率:約45 GPa)、アルミニウム(ヤング率:約70 GPa)、アルミニウム合金(例えば、A7075、ヤング率:約70 GPa)、銅合金(例えば、C2801、ヤング率:約100 GPa)、銅(例えば、C1020、ヤング率:約120 GPa)、シリコン基板(多結晶基板のヤング率:約160 GPa、単結晶基板のヤング率:約190 GPa)などが挙げられる。なお、前述の第1の実施形態に応力伝播補助部材2’を適用することも勿論可能である。好ましくは、応力伝播補助部材2’の材料を応力伝播部材2の材料よりも高いヤング率の材料とすることにより、応力・ひずみがセンサ保持部材3および/または半導体ひずみセンサ4に伝わりやすくなる。
【0023】
図7は、本発明の第2の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の別の構造例を示す横断面模式図である。図7に示すように、センサ保持部材3の少なくとも2辺が穴1aの内壁に当接しており、半導体ひずみセンサ4が締結具の穴1aの内壁にできるだけ接近するように配置されている。このような構造は、締結具に対する曲げ応力がほとんど無く、締結具軸方向の微小ひずみを感度・精度よく測定する場合に好適である。
【0024】
また、本実施の形態においては、図7に示すようにセンサ保持部材3を仕切り材として見立て、センサ保持部材3の表裏で異なる材質の応力伝播部材21,22を用いてもよい。この場合、締結具の穴1aの内壁とセンサ保持部材3の面との距離(空間)が小さい方に充填される応力伝播部材21は、他方に充填される応力伝播部材22よりも、同一温度・同一応力下でのクリープ速度が小さい材質を用いることが好ましい。これにより、締結具1に生じるひずみを半導体ひずみセンサ4により効率よく伝えることができる。
【0025】
なお、半導体ひずみセンサ4が固定されているセンサ保持部材の面3aの側に応力伝播部材21が充填されている場合、他方の面3bの側には応力伝播部材22を充填しないことも可能である。これにより、応力伝播部材を充填する工程を簡略化することができる。この場合、面3b側のその空間に不活性ガスを充填することは好ましい。それにより、センサ保持部材3や応力伝播部材21の酸化劣化を抑制でき、耐久性の向上に寄与できる。
【0026】
〔半導体ひずみセンサの構成〕
つぎに、半導体ひずみセンサの構成について説明する。以下の説明では、半導体材料としてシリコンの場合を説明するが、本発明はシリコンによる半導体ひずみセンサに限定されることは無く、他の半導体材料を用いてもよい。図8は、半導体ひずみセンサの1例を示す部分拡大模式図である。図8に示すように、半導体ひずみセンサ4はセンサ保持部材3の所定の位置に設けられている。また、半導体ひずみセンサ4はシリコン単結晶基板からなり、例えば、その同一基板の表面領域に4本のp型不純物拡散抵抗4a,4b,4c,4dが形成され、これら4本の不純物拡散抵抗でホイートストンブリッジ回路(単に「ブリッジ回路」と称する場合もある)が形成されている。
【0027】
さらに、4本のp型不純物拡散抵抗は、その長手方向がシリコン単結晶の<110>方向に平行な2本の不純物拡散抵抗と、それらと垂直な2本の不純物拡散抵抗とから構成されている。半導体ひずみセンサ4のシリコン単結晶<110>方向が締結具の軸方向と平行に配置されることにより、締結具の軸方向ひずみを感度よく測定することが可能となる。
【0028】
また、半導体ひずみセンサ4の同一基板上に、ブリッジ回路の出力を増幅するためのアンプ6を設けてもよい。アンプ6をブリッジ回路と同一基板上に設けることにより、ブリッジ回路の出力がすぐに増幅されるため、耐ノイズ性が向上しひずみ測定精度が向上するという利点がある。
【0029】
また、半導体ひずみセンサ4の同一基板上に、例えばpn接合などからなる温度センサ7を設けてもよい。これにより、半導体ひずみセンサ4の出力の温度による出力変動分を補正することが可能となるため、さらに高精度なひずみ測定が可能となる。
【0030】
図9は、半導体ひずみセンサの他の例を示す部分拡大模式図である。図9に示すように、4本のp型不純物拡散抵抗4a,4b,4c,4dでブリッジ回路が構成されており、半導体ひずみセンサ4のシリコン単結晶<110>方向が締結具の軸方向に対する45度方向と平行に配置されている。これにより、締結具の剪断ひずみを感度よく測定することが可能となる。
【0031】
図10は、半導体ひずみセンサの他の例を示す部分拡大模式図である。図10に示すように、半導体ひずみセンサ6として、シリコン単結晶基板上に4本のn型不純物拡散抵抗6a,6b,6c,6dが形成され、これら4本の不純物拡散抵抗でブリッジ回路が形成されている。このとき、n型不純物拡散抵抗の長手方向がシリコン単結晶の<100>方向と平行・垂直となるように形成されている。半導体ひずみセンサ6のシリコン単結晶<100>方向が締結具の軸方向と平行に配置されることにより、締結具の軸方向ひずみを感度よく測定することが可能となる。一方、半導体ひずみセンサ6のシリコン単結晶<100>方向が締結具の軸方向に対する45度方向と平行に配置されることにより、締結具の剪断ひずみを感度よく測定することができる。
【0032】
なお、本発明に用いる半導体ひずみセンサとしては、上述の例の他、特開2005−114441号公報「ひずみ量測定機能付きボルト」に記載のひずみセンサを利用することができる。
【0033】
〔本発明の第3の実施形態〕
(ひずみ測定機能付き締結具の構造)
図11は、本発明の第3の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の主要部分の構造例を示す縦断面模式図であり、第1の実施形態と共通の部分には同一の符号を付した。
【0034】
第1,第2の実施形態においては、半導体ひずみセンサ4が接着剤等の接合部材でセンサ保持部材3に固定されている例を説明した。これに対し、本実施の形態は、センサ保持部材13として半導体単結晶基板を用い、該センサ保持部材13の所定位置の表面領域に半導体ひずみセンサ14が直接形成されている。すなわち、センサ保持部材13自体が半導体ひずみセンサの役割も兼ねている。
【0035】
半導体ひずみセンサ14は、前述の半導体ひずみセンサ4と同様に、シリコン単結晶基板(ここではセンサ保持部材13)の表面にヒ素・リン・ボロンなどの不純物を導入して不純物拡散抵抗を形成し、その不純物拡散抵抗でブリッジ回路を構成することにより形成される。また、図11に示すように、センサ保持部材13には半導体ひずみセンサ14の他に、例えば演算回路15や電気信号を外部に取り出すためのパッド16などが形成されていてもよい。さらに、これら半導体ひずみセンサ14、演算回路15、パッド16等を電気的に接続するための配線17もセンサ保持部材13に形成されていることが好ましい。
【0036】
また図11に図示はしていないが、図7に示したようなブリッジ回路出力を増幅するためのアンプや温度補正のための温度センサ、および半導体ひずみセンサ14の電気信号を外部に無線でデータ転送するための無線回路など、その他の電気回路をセンサ保持部材13に(同一のシリコン単結晶基板上に)形成することができる。なお、穴1a中へのセンサ保持部材13の設置に関しては、第1,第2の実施形態に記載の方法・構造を適用できる。
【0037】
本実施の形態においては、半導体ひずみセンサ14がセンサ保持部材13の表面領域に直接設けられているため、半導体ひずみセンサをセンサ保持部材に固定するための介在物(例えば、接着剤などの接合部材)を設ける必要がない。すなわち、接合部材の劣化の心配が無く、耐久性(長期信頼性)の高いひずみ測定機能付き締結具が得られるという利点がある。また、第1,第2の実施形態と同様の作用効果に加えて、センサ保持部材13に掛かるひずみを直接検知できるため、より高感度・高精度でのひずみ測定が可能となる。
【0038】
〔実施の形態の効果〕
上記の本発明の実施の形態によれば、下記の効果を奏する。
(1)本発明に係るひずみ測定機能付き締結具は、センサ保持部材を用いることから、従来は半導体ひずみセンサの設置が困難であった保持具の穴径が小さい場合においても、半導体ひずみセンサを締結具の所定位置・方向に正確・容易に設置することができる。
(2)本発明に係るひずみ測定機能付き締結具は、半導体ひずみセンサを締結具の所定位置・方向に正確に設置することができることから、高感度かつ高精度にひずみ測定を行うことができる。
(3)本発明に係るひずみ測定機能付き締結具は、センサ保持部材の少なくとも2辺が締結具の穴の内壁に当接する構造とすることにより、穴内部におけるセンサ保持部材の位置決めがより安定し、ひずみ測定の精度・感度のばらつきを抑制することができる。さらに、締結具の剪断方向に掛かる応力・ひずみがセンサ保持部材に直接的に伝わることから、剪断方向におけるひずみ測定の精度・感度が向上する。
(4)本発明に係るひずみ測定機能付き締結具は、締結具の曲げ変形に対する中立線である中心軸上に半導体ひずみセンサを設置することにより、曲げ変形による余分な圧縮/引張ひずみの影響を排除できセンサ出力の余分な変動を抑制することができることから、高精度のひずみ測定が可能となる。
(5)本発明に係るひずみ測定機能付き締結具は、半導体ひずみセンサをセンサ保持部材の内部に埋め込み固定することにより、センサ保持部材の表面がなだらかになることから、半導体ひずみセンサの周りでの気泡等の残存を抑制することができ、高感度のひずみ測定が可能となる。
(6)本発明に係るひずみ測定機能付き締結具は、センサ保持部材として半導体単結晶基板を用い、半導体ひずみセンサ部を該センサ保持部材の表面領域に直接設けることにより、センサ保持部材に掛かるひずみを直接検知できるため、より高感度・高精度でのひずみ測定が可能となる。また、半導体ひずみセンサをセンサ保持部材に固定するための接合部材を設ける必要がないため、接合部材の劣化が無く、耐久性(長期信頼性)の高いひずみ測定機能付き締結具が得られる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施例に限定されることはない。
【0040】
(センサ保持部材の効果)
締結具1として、市販されている鉄製のボルト(ヤング率:約200 GPa)を用意し、中心軸を含む軸方向に穴1aを設けた。前述の第1の実施形態と同様な構造になるように(図1参照)、半導体ひずみセンサ4をエポキシ系樹脂製のセンサ保持部材3の表面に接着剤で固定し、該センサ保持部材3を穴1aに挿入した後、気泡が残留しないようにエポキシ系樹脂製の応力伝播部材2を充填し作製した試料を実施例1とした。一方、センサ保持部材を用いないで半導体ひずみセンサ4を穴1aに直接挿入した後、気泡が残留しないようにエポキシ系樹脂製の応力伝播部材2を充填し作製した試料を比較例1とした。図12は、比較例1のひずみ測定機能付き締結具の主要部分の構造を示す縦断面イメージ図である。
【0041】
上記実施例1および比較例1のひずみ測定機能付きボルトに対し、トルクレンチを用いて既知のトルクで締め付けた場合のセンサ出力を測定することにより、ひずみ感度を測定した。測定は各々5試料ずつ行った。いずれの試料も締め付けトルクの値が増加するに従い、センサの出力は直線的に増加した。図13は、ひずみ感度測定グラフの1例を示す模式図である。図13に示すように、グラフの傾きからボルトのひずみ感度を算出した。
【0042】
図14は、実施例1および比較例1のひずみ感度測定結果を示すグラフである。グラフの縦軸は「規格化ひずみ感度 = 各ボルトのひずみ感度 / ひずみ感度の最大値」として表示した。図14から明らかなように、センサ保持部材3を設けない(比較例1)場合、ひずみ感度が約25%程度ばらつくのに対し、センサ保持部材3を設けた(実施例1)場合には、ひずみ感度のばらつきが約5%以内に低減され安定していることが判る。また、最大感度(規格化ひずみ感度 =1)は実施例1で得られ、全ての比較例1はひずみ感度が低下した。このことから、比較例1では図12に示したように半導体ひずみセンサ4の方向ズレが起きたものと考えられる。
【0043】
(センサ保持部材のヤング率の影響)
締結具1として、市販されている鉄製のボルト(ヤング率:約200 GPa)を用意し、中心軸を含む軸方向に穴1aを設けた。前述の第2の実施形態と同様な構造になるように(図3参照)、半導体ひずみセンサ4をセンサ保持部材3の表面に接着剤で固定し、該センサ保持部材3を穴1aに挿入した後、気泡が残留しないようにエポキシ系樹脂製の応力伝播部材2を充填して試料を作製した。
【0044】
このとき、センサ保持部材3として、エポキシ系樹脂(ヤング率:約5GPa)を用いたものを実施例2とし、マグネシウム合金(AZ31、ヤング率:約45 GPa)を用いたものを実施例3とし、アルミニウム(ヤング率:約70 GPa)を用いたものを実施例4とし、銅合金(C2801、ヤング率:約100 GPa)を用いたものを実施例5とし、無酸素銅(C1020、ヤング率:約120 GPa)を用いたものを実施例6とした。また、前述の第3の実施形態と同様な構造になるように(図11参照)、センサ保持部材3としてシリコン単結晶基板(ヤング率:約190 GPa)を用いたものを実施例7とした。
【0045】
万能試験機を用いて各試料の引張試験を行い、締結具1に掛けたひずみ量と半導体ひずみセンサ4で検知されるひずみ量との比率をひずみ伝達率(単位:%)として評価した。いずれの試料とも、図13と同様に、締結具1に掛けたひずみ量が増加するに従って半導体ひずみセンサの出力は直線的に増加した。このことから、ひずみ伝達率を係数と考えることで締結具1に掛かるひずみ量を精度良く検知できることが確認された。結果を図15に示す。図15は、実施例2〜7におけるひずみ伝達率とセンサ保持部材のヤング率の関係を示したグラフである。図15に示すように、センサ保持部材のヤング率の増大に伴ってひずみ伝達率も増大し、センサ保持部材のヤング率が約45 GPa以上でひずみ伝達率が50%を超えることが判った。このことから、微小ひずみをより精度良く検知するためには、センサ保持部材のヤング率が約45 GPa以上であることが好ましいと言える。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の主要部分の構造例を示す縦断面模式図である。
【図2】図1のA−A断面を示す模式図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の構造例を示す横断面模式図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の別の構造例を示す横断面模式図である。
【図5】図4のB−B断面の1例を示す模式図である。
【図6】図4のB−B断面の別の1例を示す模式図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の別の構造例を示す横断面模式図である。
【図8】半導体ひずみセンサの1例を示す部分拡大模式図である。
【図9】半導体ひずみセンサの他の例を示す部分拡大模式図である。
【図10】半導体ひずみセンサの他の例を示す部分拡大模式図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係るひずみ測定機能付き締結具の主要部分の構造例を示す縦断面模式図である。
【図12】比較例1のひずみ測定機能付き締結具の主要部分の構造を示す縦断面イメージ図である。
【図13】ひずみ感度測定グラフの1例を示す模式図である。
【図14】実施例1および比較例1のひずみ感度測定結果を示すグラフである。
【図15】実施例2〜7におけるひずみ伝達率とセンサ保持部材のヤング率の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1…締結具、1a…穴、1b…位置決め用穴、
2,21,22…応力伝播部材、
3…センサ保持部材、3a,3b…センサ保持部材の面、
4…半導体ひずみセンサ、4a,4b,4c,4d…p型不純物拡散抵抗、
5…防水・防湿性材料、6…アンプ、7…温度センサ、
8…半導体ひずみセンサ、8a,8b,8c,8d…n型不純物拡散抵抗、
13…センサ保持部材、14…半導体ひずみセンサ、
15…演算回路、16…パッド、17…配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結具のひずみ量を計測する半導体ひずみセンサを有する締結具であって、
前記半導体ひずみセンサを保持するセンサ保持部材と、
前記半導体ひずみセンサおよび/または前記センサ保持部材へ前記締結具に掛かる応力を伝える応力伝播部材とを具備し、
前記締結具には締結具の中心軸を含む軸方向に穴が設けられ、
前記穴には前記半導体ひずみセンサを保持した前記センサ保持部材が挿入され、
前記穴と前記センサ保持部材との間には前記応力伝播部材が充填されていることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項2】
請求項1に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記半導体ひずみセンサから見て前記センサ保持部材の軸方向両端の領域に応力伝播補助部材が具備されていることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記センサ保持部材が前記締結具の穴の内壁に当接していることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記半導体ひずみセンサが前記締結具の略中心軸上に設置されていることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記締結具のヤング率E1と前記応力伝播部材のヤング率E2との関係が「E1 ≧ E2 ≧5GPa」であり、かつ前記締結具のヤング率E1と前記センサ保持部材のヤング率E3との関係が「E1 ≧ E3 ≧5GPa」であることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項6】
請求項5に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記センサ保持部材が、エポキシ系樹脂、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金またはシリコン基板のいずれかであることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記締結具のヤング率E1と前記応力伝播部材のヤング率E2との関係が「E1 ≧ E2 ≧5GPa」であり、かつ前記締結具のヤング率E1と前記センサ保持部材のヤング率E3との関係が「E1 ≧ E3 ≧ 45 GPa」であることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項8】
請求項7に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記センサ保持部材が、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金またはシリコン基板のいずれかであることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項9】
請求項8に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記応力伝播補助部材が、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金またはシリコン基板のいずれかであることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項10】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記センサ保持部材がシリコン単結晶基板であり、前記半導体ひずみセンサが前記センサ保持部材の表面領域に直接形成されていることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記半導体ひずみセンサは、シリコン単結晶基板の表面領域に不純物拡散抵抗が形成されたたものであり、4本の前記不純物拡散抵抗によってホイートストンブリッジ回路が構成されたものであることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項12】
請求項11に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記不純物拡散抵抗はp型不純物拡散抵抗であり、
前記ホイートストンブリッジ回路は、前記p型不純物拡散抵抗の内の2本の長手方向が前記シリコン単結晶基板の<110>方向と平行であり、かつ他の2本の長手方向が前記<110>方向と垂直方向に平行であることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。
【請求項13】
請求項11に記載のひずみ量測定機能付き締結具において、
前記不純物拡散抵抗はn型不純物拡散抵抗であり、
前記ホイートストンブリッジ回路は、前記n型不純物拡散抵抗の内の2本の長手方向が前記シリコン単結晶基板の<100>方向と平行であり、かつ他の2本の長手方向が前記<100>方向と垂直方向に平行であることを特徴とするひずみ量測定機能付き締結具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−294122(P2009−294122A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148855(P2008−148855)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】