説明

みりんの製造方法

【課題】優れた調理効果を有するみりん、またはその製造方法を提供する。
【解決手段】もろみ中に乳酸菌を存在せしめることを特徴とするみりんの製造方法。また、該製造方法により得られるみりん。乳酸菌は、いずれの乳酸菌であってもよいが、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ぺディオコッカス(Pediococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属等に属する乳酸菌があげられ、ラクトバチルス属に属する乳酸菌が好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、みりんおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
みりんは、飲食品に使用した際に、好ましい香味の付与、甘味、うま味の付与、てり、つやの付与、臭みのマスキング、煮崩れ防止、調味成分の食材への浸透性向上等の様々な調理効果を奏する調味料として知られている。
他の調味料と同様に、みりんについてもその調理効果を増強できる方法の開発が望まれている。
【0003】
みりんの改良方法としては、もち米として精白したもち米のかわりにもち玄米を用いる方法(特許文献1参照)、もち米として乳酸菌を添加した水に浸漬し、水切りしたのち蒸煮して得られるもち米を用いる方法(特許文献2参照)、原料に遠赤外線照射を行う方法(特許文献3参照)、原料にマイクロ波処理および焙炒処理を行う方法(特許文献4参照)等が知られている。しかし、これらの方法では、みりんの香味の改良やみりんの着色の防止は可能であっても、みりんの有する調理効果を総合的に改良するには至らない。
【0004】
調理効果を総合的に改良することを目的とした方法として、みりん中のカリウムおよびマグネシウム濃度を調整する方法が知られている(特許文献5参照)が、該方法によっても調理効果を総合的に改良するには至っていない。
【特許文献1】特開平5−123155
【特許文献2】特開平11−113555
【特許文献3】特開平8−196262
【特許文献4】特開平9−294579
【特許文献5】特開2003−93036
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた調理効果を有するみりん、またはその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)〜(6)に関する。
(1)もろみ中に乳酸菌を存在せしめることを特徴とする、みりんの製造方法。
(2)もろみ調製時に乳酸菌を添加する、上記(1)の方法。
(3)乳酸菌の添加がアルコール存在下で行われる、上記(2)の方法。
(4)米、米麹およびアルコールを混合した後に乳酸菌を添加する、上記(2)または(3)の方法。
(5)上記(1)〜(4)いずれか1つの方法により得られるみりん。
(6)上記(5)のみりんを添加してなる飲食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、優れた調理効果を有するみりん、またはその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のみりんの製造方法において乳酸菌を存在せしめるもろみとしては、少なくとも米、米麹およびアルコールを混合して得られる組成物、またはさらに糖化、熟成させて得られる組成物があげられる。
米としては、蒸した米、例えば、もち米、うるち米等の米、好ましくはもち米を必要に応じて洗米し、水に浸漬し、必要に応じて水切りし、蒸煮して調製したものが用いられる。
【0009】
米麹としては、例えば、うるち米等の米およびアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等の麹菌を用いて、通常の製麹方法に準じて製麹して得られたものが用いられる。
アルコールとしては、エタノールまたは焼酎が用いられる。エタノールは含水エタノールであってもよい。
【0010】
米、米麹およびアルコールの使用量および糖化、熟成の条件は、通常のみりんの製造において用いられる範囲内または条件内であれば特に限定されないが、もろみ中のアルコール濃度は、10〜45%であることが好ましい。
もろみには、グルコース等の糖、アミラーゼ、プロテアーゼ等の酵素等を添加して含有させてもよい。
【0011】
もろみ中に存在せしめる乳酸菌は、いずれの乳酸菌であってもよいが、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ぺディオコッカス(Pediococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属等に属する乳酸菌があげられる。
ラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacilluspentosus)、ラクトバチルス・サケ(Lactobacillus sake)、ラクトバチルス・サンフランシスコ(Lactobacillussanfrancisco)、ラクトバチルス・フラクチボランス(Lactobacillus fructivorans)、ラクトバチルス・ホモヒオチ(Lactobacillushomohiochii)、ラクトバチルス・ヒルガルディ(Lactobacillus hilgardii)等に属する乳酸菌があげられる。
【0012】
ペディオコッカス属に属する乳酸菌としては、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)等に属する乳酸菌があげられる。
ストレプトコッカス属に属する乳酸菌としては、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)等に属する乳酸菌があげられる。
これらの乳酸菌の中で、ラクトバチルス属に属する乳酸菌が好ましく用いられ、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ペントサス、ラクトバチルス・フラクチボランスに属する乳酸菌がさらに好ましく用いられる。
【0013】
乳酸菌は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
もろみ中に乳酸菌を存在せしめる方法としては、もろみを調製するいずれかの工程において、上記乳酸菌を添加する方法があげられる。
添加する乳酸菌は、上記乳酸菌を培地で培養して調製することができる。市販のものを用いてもよい。
【0014】
乳酸菌を培養する培地は、炭素源、窒素源、無機物、微量成分等を含有していれば、合成培地および天然培地のいずれの培地も用いることができる。また、液体培地および固体培地のいずれであってもよい。
炭素源としては、澱粉、デキストリン、シュクロース、グルコース、マンノース、フルクトース、ラフィノース、ラムノース、イノシトール、ラクトース、マルトース、キシロース、アラビノース、マンニトール、糖蜜、ピルビン酸等があげられ、これらを単独または組合せて用いることができる。
【0015】
窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、コーン・スティープ・リカー、カゼイン分解物、大豆粉、野菜ジュース、カザミノ酸、尿素、等の窒素含有有機物等があげられ、これらを単独または組合せて用いることができる。
【0016】
無機物としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カリウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅等があげられ、これらを単独または組合せて用いることができる。
微量成分としては、パントテン酸、ビオチン、サイアミン、ニコチン酸等のビタミン類、β−アラニン、グルタミン酸等のアミノ酸類等があげられ、これらを単独または組合せて用いることができる。
【0017】
培地は、必要に応じて全乳、全粉乳、脱脂粉乳、生クリーム等の乳製品等、小麦粉、ライ麦粉等の穀物粉等を含有していてもよい。
また、上記乳製品、穀物粉等をそのまま、または必要に応じて水、上記培地成分等を添加し混合して得られる混合物として、天然培地として用いてもよい。
【0018】
培養条件は、用いる乳酸菌の種類により異なるが、通常10〜50℃、好ましくは20〜40℃で、通常6時間〜20日間、好ましくは1〜15日間静置して行う。液体培地の場合、必要に応じて通気攪拌してもよい。
培養中、炭酸ナトリウム、アンモニア、水酸化ナトリウム等を添加してpHを4〜7となるように調整することが好ましい。
【0019】
固体培地で培養した場合、培養後得られる固体培地をそのまま乳酸菌として本発明に用いることができる。また、該固体培地からかき取るなどして集菌した菌体、該菌体を水、生理食塩水、りん酸緩衝液等の緩衝液に懸濁して得られる菌体の懸濁液、または、これらを凍結乾燥法、噴霧乾燥法等の乾燥方法により乾燥して得られる乾燥物を、乳酸菌として本発明に用いることができる。
【0020】
液体培地で培養した場合、培養後得られる培養液をそのまま乳酸菌として本発明に用いることができる。また、該培養液からろ過、遠心分離等の固液分離方法により固液分離して得られる菌体、または、該菌体を上記と同様の操作に供して得られる菌体の懸濁液もしくは乾燥物を、乳酸菌として本発明に用いることができる。
乳酸菌を添加する場合、乳酸菌の菌体数が、もろみ1gあたり通常1×106個以上、好ましくは1×106〜1×109さらに好ましくは1×107〜5×108個、特に好ましくは2×107〜1×108個となるように添加する。菌体数は、コロニーカウント法、染色法等の常法により測定することができる。
【0021】
乳酸菌の添加時期に特に限定はないが、アルコール存在下で添加することが好ましい。例えば、もろみの調製工程において、原料としてアルコールを用いる工程より後に添加することが好ましい。
本発明のみりんの製造方法においては、もろみ中に乳酸菌を存在せしめる以外は、もろみを圧搾して粕を除き、必要に応じて、火入れ、滓下げ、ろ過、活性炭処理、調合、貯蔵熟成を行うなど、通常のみりんの製造方法を用いることができる。
【0022】
上記の製造方法によって得られるみりん(以下、本発明のみりんともいう)を添加する対象となる飲食品としては、例えば、味噌、醤油、マヨネーズ、ドレッシング、ポン酢等の調味料、めんつゆ、おでんつゆ、鍋つゆ、等のつゆ、焼き肉のたれ等のたれ、ミートソース、トマトソース、ホワイトソース等のソース、ポタージュ、コンソメスープ、だし等のスープ、ビーフシチュー、カレー、ラーメン、味噌汁、煮物、佃煮、肉まん、餃子、ハンバーグ等の調理食品、キムチ、漬物、佃煮、かまぼこ、ソーセージ、冷凍食品、レトルト食品、菓子、パン等の加工食品等をあげることができる。
【0023】
本発明のみりんの飲食品への添加量は、添加対象となる飲食品に応じて適宜決定すればよいが、飲食品100重量部に対して、通常0.01〜100重量部、好ましくは0.1〜20重量部である。
以下に本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0024】
(1)ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)NBRC12011株を、一般乳酸菌接種用培地「ニッスイ」(日水製薬社製)60mlに植菌し、30℃で2日間静置培養して乳酸菌の培養液を調製した。なお、該培養液中の乳酸菌の菌体数を、コロニーカウント法で測定したところ、2×109/mlであった。
該培養液を3,000rpmで10分間遠心分離し、得られた菌体を滅菌水で洗浄した後、再度遠心分離して乳酸菌の菌体(湿菌体)を得た。
【0025】
一方、うるち白米を水に浸漬し、水切りした後、約20分間常圧で蒸した。28〜30℃まで放冷した後、種麹(アスペルギルス・オリゼー)を接種し、40時間、麹菌を増殖させて米麹を得た。また、もち米を、水に浸漬し、水切りした後、約20分間、加圧条件下で蒸した。
得られた米麹200g、蒸したもち米1kgに42%(v/v)エタノール水溶液740gを添加し、さらに上記で調製した乳酸菌の菌体を全量添加してもろみを調製した。
【0026】
糖化、熟成を30℃で行い、圧搾、滓下げおよびろ過を行って本発明のみりんを調製した。
また、乳酸菌の菌体のかわりに水を添加する以外は、同様の操作をおこなって対照となるみりん(コントロール)を調製した。
【実施例2】
【0027】
実施例1で調製した本発明のみりんおよびコントロールを、常法に準じて調製したポン酢に7%(w/w)となるように添加した。
得られたポン酢の酢かどについて、10名のパネラーにより官能評価を行った。評価は、7段階評価による7点評点法で行い、酢かどの強いものを高得点とした。
その結果、もろみ中に乳酸菌を存在せしめて得られた本発明のみりんを添加したポン酢の評点は3.3であり、コントロールを添加したポン酢(評点4.6)と比較して有意に酢かどが緩和されていた。
【実施例3】
【0028】
実施例1で得た本発明のみりんおよびコントロールを、常法に準じて調製しためんつゆ(かつおだし汁を含有)に10%(w/w)となるように添加した。
得られためんつゆの甘味、うま味およびかつおだしの風味について、10名のパネラーにより官能評価を行った。評価は7段階評価による7点評点法で行い、それぞれの項目について、強いと感じられるものを高得点とした。
結果を第1表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
第1表に示すとおり、もろみ中に乳酸菌を存在せしめて得られた本発明のみりんを添加しためんつゆは、甘味、うま味およびかつおだしの風味の強いめんつゆであった。
【実施例4】
【0031】
実施例1で得た本発明のみりんおよびコントロールを、常法に準じて調製した焼肉のたれに15%(w/w)となるように添加し、得られた焼き肉のたれを漬け汁として牛焼き肉を調製した。
得られた焼き肉の甘味、濃厚感および畜肉臭について、10名のパネラーにより官能評価を行った。評価は7段階評価による7点評点法で行い、それぞれの項目について、強いと感じられるものを高得点とした。
結果を第2表に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
第2表に示すとおり、本発明のみりんを添加した焼肉のたれを漬け汁として得られた焼き肉は、甘味および濃厚感が強く、畜肉臭が抑えられていた。
【実施例5】
【0034】
実施例1で得た本発明のみりんおよびコントロールを、常法に準じて調製した肉じゃがの調味液に12%(w/w)となるように添加し、得られた調味液を用いて、常法に準じて肉じゃがを調製した。
得られた肉じゃがの濃厚感および畜肉臭ならびにジャガイモの煮崩れの度合いについて、10名のパネラーにより官能評価を行った。評価は、7段階評価による7点評点法で行い、濃厚感および畜肉臭については強いと感じられるものを高得点とした。また、煮崩れについては、煮崩れの度合いの大きいものを高得点とした。
結果を第3表に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
第3表に示すとおり、本発明のみりんを用いて得られた肉じゃがは、濃厚感が強く、畜肉臭が抑えられていた。また、肉じゃが中のジャガイモは、煮崩れが抑えられていた。
【実施例6】
【0037】
実施例1で得た本発明のみりんおよびコントロールを常法に準じて調製したぶりの照り焼きの調味液に36%(w/w)となるように添加し、得られた調味液を用いて、常法に準じてぶりの照り焼きを調製した。
得られたぶりの照り焼きのうま味、濃厚感、てり・つやおよび魚臭について、10名のパネラーにより官能評価を行った。評価は、7段階評価による7点評点法で行い、それぞれの項目について強いと感じられるものを高得点とした。
結果を第4表に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
第4表に示すとおり、本発明のみりんを用いて得られたぶりの照り焼きは、うま味、濃厚感が強く、てり・つやがよく、また魚臭が抑えられていた。
【実施例7】
【0040】
実施例1で得た本発明のみりんおよびコントロールを、常法に準じて調製した大根の含め煮の調味液(かつお節および昆布のだし汁を含有)に8.5%(w/w)となるように添加し、得られた調味液を用いて、常法に準じて大根の含め煮を調製した。
得られた大根の含め煮の甘味、うま味、だしの風味および大根への調味液の味の浸透性について、10名のパネラーにより官能評価を行った。評価は7段階評価による7点評点法で行い、甘味、うま味およびだしの風味については強いと感じられるものを高得点とした。また、大根への調味液の味の浸透性については、味のしみ込み度合が高いと感じられるものを高得点とした。
結果を第5表に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
第5表に示すとおり、本発明のみりんを用いて得られた大根の含め煮は、甘味、うま味およびだしの風味が強く、大根への味のしみ込み度合も十分に高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、優れた調理効果を有するみりん、またはその製造法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
もろみ中に乳酸菌を存在せしめることを特徴とする、みりんの製造方法。
【請求項2】
もろみ調製時に乳酸菌を添加する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
乳酸菌の添加がアルコール存在下で行われる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
米、米麹およびアルコールを混合した後に乳酸菌を添加する、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の方法により得られるみりん。
【請求項6】
請求項5記載のみりんを添加してなる飲食品。

【公開番号】特開2008−48722(P2008−48722A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43726(P2007−43726)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(505144588)協和発酵フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】