説明

ひび割れ供試体と、該供試体を用いたひび割れ補修実験方法

【課題】手軽に、かつ短期間で製作することができ、所望の幅のひび割れを所望の位置に容易に発生させることのできるひび割れ供試体を提供する。
【解決手段】本発明のひび割れ供試体1は、コンクリート等からなる上面略矩形の板体2の裏面に、炭素繊維集成板からなる帯状の拘束体3を、板体2の対角線状に交差させて貼着したものである。そして、板体2の裏側から拘束体3の交差部分をハンマー4等で打撃することにより、板体2の表側に所望のひび割れを発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート等に作為的にひび割れを発生させて補修等の実験に供する、ひび割れ供試体と、該供試体を用いたひび割れ補修実験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートには、外力、温度変化、収縮や膨張による内部応力、ひずみなどによってひび割れ(亀裂、クラック)が発生する。ひび割れを生じたコンクリートに対する補修工法としては、ひび割れの内部にエポキシ樹脂系の注入材を充填して補強する工法が一般的である。また、耐久性上、問題がない幅0.3mm程度以下の微小なひび割れについては、美観を保持するために、表面に弾性塗料を塗布して隠蔽することもある。
【0003】
ひび割れの中に注入材を充填する補修工法においては、注入材の充填状態や注入後の強度、追従性等を確認したり、補修技術を作業員に研修したりするなどの目的で、作為的にひびわれを発生させた供試体による注入実験を行うことがある。この場合、コンクリートの供試体には、予め所望の幅のひび割れを生じさせておく必要がある。
【0004】
また、コンクリートの表面に弾性塗料を塗布する補修工法においては、ひび割れに対する塗膜の追従性を確認するなどの目的で、弾性塗料を塗布した供試体に、後から作為的にひび割れを生じさせる実験を行うこともある。この場合は、表面を塗装した供試体の所望の位置に、後から所望の幅のひび割れを生じさせる技術が必要になる。
【0005】
しかしながら、従来、コンクリートに作為的にひび割れを発生させるための供試体としては、例えば特許文献1等に記載されているような、いわゆるリング状(ドーナツ状)の供試体程度しか知られていないのが実情である。図6に示すように、リング状供試体9は、金属製の円環状拘束体91を内側に配し、その外側にコンクリート92をリング状に打設したもので、外周側と内周側の乾燥収縮量の違いを利用して、外周側にひび割れ93を誘発させるものとなっている。
【特許文献1】特開2001−165831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来のリング状供試体は、打設したコンクリートの乾燥を待って自然にひび割れを発生させるものであるから、ひび割れの幅や長さ、ひび割れを生じさせる位置などを、実験目的に応じて自由に調整するのが極めて難しい。
【0007】
コンクリートに作為的にひび割れを生じさせる他の手段としては、適当な大きさのコンクリート板をハンマー等で打撃することも考えられる。しかし、無筋のコンクリート板では、ひび割れ発生とともにコンクリート板が割れてしまうので、内部に鉄筋を配したコンクリート板が必要になる。このような供試体の製作には、型枠作成〜配筋〜コンクリート打設〜養生・乾燥〜脱型等の工程を要し、完成までに時間や労力がかかる。また、内部に鉄筋が配されたコンクリート板では、打撃の強さを加減しながら所望の幅のひび割れを発生させるのもやはり難しい。
【0008】
また、弾性塗料の追従性を確認する実験では、塗料を塗布した後に、その塗膜の下側にひび割れを発生させる必要がある。しかし、上記のような供試体では、ひび割れが不規則な位置に不規則な幅で発生するから、塗膜の上からひび割れの位置や幅を特定するのも難しい。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、手軽に、かつ短期間で製作することができ、所望の幅のひび割れを所望の位置に容易に発生させることのできるひび割れ供試体を提供することを目的とする。
【0010】
併せて、本発明は、該供試体を用いた実用的なひび割れ補修実験方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明のひび割れ供試体は、コンクリート等からなる上面略矩形の板体の裏面に、炭素繊維集成板からなる帯状の拘束体を、板体の対角線状に交差させて貼着したものとして特徴付けられる。
【0012】
さらに、本発明のひび割れ供試体は、上記板体の裏側から拘束体の交差部分を打撃して、板体の表側にひび割れを発生させたものとして特徴づけられる。
【0013】
また、上記ひび割れ供試体を用いたひび割れ補修実験方法としては、まず、上記のようにして発生させたひび割れの内部に注入材を注入した後、該注入部分を切断して注入材の状態を確認する方法を挙げることができる。
【0014】
あるいは、同様にして発生させたひび割れの内部に注入材を注入した後、注入材の硬化後に再度、板体の裏側から拘束体の交差部分を打撃して、板体の表側にひび割れを発生させる方法を挙げることもできる。
【0015】
また、他のひび割れ補修実験方法としては、ひび割れを発生させる前のひび割れ供試体における表面中央部分の適宜範囲に弾性塗料を塗布した後、該ひび割れ供試体の裏側から拘束体の交差部分を打撃して、板体の表側の上記塗布範囲周辺にひび割れを発生させる方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0016】
上述のように構成される本発明のひび割れ供試体は、無筋の板体の片面に、炭素繊維集成板からなる帯状の拘束体を接着剤で貼着するだけのものであるから、きわめて手軽に、かつ短期間で製作することができる。そして、拘束体の交差部分を、強さを加減しつつ打撃するだけで、概ね規則的な位置に所望の幅のひび割れを容易に発生させることができる。したがって、このひび割れ供試体を利用することにより、ひび割れに対する各種の補修実験を効率的に、かつ精度良く実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態にかかるひび割れ供試体1の斜視図である。例示のひび割れ供試体1は、セメントコンクリートからなる板体2の裏面に、炭素繊維集成板からなる拘束体3を貼着したものである。
【0019】
炭素繊維集成板(CCFプレート;Consolidated Carbon Fiber Plate )は、石油・石炭の残渣ピッチを高温で焼成したもので、軽量でありながら極めて高い引張強度と引張弾性率を有している。近年では、幅5cm×厚さ1.2mmの長尺材料として市販され、土木・建築分野におけるコンクリート構造物の補強工事に利用され始めている。この炭素繊維集成板からなる拘束体3を、鉄筋の代わりにコンクリート等からなる板体2の片面(本明細書においては、便宜的にこの面を「裏面」と呼ぶ。)に貼着することにより、板体2の裏側の伸びが拘束される。拘束体3の貼着には、エポキシ樹脂系の接着剤を好適に利用することができる。ただし、十分な接着力が得られれば、接着剤はこれに限定されるものではない。
【0020】
拘束体3は、板体2の対角線状に交差して貼着される。交差部分の脇では、外側に重なった拘束体3が板体2の表面からわずかに浮き上がるが、両端部分が確実に貼着されていれば特に差し支えはない。板体2の実用的な大きさとしては、長辺30〜45cm×短辺20〜30cm×厚さ6〜8cm程度である。ただし、この大きさは実験の目的等に応じて適宜変更可能である。拘束体3についても、実用的には、幅4〜6cm、厚さ1〜1.5mm程度の範囲で適宜変更可能である。
【0021】
ひび割れを発生させるには、接着剤を数時間、養生した後、図2に示すように、板体2を適当な台木に載せかけるなどした状態で、裏側から拘束体3の交差部分をハンマー4等で打撃する。すると、反対側の面(本明細書においては、便宜的にこの面を「表面」と呼ぶ。)にひび割れが発生する。拘束体3が板体2の対角線状に貼着されていることから、図3に示すように、ひび割れ5は、概ね規則的に、板体2の中心部分から板体2の短辺と平行な方向に生じる。この点で、板体2の形状は正方形よりも長方形のほうが好ましい。
【0022】
打撃の都度、ひび割れ5の幅を確認しながら、打撃の強さや回数を加減すれば、ひび割れ5の幅を容易に調整することができる。拘束体3によって板体2の裏側が強固に拘束されているので、ひび割れ5の深さや長さが大きくなっても、板体2が完全に割れてしまうことはない。なお、板体2への打撃手段としては、ハンマー以外にも、例えばコンクリート圧縮機、曲げ試験機、衝撃試験機、その他の圧力調整可能な機械等を利用することもできる。
【0023】
エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂等の注入材によるひび割れ補修実験では、上記のようにして予めひび割れ5を生じさせたひび割れ供試体1を使用する。所望の幅のひび割れ5に注入材を充填した後、該注入部分を切断したり、あるいは図4に示すようにして円柱状のコア6を抜取すれば、注入材の充填状態や、注入後の強度、追従性等を容易に確認することができる。
【0024】
あるいは、ひび割れ5に充填した注入材が硬化した後、再度、板体2の裏面から打撃を加えて、他の部分に生じる新たなひび割れを検証することもできる。かかる実験は、ひび割れ補修効果のデモンストレーションとしても活用可能である。
【0025】
一方、弾性塗料の追従性を確認するひび割れ補修実験では、まず、図5に示すように、ひび割れ5を発生させる前のひび割れ供試体1に塗料7を塗布しておく。塗布範囲は、板体2の表面の中央部分を含む適宜範囲とし、周囲には塗料7を塗布しない部分も残しておく。塗布が終われば、図2のようにしてひび割れ供試体1の裏側から拘束体3の交差部分を打撃し、板体2の表側にひび割れ5を発生させる。本発明のひび割れ供試体1によれば、ひび割れ5は、概ね規則的に、板体2の中心部分から短辺方向に生じるので、塗料7を塗布した部分と塗布しない部分との境目付近(図5における丸込み囲み部分)のひび割れ5の幅を測定することにより、塗膜の下側におけるひび割れ5の幅を精度良く特定することができる。
【0026】
こうして、本発明のひび割れ供試体1を用いることにより、上記以外にもひび割れの補修や検査等に関連した実験を的確に実施することができる。なお、本発明において、コンクリート「等」とは、いわゆるセメントコンクリートだけでなく、種々の骨材をセメント、石灰、石こう、アスファルト、プラスチックなどの結合材で固めた広義としてのコンクリート材料のほか、粘土を主体とする煉瓦など、ひび割れ補修の対象となり得る材料全般を包括するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係るひび割れ供試体の斜視図である。
【図2】上記ひび割れ供試体にひび割れを生じさせる作業の説明図である。
【図3】上記ひび割れ供試体に生じるひび割れの状態を示す上面図である。
【図4】上記ひび割れ供試体を用いて注入材の充填状態を確認するひび割れ補修実験の説明図である。
【図5】上記ひび割れ供試体を用いて弾性塗料の追従性を確認するひび割れ補修実験図の説明図である。
【図6】従来のひび割れ供試体の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ひび割れ供試体
2 板体
3 拘束体
5 ひび割れ
7 塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート等からなる上面略矩形の板体の裏面に、炭素繊維集成板からなる帯状の拘束体を、板体の対角線状に交差させて貼着してなるひび割れ供試体。
【請求項2】
板体の裏側から拘束体の交差部分を打撃して、板体の表側にひび割れを発生させたことを特徴とする請求項1に記載のひび割れ供試体。
【請求項3】
請求項2に記載のひび割れ供試体におけるひび割れの内部に注入材を注入した後、該注入部分を切断して注入材の状態を確認することを特徴とするひび割れ補修実験方法。
【請求項4】
請求項2に記載のひび割れ供試体におけるひび割れの内部に注入材を注入した後、注入材の硬化後に再度、板体の裏側から拘束体の交差部分を打撃して、板体の表側にひび割れを発生させることを特徴とするひび割れ補修実験方法。
【請求項5】
請求項1に記載のひび割れ供試体における表面中央部分の適宜範囲に弾性塗料を塗布した後、該ひび割れ供試体の裏側から拘束体の交差部分を打撃して、板体の表側の上記塗布範囲周辺にひび割れを発生させることを特徴とするひび割れ補修実験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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