説明

ひび割れ誘発目地

【課題】コンクリート構造物の厚みをふかし部分の厚み分増やすことなく取り付けることができると共に、目地材に沿ったせん断応力の伝達を可能とし、構造性能を十分に発揮することのできるひび割れ誘発目地を提供する。
【解決手段】本発明は、コンクリート構造物2に計画的にひび割れを発生させるために設けられるひび割れ誘発目地1,10であって、コンクリート構造物2のコンクリート3と同等以上の圧縮強度を有する材料から構成され、コンクリート構造物2の表面に端部5,12が接するようにコンクリート3の内部に埋め込まれ、端部5,12は直線状に形成され、埋込部4,11はせん断応力の発生方向に対して交差する方向に凹凸した形状を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物に計画的にひび割れを発生させるために設けられるひび割れ誘発目地に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄筋コンクリート造の耐震壁などのコンクリート構造物は、セメントの水和熱や外気温度などによる温度変化や、乾燥による収縮などの影響でひび割れが発生し易く、このひび割れの発生を完全に回避することはできない。そのため、コンクリート構造物に所定の間隔でひび割れ誘発目地を設置し、ひび割れを計画的に発生させ、美観が損なわれないようにしている。
【0003】
従来、例えば、図12に示すように、耐震壁20の厚みtwにふかし部分21の厚みtw’を加え、このふかし部分21に溝状のひび割れ誘発目地22を設けて、断面欠損を確保し、ひび割れを誘発する手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、上記したようにふかし部分21に溝状のひび割れ誘発目地22を設けて断面欠損を確保することに加えて、図13に示すように、耐震壁20の内部に目地材としてパイプ23を埋め込んだり(例えば、特許文献2参照)、或いは、図14に示すように、耐震壁20の内部に目地材として鉄板24を埋め込んだりすることも行われている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−56521号公報
【特許文献2】特開2008−82126号公報
【特許文献3】特開2005−179889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来のいずれの技術も、美観上、耐震壁20の表面に直線状にひび割れを発生させるため、ふかし部分21に溝状のひび割れ誘発目地22を設ける必要がある。そのため、ふかし部分21の厚みtw’分、耐震壁20の厚みtwが厚くなり、コンクリート量が増えると共に重量が増え、耐震壁20に面する建物内の有効面積が減少するといった問題があった。
【0007】
また、実際の耐震壁20の厚みが構造計算上の壁厚より厚くなることによって設計以上の剛性となり、建物の剛性比や偏心率が変化し、構造的に悪影響を及ぼすおそれもあった。
【0008】
さらにまた、耐震壁20の内部に目地材として鉄板24を埋め込んだ場合には、目地材が平滑のため、目地材に沿ったせん断応力の伝達ができないため、耐震壁20としての構造性能を十分に発揮することができないといった問題も生じていた。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、コンクリート構造物の厚みをふかし部分の厚み分増やすことなく取り付けることができると共に、目地材に沿ったせん断応力の伝達を可能とし、構造性能を十分に発揮することのできるひび割れ誘発目地を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明は、コンクリート構造物に計画的にひび割れを発生させるために設けられるひび割れ誘発目地であって、前記コンクリート構造物のコンクリートと同等以上の圧縮強度を有する材料から構成され、前記コンクリート構造物の表面に端部が接するように前記コンクリートの内部に埋め込まれ、前記端部は直線状に形成され、前記埋込部は前記コンクリートのせん断応力の発生方向に対して交差する方向に凹凸した形状を有していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るひび割れ誘発目地の前記端部には前記コンクリート構造物の表面に接するようにフランジ部が形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るひび割れ誘発目地によれば、コンクリート構造物の厚みをふかし部分の厚み分増やすことなく取り付けることができると共に、目地材に沿ったせん断応力の伝達を可能とし、構造性能を十分に発揮することができるなど、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す正面図である。
【図3】図1のA−A矢視図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を示す斜視図である。
【図5】(a)、(b)、(c)はそれぞれ本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地の変形例を示す断面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す正面図である。
【図9】(a)は本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地の変形例を示す平面図、(b)はその斜視図である。
【図10】(a)は本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地の別の変形例を示す平面図、(b)は本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地のさらに別の変形例を示す平面図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す断面図である。
【図12】従来のひび割れ誘発目地を耐震壁に設けた状態を示す断面図である。
【図13】従来の別のひび割れ誘発目地を耐震壁に設けた状態を示す断面図である。
【図14】従来のさらに別のひび割れ誘発目地を耐震壁に設けた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
先ず、図1〜図5を参照しつつ、本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地について説明する。ここで、図1は本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す断面図、図2は本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す正面図、図3は図1のA−A矢視図、図4は本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を示す斜視図、図5の(a)、(b)、(c)はそれぞれ本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地の変形例を示す断面図、図6は本発明の第1の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す断面図である。
【0016】
本実施の形態に係るひび割れ誘発目地1は、図1に示されているように、鉄筋コンクリート造の耐震壁2の両側の表面部分に所定の間隔で埋め込まれており、例えば、ステンレス鋼やセラミックなど、鉄筋コンクリート造の耐震壁2のコンクリート3と同等以上の圧縮強度を有する材料によって形成されている。また、このひび割れ誘発目地1は、耐震壁2の内部に埋め込まれる埋込部4と、埋込部4の端部に形成されるフランジ部5とにより構成され、片側の埋込部4の埋込幅が耐震壁2の壁厚の10〜15%程度になるように形成されている。
【0017】
埋込部4は、図3及び図4から良く分かるように、例えば、1〜2mm程度の厚みの帯状の板材をせん断応力の発生方向(図3の矢印方向)に対して交差する方向に波形に屈曲させた形状を有している。なお、埋込部4の形状は、上記した波形に屈曲させた形状に限定されるものではなく、例えば、図5(a)のようにジグザグに屈曲させた形状や、図5(b)のようなパンチングメタル形状や、図5(c)のようなエキスパンドメタル形状など、せん断応力の発生方向(図3の矢印方向)に対して交差する方向に凹凸した形状を有していれば他の形状であってもよい。
【0018】
フランジ部5は、図2及び図4から良く分かるように、耐震壁2の表面に接するようにコンクリート3に埋め込まれ、帯状の平板により直線状に形成されている。また、フランジ部5には、図4に示されているように、所定ピッチで釘孔6が穿設されている。これにより、ひび割れ誘発目地1を設置する際に、コンクリート型枠(図示省略)の内面にフランジ部5を当接し、釘孔6を介して釘を前記コンクリート型枠に打ち付けることにより、該コンクリート型枠にひび割れ誘発目地1を簡単に固定することができる。
【0019】
そして、上記した構成を備えた本発明の実施の形態に係るひび割れ誘発目地1を、前記コンクリート型枠に固定してコンクリートを打設し、耐震壁2の両側の表面部分に所定の間隔で埋め込むと、その後、図6に示すように、コンクリートの乾燥による収縮などの影響によりひび割れ誘発目地1の設置部分に応力が集中するため、この部分にひび割れ7を誘発することができる。
【0020】
このように上記した実施の形態に係るひび割れ誘発目地1によれば、ふかし部分を設けることなく、ひび割れ誘発目地1に沿ってひび割れを確実に誘発することができるため、耐震壁2の厚みを必要最小限の厚みに抑制することができ、コンクリート量や重量の削減を図り、耐震壁2に面する建物内の有効面積を増加させることができる。
【0021】
また、ひび割れ誘発目地1は、耐震壁2のコンクリート3と同等以上の圧縮強度を有する材料から形成されていると共に、せん断応力の発生方向(図3の矢印方向)に対して交差する方向に凹凸した形状を有しており、ひび割れ誘発目地1に沿ったせん断応力の伝達が可能となるため、耐震壁2としての構造性能を十分に発揮することができ、耐震壁2の耐久性に悪影響を与えることもない。
【0022】
さらに、フランジ部5が耐震壁2の表面に接するようにコンクリート3に埋め込まれているため、図6に示すように、ひび割れ7が耐震壁2を貫通することがない。したがって、ひび割れ7を介して二酸化炭素や湿気が耐震壁2の内部に侵入して鉄筋8が錆びたりすることがなく、耐久性をより向上させることができると共に、ひび割れ7の発生により遮音性や防水性が低下するのを防止することができる。さらにまた、フランジ部5は帯状の平板により直線状に形成されているため、美観を損ねることもない。
【0023】
次に、図7〜図10を参照しつつ、本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地について説明する。ここで、図7は本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す斜視図、図8は本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す正面図、図9(a)は本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地の変形例を示す平面図、図9(b)はその斜視図、図10(a)は本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地の別の変形例を示す平面図、図10(b)は本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地のさらに別の変形例を示す平面図、図11は本発明の第2の実施の形態に係るひび割れ誘発目地を耐震壁に取り付けた状態を示す断面図である。
【0024】
本実施の形態に係るひび割れ誘発目地10は、図7に良く示されているように、例えば、ステンレス鋼やセラミックなど、鉄筋コンクリート造の耐震壁2のコンクリート3と同等以上の圧縮強度を有する材料から形成されており、耐震壁2の内部に埋め込まれる埋込部11と、耐震壁2の表面に接するようにコンクリート3に埋め込まれる平板状の端部12とにより構成されている。そして、このひび割れ誘発目地10は、例えば、1〜2mm程度の厚みを有し、片側の埋込部11の埋込幅が耐震壁2の壁厚の10〜15%程度になるように形成されている。
【0025】
埋込部11は、帯状の板材をせん断応力の発生方向(図8の矢印方向)に対して交差する方向にジグザグ状に凹凸させた形状を有している。なお、埋込部11は、この形状に限定されるものではなく、例えば、図9(a)、(b)に示すように金属片16を交互に反対側に切り起こした形状や、図10(a)、(b)に示すように平面視台形で棒状のセラミック体13の埋込面14に隆起部15を所定間隔で形成させた形状や、或いは、特に図示しないが、波形に凹凸させた形状や、パンチングメタル形状や、エキスパンドメタル形状など、せん断応力の発生方向(図8の矢印方向)に対して交差する方向に凹凸した形状を有していれば他の形状であってもよい。
【0026】
そして、上記した構成を備えた本発明の実施の形態に係るひび割れ誘発目地10を、仮設の固定部材を使用してコンクリート型枠(図示省略)に固定し、コンクリートを打設し、耐震壁2の両側の表面部分に所定の間隔で埋め込むと、その後、図11に示すように、コンクリートの乾燥による収縮などの影響によりひび割れ誘発目地10の設置部分に応力が集中するため、この部分にひび割れ7を誘発することができる。
【0027】
このように上記した実施の形態に係るひび割れ誘発目地10によれば、ふかし部分を設けることなく、ひび割れ誘発目地10に沿ってひび割れを確実に誘発することができるため、耐震壁2の厚みを必要最小限の厚みに抑制することができ、コンクリート量や重量の削減を図り、室内の有効面積を増加させることができる。
【0028】
また、ひび割れ誘発目地10は、耐震壁2のコンクリート3と同等以上の圧縮強度を有する材料から形成されていると共に、せん断応力の発生方向(図8の矢印方向)に対して交差する方向に凹凸した形状を有しており、ひび割れ誘発目地10に沿ったせん断応力の伝達が可能であるため、耐震壁2としての構造性能を十分に発揮することができ、耐震壁2の耐久性に悪影響を与えることはない。
【0029】
さらに、端部12は耐震壁2の表面に接するようにコンクリート3に埋め込まれ、平板により直線状に形成されているため、美観を損ねることもない。
【0030】
なお、本実施の形態の場合、フランジ部が形成されていないため、図11に示すように、ひび割れ7が耐震壁2を貫通するおそれがあるが、耐震壁2の表面に防水性や遮音性を有する仕上げ材を塗布したり、貼付したりすることによって、ひび割れ7を介して二酸化炭素や湿気が耐震壁2の内部に侵入して鉄筋8が錆びたりするのを防止し、耐久性を向上させることができると共に、ひび割れ7の発生により遮音性や防水性が低下するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ひび割れ誘発目地
2 耐震壁(コンクリート構造物)
3 コンクリート
4 埋込部
5 フランジ部(端部)
10 ひび割れ誘発目地
11 埋込部
12 端部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に計画的にひび割れを発生させるために設けられるひび割れ誘発目地であって、
前記コンクリート構造物のコンクリートと同等以上の圧縮強度を有する材料から構成され、前記コンクリート構造物の表面に端部が接するように前記コンクリートの内部に埋め込まれ、前記端部は直線状に形成され、前記埋込部は前記コンクリートのせん断応力の発生方向に対して交差する方向に凹凸した形状を有していることを特徴とするひび割れ誘発目地。
【請求項2】
前記端部には前記コンクリート構造物の表面に接するようにフランジ部が形成されている請求項1に記載のひび割れ誘発目地。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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